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宇宙環境下での高分子材料からのアウトガス付着量 のシミュレーションとその付着防止に関する研究 2007年12月 長崎大学大学院生産科学研究科 浦山 文隆

宇宙環境下での高分子材料からのアウトガス付着量naosite.lb.nagasaki-u.ac.jp/dspace/bitstream/10069/20915...- 1 - 本論文中で用いた記号一覧 記 号 名

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宇宙環境下での高分子材料からのアウトガス付着量

のシミュレーションとその付着防止に関する研究

2007年12月

長崎大学大学院生産科学研究科

浦山 文隆

i

目 次

本論文中で用いた記号一覧 1

第1章 緒 論 4

1.1 本研究の背景 4

1.1.1 宇宙環境におけるコンタミネーション現象とその影響 4

1.1.2 コンタミネーション環境のシミュレーションに関する現状 7

1.1.3 コンタミネーション防止方法の現状 10

1.2 本研究の目的 12

1.3 本論文の構成 13

参考文献 14

第2章 アウトガス付着量のシミュレーションにおける数学モデルの構築 16

2.1 緒 言 16

2.2 実 験 16

2.3 結果と考察 18

2.3.1 高分子材料からのアウトガス速度の時間依存性 18

2.3.2 高分子材料からのアウトガス速度の温度依存性 22

2.3.3 アウトガス分子の輸送 26

2.3.4 真空中でのアウトガス分子付着係数の温度依存性 30

2.4 結 言 39

参考文献 39

第3章 太陽観測衛星「ひので」データを用いたアウトガス付着量

シミュレーションモデルの評価 41

3.1 緒 言 41

3.2 「ひので」の概要 41

3.3 「ひので」フライトデータ 45

3.4 「ひので」光学望遠鏡におけるアウトガス付着量のシミュレーション 49

ii

3.4.1 シミュレーションモデル 49

(1) 形状モデル 49

(2) アウトガスモデル 52

(3) 輸送モデル 55

(4) 光化学反応付着モデル 55

(5) 太陽光吸収率変化モデル 56

3.4.2 シミュレーション 58

3.5 「ひので」フライトデータとシミュレーションとの比較 63

3.5.1 シミュレーションがフライトデータを下回る要因 66

(1) 放射線と原子状酸素による劣化 66

(2) 光学望遠鏡部コンポーネント表面に吸着していた分子の脱離 68

(3) 汚染源の急激な温度上昇によるアウトガス速度の増加 69

(4) 紫外線による付着汚染分子の継続的な暗色化 70

3.5.2 ミッション初期に温度が短期的に変動する要因 72

3.5.3 アウトガス付着成分の影響 74

3.6 結 言 74

参考文献 75

第4章 真空環境下での光触媒によるアウトガス付着防止 77

4.1 緒 言 77

4.2 光触媒の合成 77

4.3 光触媒を用いたアウトガス付着防止の試み 82

4.3.1 サンプルの調製 82

4.3.2 光触媒粒子 85

(1) 高分子材料の重量減少 85

(2) 低分子有機物の重量減少 89

4.3.3 光触媒薄膜 97

4.4 結 言 110

参考文献 111

iii

第5章 総 括 114

謝 辞 118

発表論文リスト 119

講演論文リスト 119

招待講演リスト 120

- 1 -

本論文中で用いた記号一覧

記 号

名 称 単 位

A 表面積 cm2

a 定数 ―

)(θB クラウジングの流れ方向分布関数 ―

b 定数 ―

c 定数 ―

d 分子の直径 m

E 分子の脱離エネルギー,蒸発エネルギー J mol-1

SE 汚染源からのアウトガスの活性化エネルギー J mol-1

F 形態係数 ―

I 透過光強度比 ―

J 単位面積当たりの付着分子数 cm-2

k ボルツマン定数 J K-1

2k 蒸発速度定数 sec-1

qk3 光化学反応有効断面積 cm2

nK クヌーセン数 ―

l 代表長さ m

M 単位面積当たりのアウトガス量 g cm-2

M& 単位面積当たりのアウトガス速度 g cm-2 sec-1

m 単位面積当たりの汚染分子付着量 g cm-2

m& 単位面積当たりの汚染分子付着速度 g cm-2 sec-1

Wm 分子の質量 kg

N データ数 ―

n 反応次数 ―

21, nn 屈折率 ―

P 圧力 Pa

0p 単位時間,単位面積当たりの入射光子数 cm-2 sec-1

- 2 -

R 気体定数 J K-1 mol-1

0R 初期重量比 ―

q 重量減少率 wt%

r 汚染源/被汚染面間の距離 cm

S エアマスゼロでの太陽光スペクトル強度 W m-2 nm-1

s 汚染分子の付着係数 ―

0s 清浄な表面に対する汚染分子の付着係数 ―

CT 定数 K

RT 被汚染面または石英結晶ミクロ天秤(QCM)の温度 K

ST 汚染源または流出セルの温度 K

t 経過時間 sec

u 残差二乗和の平方根 g cm-2

2u 残差二乗和 (g cm-2)2

v 分子の速度 m sec-1

w 重量 g

Cα 汚染分子付着層の光吸収係数 nm-1

0α 清浄な表面をもつ物質の太陽光吸収率 ―

Sα 太陽光吸収率 ―

SαΔ 太陽光吸収率変化 ―

CTΔ 定数 K

θ 任意の微小面から他の微小面への位置ベクトルと,

任意の微小面の法線ベクトルとのなす角

°

κ アウトガス付着量からアウトガス量への真空チャ

ンバ固有の換算係数

λ 波長 nm

gasλ 平均自由行程 m

ρ 反射率 ―

0ρ 清浄な表面をもつ物質の反射率 ―

σ 汚染分子の反射率

- 3 -

τ 表面上での分子の滞留時間,

または,透過率

sec

0τ 分子振動周期,

または,清浄な表面をもつ物質の透過率

sec

Φ 汚染分子の質量フラックス g cm-2 sec-1

χ 汚染分子付着厚 nm

- 4 -

第1章 緒 論

1.1 本研究の背景

1.1.1 宇宙環境におけるコンタミネーション現象とその影響

我々の社会では,気象衛星「ひまわり」や地球観測衛星「だいち」,天文観測

衛星「ひので」,「すざく」などの人工衛星,人間が常時滞在している国際宇宙

ステーション(International Space Station, ISS)をはじめとした宇宙機が宇宙空

間で現在も活躍し続け,社会的・科学的な恩恵をもたらしている.これら宇宙

機には軽量かつ高強度のアルミニウム合金の他,炭素繊維強化プラスチック

(Carbon Fiber Reinforced Plastic, CFRP)などが使用されている.これは,ロケ

ット打上げ時に作用する加速度(約 3~4G)に耐え,かつ,ロケットの打上げ

能力に合致した寸法,重量以内とするためである.また,無機材料に比べ絶縁

性,加工性,軽量性などの特長を有する高分子樹脂(フッ素系,イミド系,エ

ポキシ系等),接着剤(シリコーン系,エポキシ系等)をはじめとした多種多様

な高分子材料が使用されている.

これら高分子材料には可塑剤,酸化防止剤,紫外線吸収剤等の低分子有機物

が添加されているものがある.また,高分子合成時に残った未反応モノマーも

少なからず含有されているであろう.地球近傍を周回する宇宙機の温度は -60

~+80℃程度の範囲内で周期的に変化するとともに 1),10-5~10-4 Pa 程度の真空

環境に曝される 2).高分子材料が真空環境に曝されると,含有されていた低分

子有機物がガス化し,材料から放出される現象がある.このガスを「アウトガ

ス」と呼んでいる.また,温度の高い箇所からガス化・放出され,温度の低い

箇所に凝縮する物質を「揮発性凝縮性物質」(Volatile Condensable Materials,

VCM)と呼んでいる.宇宙機の場所によっては 50℃前後の温度差が生じること

もあるため,高分子材料からのアウトガス分子が機器の鏡やレンズ等を汚す現

象,すなわち,コンタミネーションが起きる.

コンタミネーションの主要な発生メカニズムとその影響,制御方法を Figure

1.1 に示す.汚染物質の一種であるアウトガス分子(低分子有機物)は宇宙機

- 5 -

自身の表面へ付着し,熱制御材(太陽光反射板,多層断熱材,放熱板等)の太

陽光吸収率の増加や光学系(鏡,レンズ等)の反射率・透過率の低下を引き起

こすことで宇宙機へ悪影響を及ぼすことが知られている 3, 4).近年,天体観測

ミッション,地球観測ミッションに使用する観測機器の高感度化,高分解能化

が進むにつれ,宇宙機自身を発生源としたコンタミネーションの問題がますま

す懸念されている.

- 6 -

Figure 1.1 Major molecular contamination mechanisms, effects and controls.

○ Outgas: Gas released from polymers.

○ Thruster plumes: Combustion gas and unburned fuel induced by thruster firings.

○ Vent plumes: Water and water-soluble matters induced by venting from inboard.

○ Direct flux. ○ Deposition and

evaporation on spacecraft’s surfaces.

○ Return flux: Molecular contaminants are back-scattered by atmospheric molecules and atoms.

○ Self-scattering of molecular contaminants.

Electromagnetic wave absorption and scattering, resulting in a degradation of optical sensors and thermal control systems.

Electromagnetic wave absorption and scattering, resulting in a degradation of the optical sensors.

Increases in pressure, then discharge, resulting in dielectric breakdowns of high-voltage devices.

Molecular contaminants are released from the sources into space.

Molecular contaminants transport around the spacecraft.

Molecular contaminants deposit onto the spacecraft’s surfaces.

Proactive measures: • Selection of

polymers and thrusters.

• Bake-out of polymers.

Protection: • Shielding. • Vent holes and vent passes. • Collectors with lower

temperatures. • Location of contaminant

sources and critical surfaces.

Removal from the surfaces:• Heating the surfaces.

Controls

Mechanism

s E

ffects

○ Temperature effects: Increases in accumulation mass at the surfaces with lower temperatures.

○ Ultraviolet effects: Increases in accumulation mass, and darkening at the surfaces induced by photo-polymerization.

○ Atomic oxygen effects: Decreases in accumulation mass induced by erosion. Fixing of siloxane contaminant by oxidation.

- 7 -

1.1.2 コンタミネーション環境のシミュレーションに関する

現状

宇宙機のミッションに対するコンタミネーションの影響を事前に定量的に把

握し,設計段階から必要な対策を施すためには,宇宙でのコンタミネーション

環境のシミュレーション技術は必要不可欠である.宇宙機用高分子材料に含有

されているアウトガス成分を低減するためには,「ベーキング」という熱処理が

有効である.高分子材料の温度を宇宙環境での予測温度よりも高くし,かつ,

真空中に高分子材料を晒すことで材料中のアウトガス成分を予め低減しておく

ことができる.宇宙機用高分子材料の選定やベーキングの是非,ベーキングの

終了条件などを決定するため,宇宙環境下での高分子材料からのアウトガス付

着量を予測できることが求められる 5).宇宙でのアウトガス付着現象の主な特

徴は,

• 汚染分子付着厚が数 nm~数百 nm(数分子層~数百分子層)程度と極め

て少ない物理量である.

• 一種類の高分子材料から物性の異なる 5 成分以上のアウトガス分子(汚

染分子)が放出される 6).

• -60~+80℃程度の範囲内で宇宙機表面の温度が変動し 1),これに伴い高

分子材料からのアウトガス速度が変化する.また,低温時に宇宙機表面

に付着していた汚染分子が高温時に再昇華し,他の表面へ移動する.

• 太陽紫外線(UV)照射により,有機物である汚染分子付着物の光重合,光

分解,暗色化が起こる.

• 自然に存在する原子状酸素(Atomic Oxygen, AO)により,炭化水素系付着

物を浸食する.また,シロキサン系付着物の場合,AO と反応して SiOx

となり固着する.

などが挙げられ,様々な物理的・化学的メカニズムが同時に進行する系である.

米国では,1980 年代にはすでにコンタミネーション環境のシミュレーション

に関する研究が進められている.Figure 1.1 に示したように,アウトガス付着量

のシミュレーションに必要な数学モデルはアウトガス分子の放出(アウトガス

速度),輸送(形態係数),付着(付着係数)の 3 つのプロセスで表現されてい

- 8 -

る.提案されている基礎式は式(1.1)の通りである 4, 7).

ssFMm

⋅Φ=⋅⋅= &&

(1.1)

ここで, m& は付着速度(g cm-2 sec-1), M& はアウトガス速度(g cm-2 sec-1), F は形

態係数, s は付着係数,Φは被汚染面への入射フラックス(g cm-2 sec-1)である.

Figure 1.2に示すように,形態係数は,被汚染面から見た汚染源の見かけの表面

積に相当し,式(1.2)で表される4, 7).

ijji

iji dAdA

rAF ∫∫

⋅=− 2

)cos()cos(1π

θθ (1.2)

ここで,Ajは汚染源 jの表面積 (cm2),Aiは被汚染面 iの表面積 (cm2),θ jは汚染源 j

から被汚染面 iへの位置ベクトルと汚染源 j(面 )の法線ベクトルとのなす角 (°),

θ iは被汚染面 iから汚染源 jへの位置ベクトルと被汚染面 iの法線ベクトルとのな

す角(°),rは汚染源 j-被汚染面 i間の距離(cm)であり,形態係数の値は0~1の範

囲にある.付着係数は,式 (1.3)に示すように,被汚染面へのアウトガス分子の

入射フラックスに対する付着速度の割合で表され,付着係数の値も0~1の範囲

にある.

Φ=

ms&

(1.3)

高分子材料からは様々なアウトガス成分が放出され,水や炭化水素,フタレ

ート,アミン,シロキサンなど多種多様である6).これら全成分のアウトガス速

度の総和は時間の経過とともに低下し,温度の上昇とともに増加する傾向が知

られている4).前者の時間依存性については,一次関数,指数関数,べき乗関数

などの数学モデルが提案されており 4, 8, 9),アウトガス速度の時間依存性を適切

に表現した数学モデルが明確でなかった.アウトガス速度の温度依存性につい

ては,複数のアウトガス成分が高分子材料から放出されるにもかかわらず,当

然のようにアレニウス式が数学モデルに適用されている4, 8).また,放出された

アウトガス分子は分子同士が衝突せずに他の表面に達する数学モデル(直接フ

ラックスモデル)がシミュレーションに適用されている4, 7).さらに,高分子材

料から放出される複数のアウトガス分子が表面に付着する際,付着係数はその

- 9 -

表面の温度に対し線形で表現されるなどという提案まであった10).このように,

真空中での高分子材料からのアウトガス分子の放出・輸送・付着を表現する数

学モデルさえ,その有効性・妥当性が全くわからない状況であった.

r

jA

iA

Outgassing source, j

Reciever, i

ijji

iji dAdA

rAF ∫∫

⋅=− 2

)cos()cos(1π

θθ

Figure 1.2 Definition of view factor.

- 10 -

1.1.3 コンタミネーション防止方法の現状

宇宙での汚染分子付着物のアクティブな除去方法として,例えば米国のハッ

ブル宇宙望遠鏡 11)や日本の太陽観測衛星「ひので」12)に見られるように,光学系

を室温より若干高い温度にヒータで加熱して付着物を蒸発させる手法があるが,

現時点で実用化されているアクティブな手法はこのヒータ加熱のみである.パ

ッシブな除去方法としては,原子状酸素による汚染分子付着物の浸食現象によ

る除去も期待される.高度約 1,000 km 以下(低軌道高度,Low Earth Orbit,LEO)

の地球近傍には酸素分子が原子に解離した状態で存在する.原子状酸素は化学

反応性に富み,有機物を酸化分解する.有機物である汚染分子付着物も原子状

酸素と反応し浸食されることもある程度期待できるが,原子状酸素が皆無に等

しい LEO 宇宙機の後方(ウェイク)や高度 36,000 km にある静止衛星,宇宙探

査衛星には無効である.LEO 宇宙機は原子状酸素の熱速度よりも速い 8 km sec-1

程度の速度で飛行するため,宇宙機後方へ原子状酸素が回り込む数が極端に少

なくなる.

既に地上環境で実用化されているパッシブな防汚(セルフクリーニング)手

法の一つとして,二酸化チタン TiO2 をはじめとした光触媒がある.半導体であ

る光触媒に光が当たると,価電子帯の電子が伝導帯へと励起し,電子と正孔が

生じる.励起電子は表面に吸着した酸素分子と反応し,スーパーオキシドアニ

オン O2-を生成する.この活性酸素は H+と反応してより高活性な HO2・ラジカル

や過酸化水素を形成する.一方,正孔は表面に存在する吸着水や水酸基を酸化

して,酸化力の高いヒドロキシラジカル・OH を生成するか,O2-と反応して原子

状酸素を生成する.これら励起電子や正孔と反応して生成するラジカルや活性

酸素は高い酸化力をもっており,表面に付着した有機物を酸化分解するという

のが光触媒による防汚メカニズムと言われている 13).実用化されている代表的

な光触媒には二酸化チタン TiO2 がある.バンドギャップ 3.2 eV のアナターゼ

型 TiO2 に,それよりも大きいエネルギーをもつ光子(波長 388 nm 以下)が照

射されると正孔 h+と電子 e-が生じ,式(1.4)~(1.6)などの反応が起きるとされて

いる 13, 14).

TiO2(h+)+H2Oads → TiO2+OHads・+H+ (1.4)

- 11 -

TiO2(h+)+OHads- → TiO2+OHads・ (1.5)

TiO2(e-)+O2, ads → TiO2+O2- (1.6)

ヒドロキシラジカルの生成については,正孔は式 (1.4)の H2O よりも式 (1.5)の

OH に捕捉されやすいとの説が支持されている 14).また,TiO2 表面は OH 基に

覆われているとの説を実証するための研究も進められている 15).このほか,

様々な有機物を対象として,TiO2 の光触媒反応メカニズムの解明が超高真空下

で行われている 16).このように,光触媒反応メカニズムには現在でもよくわか

っていない点がある.

光触媒に関する研究は現在も世界的に活発に行われ,製品化も進んでいる.

シックハウス症候群の原因となっているホルムアルデヒドなどの室内汚染物質

の分解,窒素酸化物 NOx などの大気汚染物質の分解,土壌や地下水中にあるト

リクロロエチレン CHCl3やテトラクロロエチレン CCl4などの汚染物質の分解に

関する研究や製品化が進められている 13, 15).特に,地上に降り注ぐ太陽光を有

効活用するため,可視光照射下で光触媒反応が発現する可視光応答型光触媒の

開発などが盛んである 13, 15).地上では大気により太陽紫外線の一部が吸収され

るため,より光量の大きい可視光域の太陽エネルギー利用が光触媒反応に有利

である.言及するまでもないが,これらは水や酸素が豊富にある地上環境での

使用を目指したものであり,宇宙環境をはじめとした極限環境下での使用を目

指した研究事例については見当たらない状況であった.また,これまでの研究

事例では大気汚染物質,水中や土壌中の汚染物質を分解対象としており,これ

ら汚染物質の分子量は数十程度である.これに対し,宇宙環境下で材料から放

出されるアウトガス分子の分子量は大きいもので数百程度であり 6),この程度

の分子量をもつ有機物を対象とした研究事例は見当たらなかった.

このような状況の下,我々は宇宙に豊富にある太陽光を有効活用し,特別な

機構を必要としない光触媒によるパッシブなアウトガス付着防止に着目した.

自然の宇宙空間には水や酸素は存在しないが,宇宙機自体からは汚染物質とな

る有機物の他に水も放出されている.我が国の Space Flyer Unit (SFU)では打上

げから約 3 ヵ月まで質量分析器により水が検出され続けており,宇宙機自体が

水の供給源となる 2).日照時に宇宙機の温度が上がると有機物と一緒に水も放

出される傾向があり,光触媒によるタイムリーなアウトガス付着防止が期待で

- 12 -

きる.アウトガス速度は時間の経過とともに減少していく特徴があるため 6),

アウトガス速度が高いミッション初期のみでもアウトガス分子の付着防止を図

ることにより,結果的にミッションの長寿命化につながると期待される.また,

国際宇宙ステーションなどの有人宇宙機では,船内の湿度環境を一定に保つた

めに除湿を行い,収集した水を船外へ定期的に排水する 17).この排水も光触媒

にとっては貴重なリソースである.光触媒には有機物の酸化分解効果のほか,

超親水性という特長もあわせもち 13-15),水が光触媒の表面に吸着した状態でア

ウトガス分子の到来を待ち受けることになる.

1.2 本研究の目的

本研究の目的は,大別すると以下の通りである.

(1) アウトガス付着量のシミュレーションにおける数学モデルの構築

Figure 1.1 に示すコンタミネーションのメカニズムに基づき,真空中でのコン

タミネーション現象をアウトガス放出,輸送,付着に分け,それぞれの現象ご

とに数学モデルを構築することを目的とした.

(2) 宇宙環境下でのアウトガス付着量のシミュレーション技法の確立

宇宙環境下でのアウトガス付着量の数値解析結果がフライトデータから乖離

する要因の究明を目的として,構築したシミュレーションモデルの評価を実施

した.これは,我が国ではじめての試みである.フライトデータには,2006 年

9 月 23 日に鹿児島県内之浦宇宙空間観測所から M-V ロケット 7 号機により打

ち上げられた太陽観測衛星「ひので」(SOLAR-B)のデータを使用した.

(3) 新たなアウトガス付着防止技術の探求

光触媒とアウトガスモデル物質に対する真空中・UV 照射実験により,重量

減少及び可視光透過率変化を指標として光触媒の有効性に関する基礎的な知見

を得ることを目的とした.これについても,宇宙などの極限環境での光触媒の

- 13 -

利用を目指した研究事例は見当たらず,本研究は極限環境用光触媒の可能性を

見出すためのファースト・ステップである.

1.3 本論文の構成

本論文は第 1 章から第 5 章までの構成としている.本論文の構成を以下に概

説する.

第 1 章では本研究の背景,目的,構成について述べている.

第 2 章では,アウトガス付着量のシミュレーションにおける数学モデルの構

築について述べる.まず,アウトガス現象に関し,アウトガス速度の時間依存

性,温度依存性を考慮した数学モデルを構築した.次に,アウトガス分子の輸

送現象に関し,高分子材料から放出されたアウトガス分子が分子同士の衝突な

しに被汚染面に到達する直接フラックスモデルの検証を行った.最後に,アウ

トガス分子の付着現象に関し,被汚染面温度と付着係数との関係をシミュレー

トし,より単純なシミュレーション技法を考案した.

第 3 章では,太陽観測衛星「ひので」データを用いたアウトガス付着量シミュ

レーションモデルの評価について述べる.まず,「ひので」ミッションの目的,

機器構成,コンタミネーションとの関係などを概説した後,「ひので」フライト

データとその分析結果を述べる.次に,アウトガス付着量シミュレーションに

ついて述べる.シミュレーションモデルとして,形状モデル,アウトガスモデ

ル,輸送モデル,光化学反応付着モデル,太陽光吸収率変化モデルを示してい

る.最後に「ひので」フライトデータとシミュレーションを比較し考察を行った.

第 4 章では,真空環境下での光触媒によるアウトガス付着防止について述べ

る.まず,光触媒の合成について述べた後,光触媒を用いたアウトガス付着防

止の試みとして実験装置,サンプルの調製について示す.次に,光触媒粒子に

よるアウトガスモデル物質の重量減少特性として,光触媒を添加した有機物と

無添加の有機物の重量減少率を比較し,考察を行った.最後に,光学的特性の

観点から,光触媒をコーティングした基板とコーティングしていない基板の可

視光透過率を測定し,透過率が変化する原因を考察した.

- 14 -

第 5 章では,本研究の総括を行うとともに,今後の展望について述べた.

参考文献

1) 太陽観測衛星「ひので」で計測された温度データ , 国立天文台 (2007).

2) 佐々木進 , 賀谷信幸 , 佐川永一:Space Flyer Unit (SFU)で計測されたガス環

境 , 宇宙科学研究所報告第 97 号 , pp.1-16 (1997).

3) L. E. Mauldin III and W. P. Chu: Optical Degradation due to Contamination on the

SAGE/SAGE II Spacecraft Instruments, Proc. SPIE, 338, pp.58-64 (1982).

4) A. C. Tribble, B. Boyadjian, J. Davis, J. Haffner and McCullough: Contamination

Control Engineering Design Guidelines for the Aerospace Community, NASA

CR-4740 (1996).

5) 常田佐久:「ひので」コンタミネーションとの戦い,第 1 回コンタミネーシ

ョン管理技術ワークショップ概要集 別刷,物質・材料研究機構,pp.1-11

(2007).

6) 例えば,J. Garrett: Outgassing Measurements on Scotch 79 Tape, JAM042302-6

(2002).

7) S. Huang and M. A. Hetrick: Preliminary Correlation of Spacecraft Contamination

Flight Data with the Modified SPACE II Computer Model, AIAA-86-1357, pp.1-7

(1986).

8) J. J. Scialdone: Characterization of the Outgassing of Spacecraft Materials, Proc.

SPIE, 287, pp.2-9 (1981).

9) D. W. Hughes, G. P. Rosecrans, J. J. Triolo and P .A. Hansen: Reduction of Flight

Hardware Outgassing After Integration under a Less Stringent Requirement, Proc.

SPIE, 2864, pp.235-245 (1996).

10) P. T. Chen and R. J. Hedgeland: Surface Accommodation of Molecular

Contaminants, Proc. SPIE, 1329, pp.327-336 (1990).

11) K. Leschly, D. M. Taylor, T. K. Jenkins and J. B. Barengoltz: Strategy for

Contamination Control to Improve Wide-Field Planetary Camera Far-Ultraviolet

Performance, Proc. SPIE, 1329, pp.42-57 (1990).

- 15 -

12) 科学衛星 SOLAR-B 実験計画書,JAXA 宇宙科学研究本部 SES データセンタ

ー,SES-TD-05-010 (2006).

13) 山下弘巳,田中庸裕,三宅孝典,西山覚,古南博,八尋秀典,窪田好浩,玉

置純著:触媒・光触媒の科学入門,講談社サイエンティフィク,pp.29-31, 36-38,

138-145 (2006).

14) U. Diebold: The Surface Science of Titanium Dioxide, Surf. Sci. Rep., 48,

pp.53-229 (2003).

15) (財)神奈川科学技術アカデミー:光触媒技術情報,46 (2007).

16) 例えば,D. Brinkley and T. Engel: Photocatalytic Dehydrogenation of 2-Propanol

on TiO2(110), J. Phys. Chem. B, 102, pp.7596-7605 (1998).

17) W. Schmidl, J. Alred, R. Mikatarian, C. Soares, E. Miles, L. Howorth, L. Mishina

and M. Murtazin: U.S.LAB Condensate Vent Experiment and Analysis”, 9th

International Symposium on Materials in a Space Environment, pp.1-7 (2003).

- 16 -

第2章 アウトガス付着量のシミュレーショ

ンにおける数学モデルの構築

2.1 緒 言

高分子材料からのアウトガス分子の付着は,Figure 1.1 に示すように高分子材

料からのアウトガス(汚染)分子の放出,輸送,付着の 3 つのプロセスから生

じる.基礎式は式(1.1)の通りである.

本研究では,真空環境下でのアウトガス分子の放出・輸送・付着現象を対象

として,アウトガス付着量のシミュレーションに必要な数学モデルの構築を目

的とした.

2.2 実 験

数学モデルの構築に際しては,アメリカ試験材料協会(American Society for

Testing and Materials, ASTM)の ASTM E1559 試験規格 1)に準拠したアウトガス

速度測定試験データを用いた.Figure 2.1 に示すように,アウトガス速度測定試

験装置は流出セル,石英結晶ミクロ天秤(Quartz Crystal Microbalance, QCM),

真空チャンバなどから構成され,シュラウドは液体窒素で冷却される.シュラ

ウドは金属製の板に液体窒素を流す管が設置されたものであり,真空チャンバ

自体からの放出ガスを吸着し,かつ,流出セルから出てきたアウトガス分子の

真空チャンバ内壁での反射防止に用いられる.これにより,QCM 測定値に対す

るバックグランドを低減することができ,高温の流出セルから放出されたアウ

トガス分子のみが低温の QCM に直接付着する.流出セルに材料サンプルを入

れ,真空引きの後に流出セルは 50℃~150℃の範囲で一定温度に加熱される.

材料サンプルから放出されたアウトガス分子は直径 3 mm,長さ 3 mm のオリフ

ィスを介して QCM 側へ流出する.QCM とオリフィス間の距離は 15 cm であり,

オリフィスに対し幾何学的に対称な位置に複数の QCM が配置されている.複

- 17 -

数の QCM の温度は-193~25℃の範囲でそれぞれ一定に保たれる.QCM の一つ

は-193℃に設定され,酸素や窒素を除くほとんどのアウトガス分子がこの QCM

に付着する.これ以外の QCM 温度は,通常,宇宙機表面の温度予測値に基づ

き設定される.QCM 温度が高いほど,QCM に付着するアウトガス分子の量は

少なくなる.流出セル及び各 QCM の温度を数日以上のあいだ保ち,各 QCM に

付着した量を測定し続ける.これを定温試験と呼ぶ.定温試験後,-193℃に設

定していた QCM の温度を 1 ℃ min-1 で昇温し,付着物の蒸発速度を測定する.

これを QCM 熱重量測定(QCM Thermogravimetric Analysis, QTGA)試験と呼ぶ.

これら試験データは宇宙航空研究開発機構から全て提供された 2-9).

Effusion Cell

Material sample

QCM

Orifice

Shroud

Vacuum chamber

Figure 2.1 Schematics of outgassing rate measurement apparatus.

- 18 -

2.3 結果と考察

2.3.1 高分子材料からのアウトガス速度の時間依存性

高分子材料からのアウトガス速度は時間の経過とともに減少する傾向がある.

この現象を数学モデル化するため,定温試験データ 2-7)を用いて時間の関数とし

たアウトガスモデルの構築・評価を行った.

試験データから,線形最小二乗法により式(2.1), (2.2), (2.3)中のアウトガス量

M̂ の未知パラメータ a, b, c を推定し,式(2.4)に示す残差二乗和の平方根 u が最

小となる式を識別した.これまでに提案されていた定温状態のアウトガス速度

M̂& の式(2.1), (2.2), (2.3) 10-12)に対し,アウトガス量 M̂ に定数項 c を加え改良し

た.

べき乗関数: ctatM b +⋅=)(ˆ , bb tatbatM ′− ⋅′=⋅⋅= 1)(&̂ (2.1)

自然対数関数: ( ) ctatM +⋅= ln)(ˆ , tatM =)(&̂ (2.2)

指数関数: ( )[ ] cbtatM +−−⋅= exp1)(ˆ ,

( ) ( ) ( )btabtbatM −⋅′′=−⋅= expexp&̂ (2.3)

残差二乗和の平方根:

( )1

ˆ 2

−=∑

N

MMu N (2.4)

ここで,t は経過時間(sec),M はアウトガス量測定値(g cm-2),M̂ はアウトガス

量計算値(g cm-2)である.6 材料の残差二乗和の平方根を Table 2.1 に示す.また,

一例として,ポリイミド製布(Kevlar 29-10)及びエポキシ系接着剤(Hysol

EA-9309NA Epoxy)のアウトガス速度を Figure 2.2, 2.3 に示す.図中のノイズは,

QCM への液体窒素供給により測定用石英結晶とリファレンス用石英結晶間に

温度差が生じ,両結晶間の振動数に差が生じたためである.Table 2.1 より,ア

ウトガス速度の時間依存性は,6 材料中 5 材料において式(2.1)で近似できるこ

とがわかった.また,比較的薄い材料に関しては式(2.2)でも近似できた.

材料からは 5 成分以上のアウトガス成分が放出され 2-7),Figure 2.4 に示すよ

- 19 -

うに分子量がより小さい水 2-7)などのアウトガス分子が早期のうちに放出され

ると推測される.水はいずれの材料からも放出されるアウトガス成分の一つで

ある 2-7).宇宙環境下でのアウトガス付着量のシミュレーションでは年単位での

付着量を予測の対象とする必要があるため,計算値を早期のアウトガス速度に

一致させる必要性はない.また,アウトガスモデルを用いた外挿計算値の確か

らしさをより高めるため,未知パラメータの推定,残差二乗和の平方根の算出

に当たっては定温試験開始 72 時間以降の試験データを用いた.

宇宙機の設計段階や運用計画段階においてアウトガス付着量予測値が実際よ

りも過小評価されると,ミッションへ深刻な影響を与えかねない.式(2.1), (2.2),

(2.3)を用いて年単位で外挿したアウトガス量計算値は,式(2.1)で最も大きくな

る.したがって,アウトガス付着量のシミュレーションでは実際よりも多めに

予測することが肝要であり,アウトガスモデルとしてべき乗関数を採用するこ

とが最適である.

Table 2.1 Root sum square of residual u for outgassing models.

Material name Power function Logarithm

function

Exponential

function

Polyimide cloth (Kevlar 29-10) 8.28×10-3 5.35×10-2 1.68×10-2

Ceramic cloth (Nextel AF-62) 1.09×10-2 2.26×10-1 2.17×10-2 Silicone paint (NOVA#500 Astrowhite Paint)

5.74×10-3 6.25×10-3 8.08×10-3

Epoxy adhesive (Hysol EA-9309NA Epoxy)

7.38×10-2 7.38×10-2 7.74×10-2

Polyamide (Hi-Air Velcro) 1.46×10-2 3.78×10-1 4.84×10-2

Glass cloth tape (Scotch 79 Tape) 1.25×10-2 3.35×10-1 1.04×10-2

Box: most fitted

Unit: μg cm-2

- 20 -

3

4

5

6

7

8

72 84 96 108 120 132 144Elapsed time t / hr

Out

gass

ing

rate

M /

10-1

1 g c

m-2

sec-1 Measured

Fitted to power function

Figure 2.2 Outgassing rate of Polyimide cloth (Kevlar 29-10) at QCM temperature

of -193 oC.

-1

0

1

2

3

4

72 84 96 108 120 132 144

Elapsed time t / hr

Out

gass

ing

rate

M /

10-1

0 g c

m-2

sec-1 MeasuredFitted to logarithm function

Figure 2.3 Outgassing rate of Epoxy adhesive (Hysol EA-9309NA Epoxy) at QCM

temperature of -193 oC.

- 21 -

1.E-06

1.E-05

1.E-04

1.E-03

1.E-02

1.E-01

1.E+00

0.01 0.1 1 10 100 1000

Elapsed time t / hr

Out

gass

ing

rate

M /

g cm

-2 se

c-1

10-6

10-12

10-11

10-10

10-9

10-8

10-7

Figure 2.4 Outgassing rate of Polyimide cloth (Kevlar 29-10) at QCM temperature

of -193 oC.

- 22 -

2.3.2 高分子材料からのアウトガス速度の温度依存性

高分子材料の温度上昇に伴い,材料からのアウトガス速度は増加する傾向が

ある.この現象を数学モデル化するため,定温試験データを用いて時間及び温

度の関数としたアウトガスモデルの構築・評価を行った.QCM 温度は-60℃で

常に一定,流出セル温度は 50, 100, 150℃の 3 ケースで定温試験が実施された.

試験データ 8)から,線形最小二乗法により式(2.5)の未知パラメータ a, b, c, ES を

推定した.これまでに提案されていたアウトガス速度 M̂& の温度依存性を表す式

11)に対し,アウトガス量 M̂ に定数項 c を加え改良した.

べき乗関数: ( ) cRTEtaTtM SSb

S +−⋅⋅= exp),(ˆ (2.5)

ここで, ST は汚染源温度(流出セル温度)(K), SE は活性化エネルギー(J mol-1),

R は気体定数(J K-1 mol-1)である.ポリアミド(Hi-Air Velcro),ポリウレタン系

塗料(Aeroglaze Z306B)のアウトガス速度をそれぞれ Figure 2.5~2.7 に示す.

また,Hi-Air Velcro, Aeroglaze Z306B のアウトガス速度比と汚染源温度の関係を

それぞれ Figure 2.8, 2.9 に示す.Figure 2.5~2.7 に示すようにアウトガス速度は

経過時間にも依存するため,アウトガス速度比を式(2.6)から求め,Figure 2.8, 2.9

中にはその平均値と標準偏差を示した.

)[K]423,(),(Ratio

i

Si

tMTtM

&

&= (2.6)

Figure 2.8 より,Hi-Air Velcro のアウトガス速度はアレニウス式に従わなかっ

た.これは,50~100℃の間でアウトガス特性が変化していることを示唆してい

る.一方,Figure 2.9 より,Aeroglaze Z306B のアウトガス速度はアレニウス式

に概ね一致した.

以上より,アウトガス速度の温度依存性は,100℃の温度範囲で必ずしもアレ

ニウス式に従うとは言えず,材料により異なることがわかった.

- 23 -

0

5

10

15

12 18 24 30 36Elapsed time t / hr

Con

dens

able

out

gass

ing

rate

M /

10-1

0 g c

m-2

sec-1

Measured, Ts=423 KFitted, Ts=423 KMeasured, Ts=373 KFitted, Ts=373 KMeasured, Ts=323 KFitted, Ts=323 K

Figure 2.5 Condensable outgassing rate of polyamide (Hi-Air Velcro) at the

outgassing source temperature TS of 50, 100 or 150 oC, and at QCM temperature of -60 oC.

0

2

4

6

8

10

12

36 48 60 72 84Elapsed time t / hr

Con

dens

able

out

gass

ing

rate

M /

10-1

0 g c

m-2

sec-1

Measured, Ts=423 KFitted, Ts=423 K

Figure 2.6 Condensable outgassing rate of polyurethane paint (Aeroglaze Z306) at

the outgassing source temperature TS of 150 oC, and at QCM temperature of -60 oC.

- 24 -

-2

0

2

4

6

36 48 60 72 84Elapsed time t / hr

Con

dens

able

out

gass

ing

rate

M /

10-1

1 g c

m-2

sec-1

Measured, Ts=373 KFitted, Ts=373 KMeasured, Ts=323 KFitted, Ts=323 K

Figure 2.7 Condensable outgassing rate of polyurethane paint (Aeroglaze Z306) at

the outgassing source temperature TS of 50 or 100 oC, and at QCM temperature of -60 oC.

0.0

0.2

0.4

0.6

0.8

1.0

1.2

298 323 348 373 398 423 448Outgassing source temperature T S / K

Rat

io o

f con

dens

able

out

gass

ing

rate

M(t

,Ts)

/ M

(t,4

23K

)

Ts=423KTs=373KTs=323KFitted(Arrhenius law)

Figure 2.8 Ratio of condensable outgassing rate of polyamide (Hi-Air Velcro) at

QCM temperature of -60 oC.

- 25 -

0.0

0.2

0.4

0.6

0.8

1.0

1.2

298 323 348 373 398 423 448Outgassing source temperature T S / K

Rat

io o

f con

dens

able

out

gass

ing

rate

M(t

,Ts)

/ M

(t,4

23K

) Ts=423KTs=373KTs=323KFitted(Arrhenius law)

Figure 2.9 Ratio of condensable outgassing rate of polyurethane paint (Aeroglaze

Z306) at QCM temperature of -60 oC.

- 26 -

2.3.3 アウトガス分子の輸送

定温試験では,通常,オリフィスを介して流出するアウトガス分子の入射フ

ラックスがどの QCM でも等しくなるように,オリフィスに対し幾何学的に対

称な位置に QCM を配置する.そこで,Figure 2.10 に示すように,幾何学的に

非対称な位置に 2 つの QCM を配置した定温試験データ 9)を用いて,アウトガ

ス分子の輸送現象の一つである直接フラックスモデルを評価した.

ASTM E1559-00 によれば,オリフィスからの直接フラックスモデルは式(2.7)

で表される 1).

( ) jij

jji Ar

BF ⋅⋅

⋅=′− 2

coscosπ

θθθ (2.7)

ここで, jiF −′ は定温試験固有の形態係数, ( )jB θ はクラウジングの流れ分布関数

(Clausing angular flow distribution), jθ はオリフィスから QCM への位置ベクト

ルとオリフィス中心軸方向とのなす角(°), iθ は QCM からオリフィスへの位置

ベクトルと QCM 法線ベクトルとのなす角(°), r はオリフィス/QCM 間の距

離(cm), jA はオリフィスの断面積(cm2)である.クラウジングの流れ方向分布関

数はオリフィスの内径と長さの比によって決まる関数である.オリフィスの長

さがその内径よりも長いほど,オリフィス中心軸方向に沿って角度分布がより

狭い分子流が生じる.オリフィスの長さがゼロのとき,クラウジング角度分布

関数は jθ によらず 1 となり,分子流は完全拡散放射となる 1).

2 つの QCM の温度 TR が等しいとき付着係数 s も等しくなるため,理論上,

各 QCM での付着速度の比は式(2.8)で表される.

1

2

1

2

1

2

),(),(),(),(

),(),(

FF

TtsFTtMTtsFTtM

TtmTtm

RS

RS

R

R

′′

=⋅′⋅⋅′⋅

=&

&

&

& (2.8)

ここで, 1m& は QCM1 への付着速度(g cm-2 sec-1), 2m& は QCM2 への付着速度(g cm-2

sec-1),s は付着係数, t は経過時間(sec),TS は流出セル温度(K)である.ブラン

ク試験データ 9)より,真空チャンバ自体から放出される汚染分子の QCM への

付着が観察されたため,式(2.9)のとおり補正を行った.

1

2

0,11

0,22

),(),(),(),(

FF

TtmTtmTtmTtm

RR

RR

′′

=−−&&

&& (2.9)

- 27 -

ここで, 0,1m& , 0,2m& はブランク試験時の QCM1, QCM2 への付着速度(g cm-2 sec-1)

である.

材料サンプルにはシリコーン系接着剤(KE-3497)を用い,試験条件として

材料サンプル加熱温度を 125℃,QCM 温度を-40℃とした.各 QCM での KE-3497

アウトガス分子の付着速度の比を Figure 2.11 に示す.同図より,試験開始から

10 時間以降では理論値が測定値に概ね一致したが,それ以前では理論値が測定

値に一致しなかった.その原因として,1) オリフィスから放出されたアウトガ

ス分子同士がオリフィス近傍で衝突散乱している,2) ブランク試験データに再

現性がない,ことが考えられる.

まず,アウトガス分子同士の衝突散乱の有無を判断するため,式(2.10)に示す

クヌーセン数 Kn を導入する.これは,流体の希薄度を表すパラメータであり,

クヌーセン数が 0.1 以上のとき希薄流体,0.1 以下のとき連続流体とされる 13).

lK gasn λ= (2.10)

ここで,λ gas はアウトガス分子の平均自由行程 (m), l は代表長さ(m)である.

λgas は式(2.11)で表される 14).

W

SOrifice

Sgas

mkT

FmvP

PdTk

2

2

1

1

2

⋅′

=⋅Φ=

⋅⋅⋅

=

&

πλ

(2.11)

ここで, k はボルツマン定数(J K-1),TS は流出セル温度(K),d は分子の直径(m),

P は圧力(Pa),ΦOrifice はオリフィス出口での質量フラックス(kg m-2 sec-1),v は

分子の速度(m sec-1), 1m& は QCM1 への付着速度(kg m-2 sec-1),mW は分子の質量

(kg)である.代表長さ l をオリフィス内径 3 mm,アウトガス分子をテトラメチ

ル・テトラフェニルトリシロキサン(MPS, MW 485),分子の直径 d を 1 nm と

仮定し,オリフィス内の平均自由行程及びクヌーセン数を計算した.これらを

Figure 2.12 に示す.同図より,クヌーセン数は数十万以上であり,希薄流体の

下限値とされる 0.1 をはるかに上回った.これより,アウトガス分子は希薄流

体と見なすことができる.したがって,Figure 2.11 に示した理論値が測定値か

ら乖離する要因として,アウトガス分子同士の衝突散乱が起因しているとは極

めて考え難く,真空チャンバ自体からの汚染分子の放出速度の再現性に起因し

- 28 -

ていたと推測される.すなわち,その放出速度は,過去のアウトガス速度測定

試験装置の運転履歴に左右されることを示唆している 15).

QCM1

QCM2

QCM1

OrificeOrifice

Material sample

3 mm

3 mmφ

θ j

θ i

r

Top view Side view

Figure 2.10 Schematics of outgassing rate measurement apparatus for a verification

of molecular direct flux.

- 29 -

0.00

0.25

0.50

0.75

1.00

4 6 8 10 12 14Elapsed time t / hr

Rat

io o

f dep

ositi

on ra

te m

2/m

1

MeasuredCalculated

Figure 2.11 Ratio of deposition rate from silicone adhesive (KE-3497) outgassing.

0

2000

4000

6000

8000

10000

4 6 8 10 12 14

Elapsed time t / hr

Mea

n fr

ee p

ath

λga

s / m

0

2000000

4000000

6000000

8000000

10000000

Knu

dsen

num

ber

Kn

Figure 2.12 Mean free path and Knudsen number of outgassed molecules in orifice.

- 30 -

2.3.4 真空中でのアウトガス分子付着係数の温度依存性

高分子材料は,熱的性質が異なる多種の低分子を放出する.アウトガス成分

には水のほか,脂肪族炭化水素,芳香族炭化水素,フタレート,アミン,シロ

キサンなどがあり,分子量もさまざまである.このため,真空中での付着係数

の温度依存性を単純な関数で近似できるかどうかが課題であった.そこで,ア

ウトガス成分毎に熱的物性値を推定した上で,各被汚染面温度における付着係

数のシミュレーションを行った.

アウトガス成分 i の多分子層における吸着・脱離モデルとして式(2.12), (2.13)

が提案されている 16).これは,多分子層の脱離速度はその付着量 m の n 次に比

例するという数学モデルである.

( )i

ni

iii

immτ

σ −Φ⋅−= 1& (2.12)

( )Riii RTEexp,0 ⋅=ττ (2.13)

ここで, im& はアウトガス成分 i の付着速度(g cm-2 sec-1),σ i は成分 i の反射率,

iΦ は成分 i の入射フラックス(g cm-2 sec-1), im は成分 i の付着量(g cm-2), in は

成分 i の反応次数, iτ は QCM 上での成分 i の滞留時間(sec), iE は成分 i の脱離

エネルギー(J mol-1), RT は QCM 温度(K), i,0τ は成分 i の分子振動周期(sec)であ

る.(2.12), (2.13)式は単分子層吸着やバルク凝縮には適用できないモデルである.

また,異なるアウトガス成分間の相互作用はないと仮定している.

まず,QCM 熱重量測定試験データ 3, 7)を用いてアウトガス成分毎に熱的物性

値を推定した.QCM 熱重量測定試験では,定温試験で 125℃に加熱していた流

出セルの温度を室温に戻すことで,流出セル中の材料からのアウトガスを極力

出さないようにする.このため,同試験時の QCM への入射フラックス iΦ をゼ

ロと仮定し,式(2.12)を式(2.14)の通り変形した.

( )∑∑ −⋅−==i

Rii

ni

ii RTEmmm

i

exp,0τ

&& (2.14)

ここで, im& は成分 i の蒸発速度であり,負の値となる.式(2.14)は微分方程式

であるため,ルンゲ・クッタ・ギル法 17)により数値的に解き,イタレーション

により各成分の 0,, τnE を推定した.ガラス・クロース・テープ(Scotch 79 Tape),

- 31 -

セラミックス製布(Nextel AF-62)を汚染源としたときの蒸発速度をそれぞれ

Figure 2.13, 2.14 に示す.

次に,定温試験データ 3, 7)を用いて各成分のアウトガス速度の時間依存性を

推定した.定温試験では,125℃に加熱された流出セル中の材料からアウトガス

が生じ,オリフィスを介して QCM に入射する.このため,QCM へのアウトガ

ス分子の入射フラックス 0≠Φ i とした.また,QCM での反射率をゼロと仮定し,

式(2.12)を式(2.15)の通り変形した.さらに,式(2.1)に基づき,QCM へのアウト

ガス成分 i の入射フラックスを式(2.16)のとおり定義した.

( )∑∑⎥⎥⎦

⎢⎢⎣

⎡−⋅−Φ==

iRi

i

ni

ii

i RTEmmmi

exp,0τ

&& (2.15)

ibii ta ⋅=Φ (2.16)

式(2.15)も微分方程式であるため,前述と同様の方法で成分 i の未知パラメータ

ai, bi を推定した.Scotch 79 Tape, Nextel AF-62 を汚染源としたときの QCM への

付着量をそれぞれ Figure 2.15, 2.16 に示す.また,Scotch 79 Tape, Nextel AF-62

における各成分の付着速度推定値(QCM 温度 80 K)をそれぞれ Figure 2.17, 2.18

に示す.

最後に,推定したパラメータ全てを用いて,各 QCM 温度での付着係数のシ

ミュレーションを行った.ここでいう付着係数は,定温試験終了時点(試験開

始から 6 日後)において任意の QCM 温度での付着量を 80 K での付着量で除し

た値である.Scotch 79 Tape, Nextel AF-62 における付着係数をそれぞれ Figure

2.19, 2.20 に示す.同図より,実際の付着係数には複数の変曲点が存在すると推

測され,これは各付着成分の熱的物性が異なることに起因している.また,

Figure 2.21 に示すシミュレーション結果より,付着成分が一成分系であれば,

式(2.17) 18)で近似できると考えられる.

⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛Δ−

+=

C

CRR

TTT

Tsexp1

1)( (2.17)

ここで, CC TT Δ, は付着成分固有の定数(K)であり,関数形は Figure 2.22 である.

一方,付着成分が多成分系であり,被汚染面温度が変動する場合,Figure 2.23,

2.24 に示すように被汚染面温度を時間平均値として扱えば,実際よりも若干大

- 32 -

きめの予測値が得られると推測される.

以上より,真空中での付着係数の温度依存性は,一成分系においては式(2.17)

で近似できると推測されるが,実際の高分子材料からは 5 成分以上のアウトガ

ス分子が放出されるため,単純な関数で近似することは困難であることがわか

った.ただし,複雑な現象をより単純化するため,被汚染面温度を時間平均値

として扱えば,有効な予測値が得られることもわかった.

ここで得られた研究成果は熱真空中でのアウトガス付着現象を対象としたも

のであり,第 3 章の太陽観測衛星「ひので」では熱真空・太陽紫外線照射環境

下でのアウトガス付着現象を対象としている.このため,本研究成果は「ひの

で」でのシミュレーションモデルには直接反映されなかったが,その他の宇宙

機におけるシミュレーションに反映された.

- 33 -

0

2

4

6

8

150 200 250 300 350 400QCM Temperature T R / K

Evap

orat

ion

rate

from

QC

M/ 1

0-9 g

cm

-2 se

c-1

MeasuredSimulated

Figure 2.13 QTGA evaporation rate of contaminants outgassed from glass cloth tape

(Scotch 79 Tape).

0

1

2

3

4

150 200 250 300 350 400QCM Temperature T R / K

Evap

orat

ion

rate

from

QC

M/ 1

0-9 g

cm

-2 se

c-1 MeasuredSimulated

Figure 2.14 QTGA evaporation rate of contaminants outgassed from ceramic cloth

(Nextel AF-62).

- 34 -

0

2

4

6

8

10

0 24 48 72 96 120 144

Elapsed time t / hr

Mas

s acc

umul

atio

n on

QC

Mm

/ 10

-6 g

cm

-2Measured @80KSimulated @80KMeasured @233KSimulated @233KMeasured @263KSimulated @263KMeasured @298KSimulated @298K

, T R =80 K, T R =80 K, T R =233 K, T R =233 K, T R =263 K, T R =263 K, T R =298 K, T R =298 K

Figure 2.15 Mass accumulation of contaminants outgassed from glass cloth tape

(Scotch 79 Tape).

0

2

4

6

8

10

0 24 48 72 96 120 144Elapsed time t / hr

Mas

s acc

umul

atio

n on

QC

Mm

/ 10

-6 g

cm

-2

Measured @80KSimulated @80KMeasured @233KSimulated @233KMeasured @263KSimulated @263KMeasured @298KSimulated @298K

, T R =80 K, T R =80 K, T R =233 K, T R =233 K, T R =263 K, T R =263 K, T R =298 K, T R =298 K

Figure 2.16 Mass accumulation of contaminants outgassed from ceramic cloth

(Nextel AF-62).

- 35 -

0

1

2

3

4

5

72 96 120 144Elapsed time t / hr

Dep

ositi

on ra

te o

n Q

CM

at 8

0 K

mi /

10-1

2 g c

m-2

sec-1

2-ethyl-1-hexanol

Irganox 1076

water

unidentified specimen

Figure 2.17 Estimated deposition rate of each specimen outgassed from glass cloth

tape (Scotch 79 Tape).

0

2

4

6

8

10

72 96 120 144Elapsed time t / hr

Dep

ositi

on ra

te o

n Q

CM

at 8

0 K

mi /

10-1

2 g c

m-2

sec-1

glycol

glycol

Figure 2.18 Estimated deposition rate of each specimen outgassed from ceramic

cloth (Nextel AF-62).

- 36 -

0.0

0.2

0.4

0.6

0.8

1.0

100 150 200 250 300 350QCM temperature T R / K

Stic

king

coe

ffic

ient

s

MeasuredSimulated

Figure 2.19 Sticking coefficient of contaminants outgassed from glass cloth tape

(Scotch 79 Tape).

0.0

0.2

0.4

0.6

0.8

1.0

100 150 200 250 300 350QCM temperature T R / K

Stic

king

coe

ffic

ient

s

MeasuredSimulated

Figure 2.20 Sticking coefficient of contaminants outgassed from ceramic cloth

(Nextel AF-62).

- 37 -

0.0

0.2

0.4

0.6

0.8

1.0

100 150 200 250 300 350

QCM temperature T R / K

Stic

king

coe

ffic

ient

si

water

2-ethyl-1-1hexanol

2, 2-dimethoxy-1,2-diphenyl-ethanonephthalates (plasticizers)

unidentified specimen(1)

unidentified specimen(2)

unidentified specimen(3)

Irganox 1076

Figure 2.21 Estimated sticking coefficient of each specimen outgassed from glass

cloth tape (Scotch 79 Tape).

0

0.2

0.4

0.6

0.8

1

1.2

100 150 200 250 300 350

QCM temperature T R / K

Stic

king

coe

ffic

ient

s

⎟⎠⎞

⎜⎝⎛ −

+=

5273

exp1

1)(R

R TTs

Figure 2.22 An example of sticking coefficient expressed in equation (2.17).

- 38 -

0

1

2

3

4

0 24 48 72 96 120 144Elapsed time t / hr

Mas

s acc

umul

atio

n m

/ 10

-6 g

cm

-2

200

250

300

350

400

Tem

pera

ture

of r

ecie

ver

T(t

) / K

Simulated, T(t)Simulated, T=233K(min.)Simulated, T=265.5K(average)Simulated, T=298K(max.)Temperature

Figure 2.23 Mass accumulation of contaminants outgassed from glass cloth tape

(Scotch 79 Tape).

0

2

4

6

8

10

0 24 48 72 96 120 144Elpsed time t / hr

Mas

s acc

umul

atio

n m

/ 10

-6 g

cm

-2

200

250

300

350

400

Tem

pera

ture

of r

ecie

ver

T(t

) / K

Simulated, T(t)Simulated, T=233K(min.)Simulated, T=265.5K(average)Simulated, T=298K(max.)T(t)

Figure 2.24 Mass accumulation of contaminants outgassed from ceramic cloth

(Nextel AF-62).

- 39 -

2.4 結 言

真空環境下での高分子材料からのアウトガス分子の放出,輸送,付着の 3 つ

の現象を対象として,数学モデルを構築した.本研究で得られた知見は次の通

りである.1) アウトガス速度及びアウトガス量の時間依存性はべき乗関数で表

現するほうが適切であることがわかった.また,アウトガス速度及びアウトガ

ス量の温度依存性については,アレニウス式を適用できる温度範囲が材料毎に

異なることがわかった.2) アウトガス分子の輸送現象の一つである直接フラッ

クスモデルはシミュレーションに適用できることを確認した.3) 被汚染面温度

とアウトガス分子付着係数の関係については,アウトガス成分数に対応した変

曲点が存在すると考えられ,単純な関数で近似することは困難であることがわ

かった.ただし,アウトガス成分が一成分であれば指数関数で近似できると推

測される.また,アウトガス分子の付着現象をより単純化して扱う場合,被汚

染面温度を時間平均値で一定としても有効なシミュレーション結果が得られる

こともわかった.

宇宙環境への適用を目指した以上の取り組みは我が国初の試みであり,宇宙

環境下でのアウトガス付着量シミュレーションにおける基礎的な知見を得た.

参考文献

1) Standard Test Method for Contamination Outgassing Characteristics of Spacecraft

Materials, American Society for Testing and Materials, ASTM E1559-00 (2000).

2) J. Garrett: Outgassing Measurements on Kevlar 29-10, JAM042302-1 (2002).

3) J. Garrett: Outgassing Measurements on Nextel AF-62, JAM042302-2 (2002).

4) J. Garrett: Outgassing Measurements on NOVA #500 Astrowhite Paint,

JAM042302-3 (2002).

5) J. Garrett: Outgassing Measurements on Hysol EA-9309NA Epoxy, JAM042302-4

(2002).

6) J. Garrett: Outgassing Measurements on Hi-Air Velcro, JAM042302-5 (2002).

7) J. Garrett: Outgassing Measurements on Scotch 79 Tape, JAM042302-6 (2002).

- 40 -

8) Hi-Air Velcro 及び Aeroglaze Z306B のアウトガス速度測定試験データ,宇宙

航空研究開発機構 (2004).

9) KE-3497 及びブランク時のアウトガス速度測定試験データ,宇宙航空研究開

発機構 (2003).

10) A. C. Tribble, B. Boyadjian, J. Davis, J. Haffner and McCullough: Contamination

Control Engineering Design Guidelines for the Aerospace Community, NASA

CR-4740 (1996).

11) J. J. Scialdone: Characterization of the Outgassing of Spacecraft Materials, Proc.

SPIE, 287, pp.2-9 (1981).

12) D. W. Hughes, G. P. Rosecrans, J. J. Triolo and P .A. Hansen: Reduction of Flight

Hardware Outgassing After Integration under a Less Stringent Requirement, Proc.

SPIE, 2864, pp.235-245 (1996).

13) 古浦勝久:希薄気体数値風洞 , 可視化情報,10 (39),pp.35-39 (1990).

14) P. W. Atkins 原著:物理化学 , 第 2 版 , 東京化学同人,pp.983-987 (1984).

15) 堀越源一:真空技術,第 3 版,東京大学出版会,pp.171 (1994).

16) M. C. Fong: A General Sticking Coefficient Theory for Neutral and

Photo-Chemically Excited Molecules, Proc. SPIE, 3427, pp.238-249 (1998).

17) 小門純一,八田夏夫:数値計算法の基礎と応用,森北出版,pp.124-126 (1988).

18) http://wwwe.onecert.fr/comova/(ONERA ホームページ)

- 41 -

第3章 太陽観測衛星「ひので」データを用い

たアウトガス付着量シミュレーショ

ンモデルの評価

3.1 緒 言

宇宙環境下において宇宙機用材料から放出されるアウトガス分子は,宇宙機

表面へ付着し,熱制御材の太陽光吸収率の増加や光学系の反射率,透過率の低

下を引き起こし,ミッションへ悪影響を及ぼすことが知られている 1, 2).太陽

観測衛星「ひので」(SOLAR-B)にはアウトガス付着にセンシティブな鏡面やレ

ンズが搭載されている.太陽光吸収率の大きいアウトガス分子が鏡面に付着す

ると,太陽光が入射する鏡面の温度が上昇し熱変形が生じる.この熱変形によ

り,望遠鏡の回折限界が劣化する 3).また,鏡面の反射率,レンズの透過率の

低下に伴い,太陽光の検出感度も劣化する 3).「ひので」は 2006 年 9 月 23 日に

打ち上げられ,同年 10 月 25 日から宇宙(軌道上)での太陽観測が開始された.

2007 年 12 月現在においてもミッションは順調に遂行されているが,アウトガ

ス付着の影響と見られる現象が起こっている.

本章では,「ひので」の概要とそのフライトデータについて述べた後,2 章の

数学モデルを基に構築したアウトガス付着量シミュレーションモデルとその数

値解析結果を述べた.最後に,フライトデータとシミュレーション結果との比

較を行い,シミュレーション結果がフライトデータから乖離する要因を主に考

察した.

3.2 「ひので」の概要

太陽観測衛星「ひので」(SOLAR-B)ミッションの目的は,高温コロナの形成,

太陽磁場・コロナ活動の起源,天体プラズマの素過程などの解明とされている.

- 42 -

Figure 3.1 に示すように,「ひので」には可視光磁場望遠鏡(Solar Optical Telescope,

SOT),X 線望遠鏡 (X-Ray Telescope, XRT),極端紫外線撮像分光装置 (Extreme

ultraviolet Imaging Spectrometer, EIS)の 3 種類の望遠鏡が搭載されている.これ

ら望遠鏡は,日本の国立天文台(NAOJ)及び宇宙航空研究開発機構(JAXA),米国

航空宇宙局(NASA),英国素粒子天体物理学研究評議会(PPARC)の国際協力によ

り開発された.可視光磁場望遠鏡は,可視光領域において高い空間分解能で連

続して太陽を観測する望遠鏡であり,光学望遠鏡部(Optical Telescope Assembly,

OTA),像安定装置及び焦点面パッケージ(Focal Plane Package, FPP)から構成さ

れる.光学望遠鏡部は有効口径 50 cmφのグレゴリアン式望遠鏡であり,Figure

3.2 に示す主鏡,副鏡,コリメータレンズユニット(Collimating Lens Unit, CLU)

の光学系からなる.太陽光は主鏡に直接入射し,排熱鏡(Heat Dump Mirror, HDM)

中央の穴を介して主鏡からの反射光の一部が副鏡に入射する.排熱鏡は五円玉

型のものであり,構体側面の排熱鏡窓を介して太陽観測に不要な熱を捨てるた

めのものである.副鏡からの反射光は 4×8 mm の 2 次絞り(2nd Field Stop)を介

してコリメータレンズユニットへ入射する.設計上,各鏡面における太陽光吸

収率αSの寿命初期(Beginning Of Life, BOL)から寿命末期(End Of Life, EOL)へ至

る許容増分は 0.05 とされている 4).可視光磁場望遠鏡による太陽観測の上でク

リティカルな光学望遠鏡部の光学系は主鏡,副鏡,コリメータレンズユニット

である.

光学望遠鏡部の構体には軽量化のため炭素繊維強化プラスチック (Carbon

Fiber Reinforced Plastic, CFRP)が用いられ,さらに接着剤をはじめとした様々な

高分子材料が使用されている.高分子材料からのアウトガスは太陽紫外線によ

り多少なりとも光学系に付着,暗色化し,αS が増加する.これに伴い,光学系

の反射率・透過率の低下,あるいは熱変形が生じ,観測データの劣化,最悪の

場合にはミッション喪失の事態を引き起こす懸念があった.このため,NAOJ

では真空チャンバ内で予め各種コンポーネントのベーキングが実施されるなど,

光学系に対するコンタミネーション管理が徹底された.

SOLAR-B は当初の予定通り日本時間 2006 年 9 月 23 日 6 時 36 分に M-V ロケ

ットで打ち上げられ,「ひので」と命名された.同年 10 月 25 日 17 時 35 分から

トップドアの展開により可視光磁場望遠鏡の太陽観測が開始された.

- 43 -

Figure 3.1 Schematics of Hinode.

Top door

Side doorHDM window

Solar Array Paddle

SOT

XRT

EIS

- 44 -

Bottom cover

OBU

MLI

MLI

Sun light

Center section

Side cooling platePrimarymirror

OTA-Spacecraftinterface

Shield tube

OSR

Sunshade

Secondary mirror

HDM

~210W

165~185W

~2.6W

Bottom cooling plate

Silverizedteflon

HDM cylinder

CLU

CTM-TM

CLU operational heater

M2 operational heater

2nd Field Stop

Figure 3.2 Schematics of OTA optics.4)

- 45 -

3.3 「ひので」フライトデータ

可視光磁場望遠鏡による太陽観測開始(2006 年 10 月 25 日にトップドア展開)

からの主鏡及び副鏡,排熱鏡,コリメータレンズユニット近傍の温度プロファ

イルをそれぞれ Figure 3.3~3.6 に示す.短期的な温度変動としては,1) 太陽観

測開始以前には内部ヒータで鏡面を保温していたため鏡面近傍の温度が高い,

2) 太陽の中心を観測しているとき温度が上昇し,太陽の端を観測しているとき

温度が低下する傾向がある,などの特徴がある.

長期的な温度変動として,各光学系ともに 2006 年 12 月末頃まで温度上昇速

度が速い傾向が続いた.この時期には,Figure 3.7 に示すように太陽光入射エネ

ルギーが増加し続けていると推測され,太陽と地球との距離が最も短くなる時

点は 12 月下旬頃となる.特に,Figure 3.5 に示すように,排熱鏡近傍の温度上

昇速度は他の光学系近傍よりも速く,これは排熱鏡自体の温度上昇速度が速い

ことを意味する.また,熱解析結果より,排熱鏡の温度が 7℃上昇すると主鏡

及び副鏡の温度が約 1℃上昇することがわかった.このため,主鏡及び副鏡の

温度上昇は排熱鏡の温度上昇が要因の一つと推測される.

2006 年 12 月末以降,各光学系ともに温度が概ね安定化している.Figure 3.7

に示すように太陽光入射エネルギーは減少方向に向かっており,排熱鏡の太陽

光吸収率αS が一定値であるならば排熱鏡近傍の温度は 12 月末以前の温度を逆

行して低下していくはずである.しかしながら,温度は概ね安定しているため,

12 月末までにα Sが急増していた可能性が高い.主鏡及びコリメータレンズユ

ニットに関しては,内部ヒータ制御により温度変化を抑制しているため,12 月

末以降では温度がほぼ一定値を示している.

2007 年 5 月初旬以降,「ひので」は全日照軌道から日照・日陰を繰り返す軌

道となった.日陰時に温度が低下し日照時に温度が上昇するが,日照中に熱平

衡状態へ達する前に日陰に入ると推測されるため,温度が全体的に低下傾向を

示した.

- 46 -

0

10

20

30

40

October2006

December2006

February2007

April 2007 June 2007 August 2007

Tem

pera

ture

/ o C

Figure 3.3 Temperatures near Primary Mirror - two channels.

-10

0

10

20

30

October2006

December2006

February2007

April 2007 June 2007 August 2007

Tem

pera

ture

/ o C

Figure 3.4 Temperatures near Secondary Mirror - two channels.

- 47 -

0

10

20

30

40

October2006

December2006

February2007

April 2007 June 2007 August 2007

Tem

pera

ture

/ o C

Figure 3.5 Temperature near Heat Dump Mirror - one channel.

0

10

20

30

40

October2006

December2006

February2007

April 2007 June 2007 August 2007

Tem

pera

ture

/ o C

Figure 3.6 Temperature near Collimating Lens Unit - one channel.

- 48 -

55.0

57.5

60.0

62.5

65.0

67.5

70.0

October2006

December2006

February2007

April 2007 June 2007 August2007

Tem

pera

ture

/ o C

0.90

0.92

0.94

0.96

0.98

1.00

1.02

1/(d

ista

nce

betw

een

sun

and

earth

) 2 ,no

rmal

ized

The Hinode eclipse wasstarted.

Figure 3.7 Temperature of a Solar Array Paddle and solar-incident energy.

Note; The temperature was processed by moving average.

- 49 -

3.4 「ひので」光学望遠鏡におけるアウトガス付着量のシミュ

レーション

3.4.1 シミュレーションモデル

宇宙環境下でのアウトガス分子の付着は,Figure 1.1 に示したように高分子材

料からのアウトガス分子の放出,輸送,付着の 3 つのプロセスで生じる.「ひの

で」光学望遠鏡部におけるアウトガス付着量シミュレーションモデルは,形状

モデル,アウトガスモデル,輸送モデル,光化学反応付着モデルから構成され

る.基礎式には式(1.1), (1.2)を用いた.2.3.1 項より,アウトガスモデルには汚

染源ごとに式(2.1)または式(2.2)を適用した.同式の適用に当たっては,2.3.2 項

に基づき,宇宙での最高温度予測値よりも高い汚染源温度条件で取得されたデ

ータを用いた.また,2.3.3 項よりアウトガス分子の衝突散乱が生じない直接フ

ラックスモデルを適用した.さらに,アウトガス付着量から太陽光吸収率変化

Δαに換算する太陽光吸収率変化モデルをシミュレーションモデルに加えた.

(1) 形状モデル

アウトガス付着量は汚染源と被汚染面との幾何学的位置関係によっても決ま

る.アウトガス付着量のシミュレーションを行うためには,まず形状モデルを

定義する必要がある.シミュレーション用形状モデルを Figure 3.8, 3.9 に示す.

これらは三角形,四角形,円板,円筒,球面の要素から構成される.Figure 3.8

に示す光学望遠鏡部の外部の形状モデルは 264 要素,Figure 3.9 に示す光学望遠

鏡部内側の形状モデルは 307 要素から構成される.次に,C&R Technology 社の

放射伝熱解析用市販ツール Thermal Desktop を用いて 5),要素間の形態係数 F

を計算した.Thermal Desktop は人工衛星の各部の温度を予測するための解析ツ

ールの一つである.形態係数とは,ある要素 i から見た他の要素 j の見かけの

面積に相当し,式(1.2)で表される.Thermal Desktop は式(1.2)に示す数値積分を

行っておらず,光線追跡法(Lay Tracing)により形態係数を計算する 5).

- 50 -

Figure 3.8 Geometric model of Hinode.

Solar Array Paddle

HDM window

Top door

OTA

EIS

XRT

Side door FPP

- 51 -

Figure 3.9 Geometric model inside of OTA.

Sunshade

Ring Plate

Top Ring Secondary Mirror (M2)

HDM

M2 Support

HDM Spider

M2 Heater Plate

HDM Cylinder

Upper Truss

HDM Window

Center Section

Lower Truss

Primary Mirror (M1)

2nd Field Stop (2FS) Support

M1 Support

M1 Pad

Bottom Cooling Plate (BCP)

Mirror Cell

HDM Window

CLU Support

CTM-TM Support

- 52 -

(2) アウトガスモデル

光学望遠鏡部を構成する各コンポーネントは,光学望遠鏡部として組み立てられる前

に真空チャンバ内で最長で 2 ヵ月間,宇宙環境での予測温度よりも 10℃高い条件で加

熱(ベーキング)され,放出されるアウトガス速度が許容値を満足するまで続けられた

3).このとき,QCM によりアウトガス付着量が測定された.ベーキングには,コンポー

ネントの高分子材料中に含まれていたアウトガス成分を予め除去し,宇宙環境下でのア

ウトガス速度を低減する効果がある.

真空チャンバで各コンポーネントをベーキングしたときに取得された QCM 振動数デ

ータ 6)を用いて,式(3.1)より光学望遠鏡部の全コンポーネントを対象としてアウトガス

モデルを作成した.

)()( tmtM ⋅= κ (3.1)

ここで,M は単位面積当たりのアウトガス量(g cm-2),m は QCM への付着量(g cm-2),

κは m から M への真空チャンバ固有の換算係数(付着量を 1 としたときのアウトガス

量),t は経過時間(sec)である.κの算出に当たっては,真空チャンバ内部の形状モデル

を作成した上で,QCM への付着量を 1,真空ポンプの排気効率を 0.2 7)として計算した.

また, )(tm については,QCM 振動数データから QCM 感度係数を除して付着量 m を算

出し,式(2.1),(2.2)にそれぞれカーブフィッティングを行った上で,式(3.2)に示す残差

二乗和 u2が小さい方を選択した.

( )∑ −=i

ii tmtmu 22 )(ˆ)( (3.2)

ここで,t は経過時間(sec), m̂ は付着量計算値(g cm-2)である.

一例として,大型の真空チャンバでベーキングが実施された,CFRP 構造のアウトガ

ス付着量へのフィッティング結果を Figure 3.10 に示す.ベーキング温度は軌道上最高温

度(予測値)よりも高い温度に設定されていたため,2.3.2 項に示す結果より,宇宙で

の実際のアウトガス速度は数学モデルよりも低いと予想した.

「ひので」開発メーカ設備にてベーキングが実施された太陽電池パドル(Solar Array

Paddle, SAP)についても,ベーキング時コンフィギュレーションに基づき形状モデルを

作成した上で QCM データ 6)からアウトガス速度のモデル化を行った.

光学望遠鏡部の小さいコンポーネントについては,小型の真空チャンバでベーキング

された.これらのコンポーネントについては,式(3.3)を用いた.

- 53 -

5.0)( tatM ⋅= , tatM ⋅= 5.0)(& (3.3)

ここで,a はコンポーネント固有の定数である.Table 3.1 に示すように,光学望遠鏡部

の高分子材料及び太陽電池セルのアウトガス速度試験データ(計 7 材料分)から式(2.1)

の定数を推定した結果,定数 b は全て 0.5 未満であった.また,固体内部からのガス分

子の拡散が伴う場合のアウトガス速度は 1/√t に比例することが経験的に知られている

8).アウトガス付着量の予測においてミッションの寿命を過小評価することは,限られ

た期間のうちに重要な観測場所・時期を逸する事態を招きかねない.このため,実際よ

りも大きめのアウトガス付着量予測値を得るため,これらのコンポーネントのアウトガ

ス速度については式(3.3)を採用し,ベーキング終了時点での QCM 振動数変化から定数

a を逆算することとした.

各コンポーネントに適用したアウトガスモデルを Table 3.2 に示す.

1.330

1.331

1.332

1.333

1.334

729.5 730.0 730.5 731.0 731.5Elapsed time t / hr

Mas

s acc

umul

atio

n m

/ 10

-5 g

cm

-2

MeasuredFitted to Power Function

Figure 3.10 Contaminant accumulation mass outgassed from CFRP structures.

Note:

1) Outgassing source temperature: 39℃ 2) QCM temperature: -94℃ 3) Above measurement data included contaminants from the vacuum chamber.

- 54 -

Table 3.1 Constant a and b of each outgassing model defined in equation (2.1).

Materials Constant a / g cm-2 sec-b

Constant b

Epoxy adhesive A -2.93×10-2 -0.621

Epoxy adhesive B 6.48×10-9 0.491

Epoxy adhesive C -6.51×10-2 -0.708

Epoxy foam 2.01×10-5 0.098

CFRP A 7.42×10-6 0.107

CFRP B 4.19×10-6 0.139

Solar cell 9.09×10-8 0.449

Table 3.2 Outgassing models of OTA components.

No. Baking Components Vacuumchamber

Bakingtime / day

Temperature ofcomponents / oC

QCMtemperature / oC

QCM frequency rateat the end of bake-

outs / Hz hr-1Outgassing models

1 OTA CFRP structure Large 66 39 -94 - Equation (2.1)

2 HKU sensor (M1/M2 ) Small 17 50 -80 <1.4 Equation (3.3)

3 M1-Support Small 3 31 -80 <1.8 Equation (3.3)

4 M2 Heater Plate Small 13 70 -80 2.0 Equation (3.3)

5 GFRP washers (M2 Heater Plate) Small 2 60 -80 <0.2 Equation (3.3)

6 HDM Spider Small 3 28 -80 <1.0 Equation (3.3)

7 Bottom cooling plate Small 11 51 -80 2.6 Equation (3.3)

8 Harness CFRP Large 25 50 -80 - Equation (2.1)

9 HKU sensor (CLU/CTM/M2) Small 8 45 -80 2.6 Equation (3.3)

10 Lower tube/Bottom cover Large 18 60 -80 <1.0 Equation (3.3)

11 Bottom cover center plate Small 7 60 -80 <1.0 Equation (3.3)

12 Heat shrinkage tube Small 1 50 -80 <1.0 Equation (3.3)

13 Tape lacing Small 10 50 -80 <1.0 Equation (3.3)

14 HKU sensor (23 pieces) Small 6 45 -80 <1.0 Equation (3.3)

15 HDM cylinder Small 4 42 -80 <2.0 Equation (3.3)

16 Cable tie Small 6 45 -80 <1.0 Equation (3.3)

17 HKU sensor (4 pieces) Small 6 45 -80 3.5 Equation (3.3)

18 Shield tube Connector panel Small 16 22 -80 <0.2 Equation (3.3)

19 Shield tube/ Sun shade Large 10 29 -80 - Equation (2.2)

20 SAP-1A, 1B, 1C Other 4 84-90 -80 - Equation (2.1)

21 Adhesives at M1-Pad / M1-Supportinterface

Small - 50 -80 - Equation (2.2)

22 Adhesives for M1-Ground Cable - - 50 - - Equation (2.1)

- 55 -

(3) 輸送モデル

高分子材料から光学系へのアウトガス分子の輸送パスを大別すると,1) 光学望遠鏡

部内のコンポーネントからのアウトガス分子が直接,あるいは光学望遠鏡部内面で付

着・再昇華を繰り返して到達するケース,2) 太陽電池パドルのアウトガス分子が排熱鏡

窓(HDM window)を介して光学望遠鏡部内に入射し,光学望遠鏡部内面で付着・再昇華を

繰り返して到達するケース,がある.シミュレーションでは,UV が入射する主鏡,副

鏡,排熱鏡,コリメータレンズ以外の表面には一切付着せずに全て再昇華すると仮定し

た.また,光学望遠鏡部内のアウトガス分子は,Figure 3.3 に示すサンシェード,排熱

鏡窓を介して宇宙空間へ放出されるとした.ここで,サンシェードの厚みをゼロとして

そのクラウジング係数を 1,筒型の排熱鏡窓の直径と長さの比からそのクラウジング係

数を 0.685 とした 9).クラウジング係数とは円管を通過する分子数の割合であり,円管

の内径と長さの比によって決まる.円管の長さがゼロのときクラウジング係数は 1,円

管が無限に長いときゼロとなる.

(4) 光化学反応付着モデル

単位面積当たりの主鏡への太陽光入射エネルギーは 1 太陽定数,排熱鏡では約 1,500

太陽定数,副鏡では約 1/2 太陽定数,コリメータレンズでは約 3 太陽定数である.太陽

定数とは,地球大気圏外で太陽に正対する面への単位面積・単位時間当たりの太陽光輻

射量であり,1.37 kW m-2である.また,清浄な主鏡及び副鏡の反射率スペクトルには,

有機物の光化学反応が生じやすい波長 200~300 nm に反射率約 38%のピーク値がある.

一方,アウトガス成分の光化学反応付着係数 s は光学系への入射フラックスと付着速度

の比で表されるが,光子数の増加に伴い sが大きくなることが実験的に示されている 10).

光化学反応付着モデルは式(3.4), (3.5)の通りである 10).

Jpqkspqkpqkks m

⋅⋅Φ

+⋅⋅⋅+

=−

03003

0321 (3.4)

( )RRTEak −⋅= exp2 (3.5)

ここで, 2k は蒸発速度定数(sec-1), qk3 は光化学反応有効断面積(cm2), 0p は単位時間・

単位面積当たりの入射光子数(cm-2 sec-1), 0s は清浄な表面に対する付着係数, mΦ は被

汚染面への汚染分子の入射フラックス(cm-2 sec-1), J は単位面積当たりの付着分子数

- 56 -

(cm-2), a は定数(sec-1), E は蒸発エネルギー(J mol-1), R は気体定数(J K-1 mol-1), RT は

被汚染面温度(K)である.式(3.4), (3.5)を用いて各光学系での反射率及び集光度から光子

数を計算した上で各光学系での付着係数を Table 3.3 の通り算出した.ここでのアウト

ガスモデル物質はテトラメチル・テトラフェニル・トリシロキサン(MPS,C28H32O2Si3,

MW 485),フタル酸ジエチルヘキシル(DEHP,C24H38O4,MW 391)である.また,光学

望遠鏡部の熱解析結果及び 3.3 節の温度データから各光学系の温度を算出した.光化学

反応付着は,光学望遠鏡部のトップドアが展開した時点(可視光磁場望遠鏡の太陽観測

開始時)から生じることになる.

Table 3.3 Photo-deposition coefficients.

Photo-deposition coefficient s Optics Estimated

temperature / oC MPS DEHP

Primary Mirror 40 0.486 0.029

Secondary Mirror 35 0.240 0.013

Heat Dump Mirror 45 0.997 0.894

Collimating Lens 32 0.490 0.043

(5) 太陽光吸収率変化モデル

アウトガス分子付着量のシミュレーション後,式(3.6) 1)を用いて汚染された鏡面の

α S ,ΔαSを算出した.αSは無次元数であり,0~1 の範囲にある.黒体のαSは 1 で

ある.

( )[ ]

∫∫ ⋅⋅−⋅−

=λλ

λλχλαλρα

dS

dStt C

S )(

)()()(2exp)(1)( 0 (3.6)

0)()( ααα −=Δ tt SS

ここで, Sα は汚染された鏡面の太陽光吸収率, 0α は清浄な鏡面の太陽光吸収率, SαΔ

は太陽光吸収率の増分,t は経過時間, 0ρ は清浄な鏡面の反射率,λは波長(nm), Cα は

アウトガスモデル物質(MPS, DEHP)の光吸収係数(nm-1) 1),χ は汚染分子付着厚(nm),

S はエアマスゼロでの太陽光スペクトル強度(W m-2 nm-1) 11)である.汚染分子付着厚と

- 57 -

太陽光吸収率変化 SαΔ との関係(計算値)をFigure 3.11に示す.アウトガス付着量m (g

cm-2)から付着厚 χ (nm)の換算に当たっては,アウトガス付着物の密度を1 g cm-3と仮定

した.

0.00

0.05

0.10

0.15

0.20

0.25

0 20 40 60 80 100Contaminant thickness / nm

Cha

nge

in so

lar a

bsor

ptan

ce Δ

αs

MPSDEHP

Figure 3.11 Dependence of change in solar absorptance on contaminant thickness.

- 58 -

3.4.2 シミュレーション

各光学系でのアウトガス付着厚のシミュレーション結果を Figure 3.12~3.15,ΔαS

数値解析結果を Figure 3.16~3.19 に示す.シミュレーションでは,「ひので」打上げから

可視光磁場望遠鏡の太陽観測までの約 32 日の間,各コンポーネントからアウトガスが

連続的に放出され,光学望遠鏡部トップドアを展開する太陽観測開始時点から光学系へ

の汚染付着が始まる前提としている.「ひので」は,トップドア展開の 11 日前からデコ

ンタミネーション・モードで運用された.このモードは,ヒータにより光学系を室温よ

りも若干高い温度に保持し,付着していた汚染分子を除去するためのものである.この

ことから,太陽観測開始時点での汚染分子付着量をゼロとした.

Figure 3.16~3.19 より,排熱鏡のΔαS数値計算結果が他の光学系のなかで最も大きい

ことがわかる.これは,排熱鏡へ単位面積当たりに入射する UV 光子数は他の光学系よ

りもはるかに多く,光化学反応付着が起きやすい条件下にあるためである.これに対し,

単位面積当たりに入射する UV 光子数が最も少ない副鏡のΔαS 数値計算結果は,鏡面

のなかで最も小さくなった.また,コリメータレンズに関しては,4×8 mm の二次絞り

を介して光学望遠鏡部内汚染源と空間的にわずかながら結合しているため,鏡面よりも

小さくなる傾向があった.

- 59 -

0

5

10

15

20

0 1 2 3

Elapsed years since OTA top door was opened

Con

tam

inan

t thi

ckne

ss /

nm

Model contaminant: MPSModel contaminant: DEHP

Figure 3.12 Numerically-simulated contaminant thickness on Primary Mirror.

0

2

4

6

8

10

0 1 2 3

Elapsed years since OTA top door was opened

Con

tam

inan

t thi

ckne

ss /

nm

Model contaminant: MPSModel contaminant: DEHP

Figure 3.13 Numerically-simulated contaminant thickness on Secondary Mirror.

- 60 -

0.0

0.5

1.0

1.5

0 1 2 3

Elapsed years since OTA top door was opened

Con

tam

inan

t thi

ckne

ss /

nm

Model contaminant: MPSModel contaminant: DEHP

Figure 3.14 Numerically-simulated contaminant thickness on Collimating Lens.

0

10

20

30

40

50

0 1 2 3

Elapsed years since OTA top door was opened

Con

tam

inan

t thi

ckne

ss /

nm

Model contaminant: MPSModel contaminant: DEHP

Figure 3.15 Numerically-simulated contaminant thickness on Heat Dump Mirror.

- 61 -

0.00

0.01

0.02

0.03

0 1 2 3

Elapsed years since OTA top door was opened

Cha

nge

in so

lar a

bsor

ptan

ce Δ

αs

Model contaminant: MPS

Model contaminant: DEHP

Figure 3.16 Numerically-simulated solar absorptance of Primary Mirror.

0.000

0.005

0.010

0.015

0 1 2 3

Elapsed years since OTA top door was opened

Cha

nge

in so

lar a

bsor

ptan

ce Δ

αs

Model contaminant: MPS

Model contaminant: DEHP

Figure 3.17 Numerically-simulated solar absorptance of Secondary Mirror.

- 62 -

0.000

0.002

0.004

0.006

0 1 2 3

Elapsed years since OTA top door was opened

Cha

nge

in so

lar a

bsor

ptan

ce Δ

αs Model contaminant: MPS

Model contaminant: DEHP

Figure 3.18 Numerically-simulated solar absorptance of Collimating Lens.

0.000

0.025

0.050

0.075

0.100

0 1 2 3

Elapsed years since OTA top door was opened

Cha

nge

in so

lar a

bsor

ptan

ce Δ

αs Model contaminant: MPS

Model contaminant: DEHP

Figure 3.19 Numerically-simulated solar absorptance of Heat Dump Mirror.

- 63 -

3.5 「ひので」フライトデータとシミュレーションとの比較

前節に示した太陽光吸収率変化ΔαS のシミュレーション結果との比較対象を得るた

め,光学望遠鏡部の熱解析結果に基づき各鏡面温度とαS の関係を一次関数で表現し,

Figure 3.3~3.5 に示した各鏡面近傍の温度データからΔαSを概算した.また,日照・日

陰軌道に入る直前の 2007 年 4 月末までを比較対象期間とした.コリメータレンズに関

しては熱解析結果が示されていなかったため,比較評価の対象外とした.ΔαS 概算値

と数値解析結果の比較を Figure 3.20~3.22 に示す.ΔαSの概算に当たっては,季節変

化による外部熱環境の変動を一切考慮していない.Figure 3.23 は,太陽と地球間の距離

が等しく(Figure 3.7 参照),かつ,温度が極大となった時点の温度データを基に概算し

た排熱鏡のΔαSを示している.2006 年 10 月 26 日時点でのαSと 2007 年 3 月 14 日時点

でのαSの差は約 0.072 であり,Figure 3.22 のΔαS概算値と比較しても顕著な差異は見

られない.したがって,ミッション初期における排熱鏡のΔαS に対する季節変化の影

響は比較的小さいと考えられる.

Figure 3.20, 3.21 より,主鏡及び副鏡のΔαS数値解析結果は概算値に概ね一致,ある

いは上回っているものの,Figure 3.22 より排熱鏡では下回った.シミュレーションモデ

ルの構築に当たっては,前述のようにアウトガス付着量が実際よりも多くなるアプロー

チとしたが,特に,入射光強度が 1,500 太陽定数という特殊な環境下にある排熱鏡に限

ってはシミュレーションモデルで扱うべき現象がほかにあると言える.なお,排熱鏡の

温度は保証値を大きく下回っており,可視光磁場望遠鏡のミッションへの影響はないこ

とが確認されている.

- 64 -

0.000

0.005

0.010

0.015

0.020

October 2006 December 2006 February 2007 April 2007 June 2007

Cha

nge

in so

lar a

bsor

ptan

ce Δ

αs Converted temperature data

Converted temperature dataConverted temperature dataConverted temperature dataSimulated (contaminant: MPS)Simulated (contaminant: DEHP)

Figure 3.20 Solar absorptance of Primary Mirror.

0.000

0.002

0.004

0.006

0.008

0.010

October 2006 December 2006 February 2007 April 2007 June 2007

Cha

nge

in so

lar a

bsor

ptan

ce Δ

αs

Converted temperature dataConverted temperature dataConverted temperature dataConverted temperature dataSimulated (contaminant: MPS)Simulated (contaminant: DEHP)

Figure 3.21 Solar absorptance of Secondary Mirror.

- 65 -

0.000

0.025

0.050

0.075

0.100

October 2006 December 2006 February 2007 April 2007 June 2007

Cha

nge

in so

lar a

bsor

ptan

ce Δ

αs

Converted temperature dataSimulated (contaminant: MPS)Simulated (contaminant: DEHP)

Figure 3.22 Solar absorptance of Heat Dump Mirror.

0.000

0.025

0.050

0.075

0.100

Oct

. 26

- Mar

.14

(139

days

)

Oct

. 30

- Mar

.11

(132

days

)

Nov

. 5 -

Mar

. 5(1

20da

ys)

Nov

. 15

- Feb

.23

(100

days

)

Nov

. 22

- Feb

.16

(86d

ays)

Cha

nge

in so

lar a

bsor

ptan

ce Δ

αs

Converted temperature dataSimulated (contaminant: MPS)Simulated (contaminant: DEHP)

Figure 3.23 Change in solar absorptance of Heat Dump Mirror being equal in distance

between the sun and earth.

- 66 -

ここでは,排熱鏡でのシミュレーション結果がフライトデータを下回る要因,ミッシ

ョン初期に排熱鏡温度が短期的に変動する要因,アウトガス付着成分の影響について考

察する.

3.5.1 シミュレーションがフライトデータを下回る要因

前述のように,通常の入射光強度環境下にある主鏡及び副鏡のΔαS 数値解析結果

(DEHP 換算)は温度データからの概算値に概ね一致したが,特殊な環境下にある排熱

鏡に関しては概算値を下回った.温度データからの概算値を下回る要因の候補として,

1) 放射線と原子状酸素による劣化,2) 光学望遠鏡部コンポーネント表面に吸着してい

た分子の脱離,3) 汚染源の急激な温度上昇によるアウトガス速度の増加,4) UV による

付着汚染分子の継続的な暗色化,が挙げられる.

(1) 放射線と原子状酸素による劣化

排熱鏡表面は保護膜付銀蒸着コーティング処理が行われており,宇宙環境で既に使用

された実績があるが,今回のような急激なαSの劣化は一切報告されていない.「ひので」

の軌道・姿勢の関係上,排熱鏡窓を介して原子状酸素が周期的に排熱鏡へ直接入射する.

排熱鏡への原子状酸素入射時間の累積を Figure 3.24 に示す.現在は太陽活動極小期辺り

であり,Figure 3.22 のΔαS概算値と Figure 3.24 に相関が見られないため,原子状酸素

が劣化に寄与しているとは考え難い.また,放射線や原子状酸素がαS の劣化を引き起

こすならば,排熱鏡の全面にわたってαS が増加すると考えられるが,後述のとおり局

所的なαS の増加と見られる現象が観察された.したがって,放射線,原子状酸素によ

る劣化が要因であるとは言い難く,アウトガス付着の影響が主要因である可能性が高い.

- 67 -

0

100

200

300

October 2006 December 2006 February 2007 April 2007 June 2007

Ato

mic

oxy

gen

inci

dent

hou

rs /

hr

Figure 3.24 Cumulative total time of atomic oxygen exposure to Heat Dump Mirror.

- 68 -

(2) 光学望遠鏡部コンポーネント表面に吸着していた分子の脱離

Figure 3.25 に示すように,EUV 撮像分光装置内に取り付けられた QCM データによる

と,2006 年 10 月末から 2007 年 2 月末までの間に無機物である石英結晶の表面から 10

×10-8 g cm-2(一分子層相当)の脱離が見られた.これは,「ひので」打上げ前から石英

結晶表面に吸着していた汚染分子が打上げ後に徐々に脱離したためと推測される.光学

望遠鏡部においても,表面積が大きく,かつ,温度が比較的高い Al 合金製の側面クー

リングプレート表面から吸着物の脱離が少なからず生じた可能性がある.QCM と同程

度の脱離があったと仮定すると,Figure 3.22 に示すΔαS数値解析結果は 2007 年 4 月末

時点でさらに約 0.03(DEHP 換算)大きくなる.したがって,ΔαS 数値解析結果が下

回る要因の一つとして,地上でのベーキング後の汚染分子吸着,軌道上での脱離が考え

られる.なお,主鏡及び副鏡のΔαS数値解析結果は排熱鏡よりも 2 オーダ小さいため,

脱離の影響は比較的小さいと考える.

0

5

10

15

20

October 2006 December2006

February 2007 April 2007 June 2007

Wei

ght l

oss /

10-8

g c

m-2

5

10

15

20

25

QC

M te

mpe

ratu

re /

o C

Figure 3.25 Contaminant weight loss and temperature measured by EIS/QCM.

- 69 -

(3) 汚染源の急激な温度上昇によるアウトガス速度の増加

2.3.2 項で述べたように,汚染源となる高分子材料の温度が高いほどアウトガス速度

も増加する.一方,「ひので」アウトガス付着量のシミュレーションでは,打上げ直後

からアウトガスが連続的に放出され続ける前提とした.主鏡パッド部と支持機構のイン

タフェース部には接着剤が使用されており,温度データ及び熱解析結果より,太陽観測

開始前後で主鏡パッド部の温度は 15℃程度高くなったと推測される.このため,観測

開始前での軌道上ベーキング効果が少なく,観測開始直後に接着剤からのアウトガス速

度が急激に高くなった可能性がある.観測開始直後からアウトガスが放出され始めると

仮定すると,Figure 3.26 に示すようにΔαS数値解析結果は 2007 年 4 月末時点でさらに

約 0.015(DEHP 換算)大きくなる.これについても,ΔαS数値解析結果が下回る要因

の一つと考えられる.なお,主鏡及び副鏡のΔαS 数値解析結果は,排熱鏡よりもそれ

ぞれ 1 オーダ,2 オーダ小さいため,汚染源の急激な温度上昇の影響は比較的小さいと

考える.

0.000

0.025

0.050

0.075

0.100

October 2006 December 2006 February 2007 April 2007 June 2007

Cha

nge

in so

lar a

bsor

ptan

ce Δ

αs

Converted temperature dataAdhesive started to outgas at biginning of orbit entry.Adhesive started to outgas at biginning of solar observation.

Figure 3.26 Solar absorptance of Heat Dump Mirror. DEHP was assumed as contaminant for

numerical analyses.

- 70 -

(4) 紫外線による付着汚染分子の継続的な暗色化

UV 照射によりほとんどの有機材料のαS は増加する.Arnold らの実験によると,光

化学反応により付着した DEHP に UV を照射し続けると,DEHP の重量減少が生じたが

吸光率は増加したと報告されている 12).また,Alred らの実験によると,アウトガス付

着物への UV 照射時間の増加に伴いΔαSが増加したとのことである 13).厚さ 46 nm の

付着物に等価太陽光照射日数(ESD)換算で約 7 カ月間 UV を照射すると,ΔαSが約 0.05

増えたと報告されている 13).2007 年 4 月末時点での排熱鏡での付着厚計算値は約 17 nm

であり,付着厚とΔαSの関係を線形と仮定すると排熱鏡のΔαSは約 0.018 増える計算

になる.したがって,UV 照射によるアウトガス分子付着物の継続的な暗色化の効果に

よっても,排熱鏡のΔαSは増加したと考えられる.

一方,UV 照射によるアウトガス分子付着物のΔαS はその付着厚にも依存すると

Alred らは報告している 13).Figure 3.27 に示すように,DEHP 付着厚が薄いほど単位厚

さ当たりの光吸収係数が大きくなる傾向を示しており,付着物の表層から光化学反応が

進行することを示唆している.図中の実験結果は,第 4 章に示す実験装置,実験方法に

より得たものである.また,同図に示す光吸収係数は,反射率の変化をゼロと仮定し,

紫外/可視透過率スペクトルデータを用いて式(3.7)より求めた 1).

( )χλαλτλτ

⋅−= )(exp)()(

0C (3.7)

ここで,τは汚染された基板の透過率,τ0は清浄な基板の透過率,λは波長(nm),αC

は単位厚さ当たりの汚染物質の光吸収係数(nm-1),χは汚染分子付着厚(nm)である.

Figure 3.27 中には Arnold らが実施した実験データも示している 12).3.4.1 項に示すシミ

ュレーションモデルには Arnold らの実験データ(DEHP 付着厚 46 nm のαC)を用いた.

シミュレーションによる排熱鏡での付着厚は約 17 nm であるため,実際のαCは Arnold

らの実験データよりも大きい可能性がある.

- 71 -

0.001

0.01

0.1

1

10

350 400 450 500 550 600 650 700Wavelength λ / nm

Abs

orpt

ion

coef

ficie

nt α

c /

μm

-1

Arnold et al.: DEHP thickness = 46nmDEHP thickness = 2.5μmDEHP thickness = 20.1μm

Figure 3.27 Estimated absorption coefficient of DEHP.

- 72 -

3.5.2 ミッション初期に温度が短期的に変動する要因

3.3 節に示したように,2006 年 12 月末頃までの排熱鏡近傍温度の極大値前では太陽

中心を観測していた.Figure 3.28 に示すように,そのときには排熱鏡の中央付近へ局所

的に反射光が入射する.温度の極小値前では太陽の端を観測しており,排熱鏡の中央か

らずれた位置に入射する.一方,実験結果より,UV が入射している条件下では低分子

有機物が付着し,入射しない条件では付着しなかったことが報告されている 10).このた

め,排熱鏡近傍温度の短期的変動は,UV が入射している箇所のみで光化学反応付着が

進行し,汚染分子付着厚及びαS に偏りが生じたことが原因と考えられる.2006 年 12

月末以降には短期的な温度変動が少なくなっているため,現在ではほぼ一様の汚染分子

付着厚と推測される.

- 73 -

0

10

20

30

40

October 2006 December 2006 February 2007 April 2007 June 2007

Tem

pera

ture

/ o C

HDM

Reflected light

Hole

Observation of the disk center

HDM

Observation of the rim

Figure 3.28 Schematics of Heat Dump Mirror.

Observation of the disk center

Observation of the rim

- 74 -

3.5.3 アウトガス付着成分の影響

Figure 3.20, 3.22 より,DEHP をアウトガスモデル物質としたΔαS数値解析結果の方

が MPS よりもΔαS概算値に近い.MPS の光化学反応付着係数は DEHP よりも高いと

されており 10),シミュレーション上,光化学反応付着係数が小さいほど主鏡及び副鏡で

の汚染分子付着厚が減り,それらに付着しなかった汚染分子が排熱鏡に集まり易くなる

傾向がある.このため,2007 年 4 月末時点での排熱鏡の汚染分子付着厚(DEHP 換算)

は MPS 換算値の 1.45 倍となる.また,同じ付着厚でのΔαS(DEHP 換算)の寄与は

MPS 換算値の 1.26 倍程度である.したがって,Figure 3.22 に示すように,2007 年 4 月

末時点での排熱鏡のΔαS計算値(DEHP 換算)は MPS 換算値の約 1.8 倍となる.光学

望遠鏡部内に使用されている材料からのアウトガス成分は炭化水素,シロキサン(MPS,

ポリジメチルシロキサン PDMS),アミン(オレアミド),フタレート(DEHP, フタル

酸ジブチル)など多種多様であり,正味の付着係数や光吸収係数は得られていないが,

Figure 3.20, 3.22 より実際の付着成分の光化学反応特性は DEHP の特性により近いと考

えられる.

3.6 結 言

「ひので」は,コンタミネーション管理が極めて徹底された人工衛星の一つであるが,

このような人工衛星ですらアウトガス付着物の影響が現れている可能性が極めて高い

ことがわかった.換言すると,コンタミネーション管理が徹底されたため,ミッション

へのアウトガス付着物のインパクトは十分に許容できる範囲であった.

入射光強度が 1 太陽定数以下の環境下にある主鏡及び副鏡でのΔαS 数値解析結果

(DEHP 換算)はフライトデータ(温度データ)からのΔαS 概算値に概ね一致し,シ

ミュレーションモデルの妥当性を確認することができた.地球周辺にある多くの宇宙機

においては,太陽光入射強度は 1 太陽定数以下であり,これらの宇宙機に対してはシミ

ュレーションモデルを活用できると考える.一方,入射光強度が 1,500 太陽定数という

特殊な環境下にある排熱鏡に関しては,ΔαS 数値解析結果はフライトデータからの概

算値を下回った.このような環境下では,無機物表面からの吸着分子の脱離や汚染源の

温度上昇(約 15℃),UV によるアウトガス付着物の継続的な暗色化も考慮する必要性

- 75 -

があることがわかった.

2007 年 12 月現在においても,「ひので」は宇宙空間で太陽観測を継続して実施して

いる.しかしながら,可視光磁場望遠鏡のスループットの低下が懸念されている.特に,

観測波長 388.3 nm の光量が観測開始から 4 ヵ月で 10%低下し,その後も低下し続けて

いる 3).また,短波長側ほどスループットが大きく低下する傾向を示しており 3),アウ

トガス付着の影響に類似した傾向がある.光学望遠鏡部内の高分子材料を汚染源とし,

汚染される光学系を主鏡,副鏡,コリメータレンズとしたアウトガス付着量のシミュレ

ーション・評価を実施したが,シミュレーション上,その影響は 4 ヵ月間で 1%にも満

たなかった.また,放射線によるコリメータレンズの透過率評価解析においても,放射

線が主要因であるとは考えられないとのことであった.これらのことから,コリメータ

レンズユニット内部に使用されているシリコーン系接着剤(DC6-1104)からのアウト

ガスがコリメータレンズに付着した可能性もある.DC6-1104 は低アウトガス材料とし

て宇宙機に広く使用されている材料の一つであるが,3.4.1 項のシミュレーションモデ

ルに含まれていない汚染源である.そこで,DC6-1104 を用いた予備的な実験を実施し,

汚染源となる可能性を模索した.DC6-1104 をエタノール(EtOH),アセトン,四塩化炭

素の溶媒にそれぞれ 1 昼夜浸し,その溶液を CaF2基板に滴下,ホットプレートで溶媒

を蒸発させた.各溶出物の赤外吸収スペクトルのパターンはポリジメチルシロキサン

(PDMS)のパターンに一致した.第 4 章に示す実験装置,実験方法により,真空中でこ

れらサンプルに近紫外線を照射したところ,短波長側の透過率が著しく低下した.これ

らは予備的な実験結果であるため,DC6-1104 のアウトガス成分に PDMS が含まれてい

るか,アウトガス量がどの程度か今後突き止めた上でシミュレーションによる定量的な

評価を行う必要がある.これにより,可視光磁場望遠鏡のスループット低下の原因究明

の一助となり,今後の対応策の検討に資すると考える.また,この原因究明の結果は,

次世代太陽観測衛星 SOLAR-C の設計・開発に有益な情報をもたらす.

参考文献

1) A. C. Tribble, B. Boyadjian, J. Davis, J. Haffner and McCullough, Contamination Control

Engineering Design Guidelines for the Aerospace Community, NASA CR-4740 (1996).

2) L. E. Mauldin III and W. P. Chu: Optical Degradation due to Contamination on the

- 76 -

SAGE/SAGE II Spacecraft Instruments, Proc. SPIE, 338, pp.58-64 (1982).

3) 常田佐久:「ひので」コンタミネーションとの戦い,第 1 回コンタミネーション管理

技術ワークショップ概要集 別刷,物質・材料研究機構,pp.1-11 (2007).

4) 科学衛星 SOLAR-B 実験計画書,JAXA 宇宙科学研究本部 SES データセンター,

SES-TD-05-010 (2006).

5) Thermal Desktop Version 4.8 Users Manual, C&R Technologies (2005).

6) SOLAR-B コンポーネント・ベーキング時の QCM 振動数データ,国立天文台

(2003-2004).

7) 堂谷忠靖,井上一,小賀坂康志,竹島敏明:衛星搭載 X 線検出器のアウトガス対策,

搭載機器基礎開発成果報告書,7,pp.49-58 (1994).

8) 堀越源一:真空技術,第 3 版,東京大学出版会,pp.171-174 (1994).

9) Standard Test Method for Contamination Outgassing Characteristics of Spacecraft Materials,

American Society for Testing and Materials, ASTM E1559-00 (2000).

10) T. B. Stewart, G. S. Arnold, D. F. Hall and H. D. Marten: Absolute Rates of

Vacuum-Ultraviolet Photochemical Deposition of Organic Films, J. Phys. Chem., 93,

pp.2393-2400 (1989).

11) Standard Solar Constant and Zero Air Mass Solar Spectral Irradiance Tables, the American

Society for Testing and Materials, ASTM E490-00 (2000).

12) G. S. Arnold and K. Luey: Photochemically Deposited Contaminant Film Effects, Proc.

SPIE, 2864, pp.269-285 (1996).

13) J. W. Alred and C. E. Soares: Solar Absorptivity as a Function of Spacecraft External

Contamination, 33rd International SAMPE Technical Conference (2001).

- 77 -

第4章 真空環境下での光触媒によるアウトガ

ス付着防止

4.1 緒 言

宇宙でのコンタミネーション付着物のアクティブな除去方法として,例えば米国のハ

ッブル宇宙望遠鏡 1)や日本の太陽観測衛星「ひので」2)に見られるように,光学系を室温

より若干高い温度にヒータで加熱して付着物を蒸発させる手法があるが,現時点で実用

化されているアクティブな手法はこのヒータ加熱のみである.そこで,我々は宇宙に豊

富にある太陽光を有効活用し,特別な機構を必要としない光触媒によるパッシブなアウ

トガス付着防止に着目した.

本章では,真空環境下での光触媒によるアウトガス付着防止に関する基礎的な知見を

得ることを目的として,「ひので」使用材料から放出されるアウトガス成分などをモデ

ル物質とし,光触媒粒子によるモデル物質の重量減少の効果を確認するとともに,光触

媒薄膜によるアウトガス付着防止効果として可視光透過スペクトル特性を分析し評価

した.

4.2 光触媒の合成

真空中での光触媒によるモデル物質の重量変化を電子天秤で検出し易くするため,ま

ず,光触媒薄膜よりも有機物との接触面積が大きくなる光触媒粒子を実験に用いた.光

触媒の種類としては,日本アエロジルの二酸化チタン TiO2 超微粒子 P25(平均粒径約

21 nm),三塩化チタンとアンモニア水から水酸化チタン Ti(OH)x 粒子(x = 3.2)を合成し,

250℃で 24 時間熱処理したものを用いた 3).Figure 4.1 にアナターゼ型結晶構造とルチル

型結晶構造を示す.P25 はアナターゼ型結晶 80%,ルチル型結晶 20%とされている.

Ti(OH)x 粒子の熱処理物の粒径を極力小さくし,有機物との接触面積をより大きくする

ため,Ti(OH)x 熱処理物を乳鉢で磨り潰した.その粒径は視認できる程度の大きさ(お

およそ 100μm 以下)であった.Figure 4.2 に示す粉末 X 線回折(X-ray diffraction, XRD)

- 78 -

測定結果からアナターゼ型 TiO2 のピークが見られるため,合成・熱処理を行った粒子

はアナターゼ型 TiO2とアモルファスの Ti(OH)x の混合物と推測される 4).Figure 4.3 に

示す合成粒子の示差熱熱重量同時測定(Thermogravimetry / Differential Thermal Analysis,

TG/DTA)結果から,100℃弱に水の蒸発と見られる吸熱が観察され,150℃で 10 wt%程

度の重量減少を示した.また,合成した光触媒粒子をホットプレートで 90℃に加熱す

ると,容器内壁に水蒸気が凝縮する様子を視認できるほどであった.Figure 4.4 に示す

P25 の TG/DTA 結果から,P25 は 150℃で 1.5 wt%程度の重量減少を示した.Ti(OH)x の

水酸基と水が水素結合するため,Ti(OH)x における水の吸着力は P25 よりも強いと考え

られる.

次に,ゾル・ゲル法によりフッ化カルシウム CaF2基板(UV グレード)及び合成石英

SiO2 基板に TiO2 薄膜をコーティングした.原料にはチタン酸イソプロピル(TTIP),2-

プロパノール(i-PrOH),2-メチル-2-プロパノール,エタノール(EtOH),ジエタノールア

ミン(DEA)を用いた.TTIP 2.21 g を 25 ml の i-PrOH に溶解し,窒素雰囲気下で DEA 1.22

g を添加した後に室温で 2 時間攪拌した 5).この溶液を用いてスピンコート法(2500 rpm,

30 秒間)により 7 mm 四方の CaF2基板及び SiO2基板にコーティングし,100℃で 20 時

間乾燥,500℃で 1 時間の結晶化熱処理を行った.代表的な宇宙機構造部材である Al

合金 A2024 に TiO2 を 2 回コーティングした場合での走査型電子顕微鏡(Scanning

Electron Microscope, SEM)による断面観察画像を Figure 4.5 に示す.同図より TiO2薄膜

の厚さは約 200 μm である.A2024 にコーティングしたときの TTIP 濃度の半分で CaF2

基板及び SiO2基板に 1 回コーティングしたため,TiO2薄膜の厚さは 50μm 程度と推測

される.CaF2基板に TiO2をコーティングしたサンプルにおいても,XRD 測定結果から

アナターゼ型のピークが観察された.CaF2 基板にコーティングした TiO2 薄膜サンプル

の紫外・可視(UV/VIS)透過率スペクトルを Figure 4.6 に示す.波長約 340 nm 以下に

TiO2薄膜による強い吸収が観察された.

- 79 -

Anatase Rutile

Figure 4.1 TiO2 crystal structures6).

10 15 20 25 30 35 40 45 502θ / deg

Inte

nsity

/ ar

b. u

nit

Before heat treatmentAfter heat treatment

Figure 4.2 X-ray diffraction pattern of the Ti(OH)x-synthesized particles.

- 80 -

-0.6

-0.5

-0.4

-0.3

-0.2

-0.1

0.0

0.1

0 100 200 300 400 500Temperature / oC

DTA

/ μV

mg-1

85

90

95

100

TG /

%

Figure 4.3 TG/DTA for Ti(OH)x-synthesized particles.

-0.7

-0.6

-0.5

-0.4

-0.3

-0.2

-0.1

0

0 50 100 150 200 250 300 350 400Temperature / oC

DTA

/ μV

mg-1

98

99

100

TG /

%

Figure 4.4 TG/DTA for P25 nano particles.

- 81 -

Figure 4.5 SEM photograph of TiO2-coated A2024 cross-section.

0

20

40

60

80

100

200 300 400 500 600 700 800

Wavelength / nm

Tran

smitt

ance

/ %

Figure 4.6 UV/VIS transmittance spectrum of the TiO2-coated CaF2 substrate.

TiO2

A2024

- 82 -

4.3 光触媒を用いたアウトガス付着防止の試み

UV 照射実験装置の概観を Figure 4.7 に示す.到達真空度は 10-4~10-1 Pa である.光源

には三栄電機製作所の 200 W 水銀キセノン光源 UVF-203S を用い,波長 225~580 nm,

中心波長 365 nm の紫外・可視光を放射するランプ L2001-01L を組み込んだ.UV 強度

測定には波長 290~390 nm を範囲とするカスタムの UV-340 を用い,サンプル位置での

UV 強度を適宜測定した.UV 照射時も含め,温度条件はすべて室温とした.

4.3.1 サンプルの調製

高分子材料から放出されるアウトガス成分は炭化水素やフタレート,アミン,シロキ

サンなど多種多様である 7).各種成分の重量減少,光学的変化に対する光触媒の有効性

を確認するため,計 6 種類の有機物をアウトガスモデル物質として用いた.モデル物質

には炭化水素のアタクティック・ポリスチレン(PS;MW ca 100,000,標準状態で白い固

体),スクアレン(C30H50, MW 411,標準状態で無色透明な液体)のほか,「ひので」使

用材料のアウトガス成分であるオレアミド(C18H35NO, MW 281,標準状態で白い固体),

フタル酸ジエチルヘキシル(DEHP, C24H38O4, MW 391,標準状態で無色透明な液体),

テトラメチル・テトラフェニル・トリシロキサン(MPS, C28H32O2Si3, MW 485,標準状態

で無色透明な液体),ポリジメチルシロキサン(PDMS, MW 117,000,標準状態で無色透

明な粘稠物)を用いた.モデル物質の化学構造を Figure 4.8 に示す.

光触媒粒子を用いたサンプルは次のように作成した.光触媒粒子を EtOH に懸濁 8)し

シャーレまたは CaF2基板に滴下後 EtOH を蒸発させ,その後,常温で液体の有機物(ス

クアレン,MPS)を滴下した.常温で固体の PS,オレアミドについては,それぞれ CCl4,

EtOH に溶解しシャーレに滴下後,溶媒を蒸発させた.また,常温で粘稠物の PDMS に

ついては,CCl4 に溶解しシャーレに滴下後,溶媒を蒸発させた.これらの方法により,

光触媒粒子と有機物の重量比をある程度コントロールすることができる.一方,TiO2

薄膜基板に関しては,1~2 mg のオレアミド,DEHP を付着させた.

Figure 4.7 に示すように真空中でサンプルに UV を照射し,UV 照射前後のサンプルの

重量を電子天秤で測定した.高分子材料を除き,光触媒粒子を用いたサンプルの作成に

当たっては,大気中での秤量時における光触媒の吸湿の影響を少なくするため,光触媒

- 83 -

の重量パーセントが極力少なくなるように調製した.基板サンプルに関しては,島津製

作所の MPS-2400 による UV/VIS 透過率スペクトル測定,日本分光の FT/IR-8000 による

赤外(IR)透過スペクトル測定,島津製作所の ESCA-850M による X 線光電子分光分析

(X-ray Photoelectron Spectroscopy: XPS)を行った.

Light guide

Synthetic quartz view port

G Pirani gauge,Ionization gauge

Samples → Turbo-molecular pump,

Rotary pump

UV light source

Figure 4.7 Schematic of UV irradiation experiment apparatus.

- 84 -

Figure 4.8 Chemical structure of each contaminant model substance.

Polystyrene Squalene

nCH - CH2

N2H

O

Oleamide

O

O

O

O

H3C-Si-O-Si-O-Si-CH3

CH3

CH3

nSi - O

CH3

CH3

Diethylhexyl phthalate (DEHP)

Tetra-methyl tetra-phenyl tri-siloxane (MPS)

Polydimethylsiloxane (PDMS)

- 85 -

4.3.2 光触媒粒子

(1) 高分子材料の重量減少

二酸化チタン TiO2 によるアウトガスモデル物質の重量減少の有効性,並びにサンプ

ル調製方法の妥当性を確認するため,最初に大気中での UV 照射実験を行った.実験に

は比較的リファレンスデータが多い PS を用いた.シロキサンの一種である PDMS も実

験に用いた.P25 を混合した PS の重量減少率を Figure 4.9 に示す.図中の Equivalent Sun

Days (ESD)は,波長 290~390 nm での UV 照射強度と照射時間から換算したエアマスゼ

ロでの等価太陽照射日数である.また,重量減少率 q (wt%),初期重量比 R0を式(4.1)で

表した.

)0(

100)0()(

0PS

ystphotocatal

PS

PS

ww

R

wtwq

=

×=

(4.1)

ここで, )0(PSw は PS の初期重量(g), )(twPS は t (ESD)分の UV 照射後の PS の重量(g),

ystphotocatalw は光触媒の重量(g)である.光触媒の重量は UV 照射前後で変化しないと仮定

した.Figure 4.9 より,UV 照射時間が長く,かつ,PS に対する P25 重量比が大きいほ

ど PS の重量減少率が大きくなる傾向があった.前者については,Shang らが PS と P25

を用いた実験を行っており,UV 照射時間の経過とともに PS の重量が減少している 8).

一方,PS の酸化に伴い,水酸基及びカルボニル基が生成すると言われている 9).そこで,

FTIR 分析により同基の生成の有無を確認した.IR 透過スペクトルを Figure 4.10, 4.11 に

示す.両図ともに 1730 cm-1でのカルボニル基の吸収が顕著であり,3500 cm-1付近にも

水酸基による若干の吸収がみられた.PS の酸化分解の結果,これらの官能基が生じた

と推測される.以上より,P25 には大気中で PS の重量減少を促進する効果があること

を確認した.ただし,P25 を混合した PDMS に関しては,有意な重量減少は観察されな

かった.

次に,大気中での実験結果を基に同じ試料,サンプル調製方法により真空中での UV

照射実験を行った.P25 を混合した PS の重量減少率を Figure 4.12 に示す.真空中では,

PS に対する P25 初期重量比が大きいほど PS の重量減少率が小さくなる結果となり,大

気中とは全く逆の傾向を示した.酸素や水が存在しない真空中では,P25 の UV 遮蔽効

- 86 -

果により PS 自体の重量減少すら阻害していると推測される.このことから,真空中で

の UV 照射実験では,光触媒粒子の重量パーセントが少なめになるようにサンプルを調

製するほうがよいことがわかった.

高分子材料から放出されるアウトガス成分の分子量は高々500 程度である 7).直鎖状

の脂肪族炭化水素は分子量が小さくなるほど沸点が低くなることが知られており 10),分

子量が小さいほど室温での蒸気圧は高くなる.低分子有機物の場合,真空中で UV を照

射すると光分解のほかに蒸発も生じると予想される.このため,次の段階では低分子有

機物をアウトガスモデル物質として真空中 UV 照射実験を行うこととした.

- 87 -

0

5

10

15

20

25

30

0 5 10 15 20Ratio of initial weight of P25 to PS R 0

Wei

ght l

oss o

f PS

q /

wt%

0.2 ESD1.5 ESD3.9 ESD

Figure 4.9 Weight loss of PS with P25 after UV irradiation and atmospheric conditions.

ESD: Equivalent Sun days

5001000150020002500300035004000

Wavenumber / cm-1

Tran

smitt

ance

/ ar

b. u

nit

Before UV irradiation

After UVirradiation

Figure 4.10 IR transmittance spectra of PS before and after UV irradiation and atmospheric

conditions.

- 88 -

5001000150020002500300035004000Wavenumber / cm-1

Tran

smitt

ance

/ ar

b. u

nit

Figure 4.11 IR spectrum of PS with P25 after UV irradiation and atmospheric conditions.

-2

0

2

4

6

8

0 5 10 15 20Ratio of initial weight of P25 to PS R 0

Wei

ght l

oss o

f PS

q /

wt%

7.5 ESD9.5 ESD

Figure 4.12 Weight loss of PS with P25 after UV irradiation and vacuum conditions.

- 89 -

(2) 低分子有機物の重量減少

まず,PS と同じ炭化水素であるスクアレン C30H50を用いて,UV 照射時間とサンプル

の重量減少率の関係を調べた.光触媒には,P25 超微粒子のほか,合成した TiO2/Ti(OH)x

粒子の混合物を用いた.Figure 4.3 に示したように,TiO2/Ti(OH)x 粒子は保水力が比較

的高いため,真空中でも有機物の酸化分解に必要な水を供給できると期待された.真空

中 UV 照射によるサンプルの重量減少率を Figure 4.13 に示す.ここでは,スクアレンの

初期重量を 20~40 mg とし,光触媒を 4~18 wt%とした.また,重量減少率 q’ (wt%)を

式(4.2)で表した.

100)0()(

' ×=sample

sample

wtw

q (4.2)

ここで, )0(samplew は有機物と光触媒の初期重量(g), )(twsample は t (ESD)分の UV 照射後

の有機物と光触媒の重量(g)である.TG/DTAよりTiO2/Ti(OH)x粒子は10 wt%程度(Figure

4.3 参照),P25 超微粒子は 1.5 wt%(Figure 4.4 参照)の保水力を有すると推測されるた

め,スクアレンと TiO2/Ti(OH)x の混合物に対する秤量時の大気中水分の影響は最大でも

1.8 wt%と見積もられる.Figure 4.13 に示すように,UV 照射時間の経過に伴いどのサン

プルにおいても重量減少率が高くなる傾向を示した.また,スクアレン単体よりも,光

触媒粒子を添加したサンプルの重量減少率のほうが高くなった.重量減少の要因として

スクアレン自体の蒸発もあるが,真空中 UV 非照射下でのスクアレンの重量減少率は

39 時間で 0.2%にも満たなかった.また,Figure 4.14 に示すように,UV 照射前のスクア

レン(二重結合数 6)には波長約 300 nm 以下に吸収があるため,本実験に使用した UV

光源により光化学反応を起こし得る必要条件を満たしており,かつ,UV 照射後のスク

アレンでは波長約 350 nm 以下での透過率が低下した.したがって,Figure 4.13 に示す

スクアレン単体の重量減少は蒸発よりも光分解に起因すると推測される.Figure 4.15 に

は UV 照射前後のスクアレンの IR 透過スペクトルを示す.いずれのサンプルにおいて

もそれぞれ1732, 1720 cm-1にカルボニル基R-CHO, R-CO-R’による吸収 11)が観察された.

大気中でスクアレンに UV を照射するとこれらカルボニル基が生じたとの報告もある

12).真空チャンバからサンプルを取り出した後に FTIR 分析を行っているため,大気曝

露による酸化の影響もあると考えられるが,P25 を添加したサンプルのほうが若干なが

ら酸化が進んでいる傾向が見られ,真空チャンバ中でも酸化が起きたと考えられる.真

空中で酸化が起こるためには酸素や水が必要であるが,前述の TG/DTA データから

- 90 -

TiO2/Ti(OH)x 自体が有機物の分解に関与する水の供給源になり得ると考えられる.P25

は TiO2/Ti(OH)x よりも保水力に劣るが,Figure 4.13 に示すように P25 を添加したサンプ

ルの重量減少率は TiO2/Ti(OH)x よりも高くなった.これは,P25 超微粒子(比表面積約

50 m2 g-1)とスクアレンの接触面積が TiO2/Ti(OH)x 粒子(比表面積の概算値 0.01 m2 g-1)

の場合よりも大きく,かつ,UV が光触媒粒子に入射する単位質量当たりの断面積にお

いても P25 のほうが大きいため,P25 を混合したサンプルで化学反応がより生じやすい

条件であったと考えられる.そのほか,酸素が関与している可能性もある.酸素の起源

については諸説あり,超高真空下でも残留酸素分子が関与する説 13),TiO2結晶表面近傍

の格子酸素が抜けて関与する説 14),TiO2 表面の水酸基が関与する説 15),がある.酸素

が関与するとしても,モデル物質の重量減少に対しては光触媒粒子の比表面積が重要な

ファクタと考えられる.我々が実施した実験では重量減少の主要因を特定することはで

きなかったが,10-4~10-1 Pa 程度の真空中でも光触媒にはスクアレンの重量減少率を高

める効果があったと言える.

- 91 -

0

5

10

15

20

25

0 1 2 3 4 5

Equivalent Sun Days (ESD)

Wei

ght l

oss o

f sam

ple

q' /

wt%

ASqualene with P25Squalene with TiO2 & Ti(OH)xSqualene線形 (Squalene)線形 (Squalene with P25)線形 (Squalene with TiO2 & Ti(OH)x)

TiO2

Figure 4.13 Weight loss of squalene with or without photocatalyst.

200 300 400 500 600 700 800Wavelength / nm

Tran

smitt

ance

/ ar

b. u

nit

SiO2 substrateSqualene on SiO2 substrateAfter UV irradiation, 4.5 ESD

SiO2 substrateSqualene on SiO2 substrateAfter UV irradiation, 4.5 ESD

Figure 4.14 UV/VIS transmittance spectra of squalene.

- 92 -

150016001700180019002000Wavenumber / cm-1

Tran

smitt

ance

/ ar

b. u

nit

R-CO-R'

R-CHO

Squalene before UV irradiation

Squalene after UV irradiation

Squalene with P25after UV irradiation

Squalene with TiO2 & Ti(OH)xafter UV irradiation

C=C

Figure 4.15 IR transmittance spectra of squalene with or without photocatalyst.

- 93 -

次に,「ひので」に使用されている高分子材料からのアウトガス成分である MPS 及び

オレアミドを対象として,光触媒粒子を用いた真空中 UV 照射実験を行った.MPS 及

びオレアミドの重量減少率に対する光触媒粒子の効果をそれぞれ Figure 4.16, 4.17 に示

す.MPS の初期重量は 30 mg 前後,オレアミドは 80 mg 前後であった.Figure 4.18, 4.19

には UV 照射前後の MPS 及びオレアミドの UV/VIS 透過スペクトルをそれぞれ示す.

スクアレンと同様,4 つのフェニル基を有する MPS,1 つのカルボニル基と 1 つの二重

結合を有するオレアミドにも UV 光源波長域に吸収があり,Figure 4.16, 4.17 より真空中

UV 非照射下での蒸発量も比較的少なかった.また,Figure 4.18, 4.19 より,真空中 UV

照射後の透過率が低下傾向にあった.したがって,MPS,オレアミド単体の重量減少は

蒸発というよりも光化学反応に起因すると考えられる.

MPS に関しては,波長 253.7 nm の UV を照射すると,H2と CH4が脱離するとの報告

がある 16).実験に使用した UV 光源の最短波長は 225 nm であり,5.5 eV の光子エネル

ギーがある.MPS 中の Si-O, Si-Phenyl (Ph), C-H, Si-CH3の結合エネルギーはそれぞれ 8.3,

5.8, 4.5-4.8, 3.1 eV とされており 17, 18),間接的な C-H, Si-CH3結合の切断が起こり得る.

UV により切断された・H, ・CH3がそれぞれ再結合し,H2, CH4が脱離すると推測される.

このことから,選択的な MPS の化学結合の切断が予想されたが,Figure 4.20 より Ge

結晶を用いた全反射(Attenuated Total Reflection) IR スペクトルではそのような傾向は示

されなかった.重量減少に関しては,TiO2/Ti(OH)x 粒子の顕著な効果は見られなかった.

これは,PS と同様,光触媒粒子による UV 遮蔽効果が現れ,MPS 自体の光分解を阻害

していた可能性がある.一方,P25 超微粒子に関してはスクアレンと同様に MPS の重

量減少率を高める効果が観察された.

オレアミドに関しては,スクアレンや MPS に比べて重量減少率が小さかった.スク

アレン,MPS は標準状態で透明な液体であり,オレアミドは白い固体である.オレア

ミドをホットプレートで 100℃近くに加熱すると透明な液体になった.室温の真空チャ

ンバ内ではオレアミドは白いままの状態であった.このことから,オレアミドは真空中

でも室温では固体と推測される.液体の有機物と比べ,UV により固体の有機物にラジ

カルが生じても拡散して他のラジカルに会合し難く,元の状態に戻り易いと考えられる.

したがって,スクアレンや MPS に比べてオレアミドのラジカルと活性酸素,ヒドロキ

シラジカル,あるいはオレアミドのラジカル同士が会合し難く,重量減少が進行し難い

可能性がある.

- 94 -

0

10

20

30

MPS with P25 MPS withTiO2 &

Ti(OH)x

MPS MPS

Wei

ght l

oss o

f sam

ple

q' /

wt%

UV irradiation and vacuum condition75 hr (2.9 ESD)

Vacuum condition39 hr

Photocatalyst: 9.9 wt%

Photocatalyst: 9.1 wt%

MPS withTiO2 &Ti(OH)x

Figure 4.16 Weight loss of MPS with or without photocatalyst.

0

2

4

6

8

10

Oleamidewith P25

Oleamidewith TiO2 &

Ti(OH)x

Oleamide Oleamide

Wei

ght l

oss o

f sam

ple

q' /

wt%

UV irradiation and vacuum condition101 hr (3.9 ESD)

Vacuum condition39 hr

Photocatalyst:4.3 wt%

Photocatalyst:8.6 wt%

Oleamide withTiO2 &Ti(OH)x

Figure 4.17 Weight loss of oleamide with or without photocatalyst.

- 95 -

200 300 400 500 600 700 800

Wavelength / nm

Tran

smitt

ance

/ ar

b. u

nit

SiO2 substrateMPS on SiO2 substrateAfter UV irradiation, 3.4 ESD

SiO2 substrateMPS on SiO2 substrateAfter UV irradiation, 3.4 ESD

Figure 4.18 UV/VIS transmittance spectra of MPS.

0

20

40

60

80

100

200 300 400 500 600 700 800

Wavelength / nm

Tran

smitt

ance

/ %

CaF2 substrateOleamide on CaF2 substrateAfter UV irradiation, 13.1 ESD

CaF2 substrateOleamide on CaF2 substrateAfter UV irradiation, 13.1 ESD

Figure 4.19 UV/VIS transmittance spectra of oleamide.

- 96 -

500150025003500Wavenumber / cm-1

Tran

smitt

ance

/ ar

b. u

nit

Before UV irradiation

After UV irradiation

δas(CH3-Si)

δs(CH3-Si)

Figure 4.20 ATR IR spectra of MPS.

- 97 -

4.3.3 光触媒薄膜

前項ではアウトガスモデル物質の重量減少率を高める効果が TiO2 粒子にあることを

確認した.ここでは,重量減少及び可視光透過率に対する光触媒薄膜の効果を確認した.

モデル物質にはオレアミド及び DEHP を用いた.いずれも「ひので」使用材料から放出

されるアウトガス成分である.アナターゼ型 TiO2の屈折率は 2.6 6),DEHP は 1.485(カ

タログ値)であるため,TiO2/CaF2基板に DEHP を塗布すると DEHP が反射防止膜とし

て作用し,Figure 4.21 に示すように TiO2/CaF2基板の透過率よりも高くなる現象があっ

た.透過率変化を指標として光触媒によるアウトガス付着防止効果を評価するに当たり,

このような現象は評価をより困難にした.そのため,1) モデル物質を塗布したTiO2/CaF2

基板,2) TiO2/CaF2基板,3) モデル物質を塗布した CaF2基板,4) CaF2基板,の計 4 サ

ンプルを 1 つのシャーレ内に入れ,真空中 UV 照射実験を行った.№1, 3 に関しては重

量変化を測定し,№2, 4 に関しては UV/VIS 透過スペクトル測定を行った.モデル物質

を塗布していない№2, 4 の基板には,隣の基板上のモデル物質からの光分解物や蒸発物

に加え,真空チャンバ自体からの汚染分子が入射すると考えられる.UV 照射によるオ

レアミド,DEHP の重量変化をそれぞれ Figure 4.22, 4.23,透過光強度比の時間変化をそ

れぞれ Figure 4.24, 4.25 に示す.Figure 4.24, 4.25 中の波長は「ひので」可視光磁場望遠

鏡の観測波長である.また,透過光強度比 I を式(4.3)で表した.

),0(),(),(λτλτλ ttI = (4.3)

ここで,τは各サンプルの透過率,t は UV 照射時間(hr),λは入射光の波長(nm)である.

UV/VIS 分光光度計による透過光強度比の測定誤差は±0.01 である.Figure 4.22, 4.23 よ

り,TiO2 薄膜上のモデル物質の重量減少率は CaF2 基板の場合よりも若干ながら上回っ

た.透過光強度比に関しては,Figure 4.24, 4.25 に示すように,TiO2/CaF2基板では増加

傾向を示し,CaF2 基板では減少傾向を示した.また,TiO2/CaF2 基板では長波長よりも

短波長の透過光強度比のほうが大きくなる傾向を示し,CaF2 基板ではその逆となった.

Figure 4.25 より,いずれの基板においても大気中で UV を照射しアセトンで洗浄すると

ほぼ元の透過光強度比に戻った.これらの傾向は TiO2/SiO2 基板,SiO2 基板でも同様で

あった.光触媒をコーティングしていない CaF2,SiO2 基板には汚染分子が徐々に付着

し,時間の経過とともに短波長側の透過光強度比が徐々に低下したと推測される 7).

- 98 -

0

20

40

60

80

100

200 300 400 500 600 700 800

Wavelength / nm

Tran

smitt

ance

/ %

SiO2 substrateTiO2/SiO2 substrateDEHP on TiO2/SiO2 substrate after UV irradiation

SiO2 substrateTiO2/SiO2 substrateDEHP on TiO2/SiO2 substrate after UVirradiation

Figure 4.21 UV/VIS transmittance spectra of DEHP on TiO2-coated substrate.

0

10

20

30

40

0 50 100 150 200 250

UV irradiation time t / hr

Wei

ght l

oss o

f ole

amid

e q

/ w

t%

Oleamide on TiO2/CaF2 substrateOleamide on CaF2 substrateOleamide on TiO2/CaF2 substrateOleamide on CaF2 substrate

Figure 4.22 Weight loss of oleamide on substrates.

- 99 -

0

20

40

60

80

100

0 100 200 300 400 500

UV irradiation time t / hr

Wei

ght l

oss o

f DEH

P q

/ w

t%

DEHP on TiO2/CaF2 substrateDEHP on CaF2 substrateDEHP on TiO2/CaF2 substrateDEHP on CaF2 substrate

Figure 4.23 Weight loss of DEHP on substrates.

- 100 -

0.98

1.00

1.02

1.04

1.06

1.08

0 50 100 150 200 250

UV irradiation time t / hr

Rat

io o

f tra

nsm

itted

ligh

t int

ensi

ty I

λ=668.0nmλ=555.0nmλ=450.5nmλ=430.5nmλ=396.5nmλ=388.0nm

(a) TiO2/CaF2 substrate

0.96

0.98

1.00

1.02

0 50 100 150 200 250

UV irradiation time t / hr

Rat

io o

f tra

nsm

itted

ligh

t int

ensi

ty I

λ=668.0nm

λ=555.0nm

λ=450.5nm

λ=430.5nm

λ=396.5nm

λ=388.0nm

(b) CaF2 substrate

Figure 4.24 Visible light intensity transmitted through substrates. Oleamide was placed near

the substrates.

- 101 -

0.97

0.98

0.99

1.00

1.01

1.02

1.03

1.04

0 100 200 300 400 500

UV irradiation time t / hr

Rat

io o

f tra

nsm

itted

ligh

t int

ensi

ty I

λ=668.0nmλ=555.0nmλ=450.5nmλ=430.5nmλ=396.5nmλ=388.0nm

(a) TiO2/CaF2 substrate

Irradiated by UV light in air andcleaned with acetone.

0.97

0.98

0.99

1.00

1.01

1.02

1.03

1.04

0 100 200 300 400 500

UV irradiation time t / hr

Rat

io o

f tra

nsm

itted

ligh

t int

ensi

ty I

λ=668.0nmλ=555.0nmλ=450.5nmλ=430.5nmλ=396.5nmλ=388.0nm

(b) CaF2 substrateIrradiated by UV light in airand cleaned with acetone.

Figure 4.25 Visible light intensity transmitted through substrates. DEHP was placed near the

substrates.

- 102 -

TiO2/CaF2,TiO2/SiO2 基板の透過光強度比が増加した原因としては,Figure 4.21 に示

したように,低屈折率の付着物が反射防止膜として作用したことが挙げられる.DEHP

の屈折率を 1.485,TiO2薄膜を 2.6,付着物の光吸収率をゼロと仮定して,付着による透

過光強度比 I を式(4.4)より計算した 19, 20).

)0,(),(),(

11

22cos2),(

),(1),(

2

1

1

2

12

12

1

λτχλτχλ

λχπχλρ

χλρχλτ

=

⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛+−

=

⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛+−

=

⎟⎠⎞

⎜⎝⎛⋅++=

−=

I

nnr

nnnnr

nrrrr

b

a

baba

(4.4)

ここで,τ は透過率, ρ は反射率, 1n は DEHP の屈折率, 2n は TiO2 の屈折率, χ は

DEHP の付着厚(nm),λは入射光の波長(nm)である.計算した透過光強度比を Figure 4.26

に示す.同図では波長が短いほど透過光強度比が高くなる傾向を示しており,Figure 4.24,

4.25 の TiO2/CaF2基板の傾向と一致している.また,付着物が除去されると透過光強度

比は 1 となるが,Figure 4.25 より大気中でサンプルに UV を照射しアセトンで洗浄する

と透過光強度比がほぼ元の状態に戻っており,これについても傾向が一致している.さ

らに,Figure 4.23 に示したように,TiO2/CaF2基板上の DEHP は完全に分解されずに約 5

wt%残留した.したがって,真空中で TiO2薄膜は付着物を完全に分解できず,残留した

ものが反射防止膜として作用した可能性がある.そこで,同様の方法で MPS を用いた

真空中 UV 照射実験を行い,UV 照射後サンプルの UV/VIS 分光分析,XPS 分析を行っ

た.MPS を選んだ理由は,1) 一般にサンプルは室内で C,O からなる物質に汚染され

やすいこと,2) MPS は Si 原子を含む化学物質であり,Si 原子を検出できれば反射防止

膜効果の有無を実証できること,である.MPS 周辺に設置した基板の透過光強度比を

Figure 4.27 に示す.TiO2/CaF2基板の透過光強度比は波長 350~800 nm でほぼ一定値を

示し,波長 330 nm でピークとなった.また,CaF2基板の透過光強度比は短波長側で低

下する傾向を示した.次に,基板を構成する元素と Si との原子百分率を Figure 4.28 に

示す.同図より両方の基板で Si が検出された.MPS 光化学反応付着物の屈折率は可視

光で 1.6 であり 21),TiO2アナターゼ結晶の 2.6 よりも小さいため 6),反射防止膜効果に

- 103 -

より透過光強度比が増加する必要条件を満たしている.したがって,TiO2薄膜サンプル

の透過光強度比の増加は反射防止膜効果により生じたと考える.これらの結果は,TiO2

薄膜への汚染分子入射フラックスが大きいほど TiO2 表面を被覆しやすくなり,アウト

ガス付着防止効果がなくなりやすいことを示唆している.Figure 4.22, 4.23 に示したよう

に,TiO2薄膜の有無によるモデル物質の重量減少の差は,UV 照射初期でほぼ決まって

いる傾向を示しており,これらのサンプルについても重量減少率を高める効果が初期に

ほぼなくなったと考えられる.

以上より,光触媒薄膜のアウトガス付着防止が作用する条件の一つとして,アウトガ

ス分子の入射フラックスの上限値が存在すると考えられる.

1.0

1.1

1.2

1.3

300 350 400 450 500 550 600 650 700

Wavelength / nm

Rat

io o

f tra

nsm

itted

ligh

t int

ensi

ty I

40 nm30 nm20 nm10 nm0 nm

Contaminant thickness

Figure 4.26 Transmitted visible light intensity, calculated using a refractive index of 1.485 for

a contaminant film.

- 104 -

0.90

0.95

1.00

1.05

300 400 500 600 700 800

Wavelength / nm

Rat

io o

f tra

nsm

itted

ligh

t int

ensi

ty I

TiO2/CaF2 substrateCaF2 substrateTiO2/CaF2 substrateCaF2 substrate

Figure 4.27 UV/VIS light intensity spectra transmitted through substrates after 235 hours’ UV

irradiation and vacuum condition. MPS was placed near the substrates.

0

20

40

60

80

100

TiO2/CaF2 substrate CaF2 substrate

Ato

mic

%

TiCaSi

θ=45°

TiO2/CaF2 substrate CaF2 substrate

Figure 4.28 XPS atomic percent for TiO2-coated substrate and CaF2 substrate after 235 hours’

UV irradiation and vacuum condition. MPS was placed near the substrates.

- 105 -

Figure 4.26 に示したように,反射防止膜効果のみが作用すると TiO2/CaF2基板の長波

長側の透過光強度比も若干ながら増えるはずであるが,Figure 4.24, 4.25 に示したように

長波長側の透過光強度比が減少した.TiO2粉末を EtOH 水溶液に懸濁し無酸素下で UV

を照射すると,TiO2粒子が還元され,粒子が白色から灰色に変化すると言われている 22).

また,TiO2などの n 型半導体には表面酸素(格子酸素)の欠陥が生じるとも言われてい

る 23).これらのことから,TiO2薄膜表面の格子酸素欠陥が原因となり,長波長側の透過

光強度比が低下した可能性がある.そこで,アウトガスモデル物質を真空チャンバ内に

入れずに実験(ブランク実験)を実施し,UV/VIS 分光分析及び XPS 分析を実施した.

基板の透過光強度比を Figure 4.29 に示す.同図中の SiO2基板においては,真空チャン

バ自体からの汚染分子が付着したため,短波長側の透過光強度比が低下したと考えられ

る.TiO2/SiO2基板に関しては,Figure 4.24, 4.25 と同様,長波長側の透過光強度比が減

少した.大気中熱処理(500℃,24 時間)後及び真空中 UV 照射後の TiO2薄膜サンプル

の C, O, Ti の原子百分率を Figure 4.30, O/Ti 原子の比を Figure 4.31 に示す.XPS 分析で

は,イオン銃を用いて 2 kV に加速した Ar イオンをサンプル表面に 1 分間ずつ照射し,

Ar イオンのスパッタ速度を 4 nm min-1としてスパッタ深さを概算した.Figure 4.30, 4.31

より,いずれのサンプル表面も C 原子で汚染されており,表面では TiO2の化学量論組

成を超える O 原子が検出された.また,Ar イオンによるスパッタリングにより,双方

のサンプルにおける O/Ti 原子の比は TiO2の化学量論組成に漸近した.これは,サンプ

ル表面の汚染物質が O 原子も含んでいたことを示唆している.Figure 4.31 より,スパッ

タ深さ 8 nmでは大気中熱処理後の TiO2薄膜サンプルの O/Ti比は真空中 UV照射後の場

合を若干上回ったため,TiO2表面の格子酸素欠損が長波長側の透過光強度比の低下に影

響した可能性はある.ただし,サンプル表面上に付着していた汚染物質の酸化の程度が

異なっていたため,このような結果が得られた可能性もある.

Figure 4.31より,スパッタ深さ 8 nmでは真空中UV照射後のTiO2薄膜サンプルのO/Ti

比は 2 をわずかながら下回った.大気中熱処理後の TiO2薄膜サンプルの XPS スペクト

ルを Figure 4.32 に示す.真空中 UV 照射後の TiO2薄膜サンプルの XPS スペクトルも同

様の傾向を示した.Figure 4.32 中の 458 eV のピークは Ti,464 eV のピークは TiO2結合

の化学シフトによる 6).スパッタリングにより TiO2表面の酸素が脱離し,460 eV にシ

ョルダが現れるとの報告があり,これは Ti3+の存在によると言われている 6).Figure 4.32

にも,スパッタに伴い 460 eV にショルダが現れた.したがって,スパッタリングによ

- 106 -

る TiO2薄膜の格子酸素欠損が原因となって,Figure 4.31 中の O/Ti 比が 2 をわずかなが

ら下回ったと考えられる.このことは,汚染付着物を完全に取り除くためスパッタ時間

を長くしても,XPS で正確な O/Ti 比を求めることは困難であることを示唆する.

以上より,TiO2薄膜サンプルの透過率と格子酸素欠損との因果関係を明らかにするこ

とはできなかったが,真空中 UV 照射により TiO2 薄膜サンプルの透過率は長波長側で

低下していくことがわかった.

0.90

0.95

1.00

1.05

300 400 500 600 700 800Wavelength / nm

Rat

io o

f tra

nsm

itted

ligh

t int

ensi

ty I

TiO2/SiO2 substrateSiO2 substrateTiO2/SiO2 substrateSiO2 substrate

Figure 4.29 UV/VIS light intensity spectra transmitted through substrates after UV irradiation

and vacuum condition for 402.3 hours. No model contaminant was placed near the

substrates.

- 107 -

0

10

20

30

40

50

60

70

0 2 4 6 8 10

Depth / nm

Ato

mic

%

TiOC

a) after heating

0

10

20

30

40

50

60

70

0 2 4 6 8 10

Depth / nm

Ato

mic

%

TiOC

b) after UV irradiation and vacuum condition

Figure 4.30 XPS atomic percent for substrates. The TiO2-coated CaF2 substrate was heated at

500 OC for 24 hours under atmospheric condition. The TiO2-coated SiO2 substrate

was irradiated by UV light under vacuum condition for 402 hours.

- 108 -

0

1

2

3

4

5

0 2 4 6 8 10

Depth / nm

Rat

io o

f O to

Ti

TiO2/CaF2 substrate after heatingTiO2/SiO2 substrate after UV irradiationTiO2/CaF2 substrate after heatingTiO2/SiO2 substrate after UV irradiation

Figure 4.31 XPS O/Ti ratio for substrates. The TiO2-coated CaF2 substrate was heated at 500

OC for 24 hours under atmospheric condition. The TiO2-coated SiO2 substrate was

irradiated by UV light for 402 hours under vacuum condition.

- 109 -

454458462466470Binding energy / eV

XPS

inte

nsity

/ ar

b. u

nit

Ti 2p

Sputtering time

0 min

1 min

2 min

Figure 4.32 XPS spectra of TiO2-coated substrates heated at 500 OC for 24 hours under

atmospheric condition.

- 110 -

4.4 結 言

真空中での光触媒の特性に関する研究事例が見当たらない状況の下,本研究は宇宙環

境での光触媒の適用可能性を見出すために実施したものである.10-4~10-1 Pa 程度の真

空中 UV 照射環境下でも,TiO2 粒子及び TiO2 薄膜にはアウトガスモデル物質(スクア

レン,MPS,オレアミド,DEHP)の重量減少率を高める効果があることを新たに見出

した.アウトガス付着量の点においては,TiO2には実際のアウトガス成分に対する付着

防止効果があると言える.ただし,本実験のように TiO2 薄膜へのアウトガス分子入射

フラックスが多過ぎると TiO2 薄膜を被覆してしまい,アウトガス付着防止効果がなく

なると考えられる.このため,TiO2薄膜の付着防止効果に対するアウトガス分子入射フ

ラックスの上限を明らかにしていく必要がある.また,光触媒による汚染物質の酸化分

解に必要と言われている水の入射フラックスについても,アウトガス付着防止効果の観

点からアウトガス分子入射フラックスとの相関の研究も進める必要がある.水は宇宙機

自体から放出されるため,光触媒によるアウトガス付着防止において水は貴重なリソー

スである.水のフラックスが予めわかれば光触媒のアウトガス付着防止効果の上限がよ

り明確になると期待される.

光学的な点においては,真空中で TiO2 薄膜に UV を照射すると長波長側の透過率が

低下することが新たに判明した.その原因の一つとして,TiO2薄膜表面の格子酸素欠損

の可能性が挙げられる.熱制御材ではその太陽光吸収率αS を設計値以下に抑え,レン

ズや鏡面などの光学系ではその透過率・反射率を設計値以上に保つ必要がある.熱制御

材や光学系に光触媒をコーティングした場合,光触媒自体の透過率の低下,吸収率の増

加は好ましくない現象である.このため,真空中で UV を照射しても透過率が低下せず,

吸収率が増加しない光触媒の素材を明らかにするとともに,その薄膜化技術の研究を進

める必要がある.例えば,硫化物半導体 23),三元系化合物半導体がその候補として挙げ

られる.

屈折率 1.5~1.6 程度の汚染分子が屈折率 2.6 の TiO2薄膜に付着すると,付着物が反射

防止膜として作用し,全体として透過率が増加する傾向があることがわかった.近年,

アウトガス付着物の付着形態に関する研究が米国で進められており,Si や SiO2 基板に

アウトガスモデル分子が斑点状に付着し,入射光の散乱を引き起こすとの報告がある 24,

25).これにより,場所によって透過光や反射光の強弱が生じてしまい,宇宙からの地球

- 111 -

観測・天体観測ミッションに悪影響を及ぼす.TiO2は超親水性という特長も併せもって

おり,付着成分に極性があれば斑点状に付着することなく均一に付着することが期待さ

れる.均一に付着すれば,場所による透過光や反射光の強弱はなくなる.例えば,DEHP

はカルボニル基 C=O を有しており,O には電子吸引性があるため,DEHP には極性が

ある.DEHP が TiO2 薄膜に付着すると均一に濡れ広がり,かつ,可視光では反射防止

膜として作用するため,結果的に系全体の透過率が増加する.このような用途に対して

も,TiO2薄膜は有効であると考えられる.

宇宙環境への光触媒の適用を目指すため,放射線による劣化特性,熱サイクルによる

基板への光触媒薄膜の密着性などを評価した上で,最終的には実際の宇宙環境で光触媒

サンプルの曝露実験を行い,その耐宇宙環境性とアウトガス付着防止効果を実証する必

要がある.これにより,宇宙への光触媒の用途拡大が期待される.

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Dioxide Photocatalysts, Bull. Chem. Soc. Jpn., 64, pp.1160-1166 (1991).

15) M. R. Hoffmann, S. T. Martin, W. Choi and D. W. Bahnemann: Environmental

Applications of Semiconductor Photocatalysis, Chem. Rev., 95, pp.69-96 (1995).

16) S. Siegel and T. Stewart: Vacuum-Ultraviolet Photolysis of Polydimethylsiloxane, J. Phys.

Chem., 73(4), pp.823-828 (1969).

17) D. F. Hall and T. B. Stewart: Photo-Enhanced Spacecraft Contamination Deposition,

AIAA-85-0953, pp.1-9 (1985).

18) J. A. Dever: In Flight-Vehicle Materials, Structures, and Dynamics, New York, Vol. 2,

Section 5 (1994).

19) A. C. Tribble, B. Boyadjian, J. Davis, J. Haffner and E. McCullough: Contamination

Control Engineering Design Guidelines for the Aerospace Community, NASA CR-4740

(1996).

20) 金原寿郎編:基礎物理学,裳華房,pp.247-248 (1963).

21) G. S. Arnold and K. Luey: Photochemically Deposited Contaminant Film Effects, Proc.

SPIE, 2864, pp.269-285 (1996).

22) 大谷文章著:光触媒標準研究法,東京図書,pp.344 (2005).

23) 山下弘巳,田中庸裕,三宅孝典,西山覚,古南博,八尋秀典,窪田好浩,玉置純著:

触媒・光触媒の科学入門,講談社サイエンティフィク, pp.22-23 (2006).

- 113 -

24) K. T. Luey, R. M. Villahermosa and D. J. Coleman: Optical Properties of Contaminant

Droplets, Proc. SPIE, 5526, pp.59-69 (2004).

25) G. K. Ternet; J. D. Barrie and K. R. Olson: Optical Scatter from Non-uniform Molecular

Films, Proc. SPIE, 5526, pp.70-78 (2004).

- 114 -

第5章 総 括

低分子有機物であるアウトガス分子は宇宙機自身の表面へ付着し,熱制御材の太陽光

吸収率の増加や光学系の反射率・透過率の低下を引き起こすことで宇宙機へ悪影響を及

ぼすことが知られている.特に,近年においては天体観測ミッション,地球観測ミッシ

ョンに使用する観測機器の高感度化,高分解能化が進むにつれ,宇宙機自身を発生源と

した分子状コンタミネーション,特に高分子材料からのアウトガス分子の付着に関する

問題がますます懸念されている.米国では,1980 年代にはすでにアウトガス付着量の

シミュレーションに関する研究が進められ,シミュレーションに必要な各種数学モデル

が提案されている.宇宙機のミッションに対する影響を事前に定量的に把握し,設計段

階から必要な対策を施すためには,宇宙環境下でのアウトガス付着量のシミュレーショ

ン技術は必要不可欠である.しかしながら,我が国におけるアウトガス付着量のシミュ

レーション研究は緒についたばかりであり,シミュレーションに必要な数学モデルの構

築も独自になされていなかった.一方,宇宙でのアウトガス付着物の除去方法の開発も

必要であるが,現時点で実用化されている手法は光学系を室温より若干高い温度にヒー

タで加熱して付着物を蒸発させる手法のみであり,適用できるケースが限定される.

このような状況の下,1) アウトガス付着量のシミュレーションにおける数学モデル

の構築,2) 宇宙環境下でのアウトガス付着量のシミュレーション技法の確立,3) 新た

なアウトガス付着防止技術の探求,を本研究の目的とした.

本研究で得られた主要な結果を以下に総括する.

第 1 章では,本研究の背景,目的,構成について述べた.

第 2 章では,『アウトガス付着量のシミュレーションにおける数学モデルの構築』に

ついて述べた.真空中でのアウトガス分子の放出・輸送・付着現象において,本研究で

得られた知見は以下の通りである.

(1) アウトガス速度及びアウトガス量の時間依存性はべき乗関数で表現することが適

切であることがわかった.

(2) アウトガス速度及びアウトガス量の温度依存性については,100℃の温度範囲で必

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ずしもアレニウス式にしたがうとは言えず,材料毎に異なることがわかった.

(3) アウトガス分子の輸送には,分子同士の衝突散乱のない直接フラックスモデルを適

用できることを確認した.

(4) 被汚染面の温度とアウトガス分子の付着係数の関係については,アウトガス成分の

数に対応した変曲点が存在すると推測され,単純な関数で近似することが困難であ

ることがわかった.ただし,アウトガス成分が一成分であればその関係を指数関数

で表現できる可能性があることがわかった.また,被汚染面の温度が時間とともに

変動する場合,被汚染面温度を時間の平均値としてシミュレーションを行っても有

効な数値解析結果を簡便に求めることができることもわかった.

第 3 章では,太陽観測衛星「ひので」フライトデータを用い,シミュレーションモデ

ルの評価を実施した.ここで得られた知見は以下の通りである.

(1) 入射光強度が 1 太陽定数(= 1.37 kW m-2)以下の環境にある主鏡及び副鏡に関して

は,太陽光吸収率ΔαS の数値解析結果(アウトガス物質:フタル酸ジエチルヘキ

シル DEHP)は,フライトデータ(温度)からの概算値に概ね一致した.また,ア

ウトガス物質をテトラメチル・テトラフェニル・トリシロキサン(MPS)とした数

値解析結果は,フライトデータを上回った.これにより,実際よりもアウトガス付

着量が大きくなるアプローチで構築してきたシミュレーションモデルは妥当であ

ることを実証した.

(2) 入射光強度が 1,500 太陽定数の環境にある排熱鏡に関しては,ΔαS数値解析結果は

フライトデータからの概算値を下回った.このような環境下では,無機物表面の吸

着分子の脱離,汚染源となる高分子材料の温度上昇(15℃程度)に伴うアウトガス

速度の増加,UV によるアウトガス付着物の継続的な暗色化とその付着厚も考慮し

た上でシミュレーションモデルを構築する必要性があることがわかった.

(3) 真空中 UV 照射実験より,アウトガス分子の付着厚が薄いほどその付着物の単位厚

さ当たりの光吸収係数 αCは大きくなる傾向が観察された.このため,付着厚に対

応したαCの決定が必要であることがわかった.

(4) DEHP は X 線天文衛星「すざく」や JAXA 所有の大型スペースチャンバで確認され

たアウトガス成分である.アウトガス分子を DEHP とした主鏡のΔαS 数値解析結

果は,フライトデータからの概算値に概ね一致し,排熱鏡では概算値を若干下回っ

- 116 -

た.一方,アウトガス分子を MPS とした主鏡のΔαS数値解析結果は概算値を上回

り,排熱鏡では概算値を大きく下回った.このことから,「ひので」光学望遠鏡部

内のアウトガス分子の光化学的特性は MPS よりも DEHP に近いと推測される.

(5) 「ひので」可視光磁場望遠鏡 SOT の太陽観測位置(太陽中心/端)に同期して,排

熱鏡近傍の温度が変動した.これは,太陽観測位置の変更に伴い,主鏡からの反射

光(紫外線を含む)が排熱鏡に集光する領域が変化し,その領域のみでアウトガス

分子の光化学反応付着とその暗色化が進行したため,局所的にαS が増加し排熱鏡

近傍の温度が急上昇したと考えられる.太陽観測位置に同期して温度変動を続け,

観測開始から約 2 ヶ月後に温度は安定化した.この時点で,排熱鏡の表面全体にほ

ぼ一様のアウトガス分子が付着し,αSの局在化がなくなったと推測される.

第 4 章では,「ひので」使用材料から放出される実際のアウトガス成分などをモデル

物質として,光触媒粒子によるモデル物質の重量減少の効果を確認するとともに,光触

媒薄膜によるアウトガス付着防止効果として可視光透過スペクトル特性を分析し評価

した.ここで得られた知見は以下の通りである.

(1) 10-4~10-1 Pa 程度の真空中 UV 照射環境下でも,二酸化チタン TiO2にはアウトガス

モデル物質(スクアレン,MPS,オレアミド,DEHP)の重量減少率を高める効果

があることを見出した.また,モデル物質との接触面積が大きい TiO2超微粒子のほ

うが TiO2・Ti(OH)x 粒子よりもモデル物質の重量減少を高める効果があることがわ

かった.

(2) アウトガス付着量の点では,TiO2には実際のアウトガス成分に対するアウトガス付

着防止効果があると考えられる.ただし,TiO2薄膜へのアウトガス分子の入射フラ

ックスが多過ぎると TiO2薄膜を被覆してしまい,アウトガス付着防止効果がなくな

ると推測される.

(3) 光学的な点では,真空中で TiO2薄膜に UV を照射すると長波長側の透過率が低下す

ることが判明した.その原因の一つとして,TiO2薄膜表面の格子酸素欠損の可能性

が挙げられる.

(4) 屈折率 1.5~1.6 程度の汚染分子が屈折率 2.6 の TiO2薄膜に付着すると,付着物が反

射防止膜として作用し,全体として透過率が増加する傾向があることがわかった.

TiO2には超親水性という特長も併せもっており,付着成分に極性があれば斑点状に

- 117 -

付着することなく均一に付着することが期待される.これにより光学的なムラがな

くなるとともに透過率が増加する.この特長は,宇宙での光触媒適用の鍵になり得

る可能性がある.

(5) アウトガスモデル物質(スクアレン,MPS,オレアミド,DEHP,ポリジメチルシ

ロキサン PDMS)の透過率は,UV 照射時間の経過とともに低下する傾向があった.

特に,短波長側の透過率低下が著しい傾向を示した.これらの傾向はモデル物質の

種類によらない特徴であった.

今後も,宇宙での天体観測ミッション,地球観測ミッションに使用される観測機器の

高感度化,高分解能化がますます進むであろう.また,人類の宇宙進出の場は地球周辺

から月,火星などの惑星へとますます拡がりを見せるであろう.これに伴い,宇宙での

コンタミネーション付着量のシミュレーション技術に対し,よりいっそうの予測精度の

向上が求められる.観測機器が使用される環境が変われば,それに合わせて数学モデル

を再構築し,シミュレーションモデルを作成する必要がある.このため,様々な宇宙環

境要因(放射線,温度など)に対応した数学モデルを構築していく必要がある.

コンタミネーション付着防止技術に関しても,より多様な手法が求められるだろう.

現時点ではヒータ加熱によるアウトガス付着物の除去が唯一の手法であるが,この手法

は万能ではない.太陽紫外線が入射すればアウトガス付着物の光化学反応が生じ,加熱

しても除去できなくなってしまう.光触媒は宇宙でのコンタミネーション防止手法の一

つとして,ヒータ加熱ではカバーできないシステムへの活用が期待される.

欧米では,宇宙でのコンタミネーション問題に古くから取り組んでおり,コンタミネ

ーション現象の数学モデル化やコンタミネーション管理技術に関する研究,技術開発が

体系的かつ継続的に進められている.特に,米国では,コンタミネーションが原因とな

って人工衛星が打上げ後すぐにミッション失敗に至ったことが背後要因にあるためと

考えられる.一方,国内では近年になって一部関係者でこの問題に真剣に取り組み出し

た状況であり,残念ながら国内の宇宙開発関係者のあいだでは広く知られていない.こ

のこともあって,関連する研究・技術開発を体系的に進めるしくみが国内に存在しない.

本論文の成果により,宇宙でのコンタミネーション問題に対する国内の認識がより高ま

り広まることを強く期待したい.

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謝 辞

本論文は,長崎大学大学院生産科学研究科の古川睦久教授のご指導によりまとめられ

たものです.また,本論文をまとめるに当たり,羽坂雅之教授,内山休男教授から有益

なご意見を賜りました.著者が学部生の頃から現在に至るまで,先生方から賜りました

御指導と御鞭撻に対し,深く謝意を申し上げます.同じく,実験手法の習得に当たり,

長崎大学工学部材料工学科高次構造材料学研究室の小椎尾謙准教授,本九町卓助教,江

頭満技術職員から数々の御指導をいただきました.ここに厚く御礼申し上げます.

第 2 章,第 3 章の研究は,独立行政法人宇宙航空研究開発機構の委託研究として宇宙

技術開発株式会社が受託したもので,吉川淳一主任開発員,馬場尚子主任開発員,矢野

敬一主任開発員から本研究の機会と御助言をいただきました.また,大学共同利用機関

法人自然科学研究機構国立天文台の常田佐久教授,一本潔准教授,原弘久助教,勝川行

雄助教,鹿野良平助教,中桐正夫プロジェクトエンジニア,田村友範技術員,坂東貴政

技術研究職員,並びに宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究本部の坂尾太郎准教授,成影

典之プロジェクト研究員から太陽観測衛星「ひので」に関するデータを御提供いただく

とともに,暖かい御支援と御協力をいただきました.ここに深く感謝いたします.

第 4 章の研究は,財団法人日本宇宙フォーラムが推進する「宇宙環境利用に関する地

上研究公募」プロジェクトの一環として行ったもので,独立行政法人物質・材料研究機

構の木村秀夫グループリーダ,土佐正弘グループリーダ,小澤清主幹研究員から本研究

の機会と御指導をいただきました.また,国立天文台の常田佐久教授から「ひので」使

用材料のアウトガス成分に関する情報や材料サンプルを御提供いただきました.ここに

深く感謝いたします.

これら研究の遂行に当たっては,宇宙技術開発株式会社の楠瀬智宏執行役員,武田直

道執行役員,David L. Mukai マネージャ,渡辺吉男マネージャをはじめとした社員の方々

に暖かいご支援をいただき,研究を円滑に進めることができました.ここに深く感謝い

たします.

本論文は多くの方々の御指導,御協力の賜物であります.重ねて厚く御礼申し上げま

す.

- 119 -

発表論文リスト

(1) T. Hayashi, F. Urayama, N. Takeda, J. Yoshikawa and N. Baba: Experimental Approach for

Modeling on External Molecular Contaminants Behaviors, 54th International Astronautical

Congress, pp.1-7 (2003).

(2) T. Hayashi, F. Urayama, N. Takeda and N. Baba: Modeling of Material Outgassing and

Deposition Phenomena, Proc. SPIE, 5526, pp. 137-146 (2004).

(3) 浦山文隆,渡辺吉男,矢野敬一,馬場尚子:ひので可視光望遠鏡における軌道上コ

ンタミネーションの影響評価,日本航空宇宙学会 宇宙技術,6,pp.25-30 (2007).

(4) 浦山文隆,古川睦久,土佐正弘,小澤清,木村秀夫:真空中での光触媒によるコン

タミネーション防止実験,日本航空宇宙学会 宇宙技術,6,pp.81-86 (2007).

(5) F. Urayama, Y. Watanabe, K. Yano and N. Baba: Molecular Contamination Assessments of

Hinode Optical Telescope Assembly during First Half Year, 58th International Astronautical

Congress, pp.1-9 (2007).

(6) F. Urayama, M. Furukawa, K. Ozawa, M. Tosa and H. Kimura: Characterization of

Photocatalyst Optical Properties under Vacuum Conditions, 58th International Astronautical

Congress, pp.1-9 (2007).

(7) F. Urayama, M. Furukawa, K. Ozawa, M. Tosa and H. Kimura: Photochemical Effects on

Optical Properties of Molecular Contaminants, Journal of the Japan Society of Microgravity

Application.(投稿中)

(8) H. Kimura, R. Tanahashi, M. Tosa, K. Ozawa and F. Urayama: Synthesis of TiO2 Photo

Catalysis Films on A2024 Alloy for Astronautics Applications by Sol-Gel Method, Journal

of the Japan Society of Microgravity Application.(投稿中)

講演論文リスト

(1) 浦山文隆,古川睦久,土佐正弘,小澤清,木村秀夫:真空中での光触媒による炭化

水素の分解実験,日本電子材料技術協会 第 43 回秋期講演大会講演概要集,pp.19

(2006).

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(2) 浦山文隆,渡辺吉男,矢野敬一,馬場尚子:SOLAR-B 光学望遠鏡の軌道上コンタ

ミネーション解析,第 50 回宇宙科学技術連合講演会講演集,pp. 1274-1278 (2006).

(3) 浦山文隆,古川睦久,土佐正弘,小澤清,木村秀夫:真空環境下での光触媒による

有機物分解の試み,第 50 回宇宙科学技術連合講演会講演集,pp.1279-1282 (2006).

(4) 浦山文隆,古川睦久,土佐正弘,小澤清,木村秀夫:真空環境下での光触媒による

低分子有機物の分解実験,日本マイクログラビティ応用学会誌,23(4), pp.348 (2006).

(5) 木村秀夫,棚橋留美,土佐正弘,小澤清,浦山文隆:ゾルゲル法による Al 合金 A2024

上への TiO2膜の形成,日本マイクログラビティ応用学会誌,23(4), pp.350 (2006).

(6) 木村秀夫,土佐正弘,小澤清,古川睦久,浦山文隆,武田直道,島袋翼:外部汚染

管理技術 WG 活動報告,宇宙利用シンポジウム(第 23 回) プロシーディング,

pp.190-192 (2007).

(7) 浦山文隆,古川睦久,土佐正弘,小澤清,木村秀夫:真空中での光触媒によるコン

タミネーション防止実験,日本電子材料技術協会 第 44 回秋期講演大会講演概要集,

pp.16 (2007).

(8) 浦山文隆,渡辺吉男,矢野敬一,馬場尚子:ひので可視光磁場望遠鏡における軌道

上コンタミネーションの影響評価,第 51 回宇宙科学技術連合講演会講演集,pp.1-6

(2007).

招待講演リスト

(1) 浦山文隆:宇宙でのコンタミネーション現象,第 5 回九州宇宙環境技術交流会(2007).

(2) 浦山文隆,渡辺吉男,矢野敬一,馬場尚子:ひので可視光望遠鏡における軌道上コ

ンタミネーションの影響評価,第 1 回コンタミネーション管理技術ワークショップ

(2007).

(3) 浦山文隆,古川睦久,土佐正弘,小澤清,木村秀夫:真空中での光触媒によるコン

タミネーション防止技術に関する研究状況,第 1 回コンタミネーション管理技術ワ

ークショップ (2007).