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1 米国シェールオイル等軽質留分の輸出可能性と精製・利用技術動向調査 一般財団法人石油エネルギー技術センター 調査情報部 横溝 晃 1.調査の目的 2015年12月18日、米国は約40年振りに原油輸出を解禁した。これまで、シェール オイルを中心に軽質原油の生産が堅調であった為、米国内の原油在庫量は大幅に増 加 し て い る 。ま た 、米 国 内 の 製 油 所 も フ ル 稼 働 の 状 態 で あ る 為 、製 油 所 の 石 油 製 品 増産と輸出量増加により米国石油精製業界は活況を呈している。 原油価格低迷の中、米国シェールオイルとコンデンセートも生産量は停滞してい るが、採掘技術の向上、生産コストの改善から1リグあたりの生産量は、飛躍的に 増加している。 このような中、2014年10月には米国産コンデンセートが日本に輸出されたこと、 中東諸国の地政学リスク回避、原油価格の変動、為替の変動、パナマ運河改修工事 完了等による経済性如何では日本への米国産原油と石油製品の輸出機会が増加す るものと考えられる。 以上のことから、原油輸出解禁に伴い、米国シェールオイルとコンデンセートの 需給動向、輸出動向、価格情報、精製技術について調査することを目的とする。 2.調査の内容 米国からシェールオイル、コンデンセートが輸出された場合、アジア、特に日本 への原油と石油製品の需給への影響、日本の石油精製で解決すべき点、ビジネスチ ャンスの可能性等、検討すべき課題は多数ある。 需給動向に関しては、米国内でのシェールオイル、コンデンセート、石油製品の 将来的な需給、輸出解禁前のコンデンセートと石油製品の輸出先、米国原油の価格、 米国政府の輸出政策の方向性、輸出増大に伴うインフラの制約等を把握する。 原油精製技術については、米国製油所の処理能力、装置構成、精製技術と将来的 な見通し、日本の製油所でのシェールオイル、コンデンセート精製処理の適合性お よび応用技術について調査を行い、日本の製油所で処理する場合の技術的な課題等 について整理する。 本報告では、米国から輸出されるシェールオイル、コンデンセートのアジア、日 本への輸出可能性を把握するとともに、シェールオイル、コンデンセートの精製技 術、技術的課題、新規応用技術、価格動向に関して日本の石油産業の事業戦略に貢 献できるような調査を行う。 なお、表図中データにおいて、特に記載の無い場合、2014年までは実績、2015 年は見込み、2016年以降は予想値としている。

米国シェールオイル等軽質留分の輸出可能性と精 …...1 米国シェールオイル等軽質留分の輸出可能性と精製・利用技術動向調査 一般財団法人石油エネルギー技術センター

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米国シェールオイル等軽質留分の輸出可能性と精製・利用技術動向調査

一般財団法人石油エネルギー技術センター 調査情報部 横溝 晃

1.調査の目的

2015年12月18日、米国は約40年振りに原油輸出を解禁した。これまで、シェール

オイルを中心に軽質原油の生産が堅調であった為、米国内の原油在庫量は大幅に増

加している。また、米国内の製油所もフル稼働の状態である為、製油所の石油製品

増産と輸出量増加により米国石油精製業界は活況を呈している。

原油価格低迷の中、米国シェールオイルとコンデンセートも生産量は停滞してい

るが、採掘技術の向上、生産コストの改善から1リグあたりの生産量は、飛躍的に

増加している。

このような中、2014年10月には米国産コンデンセートが日本に輸出されたこと、

中東諸国の地政学リスク回避、原油価格の変動、為替の変動、パナマ運河改修工事

完了等による経済性如何では日本への米国産原油と石油製品の輸出機会が増加す

るものと考えられる。

以上のことから、原油輸出解禁に伴い、米国シェールオイルとコンデンセートの

需給動向、輸出動向、価格情報、精製技術について調査することを目的とする。

2.調査の内容

米国からシェールオイル、コンデンセートが輸出された場合、アジア、特に日本

への原油と石油製品の需給への影響、日本の石油精製で解決すべき点、ビジネスチ

ャンスの可能性等、検討すべき課題は多数ある。

需給動向に関しては、米国内でのシェールオイル、コンデンセート、石油製品の

将来的な需給、輸出解禁前のコンデンセートと石油製品の輸出先、米国原油の価格、

米国政府の輸出政策の方向性、輸出増大に伴うインフラの制約等を把握する。

原油精製技術については、米国製油所の処理能力、装置構成、精製技術と将来的

な見通し、日本の製油所でのシェールオイル、コンデンセート精製処理の適合性お

よび応用技術について調査を行い、日本の製油所で処理する場合の技術的な課題等

について整理する。

本報告では、米国から輸出されるシェールオイル、コンデンセートのアジア、日

本への輸出可能性を把握するとともに、シェールオイル、コンデンセートの精製技

術、技術的課題、新規応用技術、価格動向に関して日本の石油産業の事業戦略に貢

献できるような調査を行う。

なお、表図中データにおいて、特に記載の無い場合、2014年までは実績、2015

年は見込み、2016年以降は予想値としている。

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3.調査の結果

3.1 米国の原油生産量

原油生産の大部分はメキシコ湾岸地域に集中している。原油生産の現状および将

来の見通しは、国防石油行政区(以下、PADD)に基づき地域ごとに異なる。

図1 国防石油行政区(PADD)

出所:米国燃料·石油化学製造者協会AFPM-14-35,March(2014)

シェールオイル、コンデンセートは、主にバッケン(Bakken)、イーグルフォー

ド(Eagle Ford)、パーミアン(Permian)で生産されている。主要シェールプレ

イの原油生産量は、2015年の生産量と比較して2016年と2017年は約40万BPD減少す

る見通しであるが、2017年以降、需給バランスおよび原油価格の是正により増加が

予想される。原油生産は2030年までに、2015年の生産レベルを200万BPD近く上回る

700万BPDに達する見込みである。

図2 米国原油の生産地

出所:HART ENERGY(2015)

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米国の総原油生産量は2016年と2017年は減退するが、2017年以降、生産は増加し、

2015年の849万BPDを超える1,080万BPDに達すると予想される。

図3 原油総生産量の実績と見通し(千BPD)

出所:HART ENERGY(2015)

2014年シェールオイルの総生産量は、400万BPDを超えた。今後の生産量は、短期

的に低迷するが、新技術の導入や生産効率化により価格の回復に伴い再び増産に転

じると推定される。しかし、シェールオイルの生産は、開発会社が採算性の高い「ス

イートスポット」を掘り尽くし、生産性の低い地層へと移動するに伴い、最終的に

は生産コスト上昇の制約を受ける。将来的な生産量は2020 年代初頭に日量500 万

バレル強の水準で頭打ちとなり、その後、緩やかな減産に転じると見込まれる。

(参照:IEA World Energy Outlook(2015))

図4 シェールオイルの総生産量(単位:百万BPD)

出所:EIA

米国リースコンデンセート(井戸元で生産されたコンデンセート)の生産量は2

016年と2017年は減少し、2015年の生産レベルに対して計2万5,000 BPDの減少量と

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予想される。しかし、2017年以降は増加して、2015年生産レベルを14万5,000 BPD

上回る120万BPDに達すると見込まれる。

図5 リースコンデンセート総生産量の実績と見通し(千BPD)

出所:HART ENERGY(2015)

3.2 米国産原油の品質

シェールオイルとコンデンセートのAPIは、油種によって幅が大きい。そのAPI

幅が大きい理由は、各PADDで数百の油井が存在する中で各油井の性状が異なる為、

その結果、出荷原油の性状が大きく振れる。

図6 シェールオイルとコンデンセートのAPI

出所:P. Truesdale et al., Processing Shale Feedstocks(2015)

0

200

400

600

800

1000

1200

1400

2010 2012 2014 2016 2018 2020 2022 2024 2026 2028 2030

PADD1 PADD2 PADD3 PADD4 PADD5

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また、Eagle Fordのシェールオイルとコンデンセートは、他の原油に比べてWAX

分が多く含まれる。また、シェールオイルは、従来型原油に比べて金属分が多く含

まれている。(参照:AFPM-14-35,March 2014、Kenneth Bryden, Processing

Tight Oils in FCC,GRACE(2014))

3.3 米国原油と石油製品の輸出先

原油輸出解禁前、カナダとメキシコ向け原油と簡易精製されたプロセスコンデン

セートは、輸出が認められていた。

2014年の米国原油輸出量は、7ヶ国で計35万1,000 BPDであり、カナダ向けが94%

を占めた。約4%が欧州(スイス、イタリア、スペイン)向けで、残りの大半がア

ジア太平洋地域(2%)、主に韓国、シンガポール、中国に輸出された。

米国の原油輸出量は、10年以上にわたり米国原油唯一の輸出先であるカナダ向け

を中心に、過去5年間増加した。

カナダ向け米国原油の輸出は、大部分がPADD 1、PADD 2およびPADD 3から輸出

されている。PADD 2からの原油輸出は、長い間にわたりオンタリオ(Ontario)州

サーニア(Sania)の製油所向けの原油であった。PADD 1およびPADD 3からの原油

輸出は、2013年から急激に増加し始めた(図8参照)。PADD 3からの原油輸出は、

ほぼ全てがカナダ東部の製油所向け軽質原油である。PADD 1からの輸出は、ノース

ダコタ(North Dakota)州のBakken地域から鉄道で東部に運ばれた原油が、ニュー

ヨーク州(PADD 1)から輸出される。

図7 米国産コンデンセートの輸出先(単位:千BPD)

出所:HART ENERGY(2015)

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図8 PADD別の米国産原油の輸出量(単位:千BPD)

出所:HART ENERGY(2015)

米国内石油製品の在庫増加、シェールオイルの増産、海外(中南米、アフリカ、

アジア太平洋地域)の製品需要増加により、米国の精製会社には輸出の機会が発生

しており、2030年末まで継続すると推定される。

2015年、米国の白油製品(ガソリン、中間留分、灯油、ジェット燃料、ナフサ)

の純輸出量は約180万BPDに達した。白油製品の純輸出量は2019年までに220万BPD、

2030年までには340万BPDに達すると見込まれる。

2015年のガソリン輸出量は、約70万BPDであり、主な輸出先は、メキシコと南米

であった。軽油輸出量は、約110万BPD、主な輸出先は、南米と欧州であった。

図9 米国の石油製品輸出の見通し(単位:百万BPD)

出所:HART ENERGY(2015)

(製油所稼働率)

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図10 米国ガソリンの輸出実績(単位:千BPD)

出所:Investor Presentation, VALERO, Jan.(2016)

図11 米国軽油の輸出実績(単位:千BPD)

出所:Investor Presentation, VALERO, Jan.(2016)

3.4 米国産原油の価格

米国産原油の価格は、先物指標であるWTI価格がベンチマークとなり、市況、需

給バランス、物性等を換算したWTI±αの公式から算出される。シェールオイル価

格は、Light Louisiana Sweet(LLS)価格がベンチマークとなるが、LLS価格もWTI

価格に連動している。また、スプリッターを保有していない精製会社はこの指標価

格より安価で購入している場合もある。

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3.5 米国産原油の輸出可能性

2015年12月の原油輸出解禁に伴い、今後、輸出が増加するものと推定する動きが

ある。米国内で余剰となった米国産原油は、輸出に回され、シェールオイルおよび

コンデンセートを含めた輸出量は、2020年までに150万BPD以上増加するものと推定

される。

そこで、原油輸出にあたり、米国International Technology and Trade Associ

ates,Inc.(ITTA)社では以下の2点を課題として挙げている。

1つ目は、現在の原油低価格が続いている状況下において、短期間で既に供給過

剰である世界市場へ米国産原油、シェールオイル、コンデンセートを輸出するメリ

ットは低い。2つ目は、これまでメキシコ湾岸でも大ロットの輸出実績が無かった

こと、出荷設備上の制約から、短期間での大ロットの輸出は困難と予想している。

また、大統領は「国家非常事態」が発生した場合、輸出禁止を1年間更新できる

権限を保有している。具体的には、原油輸出により、慢性的な石油供給不足の発生、

または、世界市場レベルをかなり越える石油価格を引き起こし、そして、その原油

供給不足または価格上昇により米国での雇用不安を引き起こした場合、原油輸出禁

止が復活する可能性がある。

3.6 米国製油所の精製技術

重質原油処理用に設計された製油所にとって、低硫黄軽質原油の処理は様々な問

題が発生する。装置運転に影響を及ぼすシェールオイルおよびコンデンセートの特

性を以下に挙げる。また、シェールオイルはロット毎に組成が異なることと、伝熱

バランスの維持が困難、金属分により触媒の被毒が進行する可能性がある。

表1 シェールオイルおよびコンデンセートの特徴、問題点、解決策

シェールオイル

の特徴 問題点 解決策

高パラフィン

含有量 WAXの堆積、ファウリングの発生。 WAX分散剤。

軽質

パラフィン分

不安定なアスファルテンは、スラッジとデポジットを形

成してタンク容量を減らす。脱塩装置ではエマルジョン

を形成、ファウリングは各設備に影響をもたらす。

ブレンドテストの実施。

低硫黄化 ナフテン酸腐食を増大させる。 高温用の腐食防止剤。

硫化水素 硫化水素は、自然腐食を発生させ、致死率が高いガス。 硫化水素スクラバー。

アミン 常圧蒸留装置で塩化水素と反応し、塔頂で腐食性の塩化

物としてデポジットとして堆積する。 脱塩装置でアミンを除去する。

多様な組成 熱バランスの維持、製品の品質維持管理。 オンライン分析、最新版のプロセス

管理。

出所:HART ENERGY,2015を元に当センターで作成

シェールオイルおよびコンデンセートの処理割合が高い製油所は、改質用原料お

よび異性化原料を含めて軽質留分が過剰となる一方、FCCやコーカーの原料が不足

する可能性がある。シェールオイルおよびコンデンセートの処理に関連する他の装

置運転上の問題点を以下に挙げる。

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表2 シェールオイルおよびコンデンセートの装置運転上の問題点

設備、装置 問題点 解決策

タンク 固体、沈殿したワックス、不安定なアスファルテンが堆積する。 ワックスおよびスラッ

ジ分散剤、原油評価。

タンク車 ファウリングの発生。 ファウリング処理剤。

脱塩装置 エマルジョンが腐食させ、ファウリングを発生させる。エマルジ

ョン類が廃水中で混ざり、排水処理設備で問題となる。

抗乳化剤、アミンと汚

染除去。

加熱炉 ファウリングの発生。脱塩装置で未処理の固形物、塩類が加熱炉

に混入する。 ファウリング処理剤。

アミンスクラバー C1-C4のアミンスクラバーは過剰状態となる。 硫化水素除去。

常圧蒸留装置 塔上オーバーローディングの発生。 リスク評価。

出所:HART ENERGY,2015を元に当センターで作成

3.7 米国製油所の原油精製能力

現在、米国では約140の製油所が稼働している。大部分の製油所は、黒物製品よ

りも白物製品であるガソリン、ナフサおよび中間製品(灯油、ジェット燃料、軽油)

の生産を最大化できるように装置構成されている。

米国製油所の原油処理能力は現在1,782万BPDである。米国の製油所は、米国内の

輸送用軽質燃料の需要が高く、逆に重質油の需要が低く、また処理する原油油種は

重質である為、世界の他地域の製油所よりかなり装置構成が複雑である。米国の製

油所は脱硫能力が比較的高い高度精製型製油所でもある。

表3 各PADDにおける製油所の精製能力(百万b/d)

Process PADD 1 PADD 2 PADD 3 PADD 4 PADD 5 Total

U.S.

% Utilization 88.84 92.91 89.59 93.81 91.00 90.25

Crude Distillation 1.22 3.79 9.35 0.62 2.83 17.82

Downstream Units

Light Oil Processing

Reforming 0.17 0.85 1.87 0.12 0.59 3.59

Isomerization 0.03 0.18 0.29 0.02 0.20 0.71

Alkylation/Polymeriz

ation

0.05 0.26 0.60 0.04 0.23 1.18

Conversion

Coking 0.03 0.51 1.52 0.07 0.59 2.70

Catalytic Cracking 0.53 1.21 2.91 0.18 0.84 5.67

Hydrocracking 0.25 0.26 1.05 0.01 0.59 2.18

Hydroprocessing

Gasoline 0.00 0.40 1.23 0.04 0.26 1.94

Naphtha 0.07 1.05 2.46 0.14 0.70 4.41

Middle Distillates 0.38 1.25 2.72 0.21 0.65 5.22

Heavy Oil/Residual F

uel

0.24 0.62 1.62 0.08 0.53 3.10

出所:HART ENERGY(2015)

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米国の原油処理能力の2分の1以上がPADD 3(52%)に集中し、残りの大半がPAD

D 2(21%)とPADD 5(16%)にある。

PADD 3の製油所はメキシコ湾の海上油田およびラテンアメリカとアフリカの世

界的な輸出市場にアクセスしやすく、現在のところ米国で最も競争力のある地域で

ある。PADD 2の製油所はBakkenの生産量が増加しているシェールオイルとカナダの

オイルサンドにアクセスしやすい。PADD 4の原油処理能力は米国で最も低い (3%)

数字となっている。PADD 4の製油所は航行可能な水路へのアクセスがないために、

地理的に限られたパイプライン網のみに依存して、同地域内に点在する製油所およ

び人口密集地域に原油と石油製品を輸送している。PADD 1の製油所は米国製油所で

の原油処理能力に占める割合が低い(7%)数字となっている。

米国の石油製品輸入の大部分がPADD 1、石油製品輸出の大部分がPADD 3に集中

している。

米国の2014年製油所稼働率は90.2%であった。稼働率は西海岸および内陸部より

も東海岸が低い数字となった。この高い製油所稼働率は、米国の製油所原油処理能

力が世界の他の地域より高い能力を有することに起因する。原油処理能力では軽質

油処理が30%、分解・改質が59%、水素化処理能力は82%である。

図12 米国製油所の精製能力(単位:百万BPD)

出所:HART ENERGY(2015)

米国製油所におけるシェールオイルとコンデンセートの他原油との混合処理量

は、2013年の139万BPDから増加して2014年には処理原油の41%(660万BPD)を占め

た。

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図13 米国製油所で受け入れた原油種の割合

出所:HART ENERGY(2015)

3.8 米国の主要輸出基地

現在、メキシコ湾岸に輸入された原油が米国中西部の製油所に輸送され、米国産

原油とカナダ産原油がメキシコ湾岸の製油所とターミナルの方面へ輸送し輸出さ

れている。

しかし、これまで米国は相当量の原油を輸入していたが、大ロットの輸出は想定

されていなかった。このような事情により米国産原油の輸出は制約がかかる可能性

がある。

4.まとめ

(1)シェールオイル、コンデンセートは、主としてBakken、Eagle Ford、Permi

anで生産されている。シェールオイルの総生産量は、短期間で増産に転じるが、採

算性の高い油井が枯渇し2020 年代初頭で頭打ちとなり、その後、減産に転じると

見込まれる。リースコンデンセートの総生産量は2017年以降、2030年まで増加する

と推定される。

(2)シェールオイル、コンデンセートはAPI幅が大きいのが特徴である。その理由

は、数百ある油井毎の性状が異なる為、出荷原油の性状が大きく振れてしまう。ま

た、Eagle Fordのシェールオイルは、高い金属分とWAX分を含む。

(3)2015年12月18日に米国産原油の輸出が約40年振りに解禁された。今後、シェ

ールオイル、コンデンセート、石油製品の輸出が増加するものと見込まれる。

2015年、主としてコンデンセートは、カナダ、ガソリンはメキシコと南米、軽油

は南米と欧州への輸出割合が高かった。

将来的に、石油製品はアジアへの輸出が増加するものと推定される。

(4)米国産原油の価格は、先物指標であるWTI価格がベンチマークとなり、市況、

需給バランス、物性等の要因(α)を考慮した「WTI±α」の公式で算出される。

シェールオイル価格は、Light Louisiana Sweet(LLS)価格がベンチマークとなる

が、LLS価格もWTI価格に連動している。スプリッターを保有していない精製会社は、

この指標価格より安価で購入している場合もある。

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(5)シェールオイル、コンデンセートは、軽質分の得率、金属分と WAX分が高い

為、添加剤の使用、付帯設備の改修・新設等のファウリングと触媒被毒の対策の検

討が必要である。

また、米国製油所の原油処理能力は、約1,800万BPDであり、その半分以上がPAD

D 3に集中し、残りの大半がPADD 2とPADD 5に分散している。PADD 3の製油所は、

メキシコ湾やEagle Ford等の油田に近く、メキシコ、南米等の輸出市場にアクセス

し易い為、米国内でも最も競争力のある地域となっている。

(6)現在、メキシコ湾岸を中心に出荷されているが、これまで大容量の輸出が無

かった為、パイプライン、出荷タンク、桟橋等の輸出設備が不足している。今後、

輸出設備の拡張によりメキシコ湾岸を中心に輸出が拡大すると見込まれる。

以上