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原発ゼロのシナリオ ー原発なしでも電力を供給できるかー 北海道大学 吉田文和

原発ゼロのシナリオjspe.gr.jp/drupal/files/02yoshida-ppt1.pdf国民の過半が原発ゼロを支持 • 現政権の原発をめぐる「国民的議論」の結果 国民の過半が原発ゼロを支持してことが明ら

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原発ゼロのシナリオ ー原発なしでも電力を供給できるかー

北海道大学

吉田文和

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国民の過半が原発ゼロを支持

• 現政権の原発をめぐる「国民的議論」の結果国民の過半が原発ゼロを支持してことが明らかになった、各種の世論調査もそれを裏付け

• そこで民主党政権は、「2030年代末までに原発稼働ゼロを可能とするあらゆる政策資源を投入する」という革新的エネルギー・環境政略を公表したが、閣議決定できず

• 財界、アメリカ、立地自治体(青森)の反対

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政府・国会事故調の報告書

国会事故調報告書と政府事故調報告書は、詳細な聞き取りと多数の資料をもとにまとめられた、これまで最大・最良の事故調査報告書である。とくに国会事故調報告書のキーワードは、「人災」「規制の虜」「リスクの取り違え」である。

地震と津波は「想定外」ではなく、何度も警告が出され、東電と規制当局によって検討されてきたが、対策が先送りされてきた。

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政府・国会事故調報告を無視して再稼働はありえない

それは、東電・電力会社が過酷事故対策に当たり、周辺住民の健康に被害を与えること自体をリスクとして捉えるのではなく、既設炉が停止される、あるいは訴訟上不利になることを経営上のリスクとして捉えたからである。政府事故調報告書も、想定を超える津波襲来の可能性があるという知見がありながら、東電は対策をとらなかった、東電も国も複合災害を考えなかったと指弾している

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スイスが学んだ39の福島の教訓

連邦原子力安全検査局 • 学習する組織を発展させない欠陥

• 貧弱な企業文化

• 経済的配慮から安全を制限した

• 保安院が経済産業省に依存している欠陥

• 全体システムにおける検査の構造的欠陥

• 不十分な検査の深さ

• 企業の安全文化の欠如

• 意思決定の欠陥

• 非常事態に対する不十分な準備

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原発なしでも電力を供給できるか

1.日本のエネルギー収支

2.原子力発電の占める位置:原発優先の日本の電力供給構造

3.短・中期見通し:節電(ピークカットと平準化のため制度が必要)、天然ガス熱電併給整備などで、原発なしの電力供給は可能である。

4.中・長期見通し:再生可能エネルギー拡大(全国送電網整備が必要)と省エネにより、日本でも脱原発は可能である。

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日本のエネルギー収支の特徴

• 一次供給(電力・都市ガス・輸送用燃料・化学工業原料等含む全原燃料)

- 水力を除き、大部分は輸入。石油の比率が大きい。

- 原子力の比率は約10%

• 最終消費

- 3割近い損失。発送電によるものが大きい。

それ故、電気暖房は非効率。日本の場合、

熱電併給のような熱の有効利用も弱い。

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電力供給における原子力の位置

• 設備容量は電力供給全体の20%だが、発電量は全体の30% ベースロードとして常時運転しているので稼働率は高い。

• 原子力以外の発電設備で80%、とくに火力発電(主に天然ガス・石炭)はピーク時対応なので、常時運転されるわけではなく、稼働率低く、大きな余剰能力。 原子力発電30%を十分カバーできる。但し、燃料代は高くつく。

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1日の電力

需要の変動

と調整

(東京電力など

の場合)

出力調整が

簡単で

小回りのきく

火力が補完役

揚水発電は

原子力で

余った分を

貯蔵

需要のピーク

電力需要

火力発電

原子力発電

揚水発電

流込み式水力発電

水力発電

貯水池

調整池

揚 水

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節電が活きる条件づくり

ただの節電ではなく、電力消費のピークカットと平準化が必要。そのインセンティブとして:

1)ピーク時の電力料金値上げ。家庭用でも時間帯別料金導入(東電も提案)。

2)事業者向け契約でピークカット許容契約の拡大。現在でも大口需要家向け(工場など)で実施。

3)節電の努力に優遇策(北電も提案)

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北海道電力 の場合 過去最高 570万kW

2011/1/7/17時 原発ゼロの供給 480万プラス70万=550万kW

予備率10%として 500万kW以下に

抑える

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原発ゼロによる経営問題 • 北海道電力は、関西電力についで原発の比率が高く、操業度も高かったので、原発稼働と石炭中心の操業で、発電単価が安かった(推定で3.51円/kWh)

• 原発ゼロの場合、その部分を石炭と石油の火力で代替するコストは、2.40円/kWh上乗せされて、推定で発電単価約6円/kWhになるが、東京電力の場合は、8円/kWh以上になる。

• 原発のない沖縄電力の電力価格は約2割高いが、原発ゼロで電力価格2倍ということはない。

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ウィーン市ゴミ焼却熱電併給施設

• 芸術家フンデルトバッサー設計のきらびやかなゴミ焼却場が都心近く、地下鉄乗換え駅近くの目立つ場所に立地で、発電だけでなく熱も地域暖房に有効利用。国連都市のIAEAも暖める!

• 札幌市のゴミ焼却場はどこに?北電が計画中の新天然ガス火力発電所はどこに?

• 日本で熱電併給が進まない理由 エネルギーの縦割り行政、都市計画不在のため

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再生可能エネルギーの特性と展望

• 風力、太陽光、バイオマス、地熱、小水力などの自然エネルギー。

• 輸入に頼らない国産エネルギーで量は多いが、薄く広く存在。 これまでの集中型(火力、原子力、巨大水力)とは、生産と利用の仕方が異なる。

• 普及促進のため、新しい技術だけでなく、新しい社会的制度枠組が必要。 再生可能エネルギー全量固定価格買取制度

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日本の再生可能エネルギー導入ポテンシャル 単なる物理的可能性(日照量・風速)ではなく実現可能性考慮

設備容量(万kW)

既設含む

電力量(億kWh/年)

新設のみ

太陽光発電(非住宅) 15,000 1,500

陸上風力発電 28,000 5,800

洋上風力発電 160,000 43,000

中小水力発電 1,400 250

地熱発電 1,400 890

バイオマス発電 ? ?

10電力会社の年間電力販売量8,585億kWh、うち

原発分2,611億kWh 環境省の調査(2011年3月)をもとに作成

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再生可能エネルギーの全量 固定価格買取法(FIT)とは?

再生可能エネルギーの導入には、新しい設備やインフラなど初期投資にコストがかかるので、

①発電事業者に対して、長期に買取価格と買取期間を固定し、

②再生可能エネルギーへの投資回収を保証し、民間投資を促進する制度であり、

③そのための費用は電力料金に上乗せされ、電力消費者が負担する。

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FIT実施に向けた日本の課題

①再生可能エネルギーを日本のエネルギーの中にどう位置づけ、どこまで増やすのか目標が不明確 投資を回収できる買取価格と期間が決められるのか、と消費者負担との兼ね合い。

②再生可能エネルギーを電力網に優先的に接続させ、買取を確実に保証させる制度が不十分。

③再生可能ネルギーの地域的偏在のために、風力発電などを消費地に送る送電線の建設が必要。そのインフラ整備の費用負担をどうするか、電源3法積立金を使うなど、検討が必要。

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圧倒的な北海道の潜在能力

• FIT実施目前の風力発電事業応募に、宗谷・石狩・根室・檜山等、全道から約190万kW、70件以上、メガソーラーも併せ約270万kW。

• 課題

- 発電した電力を、道内消費地の都市部や本州へ送る送電設備新設と費用負担。

- 環境影響評価(生態系・災害・水源・バードストライク・騒音)、地域の土地利用計画との連携など考慮なしでは、新たな乱開発の恐れ。地元住民・専門家の参加で立地計画立案、既存農地・工業用地活用を図ること。

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ソフトバンクの風力発電計画

• ソフトバンクグループが、道北の日本海側に500基、100万kWの風力発電計画を検討中。

• 地元自治体と協議しているが、送電線の建設と並行して、主に本州への風力発電による送電を計画している。

• 環境アセス、立地選定、経済的利益還元、雇用など地元の関与をどう制度化するかが課題。

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再生可能エネルギー生産事業モデル

売電事業型

地域分散型

農林畜産・漁業の副業 デンマーク・ドイツ、農地・牧場・港湾等立地

事業者が銀行ローン等活用で投資

地域外から大規模事業者参入 デンマークモデル、立地計画に地元関与 株式保有・雇用など地元へ利益還元

市民参加型 デンマーク、日本のグリーン・ファンド

組合所有、出資に応じて売電収入から配当

地産地消+売電 ドイツのエネルギー自給村フェルドハイム 日本でも少数・小規模の注目すべき事例

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地域経済と再生可能エネルギー:北海道モデル

バイオマス 熱か熱電併給

林業からの残廃材

小水力発電 農業関係水利施設 砂防堰提、上下水道 農協・自治体と連携

地熱発電 温泉観光業者と連携 大規模投資必要で 外から事業者参入か

バイオガス 熱電併給は発電のみ 農畜産業から家畜糞尿 サイレージ・藁など 漁・水産系廃棄物

太陽光発電 広く市民がエネルギー

生産に参加

風力発電 陸上―農業関係 洋上―漁業関係

外部事業者-大規模投資 都市と連携-市民風車

電力会社 買取保証 優先接続

地域に電力と熱供給 家庭、オフィス、学校、病院、 商店、レストラン、温室、 水産加工・乳製品工場など

再生可能エネルギー は地域資源なので 地元の参加、利益 還元が成功の鍵!

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道東浜中農協の太陽光パネル 持続可能な酪農業の理念で105戸に1050kW

エネルギーの地産地消、経費節約

CO2削減による地球環境保全

写真、浜中農協提供

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糞尿処理のメリット: 周辺地域の悪臭対策と 液肥利用で化学肥料節約

20円/kWhなら採算

写真:松田従三氏提供

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津別町 丸玉産業 木材加工と発電

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地域暖房に林地残材、木質原料 道北下川町の森林バイオマスボイラー

写真:下川町HP