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九州森林研究 No. 68 2015. 3
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Ⅰ.はじめに
熊本県においてニホンジカ(以下「シカ」)による森林被害は依然として深刻であり,速やかに適正な生息密度へと誘導することが求められている(3)。一方,かつて生息密度が高かった九州脊梁山地では生息密度が低下しつつある半面,低標高域の林縁部や周辺農地で生息密度が高い地域が見られ,密度分布の変化や生息域の拡大が確認されている(2)。これらのことから,今後のシカ密度管理を進めるにあたっては,より最適な捕獲体制のあり方を検討する必要がある。そこで本研究では,シカ生息密度の低下がみられた県南部に着目し,捕獲活動の傾向を明らかにして検討の材料とすることを目的として調査を行った。
Ⅱ.材料と方法
調査は,熊本県南部に位置する人吉球磨地域の 8 市町村(表-1)を対象とし,許可捕獲の実績を材料とした。 許可捕獲とは,狩猟による捕獲とは別に,農林業等の被害の軽減や特定鳥獣保護事業計画に基づく個体数調整を目的として,許可の権限者から許可を受けて実施されるものである。対象とした8 市町村は,熊本県知事からシカの捕獲許可権限を委譲されている。 許可捕獲は,当該市町村内の狩猟者によって構成される捕獲班によって実施され,その捕獲頭数は狩猟を含めたシカ捕獲全数の約 8 割を占めている(図- 1)。また,期間が限定される狩猟とは異なり通年実施されていることから,地域における捕獲の傾向を把握するための材料として適当であると考えられた。 許可捕獲の実績は,捕獲に従事した捕獲班の班長から実施報告書が提出されることで管理されている。実施報告書には,従事した日付,従事者数,捕獲した地点の 5 倍地域メッシュ番号,雌雄別出会数,雌雄別捕獲数を記入することとなっている。本研究では,入手できた 2008 年から 2011 年まで 4 年分の実施報告書を電子化し,集計して使用した。
なお,許可捕獲はわな猟または銃猟により実施されているが,実施報告書には捕獲方法を記載する欄が設けられていなかったため,捕獲方法別の実績を把握することはできなかった。
Ⅲ.結果
1.従事日数と捕獲頭数の関係 集計した捕獲班数は 85 班であった。各班の年平均従事日数と年平均捕獲頭数との関係を図- 2 に示した。横軸を 4 年間の従事日数から算出した年平均従事日数,縦軸を 4 年間の捕獲頭数から算出した年平均捕獲頭数として,85 班の散布図および切片を 0とする回帰直線を描いた。回帰式の決定係数 R 2 は 0 . 8068,相関係数は 0 . 9053 であった。この結果から,従事日数と捕獲頭数とは直線的な関係にあり,従事日数が増えるにつれて捕獲頭数も増すものと考えられた。 集計した 85 班の従事日数の平均は 48 . 7 日(概数 50 日)であった。年平均従事日数が 50 日を下回った捕獲班は 56 班あり,
* 1 Hiroishi, k. : Tendency of Sika deer capture in Hitoyoshi‒Kuma region, Kumamoto Prefecture.* 2 熊本県林業研究指導所 Kumamoto Pref. Forestry Res. Ctr., Kumamoto 860‒0862 , Japan.
熊本県人吉球磨地域におけるニホンジカ捕獲の傾向*1
廣石和昭*2
廣石和昭:熊本県人吉球磨地域におけるニホンジカ捕獲の傾向 九州森林研究 68:131 - 132,2015 熊本県人吉球磨地域におけるシカ捕獲活動の実態を明らかにするため,許可捕獲(有害鳥獣捕獲・頭数調整捕獲)の実績を捕獲班別に集計し調べたところ,従事日数が多い捕獲班ほど多数のシカを捕獲している傾向がみられた。調べた捕獲班全体の年平均従事日数は約 50 日であったが,50 日 / 年以上従事した捕獲班が捕獲実績全体の約 70% を捕獲していた。このことから捕獲班の従事日数を増加させれば捕獲実績は高まるものと考えられるが,季節別には夏季に,平日・祝休日別には平日に従事者数が低下する傾向にあり,これらの要素に影響される現在の捕獲方法や捕獲体制の改善が,捕獲実績の向上につながるものと考えられた。キーワード:シカ,捕獲,従事日数
速 報
表-1.対象市町村
対象市町村 人吉市,錦町,湯前町,水上村,五木村,相良村,球磨村,あさぎり町
※ 人吉球磨地域のうち多良木町と山江村は,入手できた実施報告書から捕獲班別の実績を集計できなかったため,本研究の対象からは除外した。
図- 1.人吉球磨地域におけるシカ捕獲実績
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*1 Hiroishi, k.: Tendency of Sika deer capture in Hitoyoshi-Kuma region, Kumamoto Prefecture *2 Kumamoto Pref. Forestry Res. Ctr., Kumamoto 860-0862, Japan.
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Kyushu J. For. Res. No. 68 2015. 3
132
その捕獲頭数は全体の 29 . 5% に留まっていた。年平均従事日数が 50 日以上であった捕獲班は 29 班あり,全捕獲頭数の 70 . 5%を捕獲していた。なお,年平均従事日数が 100 日以上であった捕獲班が 14 班あり,捕獲頭数全体の 43 . 7% を捕獲していた。これらのことから,従事日数が多い少数の捕獲班がシカ捕獲実績の大きな部分を担っていることが明らかとなった。
2.月別の従事状況と捕獲頭数 捕獲班 85 班の月別の延べ従事時間と捕獲頭数を図- 3 に示した。延べ従事時間,捕獲頭数ともに夏季に低下した。酷暑期となる夏季は,シカ捕獲が行われにくいものと考えられる。
3.平日・祝休日別の従事状況と捕獲頭数 捕獲班 85 班の従事日数を平日と祝休日(土曜日,日曜日と祝日)別に区分し,それぞれ 1 日あたり従事班数と 1 日あたり捕獲頭数を算出して図- 4 に示した。祝休日は,2008 年から 2011 年までの 4 年間に 472 日あった。これは期間の 3 分の 1 に相当する。 1 日あたり従事班数,1 日あたり捕獲頭数ともに,祝休日が平日よりも多かった。平日の捕獲頭数合計は 13 , 545 頭,祝休日の捕獲頭数合計は 16 , 351 頭であったが,捕獲実績の 55% が期間の3分の1に当たる祝休日に集中して捕獲されていたことがわかった。
Ⅳ.考察とまとめ
捕獲班の従事日数と捕獲頭数は直線的な関係にあり,得られた回帰式から従事 1 日ごとに 1 . 2 頭 / 日 / 班の捕獲成果が得られていたことがわかった。捕獲従事日が多い班ほど捕獲実績も増すことから,現行の捕獲体制が維持される場合,各捕獲班の従事日数が増えていくことが望ましい。しかし,捕獲班の活動は季節別には夏季に,平日 ・ 祝休日別には平日に捕獲活動が停滞することが明らかになり,これら 2 つの要素が捕獲頭数を制約しているものと考えられる。 人吉球磨地域において数名の狩猟者から聞き取りをしたところ,シカ捕獲の主たる方法は猟犬を用いた巻狩りであり,酷暑期は狩猟者,猟犬ともに肉体的な負荷が強いために捕獲従事を控える傾向があるとのことであった。また,地域の就労構造が多様になり平日は主業に従事する人が多いため,祝休日でなければ巻狩りに必要な人数が揃わないとのことであった。許可捕獲に従事する捕獲班員のほとんどは,地域からの依頼によりボランティアで参加している狩猟者であるため,捕獲方法の選択は班員にゆだねられ,また余暇を費やしての参加となるため,従事日数に制約が生じている。 これらの実情を踏まえ,捕獲活動をより効率的なものとするには「捕獲方法」と「捕獲体制」を検討する必要があるものと考える。酷暑期に体力的な負荷が強い巻狩りの実施が困難であれば,捕獲方法の見直しを図り,体力的に無理のない技術を導入することが解決の糸口となるだろう。多良木町では,高齢の狩猟者が巻狩りからくくりわな猟へと捕獲方法を変更し,高い捕獲成績を挙げており,また,人吉市ではシカ専従捕獲隊を設置して地域のシカ捕獲対策に大きな役割を果たしている(1)。五木村では食肉加工施設を設置して狩猟者に材料供給と運営を任せ,常時捕獲が継続する体制を敷いている(1)。こうした事例を参考に,捕獲組織の専従化を図り,常時効率よく捕獲する体制を構築していくことが必要であると考える。
謝辞
許可捕獲の実施報告書を集計するに当たり,関係市町村の担当者の皆様に資料等の提供をいただいた。また,人吉球磨地域をはじめ,本研究で取り扱わなかった地域でも,多くの狩猟者の皆様から貴重なお話を聞かせていただいた。関係した皆様に深く感謝する。 なお,本研究は農林水産業・食品産業科学技術研究推進事業
(課題番号 22030)により実施した。
引用文献
(1)廣石和昭ほか(2013),熊本県におけるニホンジカ捕獲のいくつかの事例,森林防疫 62(6): 12‒16 .
(2)熊本県(2012)第 4 期特定鳥獣保護管理計画(ニホンジカ),1‒2 .(3)熊本県農林水産部農林水産政策課(2012)熊本県森林・林
業・木材産業基本計画,6‒7 .(2014 年 12 月 15 日受付;2015 年 2 月 3 日受理)
図- 2.捕獲班の年平均従事日数と年平均捕獲頭数との関係
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