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入院患者における腎機能障害
施設名 神戸大学医学部附属病院 総合内科作成者 : 南地 克洋・西村 光滋監修 : 金澤 健司
clinical question 2016年2月1日J Hospitalist Network
分野 :腎臓テーマ :診断
症例 70歳 男性主訴 なし。腎機能障害の原因精査目的にて紹介
現病歴 約20年前 2型糖尿病指摘され、内服加療療開始。ADLは自立。
3週前 当院整形外科にて左膝関節置換術施行
コンサルト前日 1週間で増悪する大球性貧血、腎機能障害を認め当科紹介。
既往歴 高血圧,2型糖尿病(約20年前)アルコール性肝障害(肝硬変の指摘無)胃潰瘍(胃2/3切除 30年前)、高尿酸血症
個人歴 喫煙歴なし 飲酒:焼酎1.8Lを2.3日で飲む
内服薬 シタグリプチン バルサルタン メコバラミン アロプリノール
BP 106/69mmHg HR 106 SpO2 97% RR 14 BT 36.4
食事量減少(-), 腹痛(-), 黒色便(+)その他のROSに異常所見認めず
バイタル
身体所見
ROS
眼球結膜 貧血軽度 黄染なし頸部リンパ節 触知せず 甲状腺腫大なし胸部 心音 清 no murmur、肺音 清腹部 平坦、軟、圧痛なし、
右季肋下3横指に肝を触知四肢 浮腫なし
当科初診時現症
当科初診時採血結果WBC 6100 /μL BUN 40.1 mg/dl
Hb 6.8 g/dL Cre 1.97 mg/dl
Ht 20.9 % Na 134 mEq/l
MCV 105 K 6.2 mEq/l
Plt 33 万/μl Cl 106 mEq/l
ret 12 % cCa 9.6 mEq/l
AST 35 IU/L CK 115 IU/L
ALT 28 IU/L CRP 2.57 mg/dl
LDH 171 IU/L HbA1c 7.5 %
γGTP 609 U/L BS 163 mg/dl
ALP 464 U/L 尿酸 3.3 mg/dl
Hb 11g/dl ⇒ 6.8g/dl
BUN 22.4mg/dl ⇒ 40.1mg/dl
Cre 1.2mg/dl ⇒ 1.97mg/dl
eGFR 43 ⇒ 27.3
約1週間前の血液検査との比較
と増悪を認めた。
約1週前 当科初診時
数日以内の尿量に変化はない
総合内科医は、他院、他科入院患者の急性腎機能障害(Acute Kidney Injury: AKI)につい
てよく相談を受ける。
どのように評価を進めればよいだろうか?
①入院患者にAKIが認められた場合、どのように評価すればよいか?
Clinical Question
①-1 AKIをどう分類するか?
①-2 入院患者での頻度は?
①-3 診断のためのポイントは?
①-4 考慮すべき病態は?
CQ①入院患者にAKIが認められた場合、どのように評価すればよいか?
①-1 AKIをどう分類するか?
1. 腎前性2. 腎性
3. 腎後性
尿細管障害間質障害糸球体障害
障害部位により、3つに分類
腎炎パターン
尿中に変形赤血球・白血球の沈渣を伴い、顆粒円柱・赤血球円柱・白血球円柱(+)とさまざまなパターンの蛋白尿(+)。RPGNは腎炎パターン。
ネフローゼパターン
入院患者のAKIの原因としては非常にまれ。
糸球体疾患のうちでは主要なパターンとして「腎炎」と「ネフローゼ」
CQ①入院患者にAKIが認められた場合、どのように評価すればよいか?
①-1 AKIをどう分類するか?
①-2 入院患者での頻度は?
急性尿細管壊死腎前性慢性腎機能障害に合併する急性腎障害
(ほとんどが急性尿細管壊死か腎前性)尿路閉塞糸球体腎炎 血管炎急性間質性腎炎動脈塞栓
Epidemiology of acute renal failure: a prospective, multicenter, community-based study. Madrid Acute Renal Failure Study Group. Kidney Int. 1996;50(3):811
45%(337/748)21%(158/748)
13%(95/748)
10%(75/748)4%(33/748)2%(15/748)
1%(8/748)
腎前性+腎性が入院中AKI全体の8割
CQ①入院患者にAKIが認められた場合、どのように評価すればよいか?
①-3 診断のためのポイントは?
病歴
●腎機能出現前後のバイタルサインの変化を比較●腎機能出現前後の尿量の変化を比較●造影剤投与の有無 →腎性?●腎毒性のある薬剤 →腎性?●食事量・水分量 →腎前性?●肝硬変の既往 →肝腎症候群?●心不全の有無・虚血性心疾患の既往の有無
→心腎症候群?
CQ①入院患者にAKIが認められた場合、どのように評価すればよいか?
●バイタルサインを腎機能障害出現前後で比較●脱水 →腎前性?●心不全 (mottled skin, 頸静脈怒張, Ⅲ音,
abdomino-jugular test) →心腎症候群?●皮疹 →急性間質性腎炎?●Blue toe →コレステロール塞栓?
①-3 診断のためのポイントは?
身体診察
CQ①入院患者にAKIが認められた場合、どのように評価すればよいか?
①-3 診断のためのポイントは?
検査
尿検査→腎性? vs. 腎前性?尿検査 腎性 腎前性
尿比重 1.010-1.020 ≧1.020
尿浸透圧 < 350 mOsm/kg > 500 mOsm/kg
尿沈渣 顆粒円柱(Muddy brown casts)、尿細管上皮細胞
円柱(-)、あるいは硝子様円柱
まずは画像検査(腹部エコー、CT)で、水腎症の有無をチェック→腎後性?
CQ①入院患者にAKIが認められた場合、どのように評価すればよいか?
①-3 診断のためのポイントは?
検査
尿排泄分画→腎性? vs. 腎前性?尿排泄分画 腎性 腎前性
ナトリウム排泄分画(FE Na)*(%) > 2% < 1%
尿素排泄分画(FEUrea)(%) > 35% < 35%
尿酸排泄分画(FEUA)(%) > 15% < 7%
*FENa
={[尿中Na/血漿Na]/[尿中クレアチニン/血漿クレアチニン]} x100
でも、FENa解釈には注意が必要
CQ①入院患者にAKIが認められた場合、どのように評価すればよいか?
●「FENa<1%=腎前性」は、GFRの著しい低下時のみ成立●血清クレアチニン1回測定では、正確なGFR推定は困難●腎前性腎不全以外にも、FENa<1%となるAKI原因あり●CKD症例、利尿剤使用症例などナトリウム排泄亢進症例は、腎前性でもFENa>1%のことあり
①-3 診断のためのポイントは?
検査
FENaからAKI原因を考える際の4つの重要な限界に注意!
CQ①入院患者にAKIが認められた場合、どのように評価すればよいか?
CQ①入院患者にAKIが認められた場合、どのように評価すればよいか?
①-4 考慮すべき病態は?
(1) 急性尿細管壊死(2) 急性間質性腎炎(3) 肝腎症候群(4) 心腎症候群(5) Normotensive ischemic
acute renal failure
(1) 急性尿細管壊死
①-4 考慮すべき病態は?
CQ①入院患者にAKIが認められた場合、どのように評価すればよいか?
●病態は腎性腎不全
急性尿細管壊死
Dark-pigmented granular cast= Muddy Brown Cast
急性尿細管壊死
①抗生剤(アミノ配糖体 アムホテリシンB)②Heme-Pigments(横紋筋融解 溶血)③シスプラチン④造影剤⑤ペンタミジン⑥ホスカルネット⑦シドホビル⑧テノホビル
⑨免疫グロブリン製剤⑩マンニトール⑪Hydroxyethyl starch⑫synthetic cannabinoids
急性尿細管壊死の3大原因①腎虚血 ②敗血症 ③腎毒素
③腎毒素:多くの薬剤、外因性・内因性の毒素
(2) 急性間質性腎炎
①-4 考慮すべき病態は?
CQ①入院患者にAKIが認められた場合、どのように評価すればよいか?
●病態は腎性腎不全
急性間質性腎炎の原因
75%以上が
薬剤性(抗菌薬、NSAIDsな
ど)
急性間質性腎炎の原因
三徴である発熱、皮疹、好酸球増多の頻度はそれほど高くない
(3) 肝腎症候群
●病歴で肝硬変の既往を確認する必要がある●病態は腎前性腎不全
①-4 考慮すべき病態は?
CQ①入院患者にAKIが認められた場合、どのように評価すればよいか?
肝腎症候群(HRS)
肝硬変患者におけるAKIの原因として最多
肝腎症候群(HRS)の分類
●肝腎症候群は予後と臨床的特徴からType1とType2に分類される●腎前性腎不全との鑑別が必要
Type1 何らかのイベント後に急性増悪し、入院患者に見られる腎機能障害median survival 1ヶ月
外来で難治性腹水のある患者に見られる慢性経過の腎機能障害median survival 6ヵ月
Type2
肝腎症候群肝硬変
門脈圧亢進
内臓/全身血管拡張
有効動脈血流量減少
ナトリウム-水保持 腎血管収縮腎血流減少腹水 低ナトリウム血症
心拍出量の増大
高心拍出量心不全
肝腎症候群
病態生理
神経体性系活性化(レニンアンジオテンシン系、交感神経系、抗利尿ホルモン)
肝硬変と急性腎機能障害肝硬変患者におけるacute kidney injury のメカニズム
HRSが無くても肝硬変患者はfluid lossやBacterial infectionを契機として急性腎機能障害を起こしうる
肝腎症候群(HRS)は除外診断
以前は「1.5Lの等張液輸液により循環血漿量を増加させても」という条件であったがアルブミンのほうが循環血漿量増加作用が強く持続的であると考えられ基準が改められた。
●病歴で心疾患の既往を確認する必要がある●病態は腎前性腎不全
①-4 考慮すべき病態は?
CQ①入院患者にAKIが認められた場合、どのように評価すればよいか?
(4) 心腎症候群
心腎症候群Cardiorenal syndrome
一方の慢性/ 急性の臓器不全が双方向性にもう一方の慢性/急性臓器不全を引き起こす
定義
タイプ1:心機能の急性増悪⇒急性腎機能障害タイプ2:心機能の慢性増悪⇒慢性腎機能障害タイプ3:腎機能の急性増悪⇒急性心機能障害タイプ4:腎機能の慢性増悪⇒慢性心機能障害タイプ5:全身疾患による心機能障害と腎機能障害
入院患者ではタイプ1とタイプ5が問題となる
心腎症候群Cardiorenal syndrome(Type1)の病態生理
心不全に伴う心拍出量↓、
ACEI・利尿薬投
与、サイトカイン活性化、ホルモン分泌等
↓腎障害
心腎症候群Cardiorenal syndrome(Type5)の病態生理
糖尿病、アミロイドーシス、血管炎、敗血症といった全身疾患
↓
ホルモン、血行動態悪化、サイトカイン活性化等
↓心腎障害
●血圧が正常にもかかわらず、糸球体濾過量が低下し腎前性腎不全となる?
①-4 考慮すべき病態は?
CQ①入院患者にAKIが認められた場合、どのように評価すればよいか?
(5) Normotensive ischemic acute renal failure
腎臓には血圧の変動に対しても糸球体濾過量を維持するための自己調節能がある
これは灌流圧が低下しても輸入細動脈を拡張(プロスタグランジンを介し)させ、輸出細動脈を収縮(アンジオテンシンⅡを介し)させることで
糸球体濾過圧を維持し対応するため
正常腎での調節メカニズム
プロスタグランジン↑
アンジオテンシンⅡ↑
正常灌流圧 灌流圧低下
糸球体濾過圧を維持
NSAIDsはプロスタグランジンの産生を阻害し、輸入細動脈の拡張を阻害することで
糸球体濾過圧が低下し自己調節能を障害する
NSAIDs使用時の灌流圧低下
糸球体濾過圧↓
プロスタグランジン↓
ACEI/ARBはアンジオテンシンⅡを阻害し、輸出細動脈の収縮を阻害することで
糸球体濾過圧が低下し自己調節能を障害する
ACEI/ARB使用時の灌流圧低下
糸球体濾過圧↓
アンジオテンシンⅡ↓
左記が自己調節能を阻害する因子として挙げられる
表1のような患者では灌流圧低下に対し糸球体濾過量を維持できない
表1
表1の因子のみでも腎機能障害の原因となりうる。
さらに、
そのような患者に左表による低潅流が加わると腎機能増悪の原因となる
①高血圧 ②慢性腎機能障害 ③高齢者(その他表1の因子を持つ患者)において
普段140-150mmHgの血圧が100-110mmHgに低下した場合(絶対値は低血圧でないが)
自己調節能低下のため腎機能障害を起こしえる
病歴として普段の血圧を知ることが重要!(血圧が正常のため普段と比較して低下していること
が見逃されるかもしれない)
病歴のポイントは?
尿中Na濃度<20mmol/L、FENa<1%、FEUN<35%
血中BUN/Cre比 20:1以上
病態的には腎前性腎不全
「腎前性腎不全」 「脱水」
検査のポイントは?
∴
であることに注意
尿中Na濃度<20mmol/L、FENa<1% FEUN<35%
BUN/Cre比 20:1以上
尿中Na濃度>20mmol/L、FENa>1% FEUN>35%
他の腎前性腎不全と同様低潅流状態が長引くと急性尿細管壊死へと進展
不可逆的となる可能性
BUN/Cre比 10:1程度
急性尿細管壊死となると、原因因子除去にても改善に数日を要する可能性あり
治療のポイントは?
低灌流状態→不可逆的急性尿細管壊死の可能性
病態は腎前性腎不全だが原因は表1の因子、表1+表2の因子による低灌流
腎前性腎不全→補液と短絡的に考えず、前記の因子の除去が必要
症例 70歳 男性主訴 なし。腎機能障害の原因精査目的にて紹介
現病歴 約20年前 2型糖尿病指摘され、内服加療療開始。ADLは自立。
3週前 当院整形外科にて左膝関節置換術施行
コンサルト前日 1週間で増悪する大球性貧血、腎機能障害を認め当科紹介。
既往歴 高血圧,2型糖尿病(約20年前)アルコール性肝障害(肝硬変の指摘無)胃潰瘍(胃2/3切除 30年前)、高尿酸血症
個人歴 喫煙歴なし 飲酒:焼酎1.8Lを2.3日で飲む
内服薬 シタグリプチン バルサルタン メコバラミン アロプリノール
尿定性検査:比重1.014, pH5.0, 蛋白(±), 糖(-), ケトン体(-), 潜血(-)
追加検査
腎前性?
採血上、葉酸、ビタミンB12、血清銅の低下なし
下部内視鏡で出血源となる異常なし
上部内視鏡検査:胃潰瘍からの出血を認めた。
食道静脈瘤(-)
尿沈渣:赤血球1-4個/HPF, 白血球<1個/HPF, 扁平上皮(-) 硝子円柱(-)
尿中Na濃度:18meq/L FENa=0.9%
腹部超音波検査:水腎症(-)、下大静脈径1.5cm 呼吸性変動軽度
高齢者で糖尿病 高血圧の既往がありバルサルタン投与中。
心疾患や肝硬変の既往はない 外来での血圧は130-140mmHgで推移 今回診察時106/69mmHg
普段の収縮期血圧より25-35mmHg低下している
胃潰瘍からの出血による貧血(+)貧血の進行とともに腎機能障害(+)
画像上、水腎症(-) 血管内容量低下は明らかでない
尿検査で間質性腎炎や糸球体疾患を疑う所見なし
Table1の左記の因子を持っている患者に・・・
Table 2の出血の因子が加わったことで発症したNormotensive ischemic acute renal failureと診断した。
治療①ARB (バルサルタン)を中止②輸血③Proton pump inhibitor(PPI)を投与
2週間後
Hb 6.8g/dl ⇒ 9.2g/dl
BUN 40.1mg/dl ⇒ 22.4mg/dl
Cre 1.97mg/dl ⇒ 1.22mg/dl
eGFR 27.3 ⇒ 46.1
貧血・血圧の改善と共に腎機能の改善も認めた
血圧は135/75mmHg程度に上昇
Take home message
●頻度は少ないが急性間質性腎炎、肝腎症候群、心腎症候群、normotensive ischemic acute renal failureも念頭に
輸液は必ずしも正しくない
●入院患者の腎機能障害を診察する際は病歴、経過、臨床状況、バイタルを考慮
●腎前性と腎性が原因の8割
●腎前性腎不全=脱水