5
鹿児島工業高等専門学校 研究報告 34 (1999) 5 ....... 9 切削加工における材料特性が加工硬化層に及ぼす影響 引地力男 T 油田功二 tt 原田正和 tt 上野孝行 tt 吉満真-ttt Effect of Material Characteristics on Work Hardened Surface Layer in Metal Cutting RikioHIKIJI Koji ABURADA MasakazuHARADA TakayukiUENO and ShinichiYOSHIMITSU In recent years super precision process has been popular in the field of production process.Finish machining used to be carried out in grinding but it is being replaced by cutting with very small undeformed chip thickness. In super precision process the effect of the cutting conditions and material characteristics on the machined surface integrity is a serious problem.In this research work hardened surface layer was dealt with as an evaluation of machined surface integrity and the effect of the material characteristics on work hardening was investigated experimentally in orthogonal cutting. As a result it was found that not only the cutting conditions but also the material characteristics especially tensile strength and work hardening exponent have e 百'e cton the depth of the work hardened surface layer below the machined surface after orthogonal cutting. Key Words : Surface Integrity Work Hardening Work Hardened Surface Layer Material Characteristics Tensile Strength Work Hardening Exponent Orthogonal Cutting 1 .緒白 超精密加工に見られるように,切削加工機械の加工 精度の向上に伴い製品の仕上げを切削加工で行おう とする傾向が強まっているが,切削加工により生成さ れる表面の品位,つまり表面粗さと加工変質層は外観 だけでなく,材料の疲労強度などに大きな影響を与え る.この加工変質層は加工に伴って生じる母材とは 性質の異なる部分で,機械的要因,熱的要因,結晶学 的要因等により生み出されるためその生成機構は非 常に複雑であり,定義についても明確ではない. 本研究は切削加工における仕上げ面の品位,特に材 料の疲労強度に影響を及ぼす加工変質層を支配する因 子を機械的要因に絞り,実験により明らかにすること を目的とする.つまり 工具の切れ刃先端部分の切削 メカニズムを理解した上で切削加工品位の向上を目 指すものである. T 機械工学科 T十学生課実習係 ttt 電子制御工学科 5 2. 研究の背景 これまでの研究では,切削速度や切削温度の影響を 受けない条件下での実験や理論解析が多かった.なぜ ならば加工変質層生成のメカニズムを簡略化しよう と,熱応力による塑性変形や,相変態およびひずみ速 度等の影響を無視したいがためである.いずれの場合 においても,材料は外力または内部応力によりひずみ を受けて母材硬さより硬化するので,切削加工により 発生した加工硬化を調べることにより,加工変質層に 関する様々な情報が簡単に正確に得られることが予測 される.中山ら1)は切りくずの硬度と引張強さおよび せん断面上のせん断応力とが比例関係を有することを 示し,面倒なせん断角と切削抵抗の測定をしなくても 切りくずの硬さ測定によりせん断応力が簡単に求まる ことを証明した.また,被削材の物性に注目し,被削 材硬度が高くなるほどせん断角が大きくなることを示 した例2)3) や,材料の加工硬化指数が切削抵抗に及ぼす 影響について実験的に明らかにした例 4)もある. したがって,切削抵抗や切削温度を直接測定せずに 硬度測定により加工硬化に及ぼす因子が具体的に求ま

切削加工における材料特性が加工硬化層に及ぼす影 …切削加工における材料特性が加工硬化層に及ぼす影響 Worlcpiα ヱ 切削方式 (b) 測定方法図3実験方法

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Page 1: 切削加工における材料特性が加工硬化層に及ぼす影 …切削加工における材料特性が加工硬化層に及ぼす影響 Worlcpiα ヱ 切削方式 (b) 測定方法図3実験方法

鹿児島工業高等専門学校

研究報告 34 (1999)

5.......9

切削加工における材料特性が加工硬化層に及ぼす影響

引地力男 T 油田功二tt 原田正和tt 上野孝行tt 吉満真-ttt

Effect of Material Characteristics on Work Hardened Surface Layer in Metal Cutting

Rikio HIKIJI, Koji ABURADA, Masakazu HARADA, Takayuki UENO

and Shinichi YOSHIMITSU

In recent years, super precision process has been popular in the field of production process. Finish machining used to be carried out

in grinding, but it is being replaced by cutting with very small undeformed chip thickness. In super precision process, the effect of the

cutting conditions and material characteristics on the machined surface integrity is a serious problem. In this research, work hardened

surface layer was dealt with as an evaluation of machined surface integrity and the effect of the material characteristics on work hardening

was investigated experimentally in orthogonal cutting.

As a result, it was found that not only the cutting conditions but also the material characteristics, especially tensile strength and

work hardening exponent, have e百'ecton the depth of the work hardened surface layer below the machined surface after orthogonal cutting.

Key Words : Surface Integrity, Work Hardening, Work Hardened Surface Layer, Material Characteristics, Tensile Strength,

Work Hardening Exponent, Orthogonal Cutting

1 .緒白

超精密加工に見られるように,切削加工機械の加工

精度の向上に伴い製品の仕上げを切削加工で行おう

とする傾向が強まっているが,切削加工により生成さ

れる表面の品位,つまり表面粗さと加工変質層は外観

だけでなく,材料の疲労強度などに大きな影響を与え

る.この加工変質層は加工に伴って生じる母材とは

性質の異なる部分で,機械的要因,熱的要因,結晶学

的要因等により生み出されるためその生成機構は非

常に複雑であり,定義についても明確ではない.

本研究は切削加工における仕上げ面の品位,特に材

料の疲労強度に影響を及ぼす加工変質層を支配する因

子を機械的要因に絞り,実験により明らかにすること

を目的とする.つまり 工具の切れ刃先端部分の切削

メカニズムを理解した上で切削加工品位の向上を目

指すものである.

T機械工学科

T十学生課実習係

ttt電子制御工学科

5

2.研究の背景

これまでの研究では,切削速度や切削温度の影響を

受けない条件下での実験や理論解析が多かった.なぜ

ならば加工変質層生成のメカニズムを簡略化しよう

と,熱応力による塑性変形や,相変態およびひずみ速

度等の影響を無視したいがためである.いずれの場合

においても,材料は外力または内部応力によりひずみ

を受けて母材硬さより硬化するので,切削加工により

発生した加工硬化を調べることにより,加工変質層に

関する様々な情報が簡単に正確に得られることが予測

される.中山ら1)は切りくずの硬度と引張強さおよび

せん断面上のせん断応力とが比例関係を有することを

示し,面倒なせん断角と切削抵抗の測定をしなくても

切りくずの硬さ測定によりせん断応力が簡単に求まる

ことを証明した.また,被削材の物性に注目し,被削

材硬度が高くなるほどせん断角が大きくなることを示

した例2)3)や,材料の加工硬化指数が切削抵抗に及ぼす

影響について実験的に明らかにした例4)もある.

したがって,切削抵抗や切削温度を直接測定せずに

硬度測定により加工硬化に及ぼす因子が具体的に求ま

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2の切削モデル中のせん断角併とせん断領域の厚さ δ

の大きさによって加工硬化層の分布が変化すること

が原因である.とりわけせん断角併の方が加工硬化層

に及ぼす影響が強く つまり すくい角や切削速度が

増加するとせん断角併が増加し,せん断領域が切削予

定面以下に及ぶ範囲が小さくなる.したがって,切削

条件によりせん断角併は複雑に変化するので,実験で

は,直接せん断角併に影響を与えるような切削条件を

広範に変えて加工硬化層深さの変化を調べる.

4.実験方法

実験は図3(a)に示すようなホルダに幅3mm長さ

30mmの被削材を固定し,このホルダを旋盤に取り付

け,工具を半径方向に送って乾式の断続二次元切削を

行った.切削条件を表 lに示す.通常行われるフライ

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6・4brass

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h=O.2mm

切取り厚さが増えた場合

切削モデル

真満士口

せん断領域およびその周辺の硬さ分布

図2

孝行

L民 alhardne田SHI.

Bulk materiaJ hardness

上野

( c )

正和

6

原因

3.せん断領域の硬度分布

せん断領域が切削面以下まで及んだものが加工硬化

層であると定義すると,せん断領域の厚さや,せん断

面の傾き角つまりせん断角の大小が加工硬化層の分布

に影響する.中山5)はせん断領域の厚さは切取り厚さ

に比例することを,流動層の変形幅を用いて実験的に

明らかにしている.しかし,加工硬化層は流動層より

もはるかに深く及ぶことが知られている 6) 切削予定

部分の材料は,せん断領域付近から約200%ほどのせ

ん断ひずみを受けて切りくず生成が起きる.これは厚

さのない平面から起きるのではなく,かなりの厚さの

ある領域で起きるものであり,その厚さは工具に近い

部分と遠い部分とではかなり異なる 5) 図 1はせん断

領域およびその周辺の状況を硬さ分布測定により調べ

た結果である.図より加工硬化がかなりの深さまで及

んでいることがわかる.また,同図(b),(c)より,すく

い角が増えると加工硬化層が浅くなり,切取り厚さが

増えるとそれが広く深くなることがわかる.これは図

る.また,切削面以下の断面硬さを求めた研究は数多

いが,切削条件および材料特性がせん断変形領域の硬

度分布に及ぼす影響について具体的に検討した例は少

ない.本研究ではせん断領域および切削面以下の断

面硬さの分布状況より加工変質層とりわけ加工硬化

に及ぼす因子を実験的に抽出する.

功二

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Local hardness ・1.7~1.89SHI・Bulkmaterial hardnøss 口 Ú~i:69 i-..___Q主主恒型

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すくい角が増えた場合

図 1

6-4brass

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h=O.1mm

6-4brass y=5・V=10m/min

h=O.1mm

油田

( a )基準

力男51地

( b)

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切削加工における材料特性が加工硬化層に及ぼす影響

Worlcpiαヱ

切削方式

(b) 測定方法

図3 実験方法

ス盤や形削り盤を利用した二次元切削では切削速度に

限界があるが,図 3(a)に示す切削方式では常用切

削速度領域での二次元切削が可能である.切削速度を

上げると温度も上昇するが,切削温度を工具・工作物

熱電対法7)で実測した結果,いずれの実験の場合も断

続切削のせいもあり,最高温度は再結晶温度より 100

℃以上も低く,また奥島らめの実験式で求めた場合で

も今回の実験条件の範囲内では温度の影響は無視でき

るものとした.被削材は主に 6-4黄銅を使用し,その

比較材種として引張強さや加工硬化指数の異なる

S25C, SUS304も用いた.これらは予め焼なまし処理

を施しである.工具は超硬(鋼にはP20,他はK10)ポ

ジタイプスローアウェイ三角チップ (TPGN) を用い

た.通常はすくい面および逃げ面をダイヤモンドペー

スト 6μmおよびlμmでラツビングし,摩耗が無い

状態で使用した.しかし,切れ刃はいくらラッピング

しでも,数ミクロンの丸みは残ってしまう(超硬の粒

子径は3~4μmのためにしたがって,切れ刃がsh担P

の条件とは実際は切れ刃の丸み半径がゼロではなく,

数ミクロン付いていることを意味する.なお,表 1中

の各種被削材における各条件の範囲や基準値が異なる

のは,構成刃先の発生や,機械の剛性によるピピリ振

動等を防ぐためである.

加工硬化層の深さは切削が定常状態になった部分

(切削開始から 10mm)の試験片をワイヤ放電加工機で

切り出し,それを樹脂に埋め込み切削方向に垂直な方

向の試験片断面をラッピングし,マイクロピッカース

表 1 実験条件

Work material 6-4brass S25C SUS304

Tool material K10 P20 K10

Rake angle y deg. -30,-10,Q,10,30 -10,-5.0,5,10,15,20 -1 0,-5,Q,5, 10,15,20

Clearance angleβdeg. 6 6 6

Undeformed chip thickness 0.05,0.1,0..♀,0.4 0.05ム1,0.2 0.05,.Q..1,0.2

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7

アンダーラインは基準値を示す.

1.0

ー 0.8~ E ~ E eii 工 0.6..c 0 ~ 。φ SUS304

三iE04 'OJ Q) ..c () E与 t三占~ 0.2

S25C

5 10 15

Number of cuts N

図4 切削回数の影響

硬度計 (0.49N)で図3(b)に示すように,深さ方向

に断面硬さ分布を測定した.また,便宜上,切削面か

ら母材硬さの10%増えた硬さに到達するところまでを

加工硬化層深さ DHとした.

5.実験結果

5. 1切削回数の影響

切削加工は通常切り取り厚さの大きい粗加工の後そ

れの小さい仕上げ加工を行う.したがって,加工変質

層は積算されるのか,次回の切削により除去されるの

かその生成機構は複雑である.これまで切削回数と加

工変質層との関係については,山本9)は切削の繰り返

し回数が増えると変質層深さも深くなっていくが,あ

る回数になると一定となることを実験的に示し,笹原

ら聞は加工変質層の部分を切削すると引張りの残留応

力から圧縮に変わったり,さらに繰り返し切削を行う

と変質層の厚さが薄くなることを計算結果およ実験結

果の両者で検討している.図4は加工硬化層深さへの

切削回数の影響を示す.図より切削回数が数回より硬

化層深さが安定するように思われる.また,切削条件

によっては,繰り返し切削において,切りくずず、の厚さ

やカ一ルする向きが変動したりする切削の交互現象が

起こりうる場合

においてはそのような現象は起きなかつた.したがっ

て,以後の実験では切削回数は 10回とした.

Page 4: 切削加工における材料特性が加工硬化層に及ぼす影 …切削加工における材料特性が加工硬化層に及ぼす影響 Worlcpiα ヱ 切削方式 (b) 測定方法図3実験方法

真吉満孝行上野正和

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切りくずが受けたせん断ひずみと加工

硬化層深さ/切取り厚さとの関係

6

図8

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35 30 25 20 15 10 5 0.1

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Shear angle 併 deg.

せん断角と加工硬化層深さ/切取り厚さと

の関係

図9

切削速度の影響図6

1.5

度が上がるとせん断角が増加し加工硬化層への影響が

軽減される.

5. 4切取り厚さの影響

図7は加工硬化層深さへの切取り厚さの影響を示

す.図よりどの被削材も切取り厚さが増えると直線的

に増加することがわかる.切りくずの厚さよりせん断

角を求めると,切取り厚さが増加すると,せん断角も

少しずつ増加する傾向にある.

0.5 0.4

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Undeformed chip thickness h

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6.考察

先の研究 11) で二次元切削で発生する側方バリの大

きさはその切削で切りくずが受けたせん断ひずみと一

義的な関係があることが見出された.せん断領域の変

形が切れ刃に対して平行な方向に押し出されたのがパ

リである.切れ刃に対して直角方向にひずみを受けた

のが加工硬化層とすれば,切りくずが受けたせん断ひ

ずみと加工硬イU膏深さとも何らかの関係があることが

予測される.図8は加工硬化層深さと切取り厚さとの

比を,切りくずの厚さから求めた切りくずが受けたせ

8

切取り厚さの影響

5. 2すくい角の影響

図5は加工硬化層深さへのすくい角の影響を示す.

図より,黄銅とステンレス鋼はすくい角が増えると加

工硬化層深さは直線的に減少するが,炭素鋼の場合は

減少の度合いが他と比べて小さいことがわかる.

5. 3切削速度の影響

図6は加工硬化層深さへの切削速度の影響を示す.

図より,切削速度が増えると加工硬化層深さは減少す

るが,高速になると一定値となる傾向にある.切削速

図7

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切削加工における材料特性が加工硬化層に及ぼす影響

表2 Cとnの値

a-恒一向

m

一Mn

M-c

w一

SUS304

1303

0.43

10

k = 0.2425 X e(0.0055385Cn)

~1

レ/'jSUS3ω

6めrass

S25C

0.1 o 100 200 300 400 500 600

C n

図 10 C nとkとの関係

ん断ひずみで整理したものである.図より各被削材ご

とに一義的な関係があることがわかる.また,図9は

各被削材ごとにせん断角で整理したものだが,これも

一義的な関係があることがわかる.せん断角が大きく

なるような,つまりせん断ひずみが小さくなるような

条件で切削を行うと加工硬化層深さが浅くなる.ま

た,同じせん断角でも材料ごとに整理されるというこ

とは材料特性が関わっていることが予想される.

そこで材料特性の影響について考察する.塑性変形

領域における応力 σーひずみ E 曲線は式 (1)のように

表せる.

グ =cε n (1)

nは加工硬化指数, Cはε=1のときの応力であり,実

験および式 (2) より求まる.

c=σ B( e / n r (2)

ここで σBは引張強さである.応力 σ・ひずみ ε曲線の

各ひずみにおける曲線の傾きは式 (3)で求まり, Cと

nが関係している.

dσ/dε= C n e n -1 (3)

したがって,図8におけるおのおのの直線の傾き kは,

各被削材の加工硬化指数や引張強さ等が影響している

と考えられる.そこで引張り試験により求めた各被削

材のCとn(表2に示す)を用いて,式 (3)中のCn

と直線の傾き kとの関係をグラフにまとめると,図 10

に示すように,各被削材のCnとkとは一義的な関係

があることがわかる.

7.結言

せん断領域および切削面以下の断面硬さの分布状況

より,加工硬化層に及ぼす因子を切削条件のみなら

ず,材料特性の観点からも実験的に調べた.その結果

以下のことが明らかになった.

(1)切削条件によりせん断角やせん断領域の厚さが変

化する.

(2)切りくずが受けたせん断ひずみと切取り厚さで加

工硬化層が予測できる.

(3)切取り厚さが同じならせん断角が大きくなるよう

な条件で切削を行うと加工硬化層深さが浅くなる.

(4)加工硬化に及ぼす因子で材料特性に関するものは

加工硬化指数と引張強さである.

参考文献

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