8
50 日看管会誌 Vol. 13, No. 2, 2009 The Journal of the Japan Academy of Nursing Administration and Policies Vol. 13, No. 2, PP 50-57, 2009 報告 看護管理職のアサーティブネストレーニング 前後のバーンアウト得点の比較 Comparison of Burnout Scores Before and After Assertiveness Training among Nurse Managers 鈴木英子 1) 多賀谷 昭 1) 松浦利江子 1) 齋藤深雪 2) 丸山昭子 1) 吾妻知美 3) Eiko Suzuki 1) Akira Tagaya 1) Rieko Matsuura 1) Miyuki Saito 2) Akiko Maruyama 1) Tomomi Azuma 3) Key words : nurse manager, assertiveness training, burnout, university hospital キーワード : 看護管理職,アサーティブネストレーニング,バーンアウト,大学病院 Abstract The purpose of this study was to examine the possibility of reducing the burnout of nurse managers by assertiveness training. The nurse managers in university hospitals were asked to fill in a questionnaire just before and three months after the assertiveness training. The questionnaire included questions about demographic attributes, workplace satisfaction, transfer preference, stress coping, thoughts on their work, assertiveness (Japanese version of the Rathus Assertiveness Schedule:J-RAS), and burnout (Maslach Burnout Inventory:MBI). A total of 77 respondents (15 head nurses, 62 sub-head nurses) provided valid data for analysis. The pre-intervention averages of age, J-RAS, and MBI were 40.9, -5.0, and 10.8, respectively. For total data, t-tests detected a tendency of increase for J-RAS and a significant decrease for MBI. The stratified examinations showed that J-RAS increased significantly, or tended to increase, and MBI reduced significantly among those who had low pre-intervention J-RAS and those who intended to keep assertiveness after the training. The same tendencies, partly with statistical significance, were observed among those who were unsatisfied with their workplace or own care and those who could not consult with fellow workers, the boss, or any other persons in their workplace. The results showed that the assertiveness training could reduce burnout of nurse managers. The reduction was apparent among persons who intended to keep assertiveness after the training, and those with low pre-intervention J-RAS. The reduction of burnout was also observed among those who lacked social support. 本研究の目的は,アサーティブネストレーニングにより看護管理職のバーンアウトが軽減 する可能性を検討することであった. 看護管理職を対象とし,アサーティブネストレーニングの直前及び 3 ヶ月後に質問紙調査 を実施した.内容は属性,職場満足,ソーシャルサポート,転職希望,ストレスコーピング, 仕事への思い,アサーティブネス(J-RAS),バーンアウト(MBI)である. 受付日:2009 年 2 月 20 日  受理日:2009 年 6 月 10 日 1) 長野県看護大学 看護学部 Nagano College of Nursing 2) 山形大学 医学部看護学科 School of Nursing,Yamagata University Faculty of Medicine 3) 甲南女子大学 看護リハビリテーション学部看護学科 Department of Nursing, Faculty of Nursing and Rehabilitation, Konan Women's University

看護管理職のアサーティブネストレーニング 前後の ...janap.umin.ac.jp/mokuji/J1302/10000006.pdf52 日看管会誌 Vol. 13, No. 2, 2009 護管理職のアサーティブネストレーニングのプログ

  • Upload
    others

  • View
    0

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

Page 1: 看護管理職のアサーティブネストレーニング 前後の ...janap.umin.ac.jp/mokuji/J1302/10000006.pdf52 日看管会誌 Vol. 13, No. 2, 2009 護管理職のアサーティブネストレーニングのプログ

50 日看管会誌 Vol. 13, No. 2, 2009

The Journal of the Japan Academy of Nursing Administration and Policies Vol. 13, No. 2, PP 50-57, 2009

報告

看護管理職のアサーティブネストレーニング前後のバーンアウト得点の比較

Comparison of Burnout Scores Before and After Assertiveness Training among Nurse Managers

鈴木英子 1) 多賀谷 昭 1) 松浦利江子 1) 齋藤深雪 2) 丸山昭子 1) 吾妻知美 3)

Eiko Suzuki1) Akira Tagaya1) Rieko Matsuura1) Miyuki Saito2) Akiko Maruyama1) Tomomi Azuma3)

Key words : nurse manager, assertiveness training, burnout, university hospital

キーワード : 看護管理職,アサーティブネストレーニング,バーンアウト,大学病院

AbstractThe purpose of this study was to examine the possibility of reducing the burnout of nurse managers

by assertiveness training.The nurse managers in university hospitals were asked to fill in a questionnaire just before and

three months after the assertiveness training. The questionnaire included questions about demographic attributes, workplace satisfaction, transfer preference, stress coping, thoughts on their work, assertiveness (Japanese version of the Rathus Assertiveness Schedule:J-RAS), and burnout (Maslach Burnout Inventory:MBI).

A total of 77 respondents (15 head nurses, 62 sub-head nurses) provided valid data for analysis. The pre-intervention averages of age, J-RAS, and MBI were 40.9, -5.0, and 10.8, respectively. For total data, t-tests detected a tendency of increase for J-RAS and a significant decrease for MBI. The stratified examinations showed that J-RAS increased significantly, or tended to increase, and MBI reduced significantly among those who had low pre-intervention J-RAS and those who intended to keep assertiveness after the training. The same tendencies, partly with statistical significance, were observed among those who were unsatisfied with their workplace or own care and those who could not consult with fellow workers, the boss, or any other persons in their workplace.

The results showed that the assertiveness training could reduce burnout of nurse managers. The reduction was apparent among persons who intended to keep assertiveness after the training, and those with low pre-intervention J-RAS. The reduction of burnout was also observed among those who lacked social support.

要  旨

本研究の目的は,アサーティブネストレーニングにより看護管理職のバーンアウトが軽減する可能性を検討することであった.

看護管理職を対象とし,アサーティブネストレーニングの直前及び 3 ヶ月後に質問紙調査を実施した.内容は属性,職場満足,ソーシャルサポート,転職希望,ストレスコーピング,仕事への思い,アサーティブネス(J-RAS),バーンアウト(MBI)である.

受付日:2009 年 2 月 20 日  受理日:2009 年 6 月 10 日1) 長野県看護大学 看護学部 Nagano College of Nursing2) 山形大学 医学部看護学科 School of Nursing,Yamagata University Faculty of Medicine3) 甲南女子大学 看護リハビリテーション学部看護学科 Department of Nursing, Faculty of Nursing and Rehabilitation, Konan Women's

University

Page 2: 看護管理職のアサーティブネストレーニング 前後の ...janap.umin.ac.jp/mokuji/J1302/10000006.pdf52 日看管会誌 Vol. 13, No. 2, 2009 護管理職のアサーティブネストレーニングのプログ

51日看管会誌 Vol. 13, No. 2, 2009

Ⅰ.はじめに

バーンアウトは疲弊感,シニシズムと職務効力感の低下からなる心因性症候群であり,仕事による慢性的ストレッサーのもとで起こり,バーンアウト以外は心理的に健康な個人に起きるとされている.

(Leiter & Maslach, 2004) 看護師のバーンアウトの要因としては,年齢 (鈴

木ら,2003;鷲見,長江,1998),仕事量 (Higashiguchi& Nakagawa, 2003), ソ ー シ ャ ル サ ポ ー ト( 西堀,諸井,2000;Suzuki, et al., 2006;Suzuki, et al., 2008;山崎,2000),職務満足(Kalliath & Morris,2002;Suzuki, et al., 2008),コーピングメカニズム

(北岡,2005),アサーティブネス(鈴木ら,2003;Suzuki, et al., 2006) などがあげられ,バーンアウトは患者の満足度(Aiken, et al., 2002)や看護師の起こす医療事故(北岡,2005)に影響を及ぼすと報告されている.

アサーティブネスとは「他人の権利を尊重しながら自分の権利を守ることを基本に,無理なく自己表現するためのコミュニケーション能力をいう」

(Alberti & Emmons,1986).アサーティブネストレーニングは,1970 年代のア

メリカで継続教育として取り入れられ,1980 年代から現在まで研究がつづけられている.アメリカの大学病院の看護師を対象とした調査の報告(Timmins & McCabe, 2005)によれば,63% の看護師がアサーティブネストレーニングを受けており,そのうち70%が看護師免許取得後にそれを受けていた.

日本では,Shimizu, et al.(2003)野末,野末(2000),

勝原,増野(2001),増野,勝原(2001)がアサーティブネス尺度を作成し,一般看護師を対象として看護師のアサーティブネストレーニングに関する調査を実施している.

近年,日本では,医療の高度化,複雑化,患者の高齢化がすすみ,看護師不足が社会的問題となって久しい.さらに,2002 年からの平均在院日数の短縮や,2006 年4月の人員配置による診療報酬改定によって,臨床現場は多忙を極めている.こうした中で,看護師を定着させ,キャリアのある看護師を育成することは,看護管理職の重要課題となっている.

看護師のバーンアウトの予防に関し,われわれは,まず,看護管理職自身のアサーティブネスの重要性に注目した.アサーティブネスは双方向に影響しあう特性をもつことから,看護管理職自身がアサーティブになることが,病棟,組織全体をアサーティブにすることに通じると考えたからである.しかし,看護管理職に限定したアサーティブネスの先行研究は見あたらなかった.そこで,われわれ自ら看護管理職のアサーティブネスの研究に着手し,これまでに,看護管理職においては,アサーティブネス得点が低いほどバーンアウトしやすいこと,アサーティブネス得点が 10 点下がるごとにバーンアウトのリスクが 1.32 倍上がることを報告した.(丸山ら,2008)さらに,看護管理者のアサーティブネスとアサーティブになれない状況の実態を明らかにした

(鈴木ら , 2009).われわれは,これまでに得た上述の成果から,看

護管理職のアサーティブネスを高めることが彼らのバーンアウト予防につながるという仮説を立て,看

介入前後 2 回とも有効回答が得られた 77 人(看護師長 15 人,主任 62 人)を対象とした.介入前の年齢,J-RAS,MBI の平均はそれぞれ 40.9 歳,-5.0,10.8 であった.介入前後で対応のある T 検定を行ったところ,J-RAS は上昇する傾向が認められ,MBI は有意に低下した.層別にみると J-RAS 得点がもともと低い者,研修後アサーティブネスに心がけた者で J-RASは有意な上昇あるいは上昇傾向を示し,MBI は有意に低下した.また,職場に不満をもつ者,やりたいケアができていないと感じる者,同僚,上司,その他の相談相手のいない者で J-RASは有意な上昇あるいは上昇傾向を示し,MBI は有意な低下あるいは低下する傾向が認められた.

アサーティブネストレーニングによりバーンアウトが軽減できる可能性があることが明らかになった.特に研修後アサーティブネスに心がけた者,もともとアサーティブネス得点が低かった者で軽減が明らかで,職場環境にネガティブな印象をもつ者やソーシャルサポートが得られない者にも軽減が認められた.

Page 3: 看護管理職のアサーティブネストレーニング 前後の ...janap.umin.ac.jp/mokuji/J1302/10000006.pdf52 日看管会誌 Vol. 13, No. 2, 2009 護管理職のアサーティブネストレーニングのプログ

52 日看管会誌 Vol. 13, No. 2, 2009

護管理職のアサーティブネストレーニングのプログラムを作成し,これによりバーンアウトを軽減したいと考えた.

本研究の目的は,看護管理職を対象とし,アサーティブネストレーニングを行うことによってバーンアウトが軽減する可能性を検討することである.

Ⅱ.用語の操作的定義

1.看護管理職:本研究では,対象とした病棟師長及び主任(副師長を含む)を指す.

2.アサーティブネス:「相手を不愉快にさせることなく,自分の気持ちを表現し,折り合いをつけ,問題解決に向け自己主張すること」と定義し,これに従いトレーニングプログラムを作成し,アサーティブネスの程度は J-RAS で測定した.

原版の RAS(Rathus Assertiveness Schedule)を作成するに当たり,Rathus(1973)は,大学生に依頼して「行動したかったけれど社会的結果を恐れて行動しなかったこと」を日記に記録してもらい,参考にしたと述べている.また,Liberman, et al. (1989)によると,原版の RAS は 1973 年に Rathus がアサーティブネストレーニングを「適切な感情的表現力を獲得し再構築することを援助すること」と定義し,この概念に基づいて開発を行ったものである.

アサーティブネス得点の範囲は -90 から +90 の間を取るが,Rathus(1995, 2000)は,得点が高いほどアサーティブであるとしている.われわれの定義は,Rathus のこれらの定義とこの日記の依頼文及び様々な先行研究(Alberti & Emmons,1986;平木,1993;森田,2005)を参考にしている.

Ⅲ.研究方法

1.アサーティブネスプログラムの作成米国において行動療法の博士号の学位をもつ開業

カウンセラーから直接指導を受けた研究代表者(看護学博士)が中心となり,先行研究におけるアサーティブネスの評価スケール日本版 RAS(Rathus assertiveness schedule)を作成した共著者を含む研究者5名(心理学及び心理社会的問題の研究者,看

護学の研究者,医学の研究者)の研究協力を得て,日本の文化をふまえた実用性の高い短縮版のトレーニングプログラムを作成した.その際,アサーティブネストレーニングの手法(Dickson,2006;平木,1993;森田,2005)を参考にした.また,プログラムの中の状況設定問題は,我々の先行研究で看護管理者のアサーティブネスとアサーティブになれない状況の実態(鈴木ら , 2009)を参考に看護管理職―看護師関係の状況設定問題を作成した.

2.アサーティブネストレーニング看護人員不足の折,実際問題としてなかなか研修

時間が取れない中,セッション時間,バーンアウトの変化測定日時は,Shimizu, et al.(2003)及び Lee& Crockett(1994)のトレーニング時間および効果測定期間を参考に 6 名の研究者のブレーンストーミングにて決定した.

トレーニングは,一度に 20 人から 25 人を対象とし,午後の時間帯に4時間のセッションを 1 回行った.

セッションの内容はアサーティブネスの概念の紹介,人間の権利の定義と受容,自己の傾向を知ること,不条理な思いこみと消極的な自己表現,前向きな信念のシステムを作ること,看護職におけるアサーティブネスの重要性,看護管理職―看護師関係の状況設定問題のグループワーク,看護管理職自身がアサーティブになれない状況のロールプレイであった.

3.対象の選定筆者らが先行研究(丸山ら , 2006)で調査を行っ

た3病院のうち介入の協力の得られた関東と東北の2つの大学病院の看護部長,教育師長及び院内研修係に口頭及び書面で研究説明を行い,了解を得た.なお,2つの病院は,患者 - 看護師人数が同じで,規模及び病床数が類似していた.研究対象は5月の研修に参加し,研究協力の同意を得られた 114 人の病棟師長及び主任とした.

4.質問紙調査期間と内容2007 年 5 月末に,上述した 2 つの介入病院におい

て,1 回目の質問紙調査(介入前調査)を実施した直後にアサーティブネストレーニングを行い,さら

Page 4: 看護管理職のアサーティブネストレーニング 前後の ...janap.umin.ac.jp/mokuji/J1302/10000006.pdf52 日看管会誌 Vol. 13, No. 2, 2009 護管理職のアサーティブネストレーニングのプログ

53日看管会誌 Vol. 13, No. 2, 2009

に 2007 年 8 月に 2 回目の質問紙調査(介入後調査)を行った.

質問紙は自記式で,次のような質問項目で構成した.

1)対象の属性(性,生年月日,役職,看護経験年数,最終学歴)

2)職場満足(給与,超過勤務,仕事量)3)ソーシャルサポート(同僚,先輩,上司,友

人や家族等の職場以外の相談相手の有無)4)転職希望,ストレスコーピング5)仕事への思い(やりたいケアができているか,

やりがいを感じているか)6) ア サ ー テ ィ ブ ネ ス( 日 本 語 版 Rathus

Assertiveness Schedule(J-RAS))7) バ ー ン ア ウ ト( 日 本 版 Maslach Burnout

Inventory (MBI))8)アサーティブネストレーニング後日常生活で

アサーティブネスを心がけたか否かアサーティブネスの尺度として使用した J-RAS

は, 鈴 木 ら(2002 年 11 月 ) が Association for Advancement of Behavior Therapy から許可を得て作成したもので,原版は 1973 年に Rathus が開発した全 30 項の評価尺度 RAS である.鈴木ら(2004,2006,2007)は,異なった対象において信頼性,妥当性を検証している.J-RAS は,原版同様,全 30項目からなり,合計得点は -90 ~ 90 で,点数が高いほどよりアサーティブであることを表す.

バーンアウトの尺度として使用した MBI の原版は,1981 年に Maslach 及び Jackson が開発した 25項目で構成された尺度で,下位尺度として①身体的疲弊感,②情緒的疲弊感と非人間化,③個人的達成感からなり,①と②は得点が高いほど,また③は得点が低いほどバーンアウトの程度が著しいことを表す.日本語版は東口ら(1998)により信頼性・妥当性が検証されている.本研究の質問紙には,先行研究(鈴木ら,2004)で信頼性,実用性が高いことが明らかにされている 22 項目を使用し,Lewiston, et al.(1981)の提言する総合得点(身体的疲弊感の平均点+非人間化 / 情緒的疲弊の平均点-個人的達成感の平均点+ 10)によりバーンアウトを測定した.この得点が高いほどバーンアウトの程度が著しいことを表す.

5.倫理的配慮病院への研究協力の依頼は,教育師長及び院内研

修係に口頭及び書面で研究説明を行い,了解を得た.対象には文書にて研究の目的,方法,倫理的配慮について説明し,結果公表に際しての匿名性を保証した.また,データは統計処理し本研究の目的以外には使わないこと,参加・中止は自由であり,参加の拒否や,同意後の中止等による不利益はいっさいないことを説明した.なお,トレーニングに参加しても評価尺度や質問紙を提出する義務がないことを説明した.さらに,ヘルシンキ宣言及び文部科学省の疫学研究に関する倫理的基本指針にもとづき,細心の注意を払うことを約束し,質問紙は,封をして設置した回収箱に入れるように依頼した.本研究計画は,山形大学倫理審査委員会の了承を得た.

6.解析方法1)2007 年 5 月から 8 月にかけてのバーンアウト

とアサーティブネスの変化を明らかにし,介入前後のバーンアウトの変化につきペアード T 検定を行った.また,介入前のアサーティブネス得点別,役職別,介入後日常生活の中でアサーティブネスを心がけの有無別にペアード T 検定を行った.さらに,先行研究(丸山ら,2008)でバーンアウトに関連が認められた要因(職場満足,仕事量満足,仕事へのやりがい,転職希望,ソーシャルサポート(同僚,上司,友人や家族等職場以外の相談相手)の有無別にペアードT 検定を行った.

2)解析には SPSS バージョン 15J を用いた.

Ⅳ.結果

介入前調査では質問紙の回収数は 112 人(98.2%),介入後調査では 95 人(83.3%)であった.バーンアウト得点に欠損がないものを有効回答とみなし,2回とも有効であった 77 人分の回答(67.5%)を解析の対象とした.これらの回答者の内訳は看護師長 15人,主任 62 人で,平均年齢± SD は,看護師長 48.4± 7.2,主任 39.1 ± 7.6 であった.RAS 平均得点を役職別にみると RAS 平均得点は看護師長が主任よりも有意に高く(p<.01),RAS 得点が 0 点未満に占める割合は,師長が主任よりも有意に低く(p<.01),

Page 5: 看護管理職のアサーティブネストレーニング 前後の ...janap.umin.ac.jp/mokuji/J1302/10000006.pdf52 日看管会誌 Vol. 13, No. 2, 2009 護管理職のアサーティブネストレーニングのプログ

54 日看管会誌 Vol. 13, No. 2, 2009

介入後アサーティブネスを心がけた者の割合は,師長が主任よりも低かった(p<.05).その他の項目では,師長と主任の間に有意差のあるものはなかった.

1)全体及び介入前のアサーティブネス得点,役職及び介入後のアサーティブネスの心がけの有無別RAS および MBI の変化表 1には,全対象についての介入前後の RAS 及

び MBI の変化とともに,1)介入前のアサーティブネス得点の高低,2)役職,及び 3)介入後のアサーティブネスの心がけの有無について層別にみた介入前後の RAS 及び MBI の変化を示した.全対象の介入前の平均得点は,RAS が -5.0,MBI の総合得点が10.8 で,2病院間に有意差はみられなかった.

全対象についての介入後の平均得点は RAS が-2.0,MBI の総合得点が 10.3 で,介入前後で RASの上昇傾向(p<.1)と MBI の有意な低下(p<.05)がみられた.

層別の検定については,1)介入前のアサーティブネス得点の高低別では,得点 0 未満のグループで RAS の有意な上昇(p<.01)と MBI の有意な低下(p<.01)がみられ,2)役職別では,看護師長でRAS,MBI とも介入前後で有意差がみられず,主任で RAS の上昇傾向(p<.1)と MBI の有意な低下

(p<.05)がみられ,3)介入後のアサーティブネスの心がけの有無別では,それを心がけた者で RASの有意な上昇(p<.05)と MBI の有意な低下(p<.05)がみられた.

2)職場満足,仕事への思い,転職希望,ソーシャルサポートの有無別 RAS および MBI の変化

先行研究でバーンアウトに関連が認められた要因についての層別の検定は,回答が極端に偏った仕事量満足(仕事が多い:74 人,少ない:3 人)を除き,1)職場満足,2)仕事への思い,3)仕事のやりがい,4)転職希望,5)ソーシャルサポート(同僚,上司,友人や家族等職場以外の相談相手)の有無について行った.表 2には,1)職場満足,2)仕事への思い,3)

仕事のやりがい,4)転職希望の有無についての層別の RAS 及び MBI の変化とその有意差検定の結果を示した.1)職場満足の有無別では,不満のある者で RAS の上昇傾向(p<.1)と MBI の低下傾向

(p<.1)がみられ,2)やりたいケアができていると感じるか否かの層別では,そう感じないと答えた者で RAS の有意な上昇(p<.05)と MBI の有意な低下(p<.05)がみられ,3)仕事にやりがいを感じているか否かの層別では,それを感じないと答えた者は 14 人と少数であったが RAS の有意な上昇(p<.01)がみられ,MBI の低下は有意ではなかったものの,感じると答えた者の低下傾向(p<.1)よりも大きな数値上の変化を示し,4)転職希望の有無別では,転職希望の無い者で MBI の低下傾向(p<.1)が認められた.表 3には,5)ソーシャルサポートについて,a)

同僚,b)上司,c)友人及び家族など職場以外の相談相手の有無別にみた RAS 及び MBI の変化とその有意差検定の結果を示す.a)同僚の相談相手の有無別と,b)上司の相談相手の有無別では,ともに相談相手のいない者で RAS の有意な上昇(p<.05)

表 1 全体及び介入前のアサーティブネス得点、役職及び 介入後のアサーティブネスの心がけの有無別 RAS 及び MBI の変化

Page 6: 看護管理職のアサーティブネストレーニング 前後の ...janap.umin.ac.jp/mokuji/J1302/10000006.pdf52 日看管会誌 Vol. 13, No. 2, 2009 護管理職のアサーティブネストレーニングのプログ

55日看管会誌 Vol. 13, No. 2, 2009

と MBI の低下傾向(p<.1)が認められ,c)友人や家族など職場外の相談相手の有無別でも,相談相手のいない者で RAS の上昇傾向(p<.1)と MBI の有意な低下(p<.05)が認められた.

Ⅴ.考察

アサーティブネスに関しては,アサーティブネス,非主張的,攻撃的に分けて説明されることがある.しかし,日本において,そうした概念で作成された質問紙については,野末,野末(2001)は,質問内容を公開しておらず,増野,勝原(2001)は信頼性を検討してあるが妥当性は検討していない.また,玉井ら(2007)は,状況設定問題をもちいて独自の質問紙を作成し,信頼性,妥当性を検討しているが,バーンアウトの軽減の有無を評価する本研究には適切でなかった.RAS は,世界でもっとも使用数が多

く,アサーティブネスを -90 から 90 の間を取る一元の評価尺度であり,得点が高いほどアサーティブであると評価し,攻撃性には言及していない.J-RASも同様である.アサーティブネスは,コミュニケーションの相手との関係における違いが大きく,そもそも,その測定や評価が困難ではある.とくに,攻撃性は,相手との関係や受け止めによって判断されることも多い.J-RAS は,日本で最も多く,用いられており,自己主張の程度や,傾向を判断するには,現在,最もふさわしいと判断し,J-RAS を用いて介入による変化を評価した.

本研究の結果から,介入によりバーンアウト軽減の可能性が明らかになった.特に介入前のアサーティブネスが低い者,トレーニング後にアサーティブネスに心がけた者で,この可能性が高いことがうかがわれる.しかし,役職別については,有効回答に師長の人数が少ないこと,介入前の RAS 得点が,看護師長が主任よりも高く,RAS 得点が 0 点未満に

表 2 職場満足、仕事への思い、転職希望の有無別 RAS 及び MBI の変化

表 3 同僚、上司、友人及び家族など職場以外の相談相手の有無別 RAS 及び MBI の変化

Page 7: 看護管理職のアサーティブネストレーニング 前後の ...janap.umin.ac.jp/mokuji/J1302/10000006.pdf52 日看管会誌 Vol. 13, No. 2, 2009 護管理職のアサーティブネストレーニングのプログ

56 日看管会誌 Vol. 13, No. 2, 2009

占める割合が,師長が主任よりも低く,介入後アサーティブネスを心がけた者の割合が,師長が主任よりも低かった.これらのことから,役職による違いの可能性は,低いのではないかと考えられた.しかし,言いかえれば主任で介入前の RAS 得点が低く,アサーティブを心がけるモチベーションが高かったことが,役職の違いとして表れているのかもしれない.

Shimizu, et al.(2003)は,一般看護師を対象に行ったアサーティブネスの研修のバーンアウト予防への効果を明らかにしている.彼らの対象は,一般看護師であり,本人たちが希望して行われたトレーニングであった.本研究は,研究への同意は得られているが,参加義務のある病院の管理職研修で行われたものである.しかし,研修において,研修後のアサーティブネスに心がけた者も多かった.これらにより,モチベーションが高い者がバーンアウトの軽減が期待できることが考えられる.

先行研究で管理職のバーンアウトと関連があった項目につき層別にアサーティブネスとバーンアウトの変化を検討した.介入によりアサーティブネスが効果的に上昇したのは,職場に不満のある者,仕事にやりがいを感じない者,同僚,上司,友人,家族など職場以外の相談相手のいない者であった.また,バーンアウトが改善したのは,職場にやりがいを感じる者,転職希望のない者,同僚の相談相手がいる者,いない者の両方,上司の相談相手のいない者,であった.これらからバーンアウトの影響要因を有している者がアサーティブネストレーニングにより,バーンアウトが軽減する可能性があることが明らかになった.すなわち,どちらかというと環境にネガティブな印象をもっていた者の方が介入により,アサーティブになり,バーンアウトも改善する傾向が考えられる.特に,ソーシャルサポートでは,アサーティブネストレーニング前に,同僚,上司,友人や家族など病院以外の相談相手がいない者の方が介入の効果が認められたということは,介入によりアサーティブになり,ソーシャルサポートが受けられるようになったのかもしれない.しかし,今回は,介入によりアサーティブネス得点が上昇したことは明らかにできたが,介入後のソーシャルサポートの有無は調査しなかった.このため,アサーティブになったことがどのように発展して効果をもたらすのかは,想像の域を出ない.今後,介入後にソー

シャルサポートを受けられるようになったのかどうか調査することが求められる.また,本研究は,比較対照試験ではないためアサーティブネストレーニング以外の要因を調整できていない.今後,さらなるプログラムの改善調査項目の検討を行い,比較対照試験をすることが今後の課題である.

Ⅵ.結論

1. 看護管理職においてアサーティブネストレーニングにより,アサーティブネスが高まり,バーンアウトが軽減する可能性が明らかになった.

2. 看護管理職では,特に,介入前のアサーティブネス得点の低い者,介入後にアサーティブネスを心がけた者,職場に不満をもつ者,やりたいケアができていないと感じる者,同僚,上司,その他の相談相手のいない者でアサーティブネスが高まり,バーンアウトが軽減する可能性が明らかになった.

謝辞:本研究の調査にご協力いただきました看護管理

者及び看護管理職の皆様に心よりお礼申しあげます.ま

た,本研究は,金沢医科大学の北岡先生との共同研究の

一部である.様々な助言をして下さった北岡先生にお礼

申し上げます.

本研究は,日本看護管理学会の助成を受けた研究プロ

ジェクトの報告であり,第 12 回日本看護管理学会で発表

したものを含む.

■引用文献

Aiken, L. H., Clarke, S. P. & Sloane, D. M. et al. (2002) Hospital nurse staffing and patient mortality, nurse burnout, and job dissatisfaction: JAMA, 288 (16) , 1987-1993.

Alberti, R. E. & Emmons, M. L. (1986) / 菅原憲治訳 (1994) 自己主張(アサーティブネス)トレーニング―人に操られず人を操らず: 31-32,東京図書,東京.

Dickson, A. / アサーティブジャパン監訳 (2006) それでも話し始めよう アサーティブネスに学ぶ対等なコミュニケーション: 95-279,クレイン,東京.

東口和代,森河裕子,三浦克之,他 (1998) 日本版 MBI(Maslach Burnout Inventory)の作成と因子構造の検討: 日衛誌,53 (2) ,447-455.

Higashiguchi(Kitaoka), K. & Nakagawa, H. (2003) Job strain, coping, and burnout among Japanese nurses: Japan Journal Health and Human Ecology, 69 (3) , 66-79.

平木典子 (1993) アサーション・トレーニング―さわやかな「自己表現」のために: 150-152, 日本・精神技術研究所,東京.

Kalliath, T. & Morris, R. (2002) Job satisfaction among

Page 8: 看護管理職のアサーティブネストレーニング 前後の ...janap.umin.ac.jp/mokuji/J1302/10000006.pdf52 日看管会誌 Vol. 13, No. 2, 2009 護管理職のアサーティブネストレーニングのプログ

57日看管会誌 Vol. 13, No. 2, 2009

nurses-a predictor of burnout levels-: Journal of Nursing Administration, 32 (12) , 648-654.

勝原裕美子,増野園恵 (2001) 日本看護職のためのアサーティブネストレーニングプログラムの開発―試案の作成と有効性の評価―: CNAS Hyogo Bulletin,8,71‐85.

北岡(東口)和代 (2005) 精神科勤務の看護者のバーンアウトと医療事故の因果関係についての検討: 日本看護科学学会誌,25 (3) ,31-40.

Lee, S. & Crockett, M. S. (1994) Effect of assertiveness training on levels of stress and assertiveness experienced by nurses in Taiwan, Republic of China: Issues in Mental Health Nursing, 15 (4) , 419-432.

Leiter, M. P. & Maslach, C. (2004) Areas of worklife:A structured approach to organizational predictors of job burnout, Emotional and Physiological Processes and Positive Intervention Strategies: Research in Occupational Stress and Well‐Beiong, 3, 91-134.

Lewiston, N. J. , Conley, J. & Blessing-Moore, J. (1981) Measurement of hypothetical burnout in cystic fibrosis caregivers: Acta Paediatrica Scandinavica, 70 (6) , 935-939.

Liberman, R. P., King, L. W. & DeRisi, W. J., et al. (1989) / 安西信雄監 (1900) 生活技能訓練基礎マニュアル 対人的効果訓練: 自己主張と生活技能改善の手引き,6-10,新樹会創造出版,東京.

丸山昭子,鈴木英子,斎藤深雪 (2008) 看護管理職のバーンアウトとアサーティブネスの関連: 日本精神保健看護学会抄録集,18,110.

増野園絵,勝原裕美子 (2001) 「日本の看護職のアサーティブネス傾向測定ツール」の開発: 日本看護管理学会,4 (2) ,20-31.

森田汐生 (2005) あたらしい自分を生きるために,アサーティブなコミュニケーションがあなたを変える: 10-25,童話館出版,東京.

西堀好恵,諸井克英 (2000) 看護婦におけるバーンアウトと対人環境: 看護研究,33 (3) ,71‐81.

野末武義,野末聖香 (2001) ナースのアサーション(自己表現)に関する研究 (1) -ナースのアサーション(自己表現)の特徴と関連要因-: 日本精神保健看護学会誌,10 (1) ,86‐94.

Rathus S.A. (1973) A 30-item schedule for assessing assertive behavior: Behavior Therapy, 4, 398-406.

Rathus, S.A. (1995) Rathus assertiveness schedule[RAS].In:NS Schuttle&JM Malouff, Source book of adult assessment: 401-404, Plenum Press, NY.

Rathus, S.A. (2000) Rathus assertiveness schedule[RAS].In:K Corcoran&J Fischer, Measures for clinical practice: 618-620, Free Press, NY.

Shimizu, T., Mizoue, T. & Kubota, S., et al. (2003) Relationship

between burnout and communication skill training among Japanese hospital nurses:a pilot study: Journal of Occupational Health, 45 (3) , 185-190.

鈴木英子,永津麗華,森田洋一 (2003) 大学病院に勤務する看護師のバーンアウトとアサーティブな自己表現: 日本保健福祉会誌,9 (2) ,11-18.

鈴木英子,叶谷由佳,佐藤千史,他 (2004) 日本語版 Rathus assertiveness schedule 開発に関する研究: 日本保健福祉会誌,10,19 - 29.

鈴木英子,叶谷由佳,堀井さやか,他 (2004) 日本版 MBI (Maslach Burnout Inventory)の実用性の検討: 日看研会誌,27 (4) ,85-90.

Suzuki, E., Itomine, I. & Kanoya, Y., et al. (2006) Factors Affecting Rapid Turnover of Novice Nurses in University Hospital: Journal of Occupational Health, 48, 49-61.

Suzuki, E., Kanoya Y. & Katsuki, T., et al. (2006) Assertiveness affecting burnout of novice nurses at university hospitals: Japan Journal of nursing Science, 3 (2) , 93-105.

鈴木英子,Ken Sleyman (2006) 神経症患者のアサーティブネスと不安: 日本保健福祉学会誌,13 (1) ,27-32.

鈴木英子,斎藤深雪,丸山明子,他 (2007) 看護管理職の日本版Rathus Assertiveness Schedule(J-RAS)の信頼性と妥当性の検証: 日本保健福祉学会誌,14 (1) ,33-41.

Suzuki, E., Kanoya, Y. & Katsuki, T., et al. (2007) Verification of the reliability and validity a Japanese version of the Rathus Assertiveness Schedule: Journal of Nursing Management, 15, 530-537.

Suzuki, E., Itomine, I. & Saito, M., et al. (2008) Factor affectiong the turnover of novice nurses at university hospitals:a two year longitudinal study: Japan Journal of nursing Science, 5 (1) , 9-21.

鈴木英子,吾妻知美,斎藤深雪,他 (2009) 重症身体障害者施設の看護管理者のアサーティブネスとアサーティブになれない状況の実態: 日本看護管理学会,12 (2) ,74-85.

玉井保子,景山隆之,前田ひとみ (2007) 新人看護師に対する先輩看護師の自己表現態度について: こころの健康,22 (2) ,66-79.

Tmmins, F. & McCabe, C. (2005) How assertive are nurses in the workplace?:a preliminary pilot study: Journal of Nursing Management, 13 (1) , 61-67.

鷲見克典,長江拓子 (1998) 看護婦の職業性ストレスにおけるワーク・コミットメントの役割―役割ストレッサーとバーンアウトの関係の調整要因―: 教育医学会誌,44 (2) ,477-489.

山崎登志子 (2000) バーンアウト傾向と性格特性,ソーシャル ・サポートとの関係―病院規模による比較―: 日本看護研究学会誌,23 (2) ,29‐41.