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19総説 堆積有機分子から見たペルム紀末-前期三畳紀の地球環境変動 * 齊藤 諒介 ** 2016 9 1 日受付,2016 12 28 日受理) Abstract The mass extinction at the end of Permian was the severest crisis in the Earth’s history. Oceanic euxinia and acidi- fication as well as global warming all have been hypothesized as causes for the mass extinction. However, oceanic euxinia occurred much earlier than the mass extinction, and oceanic acidification and global warming postdated. Accordingly, the cause for the end-Permian mass extinction is not fully understood. Organic geochemical studies have been the most extensively performed for the mass extinction event, and revealed important findings such as soil erosion, photic zone euxinia, and proliferation of cyanobacteria for the event. Recovery from the mass extinction was much delayed and took place in the Middle Triassic, after 5 million years from the mass extinction. Subsequently, the Early Triassic period is the transition interval from the mass extinction to the recovery. The environments in the Early Triassic were rather instable, and another mass extinctions and recoveries repeatedly occurred. Organic geochemical studies have suggested photic zone euxinia, stressful environments, and an occur- rence of a previously undiscovered type of microbialite during the Early Triassic. In the present paper, I introduce the evidences of environmental and biotic changes through the end-Permian mass extinction to the Early Triassic. *Biogeochemical evidence for environmental changes from the Uppermost Permian to the Lower Triassic. **Ryosuke Saito 980-8578 宮城県仙台市青葉区荒巻字青葉 6-3 東北大学大学院 理学研究科 地学専攻 Institute of Geology and Paleontology, Tohoku University, Sendai 980-8578, Japan 1. ペルム紀末大量絶滅事変 ペルム紀末大量絶滅(Fig. 1)は地球生命史上最 も規模の大きい絶滅(種で 90%)で,恐竜の絶滅 で有名な白亜紀末の大量絶滅よりも絶滅率が高い Hallam and Wignall, 1997; Benton et al., 2015)。ま た,海洋生物相が古生代型から現代により近い型 になった転換点であることを考えると,インパク トは白亜紀末の絶滅より大きい(Benton, 2015)。 現代の海洋動物群は,ペルム紀末大量絶滅後の生 き残りを反映している。ペルム紀末までの支配的 な動物群,腕足類,コケムシ,ウミユリといった 海底に固着するタイプの古生代型動物群は,ペル ム紀末大量絶滅により,二枚貝や巻貝,ウニやヒ トデ等の動き回る,肉食動物に取って代わられた Erwin, 2006)。陸上では,絶滅の影響が見られな い地域もあるなど様々であるが(Rees et al., 2002), 多くの地域で針葉樹が優勢であった植生が崩壊し ていた(Looy et al., 1999)。陸上の脊椎動物では 80%以上の種が絶滅したと考えられている(Erwin, 2002; Irmis and Whiteside, 2011)。 海洋における大量絶滅の期間の見積もりについ ては,様々な努力がなされてきた。南中国のペル ム紀末の堆積物には火山灰層が多数認められ,そ れらの火山灰層に含まれるジルコンの放射年代 測定(U-Pb)をすることで,見積もられてきた。 1970 年代の見積もりでは 20 – 30 万年というもの であったが(Benton, 2015),放射年代測定法が導 2014 年度田口賞受賞〕 Res. Org. Geochem. 32, 19 − 53 (2016)

堆積有機分子から見たペルム紀末-前期三畳紀の地 …ogeochem.jp/pdf/ROG_BN/vol32/v32_pp19_53.pdf-19- 総説 堆積有機分子から見たペルム紀末-前期三畳紀の地球環境変動*

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総説

堆積有機分子から見たペルム紀末-前期三畳紀の地球環境変動 *

齊藤 諒介 **

(2016年 9月 1日受付,2016年 12月 28日受理)

AbstractThe mass extinction at the end of Permian was the severest crisis in the Earth’s history. Oceanic euxinia and acidi-

fication as well as global warming all have been hypothesized as causes for the mass extinction. However, oceanic euxinia occurred much earlier than the mass extinction, and oceanic acidification and global warming postdated. Accordingly, the cause for the end-Permian mass extinction is not fully understood. Organic geochemical studies have been the most extensively performed for the mass extinction event, and revealed important findings such as soil erosion, photic zone euxinia, and proliferation of cyanobacteria for the event. Recovery from the mass extinction was much delayed and took place in the Middle Triassic, after 5 million years from the mass extinction. Subsequently, the Early Triassic period is the transition interval from the mass extinction to the recovery. The environments in the Early Triassic were rather instable, and another mass extinctions and recoveries repeatedly occurred. Organic geochemical studies have suggested photic zone euxinia, stressful environments, and an occur-rence of a previously undiscovered type of microbialite during the Early Triassic. In the present paper, I introduce the evidences of environmental and biotic changes through the end-Permian mass extinction to the Early Triassic.

* Biogeochemical evidence for environmental changes from the Uppermost Permian to the Lower Triassic. ** Ryosuke Saito 〒 980-8578 宮城県仙台市青葉区荒巻字青葉 6-3 東北大学大学院 理学研究科 地学専攻 Institute of Geology and Paleontology, Tohoku University, Sendai 980-8578, Japan

1. ペルム紀末大量絶滅事変

ペルム紀末大量絶滅(Fig. 1)は地球生命史上最も規模の大きい絶滅(種で 90%)で,恐竜の絶滅で有名な白亜紀末の大量絶滅よりも絶滅率が高い(Hallam and Wignall, 1997; Benton et al., 2015)。また,海洋生物相が古生代型から現代により近い型になった転換点であることを考えると,インパクトは白亜紀末の絶滅より大きい(Benton, 2015)。現代の海洋動物群は,ペルム紀末大量絶滅後の生き残りを反映している。ペルム紀末までの支配的な動物群,腕足類,コケムシ,ウミユリといった海底に固着するタイプの古生代型動物群は,ペルム紀末大量絶滅により,二枚貝や巻貝,ウニやヒ

トデ等の動き回る,肉食動物に取って代わられた(Erwin, 2006)。陸上では,絶滅の影響が見られない地域もあるなど様々であるが(Rees et al., 2002),多くの地域で針葉樹が優勢であった植生が崩壊していた(Looy et al., 1999)。陸上の脊椎動物では80%以上の種が絶滅したと考えられている(Erwin, 2002; Irmis and Whiteside, 2011)。海洋における大量絶滅の期間の見積もりについては,様々な努力がなされてきた。南中国のペルム紀末の堆積物には火山灰層が多数認められ,それらの火山灰層に含まれるジルコンの放射年代測定(U-Pb)をすることで,見積もられてきた。1970年代の見積もりでは 20 – 30万年というものであったが(Benton, 2015),放射年代測定法が導

〔2014年度田口賞受賞〕Res. Org. Geochem. 32, 19 − 53 (2016)

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入されることで徐々に分析精度が上がり,Burgess et al.(2014)では,絶滅が起きた期間がわずか 6万年± 4.8万年という見積もられた。絶滅期間が見直されるにつれて,その絶滅メカニズムについても,その時間で大量絶滅を起こすことができるのかという観点から検証が進んだ。絶滅の原因として様々なものが提唱されているが,火山活動とそれによりもたらされる環境変動(海洋の還元環境,酸性化等)という見解が受け入れられている(Algeo et al., 2011)。最も根源的な原因と考えられている火山活動がなぜ起こったかについては分かってはいない。Isozaki (2009)では,海水準の極端な低下や海水のストロンチウム同位体比の最低値,炭素同位体比,地磁気などの証拠を元に,ペルム紀後期の超大陸パンゲアの形成に際して,元々各大陸間にあった海洋底が沈み込んだ残骸が核-マントル境界へ落下し,同時に核-マントル境界から巨大なスーパープリュームが発生して地表へ到達し,火山活動が起こったという説を提唱している。また,宇宙に充満するダークマターの一つであるweakly interacting massive particles(WIMPs)が地球に降り注いでガンを引き起こすとともに,地球の核を温め,巨大なプリュームを引き起こして,地球表層での大規模火山活動の引き金になったという説もある(Abbas et al., 1998)。Rampino et al.(2015)では,ダークマターが巨大なプリュームを引き起こしたという説を支持している。Rampino et al.(2015)では,過去大量絶滅が 26 – 30 Myr(百万年)周期,陸上のクレーターが 31±5 Myr周期で起こっていることに着目し,この周期性は,太陽が鉛直方向に振動することで~30~42 Myrの周期でおこる,銀河面の通過により起こるとした。Rampino et al.(2015)は,太陽が銀河中央面を通過する際,オールトの雲(太陽系を球殻状に取り巻いていると考えられる天体群)の彗星が銀河系や薄いダークマター面(thin dark matter disc)の潮汐力により摂動し,地球に周期的な彗星シャワーを引き起こし,それにより絶滅が引き起こされるとした。また,地球が銀河面を,特にWIMPsで構成される密度の濃いダークマター面を通過する際,ダークマター粒子が地球の核に蓄積し,それから対消滅が起こり,その対消滅のエネルギーにより地球の核が加熱されるとした。そして,この周期

的な地球の核の加熱が,巨大なマントルプリュームを周期的に引き起こしているとした。ペルム紀末大量絶滅は世界規模の絶滅であるが,ペルム紀末大量絶滅が最もよく研究されている地域は中国である。中国にはペルム系-三畳系の海成堆積岩が,世界中のすべてを合わせたものより数多く分布しており,コノドント等の示準化石も豊富に産出し,放射年代を決定するための火山灰層にも欠かない(Erwin, 2006)。その中国の中でも,最も研究されているのが,南中国浙江省に露出する煤山(Meishan)セクションである。ペルム紀末の海洋生物の大量絶滅の重要な結果や原因仮説の多くがこのセクションの研究結果であり,統計学的に絶滅層準が決定できるほど化石記録が豊富なセクションである(Jin et al., 2000)。たった 1セクションの結果が世界規模の絶滅の原因に結び付くとは限らないが,煤山セクションほどに,特に南中国以外の地域では,詳細な時系列での古環境復元ができるセクションが確立されていない。煤山セクションの研究から,ペルム紀末に大量絶滅が 2度起こったことがわかっている(Song et al., 2013)。1回目の絶滅では石灰質藻類やフズリナ,四方サンゴ類,海綿,三葉虫,放散虫が,2回目の絶滅では有孔虫や貝形虫,腕足類,二枚貝,腹足類,アンモノイド,コノドントが絶滅していた(Fig. 1)。つまり,絶滅は選択的に起こっていた。Knoll et al.(2007a)では,ペルム紀末大量絶滅が選択的に起こっていることに着目し,周囲の海水に緩衝能力のない,特に石灰質の殻を持つ生物が絶滅していたことから,この選択性の基準が高炭酸症(hypercapnia)への耐性にあるとした。しかし,Song et al.(2014)では,珪質の殻を持つ生物(放散虫や海綿)も厳しい絶滅に見舞われていることから,高炭酸症のみによる絶滅ではないとした。むしろ,1回目と 2回目に絶滅した個々の生物種の生息温度と生息可能な酸素濃度の範囲に着目することで,絶滅の原因を明かそうと試みた。文献調査の結果,1回目に絶滅した生物(サンゴや放散虫)は高温に比較的強く,2回目に絶滅した生物(貝形虫)では,低酸素症に比較的弱いことが分かった。そして,絶滅事変後に比較的多様性が減らなかった軟体動物は,低酸素症と高温に比較的強いことがわかった。Song et al.(2014)では,こ

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堆積有機分子から見たペルム紀末-前期三畳紀の地球環境変動

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の生理学的特性の違いに着目し,過去の研究で明かされていた環境変動と合わせて考えることで,1回目の絶滅の原因は高温,2回目の絶滅の原因は海洋無酸素と推測した。しかしながら,1回目の絶滅は地球温暖化の極大と一致しない(Fig. 1)。ペルム紀末の急速な温暖化の原因としてシベリアントラップによる二酸化炭素の増加が挙げられている。ペルム紀末の炭素同位体比の負シフトは,火山とその周囲に埋没する有機物が熱せられることで放出される同位体的に軽い炭素から構成される二酸化炭素が主な要因だと考えられてきたが,ペルム紀末の温暖化は,1回目の絶滅から~23千年後,炭素同位体比の負シフトより~32千年後に起こっており(Fig. 1, Chen et al., 2016),1回目の絶滅時には寧ろ寒冷化が起こっている(Fig. 1, Chen et al., 2016)。このことは二酸化炭素が必ずしも温暖化の原因ではなかったことを示唆する(Shen SZ et al., 2011, Schoben et al., 2013)。また,地球温暖化が起こっていたにも関わらず,1回目の絶滅と 2回目の間に生物の多様性は増えていた(回復していた,Fig. 1)(Song et al., 2013; Chen et al., 2015)。

Clarkson et al.(2015)では,Wadi Bihセクション

(UAE)に露出する浅海域で堆積した炭酸塩岩をホウ素の安定同位体比を用いて調査し,煤山セクションでの 2回目の大量絶滅の発生時にWadi Bih セクションでは海洋酸性化が起こっていることを確認した。そして,煤山セクションでは 2回目の絶滅で酸性化に弱い生物が絶滅していることから,海洋酸性化が 2回目の絶滅の原因と主張した。しかし,海洋酸性化に弱い生物の絶滅は 1回目の絶滅で既に起きており,この酸性化は炭素同位体比の負シフトを伴わない(Fig. 1)。このように,絶滅の原因として提唱される仮説には化石との記録の不一致が多くある。これは後述する還元環境についても同じである。このことは,絶滅の原因が単一のものではなく,Knoll et al.(2007a)で主張されているように,複数の環境ストレスが相互作用し合って起こっていたことを示しているのかもしれない。

Permian – Triassic(PT)境界近傍の陸上の生態系についての研究は,南中国だけではなく,オーストラリアやノルウェーなどのヨーロッパ,南アフリカ等広い地域で行われている。これらの地域では大量絶滅時に菌類が大幅に増加していることが

foraminifera,ostracoda,brachiopods,bivalves,gastropods,ammonoids,conodonts

timing of ocean acidification

in UAE

warm cool warm cool

251.941±0.037Ma

251.880±0.031Ma

251.583±0.086Ma

Extin

ctio

ns in

terv

al

2ndextinction

1stextinction

initial recovery

Tria

ssic

Perm

ian

C. meishaensis

C. yini

H. Changxingensis

C.taytorae

H. parvus

I. staescheiI. isarcica

24

2526

28

27c,d

3029

35-36

38-40

24

23

27a,b

C. Changxingensis

31,3233

34

37

C.palnate

δ18O (‰VSMOW)

18 20191760 204080 0

Dajiagou Liangfengya

shallow water(carbonate platform)

MeishanShangsi

δ18O (‰VSMOW)

deep water(slope)

species richness (Meishan)

2-4

δ13C (‰VPDB) (Meishan)

4-2 0

initial recoverydespite progressive

global warming

18 2019 21

calcareous algae,fuslinidsrugose corals, sponges, trilobites, radiolarianorganisms sensitive to oceanacidification already went extinct at 1st extinction

a rapid warming postdatedthe abrupt decline in δ13C by ~32kyr

Fig. 1. Stratigraphic ranges of fossil species, δ13Ccarb and δ18Oapatite curves, and ocean acidification from the latest Permian to earliest Triassic. Data source: fossil species (Chen et al. 2015), δ13Ccarb and δ18Oapatite curves (Chen et al. 2016), ocean acidification (Clarkson et al. 2015), radiometric age (Burgess et al. 2014).

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齊藤 諒介

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認められ,これらの菌類が当時の木質の植生を破壊したという推測がなされた(e.g. Eshet et al., 1995; Steiner et al., 2003)。後に,それらの菌類とされたものは,最近のコンタミネーション(風化したサンプル上に繁殖した現代の菌類)や,糸状の緑藻類である可能性(Foster, 2002; Hochuli, 2016)が指摘されている。南アフリカのカルー盆地のセクション群は,ペ

ルム紀末の陸上における大量絶滅が最も研究されたセクションである。南アフリカではペルム紀末に蛇行河川から,網状河川へと変化したことが堆積構造の解析から分かっている(Ward et al., 2000)。網状河川は,河川へと大量の砕屑物が供給され,流れが行き詰ったときに発達する河川である。この蛇行河川から網状河川への変化は,南アフリカだけではなく,他の地域でも起こっていることが分かっている。大量の土砂がなぜ供給されたかについては,陸上植生の崩壊により,土壌が流出しやすくなったという見解が一般的になされている。カルー盆地では,ちょうどこの変化の時期に陸上の脊椎動物のターンオーバー(獣弓類のディギノドン群集からリストロサウルス群集へと変化)が起こっていることから,河川形態の変化と植生崩壊,陸上動物の絶滅が関連し合っていることが分かっている。これらの一連のイベントは,陸上におけるペルム紀末大量絶滅事変と考えられてきた。しかし,後に,その絶滅のタイミングが海洋における絶滅より前に起こっているという証拠が報告された(Gastaldo et al., 2015)。Gastaldo et al.(2015)では,新たにカルー盆地(Old Lootsberg Passセクション)の調査を行い,放射年代や化石記録,古磁気の記録を得た。脊椎動物の化石記録により定義される PT境界(獣弓類のディギノドン群集とそれに取って代わるリストロサウルス群集の境界)よりわずかに~60 m下位に位置する火山灰層の放射年代測定(U-Pb)からは253.48±0.15 Maという年代を得た。ディギノドン群集帯の始まりは 255.2 Maで,このディギノドン群集帯は最大で約 500 mと考えられている(Rubidge, 1995)ため,堆積速度は440 m/1.72 m.y.である。堆積速度が変化した証拠がないこと,および PT境界が 251.9 Ma(Burgess et al., 2014)であることを考えると,253.48± 0.15 Maという年代が得られた層準からわずか~60 m上位

に PT境界があるとは考えにくい(Gastaldo et al., 2015)。従って,今まで PT境界近傍にて起こったと考えられていた脊椎動物のターンオーバーはむしろ,Early Changhsingianに起こっている可能性があることが分かった(Gastaldo et al., 2015)。さらに Gastaldo et al.(2015)では,今まで脊椎動物のターンオーバーと同じ時期に絶滅したと考えられてきた,主に湿地に棲む植物であるグロッソプテリスをリストロサウルス群集帯で発見した。このことは従来考えられてきた,乾燥した気候への変化により河川の形状が変わり,植物相も変わって,それが脊椎動物のターンオーバーにつながったという仮説を再検証しなければならないことを意味する(Gastaldo et al., 2015)。そもそもこれらの出来事自体が Early Changhsingianに起こっている可能性があり,その他の地域,例えば南中国では,Early Changhsingianに植物相の変化は報告されていないことから(寒冷化は報告されている(Chen et al., 2016))ことから,カルー盆地のこれらの変化が地域的な出来事の可能性すらあるかもしれない。これがもし事実であるならば,陸上動物の絶滅は海洋生物の絶滅よりはるかに早く起こっていたということになろう。

PT境界では,世界中の地層から石炭が観察されなくなる。ペルム紀末大量絶滅事変時の陸上植物への影響は地域により様々であるが,この石炭消失事件に関してはグローバルな事件である。これは泥炭地に繁殖する植物が世界中で消滅したことを意味する。石炭が形成されるような泥炭地に植生が再び繁茂するまでには長い時間がかかり,石炭の再出現は,海洋における生物の回復と同様に,500万年以上たった中期三畳紀まで待たなければならなかった(Retallack et al., 1996)。ペルム紀末大量絶滅は,昆虫が唯一強い影響を受けた絶滅でもある(Labandeira, 2000)。この絶滅の前までは,トンボ等の羽を折り畳むことのできない古翅類が繁栄していたが,絶滅事変後には,羽を折りたたんで狭いところでも行動できるバッタなどの新翅類が繁栄するようになった。これは,翅を折りたたむことでコンパクトになり,新たに生活スペースを確保できるようになったからだと考えられている(Erwin, 2006)。

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堆積有機分子から見たペルム紀末-前期三畳紀の地球環境変動

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2. 前期三畳紀

ペルム紀末大量絶滅は,500万年以上続くサバイバル期間の入り口に過ぎない(Fig. 2)。絶滅の原因を解明する研究はかなり熱心に行われてきたが,この 500万年以上にわたる回復過程(前期三畳紀)についての研究はあまり進んでいない。前期三畳紀は Induanと Olenekianの 2つのサブステージに分けることができる。それらのサブステージはそれぞれ,さらに Griesbachianと Dieneria,Smithianと Spathianというサブステージに分けることができる。前期三畳紀は全体で 510万年,前期-中期三畳紀境界は 246.8 Ma~となっている(Li et al. 2016b)。前期三畳紀はその全体がイベントの連続である。前期三畳紀は化石がその前のペルム紀後期と比べてほとんど産出しない(Erwin, 2006)。前期三畳紀の環境が如何に悪かったか,如何に

先カンブリア紀と類似していたかについては,岩相的な特徴によく反映されている。Wignall and Twithchett(1996, 2002)では,世界各地の PT境界を含むセクションを調査し, ペルム紀後期の堆積岩には多様性に富む底生動物相が含まれているのに対し,前期三畳紀初頭ではパイライトを豊富に含み,生物擾乱の欠けた単調な黒色頁岩が堆積していたことを報告した。生物相はかなり単調でわずかな種が大繁殖していた(ただし,前期三畳紀の海洋生物の中には小型化し,普通のサンプリング手法では見逃されてしまうようなものもある)。その内の一種がシャミセンガイ(lingula)と呼ばれる貧酸素環境でも生息できる腕足類である。シャミセンガイはその姿が現代でもほとんど変わっていない(いわゆる‘生きた化石’)ことが,進化論で有名なチャールズ・ダーウィンから認識されていた(Darwin, 1872)。シャミセンガイが最も繁栄した時代はおそらく前期三畳紀であり,生物の回復とともに主要な生物種ではなくなり,現代における立ち位置に近いものとなっていった(Benton, 2015)。前期三畳紀の海洋環境が荒廃していたというこ

とを示す最たる証拠は微生物礁(マイクロバイアライト,e.g. ストロマトライト)の発達である。現代における典型的な礁は,大型骨格生物が豊富なサンゴ礁であるが,コケムシなどの骨格生物が多

様化する前のカンブリア紀以前では,骨格生物礁ではなく,微生物の活動により形成される微生物礁が主たる礁であった(Adachi et al., 2012)。ペルム紀末大量絶滅直後から前期三畳紀にかけて,浅海の地域ではこの微生物礁が世界中で何度も発達した(e.g. Baud et al., 2007)。微生物礁は通常,高塩分環境や酸性環境等,底生動物相が生息できない地域で発達する(Mata and Bottjer, 2012)。しかし,ペルム紀末大量絶滅直後から前期三畳紀にかけては,通常の海洋環境にも微生物礁が広がっていた。このことは微生物礁の形成を阻害する底生動物相がいかに欠落していたかを示している。化石として残っている海洋生物のうち,最も環境に敏感に反応して多様化と絶滅を繰り返す生物はアンモノイドとコノドントだとされている。Stanley(2009)は,前期三畳紀中のアンモノイドとコノドントの多様性を分析した。その結果,前期三畳紀中に何度もアンモノイドとコノドントが多様化(Early Griesbahian, Dienerian/Smithian境界,Early Spathian)と絶滅(Griesbachian/Dienerian境界,latest Smithian,latest Spathian)を繰り返していることが分かった(Fig. 2)。このことからStanleyは,海洋環境が前期三畳紀中に何度も回復と悪化を繰り返していると考えた。前期三畳紀の海洋における酸化還元環境の変化や,気候変動(温暖化と寒冷化)は,これを裏付けるものだった(e.g. Sun et al., 2012)。Song HJ et al.(2014)では,前期三畳紀の海洋生物がどのようにして劣悪な環境で生き残ったかを説明するために,避難領域(refuge zone)という概念を導入した。避難領域は,ペルム紀末-前期三畳紀の劣悪な環境下にあっても海洋生物が生息できた中間的な深度領域を指す。彼らは前期三畳紀の海洋生物が,中間的な深度ではよく繁栄していることを発見していた。Song HJ et al(2014)ではこの原因を,前期三畳紀の主な環境ストレスである貧酸素環境と高温環境に求めた。前期三畳紀中,貧酸素環境が深いところで広がっており海洋生物が生息できる環境ではなかった。一方,深度の浅いところでは大気から酸素が供給されるため比較的酸素に富む。しかし,深度が浅すぎると,温暖化の影響により温度が高すぎるため生息できない。従って,中間的な深度では,温度もそれほど高くなく,酸素に富むため,彼らはこ

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の深度を避難領域として定義し,生物がなぜそこで繁栄していたかを説明した。底層の酸素濃度が増え,高温環境が消失すると,避難領域は拡大し,生物が生存できる領域が増え,生物が回復しやすくなる。前期三畳紀中に何度も起こった生物の多様化と絶滅は,このように避難領域により説明された。また食物連鎖の基礎を担う基礎生産について,

前期三畳紀の間どのような状態だったのか相反する証拠がある。Grasby et al.(2016)は,高緯度地域の Sverdrup盆地を調査した。下部三畳系の堆積岩は全岩有機炭素と全岩窒素/全岩リン比が低く,δ15Nが負方向に偏っていることから,前期三畳紀では脱窒を行う微生物が増加して栄養塩(硝酸)が不足し,窒素固定ができる光合成細菌(シアノバクテリアや緑色硫黄細菌等)だけが主に繁栄し,基礎生産が下がっている状態であったと解釈された。また,この基礎生産の低下は地球温暖化(Sun et al. 2012)による湧昇流の弱化や温度躍層の位置が深くなること(Kamykowski and Zentara, 1986; Behrenfeld et al., 2006),無酸素環境の発達(Grasby et al., 2013)によりもたらされたと解釈された。モデリングの研究からも,前期三畳紀中,温暖化により赤道域から極域にかけての気温勾配が減少し,ハドレー循環が弱まって貿易風が弱まり,それにより引き起こされるエクマン輸送による湧昇流も弱まって栄養塩の表層水への供給量が減り,基礎生産が減少することが支持される(Winguth et al., 2015)。さらに基礎生産の減少は,基礎生産者により生産されるジメチルスルフィドの減少をもたらす。ジメチルスルフィドは雲が形成される際の核としての役割があり,ジメチルスルフィドの減少は雲の減少をもたらし,アルベドが下がることでさらに気温が高くなり,基礎生産が落ちるとされた(Winguth et al., 2015)。一方でMeyer et al.(2011)では,低緯度地域の南中国の複数のセクションを調査し,前期三畳紀の間,堆積深度が浅いセクション(20 – 50 m, Song et al., 2013)から深いセクション(100 – 200 m,Song et al., 2013)にかけて,炭酸塩の炭素同位体比に約 4‰の勾配が見られることを発見し,この勾配の原因として,高い基礎生産性を挙げた。前期三畳紀の炭酸塩岩には還元的な環境で無機的に生成された自生の炭酸塩

の寄与が相当ある可能性が指摘されており(Schrag et al., 2013),実際に複数のセクションにおいて自生の炭酸塩の寄与が観察されている(e.g. Thomazo et al., 2016; Zhao MY et al., 2016)。それらの炭酸塩岩は一般的に低い炭素同位体比であることから,酸化的になりやすい浅いセクションから還元的になりやすい深いセクションにかけての炭素同位体比の負の勾配は,自生の炭酸塩岩の寄与によっても説明されるかもしれない。ペルム紀末の大量絶滅と同期する炭素同位体比の負のシフトも、その後 500万年続く,前期三畳紀の炭素同位体比の複数回にわたる振幅の 1つに過ぎない。わずか 500万年の前期三畳紀の間に,Griesbachian初頭の正シフト(P1),後期の負シフト(N1’),Dienerian初期-中期の正シフト(P1’),後期の負シフト(N2),Dienerian-Smithian境界の正シフト(P2),Smithian初頭-後期の負シフト(N3),Smithian-Spathian境界の正シフト(P3),Spathian後期の負シフト(N4),Spathian-Anisian境界の正シフト(P4)と,中期三畳紀に入るまでに 4回の負シフト,5回の正シフトが繰り返された(Fig. 2, N1~N4,P1~P4は Song HY et al.(2013,2014)によりそれぞれの負シフトと正シフトに割り当てられた番号)。その後の約 4500万年間炭素同位体比が安定していたことと比べると,いかに短期間で,炭素循環が大きく変化を繰り返していたが分かる。炭素循環のボックスモデルは,火山活動が繰り返し起きていれば,前期三畳紀中に繰り返し起こる負シフトと正シフト,その両方を対として引き起こすことを説明する(Payne and Kump, 2007)。火山活動による二酸化炭素の大量放出は,温暖化を引き起こし,(海水への酸素の溶解度の低下等により)海洋無酸素を引き起こし,リン酸塩の溶解と海水への再供給,海洋生産性を高め,有機物の埋没を促進する。二酸化炭素の大量放出は負シフトを引き起こし,その後の有機物の埋没は,正シフトを引き起こすのである。このように,気候変動を引き起こすほどの火山活動による炭素同位体比の変化は,負シフトと正シフトが対になって起こる。500万年間の間に繰り返し火成活動(巨大火成岩区,Large Igneous Provinces(LIPs))が発達している証拠が揃えば,それを裏付ける証拠になる。 しかし,Burgess and Bowering(2016)では,ウラン

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-鉛年代測定法によりシベリア洪水玄武岩の活動時期を調査し, LIPsの三分の二はペルム紀末大量絶滅前(30万年前~)から絶滅期間中に形成されたものであり,残りの三分の一を合わせて考えても,最大でわずか 200万年ほどの活動期間であったことが報告されている。前期三畳紀中(200万年)の炭素同位体比の複数回にわたる振幅は,このように,シベリアの火山活動からは説明されない。説明できたとしても,ペルム紀末大量絶滅から約 200万年後のDienerian/Smithian境界(Li et al., 2016b)における Dienerian/Smithian境界の正シフト(Payne et al., 2004)までである。

Li et al.(2016a)では,前期三畳紀の環境変動の原因が地球の自転軸の傾斜角のサイクルに求められた。地球の自転軸の傾斜角は,氷室期の氷期,間氷期のサイクルを作り出すことで有名なミランコビッチサイクルを構成する 3つの要因(公転軌道の離心率,自転軸の方向(歳差運動))の内の一つである。この論文では,浅海域セクションのガンマ線の連続測定を行い,その強度変化に時間軸をつけて周期性・階層性を見出し,前期三畳紀には 120万年ごとの強い自転軸の傾斜角のサイクル

(obliquity cycle)があることを報告した。また,前期三畳紀の間,この 120万年のサイクルと海水準,温度,海洋の酸化還元環境,生物相の変化が一致していると主張し,前期三畳紀の環境変動は火山活動ではなく,自転軸の傾斜角により影響されていると結論づけた。しかし,彼らが 120万年のサイクルと海水準,温度,酸化還元環境,生物相の変化が一致することを示すために作成した図から判断すると,海水準と気温,生物相(アンモノイドと花粉胞子)の変化は比較的良く一致するが,炭酸塩炭素同位体比や酸化還元環境とはあまり一致していない。このうち,海水準とアンモノイドおよび炭素同位体比はグローバルなデータであるが,気温(南中国,パキスタン)や花粉胞子(パキスタン),酸化還元環境(Boreal Sea)のデータはグローバルなデータではないため,さらなる精査が必要であろう。不安定だったのは炭素循環だけではない。硫黄循環も不安定であった(Fig. 2)。前期三畳紀の後期Olenekian(late Spathian)までの間,海洋において,低濃度の硫酸イオンと短い滞留時間の影響により,硫黄同位体比(硫酸塩)と炭素同位体比(炭酸

N1

P2

N3

N4

P3

P4

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?

?

end-Permianmass extinction

end-Smithianmass extinction

end-Spathianmass extinction

246

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n2221201918-3 -1 1 53

δ18Oapatite (‰ VSMOW)δ13Ccarb (‰ VPDB) δ34SCAS (‰)+10 +20 +40+30

number of species10 20 4030 500

number of genera10 20 300

conodonts ammonoids

warm cool

Fig. 2. Early Triassic diversity of major marine groups and temperature trends showing inverse relationship. Data source: δ13Ccarb and δ18Oapatite curves (Payne et al. 2004; Sun et al. 2012), δ34SCAS (Song HY et al. 2014), fossil species (Stanley 2009).

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塩)の挙動はよく一致する(Song HY et al., 2014)。前期三畳紀中の低緯度および中緯度の海洋表層水の温度変化は,コノドントに含まれるアパタイトの酸素同位体比を測定することで復元されている(Romano et al., 2012; Sun et al., 2012)が,寒冷な環境では炭素・硫黄同位体比ともに正の値をとり,温暖な環境では両同位体比ともに負の値をとる。寒冷な環境では,海洋循環が活発になり,基礎生産性が活発になって,酸素不足になり,有機炭素と軽い硫黄に富むパイライトが堆積するため正方向に振れる(Song HY et al., 2014)。逆に温暖な環境時に,これらの同位体比が負方向に振れるのは,海洋循環が鈍化し,基礎生産が不活発になって,有機炭素と軽い硫黄に富むパイライトの堆積が抑えられるためと解釈された(Song HY et al., 2014)。Late Spathian以降に炭素同位体比と硫黄同位体比が同期しなくなったのは,海洋環境が安定化し,硫酸イオンの濃度と滞留時間が増加したためだとされた。

3. ペルム紀末の有機地球化学的研究

3-1. 2α-メチルホパンインデックス(2-MHI)有機地球化学的研究は,ペルム紀末大量絶滅の

主要なトピックであるシアノバクテリアの増加や還元環境の発達,土壌流出イベント等を明らかにしており,その寄与するところは大きい(Figs. 3, 4)。特に煤山セクションでは,複数の研究がなされている(Xie et al., 2005; Grice et al., 2005a; Sephton et al., 2005; Fenton et al., 2007; Huang et al., 2007; Wang et al., 2007; Wang and Visscher, 2007; Cao et al., 2009; Nabbefield et al., 2010a, b; French et al., 2012; Shen et al., 2011; Kaiho et al., 2012, 2016; Sawada et al.,)Xie et al.(2005)は,2-MHIを用いて,PT境界近傍における生態系の変化について調べた(Fig. 3)。2回の絶滅の後にそれぞれ,2-MHIが約 1%から 7%まで増加していることが認められた(Fig. 3)。当時の解釈では,2-MHIはシアノバクテリアの指標であり,2回の絶滅事変の後の増加は,絶滅により空いたニッチをシアノバクテリアが占めたためと解釈された。Cao et al.(2009)では,PT境界近傍だけではなく,調査対象をを上位,下位に拡大して 2-MHIの変化を調べた(Fig. 3)。2-MHIのピー

クは PT境界近傍ではなく,2回目の絶滅から 30万年以上経ってから表れていることが分かった(Fig. 3)。加えて,その最大値は 34%で,かなり高い値であった(Fig. 3)。Xie et al.(2005)で報告されていた 5%以上の値は,Cao et al.(2009)の報告によると,その後 150万年以上にわたって(少なくとも Dienerianまでは)それ以上の値が続いている(Fig. 3)。また,絶滅後(~Dienerian)の 2-MHIの値よりは低いが,Xie et al.(2005)で報告しているような 5%以上の値はその前の時代である後期ペルム紀(Changhsingian)にも度々記録されている。従って,Xie et al.(2005)で報告されていた 2回の絶滅直後 5%以上の値は,前後の時代と比較するとむしろ,定常値に戻っただけと解釈することもできるかもしれない。煤山セクションの底棲動物の化石記録によると,1回目と 2回目の絶滅の間に生物の多様性は増加していた,つまり,回復が起こっていた(Figs. 1, 3, Chen et al., 2015)。アンモノイドやコノドントといった浮游生物の化石記録からは,2回目の絶滅以降,GriesbachianからDienerianにかけて多様性が増加しており,環境が改善していたことを示している。従って,少なくとも Xie et al.(2005)で示された 2回の絶滅後にシアノバクテリアが空いたニッチに繁殖したというものは,生物が回復し,環境が改善していることを考えると考えにくい。そもそも 2-MHIをシアノバクテリアの指標とするには,前提としていくつか考慮すべき点がある。まず,現生のシアノバクテリアの内,半分以下の種しか 2-メチルホパノイドを生産しないことである(Talbot et al., 2008)。また,海に生息するシアノバクテリアからは 2-メチルホパノイドが発見されておらず,それを生産する遺伝子も発見されていない(Welander et al., 2010)。シアノバクテリア以外にも 2-メチルホパノイドを生産し(Summons et al., 1999),しかもその中には,海陸問わず,幅広く分布している種(Nitrobacter sp., Welander et al. 2010)がいる。従って,2-MHIをシアノバクテリアの指標とするには弱みがある。シアノバクテリアは分岐鎖のあるアルカン,特に mid-chain(4 – 9位)methylheptadecanesを生産する(Köster et al., 1999; Liu et al., 2013)。また,シアノバクテリアは heptadecaneも大量に生産する。続成作用により 7 – 9位の位置にメチル

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基があるアルカン類に変化する脂質(10-methyl octadecenoic acids など 10 – 12位の位置にメチル基がある脂肪酸等)を生産する生物にはバクテリア(硫酸還元菌や硫黄菌等)や海綿等いるが(Kerger

et al., 1986; Thiel et al., 1999; Bradley et al., 2009),4 – 6位にメチル基を生産する生物はシアノバクテリア(Calothrix scopulorum, Chlorogloea fritschii, Microcoleus vaginatus, Nostoc muscorum)だけである(Han et al., 1968; Köster et al., 1999; Dembitsky et al., 1999, 2000)。また,シアノバクテリアには単細胞性のタイプと,糸状性のタイプがあるが,分岐鎖のあるアルカンはもっぱら糸状性のタイプが生産しているという特徴がある(Liu et al., 2013)。2-メチルホパンはシアノバクテリアの指標として弱いので,mid-chain methyl alkanesを代わりの証拠として挙げている論文もあるが,mid-chain methyl alkanesでも 7 – 9位のものと 4 – 6位のものを区別すべきで,この点が見落とされているかもしれない(e.g. Luo et al., 2013, Marynowski et al., 2011)。mid-chain alkanesは熟成作用によっても生成される(e.g. Kissin et al., 1987)ので、mid-chain methyl alkanesもシアノバクテリアの確実な証拠となりえない。ペルム紀末大量絶滅後,シアノバクテリアが大

繁殖したと主張する論文(e.g. Xie et al., 2005; Xie et al., 2010)が広く受け入れられているが,この根拠の背景には,ペルム紀末大量絶滅後の最悪な環境である前期三畳紀にはとても生物が繁栄できるような環境ではなく,幅広い環境に対応できる(砂漠でもや南極などでも)シアノバクテリアが繁栄していたであろうという考えがある(Algeo et al., 2013)。しかし,上述した通り,現状の有機分子化石の証拠ではシアノバクテリアが繁栄していたという確実な証拠とはならない。前期三畳紀中に度々出現するストロマトライトをその証拠とするものもあるが,ストロマトライトの出現は浅海に限られており,しかもその出現は一時的であって連続的ではない。ストロマトライトの出現は,ストロマトライトを形成するような底生のシアノバクテリア等の微生物活動を阻害する底生動物相が衰退していたこと,および海洋環境が悪化していた可能性を示すが,この海洋環境の悪化により真核藻類が衰退していたことまでも示すわけではな

いため,もっぱらシアノバクテリアが基礎生産を担っていた証拠にはならない。また,ストロマトライトの存在は主に群体を作るような底生のシアノバクテリアの寄与を示しているので,海洋基礎生産を担う浮遊性のシアノバクテリアの寄与の議論とは分けてしなければならない。それから,現生のストロマトライトの層毎に微生物種とバイオマーカーを検証した研究では,2-メチルホパノイドはシアノバクテリアが多くを占めるストロマトライトの表層では検出されず,α-プロテオバクテリアが多くを占めるストロマトライトの深い層で検出されている(Blumenberg et al., 2013)。従って,ストロマトライトから検出される 2-メチルホパノイドは,必ずしもシアノバクテリアの存在を示すものではない。それでは 2-MHIは一体何を示すのであろうか。近年の分子生物学の発展により,2-メチルホパノイドがシアノバクテリアのみに特徴的なものではなく,元々は α-プロテオバクテリア特有の脂質であったことが分かった(Ricci et al., 2015)。シアノバクテリアの先祖はシアノバクテリアが多様化した後に,水平遺伝により α-プロテオバクテリアから 2-メチルホパノイドを生産する遺伝子(shcP)を獲得したのである。さらに原始的な α-プロテオバクテリアは好気性だと考えられているため,2-メチルホパノイドは大気の酸化後に出現したと推定されている(Ricci et al., 2015)。従って,原始の2-メチルホパノイドは,酸素の上昇とは関連がなくてもよいことになる。27億年前の試料から 2-メチルホパノイドが検出されたという論文(Brocks et al., 1999)は今でもシアノバクテリアの証拠としてかなり引用されているが,その 2-メチルホパノイドがシアノバクテリア由来,すなわち地球の還元的な大気を酸化的な大気に変えた光合成細菌としてのシアノバクテリアの活動の証明に直結するかは不明である。α-プロテオバクテリアの寄与により,Cao et al.(2009)で報告されているような2-MHIの値が 30%以上になるかどうかであるが,Rhodopseudomonasのような酸素非発生型の光合成生物や,Nitrobacter sp.のような化学的無機栄養細菌(が環境ストレスでさらされることで多量)に生産される 2-メチルホパノイドの割合が,地球温暖化により基礎生産が落ち(Winguth et al., 2015),分

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解者である従属栄養性のバクテリアが生産するホパノイドの量が減少した可能性があるペルム紀末-前期三畳紀の海洋において際立つということも可能性も全く排除できないわけではないだろう。分子生物学的研究からは,シアノバクテリアの

指標としての 2-メチルホパノイドが支持されなくなったが(Ricci et al., 2015),それが新しい指標となる可能性が提示された。環境ストレス指標である(Wu et al., 2015)。未だ 2-メチルホパノイドの生産量を増加させる環境ストレスは一部しか特定されていないが,少なくとも pHや温度,浸透ストレス(osmotic stress)により,2-メチルホパノイドの生産量が,ホパノイドの生産量と比べて増加することが発見されている(Kulkarni et al., 2013)。環境指標として 2-MHIを考えると,ペルム紀末の 2回の大量絶滅直後の 2-MHIの増加,および絶滅後の 34%という最高値は,大量絶滅後に環境(未特定のパラメーター)がより悪化していた可能性を示している。

3-2. 酸化還元環境

PT境界近傍の酸化還元環境も,有機地球化学的手法によりよく明らかにされている。世界各地のPT境界近傍を含むセクションでは,イソレニエラタンや 2, 3, 6-トリメチルアリルイソプレノイドが検出されている(Fig. 3)。イソレニエラタンは緑色硫黄細菌に由来する光合成色素イソレニエラテンの続成生成物であり,2, 3, 6-アリルイソプレノイドはその分解生成物である。ただし,2, 3, 6-アリルイソプレノイドについては,β-カロタンの芳香族化によっても生成されることが指摘されている(Koopmans et al., 1996, 1997)。緑色硫黄細菌は硫化水素が溢れるような有光層やバクテリアマット内(微生物礁)に棲む光合成バクテリアである。有光層に棲む緑色硫黄細菌由来の場合は,イソレニエラタンの存在は有光層ユーキシニア(Photic Zone Euxinia: PZE)を示す。しかし,バクテリアマット内に棲む緑色硫黄細菌由来の場合は,イソレニエラタンは有光層ユーキシニアを示すことにならず,バクテリアマット内の無酸素環境を示すのみである。光の届かないバクテリアマット内で光合成色素であるイソレニエラテンが生産されるかどうか

は議論がある。現生のバクテリアマットからはイソレニエラテンが検出されることがあり,このことから有光層でなくても光合成色素は生産されるとされたが,このイソレニエラテンは有光層で生産されたものが沈降してバクテリアマット内に保存されたという反論もある。幸い,緑色硫黄細菌,紅色硫黄細菌がプランクトンタイプかバクテリアマットタイプであるか調べるには堆積構造を調べれば良い。世界各地の PT境界近傍で検出されているイソレニエラタンの岩相は微生物礁ではないため,有光層ユーキシニアが汎世界的に起こっていた可能性を示している。イソレニエラタンを証拠として復元される PT境界近傍の還元環境であるが,興味深いのは,有光層ユーキシニアが絶滅よりずっと前(煤山セクションでは 150万年~)から起こっていることである(Fig. 3, Hays et al., 2007; Cao et al., 2009; Hays et al., 2011)。「全ての海」を意味するパンサラッサ海においても,絶滅よりはるか以前に酸素に乏しい環境が起こっていたことが分かっている(Isozaki et al., 1997; Takahashi et al., 2014)。この事実から推測されることは還元環境は絶滅の直接的な単独原因ではない可能性である(Luo et al., 2010)。しかし,重要なことは,イソレニエラタンは大量絶滅の被害がもっとも大きかった浅海のセクションからは,絶滅前・中・後に検出されていないことである。Kump et al(2005)は,ペルム紀末に硫化水素が浅海まで侵入し,それが大気まで放出されることにより絶滅が引き起こされたと主張したが,仮に浅海にまで硫化水素が昇ってきたとして,イソレニエラタンが検出されていないのは,その浅海での無酸素の期間が短い可能性もある。緑色硫黄細菌や紅色硫黄細菌等,光合成硫黄細菌がどの程度の時間があれば,イソレニエラテンやオケノンを堆積物へ保存される程に繁殖するかは分からない。土壌流出による基礎生産の増大と,それにより引き起こされる還元環境と藻類から放出される毒素によりペルム紀末大量絶滅が起きたと主張する Kaiho et al.(2012, 2016)では,イソレニエラタンやC35 ホモホパンインデックス,ガンマセランインデックス,プリスタン/フィタン比(Pr/Ph),硫黄同位体比,無機元素を用いて,ペルム紀末大量絶滅前・中(1回目と 2回目の絶滅時)・後の浅

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海(~30 m)から深海(~5000 m)にわたる 9つのセクションの酸化還元環境の復元を行った。ただし,C35 ホモホパンインデックスやガンマセランインデックスが利用できないセクションや,熟成度が考慮できていないセクション(例えば日本の兎原セクション)があり,生物相に直接影響を与えると考えられる有光層ユーキシニアの指標であるイソレニエラタンが煤山セクションと上寺(Shangsi)セクションからしか検出されていないため,議論に不確実性さが残るかもしれない。その復元結果は,絶滅前は数十 m以深は還元的で,海洋生物が最も豊富な浅海(~30 m)は酸化的,絶滅中では浅海(~300 m)は貧酸素-無酸素環境で,深海(300 m~)は還元的な環境となった。絶滅後の浅海(~30 m)は再び酸化的な環境に戻っている。従って,最も海洋生物が繁栄していた浅海に焦点を当てるならば,緑色硫黄細菌が繁殖できるような還元環境は起きておらず(起こっていたとしても光合成硫黄細菌が十分には繁殖できない極短期間),貧酸素-無酸素環境のみ起こっていたのである。絶滅前から発達していた水深の深いところでの

還元環境であるが,例え絶滅に直接的に関わっていなかったとしても,それがもたらした環境変動は計り知れない。前期-中期ペルム紀の蒸発岩の堆積により,海洋中の硫酸イオン濃度は 6 mMほど減少していたが,後期ペルム紀に世界各地で広がりはじめた還元環境は,同時代の硫酸イオンの濃度をそこからさらに,おそらく現代の海洋の約3%(1 mM)ほどまでに減少させていた(Luo et al., 2010)。硫酸イオンは硫酸還元菌により還元され,硫化水素になる。この硫化水素が海水中の溶存酸素と反応し,海洋の酸素が消費され,硫化水素は再び硫酸イオンへと戻る。大気から供給される溶存酸素が不足してくると,特に深海は極域での冷たい海水の沈み込みに酸素の供給を頼っているため,生産される硫化水素の量が大きいと,硫化水素は硫酸イオンには戻らず,海洋中に蓄積され,黄鉄鉱として埋没し,硫酸イオンのリザーバーが小さくなる。一方で,メタンは硫酸イオンとともに,嫌気的メタン酸化古細菌と硫酸還元菌の共生による嫌気的メタン酸化により消費される(Boetius et al., 2000)。硫酸イオンの欠乏は,嫌気的メタン酸化によるメタンの消費を抑え,海洋へのメタンの

蓄積をもたらす。メタンは二酸化炭素よりはるかに強力な温室効果ガスのため,この蓄積したメタンが放出されると,ペルム紀末の急激な温暖化に貢献することになる(Luo et al., 2010)。メタンが実際に海洋中に放出されていたかどうかは,クロセタン(2, 6, 11, 15-テトラメチルヘキサデカン,フィタンの構造異性体)と呼ばれる特異的なイソプレノイドを調べれば良い。ペルム紀末は硫酸イオンがわずかしかなかったにも関わらず,Peace River盆地(カナダ)や煤山セクション(南中国), Kap Stosch(グリーンランド)等の地理的に離れた地点から,クロセタンが検出されている(Hays, 2010)。クロセタンは現代においてはメタン冷湧水等のメタンが豊富に生産されている環境において検出される,嫌気的メタン酸化古細菌に由来するバイオマーカーである。クロセタンの炭素同位体比は一般的に非常に低く,時には – 100‰を下回る(e.g. Elvert et al., 1999)。クロセタンの起源生物である嫌気的メタン酸化古細菌は,その名の通り,硫酸還元菌とコンソーシアムを形成して,メタンを代謝する。自然界のメタンは一般的に炭素同位体的に軽い炭素から構成されているため,そのメタンを代謝する嫌気的メタン酸化古細菌の脂質であるクロセタンや硫酸還元菌由来の脂質の炭素同位体比の値は低くなる。一方で,地質時代のサンプルに含まれるクロセタンの由来,特に古メタン冷湧水のような環境ではない,一般的な海洋環境下で堆積した堆積物に含まれているクロセタンの場合, 嫌気的メタン酸化の指標ではなく,有光層ユーキシニアの指標であるかもしれない(Maslen et al., 2009)。デボン紀の堆積岩と原油のクロセタン/フィタン比(クロセタンとフィタンンは完全には分離できないためクロセタンはフィタンとの比で表される)は,熟成度が高くなるにつれて,緑色硫黄細菌の光合成色素に由来すると考えられるテトラメチルベンゼンの量とともに増加していた。一方,イソレニエラタンやパレオレニエラタンの量は熟成度の上昇とともに減少していた。クロセタン/フィタン比の炭素同位体比は熟成度の上昇とともに重くなっていった。Maslenのグループは,これらの結果から,デボン紀の堆積岩と原油に含まれるクロセタンはイソレニエラタンやパレオレニエラタンから両端のテトラメチルベンゼンが開裂した結

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堆積有機分子から見たペルム紀末-前期三畳紀の地球環境変動

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齊藤 諒介

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果生じる続成生成物であると結論付けた。パレオレニエラタンはデボン紀に特有のバイオマーカーで,現生の生物からはその起源となる生体有機分子が発見されていない。しかし,パレオレニエラタンの炭素同位体比は藻類起源の有機分子と比べて十数‰重い値を示し,イソレニエラタン等の緑色硫黄細菌の光合成色素由来の有機分子と近い値を示すことから,緑色硫黄細菌の光合成色素由来だと考えられている(Hartgers et al., 1994; Tulipani et al., 2015)。従って,これらのC40カロテノイドの続成生成物であるクロセタンは,有光層ユーキシニアを示すとされた。ペルム紀末時に検出されたクロセタンの起源であるが,同時期の堆積物からはイソレニエラタンやアリルイソプレノイドが豊富に検出されていることを証拠として,緑色硫黄細菌に帰属された(Hays, 2010)。しかし,Maslen et al.(2009)のように,熟成度と炭素同位体比の関係まで調べた上での結論ではないため,嫌気的メタン酸化古細菌由来の可能性も排除はされない。海洋環境が還元的になればなるほど,つまり,緑色硫黄細菌が繁殖しやすい環境になればなるほど,酸化剤は枯渇し,メタン生成古細菌によるメタン生成が始まる。このことからイソレニエラタンが産出する環境においてクロセタンが同時に産出しても,必ずしもクロセタンがイソレニエラタン由来にはならないと考えられる。

Rothman et al.(2014),煤山セクションの炭酸塩と有機炭素の炭素同位体比のデータを用いた時間依存性炭素循環モデルにより,ペルム紀末に超指数関数的に海洋中の溶存無機炭素(dissolved inorganic matter)のリザーバーが増加している可能性が示された。さらに興味を引くのが,この超指数関数的な増加が,メタン生成古細菌であるmethanosarcina属の酢酸分解メタン生成経路の獲得により生じたとされたことである。この酢酸分解メタン生成経路の誕生はペルム紀末大量絶滅事変近傍で起こっている。メタン生成古細菌の活動にとってニッケルは制限要因である。ペルム紀末の煤山の堆積物中にはニッケルが濃集していた。Rothman et al.(2014)によれば,ペルム紀末に起きたシベリア洪水玄武岩の活動がこの大量のニッケルの起源,つまり,メタン生成菌が酢酸分解メタン生成経路を獲得する刺激となったという。ただ

し,分子時計解析により見積もられた酢酸分解メタン生成経路を獲得した時期の誤差が240±41 Maとかなり大きいため,この経路の誕生が本当にペルム紀末の絶滅事変(251.9 Ma)とかかわりがあるかどうかは,今後の検討を待たなければならない。

3-3. 土壌流出イベント海洋でのペルム紀末大量絶滅時,陸上植生は地域毎でその影響が異なっていた。陸上植物のバイオマーカーが研究されている地域もあり,バイオマーカーと環境変動の解釈は様々であるが(Figs. 3, 4),イベントが開始するタイミングは一致している可能性はある(Fig. 4)。Val Badia(イタリア北東)を研究した Sephton et al.(2005)は,PT境界近傍でdibenzofuran(DBF)とそのアルキル置換体が増加していることを発見した。これらの芳香族フラン類の主な起源はセルロースなどの多糖類とし,多糖類は通常土壌に多く含まれていることから,PT境界近傍における芳香族フラン類の増加は,土壌流出事件,ひいては陸上植生の崩壊と解釈され,海洋の絶滅と陸上の絶滅を繋ぐ証拠とされた。海洋の絶滅と陸上の絶滅を繋ぐシナリオは次のようである。大量の土壌が海洋に流れることで,海洋の透明度を下げる一方で富栄養化が起こり基礎生産が刺激され,生産物の分解が活発になることにより海洋が無酸素化し真核生物は窒息する。同時に,珊瑚や底生動物相は大量の土壌の供給により生息場所を失う。しかし,Schuchert Dalセクション(グリーンランド東部)を研究した Fenton et al.(2007)は,土壌流出イベントがあったとしても短期間であると考え,フラン類の一種である DBFは絶滅層準より前から高い値であったことから,土壌流出は起こっていないことを主張した。また,木質植物が多い時期に DBFが多いことから,DBFはリグニン由来だとした。煤山セクションを研究した Sawada et al.(2012)では,芳香族フラン類が黒色頁岩や黒色のミクライトに特に豊富であることから,芳香族フラン類の量は岩相により影響を受けているとした。また,土壌流出は短期間のイベントであることが想定されるにもかかわらず,芳香族フラン類の増加が相当期間(Sephton et al., 2005では約100 m)続いてい

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堆積有機分子から見たペルム紀末-前期三畳紀の地球環境変動

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る矛盾(Fenton et al., 2007),および熱熟成実験の結果(Watanabe et al., 2000, セルロースやリグニンの熟成シミュレーションの結果,ベンゾフラン類(DBFや benzofuran)は生成されたが,アルキル置換体やベンゾナフトフランは生成されなかった)を証拠として,メチルフラン類の増加は真菌類や地衣類が繁栄したもので,芳香族フラン類からは土壌流出のシナリオは支持されないと主張した。まとめると,Sephton et al.(2005)で主張されて

いる土壌流出イベントが否定されているポイントは 2点である。第一に,芳香族フラン類の起源は土壌中に多く含まれている多糖類だけではない(地衣類,真菌類,岩相による影響も)という点。第二に,土壌流出イベントの期間は短いことが想定されるにも関わらず,高濃度の芳香族フラン類が絶滅層準より前から検出されており,長期間の土壌流出イベントは考えにくいという点である。現代の大陸上の 1 mの土壌(148.6×106 km2)が

海洋に全て流れ出したとすると,大陸棚(26.8×106 km2)では 5.5 m堆積する(Algeo and Twitchett, 2010)。海洋の堆積場には土壌だけではなく,炭酸塩,陸上で風化により生成される砕屑物等も同時に堆積するため,単純に考えると土壌が全て流出する間に数十メートル以上堆積してもおかしくはないと考えられる。事実,Sephton et al.(2005)で主張されている土壌流出が起こっている層厚は約100 mであるが,その岩相は石灰岩である。従って,土壌流出が起こっていたとしても,その岩相的証拠はかなり薄められていることが分かるので,約 100 mもの堆積期間,土壌流出が起こり続けていたことも考えられる。また,この 100 mの堆積期間を炭酸塩の炭素同位体比(Sephton et al., 2005, their Fig. 1)から具体的に見積もると,比較的重い値で安定しているところから始まって,低い値にシフトするところで終わっているので,最低でも16万年は継続していたことになる(Fig. 4, Burgess et al., 2014)。同様に,Fenton et al.(2007)の研究セクションである Schuchert Dalセクションについても炭酸塩の炭素同位体比(Looy et al., 2001)から推すと,DBFと DBT(dibenzothiophene)が増加する期間(約 10 mの層厚)は同じく最低でも 16万年となる(Fig. 4)。海洋における絶滅の期間が 6万±4.8万年である(Burgess et al., 2014)ことを考える

と,それほどずれていない数字ではある。Shen et al.(2011)では煤山セクションの PAH(多環式芳香族炭化水素)と black carbon(BC)を分析し,火山灰を多量に含む Bed 25およびその直上の Bed 26で高縮合(highly condensed)PAHと BCが濃集していることを明らかにし,土壌流出と関連付けた。環の数の多い PAHは高い温度での有機物の燃焼を示す。また,多次元尺度法により,Bed 24から30までの PAHのデータと石油や裸子植物が燃焼した時に生じる PAHのデータを比べ,煤山の PAHのデータは裸子植物が燃焼した時のデータと類似性が認められため,火山活動と関連した高温度の山火事が起こり,森林が崩壊して土壌流出につながったかもしれないと解釈された。しかしながら,土壌流出イベントは Bed 22からすでに起こっており(Wang and Visscher, 2007),タイミングは一致しない。ただし,煤山セクションにおける土壌流出イベントが始まる時期も絶滅事変から約 16万年前(Burgess et al., 2014)であり,その継続期間はより長い(Bed 22~32, 約 52万年)ものの,Val Vadiaセクション(Sephton et al., 2005)や Schuchert Dalセクション(Fenton et al., 2007)における土壌流出イベントおよび DBFと DBTが濃集し始める時期と一致している(Fig. 4)。

C30モレタン/ホパン比は通常熟成度指標として使われているが,ソースや堆積環境によっても変化する。ペルム紀末大量絶滅においては,土壌流出イベントと関連して陸上環境での異常を示す証拠として C30モレタン(17β, 21α-ホパン)/ホパン(17α, 21β-ホパン)比異常が煤山セクションのPT境界近傍(Bed 24~)において報告されている(Fig. 3, Wang, 2007)。高塩分環境や泥炭,石炭,湖沼のような堆積環境でモレタンは豊富になる。煤山セクションでのモレタン異常は酸性的な土壌や泥炭地由来,あるいは,成層化した海洋上層における酸性的な環境に由来するとされた(Wang, 2007)。後の煤山セクションの調査で,さらに,C30のものだけでなく,より長鎖のホパンや 2-メチル,3-メチルホパノイドまで,17β, 21α-ホパン(モレタン)が優勢になっていることが分かった(French et al., 2012)。泥炭地や石炭から見つかるモレタンの優勢はほぼ C29, C30に限られているため,Wang et al.(2007)の解釈以外の解釈が必要になる。French

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齊藤 諒介

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et al.(2012)では,高いモレタン/ホパン比とホパン/ステラン比,粘土鉱物の含有量の高さ,それから低い C35HHIに基づき,モレタン異常は,酸化的(低い C35HHI)な土壌(バクテリアが多い環境,高いホパン/ステラン比)に棲む土壌性バクテリア(高いモレタン/ホパン比)に由来するだけでなく,それだけでは C35までのホパンやメチルホパンにも観察されている β, α体の卓越に説明がつかないことから,粘土鉱物による続成作用の影響も受けている解釈した。注目すべきは,このモレタン異常は PT境界近傍(Bed 24~)だけではなく,PT境界よりかなり下位(約 200万年前)の,Changxinjian/Wuchangpingjian境界でも起こっていたことである(Fig. 3)。このことは,海洋での絶滅イベントよりはるか前に,陸上からの比較的大きなインプットがあったことを示している(French et al., 2012)。ペルム紀末大量絶滅事変時の植物のバイオマー

カーの解釈は多岐に渡る。レテンを例にとって見てみる。レテンは一般的には陸上植物,特に針葉樹の樹脂の成分であるアビエチン酸に由来すると考えられている(Simoneit et al., 1986)。しかし,真核藻類やシアノバクテリアの熱分解実験からアビエチン酸に由来すると考えられるレテンが検出されている(Wen et al., 2000)。また,針葉樹が出現する前の時代の堆積物等からも検出されており,kaurane typeの bicyclic terpenoidsが脂質に存在するコケ植物や海洋生物にも由来するという研究もあ る(Jinggui et al., 2005; Romero-Sarmiento et al., 2010)。PT境界近傍にて検出されるレテンの解釈であるが,Schuchert Dalセクション(East Greenland)では,レテンの層序的分布が草本質ヒカゲノカズラ類(lycopsid)の胞子の層序的分布(Ubaesporites & Lundbladispora)と似ていることから,レテンは草本質ヒカゲノカズラ類由来とされた(Fenton et al., 2007)。煤山セクションのケロジェン観察,熱分解生

成物分析を行った Sawada et al.(2012)では,過去の研究でレテンがコケ植物や草本質のシダ植物とした論文は直接的な証拠がないとしたうえで,煤山セクションではレテン(熱分解実験の結果からは Bed 26で豊富)がリグニン破片や木質組織,coal materialに由来する無光不定形ケロジェ

ン(non-fluorescent amorphous organic matter, NFA)(Bed 24~26で豊富)と coevalであることから,レテンは針葉樹由来と解釈した。しかし,Sawada et al.(2012)でも述べられているように,Bed 26においてレテンが豊富だという結果は,熱分解実験によるものであり,正確な定量データではないため,通常の手法により抽出された煤山セクションのレテンの定量データもチェックする必要がある。この定量データは,Nabbefield et al.(2010a)にて掲載されているが,境界付近の変動は拡大しないと見えない程小さく,利用できない。最新の研究では,レテンの前駆物質となるアビエチン酸やデヒドロアビエチン酸がシアノバクテリアに広く存在していることが明らかにされた(Costa et al., 2016)。この研究によれば,陸上植物に存在するアビエチン酸やデヒドロアビエチン酸を生産する機構は,シアノバクテリアから遺伝したものだという。この研究結果により,Wen et al.(2000)において Synechocystis sp. の熱分解生成物から検出されたレテンもアビエチン酸やデヒドロアビエチン酸に由来する可能性がでてきた。このように今まで特定の植物由来として解釈されてきたバイオマーカーの含意が変わりつつあるかもしれない。

3-4. バクテリアの大繁殖煤山セクション(PT境界の 200万年以上前から~),Kap Stosch,上寺セクション,Chongyangセクションの PT境界近傍において,2を超えるホパン/ステラン比が記録されている(Ruan et al., 2007; Cao et al., 2009; Chen et al., 2011; Hays et al., 2011)。特に煤山セクションと上寺セクションでは 20以上の値が記録されている(Fig. 3)。基本的には,ホパンはバクテリアに由来し,ステランは真核生物に由来する。顕生代の海洋のサンプルのホパン/ステラン比は,一般に 0.5 – 2.0であると考えられている (Peters et al., 2005; Cao et al., 2009; Rohrssen et al., 2013)。高緯度地域では基礎生産が高いことからステランの量が多く,また,温度が低いためにバクテリアの活動が不活発なため,ホパン/ステラン比は低めである。一方,低緯度地域は基礎生産が相対的に低く,温度が高いためにバクテリアの活動が活発で,ホパン/ステ

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ラン比は高めになる。顕生代の海洋堆積物の平均と比較して,PT境界近傍のホパン/ステラン比はかなり異常である。これらの値はバクテリアのインプットが多かったことを示している可能性が高い。なぜ海洋サンプルにも関わらず高い値を示したかについてはこれらの論文では言及されていない。ホパン/ステラン比が高くなる環境は複数ある。

サブカ(evaporitic supratidal flats),陸上土壌,泥炭地,湖沼といった環境である。こういった場所では高塩分環境や酸性環境が広がっている。真核生物はこういった環境ではバクテリアに適応力で劣る。従って,ホパン/ステラン比は必然的に高くなる。さて,PT境界近傍で記録されたホパン/ステラン比の異常値であるが,前述したように,煤山セクションでは,モレタン/ホパン比とホパン/ステラン比の間に相関関係があることが報告されており(French et al., 2012),このことは,さらにホパン/ステラン比異常が陸上からの寄与の増加によりもたらされたことを支持する。ただし,議論の的となっている土壌流出指標とされているDBF類とホパン/ステラン比異常のタイミングは一致しない。DBF類から想定される土壌流出のタイミングはBed 22(PT境界の約 16万年前)から始まる(Wang and Visccher, 2007)。ホパン/ステラン比の異常はそれよりもっと下位にある,PT境界から 200万年以上古い層準から始まっている(Fig. 3, Cao et al., 2009)。つまり,DBF類で復元される土壌流出による陸上有機物の流入は少なくともPT境界前(Wuchianpingianやmidle Changhsingian)のホパン/ステラン比異常の原因ではない。煤山セクション以外のセクションでは,こういっ

た検証が可能なデータが公表されていないため,どうなっているか分からない。これらのセクションで仮に,陸源有機物と海起源の有機物の比は変化していないにも関わらず,それぞれ,あるいはどちらか一方の有機物のホパン/ステラン比が異常に高くなっていた場合,陸上か海で,あるいは両方でバクテリアのバイオマスが急増していた可能性が考えられる。バクテリアには分解者としての役割がある。分解者としてのバクテリアは,陸上においては,陸上植物の死滅後分解をし,二酸化炭素に変える。海洋においては海洋表層で行わ

れる生産物を消費し,二酸化炭素に変えると同時に栄養塩の再生産を行い,基礎生産を維持させる。また,基礎生産はバクテリアと動物プランクトンにより主に消費されているため,バクテリアの活動が活発になりバクテリアによる消費の割合が増えると,より高次の動物への食物連鎖へとつながっていく動物プランクトンによる消費が減り(動物プランクトンのバイオマスも減少し)(Schlesinger and Bernhardt, 2013),ペルム紀末大量絶滅から生物サイズが減少しているように(Zhang et al., 2016),餌不足となり,生物サイズが小さくなるかもしれない。バクテリアの活動が不活発であると,有機炭素の埋没が増え,大気中の二酸化炭素が減少する(潜在的に大気の炭素同位体比の正シフト,寒冷化につながる)。食物連鎖の高層に位置する魚類の餌となる一次生産者が分解されないため,魚類の良い餌となる。バクテリアの活動が不活発な高緯度で,大型の魚類が良く繁殖するのはこのためである(Schlesinger and Bernhardt, 2013)。PT境界近傍の高いホパン/ステラン比は,地球温暖化,陸上植生崩壊(石炭の消滅含む),炭素同位体比の負シフト,そのどれともタイミングが一致しないが,しかし,これらのすべての現象と時期が重なっていることには留意しておきたい。

3-5. ペルム紀末大量絶滅に特有のバイオマーカーペルム紀末大量絶滅に特有のバイオマーカーとされている有機分子がある。C33 n-アルキルシクロヘキサン(C33 ACH)である。このバイオマーカーは 1980年代からオーストラリアのパース盆地の PT境界近傍のマーカーとして,原油と根源岩の対比に使われてきた(McIldowie and Alexander, 2005)。アルキルシクロアルカンやアルキルベンゼン類は,藻類に由来する有機分子として扱われてきこともあり,C33 ACHもアルキルシクロヘキサンの同族体として,どの時代の堆積物からも検出されうる。しかし,C33 ACHの濃集が報告されているのは,PT境界近傍の堆積物や同時代を起源とする原油のみである。Grice et al.(2005b)は潜在的には omegacyclohexyl-alkanoic acids を膜脂質に持つ thermophilic-acidophilesやメタン冷湧水環境に豊富なテトラエーテル,緑色硫黄細菌のバイオマーカーが含まれるような硫化物に富む環境で生成さ

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れた石炭に含まれるビフェニルアルカンの起源生物がこの C33 ACHの起源であるとしながらも,突起物をもつアクリターク(spinose acritarch),特にVeryhachium と Micrhystridium の割合が C33 ACH/n-C34 と同様に絶滅境界直上の層準で増加していることおよび多くのアクリタークが藻類起源であること,そして,C33 ACHの炭素同位体比(– 33.4‰)がフィタン(– 32.7‰)と近いことを根拠に,C33 ACHの起源は植物プランクトンである可能性を指摘した。興味深いことに,C33 ACHの濃集は,ペルム紀末大量絶滅境界直後に起こっている。そしてもっぱら高緯度地域のみで,その濃集が検出されてきた(Grice et al., 2005b; Nabbefield et al., 2010b; Hays et al., 2011)。なぜもっぱら高緯度地域で報告されているのか,なぜ低緯度地域では報告されていないのか,なぜペルム紀末大量絶滅の直後に濃集するのか,謎である。現況,分かっているのはC33 ACHの起源生物と考えられている藻類が大繁殖を起こしていたということだけである。

4. 堆積有機分子から見た前期三畳紀の地球環境変動

前期三畳紀(特に前期三畳紀-中期三畳紀までの期間)に焦点をあてた有機地球化学的研究は始まったばかりである。下部三畳系-中部三畳紀の有機地球化学的研究は数えるほどしか行われておらず(e.g. Takahashi et al., 2009; Hermann et al., 2011; Heindel et al., 2015; Saito et al., 2013a, b, 2014, 2015, 2016),その中でも,前期三畳紀初頭-中期三畳紀を通して研究が行われたのは南中国の安徽省巣湖に露出する下部-中部三畳系の巣湖(Chaohu)セクションのみである(Saito et al., 2013a, 2014, 2015, 2016)。堆積学的な証拠が先カンブリア紀に類似した環境になっていたこと(e.g. 微生物礁の出現)を示しているように,有機地球化学的特徴においても異常な特徴が,現段階では前期三畳紀にしか発見されていないような特徴が見られる。巣湖セクションでは,前期三畳紀から中期三畳

紀にかけて,堆積深度が浅くなる傾向にある。それに伴って,より還元的な環境が広がっていく(Fig. 5, Saito et al., 2014)。特に,前期三畳紀後期に検出されるバイオマーカーは,驚くべきことに

16.4億年前のBarney Creek層(BCF)で検出されるバイオマーカー群ととてもよく特徴が似ている。前期三畳紀末にはオケナン(~1 μg/g TOC)やクロロバクタン(~4 μg/g TOC),β-カロタン(~50 μg/g TOC),γ-カロタン(~160 μg/g TOC),リコパン(ビファイタンと C35 n-アルカンと共溶出するため定量不可)が検出される(Fig. 5)。また,上下の層準と比較して,相対的に高濃度の DBTs(~190 μg/g TOC),低い Pr/Ph比(0.4~)でも特徴づけられる(Fig. 5)。BCFでもオケナンやクロロバクタン,リコパン,γ-カロタン,β-カロタン(Brocks et al., 2005)が検出されている。オケナン,クロロバクタンはそれぞれ紅色硫黄細菌,緑色の色素の緑色硫黄細菌に由来するバイオマーカーである。イソレニエラタンと同様に光合成細菌に由来するが,イソレニエラタンと違う点は,それがプランクトンタイプの光合成細菌由来だった場合に,より浅い有光層ユーキシニアを示す点である。オケナンとクロロバクタンを生産する現代の紅色硫黄細菌と緑色硫黄細菌の生息深度は水面からそれぞれ1.5 – 24 mと~2 – 16 m であり(Brocks and Schaeffer, 2008),これらのバイオマーカーの存在は,前期三畳紀末の還元環境が海洋表層の極浅いところまで広がっていたことを示している。巣湖セクションの前期三畳紀末の堆積深度は約 20 mであるため,紅色硫黄細菌と緑色硫黄細菌の生息深度と比べて同じかやや浅く,堆積物表面の還元環境を示している可能性がある。しかし,オケナンとクロロバクタンを産出する層準の岩相はミクライトであり,微生物礁ではないことから,プランクトンタイプの紅色硫黄細菌と緑色硫黄細菌に由来するものであるため,有光層ユーキシニアを示していることには変わりはない。オケナンは長い間その検出例自体がほとんどなく,16.4億年前,ジュラ紀のトアルシアン無酸素事変(これは微生物マットに住むタイプと考えられている),そして今回の前期三畳紀末のサンプルからしか発見されていなかった(Brocks et al., 2005; French et al., 2014)。現代の海洋環境においてオケノンは生産されていないため,地質時代に堆積した海成堆積岩にオケナンが含まれていても現代の環境との比較ができない(French et al., 2014)。海洋表層と大気では常にガス交換されているため,海洋表層では酸素不足にはなりに

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堆積有機分子から見たペルム紀末-前期三畳紀の地球環境変動

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くい。しかしながら,French et al.(2015)によると,タンデム質量分析計を用いれば,オケナンを地質時代を通じて数多く検出できることが分かった。すなわち,地質時代を通じて還元環境が何度も表層まで広がっていた可能性がある。γ-カロタンや β-カロタン,リコパンといった光合

成色素類の起源生物は光合成生物ということ以上に特定はできない。しかし,リコパンや γ-カロタンが検出されている層準(Fig. 5, 140.1 – 146 m)は,オケナンやクロロバクタンも検出されている層準であるため,これらの C40 カロテノイドは共通の起源(緑色硫黄細菌や紅色硫黄細菌)を持つ可能性がある。また,これらのバイオマーカーは一般的には還元的な環境でしか保存されない(Brocks et al., 2005; Volkman et al., 2014)。β-カロタンのピークは有光層ユーキシニアが記録されている層準(Fig. 5, 140.1 – 146 m)より 40 m~下位の層準(late

Spathian)であるため,このことは還元的な環境が徐々に発達し,lastest Spathianでピークを迎えたことを示している。DBTsは硫化水素が溢れるような還元的な環境で形成される堆積有機分子である(Hughes et al., 1995)。DBTは続成作用の過程で形成されるため,堆積時の酸化還元環境を表すのではなく,堆積物中の酸化還元環境を示す有機分子であり,当時の酸化還元環境の指標にはならない可能性(Marynowski and Racki, 2015)もあるが,有光層ユーキシニアを示すバイオマーカー(イソレニエラタンやオケナン)や β-カロタン等の層序的分布とDBT類の層序的分布が似る傾向にはある(Kaiho et al., 2012; Saito et al., 2014)。

Pr/Ph比は,最も古典的な酸化還元指標である(Powell et al., 1973; Didyk, 1978)。ただし,岩相や熟成度,起源生物(古細菌のジエーテル脂質や光合成生物の α-トコフェロール)に影響される(Rontani et al., 2010; Rontani et al., 2013)ことがわかっているため,他の酸化還元指標と一緒に使用することが推奨されている(Peters et al., 2005)。巣湖セクションにおいては,岩相によらず Pr/Ph比はかなり多様であり,熟成度指標(S/(S +R)C31 ホモホパン比等)とも傾向が一致していないため(Fig. 5; Saito et al., 2016),これらの影響は顕著には表れていない。古細菌の膜脂質であるアーキオールは,グリセリンの 2位と 3位にフィタニル基が

結合した二重エーテルである。一般的には,アーキオールの続成生成物としてフィタンが生成されると考えられていたため,アーキオールの寄与があると,Pr/Ph比は低くなると考えられている(e.g. Nabbefield et al., 2010b)。しかしながら,Rowland et al.(1990)は,含水熱分解実験を 330℃で 3日間,窒素雰囲気下で行い,プリスタンの方が多く生成されていたことを報告した。Pease et al.(1998)でも,ほぼ同様の条件の含水熱分解実験を行ったが,Rowland et al.(1990)と比較して古細菌の全脂質に対する熱分解生成物の生成割合は同程度(~21%)であることは報告しているものの,その熱分解生成物の組成(飽和炭化水素の分布)までは記載しておらず,Rowland et al.(1990)の結果との比較はできない。Pease et al.(1998)では flash pyrolysisの結果も報告しており,その結果ではフィタンの前駆物質が大量に生成されていた。含水熱分解とflash pyrolysisにより生成されるプリスタンとフィタンの量比はこのように異なる可能性があるが,両熱分解実験が共通して示しているのは,古細菌の膜脂質の耐熱性の高さである。両熱分解実験とも300℃以下の温度では,ほとんど熱分解生成物が生成されていなかった(Rowland et al., 1990; Pease et al., 1998)。このことは,少なくとも熱による分解では比較的埋没深度の深い還元的な環境でアーキオール等の古細菌の膜脂質の分解が起こっている可能性を示す。自然環境中に存在するテトラエーテルの水塊中や堆積物表層での初期続成作用に焦点をあてた研究(Liu et al., 2016)からは,むしろアーキオールに由来するプリスタンとフィタンの量は,初期続成作用の過程で水酸基がむき出しになる(微生物によるエーテル結合の切断等による)割合が高いのであれば,フィトールからの続成経路と同じように,酸化還元環境に依存することを示しているのかもしれない。また,植物プランクトン等の光合成生物に含まれている α-トコフェロールの熱分解実験の結果からは,プリスタンが生成することが報告されている。α-トコフェロールの非生物分解の生成物である trimeric oxidation productsに関しても,熱熟成により,たとえ還元的環境であっても,プリスタンが生成されることが報告されている(Rontani et al., 2010)。従って,α-トコフェロールの続成生成物は,酸化還元環境

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に関係なくプリスタンであるため,植物プランクトンの寄与も考慮する必要がある。前期三畳紀末には,光合成細菌に由来するC40 カ

ロテノイドの濃集だけではなく,モリブデン等の微量元素の濃集(Saito et al., 2014)も起こっており,当時の巣湖地域の海洋がかなり浅いところまで還元的になり,環境が悪化していたことを示している。前期三畳紀の間に起こった還元環境イベントは一般的に前期三畳紀最初期のものや,ペルム紀末大量絶滅から約 370万年後の Smithian/Spathian境界のものが強調されがちである。それは前者では生物がほとんどおらず,後者の境界ではこの境界での絶滅イベントが広く認識されているため,生物の化石記録と還元環境のイベントの間に整合性が取れているからである。Spathianに入って生物の回復は一気に進んだと一般的に考えられており,この事実からすると,middle-late Spathianの還元環境は世界中で確認されているにも関わらず(Takahashi et al., 2009; Wignall et al., 2010; Song et

al., 2012; Grasby et al., 2012; Saito et al., 2014; Tian et al., 2014; Takahashi et al., 2015),解釈上問題があるため言及されることは少ないようである。それから,こちらも言及されることは少ないが,前期三畳紀末にはコノドントやアンモノイド,二枚貝,陸上脊椎動物の絶滅事変が起こっている(Stanley, 2009; Benton, 2015)。生物の化石記録と酸化還元環境の関係を調べるには,やはり,同じサンプルを用いて調査するのが好ましいと考えられる。化石記録と酸化還元環境を同じ試料を使って調査した研究では,middle-late Spathianの還元環境下では,やはり化石の産出数(底生有孔虫)が減っていることが分かっている(Tian et al., 2014)。また,生物の化石記録を見るにしても,大型動物が残す生痕化石と微化石は区別しなければならない。なぜなら前期三畳紀の大型動物の生痕化石の産出記録は,生態系の回復というよりは,還元的な環境により,保存されやすくなったとも解釈できるかもしれないからだ。事実,下部三畳系に保存されている脊椎動物の生痕化石(swim tracks)は他の時代と比べて異常に豊富であり,これも還元的な環境により生痕化石が保存されやすくなったためだと解釈されている(Thomson et al., 2015)。つまり,化石の保存には,実際に生物が回復して存在してい

ることと,化石の保存を促す還元的な環境,大型動物の化石ではこの 2つが関係している。前期三畳紀末の強還元環境のイベントは,未知の微生物礁の形成イベントへと続く。巣湖セクションで強還元環境イベントが起こったのが140 – 146 m(Fig. 5,柱状図上の位置),未知の微生物礁の形成は 148 – 150 m(Fig. 5,柱状図上の位置)である。強還元環境により底生動物相が除去され,海底での微生物マットを形成しやすくなったために発達したのかもしれない。しかしながら,もしそうであれば,強還元環境発達時に微生物礁が発達していても良いように思う。ただし,この強還元環境の発達後も無酸素環境が維持されたのであれば(高濃度のDBTsやモリブデン等の微量元素の濃集が示すように),その際に蓄積した有機物を苗床としてメタン菌等の古細菌が繫茂できる化学合成生態系が広がった時期がちょうど 148 m~(Fig. 5)の堆積時だった可能性もある。また,シアノバクテリアは微生物礁を形成する上で光合成の役割を担う重要な生物であるが,シアノバクテリアには硫化水素(還元的環境)に耐性があるものは少ないという報告もある(Myers and Richardson, 2009)。そのため,仮に硫化水素にあまり耐性のないシアノバクテリアが微生物礁を形成していたとしたら,オケナン等が検出される強還元環境下で微生物礁が形成されていなかったことにも説明はつく。また,酸素非発生型の光合成を行うシアノバクテリアは緑色硫黄細菌や紅色硫黄細菌よりも硫化水素に対する親和性が低いので,硫化水素が律速要因になっている時,緑色硫黄細菌や紅色硫黄細菌との競争に勝てずに,繁殖できないため(Hamilton et al., 2016 and references therein),緑色硫黄細菌や紅色硫黄細菌のバイオマーカーが検出される 140~146 m(Fig. 5)にて微生物礁が形成されなかった可能性もある。また,興味深いことに,ペルム紀末大量絶滅直後に浅海のセクションで発達した微生物礁には酸化的な環境と還元的環境を示す証拠がそれぞれ発見されている(Kershaw et al., 2012)。それらの微生物礁は還元環境を示す粒径が小さく揃っているフランボイド黄鉄鉱を含む一方で,酸素がなければ生きられない底生動物相(貝形虫)を含んでいるため,微生物礁内での光合成をする微生物の酸素の生産環境が底生動物相の避難所と

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なっていた可能性(Kershaw et al., 2012; Loop et al., 2013)や,これらのフランボイド黄鉄鉱が深いところから水流により運ばれてきた可能性が指摘されている(Kershaw, 2015)。巣湖セクションの前期三畳紀末に発達したこの微生物礁においても未知の底生動物相が含まれている一方で,高い DBTs濃度やモリブデン等の微量元素の濃集(Saito et al., 2014)を示すことから,ペルム紀末大量絶滅直後の微生物礁と同様に酸化的な環境と還元的環境が共在する環境で発達していた可能性もある。この微生物礁は,外見上は特異的なラミナ(規

則正しい平行なラミナではなく,不規則でうねるようなラミナ)が発達しており,微生物礁の分類上,ストロマトライトであるが(Riding, 2011),中身はまったく得体のしれない古細菌の大量の寄与が見られる微生物礁である(Fig. 6B)。この微生物礁の炭化水素画分は,~C25 レギュラーイソプレノイド,~C40イレギュラー(head-to-head)イソプレノイドによって大部分を占められており,古細菌をそのまま熱熟成実験にかけた時に得られるクロマトグラムとよく似ている(Fig. 6, Rowland, 1990)。これらのイソプレノイドは,全て古細菌に由来

している可能性が高い。C29-C40 head-to-headイソプレノイドはビファイタンとその続成生成物で,テトラエーテルを膜脂質として持つ古細菌由来である。しかしながら,ビファイタンの続成過程については,未だにあまりよく分かっておらず,なぜ最も短鎖のものがC29までしか検出できていないのか不明である。例えばRowland et al.,(1990)では,含水熱分解(330℃,3日,N2雰囲気下)で行い,C25までの head-to-headイソプレノイドを報告している。一方で,Schouten et al.(1998)では,Vena del Gesso盆地の堆積物の含水熱分解(3日,He雰囲気下)を行い,240℃ – 300℃の間に ether-bound ビファイタンが分解されることを確認したが,その分解生成物として想定される head-to-headイソプレノイドに関しては,検出できなかった。ただし,ビファイタンとその続成生成物が報告されている分布(Rowland et al., 1990; Ventura et al., 2007; Birgel et al., 2008; Heindal et al., 2015)を見ると,C39

が相対的に最も量が多く,炭素数が減少するにしたがって量も減少しているので,C39が熱的に最も安定しているということは言えるかもしれない。ビ

ファイタンは古い堆積物(メタン冷湧水環境や熱水環境ではない)からは滅多に検出されないバイオマーカーである。メタン冷湧水環境や熱水環境ではない堆積物からの検出例として,現状では,前期三畳紀のみである(Heindal et al., 2015)。C21-C25

イソプレノイドは好塩性古細菌由来である可能性が高い(Dawson et al., 2012)。プリスタンとフィタン等,より短鎖のイソプレノイドであるが,これらもこの微生物礁の場合,主に古細菌由来であると考えられる。理由として,n-アルカンの少なさやプリスタンとフィタンの炭素同位体比が古細菌由来の C21-C25 イソプレノイドと近いことが挙げられる(Fig. 6)。プリスタンとフィタンは通常,光合成生物のクロロフィル由来のものが主要なソースと考えられているが,光合成生物の場合,脂肪酸(続成生成物は n-アルカン)や n-アルカンも同時に堆積物へ寄与する。この微生物礁に含まれるプリスタンとフィタンに比べて,n-アルカンは少なく,光合成生物由来ではない可能性を示している。そして,炭素同位体比が古細菌由来の C21-C25 イソプレノイドと近いことは古細菌由来である可能性を示しているのである(Fig. 6)。現代のオーストラリアの Hamelin poolの微生物マットを調査しても,古細菌の寄与というのは多くても 10%程度である(Papineau et al., 2005)。古細菌の寄与が多い堆積環境にメタン冷湧水環境があるが,前期三畳紀末に含まれるイソプレノイドの炭素同位体比(~– 35‰)は,メタン冷湧水環境で発見されるような極端に低い炭素同位体比を持たない(Fig. 6)。巣湖の前期三畳紀末の微生物礁に含まれるイソプレノイドの中で最も卓越しているものはプリスタンやフィタン,C21-C25イソプレノイドであり,好塩性古細菌(De Rosa et al., 1983; Dawson et al., 2012)からの寄与が最も多いと考えられる。テトラエーテル由来の head-to-headイソプレノイドであるが,炭素同位体比からも,現代の古細菌の種間のテトラエーテルの分布からも,これらのイソプレノイドがどの種類の古細菌に由来するかは特定できない。今回検出されたテトラエーテル由来の head-to-headイソプレノイドは非環式のものと単環式のものだけであるため,三環式のものを持つプランクトンタイプの Thaumarchaeotaや,そもそもテトラエーテルを膜脂質に持たない

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堆積有機分子から見たペルム紀末-前期三畳紀の地球環境変動

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好塩性古細菌由来ではないことは明らかであろう(Schouten et al., 2013)。当時の海洋生物の回復を抑制していたのは還元

環境だけではない。2-MHIから復元された環境ストレスは,ペルム紀末大量絶滅から生物の完全回復が起こる 7~800万年後まで,環境ストレスが継続して存在していた可能性を示す(Saito et al., 2016, Fig. 7)。2-MHIは先に述べたとおり,起源生物は別として,pHストレスや高温ストレスといった環境ストレスが存在するときに高くなる可能性が指摘されている(Kulkarni et al., 2013; Wu et al., 2015)。2-MHIは先カンブリア時代では岩相に関わらず高い値(2-MHI > 5~10%)を取る傾向にあり,顕生代の場合は蒸発岩が形成されるような高塩分環境を除き,低い傾向(2-MHI < 10%)にある(Summons et al., 1999)。また,顕生代では頁岩の場合,炭酸塩岩と比較すると低い値(2-MHI < 5~10%)となる傾向も指摘されている(Knoll et al., 2007b)。顕生代の炭酸塩岩の場合は,白亜紀の海洋無酸素事変やペルム紀/三畳紀境界,デボン紀後期のフラスニアン-ファメニアン境界境界(絶滅イベント)で高くなる(2-MHI > 10%~)傾向がある(Kuypers et al., 2004; Knoll et al., 2007b)。巣湖では 2-MHI=~40%の値となるが,最高レベル

の値は,泥灰岩や石灰岩,頁岩で記録されている(Saito et al., 2016)。例えば,Saito et al.(2016)からは,黒色頁岩が堆積している 114.9 m(巣湖セクション)の層準で 2-MHI=38%という値を報告している。また,顕生代の頁岩の傾向(2-MHI < 5~10%,Knoll et al., 2007b)とは異なり,巣湖では頁岩でも 2-MHI > 20%以上の値が記録されている(Saito et al., 2016)。むしろ低い値(2-MHI < 5~10%)は石灰岩で記録されている(巣湖セクション,Saito et al., 2016)。このことは報告されている顕生代における 2-MHIの岩相による傾向とは異なり,その他の変化(例えば提唱されているような環境ストレス)を反映していることが考えられる。前期三畳紀中に考えられる主要な環境ストレスとして高温環境,還元環境がある。酸化還元指標については,強還元環境が発達する latest Spathian以外は 2-MHIと傾向が大まかに類似している(Fig. 7, Saito et al., 2016)。また,海洋表層水の温度に関しても,おおまかに見れば Dienerian/Smithian境界の寒冷化,Early Spathianの寒冷化,latest Spathianの寒冷化と 2-MHIの低下は一致している。海洋にも生息する Rhodopseudomonas palustrisの実験結果からは高温環境や pHストレス(酸性,アルカリ性)により 2-メチルホパノイドの生産量

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Fig. 6. Total ion chromatogram (TIC), carbon isotopic compositions of hydrocarbons, and dark gray and irregularly laminated microbialite at 148.1 m. A. TIC of saturated hydrocarbon fraction and carbon isotopic compositions of hydrocarbons of the microbialite. Number above peaks indicates 13C values of each compound. B. dark gray and irregularly laminated microbialite at 148.1 m. Data are after Saito et al. (2015).

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が(Kulkarni et al., 2013),豆科の植物と共生する土壌性の Bradyrhizobium diazoefficiensからは低酸素環境および酸性環境において 2-メチルホパノイドの生産量が増加する可能性(Kulkarni et al., 2015)が報告されている。これらの結果は,前期-中期三畳紀中の 2-MHIの挙動と酸化還元環境および海洋表層水の温度との調和を説明するかもしれない。しかし,高温環境や還元的環境が起こる環境では,その他の環境ストレスが存在していることも想定されるため,高い 2-MHIは,複数の環境ストレスに反応していることも考えられる。前期三畳紀後期の 2-MHIの急落はとても興味深い。α-プロテオバクテリア(Rhodopseudomonas palustris)の実験では,2-メチルホパノイドの生産量とテトラヒマノール(ガンマセランの元の有機分子,ガンマセランはガンマセランインデックスの分子)の生産量の関係は反比例の関係性がある可能性が明らかになっている(Neubauer et al., 2015)。前期三畳紀後期には低い 2-MHIと高いガンマセランインデックスの関係が一部見られる。Neubauer et al.,(2015)では,光合成独立栄養生物としてふるまう

Rhodopseudomonas palustris(この α-プロテオバクテリアは光合成独立栄養生物だけでなく,化学合成従属栄養生物や光合成従属栄養生物としてもふるまうことができる)の野生株,ΔhpnP株,Δshc株の膜脂質を調査した。hpnPはホパノイドの C2の位置にメチル化を起こす遺伝子である。また,shcはスクワレンからホパノイドやテトラヒマノールを生合成するための遺伝子である。Δシンボルは,人為的に遺伝子を削除した株という意味である(したがって ΔhpnPであれば,その株はホパノイドの 2位にメチル化をできないし,また,Δshc株であれば,スクワレンからホパノイドやテトラヒマノールを生合成できない(ホパノイドやテトラヒマノールを持たない株となる))。この研究の結果,ΔhpnP株では,野生株と比較して,テトラヒマノールの生合成量が 2倍になっていることが分かった(Neubauer et al., 2015)。つまり,2-メチルホパノイドを生合成できない株は,2-メチルホパノイドを生合成できる株と比較して,2倍のテトラヒマノールを生合成していたということである。Neubauer et al.(2015)では,この結果を受けて,2-メチルホパノイドとテトラヒマノールは,生合成

される量的にトレードオフの関係がある可能性を報告した。もし巣湖の late Spatianのガンマセランと 2-メチルホパノイドが専ら Rhodopseudomonas palustrisのような α-プロテオバクテリアに由来していたとしたら,高いガンマセランインデックスと低い 2-MHIは,このような α-プロテオバクテリアの生理学的特性によってもたらされていたことを示唆する。また,今回の前期-中期三畳紀の2-MHIの分布で最も重要な結果の一つは,中期三畳紀での 2-MHIの低下(< 10)が当該セクションでの生物の回復(高い多様性と量で特徴づけられる)と一致することであろう。このことは,環境ストレスが生物の回復を抑制していたことを直接支持する。真核藻類もペルム紀末大量絶滅後,時間とともに回復していった可能性が C21 n-アルキルベンゼンにより明らかにされている(Saito et al., 2016, Fig. 7)。C21 n-アルキルベンゼンは真核藻類,特に比較的新しい時代に出現した紅藻二次共生型の藻類(珪藻,渦鞭毛藻類,ハプト藻等)に高濃度(次に豊富な炭化水素と比べて最高 800倍)含まれる heneicosa-3, 6, 9, 12, 15, 18-hexaene(通称 HEH,Blumer et al., 1970)に由来する可能性が指摘されている(Ivanova and Kashirtsev, 2010)。この続成経路を提唱した Ivanoba and Kashirtsev (2010)で扱った試料はエディアカラ-カンブリア系の原油であり,これらの紅藻二次共生型の藻類は出現していない時代である。紅藻二次共生型の藻類は,分子時計からはペルム紀/三畳紀境界あたりで出現したと見積もられており,渦鞭毛藻に限っては,化石の証拠から,前期三畳紀末に出現していたことが確認されている(Falkowski et al., 2004)。しかし,渦鞭毛藻に由来するディノステランがカンブリア紀から見つかっている例(Moldowan, 1981)があるように,化石記録の年代がかならずしもその生物のバイオマーカーとなっている膜脂質の生合成経路の誕生年代と一致するわけではない。C21 n-アルキルベンゼンは,HEH以外の起源物質,特に脂肪酸からも続成作用により生成される。ただし,その場合には,C21だけでなく,その同族体も多かれ少なかれ同量程度生成される。従って,古環境の真核藻類からのインプットを見る際は,C21 n-アルキルベンゼンを,その前後の同族体のもので,規格

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化する必要がある。この同族体で規格化されたC21 n-アルキルベンゼン比は,ペルム紀末大量絶滅後,時間とともに増加していく。もしこの傾向が熟成度を反映したものだとすると,C21 n-アルキルベンゼンが上位の層準ほど前後の同族体と比較して高くなっているので,熟成度は上位に行くほど低くなる(熟成を受けていないため,クラッキングがあまりおきずに C21が突出したままになる )ことが考えられるが,熟成度指標(S/(S +R)C31 ホモホパン比等)の傾向は上位の層準程顕著に熟成度が低くなるというものではないため(Fig. 5,Saito et al., 2016),巣湖のC21 n-アルキルベンゼンの層序分布は熟成度の違いを反映したものではなく,真核藻類の増加を反映したものだと解釈できる。

5. まとめ

PT境界近傍の研究については,有機地球化学研究を含めて多数の研究が行われてきたが,ペルム紀末大量絶滅の原因の解明には至っていない。有機地球化学的研究により明らかにされた土壌流出イベントや還元環境イベント,バクテリアの増加イベントはペルム紀末大量絶滅発生時にも起こってはいるものの,絶滅より 16万年以上前から既に起こっており,タイミングは一致しない。また,2-MHIにより明らかにされる環境ストレスは,絶滅事変後に上昇する。このことは絶滅事変に起こった環境変動は 2-MHIを上昇させるような環境ストレスではないことを示しているかもしれない。前期三畳紀の研究はまだまだ始まったばかりで

あり,有機地球化学的研究もほとんど行われておらず,議論はまだまだ活発化していない。数少ない研究結果からは前期三畳紀にしか見られないような特徴(古細菌の寄与が多量にみられる微生物礁や長期間の劣悪な環境)が発見されており,今後の進展に期待したい。

謝 辞

このたびは 2014年日本有機地球化学会奨励賞(田口賞)を頂き,またこのような貴重な執筆の機会を頂きまして大変嬉しく思います。今回このような賞を頂くことができましたのは,多くの先生

方や諸先輩方,同僚・後輩のみなさまのおかげです。特にお世話になりました,海保邦夫教授,大庭雅寛博士,童金南教授,陳中強教授,坂田将博士,奈良岡浩教授,田力博士,高橋聡博士,石田章純博士,奈良郁子博士,藤林恵博士,谷津進修士,研究に限らず多大な協力と激励をしていただきました諸先輩方,同僚・後輩のみなさまには深く感謝いたします。また,本論文を査読くださり的確にご指摘くださいました高橋聡博士(東京大学)および匿名の査読者の方には深く感謝致します。この論文の執筆にあたり,辛抱強く完成を待って頂いたROG編集委員長の沢田健准教授(北海道大学)には,ご迷惑をおかけしたことをお詫びするとともに,お礼を申し上げます。

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