45
熊本大学学術リポジトリ Kumamoto University Repository System Title �TMEM65Author(s) �, Citation Issue date 2015-03-25 Type Thesis or Dissertation URL http://hdl.handle.net/2298/32249 Right

熊本大学学術リポジトリ Kumamoto University …reposit.lib.kumamoto-u.ac.jp/bitstream/2298/32249/6/...5 2. 学位論文の骨格となる参考論文 関連論文 本論文は学術雑誌に掲載された次の論文を基礎とするものである。

  • Upload
    others

  • View
    0

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

Page 1: 熊本大学学術リポジトリ Kumamoto University …reposit.lib.kumamoto-u.ac.jp/bitstream/2298/32249/6/...5 2. 学位論文の骨格となる参考論文 関連論文 本論文は学術雑誌に掲載された次の論文を基礎とするものである。

熊本大学学術リポジトリ

Kumamoto University Repository System

Title ミトコンドリアタンパク質TMEM65の構造機能解析

Author(s) 西村, 尚剛

Citation

Issue date 2015-03-25

Type Thesis or Dissertation

URL http://hdl.handle.net/2298/32249

Right

Page 2: 熊本大学学術リポジトリ Kumamoto University …reposit.lib.kumamoto-u.ac.jp/bitstream/2298/32249/6/...5 2. 学位論文の骨格となる参考論文 関連論文 本論文は学術雑誌に掲載された次の論文を基礎とするものである。

1

学位論文

Doctoral Thesis

ミトコンドリアタンパク質TMEM65の構造機能解析 (Characterization of mitochondrial protein TMEM65)

西村 尚剛

Naotaka Nishimura

熊本大学大学院医学教育部博士課程医学専攻分子遺伝学

指導教員

尾池 雄一 教授

熊本大学大学院医学教育部博士課程医学専攻分子遺伝学

2015年3月

Page 3: 熊本大学学術リポジトリ Kumamoto University …reposit.lib.kumamoto-u.ac.jp/bitstream/2298/32249/6/...5 2. 学位論文の骨格となる参考論文 関連論文 本論文は学術雑誌に掲載された次の論文を基礎とするものである。

2

目次

第 1章 要旨 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4

第 2章 学位論文の骨格となる参考論文 ・・・・・・・・・・・・・・・・・5

第 3章 謝辞 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6

第 4章 略語一覧 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7

第 5章 研究の背景と目的 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・9

5-1 ミトコンドリアの機能 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・9

5-1-1 ミトコンドリアとエネルギー産生 ・・・・・・・・・・・・・・・・9

5-1-2 ミトコンドリアとアポトーシス ・・・・・・・・・・・・・・・・11

5-1-3 ミトコンドリアと細胞内カルシウム濃度 ・・・・・・・・・・・・12

5-2 ミトコンドリアタンパク質の輸送 ・・・・・・・・・・・・・・・・12

5-2-1 ミトコンドリア輸送に関与するサイトゾル因子 ・・・・・・・・・12

5-2-2 外膜タンパク質の輸送 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・13

5-2-3 マトリックスタンパク質の輸送 ・・・・・・・・・・・・・・・・13

5-2-4 内膜タンパク質の輸送 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・14

5-2-5 膜間腔タンパク質の輸送 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・14

5-3 ミトコンドリアタンパク質前駆体のプロセシングに関与するプロテアーゼ ・16

5-4 ミトコンドリア病 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・16

5-4-1 ミトコンドリア病の症状 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・16

5-4-2 ミトコンドリア病の病因 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・17

5-5 本研究の目的 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・18

第 6章 材料と実験方法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・20

6-1 抗体類 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・20

6-2 試薬類 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・20

6-3 プラスミドの作製 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・21

6-4 細胞の培養 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・22

6-5 過剰発現株の作成 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・23

Page 4: 熊本大学学術リポジトリ Kumamoto University …reposit.lib.kumamoto-u.ac.jp/bitstream/2298/32249/6/...5 2. 学位論文の骨格となる参考論文 関連論文 本論文は学術雑誌に掲載された次の論文を基礎とするものである。

3

6-6 HeLa-S3細胞の siRNA処理 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・23

6-7 SDS-PAGEとウエスタンブロッティング法 ・・・・・・・・・・・・24

6-8 MtDsRedと hTMEM65-FLAGの二重染色 ・・・・・・・・・・・・・24

6-9 培養細胞からのオルガネラの回収 ・・・・・・・・・・・・・・・・25

6-10 核タンパク質の回収 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・25

6-11 ミトコンドリア膜分画と可溶性分画の分離 ・・・・・・・・・・・・26

6-12 ミトプラストとミトコンドリア外膜を含む分画の調製 ・・・・・・・26

6-13 酸素消費速度(OCR)および細胞外酸性化速度(ECAR)の測定 ・・・・27

6-14 細胞内 ATP含量の測定 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・27

6-15 膜貫通領域及び MPP認識配列の予測解析 ・・・・・・・・・・・・・28

6-16 統計学的処理 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・28

第 7章 実験結果 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・29

7-1 hTMEM65のアミノ酸配列解析 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・29

7-2 hTMEM65タンパク質の同定 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・30

7-3 hTMEM65の細胞内局在 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・31

7-4 hTMEM65のミトコンドリア内局在 ・・・・・・・・・・・・・・・・33

7-5 hTMEM65のミトコンドリア移行シグナルの同定 ・・・・・・・・・34

7-6 hhTMEM65の翻訳後修飾の解析 ・・・・・・・・・・・・・・・・・36

7-7 hTMEM65の欠損は細胞のエネルギー代謝を変化させる ・・・・・・・37

第 8章 考察 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・39

第 9章 結語 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・41

第 10章 参考文献 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・41

Page 5: 熊本大学学術リポジトリ Kumamoto University …reposit.lib.kumamoto-u.ac.jp/bitstream/2298/32249/6/...5 2. 学位論文の骨格となる参考論文 関連論文 本論文は学術雑誌に掲載された次の論文を基礎とするものである。

4

1. 要旨

Transmembrane protein 65(TMEM65)は、steroid receptor RNA activator (SRA)により発現制御を受ける可能性があるタンパク質である。また、SRA は、leucine-rich pentatricopeptide repeat containing protein( LRPPRC)及び SRA stem-loop-interacting RNA-binding protein(SLIRP)と共に ribonucleoprotein complexを形成し、ミトコンドリアにおける転写後翻訳を制御しているとされる。この

ため、SRAの下流である TMEM65は、ミトコンドリアの機能維持に重要な役割を担っている可能性がある。しかしながら、TMEM65の細胞内局在及び機能は、これまで不明であった。そこで本研究では、TMEM65 の細胞内局在をウエスタンブロッティング法及び免疫染色法にて解析した。その結果、TMEM65 はミトコンドリアに局在していることが示された。また、単離ミトコンドリアに対す

るアルカリ抽出法及びジギトニン抽出法を用いた解析の結果、TMEM65 はミトコンドリア内膜に局在する膜タンパク質であることが示された。さらに、

TMEM65の deletion mutantを用いた解析では、このタンパク質の N端領域(1-20)がミトコンドリアへの輸送に必須であり、mitochondrial targeting signal(MTS)中の 53番目のアルギニン残基が mitochondrial processing peptidase(MPP)の認識部位候補であることを明らかにした。ミトコンドリア内膜は酸化的リン酸化

の複雑な機構を介した ATP 産生の役割を担っている。そこで次に、HeLa-S3 細胞を用いて TMEM65 の knock down 実験を行い、エネルギー代謝に対するTMEM65の影響を Seahorse extracellular flux analyzer(XF24)にて評価した。その結果、TMEM65 の枯渇が細胞の酸素消費及び解糖の速度を変化させることを確認した。これらの結果は、TMEM65 が細胞内のエネルギー代謝において、重要な役割を担っている可能性を示している。今後は、TMEM65 欠損細胞内の代謝産物の解析を詳細に進めることで、細胞内エネルギー代謝における TMEM65の具体的な役割を明らかにしていきたい。

Page 6: 熊本大学学術リポジトリ Kumamoto University …reposit.lib.kumamoto-u.ac.jp/bitstream/2298/32249/6/...5 2. 学位論文の骨格となる参考論文 関連論文 本論文は学術雑誌に掲載された次の論文を基礎とするものである。

5

2. 学位論文の骨格となる参考論文

関連論文

本論文は学術雑誌に掲載された次の論文を基礎とするものである。 Naotaka Nishimura, Tomomi Gotoh, Yuichi Oike and Masato Yano. TMEM65 is a mitochondrial inner-membrane protein. Peer J. 2 : e349. doi: 10.7717/peerj.349, 2014.

Page 7: 熊本大学学術リポジトリ Kumamoto University …reposit.lib.kumamoto-u.ac.jp/bitstream/2298/32249/6/...5 2. 学位論文の骨格となる参考論文 関連論文 本論文は学術雑誌に掲載された次の論文を基礎とするものである。

6

3. 謝辞

本研究を遂行するにあたり、数多くの御指導、御鞭撻を賜りました熊本大学

大学院生命科学研究部分子遺伝学分野の尾池雄一教授、矢野正人博士(現熊本

保健科学大学准教授)並びに、熊本大学教育学部養護教論養成課程の後藤知己

教授に深く感謝致します。 本研究を遂行するにあたり、数多くの御助言やサポートをして下さった分子

遺伝学分野研究室の皆様に心より感謝致します。

Page 8: 熊本大学学術リポジトリ Kumamoto University …reposit.lib.kumamoto-u.ac.jp/bitstream/2298/32249/6/...5 2. 学位論文の骨格となる参考論文 関連論文 本論文は学術雑誌に掲載された次の論文を基礎とするものである。

7

4. 略語一覧

本論文において、以下の略語を用いた。

ABCB10:ATP-binding cassette transporter 10 AIP:arylhydrocarbon receptor interacting protein Apaf1:apoptotic peptidase activating factor 1 DsRed:Discosoma sp. red fluorescent protein ECAR:extracellular acidification rate EGFP:enhanced green fluorescent protein ETC:electron transport chain Hsc70:heat shock cognate protein 70 HSP40:heat shock protein 40 Hsp60:heat shock protein 60 HSP70:heat shock protein 70 HSP90:heat shock protein 90 IM:inner membrane IMS:inter membrane space LRPPRC:leucine-rich pentatricopeptide repeat containing protein LSFC:Leigh syndrome, French Canadian type MIP:mitochondrial intermediate peptidase MPP:mitochondrial processing peptidase mtHsp70:mitochondrial Hsp70 mtPTP:mitochondrial permeability transition pore MTS:mitochondrial targeting signal OCR:oxygen consumption rate Oxa1:Oxidase assembly 1 PBS:phosphate-buffered saline SG:sorting signal siRNA:small interfering RNA SLIRP:SRA stem-loop-interacting RNA-binding protein SRA:steroid receptor RNA activator

Page 9: 熊本大学学術リポジトリ Kumamoto University …reposit.lib.kumamoto-u.ac.jp/bitstream/2298/32249/6/...5 2. 学位論文の骨格となる参考論文 関連論文 本論文は学術雑誌に掲載された次の論文を基礎とするものである。

8

TCA:trichloroacetic acid TIM:translocase of the inner membrane TOB:topogenesis of mitochondrial outer membrane β-barrel protein TOM:translocase of the outer membarne TMEM65:transmembrane protein 65 XF24:Seahorse extracellular flux analyzer

Page 10: 熊本大学学術リポジトリ Kumamoto University …reposit.lib.kumamoto-u.ac.jp/bitstream/2298/32249/6/...5 2. 学位論文の骨格となる参考論文 関連論文 本論文は学術雑誌に掲載された次の論文を基礎とするものである。

9

5. 研究の背景と目的

5-1. ミトコンドリアの機能

5-1-1. ミトコンドリアとエネルギー産生

ミトコンドリアは真核生物に広く存在する細胞小器官であり、その主な機能

は好気呼吸を介して ATP 等のエネルギー基質を産生することである。また、ミトコンドリアは偏在的で動的な細胞小器官であり、各環境のエネルギー需要に

対応して活発な分裂と移動を行う(1, 2, 3)。一般的に、グルコースを基質としてエネルギー代謝が行われる場合、この過程は嫌気的行程及び好気的行程の 2種類のステップを介する。嫌気的行程は解糖系と呼ばれ、サイトゾル中で進行

する。また、この行程ではグルコース 1分子の異化に対して 2分子の ATPを消費し、その結果として 4分子の ATPと 2分子のピルビン酸を得る。さらに、ピルビン酸生成時の細胞が嫌気的条件下におかれている場合、産生されたピルビ

ン酸はサイトゾル中で還元され、2分子の乳酸を生成する(4)。これに対し、細胞が好気的条件下でピルビン酸の生成を行った場合、パスツール効果によって

嫌気的解糖系酵素が阻害され、生成されたピルビン酸はミトコンドリアマトリ

ックス内でアセチル CoAとなる(4, 5)。その後、アセチル CoAはミトコンドリアマトリックス内でクエン酸回路に取り込まれ、プロトン生成の基質となる(図

1)。なお、嫌気的解糖系酵素の阻害はパスツール効果以外に、ミトコンドリアにおけるクエン酸及び ATP の蓄積で生じる(5)。これは生理的な負のフィードバックであり、また、酸化ストレス等で機能不全に陥ったミトコンドリアへの

過剰な基質の供給を抑制するストレス応答反応でもある。 ミトコンドリアは、内膜(inner membrane, IM)及び外膜(outer membrane, OM)の二重膜構造を有する細胞小器官である。また、内膜と外膜に挟まれた空間は

膜間腔(inter membrane space, IMS)と呼ばれ、さらに内膜の内側にはマトリックス(Matrix)と呼ばれる領域が広がっている。このように、ミトコンドリアは二重膜で形成された2つの空間を持つ。また、この構造はミトコンドリアにお

ける ATP産生時に重要な意味を持つ(6)。 ミトコンドリアで ATP が好気的に産生される場合、クエン酸回路で生じたプロトンが内膜上の電子伝達系(electron transport chain, ETC)を介して、マトリッ

Page 11: 熊本大学学術リポジトリ Kumamoto University …reposit.lib.kumamoto-u.ac.jp/bitstream/2298/32249/6/...5 2. 学位論文の骨格となる参考論文 関連論文 本論文は学術雑誌に掲載された次の論文を基礎とするものである。

10

クスから膜間腔にくみ出される。ETC を介して形成されたプロトン勾配は、酸素消費と連動したミトコンドリア膜電位の上昇を生じさせ、生体の全ての細胞

において、そのエネルギー勾配は F1F0-ATP 合成酵素により ATP へと変換される(6)。 内膜に存在する ETCを介した ATP合成は、酸化的リン酸化を制御する 5つの複合体から成り、さらに複合体の構成には約 90個のタンパク質が関与しているとされる。また、酸化的リン酸化に関与する 13個のタンパク質はミトコンドリア DNAにコードされているが、内膜に局在するその他の大多数は核にコードされている(6)。これらミトコンドリア内膜に局在するタンパク質は、サイトゾルでプレ配列を持つ前駆体として合成され、ミトコンドリア移行後に

mitochondrial processing peptidase(MPP)で切断される(6, 7, 8)。 また、ミトコンドリア内膜は基本的に不透性であるため、ATP 合成に関与するタンパク質の他に、膜内外における物質の移動を担う膜輸送タンパク質が多

数存在する(7)。

Page 12: 熊本大学学術リポジトリ Kumamoto University …reposit.lib.kumamoto-u.ac.jp/bitstream/2298/32249/6/...5 2. 学位論文の骨格となる参考論文 関連論文 本論文は学術雑誌に掲載された次の論文を基礎とするものである。

11

図 1. 好気呼吸とエネルギー産生

グルコースを出発物質とする好気的エネルギー代謝の概略を示した。この代謝には、

嫌気的行程と好気的行程の連続した 2つのステップが存在する。1分子のグルコースは

嫌気的行程において、2分子のピルビン酸と 2分子の ATPを生成する。続いて、ピルビ

ン酸はミトコンドリアマトリックス内でアセチル CoA に代謝され、クエン酸回路に組

み込まれ、ミトコンドリア内膜電位形成に必須のプロトンを生成する。

5-1-2. ミトコンドリアとアポトーシス

好気呼吸を介したエネルギー産生を行うミトコンドリアは、常に種々の酸化

ストレスに曝されている。エネルギー産生の主要機関であるミトコンドリアの

機能不全は細胞の生存にとって致命的であり、ミトコンドリアはその機能を維

持するため、カタラーゼやグルタチオンペルオキシダーゼを始めとした数々の

Page 13: 熊本大学学術リポジトリ Kumamoto University …reposit.lib.kumamoto-u.ac.jp/bitstream/2298/32249/6/...5 2. 学位論文の骨格となる参考論文 関連論文 本論文は学術雑誌に掲載された次の論文を基礎とするものである。

12

抗酸化タンパク質を持つ(9, 10, 11)。しかし、これら抗酸化タンパク質の機能不全や、上記抗酸化タンパク質では処理しきれない過度の酸化ストレスが発生

した場合、処理されなかった過剰な活性酸素種がmitochondrial permeability transition pore(mtPTP)を活性化し、ミトコンドリア膜の透過性が亢進する(10, 12)。その結果、ミトコンドリア膜電位が消失し、ミトコンドリア内膜に存在する呼吸鎖複合体構成因子のシトクロムcがサイトゾル側に放出される。放出されたシトクロムcはカスパーゼ9及びapoptotic peptidase activating factor 1(Apaf1)を活性化し、下流のアポトーシスシグナルを促進させる(13, 14, 15)。

5-1-3. ミトコンドリアと細胞内カルシウム濃度

細胞内のカルシウム濃度の変化は、セカンドメッセンジャーやアポトーシス

シグナル等の細胞内情報伝達に重要な役割を果たしている。細胞内カルシウム

濃度を調整する主な細胞小器官は、小胞体とミトコンドリアである。ミトコン

ドリアのカルシウム貯蔵能は迅速かつ一過的であり、そのためミトコンドリア

は細胞内カルシウム濃度の緩衝作用に大きく貢献している(6)。ミトコンドリアにおけるカルシウム取り込みは、内膜に存在する Ca2+ uniporterにより行われる。ミコンドリア外のカルシウム濃度が上昇したとき、Ca2+ uniporterは膜電位に依存して膜間腔側のカルシウムをマトリックス内に取り込む。また、逆にサイ

トゾル側のカルシウム濃度が低下した場合は、ミトコンドリア内膜に存在する

Na+ /Ca2+ antiporterによる対向輸送により、マトリックスに貯蔵されたカルシウムを膜間腔側に流出させる。上記以外のカルシウム流出系では、ナトリウム非

依存的にカルシウムを流出させる経路として、H+/Ca2+ antiporterが考えられている。この経路では、ナトリウムに変わりプロトンの流入と交換にカルシウムを

膜間腔側に流出させると考えられている(6, 9, 16)。

5–2 ミトコンドリアタンパク質の輸送

5–2–1. ミトコンドリア輸送に関与するサイトゾル因子

ミトコンドリアタンパク質の多くは核にコードされており、転写された

mRNA はサイトゾル中の遊離リボソームにおいて翻訳される。尚、このとき合

Page 14: 熊本大学学術リポジトリ Kumamoto University …reposit.lib.kumamoto-u.ac.jp/bitstream/2298/32249/6/...5 2. 学位論文の骨格となる参考論文 関連論文 本論文は学術雑誌に掲載された次の論文を基礎とするものである。

13

成されるタンパク質の多くは、N 末端にプレ配列を持つ前駆体タンパク質である。このプレ配列は正電荷に富む mitochondrial targeting signal(MTS)として機能し、その配列の様式からαヘリックス構造を形成すると考えられている(7, 8)。 サイトゾルで合成された前駆体がミトコンドリア膜を通過するためには、前

駆体タンパク質が分子シャペロンによりアンフォールドされた状態を維持する

必要がある。この過程に関わる分子シャペロンの代表例として、heat shock protein 70(HSP70)や heat shock protein 90(HSP90)が挙げられる。また、HSP70に関してはコシャペロンである heat shock protein 40(HSP40)やシャペロン様分子 aryl hydrocarbon receptor interacting protein(AIP)と共役し、前駆体タンパク質のミトコンドリア取り込み効率を上昇させることが知られている(17, 18, 19)。 ミトコンドリアへ輸送された前駆体タンパク質は、ミトコンドリア外膜及び

ミトコンドリア内膜上にそれぞれ存在する translocase of the outer membrane(TOM)複合体及び translocase of the inner membrane(TIM)複合体を介して、ミトコンドリア内の各領域に輸送・挿入される(7, 8, 20, 21, 22)。

5–2–2. 外膜タンパク質の輸送

ミトコンドリア外膜タンパク質の輸送には複数の経路が知られているが、大

別して TOM 複合体を介する経路と介さない経路の2種に分けられる。TOM 複合体を介するミトコンドリア外膜タンパク質として、β-barrel 構造を有するTom40が知られている。この経路では、TOM複合体により膜間腔へ輸送されたタンパク質が、ミトコンドリア外膜上に存在する topogenesis of mitochondrial outer membrane β-barrel protein(TOB)複合体を経て外膜に挿入される。対して、TOM複合体を介さない輸送経路を経ると考えられるミトコンドリア外膜タンパク質として、Tom70や Tom20が挙げられる。これらのタンパク質はミトコンドリア外膜膜透過装置である TOM複合体の構成因子であり、N末端側に膜貫通領域を持つ(7)。 5–2–3. マトリックスタンパク質の輸送

正電荷に富むプレ配列を持つマトリックス前駆体タンパク質はアンフォール

ドな状態で外膜上の TOM複合体を通過し、内膜に存在する Tim23に到達する。

Page 15: 熊本大学学術リポジトリ Kumamoto University …reposit.lib.kumamoto-u.ac.jp/bitstream/2298/32249/6/...5 2. 学位論文の骨格となる参考論文 関連論文 本論文は学術雑誌に掲載された次の論文を基礎とするものである。

14

このとき、前駆体タンパク質のマトリックス輸送には内膜の膜電位が必要であ

る。通常、プロトンがくみ出されたマトリックスは負の電荷を持つため、正の

電化に富む前駆体タンパク質を電気的駆動力でマトリックス内に取り込む。こ

の取り込まれた前駆体タンパク質のプレ配列はマトリックス内で mitochondrial Hsp70(mtHsp70)と結合する。mtHsp70 はアンカーの役割を持つため、一度マトリックス内に取り込まれた前駆体タンパク質はマトリックス外へと流出する

ことはない(7, 20, 21, 22)。こうして取り込まれた前駆体タンパク質は、輸送途中または直後にMPPにより切断される。 5–2–4. 内膜タンパク質の輸送

内膜前駆体タンパク質は TOM複合体を介して膜間腔に取り込まれた後、3種類の経路を経ると考えられている。1つ目が、Tim22複合体を介した経路である。この経路は、疎水性の TIM複合体サブユニットの内膜輸送に使用されている。2つ目は、stop-transfer モデルと呼ばれる輸送経路である。この経路は、マトリックスタンパク質と同様に、Tim23 複合体を介して行われる(図 2)。内膜前駆体タンパク質の多くはプレ配列の後部に疎水性膜貫通領域(Sorting signal, SG)を持つため、内膜に膜貫通領域を挿入した状態で輸送を停止させる。輸送停止

後、前駆体タンパク質のプレ配列部分は MPP により切断除去される(7, 8)。3つ目は、conservative sortingと呼ばれる経路であり、複数の膜貫通領域を持つ内膜タンパク質の輸送に用いられる。この経路においては、Tim23複合体を介して一度マトリックスへと輸送された前駆体タンパク質のプレ配列がMPPにより切断除去された後、oxidase assembly 1(Oxa1)などの働きで内膜に挿入される(7, 21, 22)。

5–2–5. 膜間腔タンパク質の輸送

膜間腔前駆体タンパク質の輸送は、3つの経路に分けられる。まず、プレ配列の後ろに疎水性の膜貫通領域を持つクラス 1 膜間腔タンパク質は、内膜タンパク質の場合と同様の stop-transferモデル経路により輸送される(図 2)。この経路では前述の通り、内膜に膜貫通領域を挿入した状態で輸送が停止する。その後、

プレ配列中のミトコンドリア移行配列は、MPP により切断除去され、さらに膜

Page 16: 熊本大学学術リポジトリ Kumamoto University …reposit.lib.kumamoto-u.ac.jp/bitstream/2298/32249/6/...5 2. 学位論文の骨格となる参考論文 関連論文 本論文は学術雑誌に掲載された次の論文を基礎とするものである。

15

間腔側でプロテアーゼによる切断を受けた後に、成熟タンパク質が膜間腔に放

出される。これに対し、プレ配列を持たない小分子のクラス 2 膜間腔タンパク質は、folding trap と呼ばれる経路により輸送される。この経路では、前駆体タンパク質が TOM複合体を通過した後、ジスルフィド結合の形成や膜間腔内のコファクターを介してフォールディングを受ける。最後のクラス 3 膜間腔タンパク質も、プレ配列を持たない前駆体タンパク質である。これは、TOM複合体を通過後、外膜や内膜のタンパク質と相互作用することで膜間腔に局在する(7)。

図 2. ミトコンドリアタンパク質前駆体のミトコンドリア輸送経路

ミトコンドリアタンパク質前駆体の輸送経路を、ミトコンドリア内膜タンパク質及び

クラスⅠ膜間腔タンパク質、マトリックスタンパク質のそれぞれについて模式図で示し

た。前駆体タンパク質の MTSを赤色で示し、ソーティングシグナル(SG)を黄緑色で

示した。

Page 17: 熊本大学学術リポジトリ Kumamoto University …reposit.lib.kumamoto-u.ac.jp/bitstream/2298/32249/6/...5 2. 学位論文の骨格となる参考論文 関連論文 本論文は学術雑誌に掲載された次の論文を基礎とするものである。

16

5–3. ミトコンドリアタンパク質前駆体のプロセシングに関与するプロテアーゼ

ミトコンドリアタンパク質前駆体の多くは、そのプレ配列にミトコンドリア

移行シグナルを含む未成熟型としてサイトゾルで合成される。このプレ配列は

ミトコンドリア輸送後、または輸送に平行してプロテアーゼにより切断除去さ

れ、続くフォールディングの後にミトコンドリアタンパク質は成熟型となる。

これら翻訳後修飾を行うプロテアーゼの中で特に解析が進められている分子が、

ミトコンドリアマトリックスに存在するMPPである(8)。真核生物に存在するMPP の認識配列に関しては、酵母やほ乳類を用いた解析により、主に以下の3つの共通した特徴が存在することが知られている。(1)全体的に正電荷に富ん

だ配列を持つこと、(2)両親媒性のヘリックス構造をとること、(3)切断部

位から-2 の位置に R(アルギニン)を持つことである。また、MPP はαサブユニットとβサブユニットから構成されるメタロペプチダーゼであり(8, 23, 24)、その認識配列は、現在までに 4種類が同定されている:xRx↓x(S/x)(R-2 motif); xRx(Y/x)↓(S/A/x)x(R-3 motif); xRx↓(F/L/I)xx(S/T/G)xxxx↓(R-10 motif); xx↓x(S/x)

(R-non motif)。R-2 motif及び R-3 motifは、切断部位から-2または-3の位置にアルギニン残基を持つ典型的なMPP認識配列の例である。しかしながら、この2つのモチーフはMPPの直接的な切断に重要とされながらも、十分条件ではないことが数々の研究で明らかにされている。また、R-10 motifにおけるプロセシングに関しては、MPPと mitochondrial intermediate peptidase(MIP)の 2分子により連続して切断されることが知られている。この過程においては、MPP の認識配列に加え、MIPによる切断部位から-10の位置にあるアルギニン残基が重要であるとされる。また、プロテアーゼ切断部位付近にアルギニン残基を含まな

い R-noneモチーフの存在も報告されている。

5-4. ミトコンドリア病

5-4-1. ミトコンドリア病の症状

真核生物に広く存在するミトコンドリアは、ATP の産生を主な機能とする細胞小器官であると同時に、アポトーシスを初めとする多様な細胞内シグナルの

制御に関与している。そのため、ミトコンドリアの機能不全は様々な慢性疾患

Page 18: 熊本大学学術リポジトリ Kumamoto University …reposit.lib.kumamoto-u.ac.jp/bitstream/2298/32249/6/...5 2. 学位論文の骨格となる参考論文 関連論文 本論文は学術雑誌に掲載された次の論文を基礎とするものである。

17

の基礎病因となり得る(図 3)。このように、ミトコンドリア機能低下が病因である疾患を総称して、ミトコンドリア病と呼ぶ(2, 3)。本疾患の本邦における統計は出されていないが、欧米では 10 万人に 9~15 人という数字が算出されている。また、2009年 10月より本疾患は、国の難病対策の1つである特定疾患治療事業の対象となった(25, 26)。

図 3. ミトコンドリア病の症状一覧(参考文献 25改変)

ミトコンドリア病でよく見られる症状を、臓器ごとに示した。ミトコンドリアは全て

の細胞においてエネルギー産生を担っているため、その機能不全は全身の臓器に影響を

与える。特に、エネルギー需要の高い脳や筋肉等では症状が発現しやすく、ミトコンド

リア病はミトコンドリア脳筋症と呼ばれることもある。

5-4-2. ミトコンドリア病の病因

ミトコンドリア病の主たる病因として、ミトコンドリア機能維持に必須であ

る遺伝子の突然変異が知られている。これらの遺伝子は核 DNA及びミトコンドリア DNA(mtDNA)上にコードされており、本疾患に関わる変異は核 DNA上で約 200見つかっている。さらに mtDNAにおいては 100以上の病的点変異が同

Page 19: 熊本大学学術リポジトリ Kumamoto University …reposit.lib.kumamoto-u.ac.jp/bitstream/2298/32249/6/...5 2. 学位論文の骨格となる参考論文 関連論文 本論文は学術雑誌に掲載された次の論文を基礎とするものである。

18

定されている(2)。特に mtDNA の変異は老化に伴い細胞へと蓄積され、正常mtDNAと変異 mtDNAが共存している状態(ヘテロプラスミー)が形成される。また、上記の病態が進行した場合、mtDNA のほとんど全てが異常 mtDNA に置換され、ホモプラスミーを形成する場合もある。このホモプラスミーで同定さ

れる疾患には Leigh脳症が挙げられる(2, 27)。 前述の通り、ミトコンドリア病症状の好発部位として、脳や心筋などのエネ

ルギー需要性の高い組織が挙げられる。この疾患の一例として、Leigh脳症の一種である Leigh syndrome, French Canadian type(LSFC)が知られており、この疾患においては、大脳基底核の神経変性及び精神運動発達遅延が観察される。ま

た、ミトコンドリア病では嫌気的エネルギー産生が代償性に亢進するため、血

中や髄液中に解糖系代謝産物のピルビン酸や乳酸が蓄積し、アシドーシスを呈

する場合がある。LSFC患者でも、血中及び骨髄中の乳酸値が高いことが知られている(28, 29)。また、最近、LSFCの病態に leucine-rich pentatricopeptide repeat containing protein(LRPPRC)が深く関与していることが報告された(30)。LRPPRCはミトコンドリアにおける mRNAの安定性を制御しているとされ、その欠損は呼吸鎖複合体の機能不全を引き起こす。また、 LRPPRC は SRA stem-loop-interacting RNA-binding protein(SLIRP)と相互作用し、ribonucleoprotein comlexを形成すると報告されている(29, 30)。この ribonucleoprotein complexを構成するタンパク質の1つに steroid receptor RNA activator (SRA)があり、このタンパク質を knock down した場合に発現量が低下する遺伝子としてTransmembrane protein 65(TMEM65)が報告されている(31)。つまり、TMEM65の発現量は SRAによって調整されている可能性がある。

5–5. 本研究の目的

TMEM65は、少なくとも1つの膜貫通領域と、機能不明な DUF2453ドメインを有するタンパク質である。この TMEM65の細胞内局在及びアミノ酸配列に関する知見は未だ報告がなく、その機能や構造に関する情報の一切は不明のまま

であった。しかし、これまでの報告から、human TMEM65(hTMEM65)が LSFCの病態形成又はミトコンドリアの機能維持に関与する可能性が示唆されている。

そのため、本研究では、hTMEM65の機能解析とともに、その細胞内局在及び一次構造に関する解析を行った。

Page 20: 熊本大学学術リポジトリ Kumamoto University …reposit.lib.kumamoto-u.ac.jp/bitstream/2298/32249/6/...5 2. 学位論文の骨格となる参考論文 関連論文 本論文は学術雑誌に掲載された次の論文を基礎とするものである。

19

その結果、本研究では hTMEM65 がミトコンドリア内膜に局在する膜貫通タンパク質であることを明らかにした。さらに、このタンパク質の一次構造に関

わる知見として、N端(1-20)がミトコンドリアへの輸送に必須であること、及びMPPの認識部位候補としてMTS中の 53番目のアルギニン残基が考えられることを示した。加えて、hTMEM65を knock downした HeLa-S3細胞の酸素消費や解糖速度を評価することで、hTMEM65の細胞内エネルギー代謝に対する影響を評価した。今後の解析では、hTMEM65の生体における発現分布や高次構造に関する解析を行うと共に、hTMEM65欠損細胞内の代謝産物を詳細に解析することで、hTMEM65の生体及びミトコンドリアにおける役割を明らかにする予定である。

Page 21: 熊本大学学術リポジトリ Kumamoto University …reposit.lib.kumamoto-u.ac.jp/bitstream/2298/32249/6/...5 2. 学位論文の骨格となる参考論文 関連論文 本論文は学術雑誌に掲載された次の論文を基礎とするものである。

20

6. 材料と実験方法

6-1. 抗体類

次に示す各抗体は、購入したものを用いた。抗 DYKDDDDK マウス抗体(抗FLAG)(Wako、カタログ番号:012-22384)、抗 Hsc70 マウス抗体(Santacruz biotechnology、カタログ番号:sc-7298)、抗 Acetyl Histone H3(K9/K14)ウサギ抗体(Cell signaling、カタログ番号:9677S)、抗 Porinマウス抗体(Millipore)、抗Calnexinウサギ抗体(Enzo Life Sciences、カタログ番号:SPA-865)、抗 TMEM65ウサギ抗体(Sigma、カタログ番号:HPA025020)、抗 Hsp60マウス抗体(Enzo Life Sciense、カタログ番号:SPA806)、抗 ABCB10ウサギ抗体(Proteintech、カタログ番号:14628-1-AP)、HRP融合型抗マウス IgGヒツジ抗体(GE Healthcare、カタログ番号:NA9310V)、HRP融合型抗ウサギ IgGロバ抗体(GE Healthcare、カタログ番号:NA9340V)、抗マウス Alexa Fluor 488標識ヤギ抗体(Molecular Probe、カタログ番号:A-11001)。

6-2. 試薬類

プラスミドの作成時に使用した制限酵素類は、日本ジーン、TAKARA、TOYOBO、Bio-Radから購入した。DNA連結反応は、TAKARAから購入したDNA Ligation kit ver.2.1を用いて行った。小規模のプラスミド回収は、KUBOTAの PI-100型プラスミドアイソレーターを用いて行った。DNA の塩基配列の解析は、Applied Biosystems 社の 310 型 DNA シーケンサーおよび BigDye Terminator v1.1 Cycle Sequencing Kit を用いて行った。大規模なプラスミドの回収は、OriGene 社のPowerPrep HP Plasmid Midiprep Kitを用いて行った。タンパク質の定量は Bio-Rad社のプロテインアッセイキットを用いて行った。ウエスタンブロッティング法

に用いた分子量サイズマーカーとしては、Nicolai tesque社の Pre-stained Protein Markers (Broad Range) for SDS-PAGE 及び、SIGMA 社の MW-GF-1000 GEL Molecular Weight Markerを用いた。その他の試薬類は、Wako、ナカライテスク、SIGMAなどから購入した。合成オリゴヌクレオチドは Sigma社から購入した。

Page 22: 熊本大学学術リポジトリ Kumamoto University …reposit.lib.kumamoto-u.ac.jp/bitstream/2298/32249/6/...5 2. 学位論文の骨格となる参考論文 関連論文 本論文は学術雑誌に掲載された次の論文を基礎とするものである。

21

6-3. プラスミドの作製

hTMEM65を発現するプラスミド(pCMV6-Entry-hTMEM65)は OriGene社より購入した。なお、プラスミドはベクターとして pCMV6-Entryを使用しており、タンパク質のカルボキシ末端側に DDK tag(FLAG tag)及びMyc tagが融合したタンパク質を発現する。このため、内在性 hTMEM65 が 240 アミノ酸からなる約 26 kDaのタンパク質であるのに対し、pCMV6-Entry-hTMEM65より発現される hTMEM65-FLAGは、271アミノ酸からなる約 29 kDaのタンパク質となる(図4B)。また、本ベクターはネオマイシン耐性遺伝子を含んでおり、遺伝子導入された細胞をジェネティシン(G418)(Wako)で選別することが可能である。 hTMEM65の各領域と Enhanced Green Fluorescent Protein(EGFP)との融合タンパク質を発現するプラスミドは、pEGFP-N1(Clontech Laboratories)を元に構築した。TMEM65 の各領域の作成には、pCMV6-Entry-hTMEM65 を鋳型とし、表 1の各プライマーセットを用いて PCRを行い構築した。各プライマーセットの上流プライマーは EcoRIの認識配列を持ち、下流プライマーは BamHIの認識配列を持つ。得られた各 PCR産物は制限酵素 EcoRI及び BamHIで処理し、得られた DNA断片を、pEGFP-N1の EcoRI/BamHI切断部位に DNA連結反応により組み込んだ。以上の方法により構築されたプラスミドについては、シークエン

サーを用いた塩基配列解析を行い、組み込まれた DNAの塩基配列が正しいことを確認した。なお、本研究で用いた野生型及び変異型 hTMEM65 の一次構造を図 8Aに示す。

Page 23: 熊本大学学術リポジトリ Kumamoto University …reposit.lib.kumamoto-u.ac.jp/bitstream/2298/32249/6/...5 2. 学位論文の骨格となる参考論文 関連論文 本論文は学術雑誌に掲載された次の論文を基礎とするものである。

22

表 1 EGFP融合タンパク質発現プラスミド作製用プライマー

変 異 型

hTMEM65

名称

プライマー配列 下線部の

制限酵素

部位

aa1-20

Forward1:

5’AAAAAAGAATTCATGTCCCGGCTGCTG-3’

Reverse2:

5’-AAAAAAGGATCCAACGGGCCCGGCCTCAG-3’

EcoRI

BamHI

aa1-34

Forward1: 上記参照

Reverse3:

5’-AAAAAAGGATCCAAGCAGCAGCACCAGGA-3’

EcoRI

BamHI

aa1-64

Forward1: 上記参照

Reverse4:

5’-AAAAAAGGATCCAACTCCATGGGCTCCTTC-3’

EcoRI

BamHI

aa1-94

Forward1: 上記参照

Reverse5:

5’-AAAAAAGGATCCAAGAAGCGGTGCAGCTC-3’

EcoRI

BamHI

aa1-240

Forward1: 上記参照

Reverse6:

5’-AAAAAAGGATCCAGACTTTTCGTTTCCAGTTTTTC-3’

EcoRI

BamHI

6-4. 細胞の培養

ヒト子宮頸癌由来の HeLa-S3 細胞及び、アフリカミドリザル腎細胞由来のCOS-7細胞の培養は、培養液 A(DMEM培地(High glucose)(Wako))に 10% FCS(Nichirei Biosciences Inc.)およびペニシリン/ストレプトマイシン(Gibco)を加えたもの)を用いて、5% CO2、37℃条件下で行った。培養用のプレートには、FPI 社の無コーティングのプレート(直径 10cm)を用いた。細胞の継代は、トリプシン/EDTA(Wako)を用いて行った。

Page 24: 熊本大学学術リポジトリ Kumamoto University …reposit.lib.kumamoto-u.ac.jp/bitstream/2298/32249/6/...5 2. 学位論文の骨格となる参考論文 関連論文 本論文は学術雑誌に掲載された次の論文を基礎とするものである。

23

6-5. 過剰発現株の作製

過剰発現株の作製には、HeLa-S3細胞を用いた。HeLa-S3細胞へのプラスミドの導入は、Lipofectamine 2000 (Invitrogen) を用いて実施し、そのまま 2日間培養した後、培養液 B(培養液 Aに 400 µg/mlの G418を添加したもの)に交換して培養を継続した。2~3 週間後、プレート上のコロニーを全て回収した後、細胞懸濁液を 96穴培養用プレート(IWAKI)に限界希釈法で播種した。その後、単一細胞由来のクローンを過剰発現株の候補として複数回収した。以後、回収さ

れた候補株の培養は、培養液 B 中で行った。実際に回収されたクローンが目的タンパク質を発現しているか否かはウエスタンブロッティング法により確認し

た。各過剰発現株の名称として、pCMV6-Entry-hTMEM65 を導入して得られたものを hTMEM65-FLAG株と呼ぶことにした(各名称中の「FLAG」は「FLAG-tag」に由来する)。なお、タンパク質を発現しない空ベクターである pCMV6-Entryを導入して得られたものをコントロール株とした。

6-6. HeLa-S3細胞の siRNA処理

HeLa-S3細胞の内因性 hTMEM65を knock downするため、培養液 C (DMEM培地(High glucose)に 10% FCSを加えたもの)で懸濁した 0.75~1.0x105 cells/mlの HeLa-S3 細胞懸濁液に対し、hTMEM65 に対する siRNA(OriGene)をLipofectamine RNAi max(invitorogen)及び Opti-MEMⅠ(Gibco)を用いて導入した。トランスフェクションの方法は、リバーストランスフェクション法を用

いた。 使用した siRNA は 2 種類であり、それぞれの配列は siRNA1( GGAAUUAAGACAGUAACAGUAUAGA ) 、 siRNA2(AGAUACAACAUCAGCGUAUGAGUGA)である。内在性 hTMEM65の knock down効率は、siRNA導入から 3日後に細胞を回収して、ウエスタンブロッティング法により確認した。各 knock down細胞の名称として、siRNA1及び siRNA2を導入して得られたものを、それぞれ TMEM65-KD1及び TMEM65-KD2と呼ぶことにした。(各名称中の「KD」は knock downに由来する)。なお、コントロール細胞には Universal scrambled negative control siRNA duplex(OriGene)を導入したものを用いた(32)。トランスフェクション法に関しては、invitorogenのマニュアルに従った(33)。

Page 25: 熊本大学学術リポジトリ Kumamoto University …reposit.lib.kumamoto-u.ac.jp/bitstream/2298/32249/6/...5 2. 学位論文の骨格となる参考論文 関連論文 本論文は学術雑誌に掲載された次の論文を基礎とするものである。

24

6-7. SDS-PAGEとウエスタンブロッティング法

細胞を培養したディッシュから培養液を除去した後、1 mM EDTAを含む PBS(Phosphate buffered saline)を加え、ゆるやかにピペッティングすることにより、ディッシュに接着した細胞を剥がして回収した。回収した細胞は、PBS を加えて遠心分離することにより 2~3 回洗浄した後、2 種類の可溶化剤で処理した。1つは 1% Triton X-100 を含む PBS(Triton-PBS)であり、もう1つは(x2)SDS-PAGE用サンプルバッファー(50 mM Tris/HCl (pH 7.5), 2% SDS, 40% glycerol, 0.02% BPB, 2% 2-メルカプトエタノール)である。Triton-PBSで可溶化した場合、遠心分離により不溶性の沈殿物を除去した後、回収した上澄み液を

等量の(x2)SDS-PAGE用サンプルバッファーと混合して、95℃で 5分間加熱処理したものを SDS-PAGE用サンプルとし、SDSを含むポリアクリルアミドゲルを用いた電気泳動(SDS-PAGE)に用いた。また、Triton-PBSでの可溶化が困難なサンプルに関しては、(x2)SDS-PAGE用サンプルバッファーで細胞を直接可溶化して 95℃の 5 分間熱処理を施した後、遠心分離法にて不純物を除き、その上澄みを SDS-PAGE 用サンプルとした。電気泳動を行った後、ゲル内のタンパク質をニトロセルロースメンブレン(GE Healthcare)もしくは PVDF メンブレン (Millipore)に転写した。タンパク質を転写したメンブレンは、5%スキムミルクを含む TBSバッファー(10 mM Tris/HCl (pH 8.0), 150 mM NaCl)でブロッキングした後、一次抗体および二次抗体と順次反応させた(15)。なお、一次抗体はCan Get Signal solution 1(TOYOBO)もしくは 5%スキムミルクを含む TBSバッファーで希釈し、二次抗体は Can Get Signal solution 2(TOYOBO)で希釈して用いた。また、メンブレンを抗体と反応させた後には、1% Triton X-100を含む PBS(PBS-T)による洗浄を 3回ずつ行った。メンブレン上のタンパク質は ECL kit (GE Healthcare)および LAS-4000ルミノイメージアナライザー(GE Healthcare)を用いて検出した(34)。

6-8. MtDsRedと hTMEM65-FLAGの二重染色

コラーゲンコートした直径 35 mmのカバーガラス上で培養した COS-7細胞に、hTMEM65-FLAG及びMtDsRedを一過性に、Lipofectamine LTX(Invitrogen)及び Opti-MEMⅠ(Gibco)を用いて遺伝子導入し、強制発現した。遺伝子導入か

Page 26: 熊本大学学術リポジトリ Kumamoto University …reposit.lib.kumamoto-u.ac.jp/bitstream/2298/32249/6/...5 2. 学位論文の骨格となる参考論文 関連論文 本論文は学術雑誌に掲載された次の論文を基礎とするものである。

25

ら 24 時間後、カバーグラス上の細胞を 4% パラホルムアルデヒド(Wako)で20分間固定し、PBSで 3回の洗いを行った。その後、cold methanolにて 15分間の膜透過処理を行い、PBS で 3 回の洗いを行った。染色は、1 次抗体として抗FLAG抗体を 4℃でオーバーナイト処理し、その後に 3回の洗いを PBSで行い、2次抗体として抗マウス Alexa Fluor 488標識ヤギ抗体を室温で 2時間処理した。2次抗体で処理した後、PBSで 3回洗いを行い、最後に Dako Fluorescent Mounting Medium(Dako、カタログ番号:S3023)を用いて封入した。なお、各抗体は 0.1% BSA(Sigma)リン酸緩衝液にて希釈した。また、MtDsRed は後藤博士から御供与頂いた(35)。

6-9. 培養細胞からのオルガネラの回収

培養細胞からのオルガネラの回収は、矢野博士が過去に実施した簡便法を参

考にして行った(34)。具体的には、回収した培養細胞を洗浄した後、ミトコンドリア回収用バッファー(MT-iso-buf)(3 mM HEPES/KOH (pH7.5), 210 mM mannitol, 70 mM sucrose, 0.2 mM EGTA)に懸濁し、Downce homogenizerを用いて細胞を破砕した。破砕されなかった細胞や核を沈殿物として除去するため、得

られた細胞溶液を340 mMスクロース溶液上にて500x gで遠心分離して上澄みの純化を行った。この操作は、3回繰り返し行った。こうして得られた上澄みは、最終的に10,000x gで遠心分離することにより、ミクロソーム及びサイトゾルを含む上澄み液と、ミトコンドリアを含む沈殿物に分けた。沈殿物については、

MT-iso-bufに再懸濁した後、340 mMスクロース溶液上にて10,000x gでの遠心分離を行い、得られた沈殿物をミトコンドリア画分として回収した。一方、上澄

み液については、10,000x gでの遠心分離による上澄みの回収を5回以上行い、沈殿物が出なくなるのを確認した後、さらに100,000x gでの遠心分離を行い、これにより得られた沈殿物をミクロソーム画分として回収した。また、この時に得

られた上澄み液をサイトゾル画分として回収した。

6-10. 核タンパク質の回収

培養細胞から核タンパク質を回収する手法は、Edgar Schreiberらの方法を参考にした(36)。まず、トリプシン/EDTAを用いて培養細胞をプレートから剥がし

Page 27: 熊本大学学術リポジトリ Kumamoto University …reposit.lib.kumamoto-u.ac.jp/bitstream/2298/32249/6/...5 2. 学位論文の骨格となる参考論文 関連論文 本論文は学術雑誌に掲載された次の論文を基礎とするものである。

26

た。トリプシン/EDTAの停止は培養液Cで行い、その一部を血球計算板に分取して、細胞が球状に剥がれていることを確認した。遠心分離により細胞を回収し

た後、Complete, Mini EDTA-free (Roche Applied Science、カタログ番号:1 836 170)を含む1% Triton バッファー A(10 mM HEPES (pH7.9), 10 mM KCl, 0.1 mM EDTA, 1 mM DTT)で細胞を再懸濁し、氷上にて30分間静置することで、細胞膜を可溶化した。室温でボルテックス処理を施し、完全に核から細胞膜を剥がし

た後、細胞懸濁液の一部を血球計算版に分取し、細胞の破砕及び核の懸濁を確

認した。確認後、核懸濁液を500x gで遠心することで、沈殿物として核を得た。得られた核はPBSで1回の洗いを行った後、再び500x gで遠心して回収し、Complete, Miniを含む0.1% NP40 バッファー B(20 mM HEPES (pH7.9), 0.4 M NaCl, 1 mM EDTA, 1 mM DTT, 10% Glycerol)に再懸濁した後、4℃にて1時間ボルテックスミキサーで処理した。その後、上澄みを10,000x gで遠心し、未破砕細胞及び未破砕核を除いたものを核タンパク質として回収した。また、Triton処理していないHeLa-S3を直接0.1% NP40バッファー Bで処理することで、総タンパク質を得た。

6-11. ミトコンドリア膜分画と可溶性分画の分離

単離ミトコンドリアの一部を全ミトコンドリア分画として回収し、残りを

0.1M Na2CO3 (pH10.5)に再懸濁し、Bioruptor(Cosmo Bio)で超音波処理を施した。その後、氷上に30分間静置させたものを100,000x gで遠心し、沈殿物をミトコンドリア膜分画として回収した。さらに、上澄み液に10% trichloroacetic acid (TCA)を加え、10,000x gで遠心することで可溶性分画を沈殿物として回収した(37)。

6-12. ミトプラストとミトコンドリア外膜を含む分画の調製

単離ミトコンドリアの一部を全ミトコンドリア分画として回収(100 µg)し、残り(120 µg相当)を0.15 mg/mlジギトニン液 1 mlに懸濁し、Micro tube mixer MT-360(Tomy)を用いて室温で15分間激しくmixさせた。その後、10,000x gで遠心し、沈殿物からミトプラストを回収した。さらに、10% TCAで処理した上澄みを10,000x gで遠心し、その沈殿物から外膜を含む分画を得た。

Page 28: 熊本大学学術リポジトリ Kumamoto University …reposit.lib.kumamoto-u.ac.jp/bitstream/2298/32249/6/...5 2. 学位論文の骨格となる参考論文 関連論文 本論文は学術雑誌に掲載された次の論文を基礎とするものである。

27

6-13. 酸素消費速度(OCR)および細胞外酸性化速度(ECAR)の測定

培養細胞のエネルギー代謝の指標となる酸素消費速度(OCR)と細胞外酸性化速度 (ECAR)の測定には、Seahorse extracellular flux analyzer (XF24)(Seahorse Bioscience)を使用した。本手技は、Minらの方法を参考に行っている。まず、予め前培養しておいた各培養細胞を回収してセルカウンターで細胞数を計算し

た後、細胞を希釈してXF24測定用の24穴プレート1穴あたり約5.0~7.5x103個の

細胞をまいた。37℃、5% CO2下で16~20時間の培養を行った後、培地をXF24アッセイ用培地(ECAR測定用のpH緩衝剤を含まない培地)に交換し、37℃、通常大気下で1時間インキュベートした。その後、XF24本体にプレートをセットし、OCRおよびECARの測定を行った。なお、解析プログラムは、1つの条件につき測定を3回繰り返すように設定した(1回の測定にはMix 3分間、Wait 2分間、Measure 3分間のステップが含まれる)(38)。XF24による測定後、細胞をHoechst 33342で核染色し、BZ-9000型蛍光顕微鏡下(KEYENCE)で撮影した画像をもとに細胞数を計測して、細胞1個あたりのOCRおよびECARの値を算出した。

6-14. 細胞内 ATP含量の測定

細胞の ATP 含量測定は、ルシフェラーゼの発光反応を基礎とする、『細胞の』ATP測定試薬(東洋インキ、カタログ番号:CA50)を用いて行った。まず、96 well plate(Iwaki)に 2.5 x 104 cell/mlの細胞懸濁液を 100 µl/wellとなるように播種した。24時間後、各 wellに『細胞の』ATP測定試薬を 100 µl/wellで加え、1分間マイクロプレートシェイカーで混合した後、室温で 10分間静置した。その後、サンプル 100 µlを 1.5 mlエンッペンドルフチューブに移し、Turner Designs Luminometer Model TD-20/20(Promega) でルシフェラーゼの発光量を測定した。なお、ATP含量は細胞数で補正した。このときの細胞数は、細胞を ATP測定試薬で可溶化する直前に、Incucyte Zoom(Essen BioScience)で撮影した細胞の画像(1 wellあたり 4枚)をもとに計算した。

Page 29: 熊本大学学術リポジトリ Kumamoto University …reposit.lib.kumamoto-u.ac.jp/bitstream/2298/32249/6/...5 2. 学位論文の骨格となる参考論文 関連論文 本論文は学術雑誌に掲載された次の論文を基礎とするものである。

28

6-15. 膜貫通領域及びMPP認識配列予測解析

hTMEM65 における膜貫通領域の予測は PSPORT 予測プログラムを用いて行った(39)。このときの閾値として、-1.91 を用いた。MPP 認識配列の予測に関しても、同プログラムを使用した。

6-16. 統計学的処理 データの分析は特に記述がない限り、スチューデントの t検定を用いた。

Page 30: 熊本大学学術リポジトリ Kumamoto University …reposit.lib.kumamoto-u.ac.jp/bitstream/2298/32249/6/...5 2. 学位論文の骨格となる参考論文 関連論文 本論文は学術雑誌に掲載された次の論文を基礎とするものである。

29

7. 実験結果

7-1. hTMEM65のアミノ酸配列解析

TMEM65のmRNA発現量は、SRAの発現と相関があると報告されている(31)。しかしながら、TMEM65の機能や細胞内局在はこれまで不明であった。そこで、TMEM65の細胞内局在を探索した。まず初めに、human TMEM65(hTMEM65, 240 amino acids, Gene Bank accession number: NM_194291)のアミノ酸配列を対象にPSORT予測解析を行った。その結果、hTMEM65は 3つの膜貫通領域を持ち、且つ、52~56の間にあるアミノ酸配列(RRL|GT)はMPPの認識配列である R-2モチーフ(xRx↓x(S/x))(7, 8)に当たることが示唆された(図 4)。

図 4. hTMEM65のアミノ酸配列及び各領域の模式図(文献 41より改変)

(A)hTMEM65のアミノ酸配列。(B)hTMEM65(約 26 kDa)及び FLAG融合型 TMEM65

(約 29 kDa)における各ドメインの模式図。MPP の認識配列(R-2 モチーフ)と膜貫

通領域(TM)は、PSORT で予測した。黒色の三角形は MPP の予測切断サイトを示し

ている。斜線で囲われた領域は膜貫通領域を示し、それぞれ TM1, 122-138; TM2, 145-161;

TM3, 211-227に相当する。黒色の領域は推定される MTS(約 5 kDa)を表している。ま

Page 31: 熊本大学学術リポジトリ Kumamoto University …reposit.lib.kumamoto-u.ac.jp/bitstream/2298/32249/6/...5 2. 学位論文の骨格となる参考論文 関連論文 本論文は学術雑誌に掲載された次の論文を基礎とするものである。

30

た、灰色の領域は C端に融合させた FLAG tag(約 3 kDa)を示している。

7-2. hTMEM65タンパク質の同定

次に、hTMEM65 タンパク質の分子量を確認するために、FLAG 融合型hTMEM65(hTMEM65-FLAG)発現ベクターを HeLa-S3 細胞に遺伝子導入して強制発現させ、抗 FLAG抗体(左のパネル)及び抗 TMEM65抗体(右のパネル)を用いて、その発現量変化をウエスタンブロッティング法により評価した (図5A )。その結果、hTMEM65過剰発現株では、コントロール株に比べて約 24 kDa付近にシグナルの増加を認めた。また、FLAG タンパク質の分子量が約 3 kDaであることを考慮すると、内因性 hTMEM65の分子量は約 21 kDaと推定される。しかしながら、アミノ酸配列から予想される hTMEM65の分子量は 26 kDaである。

図 5. hTMEM65タンパク質の同定(文献 41より転載)

(A)hTMEM65-FLAG 発現プラスミド及びコントロールベクターを安定的に発現する

HeLa-S3細胞から総タンパク質を抽出し、SDS-PAGEにより分離した。続いて、抗 FLAG

抗体(左のパネル)及び抗 TMEM65 抗体(右のパネル)を用いて、ウエスタンブロッ

Page 32: 熊本大学学術リポジトリ Kumamoto University …reposit.lib.kumamoto-u.ac.jp/bitstream/2298/32249/6/...5 2. 学位論文の骨格となる参考論文 関連論文 本論文は学術雑誌に掲載された次の論文を基礎とするものである。

31

ティング法にて解析を行った。

(B)スクランブル siRNA(control)及び hTMEM65-siRNA(hTMEM65-KD)を HeLa-S3

細胞に導入した。導入から 3日後、回収した細胞を溶解し、ウエスタンブロッティング

法にて解析した。シグナルの検出には、抗 TMEM65抗体を用いた。

続いて、内因性 hTMEM65のサイズを確かめるため、siRNAを用いて HeLa-S3細胞における内因性 hTMEM65を knock downし、抗 TMEM65抗体を用いて、ウエスタンブロッティング法におけるどのバンドが消失するかを見ることによ

って、内因性 hTMEM65のバンドを確認した (図 5B)。その結果、コントロール株では約 21 kDa付近にバンドが出現したが、そのバンドは siRNA処理によって消失した。このことは、約 21 kDaのバンドが内因性の hTMEM65であることを示している。よって、TMEM65 は翻訳後修飾を受けた後、成熟したタンパク質になると考えられる。 7-3. hTMEM65の細胞内局在

次に、TMEM65 の細胞内局在を調べるため、COS-7 細胞に hTMEM65-FLAGと MtDsRed(ミトコンドリア移行シグナルを付加した蛍光タンパク質)を共発現させ、抗 FLAG 抗体を用いて免疫染色した。その後、蛍光顕微鏡下で

hTMEM65-FLAGとDsRedの蛍光を観察した(図6A)。このとき、hTMEM65-FLAG及びMtDsRedを共発現させた COS-7において、hTMEM65-FLAG由来の緑色蛍光とMtDsRed(ミトコンドリア)由来の赤色系蛍光の局在が一致した(図 6AのMerge参照)。この結果は、TMEM65がミトコンドリアタンパク質であることを強く示唆した。 続いて、HeLa-S3 細胞のホモジネートから調製した粗細胞分画に対し、抗TMEM65 抗体及び各細胞分画マーカーの抗体を用いてウエスタンブロッティング法を行った (図 6B )。その結果、抗 TMEM65抗体で検出された約 21 kDaの内因性 hTMEM65は、ミトコンドリアタンパク質である Porinと同じくミトコンドリア分画に濃縮されることが分かった。このことは、hTMEM65がミトコンドリアタンパク質であることを強く示している。多くのミトコンドリアタンパク質

は、サイトゾルで N 端にプレ配列を持った前駆体として合成されることが知られている。さらに、ミトコンドリア内膜及びマトリックスに局在するタンパク

Page 33: 熊本大学学術リポジトリ Kumamoto University …reposit.lib.kumamoto-u.ac.jp/bitstream/2298/32249/6/...5 2. 学位論文の骨格となる参考論文 関連論文 本論文は学術雑誌に掲載された次の論文を基礎とするものである。

32

質のプレ配列は、ミトコンドリア輸送の間にMPPで切断される。図 5と図 6の結果は、hTMEM65が約 26 kDaの前駆体としてサイトゾルで合成され、ミトコンドリアにて約 21 kDaの成熟したタンパク質へとプロセシングされる可能性を示している。hTMEM65はN端に約 5 kDaのMTSと推定される領域を持つため、これがミトコンドリア移行の間に切断されると予想される(図 4)。

図 6. hTMEM65の細胞内局在(文献 41より転載)

(A)hTMEM65-FLAG発現ベクター及び、MtDsRed発現ベクターを遺伝子導入し、COS-7

細胞に共発現させた。遺伝子導入から 24時間後、抗 FLAG抗体及び抗マウス Alexa Fluor

488 標識ヤギ抗体を用いて、免疫染色を行った後、蛍光顕微鏡下で撮影した。緑色が

hTMEM65-FLAGであり、赤色が MtDsRedである。また、上記2つの写真を重ね合わせ、

両者の局在が一致する場合は、オレンジを呈する(Merge)。スケールバーは、50 µmで

ある。(B)「材料と実験方法」に記載した手技に従い、HeLa-S3 細胞のホモジネートか

ら粗細胞分画を濃縮回収し、SDS-PAGEを用いて分離した。その後、ウエスタンブロッ

ティング法を用いて TMEM65 の細胞内局在を検討した。このとき用いた抗体は、抗

TMEM65抗体、抗 Histone抗体(核分画)、抗 HSc70抗体(サイトゾル分画)、抗 Porin

抗体(ミトコンドリア分画)、抗 Calnexin抗体(ミクロソーム分画)である。

Page 34: 熊本大学学術リポジトリ Kumamoto University …reposit.lib.kumamoto-u.ac.jp/bitstream/2298/32249/6/...5 2. 学位論文の骨格となる参考論文 関連論文 本論文は学術雑誌に掲載された次の論文を基礎とするものである。

33

7-4. hTMEM65のミトコンドリア内局在

次に、TMEM65 のミトコンドリア内局在を検討するため、HeLa-S3 細胞より回収した単離ミトコンドリアに対してアルカリ抽出を行い、抗 TMEM65抗体を用いたウエスタンブロッティング法にて評価した(図 7A)。このとき、膜分画のコントロールとしてミトコンドリア外膜に局在する膜輸送タンパク質の Porinを用いた(34)。また、可溶性画分のコントロールとして、ミトコンドリアマトリックスに局在する分子シャペロンの Hsp60を用いた(34)。その結果、TMEM65はミトコンドリア外膜タンパク質である Porinと同様に、アルカリ抽出に対して耐性を示した。一方で、ミトコンドリアマトリックスの可溶性タンパク質であ

るHsp60は、アルカリ抽出により可溶性区分に検出された。この結果は、TMEM65がミトコンドリア膜タンパク質であることを示している。

図 7. hTMEM65のミトコンドリア内局在(文献 41より転載)

(A)HeLa-S3 細胞より単離したミトコンドリアに対し、アルカリ抽出を行った。これ

により、総ミトコンドリア(W)及び、可溶性分画(S)、アルカリ耐性分画(AR)を

得た。続いて、抗 TMEM65抗体を用いて、ウエスタンブロッティング法にて評価した。

このとき、ミトコンドリア Porin(ミトコンドリア外膜タンパク質)、Hsp60(マトリッ

クスタンパク質)を各分画のコントロールとして同時に検出した。(B)HeLa-S3細胞よ

り得た単離ミトコンドリアに対し、ジギトニン抽出を行い、外膜分画(OM)と内膜分

画及びマトリックス分画(IM+Matrix)を分離した。これらの分画と総ミトコンドリア

を、抗 TMEM65 抗体を用いたウエスタンブロッティング法で評価した。このとき、ミ

トコンドリア Porin(外膜タンパク質)及び ABCB10(内膜タンパク質)を各分画のコ

ントロールとして用いた。

Page 35: 熊本大学学術リポジトリ Kumamoto University …reposit.lib.kumamoto-u.ac.jp/bitstream/2298/32249/6/...5 2. 学位論文の骨格となる参考論文 関連論文 本論文は学術雑誌に掲載された次の論文を基礎とするものである。

34

次いで、内因性 hTMEM65 がミトコンドリア外膜と内膜のどちらに局在しているかを検討するため、HeLa-S3細胞から回収したミトコンドリアに対し、ジギトニン抽出を行った(図 7B)。このとき、内膜分画のコントロールには、ミトコンドリア内膜に局在する膜輸送タンパク質の ABCB10 を用いた(40)。また、外膜分画のコントロールには Porin を用いた。その結果、TMEM65 はミトコンドリア内膜タンパク質である ABCB10 同様に、ミトコンドリア内膜・マトリックス分画に抽出された。これに対し、ミトコンドリア外膜に局在する Porinはミトコンドリア外膜分画にて検出された。これらの結果は、TMEM65 がミトコンドリア内膜タンパク質であることを示している。

7-5. hTMEM65のミトコンドリア移行シグナルの同定

前述の通り、多くのミトコンドリアタンパク質はサイトゾルで N端にMTSを持った前駆体として合成され、ミトコンドリアに輸送される(7, 8)。このMTSはアルギニン残基を豊富に含み、正に帯電している。この MTS が MPP により切断除去された後、ミトコンドリアタンパク質は成熟型となる。この過程は、

未成熟なミトコンドリアタンパク質がミトコンドリア内部に輸送される際に平

行して起こる現象である。 TMEM65 は N 端に多くの正に帯電したアミノ酸残基を持つ。そこで、hTMEM65がミトコンドリア移行シグナルを持ち、かつ、タンパク質の成熟化の過程でそのシグナル配列は切断除去されると仮定した(図 4)。 この可能性を検討するために、EGFPを C端に融合させた hTMEM65の各配列deletion mutantを発現するベクターを作成した(図 8A)。各変異体は全てMTSと推定される aa1-20を含んでいる。これら EGFP融合型 hTMEM65変異体を遺伝子導入により、MtDsRedと共に COS-7細胞に共発現させ、各 EGFP融合型変異体及び MtDsRed の局在を共焦点レーザー顕微鏡を用いて観察した (図 8B)。その結果、全ての EGFP 融合型 hTMEM65 変異体は、ミトコンドリアに局在するMtDsRedと同一の局在を示した。一方、EGFPはサイトゾルに留まった。これらのことは、TMEM65 の aa1-20 は TMEM65 のミトコンドリアへの移行に十分であることを示した。

Page 36: 熊本大学学術リポジトリ Kumamoto University …reposit.lib.kumamoto-u.ac.jp/bitstream/2298/32249/6/...5 2. 学位論文の骨格となる参考論文 関連論文 本論文は学術雑誌に掲載された次の論文を基礎とするものである。

35

図 8. hTMEM65のミトコンドリア移行シグナルの同定(文献 41より改変、転載)

(A)C端に EGFPを融合させた hTMEM65 deletion mutantの構造を示す。黒色の領域は

推定されるミトコンドリア移行シグナル(MTS)を表している。また、斜線で囲われた

領域は膜貫通領域(TM)を示し、緑色の領域は EGFP を意味する。(B)EGFP 融合型

hTMEM65 を MtDsRed と共に、COS-7 細胞に共発現させた。各蛍光は共焦点レーザー

顕微鏡下で観察し、撮影した。緑色が hTMEM65-EGFP であり、赤色が MtDsRed であ

る。また、上記2つの写真を重ね合わせ、両者の局在が一致する場合はオレンジを呈す

る(Merge)スケールバーは、50 µMである。

Page 37: 熊本大学学術リポジトリ Kumamoto University …reposit.lib.kumamoto-u.ac.jp/bitstream/2298/32249/6/...5 2. 学位論文の骨格となる参考論文 関連論文 本論文は学術雑誌に掲載された次の論文を基礎とするものである。

36

7-6. hTMEM65の翻訳後修飾の解析

次に、約 5 kDaのMTSがミトコンドリア輸送中に切断され得るかを検討するため、COS-7細胞に各 deletion mutantを強制発現し、それらタンパク質をウエスタンブロッティング法で解析した(図 9)。その結果、MTS部分が切断されていない未修飾のタンパク質と思われるバンドは、(1-20)hTMEM65-EGFP 及び(1-34)hTMEM65-EGFP のサンプルで観察された。尚、同サンプルで EGFP と思われるバンドも、併せて観察された。これは、未切断のMTSが、その不安定性故に部分分解を受けた結果であると思われる。上記の結果に対し、

(1-64)hTMEM65-EGFP 及び(1-94)hTMEM65-EGFP を発現させたサンプルにおいては、プロセシングを受けたタンパク質が観察された。しかしながら、これら

のサンプルにおいて EGFPに相当するバンドは検出されなかった。このことは、プロセシングを受けたタンパク質はミトコンドリアにおいて安定であることを

示している。以上の結果を合わせて考えると、hTMEM65のMPP認識配列は 35と 64番目のアミノ酸の間に存在すると考えられる。

図 9. hTMEM65の MTSにおける翻訳後修飾の解析(文献 41より改変、転載)

(A)本実験で使用した EGFP融合型 TMEM65の各 deletion mutantを示す。(B)EGFP

融合型 TMEM65を COS-7に発現させ、ウエスタンブロッティング法にて解析した。こ

のとき用いた抗体は抗 EGFP抗体である。hTMEM65-EGFPsに相当すると思われるバン

ドは、アスタリスクで示している。また、プロセシングを受けた hTMEM65-EGFPs に

相当すると考えられるバンドは、ハッシュマークで示した。

Page 38: 熊本大学学術リポジトリ Kumamoto University …reposit.lib.kumamoto-u.ac.jp/bitstream/2298/32249/6/...5 2. 学位論文の骨格となる参考論文 関連論文 本論文は学術雑誌に掲載された次の論文を基礎とするものである。

37

7-7. hTMEM65の欠損は細胞のエネルギー代謝を変化させる 内因性 hTMEM65のエネルギー代謝における役割を検討するため、hTMEM65を knock down した HeLa-S3 細胞における酸化的リン酸化と解糖の割合を、Seahorse extracellular flux analyzer (XF24)を用いて評価した。解糖の乳酸産生の指標である細胞外酸性化速度 (ECAR)及び、酸化的リン酸化の指標である酸素消費速度 (OCR)の評価は、緩衝能を持たない XF24 専用の培地で行った。興味深いことに、内因性 TMEM65の knock downは、OCR/ECAR及び OCRの値を有意に上昇させ、ECARの値を減少させた(図 10A)。また、内因性 hTMEM65を knock downした HeLa-S3における ATP含量を、ルシフェラーゼ発光反応を用いて評価した。その結果、細胞内の総 ATP含量は上昇傾向にあるものの、劇的な OCRの増加にも関わらず、大きな変化は見られなかった (図 10B)。これらのデータは、hTMEM65 の欠損が引き起こした細胞内エネルギー代謝の変動は、bioavailable energyに対して大きな影響を与えないことを示している。

Page 39: 熊本大学学術リポジトリ Kumamoto University …reposit.lib.kumamoto-u.ac.jp/bitstream/2298/32249/6/...5 2. 学位論文の骨格となる参考論文 関連論文 本論文は学術雑誌に掲載された次の論文を基礎とするものである。

38

図 10. TMEM65とエネルギー代謝

(A)siRNAを用いて TMEM65を knock downした HeLa-S3細胞に対し、XF24アッセ

イを行った。OCR及び ECARの測定は siRNA導入 3日後に行い、得られた測定値は細

胞数により補正した。(B)TMEM65を図 10A同様に knock downした HeLa-S3細胞に

おける ATP含量を測定した。測定には、『細胞の』ATP測定試薬を用いた。また、得ら

れた測定値は細胞数により補正した。

Page 40: 熊本大学学術リポジトリ Kumamoto University …reposit.lib.kumamoto-u.ac.jp/bitstream/2298/32249/6/...5 2. 学位論文の骨格となる参考論文 関連論文 本論文は学術雑誌に掲載された次の論文を基礎とするものである。

39

8. 考察 本研究では、hTMEM65が N端 aa1-20にミトコンドリア移行シグナルを持つ(図 8)、ミトコンドリア内膜のタンパク質であることを明らかにした(図 6, 図 7)。また、アミノ酸配列から予想される内在性の hTMEM65のサイズは約 26 kDaであるが、実際にウエスタンブロッティング法により観察された産物の分子量は

約 21 kDaであり、予想よりも約 5 kDa小さかった(図 5)。これは、hTMEM65のN端のプレ配列がミトコンドリア移行後にMPPによって切断されたためであると考えられる。この MPP が認識する代表的な配列には R-2 モチーフがあり、hTMEM65 においては、53 番目のアルギニン残基が該当すると推測される(図11)。しかし、本研究では未だ hTMEM65 の MPP 切断部位を特定できてはいない。今後、アルギニン残基をアラニンに置換した、1アミノ酸置換変異体を用

いた解析を行うことで、MPP切断部位を特定していく予定である。

図 11. 本研究で明らかにした hTMEM65のトポロジー

PSORT予測プログラムを用いて予測した MPP認識配列候補(52~56のアミノ酸の間に

Page 41: 熊本大学学術リポジトリ Kumamoto University …reposit.lib.kumamoto-u.ac.jp/bitstream/2298/32249/6/...5 2. 学位論文の骨格となる参考論文 関連論文 本論文は学術雑誌に掲載された次の論文を基礎とするものである。

40

ある R-2モチーフ(RRL|GT))と、3つの膜貫通部位(TM1, 122-138; TM2 145-161; TM3,

211-227, 斜線部)を示した。

また、本研究では hTMEM65 の細胞内局在及び一次構造に関する知見を得た(図 6, 7, 8)。 今後の研究としては、TMEM65の複合体形成能等の高次構造を評価して行く予定である。 さらに、今回の研究では、hTMEM65の機能に関する知見も得られた。siRNAを用いた内在性 hTMEM65の knock down実験おいて、解糖の乳酸産生の指標である ECARと、酸化的リン酸化の指標である OCRの比が有意に変化することが見いだされた。具体的には、HeLa-S3細胞において hTMEM65を knock downした結果、有意に OCR が上昇し、ECAR が有意に低下していた(図 10A)。また、このときの knock down細胞における ATP含量は上昇傾向にあるものの、有意な変化は見られなかった(図 10B)。これは、TMEM65を knock downした細胞においてミトコンドリア機能不全が起こり、それに起因したクエン酸回路の停止、

続くクエン酸の蓄積が上流の解糖系に負のフィードバックをかけたため、解糖

の基質であるピルビン酸が枯渇した可能性が考えられる。なお、この仮説が正

しければミトコンドリアの酸素消費は低下するはずである。しかし、本実験で

はミトコンドリアにおけるβ酸化等の細胞内呼吸と独立した酸素消費を評価し

ていないため、これらが TMEM65 の knock down により誘発されているか否かを明確にすることは、今後の課題である。また、上記の仮説とは対照的に、

TMEM65の枯渇がミトコンドリア機能亢進とATP消費増大を平行して誘発した可能性も考えられる。 このように、hTMEM65は細胞内エネルギー代謝に関与する可能性が考えられる。また、TMEM65は序論で述べたように SRAによって制御されている(31)。さらに、この SRAは LRPPRCや SLIRPと共に ribonucleoprtein comlexを形成し、LSFCの発症に関与している可能性が示唆されている(30, 31)。LSFCはミトコンドリア病の一種とされており、神経や筋組織などのエネルギー需要の高い組

織で病状が発現しやすい(2, 3)。hTMEM65が LSFC発症に関与しているか否かは現時点では不明であるが、hTMEM65の欠損が細胞のエネルギーバランスを変化させることは、本論文が報告した通りである。今後、hTMEM65の各組織における発現パターン等を解析することで、生体に対する hTMEM65 の機能評価を行っていく予定である。

Page 42: 熊本大学学術リポジトリ Kumamoto University …reposit.lib.kumamoto-u.ac.jp/bitstream/2298/32249/6/...5 2. 学位論文の骨格となる参考論文 関連論文 本論文は学術雑誌に掲載された次の論文を基礎とするものである。

41

9. 結語

本研究では、TMEM65 がミトコンドリア内膜に局在するタンパク質であることを明らかにした。また、HeLa-S3細胞における TMEM65の枯渇が、細胞内エネルギー代謝を変化させることを明らかにした。本研究で得られた結果から、

TMEM65 が細胞内エネルギー代謝において重要な役割を担っている可能性が示唆されており、今後のさらなる検討が必要であると思われる。

10. 参考文献 1 Chan, D. C. Mitochondrial fusion and fission in mammals. Annual review of cell

and developmental biology 22, 79-99 (2006). 2 Schapira, A. H. Mitochondrial diseases. Lancet 379, 1825-1834 (2012). 3 Nunnari, J. & Suomalainen, A. Mitochondria: in sickness and in health. Cell 148,

1145-1159 (2012). 4 Lunt, S. Y. & Vander Heiden, M. G. Aerobic glycolysis: meeting the metabolic

requirements of cell proliferation. Annual review of cell and developmental biology 27, 441-464 (2011).

5 Salas, M. L., Vinuela, E., Salas, M. & Sols, A. Citrate inhibition of phosphofructokinase and the pasteur effect. Biochemical and biophysical research communications 19, 371-376 (1965).

6 Koopman, W. J., Distelmaier, F., Smeitink, J. A. & Willems, P. H. OXPHOS mutations and neurodegeneration. The EMBO journal 32, 9-29 (2013).

7 Pfanner, N. & Wiedemann, N. Mitochondrial protein import: two membranes, three translocases. Current opinion in cell biology 14, 400-411 (2002).

8 Gakh, O., Cavadini, P. & Isaya, G. Mitochondrial processing peptidases. Biochimica et biophysica acta 1592, 63-77 (2002).

9 Baker, B. M. & Haynes, C. M. Mitochondrial protein quality control during biogenesis and aging. Trends in biochemical sciences 36, 254-261 (2011).

10 Manoli, I. et al. Mitochondria as key components of the stress response. Trends

in endocrinology and metabolism: TEM 18, 190-198 (2007). 11 Koopman, W. J. et al. Mammalian mitochondrial complex I: biogenesis,

regulation, and reactive oxygen species generation. Antioxidants & redox

Page 43: 熊本大学学術リポジトリ Kumamoto University …reposit.lib.kumamoto-u.ac.jp/bitstream/2298/32249/6/...5 2. 学位論文の骨格となる参考論文 関連論文 本論文は学術雑誌に掲載された次の論文を基礎とするものである。

42

signaling 12, 1431-1470 (2010). 12 Chung, A. B., Stepien, G., Haraguchi, Y., Li, K. & Wallace, D. C.

Transcriptional control of nuclear genes for the mitochondrial muscle ADP/ATP translocator and the ATP synthase beta subunit. Multiple factors interact with the OXBOX/REBOX promoter sequences. The Journal of biological chemistry 267, 21154-21161 (1992).

13 Oberholzer, C., Oberholzer, A., Clare-Salzler, M. & Moldawer, L. L. Apoptosis in sepsis: a new target for therapeutic exploration. FASEB journal : official publication of the Federation of American Societies for Experimental Biology 15, 879-892 (2001).

14 Distelhorst, C. W. Recent insights into the mechanism of glucocorticosteroid-induced apoptosis. Cell death and differentiation 9, 6-19 (2002).

15 Lin, M. T. & Beal, M. F. Mitochondrial dysfunction and oxidative stress in neurodegenerative diseases. Nature 443, 787-795 (2006).

16 Mammucari, C., Patron, M., Granatiero, V. & Rizzuto, R. Molecules and roles of mitochondrial calcium signaling. BioFactors (Oxford, England) 37, 219-227 (2011).

17 Terada, K. & Mori, M. Human DnaJ homologs dj2 and dj3, and bag-1 are positive cochaperones of hsc70. The Journal of biological chemistry 275, 24728-24734 (2000).

18 Terada, K., Kanazawa, M., Bukau, B. & Mori, M. The human DnaJ homologue dj2 facilitates mitochondrial protein import and luciferase refolding. The Journal of cell biology 139, 1089-1095 (1997).

19 Yano, M., Terada, K. & Mori, M. AIP is a mitochondrial import mediator that binds to both import receptor Tom20 and preproteins. The Journal of cell biology 163, 45-56 (2003).

20 Yamano, K., Kuroyanagi-Hasegawa, M., Esaki, M., Yokota, M. & Endo, T. Step-size analyses of the mitochondrial Hsp70 import motor reveal the Brownian ratchet in operation. The Journal of biological chemistry 283, 27325-27332 (2008).

21 Neupert, W. & Herrmann, J. M. Translocation of proteins into mitochondria. Annual review of biochemistry 76, 723-749 (2007).

Page 44: 熊本大学学術リポジトリ Kumamoto University …reposit.lib.kumamoto-u.ac.jp/bitstream/2298/32249/6/...5 2. 学位論文の骨格となる参考論文 関連論文 本論文は学術雑誌に掲載された次の論文を基礎とするものである。

43

22 Rehling, P., Brandner, K. & Pfanner, N. Mitochondrial import and the twin-pore translocase. Nature reviews. Molecular cell biology 5, 519-530 (2004).

23 Ito, A. Mitochondrial processing peptidase: multiple-site recognition of precursor proteins. Biochemical and biophysical research communications 265, 611-616 (1999).

24 Taylor, A. B. et al. Crystal structures of mitochondrial processing peptidase reveal the mode for specific cleavage of import signal sequences. Structure (London, England : 1993) 9, 615-625 (2001).

25 難 病 セ ン タ ー . ミ ト コ ン ド リ ア 病 ハ ン ド ブ ッ ク . http://www.nanbyou.or.jp/upload_files/mt_handbook.pdf(2012)

26 Schaefer, A. M., Taylor, R. W., Turnbull, D. M. & Chinnery, P. F. The epidemiology of mitochondrial disorders--past, present and future. Biochimica et

biophysica acta 1659, 115-120 (2004). 27 Negishi, Y. et al. Homoplasmy of a mitochondrial 3697G>A mutation causes

Leigh syndrome. Journal of human genetics 59, 405-407 (2014). 28 Mootha, V. K. et al. Identification of a gene causing human cytochrome c

oxidase deficiency by integrative genomics. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 100, 605-610 (2003).

29 Huntsman, R. J., Sinclair, D. B., Bhargava, R. & Chan, A. Atypical presentations of leigh syndrome: a case series and review. Pediatric neurology 32, 334-340 (2005).

30 Sasarman, F., Brunel-Guitton, C., Antonicka, H., Wai, T. & Shoubridge, E. A. LRPPRC and SLIRP interact in a ribonucleoprotein complex that regulates posttranscriptional gene expression in mitochondria. Molecular biology of the

cell 21, 1315-1323 (2010). 31 Foulds, C. E. et al. Research resource: expression profiling reveals unexpected

targets and functions of the human steroid receptor RNA activator (SRA) gene. Molecular endocrinology (Baltimore, Md.) 24, 1090-1105 (2010).

32 Tam, J. C., Bidgood, S. R., McEwan, W. A. & James, L. C. Intracellular sensing of complement C3 activates cell autonomous immunity. Science (New York,

N.Y.) 345, 1256070 (2014). 33 https://tools.lifetechnologies.com/downloads/HeLa_RNAiMAX.pdf 34 Yano, M., Hoogenraad, N., Terada, K. & Mori, M. Identification and functional

Page 45: 熊本大学学術リポジトリ Kumamoto University …reposit.lib.kumamoto-u.ac.jp/bitstream/2298/32249/6/...5 2. 学位論文の骨格となる参考論文 関連論文 本論文は学術雑誌に掲載された次の論文を基礎とするものである。

44

analysis of human Tom22 for protein import into mitochondria. Molecular and cellular biology 20, 7205-7213 (2000).

35 Gotoh, T., Terada, K., Oyadomari, S. & Mori, M. hsp70-DnaJ chaperone pair prevents nitric oxide- and CHOP-induced apoptosis by inhibiting translocation of Bax to mitochondria. Cell death and differentiation 11, 390-402 (2004).

36 Schreiber, E., Matthias, P., Muller, M. M. & Schaffner, W. Rapid detection of octamer binding proteins with 'mini-extracts', prepared from a small number of cells. Nucleic acids research 17, 6419 (1989).

37 Pallotti, F. & Lenaz, G. Isolation and subfractionation of mitochondria from animal cells and tissue culture lines. Methods in cell biology 80, 3-44 (2007).

38 Wu, M. et al. Multiparameter metabolic analysis reveals a close link between attenuated mitochondrial bioenergetic function and enhanced glycolysis dependency in human tumor cells. American journal of physiology. Cell physiology 292, C125-136 (2007).

39 PSORT Prediction. http://psort.hgc.jp/form.html 40 Chen, W. et al. Abcb10 physically interacts with mitoferrin-1 (Slc25a37) to

enhance its stability and function in the erythroid mitochondria. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 106, 16263-16268 (2009).

41 Nishimura, N., Gotoh, T., Oike, Y. & Yano, M. TMEM65 is a mitochondrial inner-membrane protein. PeerJ 2, e349 (2014).