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盛土(覆土)法面における締固め管理の検討 工藤 智仁 関東地方整備局 河川部 河川工事課 (〒330-9724 埼玉県さいたま市中央区新都心2-1堤防等の盛土部法面整形の施工にあたっては,法面の崩壊が起こらないように締固めを行わ なければならないとされているが,覆土による法面整形の品質管理基準は定められておらず, 出来形管理基準のみでの施工管理となっている.また,土木工事標準積算基準でも堤防盛土本 体に求めるような密度管理を考慮した歩掛となっていない. このことから,現場施工時に課題となる品質管理方法と施工内容に対応した積算歩掛につい て,試験施工で得られたデータを基に検討したものである. キーワード 盛土法面,品質管理,施工管理,施工歩掛 1. 背景・目的 近年各地で発生している短時間の局所的な豪雨等によ り,竣工間もない堤防の盛土(覆土)法面において法崩 れ等が多く発生している. 盛土の法面は施工機械の違いなどから一般に堤防本体 よりも締固めが不足する傾向にあるが,堤防本体と一体 をなすものであり,締固めが不十分であることによる崩 壊は堤防そのものの安全性を脅かすものとなる. しかしながら、土木工事共通仕様書では「盛土部法面 整形の施工にあたり,法面の崩壊が起こらないように締 固めを行わなければならない.」と記述されているもの の,堤防盛土本体に求められるような品質管理基準は定 められておらず,出来形管理基準のみでの施工管理とな っている. また,土木工事標準積算基準書において法面整形の積 算条件として「法面締固めの有無」が選択できるが,こ れは前述の「法面の崩壊が起こらない」程度の締固めを 想定しているもので,堤防盛土本体に求めるような品質 確保(管理)までは考慮されていない. このことから盛土(覆土)法面の施工・品質管理も河 川管理上重要な施設である堤防と同等とすることを目的 に,施工機械,施工方法,盛土材料の違いによる品質・ 施工状況の変化と標準的な施工方法との施工時間の比較 により施工性(積算歩掛への影響)を検討することとし た. 2. 試験計画 (1) 被災事例の収集 試験施工の盛土法面形状等を決定するため,過去5 程度に発生した堤防法面における被災状況を調査した. その結果,全国の地方整備局から29 件の事例を収集し、 被災状況として以下のような特徴・共通事項が判明した. ・全ての事例で法面勾配が1 3.0 に満たない.1 2.0 程度となっていた. ・堤体材料と覆土材料が異なる事例が21 件と多く,そ のうち9 件が堤体盛土に改良土を用いていた. ・法面の勾配変化などにより,雨水が集中しやすい形 状となっている. (2) 盛土供試体 試験施工に用いる盛土法面の作成にあたっては、過去 の被災事例から判明した特徴や試験盛土法面の施工性を 考慮し,以下のとおりとした. また、河川堤防の天端は、管理用通路としての利用や 降雨の浸透を抑制するためアスファルト舗装されている ことが多いため、試験盛土でも天端へのアスファルト乳 剤の散布により防水効果を持たせた. 写真-1 豪雨により法崩れした竣工間もない堤防法面

盛土(覆土)法面における締固め管理の検討 - MLIT盛土(覆土)法面における締固め管理の検討 工藤 智仁 関東地方整備局 河川部 河川工事課

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Page 1: 盛土(覆土)法面における締固め管理の検討 - MLIT盛土(覆土)法面における締固め管理の検討 工藤 智仁 関東地方整備局 河川部 河川工事課

盛土(覆土)法面における締固め管理の検討

工藤 智仁

関東地方整備局 河川部 河川工事課 (〒330-9724 埼玉県さいたま市中央区新都心2-1)

堤防等の盛土部法面整形の施工にあたっては,法面の崩壊が起こらないように締固めを行わ

なければならないとされているが,覆土による法面整形の品質管理基準は定められておらず,

出来形管理基準のみでの施工管理となっている.また,土木工事標準積算基準でも堤防盛土本

体に求めるような密度管理を考慮した歩掛となっていない. このことから,現場施工時に課題となる品質管理方法と施工内容に対応した積算歩掛につい

て,試験施工で得られたデータを基に検討したものである.

キーワード 盛土法面,品質管理,施工管理,施工歩掛

1. 背景・目的

近年各地で発生している短時間の局所的な豪雨等によ

り,竣工間もない堤防の盛土(覆土)法面において法崩

れ等が多く発生している. 盛土の法面は施工機械の違いなどから一般に堤防本体

よりも締固めが不足する傾向にあるが,堤防本体と一体

をなすものであり,締固めが不十分であることによる崩

壊は堤防そのものの安全性を脅かすものとなる. しかしながら、土木工事共通仕様書では「盛土部法面

整形の施工にあたり,法面の崩壊が起こらないように締

固めを行わなければならない.」と記述されているもの

の,堤防盛土本体に求められるような品質管理基準は定

められておらず,出来形管理基準のみでの施工管理とな

っている. また,土木工事標準積算基準書において法面整形の積

算条件として「法面締固めの有無」が選択できるが,こ

れは前述の「法面の崩壊が起こらない」程度の締固めを

想定しているもので,堤防盛土本体に求めるような品質

確保(管理)までは考慮されていない. このことから盛土(覆土)法面の施工・品質管理も河

川管理上重要な施設である堤防と同等とすることを目的

に,施工機械,施工方法,盛土材料の違いによる品質・

施工状況の変化と標準的な施工方法との施工時間の比較

により施工性(積算歩掛への影響)を検討することとし

た.

2. 試験計画

(1)被災事例の収集

試験施工の盛土法面形状等を決定するため,過去5年

程度に発生した堤防法面における被災状況を調査した.

その結果,全国の地方整備局から29件の事例を収集し、

被災状況として以下のような特徴・共通事項が判明した.

・全ての事例で法面勾配が1:3.0に満たない.1:2.0

程度となっていた.

・堤体材料と覆土材料が異なる事例が21件と多く,そ

のうち9件が堤体盛土に改良土を用いていた.

・法面の勾配変化などにより,雨水が集中しやすい形

状となっている.

(2)盛土供試体

試験施工に用いる盛土法面の作成にあたっては、過去

の被災事例から判明した特徴や試験盛土法面の施工性を

考慮し,以下のとおりとした. また、河川堤防の天端は、管理用通路としての利用や

降雨の浸透を抑制するためアスファルト舗装されている

ことが多いため、試験盛土でも天端へのアスファルト乳

剤の散布により防水効果を持たせた.

写真-1 豪雨により法崩れした竣工間もない堤防法面

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a)形状

・法面勾配は1:2.0とする. ・高さ3m程度,縦横24m程度の盛土を施工.

・法面部において厚さ50cmの覆土を実施. 盛土法面の形状は図-1のとおり. b)盛土材料

・盛土本体の材料は,「覆土が堤体材料と異なる」状

況を再現するために石灰改良を行ったものと,無

改良土の2タイプとし,覆土材は石灰等による改

良を行っていないものとした. (3)覆土部の施工方法

覆土部の締固めは施工機械の汎用性を考慮し、振動バ

ケットなどの特殊な機材を用いた施工としないこととし,

以下の3タイプとした. ・人力による土羽整形(タンパによる転圧) ・法面バケットを用い,法面の表面を押さえるように

施工する.(図-2) ・法面バケットを用い,土砂を垂直に押さえるように

施工する.(図-3) (4)試験項目

盛土の品質は一般に締固め度により評価され,砂置換

法やRI計器による現場密度試験が行われているが、あ

らかじめ盛土材料の物性を把握する必要がある.このた

図-4 覆土の密度試験位置 め,今回の試験施工にあたっては施工の各段階(時期)

に以下の試験を実施するとともに施工状況,施工時間を

把握するため以下の試験,計測を行った. a)着手前(盛土材料特性の把握)

・土の粒度試験 ・土粒子の密度試験

・含水比試験 ・液性限界・塑性限界試験 ・突き固めによる締固め試験 ・締め固めた土のコーン指数試験 b)施工中

【砂置換法による土の密度試験】 ・盛土部(盛土1山に対して3ヶ所以上) ・覆土部(施工方法,土砂条件が異なるケース毎に法

面の上・中・下位置でそれぞれ1ヶ所)(図

-4) 【土の含水比試験】 (砂置換による密度試験で得られるデータを使用した)

c)施工後

【ポータブルコーン貫入試験】 【土の含水比試験】 【三軸圧縮試験(UU)】 ・盛土部,覆土部ともにケース毎に法面の上・中・下位

置で,それぞれ1ヶ所.覆土部は削り取り整形後

の法面位置で1ヶ所.

図-3 土砂を垂直に押さえるように施工

図-2 法面の表面を押さえるように施工

図-1 盛土法面の形状

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3.試験施工

(1)盛土材の改良

盛土材料は利根川上流河川事務所管内の調節池掘削で

発生した砂質シルト系の土砂を用い,無改良土と石灰改

良土の2種類を用意した. 石灰改良土は,同様に砂質シルト系の土砂に万能土質

改良機を用い石灰を10kg/m3の割合で配合した.

(2)盛土(覆土)材料の品質管理

盛土の品質管理は一般に乾燥密度(締固め度:Dc)に

より実施されるが,今回試験施工に用いた盛土材は,粒

度試験の結果から75μmのふるい通過率が50%を超える

砂質シルトであったため,品質管理は土木工事共通仕様

書に基づき空気間隙率(Va)により規定し,規格値は

「2%≦Va≦15%」とした.

(3)覆土法面の施工方法

無改良土,石灰改良土によりそれぞれ堤防本体を模し た盛土本体部の施工を先行し,その後,石灰改良盛土へ

の覆土,無改良土への覆土を実施した. 法面の表面を押さえるように施工する方法(写真-2)は従来から多く実施されおり,土木工事標準積算基準書

に記載されている標準的な施工方法である.この施工方

法に対して,法面バケットを垂直に押しつける施工(写

真-3)は機械施工を前提として,より締固め度が高ま

ることを期待し選定した方法である.前述の2方法によ

っても所定の規格値を満足しない場合を想定し,人力に

よる土羽整形(写真-4)も実施した.

4.試験結果

(1)密度試験結果

覆土の品質管理は前述のとおり砂置換による密度管理

を実施し,1法面に対して3箇所で試料採取を行った. 結果として各施工方法ともに,空気間隙率で概ね規格

値を満足する結果となった.(表-1)

試験結果の傾向として,人力による土羽整形及び表面を

押さえる施工方法よりも,法面バケットを垂直に押しつ

ける方法において高密度となることが把握でき,法面バ

ケットを用いた機械施工で堤防盛土と同規格の密度を確

保できることが確認できた.

写真-2 表面を押さえる施工方法

写真-3 垂直に押さえつける施工方法

写真-4 人力(タンパ締固め)による施工方法

表-1 砂置換法による密度測定結果(空気間隙率:Va)

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砂置換法による測定結果では,所定の規格値を得るこ

とができたが,より簡便に実施できるRI法を用いると

測定結果に不規則なバラツキが生じることが判明した.

これは堤防本体と覆土部との間に施工上生じた境界が

あり密度に差が生じているためと考えられた.また,実

際の河川堤防では護岸ブロックや遮水シートの上面に覆

土が行われることが多く,これらによる影響も排除でき

ないため当面は,砂置換法による密度管理によることが

望ましいと判断される.

(2)作業性の比較と適用歩掛

土木工事標準積算基準書における河川堤防等の盛土法

面整形の施工歩掛は,いままで標準的に行われてきた法

面バケットによる表面仕上げ(表面を押さえる施工方法)

を想定したものだが,平成25(2013)年度から「法面締

固めの有無」が選択できるようになった.

これは「法面の崩壊が起こらない」程度の締固めを想

定しているもので,堤防本体に求めるような密度管理は

想定していないが,今回,法面バケットを用い垂直に押

しつける方法で所定の規格値を満足することを確認でき

たため,標準的に行われてきた施工方法と作業時間を比

較し,積算基準書が適用できるか検討を行った.

a)作用時間

標準的な法面バケットによる表面仕上げでは、1

法面(80.4m2)あたり2時間30分に対して,垂直に押

しつける方法では3時間45分と1.5倍の施工時間を要し

た.(表-2)

b)適用歩掛

積算基準において「法面締固めの有無」による単

価比は,締固めを行わないものが412円/m2に対し,締

固めを実施するものが650円/m2となり1.57倍となった.

このことから積算基準の締固めの有無による単価比と

作業時間の比が同等であることから,覆土部において堤

防盛土と同規格の品質管理を求める場合には,積算条件

として「法面締固め有り」とすることで妥当な施工単価

となると考えた.

5.まとめ・留意事項

覆土法面の締固め管理は,法面バケットを用いて垂直

に押さえることにより土木工事施工管理基準及び規格値

に規定する規格値を満足することが確認でき,作業時間

を比較した際に施工条件を「法面締固め有り」とするこ

とで積算基準が適用できると考えられる。

実際の堤防工事では十分な作業スペースを確保できない

状況や、法面勾配が均一でないなど,さまざな施工条件

があり今回の試験施工のように効率的な施工が期待でき

ない場合も想定される.このような状況でも所定の規格

値を確保できるか今後追加調査を予定している. また,覆土の品質管理の手法として,砂置換による密

度測定が適用可能であることが確認できたが,覆土の特

性として護岸ブロックや遮水シート等の異物が存在する

条件下や堤防本体の盛土材と物性値・力学特性値の差が

想定される場合は,RI計器での密度測定はバラツキが

生じるため今後,検証が必要となる.

表-2 表面押さえと垂直押さえの作業時間比較

表-3 積算基準 法面整形の積算条件区分