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岡山県児島湾における堆積物を用いた過去100年間の海底 環境変遷と人造湖形成の影響評価 誌名 誌名 陸水學雜誌 ISSN ISSN 00215104 巻/号 巻/号 733 掲載ページ 掲載ページ p. 217-234 発行年月 発行年月 2012年12月 農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波産学連携支援センター Tsukuba Business-Academia Cooperation Support Center, Agriculture, Forestry and Fisheries Research Council Secretariat

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岡山県児島湾における堆積物を用いた過去100年間の海底環境変遷と人造湖形成の影響評価

誌名誌名 陸水學雜誌

ISSNISSN 00215104

巻/号巻/号 733

掲載ページ掲載ページ p. 217-234

発行年月発行年月 2012年12月

農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波産学連携支援センターTsukuba Business-Academia Cooperation Support Center, Agriculture, Forestry and Fisheries Research CouncilSecretariat

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陸水学雑誌 (JapaneseJoumal 01 Limnology) 73: 217 -234 (2012)

特集『流域圏の物質輸送に及ぼす人間活動の影響』

屋一三室 (OriginalarticleJ

岡山県児島湾における堆積物を用いた過去 100年間の

海底環境変遷と人造湖形成の影響評価

天野敦子 1) ・金慶哲 2).小野寺真_2)・佐藤高晴 2)・清水裕太 2).粛藤光代 3)

Seafloor environmental changes during the last 100 years resulting from reconstruction

of the artificiallake in Kojima Bay, Okayama Prefecture

Atsuko AMAN01), Guangzhe 1IN2), Shin-ichi ONODERA2), Takaharu SAT02), Yuta SHIMIZU2)加 dMitsuyo SAITOJ)

Abstract

Kojima Lake, an artificia1 lake in the westem p紅 tof Kojima Bay in the southem region of Okayama Prefecture,

was constructed in 1959. To examine the impacts of constructing this artificial lake, we demonstrated spatial

and tempora1 variations of the seafioor environment in the lak巴拍dKojima Bay, based on physical and chemical

prope出esof surface and core sediments. The distribution of grain size in surface sediments indicated that the bay

is in a stagnant condition, resulting in deposition of silt sediments. Sand is deposited in the coastal p訂tof Kojima

Lake, which is affected by waves whose infiuence decreases toward the lake center. Differences of chemical

composition between fresh and marine water caused higher concentrations of tota1 phosphorus (con仕ibutedmainly

by iron and aluminum-bound phosphorus) in the lake than in the bay. Collected lake core sediment was divided into

three sωtions -a light and bioturbated section deposited prior to白e1960s, a dark laminated section accumulated

between the 1960s and 1990s, and a dark and bioturbated section deposited after the 1990s. These variations

indicate that the lake environment developed eu位'Ophicconditions, resulting in increased org加 icmatter and nutrient

reserves, and benthic activities d巴creasedwith lake formation. However, improvements to water quality slightly

restored benthic activities after the 1990s. The decrease of grain size from sand to mud of the core in the bay

implies that lake formation decreased tida1 current velocity.

Keywords: sediment, grain size, sedimentary structure, phosphorus, Kojima Lake

1)産業技術総合研究所地質情報研究部門干 305-8567茨城県つくば市東 1-1-1中央第七 Geologica1 Survey of Japan, AIST, Centra1 7, 1-1-1 Higashi, Tsukuba, Ib紅法i305-8567, Japan

2)広島大学大学院総合科学研究科干 739-8521広島県東広島市鏡山 1-7-1. Graduate School of Integrated Arts and Sciences, Hiroshima University, Kagamiyama 1-7-1 Higashihroshima, Hiroshima 739-8521, Japan

3) 日本学術振興会特別研究員 PD,愛媛大学沿岸環境科学研究センター干 790-8577愛媛県松山市文京町 2-5. JSPS PD, Center for Marine Environmenta1 Studies, Ehime University, Bunkyo-cho 2-5 Matsuyama, Ehime 790-8577, Japan

(連絡先天野敦子抑制o-a@泊st.go.jp)

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天野敦子ほか

摘要

堆積物の物理,化学特性を用いて, 1959年に岡山県児島湾の西部に形成された児島湖が海底環境に及

ぼした影響について検討した。児島湖の粒度分布は沿岸付近では波浪の影響が強く,中央部では小さく

なることを示す。児島湾は細粒シ/レトが分布する停滞的な水理状態であることを示す。表層堆積物のリ

ン分析結果は,鉄,アルミニウム酸化物と結合したリンの寄与が高く,これら濃度変化は淡水ー海水に

おける挙動の違いを反映している。 1960年以前の児島湖,児島湾奥部の柱状堆積物の岩相は生物擾乱が

観察されるシノレトで,これは湖形成前の湾内が停滞的で,ウニなどの底生生物が活動する海域で、あった

ことを示す。児島湖形成以降,堆積物は暗色化し,ラミナが観察される。これら変化は,児島湖が閉鎖

性の強い水域で,河川から供給される栄養塩や有機物が滞留して富栄養化,貧酸素化が進行し,その結果,

底生生物の活動は小さくなったことを示す。一方,児島湾湾口の堆積物は細粒砂からシルトへの急激な

泥質化を示す。海底地形,粒度分布, 137Csの結果は,この泥質化が少なくとも 1950年以降に潮流が減

少したことによって起きたことを示し,この変化は児島湖形成に伴う地形改変が影響している可能性が

高い。

キーワード:堆積物,粒度,堆積構造, リン,児島湖

(2011年 11月 14日受付;2012年7月28日受理)

はじめに

エスチュアリーや内湾などの沿岸域の半閉鎖的な環

境は,陸域と海域の両者の影響を受けて複雑かつダイナ

ミックな変化を示す。一般的なエスチュアリーの物理作

用は,奥部の河口付近では河川流が卓越し,中央部付近

では潮流,そして外洋に面する湾口部分では波浪が影響

する (Dalrympleet al., 1992)。また淡水と海水が接する

場所であるため,塩分, pHなどの変動に伴い,化学的

挙動は急激な変化を示す。さらに近年では,世界各地で

顕著に発生している人為的な栄養塩や有機物の負荷量増

加に伴う富栄養化が示すように (Nixon,1995 ; Howarth

et al., 1996),経済発展に伴う人間活動の影響は沿岸海域

の環境変化を引く起こす主要因となっている。また,人

間活動は栄養塩や有機物などの物質供給だけではなく,

沿岸の埋め立てや干拓などの地形改変を生じ,これは水

域内の物理作用を通じて,海底地形や底質を変化させる

(Van der Wal et al., 2002; Chaumillon et al., 2004; Amano et

al., 2006)。近年,多数の要因が絡み合って変化を生じる

沿岸域の環境は脆弱性が危慎されている (Syvitskiet al.,

2005)。この沿岸環境の保全策や将来予測等を検討する

ためには,自然作用による時空間的変化を明らかにした

上で人間活動の影響を評価することが必要である。

岡山県南部に位置する児島湾は湾口部の狭い閉鎖性の

強い地形で,一級河川の旭川および吉井川が流入するた

218

め,陸水循環の影響が強い海域といえる (Pig.1)。児島

湾の奥部には農業用水の確保と塩害防止のために, 1959

年に締切堤防が完成することによって形成された児島湖

が存在する。この児島湖では,湖形成後に進行した水質

汚濁を改善するための基礎資料として,栄養塩などの変

化について調査,研究が行われた(金政ら, 1973;鷹野ら,

2007 ;藤田ら, 2010)。しかし,これらの結果は,定期

的な観測記録を基に湖形成後の季節閉または 10年間の

時系列変化を明らかにしたにとどまっている。児島湖形

成に伴う周辺環境への影響を明らかにするためには,形

成前後の環境を比較し,その変化プロセスを検討するこ

とが必要である。富野・柴木 (1998) は数値シミュレー

ションと海図情報を基にした海底地形比較の結果を用い

て,児島湖形成に伴う児島湾内の潮流や浮遊泥の移動の

変化を示した。しかし,この結果をより厳密に検証する

ためには,時空間的な海流や底質の変化と比較,検証す

る必要がある。

堆積物は過去の環境変化を記録したアーカイブとし

て,長期間の環境変遷の解読のためによく用いられる。

本研究では,閉鎖性の強い地形によって陸水の影響を強

く受ける児島湾内の環境に対して児島湖形成が及ぼした

影響を評価するため,柱状堆積物(コア)の物理,化学

的特性を用いて過去約 100年間の水理営力の影響と海底

環境の変化を明らかにし,その変化の要因について検討

した。また,コアを用いた解析をおこなう上で,各海域

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岡山県児島湾における堆積物を用いた過去 100年間の海底環境変遷と人造湖形成の影響評価

Fig. 1. Study area

図1. 調査海域図.

における堆積物特性の変化と海洋環境との関係を理解し

ておくことは重要である。そこで,表層堆積物の粒度と

リンの分布を明らかにし,現在の児島湖と児島湾の堆積

過程や水質との関係について検討した。

調査海域

児島湖は 1959年に堤防によって児島湾と区分され,

その後に淡水化されて形成された人造湖である。平均水

深は非かんがい期で1.8m (鷹野ら, 2007) で,湖の北

西部に笹ヶ瀬川!と倉敷川が流入する。児島湾は岡山平野

と児島半島に固まれ,湾東部で瀬戸内海と通じている半

閉鎖的な海域である (Pig.1)。湾北部には岡山平野を流

れる 1級河川の吉井川や旭川が流入する。湾内の水深は

主に 10m以浅で,湾の中央部に流入する百間川河口付

近では水深 2m以浅の高島干潟が広がっている。気象庁

の潮汐データによると,児島半島の南部に位置する宇野

の2010年における年間平均潮位差は 192cm,過去5年

間の朔望平均潮位差は 247cmである。

調査方法

2009年9月に児島湖の 6地点,児島湾内の 20地点で

エクマンパージ採泥器を用いて表層堆積物を採取した

(Pig. 1, Tables 1, 2)。採取された堆積物の表層 2cmを

スプーンで分取し,分析用試料とした。児島湖では内径

1Ocm,全長 200cmの押し込み式コアサンプラーを用い

て, 2地点で柱状堆積物試料(コア)を採取した。一方,

219

児島湾の 2地点でダイパーが潜水して内径 56.5mm,全

長 100cmのアクリノレパイプを海底に押し込み,コアを

採取した。採取されたコアは半割し,粒度や堆積構造,

また標準土色帳と比較した色判定などの肉眼観察による

記載をおこなった。その後, 1ω のプラスチックキュー

ブを用いて 1cm間隔で試料を採取し,50oC, 24時間で

乾燥した。乾燥前後の重量を計測し,乾燥堆積物試料

に対する水分量を表す含水比と 210Pbの年代測定に用い

た重量深度 (glcm2) を計算した。幅 5cm,長さ 25cm,

厚さ 1cmのプラスチックケースを用いて軟X線撮影用

試料を分取した.その後,残った試料を 1cm間隔にス

ライスし,採取時に擾乱されている可能性が高いパイプ

と接する部分を除いて,粒度と年代分析用試料とした。

粒度はコア深度 0-70cm聞においては 2cm毎に,それ

以深では 4cm毎に分析を行った。また 210Pb,I17Cs分析

には,KJL1, 2で 12試料, KJC20で 10試料, KJC7で6

試料を用いて行った (Table3)。

分析方法

粒度

試料番号 2,9, 11, 13, 15, 23の砂質表層堆積物試

料は簡を用いて粒度分析を行った。乾燥重量約 100gの

試料に 10%の過酸化水素を加え, 24時間以上静置して,

有機物分解を行った。その後, 4.5φ の簡を用いて,試

料を水洗いして泥と砂を区分した。さらに砂試料を乾

燥させて, 0.5φ 刻みの 0~4.5φ の簡で分別し,粒度を

計算した。泥質な表層堆積物とコアの試料はレーザー散

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天野敦子ほか

Table 1. Sampling location, sediment type, grain size and concentrations of phosphorus fractions in surface sediments.

表1. 表層堆積物の採取位置,堆積物タイプ,粒度,各リン形態濃度.

Latitude Longtude

1340

4' 29.3"

Grain Mud Sediment type size content

(中) (%)

Concen位ationsof posphorus fraιtions (μg/g)

NaC1-iP NaBD-iP NaOH-iP HC1-iP Res-P

Samp1e No.

Location

1 34" 34' 54.5" si1t 7.5 99.9 22.5 112.9 50.1 139.3 106.0

TP

430.7

2 340

34' 55.2" 1340

3' 39.6" fine sand 2.9 37.8 19.7 68.9 48.7 100.8 55.9 294.0

3 340

34' 42.6" 1340

3' 15.8グ si1t 7.6 100.0 17.3 227.7 161.6 98.0 88.1 592.7

4 340

34' 9.3" 134" 2' 45.3" si1t 6.2 84.5 22.1 99.5 58.6 140.9 85.6 406.8

5 340

33' 44.1" 134" 2' 15.4" silt 7.6 99.9 18.6 71.1 47.0 153.0 89.3 378.9

6 34" 35' 30.3" 1340

3' 8.7" silt 8.1 100.0 6.1 186.8 137.9 82.2 87.4 500.4

7 340

35' 7.9" 134" 2' 44.0" silt 8.2 100.0 25.6 177.5 139.9 96.0 128.5 567.6

8 340

35' 35.1" 134" 2' 58.3" si1t 7.3 99.8 27.3 147.5 59.4 129.9 74.0 438.1

9 34" 35' 51.7" 1340

2' 16.1" fine sand 2.9 31.3 11.9 57.4 56.3 90.8 48.2 264.6

~ 10 340

36' 12.1"

B 同

回目、〈

11 340

36' 15.1"

1340

l' 27.0"

1340

0' 59.7"

silt 7.8 100.0

20.4

18.6 164.6 113.8 113.8 82.3 493.2

12 340

36' 31.0" 1340

0' 33.3"

medium sand 1.8

shel1 fractions wi白 sandgrave1

very fine sand 3.3 41.6 19.4 75.6 58.0 121.1 51.8 325.9 13 340

36' 21.6" 134" 0' 25.7"

14 340

35' 53.5" 1340

0' 27.0グ si1t 7.5 100.0 34.0 126.7 64.2 137.2 93.5 455.5

15 340

36' 5.0" 1340

0' 0.3" fine sand 2.7 30.5 15.6 76.4 59.5 106.5 46.8 304.9

16 340

35' 50.0" 1330

59' 30.0" silt 4.6 100.0 33.4 214.3 95.8 125.9 103.8 573.1

17 340

35' 55.6" 133" 58' 58.1" silt 7.6 99.9 11.7 112.9 78.0 133.1 81.1 416.7

18 34" 35' 48.8" 133" 58' 26.2" silt 7.7 100.0 36.5 135.8 83.9 131.5 116.4 504.0

19 340

35' 39.1" 1330

57' 54.1" si1t 8.0 100.0 39.0 152.0 66.4 130.1 107.1 494.6

20 340

35' 35.9" 1330

57' 28.9" silt 7.8 100.0 17.4 96.0 76.5 123.5 96.4 409.8

21 340

35' 9.7" 1330

56' 0.6" si1t 7.5 64.9 4.1 186.4 83.1 114.0 50.1 437.7

22 340

35' 4.6" 1330

56' 24.6" si1t 7.2 99.9 24.5 829.9 336.6 137.4 57.6 1386.1

J

A斗戸、JA斗

寸A凶T勾、d。A且寸今コ

3ゥ,“開。]同呂田戸田一向。

24 340

35' 37.6"

1330

56' 42.2グ

1330

55' 42.5"

133" 56' 5.7"

very fine sand 3.2

very fine sand 3.9

silt 5.3

22.0

50.8

81.9

4

8

6

7

ω

243.2

356.8

601.6

f

n

u

o

o

-

-

1

A

y

d

a

MUハ

6

9

H

H

124.4

126.4

145.6

34.4

37.9

64.2

478.1

622.8

1003.。25 340

34' 41.2"

26 340

34' 8.9" 1330

56' 13.7"

27 34" 34' 37.4" 1330

56' 15.2グ

silt 7.5 100.0 7.8 241.3 91.7 158.3 40.8 539.9

4.4 66.3 16.7 873.7 292.8 130.8 85.2 1399.2 silt

Table 2. Sampling location and core length of core sediments.

表 2. コアの採取位置とコア長.

Core No

Location Core 1ength (cm) Latitude Longtude

KJL1 340

34' 16.7" 1330

56' 12.9" 78.5

KJL2 340

34' 40.9グ 1330

56' 6.0" 124.5

KJL20 340

35' 41.3グ 1330

57' 34.5" 63.0

KJC7 34" 35' 9.0" 1340

2' 44.8" 54.5

220

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岡山県児島湾における堆積物を用いた過去 100年間の海底環境変遷と人造湖形成の影響評価

Table 3. Radioactivity Of210Pb, 21"pb, 214Bi, 210Pb(ex) and 137CS in core sediments

表 3. コアの 210Pb,214pb, 214Bi, 210Pb(ex), 137Cs放射能強度.

No. 137Cs

Core Core depth Core mass Sample

(cm) depth (g/cm2) weight (g) 2l0Pb

Radioaιtivity (Bq/g)

2!4Bi 210PbCex) 214Pb

KJL1 0.0 -2.0 0.0 -1.8

KJL1 10.0 -12.0 7.9 -9.3

KJL1 20.0 -22.0 14.9 -16.3

KJL1 30.0】 32.0 21.9 -23.4

KJL1 40.0 -42.0 28.8 -30.3

KJL1 45.0 -47.0 32.2 -33.5

KJL1 50.0 -52.0 35.4 -36.7

KJL1 55.0 -57.0 38.6 -39.9

KJL1 60.0 -62.0 41.8 -43.1

KJL1 70.0 -72.0 48.8 -50.5

KJL2 0.0 -3.0 0.0 -1.7

KJL2 7.0 -9.0 4.3 -5.6

KJL2 10.0 -12.0 6.3 -7.9

KJL2 14.0 -16.0 9.3 -10.7

KJL2 20.0 -22.0 12.9 -14.0

KJL2 24.0 -26.0 15.3 -16.6

KJL2 30.0 -32.0 19.2 -20.3

KJL2 34.0 -36.0 21.5 -22.6

KJL2 40.0 -42.0 25.1 -26.4

KJL2 45.0 -47.0 28.6 -29.9

KJL2 50.0 -52.0 32.1 -33.4

KJL2 60.0 -62.0 39.4 -41.0

KJC20 0.0 -2.0 0.0 -0.7

KJC20 9.0 -12.0 3.4 -4.4

KJC20 15.0 -18.0 5.4 -6.3

KJC20 20.0 -22.0 7.1-7.8

KJC20 24.0 -26.0 8.5 -9.2

KJC20 30.0 -32.0 10.8 -11.6

KJC20 34.0 -36.0 12.4 -13.1

KJC20 40.0 -42.0 14.6 -15.3

KJC20 50.0 -52.0 18.4 -19.1

KJC20 60.0 -62.0 22.6 -23.6

KJC7 0.0 -4.0 0.0 -2.1

KJC7 4.0 -7.0 2.1 -3.8

KJC7 10.0 -12.0 5.4 -6.6

KJC7 12.0 -15.0 5.4 -8.1

KJC7 18.0 -20.0 9.5 -10.6

KJC7 20.0 -22.0 10.6 -12.2

N.D.; Not detected

U

M

M

J

n

m

m

必円相

6

M

%

U

H

M凶

m

刊ロ

M

m

m

t

m

t

マム

Qeh7ぃ

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8

ω

υ

4

6

6

8

8

9

m

1

M

H

m

U

L

-

-

L

I

l

-

-

Z

1

2

L

Z

2

2

2

0.072 :t 0.007 0.044 :t 0.004 0.042 :t 0.006 0.030士 0.003 N.D

0.051士 0.005 0.030 :t 0.003 0.035 :t 0.004 0.018 :t 0.002 N.D

0.054士 0.006 0.031 :t 0.003 0.039 :t 0.005 0.019土 0.002 N.D.

0.045 :t 0.005 0.029 :t 0.003 0.032 :t 0.004 0.014士 0.002 N.D.

0.058 :t 0.005 0.024 :t 0.000 0.033士 0.000 0.030 :t 0.005 N.D.

0.039 :t 0.006 0.030土 0.003 0.039 :t 0.004 0.005士 0.002 N.D.

0.037士 0.005 0.028 :t 0.003 0.035 :t 0.004 0.005土 0.002 N.D

0.034士 0.005 0.031 :t 0.003 0.036 :t 0.004 0.001土 0.002 N.D

0.032士 0.005 0.032 :t 0.003 0.032 :t 0.004 0.000 :t 0.002 N.D

0.035 :t 0.004 0.028土 0.002 0.032士 0.003 0.006 :t 0.002 N.D.

0.095 :t 0.012 0.057士 0.006 0.055土 0.008 0.039 :t 0.008 N.D.

0.070 :t 0.008 0.039土 0.004 0.065 :t 0.006 0.018士 0.003 N.D.

0.066 :t 0.008 0.047 :t 0.004 0.037士 0.005 0.024 :t 0.006 N.D.

0.054 :t 0.000 0.038 :t 0.000 0.041士 0.000 0.015士 0.000 0.003 :t 0.002

0.053 :t 0.006 0.040士 0.003 0.040 :t 0.004 0.013 :t 0.005 0.003士 0.002

0.043 :t 0.006 0.033士 0.003 0.035 :t 0.005 0.010 :t 0.005 N.D.

0.041士 0.006 0.031 :t 0.003 0.033 :t 0.004 0.009 :t 0.004 0.004 :t 0.002

0.047 :t 0.006 0.034 :t 0.003 0.040 :t 0.005 0.010 :t 0.005 N.D

0.042 :t 0.005 0.027土 0.002 0.026士 0.003 0.015 :t 0.003 N.D.

0.034 :t 0.006 0.032士 0.003 0.034 :t 0.004 0.001 :t 0.002 N.D

0.029 :t 0.005 0.031士 0.003 0.026 :t 0.003 0.000 :t 0.000 N.D.

0.031土 0.005 0.026 :t 0.002 0.023 :t 0.003 0.006 :t 0.003 N.D.

0.083 :t 0.016 0.025 :t 0.003 0.039 :t 0.005 0.051 :t 0.008 0.003 :t 0.001

0.112 :t 0.015 0.022 :t 0.003 0.030 :t 0.005 0.086 :t 0.007 0.003 :t 0.001

0.104 :t 0.016 0.029 :t 0.003 0.029 :t 0.005 0.074 :t 0.008 0.004 :t 0.002

0.100 :t 0.015 0.032土 0.003 0.029士 0.005 0.070 :t 0.008 0β05土 0.001

0.069 :t 0.015 0.029士 0.003 0.034 :t 0.005 0.038 :t 0.007 0.005士 0.001

0.061土 0.017 0.031士 0.003 0.029 :t 0.005 0.031 :t 0.008 0.004士 0.001

0.102 :t 0.016 0.027士 0.003 0.025 :t 0.005 0.076 :t 0.008 0.004士 0.001

0.194 :t 0.026 0.056土 0.005 0.067士 0.008 0.132 :t 0.013 0.008土 0.002

0.060 :t 0.014 0.035士 0.002 0.034 :t 0.004 0.025 :t 0.007 0.005士 0.001

0.081士 0.015 0.026 :t 0.003 0.028 :t 0.005 0.054土 0.008 0.006 :t 0.001

0.108士 0.013 0.027 :t 0.004 0.028 :t 0.004 0.080士 0.014 0.005 :t 0.001

0.071士 0.014 0.025 :t 0.005 0.025 :t 0.005 0.046士 0.015 0.007 :t 0.002

0.086 :t 0.011 0.025 :t 0.004 0.029 :t 0.004 0.059士 0.011 0.005 :t 0.001

0.106 :t 0.012 0.026 :t 0.004 0.028士 0.004 0.079 :t 0.013 0.005 :t 0.001

0.086 :t 0.011 0.024 :t 0.004 0.023土 0.004 0.062 :t 0.012 0.004 :t 0.001

0.063士 0.010 0.026 :t 0.003 0.027 :t 0.004 0.037士 0.010 0.002 :t 0.001

221

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天野敦子ほか

乱・回折式粒度分析器 (CILAS1064) を用いて測定した。

測定の前処理として,湿重量約 0.5gを分取し,過酸化

水素による有機物分解を行った。その後,ホットプレー

トで加熱して余分な過酸化水素を除いた。分析の直前に

超音波洗浄機を使用して粒子を分散させ,その試料を分

析装置で測定した。試料番号 12は試料量が少ないため,

分析を行わなかった。本研究ではφスケールの中央粒径

値を用いて粒度を,また 4φ(63μm) よりも細粒な堆積

物の含有率を含泥率として示した。

リン

試料量が少ない 11, 12を除いた表層堆積物試料を用

いて, リンの分析をおこなった。リン形態の連続した溶

出方法として用いられる SEDEX法 (Ruttenberg,1992)

をわずかに改変した Advanc巴dSEDEX法 (Lukkariet aI.,

2007) を用いて, 5つのリン形態の濃度を測定した。最

初に,乾燥させた堆積物試料0.5gに0.46MNaClを加え

て,弱く結合したリン,または間隙水中のリン (NaCl-iP)

を溶出した。この段階では,交換可能な形態のカルシウ

ムイオンやマグネシウムイオンが溶出し,ナトリウムイ

オンに置換される。次に, O.IIM NaHC03を用いて pH

7.0に調整した亜ジチオン酸ナトリウム (Na2S204)を加

えて,酸化還元反応に敏感に応答する鉄,マンガンと結

合したリン(NaBD-iP)を抽出した。第三ステップとして,

O.IM NaOHを加えて有機物やアノレミニウム酸化物と結

合したリン(NaOH-iP)を抽出した。第四ステップとして,

0.5MHClを加えて主にアパタイト鉱物によるリン (HCI-

iP)を抽出した。最後に残った試料を 5500

Cで1.5時間乾

燥させ,それに lMHClを加えて難溶性有機物リンなど

を含む残存していたリン(R巴s-p)を抽出した。そしてオー

トアナライザー (BltecSwaat autoanalyser) で各濃度を

測定した。また,これら分析した 5つのリン形態の総和

を全リン (TotalPhosphorus, TP) とした。これらリン

濃度は乾燥重量を基に計算した値を ppmで示す。

軟 X線写真

軟 X線写真は,堆積物内の粒子の粒径や組成などの

物性の違いを反映して軟X線の通過量が変化すること

を利用して撮影され,堆積構造の解析手法としてよく用

いられる(池原, 1989)。本研究では,軟 X線発生装置

SOFRON/STA-1005 (綜研ソフロン社製)とデジタルX

線センサ-NAOM閃 X-04S (アールエフ社製)を使用

して,電圧 45~ 50kv,電流 3mAで撮影した。

222

210Pb, 137CS法による堆積年代

1970年代初頭, Krishnaswamy et al. ( 1971 )や Koideet al.

(1972, 1973)は湖沼や海洋の堆積物中の 210Pb同位体

(半減期 22.3年)を用いて堆積速度を求めた。それ以

降, 21日Pbは堆積物の過去約 100年間の年代決定に有効

な手法として広く用いられている。 lヌ7CSは第二次大戦

以降に行われはじめた大気圏内核実験によって放出さ

れた人工核種で,1950年代以降に環境中へ放出される

ようになった。 1ヌ7CSの年間降下量は 1963年に明瞭な最

大値を示し,それ以降では減少する。そのため,堆積

物中の 137Cs濃度は降下量を反映して変化し,そのピー

ク深度の年代は 1963年を示す。本研究では株式会社地

球科学研究所で,ローパックグラウンドガンマスペク

トルメーターで 210Pb,山Pb,214Bi, 137Csの放射能強度

を測定した。そして 210Pb放射能強度から 214Pbと214Bi

の平均した値を差し引いた値を大気経由で付加された

過剰 210Pb放射能強度 eIOPb(cxl) として, CIC (Constant

Initial Concentration) モデル (Appleby組 dOlfield,1978)

を用いて堆積速度を求めた。この時, 1 ccのプラスチッ

クキューブの乾燥試料重量から求めた重量深度を用いて

年間の単位面積当たりの堆積物重量を示す重量堆積速度

(単位;g cm-2 y{l) を計算し,コア深度に対する堆積年

代を求めた。

結果

表層堆積物

児島湖の表層堆積物の粒度分布は,沿岸部では 3.2~

4.4φの極細粒砂~粗粒シノレトが堆積し,湖の沿岸付近

から中央部に向かつて 7.5φ 程度の細粒シルトとへ細粒

化することを示す (Fig.2A, Tabl巴1)。児島湾では,主

に7.0φ 以上の細粒、ンルトが堆積し,局所的に粗粒堆積

物が分布する。湾中央の高島干潟では,牡踊殻混じり

の砂磯(試料番号 12) や 3.0φ 以下の中~細粒砂(11,

15)などの粗粒な堆積物が分布している。吉井川河口(試

料番号 9) や湾口の北部沿岸域 (2) においても,局地

的に 3.0φ 以下の細粒砂が分布している。また,岩泥率

は粒度を反映した分布パターンを示す。児島湖の岩泥率

は沿岸部では 70%以下と低いが,中央部では 80%以上

と高くなる。また児島湾の主な点ではほぼ 100%を示し,

砂質堆積物が分布する地点では 50%以下に減少する。

TP濃度は主に 300~ 600 ppmを示すが,児島湖内の

笹ヶ瀬川,倉敷川河口に近い試料番号 22,25, 27は

1000 ppm以上と高い (Figs.2B, 3, Table 1) 0 5つのリ

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岡山県児島湾における堆積物を用いた過去 100年間の海底環境変遷と人造湖形成の影響評価

Fig. 2. Distribution map of grain size and TP in surfac巴sediments.

A: grain size, B: TP.

図2 表層堆積物の粒度と TPの分布図.Aは粒度, BはTP

を示す.

ン形態別にみると,最も高い濃度を示すのは NaBD-iP

濃度で,児島湖ではおよそ 190~ 870 ppm,児島湾で

は60~ 230 ppmである (Fig.3, Table 1) 0 TPに対する

NaBD-iPの含有率は児島湖では 50~ 60%,児島湾では

20 ~40% で,多数の地点、で半分以上を占める。次に高

い値の HCI-iP濃度はほとんどの地点で 100~ 150 ppm

を示す。 3番目に高い NaOH-iP濃度は主な地点では 50

~ 150 ppmを示し,児島湖の一部(試料番号 22,25,

27) では 181~ 336 ppmと高くなる。児島湖の Res-P濃

度は主に 35~ 590 ppm,児島湾ではおおよそ 50~ 130

ppmである。 NaCI-iP濃度は 5つの形態の中で最も低く,

児島湖では 4~ 25 ppm,児島湾では 6~ 39ppmである。

単相関結果は, TPと粒度,含泥率の聞に相関関係が

ないことを示す (Figs.4A,B)。しかし,児島湖と児

島湾を分けてみると,児島湾の粒度と含泥率は TPと

正の相関を示す。 TPと各リン形態との関係をみると,

NaBD凶 iP濃度と NaOH-iP濃度が強い正相聞を示す (Figs.

4D, E)。また児島湖と児島湾に区分してみると, HCI-

iPと児島湖の NaCI-iPもTPと正相闘を示す (Figs.4C,

G)。

柱状堆積物(コア)

色,粒度,堆積構造:

コアの色,堆積構造,含水率,粒度分析の結果を基に,

223

Fig. 3. Distribution of five phosphorus fractions in surfac巴

sediments

図3. 表層堆積物の各リン形態濃度分布図.

コアの岩相変化について述べる (Fig.5)。

児島湖で採取された K凡 1,K凡2は泥質堆積物から

なるが,その色,堆積構造と粒度は異なる変化を示す。

KJL1は主にオリーブ~暗オリーブ灰色のシルトからな

る。肉眼では,直径数 mmの巣穴が全体的に観察される。

また軟X線写真では,コア深度 34.0-49.0,69.0-78.5 cm

で連続した層厚数 mmのラミナ層が観察されるが,その

一部分は生物擾乱によって形成された不規則にうねった

堆積構造によって崩されている (Figs.6A, B, C)。含

水比は表層からコア深度 11.0cmに向かつて 70%から

100%へと増加し, 11.0-66.0 cmでは 100~ 110%を推移

する。そして,コア深度 66.0-78.5cmでは 80~ 90%に

減少する。また KJL1の粒度は主に 5.1~ 5.6φ であるが,

コア深度 13.0-15.0,41.0-43.0, 59.0-63.0 cmでは 7.5~ 8.3

φへと細粒化する。

KJL2の岩相はコア深度 0.0-11.0cmと40.0-125.0cm

では暗オリーブ灰色のシルト層であるのに対して,

11.0-40.0 cmでは層厚数 cmの明色の灰オリーブ色層

と暗色のオリーブ黒色層の互層である。軟X写真で

は,コア深度表層 11.0cmに直径数 mmの巣穴が (Fig.

6D), 16.0-40.0 cmでは層厚 1~5 cmのラミナが観察さ

れる (Figs.6D, E)。コア深度 40.0cm以深では, Fig.

6Fに示された生物擾乱によって形成された不規則にう

ねった構造が観察される。これら構造の中には, Fig.

6F中の白矢印で示した直径約 2cmの惰円の構造が観

察され,これはウニの這い跡の生痕である Bichiordites

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500寸困

1000 ε 量色ト

500

1500寸固

1000 (

ε a.. S 仏

1500,田

1000 ε a.. a.. a ト

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天野敦子ほか

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RJvbふ、せどλ可ぺ〆

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,FLP

F同

monastiriensis (N釘 a,2004) と同定される。含水比は表

層からコア深度 11.0cmに向かつて 120%から 80%へと

減少し, 11.0-41.0 cmでは 100~ 150%を, 41.0 cm以深

では 80~ 100%を推移する。粒度は表層 3.0cmでは 5.3

φを示し, 3.0-23.0 cmでは 7.0~ 7.8φ を推移する。コ

ア深度 23.0-57.0cmの粒度は主には 8.0φ 前後であるが,

局所的に 6.0φ 以下へと減少し, 57.0 cm以深では 8.0φ

前後をほぼ一定に推移する。

児島湾の湾奥部で採取された KJC20は主にオリーブ

黒色または黒色の細粒シノレトからなる。肉眼観察結果

1',. y=1.99x + 826.95 r=0.008

y=7.68x + 501.32 ム 戸0.052

J-ーィーがy=31.93x + 230.00 r=0.688 (p<0.01)

。2 6

Grain size (Mdφ) 100 100 50

Mud ∞ntents (%)

ム"6 J

" y=54.48x + 230.7 r=0.921(p<0.01 )

河川

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/ 戸0.267

(/ _,ぷプムV 〆/芸-季、ーも

。<><> <> y=-O.06x + 443.8 r=-0.013

固 国 〆

1',./ 〆

y=3.77x + 218.76 / r=0.963 (p<0.001)ノノ

〆ノ

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争y=2.1加 264.65戸 0.762(p<0.001)

500 10000 200 400 NaBO-iP (ppm) NaOH-iP (ppm)

園 , ム iむ

E

I ム Datain Kojima Lake

" y=19.40x -187.95 I r=0.822 。Datain Kojima Bay

B !f::込

Approximated curve of , , data in Kojima Lake a y=0.10x+ 541.36 ,

_. Approximated curve of , r=0.008

ゐ~・" data in Kojima Bay t{0. 供O令~門可〉司-0'を〉 Approximated curve of

1',. <; dK"̂ <> ぎる y=3.32x + 151.5

一一 datain Kojima Lake

r=0.799 (p<0.001) and Bay

50 100 150 Res-P (ppm)

50 0

2000

Fig. 4. Simple correlations between TP and grain size, mud content, and phosphorus 台actionsof surface sediment.

図4. 表層堆積物の粒度とリン特性の相関図.

0 50 100 150

HCトiP(ppm)

や軟X線写真は,全層に渡って直径数 mmの巣穴を含

む生物擾乱の痕跡が観察されることを示す。また軟X

線写真では,コア深度 15.0戸 19.0,35.0-38.0, 43.0-45.0,

52.0-60.0 cmにラミナが観察されるが,これらは生物

擾乱によって部分的に崩されている (Pigs.60, H, 1)。

KJC20の含水比は主に 200%以上を示し,他のコアよ

りも高い。コア深度表層 27.0cmでは 200~ 210%,

27.0-56.0 cmでは 190~ 200%, 56.0 cm以深では 150~

170%と,大局的には下部に向かつて徐々に減少するが,

14.0-19.0, 22.0-27.0, 35.0-37.0, 41.0-43.0, 51.0-53.0 cm

224

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岡山県児島湾における堆積物を用いた過去 100年間の海底環境変遷と人造湖形成の影響評価

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毒殺 !.Q!制限|♂

1900-_-_-1---一句-10Y3/1

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legends in the sedimentary∞lumn ~, "H Sand 摺磁器111lamination

1 I Mud 同 IBioturbation

Fig.5. Sedimentary columns and profiles of grain size and water content in core sediments.

図5. コアの柱状図と粒度,含水率プロファイノレ.

225

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天野敦子ほか

A B C E F G H J K

Core No KJL 1 KJL 1 KJL 1 KJL2 KJL2 KJL2 KJC20 KJC20 KJC20 KJC7 KJC7

Core depth 0-25 25-50 50-75 0-25 25-50 (cm)

50-75 0-25 25-50 50-63 0-25 25-50

10・釦(cm)

Fig. 6. Soft X-ray images of core sediments.

図6. コアの特徴的な堆積構造を示す軟X線写真.写真は陰影.

では 230%以上の局所的な増加を示す。粒度はコア深

度 7.0-9.0cmで8.0φ 以下へとやや粗粒化するが,全層

を通じて 8.5ゆ程度をほぼ一定に推移する。

一方,湾口で採取された KJC7はコア深度表層 20.0

cmのオリーブ黒~黒色のシノレトからなる上位層と

20-54.5 cmのオリーブ灰色~暗オリーブ灰色の細粒砂か

らなる下位層に区分することができ,その境界は明瞭で

ある。肉眼ではコア深度 9.0-10.0cmに,また軟 X線写

真では 5.0-6.0cmに巣穴が観察される。また,軟 X線写

真でコア深度 4.0-13.0,16.0-20.0 cmに層厚数 mmから 3

cmのラミナが観察される (Fig.6H)。一方,下位層では

全体的に生物擾乱によって形成された構造が観察される

(Figs. 6H, 1)。含水比は上位層では 120~ 200%を推移

するのに対し,下位層では 50%以下へと急激に減少す

る。また粒度は,上部層では 8.0φ程度を,下部層では 4.0

φ程度を推移する。

21Opb, 137Csフ。ロファイノレー

大局的にみると KJL1, 2とKJC20の 21Opb(CX)は表層

から下層に向かう減衰傾向を示すが,その傾向は直線

的ではない (Fig.7, Table 3)0 KJL1の 210Pb(ex)は,コア

深度表層 52.0cmでは 0.030Bq/gから 0.005Bq/gへと下

部へ向かつて減少するが,途中の 40.0-42.0cmで0.030

Bq/gへと増加する。コア深度 55.0-62.0cmでは 210Pb(ex)

226

は0.001Bq/g以下へと急激に減少し, 70.0-72.0 cmで

は0.006Bqlgへと増加する。また, ¥37CSは KJL1の全

試料で検出されなかった。 KJL2の 210Pb(ex)はコア深度

表層 36.0cmでは 0.039Bqlgから 0.009Bqlgへとほぼ直

線的に減衰する。しかし,コア深度 40.0cm以深では

210Pb(CX)は0β10~ 0.015 Bq/gを変動し,減衰傾向は見ら

れない。 137CSはコア深度 14.0-22.0,30.0-32.0 cmで検出

され, 30.0-32.0 cmの値が最も高い。 KJC20の 210Pb(ex)は

コア深度表層 12.0cmでは 0.051~ 0.086 Bq/gを変動し,

12.0 cmから 32.0cmに向かつて 0.031Bqlgへと減少し,

さらに 34.0cm以深では 0.051~ 0.086 Bq/gで変動する

ことを示す。 KJC20の 137Csはコア深度 40.0-42.0cmで

0.008 Bq/gへと突出した増加を示すが,それ以外では

0.003 ~ 0.006 Bq/gを変動しながら推移している。 KJC7

の 210Pb(ex)は0.080~ 0.037 Bq/gの変動を示し,減衰傾

向が見られない。また, I17Csはコア深度表層 20.0cmで

は0.004~ 0.007 Bq/gを変動し, 20.0-22.0 cmでは 0.002

Bq/gへと減少する。

考察

表層堆積物特性と海洋環境との関係

堆積物の粒度変化は堆積作用に影響を及ぼす水理営力

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岡山県児島湾における堆積物を用いた過去 100年間の海底環境変遷と人造湖形成の影響評価

る。この分布様式は湾内の水理状態が停滞的であること

を示し,児島湾の主な水理営力である潮流の運搬作用は

弱いといえる。しかし,高島干潟や河口付近では牡踊殻

混じりの砂礁や3φ以上の細粒砂の粗粒な堆積物が分布

しており,比較的強い水理営力の影響を受けていること

を示唆する。高島干潟の水深は 2m以下と浅く,波浪が

海底に影響して泥粒子は巻き上げられて潮流によって再

移動し,粗粒な砂質堆積物が分布していると考えられる。

また,吉井川河口では河川流の減衰に伴い粗粒な堆積物

を反映する。児島湖の粒度は,沿岸付近では 4.0φ 以下

の砂が,中央部では7φ以上の細粒、ンルトが分布する (Fig.

2A, Tab1e 1)。沿岸付近に砂が分布する原因として,波

浪や河川流などの比較的強い水理営力が湖底に影響を及

ぼしていると考えられる。一方,中央部の津筋や締め切

り堤防付近の水深はやや増加し,かっ河口から遠くなる

ため,相対的に波浪や河川流の影響が弱くなり,シノレト

が堆積しているといえる。

児島湾では主に 7.0φ 以上の細粒シノレトが堆積してい

KJL2 KJL1 iKojima Lakel

。。「冊内同申玄才

(03)d

210Pb(ex) (Bq/g)

0.001 0.01 0.1

1-一安4

0.0001

ぞ一印帥

ma2U3(Q03M)

00『magus(03)

40

210Pb(ex) (Bq/g) 。ρ01 0.01 0.1 。0.0001

nU

4

玄曲柏市

wa申立才

(G『

03M)

0.01 0.005

137CS (Bq/g)

KJC7

。0.01 0.005 137CS (Bq/g)

iKojima Bay 1 KJC20

。。「申立時一

ug(口ヨ}

n

u

'

S

2

0

5「

0

210Pb(ex) (Bq/g)

0.001 0.01 0.1

Itl

底|

0.005 137CS (Bq/g)

210Pb(ex) used for caluclating of sedimentation rate

210Pb(ex) not used for caluclating of sedimentation rate

137CS

Laminaied layer

0.0001 豆岱明α3

2052宕二号 てコ∞s: a.~

40815 才 3〆一一、 ト。日)

60ヨ 。

0.01

210Pb(ex) (Bq/g)

0.001 0.01 0.1 0.0001

ζ齢的∞門跡。玄才

(G¥

口ヨM)

137CS (Bqlg)

Fig. 7. Profiles of 210Pb and 137 Cs activities in core sediments.

図7 コアの 210pbl,,), 137Csプロファイノレ.

227

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天野敦子ほか

は堆積し,細粒な堆積物はより沖側へと移動するため,

砂質堆積物が分布している。

リンは細粒粒子に吸着しやすいため,その濃度は堆積

物の粒径と関係が強い。児島湖,児島湾の TP濃度と粒

度の分布ノfターンを比較すると (Pig.2), 3.0φ以下の砂

または砂磯が分布する高島干潟や河口付近で TP濃度は

減少する。単相関結果は,児島湾では TP濃度と粒度ま

たは含泥率との聞に正の相聞があることを示すが,児島

湖や全データでは関係が見られない (Pigs.4A, B)。こ

れら結果は,砂と泥の違いのような大局的な粒度変化は

TPの堆積過程に影響を及ぼしているが,泥質堆積物聞

においては粒度以外の要因が強く関係していることを示

す。

リン形態との単相関結果は, TP濃度が NaBD-iPと

NaOH-iPが強い正相関 (pく0.001)があることを示す(Pigs.

4D, E) 0 TPに対する NaBD-iPの含有率は,児島湖では

50 ~ 60%,児島湾では 20~ 40%,また NaOH-iPは湖

と湾で 15~ 25%を示し,この二つの形態が大部分を占

める。つまり,これら結果は児島湖と児島湾の表層堆積

物中のリンは主に NaBD-iPとNaOH-iPの含有量によっ

て変化していることを示す。

児島湖の NaBD-iPは児島湾よりも相対的に高い。

NaBD-iPは鉄と結合したリン量の指標となる (Lukkari

et aI., 2007)。堆積物表層では,急激に酸素濃度が減少し

て還元的状態となるため,鉄結合したリンはリン酸イオ

ンと鉄イオンとなって溶出する。無酸素の海洋環境下で,

硫酸還元細菌は海水に含まれる硫酸イオンと有機物を用

いて硫化水素を発生し,それが鉄イオンと結合して硫化

物が形成される(例えば, Berner, 1970, 1984)。そのた

め,海水中で、は堆積物から溶出した鉄は硫化物として堆

積するが, リンは水中に放出される.一方,淡水下で、は

再度水中で鉄と結合して堆積物に保存される。このよう

な淡水と海水における硫酸イオン濃度と溶存酸素濃度の

違いによって,児島湖の NaBD-iPは児島湾よりも高い

と考えられる。試料採取時,児島湾の泥質堆積物は硫化

水素臭を発しており,硫酸還元によってパイライトが生

成される環境であったといえる。パイライト形成に鉄イ

オンが使用され,堆積物から溶出したリンは海水中に拡

散した結果,児島湾の NaBD-iPは児島湖よりも低くなっ

たと考えられる。

また NaBD-iPと同様に, NaOH-iPも児島湖で高い。

NaOHは主に有機態リンを,それ以外に無機態リンと

してアノレミ酸化物結合態リンや還元不可能な鉄酸化物

態リン,フミン酸物質に化合したアノレミニウムや鉄と

228

結合したリンを抽出する (Schnitzer,1969) 0 Lukkari et

a1.(2008)はNaOH-iPとNaOH-iP中のアノレミニウム濃度

がよい相関関係であることを示し, NaOH-iPの変化は

アノレミニウム酸化物と結合したリンの寄与が大きいと

説明した。また,内湾堆積物の NaOH-iPの空間分布は

湾口に向かつて減少する傾向を示す (Coelhoet aI., 2004;

Lukkari et a1., 2008)。淡水によって運ばれるリンは主に

鉄やアルミニウムの酸化物に吸着しているため (Lebo,

1991; Zwolsman, 1994),内湾の NaOH-iP変化はこの影響

を反映しているといえる (Lukkariet aI., 2008)。同様に,

淡水の影響が強い児島湖では NaOH-iPが児島湾よりも

相対的に高くなっていると考えられる。

210Pb,町Csによる堆積年代

堆積物中の 210Pb,137Cs放射能強度変化は,放射改変

による減衰だけではなく,イベント的に発生した水理営

力や供給量の変化や堆積後の物理,生物的な擾乱の影響

を反映する。本研究ではコアの岩相や粒度変化と比較結

果を用いて 210Pb,137Csの変化要因を検討して,各コア

の堆積年代を決定する。

KJLlのコア深度表層 52.0cmの2IOpb(ex)は下方に向

かつて減少するが,途中の 40.0-42.0cmでは突出して増

加する。また,コア深度 55.0-62.0cmでは急激な減少,

70.0-72.0 cmでは増加と不規則な変化を示す (Pig.7)。

2IOpb(ex)の増加がみられるコア深度 40.0-42.0,70.0司 72.0

cmでは,粒度は細粒化し,層厚数 mmの連続したラミ

ナが観察される (Pig.4)。粒度の細粒化は水理営カが弱

くなったことを示唆し,主な堆積物供給である河口から

沖側への物質の移動量が減少して沖側の堆積速度が減少

した可能性が考えられる。本研究では 1cm間隔でスラ

イスしたコア試料を用いているため,層厚数 mmのラ

ミナの構成物の変化などを基に成因について議論するこ

とは難しい。しかしながら,粒度変化が示唆するように,

水理営力が弱くなることによって湖水や堆積物表層の物

理的な擾乱の影響が小さくなり,その結果,季節的な水

質や供給物質の変化によってラミナが形成,保存された

可能性があげられる。この水理状態の停滞化の原因とし

て,波浪を引き起こす風力の減衰などの可能性が考えら

れるが,生物擾乱の影響によって時間分解能が低く,詳

細な検討が困難なために不明である。また,大気から

降下する 21日Pb(ex)フラックスが一定と仮定すると,堆積

速度が増加することによって,堆積物中の 210Pb(ex)は砕

屑物の希釈によって減少することが考えられる。コア深

度 55.0-62.0cmにみられる 2IOpb(ex)の急激な減少は,洪

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岡山県児島湾における堆積物を用いた過去 100年間の海底環境変遷と人造湖形成の影響評価

水などによる陸域からの堆積物供給量増加と生物擾乱

によって,堆積速度が増加し,かっ堆積物が撹持された

ことが原因と考えられる。つまり,コア深度 40.0-42.0,

55.0-62.0, 70.0-72.0 cmで、は一時的な水理状態変化に伴

う堆積速度変化や生物活動の影響によって 21日Pb(exJが

変化しているとして除き,表層 52.0cm聞の減衰傾向

を用いて計算した。その結果,悶L1の堆積速度は 0.60

g/cm2/yr (0.8 cmlyr) となった。

KJL2のコア深度表層 36.0cmの 210Pb(exJは下部に向

かつて直線的な減少を示す。コア深度 11.0-40.0cmでは

層厚 1~ 5 cmの明暗変化を示すラミナが観察される。

生物生産量の増加や溶存酸素濃度の減少によって有機物

や硫化物の含有量が増加すると堆積物は暗色化し,反対

にそれらが減少して,岩石性砕屑物の含有率が高くなる

と明色化する。 KJL2のラミナの層厚は K凡 1と異なり,

厚くて不規則に変化することから,比較的短期間でイベ

ント的に発生した要因によって形成されていると考えら

れる。つまり,暗色ラミナは通常時の停滞的な水理状態

で堆積した有機物を多く含む堆積物で,一方,明色ラミ

ナは洪水時に河川からの岩石性砕屑物供給量が増加する

ことによって形成されたといえる。 KJL1のラミナの形

状や成因と異なる原因として, KJL2の地点は倉敷川河

口に近いため,河川流の影響が堆積物に保存されやすい

と考えられる。また,ラミナの形成に伴い堆積速度が変

化していることが予想されるが,測定間隔が広いため,

210Pb(exJプロファイルにその変化が反映されていないと

考えられる。一方,コア深度 40.0cm以深の 210Pb(cxJは

不規則な変化を示し,軟X線写真ではこの深度聞にウ

ニなどの底生生物によって形成された生痕が観察され

る。この間の堆積物では,上位層と同様にラミナが形

成されても,生物擾乱によって保存されないと考えられ

る。また,不均質に堆積物が撹持された結果, 210Pb(cxl

は不規則な変化を示しているといえる。そのため,減衰

傾向が保存されているコア深度 0-36.0cmの 210Pb(cxlの

データを用いて計算した結果, KJL2の堆積速度は 0.5

g/cm2/yr (0.8 cmlyr) となる。

KJC20の 210Pb(exlはコア深度表層 12.0cmではほぼ一

定で, 12.0-32.0 cmでは下方への減少を示す。生物擾乱

による堆積構造が観察されるため,表層の生物による

混合層は 12cm程度で, 12.0-32.0 cmでは減衰傾向が保

存されているといえる。一方,コア深度 34.0cm以深の

210Pb(cxlは不規則な変化を示す。軟X線写真は,局所的

に層厚数 mmの連続したラミナと全体的に生物擾乱が

分布することを示す。生物擾乱の形状はほとんど変化し

229

ないため,その撹祥の度合いの違いを判断することは難

しいが,コア深度 34.0cm以深では,生物擾乱が活溌で

あったため 210Pb(叫が不規則になったことが考えられる。

また,ラミナが観察される深度で含水比は増加し (Fig.

4),粒度の細粒化がみられないことから,有機物や生物

遺骸などの低密度物質の含有量が増加したことを示唆す

る。 KJL1と同様に試料間隔が 1cmであるため,ラミナ

の成因を検討することは難しいが,有機物などの供給量

変化を反映して形成されていると考えられる。つまり,

コア深度表層 12.0cmと34.0cm以深は生物擾乱や供給

の変化を反映していると考え, 9.0-36.0 cmのデータを用

いて計算した結果, KJC20の堆積速度は 0.2g/cm2/yr (0.5

cmlyr) となった。

KJC7のコア深度 0.0-22.0cmの 210Pb(cxJは不規則に変

化し,減衰傾向を示さない。この深度間で観察されるラ

ミナの層厚は数 mmから 3cmで,不規則な変化を示す。

そのため, KJC7のラミナはイベント的に発生した要因

によって形成された可能性が考えられる。児島湾のよ

うに,潮汐作用が卓越した沿岸海域では,洪水によって

高濃度の細粒砕屑粒子が供給されことによって,高濃度

の浮遊性粒子を含む泥質流体が形成され,短期間に泥質

堆積物が分布する場合がある(例えば, Dalrymple et al.,

2003; Wheatcroft and Borgeld, 2000)。また,洪水だけで

はなく,潮汐や波浪によって湾内に堆積していた泥質堆

積物が再懸濁,再移動されることによっても形成される

場合もある (McAnallyet al., 2007)。児島湾内において,

上記のようにして形成された泥質な水塊は,潮汐や重力

によって,相対的に深い溝地形を通じて湾口へと移動す

ると考えられる。この過程によって,下流部に位置する

KJC7では比較的短時間で厚い泥質層が形成されて急激

に堆積速度が変化し, 210Pb(exJが不規則な変化を示すと

考えられる。

上記のようにして求めた KJL1, 2とKJC20で求めら

れた重量堆積速度を用いて,コア深度に対する堆積年

代を計算し (Fig.8), 137Csと対比した。 K凡2の 137Csは

コア深度 14.0-32.0cmで検出され, 30.0-32.0 cmで最も

高い値を示し,上部に向かつて減少する。この深度問

ではラミナが観察されて,生物擾乱の影響が見られない

ことから,堆積後に 137Csが上下層へ移動した可能性は

低い。コア深度 32.0cmを 137Csピークの 1963年として

210Pbの年代値と比較すると,これら年代値はよく一致

し (Fig.8),妥当な判断といえる。 KJC20では 137CSは

全試料で検出され,コア深度 40.0-42.0cmで最も高い値

を示す。しかし上記したように,堆積速度の減少によっ

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天野敦子ほか

KJL 1 KJL2 KJC20 Age (A )

1880 1920 1960 20001880 1920 1960 2000 1880 1920 1960 2000 O

20

E O

E

(oヨ)60

80 Icm)

Fig. 8. Age model by 210Pb of core sediments.

図8 コアの 210Pbによる年代モデル.

て同深度の 210Pblex)は増加したと考えられるため,同様

に mCsも増加したといえ,降下量のピークとは認めら

れない。また 21口Pb年代結果は,コア深度 33.0cm以深

の堆積年代は 1950年以前であることを示すが, 137Csは

検出されている。この相違は,生物擾乱によって堆積物

が 30cm以上下部へと移動したことを示し, 33.0 cm以

深の堆積物は上位層よりも強い撹梓作用を受けていたこ

と示唆する。悶C7では, 137CSの明瞭なピークは認めら

れないが,コア深度表層 22.0cmで検出される。この深

度問では生物擾乱が少なく,ラミナの保存状態がよいこ

とから,堆積物が下部へと移動した可能性は低い。その

ため, KJC7のコア深度表層 22cmは少なくとも 1950年

代以降に堆積したといえる。

また KJL1では, 137CSは検出されなかった。 137CSは

細粒粒子に吸着しやすいため,これら放射能強度は泥

質堆積物では高く,砂質堆積物では低くなる(例えば,

Francis and Brinkiey, 1976 ; Cremers et al., 1988 ; Bacon et

al., 1994)。他のコアのシノレト層と比較すると KJL1の粒

度は 5.0~ 6.0<tとKJL2よりも粗いため,検出限界値以

下になったと考えられる。

過去 100年間の環境変遷

児島湖で採取された KJL2の 1960年以前を示すコア

深度 40.0cm以深の堆積物はウニの這い跡などを含む

生痕が観察されるシノレトで,停滞的な水理状態で底生

生物の活動が行われる海域環境であったことを示唆す

る。 KJL1と悶C20も 1960年以前の岩相は生物擾乱が

みられるシノレトであるため,悶L2と同様の海洋環境

であったと考えられる。しかし,粒度や生痕の違いか

ら,水理営力や生物活動の影響が異なることが考えら

れる。 KJL2と悶C20の粒度は 8φ 程度であるのに対し

て, KJL1は 6φ 程度とやや粗い。現在の児島湾では主

に 7~8φ の堆積物が分布していることから CFig. 3A),

1960年以前の KJL2とKJC20は現在の湾内と同程度の

水理状態であったといえる。一方,やや粗い K凡 1は,

現在の粒度分布が示唆するように,波浪による比較的強

い水理営力を受ける海域であったと考えられる。また,

KJL1と KJC20では直径数 mmの巣穴, KJL2ではウニ

の這い跡と異なる生痕が観察される。 KJL1と KJC20の

ラミナの一部分は生物擾乱によって崩されているが,大

部分は保存されているため,堆積物は完全に撹拝され

ていない。一方,河口位置に変化がないとすると, 21Dpb

年代で議論した KJL2のコア深度 11.0-40.0cmと同様に,

40.0 cm以深もイベント的な洪水の影響によってラミナ

が形成されていた可能性がある。しかし,ラミナは全く

観察されず,生物擾乱が卓越することから,生物活動の

撹祥によって保存されていないと考えられる。つまり,

1960年以前の KJL1と KJC20付近では,種名等は不明

であるが,数 mmの底生生物が生息しており,その堆積

物撹祥の影響は比較的小さい。一方, KJL2ではウニな

どの生物活動によって強く混合されている。詳細な水深

データがないため議論できないが,粒度や生物活動にみ

られる K凡 lと2の差はわずかな水深などの違いによっ

て生じていると考えられる。

KJL2の 1960~ 1990年頃(コア深度 40.0-11.0cm) の

堆積物は,それ以前と比較して,暗色を示す CFig.4)。

また,ラミナが観察され,生物擾乱は全くみられない。

年代決定で議論したように,生産性の増加や貧酸素化

によって,堆積物中の有機物や硫化物の含有率が増加し

て,堆積物の色は暗色化する。つまり, KJL2の色変化

は 1960年頃から富栄養化や貧酸素化が進行したことを

示す。また,生物擾乱が観察されないため,この地点で

の底生生物の活動がほとんど見られなくなったことを示

す。これら堆積物変化がみられる年代は児島湖が形成さ

れた 1959年とよく一致し,児島湖形成が海洋環境に影

響を及ぼしたことを示唆する。つまり, KJL2が位置す

る現在の児島湖,つまり!日児島湾の湾奥部は締切堤防が

建設されることによって,閉鎖的な水域となる。湾内に

移動,拡散していた河川から供給される栄養塩や有機物

は児島湖内に滞留し,富栄養化が進む。さらに富栄養化

によって湖底への有機物堆積量は増加するため,その分

解によって底層の酸素が消費されて,貧酸素化が起きる。

その結果,底生生物の活動は小さくなったと考えられる。

1970年代に行われた児島湖の水質調査の結果は,富栄

養化が進行し,底層が貧酸素化していたこと示す(金政

ら, 1973)。この結果は本研究の堆積物結果と一致する。

230

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岡山県児島湾における堆積物を用いた過去 100年間の海底環境変遷と人造湖形成の影響評価

また,瀬戸内海全域では, 1960年頃から人間活動の

影響による富栄養化によって赤潮の発生件数が増加し

た (Yamamoto,2003)。児島湾でも後背地の人間活動に

伴う有機物負荷量の増加した可能性が高く,この影響も

K江2が示す貧酸素化の要因のーっと考えられる。また,

児島湖が淡水化することによって生態系が変化し,底

生生物の活動が見られなくなった原因のーっと考えられ

る。

上記のように, KJL2の岩相は児島湖形成に伴う変化

を示唆するのに対して, KJL1では明瞭な変化は見られ

ない。悶工1の粒度は,他のコアよりも粗粒で,波浪な

どの比較的強い水理営力の影響を受けていることを示唆

する。強い水理営力によって水塊は混合されて,底層に

酸素を供給する。そのため,潮汐の影響が減少して児島

湖内全体が停滞的に変化しでも,波浪の影響が強い沿岸

付近で、は水理営力の変化が小さかったと考えられる。

児島湾の湾口付近で採取された KJC7はコア深度 22.0

cmを境界にして,下位の生物擾乱が観察される砂層と

上位のラミナが卓越するシルト層に区分される。この細

粒化の原因として,陸域からの粗粒砕屑物の減少,また

は水理営力の減少が考えられる。吉井川河口の沖側には

水深 6m以深の溝地形があり,その沖側の KJC7よりも

深い。また現在の粒度分布は河口付近では砂が分布する

が,その沖で、は河川流の減衰に伴いシノレトが堆積するこ

とを示す (Pig.2A)。もし現在よりも河川|からの砂供給

量が多かった,または河川流が強かったとしても,この

溝地形を通過して砂が KJC7の地点、に運搬されることは

考えにくい。そのため,児島湾の湾口付近でみられる泥

質化は湾内の主要な水理営力である潮流が減少したこと

を示唆していると考えられる。宮野・柴木(1998) は数

値シミュレーションによって児島湾内の潮流,波浪,河

川流,浮遊泥移動の計算をおこなった。その結果は,児

島湖形成後に湾内の流速が減衰して泥の堆積量が増加し

たことを示した。本研究では 210Pbによって年代を決定

することができなかったが,コア深度表層 22.0cmでは

137Csが検出されることから, KJC7の泥質化は少なくと

も 1950年代以降に起きたと考えることができる。また,

他のエスチュアリーや湾においても埋立てに伴い,潮

汐流が減衰し,泥質化や堆積速度の増加することが示さ

れている(斉藤・茅根, 1991; Chaumillon et al., 2004 ;

Amano et al., 2006)。つまり, 1959年の児島湖形成は児

島湾の潮流速度を減衰させ,顕著な底質の泥質化をおこ

した可能性が考えられる。その一方で,湾奥で採取され

たKJC20の粒度と堆積構造にはほとんど変化が認めら

231

れない。その理由として,湾奥部は児島湖形成前から停

滞的な状態であったため,形成後の潮汐流速減少が水理

状態にほとんど影響しなかったことが考えられる。しか

し, KJC20の210Pb(ex)はコア深度 34.0cmを境界にして,

上位層では減衰傾向を示すが,それよりも下位層では不

規則に変化する (Pig.7)。また, 210PbとlJ7Csの年代対

比結果は,少なくともコアの下部では 30cm程度堆積物

が下方に移動していることを示唆する。つまり,底生生

物活動はコア深度 34.0cmよりも下位層では相対的に活

発であったが,それより上位層では減少したことを示唆

する。 210Pb年代結果はコア深度 34.0cmが 1950年代で

あることを示すが,生物擾乱によってその精度は低くな

り,数十年程度の誤差が生じていると考えられる。その

ため, 21Opb(cx)が示唆する生物活動の減少は児島湖形成

後に起きたと考えることができる。つまり,これら結果

は児島湖形成にともない水理状態が停滞化して,湾奥部

の生態系が変化した可能性を示唆する。

さらに, KJL2の 1990年以降(コア深度表層 1l.0cm)

の堆積物は 1960~ 1990年と比較すると,明色で直径数

mmの生物の巣穴が観察される。つまり, 1990年以前

よりも有機物の蓄積量は減少し,底生生物活動がやや活

発になったことを示す。この原因として,人為的な水質

の改善が考えられる。 1997年から 2007年の聞の観測記

録(藤田ら, 2010) からは, CODの緩やかな減少傾向

を示し,富栄養化や貧酸素化が緩和したことが推測され

る。この結果は本研究の堆積物記録と調和的である。

まとめ

岡山県南部の児島湾とその東部に位置する 1959年に

形成された児島湖で堆積物を採取し,色や堆積構造など

の岩相観察と粒度, リン, 210Pb・137Cs法による年代決

定の分析をおこない,これら結果を基に現在の表層堆積

物特性の空間的変化と過去約 100年間の環境変遷を明ら

かにし,児島湖形成との関係について検討した。

児島湖の粒度分布は沿岸部付近では砂が,中央部では

7.0φ 以上のシルトが堆積することを示す。このパター

ンは沿岸付近の海底は波浪の影響を受けているが,中央

部では水深が増加し,その影響は小さくなることを示す。

一方,児島湾では主に 7.0φ 以上のシルトが分布し,停

滞的な水理状態であることを示す。干潟や河口付近では

磯,砂が堆積し,局所的に波浪や河川流が卓越する。

5つのリン形態と粒度の相関結果は, TP濃度は

NaBD-iPとNaOH-iPの含有量によって変化することを

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天野敦子ほか

示す。 NaBD-iPとNaOH-iPは児島湾よりも児島湖で相

対的に高い。堆積物表層の還元的状態によって,溶出

したリンと鉄は,淡水の児島湖で、は再度結合して堆積

するが,海水の児島湾では鉄は硫化物となって堆積物に

蓄積し, リンは海水中に拡散する。この結果,児島湖の

NaBD-iPは低くなったといえる。また, NaOH-iPはアノレ

ミ二ウム酸化物と結合したリンの含有量の指標となる。

淡水によって運ばれるリンは主に鉄やアノレミニウムの酸

化物に吸着しているため,この影響を反映して,児島湖

で高くなっていると考えられる。

コア中の粒度,含水比,堆積構造と対比し, 2IOPb(ex)

の変化要因を明らかにして堆積速度を求めた。児島湖で

採取された悶L1では細粒化とラミナがみられる層と生

物擾乱がみられる層で 2IDpb(ex)は不規則に変化する。こ

れは一時的な水理営力の停滞化や生物活動による堆積物

の撹枠を反映していると考えられるため,減衰傾向が

みられるコア深度 0-52.0cmの2IOPb(ex)を用いて計算し

た結果,堆積速度は 0.60g/cm2/yrとなった。 KJL2のコ

ア深度 0-36.0cmでは 210pb(,,)は直線的な減衰傾向を示

すが,それ以深では生物擾乱が観察され, 2IOpb(ex)は生

物による撹梓によって不規則な変化を示す。コア深度

0-36.0 cmの2IOPb(ex)を用いた結果, KJL2の堆積速度は0.5

g/cm2/yrとなった。児島湾奥部で採取された悶C20で

は表層 12cmは混合層,また 34.0cm以深では生物擾乱

の影響が大きく, 210Pb(ex)は不規則な変化を示す。そこ

で,減衰傾向がみられる 9.0-36.0cmのデータを用いて

計算した結果,KJC20の堆積速度は0.2g/cm2/yrとなった。

一方,児島湾湾口付近の KJC7は210Pb(ex)の不規則な変

化を示し,また不規則な層厚のラミナが観察される。こ

れら結果はイベント的に発生する泥質流体によって,堆

積速度が頻繁に変化することを示唆し, 21ヤbで堆積年

代を求めることができなかった。しかし,コア深度 22.0

cmでは 137Csが検出されるため,少なくとも 1950年以

降に堆積したと考えることができる。

KJL1, 2とKJC20の 1960年以前の堆積物は生物擾乱

による堆積構造が観察されるシノレトで,児島湖形成以

前の児島湾は現在と同様に停滞的な水理状態で,かつウ

ニなどの底生生物が活動する海域であったことを示す。

1960年以降になると, KJL2の堆積物は暗色化し,ラミ

ナが観察される。この変化は富栄養化や貧酸素化が進行

し,生物活動がほとんどなくなったことを示す。この変

化のプロセスとして,以下のことが考えられる。児島湖

が形成されることによって,湖内は閉鎖的な水域となる。

それまで湾内へ移動,拡散していた河川から供給された

232

栄養塩や有機物は児島湖内に滞留して,富栄養化,貧酸

素化を進行させ,その結果,底生生物の活動は小さくなっ

たといえる。しかし, 1990年以降の堆積物はやや明色

化し,巣穴の生痕が観察される。この変化は人為的な水

質の改善によって富栄養化や貧酸素化が緩和し,底生生

物活動がやや活発になったことを示唆している。また,

児島湾湾口の KJC7は下位の生物擾乱が観察される砂層

と上位のラミナが卓越するシノレト層に区分される。海底

地形と粒度分布から,この泥質化は湾内の主要な水理営

力である潮流が減少したことを示唆していると考えられ

る。宮野・柴木 (1998) は数値シミュレーションによっ

て児島湖形成後に湾内の流速が減衰して泥の堆積量が増

加したことを示しており,本研究結果とよく一致する。

本研究では KJC7の詳細な年代を決定することができな

かったが, 137Csが検出されることから,この泥質化は

少なくとも 1950年代以降に起きたと考えることができ,

児島湖形成の影響を受けて生じている可能性が高い。

謝辞

岡山理科大学北岡豪一教授およびその研究室の方々

には,現地調査及び試料調整の際にお世話になった。こ

れらの方々に感謝いたします。また本研究は,文部科学

省科学研究費基盤研究 A r瀬戸内海流域での地下水流動

及び河川作用を考慮したリン循環の解明とその資源的評

価J(課題番号:21241011,代表者:福岡正人)の一部

を使用した。

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