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Computerworld.JP Apr, 2008

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[特集]基幹系データのみならず、情報系データも分析対象へ──新世代BIツールの実力と導入・活用のポイントを探る■ビジネス・インテリジェンス[戦略的活用ガイド]企業内に蓄積された膨大なデータを分類・分析・加工して得られた情報を、経営/業務の意思決定に役立てる「ビジネス・インテリジェンス(BI)」。このテクノロジーのトレンドとして、分析対象が基幹系システムのデータだけではなく、情報系システムのデータにも及んできており、幅広い職位のユーザーによる活用が始まっている。本特集では、CPM/EPM(企業パフォーマンス管理)という、ここ数年で顕著なBIの新しい潮流を解説したうえで、自社のエンドユーザーにBIを最大限に活用してもらうためのさまざまな戦術を示したい。[特別企画]業務アプリ、ネットワーク、セキュリティ……分野ごとの“雄”を紹介■エンタープライズ・オープンソース[ベスト・セレクション]もともとコミュニティ・ベースで開発が進められてきたオープンソース・ソフトウェアだが、今や多くの有力ベンダーがサポートし、企業が安心して利用できる環境が整っている。もちろん、OS、Webサーバ、メール・サーバなど、一部の分野ではかなり以前から企業利用が進んでいたが、最近は多様な分野において、「エンタープライズ・オープンソース」が本格化しているのだ。本稿では、そうしたエンタープライズ・オープンソース・ソフトウェアを8分野に分け、それぞれの分野において特にすぐれたものを紹介する。

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April 2008 Computerworld 5

Features 特集&特別企画

基幹系データのみならず、情報系データも分析対象へ新世代BIツールの実力と導入・活用のポイントを探る

ビジネス・インテリジェンス[戦略的活用ガイド]

ユーザーの期待は過去業績の確認から将来予測へBI活用の方向性と戦略立案のポイント堀内秀明

目指すは「適切なデータを、適切なユーザーに提供するBI」先達が語る、BIの活用ポイントMary Brandel

構造化/非構造化を問わず、あらゆるデータからトレンドを得る「分析は力なり」──みずからの創意工夫で競争優位に立つ

Jennifer McAdams / Heather Havenstein

ビジネス・インテリジェンスの導入はこうして「失敗」するBI導入に潜む「5つの落とし穴」Julia King

注目の製品が備える機能・特徴をチェックProduct Review[ビジネス・インテリジェンス]Computerworld編集部

業務アプリ、ネットワーク、セキュリティ……分野ごとの“雄”を紹介

エンタープライズ・オープンソース[ベスト・セレクション]

InfoWorld米国版

HotTopicsホットトピックスNoteworthy Technology [注目のテクノロジーを読み解く]次世代光ディスク戦争「Blu-ray vs. HD DVD」ほんとうの勝者はどっちだ元麻布春男

IT Trend Watch [ITトレンド・ウォッチ]近未来コンピューティングの競演「CES 2008」に見る各社の技術革新

大河原克行

特集 38

40

48

52

60

64

75

8

12

Part1

Part2

Part3

Part4

特別企画

発行・発売 (株)IDGジャパン 〒113-0033 東京都文京区本郷3-4-5TEL:03-5800-2661(販売推進部) © 株式会社 アイ・ディ・ジー・ジャパン

月刊[コンピュータワールド]

世界各国のComputerworldと提携

TM

April2008Vol.5No.53contents

2008年4月号

Part5

4

Chew-Mock

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April 2008 Computerworld 7

News&Topicsニュース&トピックス   16

TechnologyFocusテクノロジー・フォーカス

「PaaS──サービスとしてのプラットフォーム」の可能性栗原 潔

データ量削減の新アプローチ「リアルタイム・データ圧縮」の効能を知る

漢那憲昭

RunningArticles連載[新連載]ITキャリア解体新書(第1回)

下流プログラマー横山哲也

Opinions紙のブログインターネット劇場佐々木俊尚

IT哲学江島健太郎

テクノロジー・ランダムウォーク栗原 潔

Informationインフォメーションエンタープライズ・ムック「ITマネジャーのための内部統制/日本版SOX法講座」のご案内

エンタープライズ・ムック「SaaS研究読本」のご案内

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N o t e w o r t h y Te c h n o l o g y

注目のテクノロジーを読み解く

Computerworld April 20088

「ワーナー・ショック」で幕を開けた2008年

 米国映画制作会社大手のWarner Bros. Enter

tainmentは2008年1月4日、従来、HD DVDとBlu-

ray Disc(以下、BD)の両フォーマットで提供してき

たハイディフィニション・コンテンツを、2008年6月以

降はBDに一本化すると発表した。翌週から開催され

る「2008 International CES(Consumer Electro

nics Show)」を目前にした突然の発表がHD DVD陣

営に与えたインパクトは大きく、この発表は後日「ワー

ナー・ショック」と呼ばれるようになった。

 Warner Bros.がハイディフィニション・コンテンツ

をBDに一本化したことで、米国映画制作会社大手6

社のうち、BD陣営は20th Century Fox、Walt

Disney、Sony Pictures、Warner Bros.の4社、

HD DVD陣営はParamount PicturesとUniversal

Picturesの2社という勢力図になり、両フォーマット

をサポートした映画制作会社は存在しなくなった。

 表1にもあるとおり、もともとWarner Bros.はHD

DVD立ち上げ当時からのサポーターである。2005年

10月以降、競合フォーマットのBDにもコンテンツを提

供してきたという伏線はあったものの、DVD売上げ

で全米トップと言われる同社が、HD DVD陣営から

「VHS vs.ベータ戦争の再来」と揶や ゆ

揄されたBlu-ray DiscとHD DVDの次世代光ディスク標準フォーマット争い。昨年末からBlu-ray優勢が伝えられているが、はたして、ほんとうの“勝者”なのか。本稿では光ディスクの歴史を振り返りつつ、この次世代光ディスク戦争のゆくえとその課題を検証してみたい。

元麻布春男

次世代光ディスク戦争「Blu-ray vs. HD DVD」ほんとうの勝者はどっちだ光ディスクの“世代交代”は起こるのか──

離脱する影響は大きい。この発表を受けてHD DVD

の盟主である東芝は、CESでの記者会見をキャンセ

ルしたほどだ。

 実はこの発表前から、世界最大の映像コンテンツ

市場(販売ベース)である北米では、BD優位の市場調

査結果が報じられていた。さらにコンテンツ・レンタル

市場でも、BDは圧倒的に優勢だった。例えば、米国

レンタル・ビデオ大手のBlockbuster全1,700店舗の

うち、HD DVDを扱っているのは250店舗のみだった。

もちろん同250店舗を含むすべての店舗では、 BDを

取り扱っている。

 両フォーマットでコンテンツを提供してきたWarner

Bros.は、こうした両者の差を実際の売上げで実感し

ていたはずだ。東芝は対抗策として、北米市場で販

売しているHD DVDプレーヤーの値下げを発表した

ものの、コンテンツ市場のシェアを見るかぎりではBD

優位の構図に変わりはないようだ。

 こうした情勢を見て、BDとHD DVDの対決はBD

の勝利に終わったと断ずる向きもある。東芝に反攻

の秘策があるのかどうか筆者には知るよしもないが、

おそらく残りのチャンスは少ない。現実的な選択は、

HD DVDとBDの両再生対応機(両互換機)を、一刻

も早く市場へ投入することではないかと思われる。な

お、両フォーマットの比較を表2にまとめた。

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April 2008 Computerworld 9

次世代光ディスク戦争「Blu-ray vs. HD DVD」ほんとうの勝者はどっちだ光ディスクの“世代交代”は起こるのか──

CD登場のインパクトを超えられないDVDのジレンマ

 ではハイディフィニション・コンテンツにおけるメ

ディア戦争はBDの“勝利”で、次世代光ディスクとし

てBDが現行DVDにすんなり取って代わるかといえば、

それには疑問が残る。

 話は少し遠回りするが、ここで光メディアの歴史を

振り返ってみよう(10ページの図1)。

 CD(Compact Disc)が出現した1982年、当時650

MBというCDの容量は、ほかに比べるものがないほど

大容量だった。当時のハードディスクの容量はわずか

数MBで、価格も高かった。それと比較すれば、その

100倍の容量を持つCDは、正に「夢のメディア」であり、

そこに音声をデジタル記録できることは、それまでに

は考えられなかった技術革新だった。そしてテープ・

メディアがついにかなえることができなかった夢──

アナログ・レコードの置き換え──にも成功する。CD

という大容量メディアは当然コンピュータ分野でも注

目されることとなり、データ記録用フォーマットとして

大成功を収める。ユーザーは10枚以上のフロッピー

ディスクでソフトウェアをインストールする悪夢から、

ようやく解放されたのである。

 それから約10年を経て登場したDVDは、CDでは

不可能だった動画を直径12cmのメディアに収録でき

るという利点で、ついにVHS(Video Home System)

というテープ・メディアに取って代わることに成功し

た。しかし、1層で4.7GBという容量は、当時普及期

に入っていたハードディスクの数倍にすぎず、その後、

あっという間に大容量という利点をハードディスクに

持っていかれることになる。また、ソフトウェアやデー

タの配布用メディアは、CDで事足りることが多く、コ

ンピュータ分野での配布メディアとしてのDVDは、

ユーザーに浸透していない。DVDはCDの後継メディ

アとして普及したものの、そのインパクトはCDの登場

にはかなわないというのが筆者の実感だ。

大容量、高画質が世代交代の引き金にならない理由

 さて話をBDに戻そう。民生用メディアとしてBDが

2002年2月 日立製作所、ソニー、松下電器産業、パイオニアなど9社がBlu-ray Discの規格を策定する「Blu-ray Disc Founders」を設立

2002年11月 DVD規格の普及促進を図るDVDフォーラムが、東芝とNECが提案した次世代DVD候補の 「AOD(Advanced Optical Disc)」を「HD DVD」の名称で正式承認

2003年4月 ソニーが世界初のBDレコーダー「BDZ-S77」を発売(写真A)

2004年10月 「Blu-ray Disc Founders」が「Blu-ray Disc Association」と改称

2004年11月 Paramount Pictures、Universal Pictures、Warner Bros.がHD DVD支持を表明

2004年12月 20th Century Fox、Walt Disney、Sony PicturesがBD支持を表明

2005年9月 米国Microsoftと米国IntelがHD DVD支持を表明

2005年10月 HD DVD陣営のParamount Pictures、Warner Bros.がBD陣営にも参加することを表明

2006年3月 東芝が世界初のHD DVDプレーヤー「HD-XA1」を発売

2006年7月 東芝が世界初のHD DVDレコーダー「RD-A1」を発売(写真B)

2007年8月 Paramount Pictures、BDの提供を打ち切り、HD DVDへ一本化

2008年1月 Warner Bros.がHD DVDの提供打ち切りを表明(2008年6月以降)

2008年1月 米国MicrosoftがBDにも対応する可能性を示唆

BD関連  HD DVD関連

表1:HD DVD陣営とBD陣営の歩み

Blu-ray Disc HD DVD(記録用、書き換え可)

ディスクの直径 120mm 120mm

ディスクの厚さ 1.2mm 1.2mm

記録層 0.1mm 0.6mm×2枚

転送レート 36Mbps 36Mbps

最大記録容量 25GB 20GB

レーザー波長 青色レーザー 405nm 青色レーザー 405nm

トラック間隔 0.32μm 0.34μm

表2:HD DVDとBDのフォーマットの比較

写真A:世界初のBDレコーダー「BDZ-S77」。 発売当時の価格は45万円だった

写真B:世界初のHD DVDレコーダー「RD-A1」。 BDレコーダーより3年遅い登場でも価格は39万

8,000円だった

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Computerworld April 200810

一般消費者にもたらすメリットは、「よりよい画質の動

画」であり、「これまで実現できなかった何か」ではない。

使い勝手もほぼDVDと同等だ。例えて言えば、DVD

とBDの関係は、VHSとその画質向上版であるS

(Super)-VHSに似ている。そしてS-VHSは、VHS

に取って代わることはできなかった。

 同様に第一次光ディスク戦争の勝者であるLD

(Laser Disc)も、VHSに取って代わることができな

かったメディアの1つだ。競合するVHD(Video High

Density Disc)には勝利したものの、それほど普及せ

ずに終わっている。S-VHSもLDも画質にこだわるマ

ニアには受けたものの、それまでのデファクト・スタン

ダードを置き換えることはできなかったのである。

 VHSに取って代わったDVDは、画質だけでなく

使い勝手の点でVHSを圧倒した。ではHD DVDと

のフォーマット戦争に勝利した(であろう)BDは、何

を武器としてDVDに挑むのであろうか。

 BDが勝者と言い切れないもう1つの理由は、映像

コンテンツの配布メディア以外の用途開拓が、ほとん

ど進んでいないことである。レコーダー機器での録画

/再生用途ですら進んでいない。そもそも録画用途は、

日本などの“AV先進国”でしか存在しないが、その日

本でさえBDメディアの価格はかなり高い。メディア

価格の高さは市場が十分な規模になっていないこと

を示す。多くのユーザーは、外部メディアへ書き出す

機能は“保険”のようなものだと考えており、あまり利

用していない。基本的にはハードディスクに録画し、「見

たら消す」という使い方をしているようだ(これはDVD

レコーダーにも当てはまることだが)。

 AV用途でさえ普及していないのだから、PCをはじ

めとするコンピューティング用途は、まったくの未開

拓と言ってよい状態だ。ハイエンド機種を中心にBD

ドライブ搭載マシンは存在するが、その用途は「PCで

動画を再生する」ためのものであり、PC独自のアプリ

ケーションを利用するためではない。PC界を牛耳る

MicrosoftとIntelがHD DVD陣営であることも影響

しているだろうが、BD陣営は映像用途のフォーマット

戦争に忙しく、「PCへの普及まで構っていられない」

というのが実情だろう。

 DVD登場後の10年で、ハードディスクの記録容量

は飛躍的に増加した。今では、3.5インチ・ドライブで

1TB、2.5インチ・ドライブでも500GBのドライブが販

売されている。1層で25GBの容量を持つBDは、HD

DVDより容量の面で優位だとはいえ、ハードディス

クの大容量にはかなわない。さらにフォーマット戦争

による将来への不透明性が、バックアップ・メディア

としてのポジションを阻んでいるようだ。

 BDもHD DVDも、使い勝手の面で現行DVDと大

差はない。DVDとの大きな違いは画質だが、過去の

歴史において画質や音質が、メディアの世代交代の

決め手になったことはない。画質や音質はよいにこし

たことはないが、最終的な決め手は“使い勝手”のほう

だ。コンピュータ分野で主流となっているメディアは

CDで、DVDを利用することは少ない。ましてやBD

でなければならないアプリケーションなどは、ほとんど

存在しない。PC市場でのBDの最大のライバルはHD

DVDではなく、現行のDVDである。HD DVDとの

フォーマット戦争は、DVDへの挑戦権をかけた前哨

1980年 1990年

1982年

1987年

1983年

1996年

2006年

1992年

2000年 2008年

CD

MD(Mini Disc)

VHS

ベータマックス

VHD

LD

S-VHS

DVD

Blu-ray Disc

HD DVD

図1:光メディアと主な記録メディアの歴史

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April 2008 Computerworld 11

に合わせ、北米で販売している「AppleTV」を値下げ

した。AppleTVがあれば、ダウンロードした映画を大

画面TVで見ることも可能になる。また、再生可能な

24時間以内であれば、レンタルした映画を「iPod」に

転送することもできるのだ。

 映画会社にとって、ダウンロード・レンタル・サービ

スが魅力的なのは、「貸し出し中」によるビジネス・チャ

ンスの損失がないことだ。また、著作権保護のための

暗号化が破られた場合も、ダウンロード・レンタルで

あれば柔軟に対策を講じることができる。一方、BD

も暗号鍵を変更することは可能だが、民生用プレー

ヤーのファームウェアを更新することは、コンピュータ・

ソフトウェアの更新よりもはるかに困難だ。もちろん、

すでにリリースしてしまったコンテンツ(メディア)の暗

号を更新することはできない。

 こうしたコンテンツ提供者側のメリットをアピール

することに成功したのか、iTunes Movie Rentalsに

は米国映画制作会社大手6社がすべて顔をそろえて

いる(写真1)。BDでしか見ることのできないSony

Picturesの映画も、HD DVDでしか見ることのでき

ないParamount Picturesの映画も、iTunes Movie

Rentalsならすべて視聴可能だ。Appleは、iTunes

Store経由で700万本の映画をダウンロード販売した

実績を持つ。これにレンタル・サービスが加わることで、

さらに「コンテンツ・ストア」としての地位を強固にする

だろう。ハードディスクの大容量化と合わせ、後門の

狼、すなわちネット配信の脅威は今後ますます高まる

ものと思われる。

 残念ながら現時点ではこうしたネットワーク経由の

サービスを日本で利用することはできない。しかし音

楽配信がそうであったように、たとえ時間がかかった

としても、日本で映画がネットワーク配信される日が

来るはずだ。そして一たびサービスが開始されれば、

米国よりもブロードバンド環境の整った日本では、急

速に普及するだろう。

 HD DVDとBDが製品として発売されたのは2006

年春である。以来、2年あまりにわたってフォーマッ

ト戦争という名の挑戦権争いを繰り広げてきた。両

者の戦いには勝利したかのように見えるBDだが、気

がつけば「ネットワーク配信」という次の挑戦者に先を

越され、結局はHD DVDとBDの共倒れに終わって

しまった──。そんな結末になってしまう気がしてな

らない。

戦にすぎない。

背後には次なる挑戦者「ネットワーク配信」の姿が……

 BDにとって現行DVDが前門の虎なら、後門の狼

になりそうなのがネットワーク、特にインターネットに

よる動画配信だ。「YouTube」に代表される動画投稿

サイトが全世界的に大ヒットしていることを疑う者は

いない。ユーザーは画質を問う前に、手軽に動画を

他人と共有する体験を選んだのである。著作権保護

の観点で考慮しなければならない部分があるにして

も、一度広まってしまったサービスをなかったことに

はできない。

 その一方で、クオリティ面でも一定の評価ができそ

うな動画配信サービスが台頭してきた。米国Appleが

2008年1月に開始した「iTunes Movie Rentals」がそ

れである。旧作映画は1本2ドル99セント、新作映画

でも3ドル99セントでダウンロードし、鑑賞できるサー

ビスだ。ダウンロードした映画は、その日から30日以

内に、最初に再生してから24時間だけ見ることできる。

この仕組みは、いつでも、何回でも見ることが可能な

ダウンロード販売(1本約10ドル〜15ドル)と大きく異

なる。また、2月からはそれぞれ1ドルを追加することで、

5.1ch音声のハイディフィニション・クオリティの映画

レンタルも可能になる。Appleはこのサービスの提供

写真1:AppleのCEO、スティーブ・ジョブズ(Steve Jobs)氏はMacworld Expoで、iTunes Movie Rentalsに主要映画制作会社6社すべてが参加することを明言した

Page 10: Computerworld.JP Apr, 2008

I T Tr e n d W a t c h

ITトレンド・ウォッチ

Computerworld April 200812

 今年のCESは、開幕前からいくつか大きな話題が

上がり、論議を呼んでいた。

 まず、1つは毎年恒例となっていた米国Microsoft

会長のビル・ゲイツ(Bill Gates)氏による基調講演が、

今回限りで最後になりそうだという話題だ。

 このことが報じられたことで、2008年7月に経営の

第一線から退くことが明らかになっているGates氏の

“最後の講演”を聞こうと、開演4時間前から長蛇の列

ができ、開演時には4,000人以上が聴講するという、

過去に例がない異例の盛り上がりとなった。

 2つ目は、超薄型ディスプレイなどの新技術が、主

要ベンダーから展示されることが見込まれていた点

だ。事実、松下電器産業、シャープ、日立製作所、

パイオニアといった日本の主要メーカーが、薄さ0.9cm

〜3cm台の超薄型プラズマ・パネルおよび液晶パネル

を展示。また、Samsung Electronics、LG Electro

nicsといった韓国勢が、液晶パネルや有機ELパネル

などの超薄型パネルを展示し、まさに“超薄型技術”

の競演となった。

 さらには、CESの開幕直前、米国Warner Bros.

Entertainmentが、次世代光ディスクにおける今後

のソフト・タイトルの発売をBlu-ray Disc(BD)規格に

一本化するというニュースが駆け巡った。これによっ

て、ハリウッドの映画会社における次世代光ディスク

世界最大規模の家電展示会「2008 International CES」が1月7日から10日まで、米国ネバダ州ラスベガスで開催された。今年のCESには全世界から2,700社の企業が出展。業界関係者を含め約14万人が来場する年始恒例のビッグ・イベントだ。特筆すべきは日本からの出展社数が昨年に比べて10%増加したことで、今日のデジタル家電分野において日本企業が主要なポジションを担っていることを裏づけるものとなった。本稿では、CESの基調講演、展示会場を通じて、注目された製品や技術などを紹介しよう。

大河原克行

近未来コンピューティングの競演「CES 2008」に見る各社の技術革新超薄型ディスプレイ、ホーム・ネットワーキング、UMPCなどに進展

規格別の販売構成比はBD陣営が77%を占めるように

なり、規格競争の流れがBDに一気に傾くことになっ

た。CES会期中に予定されていたHD DVDプロモー

ション・グループの会見は急遽中止となり、影響の大

きさを物語るものとなった。

Gates氏、最後の講演で「次の10年」を示唆

 注目されたGates氏の基調講演では、同氏は冒頭

でみずから、最後の講演になることを宣言し、会場は

正に、「さよなら、Bill Gates」といったムードに覆わ

れた。そしてGates氏の「Microsoft最後の日」をコミ

カルに描いたビデオが上映され、会場が爆笑の渦と

なったところで、同氏は次のように語った(写真1)。

 「これからの10年は、つながっていること(Connected)

が重要な要素になる。ユーザーどうしをつなぐ技術と

ともに、これまで以上にユーザー主導の提案が求めら

れる。HD(High Definition)、リッチな操作環境を実

現するデバイスとサービス、そして、より自然なユー

ザー・インタフェースがますます重視されるだろう」

 恒例のデモンストレーションも行われた。ラスベガ

スの景色を携帯電話のデジタルカメラで撮影すると、

その画像から場所を認識して関連情報を表示したり、

Page 11: Computerworld.JP Apr, 2008

April 2008 Computerworld 13

近未来コンピューティングの競演「CES 2008」に見る各社の技術革新超薄型ディスプレイ、ホーム・ネットワーキング、UMPCなどに進展

画像に映っている映画タイトルのチケットを購入した

りといった、近未来のデジタル・ライフスタイルをみず

から披露してみせた。

 こうして、最後の講演でも、コンピューティングの

未来の伝道者を演じたGates氏だったが、来年はこ

の“スペシャル枠”でだれが講演することになるのか、

今から興味深い。

 Gates氏のほか、開幕初日に行われた講演では、

パナソニックAVCネットワークス社社長の坂本俊弘

氏の講演も多くの来場者の関心を集めた(写真2)。

 今年、松下電器産業が提唱したのは、「Digital

Hearth(デジタルいろり)」というコンセプトだ。人間は、

大昔から火のあるところ、いろりや暖炉のあるところ

に集まり、そこで家族や友人が会話をしながら生活し

てきたという歴史を紹介しながら、坂本氏は、「今、そ

の役割を大画面テレビが果たす」と語り、家電の王様

と呼ばれたテレビの新たな役割について言及した。そ

こでは、大画面薄型テレビを居間の中心に置き、そ

れにさまざまなAV機器をリンクさせて、家族が楽し

い時間を過ごすというシーンが想定されている。

 この提案の中で松下は、この時点で世界最大と

なる解像度4,096×2,160ドットの150型プラズマ・

ディスプレイを初公開した。また、同社製薄型テレビ

「VIERA」による「YouTube」の視聴や、Googleの写

真共有サービス「Picasa」が利用可能な様子をデモ。

さらには、WirelessHD(注1)によるビデオカメラとの

接続や、壁一面をディスプレイとし、あらゆる操作を

ここから行う「Life Wall」を実演してみせた。

 このあとの1月10日、松下はグローバル・ブランドの

統一を図るため、2008年10月1日より、社名をパナソ

ニックに変更するという発表を行った。同社の米国に

おけるブランド・イメージは、なじみやすいが、先進性

には欠けるというものだった。今回の坂本社長の基調

講演は、社名変更を前に、従来のイメージを一掃す

る“のろし”になったと言えそうだ。

各社ともホーム・ネットワーキングの最新の成果を実演

 展示会場では、超薄型テレビやハイビジョン関連

製品に注目が集まる一方、最新のホーム・コンピュー

ティング環境に関する展示も相次いでいた。

 Microsoftのブースでは、昨年のWindows Vista

一色の展示から一転し、今年は利用シナリオごとの

展示を行っていたのが印象的だ。「プロダクティビティ」

「コミュニケーション」「メモリ」「テレビ&ムービー」

「ゲーム」「ミュージック」という6つのシナリオごとに関

連製品を展示し、それぞれでWindowsプラットフォー

ムをいかに活用していくかという見せ方になっていた

(14ページの写真3)。

 今年、注目されたのが、ホーム・ネットワーキング

に特化したWindowsプラットフォーム「Media Center

eXtender(MCX)」だ。ブースでは、Hewlett-Pac

kard(HP)、Samsungなどが、MCXの最新版である

MCX v2に対応したデバイスを展示。PCとテレビの

融合がさらに一歩進展していることを示した。さらに、

会期中に「Power Pack 1」がリリースされたホーム・

サーバOS、Windows Home Serverも展示され、日

本語および中国語対応が開始されたことで、アジア圏

写真1:ファイナル・ステージとなったMicrosoft会長のBill Gates氏は、コンピューティングの次の10年を示唆した

写真2:パナソニックAVCネットワークス社社長の坂本俊弘氏は、150インチの巨大プラズマ・テレビを披露した

注1:WirelessHDは、1月3日にバーション1.0が発表された、60GHz帯でのHDTV非圧縮映像伝送を可能とするAV機器/コンテンツ向けのワイヤレス通信規格。Intel、LG、松下、NEC、Samsung、SiBEAM、ソニー、東芝の8社によるWirelessHDコンソーシアムによって策定された

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Computerworld April 200814

の来場者の注目を集めていたようだ。

 ここ数年、Microsoftは、家庭内におけるデジタル・

ライフスタイルの提案に力を注いできた。今回のCES

では、そのいくつかを現実の製品として見せることが

できたというのがポイントだ。

 また、PCベンダー陣営では、HPが「Media Smart

Server」を展示。ホーム・ネットワーキングの中核に

PCを置くという提案を強調してみせたほか、Dellは

ノートPCの試作品として、解像度1,920×1,080ドッ

トのフルハイビジョン表示を可能にする16インチ液晶

を搭載したデバイスを展示し(写真4)、ビデオ視聴を

意識した製品の投入をにおわせた。

 なお、会期中に行われたMicrosoftの会見では、

米国Microsoftのプロダクト・マーケティング担当バイ

スプレジデントのマイク・シーバート(Mike Sievert)

氏が、VistaのWindows Media Center機能において、

日本市場向けに地上デジタル放送をサポートすると正

式に発表した。具体的な時期は明らかにされなかった

ものの、2008年末から2009年以降にもそれが実現す

ることになりそうだ。

薄型化、そしてWirelessHDに力注ぐ家電メーカー

 一方、CES本来の主役である家電メーカー各社も、

ホーム・ネットワーキング関連の展示に力を注いだ。

 東芝や松下は、WirelessHDを活用したホーム・ネッ

トワーキングのデモを実演した。また、ソニーは、

VAIOのロゴを採用したホーム・サーバを参考展示した。

 ソニーのホーム・サーバは、日本ですでに発売され

ているテレビサイドPC「TP1」と同じ筐体を利用して

いたため、わかりにくかったが、非x86プロセッサと

Linuxを採用した新しいホーム・ネットワーク環境の

実現を提案していた。

 さらに同社では、デジタルカメラ/ビデオカメラの

データをワイヤレスで簡単に転送する「Transfer Jet」

技術を発表した(写真5)。PCとは一線を画すホーム・

ネットワーキング環境を提案してみせた。Transfer

Jetは、3cm以内の距離において最大560Mbpsという

高速転送を行う技術だ。テレビに接続したTransfer

Jetの端末に、デジタルカメラやビデオカメラを置けば、

その中に蓄積されたデータを瞬時に転送して、テレビ

に表示することができるようになる。

 そのほか、HD-PLCやHomePlug Powerline

写真3:Microsoftのブースでは、テーブル型PC「Microsoft Sur face」を触れる環境で実演してみせた

写真4:Dellは、16インチの16:9フルハイビジョン液晶を搭載したノートPCのコンセプト・モデルを展示

写真5:ソニーが発表した「TransferJet」は、デジカメなどのデータをワイヤレスで簡単に転送する技術だ

Page 13: Computerworld.JP Apr, 2008

April 2008 Computerworld 15

ル・オッテリーニ(Paul Otellini)氏が、中国の北京の

近未来の様子を再現。MIDを活用して看板の漢字を

英語に翻訳したり、MIDの音声認識機能を利用して

中国人の女性に道を訪ねたりといったデモを行い、モ

バイル・ソリューションの進化を見せつけた。

 また、「Viiv」戦略の見直しが求められるなか、

MenlowとCanmoreの両開発コード名で呼ばれる家

電向け半導体技術が披露された。PCやモバイル端

末でインターネットを活用するだけでなく、デジタル

家電製品がより踏み込んだ形でネットを活用する環

境を支援できるとアピールした。

 Intelブース以外にも、台湾、韓国勢が多数のモバ

イル・デバイスを展示。会場のあちこちで、小型端末

を目にすることになった。

 なかでも、東芝のブースに展示されたUMPCのコ

ンセプト・モデルが最も話題を集めていたようだ(写真7)。この端末は、Menlowプラットフォームおよび

Windows Vistaを採用し、Wi-Fi、WiMAX、Blue

tooth、3Gといったあらゆる通信環境に対応した高機

能デバイスだ。タッチスクリーン対応の5.6インチ液晶

にさまざまな情報を映し出し、感覚的に操作すること

ができる。重量は約500gとポータビリティもすぐれた

仕上がりとなっており、製品化が期待される。

エンタープライズ領域への技術転用に期待

 このように、今年のCESでは、ホーム・ネットワー

キングの進展や、UMPCをはじめとするモバイル端

末が目立ったイベントとなった。ここ数年は、PC業

界とデジタル家電業界の対立構造で語られることが

多かったが、今年のCESでは、ネットを通じて、融

合した環境での提案が増えた点も見逃せない。

 また、各社の展示を見ると、エンタープライズ・コン

ピューティングの技術を背景に、コンシューマー領域で

活用されたものがある一方、今回展示されたコンシュー

マー向け技術が今後、エンタープライズ領域で採用さ

れる可能性も感じさせるものもあった。UMPCなどのモ

バイル端末はその最たるものである。

 その点では、CES、すなわちコンシューマー・エレ

クトロニクス・ショーでありながらも、エンタープライ

ズ領域における今後の進化をかいま見ることができた

イベントになったと言えそうだ。

Allianceなどの高速PLC環境を提案する各種団体が

出展。HD-PLCでは、アイ・オー・データ機器やコレガ、

松下といった国内メーカーが試作品などを展示して、

家庭内における高速ネットワーク・インフラがさらに進

化していることを示した。

IntelブースではUMPCなどの展示が目立つ

 一方、Intelブースで目立ったのが、モバイル・コン

ピューティングの提案だ(写真6)。なかでも主要各社

から、UMPC(ウルトラモバイルPC)およびMID(モバ

イル・インターネット・デバイス)準拠のデバイスが多数

展示され、日本国内だけで事業展開をしているウィル

コムが、Menlowベースと見られる正体不明のデバイ

スを展示するといった“サプライズ”の一幕もあった。

 Intelの取り組みとしては、基調講演でCEOのポー

写真6:Intelのブースはモバイル・インターネット利用を強く訴求。各社の製品を並べて見せた

写真7:東芝の5.6インチ液晶搭載のUMPC。完成度が高く、発売が待たれる

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Computerworld April 200816

Microsoft、Yahoo!に総額446億ドルで買収を提案Googleは「独禁法違反」と激しく反発Googleの“ひとり勝ち”を阻止したいMicrosoftの強行策。その結果はいかに

 米国Microsoftは2月1日、米国Yahoo!

に対し、総額446億ドル(約4兆7,500億円)

の買収案を申し入れたと発表した。Micro

softは446億ドルを現金と同社の株式を

割り当てる方式で支払うとしている。なお、

MicrosoftはYahoo!の1株当たりの株価を、

1月31日締めのNASDAQ株式市場終値に

62%のプレミアムを上乗せした31ドルで

評価した。

 Microsoftは今回の買収提案について、

「オンライン広告市場は“ひとりのプレー

ヤー”によって支配されつつある。われわれ

とYahoo!が合併することで、(このプレー

ヤーに対する)競争相手となることができ

る」と説明している。もちろん「ひとりのプ

レーヤー」とは、米国Googleだ。

 Microsoftはオンライン広告市場が今後

3年の間で、現在の400億ドルから800億

ドルに成長すると予測している。同社の

CEO、Steve Ballmer氏は「われわれと

Yahoo!が合併すれば、オンライン広告市

場で優位に立てる」とコメントした。

 これに対しYahoo!は2月1日、「要求して

いない提案がMicrosoftから示された。わ

れわれはMicrosoftの提案を、慎重かつ迅

速に検討する」との声明を発表した。

 今回の買収で注目されるのは、“ひとりの

プレーヤー”と名指しされたGoogleの動向

である。2日間の沈黙を守っていたGoogle

は2月3日、同社の法務責任者であるデビッ

ド・ドラモンド氏(David Drummond)氏が

同社の公式ブログにおいて、「Microsoftの

Yahoo!買収提案は、インターネットの基

本原則(開放性と革新性)を脅かすものだ。

Microsoftはこれまで、不適切かつ違法な

手段でPC市場に影響力を行使してきたが、

これと同様の手口でインターネットをも支

配しようとしているのだろうか?」とコメント

し、買収は独占禁止法違反となる可能性

があるとしてMicrosoftを批判した。

 Drummond氏の主張に対しMicrosoft

は同日、同社の法律顧問であるブラッド・

スミス(Brad Smith)氏が声明を発表し、

MicrosoftとYahoo!の合併は、競争を阻

害するどころか市場に競争をもたらすとし

て、Googleへの反論を行った。

 今回の買収については、アナリストらの

意見も真っ二つに分かれている。

 米国Interarbor Solutionsのデーナ・ガー

ドナー(Dana Gardner)氏は、「買収は危

険な賭け」だと指摘する。「Microsoftと

Yahoo!の間には、収益モデル(ソフトウェ

ア・ライセンスとオンライン広告)の差異や

企業風土の違いがある。買収される企業

の規模が大きいぶん、こうした問題の解決

にも時間がかかるだろう」(Gardner氏)

 一方、米国Ferris Researchのデビッド・

フェリス(David Ferris)氏は、Microsoft

●Microsoft、Yahoo!に総額446億ドルで買収を提案(2/1)⇒16ページ

●Motorola、携帯電話部門の売却/組織再編を検討(1/31)⇒22ページ

●Amazon、オーディオブック・プロバイダーのAudibleを買収へ(1/31)

●Firefox、欧州で28%の市場シェアを獲得(1/29)⇒23ページ

●日立、NGNの本格始動に向けネットワーク事業を強化(1/29)⇒18ページ

●日本HP、「3万円のシン・クライアント」など新製品4機種を発表(1/29)⇒19ページ

●「1TFLOPS超の演算性能は業界初」──日本AMDが高性能グラフィックス・カードを発表

(1/28)⇒19ページ●Parallels、 仮 想 化 ソ フ ト「Vir tuozzo

Containers」の新版を発表(1/28)●ミラポイント、メッセージング・アプライアンスの

新モデルを発表(1/28)●「全領域で仮想化を推進」──シトリックスが

2008年の事業戦略を発表(1/25)⇒20ページ●ASPIC、ASP/SaaS/IDCアワード受賞企業を

発表(1/25)⇒21ページ●KCCS、アイデンティティ管理システムの新版を

リリース(1/24)⇒21ページ●F5、ファイル仮想化製品を軸とする事業戦略を

発表(1/24)●トリップワイヤ、システム変更監視ツールの新版「Tripwire Enterprise 7」を発表(1/23)

●Brocade、マルチプロトコルに対応したデータセンター向けSANダイレクタ・スイッチの新製品

「Brocade DCXバックボーン」を発表(1/22)●EMC、SaaS型の「MozyEnterprise」でオンライ

ン・バックアップ市場に参入(1/22)●W3C、HTML 5の初期草案を公開──Webア

プリ関連の機能を強化(1/22)

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MicrosoftのCEO、Steve Ballmer氏は2007年11月に来日した際、「Yahoo!買収の報道については何もコメントすることがない」と答えていた

にとってYahoo!を手中に収めるのは有意

義なことだと指摘する。「Yahoo!の強みは、

コンシューマーのニーズへの迅速な対応に

ある。これはMicrosoftに不足していた部

分であり、今回の買収がもたらすであろう

主な効果の1つだ」(Ferris氏)

 なお、米国のプライバシー保護団体で

あるCenter for Digital Democracyと

Elec t r on ic Pr i v acy In f o rma t ion

Centerは、「プライバシー保護の観点から

この買収提案を慎重に審査し、米国司法

省、連邦通信委員会、米国議会に対して

必要な保護対策を取ることを強く求めてい

く」との声明を発表した。

(IDG News Service)

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April 2008 Computerworld 17

久々に「iPod」より「Mac」が目立った、今年のMacworld Expo昨年のiPhoneのような衝撃発表はなかったものの、ユニークな新製品/サービスも登場

 1月15日〜18日、米国Appleの年次コン

ファレンス「Macworld Conference &

Expo 2008」がサンフランシスコで開催さ

れた。今年で24回目を数える有名イベン

トのオープニング基調講演で、同社CEO

のSteve Jobs氏は、“世界最薄”をうたう

ノートPC「MacBook Air」、NAS内蔵の無

線LANアクセスポイント「Time Caplsule」、

映画のオンライン・レンタル・サービス

「iTunes Movie Rental」を発表した。

 MacBook Airは、最薄部がわずか

4mm、同社製PCで史上最軽量となる

1.36kgの筐体を実現し、同社初採用とな

るSSD(ソリッドステート・ドライブ)モデル

も用意される。軽量ノートPCを標榜しな

がらも、13.3インチのワイドスクリーン液

晶ディスプレイ、フルサイズのバックライ

ト付きキーボード、Webカメラ「iSight」内

蔵といった装備が特徴だ。

 同製品では、従来のMacBookシリーズ

で標準装備だった光学式ドライブが省か

れている。Appleはこれを省くにあたり、

「Remote Disc」というソフトウェア機能を

開発した。同機能を使えば、ネットワーク

上の他のPC(Mac OS/Windows両対応)

の光学式ドライブを介してOSを含むソフト

ウェアのインストールが行える。

 Time Capsuleは、Mac OS X v10.5

Leopardに備わる自動バックアップ機能

「Time Machine」に対応した500GBまた

は1TBのNASを内蔵した無線LANアクセ

スポイントというユニークな製品だ。

MacBook/MacBook Proを接続しておく

と、設定した周期で自動的にバックアップ

を行ってくれる。

 Macworld開催のタイミングで、「iPhone」

「iPod touch」も機能強化が図られた。

iPhoneのアップデートでは、Webページ

をクリッピングしホーム画面に追加する機

能、ホーム画面をカスタマイズする機能、

周囲の携帯電話の電波や無線LANの電話

から自分の居場所を特定し地図を表示させ

る機能などが追加される。

 iTunes Movie Rentalは、iTunes経由

で提供される映画作品のオンライン・レン

タル・サービスで、ユーザーはレンタル後

30日間、好きなタイミングで何度でも映画

作品を鑑賞することができる。

 また、セットトップ・ボックスの「Apple

TV」は無料のアップデートがリリースされ

た。これにより、同製品でハイビジョン画

質の映画を楽しむことが可能になったた

め、大容量コンテンツ配布メディアとして、

HD DVDやBlu-ray Discとは異なったア

プローチの“第3の選択肢”として注目され

ている。また、新しいApple TVでは、レ

ンタル映画作品に加え、「Flickr」や「.mac」

のインターネット・アルバムに格納された

●Microsoftの仮想化戦略、ライセンス変更やCitrixとの提携が新たな柱に(1/21)

●SAPデータをIBMグループウェアに統合──両社が共同開発プロジェクト「Atlantic」を発表

(1/21)⇒20ページ●EMC、ハイエンド・ストレージ「Symmetrix

DMX 4」向けSSDを投入へ(1/21)●Yahoo!、ID認証フレームワーク「OpenID 2.0」

のサポートを表明(1/17)⇒23ページ●シンビアン、今後の事業戦略を発表──「Sym

bian OS機種が3,000万台を突破」と堅調ぶりもアピール(1/17)⇒22ページ

●SunがMySQLを10億ドルで買収──オープンソース市場への注力姿勢を鮮明に(1/16)

●OracleがBEA Systemsを85億ドルで買収──昨年から続く買収交渉に決着(1/16)⇒18ページ

●久々に「iPod」より「Mac」が目立った、今年のMacworld Expo(1/15)⇒17ページ

●VMware、アプリケーション仮想化ソフトを提供するThinstallを買収(1/15)

●WBCSDとIBMら4社、環境関連特許公開のための「エコ・パテントコモンズ」を設立(1/14)

●IBM、米国での特許取得件数で15年連続トップの座に(1/14)

●OLPCの前CTOが新会社Pixel Qiを設立、75ドルのノートPC開発を宣言(1/10)

●NECとEMC、共同開発によるストレージ新製品をリリース──SMB向けに価格を100万円以内に抑制(1/9)

●Microsoftが検索大手のFASTを12億ドルで買収へ──SharePointとの統合を推進(1/8)

●GoogleとFacebook、ユーザー生成コンテンツの共有化を目指すDataPortabilityに参加表明

(1/8)●Intel、松下など8社、高速ワイヤレス伝送規格「WirelessHD 1.0」を策定(1/3)

EVEN

T REP

ORT

写真の鑑賞も楽しめるようになった。

 今年のMacworld Expoは、Apple以

外の展示ブースも活気があふれていた。こ

こ4、5年はiPod関連の展示が半数を超え

ることも多かったが、今年は米国でのMac

人気を反映して、出展者の85%がMac関

連の製品を展示していた。

 なかでも最も注目を集めていたのは、

Intel Macにも最適化された「Microsoft

Office for mac」の4年ぶりのバージョン

アップだ。また、米国Googleも大きなブー

スを構えて、同社のMacに対する取り組

みをアピールしていた。

 また、Macユーザーの間で人気を二分

する仮想化ソフトを提供するParallelsと

VMwareの両社は、共に次期製品となる

サーバ仮想化ソフトを参考出品していた。

(林 信行)

「世界最薄のノートが完成した」と、誇らしげにMac Book Airを披露するSteve Jobs氏

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Computerworld April 200818

OracleがBEA Systemsを85億ドルで買収──昨年から続く買収交渉に決着2008年半ばに買収完了を予定。BEA製品のサポートは今後も継続

 米国Oracleは1月16日、米国BEA Sys

temsを約85億ドル(1株19.375ドル)で買

収することで、BEAの取締役会と合意し

たと発表した。買収は当局およびBEAの

株主承認を経て、今年半ばに完了する予

定だ。

 OracleのCEO、ラリー・エリソン(Larry

Ellison)氏は、今回の買収について、「戦

略的なエンタープライズ・ソフトウェア・ベ

ンダーになるための大きな一歩だ。ソフト

ウェア市場における地位がより強固になり、

それによってグローバルな製品展開がいっ

そう容易になる」と語っている。

 両社はともに多数のミドルウェア製品を

そろえているが、Ellison氏によればBEA

製品群の充実度は圧倒的であるという。

「BEAの買収はOracleのミドルウェア部門

の規模を拡張し、最終的にはエンタープラ

イズ・アプリケーションの管理や導入を検

討する顧客に、業界でも有数のプラット

フォームを提供できるようになるだろう」

(同氏)

 同氏はまた、これまでOracleが買収し

てきた企業と同様に、今後はBEA製品の

サポートも行っていくとしている。

 一方、BEAの会長兼CEOであるアルフ

レッド・チュアング(Alfred Chuang)氏は、

今回の買収について、「買収を成功させる

には両社の迅速な統合が不可欠だ」と述べ

た。今後数カ月間にわたり、Oracleと

BEAの担当者は包括的な統合に向けて協

議を進めていく構えだ。

 米国Forrester Researchのアナリスト、

ジェームス・コビーラス(James Kobielus)

日立、NGNの本格始動に向けネットワーク事業を強化第一弾として家庭向けSDPとビジネス向けSIPサーバを投入へ

 日立製作所は1月29日、通信・ネットワー

ク分野における事業強化策を発表した。

 これは、今年3月に始まる予定のNGN

(Next Generation Network)商用サービ

スに向けた施策であり、同社はこの分野に

おいて、①SDP(Service Delivery Plat

form)関連事業の拡大、②同社の企業向け

ネットワーク製品「CommuniMax」のNGN

サービス対応、③NGNを支えるアクセス・

トランスポート製品のグローバル展開の3つ

を重点課題として掲げた。

 同社はこれまで、通信キャリアに向けて

SDPを提供していたが、今後はビジネス向

け、および一般家庭などを含むライフ・コミュ

ニティ向けのSDPを提供していくという。

 その第一弾として、ライフ・コミュニティ

向けのSDP「インテリジェントホームゲート

ウェイ」が2008年第1四半期(4月-6月期)

に投入される。同製品は、家電、照明といっ

た宅内機器をネットワークで制御するため

のもので、NGN-SIP対応機能、IPv6マル

チキャスト対応機能、ギガビット対応ルー

タ機能、マルチセッション機能などを備え

ている。

 「CommuniMax」のNGN対応としては、

NGNへの直接接続を可能にするビジネス向

けの小容量SIPサーバが2008年第1四半期

に投入される。その後、2008年度から

2009年度にかけて、小/中大容量VoIPゲー

トウェイや、QoS(Quality of Service)を

備えたビデオ会議システムが投入されるな

ど、CommuniMax関連製品の強化が図ら

れるという。

 アクセス・トランスポート製品のグローバ

ル展開については、日立はすでに世界各国

で同製品群の投入を行っているが、引き続

き製品展開を行っていくとした。

 同社は、今回の重点事業により通信・ネッ

トワーク関連事業における2010年の売上

げを5,000億円にするのが目標としている。

(Computerworld)

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氏は、「Oracleはデータ・ウェアハウジング

やETLのバッチ処理などを得意としている。

一方、BEAは複雑なイベント処理など特

定分野に強く、両社の製品を統合すれば、

リアルタイムのBIにとって非常に強力なプ

ラットフォームを実現することができるだ

ろう」と分析している。

(IDG News Service)

OracleのCEO、Larry Ellison氏(写真左)とBEAの会長兼CEO、Alfred Chuang氏(同右)

日立の家庭向けSDP「インテリジェントホームゲートウェイ」(写真左は試作機、同右が商用製品)。

Page 17: Computerworld.JP Apr, 2008

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April 2008 Computerworld 19

日本HP、「3万円のシン・クライアント」など新製品4機種を発表「初期導入コストを通常のPCに近づけた」と低価格をアピール

 日本ヒューレット・パッカード(HP)は1月

29日、ノートPC型/デスクトップPC型/

ワークステーション型のシン・クライアント

製品4機種を発表した。

 発表したのは、ノートPC型「HP Com

paq 6720t Mobile Thin Client」、デス

クト ップPC型「 同t5730/t5135 Thin

Client」、ワークステーション型「HP dc73

Workstation Client」の4製品となる。

 ノートPC型の6720tは、無線LAN(802.

11a/b/g)の内蔵に加えて、PCカード・スロッ

トも搭載することで、各種通信カードに対

応している。内蔵ディスプレイと外付けディ

スプレイとで2画面表示も可能だ。

 デスクトップPC型のt5730は、Window

s XP Embeddedを搭載し、1GBのフラッ

シュ・メモリを内蔵した高機能モデルだ。

ローカルでWindows Media Playerや

PDF、Flashなどが利用できる。

 一方、t5135はエントリー・モデルとし

て3万450円という同社のシン・クライアン

ト製品の中で最安値を実現。同社の執行

役員で、パーソナルシステムズ事業統括

マーケティング統括本部統括本部長、松

本光吉氏は、「国内で最も安いシン・クライ

アント製品」とアピールした。t5135には、

Linuxベ ースの 独自OS「HP ThinCon

nect」を採用している。

 ワークステーション型のdc73は、グラ

フィックス・カードの「NVIDIA Quadro

NVS 290」を2枚搭載し、最大4画面の同

時出力が可能な製品だ。同社によれば、

従来のシン・クライアント製品では、最大2

画面までしか対応していなかったという。

「1TFLOPS超の演算性能は業界初」──日本AMDが高性能グラフィックス・カードを発表GPUを55nmプロセスへ微細化して高性能化を達成。マルチGPU機能「CrossFireX」により2TFLOPS超の性能も

 日本AMDは1月28日、55nm(ナノメー

トル)プロセスのGPUを搭載したグラフィッ

クス・カードの新製品「ATI Radeon HD

3870 X2」の出荷を開始したと発表した。

 同製品は、高性能なグラフィックス処理

が求められるCGアニメーションやゲーム

市場向けであり、1TFLOPS以上の演算性

能を誇る。発表に際し、来日した米国

AMDのデスクトッププロダクトマーケティ

ングプロダクトマネジャー、アルン・サブニ

ス(Arun Sabnis)氏は、「1TFLOPSを超

えるグラフィックス・カードは業界初だ」と

語った。GPUの製造プロセスを55nmへ

微細化したことで、トランジスタの密度が

増し、ワット当たり性能が倍増したことが

性能アップに貢献している。

 演算性能の高さに加えて、Microsoftが

開発したゲーム/マルチメディア処理用

API「Microsoft DirectX 10.1」にいち早く

対応している。また、現状ではPC向けシ

リアル転送インタフェース「PCI Express

1.1」への対応だが、2008年1Q後半には

次期バージョンの「PCI Express 2.0」もサ

ポートする予定だ。

 複数のグラフィックス・カードをマザー

ボード上に装着して演算性能を飛躍

的に高めるマルチGPU機能「Cross

FireX」も、2008年1Q中にサポート

する計画である。Sabnis氏によれば、

CrossFireXを 利 用 することで

2TFLOPSを超える演算性能が実

現可能になるという。

 発表会では、Radeon HD 3870

X2を使用したCGアニメーション・

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デスクトップPC型シン・クライアント製品「HP Com paq t5730 Thin Client」(写真左)と、エントリー・モデルの「同t5135 Thin Client」(写真右)

 同社の松本氏は、「システム上の都合か

ら、シン・クライアント製品はどうしても通

常のPCに比べると初期導入コストが高く

つく。そのため、新製品では初期導入コス

トを通常のPCにできるだけ近づけた」と説

明した。 (Computerworld)

レンダリングのデモンストレーションが披

露された。デモでは、20GBクラスのデー

タを米国のサーバからWebブラウザ経由で

リアルタイムにレンダリングして見せ、高

性能なグラフィックス処理が可能である点

が示された。

 Radeon HD 3870 X2の価格は300ド

ルから500ドルの間となる模様だ。

(Computerworld)

「ATI Radeon HD 3870 X2」

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Computerworld April 200820

 米国IBMとドイツのSAPは1月21日、フ

ロリダ州オーランドで開催されたIBMの年

次コンファレンス「Lotusphere 2008」(1

月20〜24日開催)で、SAPアプリケーショ

ンのデータをIBMのグループウェアに統合

するアプリケーションを共同開発すると発

表した。

 今回両社が発表したのは、「IBM Lotus

Notes」と「SAP Business Suite」との連

携を実現するアプリケーション「Atlantic」

(開発コード名)の共同開発プロジェクトだ。

 Atlanticは、ユーザーがSAPのデータ

を「Lotus Notes 8」内に取り込むことを可

能にし、それによりビジネス業務の効率化・

利便性が向上するという。IBM製品とSAP

製品の両方を利用するユーザーにとっては

大きなメリットとなる。

 IBM Lotusグループのビジネス開発戦

略担当バイスプレジデント、ショーン・プー

リー(Sean Poulley)氏によると、これま

でSAPデータとLotus Notesを連携させ

るためには、特別にカスタマイズしたツー

ルを導入するか、一部の連携機能を提供

する「Notes Access for SAP」という製

品を利用する必要があったという。同氏は、

「Atlanticにより、2つの製品は完全に連

携可能になる」と述べている。

 同製品の正式名称や価格は発表されて

いないが、Poulley氏によると2008年第4

四半期中にリリースされる見通しだという。

IBM Lotusソフトウェアのゼネラル・マネ

ジャー、マイケル・ローディン(Michael

Rhodin)氏は、「企業は、より円滑なビジネ

ス業務の管理とコラボレーションを実現す

る方法を求めている。多くのユーザーから

寄せられたこうした要望に対して、Atlan

ticはIBM製品とSAP製品間でシームレス

なソリューションを提供するものだ」と説明

する。

 またSAPのCTO、ヴィシャル・シッカ

(Vishal Sikka)氏も声明を発表し、「今回

発表した共同開発プロジェクトは、(SAP

が)IBMとの協力関係を強化する姿勢を示

したものだ」と語っている。

 両社によると、Atlanticの最初のバージョ

ンでは、Lotus Notesクライアントを通じ、

SAPのワークフロー機能/分析リポート機

能などが利用可能になるという。その後も

両社は、他のコラボレーション機能やオフ

ライン機能を順次追加していく予定であ

る。 (Computerworld米国版)

SAPデータをIBMグループウェアに統合──両社が共同開発プロジェクト「Atlantic」を発表Lotus NotesからSAPのワークフロー/分析リポート機能などが利用可能に

「エンタープライズ・システムの全領域で仮想化を推進する」──シトリックスが2008年の事業戦略を発表アプリ/サーバ/デスクトップをカバーする仮想化ソリューション提供に注力

 シトリックス・システムズ・ジャパンは1

月25日、2008年の事業戦略に関する記

者説明会を開き、同社代表取締役社長の

大古俊輔氏が、アプリケーション/サーバ

/デスクトップの全領域において仮想化を

推進する方針を強調した。

 米国Citrix Systemsは、昨年8月に仮

想化ハイパーバイザ「Xen」の開発元である

米国XenSourceを買収した。それにより、

Citrixは従来から持つアプリケーション仮

想化ソフト「Citrix Presentation Server」

に加えて、サーバおよびデスクトップ仮想

化分野の技術/製品を手に入れた。

 また昨年10月には、Xen仮想化エンジン・

ベースの「Citrix XenServer」と「Citrix

XenDesktop」を発表しており、まさに

2008年は仮想化製品を本格展開する年

と言える。「市場ニーズに対応する一貫し

た仮想化ソリューションがそろった」と大

古氏。この日、事業戦略の説明と併せて、

「Citrix XenServer 4.0日本語版」と仮想

化環境の運用管理をサポートする「Citrix

Provisioning Server for Datacenters

4.5」を発表し、日本市場での本格展開を

始めている。

 大古氏は、「XenServerでサーバ・リソー

スをダイナミックに構成し、Provisioning

Serverで仮想化環境に対する効率的な運

用を実現する。これらがそろうことで、デー

タセンター全体をダイナミックに運用する

ことが可能になる」と、両製品の連携によっ

て得られるメリットを強調した。

 加えて同氏は、アライアンス強化戦略

の下、Microsoftのハイパーバイザ「Hyper-

NEW

SNE

WS

シトリックス・システムズ・ジャパンの代表取締役社長、大古俊輔氏

V」とXenServerが相互運用を実現してい

る点をアピールした。ただし、XenServer

に備わるライブ・マイグレーション機能

「XenMotion」を利用して、XenServerの

仮想化環境からHyper-Vの仮想化環境へ

仮想マシンを移動することは、現在のとこ

ろ不可能としている。 (Computerworld)

Page 19: Computerworld.JP Apr, 2008

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 京セラコミュニケーションシステム

(KCCS)は1月24日、同社が開発したアイ

デンティティ管理システム「GreenOffice

Directory」の新版(バージョン3.11)の販

売を開始した。

 GreenOffice Directoryは、「日本の企

業には日本の商習慣に合ったアイデンティ

ティ管理が必要」というコンセプトの下で

開発された国産のアイデンティティ管理シ

ステムである。KCCSは、組織変更や人

事異動が頻繁に行われるという日本特有

の企業環境において、同製品を導入する

ことにより、アイデンティティ/アクセス

権限の適切な管理を維持することができ、

職務分掌の徹底や内部統制(IT統制)の強

化を図ることができるとしている。

 今回提供が始まったバージョン3.11の

主な特徴としては、Active Directoryとの

パスワード双方向連携機能の追加と、

LDAP連携機能の強化という2点が挙げら

れる。

 前者の新機能は、Active Directory環

境下で変更されたユーザーのパスワードを

GreenOffice Directoryに反映

させたうえで、そのパスワードを

同製品が管理する各種のシステ

ム/アプリケーションに反映させ

ることを可能とするもの。

 後者の機能強化においては、

OpenLDAPをはじめ、対応する

LDAPサーバが追加された。加

えて、連携項目のマッピング/

スケジューリング設定機能や複

数LDAPへの連携機能といった

KCCS、国内企業の商習慣に適したアイデンティティ管理システム「GreenOffice Directory」の新版を販売開始

新版の特徴は「Active Directory双方向連携機能の追加」と「LDAP連携機能の強化」

 ASP・SaaSインダストリ・コンソーシア

ム(ASPIC)は1月25日、すぐれたSaaS/

ASP事業者およびIDC事業者を表彰する

「ASP・SaaS・ICTアウトソーシングアワー

ド2007/2008」の表彰式を開催した。

 2回目となる同アワードは、事業者の意

欲向上を目的に開催されている。今回より、

SaaS/ASP事業者に加え、IDC事業者も

対象とし、この2部門に分けて審査が行わ

れた。審査対象は公募で集まった122社で、

そのうちASP・SaaS部門が96社、IDC部

門が26社。

 ASP・SaaS部門においては、プロパティ

データバンクの不動産管理サービス「@プ

ロパティ」が総合グランプリを獲得した。

同サービスは、不動産管理業務を支援す

るもので、不動産業界で400社、11万棟

ASPIC、「ASP・SaaS・ICTアウトソーシングアワード2007/2008」の受賞企業を発表挨拶に立った総務副大臣の佐藤勉氏、「SaaS/ASPは国内産業にとって大きな救いになる」

の利用実績がある。ASPICによれば、こ

のような大規模な実績に加え、業界ニー

ズにきめ細かく、かつ幅広く対応している

ことが受賞の大きな要因になったという。

 IDC部門においては、富士通の館林シ

ステムセンターが総合グランプリを獲得し

た。同センターは、富士通のアウトソーシ

ング・サービスの拠点と

なる施設。5,000台と

いう膨大な数のサーバ・

ラックが設置されてお

り、それらを運用するた

めの高度なノウハウや、

サービスの充実度、セ

キュリティなどが評価

されて、総合グランプ

リの座を射止めた。

点も強化されている。

 GreenOffice Directoryの価格は、

300ユーザー・ライセンスで210万円。同

製品の提供に際してKCCSは、年間3億円

という販売目標を掲げている。

(Computerworld)

GreenOffice Directoryの利用例(人事異動で部門責任者がAさんからBさんに変更した場合)

部門責任者Aさん 部門責任者Bさん

顧客マスタ

営業日報

顧客マスタ

営業日報

Aさんへアクセス権解除

Aさん別部門へ

Bさんへアクセス権付与

総務副大臣の佐藤勉氏を中心に並ぶASP・SaaS部門の受賞者と審査員

 今回の授賞式には総務副大臣の佐藤勉

氏が出席し、挨拶を行った。同氏は、「中

小企業を中心とする日本経済の構造を考

えると、SaaS/ASPは国内産業にとって

大きな救いになると考えている」と語り、

SaaS/ASPの発展に期待する意向を示し

た。 (Computerworld)

Page 20: Computerworld.JP Apr, 2008

Computerworld April 200822

NEW

S

 米国Motorolaは1月31日、携帯電話部

門の売却/分社化を視野に入れた、大幅

な組織再編を行うと発表した。「世界市場

でのリーダーシップを取り戻し、株主に価

値を提供するため」と説明している。

 MotorolaでCEOを務めるグレッグ・ブ

ラウン(Greg Brown)氏は声明の中で、「わ

れわれは携帯電話部門が業績を回復し、

株主にMotorolaの企業価値(株式の価値)

を実感していただけるよう、最善の策を模

索している」と述べた。

 今回の発表の8日前に行われた決算発

表で同社は、2007会計年度通期の売上

高が前年比15%減の366億ドル、携帯電

話部門の売上高が同33%減の190億ドル

だったことを明らかにした。

 決算発表の後に行われた電話会見で

Brown氏は、「携帯電話部門の業績が軌道

に乗るよう尽力する」とコメントしていた。

今回の売却/分社化を検討するという発

表は、同社の携帯電話部門の業績が予想

以上に悪化していることを如実に物語って

いる。

 米国Gartnerでアナリストを務めるフィ

リップ・レッドマン(Phillip Redman)氏は、

「Motorolaが携帯電話部門を売却すれば、

同社はビジネスの可能性を狭めることにな

る。売却を検討するよりも、携帯電話の開

発と販売を統括できる戦略的パートナーを

見つけたほうがよい」と指摘する。

 また米国Gold Associatesでアナリスト

を務めるジャック・ゴールド(Jack Gold)

氏も、「Motorolaが携帯電話部門を売却し

ても(その後のビジネスが)成功するとは思

わない。携帯電話部門は同社の基幹であり、

Motorolaの売上げ全体の半分以上を占め

ている。携帯電話部門の売却/分社化を

行えば、Motorolaは市場の藻屑となるこ

とをBrown氏は自覚すべきだ」と辛口のコ

メントを寄せている。

(Computerworld米国版)

Motorola、携帯電話部門の売却/組織再編を検討携帯電話メーカーとして窮地に追い込まれた同社に、復活の可能性はあるか

「2008 International CES」で披露された最新機種の「Rokr E8」。デザインの評価は読者にお任せする

 シンビアンは1月17日、2008年度以降

の事業戦略に関する報道関係者向け説明

会を開いた。

 説明を行った同社代表取締役社長の久

晴彦氏は、2007年11月末時点で、Sym

bian OS搭載スマートフォンの出荷台数が

3,000万台を突破したことを挙げ、「出荷

台数3,000万のうち、1,500万台は2007

年の出荷分だ。この数字(1,500万台)は、

2007年に全世界で出荷されたSymbian

OS搭載スマートフォンの約25%を占めて

いる」と語り、日本市場での堅調ぶりをア

ピールした。

 調査会社のテクノ・システム・リサーチ

によると、2007年上半期末時点でFOMA

市場におけるSymbian OSのシェアは、前

年同期の50%から15ポイント増の65%に

達したという。

 久氏は2008年以降の同社の取り組み

として、①拡大する帯域幅のサポート、②

グラフィカルなユーザー・インタフェース

(UI)のサポート、③セキュリティ&クオリ

ティ&パフォーマンスの確保を挙げた。特

に拡大する帯域幅のサポートは「尽力すべ

き分野」とし、「今後はHSUPA(High Spe

ed Uplink Packet Access)やWiMAXと

いった“太いパイプ”が登場する。携帯電

話の専業OSベンダーとして、携帯電話ベ

ンダーやオペレーターが、拡大する帯域幅

にスムーズに対応できるようサポートして

いく」と語った。

 また久氏は、Googleの携帯電話プラッ

トフォーム「Android」について、「われわれ

の経験上、一定水準の品質やパフォーマ

シンビアン、今後の事業戦略を発表「Symbian OS機種が3,000万台を突破」と堅調ぶりもアピール

Googleの「Android」には静観の構え

シンビアンで代表取締役を務める久晴彦氏

ンスを維持し、バージョンアップやアプリ

ケーションの互換性を確保しながら、さま

ざまなコンポーネントをインテグレーション

することは非常に難しいと断言できる。こ

の問題をどうやってクリアしていくのか、

今後に注目している」と、現時点では静観

する構えであることを明らかにした。

(Computerworld)

NEW

S

Page 21: Computerworld.JP Apr, 2008

J a n u a r y , 2 0 0 8

April 2008 Computerworld 23

 米国Yahoo!は1月17日、ID認証フレー

ムワーク「OpenID 2.0」をサポートすると

発表した。これにより、Yahoo!のアカウン

ト情報でOpenID 2.0対応のWebサイトに

アクセスできるようになる。

 非営利団体のOpenID Foundationに

よると、OpenIDはシングル・サインオンの

普及を目的とするID認証フレームワークで、

すでに1万近くのWebサイトでサポートさ

れているという。今回、Yahoo!がOpenID

2.0をサポートすることで、OpenIDを使用

するアカウントの数は、従来の約3倍の3

億6,800万件に増加する見込みだ。

 OpenID Foundationのスコット・クベ

トン(Scott Kveton)会長は17日の声明で、

「Yahoo!のサポートはOpenIDフレームワー

クに対する大きなお墨付きであり、これを

機に大手Webサイト運営企業による(Open

IDの)採用に拍車がかかることを期待する」

と語った。

 Yahoo!の会員管理ディレクター、ラジ・

マータ(Raj Mata)氏はIDG News Ser

viceの取材に答え、「Yahoo!ユーザーは2

つの方法でOpenIDを利用できるようにな

る」と述べた。

 1つは、OpenIDの従来からの認証方式

に基づく方法だ。この方法では、「http://

me.yahoo.com」に、固有の識別語が続く

URL文字列が個々のYahoo!会員に割り当

てられ、会員はOpenID対応サイトのログイ

ン・プロンプト画面でこれを入力すればよい。

 もう1つの方法は、OpenID URLの入力

を求める通常のログイン・プロンプトと

Yahoo!のログイン・プロンプトの両方を表

示するOpenID対応Webサイトにおいて、

Yahoo!のユーザー名とパスワードを入力

し、ログインするというものだ。

 なお、Yahoo!はOpenID 2.0の開発に

参加しているベンダーの1社であり、この

バージョンで新しいセキュリティ機能を提

供するとも述べている。

(IDG News Service)

NEW

SYahoo!、ID認証フレームワーク「OpenID 2.0」のサポートを表明Yahoo!アカウント情報でOpenIDサイトへのアクセスが可能に

Yahoo!サイトにおけるOpenID登録画面

Firefox、欧州で28%の市場シェアを獲得──XiTi Monitorが発表Internet Explorerの牙城をジワジワと浸食?

 Webに関する各種指標を解析している

フランスのXiTi Monitorは1月29日、欧州

における昨年12月のWebブラウザ市場動

向を発表した。それによると米国Mozilla

Foundationが提供する「Firefox」の市場

シェアは、前年同月より約5ポイント増の

28%に達したという。

 この調査は欧州32カ国を対象に行われ

た。国別で見ると、12月末の時点でFire

foxの市場シェアが最大だったのはフィン

ランド(45.4%)で、以下、スロベニア

(44.6%)、ポーランド(42.4%)と続く。

人口が多い国のFirefoxの市場シェアは、

ドイツが34.2%、フランスが25.8%、英

国が17.2%だった。ちなみにFirefoxの市

場シェアが最小だったのはオランダで、

14.7%だった。

 一方、米国Microsoftの「Internet Ex

plorer(IE)」の市場シェアは、前年同月比0.8

ポイント減の66.1%だった。なお、ノル

ウェーのOpera Softwareが提供する

「Opera」は3.3%、米国Appleの「Safari」

は2.0%だった。

 またXiTi Monitorによると、Firefoxの

最新版はIEの最新版である「IE 7」と比べ、

ユーザーに多く受け入れられているという。

XiTi Monitorは「昨年12月の時点で、Fire

foxユーザー全 体 の93 %が 最 新 版 の

Firefox 2.0を利用している。一方、IE 7

を利用しているのは、IEユーザー全体の

46%にすぎない。Firefox 2.0もIE 7も正

式リリースから1年強という同条件であるに

もかかわらず、ここまで差がつくのはIE 7

が苦戦している証拠だ」と指摘している。

 なお、現在MozillaはFirefox 3.0の開

発に取り組んでいるところであり、昨年12

月にはFirefox 3.0ベータ2を、テスターと

開発者向けにリリースしている。

(Computerworld米国版)

NEW

S

欧州各国におけるFire foxの市場シェア(色が濃いほどシェア率が高い)*資料:XiTi Monitor

Page 22: Computerworld.JP Apr, 2008

38

B u s i n e s s I n t e l l i g e n c e S t r a t e g i c G u i d e

Computerworld April 200838

Page 23: Computerworld.JP Apr, 2008

39

企業内に蓄積された膨大なデータを分類・分析・加工して得られた情報を、経営/業務の意思決定に役立てる「ビジネス・インテリジェンス(BI)」。このテクノロジーのトレンドとして、分析対象が基幹系システムのデータだけではなく、情報系システムのデータにも及んできており、幅広い職位のユーザーによる活用が始まっている。本特集では、CPM/EPM(企業パフォーマンス管理)という、ここ数年で顕著なBIの新しい潮流を解説したうえで、自社のエンドユーザーにBIを最大限に活用してもらうためのさまざまな戦術を示したい。

ビジネスインテリジェンス

基幹系データのみならず、情報系データも分析対象へ新世代BIツールの実力と導入・活用のポイントを探る

[戦略的活用ガイド]

April 2008 Computerworld 39

特集

Page 24: Computerworld.JP Apr, 2008

Computerworld April 200840

れらは扱うデータの領域と分析方法に関する言及は

あるが、何をもってデータを「活用」したことになるの

かについては触れられていない。

 これまでのBIに関する取り組みでは、参照・分析

の対象となるデータをユーザーに対して効率的に提

供することに終始しているケースが少なからず見られ

た。しかし、データの提供がBIの最終目的ではない

のは、言うまでもないことであろう。

取り巻く環境と共に変化するBIの目的

 現在の動向を見ると、BIを取り巻く環境において

以下のような変化が生じている。これらの変化によっ

て、ユーザー企業のBIに対する注目が再燃している

と同時に、BIの目的にも変化が生じつつある。

■業務アプリケーションの導入が一段落

 ERPをはじめとする業務アプリケーションは、大企

業への導入が一段落した段階にある。そのため、ベ

ンダーは次の収益源としてBIに着目し始めている。

一方、ユーザーは、それらの業務アプリケーションで

蓄積したデータを活用するための手段としてBIの導

10年以上を経ても誤解が残るBIの定義

 ビジネス・インテリジェンス(BI)という言葉が登場し

てから、すでに10年以上が経過している。

 今や、BIという言葉の認知は進んだが、BIとは何

かという点に誤解が生じていることが少なからず見受

けられる。例えば、いくつかの切り口で売上げデータ

や在庫データを分析するオンライン分析処理(OLAP)

をBIとして理解しているケースや、社内ポータルを利

用して全社もしくは部門の売上目標や実績を提供す

るような仕組みをBIと認識しているケースだ。また、

高度な統計モデルを駆使して、大量のデータから隠

れた事実を見つけ出すデータ・マイニングこそ、BIで

あると考える人もいるかもしれない。本稿ではまず、

BIとは何かについて、あらためて確認しておきたい。

 BIの定義を示すと、「企業戦略に基づき、リソース

とプロセスを最適に配置するために、データを分析・

活用すること」になる。上述したような取り組みやテク

ノロジーは、確かにBIの典型的な導入事例として紹

介されることがあり、また、個々人の置かれた立場や

これまでの経験からBIと聞いて想起することに差があ

るとしても、BIの定義と照らし合わせて考えると、こ

ユーザーの期待は過去業績の確認から将来予測へ

これまでビジネス・インテリジェンス(BI)が活躍してきたのは、販売管理のように過去の実績を確認するという領域が中心だった。だが、現在、BIを取り巻く環境の変化を受けて、リアルタイム性が重視されるようになりつつあり、また、将来予測のためにBIを使いたいというニーズが増えてきている。そうした新たなBIの活用領域の代表例が、企業パフォーマンス管理(CPM)である。本パートでは、このCPMが注目される今日のBIのトレンドと、BIイニシアチブを成功に導くためのポイントについて解説する。

堀内秀明ガートナー ジャパンリサーチ アプリケーションズ マネージングバイスプレジデント

BI活用の方向性と戦略立案のポイント

1Part

Page 25: Computerworld.JP Apr, 2008

April 2008 Computerworld 41

ビジネス・インテリジェンス[戦略的活用ガイド]

特集

入を考え始めている。

■Web技術の普及による導入の簡素化

 1世代前のBIツールは、スタンドアロンもしくはクラ

イアント/サーバ型のアーキテクチャを採用したもの

だった。そのため、BIの導入に際しては、何らかのソ

フトウェアをクライアントPCにインストールし、その操

作方法をユーザーが習得する必要があった。しかし、

Web技術の企業利用が一般化した現在、BIツールも

Webアーキテクチャを取り入れ、インストール作業や

ユーザー教育に要する手間を削減できることを売り口

上とするようになった。

■ネットワークの高速化・大容量化

 高速・大容量のネットワーク・インフラが整備された

ことにより、詳細なデータをリアルタイムに近い形で

収集することが技術的に可能になった。それを受けて

ユーザーは、収集したデータをタイムリーに活用する

ことを検討し始めている。

■新たな管理プロセスへのニーズの高まり

 SOX法(Sarbanes-Oxley Act:米国企業改革法)

や国際財務報告基準など、法令・規制順守への圧力

が強まっていることから、より敏速で信頼性の高い管

理プロセスが必要とされるようになった。そこで、そう

した課題の解決につながる新たなコンセプトに注目が

集まり、そのIT要素としてBIに期待が寄せられるよう

になった。この新たなコンセプトの代表例が、企業パ

フォーマンス管理(CPM:Corporate Performance

Management)である。

 これらの変化が意味しているのは、これまでは主に

OLAPやリポーティングといった過去実績を定期的

に確認する手段としてBIの導入が検討されていたの

に対し、現在は分析のリアルタイム性や将来予測へ

の関心が高まっているということだと言える。

新たなBI領域として期待が集まる「CPM」

 BIに関連する新たなコンセプトとして、CPMに注

目が集まっていることを前節で指摘した。ここではそ

の注目度の高まりを示す調査結果を紹介する。

 図1は、ガートナーが2007年春にロンドン(2月)、シ

ドニー(2月)、シカゴ(3月)で開催したBIサミットにおけ

るアンケートの結果である。実際の質問文は、「以下

のBI領域で、今後12カ月以内にあなたの組織が投資

を計画しているものはどれですか」というものである。

 このアンケートにおいて、最も多くの回答者が選択

したBI領域はCPMであった。ここから、BIに対する

ユーザーの期待は過去業績の確認から将来予測へ

0% 20% 40% 60% 80%

*資料:ガートナー(2007年BIサミット調査:ロンドン、シカゴ、シドニー)

企業パフォーマンス管理(CPM)

顧客/マーケティング分析

営業分析

複数分野横断の分析

サプライチェーン分析

人材分析

eコマース分析

製造分析

その他

上記のいずれでもない

67%43%

39%29%

26%25%

17%15%

8%7% n=289

図1:2007年から2008年にかけて導入予定のアプリケーションの種類

Page 26: Computerworld.JP Apr, 2008

Computerworld April 200842

B I 活 用の方 向 性と戦 略立 案 のポイントPart 1

注目度が年々増加する現在、CPMがその中心を占め

る利用領域であることがわかる。また、現時点では

30%に満たないものの、複数領域横断の分析を選択

する回答者も増加傾向にあり、BIの重心が単一ビジ

ネス領域における戦術的な取り組みから、業務・組織

横断型の取り組みにシフトし始めていると言える。

CPMの認知度は低いが国内にも潜在ニーズ

 このように欧米においてCPMへの注目度が高まる

なか、日本国内ではBIおよびCPMはどのような状況

にあるのだろうか。

 図2を見ると、国内ユーザーがBIに期待する領域

の方向性が欧米とはやや異なる様相を呈していること

がわかる。この図は、2006年11月にガートナーが実

施した企業ユーザーITデマンド調査において、「BIソ

リューション/ツールの利用分野について、利用中/

導入中の人は実際に利用している分野、そうでない人

は利用したい分野」という問いに対して、複数の回答

を選択してもらった結果である。

 本調査で最も多くの企業に選択された回答は、販

売管理であった。どのような商品が、いつ、どこで、

どれだけ売れたのかを把握するということは、過去の

実績を定期的に確認することだ。これは、OLAPや

リポーティングが得意とする、従来のBIの典型的な

利用領域である。このように国内では、多くのユーザー

がこれまでと同様に今後も販売管理への投資を検討

しているという結果になった。

 ただし、国内のBI利用が、これから先も過去実績

の管理という領域にとどまり続けるというわけではな

い。図2では、今後の投資を検討している分野として、

業績予測という回答が販売管理に次いで2番目に多く

選ばれている。過去の実績を利用しながらビジネスの

将来像を見通す業績予測は、これまではBIの典型的

な利用領域からやや外れ、主流とは言えない用途で

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70%

*資料:ガートナー(ITデマンド・リサーチ)/調査:2006年11月

販売管理利益管理予算管理財務分析業績予測

顧客嗜好管理ABC分析

トレンド分析顧客プロファイル管理

製品需要予測品質管理(QC)

信用分析サプライチェーン・マネジメント

Webデータ・ログ分析バランス・スコアカード

競合分析資源・投資の最適化

ビジネス・プロセス管理(BPM)IT投資の費用対効果分析

マーケティング・オートメーションその他

企業パフォーマンス管理(CPM)

これまでも、これからも投資される

これから増えていく

キーワードとしては関心薄い

潜在的なニーズ

利用中/導入中:(n=197)新規導入予定(3年以内):(n=30)

図2:国内におけるBIツールの利用分野

Page 27: Computerworld.JP Apr, 2008

April 2008 Computerworld 43

ビジネス・インテリジェンス[戦略的活用ガイド]

特集

あった。ここに多くのユーザーが投資を検討している

ことから、国内においてBIは、過去実績の確認とい

う従来の用途だけではなく、将来予測という用途にま

で進展し始めているという面もあると考えられる。

 それでは、肝心のCPMだが、本調査ではCPMと

いう回答を選択したユーザーはほとんど存在しなかっ

た。欧米での調査においてCPMへの期待が高かった

理由の1つとして、回答者層がBIサミットの参加者と

いう、そもそもBIに高い関心を示している人々である

ということが考えられる。だが、この国内調査にしても、

主にBIを利用中/導入中の企業を対象としたものだ。

こうした点を考えれば、欧米と国内との間でCPMに

対する温度差は非常に大きいと見られる。

 ただし、国内調査において利用中/導入中、新規

導入予定とする回答者の数が比較的多かった利益管

理、予算管理、財務分析は、CPMの構成要素とな

るものである。この点も含めて判断すると、まだ国内

ではCPMというキーワードの認知は進んでいないも

のの、多くの企業においてCPMに対する潜在的なニー

ズは存在していると見ることができる。

財務分析から全社のパフォーマンス監視へ

 それでは、そもそもCPMとはどのような取り組み/

テクノロジーを指すのかをあらためて考えてみたい。

 CPMとは、ガートナーが提唱した概念で、企業が

各種の経営指標を用いて自社のパフォーマンスを監

視・管理するための方法論やプロセスなどを意味する

用語だ。この分野で製品を提供するベンダーによって

は、同様の概念に対してEPM(Enterprise Perfor

mance Management)、あるいはBPM(Business Per

formance Management)といった名称を用いている。

 CPMのルーツをたどれば、財務分析ということに

なる。企業のパフォーマンスと言った際に真っ先に思

い浮かぶのは、やはり売上げや利益が出ているのか

どうかという点になるだろう。

 だが、経営指標として監視すべきものは、売上げ

や利益といったコスト面だけで十分というわけではな

い。財務の視点からは資金繰りができているかどうか

という問題があり、また、従業員のスキル・セットは十

分なのか、顧客満足度は上がってきているのか、製

品のポテンシャルはちゃんと引き出せているのかなど、

さまざまな指標が考えられる。どのような指標を見る

べきかは、それぞれの企業の成長戦略に照らし合わ

せて決めなければならないが、いずれにせよ、コスト

以外についても見ていかなければ、本当の意味での

企業のパフォーマンスを把握することはできない。

 もちろん、さまざまな指標を設定したとしても、そ

れらは最終的には利益が出ているのかどうかという

点に収斂することになる。そこから考えると、CPMは、

財務に関する指標をコアとして、企業がパフォーマ

ンスを出せているのか、そして、今後も出し続けて

いけるのかということを提示するための仕組みだと言

える。

 古い言葉になるが、MIS(Management Informa

tion System:経営情報システム)が、CPMに比較的

近い概念となるだろう。このMISとの明確な違いは、

CPMの実現手法/コンポーネント群がオープンなも

のになっているという点だ。例えば、データ統合ツー

ルとして、ETL(Extract/Transform/Loading)、

EII(Enterprise Information Integration)などの標

準的なツールがあるし、データ・ウェアハウスを構築

してデータ・マートを作るという考え方も、ある程度標

準的なものと認知されている。

理想のCPM実装は財務以外にも着目

 44ページの図3に、CPMを構成するコンポーネント

の例を示した。この図のようにCPMアプリケーション

は、インフラとしてのBIの上で稼働するという形になる。

 このような一連のCPMスイートによって、社内外

のリポーティングから企業パフォーマンスに関する一

貫したビューを得ることが可能になる。そのために特

に重視すべき機能は、戦略的プランニングや財務予

測を支援するためのプロセスやシステムに、財務連結

とリポーティングを結合することである。

Page 28: Computerworld.JP Apr, 2008

Computerworld April 200844

B I 活 用の方 向 性と戦 略立 案 のポイントPart 1

 また、一般的にCPMスイートの実装は、CFO(最

高財務責任者)と財務部門が主導するケースが多い。

しかし、理想を言えば、これまでに述べたように財務

的な視点にとどまるのではなく、財務予測を業務系の

計画に直接リンクさせることなどによって、自社のパ

フォーマンスにおける他の側面にも目を向けて実装を

進めるべきである。

 念のために断っておきたいのは、これらのツール群

を導入しさえすれば、CPMという取り組みを進めら

れるわけではないということだ。一時期は特に欧米に

おいて、実際にこの類の誤解が生じていた。例えば、

CEO(最高経営責任者)やCIOが、どのような戦略的

な目的を達成するために、どのような指標を見ていく

のか、どのように運用していくのかといったビジョンを

持たないまま、とにかくダッシュボードを導入するよう

に促していったケースである。このようなケースにつ

いてガートナーは、ワースト・プラクティスの1つと見

なしている。

「BIの成熟度モデル」で自力のレベルを測る

 ここまで、BIの今後の中心的な利用領域になると

予測されるCPMについて見てきた。以降は、BI全般

の取り組みに視野を広げ、BIイニシアチブから成果

を得るために考慮すべきポイントを解説する。

 図4は、ガートナーが提唱しているBIの成熟度モデ

ルである。このモデルにおいては、BIの成熟度を大

きく5つのレベルに分類している。以下、BIの成熟度

を各レベルごとに説明する。

■無知レベル

 最初に、図4には記載していないが、最も未成熟な

状態に「無知」というレベルがある。このレベルは、BI

に対する組織的な取り組みがまったくなされていない

状態を指す。こうした状態の中で情報ニーズが発生

した際には、そのつど、個別対応することになる。無

知レベルから脱するには、まず、自社におけるBIニー

ズを把握し、ビジネスの推進要因を特定するところか

ら着手しなければならない。

■戦術的レベル

 図4において、最も成熟度が低い段階となるのが「戦

術的」レベルである。このレベルに属する企業は、BI

への投資を始めた段階にあり、日常的なビジネス上の

判断に何らかのデータを必要とするマネジャーや役員

という一部の人々がユーザーとなっているケースが多

い。このレベルの企業では、個別導入された複数の

システム/アプリケーションがサイロ化した状態にあ

り、全社にわたる情報の一貫性が十分に確保されて

いないため、情報共有/活用が特定部門内にとどまっ

ているケースが多い。

*資料:ガートナー

ビジネス・プロセス管理

コンテンツ管理

ナレッジ・マネジメント

Webプレゼンテーション、ポータル、管理報告

データ統合(ETL、EAI、EII...)

ERP、CRM、SCM、外部ソース

収益モデリングと最適化

財務連結

予算計画予測 法定リポート

スコアカードダッシュボード

プレゼンテーション

CPMアプリケーション

BIインフラストラクチャ

データ・ソース

データ・マート データ・マート データ・マート データ・マート

データ・ウェアハウス

図3:CPMのために必要となる代表的なコンポーネント群

Page 29: Computerworld.JP Apr, 2008

April 2008 Computerworld 45

ビジネス・インテリジェンス[戦略的活用ガイド]

特集

■集中的レベル

 「集中的」レベルに該当するのは、上級役員がBIに

対して強いコミットメントを示しており、業務効率化、

マーケティング力強化、財務報告の迅速化など、特

定のビジネス課題の解決を第1の目的としている企業

である。このレベルに至って初めて、成功事例が登場

してくる。目的の達成を支援するために、後述するBI

コンピテンシ・センターを組織しているケースも多い。

■戦略的レベル

 「戦略的」レベルは、包括的なビジネス戦略をすで

に定義し終えている、あるいは定義している最中で、

その実現のために幅広いユーザー層がBIを駆使して

いる状態である。一部の重要なビジネス・プロセスに

BIが統合されている状態にあり、また、部門の壁を

越えて情報にアクセスできるようになっている点も特

徴だ。このレベルにある企業は、サプライヤーやビジ

ネス・パートナー、顧客といった社外リソースからの

情報入手を視野に入れ始めている。

■パーベイシブ・レベル

 「パーベイシブ」レベルは、BIが企業文化として全

社的に浸透している状態である。情報アーキテクチャ

やアプリケーション・ポートフォリオが確立され、BIが

EA(Enterprise Architecture)のような全社的なアー

キテクチャや、アプリケーション開発プロセスに組み

込まれている。加えて、BIの利用が、社内の幅広いユー

ザー層はもちろんのこと、パートナーや顧客にまで拡

大している。さらに、自社を取り巻く環境が変化した

際にも、それに迅速に適用することができるアジリティ

も備えている。ただし、このレベルにある企業は、今

のところほとんど見受けられない。

 BIイニシアチブから十分な効果を引き出すために

は、その第一歩として、自社のビジネスの目標を定め、

BIにおいてどの成熟度レベルに到達する必要がある

のかを見極めることが、きわめて重要になる。それと

共に、自社もしくは所属する部門が、現時点でどの成

熟度レベルに位置しているのかを理解することが必要

だ。そうすることで、この2つの間のギャップを埋める

ためには、どのような取り組みやテクノロジーが必要

になるのかを明らかにできる。ここで注意しなければ

ならないのは、1つの組織の中でも、複数の成熟度レ

ベルが混在しているケースが多いということだ。

*資料:ガートナー

25%10%

5%?

ビジネス価値

戦術的・少数のユーザー・データの散在・現場個別対応・またはIT部門のみで対応

集中的・プロジェクト・ベースの投資・一部ユーザーが価値を認識・成功事例の登場・BICCの誕生

戦略的・部門横断的・ビジネス目標達成に向けた BIの推進・ユーザーが幅広く活用・ポリシーの定義

パーベイシブ・BIの利用はパートナーや 顧客に拡大・BIはEAやアプリケーション 開発プロセスに組み込まれる・信頼できる「情報」の獲得

成熟度レベル

日本における各成熟度レベルへの到達率

図4:ガートナーが提唱するBIの成熟度モデル

Page 30: Computerworld.JP Apr, 2008

Computerworld April 200846

B I 活 用の方 向 性と戦 略立 案 のポイントPart 1

成熟度モデルからCPMのあり方を見る

 ここでCPMを、BIの成熟度モデルに照らし合わせ

て考えてみたい。仮にCPMという取り組みが適切に

進められているとしたら、そのような企業は全社レベ

ルでパフォーマンスを最適化できているということに

なるため、戦略的レベルにあると言える。

 だが、一足飛びにこのレベルに達するわけではない。

財務分析に由来を持つCPMは、一般的に財務部門

でBIツールを利用するといった形が第1ステップとな

る。この段階は、少数のユーザーが現場において個

別対応を行うという、まさに成熟度モデルにおける戦

術的レベルの状態である。

 ただし、財務分析で得られた情報をマネジメント層

に配布して、それをマネジメント層の人々が役立てら

れるような仕組みが整っていれば、実際にBIツール

を使っているのは財務部門に限られているとしても、

集中的レベルにあると言っていいだろう。

 そして、全社的にパフォーマンスを最適化し、戦略

的レベルにまで達するためには、財務以外の情報も取

り入れていくことが必要になる。コールセンターの利

用率という指標が必要になったり、個々の従業員のス

キル・セットに関する情報が必要になったりする際に

は、それぞれコールセンター部門、人事部門からの情

報を得られるような仕組みを構築しなければならない。

組織的な活動が重要になるBI導入・活用のプロセス

 ガートナーでは、BIのライフサイクルには9つの重

要なステップがあると考えている(図5)。BIの導入に

あたっては、まず、要件を定義するところから着手する。

ここで、導入の目的と期待する効果、想定するユー

ザーといった点を明確化しておく。

 次に、BIの目的を達成するために必要となるデー

タやリソースの所在を確認する。場合によっては、必

要としているデータが存在しない、あるいはデータが

あってもその精度や鮮度が不十分というケースも予想

される。そうしたときには、ある程度の妥協を許容す

るのか、あるいはプロジェクトのあり方を再検討する

のかといった判断が必要になる。

 その後、利用するツールを評価・選定する作業に

入る。ツールの評価・選定に際しては、自社開発かパッ

ケージ・ツールかという選択も含めて判断することに

なる。ガートナーが調査したところ、1割ほどの企業が、

パッケージ化されたBIツールではなく、自社開発の

ツールを利用している、あるいはその利用を検討して

いることがわかった。

 自社が想定しているツールの利用シナリオ(利用者

層、頻度、対象データ、分析手法など)と、BIベンダー

が提示する製品の利用シーン、BI製品を実際に販売

するSIerの提案内容という3つの間に乖離がないのか

を確認し、自社の想定シナリオに当てはまるツールが

ないと判断したら自社開発を選択すべきである。

 導入するツールが決定(自社開発の場合は開発が

終了)した後には、導入作業と共に、ユーザーに対す

る教育を行い、利用開始となる。

 利用開始当初は、どのように使うと何ができるのか

を理解するために、ユーザーが多くの試行錯誤を繰り

返すことになる。特にパッケージ・ツールを選択した

場合は、その時間も長くなるだろう。ここである程度

の成果が得られなければ、その後、十分に利用され

なくなってしまうおそれがある。そのため、ツールの

使い方や分析方法などに関する初期サポートをおろそ

かにしてはならない。

 試行錯誤の期間を経て、自社における一般的な利

用方法が定着すれば、情報の確認や分析が日常化し、

意思決定に対しても、ある程度貢献するようなケース

も見受けられるようになる。

 BIに対する習熟度や使い方は、ユーザーによって

ばらつきが出る。そのため、定期的にBIの活用方法

について情報交換できるような体制を整え、個々の

ユーザーが、これまで気づかなかったデータの見方や

活用方法を見い出せるようにする。こうすることで、

直接的あるいは間接的にビジネスの進め方や、判断

の仕方に変化が生じる。

 以上、見てきたように、BIの導入で成果を得るた

Page 31: Computerworld.JP Apr, 2008

April 2008 Computerworld 47

ビジネス・インテリジェンス[戦略的活用ガイド]

特集

めには、システムを導入するだけではなく、導入後の

継続的なサポートならびにデータの分析・活用力を強

化し続ける組織的な活動が重要になる。

組織的なBI導入の効率化を図る「BICC」

 最後に、BIの導入・活用のための組織的な活動を

効率的に実施する手段として、BIコンピテンシ・セン

ター(BICC)の設立を提案したい。

 データの分析・活用力を強化する活動と言っても、

BI活用のプロセスがそれぞれのビジネス現場で自発

的に回っているのであれば、何も対策は必要ない。ま

た、組織にIT、ビジネス、分析に関するスキルがバ

ランスよく備わっていれば、ビジネス上の判断がより

よいものとなり、業績に対してプラスのインパクトを与

えられるようになるはずだ。

 だが、そうした組織への変貌を図ろうとしても、現

実的にはBIイニシアチブに対して社内リソースを無制

限に投入できるわけではない。BIイニシアチブを成功

に導くためには、限られた社内リソースを集約して効

率的に活用できるような体制作りが必要になる。

 実際に、そのような体制作りを進めているという事

例は、少なからず見受けられる。具体的には、BIの

取り組みをIT主導型から、幅広い組織を横断的にカ

バーするビジネス主導型に発展させることを目的に新

たな社内組織を設立するという動きだ。BICCとは、

そうして設立された社内組織のことである。

 このBICCは、BIについての戦略プランの策定や

優先順位づけなどを行い、データ品質やガバナンスを

含む要求事項を定義したうえで、BIによって得られ

る洞察力をユーザーがビジネス上の判断に役立てら

れるように支援する。この活動を通して、BIを利用

する部門が、そして将来的には全社的に、IT、ビジ

ネス、分析に関するスキルをバランスよく備えられる

ようにし、情報活用の能力の組織的な向上を図る。

*  *  *

 本稿で見てきたように、BIイニシアチブの成功には、

長期的・継続的な視野が不可欠であり、その効果を

最大限に引き出すには、組織的な取り組みが必要と

なる。そうした取り組みを進めることができれば、ユー

ザーにデータを提示するだけではなく、ビジネス上の

目的にかなったBI活用を実現できるはずだ。

*資料:ガートナー

活用

導入

1

2

34

7 6

8

9

5

要件定義

データの特定とインベントリ

ツールの評価・選定開発、導入、教育

発見と探求

情報の確認、分析意思決定の選択肢を提供

情報共有とコラボレーション

変化を引き起こす

図5:BIのライフサイクルにおける9つの重要なステップ

Page 32: Computerworld.JP Apr, 2008

Computerworld April 200848

されたデータとの整合性が取れていなかった」(Hewitt

氏)

 そうした問題の解決に向けて、Valeroは、2004年

から社内のBIシステムのアーキテクチャを整理統合

する2カ年プロジェクトをスタートさせた。まず初めに、

SAPのBIツール「SAP Business Information Ware

house(SAP BW)」と業務アプリケーションの「SAP

ERP」、Oracleのデータ・ウェアハウスを導入してシ

ステムの統一化を図り、すべてのリポートおよびクエ

リ構成機能をIT部門に移管した。そしてその後、フ

ロントエンド・ツールをInformation Builders製の

Webリポーティング・ツール「WebFocus」に統一し、

オンライン分析処理機能をSAP BWに移行していっ

たのである。

 現在、Valeroの社員はWebFocusを使ってさまざ

まな角度から業務データを分析・比較(スライス&ダイ

ス)しているが、データやリポートはすべてIT部門が

定めた基準に沿って作成されている。

 Hewitt氏は、「すべてのリポートがIT部門から供給

されるようになり、以前のようにデータの不整合が起

こるようなこともなくなった。BIの導入によって、す

べての社員が同じ条件の下で、正確なデータをタイム

リーに入手できるようになった」と満足げに語る。

既存のツールを見直し、標準化する

 ビジネス・インテリジェンス(BI)の導入に取り組ん

だことのある人であれば、BIがユーザーにもたらす“自

由”の恐ろしさを少なからず知っているはずだ。システ

ムを構築し、「適切なタイミングで、適切なデータを、

適切なユーザーに提供する適切なツール」を実現する

までの過程を見るに、BIほど難しいものはない。

 米国テキサス州サンアントニオに本拠を置く、年商

820億ドルの独立系石油精製会社Valero Energyの

例を見てみよう。4年前に複数の吸収・合併が行われ

た同社では、Cognos、Hyperion、Crystal Reports

といった複数のBIツールが利用されていた。Valero

でリポーティング&財務システム担当ディレクターを

務めるカーク・ヒューウィット(Kirk Hewitt)氏は、バー

ジョンが異なる複数のデータを使ってリポートを作成

していた点に問題があったと当時を顧みる。

 「一部のユーザーが、データ・ウェアハウスからデー

タを取り出し、それをCrystal Reportsサーバにロー

ドしてリポートを作成していたが、リポートは毎朝更

新されるわけではなかったため、前日夜にデータ・ウェ

アハウスに入っていたデータと、そのリポートに記載

目指すは「適切なデータを、適切なユーザーに提供するBI」

社内に蓄積されたデータを分析し、的確なビジネスの意思決定に必要な指標を提示するビジネス・インテリジェンス(BI)。ただし、その導入や活用の仕方が適切でないために、期待したほどの効果が得られていないというケースも多く見受けられる。本パートでは、すでにBIの導入で成果を上げている米国企業担当者たちのアドバイスを紹介することで、BIシステムを構築・活用するにあたって留意すべきポイントを示したい。

Mary BrandelComputerworld米国版

先達が語る、BIの活用ポイント

2Part

Page 33: Computerworld.JP Apr, 2008

April 2008 Computerworld 49

ビジネス・インテリジェンス[戦略的活用ガイド]

特集

BI導入の成功に欠かせない要素

 複数のBIを乱用する状況を脱して、制御と洗練の

度合いを増したアプローチに転換できた企業はVale

roだけではない。BIの可能性についての認識が広ま

るにつれて、多くの企業がBIの実装成功に不可欠な

要素が何であるかも学びつつある。例えば、ツールを

標準化しなければどのような事態に陥るか、ユーザー

が求めるBIを提供すべくユーザーといかに協力し合

うべきか、ユーザー間の調整を図りながらクエリとリ

ポートを作成することの重要性、すべてのユーザーが

正確に構造化された同一のデータ・セットを確実に利

用できるようにすることなどである。

 次に、Valero同様、BIツールの標準化に成功した

米国の食品メーカーDel Monte Foodsの事例を紹介

しよう。同社のビジネス・システム&意思決定支援担

当ディレクター、アンディ・ウォジェウォッカ(Andy

Wojewodka)氏によると、Del Monteでは以前、複

数の部門が複数のクエリ/リポーティング・ツールを

使って、各部門の独自ルールに従って作成したフィ

ルレート(納品率リポート)を経営陣に報告していたと

いう。

 「当時は、リポートにどの注文/取り引きを含めるか、

あるいは除外するかといった基準さえ設けられていな

かった」とWojewodka氏は述懐する。

 同氏は、「不適切な相手に、過度に柔軟なシステム

を与えると、全社的にまとまりのないサブシステムが

乱立することになる。その結果、内容が誤っているわ

けではないが、複数の報告書が提出されるようになる」

と指摘する。同氏によると、Del Monteでは現在、

IT部門に所属するBIアナリストらが中心となって、エ

ンドユーザーとディベロッパーの協力も得ながら、経

営陣に有用な情報を提供するための最良の方法を定

目指すは「適切なデータを、適切なユーザーに提供するBI」

先達が語る、BIの活用ポイント

 米国Gartnerは1月21日、BI市場の成長率が今後鈍化するとの見通しを発表した。同社は「BIは企業にとって不可欠なツールではあるが、2ケタ成長の時代は終焉を迎えつつある」と指摘している。 Gartnerによると、2007年におけるBI市場の成長率は、前年の12.5%を若干下回ったという。同社は「BI市場の成長率は、2011年までに1ケタ台に落ち着くだろう」と予測している。 GartnerはBI市場成長減速の要因として、①2007年にBIベンダーの整理統合が進んだこと、②BIツールに備わっている機能が成熟化したこと、③BIツールの価格が低下していることを挙げている。ちなみに2007年に買収された(または買収が決まった)BIベンダーとしては、Business Objects(SAPが67億9,000万ドル)、米国Hyperion(Oracleが33億ドル)、カナダのCognos(IBMが50億ドル)などがある。 Gartnerは、「これら買収されたBIベンダーが提供している

『Hyperion Essbase』『Business Objects XI』『Cognos 8』といったBI製品は、買収後も重要な製品として位置づけられ、

(買収元の企業から)研究開発費用も十分に配分されるだろう」とコメントした。 Gartnerのアナリスト、ダン・ソマー(Dan Sommer)氏は、

「SAP、Oracle、IBMなどの大手ベンダーによる統合の動きは、BIの利用価値を高め、クライアント企業のBIツール導入に拍車をかけるはずだ。一方で新規のBIベンダー各社は、差別化を図ったニッチな製品や、革新的な技術の開発を余儀なくされるだろう」と指摘した。 BIツールの技術革新が進み、クエリ、リポート、OLAPといった機能がコモディティ化すれば、これらの機能で製品を差別化することは難しくなる。GartnerはBIベンダーへのアドバイスとして、「使い勝手の向上や、コラボレーション機能の強化など、企業におけるBIツールの用途を拡張するくふうをすべきだ」と語った。 またGartnerは、BI専業ベンダーの今後の傾向として、「ダッシュボード、予測モデリング、エンタープライズ検索、インタラクティブな視覚化技術といった、新しいBI機能を強化するようになるだろう」と予測している。 現在、BI市場はOracle、IBM、SAPの3社で市場の3分の2を占めている状態だ。Gartnerは「米国SAS Institute、米国MicroStrategy、米国Information BuildersといったBI専業ベンダーが自社の存在感をアピールするには、マーケティングに力を入れる必要がある」と指摘している。

2 0 0 8 年以降のB I 市場、成長は鈍化の見通し

Heather HavensteinComputerworld米国版

B I T o p i c s

市場の成熟化で2ケタ成長の時代は終焉?

Page 34: Computerworld.JP Apr, 2008

Computerworld April 200850

先 達 が 語 る 、 B I の 活 用 ポ イ ントPart 2

義づける作業が進められているという。

 また、スナックフード・メーカーの米国Utz Quality

Foodsも、Del Monteと似た経験を味わっている。

Utzの最高情報担当ディレクター、エドワード・スミス

(Edward Smith)氏によると、同社ではかつて、社員

が作成した独自のクエリが原因で、基幹サーバが突

然機能停止に陥るという事故まで起きていた。

 そこでSmith氏は、2002年からクエリとリポートの

作成をWebFocusを使って行うようにした。Utzでは

それ以来、効率的なクエリと適切なデータ構造に基

づきながら、データを支障なく分析/比較できるよう

になったという。

 米国のIT調査会社Gartnerのアナリスト、ビル・ホ

ストマン(Bill Hostmann)氏は、「リポートやダッシュ

ボードを巡る問題は氷山の一角にすぎない。最も深

刻なのは、そうした問題の根底にあるデータ統合、条

件の設定、分析、フォーマット化などに十分な資金

が注がれていないことだ」と指摘している。

ユーザーが求める情報は何かを検討する

 リポートとクエリ構築を管理する作業は、効果的な

BI導入プロセスのほんの第一歩にすぎない。適切な

BIツールを適切なユーザーの手に渡すためには、IT

部門はユーザーのニーズを把握する必要がある。

 Del Monteでは、マネジャー間では「会議用の業績

指標を示した定型リポート」を望む声が多く、ユーザー

間では「自由な形式で現状を把握したい」との要望が

上がっているという。Wojewodka氏は、「直感的な双

方向分析とリポーティングを実現すれば、すべての

ユーザーの要望を満たせると思っていたが、実際はそ

んなに単純ではなかった。BIアナリストには、評価指

標、リポート、分析論といった知識だけでなく、ユーザー

を観察しながら、彼らが職務を遂行するうえで重要な

要素を見極めることが求められる」と強調する。

 Wojewodka氏は加えて、「BIはユーザーの職務に

合わせて実用的な形式で提供すべき」としている。こ

れを実践しているのが、BIシステム評価サイト「Ana

lytic Solutions Know-How(ASK)」の創設者である

シンディ・ハウソン(Cindi Howson)氏だ。

 同氏は、「BIツールを利用して、自分が求める情報

をより迅速に引き出し、仕事の効率を上げたいと考え

ているユーザーは多いが、最先端の難しいツールを

使いこなしたいとまでは思っていない」と指摘する。

実際、IT部門では高度なBIシステムを構築する必要

があるかもしれないが、ビジネス部門には使いやすい

クエリ・ツールを用意したほうがよいケースもあるのだ。

 「ハイレベルなExcelユーザーにはExcelインタフェー

スでBIを提供し、一般のユーザーにはポータル・ベー

スのBIを、または電子メールや双方向リポートなどの

形式でデータを提供する。経営層にはBIダッシュボー

ドまたはスコアカードが適している。データはそれにア

クセスする人向けにパーソナライズされるべきだ」と

Howson氏はアドバイスする。

直感に頼らない“データ・ドリブン”な行動を心がける

 ユーザーが必要なデータにアクセスできるように

なったら、次は、データを活用する方法を彼らに理解

してもらう段階だ。Del MonteのWojewodka氏は、「必

要な情報さえ提供すれば、あとはユーザーが自由に

活用するだろうと思い込むのはまちがいだ。彼らには

情報の活用方法まできちんと教える必要がある」と指

摘する。

 Howson氏もWojewodka氏と同じく、「ユーザーが

データにアクセスできても、彼らがそれを有効に活用

できるとはかぎらない。企業は直感に頼る意思決定を

やめて、取得したデータから起こすべき行動を考える

企業文化を育むべき」との見解を示している。

 Utzは、そうしたデータ・ドリブン型の企業文化を

確立している1社である。例えば、同社のセールス・

マネジャーは、毎日の売上げ数値を対前週比と対前

年比で正確に把握しており、特定の店舗の売上げが

落ちたことが判明した場合にも、すぐにその原因を究

明できるという。

 同社のSmith氏は、「当社の社員は、BIツールを使っ

Page 35: Computerworld.JP Apr, 2008

April 2008 Computerworld 51

ビジネス・インテリジェンス[戦略的活用ガイド]

特集

て業績指標の推移を毎日チェックしているので、ビジ

ネス上の失敗に敏感に反応し、迅速に解決すること

ができる」と胸を張る。

 一方、Hewitt氏は、「データ・ドリブン型の企業文

化へ移行するにしても、管理不能なクエリ/リポート

構築の混沌から脱却するにしても、チェンジ・マネジ

メントの難しさは看過できない」と釘を刺す。同氏によ

ると、実際、Valeroでは、経営陣による支援なしに

効率的なBIシステムの導入は実現しえなかったとい

う。

 「CFO(最高財務責任者)やCIO(最高情報責任者)

といった経営陣たちが、BI導入プロジェクトのチェン

ジ・マネジメントを率先して進めてくれたおかげで、

ユーザーからも協力が得られた。当然のことながら、

システム移行の影響は多くのユーザーに及ぶため、必

ずしも全員が移行に肯定的というわけではなかった」

とHewitt氏。

 Hewitt氏はBIツールの選定にあたって、積極的に

エンドユーザーの意見に耳を傾けたという。「エンド

ユーザーに実際にBIツールを使ってもらい、どんどん

質問してもらった。結果、『データはExcelや電子メー

ルでもらえるのか』『ポータルで使えるか』『OLAPは可

能か』など、さまざまな要望が飛び出した」と同氏は述

懐する。

 適切なリポーティングを実現するために時間を費や

し、チェンジ・マネジメントを実践する――これは、

BI導入時の最大の壁とも言えるが、リソースを注ぐ

価値は十分にあるとHewitt氏は断言する。

 「BIの導入を通じて、当社の社員は意思決定につ

いての考察を深め、BIシステムでどのような情報を収

集、解析、提供すればいいのかについて自信を持て

るようになった。また、データ・ソースを集中管理し、

一貫性のあるデータを提供できるようにしたことで、

より多くの社員がツールを使ってデータにアクセスで

きるようになったことのメリットも大きい」と、Hewitt

氏は言い添える。

 BI業界の再編が急速に進むなか、同業界で数少ない独立企業である米国MicroStrategyがベンダー中立の方針を打ち出している。同社の顧客も、この方針に沿って同社が独立を維持することを望んでいる。 BI業界にとって2007年は「買収」の年だった。SAPはBusiness Objectsを67億ドルで、OracleはHyperion Solutionsを33億ドルでそれぞれ買収した。また、IBMの50億ドルでのCognos買収もまもなく完了する見込みだ。 こうしたなか、MicroStrategyの顧客は同社が買収のターゲットにならないことを望んでいる。今年1月、MicroStra tegyがフロリダ州マイアミで開催した「MicroStrategy World 2008」コンファレンスにおいて、MicroStrategyユーザーの多くは、同社への信頼を表明するとともに、同社が独立企業であることは、他のBIベンダーに対する同社の一定の優位性につながっているとの見方を示した。 なかでも数社の顧客は、MicroStrategyが、親会社の補完的な製品を優先的にサポートするよう圧力をかけられ、親会社のライバル企業の類似製品に対するサポートが弱くなるという事態に陥らずに済むように、独立を維持することを望ん

でいると語った。 金物類を販売するW.E. AubuchonのMISディレクター、リンゼー・オーブション(Lindsey Aubuchon)氏は、「必要なIT製品を幅広い選択肢から選び出し、柔軟に組み合わせてマルチベンダー環境を構築することで、目指す実装を行いたい」と語った。W.E. Aubuchonは約7年前からMicroStrategy製品を利用している。 こうした姿勢に立つ同氏は、MicroStrategyのCEOであるマイケル・セイラー(Michael Saylor)氏が示した方針に賛同した。Saylor氏はコンファレンスの基調講演で、Micro Strategyはベンダー中立の立場をとり、自社製品と広範な他社製品の相互運用性を推進すると述べている。 「われわれは、このビジネスにおけるスイスを目指している。顧客の目標達成を支援するため、さまざまなベンダーや技術、アーキテクチャを利用できるようにしたい」(Saylor氏) また、Saylor氏は、CognosやBusiness Objects、Hy perionについて、「新しい親会社の競合事情により制約を課され、製品ロードマップの変更を余儀なくされる」との見通しも示している。

M i c r o S t r a t e g y の B I 業界独立路線を顧客が支持

Juan Carlos PerezIDG News Service マイアミ支局

B I T o p i c s

「業界再編が進むなか、独立企業であることは優位性につながる」

Page 36: Computerworld.JP Apr, 2008

Computerworld April 200852

規模な業務アプリケーションから収集したBIデータの

コンテキストと意味性を高めることが可能になる。

 一部の先進ユーザーは、テキスト分析とBIのコン

ビネーションが非常にパワフルであることを知ってい

るのだが、まだ一般的ではないようだ。米国の市場調

査会社Forrester Researchのアナリスト、ボリス・エ

ヴェルソン(Boris Evelson)氏は、「プロセスとユー

ザー・インタフェース(UI)に関して言うと、ほとんどの

人はBIと聞いて構造化データのみを扱うOLAP

(Online Analytical Processing:オンライン分析処理)

を連想するはずである。しかし、より価値のある分析

結果を得るには、OLAPの際、ユーザーにシームレス

なやり方で非構造化データを対象にする必要もあるの

だ」と説明する。

 「事実、高度なBIシステムを構築するために多額の

資金を投じていながらも、IT部門の幹部たちは、貴

重な情報が格納されているデータの多くが、いまだ社

内のあちこちに非構造化テキストのままで放置されて

いることにも気づいている」と指摘するのは、米国の

市場調査会社Nucleus Researchのアナリスト、デビッ

ド・オコーネル(David O'Connell)氏だ。

 社内に散在するデータには、マーケティングや販売

キャンペーンの結果、顧客の購買傾向など、市場で

パワフルな組み合わせ──BIとテキスト分析

 今、医療業界や保険、金融業界の先進ユーザー企

業の多くが、ビジネス・インテリジェンス(BI)ツールが

主に扱う構造化データを、非構造化テキストに結び

付けることのメリットに着目している。

 テキスト分析(Text Analytics)/テキスト・マイニ

ング・ツールは、企業内のあちこちに分散する非構造

化テキストを系統立てるため、言語学、ルール・ベー

スの自然言語処理、特殊化したアルゴリズムなどのメ

ソッドを用いる。最近では、種類の異なる複数の文

書管理システム、電子メールやインスタント・メッセー

ジング(IM)、さらにはブログやWebサイトに記載され

た情報までもマイニングの対象とするべく、テキスト

分析ツールを導入する企業が増えている。

 その目的は、静的なBIリポートに新たな息吹を吹き

込むことだ。テキスト分析ツールは、非構造化データ

であるテキストに埋もれている事実や考え方、データ

の関係を抽出したうえで構造化データに変換し、BI

ツールとの連携を図れるようにする機能を提供する。

このツールを適切に活用すれば、主としてデータ・ウェ

アハウス(DWH)、あるいはERPやCRMといった大

構造化/非構造化を問わず、あらゆるデータからトレンドを得る

数あるITの中でも、ビジネス・インテリジェンス(BI)は、特にユーザーのスキルが導入の成否に直結すると言われる。ここ数年、BIで大きな効果を上げた先進的な企業が着目しているのは、ユーザーみずからの「分析力」である。本パートでは、非構造化データから重要なトレンドを発見する分析/マイニング・ツールを効果的に活用することで、競合他社との差別化を図ることができた米国企業の事例を挙げながら、“分析の極意”に迫ってみたい。

Jennifer McAdams/Heather HavensteinComputerworld米国版

「分析は力なり」みずからの創意工夫で競争優位に立つ

3Part

Page 37: Computerworld.JP Apr, 2008

April 2008 Computerworld 53

ビジネス・インテリジェンス[戦略的活用ガイド]

特集

の競争上、非常に重要な情報が含まれている。しかし、

これらのトレンドを見いだし追跡するには、分析を自

動化してBIと組み合わせるしか方法はない、というの

がO'Connell氏の持論である。

 「従来のBIツールにテキスト分析機能を“ボルト・オ

ン”することで、BIの価値がさらに高まるのだ。しかも、

データ・クレンジングの処理はわずかで済むため、莫

大なコストがかかるようなこともない。これにより、最

終的に既存のBIツールでROI(投資利益率)の向上を

図ることができるようになる」(O'Connell氏)

事例が物語るテキスト分析ツールの威力

 テキスト分析と組み合わせてBIを拡張することのメ

リットは、米国テネシー州チャッタヌーガに本社を置

く保険会社、BlueCross BlueShield of Tennessee

(BCBS)の例を見ればわかりやすい。BCBSは、この

2つのテクノロジーを効果的に連携させることで、4種

の疾病カテゴリにおける高リスクおよび低リスクの保

険加入者に対する保険コストの分析精度を高めるこ

とに成功している。

 「関連性の高い構造化データと非構造化データを組

み合わせることで、業務を新たな視点から見られるよ

うにし、新たな分析手法を可能にする。それらとともに、

従業員に対しては、拡張BIという形で、より行動し

やすい情報を提供できるようになった」と、BCBSで

チーフ・データ・アーキテクトを務めるデータ・リソー

ス/マネジメント担当シニア・マネジャーのフランク・

ブルックス(Frank Brooks)氏は語る。

 BCBSのBIシステムは、カナダのCognosが提供す

る「Cognos 8 BI」をベースに、米国SAS Instituteの

「Text Miner」(画面1)および米国IBMの「OmniFind

Analytics Edition」という2種類のテキスト分析/マ

イニング・ツールによって構築されている。Brooks氏

によると、2種類の分析ツールは、BCBSみずからが

構築し運用するコンセプト証明アプリケーションで大

きな役割を果たしているという。同氏はこう話す。

 「コンセプト証明アプリケーションの構築・運用の過

程で、われわれは、非構造化データに隠された意味を、

既存の構造化データにおける意味に変換できることを

理解した」

 SASのText Minerは、複数のファイルタイプ(PDF、

ASCII、HTML、Microsoft Word)に含まれている

データを操作し、特異値分解(Singular Value Deco

mposition)技術を用いてテキストを数値表現としてレ

ンダリングする。これらの数値モデルは、Microsoft

ExcelやSASの各種BIツールなど、BIクライアント・

ソフトウェアにあらかじめ用意されている。

 一方、IBMのOmniFind Analytics Editionは、

IBM Researchが開発した「UIMA(Unstructured

Information Management Architecture)」を主軸に

している。UIMAは、非構造化テキストを「WebSphere

Portal Server」や「Lotus Workplace」といったミド

ルウェアやシステムに統合可能なコンポーネントに変

換するための言語処理を実行する際、コア・アルゴリ

ズムを利用する(WebSphere Portal Serverなどの

ミドルウェア/システムは、大規模なBIアプリケーショ

ンの稼働環境となるケースが多い)。

 BCBSなどの大手保険会社に加え、金融サービス

会社も、比較的早くからBIとテキスト分析の組み合

わせに着目してきた。Forresterの調査リポートによ

ると、テキスト分析はリスク・マネジメントなどの分野

構造化/非構造化を問わず、あらゆるデータからトレンドを得る

「分析は力なり」みずからの創意工夫で競争優位に立つ

画面1:米国SAS Instituteのテキスト分析ツール「Text Miner」の操作画面

Page 38: Computerworld.JP Apr, 2008

Computerworld April 200854

「分析は力なり」みずからの 創 意 工 夫で 競 争 優 位に立つPart 3

にも適用できるという。そのリポートでは、大手金融

機関に勤める詐欺対策の専門家がBIとテキスト分析

を用いて「監視リスト」を作り、法的開示文書をコンパ

イルした事例が紹介されている。データセットを手作

業で関連づけていたら、この作業はまず不可能だっ

たはずだ。

 米国の財務プランニング関連のSIベンダー、

Kettley Publishingは、同社顧客である財務プランナー

が最も関連性の高いコンテンツにアクセスできるよう、

BIとテキスト分析の機能の連携を試みた。「BIとテキ

スト分析の組み合わせは強力だ。これらにより、“雑

然としたデータ”を意思決定に役立つ形に変換でき

る」と、Kettleyの開発担当ディレクター、ジム・コノリー

(Jim Connolly)氏は賞賛する。

 テキストを構造化するのにあたってKettleyでは、

WWF(Windows Workflow Foundation)プログラミ

ング・モデルを用いてテキスト分析機能を自社開発し

た。Connolly氏によれば、この機能は大規模なエンター

プライズ検索機能にステップアップするための土台と

なるものだという。「実装はスムースに行き、所要期間

も1人月未満だった」と同氏。

 「BIベンダーがこぞって自社の製品ポートフォリオ

にテキスト分析機能を追加するなか、こうしたシステ

ムに対する企業側の関心を真っ先にビジネスに結び

付けるのはSIベンダーだろう」と、Forresterの

Evelson氏は解説する。

 「ただし、まだ統合が課題として残る。ソフトウェア

に1ドル投資するとしたら、システムの統合に少なくと

も3〜5ドルはかかると見るべきだ」(同氏)

Web分析ツールを活用してサイト訪問者を顧客に転換

 次に紹介するのはWeb分析(Web Analytics)ツー

ルの活用事例だ。特に、大規模なeコマース・サイト

を展開する企業にとって、このツールの有用性は高

いと言える。

 グラフィック・デザインのサービスとカスタム・プリ

 ある女性教授は、テキスト分析とBIを組み合わせることで、夫の脚を切断の危機から救うことができた。 米国ケンタッキー州立Louisville大学の数学教授、パトリシア・セリート(Patricia Cerrito)氏にとって、BIとテキストの乖離がもう少しで悲しい結果を招くところだった。彼女の夫が糖尿病に加え、感染症による骨髄炎まで患い、ひざから下を切断する危機に直面していたのだ。 代替療法として抗生物質を使う手もあったが、医師たちから、Cerrito氏自身が投薬量と副作用についての情報を提供しないかぎり、承諾を出せないと言われた。 「その医師は、私たちがこの分野に詳しいことを知っていた。結局、夫の脚の運命は私たち夫婦にかかっていた。ほとんどの医師は、切断しなくても当分大丈夫だと思えるうちは、切断の延期を承諾するものだ」とCerrito氏。医師から要求された情報を用意するため、Cerrito氏は構造化されたBIの処方データをかき集め、そのデータを個々の医師が個人的に耳にした間接情報とつなぎ合わせるという作業に取り組んだ。 問題は、医師が作成した患者情報は、種類の異なる文書管理システムに分散されて保管されていることだった。

 「医療の世界では、医師は独立した起業家のようなものだ。このため、変化が遅く、特に疾病管理に対する姿勢をなかなか変えようとしない」と、Cerrito氏は不満を漏らす。同氏は、BIの構造化データと非構造化テキストを結ぶインタフェースを構築することで、個々の疾病に対する代替療法についてより多くの情報を入手できるようにしたいと願った。 SASのText Minerを使い、「複数の情報源から文字列を作成して意思決定の流れを調べられるようになった」とCerrito氏。Text Minerはこれら文字列をふるいにかけ、テキスト情報の各要素に関係性を見つけたあと、文書をフォーマットして分類する。こうして、Cerrito氏と夫、そして氏の教え子の学生たちは、病院の請求システムや医師のカルテに書かれたデータを掘り下げていけるわけだ。 Cerrito氏は自身の経験を生かし、今は他の患者を1人でも多く救うべく努力している。 「悲しいことに、同じような境遇にいた患者に、代替療法を知らなかったために脚を切断した人がいるのではないだろうか。私の調査からも、そういう人たちがいる可能性は高いと思う」(Cerrito氏)

最 愛 の 夫 の 脚 部 切 断 を 回 避 し た「 B I とテ キ スト 分 析 」Jennifer McAdamsComputerworld米国版

C O L U M N

Page 39: Computerworld.JP Apr, 2008

April 2008 Computerworld 55

ビジネス・インテリジェンス[戦略的活用ガイド]

特集

ント製品をオンライン販売するVistaPrint(米国マサ

チューセッツ州レキシントン)は、同社が運営する18の

Webサイト(画面2)で毎日処理している約2万2,000件

のトランザクションを子細に調べるWeb分析技術を使

い、顧客転換率を高めることに成功した。

 オンライン販売に多額の投資をした企業全般に言

えることだが、VistaPrintは1年以上前、オンライン

事業部が追跡するサイトのログ・データに身動きでき

なくなっていることに気づいた。

 「顧客がオンラインでどういう行動を取るかや、新し

い機能がその行動にどういう影響を与えるかを分析す

ることは重要だ。しかし、古いカスタム・アプリケーショ

ンを使っていたのでは、そのデータを取り出して分析

するのに数時間、長ければ数日もかかってしまう。当

社がそうだった」と、同社のBI担当シニア・マネジャー、

ダン・マローン(Dan Malone)氏は振り返る。

 「このやり方では長続きしないし、将来行き詰まる

ことが確実だった。そして、顧客転換率(Webを訪れ

た人が顧客になる割合)を数%改善するだけでも利益

が大幅に増えることがわかってきた」(マローン氏)

 状況を改善するため、VistaPrintは新しいUIをテ

ストするためのWeb分析ツールを探すことにした。UI

を新しくすることで顧客転換率を高められるか、訪問

者はなぜサイトから立ち去ったのか、ユーザーが途中

で去ったのはどこのページかといったことを突き止め

るためである。

 「製品を調べた結果、市場に出荷されているWeb分

析ツールは、大きく2つの方向に分類されることが判

明した。1つは事前にデータのアグリゲーションを行う

ことなく、利用可能な全データを分析するタイプのツー

ルで、もう1つは全データを事前にアグリゲートするも

のの、ユーザーが実行したいすべてのクエリをあらか

じめ見越しておく必要があるツールという2つのタイプ

だ」(Malone氏)

 VistaPrintの業務では、データをアグリゲートする

目的となった質問セット以外の質問がある場合、その

データセット全体を処理しなおす必要があった。そこ

で、VistaPrintは最終的に“第3の選択肢”であるサ

ンプリング方式を採用した、米国Visual Sciencesの

「Visual Site」を導入することに決めた(Visual

Sciencesは、2007年10月に米国Omnitureに買収さ

れている)。

 サンプリング方式により、VistaPrintは従来どおり

詳細なデータをクエリできるうえ、質問してすぐに回

答を得られるのでレスポンスも良好だ、とVisual Site

の出来にMalone氏は満足している。

 「データの1%をクエリし、その結果に基づいて回答

を出す。残りの99%のデータはその1%と同じような

データだと仮定するのだ。データはすでにランダム化

されているので、そう仮定しても問題はない」(同氏)

 VistaPrintでは、Visual Siteを、同社が3週間ご

とに行う30〜40の新機能テストに用いることにした。

例えば、同社はユーザーが名刺にプリントするデータ

をアップロードするための、4ページからなるパスをテ

ストしていたが、その結果、新しいアップロード・パス

の顧客転換率がコントロール・バージョンと同程度で

あることがわかった。「パスの改善に多くの時間を費や

したのに、この結果には少しがっかりした」とMalone氏。

 そこで、Visual Siteを用いたところ、テスト・バージョ

ンは4ページのうち3ページでコントロール・バージョン

画面2:グラフィック・デザイン/カスタム・プリント・サービスを提供する米国VistaPrintは、Web分析ツールを活用して顧客転換率を高めることに成功した(画面は日本語サイト)

Page 40: Computerworld.JP Apr, 2008

Computerworld April 200856

「分析は力なり」みずからの 創 意 工 夫で 競 争 優 位に立つPart 3

より改善されたものの、最後のページに限っては離脱

率が高いことがわかった。「そのページの問題点をユー

ザビリティ・チームに伝えることができた」(同氏)

 Visual Siteツールを用いたことで、さらに、サイト

に戻ってくる顧客が新規に顧客登録プロセスに入る

とエラー通知を受けることも判明した。そのため同社

は、そのサインイン・ページからの離脱率を減らす対

策を講じた。問題を修正した結果、「サインインの率が

大幅に改善し、顧客転換率が高まった」(同氏)という。

 Malone氏は、正確なROIを算出するのは難しいと

しながらも、Visual Siteへの投資は、インストール後、

数カ月で回収できたとしている。

 現在、VistaPrintは、どの名刺テンプレート、宛

先ラベル、レターヘッドが顧客にとって最も魅力的か

も分析できるよう、このツールをさらに積極的に活用

していく予定だ。

名著に学ぶ──「分析力」で競合に勝つ方法

 2007年3月に、米国Harvard Business School

Publishingから刊行された『Competing on Analytics:

The New Science of Winning(勝敗を決めるのは分

析:勝利の新たな方程式)』(写真1)は、BIの活用方

法を学ぶ者にとって、実に示唆に富む良書である。

 著者のThomas H.DavenportとJeanne G.Harris

の両氏は同書で、競争上の優位はBIと予測分析を高

度に活用することで達成できるという論理を展開して

いる。この書籍においては、NetflixやAmazon.com、

Harrah's Entertainment、Capital One Financial

などの企業が、このメソッドで成功に至るまでのプロ

セスが詳しく紹介されている。以下、同書における重

要なポイントを引用しつつ紹介していこう。

BI利用の現状と目指すべき方向 今日、BIツールやテキスト分析/マイニング・ツー

ルは、すでにほとんどの大企業に導入されている。だ

が、H.DavenportとG.Harrisの両氏によれば、実際

のところ、これらのツールがどの企業でもビジネスの

成功に貢献しているとは言い難く、大半は事業部門

レベルで運用されているにすぎないのが実情だという。

 「保険会社の場合は保険料を算定する数理部に分

析ツールを導入し、製造業者は品質管理にそうした

ツールを使い、またマーケティング会社は顧客の生涯

価値分析に採用しているかもしれない。だが、こうし

た活動はどんなに有意義であっても、会社の上層部

や顧客、株主の目には見えず、その会社の競争力向

上に貢献していると明言することもできない」(『Com

peting on Analytics』より引用)

 そうしたなか、この書籍では、データ管理、量的分

析、事実に基づく意思決定を大幅に改善した企業に

焦点を当てている。同書が取り上げた企業の分析活

動は、管理部門よりむしろ年次報告書に表れている。

 「競争力のある企業になるには、同業他社よりすぐ

れている特徴、他社とは明確な差別化を図れる“機能”

が不可欠だ。あなたの企業が、競合他社より収益性

の高い固定客を捕まえて利益を増やし、それらの顧客

に最適な価格で販売することを目標にしているとしよ

う。その場合、最も効率的なやり方は分析を利用する

ことだ。また、日用品を販売していて、顧客のために

写真1:分析力の良書である『Competing on Analytics:The New Science of Winning』(刊行:Harvard Business School Publishing)の表紙

Page 41: Computerworld.JP Apr, 2008

April 2008 Computerworld 57

ビジネス・インテリジェンス[戦略的活用ガイド]

特集

棚のストックを切らさないようにしながらも最低限の在

庫に抑えたいと考えているなら、サプライチェーンの

最適化に分析が重要なカギとなる」(同書より引用)

 著者は、分析で市場競争力を高めた企業は、戦略

の基盤として1つ以上の“得意能力”を選び、それら能

力をサポートするため広範な数量分析と事実に基づ

く意思決定を適用したところだと説く。そして、能力

が何であれ、分析ツールを使うことでよりいっそう高

い次元に押し上げることができるというのだ。

 同書で紹介されている金融サービス会社のCapital

One Financialは、こうしたアプローチを「情報ベース

の戦略」と呼んでいる。また、エンターテインメント会

社Harrah'sの得意能力は、カスタマー・ロイヤリティ

とカスタマー・サービスであり、同社は分析を用いて

これらをマーケティング手法として最適化したという。

分析における差別化 筆者は、分析・洞察の能力は結局、他社も真似で

きることから、それら自体では競争上の優位を持続で

きないという懸念を認めている。

 「事実、1つ1つの洞察は、ビジネスに一時的なメリッ

トをもたらすにすぎない。例えば、米国の航空業界で

の事例で注目された利益拡大のための手法、イール

ド・マネジメントは、当初こそAmerican Airlinesの

業績を大幅に改善したが、このプロセスは今や航空

業界にとって、ビジネスに不可欠なコストでしかない」

(同書より引用)

 そして、データを使って競争上の優位を得るため

の方法として、次のような例を紹介している。

 「既存客と見込み客について、時間をかけながら独

自のデータを収集して他社と一線を画すやり方もあれ

ば、他社にも入手可能なデータを独自の手法で系統

化、標準化して操作するやり方もある。また、プロプ

ライエタリなアルゴリズムを開発し、意思決定の土台

となる細かな分析につなげるのも1つの手だ。さらに、

分析をみずからの組織独自のビジネス・プロセスに埋

め込むことで競合との差別化を図っている企業もあ

る」(同書より引用)

企 業 の 分 析 力 を 5 段 階 で 判 定 す るThomas H.Davenport/Jeanne G.Harris

D A T A

*資料:『Competing on Analytics:The New Science of Winning』(刊行:Harvard Business School Publishing)より引用

“計器飛行”に頼り、場当たり的に対応するだけの企業。データの量的な不足や質的な不足、複数の定義、システム統合の不完全さといったことに苦慮している状態。

レベル1分析力なし

分析対象が孤立しており、そのつど、特定の役割に対しての分析だけが行われている。せっかくトランザクション・データを効率的に収集していても、意思決定のための適切なデータを持ちえないという状態。

レベル2局所的な分析力

経営層が分析を幅広く活用する意思を持ち、社内にすでにBIツールとデータマートが普及している。ただし、ほとんどのデータはまだ統合、標準化されておらず、事実上、利用できない状態。

レベル3分析力を強化中

優先課題として、全社的な分析能力の育成に取り組み始めた企業。高品質なデータ、全社的な分析プラン、ITプロセスとガバナンスに関する行動指針を持ち、そこに一部の分析プロセスを組み込んでいる、もしくは自動化している状態。

レベル4分析力あり

全社的な分析能力により日常的に多大なメリットを享受しており、そのビジネス上の優位性をいっそう高めることを追求している企業。完全に自動化され、プロセスに統合されたエンタープライズ・レベルの完成度の高い分析基盤を有している状態。

レベル5競争優位に立てるすぐれた分析力

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Computerworld April 200858

「分析は力なり」みずからの 創 意 工 夫で 競 争 優 位に立つPart 3

分析で成功した企業の共通点 同書では、分析力を強化しようとしている企業に

とって指標になるようなポイントを多く掲載している。

その1つとして同書では、分析で成功している企業の

共通点を5つ挙げており、大変参考になる。以下はそ

れらを要約したものだ。

①真似されにくい

 他社が使っているアプリケーションなどを真似する

のは簡単だが、プロセスや企業文化を真似するのは

困難である。

②ユニークである

 ゲーム/エンターテインメント業界では、Harrah's

が分析を活用し、顧客に全米各地にある同社の施設

に来てもらえるようなマーケティングを行っている。だ

が、これはHarrah'sだからうまくいくわけで、他社、

例えば、コネチカット州のFoxwoods Resort Casino

のように、施設を1カ所しか持たないような企業がこ

の戦略で臨むのは無理である。

③多くの状況に適応可能である

 例えば、携帯電話事業者のSprint Nextelは、カ

スタマー・マーケティングにおける分析力を、従業員

の獲得や保持といった人材プロセスに容易に適応さ

せた。

④競合他社より優秀である

 単に、情報の活用方法が他社よりもすぐれている

だけで成功することがある。Capital Oneが好例だ。

消費者信用情報はどの金融サービス会社でも入手で

きるが、同社は分析力を駆使して、潜在的に危険度

の高い顧客について的確な判断を下し、業界平均を

上回る業績を達成した。

⑤継続性がある

 競争優位を維持するには、常に改善し再投資する

ことで目的の変化に対応していく必要がある。例えば、

保険会社のProgressiveは、同社が中高年のオート

バイ運転者など新たなセグメントに参入したことを他

の保険会社に気づかれるころには、すでにその市場

を独占し、次の新たな市場に移行していた。

分析におけるCIOの役割 同書によれば、企業文化と従業員の分析行動を変

革するのは、主にCEO(最高経営責任者)の責任であ

るが、この点についてはCIO(最高情報責任者)も力

を貸すことができるという。

分 析 による 競 争 力 を 支 える 4 つ の 柱Thomas H.Davenport/Jeanne G.Harris

D A T A

*資料:『Competing on Analytics:The New Science of Winning』(刊行:Harvard Business School Publishing)より引用

得意能力1 分析を競合他社と一線を画すための重要な手段と考えている。

全社的取り組み2 1つの部門やチーム内だけでなく、組織全体にわたって分析を運用し幅広く活用している。

経営層のコミットメント3 企業文化、プロセス、行動様式、スキルの改善と、事実に基づく意思決定は、まずCEOみずからが率先してその熱意を見せる必要がある。

大きな野心4 分析力で競争上優位にいる会社は、分析ベースの戦略立案によってビジネスを成功させようとしている。

Page 43: Computerworld.JP Apr, 2008

April 2008 Computerworld 59

ビジネス・インテリジェンス[戦略的活用ガイド]

特集

 筆者は、米国の特殊化学製品メーカー、Quaker

Chemicalの前CIO、アービン・タイラー(Irving Tyler)

氏(同氏は現在、IMS HealthのCIOに就いている)が

試みた、従業員にデータの分析結果と報告をメール・

アラートとして送るという行為を紹介している。これは、

従業員に与える情報が多いほど、彼らの問題解決能

力が高まり、直感でなく客観的な情報に基づいて決

断できるようになると考えたからだという。

 また、CIOは、分析の専門家を1つのチームにまとめ、

情報伝達の流れを整理することもできるという。同書

で紹介されているのは、Procter&Gambleの例だ。

同社は複数の分析チームを1つのチームに統合し、

CIOの直属とした。そして、IT部門の名称も「Infor

mation & Decision Solutions(情報/意思決定ソ

リューション)」に変更されたという。

 「言うまでもなく、分析に対するCIOの最も伝統的

なアプローチは、テクノロジーを使うことである。だが、

テクノロジーを使うことは必要条件であって、それだ

けでは十分でない。CIOがさらに重要な分析の役割

を果たすには、CIOの“I”の部分、つまり情報に重点

を置かなくてはならない。アナリティクスによる競争と

は、情報をめぐる競争でもある。適切な情報を持っ

ているか、その情報は本当に自社の業績を反映して

いるか、従業員に情報に基づいて意思決定させるに

はどうすればいいのか、といった視点で見ることが大

切だ」(同書より引用)

 これらの問題について筆者は、単に最適なツール

を購入して管理するより難しいことだが、分析で競争

に勝とうというのであれば、そのやり方をマスターす

ることが絶対条件になると説く。

 「情報指向であることは、分析の成功と密接に関係

していると言っても過言ではない」(同書より引用)

「 B I エ キ ス パ ート 」と 認 められ るた め の 1 1 の 条 件Thomas H.Davenport/Jeanne G.Harris

D A T A

*資料:『Competing on Analytics:The New Science of Winning』(刊行:Harvard Business School Publishing)より引用

1 アナリストがデータに直接、しかも、ほぼ瞬時にアクセスできる。

2 インフォメーション・ワーカーがデータの収集/フォーマットでなく、その分析と意味の理解を主な仕事にしている。

3 マネジャーが、ノートPCやリポート/トランザクション・システムからデータを選別することにより、プロセスおよび業績の改善に専念している。

4 マネジャーが、「だれの数字が正確なのか」といったレベルの議論をしない。

5 データは、最初に作成されてからアーカイブ、消去されるまでのライフサイクルを通して、全社的な視点で運用管理されている。

6 事前に人手による膨大な下準備をしなくても、仮定をただちに分析、テストできる。

7 事業部門の供給サイド/需要サイドとも、一貫したデータセットを使って開発した整合性のある予測を利用している。

8 大量のミッション・クリティカルな意思決定プロセスが高度に自動化/統合されている。

9 自社と顧客、サプライヤー間でデータが日常的に、しかも自動的に共有されている。

10 リポートと分析が、多くのソースからの情報をシームレスに統合/合成する。

11 DWHやBIのイニシアチブを立ち上げるより、データをすべてのビジネス・イニシアチブにおける戦略的社内リソースとして運用管理している。

Page 44: Computerworld.JP Apr, 2008

Computerworld April 200860

が抱える問題を見た目がよいだけのツールで解決する

ことはできない。彼らに必要なのは、複雑なリポート

作りを支援してくれるツールなのだ」(同氏)

 BIベンダーが、カラー・チャート、グラフ、表など

を満載したBIシステムをエンドユーザーにプレゼンす

る──これを企業が許可することは、そのシステムを

導入する部署の不満をあらかじめ保証するようなもの

かもしれない。Siegel氏はこの落とし穴を回避する方

法として、企業で実際に使われている生データを用

いたプレゼンをベンダーにさせることを提案する。

 「当社では、BIを導入した際に、一貫性がなく不正

確で、そのままでは価値のない生データをベンダーに

渡した。もちろん、見た目のよさも大切だろう。しかし、

何よりもまず企業にとって有用でなくてはならない。

自分たちが日々使っているデータを用いてテストを行

い、具体的に何が改善できるのかを明らかにすること

が重要なのだ」(Siegel氏)

落とし穴 その2BIを使うべき人が使えていない状況にある

 社員の生産性向上と日々の売上げ向上に責任を持

落とし穴 その1中身ではなく見た目でBIを選ぶ

 ビジネス・インテリジェンス(BI)を導入するにあたっ

て陥りやすい落とし穴は、導入を検討する段階です

でに待ち構えている。米国の製薬会社Pfizerのダ

ニー・シーゲル(Danny Siegel)氏は、「BIソフトウェア

が持つ魅力的でリッチな機能と、企業が実際に扱う

データで実現可能なこととの間には極端なギャップが

ある」とし、その点を考慮しないことがそもそもの失敗

だと指摘する。ニューヨークに本拠を置く同社でデー

タ・ウェアハウジング&ビジネス・インテリジェンス担

当ディレクターを務めるSiegel氏はさらに、「(企業の

IT部門が)リポートの形式さえ決められていない部署

に次世代機能を披露することは、みずから落とし穴を

掘っているのと同じことだ」と主張する。

 問題の一端は、自社製品を売り込むベンダーのプ

レゼンテーションのやり方にあるという。「ビジネス・

ユーザーの取り込みに必死なベンダーは、できるだけ

見栄えのする、ビジュアル重視のプレゼンで企業を引

き付けようとする」と同氏。「しかし現実として、企業

ビジネス・インテリジェンスの導入はこうして「失敗」する

ビジネス・インテリジェンス(BI)は、すでに成熟の域に達した感があるが、その導入にあたっては技術的に面倒な作業が多く、BIの導入を考えるユーザーにとって乗り越えるべき課題の1つとなっている。しかし、BI導入に関してユーザーが重要課題と位置づけるのは、「プランニング」「ROI(投資利益率)」「人的問題」の3つであり、ここには重大な落とし穴が潜んでもいる。本パートでは、経験豊富な5人のIT部門幹部がBI導入に失敗しないための心得をレクチャーする。

Julia KingComputerworld 米国版

BI導入に潜む「5つの落とし穴」

4Part

Page 45: Computerworld.JP Apr, 2008

April 2008 Computerworld 61

ビジネス・インテリジェンス[戦略的活用ガイド]

特集

つのは、幹部よりもむしろ最前線にいる中間管理層の

マネジャーだろう。彼らにとってBIツールは、この2つ

の課題を解決するための強力な味方となるはずだ。「し

かし実際には、企業の幹部の間でBIツールが使われ

ているケースが多く、ポリシー変更などについても幹

部がトップダウンで命じている場合がほとんどだ」と、

米国カリフォルニア州ロサンゼルスにある音楽エン

ターテインメント企業Virgin EntertainmentのCIO、

ロバート・フォート(Robert Fort)氏は指摘する。そこ

に落とし穴が潜んでいるというわけだ。

 ハリウッド・ブルバードやタイムズ・スクウェアなど

の一等地に13店のメガストア(大規模小売店)を構え

るVirginでは(画面1)、BIをまずこれらの店舗で採用

することから始めた。

 「現場で効果を測定したことでよい使い方を知るこ

とができた」と語るFort氏は、ストア・マネジャーらへ

の正確かつ最新の売上げ情報の供給を可能にした同

社のBIシステムをアピールする。

 Virginのストア・マネジャーらはWebベースのポー

タルを介して「Crescendo」と呼ばれるBIシステムにア

クセスし、集客と売上げに関する情報をやり取りして

いる。具体的には、Fort氏のグループが開発したソ

フトウェア・ベースのリポート・テンプレートに基づい

てCrescendoを使うことで、ストア・マネジャーらは、

全店舗における1時間ごとの集客数/売上げなどの最

新情報を知ることができる。また、店舗内にいる客が

実際に商品を購入する割合、各店舗における前年同

期の売上げといった、分析のための情報を得ることも

可能という。

 「BI導入から18週間後に効果を測定したところ、

店舗の売上げは軒並み向上していた」と話すFort氏

は、増加した売上げのうちの約20%は純粋にBIシス

テムの導入によるものと分析している。

 「BIの導入によって明らかに店舗の文化が変わっ

た。ストア・マネジャーは責任感を増し、リアルタイム・

ベースの運営が行われるようになった。常に販売状

況を把握できることから、迅速な対応が可能になった

のだ」(同氏)

 同氏は、現状を改善したいと考えているユーザー

にBIを配布すれば、成果は必ず現れると力説する。

落とし穴 その3BIで出されたデータの活用方法が示されていない

 企業がBI導入を決断する理由の1つは、何らかの

課題に対し、その解決に向けた分析を可能にするまと

まったデータを手にしたいからであろう。しかし、米国

の自動車メーカーFord Motorのグローバル・ワラン

ティ(品質保証)担当システム・マネジャー、ジム・ロラー

(Jim Lollar)氏は、「BI導入に失敗しないための秘訣

は、分析データに加えて、それをすぐに生かせる情報

をユーザーに提供することだ」と強調する。

 同社は5年前に、Webベースのワランティ・ポータ

ル(BIシステム)を立ち上げた。その際の目標は、世

界に1万社を数えるディーラーがワランティ関連の問

題を迅速に見極め、ワランティ・コストをFordのパラ

ビジネス・インテリジェンスの導入はこうして「失敗」する

画面1:タイムズ・スクウェアなどにメガストアを構えるVirginのWebサイト。同社では、現場のストア・マネジャーらが、BIシステムを使って集客と売上げに関する情報をやり取りすることで、売上げ向上に努めている

Page 46: Computerworld.JP Apr, 2008

Computerworld April 200862

B I 導 入に潜 む「 5 つの 落とし穴 」Part 4

メータと対比できるようにすることだった。

 それ以前は、各ディーラーに「126 Report」と呼ば

れる紙のリポートが配布されているのみだった。この

リポートは、各ディーラーのワランティ・コストと同地

域における他のディーラーのそれとの比較を可能にす

るもので、標準からあまりにも逸脱した額のワランティ・

コストを検知できるようにもなっていた。

 「こうしたデータを、各ディーラーがWebからオンデ

マンド方式で引き出せるようにした」と、Lollar氏は

同社のワランティ・ポータルについて説明する。同ポー

タルを導入した結果、各ディーラーは自分たちの問題

がどこにあるのかをすばやく認識できるようになったと

いう。

 ところが、これだけでは、せっかく明らかになった

問題を解決するところまではいかなかった。そこで

Lollar氏のグループは、多様な診断機能、ハウツー・

マニュアル、ダッシュボード、情報を深く掘り下げて

分析するためのドリル・ダウン機能などを付け加え、

問題の原因究明までできるようにした。

 「当社がこれまで行ってきたのは各ディーラーが抱

えている問題を列挙することだけで、問題解決を支援

することではなかった。結局、われわれがしてきたのは、

『君の会社には問題があるから解決せよ』と宣告してい

ただけだったのだ」とLollar氏は省みる。しかし、同

社の現在のシステムでは、ワランティ処理に関するよ

り詳細な問題についても対処できるという。

 この新たなBIシステムは予想以上の成果を上げて

いるようだ。現在は、世界各地のディーラーに向けて

情報提供を行っているという。「今では、ワランティ処

理を理由に会計監査を受けるディーラーの割合はご

くわずかになった」(Lollar氏)

落とし穴 その4BIデータを活用するための継続的な教育が行われていない

 米国アーカンソー州パインブラフにある地域医療セ

ンターJefferson Regional Medical Center(写真1)のように、BIの導入で組織内データが共有/活用さ

れるようになったとしたら、ひとまずは成功と言える

だろう。同センターでは、管理スタッフと医療スタッ

フ向けに、患者の状況やスタッフの勤務状況などを

迅速に検索できるWebポータル(BIシステム)を運営

している。このポータルを介して、スタッフはセンター

内の物資管理局から薬局に至る全部門の運営データ

にアクセスすることができるという。

 「ただし問題は、同じデータでも、見る人によっ

てとらえ方が異なる可能性があることだ」と語るの

は、同センターの情報管理/意思決定支援担当ア

シスタント・バイスプレジデント、モリー・メユー(Morie

Mehyou)氏だ。

 アーカンソー州で4大 病院の1つに数えられる

JeffersonがBIシステムの導入に着手したのは6年前。

当時、同センターは「患者」などの言葉を検索キーワー

ドとして使えるようにするため、それらの定義づけを

行ったという。しかし、これらの定義は時間の経過と

ともにあいまいになり、ユーザーによって違う解釈が

なされていることが判明したのだ。

 「センター内の経理担当者、看護管理者、供給管

理者などは皆同じデータを見ているにもかかわらず、

それぞれ別の解釈をしていた」とMehyou氏は振り返

る。例えば、管理部門がある日の「患者」の数を見て、

写真1:米国アーカンソー州にある地域医療センターJefferson Regional Medical Centerの内部。同センターでは、BIシステムのデータをきちんと活用するために、データで使われる言葉の定義づけについて、継続的な教育を行っている

Page 47: Computerworld.JP Apr, 2008

April 2008 Computerworld 63

ビジネス・インテリジェンス[戦略的活用ガイド]

特集

その看護にあたる医療部門の人員の数を決定したと

しよう。これに対し医療スタッフは、同じ「患者」でも

10人のうち9人が重症であることを理由に、より多く

の人員を要求するかもしれない。また、同じ「スタッフ」

でも、特定の病気の「患者」に対応できることが定義

づけされていなければ、観測された日にたまたま対応

可能なスタッフが不在であることを管理部門が見落と

す可能性もある。

 「定義づけについて継続的な教育が行われるべき

だ。また、その意図と目的を明らかにすることも不可

欠である。そして注意条項があれば、それも明確にす

る必要がある。われわれのグループは、どこかの部門

のマネジャーが新しく代わるたびに、データに一貫性

を持たせるよう彼らと時間をかけて話し合う。まずは

直接話し合うことが重要なのだ」(同氏)

 絶え間なく変わる政府/医療/金融規制も、こうし

た定義づけに影響を及ぼす。「新たな課題が浮上する

たびに、われわれはデータを別の側面からスライスす

る方法を考えなければならないし、データの説明にも

手を加えなければならない」とMehyou氏は話している。

落とし穴 その5長期的視野に立ったプランニングをしない

 BIに関心を示す組織の多くは、すぐ目の前に横た

わる課題の解決を目指しているものだ。米国コロンビ

ア特別区の公安および犯罪者監視を担うCourt Ser

vices and Offender Supervision Agency(CSOSA)

もその1つだった。かつてCSOSAでは、部門間の実

績を比較し、同区内の8つの区画にまたがる公安リソー

スを再編成するべく、基幹業務データを集中管理す

る必要に迫られていた。

 CSOSAの調査/審査室担当ディレクター、カル

バン・ジョンソン(Calvin Johnson)氏は、改善前の状

況について、「さまざまな形式の書類があちらこちらに

出回っていた」と振り返る。

 「財務、調査、運営、それぞれの部門から提出され

るリポートはすべて異なる形式だった。われわれは公

安という仕事柄、この状況は早急に改善しなければ

ならなかった」(同氏)

 Johnson氏が率いるチームは、形式をまとめるべく

行った最初の要件収集の作業で、複数のユーザー・

グループから切迫した3つのニーズを挙げてもらった。

「当時、いま最も困っている3つの事項をユーザーに聞

いた」と同氏。その結果、約45の緊急項目が集まった

が、多くは内容が重複していたため、Johnson氏のチー

ムは最終的に5〜7項目に集約した。

 「(これを基に)われわれは、ユーザーがポータル(BI

システム)を介して常時アクセスできる、迅速かつ正

確なリポート・システムを開発した。リポートは毎日更

新されている。(プロジェクトは)低コストで済んだが大

きなROIをもたらした」(Johnson氏)

 ベスト・プラクティスは採用されなかったものの、こ

のシステムによって、CSOSAが直面していた問題の

ほとんどは解決されたという。「ユーザーが直ちに使え

るものを提供しなければ意味がない」とJohnson氏。「彼

らは見栄えのよさはあまり気にしない。最小限のもの

でも何かしら作ってユーザーに使ってもらうことが重

要だ」(同氏)

 それでも、特にITインフラのBIサポートについては、

長期的視野に立ってプランニングをすることも忘れて

はいけない、とJohnson氏は釘を刺す。大半のBIシ

ステムは「導入時に想定していなかった機能を求めら

れるはめになる」(同氏)からだ。

 CSOSAのBIシステムには、すでに地理情報シス

テム(GIS)の機能が盛り込まれているという。「われわ

れが扱うデータの多くは地理──すなわち、人々が住

み、犯罪が起きる場所──に関連するからだ」(Johnson

氏)

 現在、殺人事件が発生した場合に事件担当者は、

その半径約500メートル以内に居住する前科者のリス

トを即座に引き出すことができる。また、スタッフが

特定の地域に赴くケースでは、その地域に住む前科

者の氏名、住所を引き出して、任意の家庭訪問を行っ

ているという。

 「今ではなく、5年後を見据えたITアーキテクチャ

を開発すべきだ」とJohnson氏は結論づけている。

Page 48: Computerworld.JP Apr, 2008

Computerworld April 200864

5Part

Product Review[ビジネス・インテリジェンス]

より広範なユーザーに的確な情報を提供 「Cognos 8 v3」は、コグノスが提供するBI/CPM(企

業パフォーマンス管理)製品群の最新バージョンであ

る。Cognos 8 v3には、リポーティング、分析、スコ

アカード、ダッシュボード、イベント管理、データ統

合など、BIに必要な機能を1つに集約した「Cognos 8

BI」を中心に、経営層や財務担当者向けの事業計画

策定ツール「Cognos 8 Planning」や、モバイル・デバ

イスからのデータ活用を可能とする「Cognos 8 Go!

Mobile」などが含まれ、企業のニーズに合わせて、必

要な機能をSOA(サービス指向アーキテクチャ)に

基づきながらサービスとして利用できるようになっ

ている。

 新バージョンでは、旧バージョンから提供していた

IT/IS部門向けのリポート作成機能「エクスプレス・

オーサリング・モード」の強化が図られ、新たに財務情

報や経営情報に関するリポート生成に対応した。また、

直感的なユーザー・インタフェースを新たに採用した

ことで、例えば財務担当者が財務諸表形式のリポート

をみずから作成するといったことにも対応できるよう

になった。

 複数のリポートを一体化して経営層向けリポートを

作成する「ブリーフ・ブック」では、目次からリポート内

の該当個所にリンクする機能が強化された。さらに、「セ

ルフサービス・パーソナル・アラート」によって、個々

のユーザーが特定のパフォーマンス指標にしきい値を

設定し、それを越えたときにメールなどでアラートを

発信することも可能となっている。

 このほか、システム管理者向けの機能においては、

システムに関する評価指標にしきい値を設定し、その

下降/上昇に応じてアラートを発する機能が強化され

た。これにより、問題が顕在化する前に対処可能とな

り、予防的管理を実現できるとしている。

買収後は「IBM Cognos」ブランドで展開 なお、カナダのCognos本社は、米国IBMに現金総

額約50億ドル、1株当たり58ドルで買収されることに

なっている。買収手続きは2008年第1四半期に完了

する見通しだ。

 Cognosのビジネス・インテリジェンス担当バイスプ

レジデント兼ゼネラル・マネジャー、エリック・ヤウ(Eric

Yau)氏によると、買収後は「IBM Cognos」のブランド

で、製品名はCognosのままビジネスを続ける予定と

いう。

 Yau氏は、「競合他社を見ると、同じようなBI製品

を3つも4つも持っているところがあるが、Cognosと

IBMはもともと製品が重複していないのが特徴。両社

が合併することで、IBMのさまざまな技術やノウハウ

をCognosの顧客が享受できるといったすぐれたシナ

ジー効果が期待できる」と語っている。

Cognos 8 v3 コグノス

Cognos 8 v3のシステム概念図

スマートフォン エンタープライズ・サーチ Microsoft Office System

モバイル・インタフェース

Cognos 8 Go! Mobile

BIコンテンツ・サーチCognos 8 Go! Search

Microsoft Office インタフェースCognos 8 Go! Office

Cognos 8 BI Analysisfor Microsoft Excel

Cognos 8 ポータル

Cognos 8 プラットフォーム

Cognos 8 v3

ダッシュボードスコアカード

リポーティング分析

計画/予算フォーキャスト

Cognos 8 Business Intelligence Cognos 8 Planning

ERP、SFAなどのトランザクション系システム

データ・ウェアハウス(リレーショナル&OLAP)

テキスト、XML ほか

製品名 Cognos8v3開発元 コグノス価格 要問い合わせURL http://www.cognos.com/jp/products/cognos8/

Spec Sheet

Computerworld編集部

BI/CPMスイート

Page 49: Computerworld.JP Apr, 2008

April 2008 Computerworld 65

ビジネス・インテリジェンス[戦略的活用ガイド]

特集

Product Review[ビジネス・インテリジェンス]

BusinessObjects XI Release 2 日本ビジネスオブジェクツ

ファイルなどもリポートに追加できるため、多様なデー

タを視覚的に、よりわかりやすく表現できるのを特徴

としている。

SAP製品との緊密な連携に期待 一方、Business Objects本社は2007年10月、ドイ

ツのSAPに総額48億ユーロ(67億9,000万ドル)で買

収された。現在SAPは、Business Objects株の87%

以上を保有しており、SAPの一事業部門として

Business Objectsを位置づけている。SAPは、この

買収で同社の業務アプリケーションとBusiness

ObjectsのBI製品を統合し、経営状況をリアルタイム

に追跡できるソリューションを提供したい考えだ。ちな

みに、SAPは2008年1月16日に、Business Objects

買収後初となる9つのコラボレーション製品(財務実績

管理、ガバナンス、リスク、法令順守、リポーティン

グなどをサポートする各種パッケージ)を発表している。

経営層から業務担当者まで全社員が同一の最新データを利用可能 日本ビジネスオブジェクツの「BusinessObjects XI」

は、スコアカードによる業績管理をサポートする

「Performance Manager」やリポーティング・ツールの

「Crystal Reports Server」、Webベースのクエリ/

分析ツール「Web Intelligence」、OLAP分析ツール

の「OLAP Intelligence」などから構成されるBIスイー

ト製品である。

 最新バージョンの「Release 2」では、クエリ機能を

提供するWeb Intelligenceが大幅に強化され、異な

るデータ・ソースから実績と予算データを検索して表

やチャートに表示する新機能が追加された。また、

SQL編集、Rank/Count関数追加といった各種機能

の強化も図られている。

 ほかにも、BusinessObjects XI Release 2は、BI

の効果的な利用を支援するさまざまな機能を搭載して

いる。具体的には、クエリの構築やシステム、データ

に関する知識を必要とせず、だれでもビジネスに関す

る質問を選択するだけで回答が得られる仕組みを提

供する「Intelligent Question」機能や、メタデータ統

合をサポートする「Metadata Manager」機能、さらには、

企業独自のリファレンス・ガイドへポータル内ドキュメ

ントからアクセス可能にする「BI Encyclopedia」機能、

リポート上で協議を行えるようにするディスカッション

機能などが挙げられる。

 BusinessObjects XI Release 2の対象ユーザーは

主に大企業だが、中堅企業向けのBI製品としては、

Flashとの連携機能により動的なグラフィックスをリ

ポートに追加できるリポーティング/帳票ツール

「Crystal Reports 2008」が提供されている。ビデオ・

Webベースのクエリ/分析ツール「Web Intelligence」の画面。操作性の高い数式エディタ(画面下)を搭載する

製品名 BusinessObjectsXIRelease2開発元 日本ビジネスオブジェクツ価格 要問い合わせURL http://japan.businessobjects.com/products/businessobjectsxi/

Spec Sheet

BIスイート

Page 50: Computerworld.JP Apr, 2008

Computerworld April 200866

P r o d u c t R e v i e w[ ビジネス・インテリジェンス]Part 5

統合BIプラットフォーム

MicroStrategy 8 マイクロストラテジー

「エンタープライズBIの5つの要件」を統合型プラットフォームとして提供 マイクロストラテジーの「MicroStrategy 8」は、全

社規模で各ビジネス・ユーザーの適切な意思決定を

支援する統合BIプラットフォームである。

 同社は、エンタープライズBIの要件として5つの適

用パターン(①スコアカードおよびダッシュボード、②

エンタープライズ・リポーティングとアドホック分析、

③OLAPによる多次元分析、④高度な分析と予測分

析、⑤アラートおよびプロアクティブな通知)を定義し

ている。この5つの適用パターンを単一のBIプラット

フォームで提供する統合型のソリューションである点

が、MicroStrategy 8の最大の特徴となる。中核と

なるBIサーバ「MicroStrategy Intelligence Server」

と一元化されたメタデータによって、ユーザー企業は、

統合されたBIアプリケーション群の開発・導入・管理

までを迅速に展開することが可能という。

 Intelligence Serverは分析処理、リポート作成・

分析、モニタリングといった全BI機能のジョブ管理を

担う。64ビット・コンピューティングおよびSOA(サー

ビス指向アーキテクチャ)に対応しており、全社のあら

ゆるリポーティング/分析のニーズにこたえる機能を、

単一のプラットフォームとして標準化したうえでエンド

ユーザーに提供する仕組みになっている。ユーザーは

Webブラウザ、Microsoft Officeアプリケーション、メー

ルなど、業務や利用環境に応じたアクセス・チャネル

を利用することができる。

強力なビジュアライゼーション機能を提供する「Dynamic Enterprise Dashboards」 MicroStrategy 8には、同製品にアドオンして利用

することが可能な情報ダッシュボードも用意されてい

る。「MicroStrategy Dynamic Enterprise Dash

boards」は、FlashやAjaxなど最新のリッチ・クライア

ント技術による高度なデータ・ビジュアライゼーショ

ン/アニメーション機能を提供する製品である。同製

品をMicroStrategy 8に付加することにより、より深

度の高いビジネス情報を直感的に把握するためのダッ

シュボード機能が利用可能になる。なお、同製品は、

ユーザーが個々の業務内容や分析対象に応じて独自

のダッシュボードを作成できる「パーソナル・ダッシュ

ボード」機能もサポートしている。

製品名 MicroStrategy8開発元 マイクロストラテジー価格 要問い合わせURL http://www.microstrategy.co.jp/Software/

Spec Sheet

情報ダッシュボード「Dynamic Enterprise Dashboards」の画面

Page 51: Computerworld.JP Apr, 2008

April 2008 Computerworld 67

ビジネス・インテリジェンス[戦略的活用ガイド]

特集

CRM/BIスイート

SAS Customer Intelligence Suite SAS Institute Japan

ション、コンテンツの作成と管理、顧客からのレスポ

ンスのトラッキングおよびリポーティングなどが行える

ようになっている。

マーケティングを検証しその効果を最大化する マーケティングの効果を高めるには、それが適切に

行われているかどうかを常に検証することも不可欠な

活動である。

 「SAS Marketing Automation」は、顧客の分析、

顧客とのコミュニケーション、その効果の検証という

一連のマーケティング・プロセスをサポートする。また、

シンプルなインタフェースを使って顧客へのアウトバ

ウンド・キャンペーンを設計・管理・自動実行できる機

能も備わっている。

 「SAS Marketing Optimization」は、マーケティ

ング活動で得られた情報を基に、最小のコストで最

大の効果を得ることのできるキャンペーンの設定を可

能にする。また、複数のキャンペーンが同時に行われ

る場合に、人員などのリソースの制約を踏まえたうえ

で最大の効果をもたらすことのできる最適化機能も備

えている。

分析、対応、効果測定で顧客との良好な関係を構築 SAS Institute Japanの「SAS Customer Intelli

gence Suite」は、顧客の要望を的確にとらえ、顧客

に有用なサービス/商品を提供するためのCRM

(Customer Relationship Management)/BIスイー

トである。同製品はまた、そうした活動の効果測定を

サポートし、より収益性の高いマーケティング手法の

開発も可能にする。すなわち、顧客とのよりよい関係

を構築するための「分析」「対応」「効果測定」を実現す

るのが、同製品の特徴である。

 以下では、同製品に含まれる4つのコンポーネント

を紹介する。

マルチチャネルでマーケティングを展開 顧客の要望に対応するには、多様なデータから顧

客を分析し、最適な対応方法を見つけ出すとともに、

それをさまざまなチャネルを使って顧客に提供すると

いったマーケティングが必要となる。

 「SAS Real-Time Decision Manager」は、SAS

独自の分析技術を使い、顧客の要望への対応策(意

思決定プロセス)を割り出すとともに、それらをWeb、

コールセンター、POS、ATMなどのチャネルで、顧

客にリアルタイムに提示することを可能にする。例え

ば、「離反する可能性の高い顧客に対し、引きとどめ

るための対策をとるべきか否か」といった意思決定を

サポートする。

 「SAS Digital Marketing」は、メール、Web、

RSSなどのデジタル・チャネルを使い、顧客分析に基

づいたマーケティングを行うためのツールである。例

えば、データベースへのアクセス、顧客のセグメンテー

種々の意思決定を支援するReal-Time Decision Managerの画面

製品名 SASCustomerIntelligenceSuite開発元 SASInstituteJapan価格 要問い合わせURL http://www.sas.com/offices/asiapacific/japan/software/

Spec Sheet

Page 52: Computerworld.JP Apr, 2008

Computerworld April 200868

P r o d u c t R e v i e w[ ビジネス・インテリジェンス]Part 5

Hyperion Financial Performance Management 日本オラクル

OracleのBIオファリングで財務分析を担う旧Hyperion製品 日本オラクルの「Hyperion Financial Perfor

mance Management」は、目標設定、モデリング、計

画策定、モニタリング、分析、報告といった財務管

理サイクル全体をサポートする財務パフォーマンス管

理アプリケーション・スイートである。その名称からわ

かるように、もともとは米国Oracleが2007年に買収

したBIベンダー大手の米国Hyperion Solutionsが開

発・販売していた製品群である。

 当然ながら、Oracleは、Hyperionの買収以前から

BIのための製品群を有している。その例を挙げると、

BIプラットフォームとしては「Oracle Business Inte

lligence Suite Enterprise Edition」があり、また、

Siebel CRMに備わっていた分析機能を継承したBI

アプリケーションの「Oracle Business Intelligence

Applications」もある。

 これらをはじめとしてBIシステムの構築・運用プロ

セスを網羅できる製品群をそろえているOracleが

Hyperionを買収したねらいは、財務分析を中核とし

たパフォーマンス管理の強化にあったと見ることがで

きる。既存のBI製品群だけではパフォーマンス管理

面の機能が不十分と見なし、この分野で定評のあっ

たHyperionの買収に至ったというわけだ。

 以下、Hyperion Financial Performance Mana

gementを構成する各アプリケーションについて説明

を行う。

■HyperionFinancialManagementSystem9

 「Hyperion Financial Management System 9」は、

Webベースの連結経営管理アプリケーションで、制

度連結に加え、管理連結もサポートしている。財務

報告書の収集から財務分析まで、グローバル・レベ

ルの多様な経営管理プロセスを単一の環境でサポー

トしている。

■HyperionPlanningSystem9

 「Hyperion Planning System 9」は、Excelベース

もしくはWebベースで、予算編成および予算管理、

業績予測を実施することが可能なアプリケーションで

ある。財務と業務の両方の計画プロセスを緊密に統

合しているため、業務の状況および業務による財務

への影響を詳細に把握することができる。

■HyperionPerformanceScorecardSystem9

 「Hyperion Performance Scorecard System 9」は、

企業が戦略や目標を明確化して全社に伝達し、KPI

(経営評価指標)をモニタリングできるように支援する

アプリケーションである。戦略とアカウンタビリティを

マッピングする機能を備えているほか、Webベースの

メッセージ・ボードやフォーラム、ディスカッション・ス

レッド機能などが用意されている。

「Hyperion Performance Scorecard System 9」の画面

製品名 HyperionFinancialPerformanceManagement開発元 日本オラクル価格 要問い合わせURL http://www.oracle.com/lang/jp/hyperion/

Spec Sheet

財務パフォーマンス管理スイート

Page 53: Computerworld.JP Apr, 2008

April 2008 Computerworld 69

ビジネス・インテリジェンス[戦略的活用ガイド]

特集

DWHアプライアンス

Netezza Performance Server 日本ネティーザ

日本での事業拡大を指向しNPSの性能検証ラボを拡張 日本での事業展開を積極化している同社は、2007

年12月に東京都三鷹市にあるDHW向け性能検証施

設「ネティーザ・パフォーマンス・ラボラトリ」の機能を

拡張している。同施設には、エントリー・モデルの「NPS

5000」シリーズと、1ラック当たり最大12.5TBまでの

データ容量を処理できる「NPS 10000」シリーズを常

設している。システム全体としては、最大25TBまで

のデータ容量を処理でき、NPSの導入を検討してい

るユーザーは、実データを用いたNPSの実機検証が

無料で行える。

 実機検証の際には、NPSにユーザー専用のシステ

ム環境を構築し、ユーザーから提供されたSQLプロ

グラムを用いて検証を行う。作業終了後には、検証

プロセスの詳細や全作業内容、検証結果などを記録

したリポートが作成される。一連の評価・検証作業は

3日から2週間程度で完了するという。

 なお、同社は2006年から日本での営業活動を本格

化しており、これまでにモスフードサービスやサッポロ

ビールなどへのNPS導入実績を持つ。

独自の並列処理アーキテクチャでデータ処理を大幅に高速化 日本ネティーザの「Netezza Performance Server

(NPS)」は、データベースとサーバ、ストレージが一体

化した分析用データ・ウェアハウス(DWH)アプライア

ンスである。

 最大の特徴は、独自開発の「AMPP(Asymmetric

Massively Parallel Processing:非対称型超並列

処理技術)」を採用している点である。AMPPは、イン

デックスを使用せずに直接テーブルをスキャンするこ

とを可能にする並列処理アーキテクチャだ。ハードディ

スク/CPU/メモリ/FPGA(Field Programmable

Gate Array)などのコンポーネントで構成される「SPU

(Snippet Processing Unit)」という小型ボードと組み

合わせることで、大幅な性能向上を果たしている。

 通常、DWHで使用される汎用的なデータベース・

サーバは、ハードディスクから共有メモリにデータを

移動し、そのデータを共有メモリ上でCPUが処理し

ている。トランザクションを1つずつ処理することには

適しているが、大量のデータを処理するDWHでは、

ハードディスクとメモリ間のデータ移動がパフォーマン

ス上のボトルネックになっていた。

 こうしたボトルネックを解消するためにNPSでは、

ハードディスクからのデータをSPU上のCPUでスト

リーミング処理している。さらに、1つのシステムに28

個から896個のSPUを集積することで、最大100TB

のデータを高速処理できるようにした。同社によれば、

汎用サーバをベースにした従来型のDWH製品と比較

して、およそ10倍から100倍の高性能化を実現してい

るという。

製品名 NetezzaPerformanceServer開発元 日本ネティーザ価格 要問い合わせURL http://www.netezza.jp/products/products.cfm

Spec Sheet

DWHアプライアンス「Netezza Performance Server」(突き出ている小型ボードが「SPU」)

Page 54: Computerworld.JP Apr, 2008

Computerworld April 200870

P r o d u c t R e v i e w[ ビジネス・インテリジェンス]Part 5

テキスト・マイニング・ツール

ConceptBase Market Intelligence Ver.1.4 ジャストシステム

あらゆるデータを対象にしたミクロ/マクロの分析が可能 CB Market Intelligence Ver.1.4は、「主題」「評価」

「感性」「機能要求」の4分野で分析を行うことが可能

だ。

 「主題分析」と「評価分析」では、顧客の声に内在す

る製品やサービスの評価を分析し、マッピングされた

顧客の評価態度から評価の均一性や多様性を把握す

ることで、仮説を検証することができる。また「感性分

析」と「機能要求分析」では、顧客の「ことば」と行動の

関連性を把握し、特定層のニーズを的確に把握する

ことで、嗜好分析、購買予測などが行えるようになっ

ている。さらに類似度の高い文書・グループどうしを

順番にまとめ、詳細把握を行う「ボトムアップ型」の分

析アルゴリズムと、全体を1つのグループと見なし、

指定されたグループ数になるまで2つに分割していく

「トップダウン型」の分析アルゴリズムの両方を搭載し

ているので、ミクロ/マクロの分析も可能だ。

 また分析精度も、大幅に向上している。「ストップワー

ド」(分析上無視する語句)や、「統制語」(同義語を統一

する語句)の設定ができるので、より精度の高い分析

結果を得ることができる。さらに、辞書に登録されて

いる語句と「上位語/下位語」「全体語/部分語」の関

係性の定義や、「制約語」「強調語」の属性を設定する

ことも可能だ。もちろん、辞書は分析データベースご

とに指定できる。

 なお、CSV形式で分析データを外部出力するエキ

スポート機能が標準装備されているので、既存のアプ

リケーションを活用し、自社の業務に最適な形にデー

タを加工することも可能となっている。

「顧客の声」を的確に分析し次のアクションに直結させる ジャストシステムの「ConceptBase Market Intelli

gence Ver.1.4(以下、CB Market Intelligence

Ver.1.4)」は、顧客から寄せられた「声」をデータベー

スに蓄積し、それらをすばやく分析することで、経営

判断などの意思決定に役立てられるテキスト・マイニ

ング・ツールである。自然言語処理技術を用いた同社

の企業向け検索システム「ConceptBase」をベースに、

新たなテキスト・マイニング技術が搭載されており、

統計解析の特別なスキルがなくても業務の目的に合っ

た分析を行うことができる。

 従来のテキスト・マイニング・ツールは、ドキュメン

トの分析に主眼を置いた専門家向けのツールという位

置づけだった。CB Market Intelligence Ver.1.4は

対象となる文章情報から評価基準となるキーワードを

抽出し、それらの関連性を数量化することで、自動マッ

ピングする機能を搭載している。これにより、商品や

サービスに対する「顧客の声」をさまざまな次元で分析

し、顧客の関心や評価、印象、要求などを明確にす

ることができる。

CB Market Intelligence Ver.1.4による分析

DB 対応履歴/アンケート結果

DB作成

主題分析 評価分析

CSV保存 CSVデータ表示 グラフ表示

感性分析 機能要求分析

詳細分析製品名 ConceptBaseMarketIntelligenceVer.1.4開発元 ジャストシステム価格 要問い合わせURL http://www.justsystems.com/jp/km/solution/sl02.html

Spec Sheet

Page 55: Computerworld.JP Apr, 2008

April 2008 Computerworld 75

エンタープライズオープンソース[ベスト・セレクション]

もともとコミュニティ・ベースで開発が進められてきたオープンソース・ソフトウェアだが、今や多くの有力ベンダーがサポートし、企業が安心して利用できる環境が整っている。もちろん、OS、Webサーバ、メール・サーバなど、一部の分野ではかなり以前から企業利用が進んでいたが、最近は多様な分野において、「エンタープライズ・オープンソース」が本格化しているのだ。本稿では、そうしたエンタープライズ・オープンソース・ソフトウェアを8分野に分け、それぞれの分野において特にすぐれたものを紹介する。

Mario Apicella / Andrew Binstock / James R. Borck / Tom Bowers / Mike Heck / Martin Heller / Steven NunezMatt Prigge / Paul Venezia / Tom Yager InfoWorld米国版

業務アプリ、ネットワーク、セキュリティ……分野ごとの“雄”を紹介特別企画

Page 56: Computerworld.JP Apr, 2008

Computerworld April 200876

 それほど遠くない昔、オープンソース・ソフトウェア

は貧者のソフトウェアだった。みすぼらしいドキュメ

ント、粗雑で古臭いWebサイト、いつまで経ってもベー

タ版のまま——こうした芳しくないイメージが付きま

とっていた。だが、オープンソース・ソフトウェアは今日、

ビッグ・ビジネスになりつつある。

 オープンソースの“負け組”から“勝ち組”への転換に

は、よい面も悪い面もある。よい面は、商業化でプロ

ジェクトが洗練され、機能性や方向性が明確になるこ

とだ。使い勝手が悪く、ドキュメントが不完全だった

「JBoss」も、Red Hatによる買収後、磨きがかけられ

ていった。

 悪い面は、機能拡張が行われるとプロプライエタリ

な技術として囲い込まれてしまうことだ。例えば、

ScalixがOutlook連携機能のソースコードを公開しな

かったことに腹を立てたユーザーもいるだろう。それ

でも、プログラムの大部分をオープンソース・モデル

で賄えば、クローズドなソフトウェアだけを利用する

場合よりも、多くのことを自分たちで行えるようになり、

投資保護のメリットも大きい。

 今日のオープンソース・ソフトウェアの中には、商用

ソフトウェアとして支持を得た後にオープンソース化

されたものもある。RIA開発プラットフォーム

「OpenLaszlo」は、オープンソース化に成功したもの

の1つだ。このオープンソース化で提供元の米国

Laszlo Systemsは、インストール・ベースを拡大した

だけではなく、AdobeによるFlexのオープンソース化

への道のりを整え、時代の寵児となった。

 エンタープライズ・オープンソース・ソフトウェアの

成長には、商業的なサポートが不可欠だ。オープンソー

スの提供には、開発者、テクニカル・ライター、イン

ストラクター、ヘルプデスク、展示会出展など、さま

ざまなコスト要因が存在している。ユーザー企業も、

オープンソースがソフトウェア投資を不要にすると

いった話が幻想にすぎないことを理解すべきだ。

 今回が第1回目となるBest of Open Source Soft

ware Awards(BOSSIE)で、われわれはITの主要

分野から、特にすぐれたオープンソースを選出した。

オープンソースは今、エンタープライズ・コンピューティ

ングのあらゆる領域に進出しているのだ。

各分野の最優秀オープンソース・ソフトウェアを選定するBest of Open Source Software Awards

 軽量・低価格なCRMアプリケーションを熱望する

声は、Salesforce.comのようなSaaSベンダーに大き

な成功を、そしてオープンソースに絶好のチャンスを

もたらした。ERP分野においても、苦難の道のりを

経ながら選択に迷うほど数多くのオープンソース・ソ

フトウェアが登場している。また、ポータルやCMS(コ

ンテンツ管理システム)のオープンソース版を探してい

るなら、決して失望することはないだろう。

優秀な開発コミュニティも高評価を得た「SugarCRM」

 CRMのトップ・チョイスは、オープンソースCRM

のパイオニア「SugarCRM」だ(画面1)。インストール

方式、ホスト方式、ドロップイン・アプライアンス方式

業務アプリケーション

CRM、ERP、CMS、ポータル、コラボ……業務アプリ分野でもオープンソースは多方面に展開

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April 2008 Computerworld 77

特別企画エンタープライズオープンソース[ベスト・セレクション]

各分野の最優秀オープンソース・ソフトウェアを選定するBest of Open Source Software Awards

という3つの利用形態が用意され、多様なニーズに対

応できるとともに、Ajax(Asynchronous JavaScript

+ XML)インタフェースの採用でエンドユーザー側の

操作性も配慮している。また、オフライン利用のため

のクライアント同期機能も利便性にすぐれ、Outlook

やWordとの親和性も高い。

 今でもSugarCRMは、その洗練度をますます高め

ている。最近リリースされた5.0のベータ版では、チャー

ト生成/表示機能が改良されたダッシュボードや、

Ajaxメール・クライアント、フィールド・レベルのアク

セス・コントロールといった機能強化が行われた。加

えて、新しいカスタム開発キットを使うことで、特定

の業種・業態に特化した機能の開発も容易に行える

ようになっている。

 機能以外の面については、すぐれた開発者コミュ

ニティの存在も高評価につながった。コミュニティの

おかげでSugarCRMは、VoIPとの統合をはじめと

する各種のプラグインや拡張機能のライブラリが充実

している。

 オープンソースCRMの世界には、「Concursive(旧

Centric CRM)」や「CentraView」、「openCRX」など、

SugarCRMのライバルは多い。特に手ごわいのは、

JavaベースのConcursiveだろう。顧客サービスや

SFA(Sales Force Automation)向けのチーム・コラ

ボレーション・ツールに加え、オープンソースのリード・

ジェネレーション・ツール・ベンダー、米国LoopFuse

との連携の下に強力なオンライン・マーケティング・

ツールを提供している。最近、Intelからの出資を受

けたことも気になるところだ。

オープンソース化が難しいERP市場で健闘する「Openbravo」

 SAPとOracleという2大ベンダーが支配してきた

ERPは、複雑なことで知られている。また、収益に

直結していることから、ユーザーは混乱しそうなこと

は避けたいという意識が強く、ERPの改革スピード

は遅い。こうしたことが、「Apache OFBiz(Open for

Business)」や「Compiere」、「ERP5」、「Openbravo」、

「OpenMFG/Postbooks」、「TinyERP」といったオー

プンソースERPの普及を困難にしている。加えて、

これらは、バックオフィス機能やユーザビリティ、統

合性などの面で「NetSuite」のようなSaaS型ERPよ

り見劣りするのも事実だ。

 それでも、中小企業向けのERP、Openbravoは注

目に値する。このオープンソースERPは、資材調達

や価格設定、倉庫および在庫管理、製造、財務会計

といった一般的な業務管理で力を発揮するだろう。

MRP(資材所要量計画)、販売/ CRMモジュールも

すぐれており、多段階プロジェクト管理やパートナー

関係管理機能も秀逸だ。

 HRM(人材管理)や顧客向けWeb、ドキュメント管

理といった機能はないが、Openbravoのビジネス・イ

ンテリジェンス(BI)やバランス・スコアカード機能は、

アドオン開発用のJava開発フレームワークとともに、

エンタープライズ・レベルの信頼性を確保している。

最近、リポート生成用のJavaライブラリ「JasperReport」

が追加され、PDFやExcel、HTMLといった形式で

見栄えのよいリポートを作成することも可能になった。

 以上のような理由から、今回のBOSSIEには、Op

画面1:�「SugarCRM」が提供するダッシュボード。新しいチャート生成/表示機能を備えている

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Computerworld April 200878

enbravoを選出した。だが、Compiereも注目に値する。

2006年に開発メンバーの一部が離脱し、オープンソー

ス業務アプリケーション開発の新プロジェクト「ADe

mpiere」を立ち上げたことから、勢いは若干スローダ

ウンしたものの、CompiereのPOSおよびCRMモジュー

ルは一見の価値がある。

 Apache OFBizについては、支持する声は多いが、

これを扱うには高い技術力が求められる。ユーザー企

業よりも、むしろSIerのサービス提供などの分野で

活躍の場を見いだすことだろう。

 もう1つ気になるのは、米国xTupleの「OpenMFG」

である。これは、すぐれたリポート機能を備えたWin

dowsベースの製造業向けERPである。ライトウエイ

ト版の姉妹ソフトウェアであるPostBooksとは異なり、

オープンソースではないが、xTupleは社内カスタマイ

ズのためにソースコードを提供している。

成熟度の高いポータルの中でも総合的にすぐれた「Liferay Portal」

 成熟したエンタープライズ・オープンソース分野を

挙げるとしたら、ポータルだろう。オープンソース・ポー

タルは、標準技術の採用とそれによる相互運用性の

確保に成功した好例だ。ポータルは各種システム/

アプリケーションのコンテンツを集約するゲートウェイ

として機能するが、そのための標準仕様として一般的

にJSR-168互換のポートレット(Javaポートレット)を

利用している。

 最終候補に残ったオープンソース・ポータルはすべ

て、この標準仕様に準拠していたが、ユーザビリティ、

アーキテクチャ、セキュリティ、統合性といった面を

総合的に判断して「Liferay Portal」を選出した。特

に直感的なユーザー・エクスペリエンス、ポートレット

の操作性、管理機能が高い評価につながった。

 最新バージョンでは、PHPとRubyがサポートされ、

セキュリティ面ではLDAPのほかに、Active Direc

toryあるいはOpenIDによるシングル・サインオンが可

能になった。また、Exchangeとの統合、iCalポートレッ

ト、WebDAVといった機能に加え、Liferayは60種

類以上のポートレットを用意している。

 堅牢で拡張性が高い「JBoss Application Ser

ver」で実行される「JBoss Portal」も、僅差の高評価

を得た。JDBC互換データベースをサポートし、Life

rayとほぼ同等のセキュリティ機能を備えているが、

JBossのユーザー・インタフェースは改善の余地があ

る。用意されているコンポーネントの数もLiferayと

比較して少ない。

 高等教育機関のキャンパスWebという用途に特化

した「uPortal」も、注目すべきオープンソース・ポータ

ルである。一連のJavaクラスと教育機関向けに調整

されたXML/XSLを活用するこのソフトウェアは、

Javaに精通したスタッフさえいれば、その価値を存分

に享受できるはずだ。

 最後の「GridSphere」は、小規模な開発チームで

メンテナンスされ、ポータル・フレームワークと、ユー

ザー・プロファイルの作成や外観のカスタマイズなど

を行うコア・ポートレット群などで構成されている。ポー

トレットの導入を容易にする管理機能を備え、「Visual

Beans」や「GridSphere User Interface」タグ・ライ

ブラリを利用して、複雑なポートレットを作成するこ

とも可能だ。

多数の強豪がひしめくCMS分野で圧勝した「Alfresco」

 CMS(コンテンツ管理システム)は、「DotNetNuke」、

「Drupal」、「Joomla」、「Plone」といった強豪がひしめ

く分野だ。これらには十分な実力があるが、今回は

「Alfresco」を選出した(画面2)。 使いやすさ、機能、セキュリティ、拡張性、管理性、

さらにはコミュニティの団結力、支援組織のサポート

力などを総合的に判断した結果、Alfrescoの圧勝と

なった。特に、多言語対応、導入オプションやビルト

イン・アプリケーションの広範さ、エンタープライズ・

レベルのセキュリティ、すぐれたドキュメント管理と

いった点が高評価につながった。

 そうは言っても、他のソフトウェアが拡張性に乏し

く、サポート体制が不備で、ローカライズが困難であ

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特別企画エンタープライズオープンソース[ベスト・セレクション]

るというわけではない。次点のPloneも、これらの面

で問題はなかったが、アドインを別途探し出して用意

しなければならない点に難があった。

 DotNetNuke、Joomla、Drupalも企業利用に堪

えうるものだが、それぞれ弱点がある。DrupalとJoo

mlaは認証オプションが少なく、DotNetNukeは.NE

Tアプリケーションではあっても、Office製品との統

合性が十分ではない。

 CMS分野では、オープンソース・モデルが隆盛期

を迎えている。ここに挙げた5つのソフトウェアは、

100を超えるリストから選び抜かれたものだ。サポート

やカスタマイズのコストを含めてもオープンソース

CMSは、商用ソフトウェアに劣らないメリットがある。

商用ではコスト的に難しいと思われる機能を追加でき

ることも、大きなメリットだ。

コラボレーション分野では企業利用に配慮した「Scalix」

 いくつかのプロジェクトは、「Microsoft Exchange」

互換のコラボレーション・サーバの実装を目指してい

る。だが、今のところ、注目に値するオープンソース

は「Open-Xchange」、「Scalix」、「Zimbra」の3つだけだ。

これらには、いずれも商用エディションとコミュニティ・

エディションがあり、単体ではLinuxベースの

Exchange代替ソフトとなる。

 今回、最も高い評価を得たのは、Scalixである(画面3)。最近Xandros(旧Corel Linux)に買収された

Scalixは、Webベースの管理インタフェースを備え、

OutlookやNovell Evolutionとの統合性にもすぐれ

ている。POP/IMAPサーバ、Ajaxメール/カレンダー・

クライアントといった機能も提供する。ただし、機能

面や先進性が高評価の理由ではない(これらの点では

Zimbraに軍配が上がる)。Scalixは、「HP Open

Mail」をベースとする血統と共に、多くの企業がメー

ル/コラボレーション・プラットフォームに期待するも

のを持っているからだ。

 Open-XchangeやZimbraと同様に、Xandrosも

Scalixの基礎部分はオープンソース化したが、最も

利益が見込める部分はクローズドのままとしており、

オープンソース版ではOutlookクライアントとの連携

機能をフルに実装していない。ただし、バイナリでダ

ウンロード可能な「Community Edition」を使えば、

Exchangeと同じようにOutlookとやり取りすることが

可能になる。

画面2:�「Alfresco」のWebクライアント画面。多言語対応、導入オプションやビルトイン・アプリケーションの広範さなどが選定のポイントとなった

画面3:�「Scalix」のWebインタフェース。ビジネスでの必要性に配慮した機能群や使い勝手が選定のポイントだ

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Computerworld April 200880

が非常に幅広いおかげで、他のソフトや機器との併

用も容易に行える。

 注目度の点では、ストリーミング・メディアも負けて

はいない。この分野のBOSSIEは、「Azureus Vuze」

に決まった(画面4)。Azureusは、「BitTorrent」によ

るP2Pファイル転送ネットワークのクライアント・ソフ

トであり、バージョン3.0でストリーミング・メディアの

世界に足を踏み入れた。

 Azureus Vuzeは、一般的なストリーミング・メディ

アとは異なり、BitTorrentネットワークにおける多対

多のコンテンツ配信を行う。その大きな特徴は、ダウ

ンロードのスピードがネットワークの帯域幅だけではな

く、同一のコンテンツをすでに持っているユーザーの

数などでも決まるということだ。具体的には、ユーザー

がコンテンツの最初の断片を再生しているときに、

Azureus Vuzeが、その他の断片をコンテンツ共有コ

ミュニティ内のユーザーから収集し、バックグラウン

ドで順番どおりに並べ替えるという手法だ。

 このようなBitTorrentのすぐれた技術を取り入れ

たAzureus Vuzeは、次世代のストリーミング技術と

呼ぶのにふさわしいものであろう。

オープンソースの世界でAppleの名声を高めた「Open Directory」

 オープンソース・ディレクトリ・サービスのBOSSIE

には、Appleの「Open Directory」を選出した。ディ

レクトリ・サーバの構成例を挙げると、LDAPv3、Ke

rberos、BerkeleyDB、Zeroconf、ポリシー・ベー

スのパスワード・サービス、シングル・サインオンといっ

たものが含まれる。Open Directoryは、このセットと

同等のものを単体で実現するのだ。

 Mac OS Xに組み込まれたディレクトリ・サービス

 ネットワーク分野で今、最も注目されている技術は、

おそらくVoIP(Voice over IP)だろう。オープンソー

スはVoIPの分野でも躍進しており、企業利用にも徐々

に広がりつつある。コストや柔軟性を考えると、遅か

れ早かれ大企業にもオープンソースVoIPが浸透して

いくことになるだろう。

VoIPに加えストリーミングがネットワーク分野での注目株

 VoIP分野のBOSSIEは、文句なしに「Asterisk」

に決まった。もちろんAsterisk以外にも、「OpenPBX」

や「FreeSwitch」といったすぐれたオープンソース

VoIPソフトは存在する。しかし、Asteriskはその中

でも飛び抜けて完成度が高く、拡張性にもすぐれて

いる。確かに複雑すぎるようにも見えるが、設定範囲

画面4:�「Azureus�Vuze」の画面。共有コンテンツは断片化され、多くのユーザー経由で送られてくる

AsteriskはもはやVoIPの“顔”AppleはOpen Directoryでオープンソースでも健闘

ネットワーク

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特別企画エンタープライズオープンソース[ベスト・セレクション]

のキー・コンポーネントは、Open Directoryのパーツ

として提供されている。なお、OpenDirectoryそのも

のは、Appleのオープンソース・プロジェクトである

Darwinの一部である。

 DarwinのOpen Directoryプロジェクトは、Mac

OS Xのディレクトリ・サービス全体を包含するもので

はないが、Open Directoryサーバ、プラグイン、ク

ライアントAPI、そしてユーティリティは、導入後す

ぐに利用でき、ドキュメントの完成度も高い。Open

Directoryの投入により、Appleはオープンソースの

世界においてより大きな名声を得たと言える。

分析・探知の分野では機能性の高さが決め手に

 ネットワーク・プロトコル分析の分野では、「Wire

shark(旧Ethereal)」をBOSSIEに選んだ(画面5)。Wiresharkは高価な市販ネットワーク分析ツールが

備える機能のいくつかを欠いてはいるが、それでもき

わめて機能的なソフトウェアだ。

 Wiresharkでは、幅広い分析が可能で、トラフィッ

ク・スレッドの解析も手軽に行える。市販ツールの多

くがパケット解析エンジンとしてWiresharkを採用し

ていることからも、その出来のよさが理解できよう。

 ネットワーク上で実行していれば、トラフィックの

状況を理解するのに役立ち、データをクリアかつ正確

に示してくれる。もし、自動診断機能やトラブル・シュー

ティング機能までもが備わっていたとしたら、不満を

口にするユーザーの数はゼロだったかもしれない。

 ワイヤレス・ネットワーク探知ソフトウェアの分野で

は、まだ新参者と呼べる「Kismet」をBOSSIEとした。

KismetはIEEE 802.11a/b/gのいずれにも対応し、

ビーコンを発しないネットワークの探知も可能である

など、機能性は抜群だ。

 この分野の古参である「NetStumbler」では、ネッ

トワークの探知にアクティブなアプローチ(アクティブ・

スキャニング機能など)が用いられる。一方、Kismet

ではパッシブなアプローチによって、ネットワーク探

知のためのパケット収集が行われる。そのどちらもす

ぐれたソフトであることはまちがいないが、Kismetには、

より大きなコミュニティのサポートを得ることができる

という、技術面での強力なバックボーンがある。

画面5:�「Wireshark」の画面。キャプチャしたTCPプロトコル・パケットが一覧表示されている

プラットフォーム/ミドルウェア

RHELクローンのCentOSが善戦WebサーバはApacheが不動の地位を占める

 まずはサーバOSを見てみよう。今回、われわれが

BOSSIEに選んだのは、Red Hat Enterprise Lin

ux(RHEL)クローンの「CentOS」である。Red Hatが

CentOSに抱く感情を直接知ることはできないが、よ

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Computerworld April 200882

い気分ではないだろう。

 CentOSは結局のところ、「Red Hat」という文字を

一切使わないRHELである。つまり、CentOSサー

バにRHEL向けアプリケーションをインストールして

も互換性の問題は発生せず、RHELのアップデート

はすべてCentOSにも適用できる。もちろん、Red

Hatからのサポートは期待できないが、Linuxの熟練

者やRed Hat Linuxディストリビューションに詳しい

ユーザーのだれかがサポートしてくれるはずだ。

 一方、オープンソースのクライアントOSは、「Ubuntu

Desktop Edition」をベスト・チョイスとした(写真1)。Ubuntuは“LinuxディストリビューションのiPod”と形

容できる代物だ。派手だが、シンプルで使いやすい。

狂信的なユーザーが多い反面、否定的な声が少なく

ない点も似ている。

 これからLinuxを始めようという初心者や派手好み

の人には、まちがいなく最適なディストリビューション

だと言える。それ以外の人々には、あまりにシンプル

でWindows的なところが気になるかもしれない。

 コミュニティの熱狂的サポートがある強力なデスク

トップOSと、最も普及している商用Linuxディストリ

ビューションをベースとするサーバOS。この2つのオー

プンソースOSによって、ユーザーは最高のLinuxワー

ルドを手にできるだろう。

商用ソフトを抑えて浸透するオープンソースのWebサーバ/DB

 Javaアプリケーション・サーバのBOSSIEを選ぶ

作業は難航した。2007年は、「Apache Geronimo」「Apa

che Tomcat」、「JBoss Seam」、「GlassFish」に重要

なアップデートが施された年だった。これらのリリー

スは、いずれも個々の製品価値を大きく向上させたが、

結局、JBoss Seamに追加された新しい機能性を凌

駕するものはほかになかった。そのため、BOSSIEに

はSeamを選んだ。

 SeamはEJB(Enterprise JavaBeans)3.0とJSF

(JavaServer Faces)を統合するJava EE(Java

Enterprise Edition)ベースのフレームワークだ。プ

ログラミング負荷を減らし、開発リソースを他の部分

へ振り向けることを可能にする。今回の機能強化には、

AjaxおよびWeb 2.0インタフェースの追加、広範な

ビジネス・ルールの追加などが含まれる。

 多くの専門家はEJB 3.0によってエンタープライズ

向けJavaが簡素化されたことでJavaアプリケーション

の企業導入が加速すると見ている。しかし、われわ

れはJBoss Seamのような軽量かつ高機能フレーム

ワークのほうが、より貢献するものと考えている。

 オープンソースWebサーバでは、1つのプロジェク

トが最高の評価を得た。この分野では、「Apache」よ

りすぐれたものはない、というのがわれわれの結論だ。

導入作業、セキュリティ、処理速度のどれをとっても、

商用も含むあらゆるWebサーバの中でApacheはベス

トと言えるだろう。

 もし、Webサーバ・ソフトがすべて有料だったとし

たら、インターネットの姿は今ごろどうなっていただろ

うか。Apacheは「情報の自由」を具現化した立役者だ。

あらゆる人々のブログが読めるのも、Apacheのおか

げと言っても過言ではない。

 DBMSのBOSSIEは際どい判定だったが、My

SQLが最高得点を得た。高度な機能が要求される場

写真1:�「Ubuntu�Linux」をプリインストールしたDellの「XPS�410」。同製品はLinuxのクライアント利用の本格化を予感させる

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特別企画エンタープライズオープンソース[ベスト・セレクション]

合にはPostgreSQLのほうが有利だとする声も少な

くなかったが、互換性、処理速度、実際に必要とさ

れる機能などを含めて判断すると、MySQLは他の追

随を許さなかった。

ESBではMuleSourceが制すもすぐれた製品が目白押し

 商用SOA(サービス指向アーキテクチャ)ベンダー

に対抗すべく、さまざまなオープンソース・プロジェク

トが、データ・サービスやイベント・ドリブン・メッセー

ジングなどの機能を標準装備するようになってきてい

る。ESB(Enterprise Service Bus)分野のBOSS

IEには、機能性、管理性、操作性などの面から、米

国MuleSourceの「Mule ESB」を選んだ。

 Mule ESBは、導入や配備が容易であることに加え、

幅広い接続性(JMS、MQ/AQ、JBI、SOAPなどに

対応)を提供し、データ転送、ルーティング、認証な

どの機能も強力だ。監視および管理コンポーネントに

もすぐれている。BPEL(Business Process Execu

tion Language for Web Services)や.NETなどもサ

ポートする。

 この分野では、商用ESBの「Artix ESB」を提供

するIONAの「FUSE ESB」も高い評価を得た。FU

SE ESBは現在、同様にIONAのオープンソース

ESBである「Celtix」との統合化が進められており、こ

れが完了すれば、ESB、SOA、ルーティングなどに

Apacheベースの基盤を持つことになる。一方、Sun

Open ESB 2もベータ版だが将来は有望であり、「JB

oss ESB」や「WSO2 ESB」、「OpenAdaptor」なども

無視できない存在だ。この分野は、今後を期待でき

るプロジェクトが目白押しである。

VMware放逐の布陣を敷いたサーバ仮想化のXenが躍進

 最後は、仮想化プラットフォームのBOSSIEだ。

いくつかのオープンソースに票が割れたが、最終的に

はサーバ仮想化ソフトの「Xen」に決まった。Xenはサー

バ仮想化の王者であるVMwareの放逐を目指す商用

ベンチャーをいくつも誘発した仮想化プロジェクトだ。

主要なLinuxディストリビューションにも含まれており、

現在もLinuxの標準ハイパーバイザとして連日のよう

に機能追加が行われている。

 この分野では、OSレベルのすぐれた仮想化技術で

ある「OpenVZ」も高く評価された。サポートするのは

Linuxのみだが、OpenVZは、すべてのゲストOSお

よびホストOSが同一のOSカーネルを共有する構造

を持つため、CPUの負荷が小さく、高い処理性能を

実現している。

セキュリティ

商用ソフトの隙間を縫って発展してきたオープンソース・セキュリティ

 セキュリティ分野では、多くのオープンソース・ソフ

トウェアが活躍している。これは企業ユーザーが必要

としている機能を、ベンダーの販売する商用ソフトウェ

アだけではカバーしきれなかったからである。企業が

直面しているセキュリティ上の問題が、ベンダーのセ

キュリティ・ソフトウェアでは解決できないという事態

に陥ったとき、多くの有能なセキュリティ研究者はオー

プンソースを利用して、その難局を乗り切る手助けを

していたのである。

 現在、ウイルス対策、スパム対策、ファイアウォール、

VPN、侵入検知システムをはじめとする多くの分野に、

オープンソース・セキュリティ・プロジェクトが存在し

ている。ここでは脆弱性検査、侵入防止、ウイルス

対策、スパム対策、ファイアウォール、SSL VPN、

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Computerworld April 200884

セキュリティ・テスティング・ベスト・プラクティスの各

分野でBOSSIEを受賞した製品を紹介しよう。

BOSSIE受賞のカギはコミュニティの充実度

 脆弱性検査分野では、ユーザーから圧倒的な支持

を得ている「Nessus」がBOSSIEを受賞した(画面6)。Nessusは、専門のテスターからも、最もすぐれたセキュ

リティ・ソフトウェアだと評価されている。

 最新の脆弱性検索エンジンと診断制御ツールで構

成されているNessusは、検索対象となるコンピュー

タのOS、ポート、サービス、アプリケーションなどを

スキャンし、脆弱性を検知する。診断結果リポートは

冗長だが、詳細な結果が得られると考えれば腹も立

たない。

 Nessusが侵入者の入り口を検知するのに対し、侵

入防止の分野でBOSSIEを受賞したのは、IDS

(Intrusion Detection System:侵入検知システム)

の「Snort」である。これは、リアルタイムのトラフィッ

ク分析に加え、パケット・ログ取得/プロトコル分析/

コンテンツ監視の機能を備えている。

 NessusとSnortに共通する特徴は、コミュニティ

によるサポートが充実しているという点だ。例えば

Snortプロジェクトは「ACID(Analysis Console for

Intrusion Databases)」、「SnortSnarf」、「Swatch」、

「SnortCenter」といった、さまざまなアドオン・プロジェ

クトを生み出している。

 ウイルス対策分野では、すぐれた性能と使いやす

さを誇る「ClamAV」がBOSSIEに輝いた。Linux/

UNIX系のOS上で動作するClamAVはシグネチャに

よるパターン・マッチング方式を採用している。この

シグネチャは頻繁にアップデートされている。

 スパム対策(メール・セキュリティ・ゲートウェイ)分

野では「SpamAssassin」がBOSSIEを獲得した。

SpamAssassinは、すぐれた拡張性を誇り、さまざま

な場所で利用することができる。ブラック・リストとベ

イジアン・フィルタを用いる従来の手法に加え、学習

可能なニューラル・ネットワーク・エンジンを用いてス

パムを特定する。

 ファイアウォール分野でBOSSIEを獲得したのは、

ネットワーク・トラフィックを監視する「IPCop」だ。

IPCopは、Linuxディストリビューションとして提供

されており、ネットワーク・トラフィックにセキュリティ・

ポリシーを課すLinuxコンピュータと考えることもでき

る。なお、競合する「SmoothWall」もIPCopと同様

の機能を提供するが、インタフェースはIPCopのほう

が数段洗練されている。

NSAが開発した「SELinux」あらゆるOSに対応する「OpenVPN」

 オープンソースの開発は、民間だけで行われている

わけではない。アプリケーション・ファイアウォール分

野でBOSSIEを獲得した「SELinux」は、NSA(米国

家安全保障局)が開発したものだ。Linuxカーネルの

拡張モジュールであるSELinuxの特徴は、強制アク

セス制御が可能な点だ。root権限を排除し、プロセ

スに対するユーザー権限を必要最小限にとどめること

で、あるプロセスのアクションが別のプロセスに影響

しないように設計されている。さらに、コミュニティ・

サポートが充実しているのも大きな特徴だ。なお、

SELinuxの競合と見なせるのは、米国Novellのオー

画面6:�「Nessus」の起動画面。ここから詳細なオプションを設定した後に脆弱性検査を実施する

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特別企画エンタープライズオープンソース[ベスト・セレクション]

プンソース・プロジェクトで「SUSE Linux」専用の

「AppArmor」である。

 SSL-VPN分野では、競合製品の追随を許さない

「OpenVPN」がBOSSIEに輝いた。これは、通常の

インターネット通信にSSLによる暗号化を施し、

VPNを構築するソフトウェアである。ブロードバンド

接続したリモート・サイトから中央のデータセンターに

容易かつ迅速に接続することなどを可能とするもの

だ。OpenSSLが対応するすべての暗号方式と暗号

キーのサイズをサポートしており、柔軟性も高い。

 セキュリティ・テスティング・ベスト・プラクティスの

分野でBOSSIEを受賞したのは「OSSTMM(Open

Source Security Testing Methodologies Man

ual)」である。OSSTMMは、ソフトウェアではなく、

セキュリティに関する包括的なテスト・フレームワー

クであるが、セキュリティ・ツールとしての貢献度は

高い。一般的な物理セキュリティおよび情報セキュ

リティはもちろん、インターネット上の詐欺やソーシャ

ル・ネットワークに対する攻撃への対処までを網羅し

ている。

モニタリング

商業的支援を受けた“新世代ソフト"が登場急速に進化するオープンソース・モニタリング

 以前から「MRTG(Multi Router Traffic Grap

her)」や「RRDTool」といった小型のオープンソース・

モニタリング・ソフトは、企業で広く利用されている。

それでも、これまでは大規模企業が必要とするさまざ

まな機能を備えたエンタープライズ・クラスのモニタリ

ング・ソフトは、ほとんど存在していなかった。

 だが、この状況は急速に変わりつつある。現在、オー

プンソースのモニタリング・ソフトは急速に進化してい

る只中なのだ。したがって今回は、現時点でモニタリ

ング・ソフトのBOSSIEを決定するのは時期尚早であ

ると判断した。

大規模環境への導入の課題は構築/メンテナンスの煩雑さ

 少し前までは、オープンソースのモニタリング・ソフ

トは5つか6つの異なるオープンソース・プロジェクトを

包含していた。その構成例を挙げれば、広く普及し

ているモニタリング・ソフトの「Nagios」とその管理ツー

ル、多数のNagiosプラグイン、高度なトレンド分析と

グラフ作成が可能な「Cacti」、そして「WeatherMap」

「Thold」などのCactiのプラグインを組み合わせたも

のだ。これらを併用すれば、強力かつ柔軟なモニタリ

ング・システムを構築することができる。

 もっとも、複数のソフトウェアを組み合わせること

にはデメリットもある。1つは、徹底的に調整しようと

するとかなりの時間を要することだ。しかも、モニタリ

ング対象のリソースを1つ追加するたびに、そうした

調整が必要になる。

 また、アップグレードの複雑さもマイナス点だ。複

数のコンポーネントが相互に依存していることから、

モニタリング・システムの拡張が困難さを増すのであ

る。それなりに経験のあるLinux/UNIXユーザーに

はさほど大変なことには思えないだろうが、このアッ

プグレード作業はLinux/UNIXの未経験者にとって

身の毛がよだつことだろう。

 こうした事実は、モニタリング分野でオープンソー

スが普及するうえでの足かせとなった。Microsoft製

品が大きなシェアを持つ多くの中規模企業でオープン

ソース・モニタリングが浸透していないのは、これが

大きな理由だと考えられる。

 しかし、そうした状況も変わりつつある。ここ数年

の間、商業的支援を受けた新しいオープンソースのモ

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Computerworld April 200886

ニタリング・ソフトが相次いで登場している。そうした

新世代パッケージのいくつかは、これまで未統合だっ

た異種ソフトウェアを緊密に結合するグルーを用意し

ている。

 この分野の主要プレーヤーとしては、「Ground

Work」や「Hyperic」、「Zenoss」などが挙げられる。

新世代パッケージとして注目される「GroundWork」「Zenoss」「Hyperic」

 「GroundWork」の特徴は、Nagiosベースのモニタ

リング・エンジンが有する柔軟性と、Ajaxベースの

Webポータルおよび管理インタフェースにある。また、

Nagios用のプラグインおよびエクステンションを広く

カバーしており、一般的なネットワーク・リソースのほ

とんどのモニタリングに対応している。

 「Zenoss」は、大規模利用を想定してゼロから設計

されたネットワーク・モニタリング・ソフトである(画面7)。Nagiosプラグインをサポートしており、幅広いネッ

トワーク・リソースのモニタリングが可能だ。Ajaxベー

スのユーザー・インタフェースを採用しており、Linux

やUNIXの初心者でもインストールやアップグレード

を直感的な操作で行える。

 「Hyperic」は、Webサーバをはじめ、アプリケーショ

ン・サーバ、データベース・エンジン、ネットワークな

どをモニタリングできるソフトウェアである。Gro

undWorkやZenossに備わるハードウェア・モニタリ

ング機能や、ネットワーク・インフラの可視化機能は

ないが、特定のアプリケーションの提供に必要なリソー

スを検知し、それらを相互に関連づけることができる。

 もう1つ注目したいプロジェクトは、米国Qlusters

の「openQRM」である。これは大規模環境での利用を

想定したプロビジョニング・ソフトで、サーバの負荷

をモニタリングし、必要に応じて仮想インフラに仮想

サーバを追加する機能を提供する。Linuxサーバの

自動プロビジョニングとモニタリングをサポートし、

VMwareやXenなどの仮想マシンを管理することがで

きる。制限はあるが、Microsoftの「Windows VM」

にも対応している。

 以上紹介した4つのソフトウェアは、現在利用され

ているオープンソース・モニタリング・ソフトの一例に

すぎない。特定ベンダーの製品が支配しているモニタ

リング・ソフト市場の勢力図が大きく塗り替えられるの

も、もはや時間の問題だろう。

画面7:�「Zenoss」のダッシュボード設定画面。Ajaxの採用で容易な操作性を実現しているほか、Google�Mapsなどとのマッシュアップも可能

開発言語

Perl、PHP、Python、Ruby……開発言語に「最良」はあるか?

リーに分類することから着手した。その時点では、そ

うすることが名案に思えたのだ。

 BOSSIEの選考にあたって、われわれは広範囲な

アプリケーション開発グループを多数のサブカテゴ

Page 67: Computerworld.JP Apr, 2008

April 2008 Computerworld 87

特別企画エンタープライズオープンソース[ベスト・セレクション]

 その後、システム・レベルの開発言語をスクリプト

言語と比較することが公平かどうか、また、個々のさ

まざまな言語をオープンソースと見なせるかどうかと

いったことを検討した。

 PerlやPHP、Python、Ruby、Tcl/Tkなどがオー

プンソースの言語であることは明らかだが、Javaや

JavaScriptもそうであるかどうかは定かではない。サ

ブセットがオープンソースのリポジトリや、ISOないし

ECMA標準の要件を満たしていれば選考対象とすべ

きか、それとも完全にオープンソースでコミュニティ

主導の開発サイクルを持つものだけを選ぶべきなのだ

ろうか──。検討を重ねた結果、われわれは最終的に、

自然言語にしろコンピュータ言語にしろ、特定用途以

外で最良のものなど存在しないことに気がついた。そ

こで今回は、幅広く利用されているオープンソースの

開発言語の中から、ニッチ市場を確立した言語を評

価することにした。

Rubyの急成長と、JavaScriptの実績を評価

 まず初めに、Rubyコミュニティの成長を牽引した

Webアプリケーション・フレームワーク「Ruby on

Rails」を称賛したい(画面8)。同フレームワークのベー

スとなるRubyは洗練されたオブジェクト指向のスクリ

プト言語で、クロージャなどの高度なプログラミング

構造をサポートする。

 Rubyは2007年に大きく前進し、Javaで実装した

処理系の「JRuby」をはじめ、Microsoftの動的言語

ランタイム(DLR)の上に実装される「IronRuby」など

の派生が登場した。これらの派生が言語の差異を招

かないかぎり、Rubyは今後も数多くの開発者に受け

入れられるだろう。

 次に称賛するのが、長きにわたってWebクライアン

ト開発のデファクト・スタンダードである「JavaScript

(ECMAScript)」だ。代替となる他の選択肢も増えて

きたが、インタラクティブな操作を実現するWebアプ

リケーションのユーザー・インタフェース開発では、依

然としてJavaScriptが使用されており、Ajaxの基礎

要素ともなっている。

JavaScriptは“オープンソース”?

 JavaScriptは純粋なオープンソースと言えるだろう

か。サブセットのECMAScriptだけを見れば、むろ

んそうだと答えられる。しかし現実には、クライアント・

サイドのWebアプリケーションは通常、JavaScript

へのエクステンションと、個々のWebブラウザの

DOM(Document Object Model)を使う必要がある。

これはWebブラウザがオープンソースであろうとプロ

プライエタリであろうと同じだ。

 純粋なスクリプトの記述には「Rhino」など、Java

Scriptのオープンソース実装が利用できる。また、Ja

va SE 6.0のリリース以降、JVM(Java仮想マシン)上

で動作する新しいスクリプト言語が登場しつつある。

すなわち、Javaスーパーセット「Groovy」や、複数の

プログラミング哲学の機能を組み合わせた「Scala」、

そしてJRubyなどである。

画面8:�オープンソースのWebアプリケーション開発プラットフォームとして人気を集めている「Ruby�on�Rails」。同プラットフォームは公式サイト(http://www.rubyonrails.org/)から入手可能だ

Page 68: Computerworld.JP Apr, 2008

Computerworld April 200888

 すぐれたオープンソースのソフトウェア開発ツール

が数多く提供されていることは、開発者にとってはお

そらく天国だろうが、われわれBOSSIEの選考委員

会にとってはまさに地獄であった。IDE(統合開発環

境)をはじめ、デバッガ、コード・カバレッジ・ツール、

負荷テスト・ツール、その他もろもろを考慮すると、こ

の分野だけがほかよりも多く賞を与えなければならな

くなる。そのうえ、広範な分野の中から1製品だけ選

ぶことなどできるのだろうか、Perlを差し置いて

Pythonを、あるいはMonoを差し置いてRailsを選べ

るのかといった疑問もあった。

 前述したように、そもそもこの分野から1製品だけ

を選ぶのは不可能なのだ。しかし、IDE、RIA(リッチ・

インターネット・アプリケーション)、Ajaxツールキット、

CI(継続的インテグレーション)の4つの分野に絞れば、

すぐにでも優秀なツールの名前を挙げることができる。

いずれも各分野の商用ツールと互角、あるいは凌駕

するものばかりだ。

“量より質”のNetBeansの姿勢を評価

 オープンソースIDEの 分 野 では、Eclipseと

NetBeansによる競争が繰り広げられているが、マー

ケット・シェアだけを見ればEclipseが明らかに優勢だ。

しかし、どちらが革新的かという観点では、一概に優

劣をつけることはできない。例えば、さまざまな機能

をプラグインとして組み込めるように設計されている

Eclipseは、「さらに多くの機能を」というアプローチの

下、パートナーから各種プラグインが豊富に供給され

たが、その代償として洗練さは失われ、増大してしまっ

た手間も解消されずにいる。

 対照的に、NetBeansは、軽量で機敏、容易にコ

ンフィギュレーション可能というアプローチを厳守し

た。また、GUI構築ツールの「Swing GUI Builder」(画面9)やパフォーマンス・プロファイラの「NetBeans

Profiler」といった最新鋭のプラグインの提供と、そ

れらをIDEにシームレスに統合することに注力した。

さらに2007年には、すぐれたユーザー・インタフェー

スが特徴の商用Java IDE「IntelliJ」を大胆にエミュ

レートし、操作性の大幅な改善を図った。われわれは、

NetBeansチームの“量より質”を重視する真摯な姿勢

と、開発者の生産性を高めるためにモジュールを切り

捨ててまでリプレースした勇気に敬意を表する。IDE

分野のBOSSIEはNetBeansに贈りたい。

接戦を繰り広げるRIA分野の2大ツール

 デスクトップ・アプリケーション並の操作性をWeb

ブラウザ上で実現するRIAは、大きく2つの陣営に分

けることができる。1つが、大多数のAjaxツールキッ

トと同様にDHTMLを採用するもの、もう1つが、

Flashを採用するものだ。ここでは両陣営のリーダー

を表彰することにした。

 Flashアプリケーションは、ブラウザ間の非互換性

に影響されやすいAjaxアプリケーションの制約を克

服することができる。Flashで記述されたRIAは、ほ

ぼすべての主要プラットフォームおよびブラウザ間で

互換性があり、「1度書けばどこでも動く」のが特徴だ。

なお、Adobe Systemsによると、Flash Playerの普

及率は世界の全市場で約90%だという。

 Flashアプリケーション向けの最も有力なRIAツー

ルキットは、Laszlo Systemsの「OpenLaszlo」と、

Adobeの「Flex」の2つである。OpenLaszloもFlexも、

当初は商用製品だった。Laszloは2004年にOpen

Laszloをオープンソース化してリリースした。2005年

のMacromedia買収によりFlexを獲得したAdobeも

開発ツール

エンタープライズ向け機能の拡充が加速成熟度の高まりが著しい4つの分野に注目

Page 69: Computerworld.JP Apr, 2008

April 2008 Computerworld 89

特別企画エンタープライズオープンソース[ベスト・セレクション]

2007年4月、Flex SDKをオープンソース化し、

MPL(Mozilla Public License)に基づいて提供する

計画を発表した。Adobeによると、Flexは2008年の

初めまでに完全なオープンソース・プロジェクトに切り

替えられるという。なお、2007年6月にベータ版が公

開された「Flex 3.0」には、RIA実行環境「Adobe

AIR(Adobe Integrated Runtime)」のサポートや、

EclipseベースのIDE「Flex Builder」(注1)の搭載など、

いくつかのユニークな機能が追加されている。

 OpenLaszloとFlexを比較すると、いくつかの要

素でOpenLaszloが有利である。例えば、Flexは強

力な製品だが、オープンソース・プロジェクトとしては

まだ完全に機能しておらず、OpenLaszloのようなコ

ミュニティが存在しない。また、OpenLaszloのスキ

ルを持つ開発者は簡単に見つけられるし、大型のア

プリケーション開発がいくつも行われていることも、

コード・ベースが安定、成熟し、テスト済みであること

を意味する。OpenLaszloコンパイラを使って、1つ

のソースコードからFlashとDHTMLいずれのGUIも

生成できるのも魅力だ。接戦ながら現時点では

OpenLaszloが多少リードしていることから、RIA開

発分野では同ツールをBOSSIEに選定した。

Ajax分野は最古参のツールが受賞

 近年のAjaxアプリケーション開発の爆発的な増加

に伴い、オープンソースのAjaxツールキットも多数登

場した。それらをふるいにかけると、半ダースほどの“金

塊”が姿を現す。「Dojo」、「Rico」、「Prototype」、そし

てGoogle、(厳密にはオープンソースではないが)

Microsoft、Zimbra、Yahoo!のツールである。BOS

SIEは、それらの中でも最 古 参 である「Tibco

General Interface」に与えられた。Tibco Software

がBSDライセンスと商用ライセンスで提供している同

ツールは、フル機能のIDEを装備するなど、もっぱら

エンタープライズ開発を主眼としているのが特徴だ。

これにより生成されるアプリケーションは、ネーティブ

のデスクトップ・アプリケーションとほとんど見分けが

つかない。

CIサーバの大本命「CruiseControl」

 「CI(Continuous Integration)」と呼ばれる継続的

インテグレーションとは、最近、ソフトウェア開発にお

いて広く採用され始めたベスト・プラクティスである。

これは、既存のコード・ベースから最終製品まで、コー

ドに変更を加えるたびに常にビルドを行うことで、イ

ンテグレーション時の問題やリスクを速やかに特定す

ることが可能になるという考え方だ。CIの仕組みの核

となるCIサーバは、ビルドを自動化し、プロジェクト

の品質について広範かつ詳細なリポートを生成する。

これらのリポートは一般にイントラネットで公開され、

開発チームが直ちに修正すべき個所を特定したり、さ

まざまな測定基準で進捗を評価したりするのに役立

てられる。

 比較的最近の登場にもかかわらず、オープンソー

スのCIサーバはすでに数多く提供されている。なか

でもダントツの信頼性を誇るのが「CruiseControl」で

ある。さまざまな開発ツールとの連携をサポートし、

Java、Ruby、.NET上で動作するバージョンも提供

画面9:�NetBeansの最新バージョン「6.0」では、従来「Matisse」と呼ばれていたGUI構築ツールが拡張され、新たに「Swing�GUI�Builder」として統合された

注1:�Adobeによると、Flex�Builderは今後も無料で提供するが、オープンソース化する予定はないとしている

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Computerworld April 200890

されている。また、ソースコード管理システムやビルド・

システム、リポート・ジェネレータなどの機能も豊富に

装備する。その高い信頼性と拡張性から、Agitar

Softwareなどのようにツール・ベンダーがCruise

Controlを自社製品に組み込むケースも増えている。

今後、企業の間でCIの有効性についての認識が広ま

るにつれて、CruiseControlは、他のCIソリューショ

ンを評価する基準となるはずだ。

ストレージ管理

オープンソースの普及に向けて足場が固まるストレージ市場

 現在、OSやアプリケーションと同じように、ストレー

ジ分野でも有効なオープンソースが登場してきてい

る。加えて、有力なストレージ・ベンダーが支援する

ストレージ管理アプリケーションの開発プロジェクト

「Aperi」の取り組みなどを勘案すると、ストレージ向

けオープンソースの将来性はさらに明るい。IBMが主

導するAperiには、Brocade、Cisco Systems、CA、

Emulex、LSI Logic、NetApp、Novell、カナダの

YottaYotta、富士通といった主要なストレージ関連

ベンダーが参画している。

 なぜこれらのベンダーは、開発に多額のコストをか

けたソフトウェアをオープンソース・コミュニティと共

有するのだろうか。当然、各ベンダーはなんらかの見

返り、すなわちユーザー数の拡大や技術開発・標準

化における主導的立場の確保などをねらっている。い

ずれにせよ、ソフトウェアの標準化がほとんど行われ

てこなかったストレージ分野にとって、オープンソー

スの進展は歓迎すべき展開である。今後、ストレージ

技術はより標準化を推進する必要があり、オープン

ソースとコミュニティによる開発は、それを実現する

可能性を秘めている。

 加えて、現在のストレージ市場はオープンソースが

浸透しやすい土壌だと言える。今日、市場には過剰

なほどのストレージ・ベンダーとストレージ・ソリュー

ションが存在しているが、ハードウェアはほとんど差

別化されていない。実際、多くのベンダーは基本構成

が同じハードウェアを共用し、それに自社の管理ソフ

トを搭載して提供している。一部のベンダーに至って

はハードウェアをまったく提供せず、汎用サーバを利

用している。このようにストレージ・ハードウェアがさ

ほど重要視されていない現在であれば、オープンソー

スはこの市場で普及しやすいはずだ。

ファイルシステムではSunが開発した「ZFS」が受賞

 前置きが長くなったが、本題に入ろう。ストレージ

分野における1つ目のBOSSIEは、Solaris 10ととも

にSun Microsystemsが発表し、現在はOpenSola

risプロジェクトが開発している「ZFS(Zettabyte

File System)」である(画面10)。「NFS(Network

File System)」が時代遅れというわけではない(実際、

Version 4を開発中)が、いずれZFSがNFSに取っ

て代わるはずだ。

 ZFSは革新的な機能を多く備えている。例えば、

ファイルシステムがデータの整合性を保証し、システ

ム・チェックを不要としている。また、論理ボリューム

管理とRAID管理により、事実上無制限の拡張性を

備えている。ZFSはストレージ管理作業の多くを簡素

化し、物理的に可能なところまで拡張できるファイル

システムなのである。

 ZFSは史上最高のファイルシステムであるうえに、

オープンソース・コミュニティに属している。ただし、

現状では、お気に入りのLinuxディストリビューショ

ンにZFSが含まれていることを期待してはいけない。

Page 71: Computerworld.JP Apr, 2008

April 2008 Computerworld 91

特別企画エンタープライズオープンソース[ベスト・セレクション]

また、ストレージ管理者がZFSの革新的な機能を把

握するまでには、通常のファイルシステムよりも多く

の時間を要するかもしれない。

 一方、NASサーバ・ソフトのBOSSIEには、「Free

NAS」を選んだ。FreeNASは最も成熟したオープン

ソースのNASプラットフォームであるうえに、Free

BSDを基盤に開発されており、活発なコミュニティに

も支えられている。FreeNASは、RAID 0/1/5はも

ちろん、CIFS/NFS/FTP/iSCSI/RSYNC/AFP

といった、ストレージ基盤に必要なほぼすべてのプロ

トコルをサポートしている。そして、Webベースのイン

タフェースでそれらを容易に管理できる。

 FreeNASを使うには、サーバといくつかのハード

ディスクがあれば十分だ。それどころか、FreeNASは、

コンパクト・フラッシュやUSBメモリにインストールで

きるので、ハードディスクにコアOSを保存する必要

がなく、高い可用性を実現できる。パフォーマンスは

使用するハードウェアに依存し、EqualLogicの

iSCSI SANには性能面で及ばないまでも、オープン

ソースの中では最高のパフォーマンスを誇る。

今後の注目分野はバックアップ/リカバリ

 オープンソースのストレージ・ネットワーキング・ソ

フトウェア「AoE Tools」もBOSSIEを受賞した。現在、

iSCSIの導入は着実に進んでおり、今後はファイバ・

チャネル(FC)との競争が激しさを増すだろう。この

iSCSI対FCという議論が過熱する一方で、AoE(ATA

over Ethernet)が着実に普及してきている。

 AoEは、ストレージ・ネットワークのホストとターゲッ

ト・デバイス間において、わずかなコストで確実にデー

タを送信することを可能とするもので、複数のイニシ

エータが同一データへアクセスした場合に干渉を防止

する仕組みも備えている。多くのLinuxディストリ

ビューションに含まれているAoEクライアントの「AoE

Tools」を使えば、AoEを無料で導入できる。とはいえ、

米国Coraidなどのベンダーが提供しているハードウェ

アが一部必要なケースもある。

 最後のBOSSIEはベンチマーク・ツールで、ブロッ

クI/Oを測定する「Iometer」とファイルI/Oを測定す

る「IOzone」が受賞した。数えきれないほど多くのIT

管理者が、どちらかのツールを使ってベンダーの主張

する性能をテストしたり、新規アプリケーションがスト

レージ・システムに及ぼす影響をシミュレートしたりし

ている。両ツールとも使い方が簡単で複数のプラット

フォームで使用できるため、仕立屋にとっての巻き尺

と同様に、いまやIT業界にとって不可欠なツールと

なっている。

 ほかにも、われわれが注目しつつもまだ勝者を選ぶ

段階に達していない分野がある。その1つがバックアッ

プ/リカバリ分野だ。この分野では「Amanda」が有名

だが、そのほかにも多くの有望株がある。例えば、

「NTFS MountNTFS Mount(Solaris), UFS

Reader(WinXP)」である。このプロジェクトはまだベー

タ段階だが、SolarisとWindowsの間にあるOSとい

う壁を崩し、両方が保有するファイルシステム資産へ

どちらからでもアクセス可能にすることを目指してい

る。こういう活動は、オープンソース・コミュニティだ

からこそ行えるものだろう。

画面10:�「ZFS」ファイルシステムの開発を進めるOpenSolarisの公式サイト(http://opensolaris.org/)

Page 72: Computerworld.JP Apr, 2008
Page 73: Computerworld.JP Apr, 2008

「話題の製品の機能を詳しく知りたい」「自社では、どのような技術を使うのが最適なのだろうか」──企業において技術や製品の選択を行う「テクノロジー・リーダー」の悩みは尽きない。そこで、本コーナー[テクノロジー・フォーカス]では、毎号、各IT分野において注目したい製品や技術をピックアップし、その詳細を解説する。

[テクノロジー・フォーカス]

TechnologyFocus

Applications[アプリケーション]OracleとSAPの戦略に見る業務アプリケーションのベクトル

May 2008 Computerworld 93

Page 74: Computerworld.JP Apr, 2008

Technology Focus

Computerworld April 200894

PaaSの基本的な考え方

 Salesforce.comは2007年7月、PaaS(Platform-

as-a-Service)という新しいコンセプトを発表した。

これは、ソフトウェアをネットワーク・サービスとして

インターネット経由で提供するSaaS(Software as a

Service)の考え方に加えて、アプリケーション・プラッ

トフォームをネットワーク・サービスとして提供しよう

という考え方だ。

 このPaaSに関して、現時点では、市場においてま

だ高い注目を集めているとは言えない状況である。だ

が筆者は、このコンセプトがSaaSやCRM(顧客関係

管理)といった特定の市場だけではなく、企業ITの

全般にかかわる重要なパラダイム・シフトの先駆けで

あると考えている。

 PaaSにより、ユーザー企業はSaaSプロバイダーが

提供する特定のアプリケーションだけではなく、自社

開発のアプリケーションをSaaSプロバイダーが運営す

るデータセンター内のインフラストラクチャ上で稼働さ

せることが可能になる。そして、従量制課金や迅速な

展開など、SaaSならではのメリットを、プラットフォー

ムやインフラの利用全体で享受できるようになる。

 SaaSや、それとほぼ同義と考えられるASP(Appli

cation Service Provider)モデルの大前提は、同じ

アプリケーションを複数のユーザーに提供することで

スケール・メリットを実現するということであった。ゆ

えに、アプリケーションごとの独自のカスタマイズは限

定的なものとなる。したがって、独自性が必要であれ

ば、独自アプリケーションを構築し自社内で稼働す

る/独自性が必要でなければSaaSないしはASPを

検討するというトレードオフが存在したわけだが、

PaaSにおいては今後、このトレードオフが必ずしも成

り立たなくなるだろう。

 そもそも、PaaSの発想は、Salesforce.comが従

来とってきたオンデマンド・アプリケーションのカスタ

マイズ戦略の延長線上にあるものだ。同社はこれまで

も、CRMアプリケーションである「Salesforce CRM」

のカスタマイズ性を継続的に高め、ユーザーに提供し

てきた。PaaSという新しい概念、そして、それを具

現化した「Force.com」プラットフォームは、独自アプ

リケーションの開発が行える程度までにSaaSアプリ

ケーションのカスタマイズ性が高まったものだと考え

てよいだろう。

ASaaS(Software as a Service)モデルによるSFA(営業支援)/CRM(顧客関係管理)アプリケーションで急成長した米国Salesforce.com。同社が2007年7月に発表した「PaaS(Platform-as-a-Service)」というコンセプトは、SFA/CRM市場にとどまらない、企業IT全般にかかわる重要なパラダイムになりうる可能性を持っていると筆者は考えている。本稿では、ネットワーク・コンピューティングの進化過程におけるPaaSの位置づけを確認し、このコンセプトの可能性を探ってみたい。

栗原 潔テックバイザージェイピー 代表

pplications[アプリケーション]

「PaaS――サービスとしてのプラットフォーム」の可能性“20年来のネットワーク・コンピューティング構想”の実用度を探る

Page 75: Computerworld.JP Apr, 2008

Applications

Applications

April 2008 Computerworld 95

アプリケーションの全スタックをネットで提供

 Force.comでは、インフラ、データベース、SOAP

(Simple Object Access Protocol)ベースのインテグ

レーション、ユーザー・インタフェースなどのスタック

がすべてネットワーク・サービスとして実現されている。

ユーザーの視点からは、OSと開発環境を含むコン

ピュータがネットワーク上にあると考えることができる。

 ネットワーク上にあるサービスを呼び出して使うと

いう点で同様の動きとして米国GoogleやAmazon.

comなどのインターネット企業が提供するWeb API

のモデルがある。Web APIにおいては、アプリケーショ

ンの本体はユーザー側にあり、ネット上のサービスを

適宜呼び出して利用するのに対して、PaaSモデルで

は開発環境を含むアプリケーションとプラットフォー

ムの本体がすべてプロバイダー側にある点が異なる

(図1)。 かつては、業務アプリケーションの開発プラット

フォームの淘汰が進み、最終的には、.NETとJava

が2大開発プラットフォームになるとの予測が聞かれ

た。しかし、この2つの開発プラットフォームに加えて、

PaaS系の開発プラットフォームが第3の選択肢として

普及していく可能性も十分にあるだろう。

 このようなPaaSの仕組みは、ネットワーク上のサー

バ群が、あたかも自社サイト内のコンピュータとして

機能するようなものと見なすことができる。1988年に、

米国Sun Microsystemsが提唱したスローガンである

「Network is the Computer」が現実のものになろう

としていると言ってもよいだろう。

 なお、同様のコンセプトとして、「プログラマブル

Web」という呼称が用いられることがある。また、最

図1:コンピューティング・モデルの比較(従来型、Web API、PaaS)

従来型モデル

アプリケーション

ミドルウェア

OS

ハードウェア

サービス

ミドルウェア

OS

ハードウェア

開発環境

Web APIモデル

アプリケーション

開発環境

PaaSモデル

アプリケーション

ミドルウェア

OS

ハードウェア

開発環境

ミドルウェア

OS

ハードウェア

Page 76: Computerworld.JP Apr, 2008

Technology Focus

Computerworld April 200896

近では「クラウド(Cloud)コンピューティング」という

メタファーもよく聞くようになった(ただし、クラウド・

コンピューティングについては、グリッドと同義で使

われるケースもあり、現時点での定義は混乱している)。

 いずれにせよ、こうしたトレンドは突然発生したも

のではなく、ネットワーク・コンピューティングの20年

以上にわたる進化の過程で出来上がってきたメガトレ

ンドであり、今後も、着実に進展していくことが予想

される。そして、正に今が変曲点と呼べる段階にきて

いるのかもしれない。

パラダイム・シフトがもたらすもの

 上述したトレンドを図示して、ネットワーク・コン

ピューティング・モデルの位置づけの変化を大局的に

概観してみよう(図2)。

 この図では、縦軸がどこまでをアウトソースするか

を表し、横軸がアプリケーションのカスタマイズの度

合いを表している。左下の位置に属するのが、最も

伝統的な、自社独自のアプリケーションを自社のイン

フラで稼働するというモデルだ。このモデルが消滅す

ることは将来もないと思われる。ただし、その一方で、

このモデルに固執し、すべての業務アプリケーション

をこれで稼働しようとする企業の競争力は低下するこ

とになるだろう。

 一方、従来型のSaaSは、共通性が高いアプリケー

ションをインフラも含めて社外で運用するというモデ

ルであり、図の右上に位置する(さらに、その右側には、

どのユーザーに対してもほぼ同等のアプリケーション

機能を提供するインターネット・サービスが存在する。

Google Appsなどはこの領域に属するだろう)。

 そして、今まで述べてきたように、従来型のSaaS

は2つの方向性をもって、これまで空白となっていた

領域に拡大しつつある。すなわち、アプリケーション

の独自性の向上という方向性と、アプリケーションの

制御をユーザーがある程度まで行うカスタマイズ性の

向上という方向性の2つだ。

 このようなパラダイム・シフトの結果として、業務ア

プリケーションに関するユーザーの選択肢は大きく拡

大するだろう。そして、経営戦略と業務要件に最も

合致したアプリケーションの展開モデルを選択できる

図2:コンピューティング・モデルの位置づけとSaaSの方向性

ユーザー開発アプリケーション

ホスティング

パッケージ・アプリケーション

インフラ+アプリケーションをアウトソース

インフラのみをアウトソース

インソース

カスタム・アプリケーション 共通アプリケーション

カスタマイズ性の向上

独自性の向上

SaaS(従来型)

インターネット・サービス(Webメールなど)

Page 77: Computerworld.JP Apr, 2008

Applications

Applications

April 2008 Computerworld 97

ようになる。

 例えば、きわめてサービス・レベル要件が高いアプ

リケーションは従来型のモデルにより社内で運用し、

俊敏性と差別化が必要とされる戦略的アプリケーショ

ンはPaaS型で独自アプリケーションを迅速に開発し、

他社と同等でよいアプリケーションはSaaSを活用す

る、といった考え方だ。いわゆるポートフォリオ管理

である。アプリケーション群のポートフォリオ管理を

適切に行えるかどうかが、ITのビジネス価値に大きく

影響する時代がすでに来ているのである。

プロバイダーに求められるバランス感覚

 最後に、このパラダイム・シフトに伴って必要となる、

ITベンダー/サービス・プロバイダー側のビジネス上

の考慮点について考えてみよう。

 Salesforce.comは、Force.comをプラットフォー

ムとして位置づけている。つまり、Force.comをユー

ザー企業が使うだけではなく、Force.com上でアプリ

ケーション・サービスを構築したベンダー/プロバイ

ダーがビジネスとして新たなSaaSサービスを行っても

よいということだ。PaaSを小売りだけではなく、卸売

りとしても提供していると考えればよいだろうか。

 自社が専有するクローズドなシステムではなく、他

社がその上でビジネスを行い、成功するためのプラッ

トフォームを提供し、共存共栄のエコシステムを構築

する。このことは、プラットフォーム・ビジネスを成功

させるうえで重要な要件である。

 ここで必要なのは、絶妙なバランス感覚だ。過剰

にクローズドな戦略をとれば、エコシステムを構築す

ることはできないし、オープンになりすぎれば適切な

収穫を得ることができなくなる。Salesforce.comが成

功したポイントの1つがここにあるだろう。また、同様

のビジネス・モデルを推進する企業にとっても、この

バランス感覚は非常に重要なものとなるはずだ。

Salesforce.com、新たな料金体系とクラウド型開発ツールを発表COLUMN

 米国Salesforce.comは1月17日、AppleのiTunes Storeにならったログイン当たり0.99ドルの料金モデルを発表した。 この料金モデルは、経費精算や休暇申請、社員採用などのように利用頻度が少なく、月額制の料金モデルにはなじまない分野において、SaaSの普及促進を図ることを目的としている。 「休暇申請のような分野では、人事部門はSaaSをよく利用するかもしれないが、すべての従業員が毎日利用するわけではない。この料金モデルは、新しいユーザー層を想定したものだ」と、Salesforce.comのプラットフォーム製品マーケティング担当シニア・ディレクター、アリエル・ケルマン(Ariel Kelman)氏は説明する。 ログイン当たり0.99ドルの料金は1年間適用され、2009年からはログイン当たり5ドル(1ユーザー/1カ月当たりのログイン回数が5回までの場合)に値上げされる。 また、Salesforce.comは、新しい「Force.com Cloud Computing Architecture」も発表した。これは、Webアプリケーションを分散運用するクラウド・コンピューティングの機能と柔軟性を企業が活用できるようにするもので、PaaSプラットフォーム「Force.com」の新料金モデル

(2008年末までログイン当たり0.99ドル、以後ログイン当たり5ドル)と、

新しい開発ツールとAPIのセット「Force.com Development-as-a-Service」を柱としている。 Force.com Development-as-a-Serviceは、企業開発者がクラウド・コンピューティングをアプリケーション開発に容易に利用できるようにすることをねらっている。「Force.com Metadata API」、「Force.com Integrated Development Environment(IDE)」、「Force.com Sandbox」、「Force.com Code Share」などの開発ツールやコラボレーション・ツールで構成される。 米国Nucleus Researchのリサーチ担当バイスプレジデント、レベッカ・ウェットマン(Rebecca Wetteman)氏は、Salesforce.comは、Force.comを企業にアピールするために必要な要素を加えようとしていると語った。 「彼らのPaaSの目的は、開発者にオンデマンド・プラットフォームを提供することにある。コードを開発するためのAPIを用意し、開発者がコードの共有、管理、追跡を協力して行える環境を提供することは、企業ユーザーを引きつけるのに大きな効果がある」(Wetteman氏) Force.com Development-as-a-Serviceは、開発者向けプレビュー版が提供されている。正式版のリリース時期は明らかにされていない。

新料金体系では、経費精算など利用頻度の少ない用途でSaaSの普及をねらう

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Computerworld April 200898

Technology Focus

て最近では、データ・デデュープリケーション(Data

De-Duplication、以下、デデュープ)と呼ばれるデー

タの重複除外技術を搭載したディスク・ストレージが

注目を集めている。

 しかし、これらのテクノロジーには決定的な問題が

ある。それはパフォーマンスだ。ZIPやLZHなどのデー

タ圧縮技術は、ユーザーがマニュアルで圧縮を行う

必要があるうえに、ファイルをすべて読み込んでから

でないと圧縮/解凍ができない。テープ・ドライブの

データ圧縮にしても、デデュープにしても、対象スト

レージがあくまで“バックアップ”用途であるからこそ

許容されるパフォーマンスであり、プライマリ・ストレー

ジでの利用は現実的ではない。

 加えて、これらのデータ圧縮技術が“非透過的”で

ある点も、プライマリ・ストレージでの利用が現実的だ

とは言えない要因となっている。例えば、ZIPあるい

はLZHによるデータ圧縮では、「ファイル名(拡張子)

が変更する」「ランダム・アクセスに対応していない」こ

とへの対処として、ユーザーがみずから運用上の変

更を行わなければならない。こうした点は、プライマリ・

ストレージを運用するうえで致命的とも言える問題な

のである。

データ圧縮技術の変遷

 ご存知のとおり、近年、デジタル・データは爆発的

に増大しており、今後もその勢いはとどまることを知

らない。書類のペーパーレス化や映像/音声データ

の増大、電子メールでのやり取り増加など、新規デー

タは日々増え続けている。日々の業務に必要なこうし

たデータを格納するプライマリ・ストレージは、ハード

ディスク・ドライブ(HDD)の大容量化によって、より

多くのデータを保存することができるようになった。

 しかし、1つ1つのファイル・サイズが大きくなって

くると、ファイルをHDDに読み書きする際に発生する

ストレージへの負荷も必然的に大きくなってくる。そ

れにより、ストレージの全体的な性能に影響が出てし

まう。こうした事態を回避するために、プライマリ・ス

トレージにおいて、データ(ファイル)圧縮を行うわけ

である。

 データ圧縮自体は、もちろん、最近出てきた新しい

技術というわけではない。ZIPやLZHは一般的に使

われているし、テープ・ドライブにおけるデータ圧縮は

10年以上前から使われている技術である(図1)。そし

S爆発的に情報量が増大している現在において、データ圧縮は必須の技術である。しかし、これまで登場してきたデータ圧縮技術は、いずれもバックアップ・ストレージが対象であったり、ソフトウェア・ベースの非透過的なアプローチが中心であった。本稿では、データ圧縮の新アプローチとして期待される、プライマリ・ストレージに対する「リアルタイム・データ圧縮」について、その基本構成や技術的な特徴などを解説する。

漢那憲昭東京エレクトロン デバイス

torages[ストレージ]

データ量削減の新アプローチ「リアルタイム・データ圧縮」の効能を知る

ILMを補完する新技術を活用し、ストレージの効率化を推進せよ

Page 79: Computerworld.JP Apr, 2008

April 2008 Computerworld 99

StoragesStorages

 Storwizeは、データをリアルタイムで処理しつつ、

ユーザーやシステムから透過的にデータ圧縮を行うた

めに、アプライアンス・ベースのソリューションを採用

している(写真1)。つまり、IAベースのサーバ・プラッ

トフォームに独自のソフトウェアを搭載し、ポートなど

をカスタマイズしたうえでハードウェアを設計してい

る。

 データ圧縮方式には、「Lempel-Ziv」というデータ

圧縮アルゴリズムを採用している。Lempel-Ziv自体

プライマリ・ストレージへのデータ圧縮技術が登場

 こうしたなか、プライマリ・ストレージへのデータ圧

縮(リアルタイム・データ圧縮)技術が登場し、2007年

ごろから認知度が上がってきた。プライマリ・ストレー

ジでデータ圧縮を行う際には、リアルタイム性が非常

に重要になる。加えて、データ圧縮においては、ユー

ザーのシステム環境の変更や追加のオペレーションな

どが発生しないという条件が求められる。こうしたプ

ライマリ・ストレージ環境の要件を満たす技術を実現

したのが、米国Storwizeである。現状、プライマリ・

ストレージへのデータ圧縮技術は、業界で唯一

Storwizeだけが実現しているものである。そのため、

ここでは同社製品の技術や同社製品を利用したシス

テム構成を中心に、プライマリ・ストレージに対する

データ圧縮技術を解説していく。

10年前 6年前 2年前 2007年

回線データ圧縮

WAN回線でのデータ圧縮がスタンダードに

デデュープ

ディスク・バックアップでの新たなスタンダードに

新カテゴリー

プライマリNASへのリアルタイム・データ圧縮が登場

テープ圧縮テープ・バックアップにおけるデータ圧縮がスタンダードに

図1:�データ圧縮技術の変遷

写真1:�Storwizeのリアルタイム・データ圧縮アプライアンス「STN-6000」

Page 80: Computerworld.JP Apr, 2008

Computerworld April 2008100

Technology Focus

だ。結果として、システム全体で見ると、アプライア

ンス導入前とほぼ同等か、環境によってはパフォーマ

ンスの向上につながる場合もある。

 また、圧縮といっても、アプライアンスに流れてく

るすべてのデータを自動的に圧縮するのではなく、ポ

リシーを事前に設定しておくことで、ファイルの拡張

子を識別して特定のファイルをパス・スルーする運用

も可能だ。これは、「圧縮済みのファイルはむだに圧

縮しない」という理由による。すでに圧縮されたファイ

ル(JPEG、MPEGなど)をアプライアンスで圧縮しよ

うとしても、その効果がほとんど得られないからだ。

 むだに圧縮処理をしてしまうと、その分余計なオー

バーヘッドが発生してしまう。アプライアンスでは、こ

のような状況を避けるために、ファイルのシェア・フォ

ルダおよび拡張子単位で、圧縮のオン/オフを設定

できるようになっている。圧縮効果が得られないファ

イルは何もせずにパス・スルーし、余計な負荷をアプ

ライアンスにかけない仕組みだ。こうした機能は、リ

は特殊な技術ではないが、ファイル単位でデータを

圧縮するのではなく、パケット単位でリアルタイム・

データ圧縮を行うという点に、Storwizeの独自技術

が集約されている。

 プライマリ・ストレージへ格納されるデータを圧縮す

るためには、クライアントとNAS(Network Attached

Storage)との間にアプライアンスを設置する必要があ

る(図2)。これにより、リアルタイム・データ圧縮を行っ

ているが、圧縮の際には当然、少なからずオーバーヘッ

ドが発生する。圧縮したデータを解凍する際にも同じ

ことは言える。実際、Storwizeのアプライアンスでは、

データ圧縮/解凍の際に80〜200μ/秒のレイテン

シ(遅延)が発生している。

 ファイルの圧縮/解凍時に若干のオーバーヘッド

は発生するものの、ファイルサイズが圧縮されること

でディスクへの書き込み/読み出し時間は逆に短く

なる。すなわち、ディスクへのファイル読み書きによっ

て発生するNASのオーバーヘッドが軽減されるわけ

1011100001001

1011100001010

111011100001011

001110111000010

1011100100111

0110100100100

ワークステーション/PC NAS

データベース/サーバ

IPネットワーク101110000100101010100011000101010

101110000100101010100011000101010

ファイル・サイズをパケット・レベルで圧縮

リアルタイム・データ圧縮アプライアンス

101100011111111010101000111000111

101100011111111010101000111000111

図2:�Storwizeのリアルタイム・データ圧縮アプライアンスを導入した際のシステム構成イメージ

Page 81: Computerworld.JP Apr, 2008

April 2008 Computerworld 101

StoragesStorages

トレージの台数削減が可能になり、従来より小規模な

ストレージで運用できるようになるため、省スペース

化が図られる(図3)。

④ストレージ・システムの省電力化 NAS内のHDDは、高速アクセスを実現するために

未使用領域も常時アイドリングを行う必要があり、台

数が増加したり、大容量化すればするほどアイドル中

のHDDが増加し、電力消費量が大きくなる。ともす

れば大規模化しがちなストレージ・システムへアプライ

アンスを導入すれば、導入台数の削減やワン・ランク

下のNASを利用できるため、省電力化が実現される。

大容量ストレージにかかる空調電力も含めると、その

省電力効果は決して小さくない。

 データセンター全体で見ても、IT機器の増加に伴

う電力消費量の増大で、発電所との契約電力量が限

界に近づきつつある。こうした状況にあって、プライ

マリ・ストレージへのデータ圧縮は、ストレージの“グ

リーン化”に大きく貢献する技術なのである。

⑤DRに伴う通信コストの抑制 データ圧縮により、DR(Disaster Recovery:災

害復旧)対象のデータが小さくなり、結果として通信

コストを抑制できる。

アルタイム・データ圧縮を行ううえでは必須と言える

だろう。

 アプライアンスの導入に際しては、既存のNASを

そのまま活用できるうえ、NASに保存されている非圧

縮データに関しても、アプライアンスを介した読み書

きに支障はきたさない。導入はプラグ・アンド・プレイ

に近く、圧縮ポリシーの設定を行った後は、NASの

前段ネットワークにアプライアンスを接続するだけで

ある。ネットワーク機器やアプリケーション、サーバ

からNASに至るまで、設定を変更する必要はない。

もちろん、NASにアクセスしているクライアントからア

プライアンスの存在は認識されず、従来どおりにアク

セスできる。

得られる5つのメリット

 プライマリ・ストレージへリアルタイム・データ圧縮

を行うことで、直接的/間接的に得られるメリットは

大まかに言って5つある。

①データ増加率の抑制 データを圧縮することで、ストレージ容量の増加ス

ピードを抑制できる。そのため、ストレージの購入サ

イクルに余裕ができ、長期的なプランの立案が可能に

なる。

②NASのパフォーマンス向上 データが圧縮されると、NAS上でのCPU処理負

荷が軽減し、NASのパフォーマンスが向上する。そ

れにより、場合によっては、アプライアンスとNASの

中位機種の組み合わせで、高機能(大容量)NASに

匹敵する容量/性能を得ることも可能になる。

③省スペース化 ストレージに限らず、サーバやネットワーク機器が

増加し、スペースの確保に苦慮しているデータセン

ターやサーバ・ルームは多い。データを圧縮するとス

ストレージ

=+

リアルタイム・データ圧縮アプライアンス

図3:�アプライアンスを導入することで、ストレージ台数を減らすことができる。仮にデータが3分の1に圧縮されれば、ストレージ容量も3分の1になる

Page 82: Computerworld.JP Apr, 2008

Computerworld April 2008102

Technology Focus

 以上のようなメリットが考えられる。ただし、こうし

たメリットは、扱うデータ量が多いユーザーが使って

初めて効果を発揮する。もともと扱うデータ量が少な

ければ、アプライアンスの導入コストと釣り合わなく

なるからだ。そのため、現状では、リアルタイム・デー

タ圧縮アプライアンスは大企業向けソリューションと

言わざるをえない。

DB関連データでは80%の圧縮も可能に

 プライマリ・ストレージへのリアルタイム・データ圧

縮は、アプリケーションに特化したソリューションでは

ないため、どのようなNAS環境でも基本的に導入で

きる。例えばStorwizeの場合、導入事例としては

CAD/CAM系やデータベース系のユーザーが多い。

ただし、先にも述べたが、圧縮済みのファイルを多く

抱えるユーザーには、プライマリへのデータ圧縮は適

さない。

 こうした点を考慮すると、ディスク内にどういった

種類のデータがあるかを事前にチェックする必要があ

る。しかし、複雑化したストレージ環境において、ディ

スク内のデータをユーザーが自力でチェックすること

は容易ではない。そのため、Storwizeでは、「PrediSave」

というアプライアンスの導入効果予測ツールを提供し

ている。

 このツールを使えば、ファイル拡張子の種類やその

割合、ファイル・サイズ、予測される圧縮効果などを

確認することができる。これにより、実際にアプライ

アンスを導入した際、どれほどのストレージ領域をセー

ブできるかが予測可能となり、ROI(Return On In

vestment)の計算もしやすくなる。

 データ圧縮率はデータの種類により異なってくる

が、Oracle DatabaseといったDB関連データの圧縮

率は高く、約80%を達成している。簡単に言ってしま

えば、100GBのDBファイルが20GBまで圧縮される

ということだ。その効果の大きさは容易に想像がつく

だろう。

ILMを補完するリアルタイム・データ圧縮

 これまでストレージのILM(Information Lifecycle

Management)は、セカンダリおよびアーカイブ・ストレー

ジにおいてデータ量を圧縮/削減するソリューション

を利用し、より効果的な運用を行っていた。例えば、

最近話題のデデュープも、あくまでバックアップ用途

で使うソリューションである。なぜなら、先に述べた

ように、プライマリでデデュープを使用するにはあまり

にもパフォーマンスに問題があるからだ。

 デデュープは、保存対象のデータに対して、先に

保存したデータと重複する部分を探し出し、データ保

存の際に重複部分を除外する技術である。この一連

の作業は、ストレージに一定の負荷がかかってしまい、

パフォーマンスがどうしても低下してしまう。そのため、

バックアップ用途がメインなわけだ。

 ただし、一部バックエンドに利用されているデ

デュープもある。深夜の空き時間を利用してデータの

重複除外を行っているのだが、ファイル容量が大きな

ユーザーにとっては、深夜だけで重複除外作業が完

了しないケースが多く、やはりプライマリ・ストレージ

での利用には無理があると考えざるをえない。

 このように、従来のILMでは、バックアップ・ストレー

ジでデータ量を圧縮/削減していくのが普通だった。

プライマリ・ストレージへのデータ圧縮は行われてこな

かったわけだが、これは単にそれを実現するソリュー

ションが存在しなかっただけの話である。今後は、リ

アルタイム・データ圧縮とバックアップ用途でのデー

タ圧縮ソリューションとを組み合わせて、より効果的

なILMが実践されていくと予想される(図4)。

ストレージ・システムは新たなステージへと突入

 現在、データの増加率を予想することは非常に難

しい。仮にストレージの償却期間を5年と設定した場

合、ストレージ容量はかなりの余裕を持たなければな

Page 83: Computerworld.JP Apr, 2008

April 2008 Computerworld 103

StoragesStorages

らず、実際のストレージ使用量よりも多くのストレージ

容量を購入する必要がある。このことは、大型ストレー

ジの導入にもつながってくる。

 これに対し、リアルタイム・データ圧縮アプライアン

スを利用すれば、小・中規模ストレージからのスモール・

スタートが可能になる。その後のストレージの追加投

資も、よりやりやすくなる。こうしたメリットは今後、

市場に受け入れられていくはずだ。

 また、企業がグリーンITを考えるうえでも、ストレー

ジ容量を削減できるリアルタイム・データ圧縮は必要

な技術となってくるだろう。もちろん、アプライアンス

の稼働に伴い電力消費量は増加するが、ストレージ

台数の削減効果を考慮すれば微々たるものである。

 これまで述べてきたメリットを勘案すると、リアルタ

イム・データ圧縮アプライアンスの市場潜在性は非常

に高いと考えられる。それゆえ、今後は、Storwize

以外にもさまざまなベンダーが新規参入してくること

だろう。実際、そうした動きも徐々に出てきている。

 しかし、リアルタイム・データ圧縮は新しいカテゴ

リーであるため、現在、市場での認知度は決して高く

ない。さらに、技術的にも全ベンダーのNASに対応

しているわけではなく、こうした未成熟さも残っている。

今後はSAN(Storage Area Networks)への対応も

求められてくるだろう。

 課題は残されているものの、リアルタイム・データ

圧縮の登場意義は大きい。この圧縮技術が登場した

ことで、ストレージ・システムはILMの新たなステージ

へ突入したと言えるはずだ。�

IPネットワーク

ワークステーション/PC

データベース/サーバ

プライマリ・ストレージ

セカンダリ・ストレージ

アーカイブ・ストレージ

リアルタイム・データ圧縮アプライアンス(2重化)

DRサイト

メイン・サイト

リモート・オフィス

図4:リアルタイム・データ圧縮アプライアンスを生かしたストレージのILMの例

Page 84: Computerworld.JP Apr, 2008

経営管理編販売/サービス編ITトレーナー編システム運用管理編システム開発編

存在意義

 下流プログラマーは創造性が発揮できない、つま

らない職業だと思っている人もいるようだ。確かにそ

ういう面がまったくないとは言えない。

 しかし多くの場合、与えられた条件を満たすプログ

ラムは一通りではない。仕様書によっては、入力と出

力だけが定義されている場合もある。同じ動作をする

プログラムでも、より高速な方法や、よりメモリ使用

量の少ない方法を工夫する余地がある。アルゴリズム

が指定されている場合でも、プログラムの書き方に

よって効率は変化する。

 だれが読んでもわかりやすい、保守性の高いプロ

グラムを書くことも重要である。コンピュータの性能

が向上し、メモリが安価になった現在では、効率のよ

いプログラムよりも、保守性の高いプログラムを書く

ことのほうが重要である。

 ハードウェアの寿命に比較してソフトウェアの寿命

は格段に長い。西暦2000年問題のときには多くのプ

職務概要

 最初に断っておくが、「下流」と言っても「二流」の

意味ではない。IT業界では、コンピュータのハードウェ

アに近い仕事を「下流」、ビジネスに近い仕事を「上流」

と呼ぶ。これは、人間のビジネス活動を抽象化して

具体的な手順に置き換え、コンピュータで実行すると

いう流れで示した表現方法だ。つまり、“人間”に近い

ほうが「上流」、コンピュータに近いほうが「下流」とな

る。

 下流プログラマーの仕事は、与えられた仕様書を

満たす最適なプログラムを書き上げることである。仕

様書に記述されるレベルはプロジェクトごとに違う。

 以前はデータ構造やアルゴリズムが詳細に記載さ

れ、下流であれ上流であれプログラマーの裁量の余

地は少なかった。しかし、最近の仕様書はおおまかに

書かれたものが多いという。これは、プロジェクト期

間が短縮され、詳細な仕様を書いている時間がない

からだ。

104

IT業界では常に新しい技術や手法が登場し、それに対応するさまざまな職種や役職が誕生している。本連載では、IT業界の職種を取り上げ、その仕事内容や必要とされる能力、労働条件や待遇といったトレンドを紹介する。第1回は、多くのITマンが経験する「下流プログラマー」を取り上げよう。IT業界で活躍している人も、IT業界への就職・転職を目指す人も、ぜひ参考にしていただきたい。

横山哲也グローバル ナレッジ ネットワーク、マイクロソフトMVP

ITキャリア解体新書IT業界でサバイバルするための

下流プログラマー

Computerworld April 2008

第1回

新連載

Page 85: Computerworld.JP Apr, 2008

あまり向いていない。もう1問やってみたいと思うなら

プログラマー向きである。

待遇

 正直言って給料はあまり高くない。IT業界ではエ

ントリー・レベルの仕事と見なされているためだ。また、

プログラマーの生産性は個人によって10倍以上差が

あるとされるが、年収の差はせいぜい2倍である。50

歳を超えてもプログラムを書いている人は多いが、プ

ログラム以外の仕事もしているのが普通だ。高い年

収を目指すなら、上流工程のエンジニアへの転身を

図りたい。�

ログラマーがこう思ったはずだ。

 「こんなに長く使われるとは思っていなかった」と。

必要な経験/スキル

 システム開発要員として採用された人の多くは、下

流プログラマーからスタートする。そのため、若い人

であれば、IT技術に関するスキルはあまり求められて

いない。しかし、ある程度年齢が高い場合は、即戦

力としての活躍が求められる。この場合は以下のスキ

ルが必要だ。

複数のプログラム言語を読み書きする能力 「C#」や「Java」などの新しい言語以外に、「C」や

「COBOL」なども知っていることが望ましい。�

仕様書を読んで理解する論理的思考能力 プロジェクトによっては仕様書が十分に精査されて

いない場合がある。仕様書を読んで理解するだけで

なく、その不備を指摘できるだけの能力があれば理想

的である。

短い文で的確に表現する国語力 プログラムには随所にコメントを挿入する。簡潔に

記述したほうがコメントを書くほうも読むほうも楽だ。

また、変数名や関数名を名づけるセンスも重要だ。

コミュニケーション能力 チームで仕事をすることが多いため、コミュニケー

ション能力も重要だ。プログラマーというと、人づき

あいの苦手なタイプを想像する人もいるようだ。しか

し、それでは職業プログラマーは務まらない。

採用の決め手となる“究極の質問”

 「数独は好きですか」

 「数独をやって感想を聞かせてください」

 論理パズルの好きな人はプログラマーに向いてい

ることが多い。数独の問題をいくつかやってみて、い

らいらして途中で投げ出すようならプログラマーには

April 2008 Computerworld 105

国家資格系

●基本情報技術者試験経済産業省が実施する国家試験。情報処理システムを開発する技

術者の基本的な知識を問う

●情報処理活用能力検定文部科学省が認定する情報処理に関する試験。3級/準2級/ 2

級/ 1級の4段階に分類されている

ベンダー資格系列

●マイクロソフト認定プロフェッショナル(MCP)マイクロソフト製品全般を対象とした技術知識の認定資格制度。

ITエンジニアにとって最も一般的な資格

●マイクロソフト認定アソシエート(MCA)マイクロソフトの新しい資格認定制度。「IT理論」「製品技術」「ソ

リューション」の3分野を網羅した知識が問われる

●オラクルマスターオラクルが主催するデータベース認定試験。情報処理のベンダー

資格の中では最も一般的

年収やりがい将来性ツブシ度モテ度

★★★★★

★★★★

★★★★

エントリー・レベルの仕事と見なされているため高くない

いやがおうでもバリバリ働かされる

ITキャリアの第一歩と考えよう

万年人材不足なので、条件さえ目をつぶれば仕事はある

気になるコから職業を聞かれたら、「とりあえずIT系」と答えておこう

ワ ン ポ イ ン ト お 役 立 ち2 2 2 2

情 報

あれば有利(?)な資格一覧

【謝辞】本稿を執筆するにあたり、元プログラマーの鈴木和久氏(グローバル ナレッジ ネットワーク)に協力をいただいた。

Page 86: Computerworld.JP Apr, 2008

IT

K

EY

WO

RD

37

Computerworld April 2008106

 TransferJetは、通信させたい機器どうしをかざす

だけで通信が可能な近接無線転送技術である。ソ

ニーが開発し、2007年1月に発表された。

 物理層の最大転送レートは560Mbps、エラー訂正

やプロトコルのオーバーヘッドを考慮した実効転送

レートは375Mbpsで、通信状況に応じて最適な転送

レートを選択する機能も備わっている。

 同技術を利用すれば、例えば、携帯電話やデジタ

ルカメラ/ビデオカメラなどのモバイル・デバイスに格

納されている大容量ファイルを、PCやテレビなどの

上に置くだけで転送することが可能になる。

 従来の技術でこのような大容量のデータ転送を行う

場合には、無線LANのような複雑な接続設定や、ア

クセスポイントを設置することが求められた。しかし、

TransferJetではそれらの設定は必要ない。ソニーの

説明によると、事前に通信機器を登録できるので、自

宅の通信機器のみを登録しておけば、同技術を搭載し

た第三者の通信機器とデータ転送が可能な状態になっ

たとしても通信は行われず、データ漏洩を防止するこ

とができるという。また、ホストとターゲットの関係が存

在しないため、携帯電話とPC、携帯電話どうしといっ

た通信機器間でのデータ転送も可能となる。

 TransferJetの通信方式は、放射電磁界を用いた

従来の無線アンテナではなく、誘導電界を用いたカプ

ラを利用している。新規開発されたカプラは、中心周

波数が4.48GHz帯、送信電力が-70dBm/MHz以下

の微弱出力による近接専用の無線システムなので、

ほかの無線システムに干渉を与えることがほとんどな

いという特性を持つ。また偏波を持たないため、機器

どうしの角度を意識することなく通信ができる。

 TransferJetは「2008 CES International」に参考

展示され、多くの来場者の関心を集めた。ソニーは

今後、同技術の採用を業界に広く働きかけ、ユニバー

サル規格にしたい考えを明らかにしている。なお、

TransferJetを搭載した製品の発売時期は、2009年

中を目指しているという。

かざすだけで大容量データを560Mbpsで転送できる近接無線転送技術

TransferJet

Computerworld 編集部

▼37

IT KEYWORD

中心周波数

送信電力

転送レート

通信距離

4.48GHz帯

-70dBm/MHz以下(平均電力)

最大560Mbps /実効レート375Mbps通信状況に応じて最適な転送レートを選択する機能を搭載

3cm以内を想定

TransferJetの概要。なお送信電力は国内では微弱無線局の規定に、外国ではその国の電波規則に準拠する

CES 2008ではTransferJetを搭載した試作機が展示され、高速転送のデモが行われた

*資料:ソニー

Page 87: Computerworld.JP Apr, 2008

April 2008 Computerworld 107

P R O F I L E

ささき・としなお。ジャーナリスト。1961年兵庫県生まれ。毎日新聞社記者として警視庁捜査一課、遊軍などを担当し、殺人事件や海外テロ、コンピュータ犯罪などを取材する。その後、アスキーを経て、2003年2月にフリー・ジャーナリストとして独立。以降、さまざまなメディアでIT業界の表と裏を追うリポートを展開。『ライブドア資本論』、『グーグル——既存のビジネスを破壊する』など著書多数。

 これに加えて、Googleが2007年秋

に発表した「OpenSocial」が、SNSのソ

フトウェア開発プラットフォームを標準

化しようとしている。これまでは各SNS

向けに個別にソフトを開発しなければな

らなかったのが、今後はOpenSocial向

けにソフト開発するだけで、各SNSに適

用することが可能になる。

 OpenIDとDataPotability.org、そし

てOpenSocialという3点セットによって、

SNSのインフラ化の機運は一気に高まっ

た。これによって何が起きるのだろうか。

 まず第1に、ソフトウェアはSNS上でウィジェットの

形式で提供されるようになるだろう。第2に、SNSはリ

アル世界とバーチャル世界をつなぐ巨大な“系”を作り

出すことになる。その中では、ユーザーが自分のプロ

フィールや友人関係を自由にコントロールできるように

なる。こうして、ソーシャル・グラフはさらに高度化され、

友人を単にフラットな「マイミク」として扱うだけではな

く、交友関係の方向性を加味した多重構造的なソーシャ

ル・グラフを生み出すことになろう。

 これらの結果、巨大SNSの先行者利益は消滅し、

SNSはコモディティ化する。どこに登録しても、自分の

ソーシャル・グラフを自由に連れていけるようになるの

だから、「友人が多いから」というだけの理由で、自分の

好みに合わないSNSに縛られるようなことはなくなる。

 そうなったとき、ソーシャル・グラフをどうバリュー化す

るのかが、各SNSには求められるようになる。それが“SNS

2.0”時代の幕開けになる。おそらくは3年後だ。

 ここにきて、「OpenID」が急速に普及

し始めている。OpenIDは、Six Apartに

在籍していたBrad Fitzpatrick氏が

2005年に発表した技術で、参加してい

るサイトでの認証システムを、他のサイ

トでも利用してシングル・サインオンする

というものだ。例えば、Yahoo!サイトの

IDをOpenIDに登録しておけば、他のサ

イトで認証する際、Yahoo!のIDを使っ

てログインできる。複数のIDとパスワー

ドのセットをユーザーが持つ必要がなく

なり、セキュリティを維持しながらサイン

オンの利便性を高めることが可能になる。

 このOpenIDをベースにした動きとして今、注目を集

めているのが「DataPotability.org」である。MySpace

やFacebookなどのSNSでユーザーが持っている友人

関係やプロフィールなどのデータを、各社で共通化し

てしまおうという試みだ。これもFitzpatrick氏が2007

年に、「ソーシャル・グラフ(SNS上の人脈相関図。『マイ

ミク』のようなもの)を共通化しよう」と提唱し始めて動き

出し、同年11月に設立された。

 DataPotability.orgが提案しているデータの共通化

が実現すると、例えばmixiのユーザーがGREEに新規

登録しようとすると、「あなたのmixiのマイミク120人の

うち、105人がGREEにも登録されています。これらの

方々をGREE上でも一括友人登録しますか?」といった

表示が出て、マイミクをそのままGREEに持っていくよ

うなことが可能になる。そして、各サイトでのユーザー

のアイデンティティを共通化してくれるのが、OpenID

というわけだ。

インターネット劇場

佐々木俊尚T o s h i n a o S a s a k i

インフラ化する

ソーシャル・ネットワーキング

Entry

21

Page 88: Computerworld.JP Apr, 2008

Computerworld April 2008108

P R O F I L E

えじま・けんたろう。インフォテリア米国法人代表/XMLコンソーシアム・エバンジェリスト。京都大学工学部を卒業後、日本オラクルを経て、2000年インフォテリア入社。2005年より同社の米国法人立ち上げのため渡米し、2006年、最初の成果となるWeb2.0サービス「Lingr(リンガー)」を発表。1975年香川県生まれ。

 業界ではよく、「MicrosoftがGoogle

に対抗しようと思ったらYahoo!買収し

かないよね」とうわさになっていました

が、とうとう現実のものとなりそうです。

 本稿を書いている2月1日現在では、

Microsoftからオファーが出ただけです

が、Steve Ballmer氏が社員に宛てて

出したとされるメールでは、買収成功へ

の確信に満ちています。最近の米国株

式市場が軟調で、かつYahoo!株の下

落幅が相対的に大きいこともあって、

現金を大量に保有するMicrosoftにとって絶好のタイ

ミングだと考えたのでしょう。

 さて、この件、古株のIT業界人にとっては、おそら

くGoogleがMicrosoftにとっての最大の脅威である、

というロジックがいまだにしっくりこないのではないで

しょうか。

 米国、特にシリコンバレーでは、MicrosoftやIBM

などで働いていたトップクラスの技術者が、こぞって

Googleやスタートアップ企業などのWeb業界へ移る

という現象が3年ほど前から進行しています。

 こんなことは、日本では考えられないですね。そも

そもトップクラスの技術者が働きたいと思うような企

業がWeb業界側にほとんどなく、その受け皿は大変限

られています。結果的に、優秀な技術者は相変わらず

メーカーや通信会社の研究部門に囲われたままです。

 だから、このように「ソフトウェアの主戦場はWebに

移っている」という価値観の激変を、いくら梅田望夫さ

んの『ウェブ進化論』などを読んでも、実

感としては持ちにくいことでしょう。

 消費者向けのWebは、無料でサービ

スを展開し、規模の経済によって拡大

して最終的に広告でお金に変えるしか

なく、その点で「どうやってビジネスにす

るか」ということを考えると最初の一歩

が踏み出せなくなるのは事実です。実際、

勢い込んでベンチャーを始めても、大

変つらい思いをする可能性のほうが高

いでしょう。

 しかし今後、Webはインターネット・オペレーティ

ング・システムとしての様相を強めていくでしょう。こ

れは限りなくフェアで、オープンなOSです。

 もうGoogleが次のMicrosoftということで決着がつ

いた、と見る向きもありますが、それはWebの潜在力

を過小評価していると思います。Googleが独占する「文

書指向のWeb検索」の世界は、むしろ相対的に縮小し

ており、Google自身も取り組んでいるオフィス・アプ

リケーションやソーシャル・アプリケーションなどの成

長分野は今後、Googleも激しい競争にさらされるで

しょう。

 特に、SaaSと呼ばれている本格的なWeb業務ア

プリケーション分野は、おそらくGoogleが勝てない大

きな市場となるはずです。

 この分野へ日本の優秀な技術者が挑戦してくるかど

うか、とても楽しみにしています。

IT哲学

江島健太郎K e n n E j i m a

ソフトウェアからWebへ

Entry

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Page 89: Computerworld.JP Apr, 2008

April 2008 Computerworld 109

P R O F I L E

くりはら・きよし。テックバイザージェイピー(TVJP)代表取締役。弁理士の顔も持つITアナリスト/コンサルタント。東京大学工学部卒業、米国マサチューセッツ工科大学計算機科学科修士課程修了。日本IBMを経て、1996年、ガートナージャパンに入社。同社でリサーチ・バイスプレジデントを務め、2005年6月より独立。東京都生まれ。

 ITアナリストとしては、「〜かもしれな

い」というような書き方をしてはいけない

のでしょう。ですが、今回はどうしても

気になる、しかし、本当に長期的に普

及するのか現時点では個人的に断言で

きない「ミニブログ」について書きます。

 代表的なミニブログ・サービスと言え

ばやはり「Twitter」で、あとは「Tumblr」

「Haru.fm」「Jaiku」「Timelog」などが知

られています。そして、これらのほかにも、

新参のサービスが次々とこの分野に参

入してきています。各サービスの特徴や

機能は微妙に違うのですが、ここではTwitterに例を

とって説明します。

 Twitterを言葉で説明するのはなかなか難しい(実際

に使ってみるのが一番早い)のですが、大きく3つの特

性があると思います。

 まず、ミニブログという名のとおり、数行程度の短

いエントリーをブログ的に書いていくことができます。

Twitterの場合は「今、何をしていますか?」という質問

に答えるという建前になっていますが(例えば、「○○

○でラーメン食べています」)、実際には自分が思った

ことをつぶやくようにどんどん書いていけばよいので

す。もともと、ブログはこのように思いついたことを気

軽に書いていくためのWeb日記として始まったわけで

すが、Twitterは、さらに手軽に書き込めるサービス

になっています。

 2つ目は、他人の書き込みを「フォロー」でき、フォロー

した人たちの書き込みをまとめて自分の画面上に時系

列で表示できることです。こう考えると、Twitterはブ

ログに書き込むというよりも、自分をフォ

ローしている人に対して一度にメッセー

ジを送るという、いわば、1対NのIM(イ

ンスタント・メッセージング)のようなも

のとも言えるでしょう。

 3つ目は、特定の人をフォローしてい

る人の集まりがコミュニティを構成する

と考えることもでき、SNS的な要素もあ

る点です。フォローを始めたり、やめた

りはかなり気軽に行われます。通常の

SNSのようにいちいちメールで招待した

り、承諾したりという世界ではありません。

 ということで、Twitterはミニブログとも呼べますし、

IMの拡張とも呼べますし、“緩い”SNSと考えることも

できます。ネット上の情報を見ると、昨年にTwitterは

かなり注目度を上げたようなのですが、私がソーシャ

ル・コンピューティング系の講演で客席に聞き取りを

したところ、使っている人はほとんどいませんでした。

企業ITの分野である程度のポジションにある人にはほ

とんど普及しておらず、より若い世代で普及している

ように思えます。

 若い世代ほどメールよりもIMを好むという米国の調

査があります。物心ついた時からコンピュータを使っ

ていた世代こそが、ミニブログのようなカジュアルなコ

ミュニケーションを好むのかもしれません。

 今のところ、ミニブログの企業内での活用について

はあまり考えられないという見解にありますが、IM世

代の社員が、上の世代には想像もつかなかったような

活用法を考え出してくれるかもしれません。

テクノロジー・ランダムウォーク

栗原 潔K i y o s h i K u r i h a r a

将来性があるかもしれない

「ミニブログ」

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