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CICAD No. 72 Iodine and Inorganic Iodines 1/1 IPCS UNEP//ILO//WHO 世界保健機関 国際化学物質安全性計画 Concise International Chemical Assessment Document 国際化学物質簡潔評価文書 No. 72 Iodine and Inorganic Iodines ヨウ素 および 無機ヨウ化物 (2009) 国立医薬品食品衛生研究所 安全情報部 2012 7

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CICAD No. 72 Iodine and Inorganic Iodines

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IPCS

UNEP//ILO//WHO

世界保健機関 国際化学物質安全性計画

Concise International Chemical Assessment Document 国際化学物質簡潔評価文書

No. 72 Iodine and Inorganic Iodines

ヨウ素 および 無機ヨウ化物

(2009)

国立医薬品食品衛生研究所 安全情報部

2012 年 7 月

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CICAD No. 72 Iodine and Inorganic Iodines

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1. 要約

この CICAD1の基礎となった原資料は、米国保健社会福祉省の Agency for Toxic Substances

and Disease Registry (ATSDR)が発行した Toxicological profile for iodine である(ATSDR,

2004)。2005 年 1 月の時点で確認されていたデータは、原資料の中で検討されている。原

資料の入手やピアレビューに関する情報を Appendix 2 に示す。本文書のピアレビューに関

する情報を Appendix 3 に示す。この CICAD は、2005 年 10 月 31 日~11 月 3 日にインドの

ナーグプルで開催された 終検討委員会会議で、国際評価として承認された。当該 終検

討委員会会議の参加者を Appendix 4 に示す。別のピアレビューを経て、IPCS によって作

成された国際化学物質安全性カード(ICSC)も、ヨウ素(ICSC 0167)、ヨウ化水素(ICSC

1326)、およびシアン化ヨウ素( ICSC 0662)について、本文書に転載している( IPCS,

2005a,b,c)。ヨウ素の放射性同位体(123I、125I、131I など)は、本文書の範囲外である。ヨウ

素 の 放 射 性 同 位 体 に 関 す る 情 報 は 、 WHO の 電 離 放 射 線 の ウ ェ ブ サ イ ト

(http://www.who.int/ionizing_radiation/en/)または ATSDR(1999, 2004)を参照のこと。

ヨウ素は自然界に存在する元素である。様々な形態で存在し、色も、溶液中のヨウ素の濃

度や使用されている溶媒によって変わり、無色から、青色、茶色、黄色、赤色、白色など、

様々である。水にも有機溶媒にも溶解する。海洋は、自然界に存在するヨウ素の主要な供

給源である。海水中のヨウ化物は、魚介類や海藻類に蓄積される。海からは、ヨウ素がし

ぶきや気体の形で、周辺環境に入り込む。大気中に入ると、ヨウ素の一部は、陸地や近く

の農作物に堆積する。土壌中に入ると、ヨウ素は、有機物質と容易に結合するため、土壌

中に長く滞留する。ヨウ素は、化石燃料の燃焼によっても大気中に入り込むが、周辺環境

に及ぶ量は、海洋から及ぶ量よりもはるかに少ない。ヨウ素は、食品中では、ヨウ化物と

して、元素分子以外の形態で存在する。

工業分野では、ヨウ素は、インク、染料、着色剤、写真用化学薬品、電池、燃料、および

潤滑剤などの製造において使用される。また、主に酢酸、X 線造影剤、界面活性剤、ヨー

ドフォール(ヨウ素の担体として作用する界面活性剤)、殺生物剤などの様々な化学物質を

製造する際の触媒として、トール油の安定剤として、また、ヨード化油において使用され

る。健康産業では、ヨウ素は、消毒剤や殺生物剤としても、また、石けん、包帯、医薬の

製造や、浄水においても使用される。ヨウ素欠乏症の続発性疾患を防止するため、一部の

国では、1950 年代以降、ヨウ素が(ヨウ化物やヨウ素酸塩として)食塩に添加され、ヨウ素

が食事から適正に摂取されるようになっている。ヨウ素は、一部の動物用飼料サプリメン

トにも添加されている。

ヨウ素への曝露経路には、ヨウ素添加食卓塩、海塩、海水魚介類、海藻、加工処理中にヨ

1 本文書で使用している頭字語や略語の全覧は、Appendix 1 を参照のこと。

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ウ素を調整剤として使用しベイクドした製品、医薬品、乳製品(牛乳の収集や輸送に使用

する鋼製容器の消毒剤としてヨウ素を使用することによる)などの摂取がある。大気経由

でヨウ素に曝露されることは、日常的にはほとんどない。

ヨウ素分子や無機ヨウ素化合物は、吸入と経口のいずれの経路でも、容易かつ大量に吸収

される。経皮吸収されるのは塗布量の 1%以下であることが、実験的に示されており、経

皮は、重要な曝露経路ではないと考えられる。ヨウ化物は体内から、尿、汗、大便、母乳

中に排泄される。

ヨウ素は、生理学的機能を正常に保つ上で不可欠の微量元素である。甲状腺ホルモンの重

要な構成成分であり、このホルモンは代謝速度、成長、身体構造の発達、神経細胞の機能

と発達の調整に不可欠である。ヨウ素の WHO 推奨摂取量(集団別必要量)は、成人と 13 歳

以上の青少年が 150 μg/日、妊娠・授乳中の女性が 200 μg/日、6~12 歳の小児が 120 μg/日、

0~59 ヵ月の小児が 90 μg/日である(WHO, 2004a)。

ヨウ素欠乏症は、食事摂取量の不足によって引き起こされる疾患群である。ヨウ素欠乏は、

現在、脳障害に関して世界で も一般的な原因となっているが、簡単に予防が可能である

(WHO, 2004b)。ヨウ素欠乏症の人は、世界中で 7 億 4,000 万人(世界人口の約 13%)を超え

ていると推測されている。妊娠中の重度のヨウ素欠乏は、ヨウ素欠乏地域(特にアフリカ

やアジアの発展途上国など)では、死産、流産、先天異常(クレチン症、不可逆的な形態異

常、精神発達遅滞など)を引き起こす可能性がある。ヨウ素欠乏による、認識されにくい

が深刻な影響として、比較的低いレベルの障害があり、家庭や学校、職場環境での知的習

得力が低下する。成人では、ヨウ素の摂取が不十分であると、甲状腺腫(甲状腺の肥大)、

代謝不全、認知機能障害などが起こることがある。

無機ヨウ化物に高い用量で長期経口曝露された場合の主要な影響は、矛盾するようである

が、甲状腺機能亢進症と甲状腺機能低下症である。これは、ヨウ素濃度の恒常性を維持す

るための甲状腺活性の制御に関係した、複雑な生理学的過程に起因する。ヨウ素を食品に

添加すると、ヨウ素の平均摂取量が 1 日当たりの推奨用量を超えていなくても、その集団

における甲状腺機能亢進症の発生率は上昇することが、いくつかの調査で示されている。

ヨウ素の過剰摂取は、甲状腺ホルモンの合成と放出を抑制することがあり、甲状腺機能低

下症や甲状腺腫を発症する可能性がある。甲状腺機能が正常な成人が、ヨウ素を 1,700 μg/

日以上摂取すると、甲状腺機能が低下することが報告されている。

基礎疾患のある患者では、およそ 300 mg 以上のヨウ素を経口投与すると、発熱反応が引

き起こされることが、多数の症例で報告されている。ヨウ素の経口投与では、ヨード性皮

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疹と呼ばれる皮膚過敏症反応が引き起こされることも報告されている。皮膚接触感作性は、

ヨウ素や無機ヨウ化物ではなく、有機ヨウ素化合物が原因であるとされている。

いくつかの疫学的調査からは、地方病性甲状腺腫の多発地域(ヨウ化物の食事摂取量が低

い地域)に居住することは、甲状腺がんの危険因子である可能性が示唆されている。一方、

別のいくつかの疫学的調査からは、食事によるヨウ素摂取量の増加も、土壌のヨウ素含有

量が少ない地域に居住する集団では特に、甲状腺がん(特に乳頭がん)の危険因子である可

能性が示唆されている。

ラットでは、約 50 mg/kg 体重/日のヨウ化カリウムに生涯曝露されると、統計的有意性は

境界線上だが、唾液腺腫瘍が増加したことが報告されている。また、2 件の 2 段階試験で、

ヨウ化物は、甲状腺腫瘍に関して、ニトロソアミンによるイニシエート(惹起)を受けて、

プロモータ(促進)作用を示すことが認められている。ヨウ素やヨウ化物に変異原性がある

ことを示す説得力のある証拠はない。

妊娠後期にヨウ化物を大量に投与すると、ラットとウサギでは新生仔死亡が起こるが、ハ

ムスターとブタでは起こらないことが報告されている。ヨウ素やヨウ化物の胎仔毒性や催

奇形性に関する試験データは、得られていない。ヒトでは、母親に薬理学的用量のヨウ素

を投与した結果、子宮内曝露された新生児に甲状腺機能低下症が起こったことが報告され

ている。

モルモットを用いた試験では、低濃度のヨウ素蒸気に吸入曝露させると、気道抵抗上昇と

呼吸数減少が起こることが報告されている。

小児における甲状腺ホルモンの状態とヨウ素摂取量に関する大規模な横断調査では、ヨウ

素摂取量の平均推定値が 0.01 mg/kg 体重/日の場合と比べ、0.03 mg/kg 体重/日の場合、血中

TSH が上昇することが認められている。小規模の成人集団を対象とした 2 件の短期試験と、

高齢者を対象とした 2 件の横断調査によって、0.01 mg/kg 体重/日が NOAEL であることが

裏づけられている。この NOAEL は、感受性が高いと考えられる 2 つの集団(高齢者と小

児)のデータに基づいているため、TDI に相当すると考えられる。

食事性ヨウ素の必要量についての個人間や集団間における変動の大きさは、TDI の不確実

性に影響を及ぼす要因である。この変動に伴い、ヨウ素欠乏地域で必要とされるヨウ素補

給量も変動するものと思われる。

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2. 物質の特性および物理的・化学的性質

ヨウ素は非金属元素の一つで、周期律表のグループ VIIA のハロゲン族に属する。自然界

には、海水や分子化合物中(ヨウ素酸塩や IO3−など)に一価の陰イオンを形成して存在する。

ヨウ素は、いくつもの酸化状態(-1、0、+1、+3、+5、+7)をとることができる。自然界に

存在するヨウ素の安定同位体は127

I である。

ヨウ素の物理的・化学的性質は、その元素形態や分子形態によって異なる。Table 1 に、ヨ

ウ素の物理的・化学的性質を示す。その他の物理的・化学的性質については、本文書に転

載した ICSC を参照のこと(ヨウ素:ICSC 0167,ヨウ化水素:ICSC 1323),シアン化ヨウ素:

ICSC 0662)。

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3. 分析方法

ヨウ素とその化合物の分析には、多種多様な方法や装置が用いられている。「-MS」と称さ

れる技法(HPLC や ICP などの機器を MS 機器の前に設置したもの)は、高い感度と精度を

もたらしている。これらの分析方法やその他の方法が、国際ヨウ素資源研究機構

(International Resource Laboratories for Iodine , IRLI)で用いられている。IRLI は、ヨウ素資源

研究所間の、 初の世界的なネットワークであり、国家規模の公衆衛生や産業における監

視を支援するものである。IRLI によって、各研究所の能力が、尿や食塩中のヨウ素が正確

に測定できるように強化されている。IRLI はまた、総合的な監視体制を構成しており、栄

養素としてのヨウ素の適切な摂取と、食塩へのヨウ素添加を世界規模で推進していく役割

を担っている。 IRLI には、 WHO、 CDC、 ICCIDD、微量栄養素イニシアティブ

(Micronutrient Initiative)、UNICEF が協賛している。CDC の世界微量栄養素基準研究所

(Global Micronutrient Reference Laboratory)は、構成研究所の 1 つであり、国際的な研究所

間比較計画である、ヨウ素に関する試験法の質向上計画(Ensuring the Quality of Iodine

Procedure, EQUIP)を策定した(Caldwell et al., 2005a)。EQUIP によって、各研究所が自らの

分析性能を独自に評価できるようになり、偏りや精度の問題が排除され、世界 34 ヵ国に

わたる 52 の研究所(2005 年 10 月時点)が達している能力水準が確認されている。

3.1 環境試料

大気、水、土壌、底質、薬剤、食品中のヨウ素の濃度は、多くの分析方法により測定でき

る。ガンマ線検出器を用いた INAA、IDMS、イオンクロマトグラフィー、比色分析、ICP-

AES、HPLC-UV、ヒ素-セリウム触媒分光測定、ICP-MS、NIOSH Method No. 6005 につい

ては、いずれも様々な環境試料中のヨウ素量を求めるのに有効な方法であることが示され

ている(ATSDR, 2004)。

大気:既知量の大気を多段フィルターアセンブリに通過させて、粒子状ヨウ素、ヨウ化水

素(HI)、分子状ヨウ素(I2)蒸気、次亜ヨウ素酸(HOI)、有機ヨウ素を別々に捕集する。

別々の方法を用いて、フィルター材からそれぞれの化学種を抽出し、IDMS 分析を行う。

粒子状ヨウ素分画については、、内部標準として 129I を含む加熱した水酸化ナトリウム/亜

硫酸ナトリウム溶液中で、フィルターを抽出にかける。濾過および酸性化した後、硝酸銀

を加えて、ヨウ素をヨウ化銀(AgI)として沈殿させる。沈殿物をアンモニア水に溶解し、

IDMS を用いて分析する。この方法による試料の検出限界は 0.02~0.024 ng/m3(平均の大気

量が 70 m3 の場合)、回収率は 97~99%である(Gäbler & Heumann, 1993)。1

1 SI 単位で測定値を表示する WHO の方針に従い、CICAD 叢書中では、大気中の気体化合物の濃度をす

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空気(職場環境):OSHA Interim Method No. ID-212 を採用する場合、相対湿度を測定する

必要がある。相対湿度が 50%より低い場合は、ビーズ状含浸活性炭充填管を用いて、2.5 L

以上の大気試料を 0.5 L/分の速度でゆっくり採取し、1.5 mmol/L の炭酸ナトリウムと 1.5

mmol/L の炭酸水素ナトリウムで脱着させ、イオンクロマトグラフィーとパルス式電気化学

検出器を用いて分析する。これにより、0.01 mg/m3 の検出限界が得られる。相対湿度が

50%より高い場合は、インピンジャー代替法を用いる(OSHA, 1994)。NIOSHMethod No.

6005 では、Kimet al.(1981)の方法に基づいた、0.5~50 mg/m3 の濃度を測定できる方法を推

奨している。すなわち、アルカリ処理した活性炭充填管に空気を 0.5~1 L/分の速度で通し

て 15~225 L の試料を採取し、陰イオン分離カラムと交換ガードカラム中で炭酸ナトリウ

ムにより脱着と溶出を行い、イオンクロマトグラフィーにより分析する(NIOSH, 1994)。

水、海水、廃水:EPA Method 320.1(ヨウ化物と臭化物に有効)および EPA Method 345.1(ヨ

ウ化物だけに有効)に従い、酸化カルシウム(生石灰)への干渉防止策を施し、酢酸塩とギ

酸塩を用いて試料 100 mL 中のヨウ化物をヨウ素酸塩に変換し、ヨウ化カリウム(KI)を添

加し、フェニルアルシンオキシドまたはチオ硫酸ナトリウムで滴定して、2~20 mg/L の範

囲でヨウ素を測定する。

水: 初に塩酸で試料を酸性化し、次に過酸化水素または過マンガン酸カリウムで酸化し

て、過剰な酸化剤を除去した後、ヨウ素酸カリウム(KIO3)で滴定し、分光光度計にかける。

この方法による試料の検出限界は 25 μg/L~6.35 mg/L、回収率は 0.13~6.35 mg/L で約

100%である(Pesavento & Profumo, 1985)。

飲料水:HPLC-UV 法を用いる。試料を Dionex AS12 分析用 HPLC カラムで分離する。溶

出されたヨウ素酸塩を、酸性化された臭化物と、ポストカラム反応法で反応させて三臭素

化物を生成させ、267 nm で検出する。この方法による試料の検出限界は 0.05 μg/L、回収率

は 0.5~2.0 μg/L で 100~111%である(Weinberg & Yamada, 1997)。

飲料水(総ヨウ素量):試料に炭酸カリウムを加えて遠心分離し、沈殿したアルカリ土類金

属を除去する。硝酸、塩化ナトリウム、硫酸アンモニウム鉄、チオシアン酸カリウムを加

えた後、分光光度計にかけて、ヨウ素を測定する。この方法による試料の検出限界は 0.2

μg/L、回収率は 90~108%である(Moxon, 1984)。

海水(ヨウ素):試料中のヨウ素を硝酸銀で沈殿させた後、沈殿物を、臭素で飽和した酢酸

に溶解する。この溶液を濾過後、濾液を濃縮・減容し、でんぷん溶液とヨウ化カドミウム

(CdI2)に反応させてから、分光光度計にかける。この方法による試料の検出限界は 0.025 べて SI 単位で表示する。原著や原資料が SI 単位で表示した濃度は、そのまま引用する。原著や原資料

が容積単位で表示した濃度は、気温を 20°C、気圧を 101.3 kPa と想定して、ここで示した変換係数を用

いて換算する。変換時の有効数字は 2 桁までとする。

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μg/L、回収率は 10 μg/L のヨウ素の場合で 99%である(Tsunogai, 1971)。

土壌:試料を乾燥させて篩(篩径 7 mm)にかけ、粉砕して再度篩(篩径 2 mm)にかけ、2 N

水酸化ナトリウムで抽出する。亜ヒ酸を加えた後、ヒ素-セリウム触媒分光光度計にかけ

て自動分析する。この方法による試料の検出限界は 0.5 μg/g である(Whitehead, 1979)。回

収率のデータは得られていない。

土壌、底質、岩石:試料を乾燥して微粉砕した後、五酸化バナジウムと混合して熱水解さ

せる。放出されたヨウ素を水酸化ナトリウム溶液に溶解し、酸で消化してから、ヒ素-セ

リウム触媒分光光度計にかける。この方法による試料の検出限界は 0.05 μg/g(試料重量 0.5

g)、回収率は 75~90%である(Rae & Malik, 1996)。

植物:試料を硝酸と過酸化水素を用いてマイクロ波分解法で前処理し、チオ硫酸ナトリウ

ムまたはアスコルビン酸溶液で処理して、ヨウ素酸塩をヨウ化物に変換した後、ICP-MS

にかける。この方法による試料の検出限界は 100 pg/g、回収率は 96~105%である(Kerl et

al., 1996)。

環境塩:中国製塩工業会社の製塩研究所(Salt Research Institute of China National Salt Industry

Corporation)で比色分析法が開発されており、WYD Iodine Checker を使用する。WYD

Iodine Checker は、単一波長分光光度計の一種で、ヨウ素-デンプン青色化合物の 585 nm に

おける吸収に基づいて、塩中のヨウ素濃度(mg/kg)を測定する。製造業者の仕様によると、

測定範囲は 10~90 mg/kg、分析誤差は 2 mg/kg 未満である。重量は 500 g、外形寸法は 175

× 135 × 60 mm で、移動が容易である。製造業者によれば、湿性・腐食性条件下での使用に

耐える。交流 220 V または直流 9 V で動作し、単 3 電池なら 6 個必要である。

3.2 生体試料

尿:尿試料 500 μL を、1%水酸化テトラメチルアンモニウム、0.02%トリトン X100、25

μg/L テルル、5 μg/L ビスマス、5%(v/v)エタノール、1000 μg/L 金、0.5 g/L EDTA を含む希

釈液で、1:10 の割合で希釈する。尿中ヨウ素濃度の測定は、四重極型 ICP-DRC-MS で行う。

希釈した尿試料を、噴霧チャンバ内で、噴霧器を用いてエアロゾル化する。試料中のイオ

ン類とキャリヤーガス(アルゴン)が、インターフェースを介して MS に入れられる。その

インターフェースは、大気圧(約 101.3 kPa)で動作している ICP 発生装置と、約 1.33 × 10-3

Pa で動作している MS を隔てている。衝突集束効果を利用する DRC 技術を用いると、

ICP-MS の感度をさらに調整でき、有効な濃度測定範囲を大幅に広げることができる。こ

の方法では、衝突集束効果をもたらす DRC ガスとして 100%アルゴンを用いる ICP-DRC-

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MS によって、尿中のヨウ素(同位体質量 127)、テルル(同位体質量 130)、ビスマス(同位

体質量 209)が測定される。尿試料、水、および内部標準としてテルルとビスマスを含む希

釈液を、1:1:8 の割合で混合し、尿試料を希釈する。尿中の検出限界は 1.75 μg/L、分析範囲

は 1.75~3,000 μg/L である(Caldwell et al., 2003, 2005b)。

尿:Dowex 1 × 8 樹脂カラムで試料を精製した後、乾燥した樹脂を、水酸化ナトリウム/硝

酸カリウムで溶融し、水に溶解する。0.5 mL を分取・乾燥し、ポリエチレンシート上に置

き、放射線を照射し、ヨウ素の担体を用いて水に溶解する。ヨウ素をトリオクチルアミン

/キシレン混合液で抽出した後、1 N アンモニアで逆抽出し、ヨウ化銀として沈殿させる。

沈殿物を、ガンマ線分光測定器付き INAA にかける。この方法の検出限界は 0.01 μg/L、回

収率は 94%である(Ohno, 1971)。

尿:試料を塩素酸で消化後、亜ヒ酸を加えてから、ヒ素-セリウム触媒分光光度計にかけ

て自動分析する。この方法の検出限界は、0.01~0.06 μg/試料(試料容積 0.02~0.50 mL)、回

収率は 96~97%と報告されている(Benotti & Benotti, 1963; Benotti et al., 1965)。

甲状腺組織:粉末にした組織または新鮮な組織を硫酸で消化した後、六ヨウ化アルミニウ

ム(Al2I6)に変換し、中性子を照射する。ヨウ素をパラジウムで沈殿させ、この沈殿物を中

性子放射化 MS にかける。検出限界は、0.11~2.17 μg/g(実測値の範囲)である(Boulos et al.,

1973; Ballad et al., 1976; Oliver et al., 1982)。回収率のデータは得られていない。

甲状腺以外の組織:試料を凍結乾燥してポリエチレンフィルムで密封し、窒化ホウ素で遮

蔽して熱外中性子照射を行ってから、INAA(ガンマ線分光測定)にかける。この方法によ

る試料の検出限界は、9.2~2,880 ng/g(実測値の範囲)である(Hou et al., 1997)。回収率のデ

ータは得られていない。

脂肪組織:試料をポリエチレンバイアルに入れて、中性子を照射し、INAA(ガンマ線分光

測定)にかける。この方法による試料の検出限界は 1.4~8.4 μg/g である(EPA, 1986)。回収

率のデータは得られていない。

組織:組織ホモジネートに水酸化ナトリウムとピロ亜硫酸ナトリウムの水溶液を加えて調

合する。灰化した後、残留物を水に溶解し、HPLC に注入して、2 カラム系で成分を分離

し、UV によるヨウ素の定量を行う。この方法による試料の検出限界は 0.07~1,060 μg/g

(実測値の範囲)、回収率は 87~97%である(Andersson & Forsman, 1997)。

糞便:試料を乾燥して微粉砕し、硝酸/フッ化水素酸で消化し、塩化ナトリウム/硝酸溶液

で処理した後、ICP-AES 分析にかける。この方法による試料の検出限界は 0.1 μg/mg、回収

率は 88~90%である(Que Hee & Boyle, 1988)。

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糞便:試料を乾燥して微粉砕し、塩素酸で消化し、亜ヒ酸を加えた後、ヒ素-セリウム触

媒分光光度計にかけて自動分析する。この方法による試料の検出限界は 0.01~0.06 μg/試料

(試料重量 20~30 mg)、回収率は 77~101%である(Benotti & Benotti, 1963; Benotti et al.,

1965)。

母乳:試料とアセトニトリルを 1:2 の割合で混合して、遠心分離する。上清を乾燥して、

アセトニトリル水溶液に溶解し、1 mL を分取して、2-ヨードソ安息香酸(2,6-ジメチルフェ

ノールを含むリン酸緩衝液中)で誘導体化する。HPLC-UV で分析する。この方法による試

料の検出限界は 0.5 μg/L、回収率は 97.6~102.4%である(Verma et al., 1992)。

組織(全般):組織をホモジナイズし、水酸化ナトリウムとピロ亜硫酸ナトリウムを加える。

この溶液を灰化し、水で再溶解し、分取して HPLC に注入する。カラム分離した後、UV

分光法で分析する。この方法の検出限界は、組織の種類により異なるが、0.07 μg/g 以上で、

回収率は、87~97%である(Andersson & Forsman, 1997)。代わりに、電気化学的検出器を使

用してもよい。

4. ヒトおよび環境の曝露源

ヨウ素は、地殻中に自然に存在する構成物質の一つである。ハロゲン元素の中では も存

在量が少ない(Straub et al., 1966)。地殻中のヨウ素の濃度は平均で約 0.5 mg/kg(堆積岩中で

高 380 mg/kg)である。海水中の濃度は 45~60 μg/L、大気中の濃度は 10~20 ng/m3 であ

る(海岸からの近さと土壌の性質により異なる)。

大気中のヨウ素には、自然起源のものと人為的活動によって放出されたものの両方がある。

地表のヨウ素の主な供給源は、海面からのヨウ素の揮発(海藻類から放出される有機ヨウ

素の蒸気など)である(Laturnus, 2001; Mäkelä et al., 2002)。大気中のヨウ素の総重量は約 4 ×

107 kg、平均濃度は 10~20 ng/m3 である(Whitehead, 1984)。ヨウ素が海洋から大気へ移行す

るその他のメカニズムの 1 つに、光化学的酸化すなわちオゾンによる酸化があり、この反

応によって、ヨウ化物はヨウ素に変化する(NCRP, 1983; Whitehead, 1984)。別のメカニズム

に、大気中のヨウ素の沈着があり、生物学的代謝によってヨウ素やヨウ化物からヨウ化メ

チルなどのヨウ化アルキルが生成される。大気中では、ヨウ化物が光分解を受けて、メチ

ルラジカルとヨウ素ラジカルに分離し、その結果、ヨウ素元素や他の形態の無機ヨウ素

(HI、HOI、INO2、IONO2、OIO など)が生成され得る(Chameides & Davis, 1980; Cox et al.,

1999; Vogt et al., 1999)。海洋中から大気中へのヨウ素の移行(年間約 1.3~2.0 × 109 kg)には、

ヨウ化物の光分解が重要な役割を果たしていることが示唆されている(USNRC, 1981;

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Rasmussen et al., 1982; Whitehead, 1984)。

化石燃料の燃焼によっても、ヨウ素の大気中への移行が起こる。ヨウ素は、石炭には平均

で約 4 mg/kg、石油には平均で 1 mg/kg 含まれていることが報告されている(Chameides &

Davis, 1980)。地球全体の石炭や石油の消費が現在のレベルで推移すると、ヨウ素が石炭や

石油から大気中に移行する量は、21 世紀に入って数年後には、年間 5 × 105 kg になると予

測される。

岩石の風化、火山活動、植物の腐食、降雨に沈着したヨウ素、人的活動は、いずれも、ヨ

ウ素を土壌に沈着させる。土壌に含まれるヨウ素の濃度は、全世界平均 5 mg/kg である

(Whitehead, 1984)。岩石の風化は、土壌中へのヨウ素の蓄積にほとんど関係ないとする研

究者も多いが(Goldschmidt, 1958; Whitehead, 1984; Fuge, 1987)、一方、ヨウ素の蓄積への寄

与の程度は、岩石によって異なるとする研究者もいる。岩盤が主に火成岩で構成されてい

る地域は、岩盤が主に堆積岩(火成岩よりヨウ素含有量の高い)で構成されている地域より

も、岩石の風化によってヨウ素が土壌中に蓄積する程度が、はるかに少ないと予想される

(NAS, 1974; Whitehead, 1984; Cohen, 1985)。

土壌中のヨウ素濃度は、0.1~150 mg/kg と、非常にばらつきがある。一般的に、土壌中の

ヨウ素の含有量は、その土壌の由来となる岩石中の含有量より高い。土壌中のヨウ素の大

部分は、大気に由来し、突きつめると海洋環境に由来している。したがって、土壌中のヨ

ウ素濃度は、海から遠いほど低く、この濃度勾配は、ヨウ素欠乏症の罹患率と整合してい

る(Fuge, 2005)。

石炭と石油の燃焼排煙から放出されるヨウ素は、 終的に土壌中に移行して、世界中で年

間 4 × 105 kg のヨウ素が土壌に付加されていると予想される。

農業活動では、主に動物の排泄とヨウ素を含有する肥料と農薬の使用により、ヨウ素が土

壌中に付加される。家畜の糞便には 1 kg あたり 10 mg ものヨウ素が含まれ、尿には 1 L あ

たり 大で 4 mg のヨウ素が含まれていることがある。チリ硝石を含有する肥料には、1 g

あたり 80 μg(0.08 mg/kg)ものヨウ素が含まれ、リン鉱石に由来する過リン酸と化成肥料に

は、1 g あたり 大で 26 μg(0.026 mg/kg)のヨウ素が含まれていることがある(Whitehead,

1979)。ヨウ素を含有する除草剤(オクタン酸イオキシニルなど)や殺真菌剤(ベノダニルな

ど)も、ヨウ素を土壌に付加するが、その程度はかなり低い(White-head, 1979, 1984)。

ヨウ素の世界生産量は、2003 年は推計 20,900 トンであった。その用途の内訳は、X 線造影

剤(23%)、酢酸の触媒的製造や他の化学物質の製造(17%)、ヨードフォール(ヨウ素の担体

として作用する界面活性剤)や殺生物剤(17%)、有機化学製品(12%)、医薬品(8%)、ナイ

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ロン(6%)、動物用飼料サプリメント(5%)、除草剤(4%)、ヒト用栄養剤(8%)となっている。

この他にも、電池、高純度金属、インク・着色剤、実験用試薬、潤滑剤、写真用化学薬品、

トール油の安定剤、ヨード化油、自動車燃料などに小規模に使用されている(Lyday, 2004)。

健康産業では、ヨウ素は、消毒剤や殺生物剤として、石けん、包帯、医薬品の製造や、浄

水に使用される。世界食塩ヨウ素添加計画(訳注:原文”Universal Salt Iodization project”の定

訳は和訳時には得られていない)計画を受けて、食卓塩へのヨウ素添加が行われており、

ヨウ素添加塩を使用している世帯は全世界で 70%に及んでいる(CDC, 2003)。

ヨウ素は、飲料水の消毒にも使用される(Parfitt, 1999)。地方自治体の排水処理プラントも、

地表水中のヨウ素の供給源である。

5. 環境中の移動・分布・変換

環境中のヨウ素の移動、分布、変化は、ひとまとめにして地球規模のヨウ素循環と呼ばれ

る、一連の複雑な物理的、化学的、生物学的過程を経て起こる。この循環(Figure 1)は、3

つの区画群で表すことができ、それぞれの区画群に含まれるヨウ素の量は基本的に定常状

態にあり、海洋(大気、深さで分けた 2 つの水層、底質)、陸地(大気、深さで分けた 3 つ

の土壌層)、陸生生物圏の間をそれぞれの速度で移行する形で相互につながっている。循

環の全体的な作用は、ヨウ素を、土壌と海洋の底質から水と大気に移動し、その後、利用

できる形で水生と陸生の生物圏全体に戻すことである。

Figure 1 の速度定数により、循環全体を推進しているのは、海水と海洋の大気との間にお

けるヨウ素のやり取りであることが示されている(USNRC, 1979; Kocher, 1981)。水生生物

学的には、海洋表面水にいる藻類とプランクトンによる、ヨウ素酸塩からヨウ化物への還

元と、その後の、有機ヨウ素化合物への変換という側面もある(Vogt et al., 1999)。これら

の化合物の揮発性が比較的高いことと、直接的な蒸発による損失があることから、一連の

ヨウ素化合物が海洋大気中に移動することとなる。主要な成分は、ヨウ化アルキル(ほと

んどはヨウ化メチル)と、これより少ないがヨウ素分子である。

大気中では、これらのヨウ素化合物のいくつかは、ヨウ素とそのラジカル(I·と IO·)に光化

学的に分解され、大気中の気体と反応して、反応性の高い様々なヨウ素の化学種を生成す

る。その結果、環境によっては、大気中の亜酸化窒素、二酸化窒素、オゾンの変換が起こ

る。オゾンの変換では、触媒として I·を使用する形で、酸素が生成される。ヨウ素化合物

は、また、エアロゾルや水滴と反応してヨウ素の陰イオンを生成し、化学種の幅を広げる。

地表水や地下水中へのヨウ素の移行は、主として、沿岸以外の地域では雨水を介して、沿

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岸地域では雨水と海のしぶきを介して起こる。この場合、ヨウ化物が水中で酸化されて次

亜ヨウ素酸(HOI)になることがあり、さらに、HOI が有機化合物と反応して、飲料水の味

と臭いに悪影響を及ぼすことがある(Bichsel & von Gunten, 1999)。一部の飲料水では、ヨウ

素の大部分が、海洋における供給源から生じた腐植物質で溶出されたものであることが報

告されている(Andersen et al., 2002)。

風化や溶解によって地表に遊離しているヨウ素の量が極めて少なく、地球表面にあるヨウ

素の大部分は採取・利用できないため、地球規模のヨウ素の循環は、陸生生物にとって極

めて重要である。陸地と陸生生物圏へのヨウ素の移行(1 年あたり 1.0 × 1011 g)は、海洋か

ら遠いほど少なくなり、気体の直接取り込みと、植物と土壌表面への乾性および湿性沈着

によって起こる。降雨や降雪による土壌へのヨウ素の湿性沈着量は約 16 g/ha/年、乾性沈

着量は約 9.6 g/ha/年と推測されている(Whitehead, 1984)。この沈着により、土壌-植物-

ウシ-牛乳という経路による移入がもたらされる。この経路には、季節、気温、牧草地の

栄養的品質といった構成要素が含まれる(Tracy et al., 1989; Pennington, 1990a)。ヨウ素は、

土壌の有機成分(腐植物質など)と反応して、ポリフェノールやチロシン残基とヨード化反

応することがある(Whitehead, 1984)。土壌中でも水中でも、pH 値が低下すると、ヨウ化物

がプロトン化されて揮発性ヨウ化水素が生成され、ヨウ化物のヨウ素酸塩に対する比率が

低下する。

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6. 環境中の濃度とヒトの曝露量

6.1 ヒトにおける必要量

ヨウ素は、生理学的機能を正常に保つ上で不可欠の微量元素である。甲状腺ホルモンの重

要な構成成分であり、代謝速度、成長、身体構造の発達、神経細胞の機能と発達の調整に

不可欠である。ヨウ素の WHO 推奨摂取量(集団別必要量)は、成人と 13 歳以上の青少年が

150 μg/日、妊娠・授乳中の女性が 200 μg/日、6~12 歳の小児が 120 μg/日、0~59 ヵ月の小

児が 90 μg/日である(WHO, 2004a)。

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6.2 環境中の濃度

ヨウ素は自然に存在する元素で、地殻中濃度は 0.5 mg/kg である。環境に遍在し、濃度は

一般に、陸上大気中が 2~14 ng/m3、洋上大気中が 17~52 ng/m3 、海水中が 45~60 μg/L、

洋上降水中が 1~15 μg/L、陸上降水中が 0.1~15 μg/L、河川水中が 0.1~18 μg/L、自治体の

下水中が 1.0~16 μg/L である。また、火成岩や堆積岩中のヨウ素含有量は 0.2~5.8 mg/kg

であり、有機物の豊富な土壌、石炭、頁岩では、この 5~10 倍高くなる(NAS, 1974;

USNRC, 1979; ATSDR, 2004)。大気中濃度は、10~20 ng/m3 で、主に海水の蒸発によるもの

と考えられている(WHO, 1988; Berthelsew & Thorup, 2002)。

6.3 ヒトの曝露量

ヒトにとっての代表的な曝露源中のヨウ素濃度を、Table 2 に示す。職業曝露に関する具体

的なデータは見つからなかったが、ヨウ素は、本書のセクション 4 に示すように、工業環

境で様々な用途で使われていることから、職業曝露が起こる可能性は極めて高い。

沿岸地域におけるヨウ素の吸入曝露量は、5 μg/日であると推定されている。この推定は、

ヨウ素濃度が 0.7 μg/m3 の沿岸大気に屋外で短時間に曝露され、残りの時間は、ヨウ素濃度

が 0~0.74 μg/m3 の屋内空気に曝露されたと想定したシナリオに基づいて行われた。屋外お

よび屋内で過ごす時間は明記されていない(FDA, 1974)。

ヨウ素の蒸気は、皮膚に浸透することが示されている(Gorodinskiy et al., 1979)。ただし、

放射標識された 131I の経皮吸収量は、同じ空気中濃度で曝露した場合に肺から吸収される

量の 1~2%でしかない。したがって、日常生活における空気からの総曝露量に占める経皮

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吸収量は、それほど多くないと判断される。

一般集団におけるヨウ素の主要な供給源は、食事による摂取である。一般的に、ヨウ素の

含有量が も高い食品は海産物であり(範囲 160~3,200 μg/kg、平均 660 μg/kg)、貝や甲殻

類に含まれるヨウ素の平均濃度は、0.798~1.6 mg/kg である。ケルプなどの海藻(1~2

mg/kg)や海塩( 大 1.4 mg/kg)にも、ヨウ素が豊富に含まれている。先進国で、ヨウ化物の

供給源として も重要な食品には、成分無調整乳(平均 27~47 μg/kg)などの乳製品、鶏卵

(平均 93 μg/kg)、穀類・穀類製品(平均 47 μg/kg、土壌による)がある。淡水魚(平均 30

μg/kg)、牛・豚・鶏肉(平均 50 μg/kg)、果物(平均 18 μg/kg)、豆(平均 30 μg/kg)、豆以外の

野菜(平均 29 μg/kg)も、ヨウ素の供給源となる食品である(WHO, 1996; MAFF, 2000; Souci

et al., 2000; EGVM, 2002)。

一部の国では、1950 年代以降、ヨウ素欠乏症の続発性疾患を防止するために、ヨウ素が食

卓塩(NaCl)に常に添加され、ヨウ素が食事から適正に摂取されるようになっている。ヨウ

素添加塩中のヨウ化物含有量は、ドイツが 15~25 mg/kg のヨウ素(ヨウ素酸カリウムとし

て)、オーストリアが 20 mg/kg のヨウ素(ヨウ化カリウムとして)、スイスが 25 mg/kg のヨ

ウ素(ヨウ化カリウムとして)と報告されている。調理することで、食品中のヨウ素含有量

は減少する。調理法による減少率は、揚げた場合が 20%、焼いた場合が 23%、煮た場合が

58%である(WHO, 1996)。

植物性食品中のヨウ素濃度は、植物の種類、海からの距離、ヨウ素含有肥料の使用の有無

によって、かなり異なっている。地表水中のヨウ素含有量が 5 μg/L を上回ることは、めっ

たにないため、飲料水は一般的に、ヨウ素摂取にあまり寄与していない。ヨウ素を含有す

る食品添加物も、ヒトの食事からのヨウ素摂取量に寄与している可能性がある。乳化剤、

安定剤、増粘剤として使用されている、ヨウ化銅(II)(CuI)とヨウ化カリウム(食卓塩中)、

アルギン酸、アルギン酸塩には、ヨウ素が 9 mg/kg も含まれていることがあるが、これら

の平均摂取量は 1 μg/日で、食事からのヨウ素の総摂取量に寄与する割合は小さいと考えら

れる(FDA, 1974)。食品カテゴリー別に報告されている、食品からのヨウ素摂取量の推定

平均値は、牛乳を除く飲料の 3 μg/日(男女とも)から、肉・肉製品の 84.5 μg/日(男性)およ

び 49.9 μg/日(女性)にわたっている(FDA, 1974)。

水などの飲料中のヨウ素も、食事からのヨウ素摂取量にかなり寄与する可能性があり、ヨ

ウ素摂取において、水道水のヨウ素が重要である国は多い(Hales et al., 1969; Pedersen et al.,

1999; Rasmussen et al., 2000; Andersen et al., 2002)。Pedersen et al.(1991)によれば、デンマー

ク国内の 55 ヵ所で採取された水道水中のヨウ素濃度は、1.0μg/L 未満から 139 μg/L にわた

っており、ヨウ素の摂取量に地域差を生じさせている。概して、ヨウ素含有量は、ユトラ

ンド半島では低く(中央値 4.1 μg/L)、シェラン島(23 μg/L)などの島々では高かった。デン

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マークの地下水中のヨウ素は、帯水層で腐植物質(海底質から浸出してくると考えられる)

と結合している(Laurberg et al., 2003)。グリーンランドでは、水道水の大部分は、氷河や雪

解け水を水源とする地表水である(Andersen et al., 2002)。

ヨウ素の濃度が、いくつかの食品や栄養補助食品と、英国の「トータルダイエット(全食

事)」品目の何例かについて測定された(Lee et al., 1994)。英国の 13 地域で 1990~1992 年の

間に 4 回採取された牛乳のヨウ素含有量は 150 μg/kg(範囲:140~310 μg/kg)、対して 1977

~1979 年は 230 μg/kg であった。魚と魚加工品中のヨウ素濃度は、110~3,280 μg/kg であっ

た。トータルダイエット調査から推定されたヨウ素の摂取量は、1985 年が 173 μg/日、

1991 年が 166 μg/日であった。

2001~2002 年に、米国マサチューセッツ州ボストンで、パン 20 銘柄、牛乳 18 銘柄、乳児

用調製粉乳 8 種類のヨウ素含有量の調査が行われている(Pearce et al., 2004)。パンのヨウ素

含有量は、3 銘柄では 1 切れあたり 300 μg を超えていたが、これ以外の銘柄では、はるか

に少なかった(1 切れあたり平均±SD で 10.1 ± 13.2 μg)。牛乳のヨウ素含有量は、全銘柄で

250 mL あたり少なくとも 88 μg であり、平均が 250 mL あたり 116 ± 221 μg で、250 mL あ

たり 88 μg から 168 μg にわたっていた。乳児用調製粉乳のヨウ素含有量は、全種類の平均

が 150 mL あたり 23 ± 13.78 μg で、種類によって 150 mL あたり 16.2 μg から 56.8 μg にわた

っていた。一般的な食品には、ヨウ素含有量に大きなばらつきのあるものがあり、実際の

ヨウ素含有量が食品のパッケージに表示されている数値と異なっている場合も多い(Pearce

et al., 2004)。穀類製品に含まれているヨウ化物には、ヨウ素酸塩を含有する生地改良剤に

由来するものがある(European Commission, 2002)。

酪農業では、ヨウ素やヨードフォールが消毒剤や殺菌剤として使用されているため、食事

からのヨウ素摂取における牛乳の寄与率が高くなっている。その結果、チーズやアイスク

リームにも、生物学的に有意な量のヨウ素が含まれている。ヨウ素は、牛乳には 0.10~

0.70 mg/L の濃度で含まれており(Pennington, 1988)、チーズには、425 μg/kg も含まれてい

ることが報告されている(FDA, 1974)。飼料栄養補助剤や、ヨードフォールを成分とする

乳頭ディッピング液や乳房洗浄液も、牛乳のヨウ素含有量を上げる要因である(FDA,

1974)。ヨウ素系の乳頭ディッピング液は、ヨウ素を 大 1%含んでおり、使用すると、ヨ

ウ素が皮膚から吸収されて乳に移行し、乳中のヨウ素含有量が有意に上昇することが報告

されている(Conrad & Hemken, 1978)。タンク車やタンク、搾乳機の清掃に使われる消毒液

のポビドンヨード(ヨウ素分子と、可溶化剤としてポリビニルピロリドンを含有する)には、

ヨウ素が 12.5~25 mg/L の濃度で含まれている可能性がある(Pearce et al., 2004)。一部の国

では、酪農で使われているヨウ素を、塩素で代替するようになってきている。この動きに

加え、医学的な見地から、パンの添加物のヨウ素含有量と塩分摂取量を減らす取り組みに

よって、食事性ヨウ素の摂取量に減少がみられている(Caldwell et al., 2005a)。

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一部の薬物や、ビタミン・ミネラルのサプリメントも、日常的なヨウ素曝露に寄与してい

る。ヨードチンキは、消毒薬として使用されているが、1839 年にフランスで手術に使用さ

れたのが 初であるとされている(Hardman et al., 2001)。ルゴール液などの水性ヨウ素溶液

も、殺菌、殺胞子、殺真菌などの消毒作用があるため、消毒薬として使用されている。ヨ

ードフォール〔ヨウ化ナトリウム(NaI)などのヨウ化物の徐放性供給源として機能する界面

活性剤の担体と、ヨウ素との複合体〕は、現在、医療分野で幅広く使用されており、特に

術後感染の予防に重用されている。

栄養補助食品にはヨウ素が含まれていることが多い。一般的に、ヨウ化カリウムとして含

まれており、メーカーによっては、1 日 300 μg を摂取することを推奨している。

ヒトの母乳に含まれる安定ヨウ素の正常濃度について、国際放射線防護委員会(ICRP)は 20

~150 μg/L(平均 70 μg/L)(ICRP, 1975)、米国医学研究所(IOM)は 110 ± 40 μg/L と報告して

いる(IOM, 2000)。1980 年代の各国の値は、旧ドイツ民主共和国が 12 μg/L、イタリアが 27

μg/L、フランスが 95 μg/L、米国が 178 μg/L(中央値)で、700 μg/L という高い値も報告され

ている(Guswurst et al., 1984)。より 近の調査では、1990 年代のドイツにおける母乳中の

ヨウ素濃度は、1992 年が 36 μg/L、1994 年が 86 μg/L、1995~1996 年が 95 μg/L と報告され

ている(Meng & Schindler, 1998; European Commission, 2002)。1990 年代初めのスペインにお

ける調査では、平均 100 μg/L と報告されている(Ares et al., 1994)。

母乳を与えている母親は、一般に、1 日あたり 500~800 mL(平均 780 mL)の母乳を生成し

ており(SCF, 1993)、母乳中のヨウ素濃度と、この数値を掛けることにより乳児の曝露量を

評価することができる。

母乳中へのヨウ素の分泌量については、セクション 7.4 で述べる。

米国人の食事からのヨウ素摂取量については、CDC が、米国国民健康栄養調査(NHANES)

によって綿密な追跡を行っている。ヨウ素の摂取量は、初回調査の 1971~1974 年が 320 ±

6 μg/L、第 3 回調査の 1988~1994 年が 145 ± 3 μg/L と、この間、大幅な減少傾向がみられ

ている。その後、ヨウ素の摂取量は、2001~2002 年が 167.8 ± 10 μg/L と、減少傾向には歯

止めがかかっている(Caldwell et al., 2005a)。ヨウ素のサプリメントもヨウ素の重要な供給

源であり、摂取している人は多い。NHANES III(Hollowell et al., 1998)によると、米国では、

栄養補助食品によるヨウ素摂取量の中央値が、男女とも、成人 1 人あたり 140 μg であった。

また、1986 年は、米国人の約 12~15%がヨウ素のサプリメントを摂取していた(IOM,

2001)。FDA による調査の結果、米国の成人における 1 日あたりのヨウ素摂取量の中央値

は、男性が 240~300 μg、女性が 190~210 μg であることと、あらゆる世代区分と性別にお

いて 95 パーセンタイルで も高い摂取量は、サプリメントを除き、1.15 mg/日であること

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が示唆されている(IOM, 2001)。

食事性ヨウ素の摂取量は、地理的な条件によって異なる。欧州各国では、ヨウ素の摂取状

況の評価に、尿中ヨウ素濃度が用いられている(ICCIDD, 2003)。調査が行われた 13 ヵ国で

見ると、38 μg/L という低い数値から、160 μg/L という高い数値まで、尿中ヨウ素濃度には

大きな幅がある。また、一部の国では、国内でも尿中ヨウ素濃度に大きな地域差があり、

例えば、デンマークでは 10~38 μg/L、スペインでは 50~100 μg/L、ギリシャでは 84~160

μg/L であった。オランダは 155 μg/L、スイスは 115 μg/L、イギリスは 141 μg/L であり、こ

れらの国と、ギリシャの一部地域のヨウ素の摂取状況は適切であった。ベルギーは 80 μg/L、

ドイツは 83~99 μg/L、フランスは 83 μg/L、ハンガリーは<100 μg/L で、これらの国のヨウ

素摂取状況は、わずかに不十分であると評価された。オーストリアは 98~120 μg/L、ポー

ランドは>100 μg/L、スウェーデンは>100 μg/L で、これらの国のヨウ素摂取状況は、適正

であると評価された。

WHO、UNICEF、ICCIDD では、ヨウ素の 1 日あたりの適正摂取量として、就学前の小児

(生後 0~59 ヵ月)で 90 μg、学齢期の小児(6~12 歳)で 120 μg、成人(12 歳超)で 150 μg、

妊婦・授乳婦で 200 μg を推奨している(WHO/UNICEF/ICCIDD, 2001; WHO, 2004a)。

7. 実験動物およびヒトでの体内動態・代謝の比較

ヨウ素による甲状腺の生理学的調節は複雑であり、ヨウ素量と投与速度に左右される生化

学的・生理学的な数段階のフィードバック機構が関与している。

7.1 吸収

ヨウ素分子は、肺や消化管から吸収されやすいことが報告されている。ボランティアに放

射性ヨウ素(I2 蒸気として)を吸入させた試験では、吸入されたヨウ素は、ほぼ全量が気道

から消失し、半減期は約 10 分であった(Black & Hounam, 1968; Morgan et al., 1968)。吸入さ

れたヨウ素の多くが、粘液線毛クリアランスによって、消化管に移行した。吸入されたヨ

ウ素が比較的速く吸収されることは、マウス、ラット、イヌ、ヒツジを用いた試験で裏づ

けられている(Willard & Bair, 1961; Bair et al., 1963)。

蒸気やエアロゾルの形で吸入されヨウ素の無機化合物も、急速に吸収される。ヨウ化ナト

リウムの微粒子(エアロゾル)を吸入させたサルでは、吸入されたヨウ化ナトリウムの半減

期は約 10 分であった(Thieblemont et al., 1965; Perrault et al., 1967)。放射性ヨウ素を、ヨウ

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化ナトリウムかヨウ化銀のいずれかのエアロゾルとして吸入させたマウスとヒツジの試験

(Willard & Bair, 1961; Bair et al., 1963)と、131I を含有する塩化セシウムのエアロゾルに曝露

させたラットとイヌの試験(McClellan & Rupprecht, 1968; Thomas et al., 1970)でも、ヨウ素

が肺から比較的速く吸収されることが示されている。

水溶性塩の形で摂取されたヨウ素は、多くの場合、消化管から 100%吸収される。摂取さ

れた無機ヨウ素と無機ヨウ素酸塩は、腸でヨウ化物に還元され、ほぼ完全に小腸で吸収さ

れる。甲状腺機能が正常な成人 7 名を対象にした曝露試験では、単回経口摂取されたトレ

ーサー量の 131I のうち、1%未満が便から検出された。このことから、摂取された放射性ヨ

ウ素の吸収率は 100%に近いことが示唆される(Fisher et al., 1965)。また、甲状腺機能が正

常な別の成人 20 名を対象にした曝露試験では、ヨウ化カリウムが 13 週間連日摂取され、

ヨウ素の 1 日の尿中排泄量が、1 日の推定摂取量の約 80~90%であった。よって、このこ

とからも、ヨウ素の吸収率は 100%に近いことが示唆される(Fisher et al., 1965)。さらに別

の、健康な成人 9 名を対象にした急性曝露試験では、単回摂取されたトレーサー量の放射

性ヨウ素のうち、97%が尿中と甲状腺中に移行し、一方、安定ヨウ化物(化合物の詳細な記

載なし)を摂取した 2 名でも、同様の結果が得られている(Ramsden et al., 1967)。近年の試

験では、便中排泄率が 1~2%であることが報告されている(Larsen et al., 1998; Hays, 2001)。

放射性ヨウ素の経口投与後 24 時間における甲状腺での取り込み量を見ると、ヨウ素の消

化管からの吸収は、小児、青年、成人で同様であると思われる(Oliner et al., 1957; Van Dilla

& Fulwyler, 1963; Cuddihy, 1966)。ただし、新生児の経口投与による取り込み量は、月齢の

高い乳児や成人よりも低いことが示されており、可溶性の高い化学形態を除いて、取り込

み量は 2~20%であると推定されている(Ogborn et al., 1960; Morrison et al., 1963; ICRP,

1996)。

食品中のヨウ素は、ほぼ完全に吸収されるようである。健康な成人女性 12 名を対象に行

われた食事バランス試験では、170~180 μg/日の用量で 7 日間の摂取が 2 回行われ、1 日の

摂取量の 96~98%が尿中に排泄された。このことから、投与量のほぼ全量が吸収されるこ

とが示唆される(Jahreis et al., 2001)。牛乳中のヨウ素もほぼ完全に吸収されることが示され

ている(Comar et al., 1963; Cuddihy, 1966)。ドイツ人の健康な成人女性 12 名を対象にした 2

期の食事バランス試験で、乳製品の多い通常の食事で摂取されたヨウ素の生物学的利用率

が示されている。ヨウ素の平均摂取量は、固体食品の場合は 175 ± 10 μg/日、液体食品の場

合は 27 ± 15 μg/日であった。牛乳と乳製品は、主要なヨウ素供給源(37%)であった。ヨウ

素は主に、尿(89%)(171 ± 45 μg/日)と、便(11%)(20 ± 11 μg/日)に排泄されていた。ヨウ素

の差し引きは、約+5%であった。

ヒトを対象とした試験(Harrison, 1963)で、放射性ヨウ素 131I をヨウ化カリウムまたはヨウ

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素分子として局所塗布し、ヨウ素の経皮吸収が調べられている。この試験の一部として、

各被験者の片方の前腕の 12.5 cm2 の範囲に、トレーサー濃度(極低濃度)の K131I の水溶液

が塗布され、3 日間の累積尿中放射能を指標として測定したところ、吸収率は約 0.1%と推

定された。また、この試験のもう一部として、被験者の女性 2 名に、同様に、トレーサー

の 131I2の水溶液を、127I2の担体 0.1 mg とともに局所塗布したところ、吸収率は、塗布され

た量の 0.06~0.09%と推定された。また、同じ試験で、12.5 cm2 の範囲の皮膚を、ヨウ素の

蒸気に 30 分間または 2 時間曝露したところ、吸収率は、蒸気中に含有される 127I2 の担体

の量によって異なることがわかった。担体の量が も低い(約 0.8 mg を皮膚に塗布)場合の131I の吸収率は、2 時間曝露の後に皮膚上にあった放射能の 1.2%であった。この結果は、

Gorodinskiy ら(1979)が、男性ボランティア 7 名の全身の皮膚を、低濃度(約 4 Bq/L)の 131I

ガスに、吸入から防護しながら 4 時間曝露させた試験の結果によって裏づけられている。131I の甲状腺への蓄積量が、経皮取り込み量の指標として使用された。この結果を、これ

までの吸入試験の結果と比較して、同等の空気中濃度の場合、経皮吸収率は、吸入による

取り込み量の 1~2%であることが明らかにされた。

7.2 分布

吸収されたヨウ素の体内分布は、どのような経路で無機ヨウ素に曝露されたかに関係なく、

同様である。放射標識されたヨウ素をヨウ化ナトリウムとして、トレーサー濃度でヒトに

経口摂取させた曝露試験では、約 20~30%のヨウ素が甲状腺に分布し、約 30~60%が約 10

時間で尿中に排泄された。Na132I をトレーサー濃度で経口摂取させた場合も、本質的に同

じ結果が得られている(Morgan et al., 1967a,b)。放射性ヨウ素を I2として、トレーサー濃度

でボランティアに吸入させた試験でも、同様の結果が示されている(Black & Hounam,

1968)。ヨウ化ナトリウムの微粒子(エアロゾル)を吸入、またはヨウ化物を経口摂取させ

たサルでも、同様の結果が得られている(Thieblemont et al., 1965; Perrault et al., 1967)。

食事性ヨウ素の吸収量や取り込み量は、喫煙や、チオシアン酸塩、イソチオシアン酸塩、

硝酸塩、フッ化物、カルシウム、マグネシウム、鉄が含まれている食品・水の摂取によっ

て減少する(Ubom, 1991)。X 線造影剤、エリスロシンから遊離したヨウ化物、抗不整脈薬

のアミオダロン、浄水用錠剤、皮膚・歯科用消毒剤などから、ヨウ素が大量に吸収された

場合も、ヨウ素の取り込みが減少して、ヨウ素欠乏症状が起こる(European Commission,

2002)。

ヒトの身体にはヨウ素が約 10~15 mg 含まれており、このうち 70~90%は、甲状腺ホルモ

ンのトリヨードチロニン(T3)とテトラヨードチロニン(T4、別名:チロキシン)の合成が行

われる甲状腺に含まれている(Stather & Greenhalgh, 1983; Cavalieri, 1997; Hays, 2001)。正常

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な血清中ヨウ素濃度は 50~100 μg/L で、約 5%が無機的形体、95%有機的形体で、主に T3

と T4 として存在する(Wagner et al., 1961; Fisher et al., 1965; Nagataki et al., 1967; Sternthal et

al., 1980)。

ヨウ化物は、ヨウ化物を蓄積する特殊な輸送メカニズムを持つ組織(甲状腺、唾液腺、胃

粘膜、脳室脈絡叢、乳腺、胎盤、汗腺など)を除いては、主に細胞外液に限局して存在す

る(Brown-Grant, 1961)。

ヨウ化物の血清中濃度は、一般的に 5~15 μg/L であり、細胞外液量を約 17 L と仮定する

と、細胞外液に含まれるヨウ化物の総含有量は 85~170 μg である(Cavalierei, 1997; Saller et

al., 1998)。甲状腺中のヨウ化物濃度は、通常、血清中の 20~50 倍であるが、下垂体前葉か

ら TSH が放出され、甲状腺が刺激されると、血中の 100 倍を超える。甲状腺中のヨウ化物

濃度が、血中の 400 倍を上回った例も報告されている(Wolff, 1964)。甲状腺濾胞内に能動

輸送されたヨウ化物は、酸化されてヨウ素分子になり、コロイド中のサイログロブリンの

チロシン残基に結合して、甲状腺ホルモンの T3 と T4 と、その様々な合成中間体と分解産

物が生成する。ヨウ化物の甲状腺への取り込み量は、ヨウ化物の摂取量に左右され、ヨウ

化物の摂取量が減少すると、甲状腺への取り込み率は上昇する(Delange & Ermans, 1996)。

甲状腺ホルモンは脂溶性であり、胎盤関門を通過できる。そのため、一般的に、ヨウ素へ

の母体曝露によって、胎児の甲状腺ホルモンへの曝露が起こる(ICRP, 2001)。ヒトでは、

胎児の甲状腺へのヨウ化物の蓄積は、妊娠 70~80 日目頃から始まり、甲状腺濾胞の発達

より前に起こる(Evans et al., 1967; Book & Goldman, 1975)。胎児のヨウ素取り込み量は、胎

児の甲状腺の発達とともに増加し、妊娠 6 ヵ月くらいでピークに達する(Aboul-Khair et al.,

1966; Evans et al., 1967)。

ヨウ化物の甲状腺への取り込み率は、出生後 10 日以内の新生児では、成人に比べて 3~4

倍高いが、生後約 10~14 日で、成人と同じレベルに低下する(Van Middlesworth, 1954;

Ogborn et al., 1960; Fisher et al., 1962; Kearns & Philipsborn, 1962; Morrison et al., 1963).

7.3 代謝

無機ヨウ素に曝露された経路が異なっていても、吸収されたヨウ素の代謝は同様である。

摂取されたヨウ化ナトリウムも、吸入されたヨウ化メチル(CH3I)やヨウ素分子も、急速に

ヨウ化物に変換されるようである(Morgan & Morgan, 1967; Morgan et al., 1967a,b, 1968;

Black & Hounam, 1968)。ただし、ヨウ素とヨウ化物では、消化管における代謝の副産物が

異なっている可能性があることが示唆されており、報告されている試験結果に違いがみら

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れる要因である可能性がある(Sherer et al., 1991)。

甲状腺ホルモンの合成に関与する代謝の過程は、次のようなメカニズムによっている。ヨ

ウ化物イオンが、能動輸送によって、血中から甲状腺濾胞細胞の細胞質ゾルに運ばれる。

同時に、濾胞細胞では、約 5,000 個のアミノ酸(このうち、100 個以上がチロシンであり、

ヨウ素化の部位となる)が含まれる高分子量の糖タンパク質であるサイログロブリンが合

成されている。合成されたサイログロブリンは、開口分泌によってコロイド内に輸送され

る。負の電荷を帯びたヨウ素原子(I-)は、チロシンに結合できないため、このヨウ素イオ

ンは、ペルオキシダーゼの作用で I2 に変換されてから、コロイド中に放出され、サイログ

ロブリンのチロシン残基と結合する。ヨウ素が、コロイド中のサイログロブリンのチロシ

ン残基と結合すると、モノヨードチロシン(T1)が生成し、さらに第 2 のヨウ素化によって、

ジヨードチロシン(T2)が生成する。次の段階で、2 個の T2分子が結合して T4が生成し、ま

たは 1 個の T1と 1 個の T2が結合して T3が生成する。 終的に、コロイド小滴が、飲作用

によって再び濾胞細胞内に入り、リソソームと合体し、サイログロブリンが分解されて、

T3分子と T4分子が放出される。 T1と T2も放出されるが、この 2 つは脱ヨウ素化され、放

出されたヨウ素は、再利用されてさらに T3と T4が合成される。T3と T4 は脂溶性であるた

め、細胞膜を通過、拡散して血中に入り、両方とも 99%以上が、血中の輸送タンパク質

(主に、チロキシン結合グロブリン)と結合する。この過程は、下垂体前葉から分泌される

甲状腺刺激ホルモン(TSH)の調節下にあり、TSH は、血中甲状腺ホルモン低値や、代謝速

度・体温の低下を受けて、視床下部から放出される甲状腺刺激ホルモン放出ホルモンに反

応して放出される(Guyton & Hall, 1996)。

甲状腺外でのヨウ素の主要な代謝経路は、T3と T4の異化反応に関与しており、脱ヨウ素化

や、チロニンのエーテル結合開裂、チロニンの側鎖の酸化的脱アミノ化と脱炭酸化、チロ

ニンのフェノール性ヒドロキシル基のグルクロン酸抱合と硫酸抱合などが起こる。T4 の T3

への脱モノヨウ素化は、T4よりホルモン効力が大きい末梢の T3の主要な生成源であると同

時に、3,3′,5-トリヨード-L-チロニンの主要な生成源であり、ヒトでは T4 の総代謝回転の約

80%を占める(Engler & Burger, 1984; Visser, 1990)。ヨードチロニン脱ヨウ素酵素も、T4と

T3の不活性化を触媒する(Darras et al., 1999; Peeters et al., 2001)。脱ヨウ素化は、脱ヨウ素

酵素によってセレン依存的に触媒される。

ヨードチロニンのアラニン側鎖の酸化的脱アミノ化と脱炭酸化が、T3と T4の代謝回転全体

に占める割合は、それぞれ約 2%と 14%である(Braverman et al., 1970; Gavin et al., 1980;

Pittman et al., 1980; Visser, 1990)。この 2 つの反応を触媒する酵素の特性は、十分に明らか

にされていない。

肝臓では(おそらくは他の組織でも)、ヨードチロニンのフェノール基の硫酸抱合が起こる。

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ヒトの肝臓では、この反応はフェノール性アリール硫酸転移酵素によって触媒される

(Young, 1990)。フェノール環にヨウ素鎖を 1 つ持つヨードチロニンは、硫酸化され易く

(Sekura et al., 1981; Visser, 1994)、硫酸化産物は脱ヨウ素化される。

肝臓では(おそらくは他の組織でも)、ヨードチロニンのフェノール性ヒドロキシル基のグ

ルクロニド抱合も起こる。ヒトでは、ヨードチロニンの抱合に関与するグルクロン酸転移

酵素は、まだ確認されていないが、ラットでは、ミクロソームビリルビン UDP グルクロ

ン酸転移酵素(UGT)、p-ニトロフェノール UGT、アンドロステロン UGT などの酵素の存

在が示されている(Visser et al., 1993)。

通常の条件におけるヨードチロシンの代謝経路として、エーテル結合の開裂もあるが、小

規模である。ただし、この代謝経路によって、高用量の T4 の投与患者または重篤な細菌感

染症患者の血清からジヨードチロシンが検出される理由が説明できる(Meinhold et al., 1981,

1987, 1991)。

7.4 排泄と移行

ヒトでは、ヨウ素の主要な排泄経路は尿であり、主にヨウ化物として排泄される(Bricker

& Hlad, 1955; Walser & Rahill, 1965)。吸収されたヨウ素の排泄のうち、尿中に排泄される

分は 97%を上回り、便中に排泄されるのは 1~2%である(Larsen et al., 1998; Hays, 2001)。

ただし、腎臓で濾過されたヨウ化物がすべて尿中に留まるわけではない。放射性ヨウ素の

濃度が定常状態にある場合、放射性ヨウ素の腎血漿クリアランスは、糸球体濾過率の約

30%で、ヨウ素が尿細管から再吸収されることが示唆される(Vadstrup, 1993)。イヌを用い

た放射性ヨウ化物の腎クリアランスに関する試験でも、ヨウ化物の尿細管再吸収の証拠が

得られている(Walser & Rahill, 1965; Beyer et al., 1981)。この再吸収の正確なメカニズムは、

あまり明らかになっていない。

T3 および T4 のグルクロニド抱合体や硫酸抱合体と、それらの代謝物は、胆汁中に分泌(排

泄)される。胆汁中に排泄される T4 とその代謝物の総量は、T4 の 1 日あたりの代謝クリア

ランスの約 10~15%であった(Myant, 1956; Langer et al., 1988)。ラットでは、T4クリアラン

ス全体の約 30%をグルクロニド抱合体の胆汁排泄が占め、約 5%を硫酸抱合体の胆汁排泄

が占めていることが報告されている。胆汁とともに小腸に排泄された抱合体は、十分に加

水分解され、ヨードチロニンが再吸収される(Visser, 1990)。

吸収されたヨウ素は、母乳、唾液、汗、涙、呼気中にも移行・排泄され得る(Cavalieri,

1997)。放射性ヨウ素(123I)をトレーサー量で投与した成人患者では、4 時間にわたってト

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レーサー量の約 0.01%が涙から回収され、投与後 1 時間で活性のピークが認められている

(Bakheet et al., 1998)。放射能は、曝露後 24 時間の涙中からも検出されている。ヒトでは、

ヨウ素の唾液中への排泄も報告されているが(Brown-Grant, 1961; Wolff, 1983; Mandel &

Mandel, 2003)、総ヨウ素排泄量に占めるこの経路で排泄されるヨウ素の量は、おそらく極

わずかであると思われる。激しい身体活動中は、汗中にも検出可能な量のヨウ化物が排泄

されることがある(Mao et al., 2001)。

ヒトにおけるヨウ化物の母乳中への移行については、相当量報告されており、本 CICAD

のセクション 6.2 で考察されている(Hedrick et al., 1986; Spencer et al., 1986; Dydek & Blue,

1988; Lawes, 1992; Robinson et al., 1994; Rubow et al., 1994; Morita et al., 1998)。体内に取り込

まれたヨウ素 131I の母乳中への移行係数(131I の摂取速度に対する母乳に含まれている定常

状態のヨウ素 131I の濃度の比)は、0.12 日/L(低移行群が 0.043 日/L、正常移行群が 0.37 日

/L)と推定されている(Simon et al., 2002)。吸収されたヨウ化物が母乳中に移行する割合は、

甲状腺の状態とヨウ化物の摂取量の両方によるところが大きく、甲状腺機能が低下した状

態では、この割合は大きくなる。授乳期にトレーサー量の Na123I を経口投与された甲状腺

機能亢進症の女性で、5.5 日間に投与量の約 2.5%が母乳に移行したことが報告されている

(Morita et al., 1998)。また、別の甲状腺機能亢進の女性では、経口投与量の約 2.6%が母乳

中に移行したことが報告されている(Hedrick et al., 1986)。一方、甲状腺機能低下症患者で

は、Na123I を経口投与したところ、41 時間で放射性ヨウ素の 25%が母乳中に移行したこと

が報告されている(Robinson et al., 1994)。

ヒトにおける母乳からの曝露については、セクション 6.4 で述べたとおりである。

吸収されたヨウ素の全身排泄半減期は、健康な成人で約 31 日と推定されているが、個人

差がかなりあることが示されている(Van Dilla & Fulwyler, 1963; Hays, 2001)。

8. 実験哺乳類および in vitro 試験系への影響

8.1 短期曝露

Sprague-Dawley ラットの雌を用いて、様々なヨウ素塩の影響を調べた試験が 3 段階で行わ

れた(Cantin, 1967)。第 1 段階では、1 群あたり 10 匹のラットに、ヨウ化ナトリウム、ヨウ

化カリウム、ヨウ化アンモニウム(NH4I)、またはヨウ化マグネシウム(MgI2·8H2O)が、0

(対照群)、0.81、または 0.99 mg/kg 体重/日の用量で、1 日 2 回、9 日間投与された。第 2

段階では、10 匹を食餌制限下に置き、その体重を、別群の 20 匹(ヨウ素にして 0.99 mg/kg

体重/日に相当する濃度のヨウ化ナトリウムを 9 日間投与された)の体重と等しくした。第

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2 段階では、10 匹からなる対照群を設けた。第 3 段階では、対照群 10 匹と、甲状腺・上

皮小体切除群 10 匹、上皮小体切除群 10 匹との比較が行われた。第 3 段階に用いた全個体

に、切除手術後 5 日間、ヨウ素が 0.81 mg/kg 体重/日の用量で 15 日間投与された。ヨウ化

物を投与された個体には、全身紅斑が認められたが、甲状腺・上皮小体切除群では完全に

消失し、上皮小体切除群では顕著に消失した。いずれのヨウ化物投与群でも、強度がほぼ

等しい筋痙攣が認められ、2 日目までにはっきりわかるようになり、時間経過とともに増

強した。第 1 段階でヨウ化ナトリウムを投与された個体は、全数に重度の筋固縮が認めら

れ、半数が死亡した。死亡した全個体に、死亡前に努力性呼吸が認められている。死亡率

が も高かったのは、ヨウ化マグネシウム投与群であった。顕著な病変が、肋間筋、四頭

筋、上腕三頭筋に、比較的軽度の病変が、前肢と後肢の筋肉、殿筋、喉頭内在筋に認めら

れている(Cantin, 1967)。

8.2 中期曝露

自己免疫性甲状腺炎に遺伝的感受性のある BB/Wor 系ラットの離乳仔に、ヨウ化物を

0.05%の濃度(約 85 mg/kg 体重/日)で 8 週間飲水投与した試験で、自己免疫性甲状腺疾患の

発生率が上昇したことが報告されている。この自己免疫性疾患は、甲状腺のリンパ球浸潤

を特徴とし、1 ヵ月齢のヨウ化物曝露群では 35 匹中 27 匹(77%)に認められた。ヨウ化物

曝露群では、甲状腺重量と抗サイログロブリン抗体値の有意な上昇も認められている

(Allen et al., 1986)。胸腺切除してリンパ球性甲状腺炎の発生率を高めた Buffalo 系ラット

(Sprague-Dawley 系ラットの 1 つ)に、ヨウ化物を 0.05%の濃度で 12 週間飲水投与した試験

(平均用量は約 70 mg/kg 体重/日)で、リンパ球性甲状腺炎の発生率の著しい増加とともに、

サイログロブリンに対する抗体の血清力価の上昇と血清 TSH 値の上昇も認められている

(Allen & Braver-man, 1990)。

Cornell C 系(CS)ニワトリに、通常の食餌摂取と、ヨウ素を 0、2、20 mg/dL の濃度で 10 週

間飲水投与した試験で、甲状腺のリンパ球浸潤が調べられた。サイログロブリン、T3、T4

の自己抗体価も測定された。サイログロブリン、T3、T4 の各自己抗体価は、ヨウ素投与群

で増加し、甲状腺のリンパ球浸潤の程度が用量依存的に増加した。ヨウ素は、試験された

濃度での 4 週間曝露では、甲状腺機能低下症を引き起こさなかった(Bagchi et al., 1985)。

Wistar ラット(1 群あたり 36 匹)の雄を用いた試験では、投与群にヨウ化ナトリウムが

0.0635 mg/kg/日の用量で、21 日間飲水投与された(対照群は水道水)。甲状腺・上皮小体切

除群を設けて、正常ラットとその影響が比較された。ヨウ素を投与したラットにおいては、

甲状腺・上皮小体切除群は、対照群よりも、平均体重が有意に低かった(Krari et al., 1992)。

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Wistar ラットの雌に、ヨウ素が、0.015、0.077、0.15、0.23 mg/kg 体重/日に相当する用量で、

10 週間混餌投与された試験で、高用量の 2 群は、 低用量群よりも甲状腺が有意に大きく、

甲状腺の大きさに用量依存的な増加が認められた。サイログロブリン抗体の生成にも、用

量依存的な増加が認められている(Fischer et al., 1989)。

甲状腺炎が起きやすい BB/W ラット 25 匹を、出生前と出生後にヨウ素に曝露した試験で

は、ヨウ素が 0、0.059、59 mg/kg 体重/日に相当する用量で、約 12 週間飲水投与された。

出生前には母体の飲水を介して、それから出生後の飲水により 12 週間投与された(Li &

Boyages, 1994)。その結果、リソソーム数と脂肪滴数の増加が、曝露群で、特に高用量群で

認められた。また、曝露群では、甲状腺細胞に、粗面小胞体の拡張と、クリステの崩壊を

伴うミトコンドリアの膨化も認められている。変化はすべて、高用量群の方が高頻度に認

められている(Li & Boyages, 1994)。

ブタ 62 匹(1 群あたり 7~8 匹)を、様々な濃度のヨウ素にヨウ素酸カルシウム〔Ca(IO3)2〕

として曝露した試験(Newton & Clawson, 1974)では、ヨウ素が 0、3.41、6.8、13.6、54.6、

109、218 mg/kg 体重/日の用量で、97~111 日間混餌投与された。その結果、体重が、高用

量の 2 群で(それぞれ 72.2 kg、55.5 kg)、対照群(91.5 kg)より有意に減少した。これは、曝

露群の食餌摂取量が、対照群より有意に減少したことと整合する。甲状腺重量は、対照群

では 82.0 mg/kg 体重であったが、全ての群で増加し、 高用量群では 237.0 mg/kg 体重で

あった。曝露群における食餌摂取量の減少が、吸収されたヨウ素の直接の影響であるのか、

味覚回避によるものであるのかは、突き止められていない(Newton & Clawson, 1974)。

雌の仔ウシ(1 群あたり 7 匹)に、4 日齢に入ってから、ヨウ素を 0、0.011、0.2、1.0、1.98、

3.96 mg/kg 体重/日に相当する用量で、1 日 2 回、5 週間混餌投与した試験で、体重増加が、

高用量群(34.3%)では、対照群(38.9%)より有意に抑制された。これは、高用量群の食餌摂

取量(0.75 kg/日)が、対照群の食餌摂取量(0.86 kg/日)より減少したことに整合する。ヘマ

トクリット値も、高用量群で対照群より減少した。鼻汁や流涙などの臨床徴候が、1.98

mg/kg 群(7 匹中 5 匹)と 3.96 mg/kg 群(7 匹中 7 匹)に認められている(Jenkins & Hidiroglou,

1990)。

Buffalo 系ラット(Sprague-Dawley 系ラットの 1 つ)で、新生仔の胸腺切除により、リンパ球

性甲状腺炎の自然発生率が増加したことが報告されている(Noble et al., 1976)。胸腺を切除

した Buffalo 系ラットを用いた曝露試験では、曝露群にヨウ化物を 0.05%の濃度(約 70

mg/kg 体重/日の用量)で 12 週間飲水投与し、対照群には水道水を与えた。リンパ球性甲状

腺炎の発生率が、曝露群(73%)では、対照群(31%)に比較して有意に増加した(Allen &

Braverman 1990)。曝露群では、血清 TSH 値の有意な上昇と、抗サイログロブリン抗体の

血清力価の有意な上昇も認められている。食餌性ヨウ素の摂取量は、約 0.05 mg/kg 体重/日

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であった。

ウシに、ヨウ素を 0.2、1、5 mg/kg 体重/日に相当する用量で、6 ヵ月間飲水投与した試験

では、高用量群の 10 匹中 2 匹が、重篤な気管支肺炎、角膜炎、皮膚炎を発症し、10 週間

で死亡している。高用量群の 10 匹中 5 匹に、肺病変が認められ、低用量群の 10 匹中 3 匹

に、肺組織の 5~10%を占める、肺尖葉の軽微な肉眼的病変が認められている。気管上皮

の扁平上皮化生が、高用量群で認められ、唾液腺の扁平上皮化生が、高用量群の 10 匹中 2

匹と、中用量群 10 匹中 1 匹に認められている。高用量群では、甲状腺重量の有意な増加

と、体重の有意な減少が認められている(Mangkoewidjojo, 1979)。

ラットに、ヨウ素またはヨウ化物(ヨウ化ナトリウムとして)を、0、1、3、10、100 mg/L

の濃度で 100 日間飲水投与した試験では、甲状腺重量において化合物特異的な変化が認め

られ、それは用量と曝露された動物の性の両方に依存的であった。甲状腺重量の増加が、

雄のヨウ化物投与群すべてに認められたが、ヨウ素投与群には認められていない。甲状腺

重量の減少が、ヨウ化物を投与された雌の 高濃度投与群のみに認められている(Sherer et

al., 1991)。

ラットを用いた試験で、BB/W ラットの曝露群に対してヨウ素が 0.043 mg/kg 体重/日また

は 42.6 mg/kg 体重/日の用量で飲水投与され、対照群には滅菌した水道水(0.002 mg/kg 体重/

日)が与えられ、さらに、追加対照群とした Wistar Furth ラットにも、滅菌した水道水が与

えられた。飲水投与は繁殖段階から開始し、妊娠期間と授乳期間中も継続された。全個体

とも、出産から 6 週間後まで、組織学的に正常であった。出生仔には、親と同じ用量のヨ

ウ素投与が続けられた。12~15 週間後に、リンパ球性甲状腺炎と濾胞損傷が、ヨウ素用量

依存的に増加した。同じ週齢では、リンパ球浸潤の程度は、ヨウ素用量と相関していた。

濾胞間腔において Ia 抗原と IL-2 受容体を発現する細胞数が、曝露の用量および期間依存

的に、有意に増加した。リンパ球の凝集塊中のヘルパーT 細胞数が、ヨウ素用量依存的に、

有意に減少した(Li et al., 1993)。

マウスを用いて、ヨウ素の投与用量と甲状腺形態間の用量-反応関係を調べた試験(Gao et

al., 2002)では、蒸留水にヨウ素酸カリウムを溶解し、7 つの用量群(50、250、500、1,000、

1,500、2,000、3,000 μg/L)に 100 日間飲水投与された。甲状腺濾胞と濾胞腔の立体学的パラ

メータと、甲状腺重量の測定が行われた。甲状腺の絶対重量と相対重量に、ヨウ素用量依

存的な増加が認められ、甲状腺濾胞と濾胞腔への影響にも、同様の用量依存的な傾向が認

められた。250 μg/L 以上の用量において、甲状腺濾胞と濾胞腔の立体・形態学的変化につ

いて、用量-反応関係が認められた。この試験では、ヨウ素酸カリウムの NOAEL は 50

μg/L であった。

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8.3 長期曝露と発がん性

ホルスタイン種ウシの雌に、ヨウ素を約 68~600 mg/kg 体重/日に相当する用量で 長 7 年

間投与した試験で、高用量群に発咳、鼻汁、乳汁産生量減少が認められ、これらの臨床徴

候は、飼料のヨウ素含有量を正常レベルに減らすと、4 週間以内に消失したことが報告さ

れている(Olson et al., 1984)。

Fischer 344 ラットに、0、10、100、1,000 mg/kg のヨウ化カリウム(雄では 0、0.55、5.31、

53.0 mg/kg 体重/日、雌では 0、0.66、6.73、66.6 mg/kg 体重/日に相当する)を 2 年間飲水投

与した試験で、甲状腺に濾胞腔のコロイドと扁平上皮の増加が認められたが、腫瘍は認め

られていない。高用量群では、80 匹中 7 匹(雄 4 匹、雌 3 匹)の顎下唾液腺に扁平上皮がん

が認められた。雌雄それぞれでは統計的に有意な差は認められなかったが、雌雄を合わせ

ると有意であった(P = 0.014)。また、高用量群では、80 匹中 65 匹(雄 31 匹、雌 34 匹)に

小葉萎縮と小導管増殖が、80 匹中 55 匹(雄 25 匹、雌 30 匹)に顎下腺の扁平上皮化生が認

められている。高用量群では雌雄ともに生存率の低下が認められたが、曝露による影響は、

甲状腺と唾液腺以外の組織には認められていない(Takegawa et al., 1998, 2000)。

Fischer 344 ラットを用いた 2 段階発がん性試験で、DHPN をイニシエート(惹起)用量

(2,800 mg/kg 体重)投与した後、ヨウ化カリウムを 1,000 mg/L の濃度で 82 週間飲水投与し

た。甲状腺濾胞細胞がんが、曝露群では 25 匹中 18 匹に認められたが、DHPN のみを投与

した対照群では 19 匹中 2 匹にしか認められなかった(Takegawa et al., 2000)。

別の 2 段階発がん性試験(Kanno et al., 1992)では、ヨウ素の欠乏および過剰による甲状腺

腫瘍促進作用を検討し、甲状腺腫瘍の発生を促進しないヨウ素摂取量の至適範囲を推定し

ている。この試験では、6 週齢の雄の F344 ラット(1 群あたり 20 匹)に、DHPN が 2,800

mg/kg 体重のイニシエート(惹起)用量で筋肉内投与された後、ヨウ素が飲水投与された。

飲料水にヨウ化カリウムを様々な量( 大 260 mg/L)で補い飲水させることで、重度のヨウ

素欠乏から重度のヨウ素過剰までの様々な状態が作り出された。DHPN 処置を受けなかっ

たラットは、ヨウ素が欠乏すると、T4 の低下と TSH の上昇に加えて、瀰漫性甲状腺過形

成が認められ、ヨウ素が過剰になると、コロイド甲状腺腫、正常な血清 T4 値、軽度の

TSH 低下が認められた。DHPN 処置を受けたラットは、ヨウ素投与量が 0.80 μg/日未満の

群では腫瘍発生率が 大 85%と高く、2.6~760 μg/日の群では腫瘍発生率が 5%未満と 低

であった。ヨウ素投与量が 2,300 μg/日の群と 3,000 μg/日の群では、甲状腺腫瘍の発生率は、

それぞれ 20%と 10%であった(Kanno et al., 1992)。

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8.4 刺激性および感作性

ヨウ素の蒸気に気道刺激性があることが、モルモットで示されている(Amdur, 1978)。ヨウ

素蒸気への 1 時間曝露試験では、空気中濃度が平均 8.9 mg/m3 以上で、気道抵抗の統計的

に有意な上昇が認められ、32 mg/m3以上で、呼吸数の減少が認められている(Amdur, 1978)。

8.5 遺伝毒性と関連評価項目

ヨウ素は変異原性作用を示さないことが、多数の試験によって示されている。In vitro 試験

で、0.1~10 mg/mL の濃度の、ヨウ化カリウム、ヨウ素分子、ポビドンヨードの各溶液は、

L5178Y マウスリンパ腫細胞に変異原性作用を示さないこと、および Balb/c3T3 細胞に形質

転換活性を示さないことが、それぞれ報告されている(Merkle & Zeller, 1979; Kessler et al.,

1980)。キイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)の卵を、0.38 mg/mL の濃度のヨ

ウ素分子溶液、または 0.75 mg/mL の濃度のヨウ化カリウム溶液で、インキュベートした試

験では、致死突然変異は誘発されなかった(Law, 1938)。出芽酵母( Saccharomyces

cerevisiae)を用いた His+復帰突然変異試験で、ヨウ素分子は、変異原性作用を示さなかっ

た(Mehta & von Borstel, 1982)。

細菌を用いた Ames 試験、マウス骨髄を用いた小核試験、キイロショウジョウバエ

(Drosophila melanogaster)を用いた劣性致死突然変異試験で、ヨウ素酸ナトリウム(NaIO3)

に変異原性は認められなかった(Eckhardt et al., 1982)。

ヨウ化物にはフリーラジカル捕捉作用があり、ネズミチフス菌(Salmonella typhimurium)

TA104 株を用いた試験で、ヨウ化物が過酸化水素誘発復帰突然変異を減少させることが示

されている(Han, 1992)。

8.6 生殖・発生毒性

実験動物を用いた一連の試験(Arrington et al., 1965)で、ヨウ素をヨウ化ナトリウムまたは

ヨウ化カリウムとして経口摂取させ、出生仔生存率、分娩時間、授乳徴候の有無が調べら

れている。

Long-Evans ラットに、ヨウ素を 2,500 mg/kg の濃度で、妊娠期間後半の 12 日間混餌投与し

た試験では、新生仔死亡率の上昇が認められ、3 日間の生存率は 10%未満であった。分娩

時間の延長も認められ、分娩に 24 時間以上かかった個体の割合は約 25%であった。授乳

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開始の徴候は認められなかった(Arrington et al., 1965)。

Syrian ハムスターに、ヨウ素を 2,500 mg/kg の濃度で、妊娠期間後半の 12 日間混餌投与し

た試験では、出生仔の食餌摂取量が、対照群に比較して約 10%減少し、分娩後 21 日目に

おける仔の離乳時体重が、有意に少なかった。曝露による出生仔生存率、妊娠期間、分娩

時間、授乳への影響は、認められなかった(Arrington et al., 1965)。

Dutch ウサギと New Zealand ウサギに、ヨウ素(ヨウ化カリウムとしてかヨウ化ナトリウム

としてかは不明)を、250、500、1,000 mg/kg の濃度で、分娩前の 2~5 日間に混餌投与した

試験では、分娩前の 2 日間の、250 mg/kg または 500 mg/kg の濃度での混餌投与により、出

生仔生存率が 3 分の 2 に低下した。これよりも投与期間が長いか、濃度が高い群の出生仔

生存率は、5%未満であった。出生仔の大きさと発育分化は正常であったが、多くは生後数

時間以内で死亡した(Arrington et al., 1965)。

妊娠中のブタに、ヨウ素を(ヨウ化カリウムとして)1,500 mg/kg または 2,500 mg/kg の濃度

で、妊娠期間の 後の 30 日間に混餌投与し、自然分娩させた試験では、ウサギやラット

への混餌投与で毒性が認められた濃度において影響は認められなかった。授乳と、2 週間

の授乳後の体重に、影響は認められなかった(Arrington et al., 1965)。

9. ヒトへの影響

ヨウ素は、成長、神経の発達、代謝速度の調節に必要不可欠な甲状腺ホルモンである、T3

および T4 の不可欠な成分である。食事からのヨウ素摂取量が十分でないと、甲状腺の正常

な機能が損なわれ、 終的には、甲状腺機能不全の徴候が現れ、欠くことのできない生理

学的機能に影響を及ぼす。ヨウ素の摂取不足も過剰摂取も、健康への有害な影響を引き起

こすことがあるが、世界では現在、ヨウ素摂取量不足が大きな問題となっており、世界人

口の約 6 分の 1 が障害を発症している(Maberly, 1994; MAF, 2000)。

ヨウ素欠乏障害は、130 ヵ国で重大な健康問題として認識されており、患者は推定で、7

億 4,000 万人とも、22 億人とも言われている(Vitti et al., 2001; WHO/UNICEF/ICCIDD, 2001;

Delange et al., 2002; Hetzel, 2002; Delange & Hetzel, 2003; WHO, 2004b)。ヨウ素欠乏障害は、

ヨウ素欠乏の程度に関連している。軽度から中等度のヨウ素欠乏地帯の欧州諸国では、神

経障害や軽微な神経心理学的障害が見られている。尿中ヨウ素排泄量は 30 μg/L から 170

μg/L にわたり、何百万という人がヨウ素欠乏障害の危険にさらされており、9,700 万人が

甲状腺腫を発症し、90 万人に精神発達の障害が認められている(Vitti et al., 2001)。

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ヨウ素欠乏障害は、胎児発生期から成人期を通して起こる可能性がある。胎児期のヨウ素

欠乏障害は、自然流産、死産、先天異常、低身長症、周産期死亡率増加、精神運動障害を

引き起こす可能性がある。新生児と年少児における甲状腺機能不全の主要な影響には、ク

レチン病、新生児甲状腺腫、発達遅滞、脳機能障害がある。年長児と成人における甲状腺

機能不全の徴候として も多いのは、甲状腺腫で、さらに何らかの精神機能障害を伴うこ

とが多い。ヨウ素の欠乏の問題の一方、ヨウ素の過剰摂取も健康に有害な後遺症をもたら

すことがあり、矛盾するようであるが、ヨウ素欠乏症の症状に類似した続発症がみられる

ことがある。

本書を読む方への注意:経口経路を介した化学元素のヨウ素の移行は、一般に、一価の陰

イオンヨウ化物の形で起こる。2 個のヨウ化物イオンは、甲状腺に吸収されると、酵素に

よって変換されてヨウ素分子になった後、甲状腺ホルモンに取り込まれる。このヨウ素は、

個別の排泄のメカニズムに応じて、ヨウ素またはヨウ化物の形で体外に排泄される。他の

金属でも同様だが、文献ではよく、ヨウ素とヨウ化物が、化学種を明確にされることなく

ほとんど同じ意味で使用されていることに、注意する必要がある。本 CICAD で使用して

いる用語は、引用した原著で使用されている用語と同じである。

9.1 急性毒性

ニューヨーク市検視局(米国)の医療記録のレビューによると、成人がヨードチンキを摂取

して自殺した件数は、6 年間に 18 件あった(Finkelstein & Jacobi, 1937)。ヨードチンキの摂

取によるヨウ素の量は、1,200 mg(17 mg/kg 体重)から 9,500 mg(120 mg/kg 体重)にわたって

おり、通例、摂取後 48 時間以内に死亡している。1 件の自殺未遂例では、成人男性が、15

g のヨウ素をヨウ化カリウム溶液として摂取したが助かっており、摂取から 18 時間後の血

清中ヨウ素濃度は、2.95 mg/mL であった(Tresch et al., 1974)。致死中毒または致死に近い

中毒で認められた毒性症状には、腹部の激痛、血性下痢と消化管潰瘍、顔と頸部の浮腫、

肺炎、溶血性貧血、代謝性アシドーシス、肝脂肪変性、腎不全がある(Finkelstein & Jacobi,

1937; Tresch et al., 1974; Dyck et al., 1979; Clark, 1981)。

9.2 刺激および感作

ポビドンヨード(ワセリン中、またはベタジン溶液・ベタジン軟膏・ベタジンスクラブ中

に 5%または 10%含有)の局所投与に対して皮膚反応があり、パッチテストも陽性を示した

患者 8 名について、Van Ketel and van den Berg が報告している(1990)。ワセリン中 5~20%

の濃度のヨウ化カリウムでも試験を行ったところ、8 名中 5 名では反応が陰性であった。3

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名の患者でヨードチンキを用いて開放試験を行ったところ、完全に陰性を示したことから、

ポビドンヨードに対するアレルギーは、ヨウ素に対する感作によって誘発される可能性は

低いことが示唆されている(van Ketel & van den Berg, 1990)。ヨウ素含有造影剤の投与によ

り、蕁麻疹、血管浮腫、気管支痙攣、喉頭痙攣、ショックなどの有害反応が起こることが

報告されている。ただし、これらの有害反応は、ヨウ素含有有機分子に対する免疫グロブ

リン E 依存的反応によるものではなく、ヨウ素含有造影剤の高い浸透圧によって引き起こ

されている可能性がある(Sicherer, 2004)。

著しく過剰なヨウ化物への経口曝露によって、ヨウ素疹と呼ばれる皮膚病変が生じること

があるが、これは、細胞媒介性過敏症の一種であり、甲状腺機能とは無関係であると考え

られる(Rosenberg et al., 1972; Stone, 1985)。特徴的な症状は、ざ瘡様膿疱で、これは、合体

して増殖性の結節病変を顔面、四肢、体幹、粘膜上に形成することがある。過剰なヨウ化

物摂取を中止すれば、病変は消失し、治癒する。臨床文献によると、ヨウ素疹が生じた症

例におけるヨウ化物の経口曝露量は、300 mg/日(5 mg/kg 体重/日)から 1,000 mg/日(14

mg/kg 体重/日)にわたっている(Shelly, 1967; Rosenberg et al., 1972; Khan et al., 1973;

Baumgartner, 1976; Kint & Van Herpe, 1977; Kincaid et al., 1981; Soria et al., 1990; PeΖa-Penabad

et al., 1993)。ただし、これらの症例の多くは、先行疾患とそれに関連した薬物治療が、ヨ

ウ素に対する反応に関与している可能性があり、健康な集団のヨウ素疹に関する曝露量-反

応関係については、依然として不明な点が多い。

9.3 内分泌系その他の全身性の影響

ヨウ素の過剰摂取による直接的な影響は、内分泌系では主に甲状腺と、甲状腺ホルモンの

産生・分泌の調節に現れる。下垂体と副腎への有害影響が、甲状腺障害から二次的に生じ

る。甲状腺への影響には、甲状腺機能低下症と甲状腺機能亢進症の両方が含まれ、どちら

の場合でも、炎症性の徴候(甲状腺炎)が現れることがある。

ヨウ素は、甲状腺ホルモンの T3 と T4 の構成成分であり、甲状腺が正常に機能するために

必要な元素である。ヨウ素の摂取が不十分であると、甲状腺の機能低下症や代償性肥大が

起こる。ヨウ素摂取量が少ないために、地方病性の甲状腺機能低下症や甲状腺腫が起きて

いる地域は多い。

ヨウ素摂取量の軽度の上昇は、甲状腺へのヨウ素の取り込みと有機ヨウ素の生成を一時的

に促進するが、生理的な要求に応じてヨウ素を放出する能力が抑制されることはない。ヨ

ウ素の過剰摂取の程度が大きくなると、甲状腺中毒症状態となった甲状腺や、TSH により

ヨウ素の放出が促進されていた甲状腺からの、ヨウ素の放出が抑制される。ヨウ化物の過

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剰摂取の程度がさらに強まると、いわゆる急性ウォルフチャイコフ効果が起こり、甲状腺

ホルモンの産生が一過性に減少する(Wolff et al., 1949; WHO, 1996)。健常者では、この後、

いわゆる急性ウォルフチャイコフ効果からの離脱が起こり、ホルモン合成が正常レベルに

戻るため、血中の甲状腺ホルモン値の大幅な変化は起こらない。基礎疾患に甲状腺障害が

あると、ヨウ化物の急性または慢性の過剰摂取によって、血中の T3 値と T4 値が低下し、

甲状腺機能低下状態が起こることがある。これは、急性ウォルフチャイコフ効果から離脱

できなかったことが原因である。ヨウ素の過剰摂取が原因の甲状腺機能低下症は、過剰な

ヨウ素摂取を中止すれば、ほとんどは正常な状態に戻る。

著しく過剰なヨウ化物への経口曝露によって、発熱が引き起こされることがあり、これに

は免疫学的な原因があると思われる(Horn & Kabins, 1972; Kurtz & Aber, 1982)。報告されて

いる臨床症例では、ほぼ間違いなく先行疾患(通常は肺炎か閉塞性肺疾患)があり、その治

療のためにヨウ化カリウムが別の薬剤(抗生剤、バルビツール剤、メチルキサンチン類な

ど)とともに投与されている。回帰熱が起こった成人男性の一例(Kurtz & Aber, 1982)では、

ヨウ素が(ヨウ化カリウムとして)、約 1,080 mg/日の用量で、約 15 年間経口投与されてお

り、回帰熱は、ヨウ化カリウムの投与中止から 2 週間で治まっている。呼吸器疾患の治療

のため、ヨウ素が(ヨウ化カリウムとして)約 1,440 mg/日の用量で連日投与され、投与開始

から 8 日目に発熱が起こった成人男性の一例では、発熱は、ヨウ化カリウムの投与中止か

ら 3 日で治まっている(Horn & Kabins, 1972)。肺炎治療のため、アンピシリンとともに、

ヨウ素を(ヨウ化カリウムとして)約 1,620 mg/日の用量で投与され、発熱が起きた成人女性

の一例(Horn & Kabins, 1972)では、発熱は、ヨウ化カリウムの投与中止から 36 時間で治ま

ったがヨウ化カリウムの再投与によって再発している。

9.3.1 甲状腺機能低下症

小児(7~15 歳)を対象として、中国北中部の飲料水中のヨウ素(ヨウ化物として)濃度が

462.5 μg/L(n = 120)の地域と 54 μg/L(n = 51)の地域の 2 ヵ所で、甲状腺の状態の比較調査が

行われた(Li et al., 1987; Boyages et al., 1989)。尿中ヨウ素濃度は、高濃度群が 1,236 μg/g ク

レアチニン、低濃度群が 428 μg/g クレアチニンであった。尿中ヨウ化物濃度の測定値から

ヨウ素摂取量の推定値を得るにあたり、定常状態でのヨウ化物の食事摂取量の標準値を、

Konno et al.(1993)と Kahaly et al.(1998)が報告している 24 時間尿中ヨウ素排泄率に等しい

と仮定した。体重を 40 kg、除脂肪体重を体重の 85%と仮定し、Boyages et al.(1989)が報告

しているヨウ素/クレアチニン比を用いてヨウ素摂取量の推定値に変換すると、高濃度群が

約 1,150 μg/日(0.029 mg/kg 体重/日)、低濃度群が約 400 μg/日(0.01 mg/kg 体重/日)となる。

被験者は全員、甲状腺機能正常、血清甲状腺ホルモン値と TSH 値も正常であったが、高濃

度群の TSH 値は、有意に高かった(連続補正係数を用いたカイ二乗分析で、P < 0.05)。高

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濃度群では、甲状腺腫の罹患率が 65%、グレード 2 の甲状腺腫の罹患率が 15%であり、低

濃度群では甲状腺腫の罹患率が 15%、グレード 2 の甲状腺腫の罹患率が 0%であった。

Paul et al.(1988)の試験では、甲状腺疾患と抗甲状腺抗体陽性の既往歴がなく、甲状腺機能

が正常で健康な成人(男性 9 名、女性 23 名)に、ヨウ素が(ヨウ化ナトリウムとして)様々

な用量で連日経口投与された。14 日間にわたって、女性 9 名に、ヨウ素が 125、250、ま

たは 750 μg が 1 日 2 回(それぞれ、250、500、1,500 μg/日に相当)投与され、男性 9 名には

全員、750 μg が 1 日 2 回(1500 μg/日に相当)された。同年齢の男性 5 名を、無処置対照群

として設定した。(一部の女性被験者では、少なくとも 1 年間の間をあけて、2 種類の用

量で試験が行われた。)ヨウ化物を投与する前の 24 時間尿中ヨウ化物排泄量に基づいて、

ヨウ素摂取量の背景値は約 200 μg/日と推定された。よって、ヨウ化物の総摂取量は、約

450、700、1,700 μg/日(体重を 70 kg と仮定すると、約 0.0064、0.01、0.024 mg/kg 体重/日)

と算出された。

Paul et al.(1988)のこの試験で、1,700 μg/日(0.024 mg/kg 体重/日)の用量で投与された被験者

は、投与前に比較して、血清中の総 T4 値、遊離 T4 値、総 T3 値が統計的に有意に低下(5~

10%)し、血清 TSH 値が統計的に有意に上昇(47%)した。投与試験中のホルモン値は、正

常範囲内であった。また、250 μg/日または 500 μg/日の用量で、ヨウ素を(ヨウ化ナトリウ

ムとして)14 日間補給された女性 9 名に〔総摂取量は、それぞれ、約 450 μg /日(0.0064

mg/kg 体重/日)または 700 μg/日(0.010 mg/kg 体重/日)〕、血清ホルモン値と甲状腺機能に有

意な変化は認められなかった。

Gardner et al.(1988)の同様の試験では、健康で甲状腺機能が正常な成人男性 30 名に、無作

為にヨウ素が(ヨウ化物として)500、1,500、4,500 μg/日の用量で、14 日間経口投与された。

ヨウ化物を補給する前の 24 時間尿中ヨウ化物排泄量 256~319 μg/日に基づいて、ヨウ素の

総摂取量は、800、1,800、4,800 μg/日(約 0.011、0.026、0.069 mg/kg 体重/日)と推定されて

いる。この試験では、ヨウ素の総摂取量が 800 μg/日(0.011 mg/kg 体重/日)では、血清甲状

腺ホルモン値と血清 TSH 値への影響は認められなかったが、1,800 μg/日(0.026 mg/kg 体重/

日)と 4,800 μg/日(0.069mg/kg 体重/日)では、投与前に比較して、血清総 T4 値と遊離 T4 値

に、小さいが有意な一過性の低下(10%)が認められ、血清 TSH 値に上昇(48%)が認められ

ている。

Chow et al.(1991)の試験では、健康で甲状腺ペルオキシダーゼ抗体陰性の高齢女性 30 名に、

ヨウ素が(ヨウ化カリウムとして)500 μg/日で 14 日間または 28 日間連日投与された。投与

群は、対照(プラセボ投与)群に比較して、血清遊離 T4 値が有意に低下し、血清 TSH 値が

有意に上昇した。変化の大きさを平均すると、甲状腺ホルモン値の低下は臨床的に有意で

はなかったが、5 名の血清 TSH 値は、5 mU/L を超えていた。事前の食事性ヨウ素の摂取

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量は、尿中ヨウ化物の測定値から、約 72~100 μg/日と算出された。したがって、ヨウ化物

の総摂取量は、約 600 μg/日(女性の体重を 69 kg と仮定すると、0.0087 mg/kg 体重/日)と算

出された。

Laurberg et al.(1998)の調査では、デンマークのユトランド半島の、ヨウ素摂取量が 40~60

μg/日(0.57~0.86 μg/kg 体重/日)の住民 423 名(66~70 歳)と、アイスランドの、ヨウ素摂取

量が 300~350 μg/日(4.3~5.0 μg/kg 体重/日)の住民 100 名で、甲状腺の状態が比較された。

血清 TSH 値が正常範囲の上限値(4 mU/L)より高い人の割合は、高摂取量群では 18%で、

低摂取量群の 3.8%に比較して、有意に高かった。血清 TSH 値が 10 mU/L より高い人の割

合は、高摂取量群が 4.0%、低摂取量群が 0.9%であった。両群とも、血清 TSH 高値の罹患

率は、女性の方が男性より有意に高かった。血清 TSH 値が 10 mU/L より高い人でも、血

清 T4 の低下は認められていない。よって、被験者はいずれも甲状腺機能正常と思われるが、

血清 TSH 高値の罹患率の高さが示すように、高いヨウ素摂取量と、不顕性の甲状腺抑制と

の間には関連が認められた。血清 TSH 値が 10 mU/L より高い人はいずれも、血清自己抗

体が陽性であったが、自己抗体の保有は、概して、デンマークのユトランド半島の方にお

いて、アイスランドよりも多く認められた。低摂取群と高摂取群では、異常が逆方向に発

現しており、ヨウ素摂取量が相対的に少ない場合は甲状腺腫と甲状腺機能亢進が、ヨウ素

摂取量が相対的に多い場合は甲状腺機能障害が起こっている。著者らは、軽度のヨウ素欠

乏は、おそらく自己免疫性甲状腺疾患をある程度防止していること、また、甲状腺の自己

抗体は、おそらく甲状腺において自己免疫変化が起きていることを示すもの、あるいは甲

状腺腫の発現に続発するものであることを示唆している。

Szabolcs et al.(1997)は、ヨーロッパの 3 つの地域にある老人ホームで、入居者(n = 119、年

齢の中央値 81 歳)の検診を実施し、甲状腺障害の比較調査を行った。調査地域は、ヨウ素

欠乏地域とされるハンガリー北部、1950 年代からヨウ素添加が義務づけられているスロバ

キア、ヨウ素大量摂取地域とされるハンガリー東部であった。調査の結果、甲状腺機能低

下症の罹患率とヨウ素摂取量との間に相関が認められている。ハンガリー北部(n = 119)、

スロバキア(n = 135)、ハンガリー東部(n = 92)の被験者の尿中ヨウ素濃度は、それぞれ、

72、100、513 μg/g クレアチニンで、ヨウ素摂取量は、それぞれ、約 117、163、834 μg/日

(0.0017、0.0023、0.012 mg/kg 体重/日)、血清 TSH 高値かつ血清遊離 T4 値低値の罹患率は、

それぞれ、0.8%、1.5%、7.6%であった。

ヨウ化物の経口投与によって、甲状腺機能低下症が引き起こされ得ることが、多くの試験

で確認されている。そのうちのいくつかの試験について、以下に概要を述べるが、詳細は

原資料を参照のこと(ATSDR, 2004)。

甲状腺疾患の既往歴のない健康な成人 7 名に、過ヨウ化水素酸テトラグリシン(水に溶解

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するとヨウ化物を放出する)が溶解されているフレーバードリンクを、7 日間毎日摂取(ヨ

ウ素として 32 mg/日)させた試験(Georgitis et al., 1993)では、投与中、血清 T4値と T3値が

統計的に有意に低下し、血清 TSH 値が統計的に有意に上昇した。米国ワシントン州タコマ

にあるマディガン陸軍医療センターで、健康なボランティア 8 名に、過ヨウ化水素酸テト

ラグリシンの錠剤(1 錠あたり 8 mg の遊離ヨウ素を放出する)を毎日 4 錠、3 ヵ月間服用さ

せ、甲状腺の大きさ、機能、放射性ヨウ素の取り込み量への影響を調べる前向き試験が行

われた(LeMar et al., 1995)。甲状腺機能亢進症も甲状腺機能低下症も認められなかった。正

常な被験者において、浄水用に過ヨウ化水素酸テトラグリシンの錠剤を日常的に使用する

ことでヨウ素を投与したところ、可逆性で TSH 依存性の甲状腺肥大が認められた。

LeMar et al.(1995)の試験では、同じ試験デザインで、健康で甲状腺機能が正常な成人 8 名

に、ヨウ素を(ジュースまたは水に溶解した過ヨウ化水素酸テトラグリシンとして)約 32

mg/日の用量で 90 日間摂取させた。投与中に、甲状腺の体積の有意な増加が認められてい

る。投与中止後、甲状腺は投与前の大きさに戻っている。投与中、血清 TSH 値の有意な上

昇が認められている。どの被験者にも、顕性甲状腺機能低下症は認められていない。

健康で甲状腺機能が正常な成人男性 10 名に、ヨウ素を(甘草レシチン結合ヨウ素として)

27 mg/日の用量で 28 日間連日投与した試験(Namba et al., 1993)では、甲状腺の体積が統計

的に有意に増加した。血清遊離 T4 値と T3 値は低下し、血清 TSH 値とサイログロブリン値

は有意に上昇したが、値はいずれも正常範囲であった。また、いずれの値も、 後の投与

から 28 日以内に正常に戻っている。

甲状腺関連の疾患の既往歴がなく、健康で甲状腺機能が正常な成人男性 33 人に、ヨウ素

を(I2または I-として)約 0.3 mg/kg 体重/日または 1 mg/kg 体重/日の用量で、14 日間毎日摂

取させた試験(Robison et al., 1998)で、甲状腺ホルモンの状態に変化が認められている。I2

投与群、I-投与群ともに、高用量群は、対照(塩化ナトリウム投与)群に比較して、血清

TSH 値がわずかであるが、統計的に有意に上昇した。血清総 T4 値と総 T3 値には、統計的

に有意な変化は認められていない。「のどが焼けるような」感じの刺激作用が、I2 投与群

で認められたが、I-

投与群では認められていない。ただし、臨床観察では、咽喉に対する

損傷の症状は何も認められていない。この刺激作用について、著者らは、高濃度のヨウ素

分子が粘膜を損傷させることが知られているため(Gosselin et al., 1976)、ヨウ素分子の摂取

に起因している可能性があると述べている。

健康で甲状腺機能が正常な成人 11 名に、ヨウ素を(海藻として)25 mg/日の用量で 14 日間

投与した試験では、血清 TSH 値の平均値が有意に上昇したが、正常範囲内であった。

より長期の試験では、健康な成人 4 名に、ヨウ素が約 1,000 mg/日の用量で 11 週間連日経

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口投与され(Jubiz et al., 1977)、小さいが統計的に有意な、血清 T4値の平均値の低下と、血

清 TSH 値の上昇が認められている。この 2 つの変化は、投与中止後 1 週間以内に元に戻っ

ている。

Zhao et al.(2000)は、中国江蘇省の 65 の郡区で、小児(5~15 歳)の甲状腺肥大の罹患率と、

居住者の飲料水中と尿中のヨウ素濃度を比較した。甲状腺腫の罹患率と甲状腺体積異常の

増加が、尿中ヨウ素濃度依存的に認められ、尿中ヨウ素濃度 802 μg/L と 1,961 μg/L におけ

る甲状腺腫の罹患率は、15%(尿中ヨウ素濃度 802 μg/L)~38%(同 1,961 μg/L)で、甲状腺体

積異常の罹患率は、同じ尿中ヨウ素濃度範囲について、5%~17%であった。また、Zhu et

al.(1984)の調査によると、中国沿岸地域の、尿中ヨウ素濃度の平均値が 1,423 mg/kg クレ

アチニンと 2,097 mg/kg クレアチニンの 2 つの村では、甲状腺腫が高い確率で発生してい

る。試験対象地域では、飲料水中に過剰に含まれているヨウ素が、地方病性甲状腺腫の発

生や尿中ヨウ素濃度上昇の原因である可能性がある。

ナイジェリアにおける米国平和部隊のボランティアを対象とした横断調査(Khan et al.,

1998)では、浄水器からの過剰なヨウ素に起因して、甲状腺障害や甲状腺腫が高頻度で発

生していたことが明らかにされた。ボランティア 96 名中、46 名に甲状腺肥大、29 名に血

清 TSH 高値、4 名に血清 TSH 低値が認められた。濾過した飲料水中のヨウ化物濃度は、

平均で 10 mg/L であり、この値は、飲料水から摂取される 1 日あたりのヨウ化物の量とし

ては 50~90 mg/日に相当する。飲料水から過剰なヨウ素を除去したところ、甲状腺機能の

測定値はいずれも正常に戻っている(Pearce et al., 2002)。

海藻を摂取している甲状腺機能低下症の患者で、極めて高い摂取量(0.4~0.7 mg/kg 体重/日

に相当)の例が報告されている(Tajiri et al., 1986)。この試験では、自然発症的に原発性甲状

腺機能低下症となった患者 22 名を対象として、甲状腺機能低下状態の自発的可逆性の評

価が行われた。ヨウ素の摂取を 3 週間制限すると、12 名は甲状腺機能が正常になった。こ

の「可逆性」群の患者 7 名に、ヨウ素を 25 mg/日の用量で投与すると、全員に甲状腺機能

低下症が再燃した。この調査対象集団(22 名)の残りの 10 名では、ヨウ素のみを制限して

も、甲状腺機能は改善されなかった。可逆性タイプの甲状腺機能低下症と判定された 12

名のうち、2 名は海藻を常習的に摂取(それぞれ、ヨウ素 25.4 mg/日、43.1 mg/日)しており、

残り 10 名は通常量のヨウ素(1~5 mg/日)を摂取していた。組織生検では、可逆性タイプの

甲状腺機能低下症患者には、甲状腺に限局性リンパ球性甲状腺炎の変化が認められ、非可

逆性タイプの甲状腺機能低下症患者には、より重度の甲状腺の破壊が認められた。これら

の結果は、ヨウ素摂取制限の影響が現れやすく、組織学的変化が比較的軽度な、可逆性タ

イプの甲状腺機能低下症が存在することを明示している(Tajiri et al., 1986)。

ヨウ素が豊富に含まれている海藻(昆布)が収穫されている日本の沿岸地域 5 ヵ所での成人

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1,061 名を対象に、ヨウ素の摂取に関連した甲状腺障害の発症率が調べられている(Konno

et al., 1994)。沿岸地域では、内陸地域に比較して、血清 TSH 高値の罹患率と尿中ヨウ化物

濃度の両方が有意に高かった。血清 TSH 値と尿中ヨウ化物濃度との間に正の相関が認めら

れ、調査地域の血清 TSH 高値の罹患率と尿中ヨウ化物濃度高値の罹患率との間に正の相関

が認められている(Konno et al., 1994)。

Casey et al.(2005)の調査では、甲状腺機能が正常な母親における T4欠乏症は、早産に関係

し、ひいては影響を受けた母親から生まれる新生児に、神経発達異常を引き起こす可能性

があることが報告されている。

9.3.1.1 新生児甲状腺機能低下症

妊娠中の母体が過剰なヨウ素に曝露されると、新生児に甲状腺腫と甲状腺機能低下症が引

き起こされることが、いくつかの症例報告で示されている。臨床症例では、一般的にヨウ

素への母体曝露量は 1 日あたり数百ミリグラムで、報告されている中で も低い値は 130

mg/日である(Martin & Rento, 1962; Hassan et al., 1968; Iancu et al., 1974; Penfold et al., 1978;

Coakley et al., 1989; Bostanci et al., 2001)。Vicens-Calvet et al.(1998)の症例報告の女性は、妊

娠中に、ヨウ素を約 260~390 mg/日(3.7~5.6 mg/kg 体重/日)の用量で摂取し、子宮内の胎

児に甲状腺腫が生じた。この甲状腺腫は、子宮内でレボチロキシンにより治療され奏効し、

出生時には甲状腺とホルモン状態は正常であった。

Galina et al.(1962)の症例報告の女性 2 名は、妊娠中にヨウ化カリウムを摂取し(総摂取量は、

それぞれ 234 g と 324 g)、乳児が、甲状腺腫による気管圧迫に関連した合併症で死亡して

いる。

デンマークのヨウ素欠乏地域で行われた妊婦へのヨウ化物補給の試験(Pedersen et al., 1993)

では、妊婦 28 名に、ヨウ素が 200 μg/日の用量で、妊娠 17 週目~18 週目から出産後 12 ヵ

月目まで連日投与され、対照群 26 名には何も投与されなかった。試験開始前の両群の尿

中ヨウ化物濃度は、それぞれ 51 μg/L と 55 μg/L であった。尿中ヨウ化物濃度が 24 時間の

平均を表すとし、尿量を約 1.4 L/日と仮定して、事前の食事性ヨウ素の摂取量は約 75 μg/L、

ヨウ素の総摂取量は 275 μg/日(4 μg/kg 体重/日)と推定された。出生児の血清総 T4値、遊離

T4 値、T3 値、TSH 値には、両群で統計的に有意な差は認められず、また、いずれの乳児に

も、ホルモンの異常値は認められなかった。

ドイツのヨウ素欠乏と思われる地域で行われた妊婦へのヨウ素補給の試験(Liesenkötter et

al., 1996)では、妊婦 38 名に、ヨウ素が(ヨウ化ナトリウムとして)230 μg/日の用量で、妊

娠中と授乳中に連日投与され、対照群の 70 名には何も投与されなかった。投与前の尿中

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ヨウ化物濃度の中央値は、53 μg/g クレアチニンであった。これより、事前のヨウ化物摂取

量は約 90 μg/日、ヨウ素の総摂取量は 320 μg/日(5 μg/kg 体重/日)と推定された。投与群は、

対照群に比較して、乳児の甲状腺の体積が有意に減少し(中央値は、対照群が 1.5 mL、投

与群が 0.7 mL)、甲状腺腫大(>1.5 mL)が、投与群(38 名)の乳児 1 名(2.6%)と、対照群(70

名)の乳児 14 名(20%)に認められた。この試験では、「妊婦や新生児に、甲状腺機能低下症

または甲状腺機能亢進症は認められなかった」と報告されているが、血清 TSH 値を以外の

評価項目は示されていない。

9.3.2 甲状腺機能亢進症

特定の状況で、過剰なヨウ化物に経口曝露されると、甲状腺機能亢進症が引き起こされる。

疫学的・臨床的文献によると、甲状腺機能亢進症が もよく起こるのは、ヨウ素欠乏症、

甲状腺腫、甲状腺疾患(結節性甲状腺腫、グレーブス病など)の既往歴がある人である

(Fradkin & Wolff, 1983; Leger et al., 1984; Paschke et al., 1994; Braverman & Roti, 1996)。明ら

かな甲状腺疾患がなく、甲状腺機能が正常な人に、ヨウ素誘発性甲状腺機能亢進症が起こ

った症例が報告されている(Savoie et al., 1975; Rajatanavin et al., 1984; Shilo & Hirsch, 1986)

が、用量のデータが示されているのは、ごくわずかである。明らかな甲状腺疾患の既往歴

がない 72 歳の女性の症例(Shilo & Hirsch, 1986)では、海藻の錠剤の形で、ヨウ素を約 2.8

~4.2 mg/日(平均 0.05 mg/kg 体重/日)の用量で摂取した結果、顕性甲状腺機能亢進症が起こ

り、錠剤の摂取中止後 6 ヵ月で、甲状腺の状態は正常に戻っている。15 歳の男性の症例

(Ahmed et al., 1974)では、ヨウ素を(ヨウ化カリウムとして)1,440 mg/日の用量で 4 ヵ月間

摂取した結果、甲状腺機能亢進症が起こり、ヨウ化カリウムの摂取中止後 6 ヵ月で、甲状

腺の状態は正常に戻っている。

1 件の症例研究(Vagenakis et al., 1972)では、非中毒性甲状腺腫の既往歴のある健康で甲状

腺機能が正常な成人女性 8 名に、ヨウ素が(ヨウ化カリウムの飽和溶液として)180 mg/日

(2.6 mg/kg 体重/日)の用量で、10~18 週間経口投与された。8 名中 4 名に、顕性甲状腺機

能亢進症が起こり、ヨウ素補給を中止すると、症状が増悪した。

オーストリアで行われた 1 件の疫学的調査(Mostbeck et al., 1998)では、1991 年にヨウ素添

加食卓塩使用についての上方調整が行われる前と後に、オーストリアの核医学センター

(あらゆる甲状腺検査が行われている)で検査した患者を対象として、甲状腺機能亢進症の

年間発生率が調査された。尿中ヨウ化物濃度の平均値は、調整前が 42~78 μg/g クレアチ

ニン、調整後が 120~140 μg/g クレアチニンであった。これらの値は、それぞれ、77~146

μg/日(1.1~2.1 μg/kg 体重/日)、225~263 μg/日(3.2~3.8 μg/kg 体重/日)に大体相当する。

1987~1995 年に、19 ヵ所の核医学センターで、392,820 名の患者が検査された。グレーブ

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ス病と内因性の甲状腺の自律的活動亢進症について、それぞれの年間発生率を、調整後の

期間(1991~1995 年)と調整前の期間(1987~1989)で比較すると、いずれの甲状腺機能亢進

症についても、有意な相対リスク上昇が認められた。 も相対リスクが高かったのはグレ

ーブス病の場合で、顕性疾患では 2.19 倍(95%信頼区間で 2.01~2.38 倍)、不顕性疾患では

2.47 倍(95%信頼区間で 2.04~3.00 倍)であった。調整前発生率と調整後発生率の回帰分析

によって、調整後の期間では、両方のタイプの甲状腺機能亢進症が有意に経時的に上昇す

る傾向が認められ、調整前の期間では認められなかった。調整後の発生率のデータを、

1990~1992 年と 1993~1995 年の 2 つの期間と、性別と年齢で、それぞれ層別化すると、

甲状腺の自律的活動亢進症の相対リスクは、男性の方が女性よりも高く、50 歳以上の方が

50 歳以下より高かった。甲状腺機能亢進症(顕性または不顕性のすべての型を含む)の発生

率は、調整前の期間が 10 万人あたり 70.1 人で、調整後、1992 年にピークに達し、10 万人

あたり 108.4 人となっている。オーストリアでは、1963 年から 1990 年までの期間、甲状

腺腫を予防する目的で、食卓塩へのヨウ素添加(食塩 1 kg あたり 7.5 mg)が行われた。

ヨウ素欠乏による地方病性甲状腺腫を防止するため、食事にヨウ化物を補給すると、数ヵ

月以内に甲状腺機能亢進症患者が 2~4 倍増加することが、タスマニアにおける甲状腺機

能亢進症の発生率について集められたデータでも示されている(Connolly et al., 1970)。ヨウ

化カリウムをパンに添加して補給が行われており、用量は、約 80~200 μg/日である。24

時間尿中ヨウ化物排泄量の平均値より、補給後ヨウ化物総摂取量は、約 230 μg/日(3.3

μg/kg 体重/日、範囲 94~398 μg/日、または 1.3~5.7 μg/kg 体重/日)と考えられるので、摂

取量の一部は、添加されたパン以外の供給源に由来している可能性がある(Connolly,

1971a,b)。ヨウ素補給開始以降に、甲状腺機能亢進症の発生率が も高かった集団は、50

歳以上であった(Stewart, 1975; Stewart & Vidor, 1976)。

アフリカにおいて、ヨウ素欠乏・地方病性甲状腺腫多発地域で、食事にヨウ素添加塩を取

り入れて、その効果と有害な影響を評価するため、疫学的な多国家間大規模調査が実施さ

れた(Delange et al., 1999)。調査対象地域ごとに無作為に選抜した小児(6~14 歳)の集団

100~400 名から、尿と食卓塩の試料が集められた。それぞれの調査地域の甲状腺疾患に関

する情報を得るため、医療施設の実地調査が行われた。ジンバブエではヨウ素添加塩が食

事に幅広く取り入れられるようになってから 18 ヵ月で、甲状腺機能亢進症の発生率が 2.6

倍に(10 万人あたり 2.8 人から、10 万人あたり 7.4 人に)上昇した。発症者の 90%が女性で、

発生率が も高かった年齢層は 60~69 歳であった。 も多かった疾患は、中毒性結節性

甲状腺腫(58%)とグレーブス病(27%)である(Todd et al., 1995)。小児の尿中ヨウ化物濃度は、

この期間に、5~10 倍に上昇した。尿試料は「厳密ではない試料」として報告されているた

め、尿中濃度から摂取量を導出するにあたり大きな不確実性が生じている。尿中ヨウ化物

濃度の中央値は、290 μg/L から 560 μg/L にわたっていた。食塩と海藻から摂取されるヨウ

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化物の推定量は、それぞれ、500 μg/日(7.1 μg/kg 体重/日)、15~100 μg/日(0.2~1.4 μg/kg 体

重/日)と報告されている。コンゴ(旧ザイール)キブ州では、ヨウ素欠乏集団の食事にヨウ

素添加塩が取り入れられるようになってから、尿中ヨウ化物濃度が 16 μg/L から 240 μg/L

に上昇するとともに、甲状腺中毒症患者の数も上昇した(Bourdoux et al., 1996)。一方、セ

ネガルの 7 つの村では、ヨウ素添加油の経口投与により成人を治療したが、甲状腺機能亢

進症は生じていない。480 mg のヨウ素添加油の経口投与による治療を開始してから、6 ヵ

月目と 12 ヵ月目に評価が行われ、12 ヵ月目に、治療群(70 名)は、対照(未治療)群(65 名)

に比較して、遊離 T4 値が 35.8%上昇し、遊離 T3 値が 25%低下し、TSH 値が 50%低下し、

甲状腺腫の大きさが有意に減少した(Lazarus et al., 1992)。コンゴでは、47 mg または 118

mg のヨウ素添加油を単回経口投与したところ、約 1 年間にヨウ素欠乏症患者 75 名(22~

23 歳)において効果が認められた(Tonglet et al., 1992)。

スイスで行われた疫学的調査(Baltisberger et al., 1995; Bürgi et al., 1998)では、食卓塩のヨウ

素含有量が 7.5 mg/kg から 15 mg/kg に引き上げられた前後に、甲状腺機能亢進症の発生率

が調べられた。被験者数は、109,000 名であった。尿中ヨウ化物濃度の平均値は、補給前

が 90 μg/g クレアチニン、補給後が 150 μg/g クレアチニンであった。これは、ヨウ素の摂

取量が約 170 μg/日から 280 μg/日(体重を 70 kg と仮定すると、2.4 μg/kg 体重/日から 4

μg/kg 体重/日)に増加したことに等しい。補給開始から 1 年間に、グレーブス病または中毒

性結節性甲状腺腫と診断された甲状腺機能亢進症の年間発生率は、27%(10 万人あたり

62.3 人から約 80 人に)増加した。

9.3.3 甲状腺炎

ドイツの地方病性甲状腺腫の多発地域に居住し、甲状腺腫が認められること以外は健康で、

顕性の甲状腺機能低下症または甲状腺機能亢進症や抗甲状腺抗体が認められない成人に、

プラセボまたはヨウ素(200 μg/日)のいずれかを 12 ヵ月間投与した試験(Kahaly et al., 1997)

では、ヨウ素処置群では、プラセボ群に比較して、甲状腺の体積が有意に減少した。ヨウ

素処置群では 31 名中 3 名(9.7%)に、サイログロブリン値の上昇と甲状腺ミクロソーム抗

体陽性が認められたが、プラセボ群ではいずれの変化も認められなかった。この 3 名のう

ち、2 名は甲状腺機能低下症を発症し、1 名は甲状腺機能亢進症を発症した。ヨウ化物の

補給を中止すると、3 名とも甲状腺ホルモンの状態は正常に戻った。

同様の試験(Kahaly et al., 1998)では、地方病性甲状腺腫の多発地域の、甲状腺機能が正常

な甲状腺腫の成人患者 31 名に、ヨウ化カリウムが 500 μg/日(382 μg/日のヨウ素に相当)の

用量で、別の患者 31 名に T4 が 0.125 μg/日の用量で、6 ヵ月間投与された。ヨウ化カリウ

ム群では 6 名(19%)に、サイログロブリン高値と甲状腺ミクロソーム抗体高値が認められ、

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対して、T4 群では影響が認められなかった。この 6 名のうち 4 名は甲状腺機能低下症に、

2 名が甲状腺機能亢進症になった。投与終了から 6 ヵ月で、甲状腺ホルモンの状態は正常

に戻り、抗体価は低下した。

Koutras(1996)は、甲状腺腫の患者にヨウ素を 150 μg/日または 300 μg/日の用量で数週間投

与したところ、その 30%で、甲状腺自己免疫疾患が起こったことを報告している。

別の試験(Li et al., 1987; Boyages et al., 1989)では、ヨウ素の補給と自己免疫力の増強との関

連は認められていない。

9.4 がん

ヒトでは、良性甲状腺腫瘍はよくみられるが、甲状腺がんはまれであり、発症率は、男性

が 1~4 × 10-5、女性が 2~10 × 10-5である(IARC, 2003)。分化型腫瘍は、全甲状腺がんの

90%を占め、通常は乳頭がんと濾胞がんに分けられる。乳頭がんと濾胞がんの診断基準は、

ここ何年かの間に変更されてきたため、発症率を比較することが難しい。さらに、診断法

も著しく変化した結果、微小がんと不顕性がんの割合が増えており、この事は、甲状腺が

んによる死亡率低下にも現れている。一方、乳頭がんの症例報告も増加している

(Franceschi & La Vecchia, 1994; Pukkala, 1995; Franceschi, 1998; Franceschi et al., 1998; Capen et

al., 1999; Franceschi & Dal Maso, 1999; Verkooijen et al., 2003)。

地理的に食事性ヨウ素の含有量が高い地域では、甲状腺乳頭がんの発生率が高いことが報

告されているが、一方、濾胞がんの発生率は、地方病性甲状腺腫の多発地域で高い

(Williams et al., 1977; Hakulinen et al., 1986; Bakiri et al., 1998; Franceschi et al., 1998)。オース

トリアでは、1963 年から食塩へのヨウ素添加が開始され、1991 年に添加量の引き上げが

行われた。尿中ヨウ化物濃度の平均は、引き上げ前が 42~78 μg/g クレアチニン、引き上

げ後が 120~140 μg/g クレアチニンであったが、これは、それぞれ、77~146 μg/日(1.1~

2.1 μg/kg 体重/日)、225~263 μg/日(3.2~3.84 μg/kg 体重/日)にほぼ等しい(Bacher-Stier et al.,

1997; Mostbeck et al., 1998)。オーストリア、チロル地方の住民 1,063,395 人分の医療記録の

後向き分析では、甲状腺がんの発生率が、1960~1970 年の 10 万人あたり 3.1 人から、

1990~1994 年の 10 万人あたり 7.8 人に上昇したと結論づけられている(Bacher-Stier et al.,

1997)。補給後、乳頭腫瘍の罹患率は、濾胞性腫瘍の罹患率と比較して上昇しているよう

に思われる。乳頭腫瘍と濾胞性腫瘍の比は、補給前が 0.6:1、補給後は 1.5:1 であった。診

断法の向上(分化型甲状腺がんがより早期の段階で診断されるようになった)が、発生率上

昇の一因である可能性がある。このことは、医療記録が全て揃っている患者 439 名におい

て、より早期の腫瘍の発生率が上昇している傾向がみられることからも裏づけられる。ま

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た、スイスでは 1974 年~1987 年に、経時的な、乳頭様甲状腺腫瘍の発生率の上昇、濾胞

性甲状腺腫瘍の発生率の減少、甲状腺腫瘍死亡率の減少が認められている(Levi et al.,

1991)。

ヨウ素摂取量が十分な集団において、甲状腺がんに関する症例対照調査が、2 件行われて

いる。1 件は、米国のサンフランシスコベイエリア地区の女性住民を対象とした症例対照

調査(Horn-Ross et al., 2001)で、1995~1998 年に診断された甲状腺がん(91%が乳頭がん)症

例群 608 名と、無作為番号ダイアル法で選出した対照群(年齢と民族を症例群と整合させ

ている)558 名について、ヨウ素摂取量などの食習慣が調査された。食事性ヨウ素の摂取量

が、食物摂取頻度調査、様々な食物のヨウ素含有量について発表された編集物、および足

指の爪中のヨウ素の分析結果に基づいて推定された。食事性ヨウ素の推定摂取量の も高

い五分位点(>537 μg/日)のオッズ比は、 も低い五分位点(<273 μg/日)と比較すると、0.49

(95%信頼区間 0.29~0.84)であった。甲状腺がんと、足指の爪中のヨウ素濃度との間に関

連は認められていない。著者らは、ヨウ素への曝露は、せいぜい乳頭様甲状腺がんのリス

クに弱い影響を及ぼす程度であると思われると結論している。

もう 1 件は、米国ハワイ州の住民を対象とした症例対照調査(Kolonel et al., 1990)で、1980

~1987 年に診断され、組織学的に確認された甲状腺がん(91%が乳頭がん)の症例群 191 名

(女性 64%)と、5 つの民族グループから年齢と性別を整合させて選出した対照群 441 名の、

ヨウ素摂取量などの食習慣が調査された。食事性ヨウ素の摂取量が、食物摂取頻度調査の

結果と、様々な食物のヨウ素含有量について発表された編集物に基づいて推定された。女

性の症例では、対照群に比較して、食事性ヨウ素(特に甲殻類などの海産食品、発酵魚醤)

の摂取量が有意に高かったが、女性の体重を 65 kg と仮定すると、症例群は 394 μg/日(6.1

μg/kg 体重/日)、対照群は 326 μg/日(5.0 μg/kg 体重/日)となり、群平均の差は、それほど大

きくなかった。症例群と対照群を、食事性ヨウ素の摂取量に従って分類(四分位)すると、

女性における甲状腺がんのオッズ比は、ヨウ素摂取量に比例して大きくなった。ただし、

オッズ比は統計的に有意ではなく、オッズ比がヨウ素摂取量の増加に比例して大きくなる

傾向も有意ではなかった。

ヨウ素欠乏地域に居住する集団における、甲状腺がんとヨウ素摂取量との関連性が、いく

つかの疫学的調査によって調べられている。コホート調査によって、スウェーデンのヨウ

素欠乏地域とヨウ素充足地域における、1958~1981 年の期間の甲状腺がんの発生率が比較

された。スウェーデンでは、ヨウ素の食事への補給が 1936 年から開始され、その後 1966

年と 1971 年に補給量が大きく引き上げられたため、この試験期間中に、食事性ヨウ素の

摂取量が増加した(Pettersson et al., 1996)。性別、年齢、診断日、地域(ヨウ素欠乏地域かヨ

ウ素充足地域か)などを変数としする多変量モデルが、5,838 の甲状腺がん症例に適用され

て、甲状腺がんの補正発生率比、すなわちヨウ素欠乏地域のがん補正発生率のヨウ素充足

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地域のがん補正発生率に対する比が推定された。甲状腺乳頭がんの発生率比は 0.8(95%信

頼区間 0.73~0.88)であり、ヨウ素欠乏地域での発生率が低いことが示唆されている。濾胞

性甲状腺がんの発生率比は、男性が 1.98(95%信頼区間 1.60~2.4)、女性が 1.17(95%信頼区

間 1.04~1.32)であった。甲状腺がんの発生率を診断日の関数として分析すると、ヨウ素欠

乏地域では、濾胞がん発生率に有意な増加の傾向が認められたが、ヨウ素充足地域では、

この傾向は認められなかった。ヨウ素充足地域、ヨウ素欠乏地域ともに、乳頭がん上昇の

有意な傾向が明らかであった。

甲状腺がんの発生率と、地方病性甲状腺腫の多発地域における居住期間との間にみられた

のと同様の傾向が、スウェーデンで 1980~1992 年に診断された甲状腺がんの症例でも認

められている(Galanti et al., 1995)。この傾向は、濾胞がんの場合に もはっきりしている。

別のコホート調査(Belfiore et al., 1987)では、イタリア、シチリア島のヨウ素欠乏地域とヨ

ウ素充足地域に居住する集団を対象に、1979~1985 年の期間中の甲状腺がんの罹患率が調

べられている。尿中ヨウ素排泄量の平均は、ヨウ素欠乏地域が約 19~43 μg/日、ヨウ素充

足地域が約 114 μg/日であった。ヨウ素欠乏地域で無作為に選抜した被験者における機能低

下結節の罹患率(1,683 名中 72 名、4.3%)は、ヨウ素充足地域(1,253 名中 21 名、1.7%)より

有意に高かった。この調査の第二相として、2 つの地域の、機能低下結節の認められたす

べての患者〔ヨウ素欠乏地域の患者 911 名、ヨウ素充足地域(対照地域)の患者 2,537 名〕)

の生検を行った。機能低下結節が 1 個以上認められた患者の甲状腺がんの罹患率は、ヨウ

素充足地域(2,537 名中 139、5.48%)が、ヨウ素欠乏地域(911 名中 27 名、2.96%)より高か

った。濾胞性腫瘍の罹患率に対する乳頭腫瘍の罹患率の比は、ヨウ素充足地域(3.8 倍)の

方がヨウ素欠乏地域(1.0 倍)より高かった。機能低下結節が認められた患者における甲状

腺がんの罹患率を 2 つの地域の機能低下結節の推定罹患率に対して調整すると、甲状腺が

んの推定罹患率は、ヨウ素欠乏地域(10 万人あたり 127 人)の方が、ヨウ素充足地域(10 万

人あたり 93 人)より有意に高かった。

イタリア北部で行われた、もう一つの症例対照調査(Franceschi et al., 1989; D’Avanzo et al.,

1995; Fioretti et al., 1999)では、甲状腺がんのリスクの上昇と、地方病性甲状腺腫の多発地

域における 20 年以上の在住期間との間に関連が認められた(オッズ比 2.29、95%信頼区間

1.23~4.29)。Franceschi et al.(1989)は、イタリア北部における甲状腺がんの症例の約 60%

が、地方病性甲状腺腫の多発地域での居住や食生活の貧しさに起因するとしている。甲状

腺がんの有効な予防は、ヨウ素が豊富であるとされる食料品(魚、青物野菜、果物など)を

頻繁に摂取することと関連性があった。

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9.5 感受性集団

胎児と新生児、高齢者、基礎疾患に甲状腺疾患がある人、抗甲状腺薬物療法を受けている

患者は、ヨウ素誘発性甲状腺機能低下症になりやすい。この疾患のリスクが高い集団の詳

細を、Table 3 に示す。ヨウ素誘発性甲状腺機能低下症は、過剰なヨウ素摂取を中止すれば

治癒する。

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10. 影響の評価

10.1 有害性の特定と用量反応評価

ヨウ素は、ヒトでは、身体の生理学的機能を正常に保つうえで不可欠の元素であるため、

食事の一部として摂取する必要がある。WHO(1996)は、ヨウ素を食事の一部として、1 日

あたり 150 μg(妊婦と授乳婦では、さらに 50 μg)を摂取する必要があると定めている。

食事性ヨウ素の摂取不足と過剰摂取はどちらも、健康に様々な影響を引き起こす可能性が

ある。ヨウ素の摂取不足は、甲状腺機能低下や甲状腺腫(甲状腺の代償的肥大)を引き起こ

すが、一方、ヨウ素の過剰摂取は、甲状腺機能亢進を招く場合と、甲状腺機能低下を招く

場合の両方がある。

甲状腺炎(甲状腺の炎症反応)は、ヨウ素の過剰摂取との関係が疑われているが、現時点で

は、因果関係について明確な結論は得られていない。ヨウ化物の遺伝毒性を調べた試験は

限られているが、結果は一貫して陰性である。ヨウ素およびヨウ化物の動物に対する生

殖・発生影響に関するデータは限られているが、ヒトの症例報告では、妊娠中にヨウ素を

過剰摂取すると(報告されている 低用量は 130 mg/日)、新生児に甲状腺腫や甲状腺肥大

が起こる可能性があることが示されている。高用量経口摂取による発熱反応と皮膚反応

(ヨウ素疹)が報告されている。ヨウ素またはヨウ化物の化合物に呼吸感作性があることを

示すデータは、見当たらない。ポビドンヨードに敏感な人が、ヨウ化カリウムには反応し

ないことが報告されている。

地方病性甲状腺腫の多発地域では、甲状腺がんの発生率の上昇は、地方病性甲状腺機能低

下症と食事性ヨウ素の摂取量増加の両方に関連があることが認められている。ヨウ素摂取

量の乏しい地域では、濾胞細胞腫瘍が優勢であるように思われたが、ヨウ素を補給しなけ

ればヨウ素欠乏となってしまう集団に補給を施した場合には、病理組織的に乳頭がんと診

断される率が高くなる方向へと明らかに移行した(Belfiore et al., 1987; Kolonel et al., 1990;

Pettersson et al., 1991, 1996; Bakiri et al., 1998; Feldt-Rasmussen, 2001)。ヨウ素摂取量が十分な

集団を対象とした調査では、ヨウ素摂取量と甲状腺がんの間に有意な関連は認められてい

ない(Kolonel et al., 1990; Horn-Ross et al., 2001)。

10.2 ヨウ素の耐容摂取量と耐容濃度の設定基準

小児(7~15 歳)を対象として、中国の飲料水中のヨウ化物濃度が 462.5 μg/L(n = 120)の地域

と 54 μg/L(n = 51)の地域の 2 ヵ所で、甲状腺の状態の比較調査が行われた(Boyages et al.,

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1989)。尿中ヨウ素濃度は、高濃度群が 1,236 μg/g クレアチニン、低濃度群が 428 μg/g クレ

アチニンであった。被験者は全員、甲状腺機能正常、血清甲状腺ホルモン値と TSH 値も正

常であったが、高濃度群の TSH 値は、低濃度群に比較して有意に高かった(P < 0.05)。高

濃度群では、甲状腺腫の罹患率が 65%、グレード 2 の甲状腺腫の罹患率が 15%であり、低

濃度群では甲状腺腫の罹患率が 15%、グレード 2 の甲状腺腫の罹患率が 0%であった。尿

中ヨウ素濃度の測定値を変換してヨウ素摂取量を推算するにあたり、定常状態におけるヨ

ウ化物の標準的食事摂取量は、Konno et al.(1993)と Kahaly et al.(1998)が報告している 24

時間尿中ヨウ素排泄量に等しいと仮定した。体重を 40 kg、除脂肪体重を体重の 85%と仮

定し、Boyages et al.(1989)が報告している尿中ヨウ素濃度の測定値を変換してヨウ素摂取

量を推算すると、高濃度群が約 1,150 μg/日(0.029 mg/kg 体重/日)、低濃度群が約 400 μg/日

(0.01 mg/kg 体重/日)となる。したがって、この調査での NOAEL は、0.01 mg/kg 体重/日と

みなされる。

Boyages et al.(1989)の試験の NOAEL は、感受性の高いもう一つの集団と思われる高齢者

の、急性曝露と慢性曝露の両方に適用できる可能性があることが、裏づけ試験によって示

されている(Chow et al., 1991; Szabolcs et al., 1997)。Chow et al.(1991)の試験では、英国ウェ

ールズのカーディフに居住する 60~75 歳の健康な女性 30 名に、ヨウ素が 500 μg/日の用量

で 14 日間または 28 日間連日投与され、血清遊離 T4 値の有意な低下と、血清 TSH 値の有

意な上昇が認められている。変化の大きさを平均すると、甲状腺ホルモンに臨床的に有意

な低下は認められなかったが、5 名の被験者の血清 TSH 値が 5 mU/L を上回っていた。事

前の食事性ヨウ素の摂取量は、尿中ヨウ化物の測定値から、約 72~100 μg/日と算出された。

したがって、ヨウ化物の総摂取量は、約 600 μg/日〔0.0087 mg/kg 体重/日、英国国民食生活

栄養調査(British National Diet and Nutrition Survey);英国栄養財団(British Nutrition Foundation,

2004)で示された女性(19~64 歳)の平均体重 69 kg に基づく〕と算出された。ヨウ素の推定

摂取量が約 117 μg/日(0.0017 mg/kg 体重/日、低摂取群)、163 μg/日(0.0023 mg/kg 体重/日、

中摂取群)、834 μg/日(0.012 mg/kg 体重/日、高摂取群)の 3 つの地域のいずれかで、ヨウ素

に長期曝露されてきた老人ホーム入居者を対象として行われた調査(Szabolcs et al., 1997)で、

低、中、高の各摂取群の、顕性甲状腺機能低下症の罹患率は、それぞれ、0.8%、1.5%、

7.6%であった。血清遊離 T4値の低下に伴って、血清 TSH 値が上昇していた(P = 0.006)。

Paul et al.の試験(1988)では、甲状腺疾患と抗甲状腺抗体陽性の既往歴がなく、甲状腺機能

が正常で健康な成人(男性 9 名、女性 9 名)に、ヨウ素が(ヨウ化ナトリウムとして)250、

500、1,500 μg/日の用量で 14 日間投与された。ヨウ化物を投与する前の 24 時間尿中ヨウ化

物排泄量に基づいて、事前のヨウ素摂取量は約 200 μg/日と推定された。よって、ヨウ化物

の総摂取量は、約 450、700、1,700 μg/日(体重を 70 kg と仮定すると、約 0.0064、0.01、

0.024 mg/kg 体重/日)と算出された。高用量群では、血清総 T4値、遊離 T4値、総 T3値が投

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与前の値に比較して有意に低下し(5~10%)し、血清 TSH 値が投与前の値に比較して有意

に増加(47%)した。投与期間中のホルモン値は、正常範囲内であった。また、この試験で

は、女性 9 名に、ヨウ素が 250 μg/日または 500 μg/日の用量で 14 日間連日投与された〔総

摂取量は、それぞれ、約 450 μg/日(0.0064 mg/kg 体重/日)または 700 μg/日(0.010 mg/kg 体

重/日)〕が、血清ホルモン値に有意な変化は認められなかった。

これと同質の Gardner et al.(1988)の試験では、健康で甲状腺機能が正常な成人男性 10 名に、

ヨウ素(ヨウ化ナトリウムとして)が 500、1,500、4,500 μg/日の用量で 14 日間経口投与され

た。ヨウ化物を補給する前の 24 時間尿中ヨウ化物排泄量 256~319 μg/日に基づいて、ヨウ

素の総摂取量は、800、1,800、4,800 μg/日(約 0.011、0.026、0.069 mg/kg 体重/日)と推定さ

れた。この試験では、ヨウ素の総摂取量が 800 μg/日(0.011 mg/kg 体重/日)の群では、血清

甲状腺ホルモン値と血清 TSH 値への影響は認められなかったが、1,800 μg/日(0.026 mg/kg

体重/日)と 4,800 μg/日(0.069 mg/kg 体重/日)の群では、投与前に比較して、血清総 T4値と

遊離 T4値に小さいが有意な一過性の低下(10%)が認められ、血清 TSH 値に上昇(48%)が認

められている。

Robison et al.(1998)の試験データから、影響量は 1 mg/kg 体重/日、無影響量は 0.3 mg/kg 体

重/日であると考えられる。この量は、Paul et al.(1988)と Gardner et al.(1988)が報告して

いる値と比較するとかなり高いことから、人によっては甲状腺抑制が起こることなく高用

量のヨウ素に耐えられることが示唆される。

Gardner et al.(1988)の試験や Paul et al.(1988)の試験などによって裏づけられている Boyages

et al.(1989)の試験データより、可逆性の不顕性甲状腺機能低下症に基づいて、NOAEL で

ある 0.01 mg/kg 体重/日を不確実係数 1 で割り、TDI は 0.01 mg/kg 体重と算出できる。

この用量が NOAEL であることと、この試験がヒトを対象としたものであること、および

試験のコホートが も感受性の高い集団であるとみなされることから、不確実係数 1 は適

切であると考えられている。この NOAEL については、感受性の高いもう一つの集団と思

われる高齢者に適用できると考えられることが、裏づけ試験によって示されている。

10.3 リスクの総合判定例

米国の一般集団では、大気を介するヨウ素曝露(平均濃度 0.7 μg/m3)と飲料水を介するヨウ

素曝露(<5 μg/L)により、TDI よりほぼ 2 桁低いヨウ素が摂取されている。ヨウ素添加塩と

ヨウ素の食品添加物は、食料品の中で も重要なヨウ素供給源であることは間違いなく、

すべての食事性ヨウ素の 50%を超える供給源となっている。米国の成人男性と成人女性の

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食事性ヨウ素の平均摂取量は、ともに TDI の約 60%である。このことは、12 歳以上の 1

人あたりの食事摂取基準 (以前の 「 1 日所要量 」 )が、 150 μg/ 日とされている

(WHO/UNICEF/ICCIDD, 2001; WHO, 2004a)ことと対比されるであろう。食事摂取基準は、

母集団の 97.5%で生理学的機能が 適に保たれるための、必須栄養素の平均量である。こ

れは、毎日摂取すべき絶対量ではなく、約 7 日間の間に平均して摂取すべき量である

(FAO/WHO, 2002)。

10.4 健康リスク評価における不確実性

ヨウ素は、ヒトについての信頼できるデータが、臨床と疫学の両面から、多種多様な集団

とすべての年齢群にわたって、幅広く集められている化学物質である。ヨウ素はまた、生

理学的機能を正常に保つうえで不可欠であり、ヒトの成長、発達、代謝、神経機能に必要

な元素でもある。したがって、ヨウ素の耐容 1 日摂取量(TDI)を算出する場合は、健康影

響に基づいた耐容摂取量の値が安全側を考慮し過ぎて、ヒトの健康維持に必要とされる所

要量の値より小さくならないように、注意する必要がある。1 という不確実係数は、TDI

設定の目的とヒトの健康保護に見合った値である。0.01 mg/kg 体重/日という TDI は、ヨウ

素への過剰曝露からヒトの健康を保護する必要性と、ヨウ素への曝露量がヨウ素の所要食

事摂取量と矛盾しないようにする必要性のどちらも満たしている。

食事性ヨウ素の必要性については、個人や集団によるばらつきの程度がわからないため、

TDI の不確実性が生じている。地理的なヨウ素欠乏地域で必要とされるヨウ素補給の程度

も、このばらつきによって大きくなったり小さくなったりする。ばらつきは、ヒトの遺伝

的多様性、様々な飲食物中のヨウ素の生物学的利用性の差、ヨウ素摂取量の増加に対する

耐性の発現(または欠如)に起因している可能性がある。他にも、ヨウ素の生物学的要求量

やヨウ素を含有している甲状腺ホルモンの生理学的調節に影響を及ぼす可能性のある、多

数の要因が関連している。加えて、食事性ヨウ素の添加開始後の、健康管理担当者や一般

集団における意識の高まりも、TDI より低い摂取量における甲状腺機能亢進症の所見に対

する解釈に影響を与える可能性がある。

11. 化学物質の適正管理に関する国際機関間プログラム(IOMC)機関による

これまでの評価

ヨウ素の WHO 推奨摂取量(ヒトの要求量)は、成人が 150 μg/日、妊娠・授乳中の女性が

200 μg/日、1~12 ヵ月の小児が 50 μg/日、1~6 歳が 90 μg/日、7~12 歳が 120 μg/日である

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(WHO/UNICEF/ICCIDD, 2001; WHO, 2004a)。

WHO は、飲料水中のヨウ素については関連データがないため、ガイドラインを定めてい

ない(WHO, 2004c)。ヨウ素は、飲料水の消毒に長期間にわたって使用されることはないた

め、飲料水によるヨウ素への生涯曝露の可能性はない。

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APPENDIX 1 — 頭辞語および略語

AES atomic emission spectrometry:原子発光分析

ATSDR Agency for Toxic Substances and Disease Registry (USA):環境有害物質・特

定疾病対策庁

CAS Chemical Abstracts Service:化学情報検索サービス機関

CDC Centers for Disease Control and Prevention (USA) :米国疾病対策センター

CICAD Concise International Chemical Assessment Document:国際化学物質簡潔評

価文書

DHPN N-bis(2-hydroxypropyl)nitrosamine:N-ビス(2-ヒドロキシプロピル)ニトロソ

アミン

DRC Dynamic Reaction Cell:ダイナミックリアクションセル(訳注:ICP 分析等

で、プラズマ源であるアルゴンや試料のマトリックスに起因する『多原子イオ

ン干渉』を除去する機構の 1 つ。)

EDTA ethylenediaminetetraacetic acid:エチレンジアミン四酢酸

EPA Environmental Protection Agency (USA):米国環境保護庁

EQUIP Ensuring the Quality of Iodine Procedures:ヨウ素に関する試験法の質向上

計画

FDA Food and Drug Administration (USA):米国食品医薬品局

HPLC high-performance liquid chromatography:高速液体クロマトグラフィー

ICCIDD International Council for the Control of Iodine Deficiency Disorder:ヨード欠

乏症国際対策機構

ICP inductively coupled plasma:誘導結合プラズマ

ICSC International Chemical Safety Card:国際化学物質安全性カード

IDMS isotope dilution mass spectrometry:同位体希釈質量分析

INAA instrumental neutron activation analysis:機器中性子放射化分析

IOMC Inter-Organization Programme for the Sound Management of Chemicals :化学物質の適正管理に関する国際機関間プログラム

IPCS International Programme on Chemical Safety (World Health Organization) :国際化学物質安全性計画

Koc

organic carbon/water partition coefficient:有機炭素/水分配係数

Kow

octanol/water partition coefficient:オクタノール/水分配係数

MS mass spectrometry:質量分析

NHANES National Health and Nutrition Examination Survey (USA):米国国民健康栄養

調査

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NIOSH National Institute of Occupational Safety and Health (USA):米国労働安全衛

生研究所

NOAEL no-observed-adverse-effect level:無毒性量

OSHA Occupational Safety and Health Administration (USA):米国労働安全衛生局

SD standard deviation:標準偏差

SI International System of Units (Système international d’unités):国際単位系

T1

monoiodotyrosine:モノヨードチロシン〔訳注:原文では”monoiodothyro-

nine”となっているが、本文(セクション7.3第2段落)では” monoiodotyrosine”となっており、後者が正しい。〕

T2

diiodotyrosine:ジヨードチロシン〔訳注:原文では”diioddithyronine”となっ

ているが、本文(セクション7.3第2段落)では”diiodotyrosine”となっており、後

者が正しい。〕

T3

triiodothyronine:トリヨードチロニン

T4 tetraiodothyronine; thyroxine:テトラヨードチロニン;チロキシン

TDI tolerable daily intake:耐容 1日摂取量

TSH thyroid stimulating hormone:甲状腺刺激ホルモン

U enzyme unit:酵素単位

UNICEF United Nations Children’s Fund:国連児童基金

USA United States of America:アメリカ合衆国

UV ultraviolet:紫外線

v/v by volume:容積(率)で

WHO World Health Organization:世界保健機構

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