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シリーズ COPD 「きよせ吸入療法研究会」と 地域病薬連携について 結核予防会複十字病院 情報システム部長 呼吸器内科 早乙女 幹朗 「きよせ吸入療法研究会」は,清瀬近隣地区の病医 院と調剤薬局を対象に,COPDや気管支喘息をはじ めとする呼吸器疾患に対する吸入療法に関して情報 交換を図りながら「病薬連携」を推進することを目 的として,2011年 9 月に発足した研究会である。今 回は,この研究会のこれまでの足取りと今後の展望 についてご紹介させていただきたい。 KIYOSEは呼吸器の街 複十字病院が立地する清瀬市およびその周辺地区 は,かつて結核が猛威を振るった時代に多くの結核 治療施設がつくられて呼吸器疾患の専門的な治療が 行われてきた歴史があり,現在でも500床を超える呼 吸器の専門病床と多くの介護施設が存在している。 じつはこのような特殊な地域は海外にもほとんど類 例がなく,“KIYOSE” は「呼吸器の街」として世界 の呼吸器科医に知られている。このような地域性か ら,呼吸器疾患の治療を軸とした病医院・調剤薬局 間の連携,すなわち「病薬連携」については,以前 から重要な課題として当地の医療関係者には認識さ れていたのであるが,お互いの連携を具体化する作 業はなかなか進んでこなかった。「きよせ吸入療法研 究会」は,複十字病院院長の工藤翔二先生の発案に より,この “KIYOSE” での「病薬連携」を推進す るべく清瀬近隣の呼吸器内科医や薬剤師の方々の協 力を得て結成された,新しい試みの会である。 「きよせ吸入療法研究会」の発足 研究会発足当初の世話人としては,筆者(事務局 担当)の他に,独立行政法人国立病院機構東京病院 統括診療部長(当時)の庄司俊輔先生,東久留米医 師会長の山口規夫先生,公立昭和病院小児科の大場 邦弘先生,西武薬剤師会長の吉岡政雄先生,そして 西武薬剤師会に属する清瀬・東久留米・東村山・西 東京・小平の各薬剤師会長の諸先生を配し,顧問に は工藤翔二院長と国立病院機構東京病院長の大田健 先生をお迎えしての発足となった。実に立派なメン バーが揃い,形は整ったわけであるが,事務局を任 された筆者は地域連携の催しの知識も経験もなく, 正直いって何をどうやって進めて良いものやら,当 初は五里霧中の思いであった。 ちょうどこの頃は,吸入薬や吸入器の種類が増え てきて個々のケースの服薬指導がなかなか難しい, ということが全国的に問題になり始めた時期であり, 各地から「吸入指導の地域連携」の事例報告がなさ れはじめていた。代表世話人である筆者と庄司先生, 山口先生の 3 人での打ち合わせはまず,これらの先 行事例を参考にしながら進められ,徐々に研究会の 方向性が具体化していった。最終的に,研究会のス タイルは呼吸器疾患や吸入療法に関する「講演」と 参加者が直接参加する「吸入指導実習」の組み合わ せとなり,会場は「清瀬けやきホール」に設定された。 なお,研究会名称の「きよせ」が平仮名になってい るのは,清瀬市だけでなく周辺を含む広い地域が「呼 吸器の街,KIYOSE」に含まれる,という意味合い を象徴したものである。 第 1 回,第 2 回研究会の開催 第 1 回研究会は,地域の医師や薬剤師など88名の 参加を得て2012年 2 月16日に開かれた。講師には信 州大学医学部附属病院薬剤部の百瀬泰行先生,医療 法人社団順江会江東病院 副院長/呼吸器・感染症 センター長の田村尚亮先生をお招きし,長野県松本 地区と東京都江東区での医薬連携の実際をそれぞれ ご紹介いただく講演と,我々が作成した地域医薬連 携のための「吸入指導依頼票」「吸入指導報告書」の 運用開始の紹介で構成する会であった。この会は続 く 3 月の第 2 回とセットで企画されており,まずは 各地における医薬連携の実例を参加者に強く印象づ けて会の方向性を参加者に示すことができた。 第 2 回は参加者104名,東京女子医科大学八千代医 療センター呼吸器内科の桂秀樹先生をお招きして千 葉県八千代地域における医薬連携の実際をご紹介い ただくと同時に,国内吸入薬発売メーカー全 7 社の 医薬情報担当者(MR)の協力を得て各社ごとのブー スでの吸入実習を実施した。 5 / 2014 複十字 No.356 22

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シリーズ

COPD 「きよせ吸入療法研究会」と地域病薬連携について

結核予防会複十字病院情報システム部長 呼吸器内科

早乙女 幹朗

 「きよせ吸入療法研究会」は,清瀬近隣地区の病医院と調剤薬局を対象に,COPDや気管支喘息をはじめとする呼吸器疾患に対する吸入療法に関して情報交換を図りながら「病薬連携」を推進することを目的として,2011年 9 月に発足した研究会である。今回は,この研究会のこれまでの足取りと今後の展望についてご紹介させていただきたい。

KIYOSEは呼吸器の街 複十字病院が立地する清瀬市およびその周辺地区は,かつて結核が猛威を振るった時代に多くの結核治療施設がつくられて呼吸器疾患の専門的な治療が行われてきた歴史があり,現在でも500床を超える呼吸器の専門病床と多くの介護施設が存在している。じつはこのような特殊な地域は海外にもほとんど類例がなく,“KIYOSE” は「呼吸器の街」として世界の呼吸器科医に知られている。このような地域性から,呼吸器疾患の治療を軸とした病医院・調剤薬局間の連携,すなわち「病薬連携」については,以前から重要な課題として当地の医療関係者には認識されていたのであるが,お互いの連携を具体化する作業はなかなか進んでこなかった。「きよせ吸入療法研究会」は,複十字病院院長の工藤翔二先生の発案により,この “KIYOSE” での「病薬連携」を推進するべく清瀬近隣の呼吸器内科医や薬剤師の方々の協力を得て結成された,新しい試みの会である。

「きよせ吸入療法研究会」の発足 研究会発足当初の世話人としては,筆者(事務局担当)の他に,独立行政法人国立病院機構東京病院統括診療部長(当時)の庄司俊輔先生,東久留米医師会長の山口規夫先生,公立昭和病院小児科の大場邦弘先生,西武薬剤師会長の吉岡政雄先生,そして西武薬剤師会に属する清瀬・東久留米・東村山・西東京・小平の各薬剤師会長の諸先生を配し,顧問には工藤翔二院長と国立病院機構東京病院長の大田健先生をお迎えしての発足となった。実に立派なメンバーが揃い,形は整ったわけであるが,事務局を任

された筆者は地域連携の催しの知識も経験もなく,正直いって何をどうやって進めて良いものやら,当初は五里霧中の思いであった。 ちょうどこの頃は,吸入薬や吸入器の種類が増えてきて個々のケースの服薬指導がなかなか難しい,ということが全国的に問題になり始めた時期であり,各地から「吸入指導の地域連携」の事例報告がなされはじめていた。代表世話人である筆者と庄司先生,山口先生の 3人での打ち合わせはまず,これらの先行事例を参考にしながら進められ,徐々に研究会の方向性が具体化していった。最終的に,研究会のスタイルは呼吸器疾患や吸入療法に関する「講演」と参加者が直接参加する「吸入指導実習」の組み合わせとなり,会場は「清瀬けやきホール」に設定された。なお,研究会名称の「きよせ」が平仮名になっているのは,清瀬市だけでなく周辺を含む広い地域が「呼吸器の街,KIYOSE」に含まれる,という意味合いを象徴したものである。

第1回,第2回研究会の開催 第 1回研究会は,地域の医師や薬剤師など88名の参加を得て2012年 2 月16日に開かれた。講師には信州大学医学部附属病院薬剤部の百瀬泰行先生,医療法人社団順江会江東病院 副院長/呼吸器・感染症センター長の田村尚亮先生をお招きし,長野県松本地区と東京都江東区での医薬連携の実際をそれぞれご紹介いただく講演と,我々が作成した地域医薬連携のための「吸入指導依頼票」「吸入指導報告書」の運用開始の紹介で構成する会であった。この会は続く 3月の第 2回とセットで企画されており,まずは各地における医薬連携の実例を参加者に強く印象づけて会の方向性を参加者に示すことができた。 第 2回は参加者104名,東京女子医科大学八千代医療センター呼吸器内科の桂秀樹先生をお招きして千葉県八千代地域における医薬連携の実際をご紹介いただくと同時に,国内吸入薬発売メーカー全 7社の医薬情報担当者(MR)の協力を得て各社ごとのブースでの吸入実習を実施した。

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 きよせ吸入療法研究会の実習の特色は,吸入手技の指導をメーカーの担当者に直接担当してもらっているところにあり,各社に対しては以下のコンセプトで協力を依頼している。 ①「MRの最も大切な仕事は,医薬品の適正使用のための情報提供,すなわち自社製品を正しく使ってもらうための教育・普及活動をすることである。研究会の場を利用して医療従事者が患者さんにきちんと吸入指導できるように教育してほしい。」 ②「各社は吸入薬販売で他社と患者さんを奪い合うのではなく,互いに協力し合って医療従事者への啓発活動を行うことでより多くの患者さんを病気から救い,社会に貢献していくことを目指していただきたい。」の 2つである。幸いなことに吸入薬発売全社が研究会の趣旨に賛同してMRを派遣し,指導用資材を提供しての吸入実習に参加してくれている。また,当研究会では,各社の吸入指導用パンフレット類や吸入指導資材の入手先一覧など,あわせて数十種類の書類をすべて纏めて社名の五十音順に 1冊のクリアファイルに収納し,目次をつけて参加者に配布しており,「この 1冊があれば全社の吸入指導について情報収集は完了」という形式が参加者にはなかなか好評である。

第3回目以降 吸入薬の新発売が続いたこともあり,その後は年3回ペースで研究会が開催され,2014年 2 月には第7回を迎えた。参加者は毎回80~100名程度で,地域の薬剤師さんたちを中心に,医師や看護師の参加も多い。医療従事者であれば特に参加に制限は設けていないので,研究会開催の情報を聞いて遠方から参加されるケースもあり,第 7回では青森県からわざわざ参加された先生もおられて,これには世話人会でも驚きの声が上がった。 呼吸器分野のエキスパートを招いての講演内容については,COPD,小児の吸入療法,肺炎の治療など幅広い分野をカバーし,実習についてもスペーサー発売各社,ネブライザー発売各社の協力を得て吸入用スペーサーやネブライザーの実機を用いた実演を加えたことにより,多くの参加者がこれまで経験できなかった体験学習を実現することができた。 さらに,医師から薬剤師への吸入指導の依頼と薬剤師からの結果報告に用いる当研究会オリジナルの連絡票については若手の薬剤師と医師によるワーキンググループによる検討が重ねられ,他地域での成功事例も参考にしながら医薬連携のブラッシュアップが進められている。

今後の展望 吸入薬はCOPDや気管支喘息の治療に欠かせないものであるが,各社から次々と新製品が発売あるいは発売予定となっており,種類が増える一方である。このため,吸入薬を処方する医師,薬剤師,患者さんたちが覚えなければならない知識も急増していて,誰かが交通整理をしないと対応が難しくなってきているのが現状である。研究会世話人としては,今後も引き続き,参加者の知識の整理を助けることにより正しい吸入療法を普及させ,地域全体の呼吸器疾患のコントロール向上を目指していきたいと考えている。

メーカーの医薬情報担当者による吸入指導実習。青い表紙のクリアファイル 1冊に参加全社の吸入療法についてのパンフレットが収納されている。

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