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インドにおけるM&A/JVの現状とその 規制内容

COVER TP4 WhitePaper A4.QXD...近年、インド経済の急速な発展に伴い、日系企業を含め外国企業によるインド投資が活発に行われてい る。インドへの投資手法としては、100%独資1により子会社を設立して既存のインド企業の助けを借り

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インドにおけるM&A/JVの現状とその

規制内容

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【目次】

はじめに執筆者紹介

第一編 M&A/JVによる日系企業のインド進出状況とM&A/JV実務

1. Executive Summary 5

2. インド経済の現状   72.1. インド経済 7  

2.2. インド経済における日本の重要性 11 

3. インドにおける近時のM&A/JV状況の分析   133.1. 近時のM&Aについて   13

3.2. M&Aのタイプ  14 

3.3. 主たるM&A 14

3.4. 日系企業によるM&A/JV 16

3.5. KPMGコメント 17

4. 事業分野別のM&A/JV状況の分析 19  4.1. 自動車分野   19

4.2. 金融分野-証券仲介業   25

4.3. 金融分野-保険業   30

4.4. 製薬分野   34

4.5. 通信分野  40

5. ケーススタディ(JV) 44

6. 買収またはJV設立のいずれを選択するかを検討する際の考慮すべきポイント 47  

7. 買収対象会社/JVパートナー探し  49 

8. デューデリジェンス   54

9. タイムテーブル 57

添付資料1 日系企業によるM&A/JV一覧表 59

第二編 インドにおけるM&A/JVに関する諸規制

1. 総論  62

2. インドにおけるM&A/JVと各種規制 632.1. M&A/JVの手法 63  2.1.1. 株式取得  63 2.1.2. 買収対象会社の事業を取得する方法   682.1.2.1. 事業譲渡(Slump Sale)   682.1.2.2. 資産譲渡(Piecemeal Sale)   712.1.2.3. 合併   732.1.2.4. 会社分割   762.2. 2011年4月施行予定の新インド直接税法案(Direct Tax Code Bill 2009)下でのM&A 79

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3. 外国直接投資(Foreign Direct Investment)規制~事業分野による規制 813.1. FDIが禁止されている事業分野 82  3.2. 自動承認ルート(Automatic Route)   833.3. 事前承認ルート(Approval Route) 84

4. キャピタル・ストラクチャ(資本構成)   874.1. 資本株式(Equity Share)   874.2. 優先株式(Preference Share)  88 4.3. 社債(Debentures)   894.4. 借入(Debt) 90

5. 投下資本を回収するため資金を外国会社へ送金する際の問題点   935.1. 配当  93 5.2. 利息   945.3. 株式の償還   955.4. まとめ  97

6. 通常取引により外国会社へ送金する際の問題点  99 6.1. 技術移転/商標・ブランドの使用許諾 99  6.2. コンサルタント・サービス   1006.3. 物品の輸入   1006.4. 売掛金と買掛金の相殺に関する外国為替上の規制   1016.5. 当座勘定取引に関する外国為替上の規制   1016.6. 移転価格税制上の問題  1026.7. まとめ  102

7. 出口戦略(エグジット・ストラテジー)  103 7.1. 株式の売却 103  7.2. 清算   1047.3. 事業譲渡等による事業の売却   1057.4. まとめ 106

8. 日本からの直接投資と他国を通じての間接投資の税務上の比較 107  8.1. 日本からの直接的な投資  107 8.2. 日本以外の国を通じての間接的な投資   1088.3. まとめ 111

9. インドにおける間接税の概要 112

10. インドにおける移転価格税制(Transfer Pricing Regulation)の概要 116

11. インド会社法の概要   119

12. 外国投資家が利用できるビークル  125

添付資料2 FDI規制~事業分野別規制   130添付資料3 FDI規制~小規模産業の独占製造のための留保品目   156

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本調査報告書に含まれる情報は、一般的なものであり、特定の個人または団体の状況についての解説を

意図するものではない。執筆に当たり、最新かつ正確な情報の記述となるよう細心の注意を払っている

が、本調査報告書を受領された時点ないしは将来において本調査報告書の情報が正確であることまで保

証するものではない。何人も具体的な問題について専門家の適切な助言を得ることなしに本調査報告書

の情報だけに依拠して行動するべきではない。

また、本調査報告書の第二編の記述は、インドの税法その他諸規制に関する記述であって、原則として

、インド国外の規制その他問題について言及するものではない。

また、本調査報告書の第二編の記述は、Income-tax Act, 1961(1961年インド所得税法)、Companies

Act, 1956 (1956年インド会社法)、Direct Tax Code Bill 2009 (2009年新インド直接税法案)、

Finance Act, 1994(1994年インド財政法)のthe Chapter V、Cenvat Credit Rules, 2004(2004年センバ

ット・クレジット・ルール)、 Customs Act, 1962(1962年インド関税法)、Customs Tariff Act, 1975

(1975年インド関税税率表法)、Central Excise Act, 1944(1994年インド物品税法)、 Central Excise

Tariff Act, 1985(1985年インド物品税税率表法)、各州の付加価値税(VAT)の規定、Central Sales

Tax Act, 1956(1956年インド中央販売税法)、各州の越境税法(State Entry tax laws)、Research &

Development Cess Act, 1986(1986年インド研究開発費税法)、Research & Development Cess Rules,

1996(1996年インド研究開発費税規則)、並びにこれらの法令の施行規則等、及び司法上ないし行政上

の解釈等に基づいているが、これらは随時変更される。本調査報告書の内容に影響を及ぼす変更がある

場合でも、我々が本調査報告書を改定する義務を負うことはない。我々の見解は税務当局や裁判所等を

拘束するものではないため、本調査報告書において述べられている見解とは異なる見解が税務当局その

他の行政庁から主張される可能性もあり、またそのような見解が最終的に裁判所から支持される可能性

もある。

また、本調査報告書の第二編における、印紙税に関する規制、及びSecurities and Exchange Board of

India (Substantial Acquisition of Shares and Takeovers) Regulations, 1997(1997年インド証券取引委員

会(株式の大量取得及び公開買付け)に関する規則)等、インド証券取引委員会(Securities and

Exchange Board of India (SEBI))により発行された規則についての記述は、一般的な理解に基づくもの

であり、法的な見解を述べるものではない。これらの規則の個別の内容については各自独自に検証され

たい。

また、本調査報告書の第二編における、新インド直接税法案やGoods and Service tax (“GST”) に関する

記述ついては、現在入手可能な情報に基づき主要な点のみの解説したに留まる。新インド直接税法案や

GSTはまだ有効な法律として成立していないため、今後変更される可能性がある。

【免責事項】

1

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近年、インド経済の急速な発展に伴い、日系企業を含め外国企業によるインド投資が活発に行われてい

る。インドへの投資手法としては、100%独資1により子会社を設立して既存のインド企業の助けを借り

ずに事業を展開する手法も採りうるが、インド市場の複雑さに鑑みれば、M&AやJVの設立により既存の

インド企業の助けを借りながら事業を展開するという手法が有効であると考えられる。本調査報告書で

は、後者の手法(M&AやJVの設立)に焦点を当て、第一編「M&A/JVによる日系企業のインド市場進

出状況とM&A/JV実務」においては、M&A/JVの手法によってインド市場への進出する外国企業の状

況について日系企業を中心に分析し、また実際に最適な買収対象会社やJVパートナーをどのようにして

見つけ、M&A/JVを実行するかというM&A/JV実務についての解説を行っている。さらに、第二編「

インドにおけるM&A/JVに関する諸規制」においては、日系企業を含む外国企業がM&A/JVという手

法によりインドに進出してする場合に直面する様々な規制について、税務上及び外国為替上の規制を中

心に解説している。

本調査報告書は、日本貿易振興機構(JETRO)の依頼により執筆した。本調査報告書の内容からさらに

踏み込んだ具体的なご相談をご希望の場合は、下記の日本貿易振興機構ないしはKPMG Indiaまでご連絡

を頂けると幸いである。

本調査報告書が日系企業の更なるインドへの進出とインドでの発展に貢献できれば存外の喜びである。

日本貿易振興機構(JETRO)

Delhi Office

4th Floor, Eros Corporate Tower,

Nehru Place, New Delhi

110019, INDIA

Tel: 91-11-4168-3006

はじめに

1 インド会社法上、非公開会社であっても株主が2人以上必要とされているので、形式的には、ある会社が100%出資して子会社を設立することはできない

。ここでいう100%独資とは、ある会社が99%出資し、その会社の100%子会社が1%出資するなどの態様で、実質的にみて100%子会社を設立するという

意味である。

KPMG India Private Limited,

Delhi Office,

Buidling No. 10, 8th Floor, Tower B,

DLF Cyber City, Phase II, Gugaon,

122002, INDIA,

Tel: 91-124-307-4000

2

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【執筆者紹介】

Corporate FinanceGaurav KhungarExecutive DirectorEmail: [email protected]: +91 124 3345006

Nitin PasrichaAssociate DirectorEmail: [email protected]: ++91 124 254 9191

Transaction ServicesSandeep DhupiaExecutive Director Email: [email protected]: +91 124 334 5008

Tax and RegulatoryGirish VanvariExecutive DirectorEmail: [email protected]: +91 22 30901910

Ravi Shingari Senior ManagerEmail: [email protected]: +91 1243074

Japan Desk

岩瀬 雄一 日本国公認会計士Yuichi IwaseSenior ManagerEmail: [email protected]: +91 124 3074181

酒井 大輔 日本国弁護士Daisuke SakaiManagerEmail: [email protected]: +91 124 2549191

*但し、2010年9月1日以降の連絡先は以下のとおり。弁護士法人北浜法律事務所 東京事務所Email: [email protected]: +81-3-5219-5187

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2 India Brand Equity Foundation, India and Japan, 2009

1. Executive Summary

現在、インドは、急速な経済発展を遂げており、また高度なスキルを有し、英語

が堪能で、コストの低い労働力が豊富にあることなどから、外国投資家にとって

、投資対象として非常に魅力のある国となっている。

このような要素から、インドは日系企業を含む外国企業の顧客になると同時に、

専門的知的サービスや製品を世界中に供給する国ともなりうる。自動車産業や製

薬産業はこの代表例である。

• 自動車産業

日系企業は、インドの自動車産業分野において重要な役割を果たしている。

日系自動車メーカーは、インド市場向けの自動車を生産するとともに、イン

ドを小型車生産の世界拠点ととらえている。また、近時スズキがインドの

R&D(Research & Development。研究開発)に10億米ドルもの投資を行うこ

とを発表したように、R&Dに積極的な投資を行っている2。

• 製薬産業

日系製薬会社は、安価な後発医薬品を世界の市場へ供給するという目的だけ

でなく、成長中の巨大なインド国内市場に参入し、また安価な労働力を活用

して医薬品の研究開発を行うという目的で、インドの製薬業界に対して非常

に強い関心を有している。2008年、第一三共がランバクシーを買収したが、

この買収も上記観点から行われたものと考えられ、M&Aの規模としてもこれ

までのインドでの買収としては最大級のものであった。

このような状況に鑑みると、今後日系企業によるインド市場への参入は益々増え

るものと予想され、これに伴い、M&AやJVの設立も活発化していくものと考えら

れる。このような状況を踏まえ、本調査報告書第1編においては、インド経済の

現状、近時のM&A及びJVの設立状況、並びにM&A及びJV設立に関する実務上の

留意点について解説する。

1. 第1編 M&A/JVによる日系企業のインド進出状況とM&A/JV実務

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なお、本調査報告書おいては、特に断りのない限り、M&Aとは、ある会社が既存

の別会社の株式を取得すること(既存株式の譲受による取得と新株発行による取

得の両方を含む)、及び事業譲渡、合併若しくは会社分割による事業の取得を指

すものとする。また、JVとは、2つ以上の会社が共同出資をして一つの会社を設

立すること、または設立された合弁会社そのものを指すものとする。

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2.1 インド経済

2.1.1 急速に発展する経済

インドは、2009年度3において、アジアのGDP成長率が2.8%と低迷する中、6.7%

のGDP成長率を達成し、現在、世界で最も急速に経済発展する国の一つといえる4

。2010年度のアジア(オーストラリア、ニュージーランドを含む)のGDP成長率

は4.9%と予想される中、インドのGDP成長率は、7.3%に達すると予想されてい

る5。

BRICレポートによると、下図のとおり、中長期的に見ると、インド経済はBRIC

s諸国中で最も高い成長を遂げるものと予想されている。

2. インド経済の現状

Figure 1: BRIC s諸国の経済状況 – GDP成長率(2005年-2050年)

Source: BRIC Report, India Brand Equity Foundation

インドの成長を支える要素としては以下のようなものが考えられる。

① 消費者による消費(以下のような要素により支えられるものと考えられる。)

•中間所得層の拡大

中間所得層は2025年までに人口の41%に相当する1億2800万世帯に達するも

のと見込まれている6。

3 2009年4月1日から2010年3月までの期間を指す。以下、本報告書における「年度」の用法は特段の断り

のない限り同様とする。

4 The Times of India, India, China Leading World Recovery, 14 November 2009

5 Economic Intelligence Unit and Business Standard, GDP at 7.9 percent Beats Market Expectation, 1

December 2009

6 McKinsey Quarterly, The Bird of the Gold: The Rise of India’s Consumer Market, May 2007

7

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• 労働人口の拡大

インドの労働人口は全体で約5億人とされている7。

•都市部における個人の可処分所得の着実な増加

都市部における個人の可処分所得はインド全体の消費の83%を占めている。

また、とりわけITや不動産関連事業などの分野において労働条件が向上し賃金

も上昇していることから、都市部における個人の可処分所得が着実に増加し

ている。

•農村部の巨大な人口

農村部には、約7億3000万人が生活しており、農村部の人口規模が巨大である

ことや農村部で暮らす人々の購買力も向上していることから、企業にとって

も農村部の重要性が増している8。

② 国家による消費

例えば、現状インド政府はインフラ整備に力を入れており、2012年までにインフ

ラ関連事業に5000億米ドル規模の投資を行う予定にしている9。

③ 産業による消費

インドの製造業は、2008年10月、11月においては、2.8%と低い成長率であった

が、2009年の同時期においては、11.7%と成長率を記録し、すでに金融危機以前

のレベルにまで回復している10。

- 2

0

2

4

6

8

10

12

14

16

Mar

05Ju

n 05

Sep 0

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c 05

Mar

06Ju

n 06

Sep 0

6De

c 06

Mar

07

Jun 0

7Se

p 07

Dec 0

7M

ar 08

Jun 0

8Se

p 08

Dec 0

5M

ar 09

Jun 0

9Ju

n 09

%

Figure 2: インド製造業の成長率(2005年-2009年)

Source: Bloomberg

7 Censusindia.gov.in, EIU

8 ENAM Securities, Return of the Urbanite, 22 January 2010

9 Planning Commission, Eleventh Five Year Plan, Development of Infrastructure

10 Bloomberg

8

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④ 外国投資による消費

インドへの外国直接投資(Foreign Direct Investment。FDI)は、2008年には465

億米ドルに達し、同期間の世界の外国直接投資(FDI)は前年と比較し14.5%も減

少しているにもかかわらず、インドでは81%の増加を記録している。外国資本の

流入は、2000年から2001年にはGDPのうち1.9%を占める過ぎなかったのが、

2007年から2009年にはGDPの9.2%を占めるにまで拡大している11。

また、2008年度の下期においては輸出指向型産業が金融危機の影響で低成長とな

ったが、インド政府が打ち出した減税等の経済政策も功を奏し、インド経済はすで

に最悪期を脱し、金融危機前の状態に回復している。

2.1.2. コスト競争力のある労働力

インドには、優秀で、英語が堪能な、コスト競争力のある労働力が豊富に存在する

ことから、インドは自国を重要な製造及びサービスの拠点と位置づけている。また

、このような特徴を持つインドの労働力は、特に国際的なアウトソーシング市場に

おいて、他のアジアの国々と比べてインドを優位な地位に押し上げている。

インドの労働コストは世界的に見ても非常に低い一方で、技術者や科学者の数は世

界でも日本に次いで2番目に多い12。NASSCOM(National Association of Software

and Services Companies)は、2009年だけでも、インドには約40万人の学位を取

得した技術者がいると報告している13。

Figure 3: 労働力のコスト(2008年)

11 Ministry of Finance, Economic Survey 2008-2009

12 The World Economic Forum, Global Competitiveness Report 2009-2010

13 www.osec.ch

各国における労働力コスト

国名 インド 中国 日本 米国 フランス ドイツ スペイン

労働力人口(100万人) 458 807 67 154 28 44 23

1時間あたりの労働コスト(米ドル) 1.04 1.89 22.6 25.5 31.6 41 23.7

労働生産性の成長率(%)* 4.2 8.3 -0.8 0.9 -0.2 -0.1 1.3

Source: Economist intelligence Unit Note:

* 労働者1人当たりの生産性という観点から見た労働力効率(雇用者1人当たりの実質GDP)

9

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インドにおける教育は近年目覚しい発展を遂げており、インド工科大学(Indian

Institutes of Technology (IIT))やインド経営大学院(Indian Institutes of Management

(IIM))のような世界でも高い評価を受けている教育機関がインドには存在する。この

ような教育環境により、優秀な労働力がインドの労働市場に供給されることになる。

世界経済フォーラム国際競争報告書2009-2010年(World Economic Forum Global

Competitiveness Report 2009-2010)によると、インドの教育システムの水準は4.4

点(1から7点の幅で評価)と評価されており、日本の4.5点とほぼ同レベルであり、

中国の3.8点を上回っている。

2.1.3. ビジネス促進方針

インドは、投資家を優遇し、ビジネスを促進する経済政策を採用している。また、イ

ンドは、2012年までに5000億米ドルをインフラ関連事業に投資することを予定して

おり、インフラ拡充に力を入れている14。

インドのFDI方針(外国直接投資方針)の目的は、インドへの外国投資の促進であり

、1991年以来、FDIへの規制が緩和されてきている。

近時の世界銀行による調査によれば、インドでビジネスを行うにあたり必要とされる

コストや必要とされる資本の観点からインドビジネスを見た場合、インドでのビジネ

スの行いやすさは、格段に向上したと報告されている。インドを投資先として魅力的

なものとしている要素としては、以下のようなものがある。

• 司法の独立性

• 投資家の法的保護が厚いこと

インドは世界の中で133ヶ国中41位にランクインしている。中国は、93位である。

• 監査基準がしっかりしていること

• 市場独占の禁止方針の実効性が高いこと(133ヶ国中25位)

• ほとんどの市場で高いレベルの自由競争が確保されていること(133ヶ国中12位 )

• 市場独占がほとんど行われていないこと(133ヶ国中22位)15

14 Planning Commission, Eleventh Five Year Plan, Development of Infrastructure

15 The World Economic Forum, Global Competitiveness Report 2009-2010

10

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16 JETRO

2.2. インド経済における日本の重要性

2000年4月以降、日本のインドへの投資規模は世界第6位となっている。また、

2009年には、日本のインドに対するFDI(外国直接投資)は37億米ドルに達した16

Singapore

Mauritius - 45.2

USA

UK

Netherlands

Japan

Cyprus

Germany

UAE

France

0.0 2.0 4.0 6.0 8.0 10.0 12.0 14.0

1

USD billion

Figure 4: 各国の対印投資(2000年-2009年)

注:モーリシャス、シンガポール、オランダからの投資が多いのは、これらの国からの投資は税務上の優遇されているためである。

Source: インド財務省(Ministry of Finance)

2005年以降、日本の対インド投資は急速に拡大し、ほぼ横ばいの対中国投資に近

づいてきている。

0

1

2

3USD

Billi

on

4

5

6

7

8

2001 2003 2005 2007 2009(P)

China India

Figure 5: 日本の対中投資と対印投資の比較(2001年-2009年)

注:偶数年の数字は除外している。 Source: Jetro

11

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日印の貿易状況について見ると、インドは、とりわけ成長中のインフラ関連事業

、製造業及び自動車産業において、日本製品の主たる購入者となっている。イン

ドから日本への輸出については、2008年度には日本の需要が減少したことから減

少したが、インドによる日本からの輸入は、前年比24.7%の増加となった17。

今後日本とインドの経済活動が活発化すると考えられる理由は多数存在する。イ

ンドの労働市場は、日系企業が製品を製造するための労働力を供給し、またビジ

ネスプロセスから研究開発に至るまでアウトソーシングサービスを提供し、他方

で、このような雇用が購買力のある層を創出し、日系企業の製品に対する需要を

生み出すことが予想される。

また、実際にも、多くの日系企業が成長中のインドにさらなる投資をする計画を

発表している。例えば、スズキは10億米ドル規模のR&D関連の投資を実行するこ

とを発表した18。

学術交流も日印の関係強化につながる。日本政府は、インド人的資源開発省(

Ministry of Human Resource Development in India)と協力の上、毎年約500人の

インド人学生を招待している19。日本は、インド最高の工科大学であるインド工

科大学(Indian Institutes of Technology (IIT))のハイデラバード校の設立にも協

力している。

日印関係の重要性という点については、日本の鳩山首相(当時)も2009年12月に

来印し、インフラ事業での協力、再生可能エネルギー、安全などについて協議し

た20。

Figure 6: 日印の貿易状況(2007 年度-2008年度)

Source: Department of Commerce

17 Department of Commerce, 27 January 2010

18 Indian Brand Equity Foundation, India and Japan, December 2009

19 The Economic Times, Indo-Japan, The Emergence of a New Bond, December 29, 2009

20 Indian Brand Equity Foundation, India and Japan, December 2009

12

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2008年の第一三共によるランバクシーー(Ranbaxy Laboratories)の買収やNTT

ドコモによるタタ・テレサービシス(Tata Teleservices)に対する26%出資など

、日系企業はこれまでもインドにおいて大型のM&Aを行ってきた。また、比較的

小規模なM&AないしはJVも盛んに行われている。

本項(3.「インドにおける近時のM&A/JV状況の分析」)においては、インドの

M&A/JV市場における近時の動向を、とりわけ日系企業との関連で、解説する。

次項(4.「事業分野別のM&A/JV状況の分析」)においては、日系企業が特に関

心を有していると考えられる5事業分野(自動車、金融-証券仲介業、金融-保

険業、製薬、通信)に特に焦点を当ててM&A/JVの近時の状況について解説する

3.1 近時のM&Aについて

近時、海外の金融投資家や事業会社の間でインドへの投資熱が高まっていること

から、インド内国会社によるM&Aも含め、2007年の全体のM&Aの件数は1000件

を超えた。2006年及び2007年におけるインドビジネスの投資対象としての魅力は

非常に高いものであったといえる。

ただ、2008年の金融危機及び経済低迷がインドビジネスにも影響し、2009年の

M&A件数は314件とピーク時の2007年の69%にまで低下し、M&Aの金額も230億

米ドルとピーク時の2007年の68%にまで低下した。

3.インドにおける近時のM&A/JV状況の分析

Figure 7: インドにおけるM&A(2006年-2009年)

Source: Venture Intelligence, Bloomberg, Mergermarket, KPMG analysis

13

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3.2 M&Aのタイプ

2009年における314件のM&Aのうち、インバウンド・ディール(外国投資家によ

るインド企業の買収)が133件で、全体の42%を占めた。全体の件数は64%も低

下しているにもかかわらず、インバウンド・ディールの件数は3%であるが増加

している点が注目に値する。

Figure 8: インドにおけるM&Aのタイプ

注:Outboundとは、インド企業(事業会社)による外国企業(事業会社)のM&Aを指す。PEとは、プライベートエクイティ投資(フィナンシャルバイヤーによるM&A)を指す。Domesticとは、インド企業(事業会社)同士のM&Aを指す。Inboundとは、外国企業(事業会社)によるインド企業(事業会社)のM&Aを指す。

Source: Venture Intelligence, Bloomberg, Mergermarket, KPMG analysis

3.3 主たるM&A

2009年の大規模のM&Aは、ウルトラテック・セメント(Ultratech Cement)によ

るサムルドヒ・セメント(Samruddhi Cement) の100%買収、クイポ(Quippo

Telecome Infrastructure) によるワイヤレス・タタ・テレコム(Wireless Tata

Telecom) の通信インフラ事業の49%買収、及びリライアンス・インダストリー

(Reliance Industries)とリライアンス・ペトロリアム(Reliance Petroleum)

の合併である。

2008年においては、3つの大規模M&Aのうち2つが日系企業による買収であった。

第一三共がランバクシー(Ranbaxy Laboratories) 株式の64%を取得し、また

NTTドコモがタタ・テレサービシス(Tata Teleservices)の通信事業に対して

26%の出資をした。

取引価格が10億米ドルを超えるM&Aの件数は2008年には9件あったが、2009年に

は3件に減少した。

14

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Figure 9: インドにおけるM&ATop10(2008年及び2009年)

Source: Venture Intelligence, Bloomberg, Mergermarket, KPMG analysis

Top ten India M&A deals - 2008 and 2009

被買収会社 国籍 業種 買収会社 国籍買収価格米ドル(百万)

持分割合%

2009

Samruddhi Cement Limited India Construction UltraTech Cement Limited India 2816 100

Reliance Petroleum India Oil & Gas Reliance Industries India 1691 N.A

Wireless Tata TelecomInfrastructure Ltd

India Telecom Quippo Telecom InfrastructureLtd

India 1305 49

Sistema Shyam TeleServicesLtd

India Telecom Government of RussianFederation

Russia 703 20

Shantha Biotechnics India Pharma Sanofi Pasteur France 665 80

Mahindra Satyam India IT Tech Mahindra India 578 51

DLF Assets Private Limited India Real estate K P Singh & Family India 500 36

General Motors India Pvt Ltd India Automotive Shanghai Automotive IndustryCorporation

China 500 50

Kenya Petroleum Refineries Kenya Energy Essar Energy India 450 50

VS Dempo and Co Pvt Ltd India Mining Sesa Goa Ltd. India 337 100

2008

Ranbaxy Laboratories Ltd. India Pharma Daiichi Sankyo Co. Ltd. Japan 4628 64

Centurion Bank of Punjab Ltd. India Financial HDFC Bank Ltd. India 2813 100

Tata Teleservices Ltd. India Telecom NTT DOCOMO Inc. Japan 2657 26

Imperial Energy Corp. Plc. UK Infrastructure ONGC India 2607 100

Jaguar Land Rover UK Auto Tata Motors Ltd. India 2300 100

Idea Cellular Ltd. India Telecom TM International Bhd. Malaysia 1707 15

Unitech Wireless India Telecom Telenor Asia Norway 1249 67

Intergen NV Netherlands Infrastructure GMR Infrastructure Ltd. India 1100 50

General Chemicals UnitedStates

Chemicals Tata Chemicals Ltd. India 1005 100

Swan Telecom India Telecom Emirates TelecommunicationsCorp

UAE 900 45

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3.4. 日系企業によるM&A/JV

中小規模の日系企業もインドにおいてM&AやJVの設立を行っている。2007年か

ら2009年にかけて、日系企業は、47件のM&AないしJV設立を行っている。その

詳細は、第一編の末尾の「添付資料1 日系企業によるM&A/JV一覧表」記載のと

おりである。

日系企業によるM&Aの件数は概ね一定であり、2007年に5件、2008年に8件、

2009年に8件と推移している。

日系企業によるインドにおけるM&AやJVの設立については、特に、産業分野や自

動車分野で活発である。

Inbound India deals - 2009

Country / region Number

US 36

UK 17

France 10

Germany 10

Japan 8

Other Europe 11

Other Asia & Middle East 15

Other 6

Total 113

Source: Venture Intelligence, Bloomberg, Mergermarket, KPMG analysis

Figure 11: インドにおける日系企業によるM&A/JVの件数(2007年-2009年)

Figure 10: インドにおけるインバウンド・ディールの国別件数(2009年)

Source: Venture Intelligence, Bloomberg, Mergermarket, KPMG analysis

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3.5 KPMGコメント 

この2年間でとりわけ規模の大きかったM&A5件のうち2件が日系企業によるもの

である。また、産業分野及び自動車分野においては、日系企業の活動が非常に活

発である。

消費者市場、メディア及びエネルギー分野においては、ほとんど日系企業による

M&Aが行われておらず、また全体としてM&AよりもJVの設立の方が件数が多い。

将来においては、インド市場での経験が豊富になりまたインド市場との関係が密

接になるにつれ、利益の拡大を求めて、日系企業(とりわけすでにM&AやJVの設

立が活発な産業分野や自動車分野において)によるマジョリティ取得を目的とし

たM&Aが増えるものと予想される。

他方、インド市場に参入したばかりの日系企業やこれからインド市場に参入しよ

うとしている日系企業(例えば、消費財やメディアなど、現状ほとんどM&AやJV

の設立が行われていない分野の日系企業)にあっては、複雑なインド市場に不慣

れな日系企業を道先案内をしてくれるローカル・パートナーを探す目的で、マイ

ノリティ取得を目的としたM&AやJVの設立が増えるものと予想される。

次に掲げる3点は、インドのM&A/JVを行うに当たりとりわけ留意すべき重要な

ポイントである。

① インドにおいて、買収対象会社ないしJVパートナーを見つけることは非常に

困難である。有名な上場会社から最適な買収対象会社/JVパートナーを探す

ことは比較的容易であるとしても、インドは巨大な国であるため非常に多数

の中小規模の非上場の非公開会社が存在し、しかも玉石混交であることから

、中小規模の非公開会社の中から最適な買収対象会社/JVパートナーを見つ

けることは極めて困難である。仮に買収対象会社候補/JVパートナー候補に

当たりをつけたとしても、中小規模の非上場の非公開会社であれば、公開の

情報から候補先としての選別に有益な情報を取得することは非常に難しい。

第一編7.「買収対象会社/JVパートナー探し」の項において、買収対象会社

/JVパートナーを探す際の実務及び留意点について解説をしているので、参

照されたい。

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② インドにおいては、事業は身内の中で次の世代に世襲されることが多いため

、事業を他人に売却することは一般的ではない。このため、日系企業がイン

ド企業を買収しようとする場合(またはインド企業とJVを設立しようとする

場合)、マイノリティ出資も含め広く検討対象とすることが望ましい。また

、買収またはJV設立後も知的財産の漏洩を防ぐため工夫を凝らすこと(例え

ば、JVパートナーとは別の工場を設立・運営するなど)も重要である。

③ インドにおいて買収対象企業の企業価値を算定する際には、インド経済が年

間 10%程度で成長し、また特定の事業分野においてはさらに高い割合で成長

することが前提とされる。概ね、ヨーロッパやアメリカの市場においては、

EV/EBITDA21 が 4-5 倍であるのに対して、 成長性の高いインド市場において

はEV/EBITDAが 7-8倍である。このため、 日系企業にとって、買収対象会社

の企業価値が想定以上に高く評価される可能性がある。また、インド市場へ

の参入の意思決定が遅れたり、インド市場への参入の意思決定をしても買収

候補先探しや候補先との交渉に時間を要して時間が経過すれば、同じ会社を

買収する場合でも買収価格が格段に高くなる可能性もあるので、留意が必要

である。

21 Enterprise Value / Earnings before Interest, Taxes, Depreciation and Amortization の略。 EV (企業価値) がEBITDAの

何倍かを示す指標。

18

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4.1. 自動車分野

1991年にインドの経済政策が自由化の方向に転換されて以降、インドの自動車産

業は急激に拡大し、今日においては、自動車の年間生産台数が世界のトップ10に

入るまでになっている。加えて、二輪車に限って見れば、世界2位の年間生産台

数を誇り、商用車についても世界4位の年間生産台数を誇っている。直近2~3年

、タタモータース(Tata Motors)やマヒンドラ・アンド・マヒンドラ(

Mahindra and Mahindra)などのインドの自動車メーカーは、インド国内市場向

けの事業を拡大するだけでなく、海外での事業も拡大している。インドから海外

への自動車の輸出は、直近8年間において、32%以上の年平均成長率(Compound

Annual Growth Rate。CAGR)を記録している。日産、現代自動車、マルチスズ

キなど世界の主要自動車メーカーも、特に小型車について、インドを世界への輸

出拠点とすべく生産能力を拡大しようとしている。

4.1.1. 概観

インドでの自動車の年間生産台数は2002年度には6200万台22であったが、自動車

産業が急速に拡大し、2008年度の年間生産台数は1億2300万台 に到達した。1億

2300万台23のうち9700万台はインド国内市場で販売され、残りの1500万台が海外

に輸出されている。インド国内市場における各種自動車のセグメントによるマー

ケットシェアについては、全体の自動車販売台数のうち、二輪車が75%以上を占

め、次に乗用車が約16%を占め、最後に商用車及び三輪車がそれぞれ約4%を占め

ている。

自動車製造の急成長に伴い、自動車部品産業も急成長中である。2003年度から

2008年度までの自動車部品産業の年平均成長率(CAGR)は約23%に達し、現在

、売上規模190億米ドルの産業に成長している24。この190億米ドルのうち輸出が

約40億米ドルを占めており、インドは世界の自動車メーカーにとって新興の部品

調達拠点となりつつある。

4.1.2. 主要企業

現在、インドには、インドと海外の自動車メーカーを合わせて、自動車メーカー

が30社以上存在する。さらに、1200社を超える自動車部品メーカーが存在し、イ

4. 事業分野別のM&A/JV状況の分析

22 SIAM23 SIAM24 India Infoline sector reports

19

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ンド国内市場のみならず海外市場に向けても自動車部品を販売をしている。

インドにおける主要な自動車メーカーは以下のとおりである。

自動車分野 - 主要自動車メーカー

サブセクター 会社名 国籍 コメント

自動車、自動車部品 Mahindra & Mahindra インド 乗用車、商用車、二輪車、防衛、自動車部品、航空を取り扱っている。これまで買収やJVを通じて発展してきた。Renaultとの間でJVを有する。

自動車、自動車部品 Tata Motors インド タタグループに属する。インドの商用車製造業者のリーディングカンパニーであり、乗用車部門でも強い。世界最安車である"Nano"を発売し注目を集めいている。

商用車 Ashok Leyland インド 商用車で業界2位の製造業者である。世界展開を模索しており、また事業分野を自動車工学や自動車部品に拡大中である。

商用車 Eicher Motors インド 商用車(Eicherトラック、バス、Volvoトラック)、二輪車、自動車部品を取り扱っている。世界40カ国に展開。トラック製造に関して、VolvoとのJVを有する。

二輪車 Hero Honda インド、日本 二輪車部門のリーディングカンパニー。日本のHonda Motor CorpとのJVである。

二輪車、三輪車 Bajaj Auto インド 二輪車、三輪車部門のインド最大の輸出業者。タタのNanoのライバル車となる格安車の製造に関して、RanaultやNissanと協力している。

インドにおける主要な海外の自動車メーカーは以下のとおりである。

自動車部門 - 海外の主要自動車メーカー

会社名 コメント

BMW India BMW AG(ドイツ)の100%子会社

Ford India Ford Motor Co(米国)の100%子会社

General Motors India General Motors Company(米国)の100%子会社

Honda Siel Cars India Honda Motor Co. Ltd.(日本)とSiel Limited(インド。Siddharth Shriram Group company)との間のJV 出資比率は、Honda:97.4% Siel:2.6%

Hyundai Motors Hyundai Motor Company(韓国)の100%子会社

Maruti Suzuki Suzuki Motor Corporation(日本)の子会社 Suzukiの出資比率は、54.2%

Mercedes-Benz India Daimler AG(ドイツ)の100%子会社

Mitsubishi Motors India Hindustan Motors Limited(インド)と提携している。

Renault-Nissan 超低価格車部門で、Bajaj Auto(インド)と協力している。

Toyota Kirloskar Kirloskar Group(インド)とToyota Motor Corporation(日本)のJV 出資比率は、Toyota:99%、Kirloskar:1%

Volkswagen India Volkswagen AG(ドイツ)100%子会社

Yamaha Motors Yamaha Motor Co(日本)と三井物産(日本)のJV 出資比率は、Yamaha:70%、三井物産:30%

Source: Company websites

Figure 12: インドにおける主要自動車メーカー

Figure 13: インドにおける主要な海外自動車メーカー

20

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インドにおける主要な自動車部品メーカーは以下のとおりである。

Figure 14: インドにおける主要自動車部品メーカー

自動車分野 - 主要自動車部品メーカー

サブセクター 会社名 国籍 コメント

鋳造、鋳物 Amtek Auto インド 工場を北米、ヨーロッパ、アジアに有する。収入の約半分がインド国外からのものである。

タイヤ Apollo Tyres インド 商用車用タイヤのインド最大の製造業者。近年、Dunlop Tyres(南アフリカ、ジンバブエ)やVredestein Banden(オランダ)を買収した。

鋳造、鋳物 Bharat Forge インド 6カ国に9つの工場を有する。自動車以外の鋳造にも事業展開している。海外の主要自動車部品メーカーとの間でJVを有している。

バッテリー Exide Industries インド 多種多様なバッテリーを製造している。日本のSkin-KobeやFurukawa Battery Co、イギリスのChloride Groupと提携している。

ワイヤーハーネス Motherson Sumi インド、日本 インド最大のワイヤーハーネスの製造業者である。グループ会社がデザインサービスやサンルーフ、産業用ロボット、エアコンプレッサ、射出成形器など部門に存在する。日本の住友電装とJVを有している。

タイヤ MRF インド インドのタイヤメーカーのリーディングカンパニーである。世界65カ国に展開。

金属部品 Omax Autos インド 管状部品、シートメタル部品のインド最大の製造業者。大規模なトリニッケルクロムの電気めっき・溶接施設を保有する。

ベアリング SKF India インド SKF(スウェーデン)の子会社。製品、ソリューション、サービス、潤滑油システムのサプライヤー。

ステアリング・システム Sona Koyo SteeringSystems

インド、日本 技術及び金融面において、日本のJTEKTと提携している。韓国のMando Corporationとも提携している。

留め具 Sundram Fastners インド インド、ドイツ、イギリス、中国に展開。

Source: Company websites

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自動車 - 主要なM&A

時期 対象会社 買収者買収者国籍

価格インドルピー(百万)

出資割合

Mar-10 Nederlandse Radiateuren FabriekBV

Banco Products (India)Ltd

India 1,103 100%

Apr-09 Vredestein Banden BV Apollo Tyres Ltd India 11,620 100%

Mar-10 Rane Brake Linings Nisshinbo Japan 62 20%

Dec-08 NS Antivibration Products Pvt Ltd Bridgestone Corporation Japan 358 51%

Oct-08 KBX Motorbike Products Pvt Ltd Brembo Spa Italy 849 50%

Aug-08 Jiangsu Yueda Yancheng TractorManufacturing Co. Ltd

Mahindra&Mahindra India 1,135 51%

Aug-08 Heuliez SA Argentum Motors India 1,592 60%

Jul-08 Geiger Automotive GmbH Sintex India 3,654 90%

Jul-08 Ahmednagar Forgings Ltd Amtek Auto Limited India 1,900 47%

Jul-08 Kinetic Motor Company Limited Mahindra Two WheelersPrivate Limited

India 1,000 80%

Jun-08 Engines Engineering Spa Mahindra Systech India 570 100%

May-08 Eicher Motors; Volvo AB (JV) Volvo Sweden 14,026 54:46

Apr-08 Compania Hulera Tornel S.A deC.V

JK Tyre & Industries Ltd India 2,700 100%

Apr-08 Metalcastello Spa Mahindra & Mahindra India 6,522 100%

Mar-08 Jaguar Limited; Land RoverLimited

Tata Motors Limited India 92,369 100%

Jan-08 ThyssenKruppPraezisionsschmiede GmBH;ThyssenKrupp Precision Forge Inc

Sona OkegawaPrecision ForgingsLimited

India 8,106 100%

Nov-07 Ketlon Limited Amtek Auto Limited India 1,570 100%

Mar-07 Punjab Tractors Ltd Mahindra & Mahindra India 9,514 44%

Feb-07 Kunststofftechnik Sachsen GmbH The Ashok Minda Group India 2,493 100%

4.1.3. 主要なM&A/JV

インドの自動車分野における主要なM&Aは、以下のとおりである。

Figure 15: 自動車分野における主要なM&A(2007年-2008年)

Source: Mergermarket

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4.1.4. KPMGコメント

M&A/JV設立によるインドから海外への投資も活発に行われているが、その主た

る要因としては、以下の点が考えられる。

• インド自動車メーカーによる新規顧客/市場開拓

インド自動車メーカーは海外での顧客開拓や海外市場でのプレゼンスの向上

を目的として積極的に海外の自動車メーカーを買収している。具体的には、

Ashok Leylandが東欧市場開拓のためAvia Truckを買収し、Mahindra &

Mahindraが中国市場開拓のためYoancheng Tractorsを買収し、Amtek Autoが

欧州市場開拓のため JL Frenchを買収している。

• 技術/ノウハウの獲得

インド自動車メーカーが積極的に海外に進出しているのは、技術やノウハウ

獲得が目的でもある。具体的には、Bajaj AutoによるKTM Autoに対するマイ

ノリティ出資、Mahindra & Mahindraによるイタリアを拠点とする二輪車デザ

イン開発会社の買収、Amtek AutoによるTriplex Keltonの買収などがある。

他方、M&A/JV設立による海外からインド国内への投資も活発に行われているが

、その主たる要因としては、以下の点が考えられる。

• インド国内の自動車市場の急速な発展

インドでの自動車保有割合は、現在なお1000人中約7人に留まっている。イン

ドの自動車市場は未だ未成熟な状態であり、現在急速に発展しているところ

である。このため海外の自動車メーカーにとっては非常に魅力的な市場とな

っている。

• 低コストの製造拠点

人件費やR&Dが低コストであり、また部品等を現地調達することでさらなる

低コストが実現できるため、製造拠点として理想的である。現代自動車はイ

ンドで製造する小型車のうち約40%を輸出しており、インドを世界への輸出

のための製造拠点と位置づけている。

インドでの自動車製造や部品調達を拡大することを計画している海外の自動車メ

ーカーとして、以下のような企業が具体的に挙げられる25。

• 日産は、インドを5大低コスト国の一つとしてマイクラ(日本名マーチ)を含

む次世代小型車の製造拠点と位置づけている。

25 India Infoline sector reports

23

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• フォルクスワーゲンは、2009年4月稼動予定の年間生産台数11万台の組み立て

工場に投資をしている。フォルクスワーゲンは、インドにおいて、ポロのプ

ラットフォームに基づき小型車を製造する予定である。

• トヨタは、インド国内需要向けに設けたトランスミッション工場とは別に、

年間生産能力10万台の第二工場を2010年に稼動させる予定である。

• 現代自動車は、小型車アトスプライムの製造を全てチェンナイ工場に移転し

た。また、新モデルの「i10」の唯一の製造拠点がインドとなっている。現代

自動車は2013年までにさらに2億5000万米ドルの追加投資を行う予定である

• ゼネラル・モーターズ(GM)は、バンガロールにある6000万米ドルの技術セ

ンターを将来の技術開発や新車製造のための中心拠点とする予定である。ま

たGMはプネ近郊のTalegaon(マハラシュトラ(Maharashtra)州所在)にお

いて追加施設を建設中である。

• フォードは、インドで製造した自動車の約58%を輸出して、インドを世界へ

の輸出拠点として位置づけている。

24

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4.2. 金融分野-証券仲介業

インドにおけるリテール及び法人向け証券仲介業は、富裕層の増加や貯蓄を投資

に回す個人の増加と相まって今後急発展するものと予想されている。日本の野村

證券など外国の金融機関がM&AやJVを通じてすでにインド市場において大きなプ

レゼンスを有している。金融分野-証券仲介業分野においても、M&AやJVが外国

金融機関が市場参入するために重要な手段であり続けることは間違いないものと

考えられる。

4.2.1. 概観

インドの資本市場(Capital Market)はこの5年間で大きく成長し、2008年下期に

は金融危機のため大きく落ち込んだもののすでに回復している。

株式発行による資金調達(典型的には株式公開。Initial Public Offering。IPO)に

ついては、過去5年で46%の成長を遂げた(同時期の債券の発行による資金調達

は、30%の成長に留まる)。2007年度には、IPOが85件もあり、IPOによる資金

調達額も85億米ドルに達したが、2008年度においては、IPOは19件、資金調達額

も8億米ドルに留まった26。

流通市場(Secondary Market)も2008年度に一旦落ち込んだもののすでに回復し

ており、売買高も急上昇し、非常に活発な状態にあるといえる。

• 現物市場(Cash Market)の売買高は2008年度には19%も低下し、売買高の低

下は直近7年間で初めてのことであった。このような落ち込みにもかかわらず

、2008年度のトータルでの仲介量は2006年度よりも48%も増加した。現物市

場における2009年度の1日あたりの平均取引数は、前年度に比べ大幅に落ち込

んだが、それでも2007年度と比較すると同水準を維持している。平均取引規模

は、2008年度に落ち込んだが、2006年度と比較すると格段に拡大している27。

• デリバティブは、2008年度には1日あたりの平均売買高の約75%を占めており

、インドにおいて最大の取引分野である。デリバティブの日々の売買高は、

現金市場が25%の成長率であるのに対して、44%の成長率を記録している。

デリバティブにおいては、デイトレードやアービトラージ取引のため2008年

度には非常に活発に取引が行われた28。

インドにおける証券仲介業は約150年の歴史があり、約9000の登録業者がおり非

常に細分化されている。ただ、近年の市場では大手の証券仲介業者が大きな役割

を果たすようになってきている。

26 BSE, SEBI27 BSE, SEBI28 SEBI

25

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証券取引所改革、技術進歩やリテールの成長が見込めることなどから、インド金

融市場は新規の証券仲介業者を惹きつけている。また、インドにおける証券仲介

業者はここ数年のうちに急速に成長し、以下のような3つのタイプに分化してき

ている。

• 証券仲介業のみに集中する証券仲介業者

高所得者層をターゲットとしてへの証券仲介業務を展開。(例:Motilal

Oswal)

• 証券仲介業+金融商品販売業を行う証券仲介業者

証券仲介業務に加えて、既存の金融商品の販売業務も営む。(例:India

Infoline)

• 金融サービス・コングロマリットとなった証券仲介業者

一部の証券仲介業者は、金融サービス・コングロマリットになり、証券仲介業

務、既存の金融商品の販売保険商品に加えて、自ら金融商品を開発し販売し

ている。(例:Religare、Indiabulls)

Figure 16: インドにおける証券仲介業分野

Source: KPMG analysis

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26

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インドでは、直近5年間のGDPの急成長により、高所得者層の数が劇的に増加し

た。データモニター(Datamonitor)によると、2012年までに富裕層が2300万人

に拡大すると予想され、このため資産管理サービスに対する需要もあわせて急拡

大するものと予想されている。

インドでは、従来80%以上の資産を現金貯蓄に回していたといわれているが、近

年は株式投資に対して強い注目が集まっている。インドにおける個人投資家によ

る株式投資は、2002年から2006年において24%の年平均成長率(CAGR)で成長

し29、2006年だけで見ると35%の成長を遂げた30。貯蓄及び投資の全体のうち株式

投資の割合は、2002年には4%に過ぎなかったのに対して、2006年には6%を占め

るに至っている31。この成長により証券仲介業者が富裕層向けの金融業務を始め

ることが可能になったものと考えられる。証券仲介業者の中には、インドの資本

市場の力強い回復に乗じて、証券仲介業務のみを営む伝統的な証券仲介業者から

様々な金融商品を提供する金融コングロマリットに変貌を遂げた証券仲介業者も

ある。個人投資家による株式投資が増加したことから、大中規模の証券仲介業者

がマージン・ファイナンス、投資銀行業務やマーチャントバンキング業務、金融

商品の販売業務や個人資産の管理業務などに活動範囲を拡大している。

4.2.2. 主要企業

インドの証券仲介業における主要な企業は、以下のとおりである。

Figure 17: 証券仲介業における主要企業

証券仲介業分野 - 主要企業

サブセクター 会社名 国籍 コメント

Institutional equities Nomura 日本 2008年に、野村ホールディングスはリーマンのインドにおける投資銀行業務を買収した。

Institutional equities Edelweiss インド 法人向けの株式やデリバティブの仲介業で強いプレゼンスを持つ。近年、富裕層向けの資産管理やリテール証券仲介業分野での成長を補完するため、リテール証券仲介業者のAnagram Securitiesを買収した。

Securities broking and invest-ment advisory

Motilal Oswal インド アセットマネジメント(プライベート・エクイティやミューチャル・ファンド)や富裕層の資産管理にもサービス範囲を拡大しているリテール証券取引業者

Institutional equities ENAM インド 主導的な法人向け証券仲介業者。投資銀行業務やマーチャントバンキング業務に力を入れている。2008年には、野村證券が事業買収のためENAMと交渉をしていたことがある。

Securities broking and invest-ment advisory

Religare インド 証券仲介業務、富裕層の資産管理、アセットマネジメントなど、様々な金融業務を手がける。インドにおける富裕層向けの資産管理分野では、Macquarieと提携している。

Retail broking India Infoline インド アセットマネジメント(プライベート・エクイティやミューチャル・ファンド)や富裕層の資産管理にもサービス範囲を拡大しているリテール証券取引業者

Retail broking Indiabulls インド 証券仲介業務、消費者金融、住宅金融、生命保険、アセットマネジメント、アドバイザリーサービスなど幅広い金融サービスを提供している。

Source: KPMG analysis and company websites

29 Datamonitor30 Datamonitor31 Datamonitor

27

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4.2.3. 主要なM&A/JV

インドの証券仲介業における主要なM&A/JVは、以下のとおりである。

Figure 18: 証券仲介業分野における主要なM&A/JV

証券仲介業 - 主要なM&A

時期 対象会社 買収者買収者国籍

価格米ドル(百万)

出資割合

Jan-10 Anagram Capital Limited Edelweiss Capital India 36 100%

Aug-08 Apollo Sindhoori Aditya Birla Nuvo India 44 56%

May-08 IL&FS Investsmart HSBC Securities Hong Kong 223 73%

Mar-08 JM Financial ASKSecurities

JM Financial India 31 40%

Mar-08 SSKI Securities Pvt Ltd IDFC India 20 14%

Aug-07 UTI Securities Standard Chartered Bank UK 33 49%

Aug-07 BRICS Securities(Institutional)

Lehman Brothers India 67 100%

July-07 ASK Securities Pvt. Ltd. JM Financial India 13 60%

Mar-08 SSKI Securities Pvt Ltd IDFC India 33 33%

Jun-07 Anagram Securities Halcyon Group India 1 20%

Mar-08 Sharekhan Limited (SSKI) Citigroup Venture Capital &IDFC

India 103 85%

May-07 Select Securities Doha Bank Qatar NA 49%

Apr-07 Mangal Keshav Group Bank Muscat Oman NA 43%

Mar-07 Geojit Financial ServicesLimited

BNP Paribas France 46 33%

Feb-07 JM Financial Morgan Stanley USA 438 49%

証券仲介業 - 主要なJV

時期 JV(会社名) JVパートナー1 JVパートナー2 分野

Oct-07 Religare Macquarie Religare Enterprises - India Macquarie - Australia Broking

Source: Mergermarket, news reports, company websites

28

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4.2.4. KPMGコメント

インドにおけるリテール及び法人向け証券仲介業務については、インドの力強い

成長のため外国の証券仲介業者が非常に大きな関心を寄せている。以下に述べる

とおり、海外の証券仲介業者がインドの証券仲介業市場に参入する際、法人向け

証券仲介業よりもリテール証券仲介業の分野において、よりM&AやJV設立という

手法が重要になってくるものと予想される。

【法人向け証券仲介業】

法人向け証券仲介業においては、外国の証券仲介業者は高いクオリティのサポー

トシステムを駆使し、世界的なネットワークやクライアントベースを利用して付

加価値を提供できる。

これらの外国の証券仲介業者にとって、最も簡易迅速なインド参入の手段は、イ

ンドの法人向け証券仲介業者の買収ないしはこれらとのJVの設立であるが、買収

候補が少ないことから買収価格は高くなりがちである。このため、基本的には自

前の組織を利用しつつ、インドの法人向け証券仲介業者などで働くインド人専門

家を引き抜くなどの方法で対応する方が賢明とも考えられる。

なお、法人向け証券仲介業の買収の具体例としては、野村證券によるLehman

Brothersのインドにおける投資銀行業務の買収がある。

【リテール証券仲介業】

外国の証券仲介業者にとってはインドの個人顧客との接点はほとんどないと思わ

れるので、インドの法人向け証券仲介業者を買収したりJVを設立することは、リ

テール証券仲介業務においてはより重要になろう。主な選択肢としては、以下の

ものが考えられる。

• リテール顧客を有している既存の証券仲介業者の買収/JV設立(具体例:

BNPパリバ(BNP Paribas)によるGeogit Securitiesの買収、スタンダードチ

ャータード(Standard Chartered)によるUTI Securitiesの買収など)

• ノンバンク金融会社の買収(具体例:SocGenによるApeejay Finance (現

Family Credit)の買収)

• ノンバンク金融会社との提携(具体例:DBS Cholamandalam)

• 自前の組織の利用(具体例:バークレイズ(Barclays)によるインド高所得者

層への直接接近及びプライベートバンキング業務)

• 金融サービス・商品販売業者の買収

29

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4.3. 金融分野-保険業

インドにおける保険業分野はこれから5年間で急成長が見込まれる分野である。

このため、インドの外国為替規制上、出資上限26%という規制があるにもかかわ

らず、外国保険業者は強い関心を寄せている。

4.3.1. 概観

【生命保険分野】

2008年度に若干減少したものの、インドの生命保険業は過去4年間で33%の年平

均成長率(CAGR)で成長しており、2008年度には5248億インドルピーの市場規

模にまで拡大している。

インド経済の成長に伴う可処分所得の増加、保険料支払によるタックスベネフィ

ット、保険商品の開発等の影響で、生命保険業は、今後5年間も12%の年平均成

長率(CAGR)で成長すると見込まれている。

【生命保険以外の保険分野】

生命保険以外の保険業は、2000年度から2006年度までの間、15.6%の年平均成長

率(CAGR)で成長し、2008年度には3116億インドルピーの市場規模にまで拡大

している。火災保険やエンジニアリング保険(engineering insurance)の高い保

険料により保険業者が収益基盤を確立し、損益分岐点の突破を早めている。

インドの生命保険以外の保険市場は、2013年度までに7114億インドルピーの規模

にまで成長すると見込まれている。

4.3.2. 主要企業

【生命保険分野】

インドの生命保険業においては、22の民間生命保険業者と1つの公的生命保険業

者が存在する。直近2年において、7保険業者が新規参入した。

【生命保険以外の保険分野】

生命保険以外の保険分野は、2000年度に民間会社に市場開放された。2008年度に

おいては、19の民間保険業者がおり、これら民間保険業者が約42%のマーケット

シェアを占めている。業界大手の保険業者(ICICI Lombard、Reliance及びBajaj

Allianz)により約25%のマーケットシェアが占められている32。

32 Sources include analyst reports, news articles and www.irdaindia.org

30

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4.3.3. 主要なM&A/JV

インドの保険業分野における主要なM&A/JVは、以下のとおりである。

Figure 19: 保険業分野における主要企業

保険業分野 - 主要企業

サブセクター 会社名 国籍 コメント

生命保険 ICICI -Prudential

India - UK 出資比率は、ICICI Bankが74%、Prudential plcが26%である。

生命保険 SBI - BNP India - France 出資割合は、SBI(State Bank of India)が74%であり、BNPParibas Assuranceが26%である。

生命保険 Bajaj - Allianz India - Germany 出資割合は、Bajaj Finserv Limitedが74%であり、Allianz, SEが26%である。

生命保険以外 ICICI -Lombard

India - Canada 出資割合は、ICICI Bank Limitedが74%であり、FairfaxFinancial Holdings Limitedが26%である。

生命保険以外 Bajaj - Allianz India - Germany 出資割合は、Bajaj Finserv Limitedが74%であり、 Allianz, SEが26%である。

Source: www.irdaindia.org

Figure 20: 保険業分野における主要M&A

保険 - 主要なM&A

時期 対象会社 買収者買収者国籍

価格米ドル(百万)

出資割合

Feb-10 ING Vysya Life Insurance Hemendra Kothari India NA 12%

Dec-09 Max India Goldman Sachs USA 120 9%

May-07 HDFC Chubb HDFC India NA 26%

Oct-05 AMP Sanmar LifeInsurance CompanyLimited

Reliance Life InsuranceCompany Limited

India 22 100%

July-05 ING Vysya Life Insurance Exide Industries India 45 49%

May-05 ING Vysya Life Insurance Gujarat Ambuja Cements India 14 15%

May-04 Max India (Max New YorkLife)

Warburg Pincus USA NA 29%

Source: Analyst reports, news articles

31

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Figure 21: 生命保険分野における主要JV

生命保険 - 主要なJV

時期 JV(会社名) JVパートナー1 JVパートナー2 分野

Dec-09 India First Life Self Employed Women'sAssociation (SEWA) - India

N.A Life insurance

Sep-08 DLF Pramerica Life DLF Limited - India PrudentialInternationalInsurance - UK

Life insurance

Aug-08 Aegon Religare Life Religare and Benett, Coleman& Co - India

Aegon - Netherlands Life insurance

Jun-08 Canara HSBCOriental Bank ofCommerce Life

Canara Bank and Oriental Bankof Commerce - India

HSBC Insurance -USA

Life insurance

Dec-07 Star Union Dai-ichiLife

Bank of India and Union Bankof India - India

Dai-ichi - Japan Life insurance

Dec-07 IDBI Fortis Life IDBI and Federal Bank - India Fortis - Belgium Life insurance

Sep-07 Future Generali IndiaLife

Pantaloon (Future Group) -India

Generali - Italy Life insurance

Source: www.irdaindia.org

Figure 22: 生命保険以外の保険分野における主要JV

生命保険以外の保険分野 - 主要なJV

時期 JV(会社名) JVパートナー1 JVパートナー2 分野

Dec-09 SBI GeneralInsurance

SBI - India Insurance AustraliaGroup - Australia

Non-life insurance

Dec-08 Raheja QBE GeneralInsurance

Prism Cement ltd - India QBE Holdings isfrom Australia

Non-life insurance

Jun-08 Shriram GeneralInsurance

Shriram Group and Bank ofMaharashtra - India

Sunlam - SouthAfrica

Non-life insurance

May-08 Bharti AXA GeneralInsurance Company

Bharti - India AXA - France Non-life insurance

Nov-07 Universal SompoGeneral Insurance

Allahabad Bank, IndianOverseas Bank, KarnatakaBank and Dabur Investment -India

Sompo Japan -Japan

Non-life insurance

Sep-07 Future Generali IndiaInsurance

Pantaloon (Future Group) -India

Generali - Italy Non-life insurance

Aug-07 Apollo Munich HealthInsurance

Apollo - India DKV Group -Germany

Non-life insurance

Source: Analyst reports, news articles, www.irdaindia.org

32

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4.3.4. KPMGコメント

インドの外国為替規制上、生命保険分野及び生命保険以外の保険分野のいずれに

おいても、外国会社は最大26%までしか出資できない。にもかかわらず、外国保

険会社は、近年インドの保険市場への参入を活発に行っており、我々は外国保険

会社の強い関心を目の当たりにしている。

インドの保険市場への参入にあたっての大きな問題としては、すでに多くのイン

ドの主要な保険会社は外国の保険会社と提携しているため、今後インドの保険市

場に参入してくる外国保険会社とっては適切なパートナーを探すことに苦労する

ことが予想される点である。このため、今後インド保険市場に参入しようとする

者にとっては、パートナーの適切性や提携の条件において、ある程度妥協せざる

を得ない場面も出てくるものと考えられる。

33

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4.4. 製薬分野

インドは、世界的に高品質後発医薬品の主要な供給者であり、巨大で急発展中の

国内製薬市場を有している。加えて、インドは、委託研究開発サービスや臨床研

究サービスを提供できる魅力ある国になりつつあり、また、新しい化学物質の発

見やバイオテクノロジーの分野においても非常に有望視されている。

これらの要素があるため、インド製薬市場は外国製薬会社から注目を集めており

、M&A、JV、その他の提携が市場参入のための戦略として非常に重要となって

いる。ただし、インドが魅力的な製薬市場を有していることからインド製薬会社

の買収金額が高くなるものと予想されるが、インド製薬市場に参入する外国製薬

会社がインドでの投資を効果的なものにするためには、買収金額の点についても

ある程度覚悟が必要であろう。

なお、本調査報告書では、以下、後発医薬品市場に焦点を当てて解説する。

4.4.1. 概観

インドによる後発医薬品市場への輸出総額は約50億米ドル33であり、インドは、

1080億米ドルの規模を誇る世界の後発医薬品市場における主要な供給者である。

医薬品の特許切れや各国政府が財政赤字が膨らむ中、医療費の上昇を抑えるため

後発医薬品の使用を奨励していることなどから、世界の後発医薬品市場は2012年

までに10.5%の年平均成長率(CAGR)で成長すると見込まれている34。日本、イ

タリア、フランス、スペインなど後発医薬品の普及が進んでいない国の製薬会社

にとっては、特にインド後発医薬品市場への参入が大きなチャンスであるといえ

る35。

33 Cygnus industry report 2007

34 Datamonitor – Market size as at 2007 was USD 108.1 Bn. CAGR from 2007 to 2012

35 India-PHarma IIFL Report 1Q2009

34

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インドの後発医薬品市場の市場規模は77億米ドルとされている。また、健康保険

や医薬品の小売店の整備、健康に対する意識の高まりや慢性的な生活習慣病の増

加拡大の影響もあり、インドの後発医薬品市場は、2007年度から2012年度までの

5年間で、12.2%の年平均成長率(CAGR)で成長するものと予想されている36。

この結果、インドで事業展開しているインドの製薬会社、外国製薬会社はともに

現状は輸出志向型であるが、今後は益々インドの国内市場をターゲットにしてい

くものと考えられる。

4.4.2. 主要企業

インド国内の後発医薬品市場には、約2万の製薬会社があり極めて細分化されて

いる37。また、インドの後発医薬品市場においては、インドの製薬会社が約80%

のマーケットシェアを占めており、外国の製薬会社のマーケットシェアは約20%

に留まる38。

さらに、インド製薬市場において、75以上の製造拠点が米国食品医薬品局(

United States Food and Drug Administration)より医薬品の米国への輸出につい

て許可を得ている。

インド国内市場における主要企業としては、以下のようなものがある。

Figure 23: 製薬分野の主要企業

製薬分野 - 主要企業

会社名 国籍 コメント

Aurobindo Pharma インド 縦型総合製薬会社。製品ポートフォリオは、200の医薬品有効成分と250の調剤。PfizerはAurobindoの医薬品の一部を米国、ヨーロッパで販売する権利を有する。

Cipla インド AIDS用医薬品で有名。180カ国以上の国に輸出。

Dr Reddy's インド 医薬品サービスと有効成分、グローバルな後発医薬品、特許医薬品の3分野を主に取り扱う総合製薬会社インド、ヨーロッパ、ロシアで展開している。GSKがDrReddyブランドの医薬品パイプラインの買取につき検討中である。

Piramal インド インドで規模4番目の製薬会社。多様な医薬品を取り扱い、北米、ヨーロッパ、アジアに展開。

Ranbaxy 日本 インド最大の製薬会社。第一三共が2008年に64%持分を取得。

Sun Pharma インド 長期治療分野(心臓医学、精神医学、神経医学、胃腸病学、糖尿病学、呼吸器病医学など)に特化した医薬品有効成分や特殊医薬品を製造をしている。

Lupin インド 急速に拡大中の後発医薬品会社。非ステロイド性・抗炎症性の医薬品、細菌感染、循環器系疾患に特化している。

GSK Pharma イギリス インド市場に特化している。2008年12月には販売員を約4000人に増員。

Cadila インド インド、CIS、日本、米国を含む50カ国で50を超える医療分野において展開している非公開会社。

Wockhardt インド 調剤、生物医薬品、栄養食品、ワクチン、医薬品有効成分(API)分野に強い。2009年以前には多数の買収を実行。現在はレンダーとの間で借入金の借り換え交渉を行っている。

Source: KPMG analysis, company websites

36 IMS Health, Standard Chartered Capital Markets Research Equity Rsearch – Pharmaceutical Sector

Report 2009, Crisil Report on Pharmaceuticals, Decemebr 2008

37 Cygnus industry report 2007

38 McKinsey & Co, India Pharma 2015

35

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4.4.3. 主要なM&A/JV

2006年から2008年までの3年間において、インドの製薬会社が関わるM&AやJV設

立の件数としては、70件を超える。ただ、2009年においては、世界経済の低迷に

より件数、価格ともに低下した。

Figure 24: 製薬分野におけるM&Aの件数・価格(2006年 – 2009年)

Source: Venture Intelligence, Bloomberg, Mergermarket, KPMG analysis

82 82

46

72

2.4

6.1

2.21.9

0

10

20

30

40

50

Num

ber

USD Billion

60

70

80

90

2006 2007 2008 2009

0

1

2

3

4

5

6

7

Number Value

Figure 25: 製薬分野におけるM&A

製薬 - 主要なM&A

時期 対象会社 買収者買収者国籍

価格米ドル(百万)

出資割合

2008 Ranbaxy Laboratories Daiichi Sankyo Japan 4628 64

2008 Dabur Pharma Fresenius India 337 91

2008 Draxis Jubilant Organosys India 226 100

2008 Strides Latina JV Aspen Pharmacare South Africa 153 50

2008 Narayana Hrudayalaya JP Morgan India 100 25

2007 Negma Lerads Wockhardt India 265 100

2006 Betapharm Arzneimittel Dr Reddy's India 570 100

Source: Venture Intelligence, Bloomberg, Mergermarket, KPMG analysis

36

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インドの製薬分野におけるM&Aについては、概ね、以下の3つのカテゴリーに分

類される。

• 外国製薬会社がインド市場参入に伴いインド製薬会社を買収する場合

例えば、第一三共はランバクシーの買収により世界の後発医薬品市場におけ

る橋頭堡を得たといえる。また、ドイツのFreseniusもDabur Pharmaの腫瘍部

門を買収している。

• インド製薬会社が外国市場参入に伴い外国製薬会社を買収する場合

例えば、2008年に、Dr ReddyはドイツのBetapharm Arzneimittelを5億7000万

米ドルにて買収している。また、2007年に、WockhardtはフランスのNegma

Leradsを2億6500万米ドルで、またアメリカのMorton Grove Pharmaceutical

を3800万米ドル で買収している。

• インド製薬会社が規模拡大を狙ってインド製薬会社を買収する場合

例えば、AlembicがDabur Pharmaの非腫瘍部門を買収したり、ランバクシー

(Ranbaxy)がZenotech Laboratoriesを買収したりしている。

4.4.4. KPMGコメント

世界の製薬サプライチェーンにおけるインドの重要性やインドの製薬市場自体の

魅力のため、日系製薬会社は今後もインド市場に対して強い関心を持ち続けるも

のと考えられる。

ただ、インドビジネスの持つ潜在的成長性や製薬事業を展開しやすい稀有な環境

(製薬関連技術を有する低コストの労働力や後発医薬品の販売網の利用が可能で

あることなど)が整っていることなどから、日系製薬会社にとってインド製薬会

社の買収価格はある程度高額なものになることを覚悟する必要があろう。

日系製薬会社がインド製薬会社とJVパートナーになるか買収した場合、日系製薬

会社がインド製薬会社から上述したような利益を享受するだけでなく、日系製薬

会社としてもこれまでの事業経験により培われた有益な情報、ノウハウ等を提供

することで、世界市場へ医薬品を供給する際に直面する様々な問題の解決がより

容易になるものと考えられる。特に日系製薬会社がインド製薬会社に提供しうる

有益な情報、ノウハウ等としては以下のものが考えられる。

37

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• 世界市場の複雑な規制や価格設定に対する十分な理解、及び製造物責任リス

クへの十分な対策

• これまで日本等において既存の販売網を利用して、サプライチェーンを管理

してきた経験により培われたノウハウ

• インド製薬会社が日本製薬市場に参入する際に直面する文化的差異の解消へ

の協力

また、インドの製薬市場の特徴としては、以下のような点が挙げられ、インド製

薬市場には困難な問題も存在する。日系製薬会社がインド製薬市場に参入するに

当たりインド製薬会社とJVを設立するか、インド製薬会社を買収することができ

れば、インド製薬会社の協力により以下のような特徴を持ったインド製薬市場の

開拓がよりやりやすくなるものと考えられる。

• インド製薬市場における複雑な販売経路

薬局の数は55万店を超え、医療専門家の数も50万人39を越え、インド製薬市場

における販売経路は複雑なものとなっている。このため、インドにおいて、

販売員の管理、医薬品の在庫と販売の管理、同業者が組織する業界団体との

結びつきなどが成功の鍵となると思われる。

• 多数のブランドが競合するインド製薬市場

一つの医薬品分野で10以上のブランドが存在することから、ブランディング

の確立が非常に難しいといえるが、それゆえブランディングの確立が非常に

重要であるといえる。

• 多様性のあるインド製薬市場

高所得者が多く販売も比較的容易な都市部の市場から低所得者が多く約2億世

帯が生活している農村部の市場まで様々である40。

39 Indian Retail Druggists and Chemists Association, Biopharma International ‘Pharmaceutical

Distribution in India’, September 2008

40 Express Pharma Pulse ‘Road to the village’ September 2006

38

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• インド製薬市場における取引規制

2005年の特許法制の導入により、インド製薬市場が特許で保護された医薬品

の参入も可能となったが、多くの外国製薬会社にとってインドの知的財産権

法制はなお懐疑的なものであり、多くの外国製薬会社が不安を抱いている。

加えて、価格規制についても同様に不透明な部分がある。

以上のとおり、インド製薬市場が非常に魅力的なものである一方、非常に複

雑なものともなっていることから、インド製薬市場において医薬品を販売し

ようとしている日系製薬会社は、インド製薬会社とJVを設立するか、インド

製薬会社を買収することにより、よりインドでの製薬事業を成功させやすく

なるであろう。インド製薬会社の協力なしに100%子会社を設立し必要なマー

ケット情報を入手するのは至難の業であると考えられる。

39

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4.5. 通信分野

インドの携帯電話市場は、世界中で最大規模かつ最速の速度で成長している市場

の一つであり、すでに日本のNTTドコモなど外国会社もインドの携帯電話市場に

参入してきている。

外国会社は携帯電話に関連する付加価値サービスなどの他の関連分野にも参入し

ており、M&AやJVは外国会社の市場参入戦略として重要な手段となっている。

4.5.1. 概観

インドの携帯電話市場は、現在世界第2位の規模であり、今なお急速な発展を続

けている。インドの携帯電話加入者数は1998年の1億人から2009年5月には4億

1500万人にまで急増した。この間の年平均成長率(CAGR)は73%にまで上る。

この急激な増加は、受信地域の急拡大、通話料金や携帯電話機の価格低下にも支

えられたものと考えられる。

過去3年にわたり、毎月の平均携帯電話加入者数は約800万人である。2009年1月

から同年5月までの5ヶ月間において、毎月の加入者数は1200万人から1500万人

にも上り、加入者数の増加に拍車がかかっている。今後も以下のような事情から

さらなる急成長が予想される。

• 携帯電話の低い普及率(インドの携帯電話の普及率は今なお約30%にとどま

り、他国と比較するとまだ低い水準にあるといえる。)

• 経済発展及び可処分所得の増加

• 3GやWiMaxなどの新技術の導入予定

• 番号継続制(Mobile Number Portability)などの消費者に便利な制度の導入予

40

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インドの携帯電話市場における競争は熾烈である。競争の激化により、1加入者

あたりの平均収益(月額)が2003年には512インドルピーであったのが、2009年

には291インドルピーにまで低下している。ただ、一般的には、平均収益は市場

への後発参入者の方が低くなる傾向にある。

4.5.2. 主要企業

COAL調査報告書によると、インド携帯電話市場には10社が参入しているが、上

位6社(Bharti、Reliance、Vodafone、BSNL、Idea及びTata)により加入者数べ

ースで約94%のマーケットシェアを占めている41。

Figure 26: 携帯電話加入者数の増加予測

Source: Analyst reports, KPMG analysis

392

491

681

613

11%

25%25%

0

100

200

300

400

500

600

700

800

31/03/2009 31/03/2010 31/03/2011 31/03/2012

0%

5%

10%

15%

20%

25%

30%

Growth %

Subscribers (Mn)

Subs

crib

ers

(Mn)

Growth %

41 COAL, Research reports

41

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Figure 27: 通信分野及び関連付加価値サービス分野における主要企業

通信分野及び関連付加価値サービス分野 - 主要企業

サブセクター 会社名 国籍 コメント

携帯電話 Bharti インド Bhartiは、GSMのみで展開しており、加入者は1億人で、全体のマーケットの約23%のシェアを有する。

携帯電話 Reliance インド Relianceは、GSMで1200万人の加入者、CDMAで650万人の加入者を有し、マーケットシェアは全体の約17%である。CDMAだけのマーケットでは、約60%のシェアを有するマーケットリーダーである。

携帯電話 Vodafone イギリス Vodafoneは、GSMのみで展開しており、加入者7400万人で、GSMマーケットの約24%シェア(2位)の占めている。

携帯電話 BSNL/MTNL インド 政府系の会社。GSMで加入者5300万人、CDMAで加入者500万人。

携帯電話 Idea インド Ideaは、GSMで4500万人の加入者を有し、GSMマーケットで約15%のシェア、全体のマーケットの約11%のシェアを有する。

携帯電話 Tata インド CDMAで3600万人の加入者を有する。NTTドコモが26%の出資をして以降、GSMにも参入している。

携帯電話 Aircel インド Aircelは、GSMで2100万人の加入者を有し、約5%のマーケットシェアを有する。

関連付加価値サービス

Cellebrum インド CellebrumはSpiceグループに属する。2010年には関連付加価値サービス分野において約10%のマーケットシェアを有する見込み。

関連付加価値サービス

Onmobile インド Onmobileは、収入の23%を海外で稼いでいる。2010年のマーケットシェアは約17%と見込まれている。

Source: COAI, analyst reports

4.5.3. 主要なM&A/JV

インドの通信分野における主要なM&A/JVは、以下のとおりである。

Figure 28: 通信分野及び関連付加価値サービス分野における主要なM&A

通信分野 - 主要なM&A

時期 対象会社 買収者買収者国籍

価格米ドル(百万)

出資割合 %

Dec-09 Sistema ShyamTeleservices

Government of RussianFederation

Russia 703 20

Jan-09 Wireless Tata Telecom Quippo TelecomInfrastructure

India 1305 49

Jun-08 Idea Cellular Limited TM International Bhd Malaysia 1707 15

Oct-08 Swan Telecon Emirates Telecomms UAE 900 45

Jun-08 Spice CommunicationsLimited

Idea Cellular Limited India 637 41

Nov-08 Tata Teleservices NTT DOCOMO Japan 2657 26

Oct-08 Unitech Wireless Telenor Norway 1249 67

Source: Venture Intelligence, Bloomberg, Mergermarket, KPMG analysis

42

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4.5.4. KPMGコメント

インド携帯電話市場は、今後も日系携帯電話会社を含め外国会社を魅了し続ける

ものと予想される。

インド携帯電話市場は、上位6社により94%のシェアが占められており、競争が

極めて熾烈である。しかしながら、外国会社がインド会社と共同で地方都市や農

村部でのライセンスを取得する機会はなお存在するものと思われる。

日系携帯電話会社にとって有望な他の分野としては、携帯電話事業に関連する付

加価値サービス分野がある。日本の付加価値サービスに関する技術はインドより

も進んでいることから、日系企業が日本での既存の付加価値サービスをインドに

持ち込むことで、インドでの付加価値サービス関連技術の向上のための主導的な

役割を果たすことが可能であると考えられる。

携帯電話分野や付加価値サービス分野で成功を収めるためには、インドの消費者

やインドの規制環境に関する情報が決定的に重要であると考えられ、またとりわ

け日印の言語や文化における差異にも鑑みれば、100%子会社で市場に参入する

よりも買収ないしJV設立の方が望ましいと考える。

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以下に、インドにおけるM&A/JVの具体的な事例をいくつか紹介する。

Figure 29: インドにおけるM&Aのケーススタディ

5. ケーススタディ(M&A/JV)

M&A ケーススタディ

具体例 Anand Nishikawa Co

買収対象会社 (インド会社) Xcel Telecom Pvt Ltd

買収者 (外国会社) American Tower (ATC)

取得株式割合 100%

価格 (米ドル) (百万) 136.5

時期 2009年5月27日

事業内容 XcelTelecomは, 通信インフラ・サービス提供行っていた 同社は、

インド進出手段としてM&Aを選択

ATCは、世界の市場と比較して高い成長率を記録していることから、インド市場をターゲットとした(インドの通信塔市場の年平均成長率(CAGR)は15%で、通信塔の数は2009年の252,000から2015年には554,000に増加すると見込まれている。)。 ATCは、2007年にインドでの営業を開始し、2008年末までに200程度の通信塔による非常に小規模なネットワークを保有していた。ただ、その後、ATCは迅速にインドでの事業を拡大するために、比較的規模の大きい通信塔事業を買収して、それを更なる発展の基盤として利用する道を選んだ。ATCは、当時市場において買収可能なターゲットを分析し、極端に大規模な事業者は現実的に買収のターゲットとなりえないことから、実現可能な規模のXcelを買収する選択をした。

買収後の状況 ATCは、インドの通信塔市場において、合計15の通信ゾーンに約2,000の通信塔を保有し、約240の従業員をかかえ、主要な通信事業者を関係を有する重要な小規模プレイヤーとなっている。ATCは、小規模通信塔会社であるInsightInfrastructurePte.Ltdを2009年に1,890万米ドルで買収し、これに続き、XcelTelecomを買収をしたことにより、事業基盤を強化している。さらに、ATCは、現在EssarTelecomInfrastructurePrivateLimited(ETIPL)を4億3000米ドルで買収するべく交渉中であると報じられている。ETIPLは、約4,450の通信塔をインドに保有・運営している。ATCの業績は好調であるといわれており、また、上記買収戦略により規模の利益やシナジーを享受しているといわれている。 

Source: Company website, Mergermarket, publicly available information

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Figure 30: インドにおけるJVのケーススタディ

JV ケーススタディ~成功例①

具体例 Anand Nishikawa Co

インド会社(JVパートナー) Anand Group

外国会社 Nishikawa Rubber - Japan

設立 1997年にNishikawaRubberは、AnandGroupと提携し、フランスのLescuyerからの技術支援を得て、最初の工場を設立した。

ロケーション 工場がウッタル・プラデッシュ州(UttarPradesh)、パンジャブ州(Punjab)及びハリヤナ州(Haryana)に存在する。

事業内容 EPDMやPVCシールの製造業者。顧客は、Maruti Suzuki、Toyota、Telco、Honda Seil Cars India、GM India、Hindustan Mitsubishi Lancer、Fiat India、Ashok Leyland、Daewoo IndiaやEicherなど。

成功内容 EPDM及びPVCシールのインド最大の製造業者。輸出先は、米国、南米、ヨーロッパ、中東、アフリカ、アジアに及ぶ。年間8000メーターの製造力を有する。

成功理由 既存の関係 - NishikawaはJVパートナーの既存の主要顧客と非常に強い関係を有している。

JV ケーススタディ~成功例②

具体例 Toyota Kirloskar

インド会社(JVパートナー) Kirloskar (11%)

外国会社 Toyota (89%) - Japan

設立 1997年にJV契約が締結され、1999年12月に製造が開始された。

ロケーション 年間約8万台の製造能力を有する工場がバンガロールに存在する。

事業内容 トヨタ車のインドでの製造。

成功内容 とりわけMPV(マルチパーパスビークル)部門で成功している。製造開始後1年間は、Qualis(クオリス)が競業車種(TataSumo)より良く売れた。現在は、より幅広い車種を製造しており、2017年までに10%のマーケットシェアを目指している。

成功理由 注意深いアプローチ。最初は、QualisMPVの一車種のみで開始し、その後、市場を理解し、製造を効率化するなど重要なポイントを押さえた上で、新しい車種の製造販売に展開していった。

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Source: Company websites, Business Standard, Foreign apparel brands fail to find the right fit, 14 July 2009.

JV ケーススタディi~成功例③

具体例 ICICI Lombard

インド会社(JVパートナー)

ICICI Bank Limited (76%) - India's second largest bank

外国会社 Fairfax Financial Holdings Limited (26%) -カナダの金融会社

設立 2000年にJV契約が締結され、2001年に規制当局から認可を得た。

ロケーション 本店がムンバイにある。

事業内容 総合保険会社。取り扱い保険商品としては、生命保険、車両保険、住宅保険、旅行保険、救命救急保険、学生医療保険、個人傷害保険などがあり、個人向け、法人向けの両方がある。

成功内容 民間保険会社の中では最大である。 2009年度の収入保険料(gross written premium)は342億インドルピーで、従業員数は約5000人。2009年度には、400万を超える保険証書を発行している。顧客満足度では最高の評価を受けている。

成功理由 二つのJVパートナーが高度の技術と資源を有しており、成功を収めている。厳しい出資規制環境(外資最大26%という規制)のため、出資割合に関する意見の不一致を回避しやすい。

JV ケーススタディ~失敗例

小売分野におけるJV

直近2年において、多くのアパレル小売業(*)におけるJVの設立が失敗に終わっている。その理由としては、以下のものが考えられる。①インドでの商品調達に失敗し、輸入に頼り、関税がかさむ。②インドの市場価格に従った価格設定ができない。③店舗設計におけるパートナーとの意見の不一致(例:パートナー間でスタンドアローン式の店舗設計に同意したにもかかわらず、インド側のパートナーがショップ・イン・ショップ式の店舗にしてしまった。)④店舗の開店目標(時期的目標、場所的目標、店舗数の目標)の達成が困難になりやすいこと⑤高い賃料や店舗用の最適な場所を確保することが困難であるなどの問題

小売業のJVとしての成功例は、M&S-Relianceが挙げられる。M&Sは、現在インドで14店舗を保有している。M&Sは、小売価格に仕入コストを合わせるため70%の商品をインドで調達する予定にしている(現在は39%をインドで調達している。また、2009年においては、仕入コストを小売価格に併せるためには、最大40%まで仕入コストをカットしなければならなかったと報じられている。)。

*FDI規制によりマルチブランドの小売業は禁止されているが、フランチャイズ等のスキームを用いることにより実質的に小売業を営むことが可能である。ここでいうアパレル小売業は、このような実質的な小売業を指している。

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M&AとJVには、インド市場への参入手法としてそれぞれメリット・デメリットが

ある。例えば、M&Aにより買収者が支配権を取得しその収益を最大化させること

も可能であるが、他方でJVの場合は、コストをJVパートナーとシェアし、また外

国会社にはほとんど経験のない分野に参入する際のリスクを軽減してくれる場合

もあろう。

いずれの手法がインド投資の目的を達成する上でより効果的かにつき両者を慎重

に比較検討してすることが重要である。以下に、3点ほど考慮すべき重要なポイ

ントを示しておく。

6.1. インド市場における既存の拠点や関係の有無

インドにおいて一切拠点がなく、またインドでの取引を通じての一定の関係など

もない場合には、M&AかJVの設立が100%独資による子会社設立よりも望ましい

場合が多い。M&AやJVの方が、被買収会社やJVパートナーを通じてインフラ、

ノウハウ、顧客などへ容易にアクセスできるからである。

被買収会社やJVパートナーの保有する物的設備よりもこれらの会社が保有する顧

客との関係やノウハウの利用の方が重要である場合には、仮に、JVの設立ではな

くM&Aにより事業を取得したとしても、顧客との関係維持やノウハウの利用にと

って不可欠な主要な経営陣が会社を辞めてしまうというリスクが付きまとう。こ

のようなリスクは経営陣に会社に残るインセンティブを与えることである程度は

軽減されるが、基本的には、M&AではなくJV方式を採用する方が、これらの経営

陣も共同出資者となるので、この種のリスクは随分と低いものとなろう。

他方、すでに日本からインドの顧客に商品を販売しているような場合であっても

、100%独資の子会社を設立するよりも会社をM&Aにより買収したりJVを設立す

る方がなお望ましい場合が多いと考える。被買収会社やJVパートナーの有するロ

ーカル市場の知識や仕入先・顧客との既存の関係という観点からは、被買収会社

やJVパートナーは非常に大きな価値を有しているからである。

6. M&AまたはJVの設立のいずれの方法を採用するかを検討する際の考慮すべきポイント

42 KPMG/IESE, Joint Ventures – A tool for growth during an economic downturn, 2009

47

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なお、近時のKPMG/IESE42 による調査によれば、JVを成功させる最も重要な要

素はパートナー間の信頼のレベルであり、2番目に重要な要素が両パートナーの

戦略上の親和性であるとされている。このため、すでに関係のある者同士でJVを

設立すればより成功しやすいということが言える。このことは買収時点において

被買収者の関与が基本的になくなるM&AよりもJVにおいてより重要になってくる

。このため、インドの会社との間で既存の関係が全くないような場合には、全く

未知のインドの会社をパートナーとしてJVを設立するよりかはM&Aにより事業を

買収をしてしまった方が望ましい場合もありうる。

6.2. インド市場参入コスト

JVの設立という手法は、M&Aにより事業を買収する場合や100%子会社の設立と

比較すると、コストをJVパートナーをシェアできるので、一般的に割安である。

ただ、JVパートナーであるインドの会社が自己の顧客との関係やマーケットノウ

ハウなどの価値をことさらに強調して、JVへの金銭出資を最小限に抑えようとし

てくることがあるので、この点注意が必要である。

6.3. 知的財産権の重要性

JV設立という手法を用いる場合にもう一点注意を要するのが、知的財産の流出リ

スクである。このリスクは、M&Aの場合よりJVの手法を用いる場合の方が格段に

高まる。ただ、もちろんこのリスクを軽減する法的手段や物理的手段は存在する

。知的財産の流出防止のための物理的手段としては、例えば、とりわけセンシテ

ィブな製造過程については秘密を保持するため、JV内に異なる製造ユニットを設

置している会社もある。

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7. 買収対象会社/JVパートナー探し

インドにおいて買収対象会社/JVパートナーを探す手順は、あなたの会社が現状

のインドに対してどの程度の関係を有しているか、インド市場進出の理由はどう

いったものか、会社内部の資源はどの程度利用可能か、買収候補先についてどの

程度情報があるかなどの要素によって異なってくる。以下、4つのステップを順

次説明する。

7.1. ステップ1-最初に考えるべきこと

まず最初のステップは買収対象会社/JVパートナーの条件を具体的に定めること

である。以下、考慮すべき重要なポイントを列挙する。

• インド市場参入の目的

まずはじめに、なぜインド市場に進出したいのかについて正確に特定する必

要がある。インド市場向けに製品を販売するためなのか、海外市場向けの輸

出用の製品を製造するためなのか、R&D活動をするためなのか、というよう

に目的を明確にすることである。

• インド市場の理解

現在、どの程度インド市場のことを理解しているかを知る必要もある。最終

的な決断をするまでに、マーケットの規模、成長の見込みやその原動力、仕

入先や顧客の地理的場所、利用可能なインフラや優遇政策などの要素につい

て十分理解することが重要である。

• 買収対象会社/JVパートナー候補の能力の評価

インド市場参入の目的を達成するために買収対象会社/JVパートナーに求め

られる能力と比較しながら、買収対象会社/JVパートナー候補が実際に有し

ている能力をじっくりと評価する必要もある。例えば、あなたの会社が優良

な製品を製造する技術を有しているが、量産可能な製造力や販売網を有して

おらず、インド市場参入に当たりこの点を買収対象会社/JVパートナーに補

完してもらう必要があるのであれば、理想的な買収対象会社/JVパートナー

は、自分に欠けている製造力や販売網を有している会社ということになる。

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• 買収対象会社/JVパートナーの拠点

インド市場参入の目的を達成するために、買収対象会社/JVパートナーの拠

点がどこであることが望ましいか、という点について検討する必要もある。

買収対象会社/JVパートナーの最も近い顧客市場がどこなのか、また、買収

対象会社/JVパートナーがどのような販売網を有しているのか、という点が

重要である。

• 投資規模、投資態様の柔軟性

①投資の規模、②投資スキームの複雑さ、③出資比率(100%買収、マジョリ

ティ出資、マイノリティ出資のいずれか)などの点についてどこまで柔軟で

いられるか内部で十分検討する必要もある。

• 買収/JV以外の他の選択肢の採用可能性

買収とJVのみが採りうる選択肢か否かを検討する必要もある。支店として販

売事務所を設立すること、100%独資による子会社を設立して、自前の工場を

建設すること、日本や海外の既存の拠点からインド市場に輸出することなど

他の手法により目的が達成できないか検討する必要もある。

• インド市場参入のタイミング

どの程度インド進出を急いでいるかということである。最も良い機会が到来

するまでじっくり待つことができるのか、それともすぐにでも動かなければ

いけないのか、について十分検討する必要がある。

• インド市場や買収対象会社/JVパートナー候補の調査方法

インド市場を調査したり、潜在的な買収対象会社/JVパートナー候補に接触

するための資源や能力が内部的にあるかどうかということを知る必要がある

。あなたの会社の内部に、英語やヒンディ語が堪能な者がいるかどうか、イ

ンド市場や買収対象会社/JVパートナー候補の調査、または買収対象会社/

JVパートナー候補とのミーティングのためにインドに人を派遣できるか、イ

ンド市場や買収対象会社/JVパートナー候補の調査を外部のアドバイザーに

アウトソースして、買収対象会社/JVパートナー候補が一定程度に絞り込ま

れた後インドに来るか、などについて検討する必要がある。

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• インド市場参入計画の機密性

インド市場参入を検討していることを秘密にするか、それとも新聞やM&A関

連誌などにおいてインド市場参入を検討中であることを公表するか、という

ことについても検討が必要である。

7.2. ステップ2-買収対象会社/JVパートナー候補のリスト

アップ

買収対象会社/JVパートナーの条件が定まり、インド市場参入の戦略についても

内部で合意できたならば、次のステップは、買収対象会社/JVパートナー候補を

可能な限りリストアップすることである。リストアップのためには以下のような

情報源から情報を入手すると良い。

【第一次的情報源】

• トレード・フェア

買収対象会社/JVパートナー候補と情報交換し、当該事業分野の理解を深め

るためにトレードフェアに出席する。

• 競合他社、顧客、仕入先などへのインタビュー

当該事業分野の利害関係人に直接接触して、買収対象会社/JVパートナー候

補に関する情報を収集する。

• 既得の情報

過去にインドの会社と接触した経験がある場合には、そこで得た買収対象会

社/JVパートナー候補に関する情報も参考にする。

• アドバイザー/専門家

当該事業分野に詳しい専門家に相談し、買収対象会社/JVパートナー候補に

関する情報を収集する。

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【第二次的情報源】

• 上場会社に関する公開情報

当該事業分野において上場している会社がある場合には、公開情報の利用が

可能である。

• 産業調査報告書

当該事業分野に関する調査報告書が入手できれば、そこには買収対象会社/

JVパートナー候補となりうる主要な企業が記載されていることが多い。

• インターネットの活用

インターネットでの調査も有効である。

• 産業刊行物

当該事業分野の定期刊行物がある場合には、これを購読することで買収対象

会社/JVパートナー候補に関する有効な情報を入手しうる。

• 産業団体

買収対象会社/JVパートナー候補に関する情報を入手するため産業団体に入

会することも選択肢の一つとして考えうる。  

7.3. ステップ3-買収対象会社/JVパートナー候補の絞込み

買収対象会社/JVパートナー候補のリストアップを終えたら、次は、ステップ1

で定めた買収対象会社/JVパートナー候補の条件に照らして、買収対象会社/JV

パートナー候補を比較し、候補先を直接接触して比較検討できる程度の数にまで

絞り込んでいく。

例えば、ステップ2で得た情報に基づき、いくつかの会社については、拠点場所

が悪い、規模が小さすぎるなどの理由ですぐにリストから外すことができるのが

通常である。もちろん、条件を満たすかどうかが微妙な場合には、アドバイザー

/専門家に確認することも有益である。

この段階においては、候補先の選別に柔軟であることが重要である。完全に条件

に合致する候補先があることは稀であるので、ある程度妥協することは必要であ

る。

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7.4. ステップ4-買収対象会社/JVパートナー候補との接触

接触可能な程度まで買収対象会社/JVパートナー候補を絞り込んだら、最後ステ

ップとして、各候補先に接触する。留意すべき点としては以下のような点がある。

• 秘密保持

自らの会社名を明かして買収対象会社/JVパートナー候補に接触することが望

ましいが、実際には最初の段階では匿名ベースで接触したいという場合もある

。このような場合に最も簡便なのがアドバイザーを利用することである。アド

バイザーは、当該候補先に外国会社と買収またはJVに関して交渉する余地があ

るか否かを確認し、交渉の余地ありとの回答であれば、秘密保持契約を締結し

た上、交渉を開始することができる。

• 会社情報の提供

あなたの会社がインドであまり知られていない会社である場合には、秘密保持

契約締結後、会社の規模、事業内容、会社の物的基盤、株主構成、沿革、イン

ド市場に進出する目的等についてまとめたものを買収対象会社/JVパートナー

候補に提供することが望ましい。

• 交渉に必要な十分な語学能力を備えた人材の有無

買収対象会社/JVパートナー候補と英語で十分な交渉ができるだけの語学能力

のある人材があなたの会社に不足している場合には、アドバイザーを雇う必要

があろう。

• 買収対象会社/JVパートナー候補への接触の仕方(同時接触か順次接触か)

数社程度に絞り込んだ買収対象会社/JVパートナー候補リストの全ての会社に

一斉に接触を開始するか、それとも条件により合致する優先順位の高い会社か

ら一社ずつ接触していくか、につき検討する。①効率性(例えば、1週間のイン

ド出張中に各候補先とミーティングをそれぞれ複数回持つことができるが、一

社のみにしか接触しない場合には、交渉に失敗すればまた振り出しに戻るため

、何度もインドに来ることを余儀なくされ、効率性を欠くことが多い。)、②

比較可能性(同時に交渉を進める場合には、各候補先の長所短所の比較が容易

である。)の観点からは、同時に接触を開始する方が優れているため、一般的

には、前者の同時接触の方が望ましい。

• 交渉手順の明確化

具体的にどのような手順で買収対象会社/JVパートナー候補との交渉を進めて

いくかについて明確にしておく必要がある。一般的には、秘密保持契約書の締

結、あなたの会社の情報の候補先への提供、候補先から提供してもらいたい情

報のリストの提示、ミーティングの開催といった手順で交渉が進んでいく。

53

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買収対象会社/JVパートナー候補との交渉が開始し、当該候補先を買収したい、また

はJVパートナーにしたいとの結論に達したら、次は当該候補先を対象としたデューデ

リジェンスをする必要がある。デューデリジェンスのレベルについては、規模やビジ

ネスの複雑さ、どの程度の情報が利用可能か、条件適合性を判断するためにどの程度

詳細なデューデリジェンスを望むか、などの要素によって異なる。

M&AやJV設立の際に一般的にデューデリジェンスの対象となる項目を以下に掲げる。

【デューデリジェンスの典型的な調査対象リスト(M&A/JVに共通)】

• 候補先へのコンタクト

ステップ3で絞り込んだ候補先リストの会社と一切接点のない場合には、候補先

と何らかの関係のある地元のアドバイザーなどを使って連絡を入れることが望ま

しい。また、当然のことではあるが、候補先会社の中で接触すべき適切な者(中

小規模であれば、創業者や大株主となることが多いであろう)に接触することも

重要である。

8. デューデリジェンス

株主 ● 株主構成。インドにおいては、とりわけ中小規模の同族会社の株主構成が複雑になっていることが多い。

● 株式を保有していない者が実質的に支配力を有している会社については、他の周辺の会社の債務を実質的に負担させられる場合があるので、周辺の会社の調査も必要。

● 少数株主であっても実質的には不釣合いな影響力を有している場合がある。

異常な取引等 の有無

● 関連会社との間で市場価格とは異なる価格で取引しているというような実態がないか。

● ノンコアビジネスに多額の資金が使用されていないか。

コーポレート・ガバナンス

● コーポレート・ガバナンスの程度は会社によって区々である。とりわけ、中小規模の会社にあっては、内部統制が弱いため財務状況に関する会社の情報は信頼性に欠けることが多い。

● 監査報告書の信頼性(対象会社に対する会計サービスと監査サービスとの境界線が不明確で、実質的に自己監査になっている場合には特に注意が必要)

● 特定の経営者に過度の権力が集中している場合にも注意が必要である。

内部統制システム ● 内部統制システムの環境が脆弱ではないか。

● 明確な根拠のない将来の業績予測をしていないか。実際の業績を無視した甘い予算設定をしていないか。

● IT環境の不備等により情報収集の質・スピードに問題はないか。

● 過去のコストデータを利用できる環境にあるか。

● 信頼性の高いITシステムを導入する必要がないか。(SAPの導入など)

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収益及び収益獲得手法のクオリティ

● 現状の収益が持続可能なものかを確認する。典型的な調査対象事項は以下のとおりである。 – 創業者の報酬体系が公式化されているか。 – 法令や会社の内部規則上の従業員に対する支払義務(年金等)が未払いになっていないか。 – 市場価格とは異なる価格で関連会社等と取引していないか。

● 通常では考えられないような単発の大きな収入または支出がないか。

● 特定の仕入先や顧客に依存していることにより、取引交渉力に問題があるということはないか。

資産/負債及び運転資金の管理のクオリティ

● 過去において設備投資を十分にしてこなかったという事情はないか。

● 毀損している資産や稼動していない資産が存在しないか。。

● 記帳されていない支出がないか(従業員の退職金、疑義のある債務、前払い金、保証債務、租税債務などの支払で記帳されていないものがないか)

● 通常、対象会社の営む事業において、どの程度の運転資金が必要か。。

一般会計原則(GAAP)及びその他の財務事項

● 買収対象会社のインド会計原則(Indian GAAP)と買収会社の会計原則(International GAAP)の違い

● 長期間の間、売掛金等が未回収となっていないかどうか。

● 通常の調整手続が欠けていないかどうか(例えば、監査済みの財務諸表と会社内部の帳簿の間で顧客と仕入先の残額が一致しているかなど)

● 開業前の費用の資本化が適切になされているか。

税務上の問題 ● 積極的かつ適切な税務対策をしているか(適正なタックスプランニングであって、違法な租税回避となっていないか)

● インドにおいては税務訴訟は通常である。最終的解決までに非常に時間を要する。

● 税務訴訟になると、仮に最終的に勝訴して納めた税金を回収できたとしても、紛争発生時に一旦暫定的に納税する場合には、キャッシュフローには悪影響となる。

● 買収対象会社において現在享受しているタックス・ベネフィットを買収後も継続して享受できるか。

法令整備状況等の環境

● 対象会社の事業に関連する分野の法令が十分に整備されていないことはないか。

● インドの実務においては、具体的な規定を設けないことが多い。このことはPLに予想外の影響を及ぼす場合がある

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JVパートナーの略歴

● JVパートナーの事業や株主構成を正確に理解する。

● 創業者や経営陣のバックグラウンドやレピュテーションの調査

● JVパートナーに既存のビジネスパートナーがいないか(既存のJVパートナーとのJV契約上、当該JVを終了させる場合に違約金支払義務が発生する場合がある)。

● 重要なビジネスリレーションシップが強固なものであるか否かを評価するため、重要な顧客、仕入先、ビジネスパートナーなどとの関係が長期間の間継続しているかをチェックする。

フィナンシャル・キャパシティ

● 負債割合が高くほとんど借入余力がない場合には、JVへ出資するための資金を十分に調達できない可能性がある。

● 既存の事業が収益を生んでおらず、新しい事業へ投資するための資金となるフリーキャッシュフローが圧迫されていないか。

資産/負債の価格評価

● JVパートナーの資産や負債の質、とりわけ無形固定資産の価格算定や重大な簿外債務や偶発債務の存在は、JVに非常に大きな影響を及ぼす。

● 毀損している資産や稼働していない資産は存在するか。

JVパートナーとの企業文化や規模の違いによる問題

● 非公式の企業文化-経営体系や経営陣の役割が漠然としたものでないか。

● JVパートナー側において、会計や経営監督体制等が脆弱であることから、JV契約に基づく必要な報告が十分になされないというようなことはないか。

● 現在、または将来JVパートナーから提供されるサービスを共有することで追加コストが発生しないか。

【JVの場合に特に必要な追加調査対象リスト】

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インドにおいては、非公開会社をM&Aにより買収する場合やJVを設立する旨の合

意書を締結する場合には、特段のタイムテーブルはない。買収対象会社/JVパー

トナー候補に関する条件が明確で、しかもインドの対象マーケットについての既

存の知識や関係が十分にあれば、全くの白紙の状態から検討する場合と比較して

、格段にスピーディに進めることができる。あくまで例示的ではあるが、非公開

会社との間で買収契約を締結する場合/JV契約を締結する場合のスケジュールを

以下に示す。

【前提】

• 内部検討及び候補先調査:2ヶ月

• 候補先との接触:1ヶ月

• 交渉開始から買収契約/JV契約締結まで:2-5ヶ月

9. タイムテーブル

例示的タイムテーブル

月 1 2 3 4 5 6 7 8

週 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30

計画段階

戦略/条件

パートナー候補先の調査

マーケット調査

接触対象候補先の選定

交渉段階

秘密保持契約の締結

必要情報リストの送付

受領した情報の精査

候補先への訪問・ミーティング

ビジネスプランの設計・検討

基本合意書の締結

デューデリジェンス

最終交渉

株式譲渡契約書の締結

JV契約書の締結

注: 特段の規制のない事業分野における非公開会社への投資を前提とするSource: KPMG

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ただ、以下のような事情により要する時間が異なってくるので注意を要する。

• インド市場に対する準備や情報が事前にどれだけ揃っているか。

• どの程度のレベルのデューデリジェンスを要求するか。

• 条件に合致した適当な候補先を見つけられるか、または条件をどれだけ柔軟

にして適当な候補先を見つけられるか。

• 候補先のビジネスが どの程度複雑なものであるか。

• 候補先の株主構成がどのようなものであるか(上場会社であるかまたは同属

経営の非公開会社であるかなど)

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添付資料1 日系企業によるM&A/JV一覧表

日系企業 - M&A in India - 2007-2009

時期 被買収会社名 買収会社名 業種 買収価格 出資割合

被出資会社名 出資会社名USD

(百万)%

2009Kuma Stainless TubesLimited

日下部電機自動車部品

7 56

2009Anchor Electricals PrivateLimited

パナソニック電工 電設資材 101 20

2009Kuma Stainless TubesLimited

丸一鋼管自動車部品

11.0 95

2009LIC Mutual Fund AssetManagement Co. Ltd

野村ホールディングス 金融 28.8 n/a

2009Nippon Express IndiaPrivate Ltd

日本通運 物流 6 30

2009Zenotech LaboratoriesLimited

第一三共 製薬 16 20

2008Orient Green PowerCompany Limited

オリンパスエネルギー

35 n/a

2008 Tata Teleservices NTTドコモ 通信 2657 26

2008 Ranbaxy Laboratories 第一三共 製薬 4628 64

2008 Lehman Brothers 野村ホールディングス 金融 n/a n/a

2008India Yamaha Motor PrivateLimited

三井物産 自動車 n/a 30

2008 Narendra Plastic 伊藤忠商事 フィルム n/a 30

2008 Swaraj Mazda Ltd 住友商事 自動車 9 14

2008 Maithan Ispat LtdIL&FS InvestmentManagers Limited オリックス

形鋼 19 30

2007 Indian Steel Corporation 三井物産 鉄鋼 n/a 10

2007 Jyoti Limited Harakosan Co 風力発電 3 10

2007 Vertex Software NTTデータ 通信 n/a 69

2007 JI Logistics 日本通運 物流 8 51

2007 Anchor Electricals パナソニック電工 電設資材 420 80

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Source: Venture Intelligence, Bloomberg, Mergermarket, KPMG analysis, Factiva

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日系企業 - JVs in India - 2007-2009

時期 JV(会社名) JVパートナー1 JVパートナー2 業種

2009Edelweiss Tokio LifeInsurance

東京海上日動火災保険 -Japan(26%)

Edelweiss - India(74%) 金融(生保)

2009 Mimaki Kanphor Indiaミマキエンジニアリング- Japan(51%)

Texsoco - India 産業(印刷)

2009 SMI Amtek Crankshaft住友商事(10%); 住友金属(40%) - Japan

Amtek Auto - India(50%) 自動車

2009 n/a古河電気工業 - Japan(45%)

Universal Cables - India 産業(光ファイバー)

2009 Takata India タカタ - Japan Anand Automotive Systems - India 自動車

2009 n/a新明和工業 - Japan(60%)

Kailash Vahn Udyog - India(40%) 消費者

2008 Span Nihon Diagnostics日本光電 - Japan(55%)

Span Diagnostic - India(45%) 製薬(診断法)

2008 Hino Moto Sales India 丸紅 - Japan(35%) Hino Motors Ltd - Japan(65%) 自動車

2008Toyoda MicromaticMachinery India

JTEKT - Japan(75.%)Micromatic Grinding Technologies - India(24.5%)

産業(工作機械)

2008Tokai Rika Minda IndiaPvt Ltd.

東海理化 - Japan(70%)

Nirmal K Minda group - India(30%) 自動車

2008 Clickstreamers 電通 - Japan(51%) Connecturf - India (49%) メディア

2008 Toshiba JSW 東芝 - Japan(75%) JSW Group - India(25%) 産業(タービン、発電)

2008 n/aブリヂストン - Japan(51%)

Sundaram - India(49%) 自動車

2008 Bussan Auto Finance三井物産(64%), ヤマハ(10%) - Japan

Axis Bank - India (26%) 金融

2008 ADK Fortuneアサツー・ディ・ケイ -Japan

JWT India - India メディア

2007Star Union Dai-ichi LifeInsurance Company

第一生命保険 - Japan(26%)

Bank of India(51%), Union Bank ofIndia(23%) - India

金融(生保)

2007 n/aアークレイ - Japan(51%)

Nicholas Piramal India - India(49%) 製薬(診断法)

2007 Yakult Danone Indiaヤクルト本社 - Japan(50%)

Danone - France(50%) 消費者

2007Finolex J-PowerSystems

ジェイ・パワーシステムズ - Japan(51%)

Finolex Cables - India(49%) 産業(電力ケーブル)

2007Universal SompoGeneral Insurance

損保ジャパン - Japan(26%)

Allahabad Bank(30%), Indian OverseasBank(19%), Karnataka Bank(15%),Dabur Investment(10%) - India

金融(非生保)

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2007 n/aフタバ産業 - Japan(51%)

Maruti Suzuki India - India(49%) 自動車

2007 n/a アロカ - Japan(60%) Trivitron - India(40%) 製薬(装置)

2007 n/a 日産 - Japan(51%) Ashok Leyland - India(49%) 自動車

2007Calsonic KanseiMotherson AutoProducts

カルソニックカンセイ -Japan(51%)

Motherson Sumi - India(49%) 自動車

2007 n/a古河電気工業 - Japan(51%) AK Minda - India(49%) 自動車

2007 L&T MHI Boilers三菱重工業(39%)、三菱電機(10%) - Japan Larsen & Toubro - India(51%) 産業

2007 n/a日本ビー・ケミカル -Japan(51%) Berger Paints - India(49%) 産業(塗装)

2007 NSK-ABC Bearings日本精工 - Japan(75%) ABC Bearings - India(25%) 産業(ベアリング)

Source: Bloomberg, Factiva

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第2編 インドにおけるM&A/JVに関する諸規制

1. 総論

近年、インド経済の発展に伴い、日系企業によるインドへの投資が活発になって

いる。インドへ投資しインドでビジネスを開始する場合、大きく分けて、 既存の

インド企業の助けを全く借りず全く一から自前でビジネスを開始する場合と既存

のインド企業を買収するなどして既存のインド企業の事業を活用しながらビジネ

スをスタートする場合とがある。前者のインド進出方法の典型例は、100%独資43

によりインドに子会社を設立するというものであり、他方、後者のインド進出方

法の典型例としては、①M&Aにより既存のインド企業やその事業を買収する場合

と②インド企業と共同出資して合弁会社(Joint Venture。JV)を設立して事業を

開始する場合とがある。

第1編で解説したとおり、初期投資として必要なコストは大きくなるものの、イ

ンドの規制が複雑であることや商慣習その他文化全般が日本とは随分異なること

などの事情に鑑みれば、後者の進出方法(M&AやJVの設立)の方がインドでビジ

ネスを開始するに当たり望ましい場合が多いと考えられる。また、実際にも日系

企業を含め相当数の外国企業がM&AやJVの設立という手法を用いてインドへの投

資を行っている。このことから、M&AやJVの設立という手法によりインドへ投資

を行う場合に問題となりうるインドの各種規制について十分に理解をしておくこ

とは非常に重要であると思われる。

そこで、以下、M&AやJVの設立という手法によりインドへ投資する場合に問題と

なりうる、インド税法44、外国為替規制などの各種規制を解説することとする。

43 インド会社法上、非公開会社であっても株主が2人以上必要とされているので、形式的には、ある会社

が100%出資して子会社を設立することはできない。ここでいう100%独資とは、ある会社が99%出資

し、その会社の100%子会社が1%出資するなどの態様で、実質的にみて100%子会社を設立するという

意味である。

44 本調査報告書に記載の税率については、間接税等一定の場合を除き、原則として2010年予算案(

Union Budget 2010)に基づいている。

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2. インドにおけるM&A/JVと各種規制

2.1. M&A/JVの手法

一般的にM&Aの手法としては、買収対象会社の株式を取得する方法(株式取得)

と買収対象会社自体や対象会社の事業を取得する方法とがある。以下、この二つ

の場合に分けて、解説する。

他方、JVを設立する場合には、JVパートナーと共同出資にて合弁会社を設立し、

それぞれの出資比率に応じて合弁会社(JV)から株式の発行を受けることになる

2.1.1. 株式取得

M&Aにおける株式取得の方法としては、①既存株式を取得する方法と②株式の発

行を受ける場合とがある。以下、それぞれについて、税務上の規制及び外国為替

上の規制を中心に解説する。

なお、JV を設立する場合、JV の設立に伴い一定割合の株式の発行を受けるので

、以下に述べる税務上の規制及び外国為替上の規制については、M&Aの手段とし

ての②株式の発行による株式取得と同様となる。

2.1.1.1. 税務上の規制

既存株式の取得または株式の発行による株式取得、いずれの場合であっても、株

式の取得に当たり、株式譲受人は一定の印紙税を支払う必要がある。ただし、株

式譲渡が株券の受け渡しを伴わない電子的なものである場合には、印紙税の支払

は不要である。

また、証券取引所を通じて上場会社の株式を取得する場合には証券取引税45が課

される場合がある。

45 株券の受け渡しを伴う場合には、譲渡人及び譲受人にそれぞれ0.125%の証券取引税が課される。株

券の受け渡しを伴わない場合は、譲渡人に0.025%の証券取引税が課される。 なお、本調査報告書に

記載の税率は、間接税等一定の場合を除き、原則として2010年予算案(Union Budget 2010)に基づ

いている。

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さらに、支配権の変動を伴う形で非公開会社の株式を取得する場合には、原則と

して、買収後、買収対象会社の繰越欠損金の利用が認められなくなるので、注意

を要する46。

なお、株式取得による会社の買収は、対象会社の株式を取得するだけで株式を処

分する場面ではないので、1961年インド所得税法(Income-tax Act, 1961)上、

キャピタルゲインが認識されることはなく、何ら法人税の課税対象とはならない

。他方、株式の売主には、キャピタルゲイン課税がなされうる。詳しくは、第二

編7.1「株式の売却」の項を参照されたい。

2.1.1.2. 外国為替規制

1999年インド外国為替管理法(Foreign Exchange Management Act, 1999 。

FEMA。以下「インド外国為替管理法」という。)上、既存株式の取得または株

式発行による株式取得、いずれの場合であっても、①株式の譲渡及び発行の価格

についての規制47、及び②事業分野による株式取得規制を受ける。

まず、①については、インド非居住者がインド居住者から株式を譲り受け、また

は株式の発行を受ける場合と、インド非居住者がインド非居住者から株式を譲り

受ける場合とで、外国為替管理法上の規制が大きく異なる。そこで、以下、それ

ぞれの場合に分けて説明する。

なお、②については、次章(3.「外国直接投資(Foreign Direct Investment)規制

~事業分野による規制」)において詳しく解説する。

46 前年度の最終日における株主と繰越欠損金の繰り越される年度の最終日における株主とを比較して、

議決権ベースで51%以上の株主に変動がない場合には、繰越欠損金の利用が可能であるが、上記要件

を満たさない場合には、原則、繰越欠損金の利用が認められない。インド所得税法79条参照。なお、

上記要件を満たさない場合でも、未吸収減価償却費(Unabsorbed depreciation)の利用が制限される

ことはない。未吸収減価償却費については、脚注51参照。

47 インド準備銀行の通達である2010年4月7日付Notification No. FEMA 205/2010-RB及び2010年5月4日付

RBI/2009-10/445 A.P.(DIR Series) Circular No.49参照

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【インド非居住者がインド居住者から株式譲渡/株式の発行を受ける場合】

• 株式が証券取引所に上場されている場合には、売買により譲渡される株式の

価格は、インド証券取引所(Securities and Exchange Board of India。SEBI

)ガイドライン48 に従って定められる、第三者割当(Preferential Allotment)

49 をした場合の株式発行価格を下回ってはならない。ただし、この価格は、

株式の売買日を基準日とし、当該基準日より前の、当該ガイドラインにより

定められる期間を基準として定められる。

• 株式が証券取引所に上場されていない場合には、売買により譲渡される株式

の価格は、インド証券取引委員会(SEBI)に登録しているカテゴリー-Ⅰのマ

ーチャントバンカー(SEBI registered Category-Ⅰ- Marchant Banker)または

勅許会計士(Chartered Accountant)がDCF法に基づき決定した適正価格(

Fair Value)を下回ってはならない。一株あたりの株価については、上記マー

チャントバンクまたは勅許会計士により証明されなければならない。

他方、株式発行により株式を取得する場合には、発行株式の価額が以下の金額で

あることを要する。

• 株式が証券取引所に上場されている場合には、インド証券取引委員会

(Securities and Exchange Board of India。SEBI)のガイドラインに従った

金額

• 株式が証券取引所に上場されていない場合には、インド証券取引委員会(

SEBI)に登録しているカテゴリー-Ⅰのマーチャントバンカーまたは勅許会計

士(Chartered Accountant)がDCF法に基づき決定した適正価格

(Fair Value)

• 株式の発行が第三者割当(Preferential allotment)に該当する場合には、イン

ド準備銀行(RBI)が随時発行するインド居住者からインド非居住者に株式を

譲渡する場合の譲渡株式の価格に関するガイドラインに基づく価格

48 インド証券取引委員会ガイドライン(SEBI (DIP) Guidelines, 2000 Chapter13, Guildlines For

Preferential Issues)によると、第三者割り当ての際の株式の発行価格は以下の①②の金額のいずれか

高い方を下回ってはならないとされる。①基準日前6ヶ月間の上場株式週毎の終値の高値安値の平均、

②基準日前2週間の上場株式の週毎の終値の高値安値の平均。

49 インド会社法81(1A)条参照

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【インド非居住者がインド非居住者から株式譲渡を受ける場合】

インド非居住者がインド非居住者から株式譲渡を受ける場合には、特段の外国為

替規制は存在しない。

2.1.1.3. 会社法上の規制

インド内国会社から新株の発行を受ける場合には、インド会社法上の増資の手続

に従う必要がある。具体的には、会社設立から2年経過するか、会社設立後始め

て行われた新株発行から1年経過するか、いずれか早い時期が経過している場合

には、既存の株主に対して持株比率に応じて新株を発行することができる。その

他の場合(上記期間経過前の新株発行や既存株主以外の第三者に対する新株の発

行)には、公開会社にあっては、①株主総会特別決議を経るか、または②株主総

会の普通決議に加えてインド中央政府の許可を得ることを要する。非公開会社の

場合には、このような要件は不要とされている50。

2.1.1.4. 公開買付規制

インドの証券取引所に上場しているインド内国会社の株式を株式譲渡により取得

する場合、または当該会社から新株発行により株式を取得する場合には、一定の

要件を満たす場合には、1997年インド証券取引委員会(株式の大量取得及び公開

買付け)に関する規則(Securities And Exchange Board Of India (Substantial

Acquisition Of Shares And Takeovers) Regulations, 1997。以下「公開買付規則」

という。)の規定に従い、公開買付けによることを要する。公開買付規則は、

1992年インド証券取引委員会法(Securities and Exchange Board of India Act,

1992)の施行規則であり、取得株式の開示、公開買付けの要件及び手続、買付価

格、公開買付義務の免除、競合的公開買付けなど公開買付けについて広く定める

。公開買付けの要件、買付価格等について、以下、概説する。

50 インド会社法81条参照

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【公開買付けの要件】

• 単独でまたは共同保有者と併せて議決権割合が15%以上となる上場会社株式

を取得する場合、公開買付けが必要となる。

• 単独でまたは共同保有者と併せて15%以上55%未満の議決権のある上場会社

株式を保有する者が一事業年度内に5%を超える議決権のある上場会社株式を

取得する場合、公開買付けが必要となる。

• 単独でまたは共同保有者と併せて55%以上75%未満の議決権のある上場会社

株式を保有する者が5%を超える議決権ある上場会社株式を取得する場合、公

開買付けが必要となる。

• 上記に加え、議決権や株式の取得の有無に関わらず、買収対象会社の支配権

を取得する場合には支配権51を取得する者に公開買付け義務が発生する。ただ

、この義務に関しては、買収対象会社の株主総会特別決議において承認が得

られれば、公開買付けは不要となる。

【買付価格】

公開買付規則上、公開買付価格は、同規則20条4項及び同5項により定められる価

格を下回ってはならない。同規則20条4項によると、対象会社の株式の取引状況

が低調52 でない場合には、買付価格は以下のうち最も高い価格となる。

• 合意した価格

• 公開買付けの公告日の前日から起算して26週間の間に、買付者または共同保

有者により株式取得がなされた場合のその最高取得価格

• 公開買付けの公告日の前日から起算して、(ⅰ)過去26週間の間の、対象会社の

株式が最も売買された証券取引所における、週毎の終値の最高値と最安値の

平均価格、(ⅱ)過去2週間の間の、対象会社の株式が最も売買された証券取引所

における、日々の最高値と最安値の平均価格、のうちいずれか高い方の価格

51 公開買付規則上、ここでいう支配権とは、「単独または共同で、株式保有、経営権、株主間協定、議

決権行使協定、その他いかなる方法によっても直接または間接に行使しうる、取締役の過半数を指名

する権利、会社経営または方針決定を支配する権利を含むもの」と定義されている。

52 株式譲渡日から起算して過去6ヶ月間の間にインドの主要証券取引所における株式売買高(年換算)

が、株式数にして上場株式全体の2%に満たない場合に、取引高が低調である場合とされる。

67

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公開買付規則20条5項により、対象会社の株式売買が低調である場合、買付者と

マーチャントバンカー(marchant banker)53 が以下の要素を考慮の上、買付価格

を決定する。

• 合意した価格

• 公開買付けの公告日の前日から起算して26週間の間に、買付者または共同保

有者により株式取得がなされた場合のその最高取得価格

• 純資産利益率(Return on net worth)、株式の簿価、一株あたり利益(

Earnings Per Share。EPS)、株価収益率(Price earning multiple)などから

算出される株式の価格

【最低取得株式数】

公開買付規則上、公開買付けにより最低20%の株式を取得することを要するとさ

れている。

2.1.2. 買収対象会社の事業を取得する方法

買収対象会社の事業を取得する方法としては、①事業譲渡、②資産譲渡、③合併

、④会社分割という手法がある。そこで、以下それぞれの手法について解説する

2.1.2.1. 事業譲渡(Slump Sale)

1961年インド所得税法(Income-tax Act, 1961。以下「インド所得税法」という

。)上、事業譲渡は、「当該事業譲渡において価値が個々の資産や負債に個別に

割り付けられることなく、事業全体に対する対価が支払われる売買の結果として

の、一つまたは複数の事業の移転」と定義されている。さらに、「事業」とは、

「いかなる事業の部分、事業の単位、部門、または全体として運営されている事

業活動をも含むが、個々の資産や債務、または事業活動を構成しないそれらのい

かなる組み合わせも含まないもの」と定義されている。

53 インド証券取引委員会(SEBI)にマーチャントバンカーとして登録されている銀行をいう。

68

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事業譲渡には、裁判所の許可を取得する手続と裁判所の許可を取得しない手続と

があるが、前者の場合、手続に非常に時間がかかるにもかかわらず、合併や会社

分割の場合のような税務上のメリットを享受することができないため、一般的に

は、裁判所の許可を取得しない手法が採用される。

この事業譲渡における税務上その他の主要な問題は以下のとおりである。

【インド所得税法その他税法上の規制】

• キャピタルゲイン課税

事業の譲渡会社が事業の税務上の純資産額(net worth)を超える対価を受領

する場合には、その超過部分について譲渡会社に対してキャピタルゲイン課

税54 がなされる。

• 譲受会社における事業譲渡により移転された各資産の税務上の簿価

インド所得税法上、譲受会社において、事業譲渡により譲り受けた事業を構

成する各資産の税務上の簿価をそれぞれいくらにすべきかについての具体的

な規定は存在しない。実務上は、適正な手法(専門家による適正評価額のレ

ポートなど)により各資産の価値を評価して、譲受会社はその価格を当該資

産の税務上の簿価として認識する。その後、譲受会社において、その簿価を

基準として減価償却を行い、これを損金に算入することが可能となる。

• 繰越欠損金(Brought forward losses)/未吸収減価償却費(Unabsorbed

depreciation)55 の承継

事業譲渡の方法で移転される事業に関する繰越欠損金や未吸収減価償却費に

ついては、譲受会社には承継されない。

• 勅許会計士(Chartered accountant )からの証明書(3CEA)

譲渡会社は、インド所得税法の規定に従い税務上の純資産額(net worth)が

適切に算出されていることを証明する3CEAと呼ばれる証明書を法人税申告書

とともに提出する必要がある。

54 インド内国法人が、保有期間が36ヵ月を超える事業を売却した場合のキャピタルゲイン課税の税率は、事業譲渡の対

価が1000万インドルピー以下である場合には、20.6%(教育目的税3%を含む)となり、事業譲渡の対価が1000万イン

ドルピーを超える場合には、22.145%(サーチャージ7.5%、教育目的税3%を含む)となる。保有期間が36ヶ月以下の

事業を売却した場合のキャピタルゲイン課税の税率は、事業譲渡の対価が1000万インドルピー以下である場合には、

30.9%(教育目的税3%を含む)となり、事業譲渡の対価が1000万インドルピーを超える場合には、33.2175%(サー

チャージ7.5%、教育目的税3%を含む)となる。

55 インドにおいては、繰越欠損金の繰越しは原則として8年間のみ認められるが(インド所得税法72条(3)参照)、減価償

却についてはこの繰越欠損金とは異なり、永久に繰り越され損金としての利用が可能となっている(インド所得税法

32条(2)参照)。このような減価償却費を未吸収減価償却費(Unabsorbed depreciation)と呼ぶ。

69

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• 印紙税

印紙税は、1899年インド印紙税法(the Indian Stamp Act, 1899)に加え、譲

渡会社及び譲受会社の本店所在地(登録住所)の州法、並びに事業譲渡によ

り移転される資産の所在する州の州法の適用を受ける可能性があるので、そ

れぞれの規定内容に留意する必要がある。

• 州付加価値税(州VAT)及び中央販売税(CST)

一般に、同一州内において動産が譲渡された場合には、州政府により付加価

値税(Value Added Tax。以下「州VAT」という。)が課され、また、州をま

たいで動産が譲渡された場合、中央政府により中央販売税(Central Sales

Tax。CST)が課される56。しかし、事業譲渡の場合は、個々の動産の譲渡と

いうよりも、不可分一体としての事業そのものの譲渡であるので、裁判例に

おいても、事業譲渡に基づく個々の動産の移転については州VATや中央販売

税(CST)を課さないと判示されている。このため、資産の移転が個別の資

産譲渡か事業譲渡のいずれに基づくものかが重要となる。裁判例においては

、資産譲渡と事業譲渡の区別の判断基準として、①対価が事業全体に対する

ものとなっているか②事業に関連する全ての資産、負債、従業員、ライセン

ス及び契約関係が移転されているか否かが考慮されている。

• 税務当局との間で係争中の場合の税務当局からの承認

税務当局との間で係争中である会社が事業譲渡と実行する場合には注意が必

要である。すなわち、税務当局との間でインド所得税法上の係争手続が開始

してから手続終了後支払を督促する通知が送達されるまでの間に、譲渡会社

が事業譲渡を実行した場合、税額や移転された資産の価額が一定の金額を上

回る場合には、かかる事業譲渡につき税務当局から事前の承認を得ていない

限り、当該事業譲渡は当該係争手続との関係では無効として扱われる57。

56 州VAT及び中央販売税(CST)の具体的な内容については、第二編9.「インドにおける間接税」の項を参照されたい。

57 インド所得税法281条参照

70

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【インド会社法その他の規制】

• 株主総会での承認

1956年インド会社法(Companies Act, 1956。以下「インド会社法」という。

)上、公開会社及びみなし公開会社58 においては、事業譲渡を実行するため

には、株主総会において普通決議により承認を得る必要がある59。

• 従業員の移転

譲渡会社での労働条件と比較して譲受会社での労働条件が低下していないな

ど一定の要件を満たせば、事業譲渡契約に従業員との雇用契約の移転を定め

ることで、事業譲渡に伴い従業員を譲受会社が承継することができる。

• 外国為替規制

FDI規制(外国直接投資規制)により出資規制を受ける事業分野の事業を譲り

受ける場合には、FDI規制に服する60。

2.1.2.2. 資産譲渡(Piecemeal Sale)

資産譲渡は、事業譲渡とは異なり、個別の資産の移転であり、その対価もそれぞ

れの資産と個別に結びついているものである。資産譲渡の場合の税務上その他の

主要な規制における取り扱いは以下のとおりである。

58 公開会社及びみなし公開会社の内容については、第二編11.「インド会社法の概要」の項を参照されたい。

59 インド会社法293条(1)(a)参照

60 事業分野別の出資規制については、第二編3.「外国直接投資(Foreign Direct Investment)規制~事業分野による規制

」の項において解説してあるので、こちらを参照されたい。

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【インド所得税法その他税法上の規制】

• キャピタルゲイン課税61

譲渡資産に対するキャピタルゲイン課税は、償却性資産と非償却性資産とに

分けて考えることができる。

(償却性資産の場合)

償却性資産を譲渡した場合、原則として、譲渡会社にキャピタルゲイン課税

が課されることはない。日本の税務上の取り扱いとは異なり、インドにおい

ては、インド所得税法上、償却性資産については個別の資産ごとに税務上の

簿価が把握されず、資産がグループ別に分けられそれぞれのグループの減価

償却資産簿価が把握されるだけである。あるグループに属する個別の資産が

譲渡された場合、単純にそのグループの減価償却簿価から差し引かれるだけ

で、譲渡時点でキャピタルゲインが認識されることはない62。ただ、例外的に

、グループに属する個別資産を売却したことにより、グループの減価償却簿

価がマイナスになるような場合には、そのマイナス部分については、キャピ

タルゲインとして認識され、課税されることになる。

(非償却性資産の場合)

非償却性資産のキャピタルゲイン課税については、非償却性資産の譲渡価格

から、①資産の取得価格、②資産の改良費、③資産の移転のために要した費

用、を控除した金額に対して課税される。

• 譲受会社における資産譲渡により移転された各資産の税務上の簿価

資産譲渡に伴い各資産の対価として支払われた価格が譲受会社における当該

資産の税務上の簿価となる。

• 繰越欠損金/未吸収減価償却費の承継

単なる資産の譲渡に過ぎないので、繰越欠損金や未吸収減価償却費について

は、譲受会社には承継されないことは当然である。

• 勅許会計士(Chartered accountant)からの証明書

事業譲渡と異なり、譲渡会社は、勅許会計士の証明書を提出する必要はない

61 税率は、事業譲渡の場合と同様である。

62 キャピタルゲインは認識されないが、将来、損金に参入できる減価償却費が減少するので、このことにより課税されて

いることになる。

72

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• 印紙税

事業譲渡の場合と同様である。

• 州付加価値税(州VAT)及び中央販売税(CST)

事業譲渡の場合とは異なり、同一州内において、資産譲渡に伴い動産が譲渡さ

れた場合には、州政府により州VATが課され、また、州をまたいで動産が譲渡

された場合には、中央政府により中央販売税(CST)が課される。

• 税務当局からの承認

事業譲渡と同様である。

【インド会社法その他の規制】

• 株主総会の承認

事業譲渡の場合と異なり、株主総会の承認は不要である。

2.1.2.3. 合併

インド所得税法2条(IB)上、合併とは、「以下の①②の方法により、一つ若しく

は複数の会社が別の会社と合併し当該別の会社に吸収されること、または二つ以上

の会社が合併し新しい会社が設立されること」と定義されている。このインド所得

税法上の合併の定義に該当すれば、日本の税法上の適格合併に相当するような税務

上のメリットが受けられる場合がある。

① 合併消滅会社の全ての資産負債が合併により合併存続会社に承継されること

② 合併消滅会社の4分の3以上の株主が合併により合併存続会社の株主になること

上記の要件を満たした場合、合併における税務上その他の主要な規制における取り

扱いは以下のとおりである。

【インド所得税法その他税法上の規制】

• 合併消滅会社のキャピタルゲイン課税

インド所得税法上、合併存続会社がインド内国会社の場合、合併消滅会社から

合併存続会社への資産の移転に関して、合併消滅会社にキャピタルゲイン課税

が課されることはない63。

63 インド会社法293条(1)(a)参照

73

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• 合併消滅会社の株主のキャピタルゲイン課税

合併に伴い合併消滅会社の株主が合併消滅会社の株式を処分することになる

が、インド所得税法上、以下の要件を満たす場合には、合併消滅会社の株主

には、キャピタルゲイン課税が課されることはない64。

- 合併存続会社の株式が合併消滅会社の株主に合併対価として割り当てら

れること

- 合併存続会社がインド内国会社であること

• 合併存続会社における合併により移転された各資産の税務上の簿価

合併存続会社は合併消滅会社から税務上の簿価で資産を承継することができ

る。なお、合併のあった課税年度に関する当該資産の減価償却費については

、合併消滅会社及び合併存続会社、それぞれが当該資産を使用した日数に応

じて、日割計算で算出する。

• 繰越欠損金/未吸収減価償却費の承継

インド所得税法上、合併消滅会社が「産業事業(industrial undertaking)」65

など一定の事業を営んでいる場合には、以下の条件を満たす限り、合併消滅

会社の繰越欠損金/未吸収減価償却費を合併存続会社に承継することが認め

られる66。

- 合併消滅会社が繰越欠損金/未吸収減価償却費の発生している事業を3

年以上営んでいること

- 合併消滅会社が、合併前2年間の間、承継される固定資産の簿価4分の3

以上を保有し続けていること

- 合併存続会社が、合併から5年以上承継した事業を営むこと

- 合併存続会社が、合併から5年間以上、承継した固定資産の簿価4分の3

以上を保有し続けること

- 合併が真正事業目的であることなどその他一定の条件

• 合併関連費用の償却・損金算入

インド内国法人が合併のために負担した費用については、合併のあった課税

年度から5年間にわたり均等に償却の上、損金算入することができる67。

64 インド所得税法47条(vii)参照。なお、合併消滅会社株主にみなし配当税が課せられることはない。

65 この「産業事業」とは、①物品の製造若しくは加工、②コンピュータソフトウェアの製造、③発電若しくは配電、④通信

サービス、⑤鉱山業、⑥船舶、航空機若しくは鉄道の建設、を指す。

66 インド所得税法72A条(1)及び(2)参照

67 インド所得税法35DD条参照

74

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• 勅許会計士(Chartered accountant )からの証明書

事業譲渡と異なり、譲渡会社は、勅許会計士の証明書を提出する必要はない

• 印紙税

事業譲渡の場合とは異なり、一定の場合には免税等を受けられる場合もある

• 州VAT及び中央販売税(CST)

合併においては、合併計画に基づき、合併消滅会社から合併存続会社に対し

て資産や負債が移転する。合併計画に従って移転する資産が動産であっても

、合併による事業の譲渡は、個別の資産の譲渡ではないため、州VATや中央販

売税(CST)は課されないのが通常である。

• 税務当局からの承認

事業譲渡の場合と異なり、合併の場合は、税務当局からの承認は不要となっ

ている。

【インド会社法その他の規制】

• インド会社法上の規制

合併の法的枠組みについては、インド会社法391条から394条に定めがある。

合併を実行するには、高等裁判所による承認を経る必要があり、このため全

ての手続を終えるのに通常6-8ヶ月はかかるとされている。

• 外国為替規制

高等裁判所により合併計画が承認された場合には、以下の条件など一定の条

件を満たす限り、インド居住者である合併存続会社から非居住者である合併

消滅会社の株主への株式の発行につき、外国投資促進委員会(FIPB)やイン

ド準備銀行(RBI)からの承認を得る必要はない。

75

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- 合併存続会社の株主のうちインド非居住者の持株比率がインド中央政府

またはインド準備銀行(RBI)の承認または規則に定める持株比率を超

えないこと

- 合併存続会社が農業、プランテーション、不動産業または移転可能な開

発権(TDR)の取引業など一定の事業を営んでいないこと

- 合併存続会社が合併前後のインド非居住者株主の持株状況について詳細

に記載した書面を、株式の割り当てから30日以内に、インド準備銀行(

RBI)に提出し、かつ、高等裁判所により承認された合併計画に定めた

条件を遵守する旨宣言した確認書をインド準備銀行(RBI)に提出する

こと

• 証券取引所規制

上場会社が合併を行う場合、証券取引所の事前承認が必要となる。証券取引

所は、合併存続会社が非上場会社である場合には、合併計画書に合併存続会

社が当該証券取引所に上場する旨の定めがない限り、当該合併を承認しない

のが通常なので、注意を要する。

2.1.2.4. 会社分割(Demerger)

インド所得税法2条(19AA)上、会社分割とは、「一つまたは複数の事業をインド

会社法391条から394条の規定に基づく分割計画に従い、以下の①~⑥の方法

により、分割会社から分割承継会社へ移転するもの」と定義されている。こ

のインド所得税法上の会社分割の定義に該当すれば、合併と同様、税務上の

メリットを享受することができる。

① 会社分割によって分割会社が譲渡する事業に関連する資産負債の全てが分割

承継会社によって承継されること

② 会社分割によって分割会社が譲渡する資産負債は、会社分割直前の税務上の

簿価にて、分割承継会社に承継されること

③ 分割承継会社は、会社分割により承継した事業の対価として、適切な割合の

株式を分割会社株主に発行すること(日本の税法上の分割型分割、日本の旧

商法上の人的分割に相当)

④ 会社分割により、分割会社の4分の3以上の株主が分割承継会社の株主になる

こと

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⑤ 承継対象事業は、継続企業(going concern)ベースであること

⑥ 会社分割が、インド所得税法72A条(5)に基づき、インド中央政府が通知した

条件に基づいて行われること

上記の要件を満した場合、会社分割における税務上その他の主要な規制における

取り扱いは以下のとおりである。

【インド所得税法その他税法上の規制】

• 分割会社のキャピタルゲイン課税

インド所得税法上、分割承継会社がインド内国会社の場合、分割会社から分

割承継会社への資産の移転に関して、分割会社にキャピタルゲイン課税が課

されることはない68。

• 分割会社の株主のキャピタルゲイン課税

当該会社分割が上述したインド所得税法上の「会社分割」の定義に該当する

限り、分割会社の株主には、キャピタルゲイン課税が課されることはない69。

• 分割承継会社における会社分割により移転された各資産の税務上の簿価

分割承継会社は分割会社から簿価で資産を承継することができる。なお、会

社分割のあった課税年度に関する当該資産の減価償却費については、分割会

社及び分割承継会社、それぞれが当該資産を使用した日数に応じて、日割計

算で算出する。

• 繰越欠損金/未吸収減価償却費の承継

インド所得税法上、一定の条件を満たせば、分割承継された事業に直接関連

する繰越欠損金/未吸収減価償却費の承継が認められる70。

• 会社分割関連費用の償却・損金算入

インド内国会社が会社分割のために負担した費用については、会社分割のあ

った課税年度から5年間にわたり均等に償却の上、損金算入することができる

71。

• 勅許会計士(Chartered accountant )からの証明書

合併と同様、譲渡会社は、勅許会計士の証明書を提出する必要はない。

68 インド所得税法47条(vib)参照

69 インド所得税法47条(vid)参照

70 インド所得税法72A条(4)及び(5)参照

71 インド所得税法35DD条参照

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• 印紙税

合併の場合と同様である。

• 州VAT及び中央販売税(CST)

会社分割においては、分割計画に基づき、分割会社から分割承継会社に対し

て資産や負債が移転する。分割計画に従って移転する資産が動産であっても

、会社分割による事業の譲渡は、個別の資産の譲渡ではないため、州VATや中

央販売税(CST)は課されないのが通常である。

• 税務当局からの承認

事業譲渡の場合と異なり、会社分割の場合は、税務当局からの承認は不要と

なっている。

【インド会社法その他の規制】

• 会社法上の規制

会社分割の法的枠組みについては、インド会社法391条から394条に定めがあ

る。会社分割を実行するには、高等裁判所による承認を経る必要があり、こ

のため全ての手続を終えるのに通常6-8ヶ月はかかるとされている。

• 外国為替規制

高等裁判所により会社分割計画が承認された場合には、以下の条件など一定

の条件を満たす限り、インド居住者である分割承継会社から非居住者である

分割会社の株主への株式の発行につき、外国投資促進委員会(FIPB)やイン

ド準備銀行(RBI)からの承認を得る必要はない。

- 分割承継会社の株主のうちインド非居住者の持株比率がインド中央政府

またはインド準備銀行(RBI)の承認または規則に定める持株比率を超

えないこと

- 分割承継会社が農業、プランテーション、不動産業または移転可能な開

発権(TDR)の取引業など一定の事業を営んでいないこと

- 分割承継会社が会社分割前後のインド非居住者株主の持株状況について

詳細に記載した書面を、30日以内に、インド準備銀行(RBI)に提出し

、かつ、高等裁判所により承認された会社分割計画に定めた条件を遵守

する旨宣言した確認書を提出すること

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• 証券取引所規制

上場会社が会社分割を行う場合、証券取引所の事前承認が必要となる。証券

取引所は、分割計画書に分割承継会社が当該証券取引所に上場する旨の定め

がない限り、当該会社分割を承認しないのが通常なので、注意を要する。

2.2. 2011年4月施行予定の新インド直接税法案(Direct Tax

Code Bill 2009)下でのM&A

現在、インドにおいては、個人所得税、法人税、最低代替税(Minimum Alternate

Tax。MAT)、配当税(Dividend Distribution Tax。DDT)など様々な直接税が存

在するが、これらは必ずしも同一の法律で規律されていない。そこで、これら直

接税に関する法律を一本化すべく、新インド直接税法案(Direct Tax Code Bill

2009)が検討されており、2011年4月から施行が予定されている。

以下、この新インド直接税法案の下で、M&Aを行う場合、どのようなインパクト

があるのかについて、概説する72。

2.2.1. 事業譲渡

新インド直接税法案においては、事業譲渡から生じる損益は、現行法上のキャピ

タルゲイン(譲渡所得。Capital Gains)ではなく、事業所得(Business Income

)として取り扱われる。

新インド直接税法案上、譲渡会社において、受領した事業譲渡の対価は通常の事

業により生じる事業所得として計上され、事業の純資産額(net worth)相当額は

費用に計上される。事業譲渡の対価は他の事業所得と合算され、事業の純資産額

(net worth)相当額は他の経費と合算されて、差し引き後所得が残る場合には、

その所得に法人税が課税されることになる。ただ、現状、純資産額(net worth)

相当額の具体的な計算方法は明らかにされていない。

なお、繰越欠損金/未吸収減価償却費の移転については現行のインド所得税法と

同様である。

72 なお、株式取得の手法によるM&Aの場合には、株式を処分する場面ではないので、現行インド所得税法と同様、新イ

ンド直接税法案により法人税が課税されることはない。

79

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2.2.2. 資産譲渡

新インド直接税法案の下での資産譲渡の取り扱いは以下のとおりである。

• 全ての資産が事業用資産(Business Asset)と投資用資産(Investment Asset)

とに分けられる。

• 事業用資産の譲渡から生じた所得は事業所得として、投資用資産の譲渡から

生じた所得はキャピタルゲインとして、それぞれ分類され、事業用資産また

は投資用資産の譲渡対価が取得原価を上回る場合には、所定の税率により課

税がなされる。

2.2.3. 合併/会社分割

新インド直接税法案上、合併/会社分割における合併消滅会社/分割会社のキャ

ピタルゲイン課税の免税要件については、現行のインド所得税法と基本的に同様

である。また、合併消滅会社の株主のキャピタルゲイン課税の免税要件について

は、現行のインド所得税法と基本的に同様であるが、新インド直接税法案上、分

割会社の株主のキャピタルゲインの免税要件に関する規定は存在しない。このた

め、キャピタルゲイン課税を免れない分割会社の株主から会社分割への賛成を得

にくくなり、会社分割の実効性が減殺される可能性があり、また分割譲渡される

事業の価格に影響を及ぼす可能性がある点に注意が必要である。

また、新インド直接税法案上、合併存続会社/分割承継会社への繰越欠損金/未

吸収減価償却費の承継が認められるための要件は以下のように変更されている。

① 合併消滅会社/分割会社の資産の簿価の4分の3を5年間保有し続けること

② 合併消滅会社/分割会社の事業を5年間継続すること

③ 合併/会社分割が真正事業目的であること

上記要件につき現行のインド所得税法と比較すると、合併については、現行法上

要件とされている、(1)合併消滅会社が「産業事業」など一定の事業を営んでいる

こと、(2)合併消滅会社が繰越欠損金/未吸収減価償却費の発生している事業を3

年以上営んでいること、(3)合併消滅会社が、合併前2年間の間、承継される固定

資産の簿価4分の3以上を保有し続けていること、の各要件が、新インド直接税法

では、不要とされている。

他方、会社分割については、現行法上は上記①②の要件は不要とされているが、

新インド直接税法の下ではこれが新たに必要とされている。

80

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3. 外国直接投資(Foreign Direct

Investment)規制~事業分野による規制

M&Aにより買収対象会社の株式を取得したり事業を買収する場合や、インド内国

会社をJVパートナーとして合弁会社(JV)を新たにインドに設立する場合には、

インドに対する外国直接投資(Foreign Direct Investment。以下「FDI」という。

)として、インド外国為替管理法上の規制(以下「FDI規制」という。)を受け

る。

インドにおいては、1991年までは非常に保護主義的な経済政策が採用されていた

が、同年以降、外国資本へのインド市場の開放という方向に政策が転換された。

1991年以降、FDIを促進するため、FDI規制は大幅に緩和されてきている。

現状のFDI規制73は、FDIの対象となる事業分野に応じて、その規制態様が異なっ

ている。具体的には、FDI規制の規制態様は、大きく分けて以下の3つに分類され

る。

• FDIが禁止されている事業分野

• FDIが許容されている事業分野

- 自動承認ルート(Automatic Route)

外国投資促進委員会(Foreign Investment Promotion Board。FIPB)な

ど政府当局からの事前承認が必要とされないルート

- 事前承認ルート(Approval Route)

外国投資促進委員会(FIPB)など政府当局からの事前承認が必要とされ

るルート

許容されている事業分野に対するFDI(自動承認ルート及び事前承認ルート)の

概略は以下の図のとおりとなる。

73 FDI規制の内容は、2010年3月31日付2010年サーキュラー1-総合FDI方針(Circular 1 of 2010 - Consolidated FDI

Policy)にまとめられている。このサーキュラーは、インド政府商工省(Ministry of Commerce and Industry。MCI)の

産業政策促進局(Department of Industrial Policy and Promotion。DIPP)により発行され、2010年4月1日より発効して

いる。従前は、プレスノートなどFDI規制についての通達が随時発行され、これらをまとめたものは特に発行されてい

なかったが、このサーキュラーはこれまでのFDI規制に関する通達を全てまとめたものである。今後、3月31日と9月30

日の毎年2回、FDI関連の通達のまとめ版としてサーキュラーが発行される予定である。

81

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許容されている事業分野に対するFDI(自動承認ルート及び事前承認ルート)の

概略は以下の図のとおりとなる。

3.1. FDIが禁止されている事業分野

以下の事業分野については、そもそもFDIが禁止されている74。

• 小売業75

• 原子力事業

• 宝くじ事業

• 賭博業

• チットファンド業76

• ニディ会社77

• 移転可能な開発権(TDR)の取引業

74 2010年3月31日付2010年サーキュラー1-総合FDI方針(Circular 1 of 2010 - Consolidated FDI Policy)及び2009年7月

1日付マスターサーキュラー第2号/2009-10年(Master Circular No.2/2009-10 dated July 01, 2009)参照

75 ただし、単一ブランド製品の小売業については、事前承認ルートにて51%までの投資が許容されている。

76 チットファンドとは、一定数の個人が契約により出資し、この出資金を抽選などにより賞金として分配するファンドをい

う(1982年チットファンド法2条(b)参照)。

77 会社法に基づく金融会社。

82

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• 民間部門による投資に開放されていない活動/分野

• 農業78、プランテーション事業79

• 不動産事業、農場建設事業

3.2. 自動承認ルート(Automatic Route)

上述したFDIが禁止される事業分野以外の事業分野に対する投資のうち、事前承

認ルートに該当する場合(①事前承認ルートでのみFDIを認める旨定められてい

る事業分野6への投資、②自動承認ルートでの投資に関して一定の投資上限が設け

られた事業分野に対する投資、③すでに合弁会社(JV)などを有している分野と

同一分野に対する新たな投資として規制を受ける場合、及び④中小企業向けに保

護されている製品の生産事業に対する24%を超える投資)を除いては、全て自動

承認ルートにより100%の投資が許容される。自動承認ルートに該当するFDIにつ

いては、事前に政府当局から承認を取得する必要はなく、事後に認可業者(ADカ

テゴリー-Ⅰ銀行)を通じて、インド準備銀行(Reserve Bank of India。RBI)に

通知をするだけで足りる。必要とされる具体的な事後通知の内容は、以下のとお

りである。

【株式の発行を受ける場合】

• インド内国会社は、FDIを受けた日(資本金がインド内国会社の銀行口座に振

り込まれた日)から30日以内に、所定のフォーマットにて、認可業者(ADカ

テゴリー-Ⅰ銀行)を通じてインド準備銀行(RBI)にFDIを受けた旨報告する。

• インド内国会社は、資本金の送金を受けた日から180日以内に株式を発行しな

ければならない。資本金の送金を受けた日から180日以内に株式を発行しない

場合には、ただちに外国会社に資金を返還しなければならない81。この規定に

違反した場合、インド外国為替管理法違反として、罰則が科される場合があ

る。

• インド内国会社は、株式を外国の株主に発行した日から30日以内に、所定の

フォーマットにて、認可業者(ADカテゴリー-Ⅰ銀行)を通じてインド準備銀

行(RBI)に、株式を発行した旨報告する。

78 ただし、「管理された状況下での花の栽培、園芸、種子開発、畜産、養魚、農業、野菜やきのこの栽培、その他関連分

野のサービス」については、自動承認ルートにて100%まで投資が許容されている。

79 ただし、「紅茶事業(紅茶農園を含む)」については、自動承認ルートにて100%まで投資が許容されている。

80 2010年3月31日付2010年サーキュラー1-総合FDI方針(Circular 1 of 2010 - Consolidated FDI Policy)のChapter5に定

められている。詳細については、第二編末尾添付資料2を参照されたい。

81 ただし、180日以内に資金を返還しなかったとしても、資金を返還しなかったことにつき正当な理由があるとインド準

備銀行(RBI)が認めた場合には、許容される。

83

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【インド居住者から既存株式を譲り受ける場合】

• インド内国会社(インド居住者)は、株式をインド非居住者に譲渡し、イン

ド非居住者からその対価を受領した日から60日以内に、所定のフォーマット

にて、認可業者(ADカテゴリー-Ⅰ銀行)を通じてインド準備銀行(RBI)に

、株式譲渡の内容について報告する。

3.3. 事前承認ルート(Approval Route)

一定の事業分野に対するFDIには外国投資促進委員会(FIPB)など政府当局の事

前承認が必要とされ、そのようなFDIルートは事前承認ルートと呼ばれている。

事前承認が要求されるFDIは、以下のような場合である。

① 事前承認ルートでのみFDIを認める旨定められている事業分野への投資をす

る場合

② 自動承認ルートでの投資に関して一定の投資上限が設けられた事業分野へ当

該上限を超える投資をする場合

③ 2005年1月12日時点において一定分野においてインド内国会社と合弁会社を

有しているかインド内国会社と技術提携契約や商標使用契約を締結している

場合において、同一分野において新たに別の投資をする場合

④ インドの中小企業の保護のために確保されている一定の製品の製造事業を行

うために24%を超える投資をする場合

事前承認ルートにおけるFDIを行う場合、インド政府商工省(Ministry of

Commerce and Industry。MCI)の産業政策促進局(Department of Industrial

Policy and Promotion。DIPP)の産業支援事務課(Secretariat for Industrial

Assistance。SIA)に対して申請を行い、この際、投資の内容、事業内容、投資元

である外国会社の財務状況について詳細に報告する。また、この申請の際、今回

の申請と同一分野において既存の技術提携または商標使用に関する合意があるか

否かについての報告をする必要もある。

申請内容が当局により検討された後、外国投資促進委員会(FIPB)より承認がな

される。

なお、上述の自動承認ルートで要求されるインド準備銀行(RBI)への報告につ

いては、事前承認ルートで投資する場合も同様に必要となる。

以下、上記①から④の事前承認ルートによる投資の概要について解説する。

84

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3.3.1. 事前承認ルートでのみFDIを認める旨定められている事業分野への投資

、及び自動承認ルートでの投資に関して一定の投資上限が設けられた事

業分野への当該上限を超える投資

一定の事業分野に対する投資については、一定の投資上限の範囲内で、事前承認

ルートによってのみ許される。事前承認ルートが要求される事業分野及びその投

資上限の詳細については、第二編末尾添付資料2を参照されたい。

なお、上述のとおり、自動承認ルートについても一定の事業分野には投資上限が

定められており、この詳細についても第二編末尾添付資料2を参照されたい。

3.3.2. インドの中小企業の保護のために確保されている一定の製品の製造事業

への24%超の投資

一定の事業分野については、インドの中小企業を保護するため、一定の製品の製

造事業へ24%を超えて投資する場合は、事前承認ルートによることを要する。制

限を受ける具体的な製品については、第二編末尾添付資3を参照されたい。

3.3.3. 既存の合弁会社等がある場合の同一分野への投資

2005年1月12日時点において、特定の分野でインドパートナーとの間で既存の合

弁会社(JV)を保有しているか、または技術提携契約または商標使用契約を締結

をしている外国会社が、インドにおいて同一分野において新たな投資をする場合

、かかる投資が認められるためには外国投資促進委員会(FIPB)の事前承認が必

要とされている。また、この外国投資促進委員会(FIPB)の事前承認手続におい

て、当該外国会社及びインドパートナーの双方が外国会社による新投資が既存の

合弁会社や提携等に損害を与えるものでないことを、外国投資促進委員会(FIPB

)に対して証明しなければならない。

85

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ただし、以下のような場合には、上記の外国投資促進委員会(FIPB)の事前承認

規制は適用されない。

• インド証券取引委員会(SEBI)に登録されているベンチャーキャピタルファ

ンドによる投資である場合

• 外国会社またはインドパートナーのいずれかの合弁会社(JV)への出資割合

が3%未満である場合

• 既存の合弁会社(JV)または提携が休眠または破綻状態にある場合

• 新たに投資しようする事業分野がIT分野等である場合

なお、この規制の適用を受ける既存の合弁会社(JV)や技術提携契約/商標使用

契約は、2005年1月12日時点に存在しているものをいう。したがって、2005年1

月12日以前に合弁会社(JV)を設立したり、技術提携契約/商標使用契約を締結

して、かつ、かかる合弁会社(JV)や技術提携契約/商標使用契約が2005年1月

12日時点に存続している場合に限り、同一分野における新規の投資について外国

投資促進委員会(FIPB)の事前承認が必要となる。

86

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4. キャピタル・ストラクチャ(資本構成)

本項においては、外国会社がインド内国会社に投資を実行する場合の投資方法に

ついて解説する。この外国会社による投資方法は、インド内国会社の側から見れ

ば、インド内国会社がいかなる方法で資金を調達するかというインド内国会社の

資本構成(キャピタル・ストラクチャ)と同じ意味を持つ。

インド内国会社への投資方法(インド内国会社の資金調達方法)としては、以下

の方法がある。

• 資本株式(Equity share)

• 優先株式(Preference share)

• 社債(Debentures)

• 借入(Debt)(ECB(External Commercial Borrowings)としての借入れ(海

外からの借入れ)とインド国内での借入れの両方を含む)

以下、それぞれについて解説する。

4.1. 資本株式(Equity Share)

4.1.1. インド会社法上の規制

インド会社法上、①資本株式(Equity Share)と②優先株式(Preference Share

)の2種類の株式の発行が認められる。さらに、①の資本株式については、通常

の議決権が付与されたものと、配当等について異なる議決権が付与されたものの

2種類が存在する。

インド会社法上、会社は必ず資本株式を発行して一定以上の資本金を確保する必

要がある。非公開会社の最低資本金は、10万インドルピーであり82、公開会社の

最低資本金は、50万インドルピーである。

また、インド会社法上、会社は、基本定款(Memorandum of Association。MOA

)において、資本株式と優先株式とに分けてそれぞれ授権資本額83(Authorized

Capital)を明示する必要がある。この授権資本額に応じて、会社登記局(

Registrar of Company。ROC)に収める会社登録手数料の金額が決まる。

82 ただし、商号に一定の文言を使用する場合には、別途10万インドルピー以上の最低資本金が必要とされる。例えば、会

社の商号に「India」という文言を使用する場合には、50万インドルピーが最低資本金となる。

83 授権資本額(Authorized Capital)とは、株主総会決議を経ることなく取締役会決議により株式を発行することのできる

枠(上限)のことをいう。他方、払込資本額(Paid-up Capital)とは、実際に株式が発行されて払い込まれた資本金の

金額のことをいう。

87

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4.1.2. 外国為替規制

インド内国会社の資本株式を取得することによってインド内国会社に投資する場

合は、FDIに該当するため、上記のFDI規制に服する。

また、資本株式を発行する場合には、インド外国為替管理法上、発行価額規制に

も服する。詳細については、第二編 2.「インドにおけるM&A/JVと各種規制」の

中の 2.1.1.2「外国為替規制」の項を参照されたい。

4.2. 優先株式(Preference Share)

4.2.1. インド会社法上の規制

インド内国会社は、附属定款(Articles of Association。AOA)に定めがあれば、

既存の株主または株主以外の者に、優先株式を発行することができる。インド内

国会社の発行できる優先株式は必ず償還可能なものでなければならず、償還期限

は発行から20年を越えてはならない(ただし、資本株式に転換されるものは除く

)。資本株式に適用されるインド会社法の規定は、基本的に全て優先株式にも適

用される。

優先株式固有の特性としては以下のものがある。

• 優先株式は、配当や償還の際に、資本株式に優先する。

• 優先株式には、①ある年に配当が行われたなかった場合に翌年に繰り越され

、配当が累積していく累積型のものと、累積されない非累積型とがある。ま

た、②資本株式へ転換が可能なものと転換が認められないものとがある。

• 優先株式は、配当可能利益または新株発行により得た資金の中から償還する

ことができる。

• 資本株式への転換または償還までの期間は、インド会社法に定められた最長

期間である20年か、優先株式発行の際に定められた期間の、いずれか短い方

である。

• 優先株式が配当可能利益の中から償還された場合には、同額を損益勘定(

profit or loss account)または通常の準備金(general reserve)から資本償還

準備金(Capital Redemption Reserve)と呼ばれる特別準備金(special

reserve)に移してこれを確保する必要がある。

88

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4.2.2. 外国為替規制

全部強制転換優先株式(Compulsorily and Fully Convertible Preference Share)

による投資を行った場合、かかる投資は、資本株式と同様に、FDIとして扱われ

(ECBとしての借入れとしては扱われない)、上記のFDI規制(事業分野別の出

資規制、インド準備銀行(RBI)への報告義務等)に服する。

他方、全部強制転換優先株式以外の優先株式(非転換優先株式、選択的転換優先

株式または一部転換優先株式)による投資は、ECBとしての借入れとして扱われ

(FDIとしては扱われない)、ECB関連規制に服する。したがって、後述する

ECBとしての借入れに課せられるインド準備銀行(RBI)への報告義務や借入れ

金額の上限規制などについては、全部強制転換優先株式以外の優先株式にも適用

されることになる。

4.3. 社債(Debentures)

4.3.1. インド会社法上の規制

社債には、通常の社債の他、全部または一部につき資本株式に転換するオプショ

ンを付与された選択的転換社債、また全部または一部につき資本株式に強制的に

転換される強制的転換社債がある。

なお、社債は、貸主との間で特別の合意がない限り、会社の事業や資産が担保権

の負担を負うことはない。

4.3.2. 外国為替規制

外国為替規則上、全部強制的転換社債(Compulsorily and Fully Convertible

Debentures)は、資本株式と同様、FDIとして扱われ(ECBとしての借入れとし

ては扱われない)、上記のFDI規制に服する。

他方、全部強制的転換社債以外の社債は、ECBとしての借入れとして扱われ、

ECB関連規制に服することとなる。

89

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4.4. 借入(Debt)

借入れには、①海外からの借入れ(ECB)と②インド国内での借入れの2種類が

存在するので、以下分けて解説する。

4.4.1. 海外からの借入れ(External Commercial Borrowings。ECB)

外国会社は、インド内国会社に金銭を貸し付ける方法により、インド内国会社に

投資をすることができる。このようなインド内国会社による海外からの借入れは

ECB(External Commercial Borrowings)と呼ばれ、外国為替規制等の規制に服

するので、以下解説する。

4.4.1.1. 外国為替規制

海外からの借入れ(ECB)については、インド準備銀行(RBI)から発行されて

いるECBガイドラインに従う必要がある。インド内国会社は、ECBガイドライン

上の自動承認ルートにより、ECBにより1年間で最大5億米ドル(ないしは他の通

貨において5億米ドルに相当する金額)まで資金を調達することができる84。

• ECB貸主としての資格

外国会社が、株主として、インド内国会社に対してECBによる貸付を実行す

る場合は、一定の割合の株式保有が要求される。すなわち、①500万米ドルま

でのECBによる貸付を実行する場合には、25%以上の株式による直接出資を

していることが必要となり、②500万米ドルを超えるECBによる貸付を実行す

る場合には、25%以上の株式による直接出資をし、かつ借入と株式出資の割

合が4:1を超えていないこと(すなわち、ECBの金額が外国会社による株式に

よる出資金額の4倍を超えないこと)が必要となる。

このように、M&AやJV設立により外国会社がインド内国会社に投資をした後

に、当該インド内国会社が株主である外国会社から追加的に資金を調達する

場合には、新株の発行という手法のみならず、ECBによる借入れという手法

も利用可能である。ただ、後述するように、利息の上限や資金の用途に制限

があるので必ずしも資金調達手段として使い勝手のよいものではない。

• 借入金額の上限

年間2000万米ドルまでのECBによる借入れは、平均満期が3年以上であること

を要する。他方、年間2000万米ドル超5億USドルまでのECBによる借入れは

、平均満期が5年以上であることを要する。

84 事前承認ルートによることで、追加で250万米ドルを調達することが可能である。また、ここでの「自動承認ルート」

や「事前承認ルート」はECBとしてのものであり、上述のFDIにおける「自動承認ルート」や「事前承認ルート」とは

別のものである。

90

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• 利息の上限

インド準備銀行(RBI)の通達85によると、インド内国会社が海外から借入れ

を受けた場合の利息の支払に関して、2010年1月1日より、事前承認ルートに

おける支払可能な利息(費用含む)の上限の緩和を撤廃した。これにより、

金銭消費貸借契約が2010年1月1日以降に締結された場合、ECBの事前承認ル

ートにおける支払可能な利息(費用含む)の上限は以下のとおりとなってい

る。

*ロンドン銀行間取引金利(London Inter-Bank Offered Rates (“LIBOR”))

• 用途の制限

ECBによる借入により調達した資金の用途には制限がある。具体的には、

ECBによる借入れは、インド国内の産業部門、インフラ部門、ホテル、病院

、ソフトウエアなどの特定のサービス部門への投資(資本財の輸入、新しい

プロジェクト、既存の生産設備の近代化ないし拡大など)をする目的におい

てのみ許容される。運転資金、一般の事業目的、既存の国内での借入の返済

などのためにECBによる借入金を使用することは許されない。

• 期限前弁済

5億米ドルまでのECBの期限前弁済については、所定の規定に従うことで、イ

ンド準備銀行(RBI)の事前承認なしにこれをなすことが可能である。

• ECBを実行する場合の手続規制

インド内国会社がECBにより資金を調達する場合、外国為替ガイドラインに

より、以下の手続に従う必要がある。

インド内国会社は、フォーム83をインド準備銀行(RBI)に提出することによ

り、ローン・レジストレーション番号を取得しなければならない。フォーム

83の具体的な提出手順としては、①会社秘書役(Company Secretary)また

は勅許会計士(Chartered accountant)により承認されたフォーム83正副2通

を認可業者に提出し、②当該認可業者が、ローン・レジストレーション番号

の配布の対象となる金銭消費貸借契約が締結された日から7日以内に、ムンバ

イにあるインド準備銀行(RBI)の統計情報システム局(Department of

Statistis and Information Systems。DSIM)の収支統計課(Balance of

Payments Statistics Division)に写しを転送する。

平均満期期間 最高利率(費用込み)

3年から5年 6 Month LIBOR* + 3%

5年以上 6 Month LIBOR* + 5%

85 2009年12月9日付A.P. (DIR Series) Circular No. 19 参照

91

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また、インド内国会社は、インド準備銀行(RBI)の統計情報システム局(

DSIM)からローン・レジストレーション番号を取得した後でなければ、ロー

ンの実行を受けることができない。

また、インド内国会社は、毎月、翌月7営業日までに、認可業者から承認され

たECB-2申告書がインド準備銀行(RBI)の統計情報システム局(DSIM)に

届くよう提出しなければならない。

4.4.1.2. 税務上の規制

インド内国会社がECBによる借入れに関する利息を外国会社(貸主)に支払う場

合、インドにおいて、利息による外国会社(貸主)の所得について外国会社(貸

主)に法人税86が課税されることになる。この外国会社(貸主)の法人税はイン

ド内国会社(借主)が源泉徴収し、インド国税当局に納付することになる。

この支払利息については、①インド内国会社(借主)が支払った利息がインド内

国会社の通常の事業のために当該課税年度に負担した費用と呼べる性質のもので

あり、かつ②支払利息に関する外国会社(貸主)の法人税がインド内国会社によ

り源泉徴収されインド国税当局に納付された場合には、かかる支払利息はインド

内国会社(借主)の損金に算入することができる87。

4.4.2. インド国内での借入れ

インド内国会社は、インド国内の金融機関から借入れにより資金を調達すること

ももちろん可能である。

なお、インド国内の借入れに関する支払利息の損金算入可能性についても、上記

ECBに関する支払利息の場合と同様に取り扱われる。

86 税率については、第二編8.3「まとめ」の税率一覧表の「利息」の欄を参照されたい。

87 インド所得税法36条(1)(iii)、40条(a)(i)参照

92

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5. 投下資本を回収するため資金を外国会社

へ送金する際の問題点

本項においては、外国会社がM&AやJVの設立等によりインド内国会社への投資を

実行した後、かかる投資資金を回収すべく資金を外国会社に送還する方法につい

て、解説することとする。

投資資金の回収の具体的な方法としては、以下の方法がある。

• 配当の支払

• 利息の支払(外国会社からの貸付がある場合)

• 株式の償還

5.1. 配当

5.1.1. 外国為替規制

外国為替規則上、配当税(Dividend Distribution Tax。DDT。実効税率:16.609%

)を納税済みである旨の送金人からの証明書及び勅許会計士(Chartered

accountant )からの証明書が認可業者(銀行)に提出され、配当税(DDT)の支

払がなされたことが明らかになれば、配当を自由に外国会社株主に送金すること

ができる。

5.1.2. 税務上の規制

インド内国会社は、配当を行う際、配当税(DDT。実効税率:16.609%)を支払

わなければならない。

また、インド所得税法上、配当による外国会社株主の所得については、インドに

おいては法人税の課税対象にならない。他方、外国会社株主が日本法人である場

合の日本での課税については、日本法人がインド内国会社の25%以上の株式等を

、配当等の支払義務が確定する日前6ヶ月以上引き続き直接保有している場合には

、外国子会社配当等益金不算入制度により、配当の95%が益金不算入とされる88。

なお、インド所得税法上、インド内国会社が配当を行う際に支払った配当税及び

配当そのものの損金算入は認められない。

88 日本の法人税法22条の2参照

93

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5.1.3. インド会社法上の規制

配当の宣言をする前に、インド内国会社は、配当可能利益のうち所定の割合を準

備金に組み込まなければならない89。準備金への組み込みが要求される配当可能

利益の割合は以下のとおりである。

上記に従い配当可能利益の一部が適切に準備金に組み込まれた後にはじめて配当

を実行することができる。

5.2. 利息

5.2.1. 外国為替上の規制

ECBによる借入れに基づく利息の支払については、インド外国為替管理法上、利

息に一定の上限が付されている。詳しくは、第二編4.「資本構成(キャピタル・

ストラクチャ)」の4.4「借入(Debt)」の4.4.1.「海外からの借入れ(External

Commercial Borrowings。ECB)」の項を参照されたい。

5.2.2. 税務上の規制

インド内国会社が外国会社からECBにより借入れを受けており、外国会社に対し

てその利息を支払う場合、インド内国会社は利息の支払いをなす前に外国会社の

利息に対する法人税90を源泉徴収しなければならない。

他方、外国会社株主が日本法人である場合の日本での課税については、直接納付

外国法人税額控除により、インド税務当局に納付した外国法人税額を、日本の実

効税率で課税した場合の税額を限度として法人税額等から控除される。

なお、4.4.1.2.「税務上の規制」の項で述べたとおり、一定の場合の要件を満たせ

ば、インド内国会社は、支払利息を損金に算入することができる。

払込資本金額のうち配当の占める割合

準備金への組み込みが要求される配当可能利益の割合

10%以下 0

10% 超 12.5%以下 2.5%

12.5%超15%以下 5%

15%超20%以下 7.5%

20%超 10%

89 1975年インド会社(利益の準備金への移転)規則 (The Companies (Transfer of Profits to Reserves) Rules, 1975)参照

90 税率については、第二編8.3「まとめ」の税率一覧表の「利息」の欄を参照されたい。

94

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5.3. 株式の償還

インド会社法上、①会社による自己株式の買い取り、または②高等裁判所から許

可を得た上での減資(資本減少)、の2つの場合を除いては、会社存続中に資本

株式を償還することはできない。このため、インド内国会社に資本株式として投

資された資金は、通常、会社が清算されるまでの間償還されることはない。

以下この2つの株式の償還手段について、概要を説明する。

5.3.1. 会社による自己株式の取得

5.3.1.1. 外国為替規制

外国会社(インド非居住者)からインド内国会社(インド居住者)への株式の譲

渡を伴うことから、譲渡価格の規制に服する。

譲渡価格規制の詳細については、第二編7.1.1.1.「外国会社(インド非居住者)か

らインド居住者への株式譲渡」の項を参照されたい。

5.3.1.2. 税務上の規制

インド所得税法91上、株式の取得原価と自己株式の取得の際に株主が取得した対

価との差額は、キャピタル・ゲインとして、株主に課税される92。キャピタルゲ

イン課税が発生する場合には、インド内国会社はこれを源泉徴収しなければなら

ない。なお、インド所得税法上、自己株式の取得により株主が取得した対価につ

いては、みなし配当課税の対象にはならないとされている。

他方、外国会社株主が日本法人である場合の自己株式の取得によるキャピタルゲ

インの日本での課税については、直接納付外国法人税額控除により、インド税務

当局に納付した外国法人税額を、日本の実効税率で課税した場合の税額を限度と

して法人税額等から控除される93。

91 インド所得税法46A条参照

92 税率については、第二編8.3「まとめ」の税率一覧表の「インド内国会社の株式を売却することにより生じるキャピタル

ゲイン」の欄を参照されたい。 

93 日本の法人税法69条1項参照

95

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5.3.1.3. 会社法上の規制

インド内国会社は、インド会社法に基づき自己株式を買い取ることができる94。

具体的な要件としては以下のとおりである。

• ①任意準備金(Free Reserves)、②証券プレミアム勘定(Securities

Premium Account)、③株式その他証券から生じた利益(Proceed of any

shares/other specified securities)、のいずれかの資金を用いること

• 任意準備金及び払込資本金の合計の25%の範囲内でのみ資本株式を買い取る

ことができる。

• 1年間で行える自己株式の取得の上限は、払込資本金の25%とされている。

• 自己株式の取得は、自己株式の取得後、会社の負担する負債の割合が払込資

本金及び任意準備金の2倍を超えない場合に限り、これをなすことができる。

• 自己株式の取得を行った後6ヶ月以内においては、同種の株式の発行が禁じら

れる。

• 自己株式の取得を行った場合、7日以内に買い戻された株式に関する株券は物

理的に破壊される必要がある。

5.3.2. 減資(資本減少)

インド内国会社が自己株式の取得の要件を満たさず、これを実行できない場合に

は、インド会社法の規定に従い、裁判所の手続を経て資本減少をすることにより

、資本金を株主に償還することができる。

5.3.2.1. 外国為替規制

外国会社(インド非居住者)からインド内国会社(インド居住者)への株式の譲

渡を伴うことから、譲渡価格の規制に服する。

譲渡価格規制の詳細については、第二編7.1.1.1.「外国会社(インド非居住者)か

らインド居住者への株式譲渡」の項を参照されたい。

94 インド会社法77A条参照

96

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5.3.2.2. 税務上の規制

資本減少に基づく資本金の償還の場合で、配当利益がある場合には、配当可能利

益の限度で、みなし配当として配当税(実効税率:16.609%)が課される。また

、株主の得た超過対価(資本減少による償還により株主が得た金額-株式の取得

原価-みなし配当相当額)については、キャピタルゲインとして、外国会社株主

に対して課税対象される95。キャピタルゲイン課税が発生する場合には、インド

内国会社はこれを源泉徴収しなければならない。

他方、外国会社株主が日本法人である場合の資本減少によるキャピタルゲインの

日本での課税については、直接納付外国法人税額控除により、インド税務当局に

納付した外国法人税額を、日本の実効税率で課税した場合の税額を限度として法

人税額等から控除される。

5.3.2.3. 会社法上の規制

インド会社法上の一定の要件を満たすことにより、外国会社株主は、減資により

払込資本金の払い戻しを受けることができる。具体的な要件としては、①附属定

款(AOA)に減資をなすことができる定めがあること、②株主総会の特別決議を

経ること、③裁判所の許可を得ること96、が必要である97。

5.4. まとめ

【外国為替上の規制の比較】

配当 利息 自己株式の取得 資本減少

配当の送金前に配

当税を支払済みで

あることの証明書

を認可業者に提出

する必要がある。

ECBとしての規制を受ける。

価額規制に服する。

第二編7.1.1.1.「外国

会社(インド非居住

者)からインド居住

者への株式譲渡」の

項参照。

価額規制に服する。

第二編7.1.1.1.「外国

会社(インド非居住

者)からインド居住

者への株式譲渡」の

項参照。

95 税率については、第二編8.3「まとめ」の税率一覧表の「インド内国会社の株式を売却することにより生じるキャピタル

ゲイン」の欄を参照されたい。

96 減資により払込資本金の払い戻しを受ける場合には、債権者は減資について異議を述べることができ、原則として、有

効な債権(無担保)を有する債権者が同意しない限り、裁判所は減資 を許可しない(インド会社法101条、102条参照)。

97 インド会社法101条~105条参照

97

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【税務上の規制の比較】

配当 受取利息 自己株式の取得 資本減少

インド内国会社(

現地法人)に対す

る課税

配当税が課される。 外国会社の利息に

対する法人税を源

泉徴収する必要が

ある。

• みなし配当税は課

税されない。

• キャピタルゲイン

課税が発生する場

合は源泉徴収義務

あり。

• 配当可能利益がある

場合には、その限度

でみなし配当税が課

される。

• キャピタルゲイン課

税が発生する場合は

源泉徴収義務あり。

インドでの外国株

主(日本の親会社

等)に対する課税

なし 法人税98が課され

る(インド内国法

人により源泉徴収

される)。

一定の場合には、法

人税99(キャピタルゲ

イン課税)が課され

る(インド内国法人

により源泉徴収され

る)。

一定の場合には、法人税100(キャピタルゲイン課

税)が課される(インド

内国法人により源泉徴収

される)。

外国株主が日本法

人である場合の日

本での課税

一定の場合には、外国子会社配当等益金不算入制度により、配当の95%が益金不算入とされる。

直接納付外国法人

税額控除により、

インド税務当局に

納付した外国法人

税額を、日本の実

効税率で課税した

場合の税額を限度

として法人税額等

から控除される。

直接納付外国法人税

額控除により、イン

ド税務当局に納付し

た外国法人税額を、

日本の実効税率で課

税した場合の税額を

限度として法人税額

等から控除される。

直接納付外国法人税額控

除により、インド税務当

局に納付した外国法人税

額を、日本の実効税率で

課税した場合の税額を限

度として法人税額等から

控除される。

損金算入可能性 配当及び配当税ともに損金算入不可。

一定の要件を満た

せば、損金算入可

能。

NA NA

98 税率については、第二編8.3「まとめ」の税率一覧表の「利息」の欄を参照されたい

99 税率については、第二編8.3「まとめ」の税率一覧表の「インド内国会社の株式を売却することにより生じるキャピタ

ルゲイン」の欄を参照されたい。

100 税率については、第二編8.3「まとめ」の税率一覧表の「インド内国会社の株式を売却することにより生じるキャピタ

ルゲイン」の欄を参照されたい。

98

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6. 通常取引により外国会社へ送金する場合

の問題点

本項においては、外国会社がM&AやJVの設立等によりインド内国会社への投資を

実行した後、外国会社とインド内国会社との間の通常の取引に基づき、インド内

国会社が外国会社へ取引の対価として金銭を送金する場合の問題点について解説

する。

6.1. 技術移転/商標・ブランドの使用許諾

6.1.1. 外国為替上の規制

近時、外国会社との技術提携に関する新しい指針により、外国への資金送還の規

制の撤廃が公表され、技術移転の対価としてのフィー/ロイヤルティの支払、商

標やブランドの使用のフィー/ロイヤルティの支払については、何らの規制なく

自由にこれを行うことができることとなった101。

6.1.2. 税務上の規制

インド内国会社が外国会社から技術移転等を受けてフィーを支払う場合、インド

内国会社はフィーの支払いをなす前に外国会社のフィーに対する法人税102を源泉

徴収しなければならない。

他方、外国会社が日本法人である場合の日本での課税については、直接納付外国

法人税額控除により、インド税務当局に納付した外国法人税額を、日本の実効税

率で課税した場合の税額を限度として法人税額等から控除される。

また、この技術移転に対するフィーの支払については、①インド内国会社が支払

ったフィーがインド内国会社の通常の事業のために当該課税年度に負担した費用

と呼べる性質のものであり、かつ②かかるフィーに関する外国会社の法人税がイ

ンド内国会社により源泉徴収されインド国税当局に納付された場合には、かかる

支払フィーはインド内国会社の損金に算入することができる。

101 2009年12月16日付プレスノート8号(Press Note No.8 (2009 Series))参照。なお、インド外国為替管理法に定める技

術移転に関する外国為替規則が遵守されているか否かについて監視するため、産業政策促進局(Department of

Industrial Policy and Promotion。DIPP)、経済省(Department of Economic Affairs。DEA)及びインド準備銀行(RBI

)間の協議の上、本通達発行後3ヵ月後に新体制が明確になる予定である。

102 税率については、第二編8.3「まとめ」の税率一覧表の「FTS」の欄を参照されたい。

99

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6.2. コンサルタント・サービス

6.2.1. 外国為替上の規制

1つのプロジェクトあたり100万米ドル(特定のインフラプロジェクトについては

、1000万米ドル)までの海外送金については、インド準備銀行(RBI)の事前承

認なしに、これをなすことができる。ただ、送金者のEEFC口座(Exchange

Earner’s Foreign Currency account)から送金をする場合には、かかる上限を超

える海外送金であっても、インド準備銀行(RBI)の事前承認は不要である。

6.2.2. 税務上の規制

基本的に、技術移転/商標・ブランドの使用許諾の場合と同様である。

インド内国会社が外国会社からコンサルタント・サービスを受けてフィーを支払

う場合、インド内国会社はフィーの支払いをなす前に外国会社のフィーに対する

法人税103を源泉徴収しなければならない。

他方、外国会社が日本法人である場合の日本での課税については、直接納付外国

法人税額控除により、インド税務当局に納付した外国法人税額を、日本の実効税

率で課税した場合の税額を限度として法人税額等から控除される。

また、このコンサルタント・サービスに対するフィーの支払については、①イン

ド内国会社が支払ったフィーがインド内国会社の通常の事業のために当該課税年

度に負担した費用と呼べる性質のものであり、かつ②かかるフィーに関する外国

会社の法人税がインド内国会社により源泉徴収されインド国税当局に納付された

場合には、かかる支払フィーはインド内国会社の損金に算入することができる。

6.3. 物品の輸入

6.3.1. 外国為替上の規制

通常の商取引上の物品の輸入に関連する支払については、直接、銀行に必要書類

を提出することで、自由に海外送金を行うことができる。インド外国為替管理法

上、決済期間、利率、前払い等に関する定めがある。

6.3.2. 税務上の規制

輸入物品の種類に従い、関税が課される。詳細については、第二編9.1「関税(

Custom Duty)」の項を参照されたい。

103 税率については、第二編8.3「まとめ」の税率一覧表の「FTS」の欄を参照されたい。 

100

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6.4. 売掛金と買掛金の相殺に関する外国為替上の規制

海外取引先に対する売掛金と買掛金の相殺については、原則禁止されている。イ

ンドから海外に物品ないしサービスを輸出する場合、インドの輸出者には輸出に

よる対価を現実に取得する義務がある。また、海外から物品ないしサービスを輸

入する場合、インドの輸入者には輸入品や輸入サービスの対価を現実に支払う義

務がある。

ただ、例外的に、特別経済区域(Special Economic Zone。SEZ)で事業を営む場

合には、かかる規制が緩和される場合がある。また、インド準備銀行(RBI)が

産業の特殊性などの観点から相殺を個別に認める場合もある。

6.5. 当座勘定取引に関する外国為替法上の規制

外国会社株主とインド内国会社との間の通常の取引に基づき、インド内国会社が

外国会社へ取引の対価として金銭を送金する場合、当該金銭の移動はインド外国

為替管理法上の当座勘定取引(current account transaction)に該当する。外国為

替規則上、以下のような当座取引勘定取引に該当する資金の外国会社への送金に

ついては、以下に示す関係当局から事前承認を得る必要がある。

上記2及び3の取引のうち一定の取引については、送金者のEEFC口座(Exchange

Earner’s Foreign Currency account)内の外国為替資金の中から送金される場合

には事前承認が不要とされている。

上記以外の当座勘定取引に基づく送金については、当局から事前承認を得る必要

ない。

当座勘定取引該当の取引内容 事前承認を与える当局

1 禁止される取引 なし

2 中央政府の事前承認が必要な取引 取引を管轄する関係省庁

3 インド準備銀行(RBI)の事前承認が必要な取引 インド準備銀行(RBI)

101

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6.6. 移転価格税制上の問題

上記のような外国会社と投資先のインド内国会社間の取引については、国外関連

者との取引として、移転価格税制上の問題が生じうるので注意を要する。インド

の移転価格税制については、第二編10.「インドにおける移転価格税制(Transfer

Pricing (“TP”) Regulation)」の項において解説しているので参照されたい。

6.7. まとめ

【外国為替上の規制の比較】

【税務上の規制の比較】

FTS(Fee forTechnical Service)

コンサルタント・サービス 物品の輸入

• ロイヤルティ送金

の自由化。

• 反対債権との相殺

は原則禁止。

• 1プロジェクトあたり100万米ドル

(特定のインフラプロジェクトに

ついては、1000万米ドル)までの

海外送金については、インド準備

銀行(RBI)の事前承認不要。

• 反対債権との相殺は原則禁止

• 送金は原則自由。

• 反対債権との相殺

は原則禁止

FTS(Fee for TechnicalService)

コンサルタント・サービス

物品の輸入

インド内国会

社(現地法人

)に対する課

フィーの支払前に外国会

社のフィーに対する法人

税を源泉徴収する必要が

ある。

フィーの支払前に外国会

社のフィーに対する法人

税を源泉徴収する必要が

ある。

関税が課税さ

れる場合があ

る。

インドでの外

国株主(日本

の親会社等)

に対する課税

法人税104が課される(イ

ンド内国法人により源泉

徴収される)。

法人税105が課される(イ

ンド内国法人により源泉

徴収される)。

原則として、

法人税は課税

されない。

外国株主が日

本法人である

場合の日本で

の課税

直接納付外国法人税額控

除により、インド税務当

局に納付した外国法人税

額を、日本の実効税率で

課税した場合の税額を限

度として法人税額等から

控除される。

直接納付外国法人税額控

除により、インド税務当

局に納付した外国法人税

額を、日本の実効税率で

課税した場合の税額を限

度として法人税額等から

控除される。

なし

損金算入可能

一定の要件を満たせば、

損金算入可。

一定の要件を満たせば、

損金算入可。

一定の要件を

満たせば、損

金算入可。

104 税率については、第二編8.3「まとめ」の税率一覧表の「FTS」の欄を参照されたい。

105 税率については、第二編8.3「まとめ」の税率一覧表の「FTS」の欄を参照されたい。 

102

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7. 出口戦略(エグジット・ストラテジー)

本項においては、外国会社がM&AやJVの設立等によりインド内国会社への投資を

実行した後、外国会社が当該投資から完全に撤退する場合の問題点について解説

する。

外国会社が投資から撤退する場合の具体的な出口戦略としては、以下のような選

択肢がある。

• 株式の売却

• 会社の清算

• 事業譲渡等による事業の売却

7.1. 株式の売却

7.1.1. 外国為替規制

外国会社がインド内国会社への投資を株式売却の手法により撤退させる場合、外

国会社(インド非居住者)が当該株式を①インド居住者に売却する場合と②外国

会社(インド非居住者)へ売却する場合とで、外国為替規制が異なる。そこで、

以下場合を分けて説明する。

7.1.1.1. 外国会社(インド非居住者)からインド居住者への株式譲渡

インド非居住者からインド居住者に対して売買により譲渡される株式の価格は、

インド居住者からインド非居住者に対して株式譲渡する場合の最低価格(この価

格については、第二編2.1.1.2「外国為替規制」の項を参照されたい。)を超えて

はならない106。

106 インド準備銀行の通達である2010年5月4日付RBI/2009-10/445 A.P.(DIR Series) Circular No.49参照

103

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7.1.1.2. 外国会社(インド非居住者)からインド非居住者への株式譲渡

外国会社(インド非居住者)からインド非居住者への株式売買については、具体

的なガイドラインはなく、特段の規制はない。

ただし、インド非居住者である株式譲受人が株式取得によりFDI規制に服するこ

とになるので、この点には注意が必要である。また、日本の親会社が他のグルー

プ会社に株式を譲渡する場合は、移転価格税制の規制にも服することになるので

注意を要する。

7.1.2. 税務上の規制

インド所得税法上、株式の譲渡会社が株式譲渡により取得した対価が株式の取得

原価を上回る場合には、株式の譲渡会社にキャピタル・ゲイン課税107がなされる

。キャピタルゲイン課税が発生する場合には、株式の譲受会社はこれを源泉徴収

しなければならない。

他方、株式の譲渡会社が日本法人である場合のキャピタルゲインの日本での課税

については、直接納付外国法人税額控除により、インド税務当局に納付した外国

法人税額を、日本の実効税率で課税した場合の税額を限度として法人税額等から

控除される。

また、証券取引所を通じて上場会社の株式を売却する場合には証券取引税108が課

される。

なお、基本的には株式の譲受会社側の問題であるが、支配権の変動を伴う形で非

公開会社の株式を売却する場合には、原則として、譲受会社は、対象会社の繰越

欠損金の利用が認められなくなる109。

7.2. 清算

会社の清算とは、会社の資産負債を清算し、会社の法人格を消滅させる手続であ

る。会社の清算手続は非常に煩雑であり、手続終了までに1年以上の期間を要す

るのが通常である。

会社の清算手続においては、裁判所から選任された公共清算人が会社を統括し、

資産を収集し、負債を返済し、最終的な残余財産を株主に返還する。会社の清算

手続が終了すると、会社は解体され、会社登記局(ROC)から会社名が抹消され

、法人格も消滅する。

107 税率については、第二編8.3「まとめ」の税率一覧表の「インド内国会社の株式を売却することにより生じるキャピタル

ゲイン」の欄を参照されたい。

108 株券の受け渡しを伴う場合には、譲渡人及び譲受人にそれぞれ0.125%の証券取引税が課される。株券の受け渡しを伴わ

ない場合は、譲渡人に0.025%の証券取引税が課される。

109 前年度の最終日における株主と繰越欠損金の繰り越される年度の最終日における株主とを比較して、議決権ベースで51

%以上の株主に変動がない場合には、繰越欠損金の利用が可能であるが、上記要件を満たさない場合には、原則、繰越

欠損金の利用が認められない。インド所得税法79条参照。なお、上記要件を満たさない場合でも、未吸収減価償却費(

Unabsorbed depreciation)の利用が制限されることはない。未吸収減価償却費については、脚注51参照。

104

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7.2.1. 税務上の規制

インド所得税法110上、会社の清算に基づき資産が株主に返還される場合には、当

該資産が清算手続開始前の会社の累積利益に関連するものである限り、会社から

の配当とみなされる。インド内国会社は、かかるみなし配当を行う場合には、配

当税(実効税率:16.609%)を納税する必要がある。

インド所得税法上、清算手続により、株主の得た超過対価(清算により株主が得

た金銭その他財産の金額-株式の取得原価-みなし配当相当額)については、キ

ャピタルゲインとして、株主に課税される111。株主にキャピタルゲイン課税が発

生する場合には、インド内国会社はこれを源泉徴収しなければならない。

他方、外国会社株主が日本法人である場合の清算によるキャピタルゲインの日本

での課税については、直接納付外国法人税額控除により、インド税務当局に納付

した外国法人税額を、日本の実効税率で課税した場合の税額を限度として法人税

額等から控除される。

7.3. 事業譲渡等による事業の売却

外国会社がインド内国会社への投資から撤退する際には、事業譲渡や合併によっ

て、投資先のインド内国会社の事業を他社に売却するという方法も考えられる。

ただ、事業譲渡の場合には、売却した事業の対価が出資先のインド内国会社に支

払われるので、結局この資金を外国会社株主が回収するためには、当該インド内

国会社を清算する等もう1ステップ手続が必要となる。また、合併の場合にも、

合併存続会社の株式が割り当てられるので、これを処分するため、もう1ステッ

プ手続が必要となる。

これらの手法における各種問題点については、すでに第二編2.「インドにおける

M&Aと各種規制」の中の2.1.2の項において、詳しく解説しているので、そちらを

参照されたい。

110 インド所得税法2条(22)(c)参照

111 税率については、第二編8.3「まとめ」の税率一覧表の「インド内国会社の株式を売却することにより生じるキャピタル

ゲイン」の欄を参照されたい。 

105

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7.4. まとめ

【税務上の規制の比較】

株式売却 清算 事業譲渡

インド内国会社

(現地法人)に

対する課税

なし • 配当可能利益があ

る場合には、その

限度でみなし配当

税が課される。

• 株主にキャピタル

ゲイン課税が発生

する場合は源泉徴

収義務あり。

事業譲渡の場合は、譲渡会

社に法人税(キャピタルゲ

イン課税)が課されれうる

インドでの外国

株主(日本の親

会社等)に対す

る課税

• 法人税112(キャ

ピタルゲイン課

税)が課されう

る(譲受人によ

り源泉徴収され

る)。

• 証券取引税113が

課される。

法人税114(キャピタル

ゲイン課税)が課さ

れうる(インド内国

法人により源泉徴収

される)。

事業譲渡の場合は、事業譲

渡それ自体により、譲渡会

社の株主に法人税(キャピ

タルゲイン課税)が課され

ることはない。ただし、譲

渡会社の株主が事業譲渡代

金を譲渡会社から回収する

ためには、清算などの手続

が別途必要となる。

外国株主が日本

法人である場合

の日本での課税

直接納付外国法人

税額控除により、

インド税務当局に

納付した外国法人

税額を、日本の実

効税率で課税した

場合の税額を限度

として法人税額等

から控除される。

直接納付外国法人税

額控除により、イン

ド税務当局に納付し

た外国法人税額を、

日本の実効税率で課

税した場合の税額を

限度として法人税額

等から控除される。

なし

112 税率については、第二編8.3「まとめ」の税率一覧表の「インド内国会社の株式を売却することにより生じるキャピタル

ゲイン」の欄を参照されたい。

113 株券の受け渡しを伴う場合には、譲渡人または譲受人に0.125%の証券取引税が課される。株券の受け渡しを伴わない場

合は、譲渡人に0.025%の証券取引税が課される。

114 税率については、第二編8.3「まとめ」の税率一覧表の「インド内国会社の株式を売却することにより生じるキャピタル

ゲイン」の欄を参照されたい。

106

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8. 日本からの直接投資と他国を通じての間

接投資の税務上の比較

インド内国会社に投資をする場合、日本から直接投資をする場合と日本から他国

を通じて間接的に投資をする場合とで税務上の規制が異なってくる115。そこで、

以下、日本からインドへ直接的な投資をする場合と日本以外の国を通じて間接的

にインドへ投資する場合の税務上の規制を概観する。

8.1. 日本からの直接的な投資

日本からの直接の投資が行われた場合の税務上の規制内容は以下のとおりとなっ

ている。

なお、インド所得税法上、インド政府が外国政府と二重課税の回避に関する租税

条約を締結した場合には、インド所得税法または租税条約のうちいずれか納税者

に有利な方が適用されると規定されている116。そこで、以下の説明においては、

インド所得税法または日印租税条約のいずれか有利な方の規定についてのみ指摘

することとする。

【投資後エグジット前の投下資本の回収】

• 配当に対する課税

インド内国会社による配当税(実効税率:16.609%)の支払後は非課税(イ

ンド所得税法117)

• 利息に対する課税

源泉税10%(グロスベース118)が課される(日印租税条約)。

• ロイヤルティ/技術支援サービス料(Fee for Technical Service。FTS)に対

する課税

源泉税10%(グロスベース)が課される(日印租税条約)。

115 外国為替上の規制は、いずれの国からの投資でも同じである。

116 インド所得税法90条(2)参照

117 インド所得税法10条(34)、115-O条参照

118 利息から手数料等が差し引かれるとしても、源泉税は、手数料が差し引かれる前の利息の金額に源泉税率を乗じて算出

されるということ。

107

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【エグジットの際の投下資本の回収】

• 株式売却時のキャピタルゲインに対する課税

以下の基準に従い、インド内国会社の株式の売却に際してキャピタルゲイン

課税がなされうる(インド所得税法)。

【上場株式の場合】

- 保有期間が12ヶ月を超える株式の売却:非課税

- 保有期間が12ヶ月以下の株式の売却:15.84%119

【非上場株式の場合】

- 保有期間が12ヶ月を超える株式の売却:21.12%/10.56%120

- 保有期間が12ヶ月以下の株式の売却:42.23%121

8.2. 日本以外の国を通じての間接的な投資

日本から、シンガポール、オランダ、モーリシャスなどの国に所在する関連会社

を通じて投資する場合の税務上の規制内容は以下のとおりとなっている。ここで

も、前項と同様、インド所得税法と、インドと相手国との間の租税条約の規定の

うち納税者に有利な規定が適用されるので、有利な方の規定のみについて指摘す

ることとする。

8.2.1. シンガポール

【投資後エグジット前の投下資本の回収】

• 配当に対する課税

インド内国会社による配当税(実効税率:16.609%)の支払後は非課税(イン

ド所得税法)

• 利息に対する課税(インド・シンガポール租税条約)

【通常の銀行業または同様の金融機関(保険会社など)によるローンの場合】

利息総額に対して源泉税10%が課される

【その他のローンの場合】

利息総額に対して源泉税15%が課される

119 基本税率15%+サーチャージ(surcharge)2.5%及び教育目的税(education cess)3%

120 基本税率20%/10%+サーチャージ(surcharge)2.5%及び教育目的税(education cess)3%

121 基本税率40%+サーチャージ(surcharge)2.5%及び教育目的税(education cess)3%

108

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• ロイヤルティ/技術支援サービス料(Fee for Technical Service。FTS)に対

する課税

ロイヤルティ/技術支援サービス料がインド内国会社からシンガポール居住

者に支払われる場合には、グロスベースで10%の源泉税が課される(インド

・シンガポール租税条約)。

さらに、技術支援サービス料については、シンガポール居住者が受けた技術

支援サービスが技術上の知識、経験、スキル、ノウハウ若しくはプロセスを

含むものでなく、かつ、技術上の計画若しくはデザインの開発若しくは移転

を含むものでない場合には、非課税となる(インド・シンガポール租税条約

)。

【エグジットの際の投下資本の回収】

• 株式売却時のキャピタルゲインに対する課税

インド内国会社の株式の売却によりシンガポール居住者に生じるキャピタル

ゲインについては、インドにおいては課税されず、シンガポールにおいての

み課税される(インド・シンガポール租税条約)。

さらに、シンガポールの現行税法上、所定の要件を満たせば、株式売却によ

るキャピタルゲインに対しては課税されないこととされている。

8.2.2. オランダ

【投資後エグジット前の投下資本の回収】

• 配当に対する課税

インド内国会社による配当税(実効税率:16.609%)の支払後は非課税(イン

ド所得税法)

• 利息に対する課税

源泉税10%(グロスベース)が課される122(インド・オランダ租税条約)。

• ロイヤルティ/技術支援サービス料(Fee for Technical Service。FTS)に対

する課税

源泉税10%(グロスベース)が課される123(インド・オランダ租税条約)。

122 利息の受益者がオランダの会社であれば、最高税率が10%となる。

123 ロイヤルティ/技術支援サービス料の受益者がオランダの会社であれば、最高税率が10%となる。

109

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【エグジットの際の投下資本の回収】

• 株式売却時のキャピタルゲインに対する課税(インド・オランダ租税条約)

インド内国会社の株式の売却によりオランダ居住者に生じるキャピタルゲイ

ンについては、原則として、インドにおいては課税されず、オランダにおい

てのみ課税されうる。

ただ、例外として、インド内国会社の株式を10%以上保有しているオランダ

の関連会社がインド居住者に株式を売却する場合には、株式売却によるキャ

ピタルゲインはインドにおいて課税されることとなる。ただし、さらにその

例外として、株式が会社の組織再編手続に伴い売却され、かつ、かかる組織

再編手続終了後、株式の譲受人または譲渡人のいずれかが他方の会社の10%

以上の株式を保有している場合には、インドでキャピタルゲイン課税がなさ

れることはない。

8.2.3. モーリシャス

【投資後エグジット前の投下資本の回収】

• 配当に対する課税

インド内国会社による配当税(実効税率:16.609%)の支払後は非課税(イン

ド所得税法)

• 利息に対する課税(インド・モーリシャス租税条約)

①モーリシャス政府、地方行政府、その他行政機関が利息を受領した場合、

または②モーリシャス政府が設立した組織若しくはモーリシャス居住者であ

る銀行業を営む銀行が利息を受領する場合には、かかる利息に対しては非課

税となる。

その他の場合には、インドの国内税率である21.12%の税率で課税される。

• ロイヤルティ/技術支援サービス料(Fee for Technical Service。FTS)に対

する課税

源泉税10.56%(グロスベース)が課される(インド所得税法)。

110

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【エグジットの際の投下資本の回収】

• 株式売却時のキャピタルゲインに対する課税

インド内国会社の株式売却によりモーリシャスの会社に生じたキャピタルゲ

インについては、インドにおいては課税されず、モーリシャスにおいてのみ

課税されうる(インド・モーリシャス租税条約)。

さらに、モーリシャスの現行税法上、所定の要件を満たす限り、キャピタル

ゲインについては課税されない。

8.3. まとめ

項目 インドにおける課税状況インドから以下の国へ金銭が支払われる -

日本 シンガポール オランダ モーリシャス

配当 配当税支払後は、非課税

配当税支払後は、非課税

配当税支払後は、非課税

配当税支払後は、非課税

利息 10% 10% / 15% 10% 21.12%

ロイヤルティ 10% 10% 10% 10.56%

FTS(Fee for TechnicalService)

10% 原則10%ただし、インド・シンガポール租税条約上の一定の要件を満たせば、非課税

10% 10.56%

インド内国会社の株

式を売却することに

より生じるキャピタ

ルゲイン

【上場株式】

非課税(長期保有株

式)/ 15.84%(短期

保有株式)

【非上場株式】

21.12%/10.56%(長

期保有株式)

/42.23%(短期保有

株式)

一定の要件を満たせ

ば、非課税

オランダにおいてオ

ランダの所得税法に

基づき課税される。

ただし、インド居住

者へ株式が売却され

、関連会社がインド

内国会社の株式を10

%以上保有している

場合には、インドに

て課税される。

一定の要件を満た

せば、非課税

111

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9. インドにおける間接税の概要

本項においては、外国会社がM&AやJVの設立等によりインド内国会社への投資を

実行した後、投資先のインド内国会社を通じてインドにおいて事業を展開してい

く上で問題となりうるインドの間接税について概要を解説する。特に、日本と比

べ、インドの間接税は非常に複雑になっているため注意が必要である。

9.1. 関税(Customs duty)

関税は、インドへの輸入の際に課税される。関税の税率は、1975年関税法(

Customs Tariff Act, 1975)に基づき輸入品目ごとに分類された関税表に記載され

ている。また、輸入品目の性質、利用方法、輸入業者の地位、輸出国などに基づ

き、様々な減税や免税を受けることもできる。

資本財以外の物品の輸入に関する一般的な関税の実効税率は、26.85%である。

これには、基本関税(BCD)10%、物品税に代わる追加関税(相殺関税=CVD)

10%、地方税に代わる追加関税(ADC)4%、教育目的税3%といった様々な種類

の税金が含まれている。

他方、資本財については、一般的な関税の実効税率は、23.89%である。これに

は、基本関税(BCD)7.5%、物品税に代わる追加関税(相殺関税=CVD)10

%、地方税に代わる追加関税(ADC)4%、教育目的税3%が含まれている。

関税規制上、関税は、2007年関税評価(輸入品価格の決定)規則(Customs

Valuation (Determination of Price of Imported Goods) Rules, 2007 。CVR)に基

づき決定される輸入品の取引価格に対して課税される。

さらに、関連会社から輸入する場合は、関税特別評価局(Special Valuation

Branch of Customs。SVB)による精査を受ける必要があり、この関税特別評価

局が輸入時に申告された価格が独立第三者価格であるか否か、及び輸入業者・輸

出業者間の関係に影響を受けていないか否かについて判断する。

112

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9.2. サービス税(Service tax)

サービス税は、インド内での特定のサービスの提供に課される国税である。サー

ビス税の現行税率は10.3%(サービス税10%+教育目的税0.3%)であり、提供さ

れたサービスの対価全額に対して課される。現状、政府通達により、100種類を

超えるサービスが課税対象とされている。

一般的に、サービス税の納税義務はサービスの提供者が負う。しかし、サービス

の提供者がインドに事務所を持たないインド非居住者であり、かつ特定のサービ

ス(物品の陸上輸送サービス(GTA)など)の提供者である場合には、サービス

税の納税義務はインドのサービス受領者が負うことになる。

上記のとおり、サービス税は提供されるサービスの対価総額に対して課税される

。この対価総額には、原則として、課税対象サービスを提供する過程でサービス

提供者が負担した全ての費用が含まれるが、サービス提供者がサービス受領者の

純然たる代理人として負担した費用はこれに含まれない。

さらに、サービス提供者から一定のサービスを受けて製品を製造し、これを顧客

に販売している場合、サービス提供者に対する支払サービス税は、製品を販売し

た際に顧客から受領した受取物品税と相殺して、残額のみを納付することが認め

られる。また、サービス提供者から一定のサービスを受けて、このサービスと関

連するサービスを顧客に提供している場合、サービス提供者に対する支払サービ

ス税は、顧客から受領した受取サービス税と相殺をして、残額のみを納付するこ

とが認められる。

9.3. 物品税(Excise duty)

物品税は、1994年中央物品税(Central Excise Act, 1944)に基づき、1985年物品

税税率表法(Excise Tariff Act, 1985)に規定された税率により、インド国内にお

ける動産の製造に対して課される国税である。物品税率表には、HSN、製品の分

類及び各製品に適用される税率が整理されている。物品税の一般税率は、10.3%

(基本物品税10%、教育目的税3%)であるが、個々の製品の税率は、税率表の分

類(HSNに連動している)及び中央政府による全部または一部の免税措置に関す

る通達により様々に異なる場合がある。

113

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物品税は、通常、製品の販売価格124に対して課税される。ただ、パッケージされた

製品(packaged commodities。ただし、産業用製品または法人向けの製品は除く

)に関しては、物品税は、最高小売価格(Maximum Retail Price。MRP)から一

定金額の減額控除をした後の金額に対して課税される。

また、物品税は製品が工場から出荷された時点において納付することが要求され

る。物品税は製造業者が納税義務を負うが、通常、製造業者は製品の対価の一部

として買主から物品税相当額を回収することになる。

9.4. センバット・クレジット(Cenvat Credit)

課税の連鎖を断ち切るため、2004年センバット・クレジット規則(Cenvat Credit

Rules, 2004)が定めれれた。かかる規則は、製品の製造やサービスの提供のため

に、製品の提供を受けて物品税を支払ったり、サービスの提供を受けてサービス

税を支払ったりした場合の支払物品税や支払サービス税のクレジットの取り扱い

を定める。かかるクレジットは、通常、一定の要件を満たすことにより、受取物

品税や受取サービス税の納税債務と相殺することができる。

また、輸入品が物品の製造に用いられた場合には、かかる輸入品について支払わ

れた支払関税(物品税に代わる追加関税(相殺関税=CVD)及び地方税に代わる

追加関税(ADC)に相当する部分のみ)のクレジットは、受取物品税による納税

債務と相殺することができる。

また、輸入品がサービスの提供に用いられた場合には、かかる輸入品について支

払われた支払関税(物品税に代わる追加関税(相殺関税=CVD)に相当する部分

のみ)のクレジットは、受取サービス税による納税債務と相殺することができる125

9.5. 州VAT/中央販売税(CST)

州VATや中央販売税(CST)は、特許、商標などの無形資産を含む動産の販売に

対して課税される。

同一州内で動産を販売した場合には、州政府により州VATが課税される。州VATの

税率は、概ね、4%~%5%(産業生産用の製品、IT製品、資本財など特定の製品の

税率)または12.5%~15%(その他ほとんど場合に適用される税率)となっている

さらに、所定の条件を満たした場合、支払州VATは、受取州VAT及び受取中央販売

税(CST)と相殺することができる。

124 製品が納税者より顧客(納税者の関連者を除く)に販売されたときの製品が発送される場所及び日時における製品の販

売価格。

125 センバット・クレジット・ルール3条(1)vii(a)参照(Rule 3 (1) vii (a) of the Cenvat Credit Rules)

114

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他方、動産の売買により動産が別の州へ移動する場合、かかる売買は州際取引と

なり、1956年中央販売税法(Central Sales Tax Act, 1956)に基づき中央販売税

(CST)が課税される。中央販売税の税率は、法定書類(フォームC)の整備を

受けた登録業者126に販売する場合には、原則2%となり、その他の場合には、販売

元の州の州VATの税率が適用される。

なお、支払中央販売税(CST)は、受取州VATや受取州CSTと相殺することがで

きない。

9.6. 越境税(Entry Tax)

越境税は州内での消費または使用目的で特定の動産を州内に持ち込む場合に課さ

れる州税である。越境税は当該動産を当該州に持ち込む者(典型的には州際通商

業者)により納付される。

ほとんどの州においては、一定の要件を満たすことを条件として、当該動産を州

内で販売することにより生じる受取州VATと支払越境税とを相殺することができ

、また、当該動産が加工等されることなく同じ状態のまま州外に出された場合に

は、支払越境税の還付を受けることができる。越境税の税率は、品目ごと州ごと

に異なるが、おおむね2%~15%である。

さらに、複数の州(ウッタル・プラデッシュ州、ハリヤナ州、ビハール州、アッ

サム州)における越境税に関する州法は、それぞれの州の高等裁判所により憲法

違反である旨判断されている。このことから越境税の課税については今後の動き

に注目する必要がある。

9.7. 研究開発税(R&D Cess)

研究開発税は、海外との技術提携により技術を輸入する場合(外国からのデザイ

ンや仕様書の輸入や技術提携に基づく外国の技術者の派遣)に課税される租税で

、税率は5%とされている。

支払研究開発税については、技術サービス、科学コンサルタント・サービス、技

術コンサルタント・サービス、または知的財産権関連サービスを顧客に提供して

顧客から受領した受取サービス税と相殺することができる。

9.8. 2011年4月施行予定のGST(Goods and Service Tax)

2006-2007年インド国家予算案において、インド中央政府は、現在存在する多数

の間接税のほとんどをGSTに一本化する予定であることを明らかにしており、こ

れが実現すれば、上に述べたようなインドの複雑な間接税の税制が大幅に簡素化

されることになる。GSTは2011年4月に施行される予定である。

126 製造や再販売のために仕入れを行う業者などが登録業者となる。

115

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10. インドにおける移転価格税制(Transfer

Pricing Regulation)の概要

本項においては、外国会社がM&AやJVの設立等によりインド内国会社への投資を

実行した後、外国会社が投資先のインド内国会社との間で取引を行う場合、国外

関連者取引として、移転価格税制上の問題が生じうる。そこで、以下、インドの

移転価格税制(Transfer Pricing (“TP”) Regulation)について概要を説明する。

インド中央政府は、2001年インド財政法(Finance Act, 2001)によるインド所得

税法の改正を経て、初めて包括的な移転価格税制を導入した。インドの移転価格

税制の基本構造は、経済開発協力機構(OECD)の策定したガイドラインに従う

ものである。

2001年の移転価格税制の導入以来、過去5回の移転価格税務当局による移転価格

調査によると、調査対象となったケースのうち25%以上につき移転価格の調整が

求められ、その結果、当初の法人税納税額より多額の納税を強いられている。直

近の課税年度(2005年-2006年)においては、移転価格の調整により法人税債務

が350億インドルピーから1000億インドルピーに上昇している。

最近の移転価格調査から、以下のような会社が移転価格調査官の調査対象とされ

る傾向がある。

• 国外関連者との取引が多い会社で収益が十分に上がっていない会社

• 国外関連者が構築したブランド力を利用して商品を販売している会社

• 国外関連者から技術または業務のアウトソーシングを受託している会社

• 国外関連者から本社機能またはマネジメント機能の提供サービスを受け、そ

の対価を支払っている会社

• 長期間にわたり国外関連者から技術サービス等の提供を受け対価を支払って

いるが、収益が上がっていない会社

116

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2008年-2009年のインド国家予算においては、移転価格税制上の紛争の予防・解

決を促進するため、以下の制度を導入した。

• セーフ・ハーバー・ルールの導入

セーフ・ハーバーとは、税務当局が一定の簡易なルールやレンジをあらかじ

め設定し、納税者が当該ルールやレンジに基づき取引を行っていれば、税務

上妥当なものとして自動的に受け入れることと定義される。直接税中央委員

会(Central Board of Direct Taxes。CBDT)にセーフ・ハーバーを明確化す

る権限が授与されている。ただ、現時点においては、セーフ・ハーバーが明

確化されるには至っていない。

• 代替的紛争解決方法の導入

すでに導入済みである相互合意手続(Mutual Agreement Procedure)に加え

、インド中央政府は、移転価格税制その他外国会社の関わる紛争の迅速な解

決を促すため、紛争解決委員会(Dispute Resolution Panel。DRP。3人の法人

税委員(Commissioners of Income-tax)により構成される)を設立した。

なお、2011年4月1日から新インド直接税法が施行予定であるが、新インド直接

税法による移転価格税制の主な修正点は以下のとおりである。

• 事前確認制度(Advance Pricing Agreement。APA)

事前確認制度の制度が導入される。直接税中央委員会(Central Board of

Direct Taxes。CBDT)が納税者との間で国際取引の独立した第三者価格(the

arm’s length price=独立企業間価格)について合意する権限を与えられる。か

かる合意は、法律や前提事実が同一である限り、5年間有効とされる。合意は

納税者と税務当局の双方を拘束するものである。

• 移転価格税制の適用範囲

国外関連者の定義が改正され、その範囲が拡大することで移転価格税制の適

用範囲が拡大する。

117

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• 勅許会計士(Chartered accountant )による証明書の提出先

現在は、勅許会計士による移転価格が適正である旨の証明書を調査官(

Assessing Officer)に提出し、調査官の手により詳細な調査が必要なケースが

選び出され、その後、一定の場合には、移転価格調査官(TP Officer)による

詳細な調査が行われる。ところが、新インド直接税法の下では、勅許会計士

による移転価格が適正である旨の証明書は、直接、移転価格調査官(TP

Officer)に提出することになり、移転価格調査官(TP Officer)が委員会が策

定した危機管理方針(この方針はまだ公表されていない)に基づき詳細な調

査が必要なケースを選び出す。移転価格の専門家である移転価格調査官(TP

Officer)が手続のはじめから関与することになるので、より妥当な運用がなさ

れることが期待されている。

• 移転価格調査官(TP Officer)の権限

移転価格調査官(TP Officer)は、適正な検査の後に独立企業間価格を調整す

る権限を有する。この独立企業者間価格の調整は、移転価格調査官(TP

Officer)または調査官(Assessing Officer)により過去行われた調整の際に適

用された条件に従う必要はないとされており、移転価格調査官(TP Officer)

の権限が強化されている。

• ペナルティ

国外関連者との取引に関する勅許会計士の証明書の提出を怠ったり、国外関

連者との取引に関する書類の整備を怠った場合、最大20万インドルピーの罰

金が課されることとなる127。新インド直接税法においては、全ての違法行為に

ついて罰金のみならず懲役が併科される可能性がある128。

127 現行法上は、勅許会計士の証明書の不提出の場合のペナルティが、10万インドルピーであり、必要な書類の整備を怠っ

た場合のペナルティは取引価格の2%とされている。新直接税法では後者のペナルティについても20万ルピーとしてい

るので、後者に関しては大幅に緩和されているといえる。

128 現行法上は罰金のみなので、この点については、新直接税法ではペナルティが重たくなっているといえる。

118

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11. インド会社法の概要

本項においては、外国会社がM&AやJVの設立等によりインド内国会社への投資を

実行した後、投資先のインド内国会社を通じてインドにおいて事業を展開してい

く上で問題となりうるインドの会社法上の規制について概要を説明する。特にイ

ンド会社法は日本の会社法と比較して異なる点も多数存在するので注意が必要で

ある。

インド会社法は、主として英国会社法をモデルとしている。インド会社法は、会

社設立、会社運営及び会社清算に至るまでインド内国会社に関する全般を規律し

ている。会社法に基づく会社の監督については、インド企業省(Ministry of

Company affairs 。MCA)が、会社法委員会(Company Law Board。CLB)や会

社登記局(Registrar of Companies。ROC)を通じてこれを行っている。なお、

会社法委員会(CLB)に代わり、国立会社法審判所(National Company Law

Tribunal。NCLT)の導入が予定されている。

11.1. 会社の類型

インド会社法は、いくつかの会社類型を用意しているが、通常用いられるのが、

有限責任会社(limited companies)である非公開会社(private limited companies

)と公開会社(public limited companies)である。いずれも株主の責任が出資額

の限度に限定される。

11.1.1. 非公開会社

非公開会社は、最低資本金10万インドルピーで設立可能であり、株主が2人以上

必要とされる。非公開会社の要件としては、以下の4つが定款に定められている

必要がある。

• 株式譲渡の制限

• 株主数が50人以下であること

• 株式や社債の公募発行の禁止

• 株主、取締役及びそれらの親族以外の個人からの借入の禁止

119

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貸借対照表及び損益計算書については、会社登記局(ROC)に提出しなければな

らない。株主以外の者は損益計算書を閲覧することができない。

11.1.2. 公開会社

公開会社とは、非公開会社以外の会社をいう。公開会社の最低資本金は、50万イ

ンドルピーであり、株主が7人以上必要とされる。

取締役や監査役の報告書が添付された貸借対照表、損益計算書を会社登記局(

ROC)に提出しなければならず、これらは広く公開される。

上場している公開会社については、インド証券取引委員会(SEBI)による監督も

受け、上場している証券取引所との間で上場契約書を締結している。

公開会社は、非公開会社よりも設立手続が煩雑で、設立後も厳しいコンプライア

ンス規定に服することになるため、外国会社がインドに子会社を設立する場合は

、一般的には非公開会社の形態をとることが多い。

公開会社と非公開会社の主たる相違点は以下のとおりである。

11.1.3. みなし公開会社(Deemed Public Companies)

当該インド内国会社単体では非公開会社の要件を満たしている場合であっても、

当該インド内国会社が外国会社の子会社であり、親会社である外国会社が仮にイ

ンド会社法に基づき設立されたと仮定された場合、公開会社に該当する場合には

、当該インド内国会社は、原則として、公開会社とみなされる(通称「みなし公

開会社(Deemed Public Companies)」と呼ばれる。)129。ただし、当該インド

内国会社の全ての株式が外国会社により保有されている場合には、例外的に、当

該インド内国会社は非公開会社となる。

項目 非公開会社 公開会社

①最低株主数 2人 7人

②最大株主数 50人 上限なし

③最低取締役数 2人 3人

④最大取締役数 7人12人(インド中央政府の承認を得ることで増加する

ことができる)

⑤最低資本金額 10万ルピー 50万ルピー

⑥営業開始要件

ROCから会社設立証明

書を取得すると直ちに営

業開始が可能

ROCから会社設立証明書に加え、別途申請の上、営

業開始証明書を取得した後に営業開始が可能

129 インド会社法4条(7)参照

120

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インド内国会社が公開会社とみなされる場合には、基本的には、公開会社と同様

のコンプラインス規定に服することになる。

11.2. 資本金

株式の発行により払い込まれる資本金には、授権資本と払込資本の2種類の概念

が存在する。

11.2.1. 授権資本(Authorized Share Capital)

授権資本金額は、会社が株主から株式を発行することを授権された上限金額のこ

とをいう。授権資本金額は基本定款(MOA)に記載される。

11.2.2. 払込資本(Paid-up Share Capital)

払込資本金額は、実際に株式が株主に引き受けられ、株主から払い込みがなされ

た資本金の金額である。株式の無償割当(通称、ボーナス株式)という例外的な

場合(この場合は、配当可能利益が取り崩され、払込資本に充当されるのが通常

である。)を除いて、株主は金銭若しくはその他により株式の対価を支払う。通

常、単に資本金という場合は、この払込資本を指す。

11.3. 株式

インド会社法上、公開会社は、①資本株式(Equity Share)と②優先株式(

Preference Share)の2種類のみを発行することができる130。また、①の資本株式

には、議決権131や配当に関して内容の異なる株式を発行することができる132。

他方、非公開会社は、上記①②以外の種類の株式を発行することも法律上は制限

されていない133。

130 インド会社法85条、86条参照

131 異なる議決権を有する資本株式の発行は、2001年異なる議決権の付された資本株式の発行に関する規則((Issue of

Share capital with differential voting Rights) Rules, 2001)に従ってなされる必要があり、直近3年において配当可能利益

があるなどの要件を満たす必要がある。

132 インド会社法86条(a)参照

133 インド会社法90条2項参照。ただ、非公開会社においても、実際の実務において資本株式や優先株式以外の種類の株式

が発行されている例は皆無に近い。

121

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11.4. 機関

11.4.1. 株主総会

【株主総会の種類】

①年1回開催される定時株主総会(Annual General Meeting)と②必要に応じて随

時開催される臨時株主総会(Extraordinary General Meeting)がある。公開会社

にあっては、会社設立後6ヶ月以内に開催が要求される法定株主総会(Statutory

Meeting)もある。

【定足数】

公開会社の場合は5人以上、非公開会社の場合は2人以上とされている134。

【決議要件】

普通決議の場合は出席株主の過半数の賛成が必要であり、特別決議は出席株主の

4分の3以上の賛成が必要である。

【株主総会の決議方法】

株主総会の決議は、原則として挙手で行われ、その場合、決議の成否は株主の頭

数により決せられる135。他方、定款で別段の定めをするなど一定の場合には、例

外的に決議は投票により行われ、その場合、決議の成否は議決権数(出資額)に

より決せられる136。この点は日本の会社法とは大きく異なる点であるので注意が

必要である。

なお、インド会社法上、電子的方法による投票は認められていない。

【株主総会の議長の権限】

株主総会の議長は、原則として、決議の成否の最終判断権137やデッドロックとな

った場合のキャスティングボートを有しており、非常に強い権限を有している。

134 インド会社法174条(1)参照。定足数が議決権数(出資額)ではなく株主の頭数で定められている点に注意が必要である

。定款で別段の定めをすることで議決権数を基準とすることも可能である。

135 インド会社法177条、87条(1)(a)参照

136 インド会社法179条、87条(1)(b)参照

137 インド会社法178条参照

122

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11.4.2. 取締役及び取締役会

【マネージング・ディレクター、常勤取締役、マネージャー】

資本金5000万インドルピー以上の公開会社、またはみなし公開会社は、マネージ

ング・ディレクター(Managing Director)、常勤取締役(Whole-time Director)

またはマネージャー(Manager)のいずれかを設けなければならない138。

【取締役会の定足数】

定足数は、取締役の総数の3分の1か2人かのいずれか多い方とされている139。

【取締役会の開催方法】

原則として会合形式によることが必要である。一定の要件を満たすことで、書面

決議が認められる140。ただ、電話会議、テレビ会議による取締役会の開催は認め

られていない。 

【取締役会の開催頻度】

取締役会は毎3ヵ月に1度開催することが要求される141。

11.4.3. 監査役(Auditor)

【監査役の職務内容、資格】

インド会社法上、監査役の職務内容は会計監査に限定され142、監査役には勅許会

計士(Chartered Accountant)の資格が必要とされる143。このため、インド会社

法上の監査役は、日本法上の会計監査人に相当する役割を果たすものといえるが

、日本の会社法と異なり、非公開会社も含め全ての会社に監査役の設置義務が課

せられている。

【選任、任期】

監査役は、毎年定時株主総会において選任される。任期は、次回の定時株主総会

までの1年である。

138 インド会社法269条(1)参照

139 インド会社法287条参照

140 インド会社法289条参照

141 インド会社法285条参照

142 インド会社法227条参照。なお、業務監査については、監査委員会(Audit Committee)が行う。資本金5000万ルピー

以上の公開会社には監査委員会の設置義務がある(292A条1項参照)。

143 インド会社法226条参照

123

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11.4.4. 会社秘書役(Company Secretary)

資本金5000万インドルピー以上の会社は、常勤の会社秘書役(Whole-time

secretary)を設置する必要がある144。また、資本金100万インドルピー以上5000

万インドルピー未満の会社は、インド会社法の規定を遵守していることの証明書

を外部の会社秘書役から取得して、会社登記局(ROC)に提出する必要がある145

11.5. 2009年会社法案(Companies Bill 2009)

2009年9月15日、2009年インド新会社法案(Companies Bill 2009。以下「インド

新会社法案」という。)がインド国会下院(Lok Sabha)において提案された。

この法案は近い将来国会において可決され、新しいインド会社法として施行され

る見込みである。新インド会社法案は、現行インド会社法を抜本的に改正するも

のであり、外国会社株主によるインド内国会社の会社運営を容易にする方向での

改正が多くなされている。その概要は、以下のとおりである。

① 外国会社に対するみなし公開会社規制の撤廃

② 株主が1人のいわゆる一人会社(One-Person Company (OPC))の創設 146

③ 小会社(Small Company)の創設 147

④ 会社設立手続の簡易迅速化

⑤ 株主総会において電子的方法による投票が可能になる。

⑥ テレビ会議システムその他電子的方法による取締役会の開催が可能となる。

144 インド会社法383A条(1)本文参照。なお、会社秘書役の職務は、文書管理、株主管理、法連遵守等である。

145 インド会社法383A条 (1)但書参照

146 現行インド会社法上の非公開会社では最低株主数2名とされている。一人会社においては非公開会社よりもさらに簡易

な会社運営が可能となる予定である。

147 小会社においては、現行インド会社法上の非公開会社よりもさらに簡易な会社運営が可能となる予定である。

124

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12. 外国投資家が利用できるビークル

外国会社が、インドでの事業展開を目的としてインドに投資する場合、基本的に

活動範囲や活動期間に制限がないことから、インド内国会社(現地法人)に対し

て投資するのが最適であるといる。このため、これまでの項においては、全てイ

ンド内国会社への投資を前提に各種規制を解説してきた。

ただ、外国会社が、単発の事業(プロジェクト)のためだけにインドに投資する

場合やインド市場の調査のためにインドに拠点を持ちたいというような事情が存

在する場合には、インド内国会社(現地法人)以外のビークルを利用することも

考えられる。インドにおいて利用可能なビークルとしては、インド内国会社(現

地法人)の他、駐在員事務所(Liaison Office。LO)、支店(Branch Office。BO

)及びプロジェクトオフィス(Project Office。PO)がある。

そこで、以下順次比較しながら概要を説明する。

12.1. 駐在員事務所(リエゾン・オフィス。Liaison Office。

LO)

【設立-インド準備銀行の承認】

駐在員事務所の設立には、インド準備銀行(RBI)の事前承認が必要となる。設

立後、駐在員事務所は毎年監査役から駐在員事務所の運営状況についての証明書

を取得し、これをインド準備銀行(RBI)に提出することが要求されており、継

続的にインド準備銀行(RBI)の監視下に置かれることになる。

近時、インド準備銀行(RBI)は、2009年12月30日付AP DIR Series Circulars

No. 23及び24により、外国会社がインドにおいて駐在員事務所を設立する場合の

ガイドラインを変更した。この通達により、インド準備銀行(RBI)は、駐在員

事務所に関する諸手続に変更を加え、認可業者(具体的には銀行)に、駐在員事

務所の設立、期間の延長、閉鎖に関する一定の権限を委任することとした148。ま

た、この通達により、駐在員事務所を設立しようとする外国会社には、直近3年

間母国において黒字であること及び純資産額が5万米ドル以上であることが要求

されることとなった。

148 この変更は、銀行や保険会社からの駐在員事務所の設立申請については適用されない。銀行が駐在員事務所を設立す

るには、インド準備銀行(RBI)から銀行業規制に基づき承認を得る必要がある。また、保険会社が駐在員事務所を設立す

るには、インド保険規制開発局(Insurance Regulatory and Development Authority of India )により承認を得る必要があ

る。

125

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【活動範囲】

駐在員事務所は、外国会社本社との間の連絡活動が許されているが、直接的にも

間接的にも、一切の営業活動をなすことはできない。駐在員事務所は、外国会社

本社からのインドへの送金により全ての経費をまかなう必要がある。

12.2. 支店(Branch Office。BO)/プロジェクト・オフィス

(Project Office。PO)

【設立-インド準備銀行(RBI)の承認】

支店及びプロジェクトオフィスの設立には、原則として、駐在員事務所と同様、

インド準備銀行(RBI)の事前承認が必要であり、また、その運営については、

インド準備銀行(RBI)の規制、監督に服することになる。ただ、プロジェクト

オフィスについては、例外的に、①外国会社がインド内国会社との間でプロジェ

クトに関する契約を締結し、かつ、②以下のいずれかの要件を満たす場合には、

インド準備銀行(RBI)からの事前承認は不要である。

• プロジェクトの資金が外国からの送金により供給されている

• プロジェクトの資金が、世界銀行、国際通貨基金、アジア開発銀行などの国

際金融機関により供給される

• 関係当局からプロジェクトの遂行につき許可をもらっている

• 顧客が、公的な金融機関や銀行から当該プロジェクトの支払に対して期限付

きの金銭消費貸借契約を締結済みである

また、インド準備銀行(RBI)の通達149により、支店を設立しようとする外国会社

には、直近5年間母国において黒字であること、及び純資産額が10万米ドル以上

であることが要求されることとなった。

149 2009年12月30日付AP DIR Series Circulars No. 23

126

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【活動範囲】

活動範囲に関しては、支店は、継続的に、以下の範囲内において、営業活動をす

ることが許される。製造業(特別経済区域(SEZ)に設立され、別途特別の規制

に服する場合は認められる場合もある。)や加工業は認められていない。

• 商製品の輸出入

• 専門的またはコンサルタントサービスを行うこと

• 調査活動

• 技術や財務上の提携関係を促進すること

• 本店の代理人として、インドで購買または販売代理店として活動すること

• インドでITサービスを提供し、ソフトウェアを開発すること

• 本店が供給した製品の技術サポートサービスを行うこと

他方、プロジェクトオフィスは、特定のプロジェクトを遂行するためプロジェク

ト終了までの期間、プロジェクトに関する営業活動のみ許される。

【閉鎖】

プロジェクトオフィスについては、特定のプロジェクトを遂行するためだけに設

立されるものであるので、当該プロジェクトが完了した場合には、閉鎖する必要

がある。

12.3. インド内国会社(現地法人)

インド内国会社の特徴については、第二編11.「インド会社法の概要」の項を参照

されたい。

127

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12.4. 各ビークルの比較対照表

項目 駐在員事務所 支店プロジェクトオフィス

会社(100%子会社、合弁会社)

1. RBIの事前承

必要 必要 原則必要。ただし、一

定の要件を満たしたプ

ロジェクトオフィスは

不要。

自動承認ルートでFDI

が認められる事業分野

については、FIPBの事

前承認は不要であり、

資本金の受領等にかか

るRBIへの事後報告の

みで足りる。その他の

場合は、資本金の受領

等にかかるRBIの事後

報告に加え、FIPBの事

前承認が必要となる。

2.許容される活

連絡活動のみ許容

される。一切の営

業活動は許されな

い。

一定の範囲内に限り営

業活動が許される。製

造業や加工業は認めら

れない。

プロジェクトに関する

活動のみ許される。

FDIのガイドラインで

許容されている幅広い

事業活動が許される(

ただし、定款の事業目

的の範囲に限る)。

3. インドでの活

動に必要な資

金の調達方法

インドでの活動に

必要な経費は、全

て外国会社本社か

ら通常の銀行送金

により送金された

資金によりまかな

う必要がある

インドでの活動に必要

な経費は、外国本社か

らの送金による資金か

、営業活動により得た

資金によりまかなう必

要がある

インドでの活動に必要

な経費は、外国本社か

らの送金による資金か

、営業活動により得た

資金によりまかなう必

要がある。

インドでの活動に必要

な経費は、株式発行、

借入(原則として、外

国からの借入れ、イン

ド国内での借入れのい

ずれも許される)、営

業活動などにより得た

資金によりまかなう。

4. 外国会社の責

任の範囲

外国会社は駐在員

事務所の負う債務

の全てにつき責任

を負う。

外国会社は支店の負う

債務の全てにつき責任

を負う。

外国会社はプロジェク

トオフィスの負ってい

る債務の全てにつき責

任を負う。

有限責任会社を採用し

た場合には、外国会社

は出資の限度で責任を

負う。

5. インド会社法 監査役の監査を受

け、財務諸表その

他書類をROCに提

出しなければなら

ない。

監査役の監査を受け、

財務諸表その他書類を

ROCに提出しなければ

ならない。

監査役の監査を受け、

財務諸表その他書類を

ROCに提出しなければ

ならない。

駐在員事務所、支店、

プロジェクトオフィス

と比較して、格段に重

いコンプライアンス規

定が課せられる。

6. 外国為替規制 毎年活動状況につ

いて監査役から取

得した証明書をRBI

に提出しなければ

ならない。

毎年活動状況について

監査役から取得した証

明書をRBIに提出しな

ければならない。

毎年活動状況について

監査役から取得した証

明書をRBIに提出しな

ければならない。

外国投資家への株式発

行や借り入れ(ECB)

による資金の受領に関

して、RBIに報告しな

ければならない。

128

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7. インド所得税

法  

営業活動をしない

ので通常、課税所

得は発生しない。

ただ、確定申告書

を提出することが

望ましい。

確定申告書を提出し、

所得に応じた所得税を

支払う必要がある。所

得税納税後の利益を、

外国会社へ送金しても

インド国内でさらに課

税されることはない。

確定申告書を提出し、

所得に応じた所得税を

支払う必要がある。所

得税納税後の利益を、

外国会社へ送金しても

インド国内でさらに課

税されることはない。

インド内国法人の全世

界所得に対して法人税

が課税される。法人税

納税後の利益を外国株

主へ配当する場合、配

当税を納税した後、自

由に送金することがで

きる。

8.恒久的施設

(PE)150

営業活動が許され

ないので、日印租

税条約上、通常、

外国会社の恒久的

施設に該当せず、

課税されない。

日印租税条約上、外国

会社の恒久的施設に該

当し、課税される。

日印租税条約上、外国

会社の恒久的施設に該

当し、課税される。

独立した課税対象法人

であるので、外国会社

の恒久的施設に該当し

ない。ただし、日印租

税条約の恒久的施設に

関する規定に該当する

場合はこの限りではな

い。

150 日印租税条約5条1項により、恒久的施設(Permanent Establishment。PE)とは、「事業を行う一定の場所であってそ

の事業の全部又は一部を行っている場所」と定義されており、同条約5条2項ないし9項においてさらに具体的に恒久的

施設の要件等が定められている。外国法人がインドに恒久的施設を有する場合、当該外国法人の利益のうち当該恒久的

施設に直接又は間接に帰せられる部分について、インド所得税法上の外国法人に課せられる税率(内国法人に課せられ

る法人税率より高い)で法人税が課せられる。

129

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以下の事業分野/活動に対する外国直接投資(FDI)については、以下の条件(

出資上限等)に従う必要がある。

以下は、2010年3月31日付2010年サーキュラー1-総合FDI方針(Circular 1 of

2010 - Consolidated FDI Policy)のChapter 5の一部を和訳したものである。

【農業】

1. 農業及び畜産

1.1. 管理された状況下での花の栽培、園芸、種子開発、畜産、養魚、野菜や

きのこの栽培、その他関連分野のサービスについては、自動承認ルート

にて、100%FDIが認められる。

注:上記以外の農業分野/活動については、FDIは認められない。

1.2. 遺伝子組み換え種子/植物を開発する会社にあっては、以下の条件に従

う必要がある。

(1) 遺伝子的が組み替えられた種子や植物を扱う場合、会社は、遺伝子組み

換え生物についての環境(保護)法(Environment (Protection) Act)に

基づく法令上の安全基準に従うことを要する。

(2) 遺伝子組み換え物質を輸入する場合、要求に応じて、1992年外国貿易

(開発及び規制)法(Foreign Trade (Development and Regulation) Act,

1992)に基づく通達に規定された条件に従うことを要する。

(3) 会社は、遺伝子組み換え物資に関するその他の法令、通達等に従うこと

を要する。

(4) 遺伝子的に設計された細胞や物質に関する事業活動を遂行する場合、遺

伝子工学承認委員会(Genetic Engineering Approval Committee。GEAC

)、及び遺伝子操作に関する審査委員会(Reviwe Committee on

Genetic Manipulation。RCGM)から承認を得ることを要する。

(5) 物質の輸入は、国家種子方針(National Seeds Policy)に従うことを要

する。

添付資料2 FDI規制~事業分野別規制

130

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2. 紅茶事業

2.1. 紅茶事業(紅茶農園を含む)においては、以下の条件を満たす限り、事

前承認ルートにて、100%FDIが認められる。

(1) 5年以内に株式の26%をインドの事業パートナーに譲渡するか、株式市

場に放出すること

(2) 将来において土地の利用を変更する場合には州政府の事前許可を取得す

ること

注:上記以外の農園分野/活動については、FDIは認められない。

【産業】

3. 鉱業

3.1. ダイアモンド、金、銀、その他希少価値のある鉱石(ただし、チタニウ

ム鉱物・鉱石は除く)などの鉱石・非鉱石の採掘事業については、自動

承認ルートにて、100%FDIが認められる。ただし、1957年鉱山及び鉱

物(開発及び規制)法の定めに従うことを要する。

3.2. 石炭及び褐炭

(1) 1973年炭鉱(国営化)法(Coal Mines (Nationalization) Act, 1973)に基

づき認められる、電力プロジェクト、鉄鋼、セメント生産及びその他の

適格活動による自家消費用の石炭及び褐炭の採掘事業については、自動

承認ルートにて、100%FDIが認められる。

(2)洗炭場のような石炭加工工場の建設については、100%FDIが認められる

。ただし、会社が石炭鉱業を行わないこと、石炭加工工場において洗浄

された石炭や大きさが整えられた石炭を一般の市場で販売せずに、洗浄

やサイジングのために原炭を供給した者に販売することを要する。

3.3. チタニウム鉱物及び鉱石の採掘及び鉱物分離、価値付加及び統合活動

(1) インドは、国内の海岸地帯に多量の海浜砂鉱物を保有している。チタニ

ウム鉱物(イルメナイト、ルチル、白チタン石など)及びジルコニウム

鉱物は、1962年原子力法(Atomic Energy Act, 1962)に規定される「一

定の物質」に該当する海浜砂鉱物の一種である。

131

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(2) 1991年産業方針声明(Industrial Policy Statement 1991)によれば、「

一定の物質」に該当する鉱物や1953年原子力(生産・使用の管理)命令

(Atomic Energy (Control of Production and Use) Order, 1953)の別紙

において特定されている鉱物の採掘や生産は、公共部門に留保されてい

る産業のリストに含まれていた。原子力省(Department of Atomic

Energy)が発行した、海浜砂鉱物の採取についての方針を示した1998年

10月6日付Resolution No. 8/1(1)/97-PSU/1422によれば、FDIを含む民間

参入は、チタニウム鉱物(イルメナイト、ルチル、白チタン石など)及

びジルコニウム鉱物(ジルコン)の採掘及び生産についてのみ許されて

いた。

(3)原子力省(Department of Atomic Energy)は、2006年1月18日付

Notification No. S.O.61(E)により、1962年原子力法(Atomic Energy Act,

1962)に定める「一定の物質」のリストを明らかにし、チタニウム鉱物

及びその濃縮物(イルメナイト、ルチル、白チタン石など)、並びにジ

ルコニウム鉱物、その合金、合成複合物、鉱物/濃縮物(ジルコンなど

)は、「一定の物質」から除外された。

(4)チタニウム鉱物及び鉱石の採掘及び鉱物分離、価値付加及び統合活動に

ついては、事前承認ルートにて、100%FDIが認められる。ただし、当該

分野の規制、1957年鉱山及び鉱物(開発及び規制)法(Mines and

Minerals (Development and Regulation) Act, 1957)の規定に条件に従う

(5)チタニウム鉱物及び鉱石の鉱物分離については、さらに以下の条件に従

うことを要する。

① 技術移転と併せて付加価値施設がインド国内に設置されること

② 原子力規制委員会(Atomic Energy Regulatory Board)が定める2004

年原子力(放射線保護)規則及び安全な破棄)規則(Atomic Energy

(Radiation Protection) Rules, 2004)や1987年原子力(放射性廃棄物安

全処理)規則(Atomic Energy (Safe Disposal of Radioactive Wastes)

Rules, 1987)などの規則に基づき、鉱物分離中の選鉱くずが処分され

ること

(6)原子力省(Department of Atomic Energy)が公表した2006年1月18日付

Notification No. S.O.61(E)に記載する「一定の物質」の採掘事業におい

ては、FDIは認められない。

132

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【製造業】

4. 中小企業(Micro and Small Enterprises)のために留保されている製品の生産

事業

4.1. 中小企業(Micro and Small Enterprises)に該当しないが、中小企業の

ために留保されている製品を製造する場合で24%を超える外国投資を行

う場合には、事前承認ルートによることを要する。また、このような製

造業を行うためには、1951年産業(開発及び規制法)(Industries

(Development & Regulation) Act, 1951)に基づく産業ライセンス(

Industrial License)を取得することを要する。産業ライセンスは、いく

つかの一般的条件と特定の条件(産業事業は、最大3年間の期間、中小

企業留保製品の新規または追加年間生産の最低50%を輸出しなければな

らないという条件)の下、発行される。輸出義務は、商業生産の開始日

から適用され、2006年中小企業発展法(Micro, Small and Medium

Enterprises Development Act, 2006)11条の規定に従うことを要する

5. アルコール飲料の蒸留及び醸造

自動承認ルートにて、100%FDIが認められる。

6. 葉巻及びたばこの製造

事前承認ルートにて、100%FDIが認められる。ただし、1951年産業(開発及

び規制)法(Industries (Development & Regulation) Act, 1951)に基づく産業

ライセンスに従うことを要する。

7. コーヒー及びゴムの加工及び倉庫保管

自動承認ルートにて、100%FDIが認められる。

8. 防衛産業

8.1. 事前承認ルートにて、26%までのFDIが認められる。ただし、1951年産

業(開発及び規制)法(Industries (Development & Regulation) Act,

1951)に基づく産業ライセンス、及び以下の条件に従うことを要する。

*16の条件が列挙されているが、ここでは省略する。

9. 製薬及び医薬品事業(DNA組換技術を利用した事業を含む)

自動承認ルートにて、100%FDIが認められる。

133

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10. シアン化水素及びその誘導体、ホスゲン及びその誘導物、イソシアネート及び炭

化水素のジイソシアネート等の有害化学物質に関する事業

自動承認ルートにて、100%FDIが認められる。ただし、1951年産業(開発及び規

制)法(Industries (Development & Regulation) Act, 1951)に基づく産業ライセ

ンスに従うことを要する。

11. 産業用火薬の製造事業

自動承認ルートにて、100%FDIが認められる。ただし、1956年産業(開発及び規

制)法(Industries (Development & Regulation) Act, 1951)に基づく産業ライセ

ンス及び1898年爆発物法(Explosive Act, 1898)に基づく規制に従う。

12. 発電

12.1. 発電、送電、配電及び電力取引

以下の事業については、自動承認ルートにて、100%FDIが認められる

(1)水力発電所、石炭/褐炭、石油、ガスによる火力発電所における発電及

び送電

(2)非従来型のエネルギーの生成及び分配

(3)電力の家庭、産業、商業、その他消費者への配電

(4)電力取引

12.2. 上記は、2003年電気法(Electricity Act, 2003)の規定に従うことを要する。

注:原子力発電所/原子力における発電、送電及び配電への民間投資は禁止

されており、これらの事業は公共部門に留保されているため、上記12.1(1)

~(3)は、これらの事業を含まない。

【サービス業】

13. 広告及び映画

13.1. 広告業については、自動承認ルートにて、100%FDIが認められる。

13.2. 映画産業(映画金融、映画制作、映画配給、映画上映、映画売買、その他映

画産業に関連する活動を含む)については、自動承認ルートにて、100%

FDIが認められる。

134

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14. 民間航空分野

14.1. 民間航空部門(空港、国内定期旅客航空、国内不定期旅客航空、ヘリコ

プター/水上飛行機サービス、地上サービス業務、維持修理機関、飛行

訓練機関及び技術訓練機関を含む)

14.2. *「空港」など11の用語の定義が規定されているが、ここでは省略する。

14.3. 民間航空部門におけるFDI方針

(1) 空港

① 未開発地域のプロジェクト

自動承認ルートにて、100%FDIが認められる。

② 既存のプロジェクト

100%FDIが認められる。74%までの投資は自動承認ルートにて認めら

れるが、74%超の投資は事前承認ルートによることを要する。

(2) 航空輸送サービス業

① 航空輸送サービス業は、国内定期旅客航空、不定期航空、チャーター

機航空、貨物航空、ヘリコプター及び水上飛行機サービスを含む。

② 外国航空会社は、直接、間接に、定期航空、不定期航空、チャーター

機航空を運営する航空輸送事業会社に投資することは許されない。

③ 外国航空会社は、貨物航空、ヘリコプター及び水上飛行機サービスを

運営する会社に投資することは許される。

(3) 航空輸送サービス業におけるFDIの上限

① 定期航空輸送サービス業/国内定期旅客航空

自動承認ルートにて、49%までのFDIが認められる。非居住インド人

(Non Resident Indian。NRI)による投資の場合は、自動承認ルート

にて、100%まで認められる。

135

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② 不定期航空輸送サービス業/不定期航空、チャーター機航空及び貨物

航空

74%までのFDIが認められる。非居住インド人(NRI)による投資の場

合は、100%まで認められる。FDIについては、49%までが自動承認ル

ートにて、49%超74%までが事前承認ルートにて、認められる。

③ ヘリコプター・サービス事業/DGCAの承認を必要とする水上飛行機

サービス業

自動承認ルートにて、100%FDIが認められる。

(4) 民間航空分野の他のサービスにおけるFDIの上限

① 地上サービス業務

74%までのFDIが認められる。非居住インド人(NRI)による投資の場

合は、100%まで認められる。FDIについては、49%までが自動承認ル

ートにて、49%超74%までが事前承認ルートにて、認められる。

② 維持修理機関、飛行訓練機関及び技術訓練機関

自動承認ルートにて、100%FDIが認められる。

14.4. 民間航空分野におけるFDI方針は、1934年飛行機規則(Aircraft Rules,

1934)、民間航空要求(Civil Aviation Requirement)、民間航空省(

Ministry of Civil Aviation)により公表される航空情報回覧(Aeronautical

Information Circulars)に従う。

15. 資産管理会社

15.1. 資産管理会社とは、2002年金融資産の証券化及び管理並びに担保権の実

行に関する法律(Securitisation and Reconstruction of Financial Assets

and Enforcement of Security Interest Act, 2002 (SARFAESI Act))の3条

の規定に従い、インド準備銀行(RBI)に登録した会社をいう。

15.2. 外国機関投資家(Foreign Institute Investor。FII)を除くインド非居住者

は、事前承認ルートにおいてのみ、インド準備銀行に登録した資産管理

会社の株式に投資することができる。自動承認ルートは利用できない。

このような投資は厳格にFDIの性質を有するものでなければならない。

外国機関投資家(FII)による資産管理会社の株式への投資は許されない

。FDIは資産管理会社の払込資本金の49%を上限とする。

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15.3. ただし、インド証券取引委員会(SEBI)に登録した外国機関投資家(FII

)は、インド準備銀行に登録された資産管理会社が発行したセキュリテ

ィ・レシート(Security Receipt。SR)に対して投資することができる

。外国機関投資家(FII)は、一の外国機関投資家(FII)の投資が各セキ

ュリティ・レシートのスキームの10%を超えない限り、各セキュリティ

・レシートのスキームの49%まで投資することができる。

15.4. 個々の投資が10%を超える場合には、2002年金融資産の証券化及び管理

並びに担保権の実行に関する法律(Securitisation and Reconstruction of

Financial Assets and Enforcement of Security Interest Act, 2002

(SARFAESI Act))の3条(3)(f)の規定に従うことを要する。

16. 銀行業(民間部門)

16.1. 銀行業(民間部門)に対するFDIは、外国機関投資家(FII)と併せて、

74%を上限とする。これは、外国機関投資家(FII)や非居住インド人(

NRI)によるポートフォリオ・インベストメント・スキーム(Portfolio

Investment Scheme)に基づく投資や既存海外事業体(Erstwhile

Overseas Corporate Body。OCB)による2003年9月13日より前に取得

した株式を含み、また、株式公開(IPO)、私募(Private Placement)

、国際預託証券(GDR)/米国預託証券(ADR)、及び既存株主からの

株式の取得を含む。FDIは、49%まで自動承認ルートで認められ、49%

超79%までは事前承認ルートによることを要する。

16.2. 銀行業(民間部門)への外国投資の合計が、当該銀行の払込資本の74%

を上限として認められる。いつの時点においても、払込資本の最低26%

は、外国銀行の100%子会社を除くインド居住者により保有されている

ことを要する。

16.3. 上記は、既存の民間部門銀行に対する投資についても適用される。

16.4. 外国機関投資家(FII)や非居住インド人(NRI)による証券取引所を通

じてのポートフォリオ・インベストメント・スキームに基づく投資の上

限は以下のとおりである。

*外国機関投資家(FII)及び非居住インド人(NRI)による投資の条件

が記載されているが、ここでは省略する。

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17. 銀行業(公共部門)

17.1. 銀行業(公共部門)に対するFDI及びポートフォリオ・インベストメン

トは、1970年/80年銀行業会社(事業の取得及び移転)法(Banking

Companies (Acquisition & Transfer of Undertakings) Acts 1979/80)の

3(2D)に基づき、事前承認ルートにて、合計法定上限20%の範囲内で許さ

れる。これと同じ上限が、State Bank of India及びその関連銀行にも適用

される。

18. 放送事業

18.1. 地上波放送FM(FMラジオ)

FMラジオの放送業に対する外国投資(FDI、非居住インド人(NRI)や

インドに起源を持つ者(Person of India Origin。PIO)による投資、ポー

トフォリオ・インベストメントを含む)は、情報放送省(Ministry of

Information and Broadcasting)がFMラジオ局開設の許可に関して随時

公表する条件に従い、インド政府の事前承認を得ることで、20%を上限

として許される。

18.2. ケーブル放送

ケーブル放送業に対する外国投資(FDI、非居住インド人(NRI)やイン

ドに起源を持つ者(Person of India Origin。PIO)による投資、ポートフ

ォリオ・インベストメントを含む)は、1994年ケーブルテレビネットワ

ーク規則(Cable Television Network Rules, 1994)、及び情報放送省(

Ministry of Information and Broadcasting)が随時公表するその他の条件

に従い、インド政府の事前承認を得ることで、49%を上限として許され

る。

18.3. 家庭向け放送

家庭向け放送業に対する外国投資(FDI、非居住インド人(NRI)やイン

ドに起源を持つ者(Person of India Origin。PIO)による投資、ポートフ

ォリオ・インベストメントを含む)は、インド政府の事前承認を得るこ

とで、49%を上限として許される。ただし、FDIは20%を上限とする。

また、かかる外国投資は、情報放送省(Ministry of Information and

Broadcasting)が随時公表する条件、ガイドラインに従うことを要する

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18.4. ヘッドエンド・イン・ザ・スカイ(Headend-In-The-Sky。HITS)放送

(1) ヘッドエンド・イン・ザ・スカイ(Headend-In-The-Sky。HITS)放送

とは、全ての有料チャンネルが中心施設(ハブ/テレポート)にダウン

リンクされ、その後チャンネルが暗号化されて再度衛星にアップリンク

されるという方式による、多重チャンネルのダウンリンキング及びCバ

ンドやKuバンドによるテレビ番組の配信をいう。ケーブル・ヘッドエン

ドにおいて、暗号化された有料チャンネルが、単一の衛星アンテナを用

いてダウンリンクされ、トランスモジュレイトされ、ケーブル/光ファ

イバー・ネットワークのインフラなどで構成される地上送信システムを

利用して、加入者に配信される。

(2) ヘッド・イン・ザ・スカイ放送に対する直接、間接の外国投資(ポート

フォリオ・インベストメント及びFDIを含む)の合計は、74%を上限と

する。FDIは、49%まで自動承認ルートで認められ、これを超える場合

には事前承認ルートによることを要する。

(3) かかる外国投資は、情報放送省(Ministry of Information and

Broadcasting)が随時公表する条件、ガイドラインに従うことを要する

18.5. アップリンキング、ハブなどの設備の設置

(1) TVチャンネルのアップリンキングについてのFDI方針は以下のとおりで

ある。

① アップリンキングハブ/テレポートの設置については、FDI及び外国

機関投資家(FII)による外国投資は、事前承認ルートにて、49%まで

認められる。

② ニュース以外及び時事問題以外を扱うテレビチャンネルのアップリン

キングについては、事前承認ルートにて、100%FDIが認められる。

③ ニュース及び時事問題を扱うテレビチャンネルのアップリンキングに

ついては、FDI及び外国機関投資家(FII)による外国投資は、事前承認

ルートにて、26%まで認められる。なお、外国機関投資家(FII)/非

居住インド人(NRI)によるポートフォリオ・インベストメントは、

FDIとの関係で、1997年インド証券取引委員会(株式の大量取得及び

公開買付け)に関する規則(Securities And Exchange Board Of India

(Substantial Acquisition Of Shares And Takeovers) Regulations, 1997

)に定義される「共同保有者(person acting in concert)」に該当して

はならない。

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(2) かかる外国投資は、チャンネルのアップリンクに関する許可を受けた会

社が毎年度末に会社秘書役を通じて上記要件の遵守を継続している旨証

明するという条件に従うことも要する。

(3) TVチャンネルのアップリンキングに対するFDIは、情報放送省(Ministry

of Information and Broadcasting)が随時公表するアップリンキング方針

に従うことを要する。

19. ビジネスサービス業

データ処理、ソフトウエア開発、コンピュータ・コンサルタント・サービス

、ソフトウエア供給サービス、ビジネス・経営コンサルタントサービス、市

場調査サービス、テクニカルテスト・分析サービスについては、自動承認ル

ートにて、100%FDIが認められる。

20. 商品取引所事業

20.1. 商品の先物取引は、1952年先物契約(規制)法(Forward Contracts

(Regulation) Act, 1952)により規制されている。商品取引所は、株式の

取引所と同様、商品先物市場におけるインフラ会社である。グローバル

の最良の実務、近代的な運営技術、最新のテクノロジーを取り入れるた

め、商品先物取引所への外国投資を許容することとした。

20.2. *「商品取引」など5の用語の定義が規定されているが、ここでは省略

する。

20.3. 商品取引所に対する外国投資の方針

(1) 外国投資の合計は、以下のとおり、事前承認ルートにて、49%まで許容

される。

① 2000年非居住者による有価証券の移転または発行に関する外国為替管

理規則(Foreign Exchange Management (Transfer or Issue of Security

By a Person Resident Outside India) Regulation, 2000 (FEMA

Regulations))5条(1)に基づく別紙1(Schedule 1)規定のFDIスキーム

に基づくFDIの上限は26%とする。

②上記外国為替管理規則5条(2)に基づく別紙2(Schedule 2)規定のポー

トフォリオ・インベストメント・スキームによる登録外国機関投資家

(FII)の投資の上限は、23%とする。

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(2) 外国機関投資家(FII)による購入は、流通市場に限定される。

(3) 外国投資家/事業体(共同保有者である個人を含む)は、これらの会社

の5%を越える株式を保有してはならない。

21. 建設・メンテナンス業

21.1. 道路、レールベッド、橋、トンネル、パイプライン、ロープウエイ、水

路、貯水池、水力発電プロジェクト、発電所及び産業プラントの建設及

びメンテナンスについては、自動承認ルートにて、100%FDIが認められ

21.2. 料金徴収を含むBOT方式による道路及び高速道路の建設及びメンテナン

スについては、自動承認ルートにて、100%FDIが認められる。

21.3. 地方の飲料用水供給プロジェクト、パッケージ・ウォータ処理工場、雨

水収集設備、廃水リサイクル・再利用技術及び施設、雨水再利用及び地

下水再利用の建設及びメンテナンスについては、自動承認ルートにて、

100%FDIが認められる。

21.4. 港湾

以下について、自動承認ルートにて、100%FDIが認められる。

(1)既存の港湾資産の賃貸借

(2)コンテナ・ターミナルの積荷/小分け/多目的の貨物停泊所、倉庫、コ

ンテナ貨物駅、貯蔵施設、貯油施設、クレーン/処理装置、自社専用発

電所、乾燥ドック、船舶修繕施設、というような資産の建設及びメンテ

ナンス

(3)港湾設備及び船舶の賃貸借

(4)港湾産業のための自社専用施設

21.5. 大都市における大量高速輸送システム(関連する不動産の商業的開発を

含む)については、自動承認ルートにて、100%FDIが認められる。22.1

、22.2、22.3の条件は適用されない。

141

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22. 街の区画、住宅、インフラの開発、その他建設・開発プロジェクト

22.1. 街の区画、住宅、インフラの開発、その他建設・開発プロジェクト(住

宅、商店街、ホテル、リゾート、病院、教育機関、レクリエーション施

設、都市及び地域レベルのインフラを含むが、これらに限られない)に

ついては、以下のガイドラインに従い、自動承認ルートにて、100%FDI

が認められる。

個々のプロジェクトにおいて開発される最小面積は以下のとおりとする

(1) サービス住宅開発プロジェクトの場合、最小開発面積は10ヘクタール

(2)建設開発プロジェクトの場合、最小建築面積は5万平方メートル

(3)両者のプロジェクトの組み合わせである場合、上記のいずれかの基準を

満たす必要がある

22.2. かかる投資は、さらに以下の条件に従うことを要する。

(1)完全子会社の場合の最低資本金は1000万米ドルであり、また合弁会社の

場合の最低資本金は500万米ドルとする。この資本金は、事業開始後6ヶ

月以内に払い込まなければならない。

(2)当初の投資は、最低資本金の払込完了後3年経過前に返金することはで

きない。ただ、投資家は、外国投資促進委員会(FIPB)を通じてインド

政府の事前承認を得ることにより、上記期間経過前に投資から撤退する

ことができる。

22.3. 少なくともプロジェクトの50%は、法令上の全ての認可を取得した日か

ら5年以内に、開発しなければならない。投資家/投資対象会社は、未

開発の土地を売却することはできない。このガイドラインにおいて、「

未開発の土地」とは、道路、水の供給、街路灯、排水、下水、その他所

定の規則の適用のある設備が利用できない土地をいう。投資家は、サー

ビス住宅開発として開発された区画を販売する前に、これらのインフラ

を供給し、関連当局から完成証明書を取得することを要する。

22.4. プロジェクトは、建築管理規制、規則、その他関連当局による規制に規

定されている、土地利用要件、コミュニティ・アメニティや共用施設の供給

などの基準に適合することを要する。

142

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22.5. 投資家/投資対象会社は、必要とされる全ての許可(建築/レイアウト

・プランについての許可を含む)を取得し、内部周辺地域やその他のイ

ンフラ施設の開発し、開発費、外部開発費、その他料金を支払い、適用

のある規則に定めるその他全ての要件を遵守することを要する。

22.6. 建築・開発計画を承認した関連当局は、開発者が上記要件を遵守してい

るか否かにつき監督する。

22.7. 22.1、22.2、22.3の条件は、ホテル・観光業、病院、経済特別

区域(SEZ)については、適用しない。

22.8. 22.1、22.2、22.3の条件は、インド非居住者による投資につい

ては、適用しない。

22.9. 経済特別区域(SEZ)の開発については、22.1、22.2、22.3の条件が適

用されることなく、自動承認ルートにて、100%FDIが認められる。これ

は、2005年経済特別地域法(Special Economic Zones Act, 2005)及び

インド商業省(Department of Commerce)の公表する経済特別地域方

針(SEZ Policy)の規定に従うことを要する。

22.10. 不動産事業については、FDIは認められない

23. 1898年インド郵便局法の適用対象とならない荷物、小包その他の物を運ぶた

めのクーリエサービス業

23.1. 事前承認ルートにて、100%FDIが認められる。

23.2. 既存の法律、すなわち1898年インド郵便局法(Indian Post Office Act,

1898)及び手紙の配達に関する除外活動に従うことを要する。

24. 信用情報会社

24.1. 信用情報会社への外国投資は、2005年信用情報会社(規制)法(Credit

Information Companies (Regulation) Act, 2005)に従うことを要する。

24.2. FDI及び外国機関投資家(FII)による外国投資は、インド準備銀行(RBI

)の規制を遵守することを条件として、事前承認ルートにて、49%を上

限をして認められる。

24.3. 登録外国機関投資家(FII)のポートフォリオ・インベストメント・スキ

ームによる投資は、外国投資全体に認められる49%の範囲内で、証券取

引所に上場されている信用情報会社に対して、26%を上限として、認め

られる。

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24.3. かかる外国機関投資家(FII)は以下の条件に従うことを要する。

(1) 一事業体が直接または間接に10%を超える株式を保有してはならない。

(2) 1%を超える取得については、インド準備銀行(RBI)に報告しなければ

ならない。

(3)信用情報会社に投資する外国機関投資家(FII)は、保有株式に基づき当

該会社の取締役会に取締役の派遣を求めてはならない。

25. 健康・医療事業

自動承認ルートにて、100%FDIが認められる。

26. ホテル・観光業

26.1. 自動承認ルートにて、100%FDIが認められる。

26.2. ホテルという文言は、レストラン、ビーチ・リゾート、旅行者に宿泊、

ケータリング、食事施設を提供するその他観光複合施設を含む。観光業

という文言は、以下を含む。

(1)旅行代理店、ツアー・オペレーティング・エージェンシー、観光客輸送

代理店

(2)旅行者に文化的体験、アドベンチャー体験、野生体験を提供する場合

(3)旅行者に陸上、航空、水上輸送サービスを提供する場合

(4)コンベンション/セミナーのための組織

27. 工業地域(設立中のもの、既存のものの両者を含む)

27.1. 工業地域については、自動承認ルートにて、100%FDIが認められる。

27.2. 建設開発プロジェクトなど(上記22記載のとおり、最低資本金、最低面

積要件や当初資本金の固定化などが要求される)については、自動承認

ルートにて、100%FDIが認められる。

27.3. *「工業地域」など5の用語の定義が規定されているが、ここでは省略

する。

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27.4. 新規の工業地域の建設及び既存の工業地域の中での工業地域の建設の両

方について、自動承認ルートにて、100%FDIが認められる。建設開発プ

ロジェクトなどに要求される条件(上記22記載)は要求されないが、工

業地域は、以下の要件を満たす必要がある。。

(1)最低10ユニットで構成され、かつ1ユニットの占有範囲が割当可能地域

の50%を越えないこと。

(2) 産業活動のために割り当てられる地域の最低割合が、割当可能地域全体

の66%を下回らないこと。

28. 保険業

28.1. 1999年保険法(Insurance Act, 1999)に定める保険業については、自動

承認ルートにて、26%までのFDIが認められる。

28.2. FDIを行う会社は、保険業を営むため、保険規制開発局(Insurance

Regulatory & Development Authority)から必要なライセンスを取得する

ことを要する。

29. 証券市場におけるインフラ会社

29.1. 証券市場におけるインフラ会社(すなわち、証券取引所、預託・決済会

社)に対する外国投資は、インド証券取引委員会(SEBI)の規則及び以

下の条件に従うことを要する。

(1) 外国投資合計の上限は49%とされ、FDIの上限が26%、外国機関投資家

(FII)の上限が23%とされる。

(2) FDIは事前承認ルートによることを要する。

(3) 外国機関投資家(FII)は流通市場における購入を通じてのみ投資するこ

とができる。

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30. ノンバンク金融業(NBFC)

30.1. ノンバンク金融業における次の活動ついては、自動承認ルートにて、

100%の外国投資が認められる(筆者注:ただし、別途NBFC規制を受け

るので注意を要する。)。

(1)マーチャントバンキング

(2) 株式引受業

(3)ポートフォリオ運用業

(4) 投資顧問業

(5)金融コンサルタント業

(6) 株式取引仲介業

(7) アセットマネジメント業

(8)ベンチャー・キャピタル業

(9)カストディアン業

(10) ファクタリング業

(11) 信用格付機関業

(12) リース及び金融業

(13) 住宅金融業

(14) 外国為替取引仲介業

(15) クレジット・カード業

(16) 両替業

(17) マイクロクレジット業

(18) ルーラルクレジット業

30.2. 投資は以下の最低資本金基準に従うことを要する。

(1) 外国資本が51%以下である場合、50万米ドルをはじめに出資すること

(2) 外国資本が51%超75%以下の場合、500万米ドルをはじめに出資するこ

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(3) 外国資本が75%超100%以下の場合、5000万米ドルを出資することとし

、このうち750万米ドルをはじめに出資して、残額を24ヶ月以内に出資

すること

(4) 外国投資が100%で最低資本金が500万米ドルのノンバンク金融事業会社

は、特定のノンバンク金融事業を営むため子会社を設立することができ

る。この場合、子会社の数に制限はなく、また、追加で資本金を払い込

む必要もない。

(5) 外国投資が75%以下の合弁ノンバンク金融事業会社は、上記(1)(2)(3)及

び下記(6)の最低出資金額の規定に従うことを条件に、別にノンバンク金

融事業を営むため子会社を設立することができる。

(6)ノン・ファンド・ベースの活動:ノン・ファンド・ベースのノンバンク

金融事業会社については、外国資本の割合に関わらず、以下の条件に従

うことで、最低資本金は50万米ドルとする。

注:次の活動は、ノン・ファンド・ベース活動に該当する。

① 投資顧問業

② 金融コンサルタント業

③ 外国為替取引仲介業

④ 両替業

⑤ 信用格付機関業

(7) インド準備銀行(RBI)のガイドラインに従うことを要する

30.3. クレジットカードビジネスは、クレジットカード、チャージカード、デ

ビットカード、ストアードバリューカード、スマートカード、バリュー

アデッドカードなど、多様な決済用カードの発行、販売、マーケティン

グ及びデザインを含む。

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30.4. ベンチャー・キャピタル・ファンド

外国ベンチャー・キャピタル・インベスターは、インドのベンチャー・

キャピタル・ファンド企業に100%株式投資をすることができ、ファン

ドをマネージメントするために国内アセットマネジメント会社を設立す

ることもできる。かかる投資は、Notification No. FEMA 20の別紙6(

Schedule 6)に基づき自動承認ルートにて、これを行うことができる。

インド証券取引委員会(SEBI)に登録した外国ベンチャー・キャピタル

・インベスターは、1996年インド証券取引委員会(ベンチャー・キャピ

タル・ファンド)規則(SEBI (Venture Capital Fund) Regulations, 1996

)に基づき、国内の登録ベンチャー・キャピタル・ファンドに投資する

こともできる。かかる投資は、インド準備銀行(RBI)の規則及びFDI方

針に従うことを要する。ただし、ベンチャー・キャピタル・ファンド活

動を営む事業体が、1882年インド信託法(Indian Trust Act, 1882)に基

づき登録されている信託である場合には、外国投資は、事前承認ルート

によることを要する。外国ベンチャー・キャピタル・インベスターは

FDI方針に従うことで、別の会社に投資することも許される。

30.5. ノンバンク金融事業会社はインド準備銀行(RBI)のガイドラインを遵

守することを要する。

31. 石油及び天然ガス分野

31.1. 民間部門における、石油及び天然ガスの調査活動、石油製品のマーケテ

ィングに関連するインフラ、石油製品、石油製品パイプライン、天然ガ

ス/LGNパイプラインのマーケティング及び実際の取引、市場調査、形

成、石油精製については、自動承認ルートにて、100%FDIが認められる

。かかる投資は、石油マーケティング分野における既存の分野別方針及

び規制枠組み、並びに石油調査や天然オイル会社の発見された分野に対

する民間投資についてのインド政府の方針に従うことを要する。

31.2. 国営企業による石油精製については、事前承認ルートにて、49%までの

FDIが認められる。既存の国営企業の国内株式を譲渡したり、また保有

割合を希釈化したりすることは認められない。

32. 印刷出版業

32.1. ニュース及び時事を扱う新聞及び定期刊行物の出版業

外国投資(FDI、及び非居住インド人(NRI)/インドに起源を持つ者(

Person of India Origin。PIO)/外国機関投資家(FII)による投資を含

む)は、事前承認ルートにて、26%まで認められる。

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32.2. ニュース及び時事を扱う外国の雑誌のインド版の出版業

(1) 外国投資(FDI、及び非居住インド人(NRI)/インドに起源を持つ者(

Person of India Origin。PIO)/外国機関投資家(FII)による投資を含

む)は、事前承認ルートにて、26%まで認められる。

(2) これらのガイドラインにおいて、「雑誌」とは、公のニュースや公のニ

ュースについてのコメントを含む日刊ではない定期発行物をいう。

(3) かかる外国投資は、インド情報放送省(Ministry of Information &

Broadcasting)により2008年12月4日に公表された、ニュース及び時事

を扱う外国の雑誌のインド版の出版業に関するガイドラインに従うこと

を要する。

32.3. 科学技術関連の雑誌/専門雑誌/定期刊行物の出版業

事前承認ルートにて、100%FDIが認められる。

(1) かかる外国投資は、適用法令やインド情報放送省(Ministry of

Information & Broadcasting)により随時公表されるガイドラインを遵守

することを要する。

32.4. 外国の新聞のファクシミリ版の出版業

(1) 外国の新聞のファクシミリ版の出版業については、事前承認ルートにて

、100%FDIが認められる。ただし、このFDIは、インドで出版されるフ

ァクシミリ版の元となる外国の新聞の所有者によりなされるものでなけ

ればならない。

(2) 外国の新聞のファクシミリ版の出版業は、1956年インド会社法(

Companies Act, 1956)に基づき設立ないし登録された事業体にのみ許

される。

(3) 外国の新聞のファクシミリ版の出版業は、インド情報放送省(Ministry

of Information & Broadcasting)により2006年3月31日に公表された、ニ

ュース及び時事を扱う新聞及び定期刊行物、並びに外国の新聞のファク

シミリ版の出版業に関するガイドラインに従うことを要する。

33. 研究開発サービス(基礎研究、及びR&D/学位等を授与する学問的機関の

設置は除く)

自動承認ルートにて、100%FDIが認められる。

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34. 警備業(民間部門)

2005年民間警備業(規制)法(Private Agencies (Regulation) Act, 2005)は、

民間警備業の運営を規制する。同法6条(2)により、「会社、事務所、個人の組

織は、インドにおいて登録されているか、インド国民でない経営者、マジョリ

ティ株主、パートナー、取締役がいる場合には、同法に基づきライセンスを発

行を受けることができない」と定める。同法は以下のとおり定める。

•外国会社は、同法上ライセンスの発行を受けることができない。

•インドにおいて登録された事務所のみライセンスを取得する資格を有する。

• 同法上、ライセンス取得資格を有するためには、事務所に外国の取締役/パ

ートナーがいてはならない。

• マジョリティ株主は外国人であってはならない。すなわち、外国投資は、事

前承認ルートにて、49%まで認められる。

35. 衛星施設の設置及び運営

35.1. 事前承認ルートにて、74%までのFDIが認められる。

35.2. 宇宙省(Department of Space)/インド宇宙研究組織(ISRO)の分野別

のガイドラインに従うことを要する。

36. 倉庫保管業

倉庫保管業(農産物の冷蔵保管を含む)については、自動承認ルートにて、

100%FDIが認められる。

37. 電気通信事業

37.1. 電気通信サービス

電気通信サービスについては、以下の条件に従うことで、74%までのFDI

が認められる。

(1) これは、 固定及び携帯電話、統一アクセスサービス、国内/国際長距離

通信、超小型地上局、公衆電波利用移動電話、衛星利用移動電話及びその

他付加価値通信サービス業に適用される。

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(2) ライセンス会社に対する、直接、間接の両方の外国投資がFDI上限の計

算にカウントされる。外国投資は、外国機関投資家(FII)、非居住イン

ド人(NRI)、外貨建ての転換社債(FCCBs)、米国預託証券(ADR)

、国際預託証券(GDR)、外国事業体により保有されている転換優先株

式による投資を含む。インド人による株式保有割合が26%を下回っては

ならない。

(3) FDIについては、49%までが自動承認ルートにて、49%超74%までが事

前承認ルートにて、認められる。ライセンス会社/インドプロモーター

/投資会社(持株会社を含む)に対するFDIについては、74%の全体上

限に影響を与える場合には、外国投資促進委員会(FIPB)の承認を得る

ことを要する。外国投資促進委員会(FIPB)は、投資申請を承認する際

には、懸念国、非友好的事業体からの投資でないことに注意しなければ

ならない。

(4) 外国投資促進委員会(FIPB)による投資の承認は、会社がライセンス契

約を遵守することが明らかである場合になされることを要する。

(5) FDIは、外国法ではなく、インド法に従うことを要する。

37.2. 安全性条件

*22の安全性条件が記載されているが、ここでは省略する。

37.3. 38.2(執筆者注:原文ママ。37.2の誤記と考えられる)記載の

条件については、FDI上限49%の電気通信サービスを営む会社に対して

も適用される。

37.4. 全ての電気通信サービス業者は、7月1日と1月1日の6ヶ月ごとにライセ

ンサーに対して、上記条件に関するコンプライアンス・レポートを提出

することを要する。

37.5. (1) 74%を上限とするFDIについては、以下の活動が許される。

① ゲートウェイを伴うインターネット・サービス・プロバイダ事

② ゲートウェイを伴わないインターネット・サービス・プロバイ

ダ事業(衛星、海底ケーブルの両方)

注:電気通信省(Department of Telecommunications)が2007

年8月24日に公表した新ガイドラインにおいて、新規のインタ

ーネット・サービス・プロバイダ事業のFDI上限は74%とされ

た。

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③ 無線呼出し

④ エンド・ツー・エンド帯域事業

(2) FDIについては、49%までは自動承認ルートにて認められ、49%を超える場

合には、事前承認ルートによることを要する。

(3) ライセンスや電気通信省(Department of Telecommunications)の公表す

る安全性要件を遵守することを要する。

37.6. (1)100%を上限とするFDIについては、以下の活動が許される。

① ダーク・ファイバー、送電線用地、ダクト・スペース及び電波

塔(カテゴリーⅠ)のインフラ供給事業

② 電子メール事業

③ ボイスメール事業

(2) FDIについては、49%までは自動承認ルートにて認められ、49%を超える場

合には、事前承認ルートによることを要する。

(3) 当該会社が世界の他の地域において上場している場合、当該会社は5年以内

に株式の26%をインド株式市場に放出しなければならない。

(4) ライセンスや電気通信省(Department of Telecommunications)の公表する

安全性要件を遵守することを要する。

38. 取引業

38.1. 取引業を営む会社が、以下の活動を行う場合には、自動承認ルートにて

、100%FDIが認められる。

38.1.1. 現金扱いの卸売業/卸売業

(1) 定義

現金扱い卸売業/卸売業は、小売業者、産業、商業、組織的、その他専

門業者である利用者、または他の卸売業者及び関連従属サービス業者に

対する商品の販売をいう。このため、卸売業は、取引、ビジネスまたは

専門職業の目的で行われるものであり、個人の消費目的で行われるもの

ではない。販売が卸売りに該当するか否かの基準は、販売対象の顧客の

タイプであり、販売の規模や量ではない。卸売りは、再販売、加工販売

、保税倉庫を伴う大量輸入業及びB2BのEコマース業を含む。

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(2) 現金扱い卸売業/卸売業に関するガイドライン

① 卸売業を行うに当たり、関連法律/規則/その他州政府その他関

連当局の定める命令の定めるところに従い、必要とされるライセ

ンス/登録/許可を取得することを要する。

② 政府への販売を除き、卸売り業者によりなされた販売は、以下の

事業体に対して卸売りがなされた場合に限り、有効なビジネス顧

客との間の「現金扱い卸売業/卸売業」に該当するものとする。

i. 販売税/VAT登録証/サービス税/物品税登録証を保有して

いる事業体

ii. 取引業ライセンス(すなわち、ライセンス/登録証/メンバ

ーシップ証明書等を保有している事業体/個人が自身で商業

活動に関わるビジネスに従事していることを示す、ライセン

ス/登録証/メンバーシップ証明書/店舗開設法(Shop and

Establishment Act)に基づき当局により発行された登録証)

を保有している事業体

iii.関連当局から発行された小売業の許可/ライセンス(

tehbazariや行商人の同様のライセンスなど)などを保有して

る事業体

iv.組織としての設立証明書や登録証、自己消費のための公益信

託としての登録証を保有している機関

注:卸売りの対象となる顧客は、4つの要件のいずれかに該当することを要する。

③ 事業体の名称、事業体の種類、登録/ライセンス/許可等、販売

の回数、数量等といった販売に関する詳細についての全記録を日

々保管することを要する。

④ 商品の卸売りは、同一グループの会社間で行うことが許される。

ただ、グループ会社への卸売りは合計で卸売り業者の全売上の

25%を超えてはならず、グループ会社への卸売りは内部利用のみ

の目的でなされることを要する。

⑤ 卸売りは、通常のビジネス慣行(適用規制に従い、信用枠を拡大

することを含む)に従いこれを行うことができる。

⑥ 卸売り/現金扱い業者は直接消費者に販売するための小売店舗を

開設してはならない。

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38.1.2. 輸出取引業

38.1.3. Eコマース活動

Eコマース活動とは、会社によるEコマース・プラットフォームを通じた

売買活動をいう。かかる会社は、B2BのEコマースにのみ従事すること

ができ、小売業に従事することは許されない。特に、国内の取引業に対

するFDIに課せられる既存の規制は、Eコマースにも同様に適用される。

38.2. 取引業を営む会社が、以下の活動を行う場合には、事前承認ルートにて

、100%FDIが認められる。

(1) 小規模企業留保業種に該当する製品の取引業

(2)製造認可取得済み品目の試験販売業。ただし、試験販売の承認期間は2

年間であり、かつ試験販売は製造施設の建設のための投資が試験販売と

同時に開始されなければならない。

38.3. 単独ブランド商品の取引業

単独ブランド小売業については、事前承認ルートにて、51%までのFDIが

認められる。これは、とりわけ、製造及び販売への投資の誘致、消費者

がこれらの商品を入手しやすくすること、インドからの商品の調達を促

進すること、海外のデザイン、技術、運営実務を通じてインド事業者の

競争力を高めることを目指すものである。

(1)単独ブランド小売業については、以下の条件に従うことで、51%までの

FDIが認められる。

① 販売する商品は単独ブランドのもののみであること

② 商品は国際的に同一ブランドの下で販売されていること、すな

わち、商品がインド以外の一つまたは複数の国で同一ブランド

の下で販売されていること

③ 単独ブランド小売業は製造中にブランド化された商品のみを対

象とする。

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(2)単独ブランド小売業におけるFDIのための政府承認を取得するための申

請については、産業政策促進局(Department of Industrial Policy and

Promotion。DIPP)の産業支援事務課(Secretariat for Industrial

Assistance。SIA)に対してこれを行う。この申請において、単独ブラン

ド小売業として販売を企画している商品/商品カテゴリーにつき具体的

に示すことを要する。単独ブランド小売業として販売する商品/商品カ

テゴリーに別のものを付加する場合には、新規に政府承認を取得するこ

とを要する。

(3)申請は、政府承認のため外国投資促進委員会(FIPB)により検討される

前に、単独ブランド小売業として販売を企画している商品/商品カテゴ

リーが公表されているガイドラインに適合したものであるか否かを判断

するために、産業政策促進局(Department of Industrial Policy and

Promotion。DIPP)において、処理される。

39. 輸送及び輸送サポートサービス

以下の事業については、自動承認ルートにて、100%FDIが認められる。

39.1. パイプライン輸送、海上・水上輸送、内水輸送

39.2. 輸送サポートサービス

(1)高速道路の橋、有料道路、車両用トンネルの運営のような陸上輸送のサ

ポートサービス

(2)埠頭の維持・管理、船舶からの荷積み・荷降ろしのような水上輸送のサ

ポートサービス

(3)陸上、水上、航空輸送に付随する貨物のような輸送に付随するサービス

(4)旅客輸送、貨物輸送、冷凍輸送のための無人自動車の賃貸

(5)無人輸送機器、その他の輸送機器の賃貸

40.上記に記載のない分野/活動については、適用法令/当該分野のルール

規則に従うことで、自動承認ルートにて、100%FDIが認められる。

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添付資料3 FDI規制~小規模産業の独占製造のための留保品目一覧

小規模産業の独占製造のための留保品目一覧(2008年10月10日現在)

S. No S. No.(Gazette Notificationに基づく)

製品コード

製品名

20-21 食品及び関連産業

1. 3 202501 ピクルス及び果物のピクルス

2. 7 205101 パン

3. 11 21100102 マスタード油(溶剤抽出されたものを除く)

4. 13 21100104 挽きナッツ油(溶剤抽出されたものを除く)

27 木材及び木材製品

5. 47 276001 木製家具及び木製器具

28 紙製品

6. 79 285002 筆記帳及び記録帳

射出成形熱可塑性プラスチック製品

7. 147 30391201 直径110ミリ以下の導管を含む塩化ビニルパイプ

30393501 直径110ミリ以下の導管を含む塩化ビニルパイプの取付器具

その他化学薬品及び化学製品

8. 253 305301 ロウソク

9. 308 314201 洗濯用石鹸

10. 313 317001 安全マッチ

11. 314 318401 花火

12. 319 319902 線香

ガラス及びセラミック

13. 335 321701 ガラス製バングル

33-35 輸送用機器を除く機器

14. 364 340101 スチール製戸棚

15. 394 341004 ロール・シャッター

16. 402 34200602 スチール製椅子(全種類)

17. 404 34200702 スチール製テーブル(その他全種類)

18. 409 342099 スチール製家具(その他全種類)

19. 428 343302 南京錠

20. 447A 345207 ステンレス製器具

21. 474 345202 家庭用器具(アルミニウムによるもの)

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