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Title CRISPR/Cas9を活用したエピゲノム編集システムの開発
Author(s) 片山, 翔太
Citation 北海道大学. 博士(医学) 甲第12990号
Issue Date 2018-03-22
DOI 10.14943/doctoral.k12990
Doc URL http://hdl.handle.net/2115/70266
Type theses (doctoral)
Note 配架番号:2369
File Information Shota_Katayama.pdf
Hokkaido University Collection of Scholarly and Academic Papers : HUSCAP
学位論文
CRISPR/Cas9 を活用したエピゲノム編集シス
テムの開発
(Development of Epigenome Editing System
using CRISPR/Cas9)
2018年3月
北海道大学
片山翔太
学位論文
CRISPR/Cas9 を活用したエピゲノム編集シス
テムの開発
(Development of Epigenome Editing System
using CRISPR/Cas9)
2018年3月
北海道大学
片山翔太
目次
発表論文目録及び学会発表目録・・・・・1頁
緒言・・・・・・・・・・・・・・・・・2頁
略語表・・・・・・・・・・・・・・・・5頁
実験方法・・・・・・・・・・・・・・・6頁
実験結果・・・・・・・・・・・・・・10頁
考察・・・・・・・・・・・・・・・・19頁
総括および結論・・・・・・・・・・・21頁
謝辞・・・・・・・・・・・・・・・・22頁
引用文献・・・・・・・・・・・・・・23頁
1
発表論文目録及び学会発表目録
本研究内容は以下の論文に発表した。
1.片山翔太(責任著者)、森口徹生、大津直樹、近藤亨
A powerful CRISPR/Cas9-based method for targeted transcriptional
activation.
Angewandte Chemie International Edition, 55, 6452-6456, 2016.
本研究内容は以下の学会に発表した。
1.片山翔太、近藤亨
A powerful CRISPR/Cas9-based method for targeted transcriptional
activation.
Winter q-bio 2017. 2017 February. Kauai island, Hawaii, USA.
2.片山翔太、近藤亨
CRISPR/Cas9 を活用したエピゲノム編集システム
細胞を創る会 9.0. 2016年 11 月. 東京.
3.片山翔太、近藤亨
CRISPR/Cas9 を活用したエピゲノム編集システム
RNA frontier meeting 2016. 2016年 8月. 北海道ニセコ.
4.片山翔太、近藤亨
CRISPR/Cas9 を活用したエピゲノム編集システムの開発
日本農芸化学会北海道支部第1回講演会. 2016年 8月. 北海道函館.
5.片山翔太
CRISPR/Cas9 を活用した人工転写デバイスの創出
超異分野学会関東大会. 2016年 3月. 東京.
2
緒言
ゲノム編集とはゲノム DNA上の特定部位を切断できるヌクレアーゼを用いて
標的のゲノム配列を削除・置換・挿入する技術である。基本原理は、まずゲノ
ム DNA上の標的部位で2本鎖切断をおこし、次にその切断部位が修復される。
修復される際に、切断末端同士の接着にエラーが入りやすい性質があり、短鎖
の挿入や欠失が生じることとなる。その結果、フレームシフトなどの変異が誘
発され、遺伝子が改変される。現在ゲノム編集のツールとして、ZFN・TALEN・
CRISPR/Cas9が用いられている。
ゲノム編集の第 1世代として登場したのは ZFNである 1。多くの転写因子の
DNA結合ドメインである Zink-Fingerと制限酵素 FokⅠの DNA切断ドメインか
ら構成される。切断したい配列を挟むように1対の ZFNを作製する。ZFNは培
養細胞等で使用されたが、複数の Zink-Finger を連結するとお互いの塩基認識
への干渉がおこり、塩基配列の認識が低下してしまうという問題点や、標的配
列と Zink-Finger の結合様式が複雑で作製が煩雑であることから 2、広くゲノ
ム編集用として使用されるまでには至っていない。
第 2世代のゲノム編集として登場したのは TALENである 3。TALENは植物病原
細菌のキサントモナス族が有する DNA結合ドメイン TALEと FokⅠヌクレアーゼ
から構成されている。切断したい配列を挟むように1対の TALEN を作製する。
TALENは培養細胞や受精卵のゲノム編集に用いられるまでになった 4が、実際
の TALENの作製には多くのベクターの組み合わせが必要で、実験室レベルで行
うには煩雑なものである。
第 3世代のゲノム編集として登場したのは CRISPR/Cas9である。
CRISPR/Cas9は外来性ウイルスやプラスミドに対しての獲得免疫を与える微生
物の免疫システムとして、細菌や古細菌から発見されたものである 5。侵入し
た外来の DNAは CRISPR/Cas9 によって分解される。CRISPRの発見以来、45種
類以上の異なる Cas タンパク質群が同定されている 6。CRISPR-Casシステムは
Casタンパク質の種類や構造により、Ⅰ種、Ⅱ種、Ⅲ種の 3つに分類すること
ができる 7。現在、ゲノム編集用に世界的に広く使われている CRISPR システム
は、化膿性連鎖球菌に由来する第Ⅱ種 CRISPR/Cas システムである。
CRISPR/Cas9は、sgRNAとエンドヌクレアーゼから構成される。エンドヌク
レアーゼは化膿性連鎖球菌由来 Cas9ヌクレアーゼタンパク質である。Cas9は
2つの DNA切断ドメイン(RuvC1, HNH)を有しており、これが 2本鎖 DNAを切
断して DSBをおこす 6。sgRNAは PAM配列(5’-NGG; Nはすべての塩基)を有
する標的配列と相補的になるように設計し、RNA-DNA結合を介して Cas9-sgRNA
3
複合体形成が動員され、その部分で DSBをおこす 8-14。PAM配列は生物系統や
Casタンパク質の種類により異なっており、使用する Casタンパク質の種類に
応じた sgRNAの設計が必要とされる。DSB はその後、非相同性末端結合
(NHEJ)と相同組み換え(HDR)のどちらかの修復機構によって修復される。
NHEJと HDRはほぼすべての生物種の細胞に存在する修復機構である。
近年、Cas9のヌクレアーゼ活性を欠損させた Cas9 (dCas9)が開発され、
dCas9に活性化型の転写因子(VP16, VP64, p65, HSF1, Rta)を付加し、標的遺
伝子の領域へと輸送することにより、標的遺伝子を活性化する方法が開発され
た 15-25。これらの中で代表的な SAMと VPR に関して紹介されたい。SAMと呼ば
れるシステムは、1)dCas9-VP64、2)stem-loop RNA motifを付加改変した
sgRNA、3)MS2-p65-HSF1、これら 3つの要素からなる 15。しかしながら、プロ
モーター領域の DNA メチル化により発現がオフになっている遺伝子に対しては
転写活性化能は弱く、更にはオフターゲット効果も観察される(RNA motifと
MS2によりシステムを構築しているためと考えられる)という問題点がある。
VPRと呼ばれるシステムは、1) dCas9-VP64-p65-Rta、2) sgRNA、この 2つの要
素からなる 24。しかしながら、ヒト多能性幹細胞において、神経細胞分化を担
う転写因子を VPR で活性化した際の分化誘導効率は、わずか 8 % 以下である。
以上のように、1) dCas9-活性化型転写因子による転写活性化の効果は低い15,23 、2)細胞運命制御(多能性幹細胞からの神経細胞分化)の効率はわずか
8 % 以下である 24、3)転写活性化の効果が一時的である(細胞内でシステムを
コードするプラスミドが存在する間のみ)、4)システム構築の際に使用する人
工の活性化型転写因子が標的遺伝子以外の転写を調節してしまう可能性(生理
的レベルでの転写活性化ではない)という問題点が挙げられる。したがって、
1)転写を強力に活性化する、2)活性化効果が長期間持続、3)生理学的レベ
ルで標的遺伝子の発現を活性化する、4)効率的に細胞運命変換をおこす、こ
れら 4つの要素をすべて満たす新しいシステムが必要とされた。
私たちは、これを実現するための重要な点がどこにあるのかを模索した。そ
の結果、SAMや VPR を報告している論文には「Epigenome Editing」と記載され
いていた。Epigenome とは、DNAのメチル化やヒストン修飾の状態を指す。
「Epigenome Editing」と言うには、DNA のメチル化の状態を変える、もしく
は、ヒストン修飾の状態を変えることを言うのではないかと考えた。そうであ
れば、本当の「Epigenome Editing」を実現しようと考えた。私たちが注目し
たのは、DNAのメチル化である。DNAのメチル化は、プロモーター領域がメチ
ル化されている状態とされていない状態で、その下流の遺伝子の発現量に大き
な差を伴うことが多いからである。私たちは、メチル化プロモーター領域を非
メチル化プロモーター領域へと変える、本当の「Epigenome Editing」を実現
4
することを考えた。メチル化プロモーター領域を非メチル化プロモーター領域
へと完全に変えることができれば、標的遺伝子の発現を強力に活性化すること
ができ、またその遺伝子の活性化状態は維持されるものと推察された。
これを実現するために、私たちは、CRISPR/Cas9 を利用した新しいゲノム
DNAへの Knock-in 法である MMEJ法 26,27に着目した。MMEJはエラーがおこりや
すい末端結合に対して Micro homologous 配列(5-20塩基)を利用した DSB修
復メカニズムである 28。MMEJを利用することにより、ゲノム DNA へ目的とする
配列を比較的容易に挿入することができる。CRISPR / Cas9と MMEJの組み合わ
せにより、メチル化プロモーター領域を切断し、そこに非メチル化プロモータ
ーを挿入することができる。これにより、遺伝子発現がオフになっている遺伝
子を活性化する強力な手法の開発ができるのではないかと考えた。
エピゲノム編集システムの開発は遺伝子発現異常の病気に対する新たな治
療法として注目を集めている。しかしながら、DNAメチル化制御を行うエピゲ
ノム編集システム、DNAがメチル化されたプロモーター領域を非メチル化プロ
モーター領域へと変える(遺伝子発現をオフからオンへとする)有効なシス
テムは開発されていない。このシステムの実現は、現在治療法がない、遺伝
子発現異常の病気に対して新たな治療法を提供するものと考えられる。
5
略語表
2A: the foot-and-mouse disease virus 2A self-cleaving peptide
CRISPR/Cas9: clustered, regularly interspaced, short palindromic
repeat/CRISPR-associated protein 9
dCas9: nuclease-null Cas9, dead Cas9
DMEM: Dulbecco’s modified eagle medium
DSB: DNA double-stranded break
EC: embryonic carcinoma
ES: embryonic stem
FBS: fetal bovine serum
HA: homology arm
HDR: homology directed repair
MMEJ: microhomology-mediated end-joining
NF160: neurofilament 160
NHEJ: non-homologous end joining
PAM: protospacer-adjacent motif
PBS: phosphate buffered saline
qPCR: quantitative PCR
RT-PCR: reverse transcriptase-PCR
sgRNA: single-guide RNA
TALEN: transcription activator-like effector nuclease
TRED: transcriptional regulatory element database
TSS: transcription start site
ZFN: zinc finger nuclease
6
実験方法
1)ベクター構築
The all-in-one CRISPR/Cas9 plasmid は multiplex CRISPR/Cas9 assembly
System Kit(Addgene)を用いて作製した。sgRNA のためのテンプレート
oligonucleotide (sigma)を購入し、アニールした後に multiplex CRISPR/Cas9
plasmid に 挿 入 し た 。 sgRNA の デ ザ イ ン は 、 CRISPR direct
(http://crispr.dbcls.jp)を使用した。構築したベクターを all-in-one
CRISPR/Cas9 plasmid にまとめるために、Goldden gate assembly を使用した。
ヒト OLIG2 遺伝子の promoter に対するベクター pX330A-OLIG2sgRNA1-
DonorvectorsgRNA (sgRNA1) と pX330A-OLIG2sgRNA2-DonorvectorsgRNA
(sgRNA2)を構築した。ヒト NANOG 遺伝子の promoter に対するベクターpX330A-
NANOGsgRNA3-DonorvectorsgRNA (sgRNA3) と pX330A-NANOGsgRNA4-
DonorvectorsgRNA (sgRNA4)を構築した。 pX330S-donorvectorsgRNA vector
(empty sgRNA)も構築した。使用した oligonucleotide の配列は以下の通りであ
る 。 OLIG2 gRNA1 Fw: CACCGGGGCGCTACCGGCTGCCGT, OLIG2 gRNA1 Rev:
AAACACGGCAGCCGGTAGCGCCCC, OLIG2 gRNA2 Fw: CACCAAAACCGGCCGAGCCCCTAA,
OLIG2 gRNA2 Rev: AAACTTAGGGGCTCGGCCGGTTTT, NANOG gRNA3 Fw:
CACCATGAGAATTTCAATAACCTC, NANOG gRNA3 Rev: AAACGAGGTTATTGAAATTCTCAT,
NANOG gRNA4 Fw: CACCCGCCAGGAGGGGTGGGTCTA, NANOG gRNA4 Rev:
AAACTAGACCCACCCCTCCTGGCG, Donor vector gRNA Fw: CACCGCATCGTACGCGTACGTGTT,
Donor vector gRNA Rev: AAACAACACGTACGCGTACGATGC
ドナーベクターを構築するため、ヒト OLIG2 遺伝子とヒト NANOG 遺伝子の TSS
から上流 700bp までを HEL293T 細胞のゲノム DNA から KOD-plus polymerase
(Toyobo) を 用 い て 増 幅 し た 。 プ ロ モ ー タ ー 配 列 は 、 TRED database
(http://rulai.cshl.edu/TRED)より取得した。プライマーは、Hind3-OLIG2 Fw:
AAGCTTGCTGCCGTCGGAGCTGCAGC, Nco1-OLIG2 Rev: CCATGGGCACCTTTAGGGGCTCGGCC,
Hind3-NANOG Fw: AAGCTTCTCAGGAATTTAAGGTGCAT, Nco1-NANOG Rev :
CCATGGACCCACCCCTCCTGGCGGGC を用いた。 BigDye Terminator Kit version 3.1
(Applied Biosystems)を用いてシークエンスを確認した後に、pGL3 promoter
vector (Promega)に挿入した。
インサートフラグメントは、pGL3-700-bp OLIG2 (NANOG) promoter vector から
次に挙げるプライマーを用いて、PCR により作製した。OLIG2 (NANOG) 20-bp
homologyarm Fw, the pGL3 promoter OLIG2 (NANOG) Fw, Luc-2A Rev2, Luc-2A
Rev, and OLIG2 (NANOG) 20-bp homologyarm Rev for 700-bp OLIG2 (NANOG)/
7
OLIG2 20-bp homologyarm Fw: CCCAGCTGGGGGCGCTACCGGCTGCCGTCGGAGCTGCAGC,
pGL3 promoter OLIG2 Fw: GCTGCCGTCGGAGCTGCAGC, Luc-2A Rev2:
AAGTTAGTAGCTCCGCTTCCGGATCCCACGGCGATCTTTCCGC, Luc-2A Rev:
AGGTCCAGGGTTCTCCTCCACGTCGCCAGCCTGCTTCAGCAGG
CTGAAGTTAGTAGCTCCGCTTCCGGATCCCACGGCGATCTTTCC GCCCTTCTTGGCCTTTATGAGG,
OLIG2 20-bp homologyarm Rev: TCGATCTATAATAAGCATCCAGGTCCAGGGTTCTCCTC
NANOG 20-bp homologyarm Fw: CTAATGAGAATTTCAATAACCTCAGGAATTTAAGGTGCAT,
pGL3 promoter NANOG Fw: CTCAGGAATTTAAGGTGCAT, NANOG 20-bp homologyarm
Rev: TGAAGGCTCTATCACCTTAGAGGTCCAGGGTTCTCCTCCA
;OLIG2 (NANOG) Ctrl 20-bp homologyarm Fw, Luc-2A Fw, Luc-2A Rev2, Luc-
2A Rev, and OLIG2 (NANOG) 20-bp homologyarm Rev for 0-bp OLIG2 (NANOG)/
OLIG2Ctrl 20-bp homologyarm Fw:
CTATAAAAACCGGCCGAGCCATGGAAGACGCCAAAAACATAAAG, NANOGCtrl 20-bp
homologyarm Fw: GCCCGCCAGGAGGGGTGGGTATGGAAGACGCCAAAAACATAAAG
インサートフラグメントのリン酸化後、 PCR 産物「 vector PCR Fw:
CCAaacacgtacgcgtacgatgcTCGACTGGCGTAATAGCGAAGA と vector PCR Rev:
CCAaacacgtacgcgtacgatgcAGTGAGGGTTAATTGCGCGC で pCS2P-krtt1c19e-linker-
eGFP-mut (kindly provided by Dr. Atsuo Kawahara)を増幅したもの」とライ
ゲーションした。pCS2P-700bp OLIG2 vector と pCS2P-700bp NANOG vector を
構築した。pCS2P-0bp OLIG2 vector と pCS2P-0bp NANOG vector を構築した。
2)細胞培養
HEK293T細胞、NTERA-2細胞は 10 % FCS を含む DMEMに 0.5 % ペニシリン/
ストレプトマイシンを混合した培地で培養した(通常培地)。
3)トランスフェクション
HEK293T細胞へは Lipofectamine 3000 (Invitrogen)、NTERA-2細胞へは
NucleofectorTM kit (Lonza) と Nucleofector device (Lonza)を用いた。
プラスミド濃度、細胞数、プレートは次の通りである。240 ng for the
sgRNA1 (sgRNA3), sgRNA2 (sgRNA4), and empty sgRNA vectors and 120
ng for the 700-bp OLIG2 (NANOG) donor vector and 0-bp OLIG2
(NANOG) donor vector into 1x105 cells using a six-well plate. The
700-bp OLIG2 (NANOG) system: sgRNA1 (sgRNA3), sgRNA2 (sgRNA4), and
700-bp OLIG2 (NANOG) donor vectors, the 0-bp OLIG2 (NANOG) system:
sgRNA2 (sgRNA4), empty sgRNA, and 0-bp OLIG2 (NANOG) donor
vectors.
8
4)ルシフェラーゼレポーターアッセイ
Dual-Luciferase reporter assay system (Promega) と Glo-Max
detection system (Promega)を用いて行った。
5)RT-PCR
各細胞を培養皿より回収し、全 RNA を Trizol (Invitorgen)を用いて精製
し、transcriptor first-strand cDNA synthesis kit (Roche)を使用して
cDNAを合成した。PCRは Taq Pol (Greiner Bio-one)を用いた。qPCRは Power
SYBR Green Master Mix (Applied Bioscience)を用いた。Primerは次の通
りである。OLIG2 rt-pcr Fw: tccaccaagaaggacaagaag, OLIG2 rt-pcr Rev:
agttggtgagcatgaggatgt, NANOG rt-pcr Fw: CAGCCCCGATTCTTCCACCAGTCCC,
NANOG rt-pcr Rev: CGGAAGATTCCCAGTCGGGTTCACC, GAPDH Fw:
ACCACAGTCCATGCCATCAC, GAPDH Rev: TCCACCACCCTGTTGCTGTA, NANOG s1678:
TGGCTGCCGTCTCTGGCTATAGAT, NANOG as1797: AAGCCTCCCAATCCCAAACAATAC,
ACTB Fw: AGAAGAGCTATGAGCTGCCTGACG, ACTB Rev:
TACTTGCGCTCAGGAGGAGCAATG
6)Genomic PCR/ Off-target analysis
ゲノム DNAは HEK293T細胞と NTERA-2細胞から Protease K 37℃ overnight
処理により抽出した。PCRは KOD plus(toyobo)を用いて行った。
使 用 し た sgRNA の Off-target 予 測 は CRISPR design tool
(http://crispr.mit.edu/)を用いて行った。PCR で増やした Off-target
candidateは前述の方法でシークエンス解析した。プライマーは以下の通り
である。
OLIG2 gRNA1 Off1 fw: TGGGGTGGTTCGAATAGTTG, OLIG2 gRNA1 Off1 rv:
AAGCGTTTGCACACAGTGAC, OLIG2 gRNA1 Off2 fw: AGGGTTTTGCTCCAGGTTTT,
OLIG2 gRNA1 Off2 rv: GCCATCCTGTGAGTGGATTT, OLIG2 gRNA2 Off1 fw:
TCAGCAGCATGAAAATGGAC, OLIG2 gRNA2 Off1 rv: TCCAAAATGCCCTCATCCTA,
OLIG2 gRNA2 Off2 fw: AGATGCCATAACGGAGAGGA, OLIG2 gRNA2 Off2 rv:
TTCGAGAGTGAGGTTGAACG, NANOG gRNA3 Off1 fw: TGCAACCACATAATCCAGAAA,
NANOG gRNA3 Off1 rv: CCTCCAAGTGTGTCCATTCA, NANOG gRNA3 Off2 fw:
CGGTGGTTCCTCAAGAAAAA, NANOG gRNA3 Off2 rv: CCAAACCAAAGGTAGGACCA,
NANOG gRNA4 Off1 fw: CTCAGCCTTGAAACCTTGCT, NANOG gRNA4 Off1 rv:
CCATGGGGAGAGCCTTTAAT, NANOG gRNA4 Off2 fw: TACCATCCTGCTTGGAGACA,
NANOG gRNA4 Off2 rv: GGGTGTTTGCTGGGATTGTA
9
7)免疫組織化学
細胞を 2 % PFA 溶液で室温に 5分間固定した後、0.2 % Triton X-100 を含む
10 % FCSブロッキング溶液で室温にて 30分間の前処理を来ない、一次抗体
を室温にて 60 分間、二次抗体を室温にて 60 分間反応させた。核は DAPI (1
µg/ml)で対比染色した。抗原を検出するために以下の抗体を使用した。
Mouse monoclonal anti-βIII-tubulin (1:100, Sigma), mouse monoclonal
anti-neurofilament 160 (1:100, Sigma), Alexa488-conjugated goat anti-
rabbit IgG (1:500, Invitrogen), Alexa568-conjugated goat anti-mouse
IgG (1:500, Invitrogen)
8)Flow cytometry
細胞を 0.05 %トリプシンで剥がした後に、4 %パラホルムアルデヒドで 10
分処理した。FACS buffer (PBS, 5 % FBS, and 2 mM EDTA)で細胞を洗浄し
た後に、1 % BSA と 0.1 % Triton X-100を含んだ PBSで 45分処理した。
次いで、一次抗体 30分、二次抗体 30 分の処理をした。使用した抗体は以下
の通りである。
OLIG2 (1:50, R&D), NANOG (1:50, COSMO BIO), anti-mouse IgG Alexa568
(1:500, Invitrogen), anti-rabbit IgG Alexa594 (1:500, Invitrogen)
9)Western blotting
細胞を 0.05 %トリプシンで剥がしたのちに、Lysis buffer 内で処理し抽出
液を回収し、SDS-PAGE にてタンパク分離後に Hybond-P へ転写した。5 %ス
キムミルクを含む TBS-T でブロッキングを 20 分間行い一次抗体に 4°C で
16時間、一次抗体に対応した二次抗体を常温で一時間反応させ、標識された
タンパク質を化学発光システム (ECL; Amersham Bioscience Corp, USA) に
より検出した。使用した抗体は以下のとおりである。
rabbit anti-OLIG2 (1:200, R&D), mouse anti-NANOG (1:200, COSMO BIO),
mouse anti-GAPDH (1:1000, Sigma), anti-mouse IgG HRP (1:3000, Santa
Cruz), anti-rabbit IgG HRP (1:3000, Santa Cruz)
10)統計解析
two-tailed Student’s t-testを用いた。p<0.05を統計学的に有意とし
た。
本研究は北海道大学遺伝子組換え実験等安全管理規程を遵守して行った。
10
実験結果
1.ヒト OLIG2をモデル標的として立証
私たちのエピゲノム編集システムは(図1a)である。2つの sgRNA-Cas9 複
合体で標的遺伝子のメチル化プロモーター(TSS から上流 700 bp)領域を切断
し,そこに短鎖相同末端結合(MMEJ)を利用し、20 bp のマイクロホモロジー
アームを付けた DNA フラグメント(非メチル化プロモーター領域・ルシフェラ
ーゼレポーター・2A からなる)を挿入する。これにより,標的遺伝子のプロモ
ーターのメチル化状態が非メチル化状態へと解除され,強力な転写活性化が誘
導される。転写活性はルシフェラーゼ活性を測定することにより、モニターする
ことができる。このシステムをテストするため、OLIG2 遺伝子(神経細胞分化、
オリゴデンドロサイト分化を担う転写因子 29,30)をモデル標的とした(図1b)。
ヒト OLIG2 の TSS 上流 700 bp が TRED データベースにてプロモーターとし
て登録されており、遺伝子発現に必要不可欠な領域であるとの報告 31,32 がある
ことから、TSS から上流 700 bp までの領域を標的とした。2つのベクターを作
製した。0-bp OLIG2 ベクター(ルシフェラーゼと 2A を OLIG2 TSS へ挿入、
コントロールとして使用した)、700-bp OLIG2 ベクター(メチル化プロモータ
ーを非メチル化プロモーター・ルシフェラーゼ・2A へ置換する)である。これ
らのベクターを HEK293T 細胞へトランスフェクションし、5 日後に観察した
結果、700-bp OLIG2 をトランスフェクションした群において強いルシフェラー
ゼ活性(バックグラウンドに対して 270 倍)を観察した(図1c)。700-bp OLIG2
をトランスフェクションした細胞群において、RT-PCR により、OLIG2 の発現
誘導が観察された(図1d)。qPCR 解析によって、0-bp OLIG2 を導入した群
に対して、700-bp OLIG2 を導入した群では 140 倍の転写誘導がおこっている
ことが確認された(図1e)。700-bp OLIG2 と 0-bp OLIG2 がゲノム DNA 上の
指定の領域に正確に挿入されていることが PCR により、確認された(図1f)。
これらの結果から、この CRISPR/Cas9 ベースのエピゲノム編集システムが内
在性の遺伝子の発現を活性化するために利用できることが示された。
11
12
図1. 内在性 OLIG2 遺伝子の転写活性化。 a) CRISPR/Cas9 ベースのエピゲノ
ム編集システムの図である。b) OLIG2 (700-bp, 0-bp)エピゲノム編集ベクター
である。矢印はゲノム PCR のプライマーの位置を示す。 c) ルシフェラーゼ活
性の測定。エラーバーは S.D. (n=3)を示す。*は p<0.01 である。 d) RT-PCR を
示す。 e) qPCR を示す。エラーバーは S.D. (n=3)を示す。*は p<0.01 である。
f) ゲノム PCR を示す。b)で示したプライマーを使用した。
13
2.ヒト多能性幹細胞から神経細胞への分化誘導
エピゲノム編集システムによる OLIG2 の発現誘導が細胞運命転換を効率的
に起こすか否かを確認するため、このシステムをヒト胚性癌細胞株 (NTERA-
2)へ応用した。トランスフェクション 7 日後、700-bp OLIG2 を導入した群に
おいて、突起を伴った形態学的変化を観察した(図2a)。その細胞群は、神経細
胞分化の初期マーカーであるβⅢ-tubulin での免疫染色に対して、陽性であっ
た(図2a)。0-bp OLIG2 を導入した群と、何も導入していない群では、βⅢ-
tubulin での免疫染色は陰性であった。フローサイトメトリー解析は、700-bp
OLIG2 を導入した群において、20 %の細胞がβⅢ-tubulin 陽性であることを示
し、0-bp OLIG2 を導入して群においては完全に陰性であった(図2b)。トラン
スフェクション 4 日後、700-bp OLIG2 を導入した細胞群において、RT-PCR に
より、OLIG2 の発現誘導が観察された(図2c)。qPCR 解析により、0-bp OLIG2
を導入した群に対して、700-bp OLIG2 を導入した群では 120 倍の転写誘導が
おきていることが確認された(図2d)。700-bp OLIG2 と 0-bp OLIG2 がゲノム
DNA上の指定の領域に正確に挿入されていることがPCRにより確認された(図
2e)。これらの結果から、OLIG2 プロモーターのエピゲノム編集システムが、
NTERA-2 から神経細胞への分化を効率的に誘導するのに十分であることが示
された。
14
図2.CRISPR/Cas9 ベースのエピゲノム編集システムによる NTERA-2 の神経
細胞分化誘導。a) 神経細胞分化初期マーカーβⅢ-tubulin (AlexaFluor568, 赤)
の免疫染色。核は DAPI (青)で染色。スケールバーは 50 µm を示す。b) βⅢ-
tubulin 陽性細胞のフローサイトメトリー解析。 c) RT-PCR を示す。 d) qPCR
解析。エラーバーは S.D. (n=3)を示す。*は p<0.001 を示す。e) ゲノム PCR を
示す。図1b で示したプライマーを使用した。
15
3.ヒト NANOG をモデル標的として立証
このエピゲノム編集システムが他のメチル化プロモーターを活性化できるか
否かを確認するため、私たちは NANOG(ES 細胞や初期胚における多能性の維
持に必須の転写因子 33,34)に着目した。ヒト NANOG 遺伝子の TSS から上流
300 bp が重要なメチル化サイトであることが示されて 35 おり、さらにヒト
NANOG の TSS の上流 700 bp がプロモーターとして TRED に登録されている
ことから、私たちは NANOG の TSS から上流 700 bp を標的とした。2 つのベ
クターを作製した、0-bp NANOG ベクター(ルシフェラーゼと 2A を NANOG
TSS へ挿入、コントロールとして使用)、700-bp NANOG ベクター(メチル化
プロモーターを非メチル化プロモーター・ルシフェラーゼ・2A へ置換する)で
ある(図3a)。HET293T 細胞へトランスフェクション 5 日後、700-bp NANOG
をトランスフェクションした群において強いルシフェラーゼ活性(バックグラ
ウンドに対して 700 倍)を観察した(図3b)。700-bp NANOG をトランスフェ
クションした細胞群において、RT-PCR により、NANOG の発現誘導が観察さ
れた(図 3c)。qPCR 解析により、0-bp NANOG を導入した群に対して、700-
bp NANOG を導入した群では 280 倍の転写誘導がおきていることが確認され
た(図3d)。700-bpNANOG と 0-bp NANOG がゲノム DNA 上の指定の領域に
正確に挿入されていることが、PCR により確認された(図3e)。これらの結果
から、このエピゲノム編集システムが、メチル化によってサイレンスされている
プロモーターを活性化できることが示された。
16
図3.内在性 NANOG 遺伝子の転写活性化。 a) NANOG (700-bp, 0-bp)エピゲ
ノム編集ベクター。矢印はゲノム PCR のプライマーの位置を示す。 b)ルシフ
ェラーゼ活性の測定。エラーバーは S.D. (n=3)を示す。*は p<0.001 を示す。 c)
RT-PCR を示す。 d) qPCR 解析。エラーバーは S.D. (n=3)を示す。*は p<0.001
を示す。 e) ゲノム PCR を示す。b)で示したプライマーを使用した。
17
4.ヒト OLIG2 と NANOG タンパク質の誘導
これらのシステムが OLIG2 と NANOG タンパク質を誘導しているか否かを
確認するため、HEK293T 細胞に導入した後に、ウェスタンブロットを行った。
700-bp OLIG2 と 700-bp NANOG がそれぞれのタンパク質を誘導しているこ
とが確認された(図4)。
図4.エピゲノム編集システムによる OLIG2 と NANOG の誘導。左)OLIG2
システムをトランスフェクション細胞、右)NANOG システムをトランスフェ
クションした細胞。ともにトランスフェクション 4 日後に細胞を回収し、Anti-
OLIG2, NANOG, GAPDH (Control)抗体を用いた。
5.オフターゲット効果の評価
このエピゲノム編集システムがOff-target mutationを誘発するかどうかたし
かめるために、私たちはそれぞれの gRNA に対して、2 つのもっとも高い Off-
target サイト「CRISPR design tool (http://crispr.mit.edu/)で予測」を選択し
た。私たちは off-target サイトを PCR で増幅し(図5a)、それらのシークエン
スを解析した。その結果、変異がないことが確認された(図5b)。
18
図5.OLIG2 と NANOG sgRNA の Off-target 解析。a) それぞれの sgRNA に
対して2つの Off-target 候補サイトを、システムを導入していないゲノム(-)、
システムを導入したゲノム(+)から、PCR をかけた。M: 100 bp ladder marker
b) Off-target 解析の概要。Score は CRISPR design tool で計算された。
6.長期間の転写活性化
エピゲノム編集システムによる転写活性化が長期間維持されるか否かを確認
するため、HEK293T 細胞へシステムを導入後 21 日目に細胞を回収し、qPCR
により、発現量の定量をおこなった。その結果、21 日目においても、3 日目と
ほぼ同等の発現を確認した(図6)。
図6.OLIG2 発現の qPCR 解析。システム導入後、赤が 21 日目、青が 3 日目
を示す。エラーバーは S.D. (n=3)を示す。
19
考察
Cas9 を基盤としたゲノム編集システムは、様々な細胞やモデル動物で使われ
ている 36。特に、多能性幹細胞を含むヒト細胞へのこの系の適用は、疾患モデル
の作成および治療法の発見に有用である 37-40。つまり、CRISPR / Cas9 システ
ムは幅広いアプリケーションに大きな可能性を秘めている。
dCas9 が開発されて以来、CRISPR/Cas9 ベースの転写活性化システムがたく
さん開発された。例えば、CRISPR/Cas9 ベースの光応答性転写活性化システム
がされ、dCas9・光応答性転写因子 CRY2・その結合パートナーCIB1・p65 転写
因子からなるものである 41,42。このシステムは青色光照射後わずか数時間で転
写活性化を急速に誘導できるシステムであるが、転写活性化能は非常に弱く、細
胞運命転換を起こすことはできない。CRISPR/Cas9 と p300 アセチルトランス
フェラーゼを組み合わせたシステムも報告された 43。このシステムは内在性遺
伝子の転写活性化を起こすことはできるが、転写活性化能は弱く、ヒト多能性幹
細胞からの分化誘導は起こすことはできない。一方、私たちのエピゲノム編集シ
ステムはメチル化プロモーターを非メチル化プロモーターに変えることにより、
ヒト多能性幹細胞において OLIG2 発現を強力に誘導し、神経細胞分化誘導を高
効率に起こすことができる。私たちのエピゲノム編集システムの弱点としては、
dCas9-VP64 システム 15 のように、同時に複数遺伝子の発現を活性化させるこ
とが難しい点にある。
非メチル化標的プロモーターを有するベクターを構築するため、形質転換コ
ンピテント大腸菌 DH5 株(hsdR17(rk-、mk +)、recA1、relA1、supE44、thi-
1、endA1、gyrA96)44 が広く使われている。コンピテント大腸菌株の多くは Dam
(methylates adenine in GATC), Dcm (methylates internal cytocine in
CCAGGand CCTGG), and EcoK1 (methylates adenine in AAC(N6)GTGC and
GCAC(N6)GTT)と呼ばれる 3 つのメチルトランスフェラーゼを持っているが、
それらはどれも CpG(哺乳類メチルトランスフェラーゼ Dnmt1, Dnmt3a,
Dnmt3b で認識される 45)を標的としていない。さらに、私たちのデータは、非
メチル化 OLIG2 および NANOG プロモーターが、内因性 OLIG2 および
NANOG mRNAの発現をルシフェラーゼ遺伝子と同様に誘導することを示して
いる。従って、大腸菌 DH5 株のメチルトランスフェラーゼ活性が私たちのエピ
ゲノム編集システムに与える影響はない。
私たちはメチル化プロモーターを非メチル化プロモーターに変換することで、
内在性の遺伝子の発現を強力に誘導することを示した。しかし、これは細胞内で
メチル化されていない状態がどれくらい長く保持されるかという問題を提起し
20
た。Dnmt3a および Dnmt3b の両方とも、CpG 部位での新規メチル化を誘導す
ることが知られており、編集されたプロモーターにおけるメチル化動力学は、そ
れらの発現レベルに依存するようである。Dnmt3a および Dnmt3b の両方を高
発現するマウス ES 細胞 46では、5-アザ-2-デオキシシチジン(5-Aza)を用いて
脱メチル化されたプロモーターが再メチル化されて恒常状態になるまでに 11日
間かかることが示されている 47。
HumanProteinAtlas (http://www.proteinatlas. org/) からのデータでは、
HEK293T細胞におけるDnmt3aとDnmt3bの発現量は比較的低いが、NTERA-
2 におけるそれらの発現量はかなり高い。システム導入後 7 日目の NTERA-2 に
おいて OLIG2 の発現を確認している(図2c, d)ので、少なくとも 7 日目まで
は活性化状態が高いまま維持されている。HEK293T 細胞においては、トランス
フェクション後 21 日目で OLIG2 の発現を確認してる(図6)。つまり、Dnmt3a
や Dnmt3b の発現量に依存するが、私のエピゲノム編集システムは標的遺伝子
の発現をある一定期間活性化していると考えられる。
本発明のエピゲノム編集システムは、複雑な転写ネットワークを生理学的レベ
ルで解明する、人工遺伝子回路を作成する、細胞工学やエピゲノム医療に応用で
きる可能性を示している。
21
総括および結論
1) ヒト細胞において、メチル化プロモーターを非メチル化プロモーターに
変えることにより、強力な転写活性化が誘導できるエピゲノム編集シス
テムを開発した。
2) このエピゲノム編集システムを多能性幹細胞へと応用することにより、
多能性幹細胞から神経細胞への分化誘導ができることを示した。細胞運
命転換が誘導できるほどの強力な転写活性化であることを示している。
3) 本システムにより誘導された活性化状態は、数日で消失するものではな
く、ある一定期間維持されることを示した。
4) 本システムは転写因子を含んでおらず、生理的レベルでの転写活性化が
可能なシステムである。また、Off-target サイトがなかったことから、
標的遺伝子特異的であるといえる。
5) 本システムは、医学・生命科学研究において様々なアプリケーションの
可能性を秘めており、今後医療応用やその他の研究が期待される。
22
謝辞
稿を終えるにあたり、ご指導、ご協力を賜わりました北海道大学遺伝子病制御
研究所幹細胞生物学分野の教室員をはじめ多くの関係者の皆様に心より感謝申
し上げます。また、本研究の機会をくださいました北海道大学遺伝子病制御研究
所幹細胞生物学分野近藤亨教授に謝意を表します。
23
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