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DACS(統合的文書管理システム)を利用した診療録を構成する文書種の 分析 上田 郁奈代 藤井 歩美 堀島 裕之 村田 泰三 中川 里恵 武田 理宏 松村 泰志 大阪大学医学部附属病院 医療情報部 Analysis of document categories composing a medical record by the data stored in DACS (Document Archiving and Communication System) Ueda Kanayo Fujii Ayumi Horishima Hiroyuki Murata Taizo Nakagawa Rie Takeda Toshihiro Matsumura Yasushi Department of Medical Informatics, Osaka University Hospital Osaka University Hospital updated its information systems in January 2010, and began using completely paperless electronic medical records in April. Our hospital information systems are supplied by several different vendors, and one issue has been the risk that medical records could be physically dispersed in the course of management. In addition, letters of consent, letters of reference and other paper documents needed to be integrated. The Hospital aimed to resolve these issues by adopting the DACS and storing all medical records in DACS by sorting them according to document categories. Documents stored in DACS may be viewed in chronological order for each patient in Matrix View, and by narrowing down the document categories in Tree View. Searching and viewing is also possible by document category for multiple patients. This enabled all the documents comprising medical records to be systematically categorized according to the document category codes. This study reports on the survey results on the document categories comprising the medical records and the volume of each by analyzing the DACS data. As of May, there were 2,260 document category codes, broken down into 1,051 categories of electronic medical record systems, 49 categories of other systems, and 1,160 categories of scanned documents.The number of documents stored in DACS from April onward was around 215,700. These can be broken down into around 89,100 documents from electronic medical record systems, around 77,900 documents from other systems, around 48,200 scanned documents, and around 500 documents from virtual printers. It used to be difficult to ascertain the categories of paper medical records and accurate volumes within each category, but DACS has enabled these to be analyzed accurately. Keywords: Document, Electronic Health Record , Medical Recoad 1. 1. 1. 1. 1. はじめに 大阪大学医学部附属病院(以下、当院)では2010年 4月以前は紙の診療録と電子カルテを並行運用して いた。2010年1月に病院情報システムを更新し、4月 から完全ペーパーレス電子カルテ運用を開始した。当 院の病院情報システムは電子カルテシステム(NEC: MegaOak HR)をメインにマルチベンダにより構成し ており、診療録の一部が物理的に分散管理される問 題があった。また、将来、ベンダーを変更する場合、そ れまでのデータが閲覧できなくなる可能性も考えられ た。 また、今回の完全ペーパーレス運用を行う上で、紙で 発生する同意書や他院からの紹介状等の記録も、統 合化して電子保管する必要があった。 当 院 で は DACS(Document Archiving and Communication System)を導入し、全ての診療録 をデータ単位ではなく文書単位で扱い、DACSに一元 的に保存することで、これらの問題の解決を図った。 DACSに蓄積された文書は、全て、患者毎にDACSの Matrix Viewerでの時系列表示とTree Viewerで 文書種等に絞っての統合的な閲覧が可能であり、複 数の画面を切り換える必要がない。また、Document Register Viewerでは、患者をまたいで文書種単位 で検索・閲覧することも可能である。 これらのViewerで全文書を見やすく表示させるため に、文書種をカテゴリー別に分類した文書種コードを 付けて管理する必要があった。これにより診療録を構 成する全文書が文書種コードで体系的に分類される 結果となった。 本研究ではDACSに蓄積された2010年4月から7月 に発生した診療録の文書データを解析し、診療録を構 成する文書種と、それぞれの登録数について調査した ので報告する。 2. 2. 2. 2. 2. 方法 2. 2. 2. 2. 2.1 文書種コー コー コー コー コードの検討 当院にて紙媒体で運用されている書類のうち、診療録 として保存する必要がある文書を把握する必要があっ た。そこで、全診療科と部署から実際の書類を収集し、 それらをカテゴリー毎に分類した。カテゴリーは①同意 書・説明書、②初診・経過記録、③サマリ、④指示・ チェックリスト(申し送り時等に使用するリスト類)、⑤ 検査報告書、⑥手術・処置、⑦看護記録、⑧チーム医 2-I-1-4 2-I-1-4 2-I-1-4 2-I-1-4 2-I-1-4 /2-I-1: /2-I-1: /2-I-1: /2-I-1: /2-I-1: 医療情報学 30(Suppl.),2010 887

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DACS(統合的文書管理システム)を利用した診療録を構成する文書種の分析

上田郁奈代 藤井歩美 堀島裕之 村田泰三 中川里恵 武田理宏松村泰志

大阪大学医学部附属病院 医療情報部

Analysis of document categories composing a medical record by thedata stored in DACS (Document Archiving and Communication

System)Ueda Kanayo Fujii Ayumi Horishima Hiroyuki Murata Taizo

Nakagawa Rie Takeda Toshihiro Matsumura YasushiDepartment of Medical Informatics, Osaka University Hospital

Osaka University Hospital updated its information systems in January 2010, and began using completely paperlesselectronic medical records in April. Our hospital information systems are supplied by several different vendors, and oneissue has been the risk that medical records could be physically dispersed in the course of management. In addition, lettersof consent, letters of reference and other paper documents needed to be integrated. The Hospital aimed to resolve theseissues by adopting the DACS and storing all medical records in DACS by sorting them according to document categories.Documents stored in DACS may be viewed in chronological order for each patient in Matrix View, and by narrowing downthe document categories in Tree View. Searching and viewing is also possible by document category for multiple patients.This enabled all the documents comprising medical records to be systematically categorized according to the documentcategory codes. This study reports on the survey results on the document categories comprising the medical records and thevolume of each by analyzing the DACS data.

As of May, there were 2,260 document category codes, broken down into 1,051 categories of electronic medical recordsystems, 49 categories of other systems, and 1,160 categories of scanned documents.The number of documents stored inDACS from April onward was around 215,700. These can be broken down into around 89,100 documents from electronicmedical record systems, around 77,900 documents from other systems, around 48,200 scanned documents, and around 500documents from virtual printers.

It used to be difficult to ascertain the categories of paper medical records and accurate volumes within each category, butDACS has enabled these to be analyzed accurately.

Keywords: Document, Electronic Health Record , Medical Recoad

1.1.1.1.1. はははははじじじじじめめめめめににににに大阪大学医学部附属病院(以下、当院)では2010年4月以前は紙の診療録と電子カルテを並行運用していた。2010年1月に病院情報システムを更新し、4月から完全ペーパーレス電子カルテ運用を開始した。当院の病院情報システムは電子カルテシステム(NEC:MegaOak HR)をメインにマルチベンダにより構成しており、診療録の一部が物理的に分散管理される問題があった。また、将来、ベンダーを変更する場合、それまでのデータが閲覧できなくなる可能性も考えられた。また、今回の完全ペーパーレス運用を行う上で、紙で発生する同意書や他院からの紹介状等の記録も、統合化して電子保管する必要があった。当 院 で は DACS(Document Archiving andCommunication System)を導入し、全ての診療録をデータ単位ではなく文書単位で扱い、DACSに一元的に保存することで、これらの問題の解決を図った。DACSに蓄積された文書は、全て、患者毎にDACSのMatrix Viewerでの時系列表示とTree Viewerで文書種等に絞っての統合的な閲覧が可能であり、複

数の画面を切り換える必要がない。また、DocumentRegister Viewerでは、患者をまたいで文書種単位で検索・閲覧することも可能である。これらのViewerで全文書を見やすく表示させるために、文書種をカテゴリー別に分類した文書種コードを付けて管理する必要があった。これにより診療録を構成する全文書が文書種コードで体系的に分類される結果となった。本研究ではDACSに蓄積された2010年4月から7月に発生した診療録の文書データを解析し、診療録を構成する文書種と、それぞれの登録数について調査したので報告する。

2.2.2.2.2. 方方方方方法法法法法

2.2.2.2.2.11111 文文文文文書書書書書種種種種種コーコーコーコーコードドドドドののののの検検検検検討討討討討当院にて紙媒体で運用されている書類のうち、診療録として保存する必要がある文書を把握する必要があった。そこで、全診療科と部署から実際の書類を収集し、それらをカテゴリー毎に分類した。カテゴリーは①同意書・説明書、②初診・経過記録、③サマリ、④指示・チェックリスト(申し送り時等に使用するリスト類)、⑤検査報告書、⑥手術・処置、⑦看護記録、⑧チーム医

2-I-1-42-I-1-42-I-1-42-I-1-42-I-1-4 一一一一一般般般般般口口口口口演演演演演/2-I-1:/2-I-1:/2-I-1:/2-I-1:/2-I-1:一一一一一般般般般般口口口口口演演演演演3333333333

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療・コメディカル、⑨入退院管理等、⑩紹介状・診断書、⑪その他の11種類とした。更に文書生成システム毎に特有のコードを付与して、文書種コードから発生元が判別できるようにした。

2.2.2.2.2.22222 DACSDACSDACSDACSDACSへへへへへののののの登登登登登録録録録録DACSへの文書の登録方法は大きく分けて下記の3パターンがある。①病院情報システムで発生した文書は、発生都度もしくはバッチ処理でDACSに登録する。②紙で発生した文書は、スキャンセンターもしくは各部署に設置したスキャナでDACS登録する。③FileMaker等を用いて各診療科で独自に文書を作成する場合、プリントアウトしてスキャンを行うのではなく、それらのシステムからDACS登録というプリンタドライバーを選択し、直接DACSに登録する。

2.2.2.2.2.33333 DACSDACSDACSDACSDACS登登登登登録録録録録文文文文文書書書書書デーデーデーデーデータタタタタののののの分分分分分析析析析析2010年4月から7月までにDACSに登録されたデータを抽出し、文書種別、発生システム別に分析した。

3.3.3.3.3. 結結結結結果果果果果7月末日でDACSの文書種コードマスタに登録されている文書種コード数は2260種類であり、カテゴリー別に同意書・説明書689種類、初診・経過記録184種類、サマリ127種類、指示・チェックリスト49種類、検査報告書843種類、手術・処置78種類、看護記録92種類、チーム医療・コメディカル70種類、入退院管理等51種類、紹介状・診断書56種類、その他21種類であった。

表1 発生システム別 文書種コード数

2010年4月から7月の間にDACSに蓄積された文書は737,579件であった。発生元別の文書種コード数と登録文書の割合を表1、表2にまとめた。

表2 発生システム別 登録文書割合

表3 DACS登録文書 カテゴリー別割合

DACS登録文書全体のカテゴリー別登録割合は、初診・経過記録52.2%、入退院管理等11.1%、検査関係11.1%の順に多かった。詳細は表3に示す。発生システム別では電子カルテシステムの次にスキャ

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ン登録が多かった。スキャン登録の文書全体では同意書24.4%、院外からの紹介状・診断書18.6%、初診・経過記録13.7%の順に多かった。詳細は表4に示す。次に登録件数が多い発生システムは医療文書作成支援システムであった。カテゴリー別登録割合を表5に示す。

表4 スキャン登録 カテゴリー別登録割合

表5 医療文書作成支援システム カテゴリ-別割合

初診・経過記録の発生別内訳は、電子カルテシステムが63.1%と一番多かった。初診・経過記録の発生元別の詳細を表6に示す。検査関係は放射線レポートシステムから発生したものが多く、治療RISも含めて検査関係の39.3%を占めていた。検査関係の発生別の詳細を表7に示す。次に、診療科毎に発生した文書の割合をカテゴリー毎に表8に示した。

表6 初診・経過記録の発生別割合

表7 検査関係文書の発生別割合

4.4.4.4.4. 考考考考考察察察察察文書発生システム別登録割合(表1)では、スキャン登録の文書種コードが1,160種類と非常に多かった。登録割合も全体の16.45%と高かった(表2)。同意書や問診票などの紙で発生する文書については、DACSに登録する上で必要な文書属性情報を持たせたQRコードを付与した状態でプリントアウトし、使用している。当院では術式や検査毎に説明書を作成し、同意書とセットで運用している。それらの文書にそれぞれ文書種コードを付与しているため、スキャン登録の文書種コードが多くなった。同意書、説明書、問診票以外にも、他院からの紹介状等のスキャン登録を行う件数が多かった。次に文書種コードが多かったシステムは、放射線レポートシステムで425種類であった。これは、放射線検査のレポートをモダリティと部位毎に分けて文書種コードを付与しているためである。このように詳細に分類を行ったため、患者毎に同一モダリティと同一部位の検査レポートの2つの条件で文書を絞り込み、一画面に二文書を表示して比較ができるViewerの機能が有効に活用できた。三番目に文書種コードが多かったシステムは医療文書作成支援システムで、379種類であった。このシステムでは初診記録、退院時要約、患者の時系列の観察記録、診断書・紹介状等、診療録を作成する上で幅広く使用していた。(表4)

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DACS登録文書カテゴリー別割合(表3)では、初診・経過記録のカテゴリーではMegaOak HRから日々登録される経過記録が69.7%と非常に多かった。これは1患者につき1日分の経過記録を、作成部署別に別文書として登録しているためである(表6)。入退院管理等が2番目に多かった理由として、このカテゴリーには入院診療計画書、栄養管理計画書等の入退院時に作成を必須とする文書を類しており、入退院件数に比例して多くなるためである。診療科毎に発生した文書の割合をカテゴリー毎に表8に示した。眼科の初診・経過記録の割合が飛び抜けて多かったのは、眼科システムを導入しており、科内検査の記録はそのシステム内の経過記録に記録されためである。次に、麻酔科の同意書・説明書が他科に比較して多かった。これは、当院では術前に麻酔科外来を受診するが、その際に麻酔に関する説明は麻酔科医が行い、説明書と同意書を患者に渡すためと考えられる。手術・処置については、麻酔記録の登録が麻酔科医であるためである。仮想プリンタは、病棟や外来で医師や看護師自身が登録する。今回、蓄積された文書を分析するにあたり、文書種やイベント日が正確に選択されていないものがみられた。イベント日や文書種を正確に選択せずに登録すると、後日、文書を閲覧する際に、該当文書を

探し出す事ができなくなる可能性がある。また、Document Register Viewerを用いてイベント日や文書種で絞り込んで検索する際は、正確な結果を得る事ができなくなる。DACSに取り込む作業が、診療における閲覧や二次利用を行う際に大きな影響があるという認識が、ユーザーには薄いと思われる。この問題はスキャン登録にも共通するため、今後はDACSの機能を十分に活用できるよう、ユーザーへの操作教育に力を入れる必要があると考えられた。

5.5.5.5.5. 結結結結結語語語語語全ての診療録をDACSに一元的に保存し管理することにより、これまでの紙の診療録管理では非常に困難であった、診療録を構成する内容やそれぞれの分量を正確に把握し、分析することが可能となった。今回はDACSに蓄積された4カ月分の診療録をカテゴリー毎に診療科別に登録された文書の構成を確認する事ができた。今後更にデータが蓄積されていくと、入院外来別、診療科別の特徴や経時的変化等を詳細に分析する事ができる。このような分析により、診療録管理だけでなく臨床研究、教育、病院管理等、診療録の価値と意義を十分に活かす事ができる。今後もDACSのデータを活用し、様々な角度から更に詳細な分析を進めていく。

表8診療科別カテゴリー別登録割合

参考文献[1] 松村泰志、上田郁奈代、岩崎哲也、菅谷秀一ら.見読性の確保のための統合的文書管理システムDACSの提案.第29回

医療情報学連合大会 29th JCMI(Nov,2009):648-651.

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