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被災堤防緊急対応のための3次元可視化ツール及び対策設計支援システムの 開発 -研究開発の全体計画と2011年度成果の概要- 高橋亨*(公益財団法人深田地質研究所) 相澤隆生,西尾英貴(サンコーコンサルタント株式会社) 松岡俊文(京都大学) Development of a 3D integrated geophysics guided countermeasure design support system for damaged river embankments -Project overview and summary of 2011 study- Toru Takahashi (Fukada Geological Institute) Takao Aizawa, Hideki Nishio (Suncoh Consultants) Toshifumi Matsuoka (Kyoto University) ABSTRACT: For effective design of a countermeasure for a damaged or potentially damaged river embankment, we are developing a design support system using a 3-D geophysical imaging of its interior. This system consists of a measurement system for 3-D geophysical visualization and a countermeasure design support system. For quick visualization of interior of a river embankment, we attempt to develop an integrated seismic and electric measuring system which can be smoothly moved on the river embankment using a sensor belt. The 3-D geophysical image measured is then used for visualization of hydraulic and mechanical properties of the embankment for supporting a countermeasure design. This is a three-year research project. In the year of 2011 as the first year, we devised a prototype of a measuring system to evaluate its feasibility and summarize what functions the system should have as a countermeasure design support system by literature study on damaged rivers and their countermeasures in the past. 1. はじめに 昨年の東北地方太平洋沖地震では,東北から関東地 域の多くの河川堤防が地震動による液状化等によっ て被災した.また,今年7 月の九州北部豪雨では,福 岡県の矢部川で堤防が決壊し大規模な被害が発生し た.現在矢部川堤防調査委員会で決壊の原因究明と今 後の対策が検討されている(国土交通省九州地方整備 局筑後川河川事務所,2012). 物理探査は非破壊的に効率よく堤防の内部構造を 把握できるという特性から,これまでは主に堤防の縦 断方向の概査に利用されている.今年度,堤防被災状 況把握を目的に,関東地方整備局管内でも160km に及 ぶ縦断の探査が実施され,安全性の評価に利用されて いる(国土交通省関東地方整備局,2012).一方,安全 性評価のための詳細調査や被災堤防の調査では,代表 的な断面での調査になるため,ボーリング調査が主体 で,物理探査が利用されるケースはあまり多くない. 矢部川堤防の調査では,物理探査が利用されているも ののやはり縦断での利用にとどまっている.詳細調査 で要求される精度や分解能に対して物理探査結果が 十分応えられない,得られる物性が直接,計算や設計 に生かせない等のためであると考えられるが,最近で は3次元探査やロックフィジックスを利用した解釈 技術等,最新の技術の適用により上記課題への対応も 可能となってきている(畠中ほか,2007;Takahashi and Yamamoto, 2010). そこで,本研究では,それら最新の技術を利用し, 被災堤防あるいは被災の恐れのある堤防調査での利 用を想定し,代表的な断面周辺の詳細調査およびその 後の対策工の設計に生かせる情報を提供できる探査 装置および解釈システムを開発することを目標にし ている.しかしながら,探査に利用可能な時間と経費 の制約も考慮し,可能なかぎり短時間で経済的に成果 をだせるシステムの開発を目指している.以下,本研 究の全体計画と初年度である 2011 年度の成果の概要 について述べる. 講演番号 18 一般社団法人 物理探査学会第127回学術講演会論文集(2012) 63

Development of a 3D integrated geophysics guided ...-Project overview and summary of 2011 study- Toru Takahashi (Fukada Geological Institute) Takao Aizawa, Hideki Nishio (Suncoh Consultants)

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被災堤防緊急対応のための3次元可視化ツール及び対策設計支援システムの

開発

-研究開発の全体計画と2011年度成果の概要-

高橋亨*(公益財団法人深田地質研究所)

相澤隆生,西尾英貴(サンコーコンサルタント株式会社)

松岡俊文(京都大学)

Development of a 3D integrated geophysics guided countermeasure design support system for damaged river embankments -Project overview and summary of 2011 study-

Toru Takahashi (Fukada Geological Institute)

Takao Aizawa, Hideki Nishio (Suncoh Consultants)

Toshifumi Matsuoka (Kyoto University)

ABSTRACT: For effective design of a countermeasure for a damaged or potentially damaged river embankment, we are developing a design support system using a 3-D geophysical imaging of its interior. This system consists of a measurement system for 3-D geophysical visualization and a countermeasure design support system. For quick visualization of interior of a river embankment, we attempt to develop an integrated seismic and electric measuring system which can be smoothly moved on the river embankment using a sensor belt. The 3-D geophysical image measured is then used for visualization of hydraulic and mechanical properties of the embankment for supporting a countermeasure design. This is a three-year research project. In the year of 2011 as the first year, we devised a prototype of a measuring system to evaluate its feasibility and summarize what functions the system should have as a countermeasure design support system by literature study on damaged rivers and their countermeasures in the past.

1. はじめに

昨年の東北地方太平洋沖地震では,東北から関東地

域の多くの河川堤防が地震動による液状化等によっ

て被災した.また,今年7月の九州北部豪雨では,福

岡県の矢部川で堤防が決壊し大規模な被害が発生し

た.現在矢部川堤防調査委員会で決壊の原因究明と今

後の対策が検討されている(国土交通省九州地方整備

局筑後川河川事務所,2012).

物理探査は非破壊的に効率よく堤防の内部構造を

把握できるという特性から,これまでは主に堤防の縦

断方向の概査に利用されている.今年度,堤防被災状

況把握を目的に,関東地方整備局管内でも160kmに及

ぶ縦断の探査が実施され,安全性の評価に利用されて

いる(国土交通省関東地方整備局,2012).一方,安全

性評価のための詳細調査や被災堤防の調査では,代表

的な断面での調査になるため,ボーリング調査が主体

で,物理探査が利用されるケースはあまり多くない.

矢部川堤防の調査では,物理探査が利用されているも

ののやはり縦断での利用にとどまっている.詳細調査

で要求される精度や分解能に対して物理探査結果が

十分応えられない,得られる物性が直接,計算や設計

に生かせない等のためであると考えられるが,最近で

は3次元探査やロックフィジックスを利用した解釈

技術等,最新の技術の適用により上記課題への対応も

可能となってきている(畠中ほか,2007;Takahashi

and Yamamoto, 2010).

そこで,本研究では,それら最新の技術を利用し,

被災堤防あるいは被災の恐れのある堤防調査での利

用を想定し,代表的な断面周辺の詳細調査およびその

後の対策工の設計に生かせる情報を提供できる探査

装置および解釈システムを開発することを目標にし

ている.しかしながら,探査に利用可能な時間と経費

の制約も考慮し,可能なかぎり短時間で経済的に成果

をだせるシステムの開発を目指している.以下,本研

究の全体計画と初年度である2011年度の成果の概要

について述べる.

講演番号 18 一般社団法人 物理探査学会第127回学術講演会論文集(2012)

63

状等

可能

1)

ト状

探査

構築

に示

2)

評価

る解

(範

の結

力条

被災

.研究プロジ

本研究開発で

ても将来の破

等が発生し

能にするため

一体となっ

を行うことを

具体的には,

堤防内部構

堤防の内部状

可視化するた

状の計測装置

査手法として

れている電気

定し,比抵抗

築する.目標

示す.

被災状況把

測定・解析さ

価に必要な土

解析手法を開

の他の調査デ

範囲や位置)

結果をもとに

条件やパラメ

災状況の推定

本研究開発は

る.装置につ

,2年目に現

システムにつ

よび探査事例

よび推定ロジ

ステムを既往

を行う計画で

図1

ジェクトの全

では,被災し

破堤につなが

ている堤防の

めの支援シス

た被災堤防対

を目的として

,以下の2つ

構造の3次元

状態をできる

ために、広範

置を利用した

ては,これま

気探査と弾性

抗と弾性波速

標とする装置

把握・対策工

された物理探

土質構成や間

開発する.次

データを合わ

)を推定する

に,対策工の

メータを提供

定の流れを図

は,平成23

ついては,初

現場試験を通

ついては,初

例の収集・分

ジックの開発

往データの充

である.

3 次元可視化

全体計画

した堤防ある

がるような前

の効果的な対

ステムとして

対策設計支援

ている.

つの開発を目

元可視化装置

るだけ迅速に

範囲を高速に

た探査システ

までの研究で

性波トモグ

速度を解析で

置・測定状況

工設計支援シ

探査データか

間隙比等の諸

次に,それら

わせて堤防内

るロジックを

の設計に必要

供するシステ

図2に示す.

年度から3年

初年度にプロ

通じて評価,

初年度に被災

分析を行い,

発を行う.3年

充実した実堤

化装置のイメ

いは規模は小

前兆的な堤体

対策工の立案

て,ハード・ソ

援システムの

目標としてい

の開発

に且つ 3 次元

調査できるベ

テムを開発す

その有効性が

ラフィを同時

きるシステム

況の概念図を

ステムの開発

から,まず堤防

諸特性を推定

の解析データ

内部の被災状

を構築し,それ

な各種計算の

テムを構築す

年計画で進め

トタイプを試

改良を行う.

事例や対策事

2年目に解析

年目は試作

堤防に適用し

ージ図

小さ

体変

案を

ソフ

の開

いる.

元的

ベル

する。

が示

時に

ムを

を図1

防の

定す

タと

状況

れら

の入

する.

めて

試作

.支

事例

析法

した

し,評

3.

設計

策設

施し

1)

で特

ため

比抵

る。

可能

探査

ォン

シス

装置

ベル

収録

ウェ

間を

こと

ソフ

図2 被災状

2011年度の

初年度である

計と要素装置

設計システム

した。

3次元可視

既往の研究に

特に重要な堤

めに弾性波探

抵抗を組み合

そこで、本

能にするため

査と電気探査

ンと電極)を移

ステムを開発

装置は大きく

置、堤防に設

ルトシステム

録されたデー

ェアから構成

を考慮し、送

ととし、開発

フトウェアに

受信装置の仕

状況推定の流れ

の成果の概要

る2011年度は

置の試作・試

ムの設計を目

視化装置の設計

において堤防

堤防の土質構

探査による S

合わせること

本装置では、堤

めに、S波を用

査を同時に実

移動しやすい

発することと

く、人工地震波

設置して信号

ム)、受信され

ータを解析す

成される。本

送信装置、収録

の鍵を握る受

による検討を

仕様を検討す

れ(太線枠内が

は、1)3次元

試験と2)被災

目標に、以下の

計と構成要素

防の被災状況

構成や締固め

S 波速度と電

との有効性が

堤体横断での

用いた弾性波

実施できるセ

いベルト上に

とした。

波や電流を発

号を受信する受

れた信号を記

するコンピュ

本研究では、開

録装置は既往

受信装置の開

を行うことと

するにあたり

が実施内容)

元可視化装置

災状況把握・

の研究開発を

素の試作・試

況を推定する

め度を推定す

電気探査によ

が確認されて

の迅速な探査

波トモグラフ

センサー(ジオ

に多点設置す

発生させる送

受信装置(上

記録する収録器

ュータとソフ

開発の効率、

往のものを使

開発及び既存

した。

、想定する堤

置の

・対

を実

試験

る上

する

よる

てい

査を

フィ

オフ

する

送信

上記

録器、

フト

使う

存の

堤防

64

の大

の長

性波

とす

を交

認す

2)

大きさ(高さ

隔と数量、堤

長さと1ベル

波トモグラフ

するが、適用

に水平動と上

交互に配置す

以上の設計に

ト状の受信装

際の堤防に

するとともに

3に試作した

3 試作した

)被災状況把

被災状況を非

が多くの河川

さと幅)、探

堤体への着脱

ルト当たりの

フィについて

用性の拡大も

上下動の2成

することもで

に基づき、セ

装置を試作し

て所望のデー

に、次年度必

たセンサーベ

たセンサーベ

把握・対策設

非破壊的に把

川堤防で適用

探査精度を考

脱の容易さを

のセンサー数

ては、S波を

もにらみP波

成分のセンサ

できるように

センサー48

し(12個/ベル

ータが取得で

必要な改良点

ベルトの写真

ベルト(上)と

設計システム

把握する技術

用されている

慮したセンサ

考慮したベル

数を検討した

主たる測定対

も受信できる

サー(ジオフォ

にした。

個を搭載した

ルトを4ベル

できることを

も明らかに

真を示す.

とセンサー(下

ムの設計

術として物理

るので、関連す

サー

ルト

た。弾

対象

るよ

ォン)

たベ

ルト)、

を確

した。

下)

理探

する

文献

体的

を関

集し

Exp

and

査し

堤防

で有

併用

前後

検討

等が

堤防

と調

原因

物理

定す

つい

策工

堤防

締固

ての

定す

性と

定す

被災

1 ・クラ

・すべ

2 ・漏水

3 ・沈下

・陥没

献等を収集分

的には、河川堤

関連する学会

した。国内で

フォーラム

ploration G

d Engineerin

し、合計158編

防の被災状況

有効な最近の

用した土質構

後での堤防探

次に、被災し

討するために

が発行する文

防の概要(位

調査結果、対

因と実施され

理探査で得ら

するロジック

上記文献調査

いて、堤防の

工について整

防の内部特性

固め度(強度

のP波速度と

する手法、ロ

と探査物性の

する手法の一

図 4 堤

災状況

ラック

べり崩壊

①浸透

②堤体土

③基礎地

④液状化

水 ①堤体

②基礎地

③液状化

①堤体

②基礎地

③堤体液

④基礎地

分析し、その

堤防調査に適

会等の発行す

では、物理探

ム等、海外

Geophysicist

ng Geophysic

編の論文を収

況を推定する

の研究事例と

構成推定事例

探査例に着目

た堤防で実際

に、関連する

文献や資料を

位置、大きさ

対策工が記載

れた対策工に

られる情報か

クについて検

査結果をもと

の構造、被災

整理を行い、被

性として、土質

度)を取り上

と振幅、S波速

ジックにつ

の関係図を図

一例を図5に

堤防内部特性

要因

土質構成

地盤土質構成

化(堤体・基礎)

内透水層

地盤透水層

化による緩み

の緩み・空洞

地盤(軟弱層)

液状化

地盤液状化

の適用性を明

適用された物

する雑誌や資

探査学会、地盤

外では、SE

ts)、EEGS(

cal Society

収集した。そ

るロジックを

として、S波速

例と東日本大

目した分析を

際に実施され

学会、国土交

を収集し分析

、土質構成等

載された文献

についてまと

からそれらの

検討を行った

とに、それぞれ

災形態、被災メ

被災メカニズ

質構成、透水

げ、それらを

速度と振幅、

ついて検討を行

図4に,堤防の

に示す.

と探査物性の

要因把握に必要

・浸潤面(含水比)

・透水係数

・土質構成

・締固め度(強度)

・浸潤面(含水比)

・透水係数

・土質構成

・締固め度(強度)

・浸潤面(含水比)

・透水係数

・土質構成

・締固め度(強度)

・空洞

らかにした。

物理探査の事

資料をもとに

盤工学会、全

EG(Society

(Environmen

y)等を中心に

その中で、特に

を構築するう

速度と比抵抗

大震災での被

を行った。

れた対策事例

交通省関連機

析を行った。被

等)、被災状

を参考に、被

めるととも

の被災原因を

た。

れの被災堤防

メカニズム、

ズムに関係す

水係数、浸潤面

を探査物性と

、比抵抗から

行った。内部

の土質構成を

の関係図

な内部特性 探

・比

・P

・P

・S

・S

・比

・P

・P

・S

・S

・比

・P

・P

・S

・S

。具

事例

に収

全地

of

tal

に調

に、

うえ

抗を

被災

例を

機関

被災

状況

被災

に、

を推

防に

する

面、

とし

ら推

部特

を推

探査物性

比抵抗

P波速度

P波振幅

S波速度

S波振幅

比抵抗

P波速度

P波振幅

S波速度

S波振幅

比抵抗

P波速度

P波振幅

S波速度

S波振幅

65

両探

探査

努力

謝辞

研究

.おわりに

本研究開発で

るだけでなく

.探査精度を

フィ探査を利

探査を同時に

査効率の両立

た物性を複合

ことも試みる

ではあるが,

る装置・支援

力していきた

本研究開発は

究開発助成を

にあたり,大

口伸治,山本

の助言をいた

では,堤防の

く,対策工設

を向上させる

利用しつつ,

に実施できる

立をねらって

合的に解析

る予定である

,物理探査の

援システムの

たい.

は,国土交通

を受けて実施

大津宏康,小

本剛(五十音

ただいた.こ

図 5

の詳細調査に

設計への貢献

ために3次

探査時間を

るセンサーを

ている.また

して堤防の諸

る.かなりハ

の適用可能性

のプロトタイ

通省の平成2

施した.本研

小林晃,利岡

音順)各氏か

ここに記して

比抵抗と S 波

物理探査を適

も目標として

元探査やトモ

短縮するため

を開発し,精度

た,両探査で得

諸特性を推定

ードルの高い

を示すことの

プを完成すべ

23年度建設技

究開発を実施

岡徹馬,細川

らなる推進委

て感謝する.

波速度からモデ

適用

てい

モグ

めに

度と

得ら

定す

い目

ので

べく

技術

施す

川雅,

委員

参考

国土

国土

(

畠中

調

Tak

p

E

デルを通して

考文献

土交通省関東

復旧技術等検

理探査検討会

土交通省九

(2012):第2

中与一・今里

船曳誠二・京都

機器の開発研

調査と探査機

探査の適用性

学会第117回

kahashi T. an

profiling on a

Exploration G

て土質構成を推

東地方整備局

検討フォロー

会 合同委員会

九州地方整

2回矢部川堤

里武彦・山口

都大学河川堤

研究委員会(2

機器の開発研

性評価のため

回学術講演会

d Yamamoto

river embank

Geophysics, 41

推定する手法の

局(2012):関東

ーアップ委員

会 議事要旨

備局筑後川

堤防調査委員

口伸治・山本

堤防の内部構

2007):河川堤

研究(その2)

めの試験探査

会論文集, 12

o T., 2010, A

kment using g

1, 102-108.

の一例

東地方河川堤

員会及び統合

旨.

川河川事務

員会資料.

剛・糸川政孝

構造調査と探

堤防の内部構

)-三次元電

査結果,物理探

23-125.

An attempt at

geophysical d

堤防

合物

務所

孝・

探査

構造

電気

探査

soil

data,

66