製 品 紹 介 2013 年モデル　Spark115iThe 2013 model Spark115i

吹田 善一

Abstract

Thailand's annual motorcycle sales smoothed out at approximately two million units (Yamaha Motor survey, 2011

results). About half of demand is for manual transmission (MT) moped type models and the other half for automatic

transmission (AT) scooter models.

Despite the growing percentage of these AT models in recent years, there is still steady demand for mopeds thanks

to their practicality and fuel economy, and the affordability of basic mopeds particularly in regional cities and rural

areas. Among such moped models, Yamaha's current Spark Nano has been well received in the market for its good

performance and high level of utility. However, calls from the market for even better fuel economy, ease of use and

other qualities led to the development of the new “Spark 115i” model (hereafter “this model” ) (Fig. 1) introduced

here.

This model is designed and engineered with exacting detail throughout with a fundamental focus on providing higher

levels of comfort, familiarity as a vehicle that makes it easier to ride for more people and enjoyable drivability for

practical uses like daily shopping or commuting.

The power unit consists of a newly developed air-cooled 114cc, SOHC, fuel-injected engine with a 4-speed automatic

clutch. This unit achieves both excellent power delivery characteristics and fuel efficiency. Furthermore, the adoption

of a number of newly designed chassis components contributes to this model's excellent handling characteristics,

comfort and enjoyable performance from low speeds all the way up to the high-speed range.

タイの二輪車市場は年間販売台数200万台（ヤマハ調べ

/2011年）で推移しており、その半数がマニュアルトランスミッ

ションのモペットタイプで占められている（残りの半分はオー

トマティック車）。近年オートマティック車の割合が増えている

が、実用性や燃費に優れるモペット、特に価格が手ごろなベー

シックモペットは地方都市を中心に安定した需要がある。そ

1 はじめに

Spark 115i

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の中で現行モデル「Spark Nano」は、走りと実用性で高い支

持を得ているが、 燃費向上や扱いやすさなどの要望を受けて、

「Spark 115i」（以下、本モデル）は開発された。

本モデルは、日々の買い物や通勤などの実用面における

「快適さ・気軽に乗れる親しみやすさ・気持ち良い乗り心地」

をベースとして、きめ細やかな設計を施した商品である。エン

ジンは新設計の空冷114cc・SOHC・4速オートクラッチ式、燃

料供給はFIを採用することで、抜きん出た出力特性と低燃費

との両立が図られた。また、新設計された車体部品を搭載す

ることで、低速から高速まで優れた操縦性と快適な乗り心地

を実現した。

2 開発の背景・ねらい本モデルは「熟成の次世代ベーシックモペット」をコンセプ

トとし、都市部に住む30歳以下の男性と郊外に住む20代後

半の女性を主なターゲットとして以下の3項目を開発目標とし

た。

求めやすい価格に加え、燃費と走行性能の両立

便利・快適、日常生活における使い勝手の良さ

飽きの来ないシンプルスポーティーな外観

3 開発の取り組み3つの開発目標を実現するため、主に以下の開発に取り組

んだ。

3-1．新設計FIエンジン

・低速トルクが豊かで、高回転まで力強くスムースに回るエン

ジン特性の作りこみ

・耳障りな音が無く静かで快適、スムースなギヤシフトなど、上

質なフィーリングの実現

・長時間の運転でも安定したエンジン性能の実現

3-2．新設計の車体

・軽量、コンパクトで乗りやすい車体サイズとライディングポジ

ション

・剛性バランスを最適化した軽量新設計フレームとリヤアー

ムの採用による優れた操縦性の実現

・クラス最大の大容量収納ボックスによる高い利便性

・スマートな外観デザインと水はねプロテクション性能、エン

ジン冷却性能の両立

4 技術の解説本モデルに採用した技術について概要を解説する。

4-1．エンジン関連

以下に示す様々な改良設計により、現行モデルに対して

EU3モード燃費で25%、最大トルクで18%向上し、高い燃費性

能と走行性能を両立した（いずれも当社測定データ）。

4-1-1．エンジン特性の作りこみ

燃費が良く、静かで快適なエンジン特性を得るためには、

減速比を小さくし、エンジンの回転数を低くすることが必要と

なる。一方、低速時にも十分な加速性能を実現させるために

は低速トルクの向上が不可欠となる。このため、本モデルで

は、燃焼状態を最適化した新設計のシリンダーヘッドを採用

し、吸排気系を最適化することにより、最大トルクを現行モデ

ル比で18%向上させた。また、エンジンの総減速比を調整する

ことで、走行時のエンジン回転数を従来比で10％低く設定し

た。その結果、静かで力強い特性が得られた（図1）。

4-1-2．低フリクション、軽量設計

吸排気バルブのロッカーアームはローラータイプを採用し

た。加えてピストンは軽量なアルミ鍛造製、ピストンリングに

は低張力タイプを採用するなど、エンジンの低フリクション化

と慣性重量の低減にも取り組み、低燃費で低振動かつ高回転

までスムースに回転上昇する上質で快適なエンジンの回転

フィーリングを実現した。

2013 年モデル　Spark115iThe 2013 model Spark115i

図 1　エンジン性能

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2013 年モデル　Spark115iThe 2013 model Spark115i

シリンダスリーブには、放熱性に優れ、エンジン性能の安定

化やオイル消費の低減に有利な鋳込み式“スパイニースリー

ブ”を採用した（図2）。

4-1-4．排気マフラサウンドの作りこみ

新設計の排気マフラは3段膨張タイプを採用し、音響解析

と官能評価を繰り返した。さらに膨張室をつなぐパイプの径

や長さを最適化することで、耳障りな高周波域の音圧レベル

を下げて、適度なパルス感を与える低周波域の音圧レベルを

上げることで、疲れにくく心地良い排気音を実現した（図3）。

4-2．車体関連

4-2-1．新設計フレーム（図4）

新設計のフレームは、アンダーボーン型（ダイヤモンド型）

を採用した。また、エンジンはリジットマウントとし、リヤアーム

もあわせて新たに設計した。さらに、エンジンマウントも含め

た車両全体の剛性バランスをコンピューター解析と、走行実

験により最適化した。これにより、市街地（低中速走行時）での

図 3　排気音の音響解析

図 4　 新設計フレーム

図 2　スパイニーシリンダスリーブ

4-1-3． スパイニーシリンダスリーブの採用

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2013 年モデル　Spark115iThe 2013 model Spark115i

軽快さと郊外などの高速走行時での安定性を確保し、軽快か

つ快適な乗り心地を実現した。

また、ステアリングヘッドパイプ、エンジンマウント、リヤ

アームピボット、シートの荷重発生部などを直線的かつ最短

で結んだ形状にし、薄肉高張力鋼管を使用しないことで、エン

ジンやその他の部品を含めた全体の装備重量は、従来モデル

と比べ4.4ｋｇの軽量化を実現した。

4-2-2．大容量収納ボックスとロングシート、ライディン

グポジション

本モデルでは、コンセプトを小柄な女性にも乗りやすい

シート高さや幅、車体の大きさとしながらも、フレーム形状の

見直し、バッテリーやECUなどの電装部品のレイアウト最適化

など、全体のレイアウトを刷新し、シート下の収納ボックスは

ハーフタイプのヘルメットとレインウェアが同時収納可能な、

現行モデル比で約2倍の9.2ℓの容量を実現した（図5、当社

調べ）。

一方、シートは現行モデル比で40mm延長し、前後差面の

高さ方向の段差を最小とすることで、2人乗りでの快適性を向

上させ、着座位置に自由度を持たせた。さらに、フレームの新

設計にあわせてハンドル位置も見直し、コンパクトで自由度の

高い乗車姿勢を得られるようにした。

4-2-3．エアマネジメント・水はねプロテクション

ボディデザインの目標は「モペットならではのスリムさを活

かし、コンパクトで女性にも扱いやすいこと」であり、そのため

にフロント＆リヤまわりのボリューム感は、必要最小限でシン

プルにする必要がある。

一方で、コミューターとして必要な、泥や水から足元を守る

プロテクションや、エンジンを効率よく冷却するための機能要

件はこれと背反するものである。このため、本モデルでは、コン

ピュータ解析と実車による風洞実験をスタイリングデザインと

並行して実施することで、コンパクトでありながらも高いプロ

テクション性能と冷却性能を実現した（図6）。

4-2-4．その他

ベーシックモペットとしての日々の利便性を考え、ヘッドラ

イトには大光量のHS1球を採用した。また、大容量のシート下

収納には、シートの背面に書類入れスペースを設け、さらに

シートオープナーはメインスイッチ一体式とすることでより一

層使い勝手を向上させた（図7）。

5 おわりに本モデルの開発は、ベーシックモペットの必要最低限の機

能を見つめながら進められた。この商品は、主として生活の

パートナーとして、毎日の仕事や生活の足として使われる。そ

のため大容量の収納ボックスや大光量のヘッドライトの採用

といった機能を進化させながらも軽量、コンパクト設計に徹底

的にこだわった。当然ながら燃費や走行性能についても妥協

無く、最新の技術を投入しながら開発し、高いレベルの商品

になったと自負している。また、心地の良い排気音やエンジン

フィーリング、力強くスムースな加速、快適な乗り心地と意の

ままで安心感の高い操縦性能を実現した上で、使い勝手の良

い収納ボックスを備えた本モデルは、現時点で最高の「生活

の足」であると考えている。　

タイでの発売以降、お客様からの評価も上々ではあるが、

本当の意味でベーシックモペットを定着させるためには、市場

図 5　車体レイアウト

図 6 流れ解析によるエアマネジメント設計

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2013 年モデル　Spark115iThe 2013 model Spark115i

図 7　フィーチャーマップ

の細かな問題や要望に対し、素早く的確に応えることが重要

と考える。本モデルは自信を持って提供できる商品ではある

が、それゆえにさらなる熟成を目指すことで、より多くのお客

様に喜んでいただける商品に育てたいと考えている。

■著者

吹田 善一Yoshikazu SuitaMC事業本部 第1事業部 車両開発部

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