14
-2- 現行の中学校学習指導要領において、生産活動 についての学習内容を規定している叙述の箇所は、 以下のところ(特に、筆者がアンダーラインを引 いたところ)である。 (2)国民生活と経済 ア 私たちの生活と経済 ・・・略・・・また、現代の生産の仕組みの あらましや金融の働きについて理解させるとと もに、社会における企業の役割と社会的責任に ついて考えさせる。その際、社会生活における職 業の意義と役割及び雇用と労働条件の改善につ いて、勤労の権利と義務、労働組合の意義及び労 働基準法の精神と関連づけて考えさせる。 (注1) このアンダーラインの部分について、文部(科 学)省『中学校学習指導要領解説-社会編-』は 次のように解説している。 「社会における企業の役割と社会的責任につ いて考えさせる」については、企業は市場におい て公正な経済活動を行い、消費者、株主や従業員 の利益を増進させる役割があること、また、企業 の経済活動が及ぼす社会的影響に対して公共の 利益に配慮する社会的責任があること、さらに、 生産活動以外に社会的に貢献していることにつ いて考えさせることを意味している。 (注1) この記述にあるように、現行の学習指導要領・ 『解説書』においては、生産に参加する立場として 「企業」と「従業員」を挙げているが、従業員(労 働者)よりも企業を中心にして構成されている。 そして、企業は、他の企業と競争し、消費者、株主、 従業員の利益を増進し、社会に対しても責任をも ち、貢献をするものとして位置づけられている。 企業・資本主義経済の本質については、日本の中学 校社会科の経済教育においては、かつては、マルクス 主義経済学を基礎にして、大企業による中小企業の 「搾取」、資本家による労働者の「搾取」が、「科学的社 会認識」の内容として、生徒に教えられていたことが あった。このような企業・資本主義経済についての 教育は、今日では説得力を大きく失っている。企業・ 資本主義社会の本質についての理論体系としては、 J. A. シュムペーターの経済理論がある。企業と資 本主義の本質についてのシュムペーターの理論は、 『経済発展の理論』 (原書初版、 1912)と『資本主義・社 会主義・民主主義』 (原書初版、 1942)において述べら れている。特に、後者の著書の以下に引用する部分に は、シュムペーターのとらえる資本主義と企業の本 質がもっとも明瞭かつ簡潔に示されている。 およそ資本主義は、本来経済変動の形態ないし 方法であって、けっして静態的ではないのみなら ず、けっして静態的たりえないものであ る。・・・(中略)・・・資本主義のエンジンを起 動せしめ、その運動を継続せしめる基本的衝動は 資本主義的企業の創造にかかる新消費財、新生産 方法ないし新輸送方法、新市場、新産業組織形態か 1 公民的分野の経済学習における企業の取 り扱い 中学生の公民 企業づくりを通して企業について学ぼう 三重大学教授 山根栄次 2 企業・資本主義経済の本質 帝国書院『中学生の公民(最新版)』p.70

企業づくりを通して企業について学ぼう...第10節に示されている「かずやの企画書」は、 第1節における「かずやの企画書」と比べると格

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-2-

現行の中学校学習指導要領において、生産活動

についての学習内容を規定している叙述の箇所は、

以下のところ(特に、筆者がアンダーラインを引

いたところ)である。

(2)国民生活と経済

ア 私たちの生活と経済

・・・略・・・また、現代の生産の仕組みの

あらましや金融の働きについて理解させるとと

もに、社会における企業の役割と社会的責任に

ついて考えさせる。その際、社会生活における職

業の意義と役割及び雇用と労働条件の改善につ

いて、勤労の権利と義務、労働組合の意義及び労

働基準法の精神と関連づけて考えさせる。(注1)

このアンダーラインの部分について、文部(科

学)省『中学校学習指導要領解説-社会編-』は

次のように解説している。

「社会における企業の役割と社会的責任につ

いて考えさせる」については、企業は市場におい

て公正な経済活動を行い、消費者、株主や従業員

の利益を増進させる役割があること、また、企業

の経済活動が及ぼす社会的影響に対して公共の

利益に配慮する社会的責任があること、さらに、

生産活動以外に社会的に貢献していることにつ

いて考えさせることを意味している。 (注1)

この記述にあるように、現行の学習指導要領・

『解説書』においては、生産に参加する立場として

「企業」と「従業員」を挙げているが、従業員(労

働者)よりも企業を中心にして構成されている。

そして、企業は、他の企業と競争し、消費者、株主、

従業員の利益を増進し、社会に対しても責任をも

ち、貢献をするものとして位置づけられている。

企業・資本主義経済の本質については、日本の中学

校社会科の経済教育においては、かつては、マルクス

主義経済学を基礎にして、大企業による中小企業の

「搾取」、資本家による労働者の「搾取」が、「科学的社

会認識」の内容として、生徒に教えられていたことが

あった。このような企業・資本主義経済についての

教育は、今日では説得力を大きく失っている。企業・

資本主義社会の本質についての理論体系としては、

J. A. シュムペーターの経済理論がある。企業と資

本主義の本質についてのシュムペーターの理論は、

『経済発展の理論』(原書初版、1912)と『資本主義・社

会主義・民主主義』(原書初版、1942)において述べら

れている。特に、後者の著書の以下に引用する部分に

は、シュムペーターのとらえる資本主義と企業の本

質がもっとも明瞭かつ簡潔に示されている。

およそ資本主義は、本来経済変動の形態ないし

方法であって、けっして静態的ではないのみなら

ず、けっして静態的たりえないものであ

る。・・・(中略)・・・資本主義のエンジンを起

動せしめ、その運動を継続せしめる基本的衝動は

資本主義的企業の創造にかかる新消費財、新生産

方法ないし新輸送方法、新市場、新産業組織形態か

1 公民的分野の経済学習における企業の取

り扱い

中学生の公民

企業づくりを通して企業について学ぼう三重大学教授 山根栄次

2 企業・資本主義経済の本質

帝国書院『中学生の公民(最新版)』p.70

-3-

らもたらされるものである。・・・(中略)・・・

内外の市場の開拓および手工業の店舗や工場から

U.S.スチールのごとき企業にいたる組織上の発展

は、不断に古きものを破壊し新しきものを創造し

て、たえず内部から経済構造を革命化する産業上

の突然変異-生物学的用語を用いることが許され

るとしたら-の同じ過程を例証する。この「創造的

破壊」(Creative Destruction)の過程こそ資本主

義についての本質的事実である。それはまさに資

本主義を形づくるものでありすべての資本主義的

企業がこの中に生きねばならぬものである。(注2)

では、この「創造的破壊」を実践する主体は何

であるか。シュムペーターによれば、それが起業

家である。

資本主義の本質、企業および起業家の本質がシ

ュムぺ-タ-の言うようなものであるとすれば、

私たちは、資本主義社会・資本主義経済の中で積

極的に生きていこうとする生産者を育てる必要が

ある。そのモデルは、起業家であろう。

もちろん、中学校を卒業する生徒が、将来とい

うことを考えても、全員が起業家になれるわけで

はないし、そうなることを望んでいるわけでもな

い。しかし、学校教育において起業家的資質を育

成することの期待は、「生きる力」の育成と総合的

な学習の時間の新設を機に、実質的に教育界、経

済界から生じている。

平成14年度から使用されている中学校社会科公

民的分野の教科書には、3種の教科書において、

生産者としての、特に企業を新たに起こす起業家

を意識した記述が見られるようになった。

このうち、帝国書院の教科書の場合は、

「第3章 企業について学ぼう」のすべて

(20ページ)にわたって、企業を起こし経

営するというストーリーを展開するとい

う画期的なものになっている。

「第1節 どんな企業をつくってみた

い?」では、冒頭に「自分の企業をつく

ってみよう」と読者である生徒に呼びか

けている。そして、「この章では自分が企

業の経営者になるとしたら、どのような企業をつ

くりたいかを考えながら、企業のしくみや役割を

学んでいきましょう」と企業のしくみや役割を学

ぶ動機づけをしている。そして、生徒に自分のつ

くりたい企業の企画書をつくるように促し、「企業

をつくるには、何が必要なのかを考えてみましょ

う」と問い、生産の要素を紹介している。この節

の終わりには、「かずや」のつくったコンピュータ

ーソフトの会社「ミクロソフト」の企画書を示し

ている。この企画書の中には、「セールスポイント」

と「社会的な役割」の欄がある。企業というもの

は、たんに利益をあげるだけの存在ではなく、社

会的な役割をはたしながら、その特性をもつこと

が必要であることが暗示されている。しかし、か

ずやの企画書はきわめて不完全であるとともに、

資本金が少なすぎるなどの矛盾がある。この後の

節は、生徒がより完全な企画書を作ることを目標

にして展開されている。

「第2節・経営資金を集めてみよう」では、企業

を起こすには「経営資金(資本)」が必要であるこ

と、その方法の一つとして株式の発行があること、

3 社会科教科書への「起業家」概念の導入

帝国書院『中学生の公民(最新版)』p.58

帝国書院『中学生の公民(最新版)』p.61

現可能なものになっている。

公民的分野の経済学習に起業家の概念が取り入

れられたことは、歓迎すべきことである。それは、

第一に、生徒が経済、産業、企業について学ぶ意

味が鮮明になるからである。たとえ生徒が将来起

業家にならないとしても、多くの生徒が職を得る

であろう企業というものが存続・成長・発展する

には、どうしなければならないかを知り、考える

ことができる。

第二は、経済学習に生徒の創造的な学びの場を

提供できることである。教科書の展開にあるよう

に、生徒個々人が、あるいはグループで自分(達)

の企画書を作成し、学習が進むとともにそれを修

正していくという授業を展開すれば、生徒の多く

は積極的にこの学習に参加することであろう。

注1:文部省『中学校学習指導要領解説-社会編-』、大阪

書籍、平成11年、p.135

注2:中山伊知郎・東畑精一訳、『資本主義・社会主義・民

主主義』上巻、東洋経済新報社、昭和37年、p.150-151

-4-

株式会社の仕組み等が述べられている。そして、

節の最後には、「前の授業でつくった企業の企画書

を、経営資金の調達の視点から見直し、よりよい

ものに修正してみましょう。→ヒント:資本金の

額が適切かどうか考えてみましょう」と問いかけ

ている。

「第3節・企業競争の実態を知ろう」では、企業

間の競争の意味、独占の問題点が述べられている。

そして、節の最後には、「あなたの企業の企画書に、

競争に勝つためのセールスポイントを書き加えて

みよう」と問いかけている。

このような調子で、経営・起業を考える上での

観点が、「第4節・国際化する企業」、「第5節・景

気変動と企業への影響」、「第6節・金融とのかか

わりを知ろう」、「第7節・企業の社会的責任を考

える」、「第8節・働きやすい職場をつくるために」、

「第9節・労働者をとりまく新しい動き」、と続き、

それぞれの節の最後に、その観点から企画書を修

正してみることを問いかけている。そして、最後

の「第10節・自分の企業を紹介しよう」では、「そ

れでは、最後に、みんなの企業の企画書を完成さ

せて、発表してみましょう」と提案されている。

そして、完成された企画書として、「かずやの企画

書」(株式会社・ミクロソフト)と「さやかの企画書」

(株式会社S’ペットショップ)が示されている。

第10節に示されている「かずやの企画書」は、

第1節における「かずやの企画書」と比べると格

段に洗練され、存在(実現ではなく)可能なもの

となっている。それは、第2節から第9節までの

学習とそれに基づく企画書の修正を反映したもの

になっている。第10節における「さやかの企画書」

は、「かずやの企画書」と比べると、より存在・実

帝国書院『中学生の公民(最新版)』p.61

4 経済学習への「起業家」概念導入の意味

帝国書院『中学生の公民(最新版)』p.77

-5-

平成14年度より総合的な学習の時間が全面実施

となり、本校の公民学習では総合的な学習と関連

した公民学習の導入に取り組んだ。総合的な学習

の目標は次の通りである。

①自ら課題をみつけ、自ら学び、自ら考え、主体

的に判断し、よりよく問題を解決する資質や能

力を育てること。

②学び方やものの考え方を身につけ、問題の解決

や探究活動に主体的、創造的に取り組む態度を

育て、自己の生き方を考えることができるよう

にすること。

この単元では総合的な学習との横断的な学習と

いう扱いで授業実践を行った。特に生徒の興味・

関心に基づく課題を設定することに重点をおいた。

そのため、「消費者保護を考える」の単元では次

の3点に留意した。

①生徒が実際体験したことの発表会を開くことに

よって、今後自分はどうすべきであるかを考え

させることに重点をおいた学習 

②生徒が模擬悪質商法を制作することにより、加

害者と被害者の立場から消費者被害について考

えさせることに重点をおいた学習

③社会科の目標である、現代の社会的事象に対す

る関心を高め、さまざまな資料を適切に収集。

選択して多面的・多角的に考察し、事実を正確

にとらえ公正に判断するとともに適切に表現す

る能力と態度を育てることに重点をおいた学習

福井県社会科研究協議会では平成10年より、「と

もに生きる社会を創造する社会科学習」という研

究テーマで社会科の授業研究を進めている。この

授業は提言・創造型の授業であり、授業は次のよ

うな形態で行う。

①課題の共有化(意欲づけ・現状分析と事実調

査・課題設定) → ②練り上げ(自説の構築・

コミュニケーション) → ③提言・創造

もちろんこのような授業形態がすべての単元で

わたしの授業実践

消費者保護を考える福井県芦原中学校 浅原真治

1 はじめに

帝国書院『中学生の公民(最新版)』p.56~57

2 授業の流れ

-6-

行うことは不可能である。しかし、どのような単

元においても学習の最後には必ずこれからの社会

に対する「提言・創造」をさせるようにした。

この単元では、日常の社会生活と関連づけなが

ら具体的事例を通して政治や経済などについての

見方や考え方の基礎が養えることができないだろ

うかと考えた。そうすることにより生徒一人ひと

りの学習意欲が高まり、今日的課題(ここでは消

費者保護)に対して、生徒が主体的に関わってい

く態度を身につけさせることができるのではない

だろうかと思い、授業を組み立てた。

(1)第1段階「課題の共有化」

「悪質商法にはどんなものがあるだろう」

単元の導入として、現在どのような悪質商法が

あるのかを調べた。特に生徒の資料としてマンガ

資料を用意し、その中に描かれている悪質商法に

ついて調査した。

調査した悪質商法の中には、だまされやすいも

のとだまされにくいものがある。特にだまされや

すい悪質例に絞り、どういう風にだまされやすい

かを調査した。

その中で特に興味・関心をもった商法をあげさ

せ、クラス全体で実態を話し合う中で個人の課題

を設定した(自分がもっとも興味がある悪質商法

を調査する)。

マンガ資料は単なる四こまマンガではなく、大

変わかりやすいものを利用した。

(2)第2段階「練り上げ」

「どんな悪質商法にだまされた例があるか、新

聞記事などから調べて、話し合おう」

なぜだまされたか、どのようにすれば防ぐこと

ができたかについて討論を行った。約2時間の討

論の終了後にはレポートを書き、自分の考えを深

めた。

レポート作成の際には次のような点に留意した。

①生徒のレポート作成意欲を喚起する価値ある単

元の学習課題を設定する。

②生徒に自分の意見をまとめさせる際に、自分な

りに確かな根拠をもたせる。

③レポートをまとめる時間的保障と適切な個別ア

ドバイスをする。

④レポートをもとに、お互いの意見を発表し合う

場を設定する。

⑤生徒のレポートに赤ペンで気づいたことや感想

を記入して生徒に返す。

(3)第3段階

「悪質商法の模擬劇を制作しよう」

加害者側と被害者側に分かれて模擬劇を制作さ

せた。だます方はどのようにしてだますのか、だ

まされる方はどのような点がよくなかったかをグ

ループ別に話し合わせ、発表する。

(4)第4段階

「行政機関が消費者保護についてどのような取

り組みをしているか調べよう」

「消費者保護についてどのように学んだらいい

だろうか」という主発問を行った。生徒からはイ

ンターネットで調べようという回答が一番多かっ

たが、中には次のように考えてくる生徒もいた。

①広報による注意の呼びかけ

②新聞による相談室・・・NIE学習

③電話相談・・・福井県消費生活センター

実際に電話して聞いてみたが、やはり実情は話

してくれなかった。しかし新聞記事を注意深く見

ていると、そのような相談例があることに気づい

た生徒が多かった。これはNIE学習との関連と

もなった。

(5)第5段階「提言・創造」

「これからの消費者保護を考えよう」

昨今話題になっている「オレオレ詐欺」や警察

官になりすまして、事故を起こしたと偽り、お金

をだまし取る例も多くなってきたという社会情勢

をふまえて、これから情報が多様化する時代に、

①アポイントメントセールス ②ネガティブオプション③マルチ(マルチまがい)商法 ④士(さむらい)商法⑤かたり商法 ⑥催眠(SF)商法⑦デート商法 ⑧キャッチセールス⑨電話勧誘商法

福井県消費者生活センター『ゆたかな消費者』

-7-

どのようなことに気をつけなければいけないかを

自分なりに判断させた。

また食品に関連した虚偽・誇大広告などが禁止

になった(2003・8・29健康増進法一部改正)ため、

それに関する資料を見せて考えさせた。

(6)第6段階「新たな課題の発見」

上記の資料を見た生徒からは新たな疑問点や新

たな視点が出てきた。

新しい疑問点:新聞記事や広告にはそのような

誇大広告や虚偽広告がないだろうか。

例:パチンコ店の広告が大きすぎる。

広告がいかにもそれらしく書きすぎている。

消費者だけでなく、企業側にも責任がある

のではないか。 ・・・ など

それらの件について新聞社に電話したり、広告

代理店に電話して疑問点を解決しようとする動き

がみられた。

評価については次のような点に留意して行った。

社会的事象への関心・意欲・態度────── 

消費者保護や宣伝・広告についての調査や話し

合いに進んで取り組み、消費者主権と消費について

の諸問題に関心をもって、意欲的に追究している。

社会的な思考・判断──────────── 

宣伝や広告と日常の消費行動との関係、消費者

自身の責任などについて、多面的・多角的に考察

し、消費者・企業・行政の立場から公正に判断し

ている。

資料活用の技能・表現─────────── 

個人の消費生活について、さまざまな情報手段

を用いて自分の考えをまとめたり、わかりやすく

発言や発表を行ったりしている。

社会的事象についての知識・理解────── 

消費者問題について、おおまかなしくみや問題

点を多面的・多角的に理解するとともに、その知

識を身につけている。

生徒の周辺で起こっている問題から学習をスタ

ートさせることで、学習の動機づけになったこと

は否定できない。家庭科の学習でも消費者保護に

ついては学習をしているが、社会科と総合的な学

習の時間を利用した問題解決学習は、生徒の興味

関心を喚起させる学習となった。

最後は提言・創造とともに、新たな疑問点の発

見という形で授業を終えることになったが、生徒

にとって少しでもこのような消費者問題について

興味・関心をもち、これからの生活に生かすこと

ができるような授業であったならば、それは授業

の成果ということもできる。

最後に社会科学習に留意すべき点をあげて、今

後の課題としたい。

・課題学習や興味関心別学習などを通して、資料

活用能力や表現力をていねいに指導していく場

を数多く設定する。

・思考力や判断力を高めるには、討論活動や話し

合い活動、ディベート活動を十分に取り入れ、

社会事象への思考判断を、集団の中で練り上げ

るような学習活動を取り入れる。

・一斉指導の中でただ単に知識を習得させるだけ

でなく、課題学習や興味関心別学習などを通し

て、資料活用能力や表現力をていねいに指導し

ていく場を数多く設定する必要がある。具体的

には、調査活動での資料の調べ方やその資料に

基づいて、自分の意見を自分なりの言葉でまと

めたり、発表したりする活動などを重視しなけ

ればならない。それがコミュニケーションの力

になると考えられる。

・思考力や判断力を高めるには、討論活動や話し

合い活動、ディベート活動を十分に取り入れ、

社会事象への思考判断を、集団の中で練り上げ

るような学習活動が必要であると思われる。さ

らに生徒一人ひとりが練り上げによって、自分

の思考判断がいかに高まったか、または変容し

たかを自己評価できる学習活動過程の工夫が必

要である。

福井県消費者生

活センター『ゆた

かな消費者』

3 評価

4 反省と今後の課題

-8-

本実践は、本校および本校社会科の研究実践の

一環として実施した。

本校では、基礎学力の定着をめざした指導法の

改善をねらいとして研究と実践を進め、現行教育

課程の実施にあたって年間指導計画と組み合わせ

た評価規準表を作成し、指導・評価に取り組んで

いる。最近特に、教科の指導内容および授業時数

の削減の中で、基礎・基本の定着をいかにしては

かるかという点が重要な課題となっている。

本校では、この課題に取り組むために、基礎・

基本を明確にすることと指導の際の指導の手だて

を工夫することを手がかりとした。基礎・基本の

明確化は、単元の評価規準をもとにして各観点ご

と、1時間ごとに「基礎的・基本的事項」として、

身につけさせたいことがらを、より具体的にする

ことである。また、指導の手だては、「基礎的・基

本的事項」を習得させるために、実際にどのよう

な資料や教材、学習活動を組み立てるかを明確に

することである。

社会科においては、新しい学力観に対応して用

語などを多く知っているという知識の量ではなく、

「学ぶ力」として、必要な情報を探して諸資料を読

み取り、それをまとめ、表現する力が必要とされ

ている。本校社会科でも資料の読み取りについて

は継続して取り組んできている。その際に、資料

についてどういうことを読み取ることができるか

を明確にすることがたいせつであると考えた。ま

た、学習活動の中に発言・発表や表現する場を設

けたり、話し合い(討論)、調査結果の報告をさせ

たりする手だてをとっている。

特に今回の授業では、生徒にとって用語の羅列

的学習に終始しがちな租税制度に関する学習をよ

り身近で具体性のあるものとするために、体験的

活動や話し合い活動を取り入れたり、さらに税務

署からゲストティーチャーを招いて、直接話を聞

いたり、質問したりすることによって、興味関心

を高めたり、主体性を引き出したりすることを試

みた。

以下指導案の概略を示す。

(1)単元名

福祉社会と財政

(2)指導観 

わが国は、これから少子高齢社会を迎えようと

している。一方で、国や地方公共団体はこれに対

して財政面で深刻な事態に直面している。社会福

祉と財政は密着な関係をもっており、国や地方公

共団体はこれらの課題を解決していくためにいろ

いろな施策を考えていく必要がある。とりわけ、

財政面での課題を克服していくためには、国民全

体で考えていく必要がある。

この点は、教科書の本文を読み、また掲載資料

(グラフ等)を読み取ることによって基本的なこと

は理解させていく。

生徒たちは、これまでボランティアなどを通し

て社会福祉に対しては身をもって経験している。

この経験を生かしながらこれからの福祉社会につ

わたしの授業実践

「福祉社会と財政」の学習~基礎・基本の明確化と指導の手だての工夫~

佐賀県東与賀中学校 多久島文樹

1 はじめに

2 本実践について

帝国書院『中学生の公民(最新版)』p.78

-9-

いてどうあるべきかを多面的・多角的に考える力

を身につけさせる必要がある。また、財政面の問

題点に関しては、まだ興味・関心が低いので、よ

り具体的な資料や事例を示す必要がある。

指導にあたっては、福祉社会を実現するために

は、行政が行う施策だけでなく、一人ひとりが自

分ができることを主体的に考え、ボランティアな

どの活動に積極的に参加し、ともに生きる社会を

(3)単元の指導計画 (①、②は時配、p.○は、帝国書院『中学生の公民(最新版)』のページ)

築きあげることの必要性を自覚させたい。また、

日本の税制については、ゲストティーチャーを招

聘し、税制についての諸問題について考えさせた

い。日本の社会保障制度については、統計やグラ

フをもとに課題を見つけさせ、日本の財政の課題

を国民福祉の向上の視点から、その改善方法につ

いても考えさせたい。

-10-

(4)本時の指導(第5次 2/2)

①本時の目標

○わが国の歳入を資料をもとに考え、租税収入の

重要さを理解することができ、将来の税制のあ

り方について考えることができる。

○ゲストティーチャーの話を聞き、日本の税制に

ついて興味をもつことができる。

②基礎基本定着の手だて

○グラフの読み取りについては、これまで継続し

て指導してきているのでかなりの生徒が費目と

(5)展開案

その割合は読み取ることができると思われる。

本時では、さらに読み取った内容をワークシー

トに記入させた上で発表させることにより、読

み取りが十分でない生徒の参考にさせる。

○ゲストティーチャーの話を聞かせることにより、

税についての関心を高め、租税制度について、

限定された机上の学習に終わらせないで、具体

性や現実感をもたせたい。また、質問タイムを

設けることで、疑問点をその場で解決したり、

今後の学習や生活への意欲づけをしたい。

授業において、資料グラフの読み取りについて

は、予想通りに適切に読み取ることができていた。

それまで継続的、段階的に繰り返し指導してきた

成果であるといえる。また、ゲストティーチャー

の話には、熱心に耳を傾けていたようである。た

だ、生徒にとって生活経験上消費税については具

体的に理解できるが、その他の税は十分に理解し

ていたとはいいがたい。この点については、学習

活動や教材に工夫が必要である。

基礎的・基本的事項については、1時間単位で

細かく作り上げる必要があり、教師が自覚的に授

業構成に位置づけていかなければならない。今後

も各授業レベルで考えていきたい。

帝国書院『中学生の公民(最新版)』p.89

ワークシート

3 おわりに

-11-

目標に準拠した評価、いわゆる絶対評価が導入

されて3年目を迎えた。各方面でさまざまな実践

が発表・報告されている。私は現在、指導と評価

の一体化を考える中で、観点別学習状況の評価を

生かした授業・評価に取り組んでいる。観点別学

習状況を生かすことによって生徒のつまずき等が

把握でき、次の学習活動に繋げられる。このこと

<評価規準>

により、「努力を要する」状況(C)の生徒を「お

おむね満足できる」状況(B)へと、さらには、

「おおむね満足できる」状況(B)の生徒を「十分

満足できる」状況(A)へと引き上げられる可能

性が大きくなると考えている。

以下、「公民のしおり」2003年4月号に記載の

『わたしの授業実践 第2部 第2章 「家計から学

ぼう」案』を例に、私の実践を紹介したい。

わたしの評価方法

経済分野の評価 ~観点別学習状況の評価を生かして~東京都品川区立荏原第六中学校 坂本教喜

1 はじめに

2 授業計画・評価計画等

<授業計画・評価計画>

1時間の学習活動において四つの観点すべてをみる方法もあるが、ここでは確実に行うために無理のない

程度として、二つの観点までとした。

-12-

(1)社会科カードの活用

単元のはじめに社会科カードを配布する。カー

ドには、この単元で身につける力、毎時間の評価

の観点が記入されている。毎時間の評価について

は、授業終了時に授業を振り返らせながら「A/

B/C」を記入させるとともに、授業の中で「わ

かったこと・考えたこと」も記入させ

る。回収後、教師は、生徒が印をつけ

た「A/B/C」の欄に、教師側の評

価として印をつける。「わかったこ

と・考えたこと」の欄には、評価やア

ドバイスを記入して返却している。生

徒の学習状況の把握とともに、学習意

欲の高揚や授業改善にも役立ててい

る。特に、「努力を要する」状況(C)

に印をつけている生徒や「わかったこ

と・考えたこと」の欄への記入がむず

かしい生徒、的外れの内容を記入して

いる生徒等に対しての手立てを考える

際に有効である。

単元終了時点で、生徒に単元の総合

評価を観点別につけさせる。A/B/

Cとその理由を書かせている。教師か

らは、観点ごとに評価を言葉で記入す

る。教師側からもA/B/Cを記入したこともあ

る(この形で行うと評定に移す際に単元の評価が

はっきりしているため便利)が、知識・理解をは

じめとして定期考査によって変更になる可能性が

あるため、言葉で記入した方がよいと現段階では

考えている。

〔社会科カードの一部例〕

①評価の記録欄の一部

3 社会科カード・ワークシート・補助簿の

活用

②「わかったことがら・考えたことがらを記入しよう!」欄の一部

③単元の総合評価

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(2)ワークシートの活用

指導計画・評価計画に基づき、ワーク

シートに教師側のねらい、つまり評価の

観点を記入する。あらかじめ記入してお

くことで、生徒にとっても教師にとって

もその授業のねらいを明確化することが

できる。

〔ワークシートの一部例〕

(3)補助簿の活用

補助簿には多くの形があり、さまざまな工夫が

なされているところだと思うが、私の授業は生徒

の活動が比較的多くあるため、名簿形式の補助簿

を活用している。

〔補助簿の一部例〕

AとCのみ記入するようにしている。授業中に

多くを書き込もうとすると、生徒への適切な指導

ができなくなるため、授業後に振り返ったときに

わかる程度にとどめている。また、無理をすると

記入することが主になってしまい、時間がかかる

とともに長続きしなくなる恐れがある。

ここでは、観点別学習状況の評価を授業に生か

そうとする試みを紹介させていただいた。各先生

方の学校にあった取り組みに合うよう工夫され、

活用していただければ幸いである。

単元の総括の仕方や、評価から評定へどのよう

に工夫をしていくか。その他にも、定期考査にお

ける問題の工夫など3年目にあたる今年度に取り

組む必要性を感じている。特に、ここで取り上げ

た観点別学習状況と単元を総括する際の学力評価

との関係、足し算的集計が可能な部分と、見方・

考え方、学び方等の継続的に学習することで得ら

れる学力のように、評価する時点がピークになっ

ているものとの場合では、評価の仕方を変えてい

く必要がある。ただ4観点を評価するのではなく、

学習のまとまりを見通し、実践していくことが現

在の私にとってもっとも切実な課題である。

終わりにあたって、私の実践は、東京都の他の

先生方との協同研究(「東京の教育21」平成15年度)

により開発したものをもとに行っていることを記

させていただく。

4 今後の課題

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帝国書院『中学生の公民(最新版)』p.44~45 ワークシート第2部 私たちのくらしと経済 1章 経済って何だろう 4 価格のはたらきと経済を考える

価格のはたらきと経済を考える

ワーク1 和也君とお母さんの会話を読んで、市場経済について考えよう。

和也:「母さん、今年の夏休みは、家族旅行どうするの」母 :「あんた、受験生でしょ。でも、涼しい高原のホテルにでも泊まりたいわね」和也:「お盆のころなら、俺行けそうだよ」母 :「だめよ。一番高いときなんだから」和也:「そうか、つまり(ア)量が多いんだね。」

1.なぜお盆のころに旅行する人が集中するのか、労働の面から考え説明しよう。

2.お盆のころはどうして観光地のホテルや旅館の価格は高くなるのか、説明しよう。

3.1年の中で、お盆以外に観光地のホテルや旅館の価格が高くなるのはいつだろうか。( )

4.(ア)には次の三つの中のどの語句が当てはまるのか。 < 市場  需要  供給 >( )

5.観光地の旅館やホテルの価格の変化を説明する次の文章の、( )に適する語句を入れてみよう。

お盆のころは旅行しようとする人、つまり( )量が増えるので、ホテルの価格は高くなる。逆に、8月下旬の平日などは( )量が減るので、ホテルの価格は安くなる。

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ワーク2ワーク1のように、ものの価格は需要量と供給量によって変化します。

「市場のせり」について考えてみよう。

1.右の市場のせりでは、最終的にどんな人が魚を得られるのか。

2.市場では、その日に売り出される魚と、その魚を買う人によって価格が決められていく。その関係をまとめた下記の文章の( )に適する語句を入れてみよう。

市場では、水揚げされた魚が( )くてその魚を買いたい人が( )い時に1番価格が高くなる。つまり、ものの価格は、供給量より需要量が( )い時に高くなり上昇する傾向にある。

ワーク3 価格の変化のグラフを見て考えよう。

1.右のグラフで、電気代は牛肉のような価格の変化が少ない。もし、牛肉のように価格が急上昇していくと、どんな影響が考えられるか、次の語句を必ず使って説明しなさい。<低所得者 国民>

2.電気代のような政府が決定したり認可したりする価格を何というか。( )

価格のはたらきと経済について( )にあてはまる語句を記入しなさい。ものの価格は、一般的に( )量が増えれば上がる。逆に、魚や野菜などのように、( )量が増えると価格が下がることもある。( )経済は、こうした需要と供給によって決められる経済のしくみである。

(学習のまとめ)

中学校社会科公民の学習をサポートする帝国書院の副教材

教科書に完全準拠しており、教科書の内容をまとめ整理できるワークです。

作業中心の内容構成で、生徒の主体的な学習ができ、自分で判断できる力が身につくワークです。

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