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学士論文 ミューオンの寿命測定装置の開発 東京工業大学 理学部 物理学科 柴田研究室 出水直也 平成 29 2 18

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学士論文

ミューオンの寿命測定装置の開発

東京工業大学 理学部 物理学科

柴田研究室

出水直也

平成 29 年 2 月 18 日

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概 要

ミューオンの崩壊は、ベクトルボゾンWを介する弱い相互作用による粒子崩壊の典型的な例であり、崩壊の寿命はフェルミ定数を反映している。フェルミ定数は電磁相互作用のワインバーグ角に依存している。本研究は、ミューオンの寿命測定に大面積の装置を用いることにより統計量を増やし短時間で測定できるようにすることと、基本的な素粒子測定技術を習得することとを目的としている。今回の測定装置は面積が 4800 cm2であり、以前に東工大卒業研究で製作された装置より面積を 30倍に拡張することができた。大型の装置にすると光電子増倍管の数が増えるので、光電子増倍管のノイズをどのように抑制するかが要点の一つである。もう一つの要点は、貫通するミューオンが増えるので、その信号をどのように抑制するか、である。同時計測および反同時計測を用いてバックグラウンドを低く抑えることが本研究の課題である。 正ミューオンは陽電子、電子ニュートリノ、反ミューニュートリノに崩壊する。正ミューオンの寿命は約 2 µsである。本実験では、宇宙線ミューオンを鉄中に止め、正ミューオンの寿命を測定した。プラスチックシンチレータを用いてミューオンの入射時刻と、崩壊後の電子または陽電子の時刻とを測定し、時間差のスペクトラムを取った。この実験装置により短時間でミューオンの寿命が測定できることを示した。 得られた正ミューオンの寿命は、24時間の測定で 2.20 ± 0.06 µsであった。得られたミューオン崩壊の計数は、以前の小面積の装置と比べて 66倍となった。これは測定部分の面積の比率である 30倍よりは多かった。そこで、ミューオンの静止位置から見込むプラスチックシンチレータの立体角の計算を行った。バックグラウンドについても考察した。 この装置は 2017年度からは大学院「物理基本実験」の教材として活用される。 

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目 次

第 1章 序論 3

第 2章 正および負ミューオンの崩壊 4

2.1 正ミューオンの崩壊 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 5

2.2 負ミューオンの崩壊 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 6

2.2.1 ミューオン原子 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 6

2.2.2 負ミューオンの寿命 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 8

2.3 宇宙線 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 9

第 3章 実験に用いた装置 10

3.1 セットアップ . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 10

3.2 プラスチックシンチレータ . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 12

3.3 光電子増倍管 (PMT) . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 13

3.4 ミューオンを止めるのに用いた物質 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 14

3.4.1 ミューオンの物質との相互作用 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 14

3.4.2 電子の物質との相互作用 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 16

3.5 ミューオンの寿命測定に用いるデータ収集系 . . . . . . . . . . . . . . . . 16

3.5.1 Discriminator . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 16

3.5.2 Coincidence . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 17

3.5.3 FAN-IN/OUT . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 17

3.5.4 Gate & Delay Generator . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 17

3.5.5 Time to Analog Converter (TAC) . . . . . . . . . . . . . . . . . . 17

3.5.6 Analog to Digital Convertor(ADC) . . . . . . . . . . . . . . . . . 17

3.5.7 Multi-Channel Analyzer (MCA) . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 18

3.5.8 Scaler . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 18

3.6 回路 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 18

第 4章 寿命測定の準備 21

4.1 TAC+ADCの時間較正 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 21

4.2 Discriminatorのスレッショルドの設定 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 23

4.3 Coincidence, Anti-coincidence, Accidental Coincidence . . . . . . . . . . 24

4.3.1 Coincidence, Anti-coincidence . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 24

4.3.2 Accidental Coincidence . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 24

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第 5章 ミューオンの寿命測定 26

5.1 正ミューオンの寿命測定 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 26

5.1.1 測定 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 26

第 6章 データ解析 29

6.1 フィッティング . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 29

6.2 バックグラウンド . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 30

6.3 正ミューオンの寿命測定の結果 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 31

6.3.1 大面積セットアップセットアップによる寿命測定 . . . . . . . . . 31

6.3.2 上段と下段各 3枚のプラスチックシンチレータによる測定 . . . . 33

6.4 ビン数の変更 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 34

6.4.1 50ビンでフィッティングを行った結果 . . . . . . . . . . . . . . . 35

6.4.2 60ビンでフィッティングを行った結果 . . . . . . . . . . . . . . . 36

6.4.3 70ビンでフィッティングを行った結果 . . . . . . . . . . . . . . . 37

6.4.4 80ビンでフィッティングを行った結果 . . . . . . . . . . . . . . . 38

6.4.5 90ビンでフィッティングを行った結果 . . . . . . . . . . . . . . . 39

6.4.6 100ビンでフィッティングを行った結果 . . . . . . . . . . . . . . . 40

6.4.7 150ビンでフィッティングを行った結果 . . . . . . . . . . . . . . . 41

6.4.8 200ビンでフィッティングを行った結果 . . . . . . . . . . . . . . . 42

6.5 実験値から求めたパラメータ . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 43

第 7章 小面積セットアップによる測定との比較 44

7.1 小面積セットアップによる測定結果 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 44

7.2 宇宙線ミューオンのレートについての考察 . . . . . . . . . . . . . . . . . 49

7.3 崩壊後の陽電子がプラスチックシンチレータを見込む立体角 . . . . . . . 51

第 8章 まとめ 58

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第1章 序論

ミューオンの崩壊は、ベクトルボゾンWを介する弱い相互作用による粒子崩壊の典型的な例であり、崩壊の寿命はフェルミ定数を反映している。フェルミ定数は電磁相互作用のワインバーグ角に依存している。本研究では、ミューオンの寿命測定に大面積の装置を用いることにより統計量を増やし短時間で測定できるようにすることと、基本的な素粒子測定技術の習得とを目的としている。 ミューオンは真空中では次のように崩壊する。

µ+ → e+ + µe + νµµ− → e− + νe + νµ

 本研究では、鉄中にミューオンを静止させ崩壊したミューオンから放出される電子または陽電子をプラスチックシンチレータで検出する。その信号を光電子増倍管を通して電気パルスにし、TAC(時間差ー波高変換器)を使い、ミューオンが入射してから崩壊するまでの時間差を測定する。 一次宇宙線は陽子や原子核であるが、地球大気中の原子核と衝突して中間子が生成する。その中間子が崩壊して地表に達するときの宇宙線の大部分はミューオンになる。このミューオンを測定に用いた。本研究では、プラスチックシンチレータを 12枚用いる。上段下段にそれぞれ 6枚ずつ設置し、その間に鉄の板を設置した。データはPCに取り込み、崩壊曲線とバックグラウンドでフィッティングする際に生じたパラメータの誤差について検討し、過去の小面積プラスチックシンチレータを用いた測定結果と比較した。 本論文の構成は、次のようになっている。第 1章では本研究の目的について述べる。第2章ではミューオンの崩壊、宇宙線について述べる。第 3章では本研究で用いる装置や回路、物質との相互作用について述べる。第 4章ではミューオンの寿命測定のための準備について述べる。第 5章では実際の測定を記述する。第 6章では、フィッティングを行い正ミューオンの寿命を測定する。統計量が多いため、ビンの数の変更も行った。第 7章では、大面積セットアップを用いて得られた結果と小面積セットアップを用いて得られた結果の比較を行う。第 8章では本論文の内容をまとめ、今後の展望について述べる。

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第2章 正および負ミューオンの崩壊

ミューオンはレプトンの一種である。スピンは 1/2 であり、ミューオンには二種類ある : 正ミューオン µ+(電荷 +1)、負ミューオン µ−(電荷 −1)。1936年にミューオンが発見されて以来、ミューオンの性質や振る舞いは研究されてきた。ミューオンの質量 mµ とミューオンの寿命は、Particle Data Groupによると

mµ = 105.6583745± 0.0000024 MeV/c2 (2.1)

τµ = 2.1969811± 0.0000022 µs (2.2)

ミューオンの質量は電子や陽電子の質量の約 200倍である。ミューオンの崩壊幅 Γ は弱い相互作用の V-A 理論により、

Γ =ℏτ=

G2F

192π3 · (ℏc)6· (mµc

2)5 · (1 + ϵ) (2.3)

ここで、τ は寿命、GF はフェルミ定数、mµ はミューオンの質量、ϵ は高次の過程(輻射補正)や位相空間の影響を考慮するための補正項である。 負ミューオンは物質中に静止するとミューオン原子を形成し、原子核吸収も起こるので、寿命が短くなる。 正および負ミューオンの様々な物質中での寿命を表 2.1に示す。

物質 原子番号 Z µ+ の寿命 (µs) µ− の寿命 (µs)

崩壊 0 2.2 2.2

炭素 6 2.2 2.0

アルミニウム 13 2.2 0.88

鉄 13 2.2 0.20

鉛 82 2.2 0.08

表 2.1: 正および負ミューオンの寿命

正ミューオンについては 2.1節、負ミューオンについては 2.2節に記述する。

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2.1 正ミューオンの崩壊正ミューオンは以下のように崩壊する。

µ+ → e+ + µe + νµ (2.4)

崩壊のファインマンダイアグラムを図 2.1に示す。

図 2.1: 正ミューオンの崩壊のファインマンダイアグラム。正ミューオンは陽電子、電子ニュートリノ、反ミューニュートリノに崩壊する。崩壊はW+ ボゾンによって媒介される。

崩壊せずに残っている正ミューオンの数 N+(t)は式 (2.5)で表される。

N+(t) = N0 exp (−t/τ+) (2.5)

ここで、N0 は崩壊前のミューオンの数、τ+は正ミューオンの寿命である。ゆえに、崩壊したミューオンの数 N+

decay(t) は式 (2.7)のように表せる。

N+decay(t) = N+

0 −N(t) (2.6)

= N+0 −N+

0 exp (−t/τ+) (2.7)

Ndecay の時間微分は、

dN+decay

dt=

N+0

τ+exp (−t/τ+) (2.8)

本研究では、この方程式はミューオンの寿命を決定するのに使われる。鉄中で止められたミューオンの崩壊の時間スペクトラムは、この関数でフィッティングし、正ミューオンの寿命を決定する。

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2.2 負ミューオンの崩壊負ミューオンの物質中の寿命は、正ミューオンの物質中での寿命とは異なる。それは、負ミューオンは原子核と相互作用するためである。負ミューオンの寿命 τ は崩壊と原子核吸収という 2つの競争過程の結果として決まる:

1

τ=

1

τdecay+

1

τcapture(2.9)

真空中で、負ミューオンは以下のように崩壊する。

µ− → e− + νe + νµ (2.10)

図 2.2: 真空中の負ミューオンの崩壊のファインマンダイアグラム。この過程で、負ミューオンは電子、ミューニュートリノ、反電子ニュートリノに崩壊する。崩壊は、W− に媒介される。

2.2.1 ミューオン原子

物質中の負ミューオンはミューオン原子を形成する。ミューオン原子では、電子が負ミューオンに置き換わってる。負ミューオンが原子中の電子と置き換わった後、負ミューオンは以下の二つの過程のうちいずれかをたどる。

1). 崩壊真空中での崩壊と同様に崩壊する。

µ− → e− + νe + νµ (2.11)

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2). 原子核捕獲負ミューオンは原子核に捕獲される。その反応は以下のようになる: 核子のレベルでは、

µ− + ”p” → n+ νµ (2.12)

原子核のレベルでは、

µ− + A → A∗ + νµ (2.13)

A∗ → p+ n+ ... (2.14)

図 2.3: ミューオン原子の概略図。電子の代わりに原子核の周りに軌道を作る。その軌道半径は、ミューオンのほうが電子よりも質量が大きいため、たいへん小さい。

負ミューオンは陽子と反応して中性子、ミューニュートリノを生成する。もしくは、負ミューオンが原子核と反応して、励起状態の原子核とミューニュートリノを生成する。励起状態の原子核は陽子や中性子などの粒子を放出する。したがって、物質中での負ミューオンの寿命は、自由崩壊と原子核吸収という二つの競争過程によって決まる。

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2.2.2 負ミューオンの寿命

物質中での負ミューオンの寿命は、その物質によってさまざまである。表 2.2に、いくつかの物質中での負ミューオンの寿命を示す。

表 2.2: 異なる物質中での負ミューオンの寿命。原子番号が増えるにつれて、負ミューオンの寿命は小さくなる。

物質 寿命 (µ s)

自由崩壊 2.2

炭素 2.0

アルミニウム 0.88

鉄 0.20

鉛 0.08

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2.3 宇宙線宇宙線とは、宇宙空間から飛来する粒子のことである。現在観測されている宇宙線で、最もエネルギーの高いものは 1020 eV以上におよび、その起源は完全には解明されていない。地球大気に入射する宇宙線を一次宇宙線という。一次宇宙線のほとんどは陽子で、高エネルギーの原子核である。この宇宙線は、大気中の窒素原子核や酸素原子核などと衝突して、破壊や粒子生成を繰り返すことによって中間子などの新たな粒子をシャワー状に発生させる。これを空気シャワーといい、生成された新たな粒子を二次宇宙線と呼ぶ。本研究で用いるミューオンは、二次宇宙線の空気シャワーに由来するものである。空気シャワー現象においては、宇宙線を構成する粒子は次々に変化する。一次宇宙線のほとんどは大気中での衝突により減少する。そのため、地表に到達する宇宙線はほとんど二次宇宙線である。地表に降り注ぐ宇宙線ミューオンは、π中間子やK中間子が以下のように崩壊することによって、発生したものである。

π+ → µ+ + νµ (2.15)

π− → µ− + νµ (2.16)

K+ → µ+ + νµ (2.17)

K− → µ− + νµ (2.18)

図 2.4: 空気シャワーの概略図。宇宙空間から飛来した一次宇宙線が、地球大気中の原子との衝突・破壊することによって、ハドロンを生成する。この過程を繰り返す事により、二次宇宙線がシャワー状に広がる。

そのフラックスは、1 cm2 あたりに毎分およそ 1個である。本研究では、この宇宙線ミューオンを物質中で静止させることによって、ミューオンの寿命を測定する。用いるプラスチックシンチレータの上面の面積は 4800 cm2 なので、約 80 Hzの計数率で上段のプラスチックシンチレータを通過することになる。そのうちの一部が、物質中で静止する。

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第3章 実験に用いた装置

3.1 セットアップ本実験で用いたセットアップは、上段と下段に各 6本のプラスチックシンチレータを設置し、プラスチックシンチレータの両端に光電子増倍管が接続されており、コインシデンスを取る。上段のプラスチックシンチレータで、入射する宇宙線ミューオンが検出され、このとき、下段のプラスチックシンチレータはVETOに用いられる。一部のミューオンが物質中で止まり、崩壊し、陽電子または電子を放出する。これらの荷電粒子が上段または下段で検出される。上段のどれかで信号があり、かつ下段のどれからも信号がない、または、上段のどれからも信号がない、かつ下段のどれかから信号がある場合のみ、記録される。この要請によって、バックグラウンドが減少する。

図 3.1: セットアップの側面図の概略図。ミューオンが上段のプラスチックシンチレータを貫通し、物質中(鉄)で止まる。その後崩壊し、電子または陽電子が上段または下段のプラスチックシンチレータで検出される。

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図 3.2: 正面から見たセットアップの概略図。鉄の厚さは 1 cm。

図 3.3: 側面から見たセットアップの概略図。

図 3.4: 実験で用いた実際のセットアップ。上段と下段に各 6本のプラスチックシンチレータを設置し、その両端に PMTを接続する。

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3.2 プラスチックシンチレータ本研究では、宇宙線ミューオンの検出器として、シーアイ工業製のプラスチックシンチレータを使用した。使用するプラスチックシンチレータの寸法(縦 × 横 × 厚さ)は、1 m × 8 cm × 2 cmである。シンチレータとは、荷電粒子が入射した時に、光を放出する物質のことである。シンチレータ内に荷電粒子が入射すると、荷電粒子はシンチレータ内の原子を電離・励起させながらエネルギーを失っていく。そのエネルギーの一部はプラスチックシンチレータ内の蛍光物質の励起に使われ、それが基底状態に戻るときに、光を放出する。この光をシンチレーション光と呼ぶ。シンチレーション光の数は、入射した荷電粒子がプラスチックシンチレータ内で失ったエネルギーに比例する。ただし、エネルギー分解能はあまりよくない。 シンチレータは、その材料によって無機シンチレータと有機シンチレータに分類される。有機シンチレータは、プラスチックなどの有機化合物でできている。有機シンチレータは反応速度が速く、発光量が少ない。それに対して、無機シンチレータは反応速度が遅く、発光量が多い。入射粒子のエネルギーを正確に知りたい場合は、発光量の多い無機シンチレータを用いる。入射粒子がシンチレータ内に入射したタイミングを詳しく知りたい場合は、有機シンチレータを用いる。本研究では、同時計測や反同時計測を早いタイミングで行うので、応答速度が速いシンチレータを使用する必要があるため、有機シンチレータの一種であるプラスチック・シンチレータを用いる。

図 3.5: プラスチックシンチレータの主成分の例である有機物質ポリビニルトルエンの構造式。化学式は [CH3C6H4CHCH2]nである。

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3.3 光電子増倍管 (PMT)

シンチレータからの光は微弱なので、そのままでは検出することができない。微弱なシンチレーション光を検出するためには、信号を検出可能な大きさにまで増幅する光電子増倍管を用いる。光電子増倍管とは、光を電気信号に変換して、増幅する装置である。光電子増倍管の光電面に光が入射すると、光電効果により電子が放出される。その電子を、ダイノードと呼ばれる電極を複数経由して増幅することによって、検出可能な大きさの電気信号に変換する。出力される電気信号の大きさは、最初に入射した光子の数に比例する。本研究では、プラスチックシンチレータからのシンチレーション光を、ライトガイドを通して光電子増倍管に導き、電気信号に変換したものを検出する。使用する光電子増倍管は浜松ホトニクスのR7724である。表 3.1に、特性を示す。

表 3.1: 本実験で用いる光電子増倍管の特性。

型番 R7724

推奨印加電圧(最大印加電圧) -1750 V (-2000 V)パルス上昇時間 2.1 ns

電子走行時間 29 ns (typical)

電子走行時間の拡がり 1.2 ns (typical)

図 3.6に、ライトガイドと光電子増倍管に接続されたプラスチックシンチレータの概略図を示す。

図 3.6: ライトガイドと光電子増倍管に接続されたプラスチックシンチレータの概略図。

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3.4 ミューオンを止めるのに用いた物質本実験では、鉄中の正ミューオンの寿命を測定した。鉄は薄い鉄板を用いた。寸法は表 3.2のようになっている。

表 3.2: 本実験で用いた鉄板の寸法。

物質 寸法(縦 × 横 × 厚さ)

鉄 100 cm × 56 cm × 0.4 cm

鉄 100 cm × 8 cm × 0.3 cm

3.4.1 ミューオンの物質との相互作用

ミューオンが物質中に入射したとき、物質中の原子と電磁相互作用を行い、電子を励起したり電離したりして、自らは運動エネルギーを失って減速する。荷電粒子が原子を電離・励起することにより、面密度、すなわち単位質量あたりの物質中で失うエネルギーはBethe-Blochの式で表され、β = v/cに依存する。

−dE

dξ= Dρ

Z

Az2

1

β2

(ln[2mec

2β2γ2

I

]− β2 +

δ

2

)(3.1)

ここで、

D =e4n

4πε20mec2ρ

A

Z≃ 0.3071 MeVcm2/g (3.2)

である。γ = 1/ 2√1− β2、Z は物質の原子番号、Aは物質の質量数、zは入射粒子が持

つ電荷、me = 0.511 MeV/c2。dEdξの単位はMeV/(g/cm2)である。n = ρZ

ANAは電子密

度、ρは物質の密度、NAはアボガドロ数、Iは物質の原子の平均励起エネルギーである。ε = ρx。δは密度効果と呼ばれ、高々数パーセントの補正項である。物質の原子の平均励起エネルギーは、おおよそ式 (3.3)のように表される。

I ∼ 16 Z0.9 eV (3.3)

アルミニウムや鉄の、原子番号 Zや、質量数Aなどを表 3.3に示す。また、エネルギー損失は、運動エネルギー T を用いても表せる。

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表 3.3: 本実験で用いた物質の特性

物質 Z A ρ(g/cm3) I (eV)

アルミニウム 13 27 2.7 161

鉄 26 56 7.9 300

T = E −mµc2 (3.4)

という関係を用いると、β2は、

β2 =

Tmµc2

( Tmµc2+2

)

( Tmµc2

+ 1)2(3.5)

という運動エネルギー T とミューオンの質量mµで表せる。ゆえに、Bethe-Blochの式は書き換えることができて、

dE

dx(T ) = Dρ

Z

Az2( ( T

mµc2+ 1)2

Tmµc2

( Tmµc2

+ 2)ln[2mc2

I

T

mµc2(

T

mµc2+ 2)

]− 1 +

δ

2

)(3.6)

と表すことができる。

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3.4.2 電子の物質との相互作用

一方、電子や陽電子が物質中に入射したときは、ミューオンとは違い、エネルギー損失の原因は電離・励起だけではない。物質中の原子核の電場から制動を受けることにより、エネルギーを光子の形で放射する制動放射による損失も考慮する必要がある。これは、電子の質量が小さいことが原因である。しかし、制動放射以外のエネルギー損失はBethe-

Blochの式で表すことができる。The National Institute of Standards and Technology

(NIST) のESTAR データベースによって作成した、鉄内における電子の持つエネルギーTとその時のエネルギー損失−dE/dxの関係を示す。

図 3.7: 鉄中の電子のエネルギー損失。

3.5 ミューオンの寿命測定に用いるデータ収集系光電子増倍管から出力されるアナログ信号を処理するために、NIMモジュールによる計測回路を組む。本研究で行う実験では、以下のデータ収集系を用いる。

3.5.1 Discriminator

Discriminatorはあらかじめ設定された閾値より大きなアナログ信号を受けさまざまな幅のデジタル信号を出力することによって、アナログ信号をデジタル信号に変換する。Discriminatorは、光電子増倍管によって出力されるアナログ信号をデジタル信号に変換し、バックグラウンドのノイズを減らすために用いられる。Discriminatorの閾値の設定については第 4章で記述する。

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3.5.2 Coincidence

Coincidenceは 2個以上のデジタルパルスが時間的に重なって入力されたとき、すなわち、複数のデジタルパルスが同時計測されたときのみ、任意に設定した幅でデジタルパルスを出力する。veto (anti-coincidence) をかけることができ、同時計測された信号の中でも、veto 端子に入力したパルスと同時に計測された場合は出力しないという操作が可能である。同時計測に要する最小のパルス幅については、第四章で述べる。

3.5.3 FAN-IN/OUT

FAN-IN/OUTは入力した複数の信号をOR出力する。PHILLIPS SCIENTIFIC 社のMODEL 740 QUAD LINEAR FAN-IN/FAN-OUTを使用した。本研究では、上段・下段の 12個のプラスチックシンチレータからの信号をあわせて START・STOP信号を出力するために用いる。

3.5.4 Gate & Delay Generator

Gate & Delay Generatorは、START端子に入力した信号を、任意の幅に変更し、時間的に任意に遅延させられる。テクノランド社のN-TM 307 2CH Gate and Delay Generator

Type2 を使用した。本研究では、パルサーからの信号の一方を任意に delay させることにより、測定されたチャンネル数と時間の対応関係を求めるための時間較正に用いる。

3.5.5 Time to Analog Converter (TAC)

TACは、START端子に入力した信号と STOP端子に入力した信号の時間差に応じて、その時間間隔を波高に変換したアナログパルスを出力する。ORTEC社のModel 566 Time

to Amplitude Converter を利用した。本研究では、ミューオンが入射し、電子を放出するまでの時間差を測定するのに利用する。

3.5.6 Analog to Digital Convertor(ADC)

ADCは、入力されたアナログ信号、電荷に比例するデジタル値に変換する。LaboratoryEquipment 社の ADC500を使用した。本研究では、TACから出力された、時間差を波高に変換したアナログアナログパルスをデジタル値(チャンネル数)に変換するのに用いる。

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3.5.7 Multi-Channel Analyzer (MCA)

MCAは、入力されたデジタル信号をチャンネル毎に積算する。Laboratory Equipment

社のMCA510 を使用した。本研究では、チャンネル数の積算により、ミューオン崩壊の時間スペクトルを得るために利用する。

3.5.8 Scaler

Scalerは、入力した信号をカウントする。N-OR 425 8CH 100 MHz Visual Scalerを使用した。本研究では、光電子増倍管からの信号をカウントすることで計数率の測定に用いる。

3.6 回路ミューオンが入射した時刻と、崩壊後の電子または陽電子の時刻の時間差を測定するために、NIMモジュールを用いた。TACの START信号と STOP信号は

表 3.4: TACにおくる START信号と STOP信号

START #1 ∪#2 ∪#3 ∪#4 ∪#5 ∪#6 ∩ #7 ∪#8 ∪#9 ∪#10 ∪#11 ∪#12

STOP #1 ∪#2 ∪#3 ∪#4 ∪#5 ∪#6 ∩ #7 ∪#8 ∪#9 ∪#10 ∪#11 ∪#12または #7 ∪#8 ∪#9 ∪#10 ∪#11 ∪#12 ∩ #1 ∪#2 ∪#3 ∪#4 ∪#5 ∪#6

測定の流れは以下の通りである。

1. 宇宙線ミューオンが上段の#1 ∼ #6のプラスチックシンチレータを貫通し、信号が両端の光電子増倍管から出力される。 

2. もし両端の光電子増倍管でコインシデンスがとれれば、STARTの信号がTACに送られる。

3. 宇宙線ミューオンが物質中で遅められ、止まる。正ミューオンであれば、崩壊し陽電子を放出する。負ミューオンであれば、ミューオン原子を形成し、崩壊して電子を崩壊するか原子核捕獲が起きる。

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4. 陽電子または電子が上段の#1 ∼ #6または下段の#7 ∼ #12のプラスチッキシンチレータを貫通すると、信号が光電子増倍管から出力される。

5. もし両端の光電子増倍管でコインシデンスがとれ、上段のどれかから信号があり、かつ下段のどれからも信号がない、または、上段のどれからも信号がなく、かつ下段のどれかから信号があるとき STOP信号がTACに送られる。

6. START信号と STOP信号の時間差によって、TACからアナログ信号が出力される。

7. ADCがその波高を記録し、デジタル信号をMCAに送る。

8. MCAがデータを収集し、PCに送る。

図 3.8: 光電子増倍管からの信号のためのセットアップ。光電子増倍管からDiscriminator

にアナログ信号が送られる。Discriminatorにアナログ信号が入力され、デジタル信号を出力する。プラスチックシンチレータに接続された両端の光電子増倍管でコインシデンスを取る。上段・下段でそれぞれORを取り、START・STOP信号となる。

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図 3.9: データ収集に用いた実際のモジュール。

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第4章 寿命測定の準備

4.1 TAC+ADCの時間較正ミューオンの寿命測定では、ミューオンが入射したときの信号を START信号、ミューオンの崩壊によって生成された電子または陽電子の信号を STOP信号として、その時間差を測定することにより、ミューオン崩壊の時間スペクトルを得る。時間差を波高に変換したアナログ信号がTACから出力される。その信号がADCに入力され、波高に対応するチャンネル数がデータとして取得される。ミューオンの寿命を測定するには、このチャンネル数を時間に変換する必要がある。図 4.1のような測定回路を組む。

図 4.1: 時間較正に用いる回路図。

一定のタイミングで信号を出すパルサーからの信号を Discriminatorを通して 2つに分けて、一方を TACに入力する START信号とする。もう一方の信号をGate & Delay

Generatorに入力し、信号を任意に時間的に遅らせたTACに入力するSTOP信号とする。TACから出力される信号の波高は、Gate & Delay Generatorにより任意に設定した時間差と対応する。その時間スペクトルのピークのチャンネル数が、任意の時間差に対応するチャンネル数である。TACの入力可能な最大の時間差を 20 µsに設定した時の時間較正を行う。START信号と STOP信号の時間差を 1, 4, 8, 12 µsに設定して、それぞれ時間スペクトルを測定し、そのピークにおけるチャンネル数を調べた。時間差とチャンネル数の対応表は表 4.1のようになった。横軸をチャンネル数 Channel (ch)、縦軸を時間 Time (µs)として一次関数でフィットすると、下のようになり、時間スペクトルにより得られるチャンネル数と時間の時間較正として、

Time = 0.01948 · Channel− 0.1734 (4.1)

が得られた。

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表 4.1: 時間差とチャンネル数の対応表

時間 (µs) チャンネル数

1 62

4 214

8 418

12 626

図 4.2: ミューオンの寿命測定に用いるTACについて、20 µsで設定した時のパルサーを用いた時間較正のグラフ。

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4.2 Discriminatorのスレッショルドの設定光電子増倍管からのアナログ信号は、Discrimimnatorに送られる。Discriminatorであらかじめ設定したスレッショルドよりも大きいアナログ信号のみが、デジタルパルスとして出力される。Discriminatorのスレッショルドは、適切な大きさに設定しなければならない。Discriminatorを通して、ノイズを除き、かつ、ミューオンや電子などが貫通したときの信号は除かないようにする必要がある。スレッショルドは、β線源である 90Sr

を用いて決定する。90Srからの β線の最大エネルギーEmaxは、

Emax = 2.23 MeV (4.2)

本研究では、β線源の 90Srからの β線を検出したパルスの最大波高のおよそ 1/2をスレッショルドに設定する。2 cmの厚さのプラスチックシンチレータを貫通するミューオンのエネルギー損失は約 4 MeVであるため、β線の持つ最大エネルギーと比較しても、適切であるといえる。β線のパルスはオシロスコープで見ることができる。各PMTから出力された信号を入力するDiscriminatorで設定したスレッショルドを表

4.2に示す。

表 4.2: 各 PMTで設定したスレッショルド。

PMT スレッショルド (mV) PMT スレッショルド (mV)

#1 200 #13 300

#2 200 #14 300

#3 200 #15 300

#4 350 #16 300

#5 300 #17 350

#6 350 #18 400

#7 350 #19 350

#8 300 #20 300

#9 300 #21 350

#10 300 #22 450

#11 300 #23 200

#12 300 #24 300

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4.3 Coincidence, Anti-coincidence, Accidental Coin-

cidence

バックグラウンドのノイズを減らすために、プラスチックシンチレータの両端に光電子増倍管を接続し、Coincidenceを取っている。

4.3.1 Coincidence, Anti-coincidence

Coincidenceモジュールが、Coincidenceを取るのに必要なパルスの重なりの幅は 3 ns

である。光電子増倍管からDiscriminatorに入力されるパルスの幅は、少なくとも 3 ns必要である。適切な重なりをもってCoincidenceをとれるように、Discriminatorから出力されるパルス幅は、10 nsに設定する。Anti-coincidenceに用いるパルス幅は、70 nsに設定する。

4.3.2 Accidental Coincidence

本研究では、Accidental Coincidence(偶発的同時計測)をできる限り少なくすることが重要である。本実験で用いるNIM規格の Coincidenceモジュールは、2個以上のデジタルパルスが時間的に重なって入力してCoincidenceが成立した場合に、重なった時間の始まりを起点とする 1 個のパルスを出力する。Coincidence モジュールに 2 つのパルスが偶然、時間的に重なって入力した時にも、コインシデンスが成立する。これをAccidental

Coincidenceと呼ぶ。Coincidenceモジュールに入力するデジタルパルスが 2個の場合のAccidental Coincidenceの計数率Racc (Hz) の式は、次のように書ける。

Racc = R1 ·R2 · (h1 + h2 − 2h3) (4.3)

ここで R1 [Hz] と R2 [Hz] はそれぞれ PMT1と PMT2の信号の計数率、h1 (s) と h2

(s) はそれぞれPMT1とPMT2のDiscriminator からの出力信号のパルス幅、h3 (s) は同時計測に必要な最小のパルス幅である。Accidental Coincidenceの計数率は、光電子増倍管からの信号の計数率R1、R2だけでなく、Coincidence moduleに入力する信号のパルス幅 h1、h2 にも依存する。TAC の設定は 20 µsとした。この測定で偶発的同時計測が起こりうる範囲は、測定可能な START 信号と STOP 信号の間隔の最大値である 20 µsである。つまり、START 信号が入力されてから 20 µs以内に STOP 信号が入った場合に偶発的同時計測が起こる。従って、PMT1 と PMT2 の計数率をR1 (Hz), R2 (Hz) とすると、この測定における偶発的同時計測の計数率Racc (Hz) は、式 (4.3)のパルス幅の項を 20 µs (20 ×10−6 s) に置き換えた

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Racc ≃ R1 ·R2 · (20× 10−6) (4.4)

という式で書くことができる。

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第5章 ミューオンの寿命測定

5.1 正ミューオンの寿命測定

5.1.1 測定

正ミューオンの寿命は、鉄中でのミューオンの寿命を測定することで決定される。鉄中での負ミューオンの寿命は約 0.2 µsなので、負ミューオンの崩壊後に正ミューオンの寿命を測定する。測定時間は 86400s = 1440分 = 24時間 = 1日で、総カウント数は 7578であった。図

5.1、図 5.2にヒストグラムを示す。

図 5.1: 鉄中のミューオン崩壊の時間スペクトラム。0∼20 µsにおける総カウント数は7578である。

そして、各プラスチックシンチレータから出力される信号のレートを表 5.1に示す。ただし、例えば#1という信号は、両端のPMTでコインシデンスを取った、各プラスチックシンチレータからの信号のことである。

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図 5.2: 鉄中のミューオンの時間スペクトラム。縦軸を logスケールにした図。

表 5.1: 各プラスチックシンチレータから出力される信号のレートの表。

チャンネル レート (Hz) チャンネル レート (Hz) チャンネル レート (Hz)

#1 4 # 7 8 START 24

#2 6 # 8 5 STOP 48

#3 15 # 9 7

#4 8 # 10 7

#5 3 # 11 13

#6 2 #12 7

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さらに、測定部分の面積を増やすことによって、バックグラウンドの比率が増えるかどうか考察するために、12本のプラスチックシンチレータの内 6本、つまり上段と下段各 3本ずつのみを用いた測定を行った。測定時間は 86400秒 = 1440分 = 24時間 = 1日で、総カウント数は 3923である。図 5.3にヒストグラムを示す。

図 5.3: 上段と下段各 3本ずつのみを用いた測定。測定時間は 1日で、0 ∼10 µsにおける総カウント数は 3923である。

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第6章 データ解析

6.1 フィッティングミューオンの寿命測定を、ミューオン崩壊の時間スペクトラムを取ることによって行う。正ミューオンのみ、または負ミューオンのみの寿命測定の場合、スペクトラムを式(6.1)の関数でフィットする。

N0

τµexp(−t/τµ) + C (6.1)

ここで、N0は検出されたミューオンの総数、τµはミューオンの寿命、Cはバックグラウンドを表す定数、tは時間である。宇宙線ミューオンは正および負ミューオン両方を含んでいるため、物質中で止まるミューオンの中には正ミューオン、負ミューオン両右方含む。正ミューオンと負ミューオンの崩壊は独立であり、独立に電子または陽電子を放出する。ゆえに、一般的には時間スペクトラムは二つの関数の和でフィッティングする。

N+0

τ+exp(−t/τ+) +

N−0

τ−exp(−t/τ−) + C (6.2)

ここで、N+0 は検出された正ミューオンの総数、τ+は正ミューオンの寿命、N−

0 は検出された負ミューオンの総数、τ−は負ミューオンの寿命、そしてCはバックグラウンドを表す定数である。鉄中のミューオン崩壊の時間スペクトラムは 1 ∼10 µsでフィッティングする。0 µsからでなく 1 µsからフィッティングするのは、負ミューオンの要素を除くためである。鉄中の負ミューオンの寿命は 0.2 µs であると想定される。式 (6.2)によると、鉄中でのミューオン崩壊の時間スペクトラムは以下のようであると想定される。

N+0

2.2exp(−t/2.2) +

N−0

0.20exp(−t/0.20) + C (6.3)

したがって、負ミューオンによる時間スペクトラムの要素は、正ミューオンに比べてかなり短いと考えられる。1 µs までに、負ミューオンの要素は以下の要素により減少する。

e−1.0/0.2 = e−5 = 0.0067 (6.4)

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1 µs以降は、正ミューオンの要素に比べて負ミューオンの要素は無視することができる。1 µs以降にミューオン崩壊の時間スペクトラムをフィッティングすることによって、式 (6.2)の第 2項は無視できる。ミューオン崩壊の時間スペクトラムは 10 µsまでフィッティングする。式 (6.2)の定数Cは 15 µs ∼ 20 µsにおけるビンごとの平均の計数に固定した。したがって、式 (6.5)を用いてミューオン崩壊の時間スペクトラムをフィッティングする。

N0

τ+exp(−t/τ+) + C(fixed) (6.5)

ここで、N+と τ+は二つのフィッティングパラメータである。

6.2 バックグラウンド鉄中の正ミューオンの寿命は 2.2 µs 、負ミューオンの寿命は 0.2 µsと想定されるため、

15 µs ∼ 20 µsのカウントは、バックグラウンドであると考えてよい。そして、それ 2倍したものと同じだけのバックグラウンドによるカウントが 0 µs ∼10 µsにもあると推測される。そこでバックグラウンドの比率を式 (6.6)のように定義する。

Rバックグラウンド =2 · (15µs ∼ 20µsのカウント数)

(0µ ∼ 10µsのカウント数)− 2 · (15µs ∼ 20µsのカウント数)(6.6)

このバックグラウンドの比率は、バックグラウンドと真のミューオンの信号の比率を表す。したがって、本実験で用いたセットアップのバックグラウンドの比率は、

942

(7578− 942)− 942≃ 17% (6.7)

さらに、上段と下段で各 3枚のプラスチックシンチレータのみを用いて測定を行った場合のバックグラウンドの比率は、

450

(3923− 450)− 450≃ 15% (6.8)

となり、これは式 (6.7)の比率よりわずかに小さくなっている。ミューオンの静止と陽電子の検出が近くにあるためと考えられる。

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6.3 正ミューオンの寿命測定の結果ミューオン崩壊の時間スペクトラムを以下の関数でフィッティングすることによって、鉄中での正ミューオンの寿命を決定できる。

N+0

τ+exp(−t/τ+) + C(fixed) (6.9)

負ミューオンが崩壊した後に、正ミューオンの寿命を測定する。

6.3.1 大面積セットアップセットアップによる寿命測定

図 6.1、図 6.2は鉄中でのミューオン崩壊の時間スペクトラムを 1 µs ∼10 µsでフィッティングした結果である。

図 6.1: 鉄中でのミューオン崩壊の時間スペクトル。フィッティング範囲は 1 µs ∼10 µs。得られた寿命は 2.21 ± 0.06 µs。

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図 6.2: 鉄中でのミューオン崩壊の時間スペクトル。フィッティング範囲は 1 µs ∼10 µs。得られた寿命は 2.21 ± 0.06 µs。縦軸を logスケールにした。

表 6.1: 大面積セットアップを用いて測定した鉄中でのミューオン崩壊の時間スペクトラムを 1 ∼10 µsまでフィッティングした時のパラメータの値.

パラメータ 値

N+0 2740 ± 54.4

τ+ 2.21 ± 0.06 µs

C 47.1 (fixed)

χ2/ndf 22.65/16

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6.3.2 上段と下段各3枚のプラスチックシンチレータによる測定

上段と下段各 3枚のプラスチックシンチレータを用いて得られたミューオン崩壊の時間スペクトラムも、大型セットアップの場合と同じように式 (6.9)でフィッティングする。図 6.3は鉄中でのミューオン崩壊の時間スペクトラムを 1 ∼10 µsでフィッティングした結果である。

図 6.3: 上段下段各 3枚のプラスチックシンチレータを用いて測定した鉄中でのミューオン崩壊の時間スペクトル。フィッティング範囲は 1 ∼10 µs。得られた寿命は 2.15 ± 0.07

µs。

表 6.2: 上段下段各 3枚のプラスチックシンチレータを用いて測定した鉄中でのミューオン崩壊の時間スペクトラムを 1 ∼10 µsまでフィッティングした時のパラメータの値.

パラメータ 値

N+0 1473 ± 39.9

τ+ 2.13 ± 0.07 µs

C 22.5 (fixed)

χ2/ndf 10.22/16

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6.4 ビン数の変更本研究では、TACからの信号をMCAで記録するが、その際のフルスケールは 1000

チャンネルである。大面積の測定装置を用いているので、短時間で多くの統計量が得られる。そのため、さらにビン数を増やしたフィッティングも行い、フィッティングの結果がビン数の取り方に対して安定であるかどうかを検討する。図 6.1では、0 ∼ 20 µs におけるビン数が 40であったところをビン数を増やした。フィッティングを行うデータは、大面積セットアップを用いて得られた時間スペクトラムであり、測定時間は 1日で、総カウント数は 7578である。

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6.4.1 50ビンでフィッティングを行った結果

図 6.4: ビン数を 50に変更してフィッティングを行った鉄中のミューオン崩壊の時間スペクトラム。フィッティングの範囲は 1 ∼ 10 µs。得られた寿命は 2.17 ± 0.05 µs。

表 6.3: ビン数を 50に変更し、鉄中でのミューオン崩壊の時間スペクトラムを 1 ∼10 µs

までフィッティングした時のパラメータの値.

パラメータ 値

N+0 1820 ± 36.2

τ+ 2.20 ± 0.06 µs

C 31.4 (fixed)

χ2/ndf 38.59/25

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6.4.2 60ビンでフィッティングを行った結果

図 6.5: ビン数を 60に変更してフィッティングを行った鉄中のミューオン崩壊の時間スペクトラム。フィッティングの範囲は 1 ∼ 10 µs。得られた寿命は 2.06 ± 0.06 µs。

表 6.4: ビン数を 60に変更し、鉄中でのミューオン崩壊の時間スペクトラムを 1 ∼10µs

までフィッティングした時のパラメータの値.

パラメータ 値

N+0 1782 ± 37.0

τ+ 2.06 ± 0.06 µs

C 37.68 (fixed)

χ2/ndf 38.08/25

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6.4.3 70ビンでフィッティングを行った結果

図 6.6: ビン数を 70に変更してフィッティングを行った鉄中のミューオン崩壊の時間スペクトラム。フィッティングの範囲は 1 ∼ 10 µs。得られた寿命は 2.19 ± 0.06 µs。

表 6.5: ビン数を 70に変更し、鉄中でのミューオン崩壊の時間スペクトラムを 1 ∼10 µs

までフィッティングした時のパラメータの値.

パラメータ 値

N+0 1557 ± 29.2

τ+ 2.19 ± 0.06 µs

C 26.91 (fixed)

χ2/ndf 35.75/30

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6.4.4 80ビンでフィッティングを行った結果

図 6.7: ビン数を 80に変更してフィッティングを行った鉄中のミューオン崩壊の時間スペクトラム。フィッティングの範囲は 1 ∼ 10 µs。得られた寿命は 2.20 ± 0.06 µs。

表 6.6: ビン数を 80に変更し、鉄中でのミューオン崩壊の時間スペクトラムを 1 ∼10 µs

までフィッティングした時のパラメータの値.

パラメータ 値

N+0 1363 ± 27.1

τ+ 2.20 ± 0.06 µs

C 23.55 (fixed)

χ2/ndf 38.39/34

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6.4.5 90ビンでフィッティングを行った結果

図 6.8: ビン数を 90に変更してフィッティングを行った鉄中のミューオン崩壊の時間スペクトラム。フィッティングの範囲は 1 ∼ 10 µs。得られた寿命は 2.20 ± 0.06 µs。

表 6.7: ビン数を 90に変更し、鉄中でのミューオン崩壊の時間スペクトラムを 1 ∼10 µs

までフィッティングした時のパラメータの値.

パラメータ 値

N+0 1205 ± 22.9

τ+ 2.20 ± 0.06 µs

C 20.93 (fixed)

χ2/ndf 41.76/39

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6.4.6 100ビンでフィッティングを行った結果

図 6.9: ビン数を 100に変更してフィッティングを行った鉄中のミューオン崩壊の時間スペクトラム。フィッティングの範囲は 1 ∼ 10 µs。得られた寿命は 2.18 ± 0.06 µs。

表 6.8: ビン数を 100に変更し、鉄中でのミューオン崩壊の時間スペクトラムを 1 ∼10 µs

までフィッティングした時のパラメータの値.

パラメータ 値

N+0 1085 ± 21.7

τ+ 2.18 ± 0.06 µs

C 18.84 (fixed)

χ2/ndf 65.64/43

40

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6.4.7 150ビンでフィッティングを行った結果

図 6.10: ビン数を 150に変更してフィッティングを行った鉄中のミューオン崩壊の時間スペクトラム。フィッティングの範囲は 1 ∼ 10 µs。得られた寿命は 2.17 ± 0.06 µs。

表 6.9: ビン数を 150に変更し、鉄中でのミューオン崩壊の時間スペクトラムを 1 ∼10 µs

までフィッティングした時のパラメータの値.

パラメータ 値

N+0 721.1 ± 14.0

τ+ 2.17 ± 0.06 µs

C 12.56 (fixed)

χ2/ndf 75.6/66

41

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6.4.8 200ビンでフィッティングを行った結果

図 6.11: ビン数を 200に変更してフィッティングを行った鉄中のミューオン崩壊の時間スペクトラム。フィッティングの範囲は 1 ∼ 10 µs。得られた寿命は 2.15 ± 0.06 µs。

表 6.10: ビン数を 200に変更し、鉄中でのミューオン崩壊の時間スペクトラムを 1 ∼10

µsまでフィッティングした時のパラメータの値.

パラメータ 値

N+0 532 ± 10.8

τ+ 2.15 ± 0.06 µs

C 9.42 (fixed)

χ2/ndf 147.6/88

42

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以下に、大面積セットアップを用いて得られた時間スペクトラムを各ビン数で解析を行った結果の比較を行う。測定時間は 1日、総カウント数は 7578である。1 ∼ 10 µsでフィッティングしたデータを用いる。

表 6.11: ビン数を変更したときのデータ解析の比較

ビン数 寿命 (µs) χ2/ndf

40 2.21 ± 0.06 22.65/16 ≃ 1.416

50 2.20 ± 0.06 38.59/25 ≃ 1.544

60 2.06 ± 0.06 38.08/25 ≃ 1.523

70 2.19 ± 0.06 35.75/30 ≃ 1.191

80 2.20 ± 0.06 38.39/34 ≃ 1.129

90 2.20 ± 0.06 41.76/39 ≃ 1.071

100 2.18 ± 0.07 65.84/43 ≃ 1.531

150 2.17 ± 0.06 75.6/66 ≃ 1.145

200 2.15 ± 0.06 147.6/88 ≃ 1.677

以上のデータ解析により、フィッティングの結果、得られた寿命の値はビン数の取り方に大きく依存することはないことが分かった。最終的な値として 2.20 ± 0.06 µs を採用することにした。

6.5 実験値から求めたパラメータ本実験で得られたミューオンの寿命から、フェルミ定数GF/(ℏc)3を計算すると、1.16

± 0.03 × 10 −5/GeV2と得られた。

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第7章 小面積セットアップによる測定との比較

7.1 小面積セットアップによる測定結果本実験の主な目的は、大面積プラスチックシンチレータを用いることによって統計量を増やし、短時間で測定ができるようにすることである。小面積(8 cm × 12 cm)による測定は過去に報告されており(柴田研究室玉虫卒業論文 2014年 9月)、本実験で用いた大型セットアップの測定部分の面積は小面積セットアップの 30倍である。

図 7.1: 小面積セットアップの概略図。測定部分の面積は 8 cm ×12 cm = 96 cm2で、各プラスチックシンチレータに PMTがつながれている。

START信号と STOP信号を以下に示す。

表 7.1: START信号と STOP信号

START信号 #1 ∩#2 ∩#3

STOP信号 (#1 ∩#2 ∩#3 ∩#4) ∪ (#3 ∩#4 ∩#1 ∩#2)

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図 7.2: 小面積セットアップのデータ収集のための回路図。上段と下段それぞれでCoin-

cidenceを取っている。

図 7.3に、小面積セットアップによって得られたミューオン崩壊の時間スペクトラムを示す。測定時間は 622898秒 ≃ 173時間 ≃ 7日。総カウント数は 646。

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図 7.3: 小面積セットアップにより得られたミューオン崩壊の時間スペクトラム。測定時間は約 7日。総カウント数は 646。

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さらに、大面積セットアップによる測定と同様に、以下の関数でフィッティングする。

N+0

τ+exp(−t/τ+) + C(fixed) (7.1)

図 7.4は、小面積セットアップによって得られた鉄中のミューオン崩壊の時間スペクトラムを 0 ∼10 µsでフィッティングした図であり、図 7.5は、1 ∼10 µsでフィッティングした図である。測定時間は約 7日である。

図 7.4: 小面積セットアップによって得られた鉄中でのミューオン崩壊の時間スペクトラム。測定時間は約 7日。フィッティング範囲は 0 ∼10 µs。得られた寿命は  2.039 ± 0.104

µs。

表 7.2: 小面積セットアップによって得られた鉄中でのミューオン崩壊の時間スペクトラムを 0 ∼10 µsまでフィッティングした時のパラメータの値.

パラメータ 値

N+0 304.3 ± 12.5

τ+ 2.039 ± 0.104 µsC 0.33 (fixed)

χ2/ndf 21.16/18

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図 7.5: 小面積セットアップによって得られた鉄中でのミューオン崩壊の時間スペクトル。測定時間は約七日。フィッティング範囲は 1 ∼10 µs。得られた寿命は 2.097 ± 0.152 µs。

表 7.3: 小面積セットアップによって得られた鉄中でのミューオン崩壊の時間スペクトラムを 1 ∼10 µsまでフィッティングした時のパラメータの値.

パラメータ 値

N+0 298.1 ± 18.0

τ+ 2.097 ± 0.152 µs

C 0.33 (fixed)

χ2/ndf 20.43/16

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以下に、大面積と小面積のセットアップで得られた結果の比較を行う。

測定時間 総カウント数 寿命 (µs) 真のミューオン バックグラウンドの比率

大面積セットアップ 一日 7578 2.21 ± 0.05 5694 17%

上段下段各 3枚のセットアップ 一日 3923 2.13 ± 0.07 3023 15%

小面積セットアップ 七日 646 2.039 ± 0.104 633 1%

大面積セットアップを用いて測定を行って得られる真のミューオンの計数は一日で 5964

カウントである。それに対して、小面積セットアップを用いて得られる真のミューオンの計数は、一日で 633/7 ∼ 90カウントである。小面積セットアップに対して大面積セットアップの測定部分の面積は 30倍であったが、5964/90 ∼ 66倍のミューオン崩壊が観測された。  寿命の誤差は小面積セットアップでは 7日間の測定で 0.11 µsであったのに対し、大面積セットアップでは 1日の測定で 0.05 µsである。

7.2 宇宙線ミューオンのレートについての考察ここで、両方のセットアップに対する宇宙線ミューオンのレートについて詳しく考察する。宇宙線は、鉛約 10 cmを透過する高エネルギー成分を硬成分、そうでないものを軟成分と分類できる。ミューオンはそのどちらの成分にも属する粒子である。宇宙線の強度 J は、天頂角分布で次のように表せる。

J(θ) = J0 cosn θ (7.2)

硬成分  n = 2  J0 = 0.82× 10−2/cm2 · s · sr軟成分  n = 3  J0 = 0.31× 10−2/cm2 · s · sr

(7.3)

本研究では、鉄中に静止するミューオンの寿命の測定を行っているため、軟成分のみを考慮する。測定を式 (7.2)、式 (7.3)から、地上で S cm2の検出面積をもつ検出器に計数される宇宙線ミューオンの rateI(Hz)は、次のように計算される。手法としては立体角dΩ = 2π sin θdθで θ=0から θ = θ0まで積分して面積をかける。

I = S

∫J(θ)dΩ = 2πS

∫ θ0

0

J0 cos2 θ sin θdθ (7.4)

まず、大面積セットアップを用いた場合を考える。

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図 7.6: θ0 = θ0−のとき図 7.7: θ0 = θ0+のとき

図 7.6、図 7.7のような θ0−、θ0+を考える。本研究では、上段のプラスチックシンチレータを貫通し、鉄で静止したミューオンを測定に利用する。θ0−の場合は過小評価、θ0+の場合は過大評価された rateと考えられるため、実際に計測された rateがその値の間であると考えられる。

cos θ0− =7.5√

7.52 + 502 ,  cos θ0+ =

7.5√7.52 + 1002

(7.5)

であるとして rateを計算する。検出部分の面積は 4800 cm2であり、以下のような値になる。

I− ≃ 23.35Hz (7.6)

I+ ≃ 23.36Hz (7.7)

したがって、大面積セットアップで実際に観測される宇宙線ミューオンの rateI大(Hz)は、

23.35 < I大 < 23.36 (7.8)

を満たす値であり、実際に得られたレートにほとんど一致している。次に、小面積セットアップを用いた場合を考える。図 7.8、図 7.9のような θ0−、θ0+を考える。小面積セットアップの場合も同様に、上段のプラスチックシンチレータを貫通し、鉄で静止したミューオンを測定に利用する。θ0−の場合は過小評価、θ0+ の場合は過大評価された rateと考えられるため、実際に計測された rateがその値の間であると考えられる。

cos θ0− =5√

52 + 102 ,  cos θ0+ =

5√52 + 202

(7.9)

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図 7.8: θ0 = θ0−のとき 図 7.9: θ0 = θ0+のとき

であるとして rateを計算する。検出部分の面積は 160 cm2であり、以下のような値になる。

I− ≃ 0.748Hz (7.10)

I+ ≃ 0.776Hz (7.11)

したがって、大型セットアップで実際に観測される宇宙線ミューオンの rateI小(Hz)は、

0.748 < I小 < 0.776 (7.12)

を満たす値である。以上によって、大面積セットアップで測定を行うと、およそ 31倍の rateが得られると計算によって分かった。これは測定装置の面積の比である 30倍に近い。式 (7.2)の cos3 θのために天頂角 θ ∼ 0の近傍の宇宙線ミューオンが主に寄与するため、ほぼ平行なミューオンとなっていてこのような結果になると考えられる。

7.3 崩壊後の陽電子がプラスチックシンチレータを見込む立体角

ミューオン崩壊後の陽電子がプラスチックシンチレータを見込む立体角について考察する。まず、図 7.10のように、鉄板の中心で陽電子が発生した場合を考える。このような場合、陽電子がプラスチックシンチレータに見込む立体角は式 (7.13)のように表される。

sin(Ω/4) = sinα sin β (7.13)

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図 7.10: ミューオン崩壊後の陽電子が鉄板の中心で発生した場合の図。

大面積セットアップの場合、

sinα =24√

242 + 7.52(7.14)

sin β =50√

502 + 7.52(7.15)

であり、立体角を求めると、大面積セットアップの立体角Ω大は

Ω大 ≃ 4.94 sr (7.16)

と得られた。小面積セットアップの場合、

sinα =4√

42 + 52(7.17)

sin β =10√

102 + 52(7.18)

であり、立体角を求めると、小面積セットアップの立体角Ω小は

Ω小 ≃ 2.37 sr (7.19)

と得られた。したがって、大面積セットアップと小面積セットアップの立体角の比率は、4.94/2.37

∼ 2.08 であり、およそ 2倍であることが分かった。

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図 7.11: 陽電子の発生位置が長方形の中線上にある場合。

図 7.12: 陽電子の発生位置が長方形の端にある場合。

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さらに、陽電子の発生位置を変えた場合の計算も行う。図 7.11、図 7.12のようにx (cm)

を定義する。まず、大面積セットアップについて考察する。

1. 陽電子の発生位置が長方形の中線上にある場合

sinα =24√

242 + 7.52(7.20)

sin β1 =x√

x2 + 7.52(7.21)

sin β2 =100− x√

(100− x)2 + 7.52(7.22)

このとき、陽電子がプラスチックシンチレータを見込む立体角Ωは次のように表される。

Ω = 2 arcsin(sinα sin β1) + 2 arcsin(sinα sin β2) (7.23)

2. 陽電子の発生位置が長方形の端にある場合

sinα =48√

482 + 7.52(7.24)

sin β1 =x√

x2 + 7.52(7.25)

sin β2 =100− x√

(100− x)2 + 7.52(7.26)

このとき、陽電子がプラスチックシンチレータを見込む立体角Ωは次のように表される。

Ω = arcsin(sinα sin β1) + arcsin(sinα sin β2) (7.27)

これらの関係を用いて、Ωと xのグラフを作ると、図 7.13のようになる。

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図 7.13: 大面積セットアップを用いて、陽電子が長方形の端で発生した場合のΩと xの関係。赤線は陽電子の発生位置が長方形の中線上にある場合、黒線は陽電子の発生位置が長方形の端にある場合。

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次に、小面積セットアップについて考察する。

1. 陽電子の発生位置が長方形の中線上にある場合

sinα =4√

42 + 52(7.28)

sin β1 =x√

x2 + 52(7.29)

sin β2 =10− x√

(10− x)2 + 52(7.30)

このとき、陽電子がプラスチックシンチレータを見込む立体角Ωは次のように表される。

Ω = 2 arcsin(sinα sin β1) + 2 arcsin(sinα sin β2) (7.31)

2. 陽電子の発生位置が長方形の端にある場合

sinα =8√

82 + 52(7.32)

sin β1 =x√

x2 + 52(7.33)

sin β2 =10− x√

(10− x)2 + 52(7.34)

このとき、陽電子がプラスチックシンチレータを見込む立体角Ωは次のように表される。

Ω = arcsin(sinα sin β1) + arcsin(sinα sin β2) (7.35)

これらの関係を用いて、Ωと xのグラフを作ると、図 7.14のようになる。

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図 7.14: 大面積セットアップを用いて、陽電子が長方形の端で発生した場合のΩと xの関係。赤線は陽電子の発生位置が長方形の中線上にある場合、黒線は陽電子の発生位置が長方形の端にある場合。

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第8章 まとめ

本研究では、鉄中での正ミューオンの崩壊が観測できるかテストするために、鉄中における正ミューオンの寿命を測定した。宇宙線ミューオンには正ミューオンと負ミューオンが含まれている。正ミューオンの寿命は、真空中であるか物質中であるかにかかわらず、一定である。負ミューオンについては、ミューオン原子の形成と、原子核捕獲の影響により寿命が短い。本実験で得られた成果は、

• バックグラウンドを減らすために、プラスチックシンチレータの両端に光電子増倍管を設置し、12枚それぞれのプラスチックシンチレータでコインシデンスを取った。また、START信号と STOP信号にもコインシデンスを取った。

• 統計数を増やして短い時間で測定ができるように、以前に報告されている小面積セットアップに比べて 30倍の測定部分の面積を持つセットアップを用いた。 統計量としては、同じ測定時間に換算すると、約 66倍の統計量が得られた。

• 正ミューオンの寿命は、鉄中のミューオンの寿命を測定するによって決定される。ミューオン崩壊の時間スペクトラムを 1 ∼ 10 µsからフィッティングすることによって、正ミューオンの寿命は 2.20 ± 0.06 µsと得られた。

• フィッティングする際のビン数の変更も行い、結果の安定性を調べた。 

• バックグラウンドは小面積セットアップでは 1%であったのに対し、大面積セットアップでは 17%であった。

以上をまとめると、大面積のミューオン寿命測定装置を予定通り稼働することができた。本実験を通して、プラスチックシンチレータやコインシデンス、アンタイコインシデンスを用いて基本的な素粒子測定技術を習得した。大面積セットアップを用いることによって、小面積セットアップを用いた場合の 66倍の統計量が得られた。ミューオンを鉄中に静止させ、得られた時間スペクトラムをフィッティングすることによって、正ミューオンの寿命は 2.20 ± 0.06 µsと得られた。 今後の展開としては次のようなことが考えられる:鉄の板をアルミの板に変え、負ミューオンの寿命を測定する。アルミ中では負ミューオンの寿命は約 0.2 µsと予想される。負ミューオンの寿命が決まるとミューオン原子の原子核吸収の寿命が決まる。 本装置は 2017年度の「物理基本実験」の教材として活用される。

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謝辞本研究を進めるにあたって、ご指導とご協力をいただいた多くの方々に深く感謝いたします。指導教員の柴田利明教授には、研究の計画段階から論文の執筆に至るまで様々な助言をいただきました。柴田研究室の中野健一助教には、研究の進行状況に応じて多くの助言をいただきました。柴田研究室の玉虫傑氏には、実験装置の扱い方から測定方法、原理などの基本的な知識を頂くとともに、Rootを使用した解析を行うに際して多くの助言をいただきました。同研究室大学院生の永井慧氏には、実験方法や解析方法について多くの助言をいただきました。この研究を行う子ができたのは以上の方々のお陰です。心より感謝いたします。

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関連図書

[1]  眞田塁 『ミューオン寿命測定のための同時計測と偶発的同時計測の研究』 東京工業大学理学部物理学科柴田研究室 2013年度卒業論文

[2]  玉虫傑 『正および負ミューオンの物質中での寿命』 東京工業大学理学部物理学科柴田研究室 2014年度卒業論文 

[3]  B. Pohv他著、柴田利明訳 『素粒子・原子核物理入門』 丸善出版  (2012)

[4]  NIST (National Institute of Standards and Technology) the ESTAR program,   http://physics.nist.gov/PhysRefData/Star/Text/ESTAR.html

[5]  C. Patrignani et al, (Particle Data Group), Chin. Phys. C, 40, 100001 (2016)

[6]  加藤貞幸著、『放射線計測』 培風館 (1994)

[7]   Kanetada Nagamine, Introductory Muon Science, 2011, Cambridge University

Press

[8]  東京工業大学理学部物理学科『物理学実験第一』

[9]  東京工業大学理学部物理学科『物理学実験第二』

[10]  東京工業大学大学院基礎物理学専攻物理基本実験 I テキスト『ミューオンの寿命測定』

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