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- 11 - 沖縄県立総合教育センター 後期長期研修員 第53集 研究集録 2013年3月 〈国語〉 叙述を基に読み取る力を高める指導の工夫 文学的な文章における書いて交流する活動を通して(第4学年)北谷町立北谷小学校教諭 佐久間 かおり テーマ設定の理由 現代社会は、知識基盤社会化、グローバル化の時代を迎え、異なる知識や文明との共存が求められてい る。このような社会を生きて社会の担い手となる子ども達には、新たな知識を習得するだけでなく、自分 の考えや思いを伝え、人と人との心の通い合いを深め、そこから自分の考えを広げていくことが重要にな る。そのためには、子どもの学習意欲を引き出し、基礎的・基本的な知識・技能の習得と活用を図る学習 を往還させながら、言語活動を充実させ、思考力・判断力・表現力等を育成することが大切になってくる。 中央教育審議会答申(平成20年1月17日)における国語科の改善の基本方針として、「実生活で生きて はたらき,各教科等の学習の基本ともなる国語の能力を身につけること」「言葉を通して的確に理解し, 論理的に思考し表現する能力,互いの立場や考えを尊重して言葉で伝え合う能力を育成すること」等が挙 げられている。それを受けて、「小学校学習指導要領解説国語編」(以下、「解説国語編」と略す)では実 生活での様々な場面における言語活動例が示され、「(C)読むこと」の領域では「自分の考えを形成し, 交流する活動」が指導事項に示されている。このことから、これからの国語科の授業では、読み取ったこ とや感じたこと、学んだこと等を言葉で整理し、文章に書いて表現し、交流する学習活動が重要だと考え る。そうした学習活動の中で自らの読みの確かさを実感したり、友達の読みから自らの読みを広げ、さら に深めたりすることができると考える。 これまでの文学的な文章における授業実践を振り返ると、児童は登場人物の性格などを大まかにとらえ ることはできたが、登場人物の気持ちの変化、情景などに着目した読みを深めることは十分ではなかった。 そのため、友達の発表を聞き、友達の想像した読みを受けとめることにとどまり、主体的に読みを深めら れない児童が見られた。また、読みや感想を話し合う授業では、読みや考えをつないで深め合っていく「話 合い」ではなく、児童一人一人の意識が教師に向けられた「発表」に終始することが多かった。そのため、 児童は友達との読みの違いに気付いたり、文章にもどって読み深めたりするまでは至らなかった。このこ とから、登場人物の気持ちの変化や情景等に着目させて読み取る力を高める指導の工夫や、友達の読みと 自分の読みを語り合う交流のさせ方の工夫が必要であると考える。さらに、児童が主体的に学び、課題を 解決しようとする意欲を持続させるためにも、学習の見通しをもたせる工夫が必要であると考える。 そこで、文学的な文章の学習において、叙述を基に登場人物の性格や場面の様子を読み取らせるために、 文章中の情景描写や人物の行動に着目させ、そこから読み取ったことを書かせる指導を毎時間の授業の中 で設定する。書かせる指導ではノートやワークシートを工夫し、児童の読みが学習の進行とともに深めら れるような指導を工夫することにより、児童は自分の読みを確かなものにできると考える。それを友達に 話したり聞いたりする交流の場で、ペア、グループ学習等を工夫して取り入れることで、自分自身の読み の確かさを実感し、友達との読みの違いに気付き、一人一人の感じ方の違いについて気付くことができる。 また、交流をする中で、登場人物の性格や生き方について話し合ったり、自分に照らし合わせたりしなが ら、自分自身の読みを深めることができると考える。さらに、児童が見通しをもち、自ら学び課題を解決 していく能力の育成を図るために、単元全体を通して「(C)読むこと」の指導事項から付けたい力を明 確にし、単元を貫く言語活動を設定する。このように、学習過程を明確にし、書いて交流する指導を通し て叙述を基に読み取る力を高めていきたいと考え、本テーマを設定した。 〈研究仮説〉 文学的な文章を学習する過程において、想像したことや読み取ったことを書き、交流する場や学習過程 を工夫することで、場面の移り変わりに注意しながら登場人物の性格や気持ちの変化、情景などについて 想像を広げて読むことができ、叙述を基に読み取る力を高めることができるであろう。 研究内容 叙述を基に読み取る力とは

〈国語〉 叙述を基に読み取る力を高める指導の工夫kyouka.edu-c.open.ed.jp/items/folder2811/10101101H24...-12-国語の学習における文学的な文章の読み取りでは、一人一人が自由に読むような趣味や楽しみとし

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沖縄県立総合教育センター 後期長期研修員 第53集 研究集録 2013年3月

〈国語〉

叙述を基に読み取る力を高める指導の工夫一文学的な文章における書いて交流する活動を通して(第4学年)一

北谷町立北谷小学校教諭 佐久間 かおり

Ⅰ テーマ設定の理由現代社会は、知識基盤社会化、グローバル化の時代を迎え、異なる知識や文明との共存が求められてい

る。このような社会を生きて社会の担い手となる子ども達には、新たな知識を習得するだけでなく、自分

の考えや思いを伝え、人と人との心の通い合いを深め、そこから自分の考えを広げていくことが重要にな

る。そのためには、子どもの学習意欲を引き出し、基礎的・基本的な知識・技能の習得と活用を図る学習

を往還させながら、言語活動を充実させ、思考力・判断力・表現力等を育成することが大切になってくる。

中央教育審議会答申(平成20年1月17日)における国語科の改善の基本方針として、「実生活で生きて

はたらき,各教科等の学習の基本ともなる国語の能力を身につけること」「言葉を通して的確に理解し,

論理的に思考し表現する能力,互いの立場や考えを尊重して言葉で伝え合う能力を育成すること」等が挙

げられている。それを受けて、「小学校学習指導要領解説国語編」(以下、「解説国語編」と略す)では実

生活での様々な場面における言語活動例が示され、「(C)読むこと」の領域では「自分の考えを形成し,

交流する活動」が指導事項に示されている。このことから、これからの国語科の授業では、読み取ったこ

とや感じたこと、学んだこと等を言葉で整理し、文章に書いて表現し、交流する学習活動が重要だと考え

る。そうした学習活動の中で自らの読みの確かさを実感したり、友達の読みから自らの読みを広げ、さら

に深めたりすることができると考える。

これまでの文学的な文章における授業実践を振り返ると、児童は登場人物の性格などを大まかにとらえ

ることはできたが、登場人物の気持ちの変化、情景などに着目した読みを深めることは十分ではなかった。

そのため、友達の発表を聞き、友達の想像した読みを受けとめることにとどまり、主体的に読みを深めら

れない児童が見られた。また、読みや感想を話し合う授業では、読みや考えをつないで深め合っていく「話

合い」ではなく、児童一人一人の意識が教師に向けられた「発表」に終始することが多かった。そのため、

児童は友達との読みの違いに気付いたり、文章にもどって読み深めたりするまでは至らなかった。このこ

とから、登場人物の気持ちの変化や情景等に着目させて読み取る力を高める指導の工夫や、友達の読みと

自分の読みを語り合う交流のさせ方の工夫が必要であると考える。さらに、児童が主体的に学び、課題を

解決しようとする意欲を持続させるためにも、学習の見通しをもたせる工夫が必要であると考える。

そこで、文学的な文章の学習において、叙述を基に登場人物の性格や場面の様子を読み取らせるために、

文章中の情景描写や人物の行動に着目させ、そこから読み取ったことを書かせる指導を毎時間の授業の中

で設定する。書かせる指導ではノートやワークシートを工夫し、児童の読みが学習の進行とともに深めら

れるような指導を工夫することにより、児童は自分の読みを確かなものにできると考える。それを友達に

話したり聞いたりする交流の場で、ペア、グループ学習等を工夫して取り入れることで、自分自身の読み

の確かさを実感し、友達との読みの違いに気付き、一人一人の感じ方の違いについて気付くことができる。

また、交流をする中で、登場人物の性格や生き方について話し合ったり、自分に照らし合わせたりしなが

ら、自分自身の読みを深めることができると考える。さらに、児童が見通しをもち、自ら学び課題を解決

していく能力の育成を図るために、単元全体を通して「(C)読むこと」の指導事項から付けたい力を明

確にし、単元を貫く言語活動を設定する。このように、学習過程を明確にし、書いて交流する指導を通し

て叙述を基に読み取る力を高めていきたいと考え、本テーマを設定した。

〈研究仮説〉

文学的な文章を学習する過程において、想像したことや読み取ったことを書き、交流する場や学習過程

を工夫することで、場面の移り変わりに注意しながら登場人物の性格や気持ちの変化、情景などについて

想像を広げて読むことができ、叙述を基に読み取る力を高めることができるであろう。

Ⅱ 研究内容1 叙述を基に読み取る力とは

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国語の学習における文学的な文章の読み取りでは、一人一人が自由に読むような趣味や楽しみとし

ての読書とは違い、表現や叙述を手がかりに、登場人物の人物像をとらえていくことが大切であると

考える。叙述とは、国語教育指導用語辞典(2012)によると、「物事の事情や書き手の感情・考えな

どを書き記すこと、または、それらを書き記したものを意味し(後略)」とある。「解説国語編」では

「『叙述を基に想像して読むこと』とは,フィクションによる世界が描かれている物語や詩の描写を,

想像力を働かせながら読むことである」と示されている。中学年においては、場面の移り変わりや登

場人物の性格、気持ちの変化、情景を表現している叙述に着目させて読み取らせていくことが示され

ている。さらに、「自分を取り巻く現実や経験と照らし合わせて物語の世界を豊かにかつ具体的に感

じ取ったり,そこから感じ取った感想や感動を大切にしたりすることが必要である」とされている。

そこで、叙述を正確に読み取る段階から、物語全体に流れている文脈を根拠に登場人物の様子や気持

ちを考え、本文に書かれていないことまで想像を広げて読み、感想をもち感動を得る段階へと高めて

いくことが大切だと考える。

また、これからの国際社会を生きていく子どもたちにとって、考えの根拠を示し、自分の言葉で表

現することは重要であると考える。有元秀文(2008)は、国際的に言われる読解力とは「①正確に読

んで ②読んだことを根拠にして ③自分の意見を表現すること」と述べている。さらに「日本の子

どもたちは、読んだことを正確に理解した上で、書いてあることを根拠にして、自分の意見を書くこ

とが不得手だった」と述べ、読んだことを正確に理解し、書かれていることを根拠にして自分の意見

や考えを書くことは国際的なコミュニケーションの根幹だとしている。つまり、これからの国際社会

に生きていく子どもたちにとって、根拠を基に述べることは重要であり、文章中に根拠を求める力が

いっそう必要である。このことからも、叙述を基に読み取り、表現する力を高める学習をしていくこ

とは、根拠を基に意見や考えを述べる力を育成する上でも重要であると考える。

2 文学的な文章における書いて交流する活動について

(1) 文学的な文章について

これからの時代に求められる国語力について文化審議会(平成16年2月3日)では国語力を身に

付けるための国語教育の在り方として、情緒力・論理的思考力・語彙力の育成について述べている。

その中で「論理的な思考を適切に展開していくときに,その基盤として大きくかかわるのは,その

人の情緒力であると考えられる。したがって,論理的思考力を育成するだけでは十分でなく,情緒

力の育成も同時に考えていくことが必要である」としている。そして、「情緒力を身に付けるため

には,小学校段階から『読む』ことを重視し,国語科の授業の中で,文学作品を中心とした『読む』

ことの授業を意図的・継続的に組み立てていくことが大切である」と述べている。児童は文学的な

文章を読む際、書かれていることを正確に読み取る過程を通して登場人物の心情を読み取り、その

登場人物を通して架空の体験をしたり、筋の展開を楽しんだり、言葉の美しさを味わったりする。

そのような読みを通して得た感動を基に自分の生き方を考えることができる。このように、文学的

な文章を学習することにより、情緒力を高めることができると考える。

さらに、叙述を基にして読むことにより、文章を読みながら情景や人物の行動についての想像を

広げて行間まで読み取り、登場人物の気持ちを豊かに想像することができると考える。そして物語

から自分が読み取ったことを第三者に紹介したり話したりすることは、自分の読みを客観的に読む

こととなり、自分の読みを整理し、読み深めていく。

このように、文学的な文章を叙述を基にして読むということは、書かれていることをそのまま読

む段階から、前後の文脈や作品全体を流れている叙述を根拠に、想像を広げながら書かれていない

ことも読み取る段階へと高めていくことが必要であるととらえる。

(2) 書くことの指導の工夫について

有元は「『書く作業』は、話し合いに慣れない子どもたちにとっては、論理的な話し合いをさせ

る準備段階としてどうしても必要な作業である」と述べている。児童に読み取ったことを話し合わ

せる中で、一人一人の感じ方に違いのあることに気付かせ、読み取る力を高めていくことを本研究

では目標にしているが、話合いをする準備段階として、書くことを重視する。

吉永幸司(2002)が「書くことは、自己を表現する大切な活動である(中略)書くことによって

考え、思いを伝え合い、整理をするというように、人間形成上、大切な働きもしている」と述べて

いるように、書くことは思考を整理する役割ももっているととらえる。読んで想像したことをノー

トやワークシートに書くことで、児童は自分の想像のあいまいさに気付いたり、書き足したりして

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いく。そのような学習を積み重ねていくことで、児童の思考や読みが深まっていくと考える。そこ

で、児童が思考できるノートやワークシートにするために、教師自身も児童用のノートを用いて教

材研究を深め、板書を工夫し、児童のノートと板書の一体化を図った授業づくりをする。

「解説国語編」の読むことの領域における指導事項「文学的な文章の

解釈」で中学年では「場面の移り変わりに注意しながら,登場人物の性

格や気持ちの変化,情景などについて,叙述を基に想像して読むこと」

が挙げられている。叙述から読む際に、児童に読み取りの観点や手立て

をもたせることにより、叙述を基に想像を広げて読み取り、読み取った

ことを書く学習に向かうことができると考える。白石範孝(2011)は、

文学作品の全体像をとらえる読み取りにおいて10の観点を活用すること

を述べている(表1)。このような読みの観点を明らかにして発問を工夫

し、読んで考えたことを書かせることで、児童は叙述を基に内容を正し

く読んだり、場面の様子や登場人物の心情を想像したりしながら読みを

深め、想像したことを書くことができると考える。

そこで、文学作品を読み取る際に、必要な観点を一

人学びの手引きとして児童に提示し、文章を読み取

る力を育てていく(図1)。

達富洋二(2011)は、「『考え』を学級で交流する

ことを充実させ,一人一人が自分の考え(読解)を

もたせるようにするために,『分かるために書く』こ

とを設定する。話し合う場になったときに,『自分が

話したいこと』を明確にもっているようにするため

にも,書く時間を設定することは有効である」と述

べている。このことから、授業の中で書く時間を確

保することにより、児童は自分の読みを深めていくと

考える。

さらに、書くことを日常化し、毎日の授業の中で書き慣れさせることも必要であると考える。児

童は、「できた」「わかった」ことの積み重ねにより、学習意欲が増していく。吉永は、「子どもが

書くことが楽しいと思える時」として「書くことで新しい自分を発見する時」「書く力が育ってい

るという自信がもてる時」を挙げている。そこで、授業のまとめでは、児童に今日の授業でわかっ

たことやできたこと、読み取ったことを書かせ、自己評価をさせるとともに、授業後に教師はノー

トやワークシートに目を通し、児童の読みの深まりを受容したり賞賛したりすることで評価し、学

習意欲をもたせる。学習意欲をもった児童は、自分の読みを友達に伝えたいという思いをもつと考

える。

(3) 交流を生かした読みの学習について

文学的な文章を理解し、内容について自分の読みをもち、それを書いて交流するという学習を通

し、児童はもう一度作品を読み、登場人物や作者と対話することで自分の読みを深めていくと考え

る。つまり、交流の充実は読解力を高める。さらに、交流を通し友達の読みを聞き、自分の読みを

友達に伝えることにより、自分の読みの妥当性を確認したり、補ったりすることができる。読みの

交流は、文章に戻り、さらに深く読み直すという行為につながる。

書いて、伝えるためにもう一度叙述に立ち返り、文章を精読しな

がら、言葉を大切に読む学習の定着で、言語感覚を豊かにし、言

語能力を高めることができる。

達富は、「『読むこと』の授業では、『一人学び』と『交流学び』

とが互いに関連し合って、一つの質の高い学習を具現化させるこ

とができる授業を展開していかなければならない」として「①一

人学び:一人一人が自分の『考え』をもつ ②交流学び:その『考

え』を学級で交流する ③一人学び:交流の成果をもう一度自分

自身に戻して,考えを深め,高める」学習指導法を提案している

(図2)。

①時・場所②登場人物③中心人物④語り手⑤出来事⑥大きく変わったこと⑦三部構成⑧お話の図・人物関係図⑨一文で書く⑩おもしろさ

表1 文学作品を読む10の観点(白石 2011)

①自分の考え

を書く

②考えを交流

し合う

一人学び 交流学び

③もう一度自分に戻して、考え

を深め、高める

図2 一人学びと交流学び

図1 一人学びの手引き

内容を読み取る際のポイン

ト、感想の書き方、場面分け

の仕方のヒント等

物語の内容を読み

深めるポイント等

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そこで、一人学びにおいて授業の一時間の中でじっ

くりと作品に向き合う時間をもつ。教師は、作品から

感じ取ったことや読み取ったことを児童が表現できる

よう、発問を工夫したり支援したりしながら一人学び

に取り組ませる。一人学びにより自分の考えをもたせ、

ペア学習やグループ学習でお互いの読みや考えを交流

させる。ペア学習やグループ学習では、自分の読みを

発表し合うだけの交流ではなく、お互いに質問や感想

を伝え合い、さらに読み深めることができるようにす

るため、交流する視点等を示した交流学びの手引きを

作成し、児童に活用させる(図3)。

読み取ったことを交流した後で、交流を通して得

たことを基にもう一度作品と向き合わせ、自分の読みを書く学習活動を行う。そのことにより、児

童はもう一度文学的な文章に向き合い、作品の奥深さを読み味わい、新たな感動を獲得し、読みが

深まると考える。

3 学習過程の工夫について

書いて交流することで読みを深めていくために、学習の

過程で身に付けさせたい能力について考える。

泉宜宏(2006)は、文学的な文章の読みの指導において

「自己学習力の育成」と「豊かな読みをめざす」ことを述

べている。自己学習力をもつ児童として、課題をもって読

み進めたり、叙述を手がかりに想像豊かに読んだり、自分

の読みを表現できたりする姿等を挙げている(表2)。

本研究においては、新美南吉の作品「ごんぎつね」を教

材文に授業を展開する。「出かけよう、新美南吉さんのメッ

セージを知る旅へ」を単元名とし、単元を貫く言語活動に

は「新美南吉さんのメッセージを伝え合おう」を設定する。また、指導事項「カ 目的に応じた読書」

と関連させ、「ごんぎつね」を読み始める前に作者の他の作品の読み聞かせを行い、児童の興味関心

を高める。同時に並行読書を勧めることで、作品の根底に流れるメッセージを考えさせながら学習を

進める。さらに、単元全体を通し毎時間の学習のねらいを設定する。毎時間のねらいは児童用の学習

進行表にもめあてとして示し、単元の学習のゴールにはどんな力を付けていくのかを明確にし、児童

にも学習の見通しをもたせる。

本研究では読みの段階を3段階に構成し、全体を大まかに読み取る学習から叙述を基に詳しく読み

取る学習へと、段階を追って学習することで、児童の読みを確かにしていく。第一次では、文学的な

文章の内容を大まかに把握させる。ここでは場面ごとに詳細に読んでいくのではなく、どのようなこ

とが書かれている作品なのか、全体像を把握させる。

第二次では、第一次で読み取ったことの上に、登場人物の気持ちの変化を叙述に基づいて読み深め

させる。叙述に基づいて読み深める際には、ノート指導やワークシートの工夫をし、書く活動を工夫

していく。また、第二次においても、文学作品を読む10の観点を活用し、友達と読みを交流させる活

動を通して読み深めさせていく。

第三次では、読み取ったことをさらに深める学習として、

感想を交流し合ったり、読書へ広げたりする学習を行う。

第三次で読書会をもち、新美南吉の物語を読み、感想を述

べ合うことを通して新美南吉の物語世界を読み味わってい

く。読書会では、第一、二次で学習したことを生かすとと

もに、本を紹介する観点として、三浦有紀子(2011)の提

案する「紹介のための20の観点」を基に作成したワークシ

ートを用いて学習を進める(図4)。このように、作品か

ら物語の奥深さを読み、そこに息づく作品の思いまでを交

流することを通して、叙述を基に読む力を高め、「この作

①課題をもって読み進める子ども

②叙述を手がかりに想像豊かに読む子ども

③自分の読みを表現できる子ども

④友達の読みと比べ、そこから学び、自分の読み

を豊かにしたり違いを理解したりする子ども

⑤学び方を身につけ、主体的に学ぶ子ども

⑥読書の幅を広げ、どのように学ぶかを理解し、

生涯を通して学習の主体としての方法や技能を

身につけた子ども

表2 自ら学ぶ(読む)子ども(泉 2006年)

図4 読書会に活用するワークシート

図3 交流学びの手引き

ペア交流のポイント

グループ・全体交流のポイント

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者の本をもっと読んでみたい」という思いをふくらませ、幅広く読書をしようとする態度を養うこと

ができると考える。

Ⅲ 指導の実際1 単元名 出かけよう、新美南吉さんのメッセージを知る旅へ 教材文 ごんぎつね(新美南吉 作)

2 単元の目標

○場面の移り変わりに注意しながら、叙述を基に想像することができる。

○自分と人との感じ方に違いがあることに気づき、叙述を基に自分の読み取りを深めることができる。

3 単元の評価規準

国語への関心・意欲・態度 読む能力 言語についての知識・理解・技能

○叙述に着目して物語を読み、感 ○会話や心情表現、行動から人物の性格や気持ちの変化を ○言葉には、考えたことや思ったこ

じたことや考えたことを進んで 読み取っている。 とを表す働きがあることに気づい

話し合おうとしている。 ○情景を表す文や語句に着目して読んでいる。 ている。

○友達の発表を、自分の考えと関わらせながら聞き、自分

の読み取りに生かしている。

4 指導と評価の計画(全三次 13時間)

時間 目標 ・指導上の留意点 □指導事項 学習活動に即した

☆書く学習 ★交流を生かした学習 評価規準【 】 評価方法( )

学習の見通 ○単元の見通しをもつ。 ・新美南吉の作品を読み聞かせし、並行読書を勧め 【関】題名から内容に関心を持しをもつこ ○全文を読み、初発の感 る。 ち、初発の感想を書こうとしてと が で き 想を書いて交流する。 ・学習進行表を用いて、学習の目的と流れを押さえ、 いる。(ノート・交流)る。 見通しをもたせる。 【言】文章を理解するために必

★ペアで感想を交流させ、全体へ広げる。 要な文字や語句について、辞書を利用して調べる。(ノート)

○全文を音読する。 ・物語の時と場所をとらえさせる。 【読】観点を基に読み取ってい

物語の全体 ○中心人物、対人物を見 ・大きく気持ちが変化するのは誰かを考えさせる。 る。(ノート・ワークシート・像をとらえ つけ、人物設定を書く。 ・10の観点を用いながら物語の設定をとらえさせる。 交流)ることがで ☆登場人物やあらすじをワークシートに書く。きる。 ○全文を音読する。 □場面の移り変わりに注意しながら、登場人物の性 【読】物語の登場人物や因果関

○物語のあらすじをつか 格や気持ちについて、叙述を基に想像しながら読 係をとらえて、それぞれの場面む。 むこと。 の出来事をまとめることができ

○心に残った言葉や文を ・物語の因果関係をとらえて、全文のあらすじを一 る。(ノート)

書き、交流する。 文でまとめさせる。 【言】言葉には、考えたことや☆心に残った言葉や文を抜き書きし、好きな理由を 思ったことを表す働きがあるこ書く。 とに気づいている。

★ペア交流から全体交流へとつなげる。

○ごんが兵十にいたずら ・ごんの行動がわかる叙述を見つけてサイドライン 【読】叙述を基に中心人物の性中心人物の をし、その後後悔する を引かせ、心情を読み取らせる。 格等をとらえている。(ノート気持ちの変 1、2の場面を音読す □登場人物の気持ちの変化を叙述を基にとらえる。 ・交流)

化をとらえ る。 ☆いたずらをするごんの気持ちを想像し、ごん日記 【言】言葉には、考えたことやることがで ○1、2の場面を読み、 を書く。 思ったことを表す働きがあるこきる。 ごんの人物像をとらえ ★友達の書いたごん日記を読み、自分の日記と比べ、 とに気づいている。

る。 似ているところや違うところを考える。

○ごん日記を書いて交流

する。

○1、2の場面を音読す ・兵十の言葉や行動から、兵十の気持ちを想像する。 【読】叙述を基に登場人物の気

る。 □登場人物の気持ちの変化を叙述を基にとらえる。 持ちをとらえている。(ノート)○1、2の場面を読み、 ☆読み取ったことを基に、兵十の気持ちを考え、兵 【言】言葉には、考えたことや兵十の気持ちを想像す 十日記を書く。 思ったことを表す働きがあるこ

る。 ★友達の書いた兵十日記を読み、自分の日記と比べ、 とに気づいている。○兵十日記を書いて交流 似ているところや違うところを考える。する。

○3の場面を音読する。 ・ごんの視点で書かれている情景描写に目を向けさ 【読】登場人物の気持ち等の変

○ごんが兵十につぐない せ、ごんの気持ちを考えさせる。 化について、言葉や行動から読をする3の場面につい □登場人物の気持ちの変化を叙述を基にとらえる。 み取っている。(ノート・発言)て、ごんの気持ちが変 ★ごんの気持ちの変化について、ペアで話し合い、 【言】言葉には、考えたことや

化したことを行動や情 全体交流へとつなげる。 思ったことを表す働きがあるこ景描写から想像し、読 ☆3の場面を読んで話し合い、考えたことを書く。 とに気づいている。み取る。

結末を読み ○4、5の場面を音読す ・兵十と加助の会話を色分けして提示し、交互に読 【読】ごんの気持ちの変化につ

中心人物と る。 み、兵十の気持ちを想像させる。 いて、行動や情景描写から読み対人物の気 ○ごんが兵十のあとをつ □登場人物の気持ちの変化を叙述を基にとらえる。 取っている。(ノート)持ちの変化 けていく4、5の場面 ★読み取ったことをグループで交流し、全体交流へ 【言】言葉には、考えたことやを読み取る について、登場人物の とつなげる。 思ったことを表す働きがあるこことができ 行動や情景を基に読み、☆交流して読み深めたことをノートに書く。 とに気づいている。る。 ごんの気持ちの変化を

読み取る。

○6の場面を音読する。 ・ごんの気持ちの変化をとらえるために、ごんの行 【読】物語の因果関係をとらえ○ごんが兵十に撃たれる 動の順序を確認する。 て、登場人物の変容を読み深め6の場面を読み、ごん □登場人物の気持ちの変化を叙述を基にとらえる。 ている。(ノート)

と兵十の気持ちの変化 ★一人学びからグループ交流、全体交流へとつなげ 【言】言葉には、考えたことやや関係の変化について る。 思ったことを表す働きがあることらえ、ごんの気持ち ☆自分の読み取ったことをノートに書く。 とに気づいている。

単元を貫く言語活動

並行読書

新美南吉さんのいろいろな作品を読もう(第一次~第三次

単元全体を通して)

学習活動

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を読み深める。 ☆交流して読み深めたことをノートに書く。

○感想交流を通して「ご ・観点を基に読み取ったことや、学習課題について 【読】情景描写や心情表現を表んぎつね」の読みを深 読み深めてきたことを振り返り、心に残った言葉 す文に着目して読んでいる。

める。 や文から、感想を書かせる。 (ノート・ワークシート)○全文を音読する。 □考えたことを発表し合い、一人一人の感じ方につ

いて違うことに気付く。読書会を通 ★自分の感想をグループで紹介し合い、友達の感想

して、読み を聞いて気づいたことを付箋紙に書かせ、それをを深めるこ 基に話し合わせる。と が で き ☆友達の感想から読み深めたことをノートに書く。

る。 ○並行読書してきた本の ・「ごんぎつね」で学習したことを生かして、中心人 【読】会話や心情表現、行動か中から、お気に入りを 物の気持ちの変化について考えさせる。 ら人物の性格や気持ちの変化を選び、その作品を紹介 □登場人物の気持ちの変化を叙述を基にとらえる。 読み取っている。(ノート)するためのワークシー ☆自分の読み取ったことや感想をワークシートに書トを書く。 く。

○お気に入りの本から自 ・同じ本を選んだ友達同士で感想を交流させる。 【関】自分の感じたことを進ん分の読み取ったことを □考えたことを発表し合い、一人一人の感じ方につ で話し合おうとしている。友達に伝える。 いて違うことに気付く。

★グループ交流○「新美南吉さんのメッ ・それぞれの本のあらすじを確認し、中心人物の気 【読】登場人物の性格や気持ちセージを伝え合おう」 持ちが変化した理由を話し合わせる。 の変化などについて、叙述を基

として読書会をし、そ ・それぞれの本から自分が学んだことを話し合わせ に読み取っている。(ノート)れぞれの読みや考えを る。 【言】言葉には、考えたことや交流し、ごんぎつねを □考えたことを発表し合い、一人一人の感じ方につ 思ったことを表す働きがあるこ初めとする新美南吉の いて違うことに気付く。 とに気付いている。作品から自分が読みと ★グループ交流から全体交流へとつなげる。ったことを深める。 ☆自分が読み深めたことをノートに書く。

5 本時の学習指導

(1) 本時1(9/13時)① ねらい

クライマックスの場面を読み、ごんと兵十の気持ちの変化や関係の変化についてとらえ、ごん

の気持ちを読み深めることができる。② 授業仮説

○読み深める場において、兵十の言動や情景描写に目を向けさせて読み取らせ、読み取ったこ

とをグループで伝え合うことにより、兵十の気持ちの変化をとらえることができるであろう。○読み深める場において、「ぐったりとうなずいたごんは幸せだったのか」と課題を設定し、

話し合わせることにより、叙述を基にごんの気持ちを考えることとなり、ごんと兵十の気持ちの変化を読み深めることができるであろう。

③ 本時の展開過程 ○指導上の留意点 学習活動に即した

★交流を生かした学習 ☆書く学習 評価規準【】と方法()

1 めあてを確認する。 ○学習進行表で確認する。

○めあてを書いて音読する。

2 6の場面を音読する。 ○ごんは「引き合わないなあ。」と思いなが 【読】会話や心情表現、3 ごんと兵十の行動を確認する。 らも、再びくりを持って行っていること 行動から人物の性格や気

に着目させる。 持ちを読み取っている。4 ごんと兵十の気持ちを考えて書く。 ☆全員で確認しながら登場人物の気持ちを (ノート)5 クライマックスを確かめ、ぐったりとう 書く。

なずいたごんの気持ちを考える。 ○クライマックス・・・ごんは、ぐったりと目 【読】友達の発表を、自をつぶったまま、うなずきました。 分の考えと関わらせなが

6 自分の考えをグループで交流し、全体交 ☆これまでに読み取ってきたことも確認し ら聞き、自分の読みとり流をする。 ながら、ごんの気持ちを想像して書かせ に生かしている。(ノート)

る。【関】叙述に着目して物

★一人学びからグループ学びへつなぎ、自 語を読み、感じたことや

分の読みを伝え合う。 考えたことを進んで話し○「ごんぎつねめが→おまえだったのか→ 合おうとしている。(観察)後悔」と気持ちが変化していることをおさえる。

7 自分が学んだことを書き、自己評価をす ★これまでに読み取ったことや6の場面の 【読】物語の因果関係を

る。 叙述を基にして考えさせ、ノートに書か とらえて、登場人物の変せる。 容を読み深めている。(ノ○次時予告をする。 ート)

(2) 本時2(13/13時)

① ねらい読書会を通して、「ごんぎつね」と他の2作品を重ねて読み、自分の読みを友達と交流し合う

ことで、作品から読み取ったことを深めることができる。② 授業仮説

○交流の場において、同じ本を選んだ友達同士で話し合い、質問をしたり感想を伝え合ったり

クライマックスの場面を読んで、ごんと兵十の気持ちの変化を読み取り、ごんの最後の気持ちを考えよう。

つかむ

深める

新美南吉さんのメッセージを伝え合おう

単元を貫く言語活動

並行読書

新美南吉さんのいろいろな作品を読もう

1 0

1 1

1 2

1 3

まとめる

学習活動

写真1 写真2

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することで、自分の読みを深めることができるであろう。○全体交流の場において、登場人物から学んだことを話し合うことにより、友達との読みの似ているところや違うところに気付き、自分の読みを深めることができるであろう。

③ 本時の展開過程 ○指導上の留意点 学習活動に即した

★交流を生かした学習 ☆書く学習 評価規準【】と方法()

1 めあてを確認する。 ○学習進行表で確認する。

○めあてを書いて音読する。

2 本の題名、登場人物、あらすじを確認す ○質問や感想を出し合いやすいように、話 【言】言葉には、考えたことる。 合いのルールや話合いの内容を書いたヒ や思ったことを表す働きがあ

3 発表の仕方を確認する。 ントカードで例を提示する。 ることに気づいている。(ワークシート)

4 同じ本を選んだ友達同士で、ワークシー ☆中心人物の気持ちが大きく変わったとこト(図4)を基に感想を交流させる。 ろを確認し、書かせる。 【関】叙述に着目して物語を

5 ワークシートを基に、登場人物から学ん 読み、感じたことや考えたこだことを交流させる。 ☆中心人物の気持ちが変わった理由を叙述 とを進んで話し合おうとして

を基に考えて書かせる。 いる。(観察)

○交流学びの手引きを基に、話合いのルー 【読】文章を読んで考えたこルを確認し、質問や感想を交流できるよ とを発表し合い、一人一人のうにする。 感じ方について違いのあるこ

とに気付いている。★それぞれの本の登場人物を確認し、登場 (ノート)人物から学んだことを話し合う。

6 全体交流をする。 ○自分の感じ方と似ているところや違うところはないか、考えながら友達の発表を聞かせる。

7 学習の振り返りをする。 ☆友達の感想から学んだことや考えたこと 【読】友達の発表を、自分のを書かせ、読みが深められるようにする。 考えと関わらせながら聞き、

○数名発表させる。 自分の読み取りに生かしてい○次時予告をする。 る。(ワークシート)

6 仮説の検証

本研究は、単元名「出かけよう、新美南吉さんのメッセージを知る旅へ」で、「新美南吉さんのメ

ッセージを伝え合おう」を単元を貫く言語活動に設定した。教材文は新美南吉の作品「ごんぎつね」

とし、書いて交流する学習を通して叙述を基に読み取る力を高める単元構想にした。

そこで、自分の読み取ったことを書き、交流活動を通して互いの読みを話し合うことで想像を広げ

読むこと、叙述を基に読み取る力を高めることができたかを、授業での児童の様子、ノートやワーク

シートの記載事項、検証の事前及び事後アンケートのまとめ、テストの結果等から検証する。

(1) 書くことの指導の工夫についての検証

単元全体を通して、自分がわかったことや友達の考えから学んだことをノートに書かせ、それを

基に交流活動を行った。書くことを通して文学的な文章の理解を深め、その上で自分の読みを明確

にし、交流活動を通して読みを深めることができるよう、交流するためのメモとしても活用させた。

自分の読みを書く際には、どの言葉や文章からそう思ったのか、叙述に書かれていることを根拠に

して書かせた。ここでは、書くことにより読みを深めることができたかを検証する。

第一次では、「学習の見通しをもつことができる」「物語の全体像をとらえることができる」を目

標に授業を展開した。まず、全体を音読し、登場人物の気持ちがどのように変化する話なのかあら

すじをとらえさせ、10の観点に基づいたワークシートやノートを用いて学習を進めた。児童は場面

ごとに「いたずらをするごん」「後悔し、つぐないをするごん」等と内容に応じた小見出しをつけ

ることができ、中心人物「ごん」の気持ちがどのように変化するのかをとらえることができた。

第二次では「中心人物の気持ちの変化をとらえることができる」「結末を読み、中心人物と対人

物の気持ちの変化を読み取ることができる」を目標に授業を展開した。登場人物の気持ちがどのよ

うに変化していったのかが読み取れる行動や情景描写、自分が想像した気持ちをノートに書かせた。

ノートは見開き2ページを使用させ、上段に登場人物の行動や情景描写を書き、下段にそこから読

み取った気持ちを書いている(図5)。このように、一人学びで読み取ったことを書き、それを基

に交流し、読み深めていく授業を展開した。その結果、第1時では表面的な読みに留まっていた児

童が、授業の展開とともに叙述を基に想像を広げて読むことができるようになってきた。第9時で

はクライマックスの場面を読み、ごんの気持ちの変化を場面の展開とともに読み深めることができ

た。児童は「引き合わないなあ、と言いながらも、ごんはまた兵十のところへ行っているから、兵

新美南吉さんの本を読んで、自分の学んだことを伝え合い、新美さんの世界を読み深めよう。

つかむ

深める

学習活動

写真3

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十に気持ちを伝えたいと思う」「これまでの場面で、ごんは『ご

めんね』という気持ちをひたすら伝えたかったのだということ

がわかる。ごんは兵十に撃たれたけれど、(くりや松たけを持っ

てきていたのは自分だと)兵十に気づいてもらえたから幸せだ

と思う」等と、これまでに読み取ってきたことも生かしながら、

場面の様子や登場人物の気持ちを想像することができるように

なった。

このように、第一次で内容をおおまかに読み取り、あらすじ

をとらえ、第二次で叙述を基に読み、自分が読みとったことを

ノートに書かせる指導により、児童は読みを深めることができ

たと考える。

(2) 交流を生かした読みの学習の検証

授業においては、「一人学び」と「交流学び」の時間をもち、

児童が文学的な文章から読み取ったことを友達と話し合い、読み深めることができるようにした。

ここでは、一人学びと交流学びにより、児童が叙述を基に読み深めることができたかを検証する。

一人学び、ペア交流、グループ交流、全体交流は、単元全体を通し、学習の内容に応じて活用した。

① 一人学びとペア交流

一人学びでは、一人学びの手引きを参考にさせながら、自

分の読み取ったことをノートに書かせた(写真1)。その後、

隣の児童や前後の児童とペアにさせ、お互いの読み取ったこ

とを交流し合い、交流で深めた読みをノートにまとめとして

書かせた。好きな文章を紹介し合い、感想を伝え合う学習で

は、「『すすきのほには、まだ雨のしずくが光っていました』

のところから、きらきら光っているところを想像して、きれ

いだなと思ったので、そこが好き」と述べた児童に対し、「私

もそこが好き。まだしずくが残ってるということは大雨だっ

たのかな?」とペアの児童が応じ、「『ごんは、あなの中

にしゃがんでいました』って書いてたから、雨がやんで

遊びに行きたくなったはずだね」等と、話合いを通して

ごんについての想像を広げている様子が見られた。

ペア交流に関して、初めは「自分のわかったことや読

み取ったことを話している」の質問に関して「あてはま

る」「どちらかといえばあてはまる」と答えた児童が21

名(60%)であったが、学習後は28名(80%)に増えた

(図6)。好きな理由として「自分の気持ちがペアに伝

わるから」「友達の考えも聞きたいから」「他の人の考えと自分の考えを交流できるから」等が挙

がっており、児童はペア交流により自分の読みを友達に伝えたり、友達の読みを聞いたりするよ

さを実感していると考えられる。

② グループ交流と全体交流

グループ交流、全体交流では、交流学びの手引きを参考に自分の読みを紹介し合わせ、友達の

読みを聞いての感想や気付いたことなどを付箋紙に書かせ、それを基に交流させた。グループ交

流の際は、教師は各グループに声かけや支援を行い、その後の全体交流につなげた。グループ交

流の後には、児童のノートに友達からの質問や感想が書かれた付箋紙を貼らせた。ある児童のワ

ークシートには「『その次の日には、松たけも二、三本持っていきました』の文が好きです。な

ぜかと言うと、ごんがそんなに兵十におわびをしたいんだなということがわかるからです」と書

いている。交流したグループの友達からの付箋紙には「なぜその文が好きなのかなと思いました

が、理由を聞いてなるほどと思いました」等と書いている(図7)。この言葉から、自分では気

付かなかった、登場人物の気持ちを交流により読み深めることができたと考える。その後グルー

プ学習を通して深まった読みをノートに書かせた。

児童は、グループ交流についてのアンケートで「みんなの思っていることがわかった」「いろ

図5 児童のノート

写真4 読み取ったことを書く児童

図6 交流に関するアンケート結果

登場人物や情景

についての叙述

読んで想像した

気持ち

40%

14%

40%

46%

14%

26%

6%

14%

0% 50% 100%

事後

事前

自分のわかったことや読み取ったことを話しているあてはまる

どちらかといえ

ばあてはまる

どちらかといえ

ばあてはまらな

いあてはまらない

N=35

写真4

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んなことが聞けて、いいこと(感想等)が書いてある付箋

紙がいっぱいもらえてうれしい」「質問や感想がたくさん

出るから好き」と書いており、グループ交流により友達の

読みや考えを聞くことができたことがわかる。

第9時では一人学び、グループ交流から全体交流へとつ

なげ、兵十に撃たれたごんがぐったりとうなずいた時の気

持ちを想像し、読み深める授業を展開した。前半では一人

学びにおいて、叙述から「今日こそ兵十にあやまるんだ」

「でも兵十に見つからないようにしよう」と思いながら兵

十のもとへ向かうごんの気持ちを読み取った。対人物であ

る兵十については、ごんに対し「ぬすっとぎつねめ」とい

う思いから、ごんを撃ってしまい後悔する思いへと変化す

る気持ちを読み取ることができた。

授業の後半は「ごんは、ぐったりと目をつぶったまま、

うなずきました」の叙述から、ごんの気持ちを想像させた。

児童は、これまでに読み取ってきたことを生かし、「前の

場面で、ごんは兵十のかげぼうしをふみふみついて行った

から、兵十が好きなんだ。だから(くりや

松たけを持っていっているのは自分だと)

兵十に気付いてほしかったと思う」等と発

言していた。その読みが根拠となり「ぐっ

たりとうなずいたごんは幸せだったか」の

発問に対し、児童は話合いを通して「くり

を持ってきていたのは自分だと兵十に気づ

いてもらえたから、うれしくてうなずいた

と思う。だから幸せだったと思う」等とご

んの気持ちに同化して読みを深めていくことができた。「幸せではない」と読み取った児童も、「撃

たれたから幸せではないと思うけれど、兵十に気づいてもらえたのはうれしかったと思う」等と

読み取ることができ、ごんと兵十の心の通い合いについて全員で共有することができた(図8)。

第1時の初発の感想では、ごんが撃たれてしまったことだけに視点をおき、「ごんがかわいそ

う」と書いている児童が多かったが、第9時の感想では物語全体を通して、ごんの気持ちに寄り

添った読みへと変化している。

このようなことから、授業の展開とともにペア、グループ、全体と交流の仕方を工夫し、児童

の読みを交流させることにより、児童の読みが深まっていったと考える(表3)。

第1時の感想 第9時の感想

A児 きつねに感動した。 ごんは、兵十にただひたすら「ごめんね」と伝えたかったと思う。くりや松たけを持ってき

ごんはやさしいと思 ていたのはごんだと兵十が気づいてくれたから幸せだと思う。

った。 ※これまでに学習した読み取りを生かして、ごんの気持ちの変化をとらえることができた。

B児 このお話を読んで、 最後にやっと兵十にごんだと気づいてもらえたから、ごんは幸せだと思う。

楽しかった。 ※兵十に気づいてほしかったごんの気持ちを想像して感想を書くことができた。

C児 兵十にうたれて、ご ごんはもっと兵十といたかったと思うから、うたれたのはかわいそう。でも、兵十が最後に

んはかわいそう。 ごんのことをわかってくれたから、ごんはうれしいと思う。

※全文を通して登場人物の気持ちの変容を考え、根拠を述べながら感想を書くことができた。

(3) 学習過程を工夫し、読み深めることについての検証

第三次では「読書会を通して、読みを深めることができる」を目標に授業を展開した。第13時で

は並行読書で読んできた新美南吉の作品について読書会を行った。児童は新たに出合った新美南吉

の本について、あらすじや自分が読み取ったことをワークシートにまとめることができた(図9)。

内容についても、「ごんぎつね」の初発の感想では「ごんがかわいそう」「悲しかった」と、浅い読

みに留まっていた児童が多かったが、第三次では、初めて読んだ作品について、叙述を基に内容を

図8 児童の発言を書いた板書(全体交流の場)

図7 グループ交流後のノート

ぐったりとうなずいたごんの気持ちについて

「兵十」についての叙述

「ごん」の気持ち

読み取ったことを生かしてうなずいたごんの気持ちを想像する

「兵十」の気持ち

「ごん」についての叙述

表3 児童の読みの深まり

話合いを基に深めた読みを書く

友達からもらった感想の付箋紙

「ごんぎつね」から学ん

だことを書いて交流する

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読み取り、感想を書くことができた。「でんでん

むしのかなしみ」を読んだ児童は「私も、いやな

ことやかなしいことがあってもうじうじしないよ

うにしたいと思いました。理由は、『私は私のか

なしみをのりこえていかなきゃ』という文からそ

う思いました」等と登場人物から学んだことを書

くことができた。「手ぶくろを買いに」を読んだ

児童は「○○が好きです。なぜかというと、お母

さんから人間はこわいと教えられていたけれど、

本当はやさしいとわかったシーンだからです」等

と心に残った文章から感想を書くことができた。

さらに、「ごんぎつね」で読み深めてきたことを

基に、新美南吉の作品から学んだことについて、

「私が新美さんから学んだことは、やさしさや友達の大切

さです。なぜならどの本にもみんなやさしいことが書かれ

ているからです」等と書いており、単元を貫く言語活動で

ある「出かけよう、新美南吉さんのメッセージを知る旅へ」

を通し、自分なりに作者の思いをとらえ、感想や感動を得

ることができたと考える。

児童のアンケートによると、「ノートに書いて、登場人物

の気持ちを想像することができるようになった」「ごんの気

持ち、兵十の気持ちがわかって書けるようになった」等、

書くことにより自分の読みを深めたことを児童が実感して

いる様子がうかがえる。アンケート項目「自分の考えを書

いている」に対しても、授業後は30名(86%)の児童が「あ

てはまる・どちらかといえばあてはまる」と答えている(図

10)。また、学習後のテストにおいて、叙述の正確な読み取

りについて32名(91%)の児童が正答することができ、叙

述を基に想像して読むことについては、31名(88%)の児

童が正答することができた(図11)。このことから、書いて交流する指導の工夫により、叙述に基

づいて文章の内容を読み取る力を高めることができたことがわかる。

Ⅳ 成果と課題1 成果

(1) 物語の文脈を根拠に、登場人物の行動や気持ちの変化について想像を膨らませて書かせることに

より、叙述を基に想像を広げながら読み取る力を高めることができた。

(2) ペア・グループ・全体交流を取り入れたことにより、読みの交流が充実し、叙述を基に登場人物

を様々な視点でとらえることができ、読みを深めさせることができた。

(3) 単元を貫く言語活動を設定し、学習活動の見通しをもたせるとともに、並行読書をさせたことに

より、「作者が作品に込めた思いはどんなことだろう」と想像を広げながら読むことができ、作者

の思いもとらえさせることができた。

2 課題

(1) 積極的に語り合える交流の場を設定した単元構想の工夫。

(2) 読むために「書く」ことを効果的に取り入れた、「読むこと」と「書くこと」を連動させたさら

なる単元構想の工夫。

〈主な参考文献〉樺山・森山・水戸部・達富編 2011 『国語授業の新常識 読むこと 中学年』明治図書

文部科学省 2008 『小学校学習指導要領解説 国語編』東洋館出版社

吉永幸司 2002 『『書くこと』で育つ学習力・人間力』明治図書

図10 アンケート結果

図9 読書会のワークシート

図11 テストの結果

63%

34%

23%

34%

6%

23%

9%

9%

0% 50% 100%

事後

事前

自分の考えを書いている

あてはまる

どちらかといえば

あてはまる

どちらかといえば

あてはまらない

あてはまらない

74%

45%

91% 88%

叙述の正確な読み取り 叙述を基に想像して読む

事前

事後

N=35

N=35