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解析学 I/第11回
藤田 博司
区間の分割とリーマン和
リーマン積分の定義
ディリクレの関数
きょうの授業内容
リーマン積分 (前半)
区間の分割とリーマン和 (テキスト §7.4.1)リーマン積分の定義 (テキスト §7.S.1)ディリクレの関数
解析学 I/第11回
藤田 博司
区間の分割とリーマン和
リーマン積分の定義
ディリクレの関数
定積分の定義に向けて
リーマン (G.F.B. Riemann, 1826–1866)の方法で定積分を定義する.次の手順を踏む.
(1) 区間の分割を考える.
(2) 関数と分割に対してリーマン和という数を関連づける.
(3) リーマン和の極限として定積分を定める.
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藤田 博司
区間の分割とリーマン和
リーマン積分の定義
ディリクレの関数
区間の分割
閉区間 I = [a, b] をいくつかの小区間に分けたとしよう.
a = x0 < x1 < · · · < xN−1 < xN = b
と分点をとったとして,閉区間 [xk−1, xk ] を Ik と書くことにする.このように閉区間 [a, b] を端点だけを共有する小区間に分けたものを[a, b] の分割という.
a = x0 x1 x2 xN−1 b = xN
分割をあらわすには文字 ∆ (大文字のデルタ)を用いて
∆ : x0, x1, . . . , xN ; Ik = [xk−1, xk ], k = 1, . . . ,N
のように書く.
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リーマン積分の定義
ディリクレの関数
区間の分割
小区間 Ik = [xk−1, xk ] の幅 xk − xk−1 を |Ik | と書き,その最大値を|∆| と書く:
|∆| = max1≤k≤N
|Ik |
この |∆| が分割の細かさの指標となる.
区間 [a, b] のどんな分割 ∆ についても |∆| ≥ b − a
Nとなることに注
意しよう.小区間の個数 N を増やさないと,分割を細かくすることはできない.
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リーマン積分の定義
ディリクレの関数
リーマン和
分割 ∆ の各小区間 Ik から実数 ξk を選ぶ.つまり実数 xk(k = 1, . . . ,N) を xk−1 ≤ ξk ≤ xk をみたすように任意にとる.この実数の並び ξ1, . . . , ξk を ξ であらわすことにする.
a = x0 x1 x2 xN−1 b = xN
ξ1 ξ2 ξN
区間 I = [a, b] で定義された関数 f について,そのリーマン和は
Σ(f ;∆; ξ) =N∑
k=1
f (ξk)|Ik |
(=
N∑k=1
f (ξk)(xk − xk−1)
)
で定義される.(次ページの図を参照)
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リーマン積分の定義
ディリクレの関数
リーマン和
図で影をつけた部分の面積がリーマン和に相当する.リーマン和が関数のグラフの囲む図形の面積を近似しようとしていることがわかる.
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リーマン積分の定義
ディリクレの関数
リーマン和の極限としての定積分
リーマン和 Σ(f ;∆; ξ) は,分割 ∆ の選び方,サンプル点 ξk の選び方によって変わる.
いま,分割の最大幅 |∆| を限りなく小さくすることで,Σ(f ;∆; ξ) が,分割の分点 xk やサンプル点 ξk のとり方によらない一定の値 R に限りなく近づくなら,すなわち,どんな ε > 0 に対してもある δ > 0 が存在して,|∆| < δ である分割がすべて |Σ(f ;∆; ξ)− R| < ε をみたすなら,(そのような実数 R は存在するとすればただ一つに定まるの
で) この R を定積分∫ b
a
f (x) dx と定めよう.これがリーマンによる
定積分の定義である.
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ディリクレの関数
ダルブゥの上限和と下限和
分割 ∆ に対し,サンプル点 ξk ∈ Ik のとり方をいろいろ変えて作ったリーマン和 Σ(f ;∆; ξ) の上限・下限をそれぞれダルブゥ (G.Darboux,1842–1917)の上限和・下限和という:
S(f ;∆) = supξ
Σ(f ;∆; ξ), s(f ;∆) = infξΣ(f ;∆; ξ)
定義からあきらかに,任意の ξ = {ξk} について
s(f ;∆) ≤ Σ(f ;∆; ξ) ≤ S(f ;∆)
となっている.
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ディリクレの関数
ダルブゥの上限和と下限和
いま各小区間 Ik での関数値 f (x) の上限・下限をそれぞれ Mk , mk とすれば,
Mk = supx∈Ik
f (x), mk = infx∈Ik
f (x),
上限和・下限和はそれぞれ
S(f ;∆) =N∑
k=1
Mk |Ik |, s(f ;∆) =N∑
k=1
mk |Ik |
となる.
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ディリクレの関数
ダルブゥの上限和と下限和
このとき,リーマンの定積分の定義は次のように言いかえられることになる.
閉区間 I = [a, b] 上の関数 f に対し,区間 I の分割 ∆ のすべてにわたって,上限和 S(f ;∆) の下限と下限和 s(f ;∆) の上限をとったとする:
S = inf∆
S(f ;∆), s = sup∆
s(f ;∆)
このとき一般に s ≤ S となる.とくに等号 s = S が成立するとき,関数 f はリーマン可積分であるといい,この等しい値 s = S のこと
を定積分∫ b
a
f (x) dx と定める.
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ダルブゥの上限和と下限和
リーマン可積分であるための条件は,次のように述べられる.
命題
閉区間 I = [a, b] 上の関数 f がリーマン可積分であるための必要十分条件は次のことである: 任意の ε > 0 に対して δ > 0 が存在して,|∆| < δ をみたすすべての分割 ∆ について
0 ≤ S(f ;∆)− s(f ;∆) < ε
が成立する.
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ディリクレの関数
可積分な関数の例
単位閉区間 [0, 1] 上で f (x) = x2 がリーマン可積分であることを確かめよう.区間 [0, 1] の分割
∆ : 0 = x0 < x1 < · · · < xN−1 < xN = 1
が与えられたとする.関数 f (x) = x2 は区間 [0, 1] で単調増加であり
Mk = supx∈Ik
x2 = x2k , mk = infx∈Ik
x2 = x2k−1
となっているので,ダルブゥの上限和・下限和は
S(f ;∆) =N∑
k=1
x2k (xk − xk−1), s(f ;∆) =N∑
k=1
x2k−1(xk − xk−1)
となっている.(つづく)
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ディリクレの関数
可積分な関数の例
(つづき)両者の差をとると,分割の最大幅 |∆| の定義から
S(f ;∆)− s(f ;∆) =N∑
k=1
(x2k − x2k−1)(xk − xk−1)
≤N∑
k=1
(x2k − x2k−1)|∆|
= (x2N − x20 )|∆|= |∆|
となる.そこで与えられた ε > 0 に対して,δ = ε ととれば,|∆| < δをみたすすべての分割 ∆ について
S(f ;∆)− s(f ;∆) < ε
となる.このことから,関数 f (x) = x2 は区間 [0, 1] 上でリーマン可積分とわかった.(証明終)
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可積分な関数の例
以上の議論は,より一般に,区間 [a, b] 上で単調増加な関数がリーマン可積分であることの証明に適用できる.
この議論で f (x) = x2 が [0, 1] でリーマン可積分とわかった.だからといって,これで定積分の値がわかったわけではないことに注意しよう.積分できることの証明と積分の値の計算は別問題で,一般には後者のほうがむずかしいが,ひとたび f (x) が区間 [a, b] でリーマン可積分とわかったならば,定積分の値は,区間を N 等分した場合のリーマン和の極限値
limN→∞
1
N
N∑k=1
f
(a+
k(b − a)
N
)で計算できる.この方法を区分求積法という.
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リーマン積分の定義
ディリクレの関数
可積分な関数の例
次の重要な定理の証明は次回にする.
定理 (テキスト p.136, 定理 4.9)
閉区間 I = [a, b] 上で連続な関数 f (x) は [a, b] でリーマン可積分である.すなわち次の条件をみたす実数 R が存在する:任意の ε > 0 に対して δ > 0 が存在して,|∆| < δ をみたす I のあらゆる分割 ∆ について,サンプル点 ξ = {ξk} の選び方によらず |Σ(f ;∆; ξ)− R| < εが成立する.
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ディリクレの関数
ディリクレの関数
リーマン可積分でない関数も存在する.
まず,[a, b] で有界でない関数は,そもそも上限和,下限和が定義できないので,リーマン可積分でない.
有界ではあるけれどもリーマン可積分でない関数の例としては次のディリクレの関数 (J.P.G.L. Dirichlet, 1805–1859) がある.
D(x) =
{0, x が無理数,
1, x が有理数
ディリクレの関数 D(x) が区間 [0, 1] でリーマン可積分でないことを確かめよう.
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ディリクレの関数
ディリクレの関数
区間 [0, 1] の任意の分割 ∆ について,小区間 Ik = [xk−1, xk ] には有理数も無理数も属しているから,つねに
Mk = supx∈Ik
D(x) = 1, mk = infx∈Ik
D(x) = 0
となっている.そこでダルブゥの上限和・下限和を考えると
S(D;∆) =N∑
k=1
Mk(xk − xk−1) =N∑
k=1
(xk − xk−1) = xN − x0 = 1
s(D;∆) =N∑
k=1
mk(xk − xk−1) = 0
となり |∆| をどんなに小さくしても S(D;∆)− s(D;∆) はゼロに近づかない.したがって,D(x) は区間 [0, 1] でリーマン可積分でない.