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55 土壌について検討すると、単位流域スケールで褐色森林土が占めており、水源かん養 保安林に適していると判断できるであろう。表層地質については、付近に「その他」に 分類される表層地質が存在しているが、当該保安林は堆積岩・火山岩上に存在するため、 水源かん養保安林として適した地に設定されていると判断できるであろう。一方、当該 保安林が配備されている単位流域内には、他に水源かん養保安林が配備されていないの で、水源涵養機能を強化するため指定を進める場合には、当単位流域は適地と考えられ る。 1-4 対象保安林を含む単位流域周辺の保安林配備状況(地形図) E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E 治山事業 ⥂㸜卌侭⪒鎘歗崧㚖 主要河川 山腹崩壊危険箇所 崩壊土砂流出危険箇所 地すべり危険箇所 林班 単位流域 美郷町南郷内保安林 保安林種 水かん 土崩 土流 その他 繟鿢歕⽂鿢ⰻ⥂㸜卌 ¸ 0 1.5 3 0.75 km

E ~ âkU/B â,;)B> SL...57 3 i 5 g \c 3.1 K E2 O < T ] É Ú1 日時:H27年3月16日10:00〜11:00 場所:宮崎県美郷町南郷神門3180 耳川広域森林組合 美郷支所

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土壌について検討すると、単位流域スケールで褐色森林土が占めており、水源かん養

保安林に適していると判断できるであろう。表層地質については、付近に「その他」に

分類される表層地質が存在しているが、当該保安林は堆積岩・火山岩上に存在するため、

水源かん養保安林として適した地に設定されていると判断できるであろう。一方、当該

保安林が配備されている単位流域内には、他に水源かん養保安林が配備されていないの

で、水源涵養機能を強化するため指定を進める場合には、当単位流域は適地と考えられ

る。

図 実 1-4 対象保安林を含む単位流域周辺の保安林配備状況(地形図)

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E 治山事業

主要河川

山腹崩壊危険箇所

崩壊土砂流出危険箇所

地すべり危険箇所

林班

単位流域

美郷町南郷内保安林

保安林種

水かん

土崩

土流

その他

¸ 0 1.5 30.75 km

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図 実 1-5 対象保安林を含む単位流域周辺の保安林配備状況(土壌図)

図 実 1-6 対象保安林を含む単位流域周辺の保安林配備状況(表層地質図)

主要河川

山腹崩壊危険箇所

崩壊土砂流出危険箇所

地すべり危険箇所

林班

単位流域

美郷町南郷内保安林

保安林種

水かん

土崩

土流

その他

土壌

グライ土

その他

未熟土

泥炭土

褐色森林土

黒ボク土

¸ 0 1.5 30.75 km

主要河川

山腹崩壊危険箇所

崩壊土砂流出危険箇所

地すべり危険箇所

林班

単位流域

美郷町南郷内保安林

保安林種

水かん

土崩

土流

その他

表層地質

花崗岩・火山灰

堆積岩・火山岩

その他

¸ 0 1.5 30.75 km

Page 3: E ~ âkU/B â,;)B> SL...57 3 i 5 g \c 3.1 K E2 O < T ] É Ú1 日時:H27年3月16日10:00〜11:00 場所:宮崎県美郷町南郷神門3180 耳川広域森林組合 美郷支所

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3

3.1 1

日時:H27 年 3 月 16 日 10:00〜11:00 場所:宮崎県美郷町南郷神門 3180 耳川広域森林組合 美郷支所 南郷事業所 聞き取り先:課⻑ 江野村政信氏 聞き取り: 宗像 聞き取り内容: ・当該地域は林業地帯であり、主にスギが生産されている。森林所有者も林業経営への

意欲が高い。 ・当該地域は、全国的にみても降雨量が多いところである(3,000mm/年)。1 週間で1,000mm 降ったこともある。また、盆地状で夏暑く、冬寒い気候となっている。 ・近年大きな土砂災害等は起こっていない。元々雨が多い地域であることから、昔から

災害はそれなりに起こっており、災害箇所の復旧も⻑年行われてきた。そのため、山は

それなりに安定しており、多少の雨量では大きな被害が出ることはない。また、近年は

災害を引き起こすような台風や豪雨がないことも影響している。 ・当該地域では、マツ枯れ被害が多く⾒られる。過去にだいぶ伐倒駆除を行った。アカ

マツはほとんど枯れてしまっており、高標高の所に残っている程度ではないか。また、

シカ食害が多く、スギ植林地に防護ネットなどを設置している。当該地域でも有害鳥獣

駆除を実施している。 ・今回の保安林設定の業務は、宮崎県から県単事業として、森林組合に発注されたもの

である。「森林の公益的機能高度発揮推進事業」と称し、水源地域の山地防災危険地域

の森林の保安林設定を推進するものである。事業では、概ね 5ha 以上の森林を対象とし

ている。 ・現在、美郷村では地籍調査が進行中であり、今回の事業も地籍調査を終了した森林を

対象としている。(それで詳細な図面が存在する)。 ・大規模な森林所有者は、地籍が確定したときに固定資産税の問題が発生する(面積が

大幅に増加することにより、固定資産税が増える場合がある)。それが森林所有者が保

安林指定を希望する一要因ともなっている。また、保安林指定により、所有者が計画的

な経営管理を期待していることも考えられる。伐採などは登録制(届出制)となるが、

逆にそうした制限があった方が、所有者は管理しやすいと考えるのではないか。今回の

対象地も地権者(森林所有者)からの希望で、保安林指定が行われることとなった。 ・水源涵養保安林の指定により、10ha 以上の伐採ができなくなるなどの規制について、

森林所有者は経営上のデメリットとは考えていないようである。今回の所有者も、自身

の山を会社経営しており、独自の作業班を持っている。作業班が計画的に施業を進めれ

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ば、保安林の制限は問題にならないと考えるのではないか。 ・今回の保安林推進事業では、効率性を考え、比較的規模の大きい所有者から選定する

ようにしている。小規模な所有者については、大規模な所有者と合わせて保安林指定へ

の参加を促している。 ・当該地域は比較的大規模な所有者が多いが、本事業においても、まず大規模所有者を

おさえて、それに付随する小規模な所有者に広げていくことが、効率的な手法と考えて

いる。 ・今回のような保安林指定を推進する事業は、森林組合にとっても、手続き業務やその

後の管理などでメリットがある。 ・森林所有者にとっては、保安林指定は税制面でのメリットもあるが、保安林事業で森

林整備が行えることにより、経費削減となる点が、最もメリットとなるのではないか。 ・林業経営を行っている所有者について、保安林指定に対する拒絶感はほとんどなく、

むしろ税制面や施業関係で優遇されることから、保安林指定を希望する者が多いようで

ある。 ・同意書の取得について、地権者が強固に拒む事例はほとんど⾒られない。 ・保安林指定の同意書の取得について、大部分の森林所有者は地元在住であるが、不在

村地主が含まれる場合もある。そうした場合でも、親戚などが町内にいるケースが多い

ので、そうした人を通じて連絡を取ることができる。 ・地権者の同意については、市町村から県に対して要望を上げる前段階で、地権者の同

意の確認は取ってある。県の事業採択が取れた段階で正式に同意書をお願いすることに

なる。(保安林指定は、あくまで個人→市町村→県の流れで行われており、森林組合は、

それを推進するためのサポートを行っている) ・地権者から同意書を得る際に、不在村地主や相続人が把握できず、同意書の取得を困

難にする場合があるが(京都や岐阜ではかなり問題となっていた)、今回の対象地では

地籍調査がすでに終了しており、地権者が事前に把握されていることから、効率的に保

安林指定を進めることができる。 ・個人で小規模な森林所有者が保安林指定を求めてくるケースもある。また、地籍調査

の前に保安林指定を行ったが、地籍調査で保安林指定の漏れが発覚し、追加で指定を求

めるケースなどもある。 ・美郷町は、3 村が合併してできた町である。当該対象地が位置する南郷地区は比較的

保安林面積は少ない方であるが、北郷地区では 83%が水源涵養保安林となっている。

合併前の町村の方針によるところが大きい。 ・保安林指定されると、伐採届等の提出が必要になる。個人では作成が難しいことから、

森林組合が代行で実施することになる。保安林の多い北郷地区などでは膨大な数を処理

することになる。 ・森林組合では、宮崎県のシステムと連携した GIS を配備しており、地権者説明に必要

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な林班や地番の入った図面等を作成することが可能である。 ・今回のような事業を新たに始める際に、地区ごとに座談会を開き、森林所有者に説明

を行っている。保安林の同意等については、(今回のように数が少ない場合は)説明会

を開かず、各戸対応としている。 ・対象地内において兼種指定された土砂流出防備保安林(5ha)について、過去に大規

模に土砂が流れて危険であるとの判断から、全域禁伐になったようである。下流側に2

基、中腹に7基程度の治山ダムが設置されている。現時点では土砂も安定しているよう

である。 3.2 2

日時:H27 年 3 月 16 日 16:00〜17:00 場所:宮崎県環境森林部 自然環境課 聞き取り先:保安林担当 高島研郎氏 聞き取り: 宗像 聞き取り内容: ・今回、耳川広域森林組合に依頼した事業は、地域で保安林の指定を希望する所有者を

取りまとめ、保安林の指定申請に必要な資料を作成してもらうものである。県内にある8 つの森林組合に対し、同様の事業を発注している。主に水源涵養を希望する森林所有

者が多い。 ・保安林の指定個所については、今回の耳川広域森林組合のように、地籍調査が終了し

ている場所(所有者)に限定するわけではないが、地籍調査が終了していないと、地番

の位置が分らず、境界を引くことも困難であるため、資料作成に大変な手間がかかる。

それで実質、地籍調査が終了した個所での実施となっている。 ・今回の事業では、保安林の指定個所の選定にあたり、山地災害危険地区の指定個所も

踏まえて選定するように、森林組合には依頼している。 ・宮崎県内の地籍調査は、すでに全県の半分程度が終了している。美郷町も全域は終了

していないが、隣接する諸塚村などのように全域終了している町村もある。市町村によ

って進捗に差があり、市街地に近い市町村の方が遅れ気味である。 ・地籍調査が進展するに伴い、(それにより森林面積が大幅に増加する所有者がいるた

め)、固定資産税の関係で、保安林指定を希望する森林所有者がみられる。これは保安

林指定の本来の目的とは異なるが、それによって、実際に保安林指定すべき森林につい

て、所有者の同意が得やすくなるという側面もある。 ・宮崎県の保安林に係る指定施業要件とその範囲について、水源涵養保安林については、

全域、指定施業要件は皆伐となっている。土砂流出防備保安林については、治山ダムと

堆砂敷に係る範囲については択伐とし、それ以外は皆伐となっている。分筆等は行わず、

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基本的に筆単位で指定を行っている。 ・保安林の指定面積について、今回の事業では概ね 5ha 以上を取りまとめるようにして

いるが、基本的には、保安林の指定個所と下流域への影響を勘案し、小規模な森林でも

保安林指定を進めることとしている。 ・今回、保安林対象地がある美郷町は、北郷村、南郷村、⻄郷村が合併した町である。

このうち、合併前の北郷村では、全村保安林化を進めるという村の方針があったことか

ら、保安林率が 86%と高い状況となっている。北郷の保安林率が目立つが、特に南郷

や⻄郷の保安林指定が遅れているというわけではない。 ・美郷町では、シイタケ原⽊(クヌギ)の生産が盛である。保安林の多い北郷地区(旧

北郷村)では、保安林におけるクヌギの伐採が行われる際に多くの伐採届が必要となる

(森林組合が伐採届の申請を代行)。 ・今回の水源涵養保安林指定地に含まれる兼種指定の土砂流出保安林(5ha)について、

昭和 53 年に治山工事が実施され、周辺 5ha の範囲が土砂流出保安林に指定され全域禁

伐となっている。過去の資料を当たったが詳細は分からず、推察であるが、昭和 53 年

以降も治山工事が継続的に実施されていることから、初年度にまず大きく崩れた個所の

復旧を行い、その後、年度をまたいで、広範囲に渡って復旧していく計画を立てたので

はないか。その関係で全域禁伐となったものと思われる。その時代には、土砂流出防備

保安林で禁伐指定された事例が何件か⾒られることから、当時の方針もあったものと思

われる。 ・保安林指定の同意について、市街地に近い平場の森林では、保安林の指定をされると

転用(宅地など)が難しくなるため、所有者が難色を示すことが考えられる。実際、宮

崎市周辺などでは同意を得ることが難しい状況にある。 ・山間部で森林経営に従事している森林所有者については、保安林指定により固定資産

税などのメリットもあるが、保安林指定されることによって計画的な経営ができると考

えるのではないか。 ・保安林指定を進めるにあたり、市町村が地権者を取りまとめる際に、現地をよく知っ

ている森林組合に協力を依頼する場合がある。森林組合は森林や所有者の状況をよく把

握している。 ・宮崎県は年間降水量も多く、台風の通り道となっているが、近年目立った大きな災害

は起こっていない。大規模な台風が来ていないこともあるが、昔から災害が多かったた

め、山の整備を繰り返してきていることから、ある程度の降水量や台風などに対する山

の備えができているとも考えられる。ただし、小規模な被害はあちこちにみられる。

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3.3

・対象流域は、耳川流域にあり、岐阜県東⾅杵郡美郷町南郷⻤神野松ノ内地区に位置す

る(耳川森林計画区 美郷町 22〜24 林班)。 ・松ノ内地区は、美郷町の役場から 20km ほど南⻄にあり、県道 388 号に沿って町内を

流れる小丸川に注ぐ松の内谷沿いに位置する。 ・松ノ内谷流域に集落はなく、松の内谷と小丸川の合流点から小丸川下流に沿って集落

や耕作地が点在している。 ・対象流域は、松ノ内谷の両岸に位置している。標高は、沢部で 370m、尾根付近で 980

mとなっており、標高差は 600m 程度となっている。沢沿いから尾根にかけて急峻な

地形が続き、斜面傾斜は概ね 24〜37 度となっている。 ・当該地域は、スギを中心とした林業地として有名であり、対象流域の林相も尾根部や

急傾斜地の広葉樹を除き、スギ人工林が大部分を占めている。森林土壌は細粒褐色低

地土であり、山腹斜面での土壌深は浅く、下層の細礫が露出する個所もみられる。 ・保安林の指定箇所は、松ノ内谷の両岸に渡る 147.9ha であり、水源かん養保安林に指

定されている。うち松の内谷右岸には、昭和 53 年に指定された土砂流出防備保安林(5ha)がある(兼種指定)。当該地域は急峻な沢部にあり、多数の治山ダムが設置され

ている。全域禁伐指定されており、現状では立⽊の生育も進み土砂は安定している。

松の内谷と小丸川の合流点

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松の内谷と小丸川の合流点と吐集落(下流側から)

松の内谷の下流域

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松ノ内地区の遠望。スギ造林地が広がる。

松ノ内地区の遠望。尾根部にはアカマツや広葉樹もみられる。

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対象地域の林況:スギ若齢林分