3
2 使大学生の中には、お酒を飲んではいけない未成年者と、お酒を飲んでもよい成人が混在していま す。そのため、かつては未成年者飲酒の禁止を徹底できず、「大学生になったら未成年でもお酒を 飲んでもよい」という風潮があったともいわれています。しかし、それも近年は大きく変わってき ているそうです。上智大学の学生センター事務長として、日々学生とかかわりながら、未成年者飲 酒の防止および適正飲酒の取り組みを行っている栗原さんにお話を伺いました。 編集部 3 学生の主体的な対策を促す 上智大学が行う未成年者飲酒防止・ 適正飲酒への取り組み 上智大学 学生局 学生センター事務長 栗原 康行 図表 2 SOPHIANS’ GUIDE 2016(一部) 注意事項 ー安全と安心のための心得ー ここに記載していない事項についても、大学生、特に上智大学の学生として良識ある行動をとりましょう。 飲酒 お酒を飲む際、短時間での多量の飲酒(イッキ飲み等)により急性ア ルコール中毒になり、救急車で病院に運ばれるケースが多々あります。 急性アルコール中毒になると吐き気、言語障害などの症状をおこす だけでなく、意識喪失から死に至る場合もあります。酒の酔い方には個 人差がありますので、自分の体質や体調をよく理解し、まわりからすす められても無理をしないで断りましょう。特に新入生歓迎会や合宿な どのイベント時においては一層の注意をしてください。 未成年の飲酒・飲酒の強制について 未成年が飲酒すること・未成年に飲酒をすすめることはもちろん、それを看過することも重大な違法行為で す。また、相手が未成年かどうかに拘らず、飲酒の強制はハラスメントであり、許されないことです。本学はこ のような行為に対して厳罰をもって臨みます。 ドラッグ 飲酒に関わる以下の行為は法律で禁じられているものや、命を 落とす危険性をはらむものであり、決してあってはなりません。 未成年飲酒 飲酒の強要 年齢未確認による、結果的な未成年 飲酒の黙認 過度の飲酒、イッキ飲み 4.学生生活のルール・マナー(1)飲酒 図表1 オリエンテーションで使用されるスライド(一部) NEWS & REPORTS

図表1 オリエンテーションで使用されるスライド(一部) 学生 ... · 2017. 7. 5. · 一部を引用してみ ... 酒の防止および適正飲酒の取り組みを行っている栗原さんにお話を伺いました。

  • Upload
    others

  • View
    0

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

Page 1: 図表1 オリエンテーションで使用されるスライド(一部) 学生 ... · 2017. 7. 5. · 一部を引用してみ ... 酒の防止および適正飲酒の取り組みを行っている栗原さんにお話を伺いました。

2

酒の誘惑があるかもしれません。

 

未成年者飲酒は、当然、法律違反

です。飲ませたほうは罪に問われ、

「未成年だと知らなかった」では済

まされません。この時期にこうした

事実を伝えることで、新入生の勧誘

時期におけるお酒のトラブルを防ぐ

ねらいもあります。

 

また、新入生全員に配布するガイ

ドブックにおいても、飲酒に対する

問題行動を厳に戒めています(図表

2)。一部を引用してみましょう。

「相手が未成年かどうかに拘らず、

飲酒の強制はハラスメントであり、

許されないことです。本学はこのよ

うな行為に対して厳罰をもって臨み

ます。」とあります。

 

このうち、「飲酒の強制はハラス

メントであり」の部分は近年追加さ

れたものです。社会情勢や学生の動

向を見ながら、毎年修正を加えてい

ます。在校生も見られるように、大

学のウェブサイトにアップしている

ほか、学内の各部局に置いて自由に

持っていけるようになっています。

 

過去には、在校生に対して学生指

導・支援を担当する学生総務担当副

学長名による書面を掲示板に掲示

し、大学のスタンスを強く示したこ

ともあります。

●●

課外活動団体に対し

  説明会・講演会への

  参加を義務付け

●●

 

大学での飲酒問題は、サークルや

部活動などの課外活動と切っても切

り離せません。

 

本学では、課外活動団体を新設、

継続する条件として、代表者による

説明会への参加を義務付けていま

す。説明会では、施設や設備を使用

する際の手続きやルールのほか、ア

ルコールハラスメントに関するDV

Dを放映し、保健体育研究室教員に

よる適正飲酒の講義、およびアル

コールパッチテストを行っていま

す。課外活動団体に加入する全員を

対象とするのではなく、まず代表者

から所属する学生に伝えてもらう形

をとっています。

 

年によっては、イッキ飲みを防ぐ

ことをテーマに2時間程度の講演会

を行うことがあります。講演会への

参加も課外活動団体の新設・継続の

●●

根本にあるのは

学生の成長を

願う気持ち

●●

 

われわれ学生センターは、学生た

ちの学生生活を支援する立場にあ

り、何よりも彼らの成長を願ってい

ます。大学を卒業し社会に出れば、

仕事上の付き合いでお酒を飲むこと

もあるでしょう。そのときに、社会

人として適切な飲み方ができなけれ

ばなりません。

 

ですから、学生が何かお酒の失敗

をしてしまったときに、一方的に厳

罰を与えるような、そういう接し方

はしません。失敗を罰するよりも、

その失敗を生かしていくことのほう

がはるかに大切です。

 

なぜそうなってしまったのか、そ

れを今後起こさないためにはどうし

たらいいのか。そして、人としてど

うあるべきなのか、どうすれば本人

が成長していけるのか。問題を起こ

してしまった学生に対しては、この

辺りをしっかり伝えるように心がけ

ています。ほとんどの学生は素直に

聞いてくれます。

 

一方で、上智大学の学生として彼

らには社会的な責任もあります。未

成年者にお酒を飲ませてしまった

り、酔った勢いで器物を破損してし

まった学生に対しては、大学として

何らかの対応を講じなければならな

いこともあります。団体であれば一

定期間の活動停止が、個人であれば

厳重注意等が与えられることもあり

ます。

●●

上智大学の取り組み

●●

「未成年者飲酒や強要は許さない」

入り口で大学のスタンスを伝える

 

最も大切なのは、学生の飲酒に関

わるトラブルを未然に防ぐために対

策を行なうことです。本学の取り組

みをご紹介しましょう。

 

まず入り口のところで、われわれ

のほうから大学のスタンスをしっか

りと伝えることが重要です。新入生

は、入学式の後に行われるオリエン

テーションで、履修や学生生活につ

いて説明を受けます。そこで、われ

われは新入生に対して、未成年者飲

酒や飲酒の強要、イッキ飲みは絶対

に行ってはいけないという強いメッ

セージを伝えています(図表1)。

 

入学式とオリエンテーションのあ

る4月は、未成年者飲酒などお酒の

事故が最も起こりやすい時期です。

さまざまな部活動やサークルが新入

生を勧誘し、多くの懇親会が行われ

ます。その中で、ひょっとしたらお

 大学生の中には、お酒を飲んではいけない未成年者と、お酒を飲んでもよい成人が混在していま

す。そのため、かつては未成年者飲酒の禁止を徹底できず、「大学生になったら未成年でもお酒を

飲んでもよい」という風潮があったともいわれています。しかし、それも近年は大きく変わってき

ているそうです。上智大学の学生センター事務長として、日々学生とかかわりながら、未成年者飲

酒の防止および適正飲酒の取り組みを行っている栗原さんにお話を伺いました。�

� 編集部

3

学生の主体的な対策を促す上智大学が行う未成年者飲酒防止・ 適正飲酒への取り組み

上智大学学生局 学生センター事務長

栗原 康行

図表 2 SOPHIANS’ GUIDE 2016(一部)

外国人留学生の手続

こんな時には?

注意事項

―安全と安心

のための心得―

大学生活の基本事項

Sophians' Guide 201622

注意事項 ー安全と安心のための心得ー

 ここに記載していない事項についても、大学生、特に上智大学の学生として良識ある行動をとりましょう。

飲酒 お酒を飲む際、短時間での多量の飲酒(イッキ飲み等)により急性アルコール中毒になり、救急車で病院に運ばれるケースが多々あります。 急性アルコール中毒になると吐き気、言語障害などの症状をおこすだけでなく、意識喪失から死に至る場合もあります。酒の酔い方には個人差がありますので、自分の体質や体調をよく理解し、まわりからすすめられても無理をしないで断りましょう。特に新入生歓迎会や合宿などのイベント時においては一層の注意をしてください。

● 未成年の飲酒・飲酒の強制について 未成年が飲酒すること・未成年に飲酒をすすめることはもちろん、それを看過することも重大な違法行為です。また、相手が未成年かどうかに拘らず、飲酒の強制はハラスメントであり、許されないことです。本学はこのような行為に対して厳罰をもって臨みます。

ドラッグ 薬物を始めるきっかけは、繁華街で誘われて、あるいは友人に勧められてというものが多いようですが、一度くらいなら、と興味本位で始めると取り返しのつかないことになります。 薬物使用は、薬物依存、急性中毒、心身の後遺障害など、脳と心を蝕む大きな危険をはらんでいます。薬物乱用の害は半永久的に続き、治療を行っても完全には回復しません。また昨

今、新聞報道等で知られているように、危険ドラッグと呼ばれる薬物を使用して、救急車で搬送されたり、車を運転して死亡事故を起こしたりする事件が頻発しています。大切な人生を棒に振ることのないよう、誘いはきっぱりと断りましょう。 本学は、学生が決して禁止薬物に関わることのないよう強く要請し、このような行為に対して厳罰をもって臨みます。

学生ローン、クレジット 消費者金融や学生ローンを安易に利用してしまう学生がいますが、利息が利息を生んで多額の借金になり、学生生活を破綻させることになりますので十分に注意してください。 クレジットカードは現金がなくても商品が購入できるので非常に便利です。しかし、借金をしていることには変わりありませんので、利用の際は返済についてよく考えてください。

ソーシャルメディア(SNS)について(Facebook、LINE、Twitterなどの利用時) ソーシャルメディアは、技術の進歩と共にたいへん便利なツールになりました。その一方で、安易に扱うと、思わぬ結果を招きかねません。 いったんWeb上に投稿された記事や画像は、削除したとしても履歴は残り、投稿者の意思に反して悪用されたり、一人歩きする場合があります。自分の意見を発信する際には、それが他人にどう受け取られるか、その情報が将来の自分や就職等の進路にどのように関わるか、ということまで慎重に考える必要があります。

飲酒に関わる以下の行為は法律で禁じられているものや、命を落とす危険性をはらむものであり、決してあってはなりません。

●未成年飲酒●飲酒の強要●年齢未確認による、結果的な未成年 飲酒の黙認●過度の飲酒、イッキ飲み

4. 学生生活のルール・マナー(1)飲酒

図表 1  オリエンテーションで使用されるスライド(一部)

NEWS & REPORTS

NR_201703_02-07.indd 2-3 2017/03/14 10:34:54

Page 2: 図表1 オリエンテーションで使用されるスライド(一部) 学生 ... · 2017. 7. 5. · 一部を引用してみ ... 酒の防止および適正飲酒の取り組みを行っている栗原さんにお話を伺いました。

45

酒により事故やトラブルが発生して

しまった場合の危機管理体制」の3

つです。

 「どんな対策をすればいいのかわか

らない」と、学生から相談を受ける

こともあります。よくある対応策は、

成人と未成年で席を分けたり、未成

年者の目印をつけるということです

ね。きちんと実行できれば、とても

効果の高い対応策だと思います。

 

ちょっと別の話ですが、昨年の春、

学生の主体性という点でとても良い

動きがありました。本学には硬式庭

球同好会連盟という10のテニスサー

クルが加盟する組織があります。そ

の連盟の会長が自主的に全団体を集

めて、連盟所属の団体からお酒の事

故をなくすという目的の下、飲酒へ

の注意喚起を行う場を設けてくれま

した。学生センターは、そこで放映

するDVDを貸し出すなどのサポー

トを行いました。こういう自主的な

動きが波及して、学生同士でお互い

を注意できるような風土ができてく

るといいです。

●●

お酒のトラブルは

目に見えて減少

●●

 

課外活動団体という枠組みの中で

は、代表者の講演会参加の義務付け

や誓約書の提出によって、ある程度

の抑止効果があったと実感していま

す。実際にここ数年で、大学側で把

握しているお酒のトラブルは明らか

に減少しています。

 

昨年、残念なことに活動停止処分

の対象となった案件は1件ありまし

た。他大学へ遠征していた団体が、

試合後の交流の席でお酒を飲み過ぎ

てしまい、宿泊施設の器物を破損し

てしまったのです。上智の看板を背

負っているという意識が欠如してい

たことは明らかです。この団体には

学生センターからの厳重注意という

形で1カ月間の活動停止処分が下り

ました。

 

過去にはお酒のトラブルでもっと

重い処分も出ています。長期の活動

停止はもちろん、解散処分になった

団体もあります。自分たちの団体の

存続のためにしっかりやろう、とい

う意識は学生の間にも働いている気

がします。

●●

学生の飲酒マナーが

良くなった

●●

 

学生の飲酒マナーも、年々向上し

ている印象を受けます。このことは、

新入生勧誘の時期によくわかりま

す。昔は、残念ながら「大学生になっ

たら未成年でもお酒を飲んでもよ

い」という風潮があり、飲み会をや

ると大っぴらに言ったり、看板に書

いてあったりしました。でも今は、

お茶会です(笑)。新入生がいると

いうことで、お酒なしの懇親会とい

う形をとっているようです。

 

春になると、上智大学の脇にある

土手にたくさんの桜が咲きます。そ

こで花見がてら、たくさんの新歓の

懇親会が行われるのですが、昔とは

だいぶ様子が変わってきています。

私が学生だったころは、土手で夜中

まで大騒ぎをしていたものです。確

か2009年ごろまでは、寝袋を

持って朝までいるような学生もいま

した。でも近年は、夜21時くらいに

なるとブルーシートもなく、きれい

に撤収されています。

 

その他には大学の近くに、「しん

みち通り」という飲食店が軒を連ね

るグルメ通りがありまして、ここで

もかつては大騒ぎが繰り広げられま

した。飲食店様から「トイレを壊さ

れた」「看板を蹴られた」など、クレー

ムがたくさん来ていたようです。で

も、今はほとんどありません。

 

やはり、時代も学生も変わってき

ているのでしょう。統計をとっては

いませんが、明らかにお酒を飲まな

い学生は増えています。

 

本学では、毎年11月頭にソフィア

祭という学園祭を行っています(写

真)。かつては出店でお酒も売られ

ていたのですが、今は全面的に禁酒

です。最近はどこの大学もそうみた

いですね。実は10年ぐらい前に全国

の大学が集まる会合がありまして、

学園祭で飲酒を可としている大学が

非常に少ないことがわかったので

す。学園祭には学外からも大勢の来

場者がいらっしゃいますので、社会

的な責任も考慮し本学も禁酒とした

という経緯があります。

●●

課題と展望

●●

一部に残る古い飲酒文化

 

学生からの相談が時々あることと

して、OB・OGがらみの飲酒にかか

わるトラブルです。現役の学生はお

酒のルールを守ろうとしているのに、

要件になっており、各団体の代表者

が200名ほど参加しています。な

かば強制的に参加させることに一部

反発の声もありましたが、学生に

とって重要な機会であると伝え、参

加を促しました。

 

さらに、各課外活動団体には誓約

書の提出を義務付けています(図表

3)。未成年者飲酒や強要、イッキ

飲みはしない、させないと書面で約

束してもらいます。大学が正式に認

めている課外活動団体ですので、社

会のルールは守らなければなりま

せん。

●●

各団体に対策を

  提出させ主体的な

  取り組みを促す

●●

 

このように、強制的に啓発の機会

を与えたり、ルールを守ると約束し

てもらう一方で、やはり学生自身が

主体性を持って取り組んでほしいと

いうのが私たちの願いです。

 

そこで、先ほどの誓約書に記入欄

を設け、各団体に飲酒問題を防ぐた

めの対策を書いてもらっています。

考えてもらうのは、「未成年者に飲

酒をさせないための対策」「飲酒の

強要を断れないような文化・伝統を

つくらないための対策」「過度の飲

5 4

図表 3 飲酒に関わる事故・トラブル防止についての誓約書 兼 対策文書

����� 年度�飲酒に関わる事故・トラブル防止についての誓約書 � 対策文書

当団体は上智大学の課外活動団体として、社会的規範はもとより、関係法令を遵守し、飲酒に関わる事故・トラ

ブルを防止し、安全で有意義な課外活動を行うことに努めます。特に、自団体が主催する飲酒を伴う会合におい

ては団体責任者として、次のとおり対応することを誓約します。また同時にこれらに関する防止対策について文

書を提出します。

● 未成年飲酒の�止について

未成年者による飲酒は、法律違反であり、これを絶対に認めず、一切おこなわない。

● 飲酒の��の�止について

本人の意に沿わない飲酒勧奨(いわゆる、コールなど)は、これを認めず、一切おこなわない。

● 過度な飲酒の�止について

過度の飲酒行為(たとえば、イッキ飲み)を未然に防止して、飲酒に関わる重大な事故・トラブルを起こした

り、又はそれらに巻き込まれたりするようなことが無いよう十分注意する。

● 団体内の構成メンバーへの周知について

すべての団体内の構成メンバーへ上記を周知徹底し、団体内の共通意識を作るとともに遵守の体制を図る。

① 未成年に飲酒をさ�ないための対策 ② 飲酒の��を�れないような文�・��を作らないための対策 ③ 過度な飲酒により事故�トラブルが�生してしま�た�合の����体制 飲酒に関わる事故・トラブルを防止するために、自団体が講じている/講じることにする対策を具体的に記入し

てください。(いつ、誰が、どのように、具体的な対処をするのか明記してください)

署名日:2016 年 月 日

団体 No.(4 桁): 所属カテゴリー:

団体名:

団体責任者名(自署):(学生番号) 印

●●●●

NEWS & REPORTS

NR_201703_02-07.indd 4-5 2017/03/14 10:34:54

Page 3: 図表1 オリエンテーションで使用されるスライド(一部) 学生 ... · 2017. 7. 5. · 一部を引用してみ ... 酒の防止および適正飲酒の取り組みを行っている栗原さんにお話を伺いました。

7 6

先輩方が昔の飲み方を持ち込んでく

るので、対応に困るというのです。

 

そこで、学生センターからOB・

OG組織に、「お酒を取り巻く社会

情勢も変わってきているので、現状

に即した形で学生に接してほしい」

とお願いをしたこともありました。

 

昨年、ある女子学生からこんな相

談がありました。彼女が所属する

サークルの飲酒文化が、どうもおか

しいのではないか。合宿の打ち上げ

でお酒を飲むときに、吐く前提でブ

ルーシートが敷かれ、バケツまで用

意されている。大学として対応を

とってほしいということでした。本

当に悩んでいたのでしょうね。

 

結局、幹部の学生を呼んで事情を

聞いたところ、その因習が事実だと

認めました。その上で、今後そのよ

うなことがないように、学生セン

ターとして非常に厳しい指導をしま

した。一部では、こういう古い飲酒

文化が残っているというのが実情

です。

●●

さまざまな国籍の

  学生とルールを守って

  �

適正飲酒を

●●

 

本学の特色の一つに、留学生の多

さが挙げられます。祖そ

しがや

師谷に国際寮

がありまして、日本人とさまざまな

国から来た留学生が合計およそ

320人、混住しています。寮での

飲酒を認めるかどうかは、常に議論

のあるところです。たとえば他大学

の寮のケースでは、寮生に1~2年

生が多いという事情もあるとは思い

ますが、寮内では全面的に禁酒にし

ています。

 

現在、本学では寮内での飲酒を禁

止していません。多種多様な国籍の

人間がいる中で、ルールを守ってお

酒を飲むことが、学生の成長やコ

ミュニケーションに必要だろうとい

う考えです。事実、学生が自主的に

ルールづくりをするなどの動きも出

始めています。

 

当然、寮内で何かお酒の問題が起

これば、大学側の管理責任も問われ

ます。そこで、寮生への啓発活動を

検討しまして、昨年の6月にビール

会社の方に来ていただき、英語で適

正飲酒セミナーを実施しました。集

まった学生は、30人。本当はもっと

来てほしかったのですが、学生も忙

しいですからね…。

 

セミナーでは、酔いのメカニズム

に加え、未成年者への悪影響などネ

ガティブな側面、そしてコミュニ

ケーションを円滑にするなどポジ

ティブな側面にも触れ、バランスよ

くお話しいただきました。学生たち

には大変好評で、人種や体質によっ

てアルコールの強さに差があるとい

うデータや、お酒が私たちの体に与

える影響についての科学的な説明が

印象的だったようです。「お酒を飲

めない人に飲ませてはいけない理由

がわかった」など、素直な感想が返っ

てきました。

 

こうした啓発活動をしてはいます

が、やはり寮の中でお酒のトラブル

はあります。寮なので外部の人間は

入ってはいけないことになっている

のですが、酔って友達を連れてきて

しまう。泥酔して共用スペースで

眠ってしまう。問題が起きたときに

は、まず学生センターに来てもらっ

て直接話をして、問題の程度や本人

の反省の度合いによって対応を決め

ていきます。

●●

他大学や

専門家との連携

●●

 

本学は、交流のある3大学(青山

学院大学・駒澤大学・國學院大學)

との間で情報交換をしています。学

生センターとして抱えている業務上

の悩みやトラブルや解決のノウハウ

を共有しています。

 

もちろん、これまでお伝えしてき

た本学の取り組みも紹介していま

す。課外活動団体に誓約書を求め、団

体ごとに対策を考えてもらい、それ

を団体の新設・継続の要件にしてい

るのは本学だけの取り組みでした。

ここまで課外活動に対して踏み込ん

だ取り組みを行っている大学は、や

はり珍しいのかなという気はしま

す。皆さん「良いですね」と言ってく

ださったので、すでに導入された大

学もあるかもしれません。今後も他

大学さんとの連携を図っていきます。

 

連携という観点でいえば、専門家

の皆さんとの連携を強めていきたい

と考えています。本学にも、学生の

健康管理を行う保健センターがあ

り、医師や看護師さんがおります。

私は飲酒問題のプロではありません

から、専門家の方々からのアドバイ

スは大変ありがたいのです。学内の

みならず、学外の専門家の方々にも

ぜひ本学に来ていただき、学生の前

でお話しいただく機会をつくってい

こうと思っています。

●●

飲酒年齢が引き下げら

  れても基本的なスタン

  スは変わらない

●●

 

昨年から、選挙権を与える年齢が

20歳から18歳へと引き下げられまし

た。これに伴い、飲酒できる年齢も

引き下げられる可能性があると聞い

ています。もしそうなれば、すべて

の学生の飲酒が合法になります。学

生センターとしての対応も、当然変

わってくるでしょう。

 

一方で、適正飲酒をしなければな

らない、という点においては何ら変

わりません。法的に飲酒が許された

年齢であっても、お酒に弱い体質の

人は影響を強く受けてしまいます。

年齢にかかわらず、そういう人は保

護されなければなりません。また、

誰であっても過度な飲酒や強要、

イッキ飲みは慎むべきです。

●●

おわりに

●●

腹を割って話すために

適度なお酒はあってもいい

 

お酒だけに限りませんが、最近の

学生はまじめだなぁと思うことが

多々あります。まじめだというより、

忙しくなっているというほうが正し

いかもしれません。授業の出席も非

常に厳しいですし、予習や復習、課

題の提出も求められます。それに加

えて、課外活動やアルバイトもある。

よく言えば充実しているし、悪く言

えば忙しすぎるのです。

 

その中で、学生にとってのコミュ

ニケーションのあり方というものが

変わってきている気はしています。

かつては友達と顔を合わせて、ゆっ

くり一杯飲みながら腹を割って話そ

うとする学生が一定数はいたと思い

ます。しかし、今は、SNS上の簡

単なやりとりで済ませてしまう傾向

が見受けられます。時間の使い方が

変わってきているのでしょうね。

 

私なんか昔の人間なので、「もっ

と直接話そうよ!」と思ってしまい

ます。先日面談した学生は、口数も

少なく、おとなしい人だなという印

象でした。でも、後でもらったメー

ルはすごい長文で、「こんなに思い

を持っていたんだな」「直接話して

ほしかったな」と思った記憶があり

ます。

 

学生センターは立場上、お酒のネ

ガティブな側面に着目し、適正でな

い飲酒をなくしていくことを目標に

取り組んでいます。未成年者飲酒や、

過度の飲酒、強要は、絶対にしては

いけません。

 

一方で、お酒には食事をおいしく

したり、コミュニケーションを円滑

にするなどポジティブな側面もあり

ます。私もお酒を飲みますので、まっ

たくお酒を飲めなくなったらつまら

ないんじゃないかなと思うんですよ

ね(笑)。お酒を飲み交わすことで、

いつもより深い話ができたり、みん

なと一体感を感じたりすることがで

きます。成人した学生の皆さんには、

適正飲酒の範囲内でお酒と上手に付

き合っていただきたいですね。

■くりはら・やすゆき

上智大学学生局学生センター事務長

1975年生まれ。1999年に上智大学を卒業

し、職員へ。2016年7月より現職。

写真 2016年度ソフィア祭の様子 (恵雅堂撮影)

NEWS & REPORTS

NR_201703_02-07.indd 6-7 2017/03/14 10:34:59