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34 2.アメリカ電力業 電力設備の中で発電部門は、かつては大きな投資を伴うことからボトルネッ ク資源であったが、技術革新により低コスト化や小型化が実現し、一般事業者 でも所有し運用することが可能となった。しかし、送配電網は依然として自然 独占が生じるボトルネック資源と位置付けられている。したがって、電力市場 での公正な競争を実現する上では、実際に新規事業者が送配電網に自由にアク セスでき、かつ非差別的なコストで利用できることを実現する仕組みと運用体 制の整備が課題となる。 アメリカの電力業では、1978 年公益事業規制政策法により発電事業への新規 参入が容認されたが、それだけでは十分な成果が得られず、その後送配電網の 開放、卸・小売託送制度の整備、系統運用の分離、会計分離など多様な競争政 策が行われてきた。アメリカの電力業の競争政策の展開過程及び具体的な施策 の推移をみると、段階的な競争政策の実施に伴う競争市場の形成過程とその効 果及び課題点が浮び上がる(図表 12)。 図表 12 アメリカの電力業の事例分析の全体像 参入規制の緩和・撤廃 1978 年法 発電事業者の電力卸売市場 への参入を容認 競争的市場の形成 1988 年 NOPR 独立系発電事業者(IPP)と 競争入札制度を公認 送電網の開放 1992 年法 託送命令権限規定等 公正な競争環境整備 1996 年命令 託送の義務付け 垂直分離推進 系統運用機関設置推奨等 送電系統の統合化推進 1999 年命令 地域送電機構 RTO 設立推奨 発電部門での非電力会社のシェアは 大幅に増加 ・系統運用機関(ISO)設置 (カリフォルニア州等) 1996 年命令による系統分離手法の 限界性 1990 年代半ば過ぎまでに一定の効果 が顕在化したものの競争制限は残存 ・州によっては非電力会社のシェア が増大 ・労働生産性上昇 ・垂直統合型の独占的供給者による 産業支配残存 参入規制の緩和・撤廃の効果不十分 ・非電力会社のシェア増加幅小 ・労働生産性の上昇幅小

図表12 アメリカの電力業の事例分析の全体像なお、SCE 社の電力販売量単位当り実質電力収入(イールド)は1986~1992 年度で年度平均0.8%上昇した(図表30

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2.アメリカ電力業

電力設備の中で発電部門は、かつては大きな投資を伴うことからボトルネッ

ク資源であったが、技術革新により低コスト化や小型化が実現し、一般事業者

でも所有し運用することが可能となった。しかし、送配電網は依然として自然

独占が生じるボトルネック資源と位置付けられている。したがって、電力市場

での公正な競争を実現する上では、実際に新規事業者が送配電網に自由にアク

セスでき、かつ非差別的なコストで利用できることを実現する仕組みと運用体

制の整備が課題となる。

アメリカの電力業では、1978 年公益事業規制政策法により発電事業への新規

参入が容認されたが、それだけでは十分な成果が得られず、その後送配電網の

開放、卸・小売託送制度の整備、系統運用の分離、会計分離など多様な競争政

策が行われてきた。アメリカの電力業の競争政策の展開過程及び具体的な施策

の推移をみると、段階的な競争政策の実施に伴う競争市場の形成過程とその効

果及び課題点が浮び上がる(図表 12)。

図表 12 アメリカの電力業の事例分析の全体像

参入規制の緩和・撤廃 1978 年法

発電事業者の電力卸売市場 への参入を容認

競争的市場の形成 1988 年 NOPR

独立系発電事業者(IPP)と 競争入札制度を公認

送電網の開放 1992 年法

託送命令権限規定等

公正な競争環境整備 1996 年命令

託送の義務付け

垂直分離推進

系統運用機関設置推奨等

送電系統の統合化推進 1999 年命令

地域送電機構 RTO 設立推奨

発電部門での非電力会社のシェアは

大幅に増加

・系統運用機関(ISO)設置

(カリフォルニア州等)

・1996 年命令による系統分離手法の限界性

1990年代半ば過ぎまでに一定の効果

が顕在化したものの競争制限は残存

・州によっては非電力会社のシェアが増大

・労働生産性上昇 ・垂直統合型の独占的供給者による 産業支配残存

参入規制の緩和・撤廃の効果不十分

・非電力会社のシェア増加幅小 ・労働生産性の上昇幅小

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(1)アメリカの電力業における競争政策の経緯

1)参入規制の緩和・撤廃

アメリカでは、電力業については、州の公益事業委員会(PUC:Public Utility Commissions)と連邦エネルギー規制委員会(FERC:Federal Energy Regulatory Commission)が規制していたが、州、連邦ともコスト主義(報酬

率規制)をベースに料金を規制していた(山本(2001))。

1970 年代の石油危機を機に、電力会社は原子力発電所の建設に傾注したが、

需要の伸びが低下するとともに供給過剰が顕著となり収益が悪化した。事業者

は料金の値上げで対応したが、度重なる料金値上げへの消費者の反発が強まっ

た。こうしたなかで、省エネルギー対策と代替エネルギーの開発を目的とした

エネルギー5 法1の一つである 1978 年公益事業規制政策法(PURPA:Public Utilities Regulatory Policies Act)が制定され、電力業の規制改革が始まった。

①参入規制の緩和・撤廃

1978 年公益事業規制政策法は、電力生産に際しての省資源や効率的な発

電を主たる目的として、電力会社に対して省エネ型の認定設備(Qualifying Facilities)を用いた発電事業者の余剰電力を購入することを義務付けた。

電力会社は、認定設備から州公益事業委員会の定めによる回避可能原価2で

の電力購入が義務付けられた。この結果、カリフォルニア州等では、1980年代半ば以降、卸売専門の IPP が低コストを武器に相次いで参入した。な

1 他には国家省エネルギー政策法、発電用及び産業用燃料使用法、天然ガス政策法、エネル

ギー租税法がある。 2 回避可能原価とは、QF からの電力購入がなかったと仮定した場合に、自社による発電あ

るいは QF 以外の電源からの電力購入によって生じる電力会社の KWh または KW 当りの

増分コストである。

1978 年法と 1988 年 NOPR により参入規制の緩和・撤廃を推進

・一定の条件を満たした発電設備の余剰電力購入を義務付け(1978 年)。 ・独立系発電事業者(IPP:Independent Power Producer)と競争入札制

度を公認(競争的な電力卸売市場の公認、1988 年)。

1978 年法と 1988 年NOPRの効果 -全体としては競争市場の形成は不十分

・規制改革を積極化した州では IPP の発電量シェアは 1990 年で 10%前後 へ上昇したが、非電力会社の市場参入度は州による差違が大。 ・この段階では、参入規制の緩和・撤廃の影響は電力価格や労働生産性の

面では顕在化しなかった。

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CA ID RI

MA HI

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LA

MT

VA

OR

CO MI

NJ

MN

PA

WV WI

WA IL

NC

SC

UT IA

MD

AL

TX

GA

OH

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DE

MS

AR

OK IN TN

WY

NM

AZ

ND

MO

NE

KY

DC

SD

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14

16

18

20

IPP発電量(右目盛)

IPPの発電量シェア(左目盛)

(%) 発電量:百万メガWh

お、1978 年法では消費者にとって公平な料金の設定基準を考案することも

義務付けた。

②競争環境の整備

1988 年に FERC より規則制定案(NOPR:Notice of Proposed Rulemaking)が公示された。そのねらいは有効競争の環境を整備すること

であった(競争的な電力卸売市場と競争入札制度を公認)。

以上の施策に基づく参入規制の緩和・撤廃の推進度は州によって異なり、一

部の州では IPP など非電力会社の発電市場への参入の増加がみられたが、全体

としては競争市場の形成は不十分であったといえる。IPP の参入の面で先行し

たカリフォルニア州では、1990 年代に入って IPP のシェアが伸び悩む傾向がみ

られ、電力会社の労働生産性も停滞した(図表 13)。 1990 年時点でみると、IPP の発電量シェアはメイン州、ニューハンプシャー

州、カリフォルニア州など一部の州で 10%前後を占めたが全体としては低いシ

ェアに留まった。とくに発電規模の大きな州では IPP のシェアは低位に留まっ

た(図表 14)。

図表 13 1990 年時点での州別にみた IPP の発電量シェア3

3 州名は略号で示されている。詳細は次ページ参考欄参照。

(備考)Energy Information Administration のデータより作成。

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0

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0 50 100 150 200 250 300

各州の総発電量 百万メガWh

I

P

P

(%)

カリフォルニア

図表 14 1990 年時点での州別にみた発電規模と IPP の発電量シェア

(備考)Energy Information Administration のデータより作成。

(参考) アメリカの州の略号一覧

略号 州の名称 略号 州の名称AK Alaska NC North CarolinaAL Alabama ND North DakotaAR Arkansas NE NebraskaAZ Arizona NH New HampshireCA California NJ New JerseyCO Colorado NM New MexicoCT Connecticut NV NevadaDC District of Columbia NY New YorkDE Delaware OH OhioFL Florida OK OklahomaGA Georgia OR OregonHI Hawaii PA PennsylvaniaIA Iowa RI Rhode IslandID Idaho SC South CarolinaIL Illinois SD South DakotaIN Indiana TN TennesseeKS Kansas TX TexasKY Kentucky UT UtahLA Louisiana VA VirginiaMA Massachusetts VT VermontMD Maryland WA WashingtonME Maine WI WisconsinMI Michigan WV West VirginiaMN Minnesota WY WyomingMO MissouriMS MississippiMT Montana

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早い段階で IPP の参入が活発化したカリフォルニア州では、1988~1993 年で

は IPP のシェアは伸び悩んだ。電源設備シェアでみると、IPP を含む非電力会

社のシェアは、1988 年の 19.4%から 1993 年の 18.6%へ 0.8%ポイント低下し

た。同様に、非電力会社の発電量のシェアも 1988 年の 29.7%から 1993 年の

32.7%へ 3.0%ポイントの上昇に留まった。こうした中で、労働生産性の伸びも

停滞し、1981~1992 年度の年度平均伸び率は 0.2%に留まった(図表 26 参照)。 カリフォルニア州での主要 6 社のデータをもとに、住居用電力価格の推移を

みると、1980~1992 年では年率 6.1%で上昇した。実質では年率 1.8%の上昇

であり、名目ベース、実質ベースともに価格の上昇がみられた(図表 29 参照)。 なお、SCE 社の電力販売量単位当り実質電力収入(イールド)は 1986~1992年度で年度平均 0.8%上昇した(図表 30 参照)。

以上に示されるように、1978 年公益事業規制政策法及び 1988 年 NOPR は、

電力市場における参入規制を緩和・撤廃し、競争を促進したが、競争市場の形

成の程度は州によって大きな差違があり、電力価格や労働生産性の面での電力

自由化の効果は限られていたといえる。

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2)競争政策の展開

電力市場への参入規制が緩和・撤廃された後、1990 年代に入って、送配電網

へのアクセスを実現し、電力取引の自由化を促進するため以下のような政策が

実施された(図表 15)。

図表 15 アメリカ電力市場における競争政策の展開プロセス

1992 年法 1996 年命令 1999 年命令

a.送電網開放

b.IPP 育成 c.垂直分離

d.取引市場整備

多様な競争政策の展開

1992 年以降、アメリカでは本格的な競争市場形成に向けて、多様な競争政

策が展開された。1996 年の FERC 命令では以下の点が示された。

・送電網の開放と送電網へのアクセスを実現する施策

・系統運用機関設立推奨など垂直分離の推進

・電力取引市場のあり方など

FERC の託送命令 権限規定

IPP の市場への 参入障壁撤廃

実質的な託送の 義務付け

地域送電機構(RTO)構想

電力取引市場設立 カリフォルニア州 ニューイングランド地方その他

電力供給の構成要素 ・発電 ・系統運用 需給バランス調整、電圧維持など ・送電 ・配電 ・取引市場

なお IPP 等の発電事業者の販売形態は、電力会社への卸売と、最終需要家へ直接販売する小売に分けられる。

垂直分離促進 会計分離 経営分離(系統運営

の分離等) 法人分離 所有分離(発電等)

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a.送電網の開放

1992 年にエネルギー政策法(EPAct:National Energy Policy Act)が成立し、

電力業のボトルネック資源である送電網の開放条項と連邦エネルギー規制委員

会の託送命令権限強化が規定されるなど、送電網開放の方針が定められた。そ

れに基づく FERC の 1996 年命令では、送電網の所有者に対して IPP 等が実際

に送電網へアクセスすることができるように義務付けた。

①FERC の託送命令権限規定 FERC は託送が公共の利益に合致する場合は、送電網の所有者に対し

て託送を命じることができるとした。これにより託送が可能となった。ま

た、託送料金は、コストをカバーしつつ、託送を促進するような安価な料

金であるべきことを明示した。

②送電網へのオープン・アクセスの義務付け(1996 年 Order888・Order 889) ・託送の義務付け(Order888) 全ての電力会社に送電網を無差別に開放することを命令(無差別の託

送料金申請を義務付け)。同時に、電力会社が正当かつ検証可能な回収不

能費用を回収する権利を容認。 ・送電部門の情報開示を命令(Order 889)

系統所有事業者が傘下の発電事業者に与えるのと同一の情報とサービ

スを競合する事業者にも提供するよう求め、送電料金の差別化を制限し

ようとした(インターネットによる情報提供システム OASIS の活用)。

(小林(2002)、矢島(1998))

1992 年エネルギー政策法による送電網の開放 ・送電網の開放を実現させるため、FERC の託送命令権限を規定

1996 年命令による送電網へのオープン・アクセス義務付け ・同一料金のもとで無差別的に送電網にアクセスすることを可能とした

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b.IPP の参入障壁撤廃

1935 年の公益事業持株会社法(PUHCA)では、電力業者または都市ガ

ス業者の 10%以上の証券を保有する州際持株会社は証券取引委員会(SEC)

に登録することが義務付けられ、合併、証券発行、買収、資金調達、資本

構成などについて SEC の規制を受けた。このことが、IPP の参入障壁とな

っていたが、1992 年 EPAct により PUHCA が改正され、IPP を同法の適

用除外とした。なお改正 PUHCA では、電力の卸売を目的として発電する

ための施設の全てまたは一部を所有または運転する事業者を適用除外発電

事業者(EWG:exempt wholesale generators)とした(矢島(1998))。 c.垂直分離と電力業の再構築

(1996 年 Order888・Order 889、1999 年 Order 2000)

1996 年の規制ルールでは発電と送配電の会計分離を義務付ける一方、中

立的な系統運用機関の設立を推奨した。また、発電と送配電については、

多くの州で電力会社と規制当局の取引の結果として、自主的な形で発電設

備を譲渡するという方法が採用された4。

4 カリフォルニア州では、1990 年代半ば過ぎに、カリフォルニア公益事業委員会(CPUC)

が市場支配力の問題を大きな懸念材料として、PG&E 社と SCE 社に対し所有火力発電プラ

ントの少なくとも 50%以上を売却するよう要請し、両社はそれに従って火力発電所の売却

を進めた。なお現状では、発電設備を第三者に譲渡することを強制する完全分離制度を採

用した州は 2 つの州に留まっている。そのうちの一つであるニューハンプシャー州は 2001年の法改正で、発電設備の分離を認めないこととした(丸山(2003b))。この背景には、後

述する通り、電力危機が生じたカリフォルニア州で、発電施設の分離・売却が促され電圧

系統運用機関(ISO:Independent System Operator)設立推奨 ・送電網所有者とは独立した系統運用機関設立と電力プール市場活用を推 奨(Order888)。なお、地域の送電網の連携体である RTG(Regional

Transmission Groups)についても ISO と同様の方向付けを行った。 地域送電機構(RTO:Regional Transmission Organization)設立構想 (1999 年 Order2000) ・送電網を所有・管理する全ての事業者に対して RTO の設立を求めた。 電力業再編への指針(1996 年) ・カリフォルニア州などでは発電部門の分離・売却を促進。

1992 年エネルギー政策法により IPP の参入障壁を撤廃

・IPP を公益事業持株会社法(PUHCA)の適用除外とした。

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・ISO の設立 ISO の設立推奨により、アメリカではカリフォルニア等で相次いで ISO

が設立された。カリフォルニア州では 96 年 9 月の電力業再編法により ISOが設立され、電力会社は送電部門を所有したが系統運用は ISO に委託する

こととなった。 (ISO 設立例)

California ISO New York Independent System Operator ISO New England Pennsylvania-New Jersey-Maryland(PJM)Interconnection The Electric Reliability Council of Texas(ERCOT)

・RTO 構想

託送料金については、複数の電力会社の送電網にまたがって送電する場

合の託送料金をどのように決定するかが重要となるが、アメリカでは、電

力会社の保有する送電網を地域単位で集約し合理的な託送料金ルールを形

成する RTO を設立するように政策誘導している5。 1999 年の Order2000 では 2001 年 12 月までに RTO を設立することが

が示され、2001 年 7 月には、FERC が全米の送電網の運営を 4 つの RTOに統合するという判断を示したが、批判が多く RTO の設立期限は延期され

た。しかし、FERC は 2002 年 7 月に、卸電力市場の公平な運営を図るため

に、標準送電サービスと卸電力市場設計に関する規則制定案(NOPR)を

発表した。

調整の要となる火力発電所も含めて全ての火力発電所が売却され、電力危機の一因となっ

たことがあるとみられる。 5 アメリカの場合は、送電線を保有するそれぞれの電力会社に託送料金を支払うことになる。

アメリカでの託送料金は、一つの送電系統を通過するごとに約 50 銭/KWh であり、複数の

送電系統を通過する場合は、通過した送電系統数×約 50 銭/KWh の託送料金となる。個々

の託送料金は日本の 3 円/ KWh に比べて安価であるが、アメリカでは規模の小さい送電系

統が多く存在するため、遠方に託送する場合、託送料金が高額になるという問題がある(い

わゆるパンケーキ問題)(西村(2002))。このような場合、競争が制限される危険性がある

ため、RTO 等による合理的な料金設定が重要となる。なお、わが国では、複数の電力会社

の送電線にまたがって送電する場合、発電地域で課金される託送料金の他に、他エリア電

力会社の供給区域まで電気を運ぶ際に振替供給料金が課金される制度となっている。この

ことが競争を制限しているとの論議があるが、日米の発電コストや送配電の構造の差異な

どに留意し論議する必要がある(南部・西村(2002))。

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d.電力取引市場設立

ISO 設立による系統運用分離と並行して取引市場が設立され、小売託送モデ

ルによる小売自由化が導入された。電力取引市場の形態には、電力会社の発電

部門や IPP が全て取引市場を通して最終需要家と売買取引をする強制プール型

の取引形態と、相対取引する仕組みも併せ持つ任意プール型がある(図表 16)。ペンシルバニア州や北欧の Nord Pool などでは任意プール型の方式が採られた

が、1998 年にスタートしたカリフォルニア州では強制プール型が採られ、電力

会社は電力プール市場(PX)から電力を全て購入し、最終ユーザーに販売する

形となった。価格調整は PX で行われることとなった。

図表 16 電力取引モデル例

(備考) 各種資料より作成。

電力プール市場設立 -本格的な電力取引市場を設立

・カリフォルニア州 ・ニューイングランド地方 ・その他

強制プールモデル 任意プールモデル 第三者アクセスモデル

最終需要家

・電力危機発生前の カリフォルニア

・NETA 以前の イギリス

IPP 等 電力会社 発電部門

電力取引市場

最終需要家

IPP 等 電力会社 発電部門

電力取引

市場

最終需要家

・アメリカ PJM ・北欧 Nord Pool ・イギリス NETA

・ドイツ ・フランス ・日本

送・

配電 小売

相対取引(例外的)

送・

配電

相対取引

相対取引

小売

相対取引

小売

卸売

託送

電力会社 発電部門

送電部門

配電部門

IPP等

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(2)競争政策の効果

本分析では、参入規制緩和・撤廃や送電網開放、ネットワークへのオープン・ 1996 年命令が示され、系統運用の分離や本格的な電力取引市場が設立された

後、州によっては IPP 等の発電量シェアが急激に高まった。ただし、電力の自

由化や垂直分離の進展度は、依然として州による差異が大きい点に留意する必

要がある。 送電網の開放や垂直分離の促進などの経済効果について、以下では、①非電

力会社の発電量シェアの動向、②企業の労働生産性の動向、③料金の動向、④

企業の電力販売量単位当り実質電力収入(イールド)の推移、などをもとに分

析した。非電力会社の発電量シェアについては州別・発電事業者形態別の発電

量のデータをもとに分析した。また州別の非電力会社の発電量シェアの変化と

KWh 当り販売収入との関係から、電力自由化の効果の一面を把握した。企業の

労働生産性及び電力販売量単位当り実質電力収入については、カリフォルニア

州で約 36%のシェアを持つサザンカリフォルニア・エジソン社(以下 SCE 社)

6を採り上げ分析した。

6 SCE 社はカリフォルニア電力危機で経営が苦しくなった。カリフォルニア電力危機とは、

2000 年半ばから卸売価格(スポット市場)が高騰し、さらに 2001 年には電力会社の電力

調達が困難となり、大規模な停電が起こった電力危機である。経済産業省資源エネルギー

庁電力・ガス事業部(2001)はカリフォルニア電力危機の要因として、①外部環境的要因

(需要の高い伸び、厳しい環境規制等による発電所・送電線建設の遅れ、など)、②電力シ

ステムの問題点(強制プール下での半数の火力発電所の売却勧告など)、③混乱の背景とな

る事情(関係利益団体の妥協の結果として改革案が決定されたことから、変化する状況へ

の柔軟な対応力に欠けていたなど)を挙げている。

1992 年エネルギー政策法の効果 -競争促進の面で一定の効果を発揮 ・送電網の開放(卸託送制度の整備)と IPP の参入障壁撤廃により IPP の

発電量シェアは微増 ・労働生産性上昇 ・実質価格低下 ・電力販売量単位当り実質電力収入(イールド)の低下 1996 年命令の効果 -送電網へのオープン・アクセス強化、垂直分離推進 ・非電力会社の発電量シェア大幅に増大 ・労働生産性は引き続き上昇 ・1999 年にかけて実質価格の低下が顕著 ・電力販売量単位当り実質電力収入(イールド)も低下が続いた

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WA IL

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1996年

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1996 (年)

-

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80

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100

全米 カリフォルニア ペンシルバニア

1990年=100 百万メガWh

全米のIPP発電量

(右目盛)

1)IPP 等の発電量シェア

①1992 年法により新規参入は促進されたが効果はやや限定的

1992 年の FERC による託送命令権限の規定によって、全米ベースでみて

も IPP の発電量の増加がみられた。とくにペンシルバニア州などでは大幅

な増加がみられた。ただし、IPP 参入で先行したカリフォルニア州では緩

やかな増加に留まった(図表 17)。なお全体的にみると、発電量に占める

IPP のシェアの増加は緩やかなものに留まっていた。また州間の差違は大

きく、全体としてみた効果は限定されたものに留まったといえる(図表 18)。

図表 17 1990~1996 年の IPP の発電量の推移

(備考)Energy Information Administration のデータより作成。

図表 18 1990 年と 1996 年の州別にみた IPP の発電量シェアの比較

(備考)Energy Information Administration のデータより作成。

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60

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80

90

100

MD RI

CT IL PA

MT

MA

NJ

DE

ME

CA

NY

WV ID LA

VT

KY

WA

NV

NH

TX

VA HI

MS

OH

AZ

CO IN FL

MN MI

GA

OK

OR WI

IA UT

NM

NC

WY

SC M TN

AL

KS

AR

AK

ND

NE

DC

SD

1990年

1996年2001年

(%)

0

10

20

30

40

50

60

70

80

90

100

1990

1991

1992

1993

1994

1995

1996

1997

1998

1999

2000

2001

(年)

全米 カリフォルニア ペンシルバニア

(%)

1992年エネルギー法・FERCの託送命令権限

規定・IPP参入障壁撤廃

1996年命令

・卸託送強化・垂直分離推進

・ISO設立

・プール市場設立

②1996 年命令の効果 送電網の開放を義務付け、また発電の分離や系統運用の分離などを指

示した 1996 年命令の効果は大であった。1998 年以降、非電力会社の発

電量シェアは大幅に増大した(図表 19)。

図表 19 非電力会社の発電量シェアの推移

(備考)Energy Information Administration のデータより作成。

ただし、自由化を積極的に進める州とその他の州は大きく分かれてい

る。メリーランドやロードアイランド、イリノイ、ペンシルバニアなど

の州では、IPP が発電量の 80~90%強を占めるに至った(図表 20)。

図表 20 州別にみた IPP の発電量シェアの推移

(注) 2001 年時点での IPP の発電量シェアの高い州の順に並べた。

(備考)Energy Information Administration のデータより作成。

Page 14: 図表12 アメリカの電力業の事例分析の全体像なお、SCE 社の電力販売量単位当り実質電力収入(イールド)は1986~1992 年度で年度平均0.8%上昇した(図表30

47

0

10

20

30

40

50

60

70

80

90

100

MD RI

CT IL

PA

MT

MA

NJ

DE

ME

CA

NY

WV ID LA

VT

KY

WA

NV

NH TX

VA HI

MS

OH

AZ

CO IN FL

MN MI

GA

OK

OR WI

IA UT

NM

NC

WY

SC

MO

TN AL

KS

AR

AK

ND

NE

DC

SD

1990年 1996年

2001年

(%)

なお州によっては、IPP 以外の複合熱供給業者が発電において高いシ

ェアを占めている。そこで、上図と同じ州の並びで IPP を含めた非電力

会社全体の発電量シェアをみると図表 21 の通りである。

図表 21 州別にみた非電力会社の発電量シェアの推移

(注) 2001 年時点での IPP の発電量シェアの高い州の順に並べた。

(備考)Energy Information Administration のデータより作成。

以上にみられるように、一部の州では、1996 年から 2001 年の間に、

非電力会社の発電シェアが大幅に高まった。この背景には、1996 年命令

により託送が義務付けられたことがあるが、その他に、FERC の電力業

再編の方針に基づく州の公益事業委員会(PUC)による発電部門分離な

どの垂直分離の推進があったと考えられる。 こうした送電網の開放や垂直分離の経済効果を捉えるために、以下で

は非電力会社の発電量シェアの動向と KWh 当り販売収入(全用途計)と

の関連をみることとする。当然、KWh 当り販売収入には、市場における

競争要因のみならず、原料コストや技術変化などいろいろな要因が絡む

ため、送電網の開放や垂直分離の経済効果のみを分離して把握すること

は難しいが、ある程度の推察は可能である。 なお、州別にみると電力の KWh 当り販売収入は大きく異なり、また、

1990 年と 1996 年、2001 年で対比すると州による増減傾向にも大きな差

違がみられる。後にみるように、KWh 当り販売収入は 1990 年代後半は

名目、実質とも低下する傾向にあったが、カリフォルニア電力危機の後

は価格が上昇した州もみられた(図表 22)。

Page 15: 図表12 アメリカの電力業の事例分析の全体像なお、SCE 社の電力販売量単位当り実質電力収入(イールド)は1986~1992 年度で年度平均0.8%上昇した(図表30

48

0

2

4

6

8

10

12

14

16H

IC

AN

YM

AN

HV

T RI

ME

AK

CT

NJ

DC

NV

PA FL

TX

AZ

NM DE MI

LA IL

MD

OH

NC

MT

GA

SD

MS

KS

VA IA OK WI

AR

MN

MO

CO

SC

TN AL

ND

OR

NE IN

WA

UT

WV ID WY

KY

1994年

1996年

2001年

(セント/KWh)

0

2

4

6

8

10

12

14

HI

CA

NY

MA

NH

VT RI

ME

AK

CT

NJ

DC

NV

PA FL

TX

AZ

NM DE MI

LA IL

MD

OH

NC

MT

GA

SD

MS

KS

VA IA OK WI

AR

MN

MO

CO

SC

TN AL

ND

OR

NE IN

WA

UT

WV ID WY

KY

0.7

0.8

0.9

1.0

1.1

1.2

1.3

1.4

1.5

2001年KWh当り販売収入

1994年~2001年KWh当り販売収入増減率の相対比

(セント/KWh) (KWh当り販売収入増減率の相対比)

図表 22 州別にみた KWh 当り電力販売収入(全用途計)の推移

(注) 2001 年時点での各州の KWh 当り販売収入の高い順に並べ比較したもの。

(備考)Energy Information Administration のデータより作成。

以上に窺えるように、州による KWh 当り電力販売収入水準の差違やそ

の変化傾向の差違が大きい。1994 年~2001 年の各州の販売価格の増減

率と全米平均の KWh 当り販売収入の増減率の相対比をとって各州を比

較すると図表 23 の通りである。

図表 23 州別にみた KWh 当り販売収入とその増減率の相対比

(注) 2001 年時点での各州の KWh 当り販売収入の高い順に並べ比較したもの。

(備考)Energy Information Administration のデータより作成。

Page 16: 図表12 アメリカの電力業の事例分析の全体像なお、SCE 社の電力販売量単位当り実質電力収入(イールド)は1986~1992 年度で年度平均0.8%上昇した(図表30

49

(備考)Energy Information Administration のデータより作成。

0.7

0.8

0.9

1.0

1.1

1.2

1.3

1.4

1.5

0 20 40 60 80 100 (%)

非電力会社の全発電量に占める割合の増加率(1990~2001年)

KW

当り

売収

入の

対的

Montana

Massachusetts

California

Washington

Hawaii

Maine

Idaho、Nevada

Oregon、Vermont

以上でみた、州別の非電力会社の発電量シェアの増減率と州別の KWh当り販売収入の増減率の相対比をもとに、電力自由化に伴う非電力会社

の発電シェアの増加が KWh 当り販売収入に影響を及ぼしたのか否かを

みたのが図表 24 である。下図では横軸に非電力会社の発電量シェアの増

加分をとり、縦軸に 1994~2001 年の KWh 当り販売収入の増減率の対全

米平均増減率をとった。仮説としては、発電部門で自由化が促進される

と、非電力会社の新規参入等により非電力会社の発電量シェアが増加す

る一方、販売競争が強まり KWh 当り販売収入が低下することが想定され

る。この場合、図中にプロットされた各州の点の間には右下がりの関係

が描かれることになる。 実際のデータをもとに描いてみると以下の通りであり、州によるバラ

ツキが大きい。例えば、1990 年~2001 年で非電力会社の発電量シェア

が大幅に増大した州の中でも Montana、Massachusetts、Maine などで

は KWh 当り販売収入は全米平均の変化に比べて相対的に大幅に上昇し

た。電力危機が生じた California での上昇も顕著であったが、その他、

Hawaii、Washington、Idaho、Nevada、Oregon などでも全米平均の変

化に比べて相対的に大幅に上昇している。これらの州には、電力の需要

や供給面、発電設備の構成やコスト構造など、それぞれに固有の状況が

あったと推察されるが、これらの州や非電力会社の発電量シェアの変化

が極めて小さい州を除くと、緩やかながらも一定の関係があるとみるこ

とができる。

図表 24 非電力会社の発電量シェアと KWh 当り販売収入の関係

Page 17: 図表12 アメリカの電力業の事例分析の全体像なお、SCE 社の電力販売量単位当り実質電力収入(イールド)は1986~1992 年度で年度平均0.8%上昇した(図表30

50

(注) Montana、Massachusetts、Maine、California など 1994~2001 年で、

KWh 当り販売収入の伸びが全米平均を大幅に上回った州及び 1990 ~2001 年の非電力会社の発電量シェアの増加率が 2%未満の州を除く 19 州について推計した。

(備考)Energy Information Administration のデータより作成。

0.8

0.9

1.0

1.1

1.2

0 20 40 60 80 100

%非電力会社の全発電量に占める割合の増加率(1990~2001年)

KWh当り電力販売収入の相対的変化

上昇

低下

発電部門の分離や自由化の進展

Y:KWh当り電力販売収入

X:非電力会社発電量シェア増加率

Y=1.0096 -0.00109 X

  (43.28) (-2.36)

  R2=0.25

そこで、図表 24 の図中に州名を示した州や、非電力会社のシェアの変

化が 2%未満の州を除いた 19 州について、非電力会社の発電量シェアの

増加率と KWh 当り電力販売収入の相対的変化率との関係を推計してみ

た。推計結果は、図表 25 の図中に示した通りである。この推計結果から

みると、弱いながらも図中に右下がりで描いたような関係がみられるこ

とがわかった。なお、推計値と実際の値とのバラツキは大きいが、これ

は各州の需給状況や新規事業者の特質、発電設備の構成、他州との電力

取引関係など諸々の要因に因ると考えられる。電力自由化の経済効果を

的確に把握するためには、以上の点を含め州別の状況や電力危機などの

特殊事情を勘案して、より詳細な分析を行う必要がある。

図表 25 非電力会社の発電量シェアと KWh 当り電力販売収入の関係

Page 18: 図表12 アメリカの電力業の事例分析の全体像なお、SCE 社の電力販売量単位当り実質電力収入(イールド)は1986~1992 年度で年度平均0.8%上昇した(図表30

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0.0

0.2

0.4

0.6

0.8

1.0

1.2

1.4

1.6

198

0

198

1

198

2

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3

198

4

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5

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6

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7

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8

198

9

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0

199

1

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2

199

3

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4

199

5

199

6

199

7

199

8

199

9

200

0

(年度)

1980年度=1

1992年法

・FERCの託送命令 権限規定

・IPPの参入障壁撤廃

1988年NOPR

・IPPと競争入札制の 公認

1978年法

・QFの余剰電力購入

義務付け(事実上IPP が市場参入)

1996年命令

・卸託送強化・垂直分離推進

・系統運用分離

・電力プール

市場設立

2)企業の労働生産性

カリフォルニア州のSCE社のデータをもとに労働生産性の推移をみると、

1981~1992 年度の年度平均伸び率は 0.2%に留まったが、1993~2000 年

度の労働生産性の伸びは年度平均で 4.7%へ高まった(図表 26)。

図表 26 SCE 社の労働生産性の推移

(備考)1.Southern California Edison 社のアニュアル・レポートより作成。 2.労働生産性は電力販売量/従業員数より作成。

Page 19: 図表12 アメリカの電力業の事例分析の全体像なお、SCE 社の電力販売量単位当り実質電力収入(イールド)は1986~1992 年度で年度平均0.8%上昇した(図表30

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3

4

5

6

7

8

9

10

1990

1991

1992

1993

1994

1995

1996

1997

1998

1999

2000

2001 (年)

住居用 商業用

産業用 合計

セント/KWh(1996年価格ベース)

3

4

5

6

7

8

9

199

0

199

1

199

2

199

3

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4

199

5

199

6

199

7

199

8

199

9

200

0

200

1 (年)

住居用 商業用

産業用 合計

セント/KWh

3)KWh 当り電力収入と電力価格

競争市場の形成により、実質的には電力価格はおおむね低下したとみる

ことができる。ただし、用途別の KWh 当り販売収入の推移をみると、2000年以降、カリフォルニア州での電力危機による価格高騰の影響等もあり、

KWh 当り販売収入は名目のみならず、実質でも上昇に転じた点に注意する

必要がある。

図表 27 アメリカの KWh 当り販売収入の推移

①名目ベース ②実質ベース(1996 年価格ベース)

(注) 実質ベースは GDP デフレータ(1996 年=100)でデフレートした。 (備考)Energy Information Administration のデータより作成。

とくに電力自由化を積極的に進めたカリフォルニア州とペンシルバニア州で

は 1992 年~2000 年にかけて実質小売価格の低下が顕著となった(図表 28)。

カリフォルニア ペンシルバニア

図表 28 小売電力価格の推移

セント/KWh セント/KWh

(備考)Energy Information Administration の資料より引用。

Page 20: 図表12 アメリカの電力業の事例分析の全体像なお、SCE 社の電力販売量単位当り実質電力収入(イールド)は1986~1992 年度で年度平均0.8%上昇した(図表30

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0

2

4

6

8

10

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14

198

0

198

1

198

2

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3

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4

198

5

198

6

198

7

198

8

198

9

199

0

199

1

199

2

199

3

199

4

199

5

199

6

199

7

199

8

199

9

200

0

200

1

(年)

セント/KWh

1996年価格

名目価格

1992年法

・FERCの託送命令

権限規定

・IPPの参入障壁撤廃

1988年NOPR

・IPPと競争入札制の

公認

1978年法

・QFの余剰電力購入

義務付け(事実上

IPPが市場参入)

1996年命令

・卸託送強化・垂直分離推進

・系統運用分離

・電力プール市場

設立

なお、電力自由化を積極的に進めたカリフォルニア州の住居用電力価格の

長期の推移をみると以下の通りである。名目ベースでは 1980~1997 年にか

けて上昇基調にあったが、1998~1999 年には低下した。しかしその後は上

昇し、2001 年では 1980 年以降もっとも高い水準となった。実質ベースでみ

ると、1980~1992 年にかけては上昇基調にあったが、その後低下傾向とな

り、1998~1999 年には低下幅が拡大した。しかし、2000~2001 年では反転

して実質ベースでも価格上昇がみられた(図表 29)。

図表 29 カリフォルニア州の住居用電力価格の推移

(備考)1.California Energy Commission ホームページ資料より作成。

2.電力価格は、PG&E, San Diego Gas & Electric, Southern California Edison, SMUD, Los Angeles Department of Water & Power, BGP(Glendale, Burbank, Pasadena)のそれぞれの料金

を加重平均した。 3.実質化には GDP 統計の消費デフレータを用いた。

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0.0

0.2

0.4

0.6

0.8

1.0

1.2

198

5

198

6

198

7

198

8

198

9

199

0

199

1

199

2

199

3

199

4

199

5

199

6

199

7

199

8

199

9

200

0

1985年度=1

年度

1992年法

・FERCの託送命令 権限規定

・IPPの参入障壁撤廃

1988年NOPR

・IPPと競争入札制の

公認

1978年法

・QFの余剰電力購入 義務付け(事実上

IPPが市場参入)

1996年命令・卸託送強化

・垂直分離推進

・系統運用分離

・電力プール市場

設立

4)電力販売量単位当り実質電力収入(イールド)

SCE 社の電力販売量単位当り実質電力収入(イールド)の推移をみると、

1986~1992 年度で年度平均 0.8%上昇した後、1993~2000 年度では年度

平均 3.1%低下した(図表 30)。

図表 30 SCE 社の電力販売量単位当り実質電力収入の推移

以上にみられるように、1992 年以降、労働生産性の上昇や KWh 当り販

売収入の低下などが明らかとなった。これは、FERC の託送命令権限が規

定されたことにより卸託送制度が整備された一方、系統運用の分離や発電

部門と送配電部門の会計分離などの垂直分離が実施され、また本格的な電

力取引市場設立により電力取引機会が増大した結果とみられる。こうした

一連の競争政策により、ボトルネック資源である送電網の開放が進み競争

が促進されたとみることができる。 FERC のアニュアル・レポートによれば、1996 年命令による送電網への

オープン・アクセスと電力業の構造改革によって、少なくとも年 30 億ドル

の消費者利益がもたらされるとしている(FERC(1997))。

(備考)1.Southern California Edison 社のアニュアル・レポートより作成。 2.イールドは実質電力収入/電力販売量より作成。 3.実質電力収入には GDP デフレータでデフレートした。

Page 22: 図表12 アメリカの電力業の事例分析の全体像なお、SCE 社の電力販売量単位当り実質電力収入(イールド)は1986~1992 年度で年度平均0.8%上昇した(図表30

55

(3)電力業における競争政策の課題:カリフォルニア電力危機の教訓

電力自由化を先進的に進めたカリフォルニアで、2000 年後半に電力危機が生

じ、有力企業が経営破綻に追い込まれる事態が生じた。その原因をみると、制

度自体の問題点の他に、運用上の問題点も浮び上がっている。わが国における

今後の自由化推進上の参考となるのは以下の点である7。 ①電力取引市場の需給調整機能の限界性 電力市場では、需要が供給を上回ると同時に供給力の限界が顕在化する

と、電力の市場特性から価格弾力性は急激に低下しゼロに近づく。その結

果、価格が大幅に高騰する危険性がある。したがって、取引市場での需給

調整と価格決定に重点を置き過ぎると、需給逼迫時に価格が暴騰し、需給

調整が困難となる事態が生じ得ることがカリフォルニアの事例から明らか

になった8。 なおカリフォルニア州は、主要電力会社に取引市場からの購入を義務付

け、事実上相対取引を阻止したとの指摘がある(電力中央研究所・経済社

会研究所、服部徹)。他方、同じアメリカのペンシルバニア州では、相対取

7 カリフォルニアでの電力プール市場導入に当たっては、独立送電機関とプール市場を併せ

持った市場とすべきか否かをめぐって電力会社間や公益事業委員会で論議があった。これ

は相対取引とスポット取引のいずれを重視するかという問題であったが、カリフォルニア

の公益事業委員会は 1995 年 5 月に卸売電力プール案を採択した。しかし、その後の検討過

程で小売自由化の支持も多く、1995 年 12 月に 1998 年 1 月からの電力プール市場導入とと

もに、小売自由化も段階的に導入する最終案が決定された(小林(2002))。 8 FERC の 2000 年のアニュアル・レポートでは、San Diego Gas&Electric Company (SDG&E)のデータによれば、カリフォルニアの電力卸価格は、1999 年 6 月~7 月初旬

では$150/MWh を超えることはまれであったが、2000 年の同時期には、$250/MWh を超

えることが 167 時間、$500/MWh を超えることが 59 時間となったことが示されている

(FERC(2000))。

電力取引市場の需給調整機能の限界性 ・供給不足下での電力需要の価格弾力性低下と価格の高騰 需給調整問題 ・需給判断の甘さ 競争政策のあり方 ・電力設備面での供給力計画に関する責任の所在の曖昧化 ・ISO の調整機能の弱さ 小売価格を 1996 年水準に固定したレート・フリーズの硬直性

Page 23: 図表12 アメリカの電力業の事例分析の全体像なお、SCE 社の電力販売量単位当り実質電力収入(イールド)は1986~1992 年度で年度平均0.8%上昇した(図表30

56

引が全取引の 90%を占め、取引市場での取引は 10%程度に留まるとされて

いる。取引市場はあくまで補完的な位置を占めるにすぎず、中心は相対取

引となっている(小林(2002))。 →取引市場に過度に依存するのではなく、相対取引や先渡など取引形態

の多様化を考慮する必要がある9。

②需給判断と価格変動 予想を上回る需要増がみられたが、既存設備の供給余力を過大に評価し

ていたため需給判断に誤りが生じた。また、需要の 1/4 程度を州外からの調

達に期待していたが、需給が逼迫した 2000 年後半は、カリフォルニアでの

電力供給源であったカリフォルニア北西部での降雨量が少なく、カリフォ

ルニアへの電力供給は制約された。 →需給判断には不確定性が伴うため、供給面での安定化に十分配慮す

る必要がある。

③電力供給責任と競争政策のあり方 電力会社は発電部門の分離・売却を促されており、発電能力を高めるイ

ンセンティブに欠けていた。また、ISO にも送電能力増強のインセンティ

ブは働かず、送電能力を高めることに関する責任者が不在となった。以上

にみられるように、電力供給責任が曖昧化したことが供給不足の大きな要

因となった。 実際に、FERC の 2000 年のアニュアル・レポートによれば、カリフォル

ニアでの電力需要は 1996 年~1999 年で 5,522MW 増加したが、カリフォ

ルニア州内での新規の発電設備の増加は 672MW に留まった。

9 強制プール市場については、イギリスの電力プールシステムの経験からも問題点が明かに

なっている。イギリスのプールシステムは北欧の電力プールシステムと並び、代表的なシ

ステムと見なされ世界主要国に大きな影響を与えた。実際に、競争市場が整備されたこと

で燃料費等発電会社のインプット・コストは削減されたとされている。しかしながらプー

ル価格の低下は期待されたほどではなかった。この要因としては、イギリスのプールシス

テムが供給側を優先したシステムであり、需要側の多様化が進んでいなかったこと、発電

プレイヤーが限られ談合や供給側での各社のコスト情報等の共有などがみられたこと、な

どから十分な競争が行われなかったことが指摘されている。イギリスの強制プール制は

2001 年 3 月には廃止されて、相対取引や私設の電力取引所を中心に取引が行われる NETA(New Electric Trading Arrangement)に移行した。従来のプールシステムでは、電力取

引はオークションと最終需給調整(バランシング)で行われていたが、新しいシステムで

は、取引はスポット、短期相対と先渡、長期相対契約及び自社調達で構成されるようにな

った。

Page 24: 図表12 アメリカの電力業の事例分析の全体像なお、SCE 社の電力販売量単位当り実質電力収入(イールド)は1986~1992 年度で年度平均0.8%上昇した(図表30

57

なお、発電の安定化のためには電圧調整の要となる発電所があるが、発

電部門の分離・売却を促されたカリフォルニアの電力会社は要となる火力

発電所も含めて全ての火力発電所を売却したことが需給調整上問題となっ

たことが指摘されている。 さらに、発電設備に対する環境規制が厳しいものとなったことも供給

を制約する一因となったとされている。 →垂直分離を進めるような場合、供給サイドでの設備増強へのインセン

ティブをどのように与えるか、安定的な供給体制をどのように確保す

るかが重要な課題となる。

・ISO の調整機能の弱さ-ISO の責任者は利害対立グループの代表者によ

り構成され、調整が困難となった。 →独立の系統運用機関を設置する場合、責任体制と利害調整をどのよ

うにするかが重要となる。

④小売価格の固定化 移行措置として、小売価格を 1996 年価格に固定し、卸売価格との差額を

ストランディットコスト10回収に充当する計画であったが、卸売価格の変化

が大きくコスト回収が困難となった。 →状況の変化に対応した柔軟な価格決定の仕組みを構築する必要がある。

10 原子力発電によってもたらされた損失と、QF という高コストの参入企業の電力買い入れ

義務から生じた損失。

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(4)アメリカ電力業の自由化の示唆

アメリカの電力業におけるボトルネック資源をめぐる自由化の推移と効果か

ら得られる示唆は以下の通りである。

アメリカの電力業では、参入規制を緩和・撤廃した後、送電網の開放を段

階的に進め、競争促進の面で一定の効果を上げたとみられるが、参入規制の

緩和・撤廃や独立規制機関(FERC)の託送命令権限規定による託送制度の整

備のみでは競争促進の効果は限定的だった。競争市場形成の面で効果が大で

あったのは、実際に送電網へのアクセスを実現させる託送の義務付けや送電

部門の情報開示、託送料金の均一化などの施策の他、系統運用機関の設立、

電力取引市場の設立、会計分離、発電部門の分離など複合的な施策の実施で

あったとみられる。 わが国の電力業においても、参入規制の緩和・撤廃や託送制度の整備は図

られてきたが、実態としては十分な競争が行われるには至っていない。総合

規制改革会議(2002)では、会計分離の徹底や託送の一層の整備を図る必要

があるとしており、総合資源エネルギー調査会電気事業分科会は、小売自由

化の段階的推進、全国単一市場化を目指した託送料金の設定、電力取引所の

設立、送電部門の規則の作成と監視を行う中立機関の設立等を答申した(経

済産業省(2003))。これにより、これまで進められてきた部分自由化の方針

のもとで電力自由化をさらに推進する方向が示されたが、卸売や小売の取引

条件のあり方についても、競争制限的な行為に結びつくことがないよう十分

に配慮する必要がある。 なお、今回の電気事業分科会答申では系統運用の分離(ISO や RTO 設立)

や発電と送配電の分離などの垂直分離は見送られた形となったが、安定的な

電力供給に留意しつつ系統運用の中立性確保と適切な託送料金設定に十分配

慮する必要がある。なお、将来系統運用機関を設立する場合は、将来にわた

って電力供給力を確保する上での責任の所在を明確にする必要がある。また、

電力取引市場を設立する場合は、カリフォルニアやイギリスでの強制プール

市場の失敗例を踏まえ、相対取引や一定の予備電力を確保し安定供給を可能

とする取引形態を検討する必要がある。

以上のように、わが国の電力業において公平で公正な競争環境を実現して

いくためには、アメリカやヨーロッパでの経験も参考として、競争環境を確

保するための一層の競争政策を講じていく必要がある。

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3.ドイツ電力・都市ガス業

(1)ドイツの電力・都市ガス業における競争政策の経緯

1)EU 及びドイツにおける参入規制の緩和・撤廃の推進

EU では「域内エネルギー単一市場」を目指し、加盟各国に対して電力・ 都市ガス業の規制改革を指令 ・EU 電力指令(96/92/EC,1996 年) ・EU ガス指令(98/30/EC,1998 年)

ドイツでは 1998 年以降電力・都市ガス業の規制改革を推進 ・かつては実態的には地域独占を形成

・EU は、ドイツでの地域独占が自由な取引秩序を阻害するものと指摘

・1998 年の新エネルギー経済法で電力・都市ガス業の自由化を推進し、

制度上は参入の自由化を実現

・1999 年競争制限禁止法制定

EU 域内では、ネットワーク事業の競争政策の面ではイギリスが先行した。

EU 委員会は 1987 年に「域内エネルギー単一市場構想」を発表し、EU 統一市

場の形成や国際競争力確保のためのコスト低下の観点から、電力・都市ガス業

の規制改革と自由化を目指した。ドイツの電力・都市ガス業では地域独占が形

成されていたが、EU 指令に沿う形で規制改革と自由化が進められた。

図表 31 EUとドイツにおける電力・都市ガス業の競争政策の推移

イギリスの電力・都市ガス業の規制改革 電力 1983 年~ 都市ガス 1982 年~

EU の電力・都市ガス業の規制改革の方向付け 域内エネルギー単一市場構想 1987 年

具体的改革指令 EU 電力指令 1996 年 EU ガス指令 1998 年

ドイツの電力・都市ガス業の規制改革 新エネルギー経済法

1998 年 競争制限禁止法

1999 年

民営化 卸・小売託送義務付け 会計分離、所有分離 1986 年以降順次実施

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イギリスでは電力・都市ガス業ともに、民営化を進める一方で卸託送や小売

託送制度が整備されたが、電力業では発電、送電、配電・供給が所有分離され

るなど垂直分離が行われた11。 EU では、1996 年に EU 電力指令が発令され、都市ガス業については 1998

年に EU ガス指令が発令された。これらの指令では、卸・小売託送制度の整備

や会計分離が示されたことが注目される。EU 加盟国は、電力業については 1999年 2 月までに、都市ガス業については 2000 年 8 月までに、国内法を整備するこ

とが義務付けられた。

他方、ドイツでは、電力・都市ガス業は 1935 年制定のエネルギー経済法12と

1957 年制定の競争制限禁止法13で規制されていた。いずれの法律でも参入規制

は定められていなかったが、自治体と事業者間で供給区域設定契約14と公道使用

契約15が結ばれて、実態的には地域独占が形成されていた。 電力業の現況についてみると、発・送・配電分野には多様な企業が参入して

おり、総数では 1,000 以上の企業が存在しているといわれる。全国規模で発送

電を行っているのは大手 9 社であるが、その大半は国や地域自治体と民間から

11 イギリスの電力業は国有であったが、1980 年代に入って、サッチャー政権によって民営化が進められた。1983 年エネルギー法では、発電分野に IPP 等の新規事業者の参入を認めたが、電力購入者である中央発電局(CEGB)の設備予備率が高く、提示する購買価格が低かったこと、託送制度が未整備であり CEGB が事実上送電線をコントロールしていたこと、などが原因で新規参入は進まなかった。そこで、1989 年には、発電、送電、配電・供給を所有分離し民営化するとともに、送電部門で1社独占となったナショナル・グリッド社に卸託送を義務付け、民営化した地域配電会社には小売託送を義務付けた。 都市ガス業では British Gas(以下 BG)の独占状態であったが、1982 年に石油・ガス法

が制定されて参入規制が緩和され、年間使用 200 万サーム超(1 サーム=29KWh)の大口需要家を対象に供給が自由化された。また、1986 年には BG の民営化と、25,000 サーム超の大口需要家に対する自由化が行われた。しかし、託送制度が未整備であったため、新規参入は進まず、BG が引き続き 100%近くのシェアを維持していた。こうした点を踏まえ、1989 年に、輸送料金表の具体例の公表及び大幅値下げなどの託送条件が整備された。この結果、1992 年末までに 9 社が都市ガス業に参入するなど新規事業者が現れ始め、1990 年ごろから BG のシェアが低下した。1995 年には、ガス事業法が改正され、供給事業者、配給事業者、公共ガス輸送事業者にライセンス制が導入され、卸・小売託送制度が可能となった。なお、現在は、EU ガス指令で言うところの規制ベースアクセス(Regulated Access)が採用されている。しかしながら、BG による輸送部門と他部門との内部補助が問題とされ、1994 年には BG の会計分離が実施された。 12 エネルギーの合理的な利用の推進という観点から、電力・都市ガス業に関して規定をした法律である(日本エネルギー経済研究所(2001))。 13 いわゆる独占禁止法である。 14 Demarcation Agreement といい、主に事業者間で締結され、特定地域での事業者の独占

を実質的に認めるもので、事業者同士が互いに相手の供給区域へは進入しないことを約束

する契約である。 15 Concession Agreement といい、地方配給事業者と地方自治体との間で締結され、地方配給事業者が地方自治体に特許料(Concession Fee)を支払う代わりに、地方配給事業者が地方自治体から特定地域における導管敷設や需要家への供給に関する独占権を付与される契約である。

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なる公私混合企業である。また、地域レベルでは、約 50 の企業が全国規模企業

と自治体規模の企業の仲介をしている。自治体規模では約 1,000 の企業が配電

を行っているが、その半数は市営であり、その他の民営企業についても市が出

資している企業がある。このように、ドイツでは公私混合的な事業形態が多い

構造となっており、地域独占的な事業特性の背景ともなってきた。

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2)競争政策の展開

ドイツの地域独占形成の要因となったのは、自治体と電力・都市ガス業者と

の間で結ばれた供給区域設定契約や公道使用契約であった。これに対して、域

内エネルギー単一市場を目指す EU は、自由な取引秩序を阻害するものである

と指摘した(日本エネルギー経済研究所(2001))。また、国内産業界からは、

価格低減が要請されていた。このため、1998 年にエネルギー経済法を改正した

新エネルギー経済法が制定され、また 1999 年には競争制限禁止法が制定された。

こうして、供給区域設定契約と公道使用契約の新規締結は禁止されて、電力・

都市ガス業への新規参入が促進された。 なお、1998 年エネルギー経済法は以下のような点で競争を促進するものであ

った(江藤(2001))。

①参入規制と地域分割カルテルの廃止

供給区域設定契約と公道使用契約の新規締結が禁止されて、事実上地

域独占であった電力・都市ガス業への新規参入が促進された。

②送電網の開放

託送制度の整備は不十分であったものの16、制度上はいかなる事業者も

あらゆる需要家に供給が可能となった。送電網へのアクセスを拒否する

企業は、その理由の立証責任を負わされた。 ③単一取引先購入慣行も 2005 年までに禁止 正当な理由がある場合は、州政府等に単一取引先購入慣行を認めたが、

存続期限は 2005 年までとした。

④反競争的なアクセス制限に対しては罰金

経済団体連合と大手電力会社団体の交渉で合意された第三者アクセス

も、連邦カルテル庁が反競争的とみなせば罰金が課される。

16 新エネルギー経済法では、電力ネットワークへのアクセス請求権が認められているもの

の、同法を所管している連邦経済省はアクセスを拒否している電力会社に対して託送を命

じる権限を有していない。また、都市ガス業に関しては、かかる請求権は認められていな

い(細田(1999))。

地域独占の禁止

・地域分割カルテルの廃止 送電網の開放

・不十分ながら託送制度を整備

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2000

(年度)

電力

ガス

1990年度=1

1998年新エネルギー経済法

(2)競争政策の効果

電力業及び都市ガス業の労働生産性を、ドイツにおける最大の電力会社であ

る RWE Energie AG 社(以下 RWE 社とする)とドイツにおける最大のガス会

社である Rurhgas 社を例にとってみることにする。 まず、ドイツ電力業における有力企業である RWE 社の労働生産性の推移をみ

ると、1991~1998 年度の年度平均伸び率は 4.0%であったが、1998 年に供給区

域設定契約と公道使用契約の新規締結が禁止された後の 1999~2000 年度の年

度平均伸び率は 15.2%に上昇した。都市ガス業についても同様に、有力企業で

ある Rurhgas 社の労働生産性の推移をみると、1991~1998 年度の年度平均伸

び率は 1.3%に留まっていたが、電力業と同じく 1998 年に供給区域設定契約と

公道使用契約の新規締結が禁止された後は労働生産性が高まった。1999~2000年度の年度平均伸び率は 4.0%に上昇したのである(図表 32)。

図表 32 ドイツ電力・ガス会社の労働生産性の推移

(備考)1.電力は RWE 社、都市ガスは Rurhgas 社のアニュアル・レポートより作成。

2.電力会社の労働生産性は電力販売量/従業員数、都市ガス会社の労働生産性 はガス販売量/従業員数。

1998 年の新エネルギー経済法制定前の労働生産性は低迷

1991~1998 年度の年度平均-電力業は 4.0%、都市ガス業は 1.3%の伸び

新エネルギー経済法の効果

新規参入増加 RWE Energie AG 社のシェア低下 労働生産性の上昇 1999~2000 年度の年度平均で電力業は 15.2%、都市ガ

ス業は 4.0%の伸び 料金低下 1999~2000 年で年平均 9.9%低下

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2000 (年)

1991年=1

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5

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25

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1997

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2000 (年度)

(%)

電力業について RWE 社の発電電力量のシェアの推移をみると、1998 年度で

は 19.6%であったが、2000 年度には 16.1%まで低下した(図表 33)。

図表 33 RWE 社のシェアの推移

電気料金は、1992~1998 年では年平均 0.4%の低下に留まっていたのに対し

て、1999~2000 年には年平均 9.9%の大幅な低下となった(図表 34)。

図表 34 ドイツの電気料金の推移

こうした料金低下もあって、販売量単位当り実質収入(イールド)は、1991

~1998 年度では年度平均 3.6%の低下に留まっていたのに対して、1999~2000年度では年度平均で 16.0%の低下と大幅に低下した(図表 35)。

(備考)1.RWE 社アニュアル・レポート、OECD “Energy Balances of OECD Countries”より作成。 2.シェアは RWE 社の発電電力量/ドイツ国内総発電電力量。

(備考)Dresdner Kleinwort Wasserstein(2002) “German utilities”より作成。

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2000 (年度)

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2000

(年度)

1990年度=1

図表 35 RWE 社の販売量単位当り実質収入(イールド)の推移

他方、都市ガス業について Rurhgas 社の販売量単位当り実質収入(イールド)

の推移をみると図表 36 の通りである。2000 年度は原材料である天燃ガスの価

格が高騰しイールドが急上昇するといった特殊要因があり、また 1997 年度にも

若干のイールドの上昇がみられたが、1999 年度は前年度比 5.4%の低下となっ

ており 1998 年の新エネルギー経済法制定の影響が表れたものと推察される。こ

の点については、ガス消費者物価指数17の推移からも推察される。すなわち、ガ

ス消費者物価指数は 1997 年~1998 年では年平均 1.9%上昇したのに対して、

1999 年は前年比 2.1%低下したのである。

図表 36 Rurhgas 社の販売量単位当り実質収入(イールド)の推移

17 HICP(Harmonised Index of Consumer Price)

(備考)1.RWE 社のアニュアル・レポートより作成。 2.イールドは実質化電力収入/電力販売量。実質化には GDP デフレータを用いた。

(備考)1.Rurhgas 社のアニュアル・レポートより作成。 2.イールドは実質化ガス販売収入/ガス販売量より作成。実質化には

GDP デフレータを用いた。 3.2000 年度にイールドが急上昇しているのは、原材料である天然ガス

の輸入価格が 1999 年度と比較して約 75%と大きく上昇したため。

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4.まとめ

アメリカの航空業及び電力業、ドイツの電力・都市ガス業などの規制改革の

事例から明らかなように、参入規制が緩和・撤廃され、また新規事業者が既存

事業者が保有する送電網や導管網へアクセスできる仕組みが整えられても、実

際に送電網や導管網へ自由にアクセスできたり、既存事業者との公正な競争環

境が確保されなければ、実質的には競争が生じないことがあり得る。とくに、

ネットワーク事業においてはボトルネック資源の運営が差別的になったり、非

競争部門から競争部門への内部補助が発生しコスト面から競争が差別的になる

危険性がある。

こうしたネットワーク事業に固有の特性に起因する競争差別的な問題に対し

て、アメリカやヨーロッパでは、ボトルネック資源の開放に関わる様々な競争

政策が採られてきた。大きくは、①新規参入を促進する施策や競争を促進し競

争市場を形成する施策により公平で公正な取引環境を確保する競争政策と、②

会計分離や経営分離、所有分離など垂直統合された事業を分離する構造規制に

基づく競争政策に分けられる。

新規参入を促進する競争政策としては、航空業では、希少資源であるスロッ

トについて既配分スロットについては利用実績を評価して再配分する一方、新

規事業者に一定の配分を行った配分方式が効果を発揮したことがわかった18。

また、アメリカの電力業についてみると、FERC の卸託送命令権限が規定さ

れ、また IPP の市場への参入障壁撤廃が撤廃された 1992 年以降、料金の低下

及び KWh 当り実質販売収入の低下や電力会社の労働生産性上昇がみられたこ

とがわかった。同様に、ドイツの電力業及び都市ガス業についても、送電網や

導管網の開放を契機に、料金が低下し、労働生産性が向上したことがわかった。

ただし、アメリカの電力業における非電力会社の発電量シェアの推移からみる

と、送電網の開放や新規事業者の参入規制撤廃のみでは競争市場の形成は十分

ではなかったことも明らかとなった。競争市場の形成が一段と促進されたのは、

送電網へのオープン・アクセスの義務付けや、ISO 設立推奨などの垂直分離推

進19、電力取引市場設立、などの方針が明示された 1996 年命令以降である。州

別のデータでみると、こうした一連の競争政策は電力料金の低下面で一定の効

果を発揮したことが推察された。

18 希少資源の配分によるボトルネック制約の緩和策に関しては、電気通信分野での希少資

源である周波数の配分に当たって、アメリカやヨーロッパでオークション方式が導入され

ていることも参考となる。詳しくは内閣府(2001)参照。 19 イギリスの電力・都市ガス業では、所有分離や会計分離が行われてきたが、EU では加

盟国に対して、電力・都市ガス業とも最低限会計分離を実施することを要求している。

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Ⅲ.独立規制機関の実態と課題

ボトルネック資源を開放し、実際にボトルネック資源へ自由にアクセスする

ことを実現する体制を整備しても、ボトルネック資源の運用次第では競争が制

限される危険性がある。結果として公平で公正な競争が実現するためには、ボ

トルネック資源の利用状況や競争状況を常に監視し、ボトルネック資源の利用

をめぐって当事者間で紛争が生じた場合にはその調整に当たる規制機関の役割

及び体制の強化が重要となる。

この点に関して、アメリカやイギリスをはじめとするヨーロッパでは、多く

のネットワーク事業分野で産業政策部門から独立した規制機関が設置されてい

る。以下では、電気通信分野を中心に、アメリカやヨーロッパにおける独立規

制機関の役割や機能について検討し、今後わが国における独立規制機関のあり

方を検討する上での参考とすることとする。

図表 37 独立の規制機関の役割

独立規制機関

市場での競争状況

構造規制(垂直分離)

会計分離、経営分離、

所有分離など

市場への参入・退出規制

市場での競争と成果

・マーケットシェア ・価格 ・生産性など

・市場への事業者参入・退出

・ ボトルネック資源への実際

のアクセス状況 ・ サービス供給と競争の実態 -需給調整 -価格設定など

行為規制 新規参入の保障 公正な競争確保 (ネットワークの中立性、内部補助排除)

必要に応じてル|ル改定

競争ルール設定

産業政策当局

市場の監視 紛争処理

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1.アメリカ、ヨーロッパにおける独立規制機関の設置状況

(1)アメリカ、イギリスにおける独立規制機関の設置状況

ネットワーク事業分野において競争を促進・維持するためには、ボトルネッ

ク資源の公平な利用をはじめとした競争状況を監視する規制機関の役割及び体

制の強化が重要であるが、産業政策を担当する部門と規制・監視部門が同一の

組織に属している場合には、両部門が利益相反の関係に立ち、適切な規制・監

視が阻害される危険性がある。したがって、政策を担当する部門から独立した

中立的な規制機関が、競争ルールの策定・執行・監視、紛争の裁定などを行う

ことが必要である。その点、OECD(1997)も、規制機関が政策コントロール

から独立することによって、直接的な政治介入や中立性・透明性の欠如を取り

除くことができるとしている。

実際、アメリカ、イギリスでは、電気通信業、電力業、都市ガス業、航空業

といったネットワーク事業分野については多くの場合、独立規制機関を設置し

ている(図表 38)。

図表 38 アメリカ・イギリスの独立規制機関

アメリカ イギリス

電気通信業 Federal Communications Commission (連邦通信委員会)

Office of Telecommunications (電気通信庁)

電力業 Federal Energy Regulation Commission (連邦エネルギー規制委員会)

Gas and Electricity Markets Authority (ガス・電力市場委員会)

都市ガス業 Federal Energy Regulation Commission (連邦エネルギー規制委員会)

Gas and Electricity Markets Authority (ガス・電力市場委員会)

航空業 なし Civil Aviation Authority

(航空委員会)

アメリカ、イギリスでは、多くのネットワーク事業分野で独立規制機関が設

置されている。

アメリカ イギリス フランス ドイツ

電気通信業 FCC OFTEL ART RegTP 電力・ガス業 FERC GEMA CRE -

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(2)電気通信業における政策当局と独立規制機関の関係

アメリカやヨーロッパの電気通信業における独立規制機関についてみると、

図表 39 の通りである。①事業免許付与、②接続規制、③周波数配分、④電話番

号配分、⑤価格規制、といった規制権限についての分担状況は図表 40 の通りで

ある。

図表 39 電気通信業における諸外国の政策当局と独立規制機関

国 政策当局 独立規制機関

フランス

Ministère de l’Economie, des finances et de l’Industrie(経済・財政・産業省)

L’Autorité de Régulation des Télécommunications (ART) (電気通信規制庁)

ドイツ

Federal Ministry of Economics and Technology(連邦経済技術省)

Regulatory Authority for Telecommunications and Posts(RegTP)(電気通信郵便規制庁)

日本 総務省 電気通信事業紛争処理委員会(総務省内)

イギリス Department of Trade and Industry(貿

易産業省) Office of Telecommunications (OFTEL)(電気通信庁)

アメリカ

Federal Communications Commission (FCC) and National Telecommunications and Information Administration (NTIA) of the Department of Commerce(商務省情報

通信庁)

FCC(連邦通信委員会)

図表 40 電気通信業における政策当局と独立規制機関との規制権限の分担

国 事業免許付与 接続規制 周波数配分 電話番号配分 価格規制

アメリカ 独立規制機関 独立規制機関 政策当局 独立規制機関 独立規制機関

イギリス 政策当局 独立規制機関 ( 注 ) 独立規制

機関

独立規制機関 独立規制機関

ドイツ 独立規制機関 独立規制機関 政策当局及び

独立規制機関

独立規制機関 独立規制機関

フランス 政策当局 独立規制機関 独立規制機関 独立規制機関 政策当局

日本 政策当局 政策当局 政策当局 政策当局 政策当局

(備考)1.OECD(1999)などより作成。 2.日本においては、政策当局から構造的に分離した独立規制機関は存在しないが、総務省内

に紛争の解決を目的として設立された電気通信事業紛争処理委員会が一部独立した斡

旋・仲裁権限を有することからここでは独立規制機関として取り上げることにする。 3.アメリカは連邦レベルの情報。

(注) ここでの独立規制機関は OFTEL ではなく、Radio Authority である。Radio Authority とは、

全ての商業無線サービスを管理・規制する機関である。 (備考)1.OECD(1999)などより作成。 2.アメリカは連邦レベルの情報。 3.アメリカの州レベルの周波数配分については独立規制機関が権限を保持している。 4.イギリスは事業免許の内容変更については独立規制機関が権限を保持している。

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2.電気通信業における独立規制機関の事例

(1)独立規制機関の権限

電気通信分野における独立規制機関の権限についてみると、事業免許付与、

接続規制、周波数配分、電話番号配分、価格規制などといった個々の規制権限

のあり方は、それぞれの国や機関によって若干異なる面がある。

事業免許付与の権限については、多くの OECD 諸国では、独立規制機関に与

えている。実際、アメリカとドイツでは独立規制機関が権限を保有している。

イギリスでは事業免許の付与については政策当局が行う一方、内容変更は独立

規制機関が行っている。他方、わが国やフランスのように、依然として政策当

局が事業免許付与の権限を保有している国もある。

接続規制の権限については、①接続に関する争いを解決する権限、②市場支

配力のある事業者が要求する接続料金の認可権限、が挙げられるが、両者とも

殆どの OECD 諸国で独立規制機関の権限とされている。実際、アメリカ、イギ

リス、フランス、ドイツの主要国では独立規制機関が権限を保持している。た

だし、わが国では政策当局が権限を保持している。

周波数配分の権限については、フランスでは独立規制機関が権限を保持し、

ドイツでは政策当局と独立規制機関が双方で権限を分担している。また、イギ

リスでは、政策当局から独立した全ての商業無線サービスを管理・規制する機

関(Radio Authority)によって、周波数配分が実施されている。しかしながら、

アメリカ及びわが国では政策当局が権限を保持している。なお、OECD は競争

的で中立的な周波数配分が重要だとしているが、その配分は独立規制機関によ

って行われた方が効率的になる可能性があるとしている(OECD(1999))。

電話番号配分の権限は、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツなど殆どの

OECD 諸国では独立規制機関が権限を保持しているが、わが国では政策当局が

権限を保持している。

価格規制の権限は、アメリカ、イギリス、ドイツでは独立規制機関が権限を

保持しているが、わが国とフランスでは政策当局が権限を保持している。

このように、規制権限を政策当局と独立規制機関でどのように分担するかは

各国で大きく異なっている。このことは、政策機能と規制機能を分離する明確

な基準がないことが原因の一部であると考えられる。さらに、独立規制機関に

「産業監視役」としての十分な機能を与えるには、独立規制機関に十分な規制

権限を付与することが必要である(OECD(1999))。

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(2)電気通信業における独立規制機関の行政構造と独立性20

独立規制機関の人事、報告義務、決定権限、財源等といった組織としてのあ

り方と独立性の程度は各国で大きく異なっている。独立規制機関の独立性を確

保するには、①独立規制機関のトップの任命が立法機関の承認のもとに政府の

トップ(大統領、首相)によってなされること、②独立規制機関の報告は当該

分野の政策決定に直接関わらない機関に対してなされるべきこと、③独立規制

機関の決定は裁判所を除いては覆すことができないこと、④独立規制機関の財

源が政府予算から独立していること、が必要であるとされている(OECD(1999))。具体的には、以下のとおりである(図表 41)。

図表 41 電気通信業における独立規制機関の人事、報告義務、決定権限等

国 トップの任命者及び任期報告の

対象

決定を覆すことが

できる機関

(裁判所を除く)

財源

アメリカ 大統領(上院による承認が必要)、任期は 5 年

議会 なし 各種手数料と政府歳出

イギリス

貿易産業省大臣、任期は5 年

政策当局 独占合併委員会(The Monopolies and Mergers Commission)

各種手数料と政府歳出

ドイツ 大統領、任期は 5 年 議会(2 年ごと

に報告) なし 各種手数料と政

府歳出

フランス

大統領(執行委員会メンバーは大統領、上院、下院により任命される)、任期は6 年

政 府 と 議 会(年次報告)

なし 政府歳出

日本

総務大臣(委員長は委員の互選により選任。委員の任命には両議院の同意が必要)、任期は 3 年

総務大臣(年次報告)

なし (ただし、協議命令及び細目裁定については総務大臣の権限)

政 府 歳 出 ( 総 務省予算)

20 本節では、OECD(1999)を参考にした。

(備考)1.OECD(1999)などより作成。 2.アメリカは連邦レベルの情報。 3.日本の協議命令制度とは、電気通信事業者間において一方からの接続等に関する協定等の

締結の申入れに対して他方が協議に応じない、又は協議が調わないが、当該接続等が行わ

れるべきものである場合に、総務大臣が協議の開始・再開を命じる制度である。細目裁定

制度は、電気通信事業者間において接続等に関する協定等の細目についての協議が調わな

い場合において、当事者の一方から申請があったときに、総務大臣においてこれを裁定し、

その定めるところに従い、当事者間に協議が調ったものとみなす制度である。

独立規制機関のあり方と独立性の程度はそれぞれの国により異なるが、独

立性の程度は以下の要素によって規定される。

・立法機関の任命権、報告義務(誰に報告するか)、独立規制機関の決定

権限、独立規制機関の予算の財源

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①任命者及び任期

独立規制機関のトップが公務員で大臣によっていつでも更迭されるのであ

れば、独立規制機関の独立性は弱くなる。従って、立法機関の承認のもと、

政府のトップが任命をすることでトップの地位を安定させることが必要であ

る。また、トップの任期が保障されていることが、規制機関の独立性を確実

にする上で、もう一つの必要不可欠な要素である。在職期間が保障されてい

ると、トップは自分の職に影響を与える可能性のある政治的利害を考えずに

規制の権限を行使することができるからである。実際、アメリカ、フランス

では、議会の承認のもと大統領がトップの任命を行っている。また、任期に

ついては、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツのいずれの国でも法制化

されている。わが国では委員長は委員の互選により選任しているが、委員の

任命は両議院の同意を得て総務大臣が任命をしており、任期は 3 年に定めら

れている。

②報告の対象

独立規制機関が、政策当局に対して報告する義務があるのであれば、独立

規制機関の独立性の程度は低下する。従って、独立規制機関は、政策当局に

対してではなく、当該分野の政策決定に直接関わらない機関に対してのみ報

告義務を負うようにすることが重要である。実際、アメリカ、ドイツ、フラ

ンスでは独立規制機関は議会に対してのみ報告義務を負っている。一方、わ

が国では、総務省に対して毎年報告することが求められている。

③決定を覆すことができる機関

独立規制機関の決定を政策当局などが覆すことができるならば、独立規制

機関の独立性は妨げられることになるので、裁判所以外は独立規制機関の決

定を覆すことができないなど、独立規制機関の政府内における権威を確実に

することは非常に重要である。大多数の国では、独立規制機関の決定は裁判

所の決定を除いては覆せないようにされている。実際、フランス、ドイツ、

アメリカでは独立規制機関の決定は裁判所を除いては覆すことができない。

一方、わが国では、そもそも協議命令と細目裁定については電気通信事業紛

争処理委員会の権限ではなく総務大臣の権限となっている21。

21 斡旋制度と仲裁制度は電気通信事業紛争処理委員会の権限となっている。斡旋制度とは、

電気通信事業者間に紛争が生じた場合において、電気通信事業紛争処理委員会の斡旋委員

が両当事者の間に入って相互の歩み寄りにより、紛争の迅速な解決を図ろうとするもので

ある。仲裁制度とは、電気通信事業者間に紛争が生じた場合において、その解決が円滑に

図られるよう、委員会の仲裁委員に仲裁判断を委ねることで紛争の解決を図ろうとするも

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④財源

独立性を確保するためには、独立規制機関の財源が政府歳出から独立して

いることが望ましい。財源が政府歳出から独立している場合には、一般的に

独立規制機関は免許料、周波数使用料、電話番号売却料を収入源としている。

イギリスでは財源をほぼ免許で賄うなど、政府歳出から独立している。アメ

リカ、ドイツでは財源の一部を政府歳出で賄っているが、ほとんどが各種手

数料などを収入源としている。例えばアメリカでは、独立規制機関である FCCの 99 年度予算(約 1 億 9200 万米ドル)のうち、約 90%(約 1 億 7250 万米

ドル)が電気通信事業者からの各種手数料であった。一方、わが国の電気通

信事業紛争処理委員会は総務省の予算を財源としている。

のである。

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3.まとめ

アメリカやヨーロッパの主要国のネットワーク事業分野では、産業政策部門

から独立した規制機関が設置され、許認可を付与したり、市場における競争の

状況を監視し、必要に応じて紛争処理を行っていることが多い。

わが国においては現在のところ独立規制機関は設置されていないが、電気通

信分野では、主として紛争処理を行う機関として電気通信事業紛争処理委員会

が設置されている。ただし、諸外国の電気通信業における独立規制機関の多く

は、トップの任命や報告対象、決定権限、財源等の面で、わが国の電気通信事

業紛争処理委員会よりも独立性の程度が高く、競争状況の監視体制が強化され

ていることがわかった。

なおわが国では、電力及びガスの分野でも、現在総合資源エネルギー調査会

で紛争の斡旋・調停などを行う中立機関の設置が検討されている。また、総合

規制改革会議(2002)でも「ネットワーク事業分野における専門的機関につい

ては、迅速な紛争処理、競争監視の実効性確保、競争ルールの策定との連携を

実現する観点から、その整備に当り、①斡旋、仲裁などの事業者間の紛争処理

機能、②情報遮断、会計分離等を含む競争ルールの遵守状況等の監視及び調査

権限、③監視、紛争処理の成果を競争ルール策定に反映するための勧告権限、

のような機能・権限を付与することについて検討すべきである」としている。

今後、こうした機能を担う独立規制機関を設置する場合は、任命者、報告対象、

決定事項を覆すことができる機関の特定、財源などの面で、独立性を担保する

措置を講じることを検討する必要がある。

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Ⅳ.おわりに

本稿では、電気通信業、電力業、都市ガス業、航空業などのネットワーク事

業における競争政策のあり方を整理するとともに、アメリカやドイツを中心と

したヨーロッパでの事例をもとにネットワーク事業における競争政策のあり方

を分析した。

まず第一に、ネットワーク事業分野における競争政策のあり方を整理した。

その結果では、ボトルネック資源を擁するネットワーク事業の特性を踏まえる

と、公平で公正な競争環境を整備するためには、参入規制の緩和・撤廃と併せ

て、新規参入を促進し、実際に公正な競争が行われる環境を整備するための競

争政策が必要であることが明らかになった。その一方で、ボトルネック資源部

門は競争制限的な行動の要因となりやすい。このため、競争部門で公正な競争

を実現するためには、非競争部門であるボトルネック資源部門を、会計分離、

経営分離、法人分離、所有分離などにより垂直分離する構造規制を検討する必

要があることが明らかになった。

第二に、ネットワーク事業分野について、諸外国の規制改革と競争政策の展

開プロセスを整理し、市場シェアや価格、労働生産性などの面での成果と問題

点を抽出した。その結果、参入規制の緩和・撤廃や希少資源であるスロットの

売買を可能とする制度の導入、送配電網や導管網の開放制度の導入、などとい

った競争政策のみでは、一時的な効果はあっても十分な競争環境の整備は難し

いことが明らかとなった。その最大の要因は、ネットワーク事業における不可

欠施設(ボトルネック資源)の運用面にある。

アメリカやヨーロッパ主要国では、ボトルネック資源の開放や運用形態及び

希少資源の配分ルール等について多様な施策が講じられてきた。例えば、①航

空業では、希少資源である空港発着枠(スロット)については、既配分枠の再

配分と新規事業者へ一定枠を配分する方式が採られており、競争環境整備の面

で効果を発揮した。とくに注目すべきは、既存事業者への再配分は利用実績に

基づく客観的評価基準にしたがって行なったことと、こうした配分方式をルー

ル化し、その配分基準を明示したことである。②電力業や都市ガス業における

送配電網や導管網などのボトルネック資源の開放については、単に制度面で開

放の仕組みを整えるだけでは十分ではなく、卸託送や小売託送の義務付けなど

により新規事業者が実際にボトルネック資源にアクセスできるようにしたこと

が効果的であった。③さらに、アメリカやヨーロッパの電力・都市ガス分野で

は、実際に公正な競争が行われるための環境を確保するために、ボトルネック

資源へのアクセスの開放に加えて、ボトルネック資源自体を会計分離や経営分

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離、法人分離、所有分離などにより垂直分離するともに、ボトルネック資源に

係る取引情報の開示や取引所の設立などが推進された。こうした垂直分離を含

む多様な競争政策は、競争市場を形成する上で一定の成果を上げたことがわか

ったが、カリフォルニアの電力危機に示されたように、制度のあり方や運用面

に課題を残した点には留意が必要である。

第三に、参入規制の緩和・撤廃とボトルネック資源の開放などによるオープ

ン・アクセスを実現し、またボトルネック資源運用の中立性確保や内部補助の

排除などの仕組みを構築することによって公平な競争環境を整備したとしても、

実際の市場で公正な競争が実現するとは限らない。また、規制が産業政策部門

によって行われる場合は、規制や紛争処理が中立的かつ公正に行われるか否か

疑念が生じる。この点、アメリカやヨーロッパ主要国では、多くのネットワー

ク事業部門で産業政策部門から独立した規制機関を設置しており、事業免許付

与、接続規制、希少資源の配分、価格規制などの役割を担っている。当然、独

立規制機関の役割や機能は、それぞれの国情に応じて異なっているが、独立規

制機関の独立性を確保するためには、独立機関の任命は立法機関の承認のもと

政府のトップによってなされること、独立機関の報告は当該分野の政策に直接

関わらない機関に対してなされること、独立規制機関の決定は裁判所を除いて

は覆せないようにすること、財源は政府予算から独立したものとすること、な

どの点に配慮することが重要であることがわかった。

わが国においても、国内航空業や電気通信業、電力業、都市ガス業などネッ

トワーク事業分野における参入規制の緩和・撤廃や、託送制度の整備、会計分

離、情報開示などが漸次進められてきた。国内航空業については 2005 年に混雑

空港発着枠の再配分が行われるが、総合規制改革会議(2002)では「その際に

は、客観性及び透明性の確保や支配的事業者とその他の事業者との競争条件に

十分配慮した上で、基準を明確かつ具体的に設定すべきである」としている。

しかしながら、市場からは公平で公正な競争環境の整備のために一層の努力が

求められている。国内航空業については、2005 年に混雑空港発着枠の再配分が

行われることとなったが、アメリカやヨーロッパの事例を参考にすると、効果

的な再配分を行うためには、既に配分済みのスロットを利用効率に応じて既存

事業者へ再配分するルールや一定枠を新規事業者へ配分するルールの設定、そ

の配分基準の明示、及び配分ルールの厳正な運用等を行うことが求められる。

電力業及び都市ガス業については、都市ガス業では 1995 年 3 月に施行された

改正ガス事業法、電力業では 1995 年 12 月の改正電気事業法の施行により規制

改革が本格化した。しかしながら、電力業における新規事業者が電力会社に対

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して、機能分離によるネットワーク部門と他部門との情報遮断を厳格に行うよ

うに求めていることに窺がえるように22、市場からは公平で公正な競争環境の整

備のために一層の努力が求められている。

この点に関連して、総合規制改革会議(2002)では、電力業と都市ガス業を

対象に「一層厳格な会計分離の徹底」と託送制度の一層の整備を求めている。 なお、電力業に関しては、総合資源エネルギー調査会電気事業分科会より、

小売自由化の段階的推進、全国単一市場化を目指した託送料金の設定、電力取

引所の設立、送電部門の規則の作成と監視を行う中立機関の設立等が答申され

た(経済産業省(2003))。これにより、これまで進められてきた部分自由化の

方針のもとで電力自由化をさらに推進する方向が示されたが、効果的な自由化

を実現するためには、卸売や小売の取引条件のあり方についても、競争制限的

な行為に結びつくことがないよう十分に配慮する必要がある23。今回の答申では

系統運用の分離(ISO や RTO 設立)や発電と送配電の分離などの垂直分離は見

送られた形となったが、安定的な電力供給に留意しつつ系統運用の中立性確保

と適切な託送料金設定に十分配慮する必要がある。なお、将来系統運用機関を

設立する場合は、将来にわたって電力供給力を確保する上での責任の所在を明

確にする必要がある。また、電力取引市場を設立する場合は、カリフォルニア

やイギリスでの強制プール市場の失敗例を踏まえ、相対取引や一定の予備電力

を確保し安定供給を可能とする取引形態を検討する必要がある。

こうした競争政策に加えて、市場における公正な競争ルールを設定し、その

ルールの遵守状況を監視するとともに、当事者間で紛争が生じた場合は公平か

つ公正な立場から紛争を処理する独立規制機関の設置と、その独立性確保のた

めに、独立規制機関トップの任命者や独立機関の報告先、決定権限、財源など

について十分に配慮することが重要である。

22 具体的には電力会社に対して自主的に、①託送に関連した新規事業者の情報提供窓口は

営業部門ではなく送電部門とする、②送電部門と他部門とは別フロアーにするなど物理的

に隔絶する、③送電部門の従業員は、発電部門や営業部門の業務を行わない、④送電部門

と営業部門との人事交流に当たっては両部門の情報遮断を確保する、⑤送電部門に提供さ

れた情報については、新規事業者の名称を符号化して扱う等の対応により、その情報を他

部門が活用できないよう厳正に管理する、こと等を求めている(公正取引委員会・経済産

業省(2002))。 23 全量供給方式や部分供給方式、常時バックアップ方式など供給方式の選択可能性や、常

時バックアップの事前通知のあり方や、事故時バックアップ、余剰電力購入や購入価格設

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参考図表1 電力業・都市ガス業の主要な規制緩和・撤廃経緯

都市ガス業 参入規制 託送制度 垂直分離

アメリカ

(連邦規制)

1985 年 Order436 ・州際パイプラインのオープン・アク

セス(卸託送)の無差別化 ・コストベースの料金方式への転換

1987~91 年 Order500 ・Take or Pay 債務を解消し、州際

パイプラインのオープン・アクセス

が実現 1992 年 Order636 ・オープン・アクセスの詳細条件の

整備

1988 年 Order497 ・州際パイプライン会社と関連マー

ケティング会社との会計分離 1992 年 Order636 ・輸送事業と販売事業の法人分離

イギリス

1982 年石油・ガス法 ・供給への参入を部分自由化

1995 年ガス事業法 ・供給業者、配給業者、公共ガス

輸送業者にライセンス制を導入

1988 年MMC勧告 ・託送条件の開示 ・託送料金の差別の禁止 ・託送を通じて知り得た情報の管理

1995 年ガス法 ・公共ガス輸送業者を通じての卸・

小売託送が可能

1995 年ガス事業法 ・全てのガス事業者を、供給業者、

配給業者、公共ガス輸送業者の

3 形態に分離 ・公共ガス輸送業者は供給業者や

配給業者との兼業禁止

EU

1998 年EUガス指令 ・ガス市場の段階的な自由化を義

務付け

1998 年EUガス指令 ・加盟国に 2 年以内の卸・小売託

送制度導入を義務付け

1998 年EUガス指令 ・輸送、配給、貯蔵、販売別の会計

分離を義務付け

日本

1995 年ガス事業法 ・供給の部分自由化

1999 年ガス事業法 ・小売託送制度の整備

2000 年ガス事業会計規則 ・一般ガス事業者に対して部門別

会計分離を義務付け

定のあり方などについて、競争制限的になることを回避する対応が求められる。

電力業 参入規制 託送制度 垂直分離

アメリカ

(連邦規制)

1978 年 公 益 事 業 規 制 政 策 法

(PURPA) ・QF による発電市場への新規参

入を容認

1992 年エネルギー政策法 ・FERC の託送命令権限を強化

1996 年 Order888・Order889 ・全ての電力業者に送電網の開放

を義務付け

1999 年 Order2000 ・送電網を所有、運用・制御する全

ての電力業者に対して地域的な

規 模 を 有 す る 地 域 送 電 機 構

(RTO)に自主的に参加すること

を要求

イギリス

1983 年エネルギー法 ・IPP 等による発電市場への新規

参入を容認 1989 年電気法 ・発電・小売市場への参入自由化

1989 年電気法 ・卸・小売託送制度の整備

1989 年電気法 ・送電会社(NGC)設立(CEGB の

分割・民営化) ・12 の地区配電会社(RECs)設立

(地区配電局の民営化)

EU

1996 年EU電力指令 ・電力市場の段階的な自由化を義

務付け

1996 年EU電力指令 ・加盟国に 2 年以内の卸・小売託

送制度導入を義務付け

1996 年EU電力指令 ・加盟国に 2 年以内に最低限部門

別会計の導入を義務付け

日本

1995 年電気事業法 ・発電市場への参入を自由化

2000 年電気事業法 ・小売市場の部分自由化

1995 年電気事業法 ・卸託送制度の整備

2000 年電気事業法 ・小売託送制度の整備

2000 年部門別収支計算規則 ・一般電力業者に対して部門別会

計分離を義務付け

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参考図表2 諸外国で実施されている競争政策

競争政策 日本 アメリカ イギリス EU

割当済みの空港発

着枠(スロット)の回

収と再割当

・実施されていない。 ・2005 年 2 月に実施

予定

・使用率 80%未満を

回収し、そのうち 25%

を新規事業者に優先

的に割当

・EU 規則と同じ ・1994 年夏ダイヤでヒ

ースロー空港で 3481スロットを新規事業者

に割当

・93 年採択閣僚理事会規則 ((EEC)No.95/93)使用率 80%

未満を回収し、そのうち 50%を新

規参入企業に優先的に割当 ・1996 年冬ダイヤでフランスのオ

ルリー空港では 1500 スロットを新

規事業者に割当

周波数オークション

の実施

・実施されていない ・第 3 世代は比較審査

方式を採用 ・第 3 世代の割当では

新規参入なし

・93 年から実施 ・例えば、2001 年の第

35 回 PCS オークショ

ンでは落札企業 35 社

のうち 32 社が新規事

業者

・91 年から実施 ・例えば、2000 年の

3G オークションでは、

落札企業 5 社のうち 1社が新規事業者

・2000 年以降、ドイツ・イタリアな

ど多くの国で 3Gオークションを実

施 ・例えば、ドイツの 3G オークショ

ンでは、落札企業 6 社のうち 2 社

が新規事業者

託送制度の整備

・電力は卸・小売託送

と も 可 能 だ が 、 ガ ス

は、卸託送は不可 ・電力・ガスとも新規参

入業者のシェア増加

・電力は、卸託送は可

能。ガスは、卸託送は

可能、小売託送は州

によって異なる ・電力は、新規参入業

者のシェア増加。既存

事業者の労働生産性

上 昇 、 イ ー ル ド の 低

下。消費者価格の低

・電力・ガスとも卸・小

売託送とも可能 ・ガスは新規参入業者

のシェア増加

・EU 電力指令 96/92/EC、EU ガ

ス指令 98/30/EC で卸・小売託送

とも可能

徹底した垂直分離

の実施

・電力・ガスとも部門別 会計分離を実施

・電力は経営分離を実

施、ガスは法人分離を

実施

・電力・ガスとも所有分

離を実施 ・EU 電力指令 96/92/EC、EU ガ

ス指令 98/30/EC で最低限会計

分離を要求 ・しかしながら、イタリア、スペイン

では電力・ガスとも自主的に法人

分離を実施

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参考文献

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について」、2 月 公正取引委員会(2001):「政府規制等と競争政策に関する研究会報告書-公益事

業分野における規制緩和と競争政策について」、1 月 公正取引委員会・経済産業省(2002):「適正な電力取引についての指針」、7 月 後藤美香(2003):「垂直統合の分離に関する経済的問題」(南部鶴彦編『電力自

由化の制度設計』所収、東京大学出版会) 小林健一(2002):『アメリカの電力自由化』、日本経済評論社 総合規制改革会議(2002):「規制改革の推進に関する第 2 次答申」、12 月 高橋望(1999):『米国航空規制緩和をめぐる諸議論の展開』、白桃書房 滝川敏明(2001):「規制改革と競争政策」(山本哲三・佐藤英善編『ネットワー

ク産業の規制改革』所収、日本評論社) 内閣府(2001):「市場原理による公共資源の配分について-周波数及び空港発着

枠の配分の事例」、政策効果分析レポート No.11、内閣府政策統括官(経済

財政-景気判断・政策分析担当)、3 月 内閣府国民生活局(2002):「公共料金の構造改革:現状と課題」、6月

南部鶴彦・西村陽(2002):『エナジー・エコノミクス』、日本評論社

西村陽(2002):『電力自由化』、エネルギーフォーラム 日本エネルギー経済研究所(2001):「平成 12 年度地方都市ガス事業天然ガス化

導入条件整備調査 総括報告書」、3 月 林紘一郎(1998):『ネットワーキング情報社会の経済学』、NTT 出版 細田孝一(1999):「「不可欠施設」へのアクセス拒否とドイツ競争制限禁止法」、

Page 48: 図表12 アメリカの電力業の事例分析の全体像なお、SCE 社の電力販売量単位当り実質電力収入(イールド)は1986~1992 年度で年度平均0.8%上昇した(図表30

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『公正取引』、No.589、pp.25-29、財団法人公正取引協会 丸山真弘(2003a):「電気事業の垂直統合の分離」(南部鶴彦編『電力自由化の制

度設計』所収、東京大学出版会) 丸山真弘(2003b):「各国での小売自由化の詳説」(南部鶴彦編『電力自由化の制

度設計』所収、東京大学出版会) 三菱総合研究所(2002):「ネットワーク社会における規制のあり方に関する調

査」(内閣府委託調査)、3 月 矢島正之(1998):『電力改革』、東洋経済新報社 山内弘隆(1995):「航空輸送」(金本良嗣・山内弘隆編『講座・公的規制と産業

④ 交通』所収、NTT 出版) 山内弘隆(2001):「航空分野における規制緩和の現状と課題」、『公正取引』、

No.604、pp.32-38、財団法人公正取引協会 山本哲三(2001):「米国の規制改革」(山本哲三・佐藤英善編『ネットワーク産

業の規制改革』所収、日本評論社) FERC(1997):“1997 Annual Report” FERC(2000):“2000 Annual Report” GAO(1990): “Entry and Competition in the U.S. Airline Industry Issues

and Opportunities” OECD(1997): “OECD Report on Regulatory Reform”(山本哲三・山田弘監訳

『世界の規制改革』、日本経済評論社) OECD(1999):“Telecommunications Regulations: Institutional Stractures

and Responsibilities”