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西洋演劇史(第 7 回) ―フランス古典主義演劇― 1.イギリス演劇の衰退 ・スペインとの戦争による疲弊、増税、飢饉などから、徐々に国力の衰え 1603)エリザベス女王崩御 ジェイムズ 1 世即位 ・このころ、シェイクスピア悲劇時代 1616)シェイクスピア死亡 ・(23)シェイクスピア初の 1 巻本全集(ファースト・フォリオ[二つ折本])出版 1649)クロムウェルによるピューリタン(清教徒)革命 ・以後、1660 年の王政復古まで劇場封鎖。 2. フランス・バロック演劇( 15801640 年代) (1)バロック ポルトガル語「バローコ」(変形真珠・非整形) 多元的複合、外交的装飾、自由 規制やジャンルの軽視/不合理、神秘、超自然、情緒的飛躍 (2)悲喜劇 ジャンルの軽視の傾向/高貴な言語と下級言語の混交 決闘・変装・魔法・誘拐等、筋が千変万化 3.フランス古典主義演劇 (1) コメディア・デラルテ(イタリア) 16c 即興喜劇(仮面着用も多し) 面白い仕草(伊語の分からない仏人向け) (2)リシュリューが宰相に(1624演劇を庇護(作家・役者に補助金) (3)マレー座誕生(1634ブルゴーニュ座に加え、フランス二つ目の常設劇場 →屋根付きの簡素な舞台

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  • 西洋演劇史(第 7回) ―フランス古典主義演劇―

    1.イギリス演劇の衰退

    ・スペインとの戦争による疲弊、増税、飢饉などから、徐々に国力の衰え

    (1603)エリザベス女王崩御 ジェイムズ 1世即位

    ・このころ、シェイクスピア悲劇時代

    (1616)シェイクスピア死亡

    ・(23)シェイクスピア初の 1巻本全集(ファースト・フォリオ[二つ折本])出版

    (1649)クロムウェルによるピューリタン(清教徒)革命

    ・以後、1660年の王政復古まで劇場封鎖。

    2. フランス・バロック演劇(1580〜1640年代)

    (1)バロック

    ポルトガル語「バローコ」(変形真珠・非整形)

    →多元的複合、外交的装飾、自由

    規制やジャンルの軽視/不合理、神秘、超自然、情緒的飛躍

    (2)悲喜劇

    ジャンルの軽視の傾向/高貴な言語と下級言語の混交

    決闘・変装・魔法・誘拐等、筋が千変万化

    3.フランス古典主義演劇

    (1) コメディア・デラルテ(イタリア)

    16c 即興喜劇(仮面着用も多し)

    面白い仕草(伊語の分からない仏人向け)

    (2)リシュリューが宰相に(1624)

    演劇を庇護(作家・役者に補助金)

    (3)マレー座誕生(1634)

    ブルゴーニュ座に加え、フランス二つ目の常設劇場

    →屋根付きの簡素な舞台

  • (4)三単一の規則

    ←アリストテレスの『詩学』をボワローが定式化したもの

    真実らしさ、ジャンルを重視

    リアリズムに基づく古典主義演劇誕生

    4. ピエール・コルネイユ(1606~84)

    (1629)『メリットまたは偽手紙』(喜劇)

    (1635)『メデ』(悲劇)

    (1636)『舞台は夢』 バロック劇の傑作

    (1637)『ル・シッド』 悲喜劇

    (1644)『嘘つき男』

    5.『ル・シッド』論争

    (1)スキュデリー『ル・シッドに関する批判』(1637)

    劇は教化のためにあるが、そうなっていない

    舞台は血で染めてはならない(アリストテレス)の教えに反する

    (2)アカデミー・フランセーズ『悲喜劇「ル・シッド」に関するアカデミー・フランセーズの意見』(1637)

    真実らしさに欠ける/節度がない

    6.コルネイユの主な作品、『ル・シッド』(Le Cid)

    (1)あらすじ

    舞台は十一世紀スペイン。カスティリヤ王国の首都セビーリャ。一

    幕、騎士ドン・ロドリーグとゴルマス伯爵の娘シメーヌは互い

    に愛し合っている。その二人の父親が争っていた王子の師範役に、

    ロドリーグの父が決り、伯爵は怒って、ロドリーグの父に平手打ちを

    くわせる。父は息子にこの恥辱をそそげと命じる。ロドリーグは「父

    か恋人か、名誉か恋か、気高く厳しい世の定めと拒みきれない恋の力」

    と悩み苦しむが「恋人に義理をたてるより父親の恩に報いることこそ

    大切」と、父の仇を討つことを決意する。二幕、ロドリーグは伯爵

    に決闘を申し込む。一方父親同士の争いに心を痛めるシメーヌを王女が慰めていると、父の死の報

    せが入り、シメーヌは決闘の場へ駆けつける。やがてシメーヌは国王にロドリーグを死罪に処すること

    を請う。ロドリーグの父は息子の所行の申し開きをする。

    三幕、その夜ロドリーグはシメーヌの館に忍び込み彼女に剣を差し出し、これで父の仇を討てと迫る。

    彼を愛しているシメーヌは死罪を要求はしたが、自分の手で彼を討つことはできない。彼女の館を出て悲

  • 嘆に暮れるロドリーグは、父にモール人(ムーア人)の来襲を知らされ敵を撃退しシメーヌの心を取

    り戻せと励まされる。四幕、翌朝シメーヌはロドリーグがモール人に大勝したことを知る。彼の無事を喜

    びつつも父親への義務の念から、彼女は再び国王に彼の処刑を嘆願に行く。国王がロドリーグの功を讃え

    て、「勇者(ル・シッド)」の称号を与えているところにシメーヌが来るので、国王は彼を退らせ、彼が戦

    死したと偽ってシメーヌの本心を試す。彼女は恋心をさらけ出すが、真相を知ると気丈にも代理者をた

    ててのロドリーグとの決闘を要求する。国王は決闘を許すかわりにその勝者と彼女が結婚することを約

    束させる。

    五幕、ロドリーグは決闘の前彼女のもとに現れ、彼女の願いをかなえるため決闘で死ぬ覚悟と言う。シ

    メーヌが勝って欲しいと恋心をもらすので、ロドリーグは勇躍、決闘の場に臨む。決闘後敗れた代理の騎

    士がシメーヌのもとに現れ、剣を捧げる。ロドリーグが死んだと誤解したシメーヌは、恋心を明かし、国

    王に修道院に入る許しを請う。そこへロドリーグが現れ、国王は二人の将来を誓わせ、シメーヌの悲しみ

    が癒えるまで、モール人討伐に出るようロドリーグに命ずる。(岩瀬孝他、『フランス演劇史概説』、65~

    66頁より)

    (2)解釈例

    コルネイユはスペイン演劇に出会うことで、彼本来のロマネスクな資質を開花させた。(中略)この作品

    の新しさは人間の内的葛藤を見事に舞台化したことである。これまでは人物間の対立相剋は描かれたが、

    一人の人物の内的葛藤はほとんど描かれなかった。英雄の型も決った。二者択一の苦しい選択を迫られ、

    高邁な意志で「名誉」を手に入れるために選択し、行動する英雄である。ロドリーグもシメーヌも相手の

    魂が偉大だから尊敬し合い、さらに尊敬されるために二人とも努力する。この英雄主義はコルネイユの以

    後の作品の基調になる。それが美しい力強い詩句で表現されたから演劇史に残る大きな劇作品となったの

    である。(『フランス演劇史概説』、67~68頁より)

    7.モリエール(ジャン=バティスト・ポクラン、1622~73)

    (1658)『才女気どり』

    (1662)『女房学校』(パレ=ロワイヤル劇場初演)

    (1664)『タルチュフ』(ヴェルサイユ宮殿一部完成記念祝典で上演)

    (1665)『ドン・ジュアン』(パレ=ロワイヤル劇場初演)

    (1666)『人間ぎらい』(パレ=ロワイヤル劇場初演)

    (1671)『スカパンの悪だくみ』

    8.モリエールの主な作品、『人間ぎらい』(Le

    Misanthrope)

    (1)あらすじ

    舞台はパリ、若い未亡人セリメーヌの家。一幕、アルセ

    ストは友人フィラントに社交界の習慣、社会の不正不

    義を怒り、全人類を罵る。世事にたけたフィラントが「完

  • 全な理性というものは、すべて極端を避け、適当に聡明であれと望むものだ」となだめるが、聞く耳を持

    たない。今抱えている訴訟事件でも常識である裁判官への挨拶などする気は毛頭ない。しかしこの正義漢

    アルセストにも弱みがある。浮気であだっぽいセリメーヌへの恋の虜となっているのである。そこ

    へ貴族のオロントがやって来て、アルセストに親交を求め、自作の詩の批判を仰ぐ。はじめは遠慮してい

    たアルセストも、我慢できずにこの詩をこき下してオロントを怒らせてしまう。二幕、アルセストはセリ

    メーヌに彼女の浮気な性分を詰問する。彼女は適当にはぐらかし、ちょうど訪ねてきた貴族たち(アカス

    ト、クリタンドル)や従妹のエリヤントらと社交界人士の「人物品定め」を始める。セリメーヌが得意

    の毒舌を開陳すると男たちは拍手喝采、しかしアルセストには我慢ならない。自説を述べようとするが、

    オロントとの一件で裁判所から呼び出され、それもままならない。三幕、アカスト、クリタンドルがセリ

    メーヌをめぐる紳士協定を結びながら出て行った所に、セリメーヌを妬む年増女のアルシノエが入って来

    て、セリメーヌの身持ちについて嫌味な忠告をする。彼女も負けずにアルシノエのえせ貞女振りをあげつ

    らってやり返す。アルシノエはそこにやって来たアルセストに好意を寄せる。彼がそれを受けぬと見るや、

    今度はセリメーヌの不実の証拠を見せようと自分の家に誘う。四幕、そこから戻ったアルセストはセリメ

    ーヌに裏切られたと絶望の態。しかし、対決すべくセリメーヌに面と向かうと当初の意気込みはどこ

    へやら、つれない仕打ちにあってもなお彼女を思い切れない。そこへ従僕が敗訴の知らせを持ってく

    る。五幕、アルセストはたとえ金銭を失っても「人類を永久に憎悪する権利」を得るためにあえて控訴

    せず、世間から身を引く決意をする。一方セリメーヌの浮気ぶりが満座の前で暴露され、男たちは去って

    ゆく。しかしなおも彼女への思いが断てぬアルセストは、一緒に人里離れた所で暮そうと誘う。セリメー

    ヌは結婚は承知するが、孤独な生活には耐えられないという。この言葉を聞いてアルセストはついに彼

    女を諦め、エリヤントとフィラントの愛を祝福し、「正しい人間として生きられる自由のある場所」を

    求めて、世を捨てると語って独り寂しく出て行く。(『フランス演劇史概説』81〜82頁より)

    (2)解釈例

    この喜劇には主人公アルセストの主張があるだけで、動き、葛藤、展開がない、結末も喜劇としては暗

    い、などの点が当時の観客を戸惑わせた(中略)しかしアルセストという「怒りっぽい恋人」正義漢が、

    彼の性癖とは全く対照的な浮気女に恋をし、しかもどんなにあしらわれても恋を断ち切れないでいるとこ

    ろには笑いがある。しかも自分の主義主張を時も所もわきまえずにあくまでも貫き通そうとする極端な彼

    の言動が、作者によって揶揄されている。モリエールは各作品で中庸のモラルを説くのである。(『フラン

    ス演劇史概説』82頁)

    9.ラシーヌ(1639~99)

    (1665)『アレクサンドル大王』(ブルゴーニュ座で上演)

    (1667)『アンドロマック』(王妃御座所で初演)

    (1670)『ベレニス』

    (1674)『イフィジニー』

    (1677)『フェードル』(五幕韻文 ブルゴーニュ座初演)

  • 10. 参考文献

    〈書籍〉

    ・岩瀬孝他、『フランス演劇史概説』(早稲田大学出版)

    ・蓮實重彦・山内昌之『われわれはどんな時代を生きているか』(講談社現代新書)

    〈DVD〉

    ・アンソニー・マン監督『エル・シド』(パラマウント・ホーム・エンタテインメント・ジャパン)

    ・『国立コメディ・フランセーズ モリエール・コレクション DVD-BOX〈赤 Rouge〉』