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EBV-T/NK-LPD (CAEBV, EBV-HLH etc.)の病態と診断 今留謙一 Key words : EBV-T/NK-LPD, CAEBV, EBV-HLH, HMB EB ウイルス(EBV)は B リンパ球を主な標的細胞と する。EBV の感染を受けたナイーブ B 細胞は活性化さ れ増殖した後,胚中心を通過して記憶 B 細胞に分化し 長期の潜伏感染が成立する 1) EBV による B 細胞の活 性化・増殖は,抗原刺激と T 細胞ヘルプによる生理的 な活性化と共通の細胞内分子機構によると考えられてい 2) 。このように,EBV のライフサイクルは B 細胞の 正常な増殖・分化の機構を巧みに利用したものとなって いる。伝染性単核症(IM),バーキットリンパ腫,ホジ キン病,免疫抑制(不全)状態におけるリンパ増殖性疾 患(LPD)などは,EBV 感染 B 細胞の増殖を伴う疾患 である 3) 。また,EBV は時に T 細胞や NK 細胞にも感染 し,慢性活動性 EBV 感染症(CAEBV),血球貪食性リ ンパ組織球症(EBV-HLH),鼻性 T/NK リンパ腫,末梢 T 細胞リンパ腫などの原因となる 47) 。このようなリン パ球への感染の他に,上皮細胞への EBV 感染が疾患の 原因として報告されているものに,胃癌,上咽頭癌など がある。この他に,EBV 感染は全身性エリテマトーデ ス(SLE),シェーグレン症候群など自己免疫疾患の誘 因となることも知られている。 今回は EBV 関連 T/NK リンパ増殖性疾患(EBV-T/ NK-LPD)の中の CAEBVEBV-HLH,蚊刺過敏症など を中心に,その病態と診断について解説したい。 EBV の関連疾患と感染様式 EBV B 細胞を主要な標的とし,正常の免疫能をも つ感染宿主には通常伝染性単核症以外の疾患を起こさな い。しかし一部の宿主においては,T あるいは NK 細胞 に感染し増殖を誘発することにより,CAEBV EBV- HLH を代表とする EBV-T/NK-LPD を引き起こす。EBV は多くの疾患との関連が報告されている。最近,自己免 疫疾患と EBV の関連が注目されている。また,EBV 主要な標的細胞は B 細胞であると先に述べたが,B 胞の他に T 細胞,NK 細胞,上皮細胞に感染し,様々な 疾患を発症させる(Fig. 1)。EBV はヒトに感染するヘ ルペスウイルスの中で唯一の腫瘍ウイルスとして知られ ている。胃癌のおよそ 7%は EBV 関連胃癌と報告され ており,今回,中心に解説する EBV-T/NK-LPD は予後 不良の疾患が多い 8, 9) EBV 感染 B 細胞は NK 細胞, EBV 特異的細胞障害性 T 細胞により制御・排除される。 一部の感染細胞はメモリー B 細胞へと分化し,潜伏感 染する。潜伏感染時の EBV 遺伝子発現は Latency 0 EBV 関連遺伝子をほとんど出さない状態で存在し,宿 主免疫応答から逃れて潜伏している 3) 。免疫不全状態で は,感染細胞は Latency III で全ての潜伏感染関連遺伝 子を発現している 2, 10) (Fig. 2)。EBV T 細胞や NK 胞に感染することで引き起こされる疾患は CAEBV をは じめ難治性疾患であることが多く,現在のところ唯一の 治療法は造血幹細胞移植しかないのが現状である。ただ し,その治療法も成功率は決して高くなく,それに代わ る新規治療法の開発が待たれている。EBV T 細胞や NK 細胞に感染するメカニズムや病態発現機構の解析は ほとんどなされていない。 EBV の初感染は小児の場合が多く,そのほとんどが 不顕性感染である。成人時に EBV 初感染すると伝染性 単核症(IM)を発症する。EBV は成人の 90%が既感染 である。宿主免疫能が低下することで,潜伏状態にある EBV 感染細胞が活性化し,増殖する。このように EBV 関連疾患病態発現は,宿主免疫機構と密接な関係にある Fig. 3)。 −臨 液− 446 1992国立成育医療研究センター研究所 母児感染研究部 75 回日本血液学会学術集会 小児科領域 EL-56 プログレス

EBV-T NK-LPD CAEBV,EBV-HLHetc.)の病態と診断¼‰の中のCAEBV,EBV-HLH,蚊刺過敏症など を中心に,その病態と診断について解説したい。EBVの関連疾患と感染様式

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Page 1: EBV-T NK-LPD CAEBV,EBV-HLHetc.)の病態と診断¼‰の中のCAEBV,EBV-HLH,蚊刺過敏症など を中心に,その病態と診断について解説したい。EBVの関連疾患と感染様式

EBV-T/NK-LPD (CAEBV, EBV-HLH etc.)の病態と診断

今 留 謙 一

Key words : EBV-T/NK-LPD, CAEBV, EBV-HLH, HMB

要 旨

EBウイルス(EBV)は Bリンパ球を主な標的細胞とする。EBVの感染を受けたナイーブ B細胞は活性化され増殖した後,胚中心を通過して記憶 B細胞に分化し長期の潜伏感染が成立する1)。EBV による B 細胞の活性化・増殖は,抗原刺激と T細胞ヘルプによる生理的な活性化と共通の細胞内分子機構によると考えられてい

る2)。このように,EBV のライフサイクルは B 細胞の正常な増殖・分化の機構を巧みに利用したものとなって

いる。伝染性単核症(IM),バーキットリンパ腫,ホジキン病,免疫抑制(不全)状態におけるリンパ増殖性疾

患(LPD)などは,EBV感染 B細胞の増殖を伴う疾患である3)。また,EBVは時に T細胞や NK細胞にも感染し,慢性活動性 EBV 感染症(CAEBV),血球貪食性リンパ組織球症(EBV-HLH),鼻性 T/NKリンパ腫,末梢T細胞リンパ腫などの原因となる4∼7)。このようなリン

パ球への感染の他に,上皮細胞への EBV感染が疾患の原因として報告されているものに,胃癌,上咽頭癌など

がある。この他に,EBV感染は全身性エリテマトーデス(SLE),シェーグレン症候群など自己免疫疾患の誘因となることも知られている。

今回は EBV 関連 T/NK リンパ増殖性疾患(EBV-T/NK-LPD)の中の CAEBV,EBV-HLH,蚊刺過敏症などを中心に,その病態と診断について解説したい。

EBVの関連疾患と感染様式

EBVは B細胞を主要な標的とし,正常の免疫能をもつ感染宿主には通常伝染性単核症以外の疾患を起こさな

い。しかし一部の宿主においては,Tあるいは NK細胞に感染し増殖を誘発することにより,CAEBV や EBV-

HLHを代表とする EBV-T/NK-LPDを引き起こす。EBVは多くの疾患との関連が報告されている。最近,自己免

疫疾患と EBVの関連が注目されている。また,EBVの主要な標的細胞は B細胞であると先に述べたが,B細胞の他に T細胞,NK細胞,上皮細胞に感染し,様々な疾患を発症させる(Fig. 1)。EBV はヒトに感染するヘルペスウイルスの中で唯一の腫瘍ウイルスとして知られ

ている。胃癌のおよそ 7%は EBV関連胃癌と報告されており,今回,中心に解説する EBV-T/NK-LPDは予後不良の疾患が多い8, 9)。EBV 感染 B 細胞は NK 細胞,EBV特異的細胞障害性 T細胞により制御・排除される。一部の感染細胞はメモリー B細胞へと分化し,潜伏感染する。潜伏感染時の EBV遺伝子発現は Latency 0でEBV関連遺伝子をほとんど出さない状態で存在し,宿主免疫応答から逃れて潜伏している3)。免疫不全状態で

は,感染細胞は Latency IIIで全ての潜伏感染関連遺伝子を発現している2, 10)(Fig. 2)。EBVが T細胞や NK細胞に感染することで引き起こされる疾患は CAEBVをはじめ難治性疾患であることが多く,現在のところ唯一の

治療法は造血幹細胞移植しかないのが現状である。ただ

し,その治療法も成功率は決して高くなく,それに代わ

る新規治療法の開発が待たれている。EBVが T細胞やNK細胞に感染するメカニズムや病態発現機構の解析はほとんどなされていない。

EBVの初感染は小児の場合が多く,そのほとんどが不顕性感染である。成人時に EBV初感染すると伝染性単核症(IM)を発症する。EBVは成人の 90%が既感染である。宿主免疫能が低下することで,潜伏状態にある

EBV感染細胞が活性化し,増殖する。このように EBV関連疾患病態発現は,宿主免疫機構と密接な関係にある

(Fig. 3)。

−臨 床 血 液−

446(1992)

国立成育医療研究センター研究所 母児感染研究部

第 75回日本血液学会学術集会

小児科領域

EL-56 プログレス

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慢性活動性 EBV感染症(CAEBV)

CAEBVの臨床症状の主要なものは発熱,肝脾腫,血小板減少,リンパ節腫脹,皮疹などがある。経過中に血

球貪食性リンパ組織球症,DIC等の危急疾患を合併することが少なくない。また,EBV感染細胞が臓器や血管壁へ浸潤し肝不全,心筋炎,血管炎を惹起することも

しばしばである。

CAEBV の特徴は末梢血中での EBV ゲノム量の高値と感染細胞の活性化状態が持続しサイトカイン産生異常

(IL-1a/b,TNF-a,IFN-g,IL-8,IL-10,IL-15,RANTES などが高値)が見られることである11, 12)。T/NK 細胞にEBVが感染した CAEBVは日本を初めとしたアジアに多く,欧米では少ないとされている。逆に,欧米では B細胞に感染した CAEBVがほとんどである13, 14)。そのた

め,日本での CAEBV研究の発展がこの疾患の克服に繋がると考えられ,現在基礎研究と診断法においては世界

をリードしている。EBV感染症に対する抗ウイルス薬

臨 床 血 液 54:10

447(1993)

Fig. 1

Fig. 2 Relations of EBV gene expression and the disease

Fig. 3 Neoplastic transformation and host immunologicalresponsiveness of EBV-infected cells

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などの特異的な薬剤が無く抗癌剤等の化学療法がメイン

であり,どこかで造血幹細胞移植を選択するのが通常で

あるが,どの時点での移植が最良であり,効果的である

のかを示すマーカーなどは無く,主治医の経験からの判

断に任されているのが現状である。そのため感染細胞が

悪性度を増した時のマーカーの発見も待ち望まれてい

る。CAEBV患者タイプは感染細胞による T細胞タイプ(CD4,CD8,gd-T),NK 細胞タイプの 4 タイプに分類される。臨床像において T 細胞タイプは発熱・貧血・肝腫大・リンパ節腫脹と EBV 関連抗体価の VCA-IgG,EA-IgG 抗体価の異常高値を示すのが特徴である。NK細胞タイプは蚊刺過敏症(HMB),大顆粒リンパ球増増加症,高 IgE血漿と EBV関連抗体価は必ずしも高値を示さない15)。EBV感染細胞同定解析は重要な検査項目である。

CAEBVはしばしば,免疫不全性疾患であるのか腫瘍性疾患であるのか論じられる。CAEBVにおいては特定の EBV蛋白質を認識する CD8+T細胞の欠損など免疫不全を疑わせる知見があるが,その一方で EBV感染 Tあるいは NK細胞のモノクローナルな増殖など腫瘍性疾患を思わせる所見も認められ,疾患の本態は依然として

不明である。CAEBV患者は明らかな免疫不全ではないが,EBV特異的 CTL活性は多くの患者で低い。EBV特異的 CTL活性は Tetramer法と ELISPOT法で解析可能である。CAEBV の診断指針を示した(Fig. 4)。通常,

3ヶ月以上臨床症状が持続し,末梢血中の EBV-DNA量が高値を示せば CAEBVを疑う必要がある。CAEBVの病変臓器や臨床症状は多彩である。CAEBV患者の中でCAEBV患者の中には蚊刺過敏症(HMB),種痘様水疱症(HV)の既往や合併が見られる患者がいる16)(Fig. 5)。HMBや HV患者で末梢血 EBV-DNAが検出されている場合は,CAEBVへの移行に注意してモニタリングすることが重要である。CAEBVでしばしば見られる合併症として EBV-HLH,間質性肺炎,悪性リンパ腫,冠動脈瘤,中枢神経系疾患などがあるため血液データに限らず

患者の全身状態を注視して診ていくことが重要と言え

る17)。『どの細胞に EBVが感染しているか?』を先ずおさえ,定量 PCRにより末梢血中 EBV-DNA量(血球成分と血漿成分の両方)を正確に把握し,フローサイトメ

トリー(FCM)解析により感染細胞の数と活性化状態を把握することが重要である。

EBV関連血球貪食性リンパ組織球症(EBV-HLH)

血球貪食性リンパ組織球症(HLH: Hemophagocyticlymphohistiocytosis)は危急疾患であり,HLHの最も典型的な臨床症状は,持続する血球減少,発熱,肝脾腫で

ある。

HLH は原発性 HLH(家族性 HLH; FHL)と二次性HLHに分類される。FHLは,常染色体劣性遺伝の疾患で近年その責任遺伝子が相次いで同定された。二次性

−臨 床 血 液−

448(1994)

Fig. 4

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HLHは EBVに代表されるウイルス感染や悪性腫瘍,膠原病,代謝疾患などの基礎疾患に合併して発症する。

EBV-HLHを示す例の大多数は明らかな家族性,あるいは遺伝性を示さないが,小児例の中には FHLや X連鎖リンパ増殖症候群(XLP)などをベースに発症するものが混在している。EBV-HLHは EBV感染 T細胞,NK細胞あるいは B細胞が増殖することによりマクロファージが活性化され引き起こされる EBV関連疾患の一つである。EBV-HLHで診られる病態は,EBV感染による T細胞の異常活性化が持続することにより,“cytokinestorm”と呼ばれる制御不能な高サイトカイン血漿により引き起こされる。活性化 T細胞,活性化 NK細胞やマクロファージから産生される IFN-g,TNF-a,IL-2Rなどのサイトカインが組織球を活性化し血球貪食を促

す18)。診断では,免疫不全状態での EBV抗体価の測定は信頼性が乏しいため,定量 PCR法による血球・血清中の EBV ゲノム量の測定が役立つ。発症様式としては,①伝染性単核球症が急速に進行して EBV-HLHを発症するもの ②伝染性単核球症が急速に進行して発症す

るもの ③慢性活動性 EBウイルス感染症の経過中に発症するもの ④鼻性 T/NKリンパ腫などの EBV陽性リンパ腫の経過中に発症するものの 4タイプの症例に大別される。

EBV-HLHでは初診時から著しい骨髄抑制を示している場合があるが,このような症例ではデキサメサゾン

(DEX)とシクロスポリン(CyA)で治療を開始すべきである19, 20)。EBV-HLHに代表されるような二次性 HLH症例の場合,VP16を必要としない症例が少なくない21)。

しかし,遺伝子異常が判明すれば HLH2004治療プロトコールに従い VP16を速やかに開始し,同種移植の必要性を考慮する必要がある。

EBV-HLHでの感染細胞は CD8+Tであることが多く,稀に NK 細胞,B 細胞の場合がある。これまでの症例

で,XLP患者で EBV-HLHを発症した症例では,B細胞に感染している印象を受ける22)。HLH では,T 細胞,NK細胞と言ったリンパ球とマクロファージの過剰な活性化が持続することにより,制御不能な高サイトカイン

血漿(サイトカインストーム)が見られる。活性化した

組織球は血球を貪食し,臓器に浸潤する。EBV-HLHでは EBV特異的 CTLや NK細胞の機能低下が認められ,EBV感染細胞を排除できず,活性化 T細胞や NK細胞の過剰反応持続が見られる。先ずサイトカインストーム

を抑え,次に感染細胞を排除することが道筋と言える。

臨床像において EBV-HLH と急性伝染性単核症(in-fectous mononucleosis: IM)の重症例の鑑別診断は難しい場合が多いが,感染細胞の検討やサイトカインプロ

ファイリングにより鑑別は可能である。感染細胞⇨

EBV-HLH: CD8+T細胞, 重症 IM: B細胞,IL-16⇨ EBV-HLH > 重症 IM, IL-18 ⇨ EBV-HLH > 重症 IM, また,EBV-HLHでは HLA-DR強陽性,CD5陰性の細胞が集団形成しているが,重症 IM では HLA-DR 強陽性,CD5陰性の細胞は見られないことから鑑別は可能である23)。

EBV-HLHと重症 IMは病因が全く異なため,早期治療介入・治療方針の決定において早期鑑別が重要である。

蚊刺過敏症(HMB)

HMB での感染細胞は多くが NK 細胞で,稀に gd-T細胞や CD4-T細胞である。HMBでは,蚊刺により水疱形成や壊死・潰瘍形成などが見られ,発熱・肝脾腫,リ

ンパ節腫大などの全身反応を伴う。HMBでも経過中にEBV-HLHを発症することがある。患者に蚊アレルギーを見た時,EBV関与の可能性も考え,どこかで末梢血EBV-DNA定量解析をすることが蚊刺過敏症の早期発見に重要である。

HMB患者の場合,病態が安定し落ち着いている時期でも,定期的な末梢血ゲノム定量解析のモニタリングを

臨 床 血 液 54:10

449(1995)

Fig. 5 Relations of the merger clinical condition of chronic active EB virusinfection (CAEBV)EBV-T/NK LPD has close relation to the disease mentioned above.

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し,早期発見・早期治療介入により CAEBV移行などの重症化を防ぐことが望まれる。

最近の EBV-T/NK-LPD研究の成果

EBVが Tあるいは NK細胞に感染し増殖を誘発するメカニズムについてはほとんど知られていなかった。活

性化 T 細胞が発現する CD40 リガンド(CD40L)は B細胞が発現する CD40に結合し,B細胞のアポトーシスを抑制する。筆者らは,EBVが持続感染する B,T,NK細胞のすべてにおいて CD40と CD40Lの両者が発現され,CD40Lから CD40へのシグナルがアポトーシスを抑制することを発見した。これは,EBV感染 B,T,NK細胞のそれぞれにおいて CD40シグナルが EBV感染細胞の生存と増殖に重要な役割を果たすことを強く示唆し

ている。この知見はまた CD40シグナルを阻害することにより EBV感染細胞の増殖に起因する CAEBVなどの疾患を治療することが可能であることを示唆している。

実際に,CD40シグナル阻害分子である CD40Igを培養液に添加することにより,EBV 感染 B,T,NK 細胞それぞれのアポトーシスが増強されることが示されてい

る24, 25)(Fig. 6)。CD40 シグナルを標的とした EBV-T/NK LPDに対する治療への応用が期待される。EBV-T/NK-LPDの病態解明と治療法開発に有用な疾患モデル動物はこれまでまったくなく,病態解明や発症

メカニズムの解明はほとんどされていなかった。筆者ら

は,我が国で開発された免疫不全マウスの一系統である

NOGマウスにヒト造血幹細胞を移植し,ヒト免疫系を再構築したマウス(ヒト化マウス)を用いて EBV感染モデルマウスを作製した。このマウスでは EBV感染 B細胞が増殖し,エイズや移植後の免疫不全状態で発症す

る EBV関連リンパ増殖性疾患に酷似したリンパ腫が発症する26)。また,この研究から着想を得て,CAEBVおよび EBV-HLH 患者末梢血単核細胞(PBMC)を NOGマウスに移植する実験を行い,EBV感染 Tおよび NK細胞がこのマウスの体内で増殖すること,移植により

IFN-gをはじめとしたヒトサイトカインが末梢血で産生異常することを確認している。これまでの研究で,全て

のタイプの CAEBVモデルマウス,EBV-HLHモデルマウスの作成に成功し,患者病態を反映していることが示

された27)。これまでの研究で EBV 感染 T/NK 細胞がNOG マウスに生着し増殖するためには非感染 CD4+T細胞の存在が必須であることが明らかとなった。非感染

CD4+細胞を標的とした感染 Tおよび NK細胞制御の可能性が示されている。現在,非感染 CD4+細胞のキャラクタリゼーションを行うとともに,感染 T/NK細胞のマウス内での生着・増殖を助けているものが CD4+細胞における何であるのか(CD4+細胞の産生するサイトカインであるのか,細胞表面分子による相互作用なのか)

について研究を進めている。また,CAEBV,EBV-HLHモデルマウスを用いて新規薬剤の評価,新規治療法の開

発を行なっている。

おわりに

EBV-T/NK-LPD では 1)感染細胞同定解析 2)定量PCRによる EBV-DNA解析 3)感染細胞分画の動向を見るための FCM解析 4)感染細胞のクロナリティー解析が重要である。また,病態変化の早期発見・早期治療介

入を可能にするための定期的なモニタリングが重要であ

る。ここで紹介した疾患は,診断時に EBVを疑うことができるかどうかが早期発見の第一歩である。疑いなく

して,発見はない。末梢血 EBV-DNA量が 10 2.5 copies/mgDNA以上であり,今回紹介した疾患が疑われる場合,感染細胞同定を含めた詳細な解析が必要である

(Fig. 7)。モニタリングでは,2)と 3)をおこない感染細胞の増殖・活性化・感染細胞数をきちんと把握してい

くことは重要である。また,モニタリングすることで治

療効果の評価も可能になるため定期的な検査が重要であ

る。

これまでの感染細胞同定解析は PBMC を 6 等分し,それぞれから① CD19ビーズで B細胞分離② CD4ビーズで T 細胞分離③ CD8 ビーズで T 細胞分離④ CD56ビーズで NK細胞分離⑤ CD14ビーズで単球細胞分離⑥gdビーズで T細胞分離して各分離細胞から DNAを抽

−臨 床 血 液−

450(1996)

Fig. 6 CD40 and CD40L expression induced by EBVinfection, and infected cells control by the CD40 signalinhibitionCD40 and CD40L are co-expressed on one cells withthe EBV infected cells. The infected cells use CD40signal and get antiapoptosis. The infected cellsbecome the cells which are easy to perform apoptosiswhen interaction of CD40 and CD40L is inhibited byCD40Ig.

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出してリアルタイム PCR法で EBV-DNA量を定量し感染細胞を同定してきた(並列法)。この方法は時間短縮

はできるが多くの PBMCを必要とする。使用したマグネットビース以外の感染細胞は不明となる。筆者らは,

PBMCから① CD19ビーズで B細胞分離②残りの細胞から CD4ビーズで T細胞分離③さらに残りの細胞からCD8 ビーズで T 細胞分離④さらに残りの細胞からCD56 ビーズ NK 細胞分離⑤さらに残りの細胞からCD14 ビーズで単球細胞分離⑥さらに残りの細胞からCD3 ビーズで gd-T 細胞分離⑦残った細胞は CD19,/CD4,/CD8,/CD56,/CD14,/gd,の集団と言うことにな

る。それぞれの分画細胞から DNBAを抽出してリアルタイム PCR法で EBV-DNA量を定量し感染細胞を同定してきた(直列法)。この方法だと使用 PBMC数を削減できることと使用したマグネットビース以外の分画に感

染細胞がいる場合も検出できるため直列法を用いて感染

細胞同定をしている。欠点は労力と時間がかかる点であ

る。感染細胞同定解析と FCM解析を併用し感染細胞の確定をおこなうことで複数の細胞分画に感染している場

合も診断可能である。

著者の COI(conflicts of interest)開示:本論文発表内容に関連

して特に申告なし

文 献

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臨 床 血 液 54:10

451(1997)

Fig. 7 The grasp of infected cells by the periodical monitoring of the item of 2& 4 is important.

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−臨 床 血 液−

452(1998)