Upload
others
View
3
Download
0
Embed Size (px)
Citation preview
回転流体の熱対流不安定性An instability of thermal convection in rotating fluid
中央大学大学院理工学研究科博士課程前期課程物理学専攻
山下 直志
指導教官中央大学理工学部物理学教室 田口善弘助教授
2003年 2月 28日
はじめに -大気から水槽へ-
地球に住む我々にとって気象とは,最も身近に感じる自然の不思議であり,脅威であろう.私が気象に興味を持ったのは,それが自然と,人と,科学の真中に位置していると思ったからである.だが,大気はあまりに大きく,その全貌を垣間見るのは難しい.
気象と人と自然と科学のイメージ
気象モデルを作るには様々な気象学の知識が必要になる上,すでに素晴らしいモデルが次々に誕生しているのが現状である.流体のシミュレーションで再現でき,かつ気象現象に結びついているものは何かないかと様々な文献を調べた.そして気象学の歴史をひも解いてみると,1950年代中頃から行われつづけている,ある実験が浮かび上がるのである.「回転水槽実験」‥‥これは必ずしも気象学にのみ使われるものではないが,大気大循環を再現するモデルとして有名なものである.その詳細は本論に譲るが,非常に簡単に実験を行えるという点も長く支持されている所以であろう.この修士論文では,その回転水槽の実験についての数値シミュレーションを行い,その結果について考察する.その結果は,そしてこの論文は必ずしも完全なものではないが,私が今までに培ったシミュレーションのテクニック,物事の考え方,pLATEX2εによる論文の組み方にいたるまで,全てを総動員して完成させたものである.この論文は,重要な導出などは付録に載せてあり,第 1章から第 4章をなるべくスムーズに読めるような流れにしてある.最も短い読み方は,第 1章第 1,2節→第 2章第 1節→第 5章といった進み方である.一度,その順番で読んでから,残りを通読するのも良いかもしれない.
残念ながら,この論文は何らかの自分の仮説を証明するような新しい発見が含まれているわけではない.ただ,恐らくはあまり必要性がなかったか,あまりに手間取る作業なの
iii
で挑戦する人間がいなかった事に取り組んでみたというものの結果である.私は博士後期課程には進まないのでここまでになるが,一時でも物理学を志した者として,この研究がこれからの気象学,及び流体力学の発展にわずかでも貢献できたら幸いである.
iv
目 次
はじめに -大気から水槽へ- ii
目次 iv
第 1章 回転水槽とは 11.1 概要 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 11.2 実験 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 11.3 傾圧不安定波とは . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 21.4 Eadyの傾圧不安定論 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 4
第 2章 3次元シミュレーション 62.1 目的 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 62.2 シミュレーションの歴史 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 62.3 シミュレーション概要 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 7
2.3.1 方程式一覧 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 72.3.2 重力と遠心力の取り扱い . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 9
2.4 仕様 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 102.4.1 計算法 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 102.4.2 概要 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 14
第 3章 結果 1(軸対称状態) 153.1 Ω = 0のとき . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 153.2 Ω = 0のとき . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 16
第 4章 結果 2(非軸対称状態) 184.1 軸対称状態からの転移点 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 18
4.1.1 無次元数について . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 184.1.2 現実の実験結果とシミュレーションの比較 . . . . . . . . . . . . . . 194.1.3 まとめ . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 21
4.2 波動の形 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 214.2.1 ∆T = 20の場合 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 214.2.2 ∆T = 40の場合 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 22
v
4.2.3 まとめ . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 224.3 波動による温度変化 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 23
4.3.1 ∆T = 20の場合 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 234.3.2 ∆T = 40の場合 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 244.3.3 まとめ . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 24
4.4 角速度 Ωと波数 nの関係 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 244.4.1 ∆T = 20の場合 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 244.4.2 ∆T = 40の場合 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 254.4.3 まとめ . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 25
4.5 ヒステリシス . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 264.5.1 ∆T = 20の場合 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 264.5.2 ∆T = 40の場合 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 274.5.3 まとめ . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 28
第 5章 結論 29
付 録A 円筒座標Navier-Stokes方程式の導出 31
付 録B 圧力方程式の導出 37
付 録C ロスビー数と熱ロスビー数について 43
付 録D フーリエ変換とパワースペクトル 45
おわりに -水槽から人間へ- 46
参考文献 47
第1章 回転水槽とは
1.1 概要
この論文は,傾圧不安定波を再現する「回転水槽実験」の 3次元数値シミュレーションを行い,その特性・傾向を,現実のものと比較しながら検討していくものである.「回転水槽実験」とは,1950年頃から始められた実験で,大気大循環∗ をよく再現するモデルとして早くから注目を集めていた.
図 1.1: 回転水槽概略図
創始者の一人であるフルツ (Fultz)がかな
金だらい
盥 を用いたために rotating dishpanと呼ばれるようになったこの実験は,図のような 3重円筒容器に温水と冷水と作業流体 (水)を入れ,回転させることによってできる波を調べるものである. 温水を赤道の熱い空気に,冷水を極付近の冷たい空気に見立てている.まずは実際の実験結果から見てみよう.
1.2 実験
現象はやはり自分の目で確認しなければならない.まずは 3段階に速度変化できる回転台を作成し,その上に 3重円筒容器を乗せ,実験を行った.速度変化をワンタッチで切り替えられる仕組みである.この装置の概観と回路図,そして結果は,図 1.2,図 1.3 のとおりである.スイッチ Aを入れた状態でスイッチ Cを入れると電池 1つ,さらにスイッチBを入れるともう 1つ電池が加わるが,スイッチ Cの回路部分が減速効果を出している.
∗赤道で上昇,極で下降する地球大気の循環のこと.ハドレー循環やフェレル循環等から構成される.
第 1章 回転水槽とは 2
この状態は長時間続けるとショートになり危険なので,つなぎとして扱う.そしてスイッチ Cを切ると,電池 2本の直列つなぎになり,最速となる.
図 1.2: 装置概観 図 1.3: 回転台回路図
図 1.4: 角速度 Ωが小さいとき 図 1.5: 角速度 Ωが大きいとき
図 1.4はまだ角速度が小さいため軸対称な流れしかしていないが,図 1.5は流れが蛇行しているのが確認できる.この流れは傾圧不安定波というものである.実はこの回転水槽
の実験は,地球大気のじょうらん
擾 乱の “傾圧不安定波”というものを表すモデルなのである.故に,「大気大循環のモデル」とまで言うのは少々過大評価の嫌いもあるが,ここではそれ以上は踏み込まないでおこう.
1.3 傾圧不安定波とは
傾圧不安定波についての説明に入る前に,傾圧不安定について説明しよう.傾圧不安定とは,一言でいえば南北の温度傾度のために生ずる大気不安定のことである.大気には,順圧大気と傾圧大気がある.順圧大気というのは等圧面と等温面が平行してい
第 1章 回転水槽とは 3
る大気のことで,傾圧大気とは,等圧面が交わっている大気のことを指す (図 1.6,図 1.7参照).
図 1.6: 順圧大気 図 1.7: 傾圧大気
傾圧不安定波とは,傾圧な大気において温度勾配と圧力勾配のずれがある限度を越えると,バランスが崩れ発生する波動のことである.つまり,通常の温度対流では追いつかなくなり,波動による対流を起こして,より効率的に温度を運ぼうとする現象なのである (図1.8参照).この回転水槽の場合は,まず垂直方向に循環が発生して順調に温度が運んでいたものが,回転によるコリオリ力や遠心力によって阻まれて傾圧不安定波が発生する.
図 1.8: 対流様式の変更
地球の循環の中でこの傾圧不安定波は大きな影響を持っており,いわゆるジェット気流や寒冷低気圧†などはこの波動が原因である.地球上での大気擾乱は図 1.9のようになる.傾圧不安定波は,黄緑の網掛けの部分になる.ここで一つ覚えておいて欲しいのは,傾圧不安定波の波数が 4~7になっていることである.これはこの後説明するシミュレーションの波動数とも大体一致する.回転水槽の実験が 50年経った現在でもなお行われているのは,ただ地球の傾圧不安定波に似ているだけではなく,実際に気象学上での傾圧不安定の定義に一致しているからで
†高層にできる低気圧のこと.寒冷渦とも言う.
第 1章 回転水槽とは 4
図 1.9: 地球上の大気擾乱
ある.その意味で,今回の研究は価値をもつとも言える.次の節で,その例を紹介する.
1.4 Eadyの傾圧不安定論
さて最後に,この回転水槽実験を実際の大気の運動のモデルとして扱ってよいことをEadyの傾圧不安定論 [6]というものを用いて説明して,回転水槽の概要にまつわるこの章を終わろう.この理論は,1949年に用いられたもので,以下の条件を地球大気の傾圧不安定の基本エッセンスとするものである.
(i)コリオリ因数 f が緯度変化しない (f = 2Ω.ここでいう Ωは回転の角速度である).(ii)大気は非粘性のブシネスク流体である.(iii)大気層は鉛直には安定成層している.その深さは有限で且つスケールハイト (Scale-
height)に比べて小さい.その意味で浅い.(iv)基本状態として南北に温度傾度があり,それに対応して西風が吹いている.この西風は高さに対して一定の割合で増加している.
(v)基本状態に加わった微小擾乱は,その振動数がコリオリ因数に比べて小さくて地衡流的‡であり,上昇・下降運動も極めて小さい.また断熱運動である.
では,回転水槽がこの条件を満たすか検討してみよう.まず (i)についてだが,これは明らかに満たしている.ちなみに,コリオリ因数が緯度変化してしまうと,ロスビー波などの別の波動も発生してしまう.
(ii)も成り立つ.ブシネスク流体というのは,基本的には流体を非圧縮性とみなすが,浮力を表す場合の局所的な密度変化は取り入れるとした近似法 (ブシネ近似) § が成り立つ流
‡付録 C参照§つまり,流体の密度は温度によって変化するという仮定.
第 1章 回転水槽とは 5
体のことであり,水などの流体はそれが成り立つとされている.(iii)についてだが,回転水槽は外壁間の温度差によって子午面循環が生じ,底部には冷たくて重い水が流れてきて,上部には暖かくて軽い水がやってきて安定成層になる.スケールハイトというのは密度成層の具合を表す量である.例えば,地球大気の場合平均密度 ρ
は高さ zに対し指数関数的に減少し,つまり
ρ = ρ0exp(−z/H)
とされる.ここで ρ0は地上密度であり,H がスケールハイトである¶.回転水槽の場合,仮に水深が 10cmで上面を 20,下面を 10とすると,上下の密度差 ∆ρ/ρ ∼= 1.5 × 10−3,∆z =10cm,故にH = 6.7 × 103cmである.よって,水深 10cmはこのスケールハイトに比べて圧倒的に小さく,密度差が流体の運動に与える影響は無視してよい程度となり,その意味で浅い.
(iv)の基本状態の温度差と西風は,回転水槽の冷水と温水,そして回転方向を考えたら分かると思う (図 1.4参照).後で紹介するシミュレーション結果を見ていただければわかるが,中~上層で西風,下層で東風になるため,西風が一定の割合で増加していることもすぐわかる.
(v)についてだが,その微小擾乱というものは,自然界には必ず存在する揺らぎである.回転水槽の場合も,運動の大きさが極めて小さく,波動も水平的な動きである.断熱運動の仮定も,壁や底付近の摩擦の大きいところを除けば成り立つといえる.
以上の考察から,回転水槽の実験は Eadyの傾圧不安定論を満たしていると言え,故にこの実験は大気の傾圧不安定波のモデルと言えるのである.
¶地球上では H ∼= 7.2kmとおくと観測によく合う.
第2章 3次元シミュレーション
2.1 目的
では,いよいよこの論文の中心部分に入っていこう.まず,この論文の目的を説明する.この論文の目的は
回転水槽実験のシミュレーションを 3次元MAC法で解き,現実の回転水槽が持つ特性を有しているかを確認すること
である.つまり,回転水槽実験に現れるいくつかの特性をピックアップして,シミュレーション結果と逐一比較するのである.そして,今回の方法で作成した回転水槽のシミュレーションがどこまで再現できたかをまとめ,でき得るなら今後のこの分野の研究の踏み台にでもして頂きたいというのが,この論文の到達目標である.
2.2 シミュレーションの歴史
もしこのシミュレーションがそんなに難しいものではなく,研究結果が山のようにあるのならば,この論文の価値は皆無かもしれない.だが数々の調査の結果,このシミュレーションは意外にもほとんど行われていないことが分かった.
Prof. G.P.Williamsによる研究
恐らく最古のものと思われる研究は,1969年にPrinceton Univercityで行われたGarethP.Williamsによるシミュレーション [3] で,これは流れ関数を用いている.5回の波動が出たとしているが,そのグラフだけ手書きなのが少々疑問である.元よりその論文が書かれた時期というのは,まだ FORTRANが出来て 10年前後,かつ
UNIVAC(EDSAC ∗から 20年しか経っていないコンピュータ)で計算されているのである.そのためか,その紙面のほとんどを計算の手法に費やし,結果は一つだけ載せているに過ぎないのである.故に少々物足りない.
その後,実験観測による研究 [6]や回転水槽の中軸だけを回転させたもの (実験)[5]やロスビー波動のシミュレーション (3次元ではない)[2]などはあるが,結局 3次元で真っ向か
∗1949年にMaurice Wilkesにより完成した最初のプログラム内臓方式のコンピュータのこと.ENIAC はプログラムをプラグによる結線のやり直しによって行うので,厳密な意味でのプログラム内蔵方式ではない。
第 2章 3次元シミュレーション 7
ら行われたシミュレーションはなかった.最近の研究としては,1991年に発表された京都大学の余田成男先生の研究が挙げられる [4].
余田成男先生の研究
余田先生は回転流体に関する研究の第一人者であるが,それでも彼の論文 (今から 10年も前ではあるが)は 2次元の流れ関数†で計算されている.作業流体に水ではなくシリコンオイルを用いられているため私の結果とは異なるが,実測値とも概ね合致する結果を出されている.ただし,その論文での彼の目的は回転流体においての遠心力がもたらす影響であったため,波動状態に入ってからの温度変化や波動の変化,ヒステリシス性があるか否か等の諸性質は言及されていなかった.
2.3 シミュレーション概要
2.3.1 方程式一覧
それでは,いよいよ私の行ったシミュレーションについての説明に入る.この回転水槽のシミュレーションを行うには,3次元の Navier-Stokes 方程式を円筒座標系で解かなければならない.
Navier-Stokes方程式とは,Navier ‡と Stokes §によって導かれた流体の運動を記述する方程式である.密度を ρ,流れの速度を (u, v, w),圧力を p,動粘性係数¶を ν とすると,非圧縮流体の場合は以下のように書ける.
DV
Dt= g − 1
ρ∇p + ν[∇2V ] − 2Ω × V − Ω × (Ω × r). (2.1)
温度を記述するエネルギー方程式は,Cpを定圧熱容量,κを熱伝導係数とすると,
ρCpDT
Dt= κ∇2T (2.2)
となり,流体が非圧縮性であるとき,連続の方程式は
(∇ · V ) = 0 (2.3)
である.
†流速を表すスカラー量.x方向や y 方向に微分することによって流速が求められる.‡L.M.H.Navier.1785-1836.フランスの物理学者.§G.G.Stokes.1819-1903.イギリスの物理学者.¶粘性率 µを密度 ρで割ったもの.
第 2章 3次元シミュレーション 8
(2.1),(2.2),(2.3)を直交座標で表すと,次のようになる.
∂u
∂t+ u
∂u
∂x+ v
∂u
∂y+ w
∂u
∂z= gx − 1
ρ
∂p
∂x+ ν
(∂2u
∂x2+
∂2u
∂y2+
∂2u
∂z2
),
∂v
∂t+ u
∂v
∂x+ v
∂v
∂y+ w
∂v
∂z= gy − 1
ρ
∂p
∂y+ ν
(∂2v
∂x2+
∂2v
∂y2+
∂2v
∂z2
),
∂w
∂t+ u
∂w
∂x+ v
∂w
∂y+ w
∂w
∂z= gz − 1
ρ
∂p
∂z+ ν
(∂2w
∂x2+
∂2w
∂y2+
∂2w
∂z2
).
(2.1′)
ρCp
(∂T
∂t+ u
∂T
∂x+ v
∂T
∂y+ w
∂T
∂z
)= κ
(∂2T
∂x2+
∂2T
∂y2+
∂2T
∂z2
). (2.2
′)
∂u
∂x+
∂v
∂y+
∂w
∂z= 0. (2.3
′)
これを踏まえて円筒座標を見る.その導出は付録Aをご覧いただければ分かるので,ここではふれない.(2.4)と (2.5) にある角速度Ωの入っている項は,rΩ2が遠心力,それ以外の 2Ωvθと 2Ωvrがコリオリ力である‖.この項を入れたことにより,回転円筒座標系になる.
<運動方程式>
∂vr
∂t+ vr
∂vr
∂r+
vθ
r
∂vr
∂θ+ vz
∂vr
∂z︸ ︷︷ ︸対流項
−v2θ
r− 2Ωvθ − rΩ2
= −1ρ
∂p
∂r+ ν
∂
∂r
(1r
∂(rvr)∂r
)+
1r2
∂2vr
∂θ2− 2
r2
∂vθ
∂θ+
∂2vr
∂z2
, (2.4)
∂vθ
∂t+ vr
∂vθ
∂r+
vθ
r
∂vθ
∂θ+ vz
∂vθ
∂z︸ ︷︷ ︸対流項
+vrvθ
r+ 2Ωvr
= − 1rρ
∂p
∂θ+ ν
∂
∂r
(1r
∂(rvθ)∂r
)+
1r2
∂2vθ
∂θ2+
2r2
∂vr
∂θ+
∂2vθ
∂z2
, (2.5)
∂vz
∂t+ vr
∂vz
∂r+
vθ
r
∂vz
∂θ+ vz
∂vz
∂z︸ ︷︷ ︸対流項
= −1ρ
∂p
∂z+ ν
1r
∂
∂r
(r∂vz
∂r
)+
1r2
∂2vz
∂θ2+
∂2vz
∂z2
+ g. (2.6)
‖第 1章の Eadyの傾圧不安定論で出てきたコリオリ因子は,この 2Ωである.
第 2章 3次元シミュレーション 9
<連続の式>
1r
∂
∂r(rvr) +
1r
∂vθ
∂θ+
∂vz
∂z= 0. (2.7)
<エネルギー方程式>
ρCp
(∂T
∂t+ vr
∂T
∂r+
vθ
r
∂T
∂θ+ vz
∂T
∂z
)
= κ
1r
∂
∂r
(r∂T
∂r
)+
1r2
∂2T
∂θ2+
∂2T
∂z2
. (2.8)
ここで,r, θ, zはそれぞれ図 2.1に対応する座標である.
図 2.1: r, θ, zの意味
(2.4)~(2.6)に書いてある “対流項”は,後の説明で使うので記憶していて欲しい.
2.3.2 重力と遠心力の取り扱い
(2.4)の遠心力と,(2.6)の重力は取り扱いが少々厄介で,今回のシミュレーションでもかなり苦戦した.しかし結局は余田先生と同じく,遠心力と重力にブシネ近似を用いることで解決した.以下でブシネ近似について説明する.
ブシネ近似とは
ブシネ近似 (Boussinesq approximation)とは,非圧縮性の流体の計算の中で浮力項に関してのみ,温度による密度変化を認めるというものである.重力項に関するブシネ近似の具体的なやり方をここに述べる.今,圧力 pを
p = p0 + p′ (2.9)
と表す.p0は温度 T が初期値 T0の下で静止しているときの圧力で,p′は p0からの変動分である.
第 2章 3次元シミュレーション 10
初期状態において
g − 1ρ
∂p0
∂z= 0 (2.10)
が成り立っているとする (静水圧平衡).そこで,(2.6)の g − 1
ρ∂p∂z を (2.9)と (2.10)を用いてまとめると,
g − 1ρ
∂p
∂z= g − 1
ρ
(∂p0
∂z+
∂p′
∂z
)= g − ρ0g
ρ− 1
ρ
∂p′
∂z(2.11)
となる.ここで流体の密度を次式で近似する.
1ρ
=1 + β0(T − T0)
ρ0. (2.12)
ただし,β0は T = T0における体膨張係数である.最終的に (2.11)は
g − 1ρ
∂p
∂z= g − 1 + β0(T − T0)g − 1
ρ
∂p′
∂z(2.13)
= −gβ0(T − T0) − 1ρ
∂p′
∂z(2.14)
とまとまる.これがブシネ近似である [9].すなわち,シミュレーションの中で圧力は全て平衡状態からのずれである.恐らくはこれが一般的なブシネ近似であるが,余田先生は私が用いた −gβ(T − T0)の
T0を,Tinner wall としているのである.つまり,基準の温度を 3重円筒の中心の冷水の温度にしているのである.本質的な問題ではないと思うが,違うという点だけは明記しておく.実際のシミュレーションの中では,ε = −β0(T − T0)として,遠心力と重力はそれを乗じたものを使用している.すなわち,(2.4)の−rΩ2は−εrΩ2に,(2.6)の+gは+εgになるのである.
2.4 仕様
2.4.1 計算法
ここでは,実際にシミュレーションに使った計算方法を説明する.
MAC法
MAC法は,Harlowらによって開発された最も基本的な流体の計算方法で,先ほどの(2.4)~(2.6),(2.8)を真面目に解いていくものである.
第 2章 3次元シミュレーション 11
まずは,円筒を図 2.2のように格子分割する.そして,そのそれぞれの格子についての流速 u, v, w, p, T を計算する.それぞれの運動方程式を
∂u
∂t= ∆U =⇒ u = u + ∆Udt,
∂v
∂t= ∆V =⇒ v = v + ∆V dt,
∂w
∂t= ∆W =⇒ w = w + ∆Wdt,
∂T
∂t= ∆T =⇒ T = T + ∆Tdt,
∆U, ∆V, ∆W, ∆T は
(2.4)~(2.6), (2.8)の時間微分以外の項
の形に置き換える.あとは,それぞれの微分項を差分形式に置き換えて計算すればよい.
図 2.2: 格子分割
残る問題は圧力 pだが,これが他の変数と異なるのは,時間微分の項が存在しないので上記のようには変形できないということである.よって,まず∇2pを求めてから,収束法で計算する.これは運動方程式の 3式をそれぞれの方向成分で微分して,連続の方程式を用いてまとめることによって求めることが出来る (詳細は付録 B参照).最終的に,次の形になる.
第 2章 3次元シミュレーション 12
<圧力方程式>
∇2p =ρ
[− ∂
∂t(divV ) − vr
∂
∂r(divV ) − vθ
r
∂
∂θ(divV ) − vz
∂
∂z(divV )
−(
∂vr
∂r
)2
− 1r
(∂vθ
∂θ
)2
−(
∂vz
∂z
)2
− 2r
∂vθ
∂z
∂vz
∂θ− 2
r
∂vθ
∂r
∂vr
∂θ− 2
∂vz
∂r
∂vr
∂z− 3
vr
r2
vθ
∂θ+
1r
∂v2θ
∂r− 2
v2r
r
+ 2εΩ2 + 2Ω(
vθ
r+
∂vθ
∂r
)− β0rΩ2 ∂T
∂r
− 2Ωr
∂vr
∂θ+ β0g
∂T
∂z
ν
∂2
∂r2(divV ) +
1r2
∂2
∂z2(divV ) +
∂2
∂θ2(divV ) +
1r
∂
∂r(divV )
]. (2.15)
収束法とは,上記の圧力方程式を
p = − 1GS
−1
r
pi,j+1,k − pi,j−1,k
2dr− pi,j+1,k + pi,j−1,k
(dr)2− 1
r2
pi+1,j,k + pi−1,j,k
(dθ)2
−pi,j,k+1 + pi,j,k−1
(dz)2+ Term
,(
ただし,GS = dr−2 + r−2dθ−2 + dz−2, Termは先の圧力方程式の右辺.pの添え字はそれぞれ (θ, r, z)方向の格子番号.
)
の形に置き換えて,各格子点が収束する (計算を繰り返してもある一定数以上差が増えない状態) まで計算を行うことを指す.本来,非圧縮のときは divV = 0であるが,数値計
算の都合上,∆t秒後の divV = 0として∂
∂t(divV ) = −divV
∆tとするにとどめる (予測子
修正子法).
上流差分
上流差分について説明する前に,差分法についての説明をする.差分法 (finite differencemethod)とは,数値計算の手法のひとつであり,任意の関数 f(x)を有限個の格子点を用いてテイラー展開により以下のように表現する.
f(x + ∆x) =f(x) + (∆x)f ′(x) +(∆x)2
2!f ′′(x) +
(∆x)3
3!f ′′′(x) + · · · , (2.16)
f(x − ∆x) =f(x) − (∆x)f ′(x) +(∆x)2
2!f ′′(x) − (∆x)3
3!f ′′′(x) + · · · . (2.17)
この両式の差をとると,次式を得る.
f(x + ∆x) − f(x − ∆x) = 2(∆x)f ′(x) + O[(∆x)3].
第 2章 3次元シミュレーション 13
ここでO[(∆x)3]は (∆x)3の誤差を示すが,これを無視すると
f ′(x) =f(x + ∆x) − f(x − ∆x)
2∆x(2.18)
のように書け,これが中心差分と呼ばれるものである.ただし,これは O[(∆x)3]を無視しているため,2次精度である.ちなみに (2.16)を変形した前進差分は
f ′(x) =f(x + ∆x) − f(x)
2∆x, (2.19)
(2.17)を変形した後退差分は
f ′(x) =f(x) − f(x − ∆x)
2∆x, (2.20)
のようになる.これらは片側差分と呼ばれ,1次精度である.差分法とは,このようにして微分の項を計算できる形にしたものである.
では,上流差分の説明に入る.上流差分とは,先の (2.4)~(2.6)の対流項と書かれた項に片側差分を用いるものである.対流項は (V · ∇)V の形で表され,非線形現象を生み出す元になっており,不安定になりやすい.そこで計算を安定に行うために,影響をより大きく与えているであろう上流側の格子の値を用い,かつ下流側の値は用いずに計算する方法,すなわち上流差分を行うというのが最も一般的な計算方法である.具体的なやり方としては簡単で,ある格子点での差分を行うときに,そこでの流速の上流にあたる方向に対して片側差分を行うのである.例えば,直交格子において x方向に正の流速がある場合は,その格子の負の方向が上流であるので,−∆xを用いる後退差分を用いて計算する.といった具合である.ただしこれは対流項のみに使用するのであって,他の微分項には用いない∗∗.
スタッガードグリッド
スタッガードグリッドとは,圧力や温度などのスカラー量を表す格子と,ベクトル量を表す格子を半格子分だけずらして計算するものである.この格子を用いると,連続の式を満足させるような圧力場を計算するときに,振動解などの非現実的な解の発生を抑えることができる.図 2.3がスタッガードグリッドである.赤の格子がスカラー量を表す格子で,赤丸がその定義点.青の矢印が X方向の流速を表すベクトルで,緑の矢印が Y方向の流速を表すベクトルであるが,この 2つの定義点もやはり半格子分だけずらす.これが,スタッガードグリッドである.
∗∗時間微分の項は片側差分にならざるを得ないが.
第 2章 3次元シミュレーション 14
図 2.3: スタッガードグリッド
2.4.2 概要
では,最後に今回のシミュレーションの概要を記してこの章を終わる.まず,使用した計算法はMAC法,上流差分,スタッガードグリッドで,格子数は θ方向に 30,r方向に 30,z方向に 10である.少なく感じるかもしれないが,計算時間の都合上ここまでが限度だった.パラメータは水のものを使用し,
動粘性係数 ν = 1.0 × 10−4 [m2/s], 熱伝導係数 κ = 0.6 [W/m·K],
定圧熱容量 Cp = 4.178 [J/K·kg], 体膨張係数 β0 = 2.1 × 10−4 [1/K],重力加速度 g = 9.8 [m/s]
である.回転水槽の大きさは図 2.4のように設定し,時間刻みはCFL (Courant-Friedrichs-Lewy)条件††を満たす大きさ 1.0× 10−3[s]に設定した.回転を始める前に,波数 4で,大きさが10−6[m/s] の擾乱の元を入れる.
図 2.4: 回転水槽の大きさ
††流速 V と時間刻み t,格子刻み ∆xに対して |V |∆t ∆xを満たす格子条件のこと.
第3章 結果1(軸対称状態)
この章と次の章ではシミュレーション結果を確認する.
3.1 Ω = 0のとき
まずは,回転しない状態での温度対流から見てみよう.その場合円周方向への速度は 0なので,速度ベクトルのシミュレーション結果は以下のようになった.これは,外壁と内壁の温度差 ∆T を 20に保った状態で 50秒間計算を行ったものである.可視化には AV
え せ
似非∗ というフリーソフトを用いた.視覚上の都合からベクトルの格子数は多少間引いて表示している.
図 3.1: r-z面対流 図 3.2: r-z面温度分布 図 3.3: r-z面圧力分布
図 3.4: 上部対流 図 3.5: 下部対流
∗作者おりいる http://hp.vector.co.jp/authors/VA011972/download.html
第 3章 結果 1(軸対称状態) 16
水は,高温の外壁で暖められて上昇し,低温の内壁に冷やされて下降する.暖かい水は上部にたまり,冷たい水は下部にたまって安定な成層をなしている.これらの結果から,温度対流のみの場合の回転水槽の構造は以下のようになっていると推定できる.
図 3.6: Ω = 0のときの速度ベクトル概略図
3.2 Ω = 0のとき
次に,ゆっくり回転が始まった場合のシミュレーション結果を確認する.下図のシミュレーション結果は∆T = 20,Ω = 1.0で 30秒間計算を行ったときの結果である.
図 3.7: r-z面対流 図 3.8: r-z面温度分布 図 3.9: r-z面圧力分布
図 3.10: 上部対流 図 3.11: 下部対流
第 3章 結果 1(軸対称状態) 17
これらの結果から,傾圧不安定波が発生する前の回転水槽の構造は以下のようになっていると推定できる.
図 3.12: Ω = 0の際の速度ベクトル概略図
外壁に沿って上昇した水は上層で中心に向かって流れるが,コリオリ力を受けて西風をつくり,下層で外壁に向かう流れは東風をつくる†.温度分布を見ると,回転前に比べてずいぶん傾いているのが分かる.これは,温度対流が回転によって弱められたためで,これが傾圧不安定波を引き起こす元となるのである.
†これは地球上で言うところのハドレー循環である.
第4章 結果2(非軸対称状態)
この章では,傾圧不安定波が現れている状態についてのシミュレーション結果を確認する.傾圧不安定波が発生すると,興味深い現象がいくつも発生する,だが過去の実験 [6]では確認されていても,それをシミュレーションで確認した例はないようである.そこで,傾圧不安定波が引き起こす様々な現象をシミュレーションがどこまで再現できているか,実際の実験結果と比較しながら進めて行きたい.確認する項目は次の 5点である.
• 軸対称状態からの転移点
• 波動の形
• 波動による温度変化
• 角速度 Ωと波数 nの関係
• 波数のヒステリシス性
4.1 軸対称状態からの転移点
まず,傾圧不安定波が発生する瞬間の転移点について考察する.その際に必要になるので,その前に無次元数についての説明をしておく.
4.1.1 無次元数について
無次元数とは力学的相似則を表すもので,すなわちそれぞれ別のパラメータであっても,その無次元数が同じであれば力学的に相似な現象といえるのである.その最たるものがレイノルズ数∗であることは有名である.ただし回転水槽の場合必要になる無次元数は,熱ロスビー数とテイラー数である.
∗1883年にイギリスの工学者レイノルズが行った実験により発見された無次元数
第 4章 結果 2(非軸対称状態) 19
熱ロスビー数とテイラー数
熱ロスビー数とは,ロスビー数に現れる代表的流速を温度風で置き換えたもの (の 4倍)であり,
Θ =gd∆ρ
ρ0Ω2D2
で表される無次元量である (付録 C参照).ここで,Ωは回転速度,D は内外壁の間隔,dは流体 (水) の深さ,∆ρは水平温度差 ∆T に対応する密度差 (熱膨張係数 β を用いて∆ρ/ρ0 = β∆T と表せる),ρ0は平均密度,gは重力加速度である.
テイラー数とはコリオリ力と粘性摩擦力の比で
Ta =4Ω2D4
ν2· D
d
として表される無次元量である.νは動粘性係数である.
4.1.2 現実の実験結果とシミュレーションの比較
それでは実際の比較に入る.シミュレーションとしては∆T = 10から∆T = 50まで 10刻みで行ったので以下に述べたもの以外のデータもあるが,全ての温度に対しての結果を載せてもいたずらに紙面を費やすのみなので,ここではそれぞれの項目に対して∆T = 20と∆T = 40 での研究結果を載せる.
Ω0と∆T の関係
ここで,傾圧不安定波が発生するときの角速度を臨界角速度 Ω0と定義する.1958年にハイドという学者が様々な容器で実験した結果,軸対称状態からの転移がほぼΘ ∼= 2.3で起こることを発見した†.それを踏まえて∆T と Ω0の関係を考えると,
Θ =gd∆ρ
ρ0Ω2D2=
gdβ∆T
Ω2D2∼= 2.3
∴ Ω0∼=√
gdβ∆T
2.3D2
となり,臨界角速度のグラフが描ける.だが,作成したシミュレーションにおいての結果と比較すると意外な結果になってしまった.図 4.1がそれであるが,実験値の右肩上がりのグラフに対してシミュレーション結果は,ほぼ全く逆の傾向を示している.なぜこのような結果になったのかについては様々な議論を行ったが,結局満足な解答は得られなかった.
†次項の図 4.2で分かるが,必ずしも全ての場合ではない.
第 4章 結果 2(非軸対称状態) 20
図 4.1: ∆T と Ωのグラフ
Θと Taの関係
熱ロスビー数とテイラー数のグラフでも確認する.Θと Taのグラフ図 4.2は安定度図表 (Stability Diagram)と呼ばれ,回転水槽の状態を表現する一般的な図である.
図 4.2: 安定度図表
この安定度図表の見方を説明する.まず,水についてのグラフは橙色の破線と実線が対応している.破線のグラフが実験値で,破線で囲まれた中が非軸対称領域で,その外が軸対称領域である.実線のグラフがシミュレーション結果で,実線の上側が軸対称領域,下側が非軸対称領域である.水色のグラフはシリコンオイルで行われた,余田成男先生のシミュレーション結果と実験値 [1]である.破線が実験値,実線がシミュレーション結果で,どちらも右側が非軸対称領域,左側が軸対称領域である.確かにこの図でも私のシミュレーションは一致しているとは言い難い.だが,シリコン
第 4章 結果 2(非軸対称状態) 21
オイルのパラメータでのシミュレーションではあるが,余田成男先生の結果も参考にさせてもらうと,確かに大体実験値と一致しているが,よく見ると高温部と低温部での傾向は逆のようにも見える.彼の実験の方が合致度は高いとは思うが,それでもどうやら完全に一致させるのは難しいようである.
4.1.3 まとめ
実験値と比較すると,実験値のほうは y = ax2 の形に対し,シミュレーション結果はy = ax−2の形のグラフになった.軸対称状態からの転移の瞬間はこのシミュレーションで最も注目していた部分のひとつであるため,あまりしっかりした結論にならなかったのが悔しい.様々な議論の中で,ブシネ近似がいけないのではないか?とか境界条件ではないか?とかそもそも圧力方程式に不備があったのではないか? 等の意見が出たが,どれも決定的にはならなかった.引き続き考察を行っていく.
4.2 波動の形
次に,臨界角速度を越えて発生した傾圧不安定波の波動の形についての研究である.実験での波動の現れ方は大体 2回波動から始まって,3回,4回と増えていく‡.しっかりした写真が入手できなかったので,模式図を載せておく.
図 4.3: 波動の増え方
この図を踏まえて,シミュレーション結果と比較してみる.
4.2.1 ∆T = 20の場合
流れの状態がよりよく分かるように,渦度で表示している.20の場合は,2回波動発生の後,4回波動が発生しているように見える.だが実際には他の波動もかなり混ざっているため,視覚的にはこの後の波動は波数がよく分からなくなってしまっている.
‡ただし,大きな (半径 30cmを越えるような)水槽では 2や 3回波動がでないこともあるらしい [6].
第 4章 結果 2(非軸対称状態) 22
図 4.4: ∆T = 20での波動の変化 左から Ω = 0.5, 1.25, 1.5のときの渦度である.
どの波動がどの程度混ざっているかは,この後のフーリエ変換で明らかになる.
4.2.2 ∆T = 40の場合
図 4.5: ∆T = 40での波動の変化 左から Ω = 0.2, 0.5, 1.0のときの渦度である.
∆T = 40の場合も大体同じ傾向にある.だが,こちらははっきり現れるのは 2回波動までのようである.ただ,フーリエ変換で確認すると,3回,4回の波動が現れていくのがわかる.
4.2.3 まとめ
∆T = 20も∆T = 40も 2回波動から始まる様子は再現できているが,他の波動が入り込んでしまい,きれいに変化していく様子までは再現できなかった.混ざっている高周期の波動をフーリエ変換 (付録D参照)してみると,ずいぶん高い波動が早くから出ている.現実の実験での調査は無理かもしれないが,実際にそうなのかもしれない.
第 4章 結果 2(非軸対称状態) 23
4.3 波動による温度変化
次に,発生した波動による温度の推移を調べてみる.もともと傾圧不安定波は温度を輸送するために発生している波なので,波動の通過に対応して温度が変化するはずである.
図 4.6: 回転水槽の渦度と温度の立体構造
図 4.6は ∆T = 20で Ω = 3.0の際の回転水槽の温度分布と渦度の立体構造である.図中の温度観測点においての温度変化を調べてみる.
4.3.1 ∆T = 20の場合
図 4.7: ∆T = 20の温度観測点におけるおける温度変化
図 4.7は Ω = 3.0で一分間温度変化を確認したものである.少々の乱れあるものの,サインカーブを描いているのは一目瞭然である.波動が通過すると温度が下降し,次の波動が来るまでにまた温度が上昇する形が確認できる.
第 4章 結果 2(非軸対称状態) 24
4.3.2 ∆T = 40の場合
同様に∆T = 40の場合も確認する.
図 4.8: ∆T = 40の温度観測点における温度変化
図 4.8も Ω = 3.0で一分間温度変化を確認したものである.図 4.7に比べて少しサインカーブが乱れているのは,∆T = 20に比べて,この時点での波動が乱れていたからと思われる (図 4.10の Ω = 3.0の実線を参照のこと).
4.3.3 まとめ
シミュレーションの結果,波動の通過によって温度が変化する様子が再現できた.傾圧不安定波とはこのように,軸対称状態の対流による温度輸送と異なり,波動により温度を輸送するものなのである.
4.4 角速度Ωと波数nの関係
どの∆T でも,角速度が上がるとそれにある程度比例して§波数も増加していく.このシミュレーションがその性質を満たしているかを確認してみる.
4.4.1 ∆T = 20の場合
図 4.9を見ると,回転速度がまだ Ω = 2.0辺りでは波数 2や 4にピークが出ているのがわかるが,角速度の増加にしたがってピークの位置が推移していき,Ω = 6.0には波数 2でなく,4や 6にピークが現れるのが確認できる.このグラフは渦度をフーリエ変換したものの絶対値の 2乗 (パワースペクトル)を表したもので,横軸が波数,縦軸が強度であり,ある周期の波がどの割合で現れているかが確認できるものである (付録D参照).例えば,波数 3と波数 6の部分にピークが出ている場合,全体としては,波数が 3つの波と 6つの波が混ざった状態にあるということである.
§必ずしも比例関係のように決まっているわけではなく,未だ完全な因果関係は謎である.
第 4章 結果 2(非軸対称状態) 25
図 4.9: ∆T = 20における角速度と波数の関係
4.4.2 ∆T = 40の場合
図 4.10: ∆T = 40における角速度と波数の関係
図 4.10の場合は,波数 3のピークに目が奪われてしまうが,そのピークは角速度の大きなときに現れていることと,波数 6にピークが現れてきていることに注意したい.やはり∆T = 40でも,角速度の増加にしたがって波数が増加している.
4.4.3 まとめ
∆T = 20でも∆T = 40でも,同様に Ωの増加に伴って波数が増加していることが分かる.ただし,波数はどちらも 6辺りが限界のようである.
第 4章 結果 2(非軸対称状態) 26
4.5 ヒステリシス
図 4.11: 実験結果
実験上では,傾圧不安定波がヒステリシス性を持つことは確認されている [6](図 4.11参照).往路に比べて復路の方が,波数が高くなる現象が発生するのである.これをシミュレーションでも確認してみる.回転速度を徐々に上げていき,波動が現れて少ししてから今度は徐々に回転速度を下げ,波数の大きさとその数を調べてみる.
4.5.1 ∆T = 20の場合
図 4.12: ∆T = 20における角速度と波数の関係
n
図 4.13: ∆T = 20における角速度と波数の関係
往路Ω = 2.0では,波数 2と 4にピークがあるだけだが,復路Ω = 1.5になると一気に
第 4章 結果 2(非軸対称状態) 27
波数,強度ともに増加する.結果として軸対称状態に戻るのは往路より少し遅れてΩ = 0.5になる.図 4.13は少し変わったグラフだが,図 4.12をもう少し見やすくしたものである.青丸が往路,赤丸が復路を表し,丸の大きさが強度,z座標が波数を表している,丸の右肩の数字は波数の値である.このグラフを波数と角度の 2次元表示にすると,図 4.11と同様の形が得られる.
4.5.2 ∆T = 40の場合
図 4.14: ∆T = 40における角速度と波数の関係
n
図 4.15: ∆T = 40における角速度と波数の関係
傾向は∆T = 20と全く同じである.ただ,波数の大きさには大差がなく,やはり波数は∆T に直接的には作用しないようである.
第 4章 結果 2(非軸対称状態) 28
4.5.3 まとめ
∆T = 20でも∆T = 40でも,同様の結果になることが分かる.これらの波動状態のパターンは,Ωと∆T で一意に決めることは無理なようである.復路に入って突然波数が増えるのは,よい説明が思いつかない.ただ,往路から復路への回転数の変化は滑らかに行ったので,急速な回転数の減少によって発生したのではないことだけ記しておく.
第5章 結論
第 3章,第 4章の結果を踏まえて表にまとめると,以下のようになる.
∗
Ω∆T
Ω=
0Ω
=0
図 5.1: シミュレーション結果のまとめ
この表から考察すると,軸対称状態,非軸対称状態それぞれの特徴は再現されているが,転移の前後の再現具合が今一つである.やはり,軸対称状態からの転移は非常に難しく,その再現には無駄に 3次元にするよりは 2次元のシミュレーションの方が誤差が少ないのかもしれない.
∗暖気側で下降,寒気側で上昇する対流のこと
第 5章 結論 30
シミュレーションを行う際,いたずらに 3次元で行うのではなく,その現象が本質的に3次元か否かを見極める必要があるといわれる.確かにそのとおりだと思うが,現象の完全な再現はやはり 3次元で行うべきだと思う.しかし,それによるメリット,デメリットがそれぞれあると思うので,2次元のシミュレーションから 3次元のシミュレーションで誤差にどのような違いが出るか等,残る時間をもって研究を続けてみたいと思う.
付 録A 円筒座標Navier-Stokes方程式の導出
ここでは,Navier-Stokes方程式
DV
Dt= g − 1
ρ∇p + ν[∇2V ]
を円筒座標系に変換する方法について紹介する.ただし,この導出は [9]を再構築したものであることを明記しておく.
円筒座標とは
円筒座標系と直交座標系が最も異なるのは,単位ベクトルである.直交座標系とは違い,円筒座標系では単位ベクトルの向きは位置によって異なるので,単位ベクトルの微分は,他の軸方向の単位ベクトルにも影響を及ぼす.よって,単位ベクトルの微分には注意を要する.
z
x
y
z
rsin
xr
yrcos
P(x,y,z)P(r, ,z)
0
0 r0 2
z +
図 A.1: 直交座標と円筒座標
1
1
cos
sin
sin
cos
r
0 x
y
P(x,y,z)P(r, ,z)
hθhy
hr
hx
図 A.2: 各座標の単位ベクトル
付 録A 円筒座標Navier-Stokes方程式の導出 32
直交座標と円筒座標は,
x = r cos θ, r =√
x2 + y2,
y = r sin θ, θ = arctan(y/x),
z = z, z = z
の関係をもつ.単位ベクトルを hとすると,直交座標系 (hx, hy, hz):位置に依存しない円筒座標系 (hr, hθ, hz):位置により向きが変わる
の関係があり,各ベクトルの対応は図A.2より以下のようになる.
hr = cos θ hx + sin θ hy,hθ = − sin θ hx + cos θ hy,hz = hz,
hx = cos θ hr − sin θ hθ,hy = sin θ hr + cos θ hθ,hz = hz.
故に,偏導関数は以下のようになる.
∂∂r
hr = 0, ∂∂r
hθ = 0, ∂∂r
hz = 0,∂∂θ
hr = hθ, ∂∂θ
hθ = −hr, ∂∂θ
hz = 0,∂∂z
hr = 0, ∂∂z
hθ = 0, ∂∂z
hz = 0.
V と∇を円筒座標系にすると以下のようになる.
V = hrvr + hθvθ + hzvz,
∇ = hx∂
∂x+ hy
∂
∂y+ hz
∂
∂z
= (cos θ)hr + (− sin θ)hθ
(cos θ)∂
∂r+
− sin θ
r
∂
∂θ
+ (sin θ)hr + (cos θ)hθ
(sin θ)∂
∂r+
cos θ
r
∂
∂θ
+ hz
∂
∂z
=
(cos2 θ)hr∂
∂r+
− sin θ cos θ
rhr
∂
∂θ+ (− sin θ cos θ)hθ
∂
∂r+
sin2 θ
rhθ
∂
∂θ
+
(sin2 θ)hr∂
∂r+
sin θ cos θ
rhr
∂
∂θ+ (sin θ cos θ)hθ
∂
∂r+
cos2 θ
rhθ
∂
∂θ
+ hz
∂
∂z
= hr∂
∂r+
1rhθ
∂
∂θ+ hz
∂
∂z.
付 録A 円筒座標Navier-Stokes方程式の導出 33
DV
Dtについて
D
Dt=
∂
∂t+ (V · ∇)
=∂
∂t+ (hrvr + hθvθ + hzvz) ·
(hr
∂
∂r+
1rhθ
∂
∂θ+ hz
∂
∂z
)=
∂
∂t+ vr(hr · hr)
∂
∂r+
1rvr(hr · hθ)
∂
∂θ+ vr(hr · hz)
∂
∂z
+ vθ(hθ · hr)∂
∂r+
1rvθ(hθ · hθ)
∂
∂θ+ vθ(hθ · hz)
∂
∂z
+ vz(hz · hr)∂
∂r+
1rvz(hz · hθ)
∂
∂θ+ vz(hz · hz)
∂
∂z
=∂
∂t+ vr
∂
∂r+
vθ
r
∂
∂θ+ vz
∂
∂z.
故に,
DV
Dt=
∂V
∂t+ [(V · ∇)V ]
=∂V
∂t+(
vr∂
∂r+
vθ
r
∂
∂θ+ vz
∂
∂z
)(hrvr + hθvθ + hzvz)
=∂V
∂t+
vr∂
∂r(vr
hr) + vr∂
∂r(vθ
hθ) + vr∂
∂r(vz
hz)
+
vθ
r
∂
∂θ(vr
hr) +vθ
r
∂
∂θ(vθ
hθ) +vθ
r
∂
∂θ(vz
hz)
+
vz∂
∂z(vr
hr) + vz∂
∂z(vθ
hθ) + vz∂
∂z(vz
hz)
=∂V
∂t+ hr
(vr
∂vr
∂r+
vθ
r
∂vr
∂θ− v2
θ
r+ vz
∂vr
∂z
)
+ hθ
(vr
∂vθ
∂r+
vθ
r
∂vθ
∂θ+
vrvθ
r+ vz
∂vθ
∂z
)
+ hz
(vr
∂vz
∂r+
vθ
r
∂vz
∂θ+ vz
∂vz
∂z
).
付 録A 円筒座標Navier-Stokes方程式の導出 34
成分別に書くと(DV
Dt
)r
=∂vr
∂t+ vr
∂vr
∂r+
vθ
r
∂vr
∂θ+ vz
∂vr
∂z− v2
θ
r,
(DV
Dt
)θ
=∂vθ
∂t+ vr
∂vθ
∂r+
vθ
r
∂vθ
∂θ+ vz
∂vθ
∂z+
vrvθ
r,
(DV
Dt
)z
=∂vr
∂t+ vr
∂vr
∂r+
vθ
r
∂vr
∂θ+ vz
∂vr
∂z.
(A.1)
∇2V について
∇2V = ∇(∇ · V ) − [∇× [∇× V ]].
まずは∇(∇ · V )から求める.
∇(∇ · V ) =(
hr∂
∂r+
1rhθ
∂
∂θ+ hz
∂
∂z
)1r
∂(rvr)∂r
+1r
∂vθ
∂θ+
∂vz
∂z
= hr
[∂
∂r
1r
∂(rvr)∂r
+
∂
∂r
(1r
∂vθ
∂θ
)+
∂
∂r
(∂vz
∂z
)]
+ hθ1r
[∂
∂θ
1r
∂(rvr)∂r
+
∂
∂θ
(1r
∂vθ
∂θ
)+
∂
∂θ
(∂vz
∂z
)]
+ hz
[∂
∂z
1r
∂(rvr)∂r
+
∂
∂z
(1r
∂vθ
∂θ
)+
∂
∂z
(∂vz
∂z
)].
次に,∇× V を求める.
hr × hr = 0, hr × hθ = hz, hr × hz = −hθ,hθ × hr = −hz, hθ × hθ = 0, hθ × hz = hr,hz × hr = hθ, hz × hθ = −hr, hz × hz = 0.
より,
付 録A 円筒座標Navier-Stokes方程式の導出 35
∇× V =[(
hr∂
∂r+
1rhθ
∂
∂θ+ hz
∂
∂z
)×(vr
hr + vθhθ + vz
hz
)]
=
[hr × ∂(vr
hr)∂r
]+
[hr × ∂(vθ
hθ)∂r
]+
[hr × ∂(vz
hz)∂r
]
+1r
[hθ × ∂(vr
hr)∂θ
]+
1r
[hθ × ∂(vθ
hθ)∂θ
]+
1r
[hθ × ∂(vz
hz)∂θ
]
+
[hz × ∂(vr
hr)∂z
]+
[hz × ∂(vθ
hθ)∂z
]+
[hz × ∂(vz
hz)∂z
]
= (0) + hz∂vθ
∂r− hθ
∂vz
∂r
+1r
[hθ ×
(hθvr + hr
∂vr
∂θ
)]+
1r
[hθ ×
(−hrvθ + hθ
∂vrθ
∂θ
)]+
1r[hθ × hz]
∂vz
∂θ+ hθ
+ hθ∂vr
∂z− hr
∂vθ
∂z+ (0)
= hr
(1r
∂vz
∂θ− ∂vθ
∂z
)+ hθ
(∂vr
∂z− ∂vz
∂r
)+ hz
(1r
∂(rvθ)∂r
− 1r
∂vr
∂θ
)
=hr
r
(∂vz
∂θ− ∂(rvθ)
∂z
)+ hθ
(∂vr
∂z− ∂vz
∂r
)+
hz
r
(∂(rvθ)
∂r− ∂vr
∂θ
).
最後に,∇× [∇× V ]を求める.
∇× [∇× V ] = hr
[1r
∂
∂θ
1r
∂(rvθ)∂r
− 1r
∂vr
∂θ
− ∂
∂z
(∂vr
∂z− ∂vz
∂r
)]
+ hθ
[∂
∂z
(1r
∂vz
∂θ− ∂vθ
∂z
)− ∂
∂r
1r
∂(rvθ)∂r
− 1r
∂vr
∂θ
]
+ hz
[1r
∂
∂r
r
(∂vr
∂z− ∂vz
∂r
)− 1
r
∂
∂θ
(1r
∂vz
∂θ− ∂vθ
∂z
)].
以上から,
付 録A 円筒座標Navier-Stokes方程式の導出 36
[∇2V ]r =∂
∂r
1r
∂(rvr)∂r
+
∂
∂r
(1r
∂vθ
∂θ
)+
∂
∂z
(∂vz
∂z
)
− 1r
∂
∂θ
1r
∂(rvθ)∂r
− 1r
∂vr
∂θ
+
∂
∂z
(∂vr
∂z− ∂vz
∂r
)
=∂
∂r
1r
∂(rvr)∂r
+
1r2
∂2vr
∂θ2− 2
r2
∂vθ
∂θ+
∂2vr
∂z2.
[∇2V ]θ =1r
[∂
∂θ
1r
∂(rvr)∂r
+
∂
∂θ
(1r
∂vθ
∂θ
)+
∂
∂θ
(∂vz
∂z
)]
−[
∂
∂z
(1r
∂vz
∂θ− ∂vθ
∂z
)− ∂
∂r
1r
∂(rvθ)∂r
− 1r
∂vr
∂θ
]
=∂
∂r
1r
∂(rvθ)∂r
+
1r2
∂2vθ
∂θ2+
2r2
∂vr
∂θ+
∂2vθ
∂z2.
[∇2V ]z =∂
∂z
1r
∂(rvr)∂r
+
∂
∂z
(1r
∂vθ
∂θ
)+
∂
∂z
(∂vz
∂z
)
−[1r
∂
∂r
r
(∂vr
∂z− ∂vz
∂r
)− 1
r
∂
∂θ
(1r
∂vz
∂θ− ∂vθ
∂z
)]
=1r
∂
∂r
(r∂vz
∂r
)+
1r2
∂2vz
∂θ2+
∂2vz
∂z2.
(A.2)
である.これら,(A.1),(A.2)から,(2.4)~(2.6) が導かれるのである.
付 録B 圧力方程式の導出
この導出は 100%オリジナルである事をまず明記しておく.導出の流れは,直交座標系のそれと同じであるが,対称な形をしていないので飛躍的に複雑になっている.まずは,いくつかの基本式を記述しておく.
vr
r+
∂vz
∂r+
1r
∂vθ
∂θ+
∂vz
∂z= 0. (B.1)
∂
∂r
(vr
r+
∂vr
∂r+
1r
∂vθ
∂θ+
∂vz
∂z
)= −vr
r2+
1r
∂vr
∂r+
1rvr − 1
r2
∂vθ
∂θ+
1r
∂2vθ
∂r∂θ+
∂2vz
∂r∂z.
(B.2)∂
∂θ
(vr
r+
∂vr
∂r+
1r
∂vθ
∂θ+
∂vz
∂z
)=
1r
∂vr
∂θ+
∂2vr
∂r∂θ+
1r
∂2vθ
∂θ2+
∂2vz
∂θ∂z. (B.3)
∂
∂r
(vr
r+
∂vr
∂r+
1r
∂vθ
∂θ+
∂vz
∂z
)=
1r
∂vr
∂z+
∂2vr
∂r∂z+
1r
∂2vθ
∂θ∂z+
∂2vz
∂z2. (B.4)
∂
∂t
(vr
r+
∂vr
∂r
)= −v2
r
r2+
1r
∂vr
∂t+
∂2vr
∂t∂r. (B.5)
∂
∂t
(1r
∂vθ
∂θ
)= −vr
r2
∂vθ
∂θ+
1r
∂2vθ
∂t∂θ. (B.6)
∂
∂t
(∂vz
∂z
)=
∂2vz
∂z2. (B.7)
∇2 =1r
∂
∂r+
∂2
∂r2+
1r2
∂2
∂θ2+
∂2
∂z2. (B.8)
∂2
∂r2
(vr
r+
∂vr
∂r+
1r
∂vθ
∂θ+
∂vz
∂z
)
= 2vr
r3− 1
r2
∂vr
∂r− 1
r2
∂vr
∂r+
1r
∂2vr
∂r2+
∂3vr
∂r3+
2r3
∂vθ
∂θ− 2
r2
∂2vθ
∂r∂θ+
1r
∂3vθ
∂r2∂θ+
1r
∂3vz
∂r2∂z
= 2vr
r− 2
r2
∂vr
∂r+
1r
∂2vr
∂r2+
∂3vr
∂r3+
2r3
∂vθ
∂θ− 2
r2
∂2vθ
∂r∂θ+
1r
∂3vθ
∂r2∂θ+
∂3vz
∂r2∂z. (B.9)
付 録 B 圧力方程式の導出 38
∂2
∂θ2
(vr
r+
∂vr
∂r+
1r
∂vθ
∂θ+
∂vz
∂z
)
=1r
∂2vr
∂θ2+
∂3vr
∂r∂θ2+
1r
∂3vθ
∂θ3+
∂3vz
∂θ2∂z. (B.10)
∂2
∂z2
(vr
r+
∂vr
∂r+
1r
∂vθ
∂θ+
∂vz
∂z
)
=1r
∂2vr
∂z2+
∂3vr
∂r∂z2+
1r
∂3vθ
∂θ∂z2+
∂3vz
∂z3. (B.11)
導出
(B.12)~(B.13)の運動方程式を変形する (回転と重力の項は後で計算する).
∂vr
∂t+ vr
∂vr
∂r+
vθ
r
∂vr
∂θ+ vz
∂vr
∂z
= −1ρ
∂p
∂r+ ν
∂
∂r
(1r
∂(rvr)∂r
)+
1r2
∂2vr
∂θ2− 2
r2
∂vθ
∂θ+
∂2vr
∂z2
. (B.12)
∂vθ
∂t+ vr
∂vθ
∂r+
vθ
r
∂vθ
∂θ+ vz
∂vθ
∂z+
vrvθ
r
= − 1rρ
∂p
∂θ+ ν
∂
∂r
(1r
∂(rvθ)∂r
)+
1r2
∂2vθ
∂θ2+
2r2
∂vr
∂θ+
∂2vθ
∂z2
. (B.13)
∂vz
∂t+ vr
∂vz
∂r+
vθ
r
∂vz
∂θ+ vz
∂vz
∂z
= −1ρ
∂p
∂z+ ν
1r
∂
∂r
(r∂vz
∂r
)+
1r2
∂2vz
∂θ2+
∂2vz
∂z2
. (B.14)
(B.12)の辺々に左から1r
(1 + r
∂
∂r
)を掛け,(B.5)と (B.8)式の第 1,2項を意識して展
開すると
付 録 B 圧力方程式の導出 39
[1r
∂vr
∂t+
∂2vr
∂r∂t
]+
[vr
r
∂vr
∂r+(
∂vr
∂r
)2
+ vr∂2vr
∂r2
]
+[vθ
r2
∂vr
∂θ− vθ
r2
∂vr
∂θ+
1r
∂vθ
∂r
∂vr
∂θ+
vθ
r
∂2vr
∂r∂θ
]−[1r
∂2vθ
∂r2
]+[vz
r
∂vr
∂z+
∂vz
∂r
∂vr
∂z+ vz
∂2vr
∂r∂z
]
= −1ρ
[(1r
∂
∂r+
∂2
∂r2
)p
]+ ν
[(1r
+∂
∂r
)(−vr
r2+
1r
∂vr
∂r+
∂2vr
∂r2
)]
+[
1r3
∂2vr
∂θ2− 2
r3
∂2vr
∂θ2+
1r2
∂3vr
∂r∂θ2
]−[
2r3
∂vθ
∂θ− 4
r3
∂vθ
∂θ+
2r2
∂2vθ
∂r∂θ
]
+[1r
∂2vr
∂z2+
∂3vr
∂r∂z2
].
(B.12′)
(B.13)の辺々に左から(
1r
∂
∂θ
)を掛け,(B.6)と (B.8)式の第 3項を意識して展開すると
[1r
∂2vθ
∂θ∂t
]+[1r
∂vr
∂θ
∂vθ
∂r+
vr
r
∂2vθ
∂r∂θ
]+
[1r2
(∂vθ
∂θ
)2
+vθ
r2
∂2vθ
∂θ2
]
+[vr
r2
∂vθ
∂θ+
vθ
r2
∂vr
∂θ
]+[1r
∂vz
∂θ
∂vθ
∂z+
vz
r
∂2vθ
∂θ∂z
]
= −1ρ
[(1r2
∂2
∂θ2
)p
]+ ν
[(1r
∂
∂θ
)(−vθ
r2+
1r
∂vθ
∂r+
∂2vθ
∂r2
)]+[
1r3
∂3vθ
∂θ3
]
+[
2r3
∂2vr
∂θ2
]+[1r
∂3vθ
∂θ∂z2
].
(B.13′)
(B.14)の辺々に左から(
∂
∂z
)を掛け,(B.7)と (B.8)の式の第 4項を意識して展開すると
[∂
∂t
(∂vz
∂z
)]+[∂vr
∂z
∂vz
∂r+ vr
∂2vz
∂r∂z
]+[1r
∂vθ
∂z
∂vz
∂θ+
vθ
r
∂2vz
∂θ∂z
]+
[(∂vz
∂z
)2
+ vz∂2vz
∂z2
]
= −1ρ
[∂2p
∂z2
]+ ν
[1r
∂2vz
∂r∂z+
∂3vz
∂z∂r2
]+[
1r2
∂3vz
∂z∂θ2
]+[∂3vz
∂z3
]. (B.14
′)
(B.12′)(B.13
′)(B.14
′)の左辺を書き出す (<>の項は追加項).
付 録 B 圧力方程式の導出 40
[1r
∂vr
∂t+
∂2vr
∂r∂t+ < −v2
r
r2>
]+ <
v2r
r2> +
vr
r
∂vr
∂r+(
∂vr
∂r
)2
+ vr∂2vr
∂r2+
vθ
r2
∂vr
∂θ
− vθ
r2
∂vr
∂θ+
1r
∂vθ
∂r
∂vr
∂θ+
vθ
r
∂2vr
∂r∂θ
− 1r
∂v2θ
∂r+
vz
r
∂vr
∂z+
∂vz
∂r
∂vr
∂z+ vz
∂2vr
∂r∂z.[
1r
∂2vθ
∂θ∂t+ < −vr
r2
∂vθ
∂θ>
]+ <
vr
r2
∂vθ
∂θ> +
1r
∂vr
∂θ
∂vθ
∂r+
vr
r
∂2vθ
∂r∂θ
+1r2
(∂vθ
∂θ
)2
+vθ
r2
∂2vθ
∂θ2+
vr
r2
∂vθ
∂θ
+vθ
r2
∂vr
∂θ+
1r
∂vz
∂θ
∂vθ
∂z+
vz
r
∂2vθ
∂θ∂z.[
∂
∂t
(∂vz
∂z
)]+
∂vr
∂z
∂vz
∂r+vr
∂2vz
∂r∂z+
1r
∂vθ
∂z
∂vz
∂θ+
vθ
r
∂2vz
∂θ∂z+(
∂vz
∂z
)2
+ vz∂2vz
∂z2.
(B.15)[ ]で囲まれた部分を (B.5)~(B.7)と比較すると,連続の式 (B.1)の時間微分となるこ
とが分かる.(B.3),(B.4),(B.4)式を意識して,(B.15)から
[ ]を除いた部分を書き出すと以下のよ
うになる.(∂vr
∂r
)2
+1r2
(∂vθ
∂θ
)2
+(
∂vz
∂z
)2
+ vr
(−vr
r2+
1r
∂vr
∂r+
∂2vr
∂r2− 1
r2
∂vθ
∂θ+
1r
∂2vθ
∂r∂θ+
∂2vz
∂r∂z
)
+ 2v2r
r2+ 2
vr
r2
∂vθ
∂θ+
vθ
r
(1r
∂vr
∂θ+
∂2vr
∂r∂θ+
1r
∂2vθ
∂θ2+
∂2vz
∂θ∂z
)
+ vz
(1r
∂vr
∂z+
∂2vr
∂r∂z+
1r
∂2vθ
∂θ∂z+
∂2vz
∂z2
)− vθ
r2
∂vr
∂θ+
1r
∂vθ
∂r
∂vr
∂θ
− 1r
∂v2θ
∂r+
∂vz
∂r
∂vr
∂z+
1r
∂vr
∂θ
∂vθ
∂r+
vr
r2
∂vθ
∂θ+
vθ
r2+
1r
∂vz
∂θ
∂vθ
∂z+
∂vr
∂z
∂vz
∂r+
1r
∂vθ
∂z
∂vz
∂θ.
故に,vr
r+
∂vr
∂r+
1r
∂vθ
∂θ+
∂vZ
∂z= divV と表すと,(B.15)は
∂
∂t(divV )+vr
∂
∂r(divV )+
vr
r
∂
∂θ(divV )+vz
∂
∂z(divV )+
(∂vr
∂r
)2
+1r2
(∂vθ
∂θ
)2
+(
∂vz
∂z
)2
+ 2v2r
r2+ 3
vr
r2
∂vθ
∂θ+
2r
∂vθ
∂z
∂vz
∂θ+
2r
∂vθ
∂r
∂vr
∂θ+ 2
∂vz
∂r
∂vr
∂z− 1
r
∂v2θ
∂r, (B.15
′)
となる.(B.12
′),(B.13
′),(B.14
′)の右辺第 1項を書き出すと
−1ρ
[(1r
∂
∂r+
∂2
∂r2
)p +
(1r
∂2
∂θ2
)p +
(∂2
∂z2
)p
]
付 録 B 圧力方程式の導出 41
であり,これと (B.8)式を比較すると,(B.12′),(B.13
′),(B.14
′)の右辺第 1項の合計は
−1ρ∇2p
となることが分かる.(B.12
′),(B.13
′),(B.14
′)の右辺第 2項目以降を書き出す (νは除く).
− vR
r3+
1r2
∂vr
∂r+
1r
∂2vr
∂r2+ 2
vr
r3− 2
r2
∂vr
∂r+
1r
∂2vr
∂r2− 1
r3
∂2vr
∂θ2+
1r2
∂2vr
∂r∂θ
+2r2
∂vθ
∂θ− 2
r2
∂2vθ
∂r∂θ+
1r
∂2vr
∂z2+
∂2vr
∂r∂z− 1
r3
∂vθ
∂θ+
1r2
∂2vθ
∂r∂θ(B.16)
+1r
∂3vθ
∂θ∂r2+
1r3
∂3vθ
∂θ3+
2r3
∂2vr
∂θ2+
1r
∂3vθ
∂θ∂z2+
1r
∂2vz
∂r∂z
+∂3vz
∂z∂r2+
1r2
∂3vz
∂z∂θ2+
∂3vz
∂z3.
(B.9)~(B.11)を意識して (B.16)を書き直すと
(2vr
r3− 2
r2
∂vr
∂r+
1r
∂2vr
∂r2+
∂3vr
∂r3+
2r3
∂vθ
∂θ− 1
r2
∂2vθ
∂r∂θ− 1
r2
∂2vθ
∂r∂θ+
1r
∂vθ
∂r2∂θ+
∂3vz
∂r2∂z
)
+1r2
(1r
∂2vr
∂θ2+
∂3vr
∂r∂θ2+
1r
∂3vθ
∂θ∂z2+
∂3vz
∂z3
)+(
1r
∂2vr
∂z2+
∂3vr
∂r∂z2+
1r
∂3vθ
∂θ∂z2+
∂3vz
∂z3
)
− vr
r3+
1r2
∂vr
∂r+
1r
∂2vr
∂r2− 1
r3
∂vθ
∂θ+
1r2
∂2vθ
∂r∂θ+
1r
∂2vz
∂r∂z
=∂2
∂r2(divV ) +
1r2
∂2
∂θ2(divV ) +
∂2
∂z2(divV )
+1r
(−vr
r2+
1r
∂vr
∂r+
∂2vθ
∂r2− 1
r2
∂vθ
∂θ+
1r
∂2vθ
∂r∂θ+
∂2vz
∂r∂z
)
=∂2
∂r2(divV ) +
1r2
∂2
∂θ2(divV ) +
∂2
∂z2(divV ) +
1r
∂
∂r(divV )
となる.故に,(B.12
′) + (B.13
′) + (B.14
′)は
∂
∂t(divV ) + vr
∂
∂r(divV ) +
vθ
r
∂(∂θ
divV ) + vz∂
∂z(divV ) +
(∂vr
∂r
)2
+1r2
(∂vθ
∂θ
)2
+(
∂vz
∂z
)2
+2v2r
r2+ 3
vr
r2
∂vθ
∂θ+
2r
∂vθ
∂z
∂vz
∂θ+
2r
∂vθ
∂r
∂vr
∂θ+ 2
∂vz
∂r
∂vr
∂z− 1
r
∂v2θ
∂r
= −1ρ∇2p + ν
∂2
∂r2(divV ) +
1r2
∂2
∂θ2(divV ) +
∂2
∂z2(divV ) +
1r
∂
∂r(divV )
付 録 B 圧力方程式の導出 42
となり,最終的に圧力方程式は
∇2p =ρ
[− ∂
∂t(divV ) − vr
∂
∂r(divV ) − vθ
r
∂
∂θ(divV ) − vz
∂
∂z(divV )
−(
∂vr
∂r
)2
− 1r
(∂vθ
∂θ
)2
−(
∂vz
∂z
)2
− 2r
∂vθ
∂z
∂vz
∂θ− 2
r
∂vθ
∂r
∂vr
∂θ− 2
∂vz
∂r
∂vr
∂z− 3
vr
r2
vθ
∂θ+
1r
∂v2θ
∂r− 2
v2r
r
ν
∂2
∂r2(divV ) +
1r2
∂2
∂z2(divV ) +
∂2
∂θ2(divV ) +
1r
∂
∂r(divV )
]
となる.ただし,
∇2 =1r
∂
∂r+
∂2
∂r2+
1r2
∂2
∂θ2+
∂2
∂z2,
divV =vr
r+
∂vr
∂r+
1r
∂vθ
∂θ+
∂vz
∂z
である.実際のシミュレーションにはコリオリ力,重力,遠心力が加わるので,それらを同様に変形すると
ε = −β0(T − T0),∂ε
∂r= −β0
∂T
∂r
より, (1r
+∂
∂r
)(εrΩ2 + 2Ωvθ
)= εΩ2 +
2Ωvθ
r+ εΩ2 − β0rΩ2 ∂T
∂r+ 2Ω +
∂vθ
∂r
= 2εΩ2 + 2Ω(
vθ
r+
∂vθ
∂r
)− β0rΩ2 ∂T
∂r,(
1r
∂
∂θ
)(−2Ωvr) = −2Ω
r
∂vr
∂θ,(
∂
∂z
)(εg) = β0g
∂T
∂z
となり,すなわち
2εΩ2 + 2Ω(
vθ
r+
∂vθ
∂r
)− β0rΩ2 ∂T
∂r− 2Ω
r
∂vr
∂θβ0g
∂T
∂z
が加わるのである.
付 録C ロスビー数と熱ロスビー数について
回転水槽の中の流体にかかる力には,慣性力,コリオリ力,圧力傾度力,粘性摩擦力の4つと重力がある.代表的流速を U,代表的スケールを Lとすれば,ロスビー数ROは
RO =U
2ΩL(C.1)
と書ける.ここで U は地衡風∗なので,コリオリ因子を f とすると
− 1ρ0
∂p
∂r− fU = 0,
U = − 1fρ0
∂p
∂r(C.2)
となる.大局的には静力学平衡状態なので
∂p
∂z= −ρg (C.3)
が成り立っている.この場合,流速の鉛直シアーは (C.1)を zで微分すると
∂U
∂z= − 1
fρ0
∂
∂r
(∂p
∂z
)(C.4)
となる.よって,(C.3)を用いて
∂U
∂z=
g
fρ0
∂ρ
∂z(C.5)
を導くことができる.熱ロスビー数とは,本論にもあるが,ロスビー数に現れる代表的流速を温度風で置き換えたもの (の 4倍)であり,温度風とは,上層と下層の地衡風の差を表すものである.ここで,(C.5)において垂直の流速微分,水平の密度微分が一定であるとすると
∂U
∂z=
∆U
d,
∂ρ
∂r=
∆ρ
D(C.6)
∗気圧傾度力とコリオリ力がつり合った状態で吹く風.式は (気圧傾度力)+(コリオリ力)=0になる.
付 録 C ロスビー数と熱ロスビー数について 44
とおける (dは回転水槽の深さ,Dは内外壁の間隔).先の熱ロスビー数の定義より,(C.6)の∆U が温度風だから,これを温度風として UT
と置き直す.(C.1),(C.5),(C.6)より,熱ロスビー数Θは,f = 2Ωより
Θ = 4 · UT
2ΩL= 4 · 1
2ΩD
gd
2Ωρ0
∆ρ
D(∵ L = D)
= 4 · gd∆ρ
4Ω2D2ρ0
=gd∆ρ
ρ0Ω2D2
となる.
付 録D フーリエ変換とパワースペクトル
フーリエ変換は,以下の作業で求められる.ある関数 f(x)があるとする.それは極限的には,様々な波数 kをもつ三角関数の集合体といえる.すなわち
f(x) =1√2π
∫ ∞
−∞F (k)eikxdx (D.1)
とできる.ここで,F (k)を f(x)のフーリエ変換と呼ぶ.(D.1)を変形すると,
F (k) =1√2π
∫ ∞
−∞f(x)e−ikxdx
とできる.第 4章で用いた波数と強度のグラフの,波数とはこの kのことであり,強度とは F (k)の絶対値の 2乗のことである.この |F (k)|2を,パワースペクトルという.実際の数値計算においては,複素数を計算することはできないので
e−ikx = cos(−kx) + i sin(−kx)
= cos(kx) − i sin(kx)
を用いることと,積分を足し合わせに変えることにより
F (k) =1√2π
2π∑0
f(θ) cos(kθ)dθ
とおいた.
おわりに -水槽から人間へ-
かなり紆余曲折を経たが,何とかここまでこぎつけた.使わなかったプログラム数千行,使わなかった独自の理論 2つと,非常にもったいない事をしてきたがまあ仕方がない.この論文は田口善弘助教授の下ではあるが,テーマ設定からまとめまで独力で行ったと自負できるのでよしとしよう.本来はこの回転水槽から発展させて,気象現象の研究まで行う予定だった.気象庁から数値モデルまで借りたのに,様々なトラブルにより使用できなかったのが口惜しい.だが,この回転水槽と出合ったことは偶然ではあるが,自分の能力をぎりぎりまで出して何とか到達できたという意味でとても素晴らしい研究テーマだったと思う.何週間もかけて考えたが結局使わなかったプログラムもあった.もう駄目かと思った瞬間ひらめいたこともあった.絶対的な絶望感に襲われたこともあった.他人に猛烈な嫉妬を抱いた時もあった.だが,そんな時自分を助けてくれてのは,もちろん自分の努力と根性でもあるが,田口先生であり,同じ研究室の仲間であり,大事な友人たちであったりした.この回転水槽の研究は結局のところ彼らの無言の力添えがあればこそ,ここまで到達できたものと思う.
宇宙の謎を解こうと思い中央大学の門をくぐったのは今から 6年前.様々な人々とのつながりの中で,次第に自分の興味が宇宙から人に向いていった.私の求めたい答えはその中にあると感じ,ここで一旦学問から離れ,社会の中で学ぶことを決意した,だがそれは決して物理学を捨てたのではなく,今までに学んだ物理学の考え方や知識をこの社会の中で生かしたいと思ったからである,これからも,初めてこの中央大学の門をくぐった時のような,学問に対する情熱を持ちつづけたいと思う.
最後に.この論文を書くにあたって,様々な議論に付き合ってくれたたくさんの友人達,そして京都大学の余田成男先生,旭川気象台の丹野咲里さん,気象庁予報部数値予報課の片山桂一さんには様々なことを教えて頂いた.シュプリンガー・フェアラーク東京数学編集部の皆さんにも,間接的ではあるが,私の pLATEX2εの能力,そして文章構成能力を常人以上に引き上げて頂いた事を感謝したい.そして何より,単なる論文の議論以上にたくさんの事を教えてくれた柴田純君,その絶対的な能力で私の技術と精神をサポートしてくれた清野暁君,入学当初から私の破天荒な研究ぶりを要所要所で適確に修正してくださった田口善弘先生に心から感謝の意を表して,この論文を終わる.
2003年 2月 自宅にて山下直志
47
参考文献
[1] Fein,J.S.,Pfeffer,R.L.:An experimental study of the effects of Prandtlnumber onthermal convection in a rotating, differentially heated cylindrical annulus of fluid.J.Fluid Mech. 75, 81-112 (1976)
[2] Herrmann,J.,Busse,F.H.: Convection in a rotating cylindrical annulus. part4. modu-lations and transition to chaos at low Prandtl numbers. J.Fluid.Mech. 350, 209-229(1997)
[3] Williams,G.P.:Numerical integration of the three-dimensional Navier-Stokes equa-tions for incompressible flow. J.Fluid.Mech. 37, 727-750 (1969)
[4] Sugata,S.,Yoden,S.: The effects of centrifugal force on the stability of axisymmet-ricviscous flow in a rotating annulus. J.Fluid.Mech. 229, 471-482 (1991)
[5] Zhang,X.,Boyer,D.L.,Fernando,H.J.S.: Turbulence-induced rectified flows in rotat-ing fluids. J.Fluid.Mech. 350, 97-118 (1997)
[6] 菊地勝弘,瓜生道也,北林興二:実験気象学入門, 東京堂出版 1988
[7] 小倉義光:一般気象学, 東京大学出版会 2000
[8] 名越利幸,木村龍治:気象の教え方学び方, 東京大学出版会 1999
[9] 平野博之:流れの数値計算と可視化, 丸善株式会社 2001
[10] 廣田勇:グローバル気象学, 東京大学出版会 2000
[11] 股野宏志:天気予報のための大気の運動と力学,東京堂出版 1999