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「旅行業経営力を強くする企画提案力」の実現に向けて、そのポイントを整理 すると、次の8項目が浮かび上がってきました。 経営環境の変化に対応する独自の工夫と努力は、いつの時代にも変わらず求 められる要件と言えそうです。 ◎“常識(定説)の逆説”が重要なカギに ◎定番(定食)と非定番(アラカルト)の両 輪で ◎ヒット商品よりもロングセラー商品を ◎ニーズを追うよりも自らニーズを創る ◎市場環境に左右されない「テーマ旅行」 消費者の不便を解消するニーズ対応力を ◎旅行商品ではなく「旅行資産」をつくる ◎自ら歩き、五感を駆使して現地の熟知を 企画提案力の強化へ8つのポイント 4239 OC[ LCVCEqoowpkecvkqp 3 2 JATA2017西JATA2017A西201220165 20081001157 1093 1057 1014 1071 97 5 89 3 79 6 73 9 70 2 宿調宿2011100宿1036 1084 1075 1099 1065 1094 1028 97 0 97 9 96 5 2014西IT3 A鹿3 7 54 26 1964122200152

反転上昇のカギは〝企画提案力〞 懸念強まる旅行業の役割低下 · れなくなってきたこと」というに旅をするパッケージツアーの形態も好まと」

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懸念強まる旅行業の役割低下

反転上昇のカギは〝企画提案力〞

 「旅行業経営力を強くする企画提案力」の実現に向けて、そのポイントを整理すると、次の8項目が浮かび上がってきました。

 経営環境の変化に対応する独自の工夫と努力は、いつの時代にも変わらず求められる要件と言えそうです。

◎“常識(定説)の逆説”が重要なカギに◎定番(定食)と非定番(アラカルト)の両輪で

◎ヒット商品よりもロングセラー商品を◎ニーズを追うよりも自らニーズを創る◎市場環境に左右されない「テーマ旅行」◎消費者の不便を解消するニーズ対応力を◎旅行商品ではなく「旅行資産」をつくる◎自ら歩き、五感を駆使して現地の熟知を

企画提案力の強化へ8つのポイント

 今年2月に開催された「JATA経営

フォーラム2017〜構造変化に強い旅行

業経営へ向けて〜」では、「旅行業経営力を

強くする企画提案力を考える!」をテーマ

に掲げた分科会で、経営環境の変化への対

応に迫られる旅行会社の企画力が真正面

から取り上げられました。分科会で報告さ

れた現状やパネリスト各社による取り組み

を中心に、関係者の声も交えながら旅行会

社の企画力をめぐる考え方を紹介します。

日本橋トラベラーズクラブ・西山徹氏

「消費者の価値観が大きく変化」

 「JATA経営フォーラム2017」の

分科会Aでモデレーターを務めた日本橋ト

ラベラーズクラブの西山徹代表取締役社長

は、旅行者数と旅行会社による取扱人数の

推移を表す統計に基づいて、旅行市場にお

ける旅行会社の役割が低下していることへ

の懸念を示しています。

 観光庁の「旅行業者取扱額」と日本政府

観光局の「出国日本人」のデータによると、

2012年から2016年までの5年間

における海外渡航者数と海外募集型企

画旅行取扱人数は、2008年を100

とした場合、海外渡航者数が115・7、

109・3、105・7、101・4、107・

1と推移して、上下動はあるもののプラス

を維持しているのに対し、海外募集型企画

旅行取扱人数は97・5、89・3、79・6、73・9、

70・2と推移し、何れもマイナスにとどまる

と同時に落ち込み幅が拡大してきました。

 また、観光庁の「旅行業者取扱額」と「宿

泊旅行統計調査」のデータによると、同期

間における日本人延べ宿泊数と国内募集

型企画旅行取扱人数も、2011年を

100とした場合、延べ宿泊数が103・

6、108・4、107・5、109・9、

106・5と推移したのに対して、取扱人

数は109・4、102・8、97・0、97・9、

96・5となり、2014年以降はマイナスに

とどまる結果となっています。

 西山社長は、こうした変化の背景や要因

として、「IT技術の進展により、旅行者が

容易に世界中の情報を収集できるように

なったこと」「旅行商品の販売対象である消

費者の価値観が大きく変わってしまったこ

と」「個人主義が強まって不特定多数と一緒

に旅をするパッケージツアーの形態も好ま

れなくなってきたこと」という3つのポイン

トを指摘しました。

 分科会Aでは、旅行会社による役割の低下

が懸念される環境の変化が進む中、国内・海

外の旅行市場で一定の成果を収めてきている

旅行会社を代表する形で、はとバスから観光

バス事業本部の江澤伸一企画旅行部長、朝日

旅行から海外企画販売部企画販売チームの

鹿野真澄シニアディレクター、旅工房から前澤

弘基執行役員の3氏が登壇しています。

はとバス・江澤伸一氏

「ロングセラーこそ競争力の証」

 はとバスの江澤部長によると、同社の売

り上げで7割を占める観光バス事業のう

ち、定期観光と企画旅行の割合は、それぞ

れ、54%と26%となっています。

 

定期観光バスの代名詞とも言えるはと

バスですが、その主力事業である定期観光

利用人数は、前回の東京五輪が開催された

1964年の122万人をピークに漸減

傾向が続き、2001年には半分以下の

52万人まで減少しました。最盛期から最

低迷期に至るまでの間には、マイカーの発達

と公共交通網の整備、情報誌の登場やイン

ターネットの普及、カーナビの発達などによ

る大きな環境の変化が生じており、「定期

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特集 環境激変の時代をどう生き抜く観光バスは斜陽産業」という見方すらあっ

たほどです。

 

しかし、その見方を覆すように、

2002年からの定期観光利用人数の反

転上昇と90万人を数えるまでの回復をも

たらした背景には、常識や定説の逆説とも

いうべき発想がありました。

 

江澤部長は「はとバス定期観光の対象エ

リアである東京も含めた首都圏が巨大マー

ケットであることに着目し、東京を訪れる

旅行者だけでなく、首都圏に在住している

人たちに『はとバスの都内定期観光バスは

面白い』と言っていただけるような商品づ

くりや仕掛けを考えるようにした」と語り、

〝常識(定説)の逆説〞が重要なカギである

ことを強調しています。

 はとバスによる東京・横浜の定期観光バス

商品では、春夏秋冬の年4回にわたって各

50万部のパンフレットが発行されており、年

間で約350コースを設定。季節毎に約3

割が更新されているほか、全コースのうち、

WEB専用コースも50本ほど用意されてい

ます。はとバスの強みとして「自社企画+自

社販売+自社運行」というポイントもあり、

現場からの利用者情報に基づいてコースの

企画・仕入れが行われるなどのサービス向

上サイクルの重要性も指摘されました。

 江澤部長は、経営力を強くする企画のポ

イントとして、⑴定番(定食)と非定番(アラ

カルト)の両輪、⑵ヒット商品よりもロングセ

ラー商品を、⑶ニーズを追うより、自らニー

ズを創る、の3点を挙げています。「全体の

3割を占める定番商品が7割の利益を生

み出しているが、残る7割の商品もあるか

らこそ、旅行者の期待に応えることができ、

その中から飛躍の土台となるものも出てく

る」と説明し、「商品には賞味期限があり、

それを見極めて商品構成できる力がロング

セラーには求められ、それこそが競争力の

証だ」と強調。はとバスがパイオニアとなった

京浜工業地帯の工場夜景観賞ツアーにも

言及し、「自らニーズを創り、ロングセラー商

品に育てた」成功事例として紹介していま

す。

朝日旅行・鹿野真澄氏

「環境変化でテーマ旅行にシフト」

 

朝日新聞の読者を主な顧客とする朝日

旅行では、利用者の82%を60〜70代が占め

ており、リピーター率も77%で8割に迫る

規模となっています。

 朝日旅行の鹿野シニアディレクターは、「か

つて会社の特色づけという位置づけだった

テーマ旅行が、以前の収益源だった一般旅行

に代わって、事業の中核に位置づけられるよ

うになった」と語り、一般旅行主体だった商

品構成が市場の変化に対応する形でテーマ

旅行中心に変わってきていることを指摘し

ました。

 

2012年にテーマ旅行が25%で一般旅

行が75%だった商品構成比は、2016年

にはテーマ旅行が49%で一般旅行が51%と

なり、それぞれの割合がほぼ均衡するまで

になっています。こうした変化に伴って、全

体の集客人数では減少してきているものの、

逆に、単価が2〜3割高いテーマ旅行が増

加したことにより、売上高全体ではこれま

での水準を維持しているといいます。

 鹿野シニアディレクターは、旅行市場を取

り巻く環境の変化も踏まえて、テロや天災

などによる影響が小さいこと、価格競争の

土俵に乗らないこと、他社との差別化やリ

ピーター化が図れること、シニアのニーズに

合っていることなどが、朝日旅行が販売する

商品の前提となっていると説明。そうした

販売戦略に基づいて、「美の旅」「音楽の旅」

「講師同行の旅」「ハイキングの旅」が、同

社の得意分野である知的好奇心を満たす

テーマ旅行の4本柱となっています。

はとバス・江澤伸一氏

朝日旅行・鹿野真澄氏

旅工房・前澤弘基氏

クラブツーリズム・黒田尚嗣氏

日本橋トラベラーズクラブ・西山徹氏

Page 3: 反転上昇のカギは〝企画提案力〞 懸念強まる旅行業の役割低下 · れなくなってきたこと」というに旅をするパッケージツアーの形態も好まと」

特集 環境激変の時代をどう生き抜く 一般旅行に比べて手間もコストもかかる

テーマ旅行へのシフトを進めたことについて、

鹿野シニアディレクターは、「売り上げの8

割を占めていた主力の欧州方面での販売が

2005年頃から低下し始めている中で、

外的要因に左右されないテーマ旅行へのツ

アー参加者は減少しておらず、将来性も考

えた時に当然の帰結だった」と指摘。同時

に、テーマ旅行で収益を確保する考え方と

して、「一定の人数を集客すればテーマ旅行

の収益性は一気に高まるので、催行率を上

げることが最も重要」と説明。そのための

有効な手法として、人気のある講師の起用

やシリーズ化による固定客の囲い込みなど

を挙げています。

 また、テーマ旅行の場合、内容の吟味が大

切な要件で、マーケット規模も小さくて特

殊なことから、鹿野シニアディレクターによ

ると「多くの人の目に触れられるように早

期発表が重要」となるため、以前は3カ月

前だった商品発表の時期を、現在は少なく

とも半年前に繰り上げています。

旅工房・前澤弘基氏

「マーケットインのサービスで存在意義」

 

1994年に設立された旅工房は、オン

ライン・トラベル・エージェント(OTA)も含

めた旅行会社の不便さを解決することで、

旅行者の支持を集めてきている旅行会社で

す。

 旅工房の前澤執行役員は、既存の旅行会

社やOTAのサービスで旅行者が感じてい

る様々な不便さについて、同社が「電話・メー

ルのオフラインとオンラインの組み合わせな

どによる『ハイブリッド戦略』」や「2都市以

上の周遊を強化したテーマ性のある多彩な

ツアーのネット掲載」「顧客ニーズのヒアリ

ング強化を通じたツアーの柔軟なカスタマ

イズ」という3つの工夫を通じて、不便さの

解消を図ってきていると説明。「プロダクト

アウトで提供されていた従来のサービスを、

マーケットインに変えていくことが旅工房の

存在意義だ」と強調しました。

 

前澤執行役員によると、同社のビジネス

モデルの特徴は、⑴ネット販売比率がほぼ

100%、⑵24時間のオンライン予約+トラ

ベルコンシェルジュによるユーザーの細かなニー

ズへの対応、⑶旅行方面別の組織体制によ

る専門知識の高度化、⑷アジア・欧州・中近

東・アフリカ・北米・中南米・ビーチリゾートな

ど全世界をカバー、⑸ローコスト・オペレーショ

ンによる価格競争力の実現、という5点で、

「ニーズ対応力」が同社のビジネスモデルの

ポイントになっていると説明しています。

 この「ニーズ対応力」について、前澤執行役

員は「商品企画力」「カスタマイズと顧客対

応力」に言及し、特に、方面別組織の中で企

画と予約が一体となって、ニーズを即座に反

映した企画立案や企画変更ができる柔軟

な体制の重要性を強調。同時に、人的対応

を担うトラベルコンシェルジュが常に顧客ニー

ズを把握して、各部署にフィードバックして

いることも、商品企画力を下支えする形と

なっているといいます。

 

さらに、旅工房では、社員のキャリアアッ

プのために、一定期間の休職によって会社を

離れた視点から自分を見つめ直すキャリア

ビュー制度(復職制度)も導入しており、前

澤執行役員は、「復職後は客観的に様々な

角度から自分と会社を見ることで、さらな

る成長が期待できる」と語っています。

クラブツーリズム・黒田尚嗣氏

「人と人のつながりが大切な要素」

 ロングセラー化やシリーズ化が旅行会社

の企画力を象徴する重要な要素であるこ

とは、「JATA経営フォーラム2017」

における分科会でも確認される形となり

ましたが、1990年代の後半から「歴史

街道あるき旅」を続けているクラブツーリズ

ム・テーマ旅行部の黒田尚嗣顧問は、「旅行

業界として旅行商品ではなく旅行資産を

つくっていくという考え方も重要だ」と指

摘。「ヒット商品やロングセラー商品、シリー

ズ商品などは、市場に類似商品も出回るよ

うになりますが、単に真似をしたとかいう

話にとどまるものではなく、旅行業界にとっ

ての資産になっていくという側面もある。そ

れぞれの旅行商品の寿命がそんなに長くな

いことも考えると、旅行資産と呼べるよう

になっていく旅行商品は貴重な存在」と語

る黒田顧問は、「旅行会社の経営者には、旅

行商品をつくると同時に旅行資産をつくっ

ていくというような考え方も求められるよ

うになってきている」と強調しています。

 

特に、「街道あるき」シリーズでは、単に

目的地に行くだけでなく、現地での様々な

出会いが旅行に出かける動機となっている

ことから、黒田顧問は「同行する講師など

も含めて、人と人とのつながりやネットワー

クが旅の大切な要素であり、旅行商品が旅

行資産となっていく上でも必要不可欠な部

分になる」と語っています。

 

分科会でモデレーターを務めた日本橋

トラベラーズクラブの西山社長も、「今後の

旅行商品により強く求められることになる

『触れる』『体験する』『学ぶ』という3つの

要素をベースに企画力を高めていくために

は、デスティネーション側とのパイプづくりや

新しいテーマ・素材を発掘するという面から

も、旅行会社の担当者がどれだけ自分の足

で歩き、五感を駆使して現地を熟知できる

かがカギとなってくる」という考え方を示し

ています。

「JATA経営フォーラム 2017」で「旅行業経営力を強くする企画提案力を考える!」をテーマに開催された分科会A