26
22 主要産業の動向と FTA の影響 157 主要産業の動向と FTA の影響 インドネシアの主要産業 2018 年の名目 GDP 産業構成比は、第 1 次産業が 12.8%、第 2 次産業が 39.7%、第 3 次産業が 43.4%となっており、第 2 次産業と第 3 次産業の比率が高い(この他、生産物に課される税から 補助金を除した部分が 4.0%を占める)。但し、第 2 次産業のうち、「鉱業・採石業」が GDP 全体 8.1%、建設業が同 10.5%と多くを占めており、製造業に限ってみれば同 19.9%と、第 2 次産業 の半分を占める程度である(図表 22-1)。また、製造業の内訳を構成比の高い順でみると、①「食 品・飲料」(同 6.3%)、②「石炭、原油、ガス精製」(同 2.2%)、③「輸送機器」(同 1.8%)、④「金 属製品、電気、光学製造」(同 1.7%)、⑤「化学・医薬品」(同 1.6%)、となっている。 製造業の中の「食品・飲料」は、規模が最も大きいだけでなく、比較可能な 2010 年に比べて構 成比が+1.0%ポイントと、製造業の中で構成比の拡大幅が最も大きい(5.3%→6.3%)。また、日 本企業にとっては、2 億人を超す人口は魅力だが、イスラム教徒が多く、2019 年に「ハラル製品 保証法」が施行されていることから、どのような留意点があるか等の関心も高い。 「輸送機器」は、自動車やバイクの製造だけでなく、第 3 次産業の「卸売・小売業」でも 2 程度を占めていることから、インドネシアの GDP の約 4%(4.4%)を占める重要なセクターと考 えられる。また自動車、バイクともに日系メーカーの販売シェアが 9 割を超えるなど、インドネ シアの輸送機器セクターは日系企業にとって重要な市場となっている。 3 次産業の中では、「卸売・小売業(自動車・二輪を除く)」の構成比が 10.4%と突出してい る。日系企業では、コンビニエンスストアの「ミニストップ」や「セブン-イレブン」は撤退した ものの、「ローソン」や「ファミリーマート」、「イオン」等、店舗拡大を進める日本企業も多い。 「不動産」では、ジャカルタ首都圏(バンテン州と西ジャワ州の一部を含む)での日本企業の 動きが高まっている。 GDP 統計中では、サービス業としての「不動産業」は微減(2.9%→2.7%) しているが、第 2 次産業の「建設業」は大幅に上昇している(9.1%→10.5%)。 本章では、インドネシアの産業構成の特徴や日本企業の進出状況を踏まえ、次節以降、インド ネシアの主要産業として、「輸送機器」の中から、ASEAN 諸国の中で最も販売台数の多い「自動 車」と「バイク」を、経済成長に伴う所得の向上から市場規模が拡大している「食品・飲料」(加 工食品)を、主要セクターの中で最も構成比が高い「卸売・小売業」(小売業)を、ジャカルタ首 都圏を中心に日系デベロッパーの動きが活発化している「不動産」を取り上げ、その現況を詳述 する。

主要産業の動向と FTA の影響 - JBIC第22 章 主要産業の動向とFTAの影響 159 自動車 自動車産業の歴史 インドネシアの自動車産業では、かつて国産化政策が採られていた。1993

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Page 1: 主要産業の動向と FTA の影響 - JBIC第22 章 主要産業の動向とFTAの影響 159 自動車 自動車産業の歴史 インドネシアの自動車産業では、かつて国産化政策が採られていた。1993

第 22 章 主要産業の動向と FTA の影響

157

主要産業の動向と FTA の影響

インドネシアの主要産業

2018 年の名目 GDP 産業構成比は、第 1 次産業が 12.8%、第 2 次産業が 39.7%、第 3 次産業が

43.4%となっており、第 2 次産業と第 3 次産業の比率が高い(この他、生産物に課される税から

補助金を除した部分が 4.0%を占める)。但し、第 2 次産業のうち、「鉱業・採石業」が GDP 全体

の 8.1%、建設業が同 10.5%と多くを占めており、製造業に限ってみれば同 19.9%と、第 2 次産業

の半分を占める程度である(図表 22-1)。また、製造業の内訳を構成比の高い順でみると、①「食

品・飲料」(同 6.3%)、②「石炭、原油、ガス精製」(同 2.2%)、③「輸送機器」(同 1.8%)、④「金

属製品、電気、光学製造」(同 1.7%)、⑤「化学・医薬品」(同 1.6%)、となっている。

製造業の中の「食品・飲料」は、規模が最も大きいだけでなく、比較可能な 2010 年に比べて構

成比が+1.0%ポイントと、製造業の中で構成比の拡大幅が最も大きい(5.3%→6.3%)。また、日

本企業にとっては、2 億人を超す人口は魅力だが、イスラム教徒が多く、2019 年に「ハラル製品

保証法」が施行されていることから、どのような留意点があるか等の関心も高い。

「輸送機器」は、自動車やバイクの製造だけでなく、第 3 次産業の「卸売・小売業」でも 2 割

程度を占めていることから、インドネシアの GDP の約 4%(4.4%)を占める重要なセクターと考

えられる。また自動車、バイクともに日系メーカーの販売シェアが 9 割を超えるなど、インドネ

シアの輸送機器セクターは日系企業にとって重要な市場となっている。

第 3 次産業の中では、「卸売・小売業(自動車・二輪を除く)」の構成比が 10.4%と突出してい

る。日系企業では、コンビニエンスストアの「ミニストップ」や「セブン-イレブン」は撤退した

ものの、「ローソン」や「ファミリーマート」、「イオン」等、店舗拡大を進める日本企業も多い。

「不動産」では、ジャカルタ首都圏(バンテン州と西ジャワ州の一部を含む)での日本企業の

動きが高まっている。GDP 統計中では、サービス業としての「不動産業」は微減(2.9%→2.7%)

しているが、第 2 次産業の「建設業」は大幅に上昇している(9.1%→10.5%)。

本章では、インドネシアの産業構成の特徴や日本企業の進出状況を踏まえ、次節以降、インド

ネシアの主要産業として、「輸送機器」の中から、ASEAN 諸国の中で最も販売台数の多い「自動

車」と「バイク」を、経済成長に伴う所得の向上から市場規模が拡大している「食品・飲料」(加

工食品)を、主要セクターの中で最も構成比が高い「卸売・小売業」(小売業)を、ジャカルタ首

都圏を中心に日系デベロッパーの動きが活発化している「不動産」を取り上げ、その現況を詳述

する。

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インドネシアの投資環境

158

図表 22-1 インドネシアの産業構成比(名目)

(出所)中央統計局より作成

2010 2018 (年率) 2010 2018全体 6,864 14,837 10.1% (100.0%) (100.0%) -

第1次産業 956 1,900 9.0% (13.9%) (12.8%) (-1.1%) ↓

第2次産業 2,936 5,895 9.1% (42.8%) (39.7%) (-3.0%) ↓

鉱業・採石業 718 1,199 6.6% (10.5%) (8.1%) (-2.4%) ↓

製造業 1,513 2,947 8.7% (22.0%) (19.9%) (-2.2%) ↓

石炭、原油、ガス精製 234 332 4.5% (3.4%) (2.2%) (-1.2%) ↓

食品・飲料 360 927 12.5% (5.3%) (6.3%) (+1.0%) ↑

タバコ 67 132 8.8% (1.0%) (0.9%) (-0.1%) 繊維、衣料 96 169 7.2% (1.4%) (1.1%) (-0.3%) 革製品、履物 20 42 9.8% (0.3%) (0.3%) (-0.0%) 木材・木製品 57 84 5.0% (0.8%) (0.6%) (-0.3%) 紙・印刷 68 102 5.2% (1.0%) (0.7%) (-0.3%) 化学・医薬品 114 240 9.7% (1.7%) (1.6%) (-0.1%) ゴム・プラスチック 67 93 4.2% (1.0%) (0.6%) (-0.3%) 非鉄金属 51 93 7.8% (0.7%) (0.6%) (-0.1%) 鉄鋼、同製品 54 111 9.3% (0.8%) (0.8%) (-0.0%) 金属製品、電気、光学製造 131 258 8.9% (1.9%) (1.7%) (-0.2%) 一般機械 24 48 9.1% (0.3%) (0.3%) (-0.0%) 輸送機器 134 261 8.7% (2.0%) (1.8%) (-0.2%) 家具 20 35 7.4% (0.3%) (0.2%) (-0.1%) その他製造業 15 21 4.3% (0.2%) (0.1%) (-0.1%)

公益業 78 186 11.4% (1.1%) (1.3%) (+0.1%) 建設業 627 1,562 12.1% (9.1%) (10.5%) (+1.4%) ↑

第3次産業 2,791 6,441 11.0% (40.7%) (43.4%) (+2.7%) ↑

卸売・小売業 924 1,932 9.7% (13.5%) (13.0%) (-0.4%) 自動車・二輪(修繕含) 182 387 9.9% (2.7%) (2.6%) (-0.0%) その他の卸売・小売業 742 1,545 9.6% (10.8%) (10.4%) (-0.4%)

運輸・倉庫業 245 797 15.9% (3.6%) (5.4%) (+1.8%) ↑

ホテル・飲食業 200 413 9.5% (2.9%) (2.8%) (-0.1%) 情報・通信業 256 559 10.3% (3.7%) (3.8%) (+0.0%) 金融業 240 616 12.5% (3.5%) (4.2%) (+0.7%) ↑

不動産業 198 407 9.4% (2.9%) (2.7%) (-0.1%) ビジネスサービス業 99 267 13.2% (1.4%) (1.8%) (+0.4%) 公共サービス業 260 542 9.6% (3.8%) (3.7%) (-0.1%) 教育サービス業 202 482 11.5% (2.9%) (3.2%) (+0.3%) ↑

医療・社会福祉活動 66 158 11.4% (1.0%) (1.1%) (+0.1%) その他サービス業 101 269 13.0% (1.5%) (1.8%) (+0.3%)

生産物に課される税-同補助金 180 601 16.2% (2.6%) (4.0%) (+1.4%)

名目GDP(兆ルピア) 構成比

(差分)

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第 22 章 主要産業の動向と FTA の影響

159

自動車

自動車産業の歴史

インドネシアの自動車産業では、かつて国産化政策が採られていた。1993 年以前は、「ローカ

ルコンポーネントとペナルティによる規制」が存在し、インドネシア製でなければならないと指

定された部品を輸入した場合には、輸入価額の 50%のペナルティが課されていた。また、1994 年

に「ローカルコンテントとインセンティブによる規制」が発令され、国産化率が高いほど輸入関

税が下がる方式が採られるようになった。これらはいずれも国内産業を保護する内容で、自動車

産業の自由化は、1993 年以降に始まった二輪車産業の自由化に比べて遅れをとっていた。

しかし、1998 年のアジア通貨危機の影響を受け、インドネシア政府は自動車産業もそれまでの

国内産業保護政策から自由化に方向を転換し、国内の産業保護政策は輸入関税(完成車、部品、

CKD が対象。CKD:Complete Knock Down の略。部品単位で分解されている自動車を指す)が残

されるのみとなった。更に、1999 年 7 月、インドネシア政府は長期的に効率的で国際競争力のあ

る自動車産業を育成することを目標に、新自動車政策を導入した。当該政策の下、インセンティ

ブ制度を廃止し、国産化率を問わず、カテゴリー・排気量・部品供給形態別に部品(HS コード)

毎に輸入税率を設定する制度に移行した。アジア通貨危機に見舞われた 1998 年のインドネシアの

自動車販売台数は 5.8 万台だったが、2004 年には 48.3 万台と、それまでの過去最高だった 1997年(38.7 万台)を上回った。更に、2013 年には販売台数は 123.0 万台にまで増加した(図表 22-2)。

但し、2014 年以降の自動車販売台数は、それまでの伸びを牽引してきた小型(1,500cc 未満)の

多目的車(Multi Purpose Vehicle:MPV)の販売台数が税制優遇政策の変更に伴い減少に転じたた

め、2015~2018 年の年間販売台数は 100 万台を上回るも、2013 年の水準は超えていない。

図表 22-2 自動車(乗用車+商用車)の販売台数の推移

(出所)Association of Indonesian Automotive Industries より作成

0

200

400

600

800

1,000

1,200

89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16 17 18

(1,000台)

(暦年)

自動車販売台数

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インドネシアの投資環境

160

人気車種は「多目的車」から「低燃費小型車」に進むが、起爆剤としての効果は限定的

2013 年までのインドネシアの自動車販売市場の主役は多目的車(Multi Purpose Vehicle:MPV)

であった。しかし、2013 年に政府が低価格で燃費効率の良い小型車「ローコスト・アンド・グリ

ーンカー」(LCGC)への奢侈税の優遇を規定(政令「2013 年第 41 号」)すると、消費者の需要が

MPV から LCGC へと大きくシフトした。具体的には、2012 年には自動車(乗用車+商用車)販売

の 66.2%を MPV が占めていたが、2018 年に同比率は 55.1%に低下し、その一方で、LCGC 市場

は 2016 年以降、市場全体の 2 割を越える水準まで成長している(図表 22-3)。

2013 年に規定された LCGC の要件は、排気量 1,200cc 以下で、燃料 1L あたりの走行距離が 20km以上、地方税や自動車税などを除いた参照価格が 8,500 万~9,500 万ルピア(日本円換算 70~80万円)とされている。参照価格はインフレ率、ルピア相場、原材料価格の動向に応じて調整され、

またオートマチック車は参照価格に 15%まで、エアバックや ABS 等の安全装置の搭載車は 10%まで、それぞれ上乗せすることが認められている。インドネシアでは自動車に対する奢侈税の影

響は大きい。例えば、1,500cc の乗用車(セダン、ステーションワゴン除く)に対する税率は 10%だが、同タイプの乗用車で 2,500cc 超 3,000cc 以下の車種の税率は 40%に達する。また同国ではセ

ダン車に対する税率も高く、1,500cc のセダンの奢侈税率は 30%である。

但し、税制面の優遇はあるが、LCGC は市場自体を拡大させるほどには至っていない。2017 年

1 月、政府は 2020 年の国内自動車生産目標を 250 万台(国内 8 割、輸出 2 割)に設定する方針を

表明した。2018 年の国内販売台数の約 2 倍となる強気な目標であるが、LCGC の年間販売台数が

23 万台で頭打ちとなっており、LCGC 効果で政府目標を達成するのは容易ではない。

図表 22-3 車種別販売台数と構成比の変化

(注)2013 年の販売台数(セグメント合算ベース)は 117.9 万台と、総計(123.0 万台)と差がある (出所)Association of Indonesian Automotive Industries より作成

2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018 年率増加率 変化幅

全体 764.7 894.2 1,116.2 1,229.8 1,208.0 1,013.5 1,062.7 1,077.4 1,151.3 +5.2% (100.0%) (100.0%) (100.0%) (100.0%) (100.0%) (100.0%) (100.0%) (100.0%) (100.0%) -

乗用車 541.5 602.0 780.8 828.9 879.4 736.8 862.0 842.5 874.7 +6.2% (70.8%) (67.3%) (69.9%) (67.4%) (72.8%) (72.7%) (81.1%) (78.2%) (76.0%) (+5.2%)

セダン 33.1 26.5 34.2 34.2 21.6 17.4 13.8 8.3 6.7 -18.1% (4.3%) (3.0%) (3.1%) (2.8%) (1.8%) (1.7%) (1.3%) (0.8%) (0.6%) (-3.7%)

多目的車(MPV) 504.5 569.9 739.2 788.1 679.9 545.3 608.0 596.1 634.4 +2.9% (66.0%) (63.7%) (66.2%) (64.1%) (56.3%) (53.8%) (57.2%) (55.3%) (55.1%) (-10.9%)

- 1,500 cc 389.7 452.7 583.1 637.7 551.2 446.9 467.7 460.1 494.4 +3.0% (51.0%) (50.6%) (52.2%) (51.9%) (45.6%) (44.1%) (44.0%) (42.7%) (42.9%) (-8.0%)

1,500 - 2,500 cc 111.9 113.3 152.3 147.8 126.3 97.1 137.9 134.3 138.9 +2.7% (14.6%) (12.7%) (13.6%) (12.0%) (10.5%) (9.6%) (13.0%) (12.5%) (12.1%) (-2.6%)

2,500 - 3,000 cc 2.9 3.8 3.8 2.7 2.3 1.3 2.5 1.8 1.1 -11.4% (0.4%) (0.4%) (0.3%) (0.2%) (0.2%) (0.1%) (0.2%) (0.2%) (0.1%) (-0.3%)

スポーツ・ユーティリティ(SUV) 3.8 5.6 7.4 6.5 5.9 8.6 4.9 3.4 3.1 -2.5% (0.5%) (0.6%) (0.7%) (0.5%) (0.5%) (0.8%) (0.5%) (0.3%) (0.3%) (-0.2%)

Affordable Energy Cost Saving Cars 0.0 0.0 0.0 0.0 172.1 165.4 235.2 234.6 230.4 - - - - - (14.2%) (16.3%) (22.1%) (21.8%) (20.0%) (+20.0%)

商用車 223.2 292.2 335.4 349.8 328.6 276.7 200.6 234.8 276.6 +2.7% (29.2%) (32.7%) (30.1%) (28.4%) (27.2%) (27.3%) (18.9%) (21.8%) (24.0%) (-5.2%)

トラック 204.7 270.2 311.6 330.3 313.2 260.9 187.4 217.6 257.4 +2.9% (26.8%) (30.2%) (27.9%) (26.9%) (25.9%) (25.7%) (17.6%) (20.2%) (22.4%) (-4.4%)

バス等 18.6 22.0 23.8 19.5 15.3 15.8 13.2 17.2 19.2 +0.4% (2.4%) (2.5%) (2.1%) (1.6%) (1.3%) (1.6%) (1.2%) (1.6%) (1.7%) (-0.8%)

2010 to 2018販売台数(1,000台)

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第 22 章 主要産業の動向と FTA の影響

161

日系完成車メーカーの存在感が大きいインドネシア自動車市場

2018 年の自動車販売台数は 115 万台。このうち、トヨタ自動車(以下、「トヨタ」)のシェアが

30.7%と最も高く、次いでダイハツ工業(以下、「ダイハツ」)が 17.6%、三菱自動車の 16.9%、

本田技研工業(以下、「ホンダ」)の 14.1%、スズキの 10.2%と続く(図表 22-4)。大手 5 社はすべ

て日系メーカーで 5社合計の市場シェアはほぼ 9割(89.5%)に達し、この他にいすゞ自動車(2.3%)、

日産自動車(0.6%)がいる等、インドネシアの自動車市場は、日系メーカーが席巻している。

各メーカーの販売シェアの傾向は、2016 年を境に変化が表れている。2011 年から 2016 年にか

けては、ホンダ(5.1%→18.8%)やダイハツ(15.6%→17.9%)のシェアが拡大し、三菱自動車(15.0%→9.2%)と日産自動車(6.3%→1.2%)のシェアが低下した。しかし、2016 年から 2018 年にかけ、

最大手のトヨタ(▲5.3%ポイント)とそれまでシェアを伸ばしてきたホンダ(▲4.7%ポイント)

が低下し、苦戦が続いていた三菱自動車(+7.7%ポイント)とスズキ(+1.5%ポイント)が上昇し

ている。特に三菱自動車は新型クロスオーバーMPV「エクスパンダー(Xpander)」の売れ行きが

好調で、2018 年のシェアは 2011 年を上回っている。

今後注目されるのは、電気自動車(Electric Vehicle:EV)の開発・生産に向けた動きであろう。

2019 年 8 月、政府は電気自動車開発促進に関する大統領令(2019 年第 55 号)を公布・施行した。

EV の完成車や部品の製造拠点を国内に設置する企業に対し、一定期間の輸入を認めるものの、現

地調達率を「四輪以上の場合は 2021 年までに 35%以上、二輪・三輪車の場合は 2023 年までに 40%以上とする」ことを定めた。また、2019 年 10 月には自動車奢侈税の課税対象品目に関する政令

「2019 年第 73 号」が公布され、プラグインハイブリッド電気自動車(PHEV)とバッテリーEV(BEV)、燃料電池自動車(FCEV)は税率が実質 0%となった(施行は 2021 年 10 月)。

図表 22-4 自動車のメーカー別販売シェア(2018 年)

(出所)ASTRA International より作成

Toyota 30.7%

Daihatsu 17.6%Mitsubishi

16.9%

Honda 14.1%

Suzuki 10.2%

Others10.5%

自動車販売台数

115万台

(2018年)

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インドネシアの投資環境

162

所得水準の向上より乗用車普及の加速が期待される

政府の 2020 年の自動車生産台数の目標(250 万台)は、達成のハードルは高いが、長期的にみ

てインドネシアの自動車市場の魅力は大きい。アジア諸国の過去の経験則では、1 人あたり GDPが 3,000 ドルから 5,000 ドルの範囲に達すると、その国の乗用車普及率が急伸する傾向がある(図

表 22-5)。例えば、インドネシアよりも所得水準の向上が先行する中国やタイでも、1 人あたり

GDP が 3,000 ドルを越えた時期に乗用車の普及が加速した。2018 年の 1 人あたり GDP が 3,871 ド

ルだったインドネシアも既に同様の傾向にあり、今後同国での自動車普及率の上昇が期待される。

2018 年の乗用車販売台数は 87.5 万台と、過去最高だった 2014 年の 87.9 万台とほぼ並ぶ水準に

販売台数は回復したが、政治の先行き不透明感に伴う消費者の買い控えや、輸出額の多い資源価

格の下落による景気悪化懸念から、1~9 月期は前年同期比▲12.0%と芳しくない。足下の業況は

厳しいが、2019 年 9 月の自動車ローンの頭金比率規制の緩和や、同年 10 月の自動車奢侈税の改

訂で、今後、自動車の需要喚起が期待される。ローンの頭金規制は、インドネシア中央銀行が定

める不良債権比率を満たす場合では、頭金比率が 20%から 10%(バイクは 15%)に、更に環境

に配慮した車両ではこれに加えて 5%ポイント引き下げられる(同年 12 月 2 日から実施)。

図表 22-5 所得水準と乗用車普及率

(出所)IMF、各種資料より作成

0%

5%

10%

15%

20%

25%

100 1,000 10,000 100,000

(乗用車普及率)

1人あたりGDP(ドル)

日本

タイ

韓国

マレーシア

フィリピン

インドネシア

中国

3,000 5,000

72

77

89

92

05

18

18

18

67

02

17

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第 22 章 主要産業の動向と FTA の影響

163

バイク

1993年の自由化以降、2011年にかけてバイク市場は急速に拡大

インドネシアの二輪車市場は、1993 年の自由化移行を契機に急速に成長し、2011 年の 800 万台

規模に成長した後は縮小に転じ、2015 年以降、年間販売台数は 600 万台前後で推移している。

1969 年、発足後間もないスハルト政権は、二輪完成車(CBU:Complete Build Up)の輸入を禁

止し、ノックダウン車両(CKD:Complete Knock Down)輸入による国内組立を義務付けた。これ

により、1971 年にホンダ、74 年にはヤマハが現地組立を開始した。更に、1977 年から 1980 年代

半ばにかけて、インドネシアは二輪車部品の国産化政策を段階的に進めた。対象となったのは、

ワイヤーハーネス、バッテリー、フィルター、エンジン鋳造部品等である。

しかし、このような国産化政策は、1993 年以降、徐々に自由化へと転換する。1993 年には品目

指定による国産化の義務付けを止め、組立事業の外資参入を自由化した。1999 年には国産化政策

を全面的に廃止し、完成車と部品の関税率を引き下げた。また、同時に総代理店制を廃止し、完

成車・部品を自由に輸入できるようになった。

アジア通貨危機に見舞われた 1998年のインドネシアの二輪車販売台数は 43万台だったが、2002年には 229 万台とそれまでの過去最高だった 1997 年の 180 万台を上回り、2011 年には 801 万台

にまで増加した(図表 22-6)。

図表 22-6 バイクの販売台数の推移

(出所)PT Astra より作成

0

1,000

2,000

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(1,000台)

(暦年)

バイク販売台数

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インドネシアの投資環境

164

日系 4社で市場を占めるも、足下のバイク市場は弱含む

しかし、近年のバイク市場には力強さがない。2018 年の二輪車販売台数は 638 万台と、4 年ぶ

りに前年水準を上回ったが、それでもピークだった 2011 年の 801 万台の 3/4 程度の市場規模に縮

小している。背景には、2011 年以降、販売を支えるローンの審査が厳しくなったことや、ジャカ

ルタや西ジャワ州等、人口が多く所得水準が相対的に高い地域では、バイクから乗用車へのシフ

トが進んでいること等が挙げられる。

メーカー別では、ホンダとヤマハとで明暗が分かれている。2010 年時点では、インドネシアの

二輪販売市場はホンダとヤマハでシェアをほぼ二分していたが、2011 年以降は両社の差は広がり、

ホンダがヤマハよりも 50%ポイントほど上回っている(図表 22-7)。また、台数ベースでみても、

直近の販売台数がピークだった 2011 年と 2018 年とを比較すると、市場全体が縮小する中、ホン

ダの販売台数は約 49 万台増加(427 万台→476 万台)した一方、ヤマハの販売台数 168 万台の大

幅減少(314 万台→146 万台)に見舞われている。

2018 年のメーカー別の販売シェアは、ホンダが 74.6%と他を大幅に上回っており、ヤマハが

22.8%、スズキが 1.4%、カワサキが 1.2%で続いている。自動車と同様、日系メーカー4 社で、バ

イク市場はほぼ占められている(図表 22-8)。

図表 22-7 主要バイクのメーカー別販売シェアの推移

(出所)Indonesian Motorcycles Industry Association より作成

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10%

20%

30%

40%

50%

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80%

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(暦年)

ホンダ ヤマハ スズキ

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第 22 章 主要産業の動向と FTA の影響

165

図表 22-8 バイクのメーカー別販売シェア(2018 年)

(出所)Indonesian Motorcycles Industry Association より作成

地方部の購買力がカギを握る今後のバイク市場

2019 年 1~8 月期(累計)のバイク販売台数は前年同期比 5.1%増と、前年割れとなっている自

動車に比べれば堅調に推移している。但し、2000 年以降の販売統計に基づくと、インドネシアで

は 8~11 月の 4 ヵ月の売上指数が相対的に高く、非常に重要な季節となる。特に 10 月が最も売上

高が大きい月間で、最も低い 12 月に比べて 1.25 倍もの開きがある。このため、2019 年のバイク

販売台数が 2018 年を上回るかは、9~11 月の実績が重要となろう。

更に 2020 年以降を見据えた場合、今後の市場動向のカギとなるのが、地方部の購買力であろう。

2019 年 6 月の現地調査では、「米中貿易摩擦の影響で、インドネシアの主要輸出品目である石炭

の中国向け輸出量が減少したり、世界的に需給バランスが緩和して石炭単価が下落することで輸

出額が減少したりすれば、特に資源関連事業に係る地方の労働者の賃金が減り、地方部でのバイ

ク購入需要にマイナスの影響が出るのではないか」との指摘もあった。

インドネシアでは、鉱業の GDP 構成比が相対的に高い地域は、石油・天然ガスが多い「スマト

ラ」、石炭の多い「カリマンタン」、銅などの鉱物資源が多い「マルク・パプア」である。中央統

計局に拠ると、バイクの所有台数の内訳は、スマトラが 23.1%、カリマンタンが 7.2%、マルク・

パプアが 1.5%と全体の 3 割強を占めている。

2019 年 10 月時点、発表済みの統計からは当該地域のバイク販売台数の動向に大きな変化は確

認されていないが、地方部の雇用環境など購買力の動向には留意が必要と思われる。

Honda

74.6%

Yamaha

22.8%

Suzuki

1.4%

Kawasaki

1.2%

バイク販売台数

638万台

(2018年)

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インドネシアの投資環境

166

図表 22-9 州別にみた二輪車と乗用車の保有台数(2018 年)

(注)統計分類上の記載がない州は「-」とした。普及率は人口あたりで算出。 (出所)Indonesian Motocycles Industry Association より作成

万人 構成比 ドル 全国=100 万台 対人口普及率 万人 対人口普及率

全国 26,502 100.0% 3,964 100 11,644 43.9% 1,637 6.2%

スマトラ 5,776 21.8% 3,924 99 2,693 46.6% 345 6.0% アチェ 528 2.0% 2,070 52 - - - - 北スマトラ 1,442 5.4% 3,605 91 664 46.1% 65 4.5% 西スマトラ 538 2.0% 3,003 76 206 38.4% 23 4.3% リアウ 681 2.6% 7,770 196 224 32.8% 73 10.7% ジャンビ 357 1.3% 4,092 103 497 139.3% 32 8.9% 南スマトラ 837 3.2% 3,515 89 466 55.6% 98 11.7% バンカ・ブリトゥン 146 0.6% 3,509 89 97 66.7% 7 4.6% リアウ諸島 214 0.8% 8,173 206 127 59.3% 20 9.2% ブンクル 196 0.7% 2,371 60 107 54.3% 6 3.2% ランプン 837 3.2% 2,795 70 305 36.4% 22 2.6%

ジャワ 14,964 56.5% 4,106 104 6,349 42.4% 909 6.1% ジャカルタ首都特別州 1,047 3.9% 17,408 439 1,616 154.3% 413 39.5% 西ジャワ 4,868 18.4% 2,826 71 1,010 20.7% 156 3.2% バンテン 1,269 4.8% 3,397 86 282 22.2% 20 1.6% 中部ジャワ 3,449 13.0% 2,579 65 1,515 43.9% 122 3.5% ジョグジャカルタ特別州 380 1.4% 2,394 60 421 110.6% 43 11.4% 東ジャワ 3,950 14.9% 3,886 98 1,506 38.1% 154 3.9%

小スンダ 1,468 5.5% 2,185 55 726 49.5% 132 9.0% バリ 429 1.6% 3,829 97 390 90.9% 94 21.9% 西ヌサ・トゥンガラ 501 1.9% 1,732 44 198 39.5% 16 3.1% 東ヌサ・トゥンガラ 537 2.0% 1,293 33 138 25.7% 22 4.1%

カリマンタン 1,621 6.1% 5,315 134 843 52.0% 129 7.9% 西カリマンタン 500 1.9% 2,720 69 234 46.7% 40 8.1% 中部カリマンタン 266 1.0% 3,656 92 130 48.7% 28 10.6% 南カリマンタン 418 1.6% 2,882 73 238 57.0% 30 7.1% 東カリマンタン 437 1.6% 10,248 259 242 55.3% 30 6.9% 北カリマンタン - - - - - - - -

スラウェシ 1,946 7.3% 3,357 85 861 44.3% 101 5.2% スラウェシ 248 0.9% 3,373 85 129 51.8% 19 7.7% ゴロンタロ 119 0.4% 2,232 56 32 27.3% 10 8.5% 西スラウェシ 136 0.5% 2,252 57 - - - - 中部スラウェシ 301 1.1% 3,508 88 215 71.3% 20 6.6% 南スラウェシ 877 3.3% 3,695 93 347 39.6% 46 5.3% 南東スラウェシ 265 1.0% 3,120 79 138 52.2% 6 2.2%

マルク・パプア 727 2.7% 3,568 90 170 23.5% 23 3.2% マルク 177 0.7% 1,702 43 80 45.1% 7 3.8% 北マルク 123 0.5% 2,076 52 14 11.8% 1 0.5% 西パプア 94 0.4% 5,956 150 - - - - パプア 332 1.3% 4,445 112 76 22.8% 16 4.7%

二輪保有台数 (2018年) 乗用車保有台数 (2018年)人口 (2018年) 1人あたりGDP (2018年)

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第 22 章 主要産業の動向と FTA の影響

167

食品

食品加工業の市場規模とその推移

2018 年のインドネシアの加工食品市場は 333 兆ルピア(282 億ドル、約 3.1 兆円、Euromonitor調べ)である(図表 22-10)。2008 年からの 10 年間、市場全体は年率 11.1%増と名目 GDP 成長率

(同 10.6%増)を上回るペースで成長している。また、この期間、1 人あたりの加工食品の売上

高(現地通貨建て)は 2.5 倍に増えている。

図表 22-10 加工食品の市場規模と成長率

(出所)Euromonitor より作成、予想は Euromonitor

2億人超の人口を抱えるインドネシアの加工食品市場は、ASEAN諸国の中でも最も大きい。2018年のドル建ての市場規模は 282 億ドルと、2 位のタイ(134 億ドル)、3 位のベトナム(119 億ドル)、

4 位のフィリピン(116 億ドル)とは 2 倍以上の差がある。他のアジア諸国まで含めると、インド

ネシアよりも人口の多い中国(2,766 億ドル)や所得水準が高い日本(1,822 億ドル)に比べれば

インドネシアの市場規模は 10~15%の規模に留まるが、それでも既に韓国(274 億ドル)よりも

市場規模は大きい。

人口が多いインドネシアでは、所得の増加に伴い、今後一層の市場規模の拡大が期待される。

図表 22-11 は、アジア地域の主要国(日本を除く)について、所得水準(1 人あたり GDP)と加

工食品の年間消費額(1 人あたり加工食品売上高)を表したものである。これに拠ると、加工食

品の 1 人あたり消費額は、所得水準に比例していることが窺える。

0%

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(兆ルピア)

(暦年)

加工食品市場規模(左軸)

前年比(右軸)

(予想)

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インドネシアの投資環境

168

図表 22-11 アジア主要国・地域の所得水準と加工食品の消費額(2018 年)

(出所)Euromonitor、IMF より作成

カテゴリー別にみたインドネシアの加工食品市場の変化

Euromonitor 社では、加工食品市場を 4 つの大分類、16 の中分類、70 の小分類、104 の細分類に

分けている。この内、2008 年から 2018 年にかけての大分類でみた加工食品市場の売上高構成比

の変化をみると、4 つの大分類の内、構成比が上昇したのは「主食」(+3.5%)と「乳製品等」(+1.1%)

である。中でも、「米」(+5.0%)、「加工肉・シーフード」(+1.7%)、「飲料用乳製品(ミルク、豆

乳等)」(+1.7%)のカテゴリーが相対的に伸びている。他方、構成比が低下した大分類は、「菓子

等」(▲3.8%)と「調味料・食材」(▲0.8%)である。比較的市場規模が大きい「チョコレート菓

子・ガム類」(▲1.6%)、「ビスケット菓子類」(▲1.3%)、「ナッツ・クラッカー類」(▲1.0%)と、

パームオイルを中心とした「食用油」(▲1.4%)の低下が顕著であった(図表 22-12)。

このような構成比の変化は、インドネシアでは所得の増加に伴い、主食(米)や主菜(主に肉)

の消費量の増加につながり、消費量の多い麺やチョコレートのような嗜好品(菓子パン、チョコ

レート菓子、キャンディ類、ビスケット)よりも選好されていることが背景にある。

例えば、1 人あたりの米の消費量は 2008 年の 28.3kg から 2018 年には 45.8kg と 1.6 倍に増加し

たが、麺類は 5.6kg から 6.2kg への微増に留まった。また、世界ラーメン協会(World Instant Noodles Association:WINA)の推計に拠ると、インドネシアは中国に次ぐ世界第 2 位のインスタント・

ラーメンの消費国だが、2014 年から 2018 年にかけて、年間消費量は約 7%減少した模様である。

尚、「米」同様に構成比が上昇した「加工肉・シーフード」では、2008 年から 2018 年の間、1 人

あたりの消費量は加工肉で 4.9 倍、シーフード(魚加工品)で 2.1 倍と大幅に増えている。

MyanmarCambodia

India

Vietnam

Laos

Philippines Indonesia

ThailandChina

MalaysiaTaiwan

South Korea

Hong Kong

Singapore

R² = 0.8948

10

100

1,000

1,000 10,000 100,000

(1人あたりGDP、ドル)

(1人あたり加工食品年間売上高、ドル)

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第 22 章 主要産業の動向と FTA の影響

169

図表 22-12 加工食品の売上高と構成比(2008 年→2018 年)

(出所)Euromonitor より作成

分類

2008 2018 年率成長率 2008 2018 差分

加工食品 138,460 398,183 11.1% 100.0% 100.0% - 調味料・食材 13,935 36,980 10.3% 10.1% 9.3% -0.8%

食用油 6,313 12,544 7.1% 4.6% 3.2% -1.4% ↓

オリーブオイル 313 991 12.2% 0.2% 0.2% 0.0% パームオイル 5,598 10,765 6.8% 4.0% 2.7% -1.3% ↓

レディー・ミール 69 153 8.3% 0.0% 0.0% -0.0% ソース・ドレッシング・香辛料 6,898 22,612 12.6% 5.0% 5.7% 0.7%

調味料 2,544 7,540 11.5% 1.8% 1.9% 0.1% テーブルソース 4,200 14,597 13.3% 3.0% 3.7% 0.6%

スープ 27 90 12.8% 0.0% 0.0% 0.0% スプレッド 628 1,581 9.7% 0.5% 0.4% -0.1%

乳製品等 28,327 85,729 11.7% 20.5% 21.5% 1.1% ↑

ベビーフード 13,592 39,300 11.2% 9.8% 9.9% 0.1% 乾燥ベビーフード 723 1,680 8.8% 0.5% 0.4% -0.1% 粉ミルク 12,549 36,682 11.3% 9.1% 9.2% 0.1%

乳製品 14,735 46,429 12.2% 10.6% 11.7% 1.0% ↑

飲料乳製品(ミルク、豆乳等) 6,453 25,241 14.6% 4.7% 6.3% 1.7% ↑

ヨーグルト・乳製品 976 4,780 17.2% 0.7% 1.2% 0.5% その他乳製品(コンデンスミルク等) 6,122 13,138 7.9% 4.4% 3.3% -1.1%

菓子等 31,785 76,225 9.1% 23.0% 19.1% -3.8% ↓

チョコレート菓子・ガム類 12,137 28,427 8.9% 8.8% 7.1% -1.6% ↓

チョコレート菓子 5,496 12,973 9.0% 4.0% 3.3% -0.7% キャンディ等 5,815 13,506 8.8% 4.2% 3.4% -0.8%

アイスクリーム・冷凍デザート 1,884 6,070 12.4% 1.4% 1.5% 0.2% ナッツ・クラッカー類 9,205 22,398 9.3% 6.6% 5.6% -1.0% ↓

ナッツ類 2,760 6,962 9.7% 2.0% 1.7% -0.2% ソルティー・スナック 4,722 12,147 9.9% 3.4% 3.1% -0.4%

ビスケット菓子類 8,559 19,330 8.5% 6.2% 4.9% -1.3% ↓

主食 64,413 199,248 12.0% 46.5% 50.0% 3.5% ↑

パン類 13,652 33,679 9.5% 9.9% 8.5% -1.4% ↓

パン 2,574 6,558 9.8% 1.9% 1.6% -0.2% ケーキ 1,512 3,471 8.7% 1.1% 0.9% -0.2% 菓子パン 8,743 21,263 9.3% 6.3% 5.3% -1.0%

朝食用シリアル 294 1,106 14.2% 0.2% 0.3% 0.1% 加工果物・野菜 271 592 8.1% 0.2% 0.1% -0.0% 加工肉・シーフード 6,035 24,223 14.9% 4.4% 6.1% 1.7% ↑

加工肉 4,056 16,510 15.1% 2.9% 4.1% 1.2% ↑

加工シーフード 1,438 5,927 15.2% 1.0% 1.5% 0.4% 米・パスタ・麺類 44,162 139,649 12.2% 31.9% 35.1% 3.2% ↑

麺 14,213 33,671 9.0% 10.3% 8.5% -1.8% ↓

インスタント麺 13,729 32,424 9.0% 9.9% 8.1% -1.8% ↓

カップタイプ 637 1,922 11.7% 0.5% 0.5% 0.0% 袋タイプ 13,092 30,502 8.8% 9.5% 7.7% -1.8% ↓

常温の非インスタント麺 484 1,246 9.9% 0.3% 0.3% -0.0% 米 29,828 105,594 13.5% 21.5% 26.5% 5.0% ↑

金額(10億ルピア) 構成比

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インドネシアの投資環境

170

「ハラル製品保証法」への対応が必要

経済発展に伴って今後も拡大が期待されるインドネシアの加工食品市場であるが、イスラム教

(ムスリム)の戒律によって食べることが許されたことを示す「ハラル認証」への対応は、その

成長ペースを押し下げる一因となり得る。

2014 年に制定されたハラル製品保証法「2014 年第 33 号」では、2019 年 10 月からインドネシ

ア国内で流通・売買されるすべての製品に、ハラル認証の取得を義務付けることを規定した。2019年 5 月には、同法実施に関する政令「2019 年第 31 号」が公布され、ハラル認証取得が必要な範

囲、物品及びサービスの適用範囲、相互認証などの国際協力、運用の流れ等が規定された。また、

同年 10 月には、ハラル製品保証実施機関(BPJPH)が運用規定の説明会を実施した。これに拠る

と、消費者向けにハラルと非ハラルを明示する制度は 10 月 17 日から開始されるものの、飲食料

品については 5 年、非飲食料品は 7~15 年の移行期間が設けられた。対象事業者は、当該移行期

間中にハラル認証を取得するか、非ハラルであることを表示する対応が必要となる(図表 22-13)。

図表 22-13 ハラル製品保証法に関する運用スケジュール案

(注)サービスは各対象物に付帯する食肉処理、加工、保管、包装、配達、販売、給仕を指す。 (出所)JETRO ビジネス短信より作成

今後の見通し ~注目はアイスクリーム市場の伸び~

Euromonitor の調べに基づくと、2018 年から 2023 年までの 5 年間の加工食品市場の成長率は年

率 8.0%に、品目別構成比では過去 10 年間のトレンドが継続すると予想されている。「米」(+0.8%)、

「加工肉・シーフード」(+0.6%)、「乳製品」(+1.5%)に、構成比の上昇が見込まれる(図表 22-14)。

このような中、今後の注目品目に「アイスクリーム・冷凍デザート」を挙げる。Euromonitor では、2023 年までの同品目の年率成長率は 8.6%と市場全体をやや上回る水準と見込んでいる。一

般家庭の冷蔵庫普及率が 2008 年の 27.6%から 2018 年には 48.1%へと上昇している点も、消費が

伸びる要因となろう。特に富裕層や中間所得層の多いジャカルタでは、相対的に冷蔵庫の普及率

も高く、アイスクリームが受け入れられやすい環境になっていると考えられる。既に関連する日

系企業の動きも表れている。江崎グリコは 2016 年 11 月にインドネシアでアイスクリームの販売

事業を始め、シャトレーゼは現地に合弁会社を設立し、2017 年 11 月のジャカルタ 1 号店オープ

ン以降、2019 年 10 月時点ではジャカルタに 6 店舗を展開している。

対応期限 対象物・サービス

2024年 飲食料品

2026年化粧品、化学製品、遺伝子組換製品、包装材、衣料品、帽子、アクセサリー、

家庭用品、イスラム教徒の礼拝用品、文具・事務用品

伝統薬品、サプリメント、医療機器 Aクラス(低リスク製品)

2029年 一般薬品、医療機器 Bクラス(低中リスク製品)

2034年 処方箋薬品、医療機器 Cクラス(中高リスク製品)

別途規定 生物学的製品(ワクチンを含む)、医療機器 Dクラス(高リスク製品)

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第 22 章 主要産業の動向と FTA の影響

171

図表 22-14 加工食品の売上高と構成比(2018 年→2023 年)

(出所)Euromonitor より作成、予想は Euromonitor

分類

2018 2023 年率成長率 2018 2023 差分

加工食品 398,183 585,029 8.0% 100.0% 100.0% - 調味料・食材 36,980 53,885 7.8% 9.3% 9.2% -0.1%

食用油 12,544 17,074 6.4% 3.2% 2.9% -0.2% オリーブオイル 991 1,564 9.6% 0.2% 0.3% 0.0% パームオイル 10,765 14,407 6.0% 2.7% 2.5% -0.2%

レディー・ミール 153 200 5.5% 0.0% 0.0% -0.0% ソース・ドレッシング・香辛料 22,612 34,037 8.5% 5.7% 5.8% 0.1%

調味料 7,540 11,025 7.9% 1.9% 1.9% -0.0% テーブルソース 14,597 22,293 8.8% 3.7% 3.8% 0.1%

スープ 90 130 7.6% 0.0% 0.0% -0.0% スプレッド 1,581 2,445 9.1% 0.4% 0.4% 0.0%

乳製品等 85,729 121,281 7.2% 21.5% 20.7% -0.8% ↓

ベビーフード 39,300 44,120 2.3% 9.9% 7.5% -2.3% ↓

乾燥ベビーフード 1,680 2,492 8.2% 0.4% 0.4% 0.0% 粉ミルク 36,682 40,179 1.8% 9.2% 6.9% -2.3% ↓

乳製品 46,429 77,161 10.7% 11.7% 13.2% 1.5% ↑

飲料乳製品(ミルク、豆乳等) 25,241 41,360 10.4% 6.3% 7.1% 0.7% ↑

ヨーグルト・乳製品 4,780 9,664 15.1% 1.2% 1.7% 0.5% その他乳製品(コンデンスミルク等) 13,138 20,517 9.3% 3.3% 3.5% 0.2%

菓子等 76,225 109,798 7.6% 19.1% 18.8% -0.4% チョコレート菓子・ガム類 28,427 41,370 7.8% 7.1% 7.1% -0.1%

チョコレート菓子 12,973 19,174 8.1% 3.3% 3.3% 0.0% キャンディ等 13,506 19,548 7.7% 3.4% 3.3% -0.1%

アイスクリーム・冷凍デザート 6,070 9,167 8.6% 1.5% 1.6% 0.0% ナッツ・クラッカー類 22,398 31,086 6.8% 5.6% 5.3% -0.3%

ナッツ類 6,962 9,553 6.5% 1.7% 1.6% -0.1% ソルティー・スナック 12,147 17,112 7.1% 3.1% 2.9% -0.1%

ビスケット菓子類 19,330 28,175 7.8% 4.9% 4.8% -0.0% 主食 199,248 300,065 8.5% 50.0% 51.3% 1.3% ↑

パン類 33,679 50,123 8.3% 8.5% 8.6% 0.1% パン 6,558 9,507 7.7% 1.6% 1.6% -0.0% ケーキ 3,471 5,256 8.7% 0.9% 0.9% 0.0% 菓子パン 21,263 31,767 8.4% 5.3% 5.4% 0.1%

朝食用シリアル 1,106 1,744 9.5% 0.3% 0.3% 0.0% 加工果物・野菜 592 871 8.0% 0.1% 0.1% 0.0% 加工肉・シーフード 24,223 38,836 9.9% 6.1% 6.6% 0.6% ↑

加工肉 16,510 27,130 10.4% 4.1% 4.6% 0.5% 加工シーフード 5,927 9,525 10.0% 1.5% 1.6% 0.1%

米・パスタ・麺類 139,649 208,491 8.3% 35.1% 35.6% 0.6% ↑

麺 33,671 48,156 7.4% 8.5% 8.2% -0.2% インスタント麺 32,424 46,225 7.4% 8.1% 7.9% -0.2%

カップタイプ 1,922 2,866 8.3% 0.5% 0.5% 0.0% 袋タイプ 30,502 43,359 7.3% 7.7% 7.4% -0.2%

常温の非インスタント麺 1,246 1,931 9.1% 0.3% 0.3% 0.0% 米 105,594 159,718 8.6% 26.5% 27.3% 0.8% ↑

金額(10億ルピア) 構成比

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インドネシアの投資環境

172

ひとくちメモ 7: インドネシア製が一番安心?

我々は日本で食品を購入する際に、「国産が一番安心」と考えることが多いのではないか。例えば国

産品と輸入品、それぞれ同品質の食品が同じ値段で並んでいた場合、国産品を手に取る人が多数であろ

う。インドネシア人にとっても同様で、彼らにはインドネシア産の食品が最もなじみが深く、安心して

購入することができるものとなる。

特に、イスラム教の信者が国民の 9 割以上を占める同国では、多くの食品について、ハラルに配慮す

ることが不可欠であるが、世界各国に存在するハラル認証機関の中でも、彼らなりに信頼度が高い機関、

低い機関があると聞く。その点、幼い頃から家庭で食してきた食品こそ安心と感じるのは当然かもしれ

ない。

但し、インドネシアの消費者が保守的かというと、むしろ「新しいもの好き」な側面も窺える。特に

最近は健康ブームの到来によって、油や砂糖が少ない和食が注目されており、ショッピングモール内の

和食レストランで食事をしたり、日本の食品を買って消費している自分の姿を SNS で発信したりと、和

食が広く受け入れられている。このようなブームは富裕層に限らない。

ジャカルタ以外の主要都市でも、丸亀製麺や吉野家、大戸屋などの日本の外食チェーンが多数展開し

ており、現地の消費者で賑わっていたことが印象的である。彼らの「安心」と「関心」を結びつけるこ

とができれば、日本企業にとっても非常に大きなビジネスチャンスにつながる可能性がある。

MARUGAME UDON(丸亀製麺)は家族連れで賑わっていた

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第 22 章 主要産業の動向と FTA の影響

173

小売

市場概況

2016 年の小売市場の市場規模は 2,178 兆ルピア(約 16.9 兆円、Euromonitor 調べ)。市場全体の

伸びは 2008 年からの 10 年間で年率 9.6%と名目 GDP 成長率(10.6%)を若干下回っているが、

二桁成長に近いペースで市場規模は拡大している(図表 22-15)。

2008 年からの 10 年間の大きな変化は、①小売市場全体の約 6 割(58.8%)を占める伝統的小売

(トラディショナルトレード)の構成比が▲2.4%ポイントと大幅に縮小したこと、②食品小売の

中ではコンビニエンスストアが+5.3%と大幅に伸長したこと(当該構成比の拡大は主要業態の中

で最大であった)、③インターネット小売が年率 50%のペースで急伸し売上構成比が+2.7%ポイン

ト上昇したこと、④非食品専門店では、アパレル・靴専門店やスポーツ用品など、嗜好性の高い

セグメントの構成比が低下したこと、が挙げられる(図表 22-16)。

小売市場拡大の陰で、食品市場の近代化は進んできたものの、2016 年以降のペースは鈍ってい

る。コンビニエンスストア、スーパーマーケット、ハイパーマーケット等の近代的小売(モダン

トレード)の食品小売売上高に占める比率は 17.5%(2018 年)。10 年前の 10.7%からは高まって

いるものの、2016 年時点(17.8%)から若干低下している。

図表 22-15 小売販売額の推移

(出所)Euromonitor より作成、予想は Euromonitor

0%

2%

4%

6%

8%

10%

12%

14%

16%

18%

20%

0

500

1,000

1,500

2,000

2,500

3,000

3,500

4,000

04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23

(兆ルピア)

(暦年)非店舗小売(左軸) 複合小売(左軸)

専門店(左軸) 食品小売(トラディショナルトレード、左軸)

食品小売(モダントレード、左軸) モダントレード比率(右軸)

食品小売

モダントレード … コンビニエンスストアやハイパーマーケット等の近代的な小売業態

トラディショナルレード … 市場や個人食料雑貨店等の伝統的な小売業態

(予想)

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インドネシアの投資環境

174

図表 22-16 業態別販売額構成比(2008 年→2018 年)

(出所)Euromonitor より作成

外資規制の緩和は道半ばだが、専門店業態にはプラス

インドネシアの小売セクターでは、外資の出資規制や、フランチャイズの店舗数の上限や国産

品使用義務などの運用上の規制が緩和されてきている。

まず、2016 年に行われたのが、デパートメントストア業態での中小型店舗の外資比率の緩和で

ある。元々、インドネシアでは、モダントレードの業態を、商業大臣規定 2013 年第 70 号の第 6条及び同 7 条で売場面積と取扱商品に応じた分類で特定している(図表 22-17)。例えば、食料品

や生活用品等の各種消費財の販売業態では、400m2未満を「ミニマーケット」、400m2以上を「スー

パーマーケット」、5,000m2 以上の大型店舗を「ハイパーマーケット」と分類し、更に、消費者の

性別・年齢に応じた売場での衣料品などの各種消費財の販売では、400m2 以上の売場面積を有す

分類

2008 2018 年率成長率 2008 2018 差分

小売売上高 872 2,178 9.6% 100.0% 100.0% - 店舗型小売 863 2,091 9.3% 99.0% 96.0% -3.0% ↓

食品小売店 598 1,553 10.0% 68.6% 71.3% 2.7% ↑

モダントレード 64 271 15.6% 7.3% 12.5% 5.1% ↑

(内、コンビニエンスストア) 17 156 25.1% 1.9% 7.2% 5.3% ↑

(内、ハイパーマーケット) 19 37 6.7% 2.2% 1.7% -0.5% ↓

(内、スーパーマーケット) 28 77 10.7% 3.2% 3.5% 0.3% トラディショナルトレード 534 1,281 9.1% 61.3% 58.8% -2.4% ↓

非食品専門店 243 494 7.4% 27.8% 22.7% -5.1% ↓

アパレル・靴専門店 68 128 6.6% 7.8% 5.9% -1.9% ↓

電化製品専門店 16 46 10.9% 1.8% 2.1% 0.2% 健康・美容関連製品専門店 31 72 8.7% 3.6% 3.3% -0.3%

(内、美容専門小売店) 4 10 9.6% 0.5% 0.5% 0.0% (内、調剤薬局) 18 45 9.6% 2.1% 2.1% -0.0% (内、ドラッグストア) 6 10 5.5% 0.7% 0.5% -0.2%

日用品、家具、園芸専門店 37 91 9.6% 4.2% 4.2% -0.0%  DIY 16 44 10.5% 1.9% 2.0% 0.2%  家具・日用品専門店 20 47 8.8% 2.3% 2.2% -0.2%

レジャー、スポーツ用品専門店 36 70 6.9% 4.1% 3.2% -0.9% ↓

(内、時計・宝飾品) 9 23 10.0% 1.0% 1.0% 0.0% (内、メディア製品) 10 18 6.2% 1.2% 0.8% -0.3% (内、スポーツ用品) 10 10 0.0% 1.1% 0.4% -0.7% ↓

その他非食品専門店 55 87 4.7% 6.3% 4.0% -2.3% ↓

百貨店等 23 45 7.0% 2.6% 2.1% -0.6% ↓

(内、デパート) 22 44 7.1% 2.6% 2.0% -0.5% ↓

非店舗型小売 9 87 25.9% 1.0% 4.0% 3.0% ↑

訪問販売 8 25 12.7% 0.9% 1.1% 0.3% 通販(除くインターネット決済) 0 0 27.2% 0.0% 0.0% 0.0% インターネット小売 1 61 50.3% 0.1% 2.8% 2.7% ↑

自動販売機 - - - - - -

金額(兆ルピア) 構成比

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第 22 章 主要産業の動向と FTA の影響

175

る業態を「デパートメントストア」とした。2016 年 5 月、政府は大統領規定「2016 年第 44 号」

を公布し、外国企業の出資比率の上限などを定めた「投資ネガティブリスト」を改定した。

図表 22-17 小売業店舗の分類

(出所)商業大臣規定 2013 年第 70 号より作成

2016 年の改定前の投資ネガティブリストでは、外資が参入できる小売業は、①売場面積 400m2

以上の「ミニマーケット」、②同 1,200m2以上の「スーパーマーケット」、③同 2,000m2以上の「デ

パートメントストア」に限定されていた。2016 年の改定では「デパートメントストア」の小型店

舗となる、売場面積 400~2,000m2への規制が緩和され、外資比率の上限が 67%に緩和された。但

し、これは郊外の独立店舗のような形態ではなく、ショッピングモールの中に出店すること等の

条件付きで、更に、商業省から特別許可を受けることが必要とされた。

また、これまで内資 100%しか認められなかった「通信販売・インターネット小売(e コマース)」

では、中小零細企業・協同組合とのパートナーシップを条件に、外資 100%の会社設立が可能と

なった。但し、顧客への直接販売ではないマーケットプレイス事業は、1,000 億ルピア(約 7.7 億

円)以上の投資額の事業では外資比率 100%が可能となるものの、投資金額が 1,000 億ルピア未満

の場合は上限が 49%とされ、引き続き地場中小事業者への配慮がなされている。

次に、2018~2019 年には、フランチャイズに係る規定が撤廃され、規制が緩和された。2018 年

8 月には、それまでフランチャイズ事業者が展開できる直営店舗数を小売店で 150 店、飲食店で

250 店までに制限され、これを超える場合はサブフランチャイズ化や他社との提携が義務付けら

れていた規定が撤廃された。また、2019 年 9 月の貿易相令「2019 年第 71 号」が施行され、それ

までフランチャイズ展開する企業に対して、取り扱う商品や材料等の 8 割以上を国産品とするこ

とを義務付けた規制が廃止された。

2016 年以降の規制緩和の流れの中でも、未だコンビニエンスストア等の小型の食品小売業やデ

パートメントストア業態の小型店舗に対する外資の出資比率規制は残されたままであり、規制緩

和は道半ばと言える。

しかし、フランチャイズ事業に係る運用規定が見直され、衣料品等の各種消費財を販売するデ

パートメントストア業態で小型店舗への外資参入が認められたことは、今後進出する日本の小売

企業、特に専門店業態にとっては進出のハードルが下がるものと言える。例えば、外資のアパレ

ル専門店の場合、2016 年の改定前では 2,000m2以上の売場の確保が必要だった。しかし、このよ

うな規模の立地は限られ、仮に立地があったとしても品揃え等の魅力ある売場作りが難しく、更

業態売場面積

(㎡)取扱商品

ミニマーケット < 400

スーパーマーケット >= 400

ハイパーマーケット >= 5,000

デパートメントストア >= 400 消費者の性別・年齢に応じた売場での衣料品等の各種消費財の販売

食料品、生活用品等の各種消費財の販売

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インドネシアの投資環境

176

には家賃負担も大きい等、多店舗展開を前提とした進出のハードルは高かった。また、フランチ

ャイズに関しても、小型店舗の直営店とフランチャイズ店との併存が可能な物販小売チェーンや

コーヒーショップ等の飲食チェーンでは、直営店舗数の制約がなくなることで、短期間での多店

舗展開も行いやすくなるものと考えられる。

日系企業の進出状況

これまでの日系の物販小売企業のインドネシア進出としては、2004 年に 100 円ショップの大創

産業(ダイソー)が現地企業と代理店契約を結んで進出、2009 年には「MUJI」を展開する良品計

画が現地企業に商標のライセンス供与と商品供給を行う形式で進出、2013 年には「ユニクロ」を

展開するファーストリテイリングが三菱商事と合弁会社を設立して進出している。2019 年 8 月末

時点の店舗数は、ユニクロが 26 店舗、MUJI が 7 店舗であった。

また、食品小売企業では、2009 年にセブン-イレブンが初めてインドネシアに出店、2011 年に

はローソン、2012 年にはファミリーマートとミニストップが相次いで初出店を果たした。しかし、

ミニマーケット業態への外資企業に対する規制が厳しかったことから、2016 年にミニストップが

地場企業に対する地域フランチャイズ契約を終了して撤退し、2017 年にはセブン-イレブンが酒類

の販売規制などの影響で売上が減少したことから全店を閉鎖した。2019 年時点ではローソンが 45店舗(8 月末時点)、ファミリーマートが 122 店舗(2 月末時点)を展開している。

総合スーパー(General merchandise store:GMS)業態では、イオンが 2015 年にジャカルタ南西

部の BSD 地区に 1 号店、2017 年にジャカルタ東部に 2 号店(ジャカルタガーデンシティ店)を

オープンした。また、同社は 2019 年 10 月時点で更に 3 店舗(ジャカルタ南郊の西ジャワ州ボ

ゴール、南ジャカルタ区のタンジュンバラット、ジャカルタ東郊の西ジャワ州ブカシ県のデルタ

マス)増やす計画である。

今後の見通し

Euromonitor の調べに基づくと、2018 年から 2023 年までの 5 年間の小売市場の成長率は年率

9.8%と予想されている。基本的に、過去 10 年間(2008~2018 年)のトレンドは継続すると見込

まれているが、そのスピードはこれまでよりも加速する可能性が高い。例えば、食品小売のトラ

ディショナルトレードは、市場自体は年率 8.6%のペースで伸びるものの他業態と比べて成長率は

低く、売上高構成比は▲3.1%(58.8%→55.7%)と大幅に縮小すると予想されている。過去 10 年

間での構成比の変化が▲2.4%だったことからみれば、その半分の期間(今後 5 年間)でより変化

幅が大きくなることから、傾向が加速していると言える。

他方、インターネット小売市場は、成長率こそ鈍化するものの、年率 30%弱のペースで拡大が

続き、2023 年には小売市場全体の 6.2%を占めるまでになると見込まれている(2018 年は 2.8%)。

中でも、「アパレル・靴」(+0.5%)や「メディア製品」(+0.4%)の分野で、購入チャネルが店舗

からインターネットにシフトすると予想されている。

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第 22 章 主要産業の動向と FTA の影響

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図表 22-18 業態別販売構成比(2018 年→2023 年)

(出所)Euromonitor より作成

分類

2018 2023 年率成長率 2018 2023 差分

小売売上高 2,178 3,474 9.8% 100.0% 100.0% - 店舗型小売 2,091 3,205 8.9% 96.0% 92.2% -3.8% ↓

食品小売店 1,553 2,351 8.7% 71.3% 67.7% -3.6% ↓

モダントレード 271 414 8.9% 12.5% 11.9% -0.5% ↓

(内、コンビニエンスストア) 156 259 10.6% 7.2% 7.5% 0.3% (内、ハイパーマーケット) 37 51 6.7% 1.7% 1.5% -0.2% (内、スーパーマーケット) 77 103 6.0% 3.5% 3.0% -0.6% ↓

トラディショナルトレード 1,281 1,937 8.6% 58.8% 55.7% -3.1% ↓

非食品専門店 494 787 9.8% 22.7% 22.7% -0.0% アパレル・靴専門店 128 206 10.0% 5.9% 5.9% 0.1% 電化製品専門店 46 62 6.2% 2.1% 1.8% -0.3% 健康・美容関連製品専門店 72 113 9.4% 3.3% 3.3% -0.1%

(内、美容専門小売店) 10 19 13.0% 0.5% 0.5% 0.1% (内、調剤薬局) 45 71 9.4% 2.1% 2.0% -0.0% (内、ドラッグストア) 10 13 6.0% 0.5% 0.4% -0.1%

日用品、家具、園芸専門店 91 158 11.5% 4.2% 4.5% 0.3% ↑

 DIY 44 70 9.7% 2.0% 2.0% -0.0%  家具・日用品専門店 47 87 13.2% 2.2% 2.5% 0.4% ↑

レジャー、スポーツ用品専門店 70 114 10.3% 3.2% 3.3% 0.1% (内、時計・宝飾品) 23 43 13.8% 1.0% 1.2% 0.2% (内、メディア製品) 18 25 6.2% 0.8% 0.7% -0.1% (内、スポーツ用品) 10 16 10.8% 0.4% 0.5% 0.0%

その他非食品専門店 87 135 9.1% 4.0% 3.9% -0.1% 百貨店等 45 66 8.1% 2.1% 1.9% -0.2%

(内、デパート) 44 65 8.1% 2.0% 1.9% -0.2% 非店舗型小売 87 269 25.5% 4.0% 7.8% 3.8% ↑

訪問販売 25 52 15.8% 1.1% 1.5% 0.3% 通販(除くインターネット決済) 0 1 14.8% 0.0% 0.0% 0.0% インターネット小売 61 217 28.7% 2.8% 6.2% 3.4% ↑

自動販売機 - - - - - -

金額(兆ルピア) 構成比

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インドネシアの投資環境

178

不動産(居住用住宅)

ジャカルタ首都圏で顕著な人口増加

US Demographia の調べに拠ると、ジャカルタ首都圏(タンゲラン、ボゴール、ブカシ、カラワ

ン等を含む)の人口は 3,437 万人(2019 年)と、日本の東京・横浜圏(3,851 万人)に次ぐ世界第

2 位となっている。ジャカルタ首都圏の中でも、近年はジャカルタ特別州よりも近接する西ジャ

ワ州やバンテン州の人口が増えている。中央統計局の人口データでは、2008 年から 2018 年にか

けての人口増加が最も多かった州が西ジャワ州で、次がバンテン州と、いずれもジャカルタ特別

州に隣接している州である。

人口の増加だけでなく、所得水準が上がり中間所得層が増えたことで、良質な住居に対する需

要は高まっている。特に 2010 年代に入ると、西ジャワ州を中心に日系製造企業の進出が増え、駐

在員向けのサービスアパートの需要が増加したこと、雇用機会が増えたことで都市部のインドネ

シア人の可処分所得が増加したことなどが、背景として挙げられる。

日系企業の最近の動き

日系企業のインドネシアの不動産市場への進出は早い。東急不動産がインドネシアに進出した

のは 1975 年で、以来、累計約 4,500 戸の戸建て住宅を分譲してきた。しかし、日系企業が本格的

にジャカルタ首都圏での分譲コンドミニアムの開発、施工の分野に進出したのは、良質な住居に

対する需要が高まってきた 2010 年代のことである。

図表 22-19 には、2017 年から 2019 年にかけての日系不動産関連企業のインドネシア事業の主な

動きをまとめている。当該 3 年間では、東急不動産、西日本鉄道、京浜急行鉄道等の鉄道・電鉄

系デベロッパーや、住友商事、伊藤忠商事、大和ハウス工業等の新興国での工業団地開発で実績

の多い企業の動きが目立つ。分譲予定地は西ジャワ州やバンテン州が多いが、都市開発中の一区

画となるケースが多い。このような立地の多くでは、商業施設(イオンモールの予定地)やオ

フィス施設の建設も予定されている。

尚、当該期間以外では、西ジャワ州カラワン地区でレンタル工場を運営している豊田通商が、

2014 年にホテルレジデンス事業「AXIA SOUTH CIKARANG(アクシア・サウスチカラン)」を開

業している。2 棟で約 400 室が供給されており、宿泊者の多くを日本からの出張者や駐在員が占

めている。

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第 22 章 主要産業の動向と FTA の影響

179

図表 22-19 日系不動産関連企業のニュース(2017~2019 年)

(出所)各社報道資料等より作成

年月 企業 内容

2017年7月 東急不動産ジャカルタ郊外で三菱商事と共同で開発を進めている分譲マンション「BRANZ BSD(約3,000戸)」の第1期事業で建設中の3棟

(BRANZ BSD 藍、1,256戸)を上棟。

2017年8月 伊藤忠商事インドネシアの⼤⼿不動産開発シナールマス・ランドとジャカルタ⻄部で共同開発を進める分譲マンション「エアリウム@タマ

ン・プルマタ・ブアナ」を正式に着⼯した。2020年までの完⼯と引き渡しを予定。

大和ハウス工業ジャカルタ南東部の都市開発事業「サクラ・ガーデンシティ」の参画について、地場不動産開発業者トリボと合意⽂書に調印し

た。⾼層分譲マンション12棟、約5,000⼾のプロジェクトは、2024年6⽉の完⼯を予定。

クリード

グループ

地場不動産⼤⼿カワサン・インダストリ・ジャバベカの完全⼦会社グラハブアナ・チカランと合弁会社を設立し、西ジャワ州チ

カランに分譲コンドミニアムを建設する意向を表明。

2017年11月 住友林業不動産開発⼤⼿スマレコン・アグンと特定⽬的会社を設⽴し、インドネシア市場への参入を表明する。⻄ジャワ州ブカシでスマ

レコンが⼿掛ける複合開発エリアに、2階建てテラスハウス約160⼾を建設する予定。2021年の引き渡しを⽬指す。

西日本鉄道

地場不動産開発ダマイ・プトラ・グループと合弁で、ジャカルタ東郊のニュータウン「コタ・ハラパン・インダ」の⼀⾓に、⾼層アパートを建設する。同社は2016年10月に、三菱商事、阪神電気鉄道、京浜急行電鉄、地場大手シナルマス・ランド等と共同

で、ジャカルタ郊外の複合開発事業に参画することを発表している。

東急不動産ジャカルタ市内で開発を進めている分譲マンション事業「BRANZ SIMATUPANG」(381戸)が上棟したと発表。

当該物件はインドネシアで初めて開発、設計、施工すべてを日系企業で推進する「オールジャパン」の分譲マンション。

2017年12月 住友商事⻄ジャワ州ボゴール・セントゥル地区でコンドミニアム3棟(1,095戸)の分譲事業に参⼊すると発表。

2019年の完⼯を予定。

東急不動産ジャカルタ中⼼部で、⼤規模な複合施設の開発事業「メガクニンガン・プロジェクト」に着⼿すると発表。

海外交通・都市開発事業⽀援機構(JOIN)と共同で事業を⾏う。2019年をめどに着⼯し、2022年の完⼯を予定。

2018年2月 阪急不動産住友商事と地場不動産開発セントゥル・シティーが⻄ジャワ州ボゴール・セントゥル地区で開発を進めるマンション分譲事業に

参画すると発表。

2018年3月すてきナイス

グループ

⻄ジャワ州カラワンの新興住宅地「グランド・タルマ」に建設する⼀⼾建て住宅の分譲を開始した。

2017年に分譲した同州デルタマスの物件に続く第2弾のプロジェクト。

住友商事

東急不動産

ジャカルタ(⻄ジャカルタのクボン・ジュルック地区)で富裕層向けの⾼層分譲マンションを開発すると発表した。

2019年の着⼯、2021年の完⼯を⽬指す。

2018年7月 京浜急⾏電鉄ジャカルタで、同社の海外初となる分譲マンション事業「サウスゲート プライム タワー」(189戸)に参画したと発表。

29階建てのタワーマンションを建設。2018年秋頃から販売を開始し、2021年度の引き渡しを予定。

大和ハウス工業ジャカルタ南東部(シパユン地区)で進める都市開発事業「サクラ・ガーデンシティ」の起⼯式を実施した。

⾼層分譲マンション12棟、総住⼾数5,000⼾を計画。

2018年8月 東京建物 南ジャカルタで、⾼層ビル合計3棟を開発すると発表。同社がインドネシアで事業を⼿掛けるのは初めて。

西日本鉄道南ジャカルタのチランダック地区で分譲マンション「ザ・ベランダ」(マンション4棟の総⼾数は663⼾)を開発すると発表。

2019年に着⼯、2023年に完⼯する予定。同社がインドネシア案件としては3件⽬。

2018年10月 トヨタホーム ⻄ジャワ州カラワン県の⼀⼾建て住宅分譲事業「スマレコンエメラルド」を行うと発表。同社分譲事業の第2弾。

東急不動産⻄ジャカルタの住宅開発地「プリ・ボタニカル」で新たに開発する⼤型分譲マンション「BRANZ」の販売の年内開始を発表。

同国で開発するブランズの物件は3ヵ所⽬。2019年に着⼯し、2022年の引き渡しを予定。

2019年1月 三菱商事リッポー・グループ傘下の不動産開発会社リッポー・チカランは、⻄ジャワ州チカランで⼿掛ける新都市事業「オレンジ・カウ

ンティ」で、三菱商事と共同開発する⾼級アパート2棟(各40階建、計1,094戸)の上棟式を⾏った。

2019年3月 東京建物インドネシアの不動産会社ファーポイント・リアルティ・インドネシアは、合弁事業で建設する20階建て分譲マンション「ロッ

ギアプロジェクト」(498戸)のモデルルームを開所した。完工は2022年を予定。

2019年3月 三菱商事

地場不動産開発業者シリウス・スルヤ・セントサは、⻄ジャワ州ブカシのMM2100⼯業団地の敷地内で進める総合都市「ヴァサン

タ・イノパーク」の開発・運営にあたり、三菱商事の不動産開発⼦会社ダイヤモンド・デベロップメント・インドネシアと合弁

会社「ヴァサンタ・ダイヤモンド・デベロップメント」を設⽴したと発表。

2019年10月 阪急阪神不動産ジャカルタ南⻄部に約30kmのバンテン州タンゲラン県でタウンハウス分譲事業「スプリングヒル・ユメ・ラグーン」に進出。

⼾建て住宅を約1,120⼾、ショップハウス約80⼾を建設する。2019年12⽉に着⼯し、2021年12⽉以降に順次完⼯させる計画。

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インドネシアの投資環境

180

FTA、EPA の進捗状況

図表 22-20 から 22-22 にかけて、インドネシアと各国の自由貿易協定(Free Trade Agreement :FTA)や経済連携協定(Economic Partnership Agreement:EPA)の交渉・発効の進捗状況をまとめ

た。インドネシアの FTA・EPA の特徴として、2017 年以前ではインドネシアが主体となって特定

の相手国に基づく協定よりも ASEAN を通じた協定の方が多かったが、2018 年以降、インドネシ

アが主体となる協定発効や合意が増えていることが挙げられる。具体的には、発効した協定は 2019年 8 月にチリとの間の包括的経済連携協定の 1 件だが、署名済みにまで至っている協定に、2018年 11 月の非 EU 加盟国(European Free Trade Association:EFTA、スイス、リヒテンシュタイン、

アイスランド、ノルウェー)、2019 年 3 月の豪州、同年 10 月の韓国がある(図表 22-21、22)。

日本貿易振興機構(JETRO)の「世界と日本の FTA 一覧(2018 年 12 月作成)」や最近の動向を

踏まえると、既に発効されたインドネシアの主な二国間協定は、日本(2008 年 7 月発効)、パキ

スタン(2013 年 9 月発効)、チリの 3 ヵ国である。2011 年にはバングラデシュやマレーシア等を

含む「イスラム開発協力会議特恵貿易協定」が発効されたが、JETRO 資料内では「現状、関税譲

許はなされていないものと解釈される」と述べられており、当該協定は実質的に機能していない。

図表 22-20 インドネシアの二国間、多国間経済・貿易協定の概要

(出所)JETRO「世界と日本の FTA 一覧(2018 年 12 月作成)」、現地報道等を基に作成

タイ

インドネシア

マレーシア

フィリピン

シンガポール ブルネイ

カンボジア ラオス ミャンマー ベトナム

インド

2011年10月

公式交渉開始

日本

2008年EPA発効

2013年特恵貿易協定発効

<主な二国間協定>

パキスタン

<ASEANとしての協定>

中国

2005年 発効

インド

日本

韓国

オーストラリア

ニュージーランド

2010年 発効

インドネシアは

2012年 発効

RCEP

EU

2007年 発効

2018年3月全加盟国で発効

2013年5月

交渉開始

FTA交渉中断中

2010年 発効

イスラム開発協力会議(D8)

2011年特恵貿易協定発効

EU

2016年7月交渉再開を合意

2019年年内にFTA

締結見通し

韓国

オーストラリア

2019年3月EPA署名

批准手続中

EFTA 2018年1月協定署名済み

2017年1月

署名済み

香港

チリ

2019年EPA発効

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第 22 章 主要産業の動向と FTA の影響

181

他方、インドネシアの ASEAN としての枠組みは、日本(日本とインドネシアとの間での運用

開始は 2018 年 3 月)、中国(2005 年 7 月発効)、韓国(2007 年 6 月発効)、インド(2010 年 1 月

発効)、豪州・ニュージーランド(2012 年 1 月発効)と 6 ヵ国に及び、また 2010 年 1 月には ASEAN域内での物品貿易協定(ATIGA)も発効している。インドネシアと ASEAN の枠組みを通じた FTA・EPA により、インドネシアは 2018 年の輸出の約 52%、輸入の約 46%を占める国との間で、自由

貿易協定を署名または発効している。

今後の注目点は、貿易額の 1 割程度を占める EU との交渉となろう。ASEAN を通じた枠組みで

は中断しているが、インドネシアの枠組みでは 2016 年 7 月に交渉再開が公表されている。2019年 11 月までに計 8 回の交渉が行われ、同年 12 月には 9 回目の交渉が予定されている。2019 年 6月に行われた第 8 回の交渉では、「政府調達」、「国有企業」、「反トラスト(市場独占)と合併」、

「検疫」等の点で進展があった一方で、「貿易」や「持続可能性」の点では両者の概念上の乖離が

あり、文書化への進展はみられなかった。

図表 22-21 インドネシアの署名済み・交渉中の FTA・EPA の詳細

(出所)JETRO「世界と日本の FTA 一覧(2018 年 12 月作成)」、現地報道等を基に作成

【署名済】

枠組 加盟国・地域 名称 署名/交渉妥結年月 備考

OIC加盟56ヵ国・地域イスラム諸国会議機構特恵

貿易制度 (TPS-OIC)2010/2 【特恵貿易協定】

EFTA加盟国EFTA・インドネシア

自由貿易協定2018/11

【自由貿易協定】

2005/11:共同研究会設立

2018/8までに15回の交渉を経て、2018/11に大筋合意。

※EU非加盟国(スイス、リヒテンシュタイン、アイスランド、ノルウェー)

豪州豪州・インドネシア

包括的経済協力協定2019/3

【自由貿易協定】

豪州産品の99%の品目について、インドネシア側での関税が2020年までに撤廃

されるか、または大幅に改善された優遇措置を受けられる。インドネシア産品

は、全ての品目で豪州側での関税が撤廃される。

韓国韓国・インドネシア

自由貿易協定2019/10

【自由貿易協定】

2011/5:共同研究開始に合意。同年7~11月に共同研究

2012/3:交渉開始宣言。同年7月~2014年12月までに計7回の交渉

2019/2:交渉再開、同年10月、実質合意に達したと発表

ASEAN 香港 香港・ASEAN自由貿易協定 2017/1

【自由貿易協定】

両協定には物品貿易、サービス貿易、投資、経済・技術協力、紛争処理解決メ

カニズムに関する内容が盛り込まれたとみられる。FTAについては、調印後、

ASEAN10ヵ国のうち4ヵ国が国内手続きを完了した時点で発効に向けた手続きが

開始されることとなる。

【交渉中】

枠組 加盟国・地域 名称 交渉開始年月 経緯

インドインド・インドネシア

包括的経済協力協定2011/10

2005/11:覚書署名

2007/10:共同研究グループ設立

2009/9:共同研究レポート提出

2011/10:公式交渉開始

EUEU・インドネシア

自由貿易協定-

2011/5:FTA締結を求める報告書発表

2016/7:包括的経済連携協定の交渉再開公表

2016/9-2018/10:計6回の交渉

日本、中国、韓国

インド、豪州

ニュージーランド

東アジア地域包括的

経済連携 (RCEP)2013/5

2012/11:RCEP交渉立上げ宣言

2013/5~2018/10:計24回の交渉

2018/11:第2回 RCEP首脳会合開催

EU EU・ASEAN自由貿易協定 2007/5

2007/5:交渉開始

2009/5:交渉凍結。ASEAN諸国との個別交渉に移行

2013/3:交渉再開の可能性に向けて検討開始

(交渉中断中)

インドネシア

ASEAN

インドネシア

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インドネシアの投資環境

182

図表 22-22 インドネシアの発効済み FTA・EPA の詳細

(出所)JETRO「世界と日本の FTA 一覧(2018 年 12 月作成)」、現地報道等を基に作成

枠組 対象国・地域 名称 発効年月 主な内容

日本日本・インドネシア

経済連携協定2008/7

【自由貿易協定】

物品貿易では、日本側は輸入額の93%を無税化。鉱工業品のほとんどを即時撤

廃。熱帯果実は無税枠を設定。エビ・エビ調整品も即時関税撤廃。インドネシ

ア側は同90%を無税化。自動車では3,000cc以上が2012年までに関税撤廃、そ

れ以外は2016年までに5%以下に撤廃もしくは削減。鉄鋼は特定用途免税制度

により関税不適用措置。

パキスタンインドネシア・パキスタン

特恵貿易協定2013/9

【特恵貿易協定】

インドネシアはパキスタンに対し216品目の関税を優遇する。主な対象品目

は、生産果物、綿糸、既製服、扇風機、スポーツ用品、皮革製品など。パキス

タンはインドネシアに対し、パーム油など287品目について優遇関税を適用。

チリチリ・インドネシア包括的

経済連携協定2019/8

【自由貿易協定】

発効後、インドネシアはチリからの輸入品に課している関税のうち、86.1%を

撤廃する。他方、チリは89.6%を撤廃する。チリ側の関税のうち、即時撤廃さ

れるものは、パーム油、一部の紙、靴、繊維製品、タイヤ、水産物(エビ、マ

グロなど)など。自動車部品は5年間で関税が撤廃される。インドネシア側の

関税では、チリ産の銅の一部品目などの関税を即時撤廃する。

GSTP42ヵ国・地域途上国間貿易特恵関税制度

(GSTP)1989/4 【特恵貿易協定】

バングラデシュ、トルコ

エジプト、ナイジェリア

パキスタン、イラン

マレーシア

イスラム開発協力会議

特恵貿易協定2011/8

【特恵貿易協定】

2014/4に開催された監督委員会では、批准国の国内適用準備状況が報告されて

おり、いずれの国も国内手続き中であることから、実態としては、関税譲許は

なされていないものと解釈される。

日本日本・ASEAN包括的

経済連携協定 (AJCEP)

2018/3

全加盟国で

発効

【自由貿易協定】

物品貿易では、日本側は輸入額の93%を無税化。ASEAN6(タイ、インドネシ

ア、フィリピン、マレーシア、シンガポール、ブルネイ)は10年以内に貿易額

の90%(品目ベースで90%)を無税化。CLMV(カンボジア、ラオス、ミャン

マー、ベトナム)は関税撤廃・削減のスケジュールについて、それぞれの経済

発展に応じてASEAN6との差を設ける。

ASEAN 10ヵ国ASEAN物品貿易協定

(ATIGA)

1993/1:CEPT発効

2009/2:署名

2010/1:発効

【自由貿易協定】

ATIGAは、従来のAFTA-CEPT協定に盛り込まれていなかった事項やルール、措置

などを一本化したもの。域内の関税・非関税障壁撤廃による自由貿易圏作りを

目指す。ASEAN先行加盟6ヵ国(タイ、インドネシア、フィリピン、マレーシ

ア、シンガポール、ブルネイ)は2010年に、新規加盟4ヵ国(カンボジア、ラ

オス、ミャンマー、ベトナム)は2015年に域内関税を撤廃。但し、新規加盟国

については総品目数の7%を上限に、2018年まで関税撤廃期間の猶予が与えら

れた。

中国中国・ASEAN自由貿易協定

(ACFTA)2005/7

【自由貿易協定】

農産品8分野の関税引き下げを2004/1開始。現在までに農産品の関税は撤廃さ

れている。物品貿易協定では、2005/7から関税引き下げを実施。中国とASEAN

先行加盟6ヵ国は物品貿易の90%について2010年までに関税を撤廃し、CLMV諸

国は2015年までに撤廃することを目指した。

センシティブ品目は、400品目以内で、且つ総輸入の10%以内、高度センシ

ティブ品目は、センシティブ品目の40%もしくは100品目のいずれか少ない方

を指定可能。センシティブ品目は2010年末まで、高度センシティブ品目は2014

年末までに現行関税を維持でき、以降、段階的に引下げ予定。

2010/1からASEAN先行加盟6ヵ国と中国との間で約89%の品目で関税が撤廃され

た。2012/1からセンシティブ品目の関税が20%以下に削減された。高度センシ

ティブ品目は2015/1から50%以下に削減された。

韓国 韓国・ASEAN自由貿易協定 2007/6

【自由貿易協定】

物品貿易では、双方は原則として2010/1までにそれぞれ輸入の90%(輸入金

額、品目数ベース、ノーマルトラック)にあたる品目について関税撤廃。2016

年までに残りの7%について関税を0~5%に引き上げ、残りの3%については、

当該品目に対する各国の状況を考慮して除外、長期間の関税引き下げ、関税割

当設定などAからEまで5つのグループを設定。また、CLMV諸国のノーマルト

ラックの関税引き下げスケジュールについては、品目数の少なくとも50%を0

~5%に(ベトナム:2013/1まで、CLM:2015/1まで)、品目数の90%を0~5%

に(ベトナム:2016/1まで、CLM:2018/1まで)、全品目の関税の完全撤廃

(ベトナム:2018/1まで、CLM:2020/1まで)との段階を経て削減される。

インドASEAN・インド包括的

経済協力枠組協定2010/1

【自由貿易協定】

関税については、2013年末と2016年末の2つの時点で自由化・引き下げが実施

される。物品貿易では、2008/8にインド側489品目のネガティブリストを含む

内容で合意、2010/1に発効した。

豪州、ニュージーランド

ASEAN・豪州・

ニュージーランド

自由貿易協定

2010/1

インドネシアは

2012/1

【自由貿易協定】

全18章からなる極めて包括的な協定で、物品貿易や投資、サービスに加えて自

然人の移動、電子商取引、協力などを含んでいる。品目数(タリフライン)

ベースで、豪州、NZ、シンガポールは100%自由化(関税撤廃)を実現するな

ど自由化率の高いFTA。

インドネシア

ASEAN