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栄養療法とは -急性期の栄養-
二年次研修医 阿部康範
栄養療法とはなんですか?
栄養療法とは
ヒトの体内の栄養素の過不足を図り、栄養素の摂取でそのバランスを整え、治療、QOLの向
上に役立てる方法で、必要な栄養素を補給することにより、その人本来の健康な状態を目指す。
⬇
入院中の栄養療法が目指す目標は、最適な栄養状態を保ち、早く退院出来るようにすること。
外来医のカルテ
【症例】70歳 男性 【主訴】呼吸苦
【現病歴】近所に住んでいる息子夫婦が玄関先で呼吸苦を訴え、倒れているところを発見し、救急Call。 【既往歴】聴取できておらず 【内服薬】聴取出来ておらず 【現症】BT:38.1 ℃、BP:105/50 mmHg、HR:100 /min、RR:24 /min、SpO2:95 %(mask 3L) 胸部:肺;両側背側優位にcrackle音聴取 【Labo】WBC:11000↑、CRP:4.3↑ 【画像所見】胸部Xp:両側中~下肺野にかけて浸潤影あり。 A/P ➡肺炎。入院にて絶食点滴+抗生剤で加療していく。
高齢者で絶食が続くと
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2
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若年者
高齢者
日数
過食 自由経口摂取
過食中および過食後の体重変化(kg)
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0.5
1
1.5
若年者
高齢者
日数
節食 自由経口摂取
節食中および節食後の体重変化(kg)
Robert, S.B., et al.: Control of food intake in order men. JAMA, 272: 1601-1606, 1994
栄養が 非常に大事!
具体的には
①投与経路の選択:
➡経口摂取、経腸栄養、経静脈栄養
②エネルギー量の決定:
③各栄養素量の決定:
➡水分、タンパク質、脂質、糖質、ビタミン、
ミネラル、食物繊維、etc…
栄養のために必要な情報
年齢、性別、入院病名だけでは食事オーダーは出せる訳がない。
⬇
まず、担当している患者さんの状態を正確に把握する必要がある。
栄養のために必要な情報
• 年齢、性別、身長、体重 • 入院のきっかけとなった疾患 • 悪液質の原因となりうる疾患 • バイタルサイン • Laboデータ • 経口摂取の阻害因子 • 強制栄養の必要性 • 臓器不全 • 全身の炎症反応
栄養のために必要な情報
• 年齢、性別、身長、体重 • 入院のきっかけとなった疾患 • 悪液質の原因となりうる疾患 • バイタルサイン • Laboデータ • 経口摂取の阻害因子 • 強制栄養の必要性 • 臓器不全 • 全身の炎症反応
悪液質とは
癌の悪液質とは多くの要因による症候群である。
従来の栄養サポートでは十分に回復が難しい骨格筋の減少が進み、進行性の機能障害に至る。脂肪は喪失することもしないこともある。その病態生理は食事量の低下と代謝異常により、蛋白質とエネルギーのバランスが負になることを特徴とする。
悪液質は体重減少、筋肉の萎縮、全身倦怠感、虚弱、著名な食欲不振が主な症状となる。
悪液質の原因疾患
• 癌
• 感染症(結核、AIDS等)
• 膠原病(関節リウマチ等)
• 慢性心不全
• 慢性腎不全
• 慢性呼吸不全
• 慢性肝不全
悪液質の機序は?
複合的な病態であり、一概に「これだ!」というものはない。
その1つとして考えられているのは、恒常的なストレスと炎症。
急性期疾患に関する炎症とストレス それに対する栄養について考えてみる
まずストレスについて
視床下部
下垂体
ストレッサーの刺激
アドレナリン
ノルアドレナリン
コルチゾール IGFs T3、T4
CRH GHRH TRH
肝臓 副腎皮質
副腎髄質
甲状腺
ACTH hGH TSH
戦うか逃げるか反応と抵抗反応
・Ad、NAd: ➡グルコース・脂肪酸・アミノ酸の産生亢進 ・コルチゾール:
➡抗炎症作用、グルコース・脂肪酸・アミノ酸の産生亢進 ・IGFs: ➡血中グルコース・脂肪酸濃度上昇 ・甲状腺ホルモン: ➡細胞内でのグルコースの利用を亢進させ、ATP産生を促進
抵抗反応から疲弊へ
・筋肉の疲弊
・免疫系の抑制
・消化性潰瘍
・膵β細胞の機能不全
続いて炎症反応について
SIRSは栄養学的にも緊急自体!
サイトカイン(IL-1β、TNF-α、IL-6)等の産生亢進
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肝臓のアルブミン産生能低下
CRHの分泌亢進➡副腎皮質ホルモンを中心としたストレスホルモンの上昇
炎症性サイトカインの役割
・TNF-α:
➡遊離脂肪酸の合成低下、脂質分解の増加、末梢アミノ酸の喪失増加、肝臓のアミノ酸取り込み増加、発熱
・IL-1β:
➡ACTH増加、急性期蛋白質の合成増加、発熱
・IL-6:
➡急性期蛋白質の合成増加、発熱
内因性・外因性エネルギー
異化=内因性エネルギー供給 脂肪 脂肪酸 グリコーゲン 糖新生 筋タンパク
外因性エネルギー投与 栄養療法
ストレスホルモン サイトカイン
過剰エネルギー供給(Over Feeding)
栄養ストレス グルコース毒性
Over Feedingが惹起する有害事象
・グルコース毒性(Glucose Toxicity):
➡ 酸️化ストレス・炎症反応の増幅
・栄養ストレス(Nutritional Stress)
➡ 安️静時エネルギー消費量増加
CO2産生増加、O2消費量増加
骨格筋蛋白質分解亢進
水分貯留・浮腫増悪
理想のエネルギー供給像
内因性 エネルギー供給
ストレスホルモン サイトカイン
低 高
安静時 エネルギー消費量 REE(Rest Energy Expenditure) 外因性
エネルギー供給
理想のエネルギー供給像
①内因性エネルギー供給+外因性エネルギー供給 < REE
➡ 真️の低カロリー栄養
②内因性エネルギー供給+外因性エネルギー供給 ≒ REE ➡ 至️適エネルギー投与
③内因性エネルギー供給+外因性エネルギー供給 > REE ➡ 実️質的なOver feeding
最近のTrial① ・EPaNIC Trial:
ICUに入院した成人患者に対して非経口的栄養を48時間以内に開始する早期開始群と、8日後まで開始しない遅延開始群、どちらが優れているか比較した試験。
➡ 遅️延開始群では早期開始群に比べ、ICU死亡・院内死亡・90日生存率は両群同等でしたが、ICUおよび病院からの生存退室・退院まで期間が有意に改善した。
また遷延開始群では早期開始群に比べ、ICU感染、コレステロール減少頻度少なかった。人工呼吸必要日数および腎保護治療を減少、治療コストを減少させた。
だがしかし!!
・EPaNIC TrialのMethod
①血糖管理は80~110mg/dlと厳格に管理
②目標カロリー量を10~30mg/kg/dayとし、最大投与カロリー量を2880kcalと設定し、患者の状態に関係なく栄養量法開始。
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・血糖管理が厳しすぎるのでは
・明らかにOver Feedingを惹起してしまっている
最近のTrial② ・CALORIES Trial:
成人重症患者において経静脈栄養と経腸栄養を比較し、どちらが優れているか検討した試験。
➡ I️CU入室患者の急性期栄養管理は、経静脈栄養群と経管栄養群で30日死亡に有意差なし。
だがしかし!!
・CALORIES TrialのMethod
至適カロリー量の設定と、カロリー投与のためのプロトコールが作成されていない。
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目標カロリー量まで達した患者数は両群ともに少なく、本試験において経腸栄養と経静脈栄養の比較ができているのか疑問が残る結果に。
結論として言えることは、
「やりすぎなければ、大差ないよ」
ということ。
結語
• 栄養療法は非常に大切である。
• 患者さんの状態をしっかり把握した上で施行する必要がある。
• 急性期の栄養療法の答えは未だに出ていない。
• Over feedingが悪いことは明確となっている。
• SIRS極期では最低限のカロリーを投与し、経過を診て漸増する方針をとっている。