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1 6 数値解析の基礎 5 章では偏微分方程式の境界値問題のいくつかを取り上げ,それらに対する解の 一意存在は,弱形式を満たす解に対して保証されることをみてきた.その解を厳密解 とよぶことにしよう.厳密解は,領域の形状が矩形や楕円のように幾何学的に単純な 形状のときには解析的にみつかるかもしれない.しかし,本書が目標とするような領 域の形状が任意に動いた後の領域に対して厳密解を解析的に求めることは容易ではな い.しかし,形状最適化問題を解くためには,厳密解は無理であっても近似解が常に 得られるような数値解法を手にいれておく必要がある. 本章では,それらの偏微分方程式の境界値問題に対する近似解の求め方についてみ ておきたい.ここでは最初に Galerkin に注目する.Galerkin では,予め与えら れた基底関数の線形結合で解関数と随伴関数 (任意に選ぶ変分関数) の近似関数を構成 し,それらの近似関数を弱形式に代入することで線形結合の未定定数を決定する問題 におきかえる.この方法の特徴は,その明快さだけでなく,弱形式に基づいているた めに近似解の一意存在が第 5 章で示した定理によって保証されるところにある.しか し,基底関数の選び方によっては領域の形状についての制限が加わることになる.そ の制限をなくすために,基底関数の選び方を工夫した方法として有限要素法を紹介し たい.さらに,有限要素法による近似解に対しては誤差解析が可能である.これらの 結果をみれば有限要素法が領域の形状近似に対して柔軟でかつ要素分割を増やしてい けば収束性が保証されるという信頼性を併せ持つ優れた方法に仕上がっていることに 気づくであろう. 6.1 Galerkin 偏微分方程式の境界値問題に対する近似解の求め方として Galerkin についてみ

数値解析の基礎 - 名大の授業 (NU OCW)2 第6 章 数値解析の基礎 てみよう.ここでは,1 次元Poisson 問題をGalerkin 法で解くところをみてから,d

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1

第 6章

数値解析の基礎

第 5章では偏微分方程式の境界値問題のいくつかを取り上げ,それらに対する解の一意存在は,弱形式を満たす解に対して保証されることをみてきた.その解を厳密解とよぶことにしよう.厳密解は,領域の形状が矩形や楕円のように幾何学的に単純な形状のときには解析的にみつかるかもしれない.しかし,本書が目標とするような領域の形状が任意に動いた後の領域に対して厳密解を解析的に求めることは容易ではない.しかし,形状最適化問題を解くためには,厳密解は無理であっても近似解が常に得られるような数値解法を手にいれておく必要がある.本章では,それらの偏微分方程式の境界値問題に対する近似解の求め方についてみておきたい.ここでは最初に Galerkin 法に注目する.Galerkin 法では,予め与えられた基底関数の線形結合で解関数と随伴関数 (任意に選ぶ変分関数) の近似関数を構成し,それらの近似関数を弱形式に代入することで線形結合の未定定数を決定する問題におきかえる.この方法の特徴は,その明快さだけでなく,弱形式に基づいているために近似解の一意存在が第 5章で示した定理によって保証されるところにある.しかし,基底関数の選び方によっては領域の形状についての制限が加わることになる.その制限をなくすために,基底関数の選び方を工夫した方法として有限要素法を紹介したい.さらに,有限要素法による近似解に対しては誤差解析が可能である.これらの結果をみれば有限要素法が領域の形状近似に対して柔軟でかつ要素分割を増やしていけば収束性が保証されるという信頼性を併せ持つ優れた方法に仕上がっていることに気づくであろう.

6.1 Galerkin 法偏微分方程式の境界値問題に対する近似解の求め方として Galerkin 法についてみ

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2 第 6章 数値解析の基礎

てみよう.ここでは,1 次元 Poisson 問題を Galerkin 法で解くところをみてから,d ∈ 2, 3 次元 Poisson 問題も同様に解けるところをみていくことにする.

6.1.1 1次元 Poisson 問題次のような混合境界条件をもつ 1次元 Poisson 問題を考えよう.問題 6.1 (1次元 Poisson 問題) b : (0, 1) → R, uD ∈ R, p ∈ R が与えられたとき,

− d2u

dx2= b in (0, 1) , u (0) = uD,

du

dx(1) = p

を満たす u : (0, 1) → R を求めよ.

問題 6.1 に対して,U =v ∈ H1 ((0, 1) ;R)

∣∣ v (0) = 0および

a (u, v) =

∫ 1

0

du

dx

dv

dxdx, (6.1)

l (v) =

∫ 1

0

bv dx+ pv (1) (6.2)

とおく.この問題の弱形式は次のようになる.

問題 6.2 (1次元 Poisson 問題の弱形式) b ∈ L2 ((0, 1) ;R), uD ∈ R, p ∈ R,u (0) = uD を満たす固定関数 u ∈ H1 ((0, 1) ;R) が与えられたとき,任意の v ∈ U

に対して

a (u, v) = l (v) (6.3)

を満たす u − u ∈ U を求めよ.ただし,a ( · , · ) と l ( · ) はそれぞれ (6.1) と (6.2)

である.

問題 6.2 に対して,Galerkin 法では近似関数を次のように構成する.m を自然数とする.

定義 6.1 (近似関数の集合 Uh) ϕD ∈ H1 ((0, 1) ;R) を非同次基本境界条件 ϕD (0) =

uD を満たす固定関数とする.ϕ = (ϕ1, · · · , ϕm)T を同次基本境界条件 ϕi (0) = 0,

i ∈ 1, · · · ,m, を満たす m 個の 1次独立な U の要素とする.U に対する近似関数の集合を,α = (αi)i ∈ Rm を未定乗数として,

Uh =

vh (α) =∑

i∈1,··· ,m

αiϕi = α · ϕ

∣∣∣∣∣∣ α ∈ Rm

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6.1 Galerkin 法 3

ϕD (x)

uD

ϕ1 (x)

ϕ2 (x)

ϕ3 (x)x

10

図 6.1 基底関数 ϕD, ϕ の例

とおく.このとき,ϕ を基底関数とよぶ.

このように定義された ϕD と Uh を用いて,u − u ∈ U と v ∈ U の近似関数をuh − ϕD ∈ Uh と vh ∈ Uh と仮定する.このことは,定義 4.4 に従えば,

uh = ϕD + spanϕ,

vh = spanϕ

ともかける.このとき,Uh は ϕ を含む最小の部分線形空間 (すなわち線形空間) となる.さらに,H1 ((0, 1) ;R) に対して定義された内積を用いることにすれば,Uh はHilbert 空間となる.このとき,Uh の中で独立に選べるベクトルの数は m である.そこで,Uh は m 次元の Hilbert 空間であることになる.近似関数の集合 Uh と ϕD が定義されたので,それらを使って問題 6.2 に対する

Galerkin 法を次のように定義する.

定義 6.2 (Galerkin 法) Uh と ϕD を定義 6.1 のとおりとする.uh (α)− ϕD ∈ Uh,

vh (β) ∈ Uh を (6.3) の u − u, v に代入して,α ∈ Rm を求め,近似解 uh (α) =

ϕD + ϕ ·α を得る方法を問題 6.2 に対する Galerkin 法という.

Uh は Hilbert 空間であることから,Lax-Milgram の定理を適用すれば,Galerkin

法の解 uh (α) の一意存在はいえる.実際,a ( · , · ) は対称および有界で,かつ Uh は同次基本境界条件を満たすので,Uh における a ( · , · ) の強圧性はいえ,また,例題5.1 のような l ( · ) を定義して U ′

h の要素であることがいえるためである.a ( · , · ) の

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4 第 6章 数値解析の基礎

対称性と強圧性は,後で示される解くべき連立 1次方程式における係数行列の対称性と正定値性となって現れる.実際に問題 6.2を Galerkin 法で解く過程を詳細にみていこう. 定義 6.1 の ϕD と

Uh を用いて,uh − ϕD ∈ Uh と vh ∈ Uh を弱形式 (6.3) に代入して,任意の vh ∈ Uh

に対して

a (uh, vh) = l (vh) (6.4)

を満たすような uh を求めることを目指す.ただし,

a (uh, vh) =

∫ 1

0

duh

dx

dvhdx

dx,

l (vh) =

∫ 1

0

bvh dx+ pvh (1)

である.a (uh, vh) は,

duh

dx=

dϕD

dx+

dx·α =

dϕD

dx+(dϕ1

dx · · · dϕm

dx

)α1

...αm

,

dvhdx

=dϕ

dx· β =

(dϕ1

dx · · · dϕm

dx

)β1

...βm

とかけるので,

a (uh, vh) =

∫ 1

0

duh

dx

dvhdx

dx

=

∫ 1

0

(β1 · · · βm

)dϕ1

dx...

dϕm

dx

dϕD

dx+(dϕ1

dx · · · dϕm

dx

)α1

...αm

dx

=

∫ 1

0

(β1 · · · βm

dϕ1

dxdϕ1

dx · · · dϕ1

dxdϕm

dx...

. . ....

dϕm

dxdϕ1

dx · · · dϕm

dxdϕm

dx

α1

...αm

+

dϕD

dxdϕ1

dx...

dϕD

dxdϕm

dx

dx

=(β1 · · · βm

a (ϕ1, ϕ1) · · · a (ϕ1, ϕm)

.... . .

...a (ϕm, ϕ1) · · · a (ϕm, ϕm)

α1

...αm

+

a (ϕD, ϕ1)...

a (ϕD, ϕm)

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6.1 Galerkin 法 5

= β · (Aα+ aD)

となる.ただし,A = (aij)i,j∈1,··· ,m および aD = (aDi)i∈1,··· ,m とかいて,

aij = a (ϕi, ϕj) =

∫ 1

0

dϕi

dx

dϕj

dxdx, (6.5)

aDi = a (ϕD, ϕi) =

∫ 1

0

dϕD

dx

dϕi

dxdx (6.6)

とおいた.一方,

l (vh) =

∫ 1

0

bvh dx+ pvh (1)

=

∫ 1

0

b(β1 · · · βm

)ϕ1

...ϕm

dx+ p(β1 · · · βm

)ϕ1 (1)...

ϕm (1)

=(β1 · · · βm

) l (ϕ1)...

l (ϕm)

= β · l

となる.ただし,l = (li)i とかいて,

li = l (ϕi) =

∫ 1

0

bϕi dx+ pϕi (1) (6.7)

とおいた.したがって,(6.4) は

β · (Aα+ aD) = β · l

とかける.ここで,任意の β ∈ Rm を考慮すれば,

Aα = l− aD = l (6.8)

となる.確認のためにこの式の内訳をかけばa (ϕ1, ϕ1) · · · a (ϕ1, ϕm)...

. . ....

a (ϕm, ϕ1) · · · a (ϕm, ϕm)

α1

...αm

=

l (ϕ1)− a (ϕD, ϕ1)...

l (ϕm)− a (ϕD, ϕm)

である.Aは係数行列,lは既知項ベクトルとよばれる.Aは,a (ϕi, ϕj) = a (ϕj , ϕi)

より対称である.また,a ( · , · ) の Uh における強圧性により,ある c0 > 0 と c1 > 0

が存在して,任意の β ∈ Rm に対して

β ·Aβ = a (vh,vh) ≥ c0 ∥vh∥2Uh= c1 ∥β∥2Rm

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6 第 6章 数値解析の基礎

が成り立つ.したがって,A は正定値対称であるので正則がいえ,

α = A−1l (6.9)

を計算することができる.この α を用いれば,近似解は

uh = ϕD + ϕ ·α (6.10)

となる.このようにみてくると,基底関数 ϕD と ϕ には,

∫ 1

0(dϕi/dx) (dϕj/dx) dx の計算

が容易であることが求められる. さらに,基底関数の微分が互いに直交しているように選べたならば,A は対角行列になり,逆行列の計算は容易になる.次の例題を Galerkin 法で解いてみよう.

例題 6.1 (1次元 Dirichlet 問題に対する Galerkin 法) 基底関数を

ϕ =(ϕ1 · · · ϕm

)T=(sin (1πx) · · · sin (mπx)

)Tとおいて,Galerkin 法により

−d2u

dx2= 1 in (0, 1) , u (0) = 0, u (1) = 0

を満たす近似解 uh : (0, 1) → R を求めよ.

(解答) U = H10 ((0, 1) ;R) とおいて,この問題の弱形式を,任意の v ∈ U に対して

a (u, v) = l1 (v)

とかく.ただし,a ( · , · ) を (6.1),l1 ( · ) を (6.2) において b = 1 および p = 0 のときの l ( · )とする.近似関数を α, β ∈ Rm に対して

uh = α · ϕ(x),vh = β · ϕ(x)

とおく.これらを弱形式に代入すれば,

β ·Aα = β · l1

を得る.ここで,A = (aij)i,j∈1,··· ,m および l1 = (l1i)i∈1,··· ,m とかいて,

aij = a (ϕi, ϕj) =

∫ 1

0

dϕi

dx

dϕj

dxdx = ijπ2

∫ 1

0

cos(iπx) cos(jπx) dx

=1

2ijπ2

∫ 1

0

cos(i+ j)πx+ cos(i− j)πx dx =1

2ijπ2δij ,

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6.1 Galerkin 法 7

m=1

m=3

uh

x

0 0.5 1.0

0.05

0.10

0

m=5

u

図 6.2 例題 6.1 の厳密解と近似解

l1i =

∫ 1

0

sin iπx dx =1

iπ[− cos iπx]10 =

(−1)i+1 + 1

となる.ただし,

δij =

1 (i = j)

0 (i = j)

は Kronecker デルタを表す.そこで,Aα = l1 は

π2

2

1 0 0 · · · 00 4 0 · · · 00 0 9 · · · 0...

......

. . ....

0 0 0 · · · m2

α1

α2

α3

...αm

=1

π

20

2/3...

(−1)m+1+1m

となる.この連立 1次方程式を解いて,

αi =2(−1)i+1 + 1

i3π3

を得る.したがって,近似解は

uh =∑

i∈1,··· ,m

2(−1)i+1 + 1

i3π3

sin iπx

となる.一方,厳密解は

u =1

2x (x− 1)

である.図 6.2) に近似解と厳密解の比較を示す.

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8 第 6章 数値解析の基礎

6.1.2 d 次元 Poisson 問題d ∈ 2, 3 次元 Poisson 問題も同様に Galerkin 法で解くことができる. 問題 5.1

を再記しよう.問題 6.3 (d 次元 Poisson 問題) b : Ω → R, p : ΓN → R, uD : ΓD → R が与えられたとき,

−∆u = b in Ω,

∂u

∂ν= p on ΓN,

u = uD on ΓD

を満たす u : Ω → R を求めよ.

問題 6.3 に対して,U =u ∈ H1 (Ω;R)

∣∣ u = 0 on ΓD

および

a (u, v) =

∫Ω

∇u ·∇v dx, (6.11)

l (v) =

∫Ω

bv dx+

∫ΓN

pv dγ (6.12)

とおく.この問題の弱形式は次のようになる

問題 6.4 (d 次元 Poisson 問題の弱形式) b ∈ L2 (Ω;R), p ∈ L2 (ΓN;R), uD ∈H1/2 (ΓD;R) および ΓD 上で u = uD を満たす固定関数 u ∈ H1 (Ω;R) が与えられたとき,任意の v ∈ U に対して

a (u, v) = l (v) (6.13)

を満たす u− u ∈ U を求めよ.

問題 6.3 に対して,近似関数を次のように構成する.m を自然数とする.

定義 6.3 (近似関数の集合) ϕD ∈ H1 (Ω;R) を ΓD 上で非同次基本境界条件 ϕD =

uD を満たす固定関数とする.ϕ = (ϕ1, · · · , ϕm)T を同次基本境界条件 ϕi (0) = 0,

i ∈ 1, · · · ,m, を満たす m 個の 1次独立な U の要素とする.U に対する近似関数の集合を,α = (αi)i ∈ Rm を未定乗数として,

Uh =

vh (α) =∑

i∈1,··· ,m

αiϕi = α · ϕ

∣∣∣∣∣∣ α ∈ Rm

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6.1 Galerkin 法 9

とおく.このとき,ϕ を基底関数とよぶ.

定義 6.1 と 6.3 を比較すれば,関数の定義域が変更されただけで,同一の表現が使われている.そこで,d 次元 Poisson 問題に対しても,1次元 Poisson 問題に対して使われた多くの式をそのまま利用することができる.そのことを以下で確認しよう.定義 6.3 の ϕD と Uh を用いて,uh − ϕD ∈ Uh と vh ∈ Uh を弱形式 (6.13) に代入した

a (uh, vh) = l (vh) (6.14)

は (6.4) と同じになる.ただし,a ( · , , · ) と l ( · ) の定義を

a (uh, vh) =

∫Ω

∇uh ·∇vh dx,

l (vh) =

∫Ω

bvh dx+

∫ΓN

pvh dγ

におきかえる.その後は 1 次元 Poisson 問題のときと同様の展開ができて (6.8) と同じ

Aα = l− aD = l (6.15)

を得る.ただし,A = (aij)i,j∈1,··· ,m,aD = (aDi)i∈1,··· ,m および l =

(li)i∈1,··· ,m はそれぞれ

aij = a (ϕi, ϕj) =

∫Ω

∇ϕi ·∇ϕj dx, (6.16)

aDi = a (ϕD, ϕj) =

∫Ω

∇ϕD ·∇ϕj dx, (6.17)

li = l (ϕi) =

∫Ω

bϕi dx+

∫ΓN

pϕi dγ (6.18)

のように変更される.A は正定値対称であって正則なので (6.9) と (6.10) の表記はそのまま成り立つ.正方領域に対する 2 次元 Dirichlet 問題を Galerkin 法で解いてみよう.それをみれば (6.9) と (6.10) の表記がそのまま成り立つことを了解するであろう.

例題 6.2 (2次元 Dirichlet 問題に対する Galerkin 法) 基底関数を

ϕ = (ϕij (x))i,j∈1,··· ,m = (sin (iπx1) sin (jπx2))i,j∈1,··· ,m

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10 第 6章 数値解析の基礎

として,Galerkin 法により

−∆u = 1 in Ω = (0, 1)2, u = 0 on ∂Ω

を満たす近似解 uh : (0, 1)2 → R を求めよ.

(解答) U = H10

((0, 1)2 ;R

)とおいて,この問題の弱形式を,任意の v ∈ U に対して

a (u, v) = l1 (v)

とかく.ただし,a( · , · ) を (6.11),l1 ( · ) を (6.12) において b = 1 および p = 0 のときのl ( · ) を l1 ( · ) とする.近似関数を α と β ∈ Rm×m に対して

uh = α · ϕ (x) =∑

i∈1,··· ,m

∑j∈1,··· ,m

αijϕij (x) ,

vh = β · ϕ (x) =∑

i∈1,··· ,m

∑j∈1,··· ,m

βijϕij (x)

とおく.uh, vh を弱形式に代入すれば

β ·Aα = β · l1

を得る.ここで,A = (a(ϕij , ϕkl))i,j,k,l∈1,··· ,m および l1 = (l1 (ϕij))i,j∈1,··· ,m とかいて,

a (ϕij , ϕkl) =

∫ 1

0

∫ 1

0

(∂ϕij

∂x1

∂ϕkl

∂x1+

∂ϕij

∂x2

∂ϕkl

∂x2

)dx1dx2

=

∫ 1

0

∫ 1

0

kiπ2 cos (kπx1) sin (lπx2) cos (iπx1) sin (jπx2)

+liπ2 sin (kπx1) cos (lπx2) sin (iπx1) cos (jπx2)

dx1dx2

=π2

4(ki+ lj) δkiδlj ,

l1 (ϕij) =

∫ 1

0

∫ 1

0

sin (iπx1) sin (jπx2) dx1dx2

=

(−1)i+1 + 1

(−1)j+1 + 1

ijπ2

を得る.そこで,Aα = l1 は

∑k∈1,··· ,m

∑l∈1,··· ,m

π2

4(ki+ lj) δkiδljαij =

(−1)i+1 + 1

(−1)j+1 + 1

ijπ2

となる.この連立 1次方程式を解いて,i, j ∈ 1, · · · ,m に対して

αij =4(−1)i+1 + 1

(−1)j+1 + 1

ij (i2 + j2)π4

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6.1 Galerkin 法 11

を得る.したがって,近似解 uh は

uh =∑

i∈1,··· ,m

∑j∈1,··· ,m

4(−1)i+1 + 1

(−1)j+1 + 1

ij (i2 + j2)π4

sin(iπx) sin(jπx)

(6.19)

となる.

6.1.3 Ritz 法Galerkin 法では近似関数を弱形式に代入したが,近似関数を最小化問題に代入する方法も考えられる.その方法を Ritz 法という. 問題 6.4 を最小化問題にかきかえた次の問題を考えよう.a( · , · ), l ( · ), u, U は問題 6.4 と同じとする.

問題 6.5 (d 次元 Poisson 問題に対する最小化問題) b ∈ L2 (Ω;R), p ∈ L2 (ΓN;R),uD ∈ H1/2 (ΓD;R) に対して,

minu−u∈U

f (u) =

1

2a (u, u)− l (u)

を満たす u− u ∈ U を求めよ.

問題 6.5 に対して Ritz 法は次のように定義される.

定義 6.4 (Ritz 法) uh (α)− ϕD∈ Uh を問題 6.5 の u− u∈ U に代入して α ∈ Rm

を求め,近似解 uh (α) を得る方法を問題 6.5 に対する Ritz 法という.

問題 6.5 を Ritz 法で解いてみよう.uh を f (uh) に代入して,

f (uh) =1

2(a (ϕD, ϕD) +α ·Aα+ 2α · aD)− (l (ϕD) +α · l)

を得る.ただし,A, aD, l はそれぞれ (6.16), (6.17), (6.18) である.f (uh) の最小条件より,

∂f (uh)

∂α= Aα+ aD − l = 0Rm

を得る.この式は,Galerkin 法の (6.15) と一致する.このように,Ritz 法は境界値問題が最小化問題にかきかえ可能なときに利用できる.5.2 節でみてきたように,抽象的変分問題 (問題 5.3) において双 1次形式 a( · , · )が対称のときに抽象的最小化問題 (問題 5.4) にかきかえることができる.したがって,Galerkin 法の方が Ritz 法よりも適用範囲が広いことになる.しかし,a( · , · ) が

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12 第 6章 数値解析の基礎

対称のときには Galerkin 法と Ritz 法は同値になる.このことから,2つの方法を合わせて,Ritz-Galerkin 法ということがある. Ritz 法は,近似関数の構成を u に対してのみ行えばよいことから理論がコンパクトにおさまるという利点はある.

6.1.4 基本誤差評価Galerkin 法の解 uh (α) が一意に存在することは,近似関数の集合 Uh が Hilbert

空間であることから,Lax-Milgram の定理によって保証されることをみてきた.さらに,厳密解の属する Hilbert 空間のノルムを用いれば,近似解の誤差について明快な結果を得ることができる [2, 6, 8, 9].ひとつは既知関数に誤差が含まれた場合の近似解に及ぼす影響に対する結果である.この結果は既知関数を入力とみなしたときの出力である近似解の安定性を評価した結果であると考えることができる.

定理 6.1 (近似解の安定性) U を実 Hilbert 空間, U ′ をその双対空間, a : U ×U → Rを有界かつ強圧的な双 1次形式とする.任意の l1, l2 ∈ U ′ に対する問題 6.2 あるいは6.4 の Galerkin 法による近似解を uh1, uh2 とする.このとき,

∥uh1 − uh2∥U ≤ 1

α∥l1 − l2∥U ′

が成り立つ.ただし,α > 0 は a( · , · ) の強圧性を与える定数とする.

もうひとつは,Galerkin 法の近似解は,厳密解の属する Hilbert 空間 U のノルムで計って近似解の集合の中で最良の (厳密解に最も近い) 近似解になっていることを示す結果である.

定理 6.2 (基本誤差評価) U を実 Hilbert 空間, U ′ をその双対空間とする.任意のl ∈ U ′ に対する問題 6.2 あるいは 6.4 の解を u− u ∈ U, Galerkin 法による近似解を uh − uh ∈ Uh とする.このとき,

a (u− uh, u− uh) ≤ infvh−uh∈Uh

a (u− vh, u− vh)

∥u− uh∥U ≤ ∥a∥α

infvh−uh∈Uh

∥u− vh∥U +

(1 +

∥a∥α

)∥u− uh∥U

が成り立つ.ただし,∥a∥ は双線形作用素のノルム (4.4 節で定義),α > 0 は a( · , · )の強圧性を与える定数である.

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6.2 1次元有限要素法 13

i

(a) Ω 上の関数を用いた Galerkin 法 (b) Ωi 上の関数を用いた有限要素法

図 6.3 境界値問題の領域形状

定理 6.2 によれば,Galerkin 法の近似解の誤差を小さくするには,厳密解に近づくことのできる能力をもった関数を Uh の中にそろえておく必要があることを示している.また,Galerkin 法を基礎にした数値解法の誤差評価を考える上では,近似解はUh の中で最良の解になっていることから,厳密解に対する Uh の近似能力にだけ注目すればよいことになる.有限要素法に対する誤差評価はこの結果に基づいて得られている.そのことを 6.6 節で示すことにしよう.

6.2 1次元有限要素法Galerkin 法では基底関数の線形結合で近似関数が構成され,それらを弱形式に代入することで未定定数が決定されていた.その枠組みは変えないで,基底関数の選び方について再考することにしよう.6.1 節でみてきた Galerkin 法では,領域全体で定義された関数の中から基底関数を選んでいた (図 6.3 (a)).このような基底関数の選び方をする限りにおいては,境界値問題が定義された領域形状は矩形や楕円などに制限されることになる.それに対して,領域を単純な形の部分領域に分割して,部分領域ごとに基底関数を定義して,それらをつなぎ合わせることによって領域全体の上で基底関数を構成するように変更すれば,任意形状の領域に適用できそうである (図 6.3 (b)).このような方針で臨んだ Galerkin 法が有限要素法である.1 次元 Poisson 問題 (問題 6.1 とその弱形式表現である問題 6.2) に対する有限要素法を考えよう.有限要素法では,領域 Ω = (0, 1) に対して,図 6.4 のように点 xj ,

j ∈ N = 0, · · · ,m, x0 = 0 < xj < xj+1 < xm = 1, をとり,節点とよぶ.N を節点番号の集合とよぶ.Ωi = (xi−1, xi), i ∈ E = 1, · · · ,m, を有限要素,E を要素番

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14 第 6章 数値解析の基礎

x

x0=0 x1 xixi1 xm1xi+1 xm=1¢¢¢ ¢¢¢

図 6.4 1次元領域 Ω = (0, 1) における有限要素と節点

ϕ0 (x)

1

x

x0=0 x1 xixi1 xm1xi+1 xm=1¢¢¢ ¢¢¢

ϕ1 (x)x

x0=0 x1 xixi1 xm1xi+1 xm=1¢¢¢ ¢¢¢

ϕi (x)x

x0=0 x1 xixi1 xm1xi+1 xm=1¢¢¢ ¢¢¢

ϕm (x)x

x0=0 x1 xixi1 xm1xi+1 xm=1¢¢¢ ¢¢¢

図 6.5 1次元有限要素法における基底関数 ϕD と ϕ

号の集合とよぶ.さらに,問題 6.1 に対する基底関数を,図 6.5 のような高さ 1 の山形の関数

ϕ0 (x) =

x1−xx1−x0

in (0, x1)

0 in (x1, 1)

ϕi (x) =

x−xi−1

xi−xi−1in (xi−1, xi)

xi+1−xxi+1−xi

in (xi, xi+1)

0 in (0, xi−1) ∪ (xi+1, 1)

for i ∈ 1, 2, · · · ,m

ϕm (x) =

x−xm−1

xm−xm−1in (xm−1, 1)

0 in (0, xm−1)

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6.2 1次元有限要素法 15

u1u0=uDui1

uiui+1

umum1

x

Á0(x) Ám(x)i

uh

x0=0 x1 xixi1 xm1xi+1 xm=1¢¢¢ ¢¢¢

図 6.6 1次元有限要素法における節点値ベクトル u

で与え,近似関数を

uh (u) = u0ϕ0 +∑

i∈1,··· ,m

uiϕi =

(uD

uN

)·(ϕD

ϕN

)= u · ϕ, (6.20)

vh (v) = v0ϕ0 +∑

i∈1,··· ,m

viϕi =

(vDvN

)·(ϕD

ϕN

)= v · ϕ (6.21)

で与える.ただし,u0 = uD = uD および v0 = vD = 0 とする.ここで,uN =

(u1, · · · , um)T と vN = (v1, · · · , vm)

T が未定乗数である.なお, ¯( · ) はベクトルの意味で付けたが,uD と vD は,たまたま問題 6.1 では基本境界条件が与えられた節点が 1つであったために 1次元ベクトルとなった.このように定義された近似関数の特徴についてみておこう.まず,基底関数が連続関数であることは,H1 (Ω;R) に含まれることになり (例題 4.5),弱形式に代入することが可能となる.有限要素内で 1次多項式であることは微分の評価が容易であることを意味する.また,節点に隣接する有限要素だけで 0 以外の値をもつことは積分領域を有限要素に限定できることを意味する.節点で 1 となるように選ぶことは,u と v

は近似関数の節点値と一致することを意味する.このことから,u と v を節点値ベクトルという.その内,基本境界条件を与える uD と vD を Dirichlet 型節点値ベクトル(この場合は実数), uN = (u1, · · · , um)

T と vN = (v1, · · · , vm)T を Neumann 型節点

値ベクトルとよぶことにする.(6.20) と (6.21) は Galerkin 法における近似関数の構成法に従った表現になっているが,基底関数 ϕi (x), i ∈ N = 0, 1, · · · ,m, を,図 6.7 に示すような有限要素Ωi = (xi−1, xi), i ∈ E = 1, · · · ,m, 上で定義された関数

φi(1) (x) = ϕi−1 (x) =xi(2) − x

xi(2) − xi(1), (6.22)

φi(2) (x) = ϕi (x) =x− xi(1)

xi(2) − xi(1)(6.23)

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16 第 6章 数値解析の基礎

ui1=ui(1)

ui=ui(2)

1

xxi1=xi(1) xi=xi(2)

'i(1)(x) 'i(2)(x)

i

uh

図 6.7 1次元有限要素法における有限要素内の基底関数 φi(1), φi(2)

におきかえれば,

uh (ui) =(φi(1) φi(2)

)(ui(1)

ui(2)

)= φi · ui (6.24)

vh (vi) =(φi(1) φi(2)

)(vi(1)vi(2)

)= φi · vi (6.25)

とかける.このとき,φi (x) = (φi−1 (x) , φi (x))T=(φi(1) (x) , φi(2) (x)

)T を有限要素内の基底関数を表すことにする.なお,有限要素法の専門書では φi (x) を形状関数あるいは内挿関数とよぶことが一般的である.しかし,本書の主題は形状最適化問題であることから,形状関数の用語は混乱をきたす可能性がある.そこで,本書ではφi (x) を基底関数とよぶことにする.また,(6.24) と (6.25) において

ui =

(ui−1

ui

)=

(ui(1)

ui(2)

),

vi =

(vi−1

vi

)=

(vi(1)vi(2)

)を有限要素 Ωi, i ∈ E , に対する u と v の要素節点値ベクトルという.ここで,( · )i(α)の表現を有限要素 Ωi, i ∈ E , における局所節点番号 α ∈ 1, 2 に対応した関数あるいは値を表すことにして,ui(α) と vi(α), α ∈ 1, 2, を有限要素 Ωi の局所節点番号表示という.なお,(6.24) と (6.25) の uh (ui) と vh (vi) は x ∈ Ωi の関数Ωi → R であることから,uh (ui) (x) と vh (vi) (x) のようにかけることに注意してほしい.ui と vi の関数であるような表示を用いたのは,近似関数としてみたときは,未定乗数 ui と vi の関数であるという意味である.一方,有限要素内の基底関数φi (x) =

(φi(1) (x) , φi(2) (x)

)T は x ∈ Ωi の関数ではあるが

xi =

(xi−1

xi

)=

(xi(1)

xi(2)

)

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6.2 1次元有限要素法 17

を使って構成されている.このときの xi は有限要素 Ωi, i ∈ E , に対する要素節点ベクトルという.このように決めた有限要素内の基底関数は,φi(α) と xi(β), α, β ∈ 1, 2, に対して

φi(α)

(xi(β)

)= δαβ (6.26)

を満たしている.また,すべての x ∈ Ωi, i ∈ E , において∑α∈1,2

φi(α) (x) = 1 (6.27)

が成り立つ.(6.26) は未定定数 ui と vi が近似関数の節点値の意味をもつための条件であり,(6.27) は ui = 0 のときに uh (ui) (x) = 0, x ∈ Ωi, i ∈ E , を表現できるための条件になっている.(6.24) と (6.25) で定義された Ωi = (xi−1, xi) 上の関数 uh (ui) と vh (vi) を全体の節点値ベクトル u = (u0, · · · , um)

T と v = (v0, · · · , vm)T に関連付けるためには,

uh (ui) =(φi(1) φi(2)

)(0 · · · 1 0 · · · 00 · · · 0 1 · · · 0

)

u0

...ui−1

ui

...um

= φi ·Ziu, (6.28)

vh (vi) = φi ·Ziv (6.29)

のような行列 Zi ∈ R3×(m+1) が必要となる.このような Zi は Boole 行列とよばれる.有限要素ごとの近似関数が (6.28) と (6.29) のように構成できたので,これらを 1

次元 Poisson 問題の弱形式 (問題 6.2 ) に代入して,未定定数 u を求めるまでをみていこう.(6.20) と (6.21) の uh (u) と vh (v) を弱形式に代入すれば,

a (uh (u) , vh (v)) = l (vh (v)) (6.30)

となる.ここで,(6.30) の左辺は,要素ごとに分けることができて,

a (uh (u) , vh (v))

=∑

i∈1,··· ,m

∫ xi

xi−1

duh

dx(ui)

dvhdx

(vi) dx =∑

i∈1,··· ,m

ai (uh (ui) , vh (vi))

(6.31)

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18 第 6章 数値解析の基礎

とかける.ただし,右辺の uh (ui) と vh (vi) は (6.28) と (6.29) の定義に従う.このとき右辺の各項は,

ai (uh (ui) , vh (vi))

=(vi(1) vi(2)

)(∫ xi

xi−1

dφi(1)

dx

dφi(1)

dx dx∫ xi

xi−1

dφi(1)

dx

dφi(2)

dx dx∫ xi

xi−1

dφi(2)

dx

dφi(1)

dx dx∫ xi

xi−1

dφi(2)

dx

dφi(2)

dx dx

)(ui(1)

ui(2)

)=(vi(1) vi(2)

)(ai (φi(1), φi(1)

)ai(φi(1), φi(2)

)ai(φi(2), φi(1)

)ai(φi(2), φi(2)

))(ui(1)

ui(2)

)= vi · Aiui = v ·ZT

i AiZiu = v · Aiu (6.32)

のようにまとめることができる.ここで,Ai = (aiαβ)αβ ∈ R2×2 を有限要素 Ωi の係数行列とよぶ.Ai ∈ R(m+1)×(m+1) は全体の節点値ベクトルに合わせて 0 を補充して拡大した有限要素 Ωi の係数行列とする.これ以降, ˜( · )i はすべての節点値に対応したベクトルあるいは行列に合わせて 0 を補充して拡大したベクトルあるいは行列を表すことにする.(6.22) と (6.23) を用いて Ai を計算すれば,

ai11 =

∫ xi(2)

xi(1)

dφi(1)

dx

dφi(1)

dxdx =

1(xi(2) − xi(1)

)2 ∫ xi(2)

xi(1)

(−1)2dx

=1

xi(2) − xi(1),

ai12 =

∫ xi(2)

xi(1)

dφi(1)

dx

dφi(2)

dxdx =

1(xi(2) − xi(1)

)2 ∫ xi(2)

xi(1)

1 · (−1) dx

=−1

xi(2) − xi(1),

ai21 = ai12

ai22 =

∫ xi(2)

xi(1)

dφi(2)

dx

dφi(2)

dxdx =

1(xi(2) − xi(1)

)2 ∫ xi(2)

xi(1)

12 dx

=1

xi(2) − xi(1)

となり,

Ai =

(ai11 ai12ai21 ai22

)=

1

xi(2) − xi(1)

(1 −1−1 1

)(6.33)

を得る.

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6.2 1次元有限要素法 19

一方,(6.30) の右辺も

l (vh (v)) =∑

i∈1,··· ,m

∫ xi

xi−1

bvh (vi) dx+ pvh (vm) =∑

i∈1,··· ,m

li (vh (vi))

(6.34)

のように要素ごとに分けることができて,i ∈ 1, 2, · · · ,m− 1 に対して

li (vh (vi)) =(vi(1) vi(2)

)(∫ xi

xi−1bφi(1) dx∫ xi

xi−1bφi(2) dx

)=(vi(1) vi(2)

)(bi(1)bi(2)

)= vi · bi = vi · li = v ·ZT

i li = v · li (6.35)

とかくことができて,要素番号 m の要素に対して

lm (vh (vm)) =(vi(1) vi(2)

)((∫ xm

xm−1bφi(1) dx∫ xm

xm−1bφi(2) dx

)+

(0p

))

=(vi(1) vi(2)

)((bm(1)

bm(2)

)+

(pm(1)

pm(2)

))= vm ·

(bm + pm

)= vm · lm = v ·ZT

mlm = v · lm (6.36)

とかくことができる.b が定数 b0 のとき,bi =(bi(1), bi(2)

)T を計算すれば,bi(1) = b0

∫ xi(2)

xi(1)

φi(1) dx = b0

∫ xi(2)

xi(1)

xi(2) − x

xi(2) − xi(1)dx = b0

xi(2) − xi(1)

2,

bi(2) = b0

∫ xi(2)

xi(1)

φi(2) dx = b0

∫ xi(2)

xi(1)

x− xi(1)

xi(2) − xi(1)dx = b0

xi(2) − xi(1)

2

となり,

bi = b0xi(2) − xi(1)

2

(11

)(6.37)

を得る.li を有限要素 Ωi の既知項ベクトルとよぶ.ここで,(6.32) を代入した (6.31) と (6.35) と (6.36) を代入した (6.34) を弱形式

(6.30) に代入すれば,

v ·∑

i∈1,··· ,m

Aiu = v ·∑

i∈1,··· ,m

li

となる.この式を

v · Au = v · l (6.38)

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20 第 6章 数値解析の基礎

かく.すなわち,

A =∑

i∈1,··· ,m

Ai ∈ R(m+1)×(m+1),

l =∑

i∈1,··· ,m

li =∑

i∈1,··· ,m

(bm + pm

)= b+ p ∈ Rm+1

とおく.A を全体係数行列,l を全体既知項ベクトル, b と p を b と p の全体節点値ベクトルとよぶ.(6.38) は弱形式を与えているが,弱形式で使われた uh と vh は基本境界条件を満たすことを要請されていた.そこで,(6.38) に基本境界条件を代入することを考えよう.基本境界条件は u0 = uD = uD (uD は基本境界条件の節点値,uD は境界値問題の既定値を意味する) と v0 = vD = 0 である.これらを (6.38) に代入すれば,

(0 v1 · · · vm

)a00 a01 · · · a0ma10 a11 · · · a1m...

.... . .

...am0 am1 · · · amm

uD

u1

...um

l0l1...lm

=(0 vT

N

)((ADD ADN

AND ANN

)(uD

uN

)−(lDlN

))= 0

となる.この式を並び替えれば(v1 · · · vm

a11 · · · a1m

.... . .

...am1 · · · amm

u1

...um

l1...lm

+

uDa10...

uDam0

= vTN

(ANNuN − lN + uDAND

)= 0

となる.vN は任意であるので,

ANNuN = lN − uDAND = l

とかける.したがって,

uN = A−1NNl

により未知ベクトル uN を求めることができる.このとき,有限要素ごとの近似解uh (ui) は u =

(uD, u

TN

)T を用いて,(6.28) により求めることができる.実際に 1次元 Poisson 問題を有限要素法で解いてみよう.例題 6.3 (1次元 Poisson 問題に対する有限要素法) 問題 6.1 において b が定数 b0

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6.2 1次元有限要素法 21

x

x0=0 x1=1/4 x4=1x2=1/2 x3=3/4

図 6.8 要素分割 m = 4

のとき,図 6.8 の有限要素を用いて近似解を有限要素法で求める際の連立 1次方程式を求めよ.また,b0 = 1, uD = 0, p = 0 とおいたときの数値解を求めよ.

(解答) 有限要素の大きさを h = 1/4 とおく. (6.33), (6.37), (6.36) より

Ai =1

h

(1 −1−1 1

), bi =

hb02

(11

), p4 =

(0p

)となる.A1 と b1 を全体の節点値ベクトルに合わせて拡大して

A1 =1

h

1 −1 0 0 0−1 1 0 0 00 0 0 0 00 0 0 0 00 0 0 0 0

, b1 =hb02

11000

とする.A2, b2 をつくり,A1, b1 と重ね合わせれば,

A1 + A2 =1

h

1 −1 0 0 0−1 1 + 1 −1 0 00 −1 1 0 00 0 0 0 00 0 0 0 0

, b1 + b2 =hb02

1

1 + 1100

となる.同様に,A3, b3, A4, b4, p4 をつくり,重ね合わせれば,

A =∑

i∈1,··· ,m

Ai =1

h

1 −1 0 0 0−1 2 −1 0 00 −1 2 −1 00 0 −1 2 −10 0 0 −1 1

,

l =∑

i∈1,··· ,m

bi + p4 =hb02

12221

+

0000p

を得る.これらを用いた (6.38) に基本境界条件 u0 = uD = uD と v0 = vD = 0 を代入すると, (

0 v1 v2 v3 v4)

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22 第 6章 数値解析の基礎

×

1

h

1 −1 0 0 0−1 2 −1 0 00 −1 2 −1 00 0 −1 2 −10 0 0 −1 1

uD

u1

u2

u3

u4

− hb02

12221

0000p

= 0

となる.この式を並び替えて,(v1 v2 v3 v4

1

h

2 −1 0 0−1 2 −1 00 −1 2 −10 0 −1 1

u1

u2

u3

u4

− hb02

2221

000p

− 1

h

uD

000

= 0

となる.(v1, v2, v3, v4) は任意であるので,

1

h

2 −1 0 0−1 2 −1 00 −1 2 −10 0 −1 1

u1

u2

u3

u4

=hb02

2221

+

000p

+1

h

uD

000

を得る.この式は,

ANNuN = l

のような連立 1次方程式である.ここで,b0 = 1, uD = 0, p = 0 のとき,u1

u2

u3

u4

=1

42

1 1 1 11 2 2 21 2 3 31 2 3 4

111

1/2

=

7/323/8

15/321/2

となる.一方,厳密解は

u = −1

2x2 + x

である.図 6.9 に数値解と厳密解の比較を示す.

例題 6.3 の境界条件を変更して,次の問題を考えてみよう.

例題 6.4 (1次元 Dirichlet 問題) b0, uD0, uD1, p ∈ R が与えられたとき,

−d2u

dx2= b0 in (0, 1) , u (0) = uD0, u (1) = uD1

を満たす u : (0, 1) → R を求める問題に対して,図 6.8 の有限要素を用いて近似解を有限要素法で求める際の連立 1次方程式を求めよ.また,b0 = 1, uD0 = uD1 = 0,

p = 0 とおいたときの数値解を求めよ.

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6.2 1次元有限要素法 23

uh

u

0.1

0.2

0.3

0.4

0.5

uh

x

0 0.5 1.00

図 6.9 例題 6.3 の厳密解 u と 近似解 uh

(解答) A の計算は,例題 6.3 と同じである.また,l = b となる.これらを用いた (6.38) に基本境界条件 u0 = uD0 = uD0 と u4 = uD4 = uD1, v0 = vD0 = 0, v4 = vD4 = 0 を代入すれば, (

0 v1 v2 v3 0)

×

1

h

1 −1 0 0 0−1 2 −1 0 00 −1 2 −1 00 0 −1 2 −10 0 0 −1 1

uD0

u1

u2

u3

uD1

− hb02

12221

= 0

となる.この式を並び替えて,

(v1 v2 v3

) 1

h

2 −1 0−1 2 −10 −1 2

u1

u2

u3

− h

2

222

− 1

h

uD0

0uD1

= 0

となる.(v1, v2, v3) は任意であるので,

1

h

2 −1 0−1 2 −10 −1 2

u1

u2

u3

=h

2

222

+1

h

uD0

0uD1

を得る.この式は,

ANNuN = l

のような連立 1次方程式である.b0 = 1, uD0 = uD1 = 0, p = 0 のとき,u1

u2

u3

=1

43

3 2 12 4 21 2 3

111

=

3/321/83/32

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24 第 6章 数値解析の基礎

uh

u

uh

x

0 0.5 1.0

0.05

0.10

0

図 6.10 例題 6.4 の厳密解 u と 近似解 uh

となる.図 6.10 に数値解と厳密解の比較を示す.

例題 6.3 と 6.4 から次のことがいえる.6.1 節 でみてきた Galerkin 法では基本境界条件の変更は基底関数の変更を必要とした.しかし,有限要素法では係数行列と既知項ベクトルを求めた後で境界条件を代入するになることから,基本境界条件の変更は容易である.

6.3 2次元有限要素法次に,2次元 Poisson 問題 (問題 6.3 において d = 2 とおく) に対する有限要素法を考えよう.2次元領域 Ω を図 6.11 のような 2次元多角形領域 Ωh で近似して,Ωh を 3角形領域 Ωi, i ∈ E , に分割したとする.このとき,ΓD は ΓDh に近似されたとする.ただし,3角形の重なりはなく,ある 3角形の頂点が,図 6.12 のように別の 3角形の頂点以外の境界上にあることはないものとする.Ωi を有限要素,E を有限要素番号の集合を表すものとする.また,3角形の頂点 xj = (xj1, xj2)

T, j ∈ N , を節点,N を節点

番号の集合とする.ΓDh 上の節点 xj に対する節点番号 j の集合を ND ⊂ N とかいて,それ以外の節点番号の集合を NN = N \ ND とかく.N は ND が最初にくるように並び替えられているとする.このような 3角形分割に対して,問題 6.3 に対する基底関数として,図 6.13 のような高さ 1 のピラミッド型の関数 ϕj , j ∈ N , を仮定する.すなわち,ϕj は有限要素の内部で 1次多項式で,節点 xj において 1, それ以外の節点で 0 をとる連続関数と仮定する.これらの特徴は,1次元有限要素法でみたとおり,弱形式に代入して積分計算

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6.3 2次元有限要素法 25

¡Dh

x1

x2

xl

xm

xn

i

h

図 6.11 2次元領域 Ω における有限要素と節点

図 6.12 有限要素と節点の反例

Áj1

図 6.13 基底関数 ϕj

を行うのに都合がよく,次に示す近似関数の構成において未定定数が節点値になるという結果につながる.このように選んだ基底関数を用いて,有限要素法では近似関数を

uh (u) =∑j∈ND

ujϕj +∑j∈NN

ujϕj =

(uD

uN

)·(ϕD

ϕN

)= u · ϕ, (6.39)

vh (v) =∑j∈NN

ujϕj =

(vD

vN

)·(ϕD

ϕN

)= v · ϕ (6.40)

とおく.このとき,u と v は近似関数 uh と vh の節点値の意味をもつことから,u とv を節点値ベクトルとよぶ.また,uD = (uD (xj))j∈ND

と vD = 0R|ND| を Dirichlet

型節点値ベクトル, uN = (uj)j∈NNと vN = (vj)j∈NN

を Neumann 型節点値ベクトルとよぶ.ここでも,Ωh を定義域とする基底関数 ϕ を有限要素 Ωi, i ∈ E , ごとに分割し,Ωi

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26 第 6章 数値解析の基礎

ごとにまとめれば,

uh (ui) =(φi(1) φi(2) φi(3)

)ui(1)

ui(2)

ui(3)

= φi · ui, (6.41)

vh (vi) =(φi(1) φi(2) φi(3)

)vi(1)vi(2)vi(3)

= φi · vi (6.42)

とかくことができる.ここで,有限要素 Ωi の 3つの節点番号が l, m, n ∈ N であるとき,φi = (φl, φm, φn)

T=(φi(1), φi(2), φi(3)

)T: Ωi → R3 を有限要素内の基底関

数という.また,

xi =

xl

xm

xn

=

xi(1)

xi(2)

xi(3)

,

ui =

ul

um

un

=

ui(1)

ui(2)

ui(3)

,

vi =

vlvmvn

=

vi(1)vi(2)vi(3)

を有限要素 Ωi の要素節点ベクトル,u と v に対する要素節点値ベクトルという.xi(α) の α ∈ 1, 2, 3 を有限要素 Ωi の局所節点番号という.このように構成された有限要素内の基底関数は,領域全体で定義された基底関数 ϕj ,

j ∈ N , が高さ 1 のピラミッド関数であったことから,φi(α) と xi(β), α, β ∈ 1, 2, 3,に対して

φi(α)

(xi(β)

)= δαβ (6.43)

が成り立つ.また,すべての点 x ∈ Ωi で∑α∈1,2,3

φi(α) (x) = 1

が成り立つ.有限要素 Ωi の局所節点 xi(β), β ∈ 1, 2, 3,が与えられたとき,有限要素内の基底関数 φi(α) (x), α ∈ 1, 2, 3, の式を具体的に求めてみよう.φi(α) (x) は,α ∈ 1, 2, 3ごとに3つの未知定数を含む x = (x1, x2)

T ∈ Ωi に対する 1次式であることから,

φi(α) = ζα + ηαx1 + θαx2 (6.44)

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6.3 2次元有限要素法 27

1

'i(1)

'i(2)'i(3)ui(1)

ui(2)ui(3)

uh

xi(2)

xi(3)

xi(1)

i

図 6.14 2次元有限要素法における有限要素内の基底関数 φi(1), φi(2), φi(3)

のような完全 1次多項式でかける.ただし,ζα, ηα および θα は境界条件によって決まる未定定数である.ここで,(6.43) が成り立つことは,局所節点 xi(β), β ∈ 1, 2, 3,に対して

φi(α)

(xi(β)

)= ζα + ηαxi(β)1 + θαxi(β)2 = δαβ

が成り立つことを意味する.すなわち,1 xi(1)1 xi(1)2

1 xi(2)1 xi(2)2

1 xi(3)1 xi(3)2

ζ1 ζ2 ζ3η1 η2 η3θ1 θ2 θ3

=

1 0 00 1 00 0 1

が成り立つ.そこで,ζ1 ζ2 ζ3

η1 η2 η3θ1 θ2 θ3

=1

γ

xi(2)1xi(3)2 − xi(3)1xi(2)2

xi(2)2 − xi(3)2

xi(3)1 − xi(2)1

xi(3)1xi(1)2 − xi(1)1xi(3)2 xi(1)1xi(2)2 − xi(2)1xi(1)2

xi(3)2 − xi(1)2 xi(1)2 − xi(2)2

xi(1)1 − xi(3)1 xi(2)1 − xi(1)1

(6.45)

を得る.ただし,

γ =

∣∣∣∣∣∣1 xi(1)1 xi(1)2

1 xi(2)1 xi(2)2

1 xi(3)1 xi(3)2

∣∣∣∣∣∣= xi(1)1

(xi(2)2 − xi(3)2

)+ xi(2)1

(xi(3)2 − xi(1)2

)+ xi(3)1

(xi(1)2 − xi(2)2

)(6.46)

である.ここで,xi(β), β ∈ 1, 2, 3, を反時計回りに番号をつけたとき, γ は 3角形

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28 第 6章 数値解析の基礎

xi(1)

xi(2)

xi(3)

e1

e2

e3

i

図 6.15 3角形 Ωi の面積 |Ωi| と xi(1), xi(2), xi(3)

Ωi の面積 |Ωi| の 2倍に等しい.このことは,

2 |Ωi| e3 =

xi(2)1 − xi(1)1

xi(2)2 − xi(1)2

0

×

xi(3)1 − xi(1)1

xi(3)2 − xi(1)2

0

=

∣∣∣∣∣∣e1 xi(2)1 − xi(1)1 xi(3)1 − xi(1)1

e2 xi(2)2 − xi(1)2 xi(3)2 − xi(1)2

e3 0 0

∣∣∣∣∣∣ = γe3

が成り立つことから確かめられる (図 6.15).ただし,e1, e2, e3 は (x1, x2, x3) 座標系の単位直交ベクトルである.有限要素内の基底関数 φi(α), α ∈ 1, 2, 3, は (6.46) と (6.45) を代入した (6.44)

によって得られた.それらを用いれば,(6.41) と (6.42) で定義された Ωi 上の関数uh (ui) と vh (vi) は,

uh (ui) =(φi(1) φi(2) φi(3)

)0 · · · 1 0 0 · · · 00 · · · 0 1 0 · · · 00 · · · 0 0 1 · · · 0

u1

...ul

um

un

...u|N |

= φi ·Ziu, (6.47)

vh (vi) = φi ·Ziv (6.48)

のようにかける.ただし,Zi は全体の節点値ベクトル u と有限要素 Ωi の節点値ベクトル ui = (ul, um, un)

T を関連付ける Boole 行列である.

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6.3 2次元有限要素法 29

Ωi 上の近似関数 uh (ui) と vh (vi) が準備できたので,(6.47) と (6.48) を 2次元Poisson 問題の弱形式 (問題 6.4) に代入して,未定定数 u を求めるまでをみていこう.(6.39) と (6.40) の uh (u) と vh (v) を弱形式に代入すれば,

a (uh (u) , vh (v)) = l (vh (v)) (6.49)

となる.(6.49) の左辺は

a (uh (u) , vh (v)) =∑i∈E

∫Ωi

∇uh (ui) ·∇vh (vi) dx

=∑i∈E

ai (uh (ui) , vh (vi)) (6.50)

とかける.ただし,右辺の uh (ui) と vh (vi) は (6.47) と (6.48) の定義に従う.このとき右辺の各項は,

ai (uh (ui) , vh (vi)) =(vi(1) vi(2) vi(3)

)(6.51)

×

∫Ωi

∇φi(1) ·∇φi(1) dx∫Ωi

∇φi(1) ·∇φi(2) dx∫Ωi

∇φi(1) ·∇φi(3) dx∫Ωi

∇φi(2) ·∇φi(1) dx∫Ωi

∇φi(2) ·∇φi(2) dx∫Ωi

∇φi(2) ·∇φi(3) dx∫Ωi

∇φi(3) ·∇φi(1) dx∫Ωi

∇φi(3) ·∇φi(2) dx∫Ωi

∇φi(3) ·∇φi(3) dx

×

ui(1)

ui(2)

ui(3)

=(vi(1) vi(2) vi(3)

ai(φi(1), φi(1)

)ai(φi(1), φi(2)

)ai(φi(1), φi(3)

)ai(φi(2), φi(1)

)ai(φi(2), φi(2)

)ai(φi(2), φi(3)

)ai(φi(3), φi(1)

)ai(φi(3), φi(2)

)ai(φi(3), φi(3)

)ui(1)

ui(2)

ui(3)

= vi · Aiui = v ·ZT

i AiZiu = v · Aiu (6.52)

のようにまとめることができる.Ai は有限要素 Ωi の係数行列, Ai は全体の節点値ベクトルに合わせて 0 を補充して拡大した有限要素 Ωi の係数行列とする.Ai = (aiαβ)αβ ∈ R3×3 を,(6.45) の ηα と θα, α ∈ 1, 2, 3, を代入した (6.44) を用いて計算すれば,

aiαβ =

∫Ωi

(∂φi(α)

∂x1

∂φi(β)

∂x1+

∂φi(α)

∂x2

∂φi(β)

∂x2

)dx =

∫Ωi

(ηαηβ + θαθβ) dx

= |Ωi| (ηαηβ + θαθβ) (6.53)

となる.ただし,|Ωi| = γ/2 で,γ は (6.46) で与えられる.

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30 第 6章 数値解析の基礎

一方,(6.49) の右辺も

l (vh (v)) =∑i∈E

∫Ωi

bvh (vi) dx+∑i∈E

∫∂Ωi∩ΓN

pvh (vi) dγ

=∑i∈E

li (vh (vi)) (6.54)

のように要素ごとに分けることができて,i ∈ E に対して

li (vh (vi))

=(vi(1) vi(2) vi(3)

)∫Ωi

bφi(1) dx∫Ωi

bφi(2) dx∫Ωi

bφi(3) dx

+

∫∂Ωi∩ΓN

pφi(1) dγ∫∂Ωi∩ΓN

pφi(2) dγ∫∂Ωi∩ΓN

pφi(3) dγ

=(vi(1) vi(2) vi(3)

)bi(1)bi(2)bi(3)

+

pi(1)pi(2)pi(3)

= vi ·

(bi + pi

)= vi · li = v ·ZT

i li = v · li (6.55)

とかくことができる.li は有限要素 Ωi の既知項ベクトルである.b が定数 b0 のとき,bi =

(bi(1), bi(2), bi(3)

)T を計算すれば,bi = b0

∫Ωi

φi(1) dx∫Ωi

φi(2) dx∫Ωi

φi(3) dx

=b0 |Ωi|

3

111

(6.56)

となる.ただし,次の面積座標の積分公式を用いた.定理 6.3 (面積座標の積分) φi(α), α ∈ 1, 2, 3, を 2次元 3角形領域 Ωi 上の面積座標とするとき,非負整数 l, m, n に対して∫

Ωi

(φi(1)

)l (φi(2)

)m (φi(3)

)ndx = 2 |Ωi|

l!m!n!

(l +m+ n+ 2)!

が成り立つ.ただし,|Ωi| = γ/2, γ は (6.46) で与えられる.

さらに,p が定数 p0 のとき,pi =(pi(1), pi(2), pi(3)

)T は,pi = p0

0∫∂Ωi∩ΓN

φi(2) dγ∫∂Ωi∩ΓN

φi(3) dγ

=p0h

2

011

となる.ただし,h は ∂Ωi ∩ ΓN の長さである (図 6.16).

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6.3 2次元有限要素法 31

¡N

1

'i(1)

xi(1)

xi(2)

ui(1)

ui(2)ui(3)

i

'i(3)

'i(2)

uh

xi(3)

図 6.16 境界を含む有限要素

ここで,(6.52) を代入した (6.50) と (6.55) を代入した (6.54) を弱形式 (6.49) に代入すれば,

v ·∑i∈E

Aiu = v ·∑i∈E

li

となる.この式を

v · Au = v · l (6.57)

とかく.すなわち,

A =∑i∈E

Ai ∈ R|N |×|N|,

l =∑i∈E

li =∑i∈E

(bi + pi

)= b+ p ∈ R|N |

とおく.A を全体係数行列,l を全体既知項ベクトル, b と p を b と p の全体節点値ベクトルとよぶ.(6.57) に基本境界条件 uj = uD (xj), vj = 0, j ∈ ND, を代入して,

(0T vT

N

)((ADD ADN

AND ANN

)(uD

uN

)−(lDlN

))= 0 (6.58)

となる.ただし,uD と uN および vD と vN は (6.39) および (6.40) の定義に従い,

ADD =(Aij

)i∈ND j∈ND

,

ADN =(Aij

)i∈ND j∈NN

,

AND =(Aij

)i∈NN j∈ND

,

ANN =(Aij

)i∈NN j∈NN

,

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32 第 6章 数値解析の基礎

=(0,1)2

x1

x2

¡D x1

x2

x1

x2

x3

x4

x5

x6

x7

x8

x9

h

h

1

2

3

4

5

6

7

8

(a) 領域 Ω (b) 有限要素分割

図 6.17 2次元 Poisson 問題の例

lD = (li)i∈ND,

lN = (li)i∈NN

である.この式を並び替えれば

vTN

(ANNuN − lN + uDAND

)= 0

となる.vN は任意であるので,

ANNuN = lN − uDAND = l

とかける.したがって,

uN = A−1NNl

により未知ベクトル uN を求めることができる.このとき,有限要素ごとの近似解uh (ui) は u =

(uTD, u

TN

)T を用いて,(6.47) により求めることができる.ここでも 2次元 Poisson 問題を有限要素法で実際に解いてみよう.

例題 6.5 (2次元 Poisson 問題に対する有限要素法による計算) Ω = (0, 1)2, ΓD =

x ∈ Ω | x1 = 0, x2 = 0, ΓN = ∂Ω \ ΓD とする.このとき,

−∆u = 1 in Ω,∂u

∂ν= 0 on ΓN, u = 0 on ΓD

を満たす u : (0, 1)2 → R の近似解を,図 6.17 のような要素分割を用いた有限要素法

によって求めよ.

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6.3 2次元有限要素法 33

xi(2)

xi(3)

xi(1)

i

xi(2)xi(3)

xi(1)

i

(a) タイプ 1 (b) タイプ 2

図 6.18 有限要素タイプ

(解答) 有限要素の大きさを h = 1/2 とおく.このとき,(6.46) より γ = h2 および|Ωi| = γ/2 = h2/2 となる.係数行列 Ai と bi を (6.53) と (6.56) を用いて計算しよう.有限要素を 2つのタイプに分けて考える.Ωi, i ∈ 1, 3, 5, 7, を Type 1 とよぶ (図 6.18 (a)).これらに対して (6.45) よりη1

η2η3

=1

γ

xi(2)2 − xi(3)2

xi(3)2 − xi(1)2

xi(1)2 − xi(2)2

=1

h2

−hh0

,

θ1θ2θ3

=1

γ

xi(3)1 − xi(2)1

xi(1)1 − xi(3)1

xi(2)1 − xi(1)1

=1

h2

0−hh

を得る.これらを,(6.53) と (6.56) に代入すれば

Ai =1

2

1 −1 0−1 2 −10 −1 1

, li = bi =h2

6

111

を得る.一方,Ωi, i ∈ 2, 4, 6, 8, を Type 2 とよぶ (図 6.18 (b)).これらに対しても同様に,η1

η2η3

=1

γ

xi(2)2 − xi(3)2

xi(3)2 − xi(1)2

xi(1)2 − xi(2)2

=1

h2

0h−h

,

θ1θ2θ3

=1

γ

xi(3)1 − xi(2)1

xi(1)1 − xi(3)1

xi(2)1 − xi(1)1

=1

h2

−h0h

を得る.これらを,(6.53) と (6.56) に代入すれば

Ai =1

2

1 0 −10 1 −1−1 −1 2

, li = bi =h2

6

111

を得る.有限要素 Ωi, i ∈ 1, 2, 3, 4, 5, 6, 7, 8, における局所節点 xi(α), α ∈ 1, 2, 3, と全体節点

xj , j ∈ 1, 2, 3, 4, 5, 6, 7, 8, 9 の関係は表 6.1 のとおりである.

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34 第 6章 数値解析の基礎

表 6.1 例題 6.5 の局所節点 xi(α) と全体節点 xj の関係

Ωi Ω1 Ω2 Ω3 Ω4 Ω5 Ω6 Ω7 Ω8

xi(1) x1 x1 x2 x2 x4 x4 x5 x5

xi(2) x4 x5 x5 x6 x7 x8 x8 x9

xi(3) x5 x2 x6 x3 x8 x5 x9 x6

Type 1 2 1 2 1 2 1 2

A1 と l1 を,全体の節点値ベクトルに合わせて拡大して

A1 =1

2

1 0 0 −1 0 0 0 0 00 0 0 0 0 0 0 0 00 0 0 0 0 0 0 0 0−1 0 0 2 −1 0 0 0 00 0 0 −1 1 0 0 0 00 0 0 0 0 0 0 0 00 0 0 0 0 0 0 0 00 0 0 0 0 0 0 0 00 0 0 0 0 0 0 0 0

, l1 =

h2

6

100110000

をつくる. 同様に,i ∈ 2, · · · , 8 に対して Ai と li から Ai と li をつくり,重ね合わせれば,

A =1

2

2 −1 0 −1 0 0 0 0 0−1 4 −1 0 −2 0 0 0 00 −1 2 0 0 −1 0 0 0−1 0 0 4 −2 0 −1 0 00 −2 0 −2 8 −2 0 −2 00 0 −1 0 −2 4 0 0 −10 0 0 −1 0 0 2 −1 00 0 0 0 −2 0 −1 4 −10 0 0 0 0 −1 0 −1 2

, l =

h2

6

231363132

となる.ここで,(6.58) のように,基本境界条件 u1 = u2 = u3 = u4 = u7 = 0, v1 = v2 =

v3 = v4 = v7 = 0 を代入すると,

1

2

8 −2 −2 0−2 4 0 −1−2 0 4 −10 −1 −1 2

u5

u6

u8

u9

=1

24

6332

を得る.この連立 1次方程式を解けば

u5

u6

u8

u9

=1

192

3 2 2 22 6 2 42 2 6 42 4 4 12

6332

=1

96

17222230

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6.4 種々の有限要素 35

uh

x1

x2

0.1

0.2

0

0.5

1.0

0

0

0.5

1.0

図 6.19 例題 6.5 の近似解

0.1

0.2

0

0.5

1.0

0

0

0.5

1.0

uh

x1

x2

図 6.20 例題 6.5 の分割数を増やしたときの近似解

を得る.この結果を節点値にした近似解 uh (u) を図 6.19 に示す.

例題 6.5 において分割数を増やし,36節点,50有限要素に変更したときの結果を図6.20 に示す.

6.4 種々の有限要素6.2 節と 6.3 節で基底関数を 1次関数で構成したときの 1次元と 2次元の有限要素法を詳しくみてきた.次に,これらの内容を踏まえて基底関数を高次関数に変更することや有限要素の形状を 4角形に変更すること,さらに,3次元の有限要素法についての見通しを示しておきたい.いずれも基底関数の構成法が異なるだけで,それを弱形式に代入して未定定数を求めるという Galerkin 法としての手続きは同一である.そ

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36 第 6章 数値解析の基礎

こで,ここでは有限要素内の基底関数を定義して近似関数を構成するところまでをみていくことにする.なお,6.2 節と 6.3 節で用いた基底関数は 1次関数であったので,基底関数を直接有限要素上で定義していた.ここでは,それぞれの有限要素に対して規準要素を定義して,その上で基底関数を与えることにする.それらの基底関数を有限要素で定義された関数に変換する際は,規準要素から有限要素への写像によって与えられるものとみなす.

6.4.1 1次元高次有限要素まず,1 次元有限要素の高次化についてみてみよう.(6.22) と (6.23) で定義した 1 次元 1 次要素の基底関数 φi(1) と φi(2) は,有限要素 Ωi = (xi−1, xi), i ∈E = 1, · · · ,m, 内の点を規準要素 Ξ = (1, 0) 内の点への写像を与えることから長さ座標とよばれる.そこで,(λ1, λ2) =

(φi(1), φi(2)

)とおき,図 6.21 のような

ξ = λ2 = 1− λ1 ∈ Ξ を規準座標とよぶことにする.このとき,任意の ξ ∈ Ξ = (1, 0)

に対して

φi(1) (ξ) = 1− ξ,

φi(2) (ξ) = ξ

を定義すれば,(6.22) と (6.23) で定義した 1次元 1次要素の基底関数は,写像

x = fi (ξ) = xi(1) + ξ(xi(2) − xi(1)

)を用いて,

φi(1) (fi (ξ)) = φi(1) (ξ) ,

φi(2) (fi (ξ)) = φi(2) (ξ)

にように表される.このように,規準要素上で定義された基底関数を φi(α) (ξ),

α ∈ 1, 2, のように,これ以降 ˆ( · ) を付けて表すことにしよう.それでは,基底関数に 2次関数を用いた 1次元 2次有限要素についてみてよう.2

次関数は 3つの未定定数をもつ.そこで,中間節点を追加して,(ξi(1) ξi(2) ξi(3)

)=(0 1 1/2

)(6.59)

を節点と仮定する.このとき,規準要素上で定義された 3 つの基底関数 φi(α),

α ∈ 1, 2, 3, は,それぞれに対して 3つの条件 φi(α)

(ξi(β)

)= δαβ , β ∈ 1, 2, 3, を

使って (φi(1) φi(2) φi(3)

)=(λ1 (2λ1 − 1) λ2 (2λ2 − 1) 4λ1λ2

)

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6.4 種々の有限要素 37

1

xxi1=xi(1) xi=xi(2)

¸ 1 ¸ 2

i

0 1

1 1» »

¥»

(a) 長さ座標 (λ1, λ2) (b) 規準座標 ξ = λ2

図 6.21 1次元有限要素の長さ座標と規準座標

xi(1) xi(2)

1

xi(3)

uj=ui(1) uk=ui(2)

ul=ui(3)

'i(1)'i(2)'i(3)

uh

i ¥

»(1)=0 »(2)=1»(3)=1/2

1

uj=ui(1) uk=ui(2)

ul=ui(3)

'i(1) 'i(2)'i(3)

uh

(a) 有限要素内の基底関数 (b) 規準要素内の基底関数

図 6.22 1次元 2次有限要素の基底関数

と決定される.これらは,図 6.22 (b) に示したような関数である.ただし,図中l,m, n は全体で割り当てられた節点番号を表すとする.これらを用いれば,規準要素上で定義された近似関数は

uh =(φi(1) φi(2) φi(3)

)ui(1)

ui(2)

ui(3)

= φiui

のように構成される.同様にして,m ∈ N 次の 1次元有限要素は次のように構成される.定義 6.5 (1次元 m 次有限要素) 節点を規準座標 ξ ∈ Ξ に対して(

ξi(1) · · · ξi(m)

)=(0 1/m · · · 1

)とおいて,基底関数 φi(α), α ∈ 1, · · · ,m, を φi(α)

(ξi(β)

)= δαβ , β ∈ 1, · · · ,m,

を満たす m 次多項式で与えるとき,1次元 m 次有限要素という.

近似関数は,1次元 m 次有限要素に限らず,局所節点番号の集合を Ni とかくとき

uh =∑α∈Ni

φi(α)ui(α) = φiui (6.60)

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38 第 6章 数値解析の基礎

¸1¸2

¸3

xi(1)

xi(2)

xi(3)

i

x

»1

»2

¥

1

1

00»i(1) »i(2)

»i(3)

(a) 面積座標 (λ1, λ2, λ3) (b) 規準座標 (ξ1, ξ2)

図 6.23 2次元 3角形有限要素の面積座標と規準座標

で構成される.

6.4.2 2次元 3角形高次有限要素次に,2 次元問題に対して使われる 3 角形有限要素の高次化についてみてみよう.

(6.44) で定義した 1次の 3角形有限要素 Ωi, i ∈ E = 1, · · · ,m, 上の基底関数 φi(1),

φi(2), φi(3) は面積座標とよばれる.その理由は,図 6.23 のように,有限要素 Ωi 内のある点 x ∈ Ωi を選んだとき,xを頂点とする 3つの小 3角形の |Ωi|に対する面積比をλ1, λ2, λ3 としたとき,(λ1, λ2, λ3) =

(φi(1), φi(2), φi(3)

)が成り立つためである.こ

れより,ξ = (ξ1, ξ2)T= (λ2, λ3)

T ∈ R2 を規準座標,Ξ =ξ ∈ (0, 1)

2∣∣∣ ξ1 + ξ2 < 1

を規準要素とおく.ここでも,基底関数に 2次関数を用いた場合からみていこう.ξ1 と ξ2 に対する完全 2次多項式は

a1 + a2ξ1 + a3ξ2 + a4ξ21 + a5ξ1ξ2 + a6ξ

22

のように 6つの未定定数 a1, · · · , a6 をもつ.そこで,3角形の 3辺に中間節点を追加して, (

ξi(1) ξi(2) ξi(3) ξi(4) ξi(5) ξi(6))=

(0 1 0 1/2 0 1/20 0 1 1/2 1/2 0

)(6.61)

を節点とする.このとき,規準要素上の基底関数 φi(α), α ∈ 1, · · · , 6, は,φi(α)

(ξ(β)

)= δαβ , β ∈ 1, · · · , 6, を満たす条件よりφi(1)

φi(2)

φi(3)

=

λ1 (2λ1 − 1)λ2 (2λ2 − 1)λ3 (2λ3 − 1)

,

φi(5)

φi(5)

φi(6)

=

4λ2λ3

4λ1λ3

4λ1λ2

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6.4 種々の有限要素 39

xi(1)

xi(2)xi(6)

ui(1)

ui(2)

ui(3) ui(4)

ui(5) ui(6)

i'i(1)

'i(2)'i(3)

'i(4)

'i(5)

'i(6)

uh

»1

»2

1

1

00»i(1)

»i(3)

»i(2)

»i(4)»i(5)

»i(6)

¥

(a) 有限要素内の基底関数 (b) 規準座標における節点

図 6.24 2次元 3角形 2次有限要素の基底関数

1

1

0

0 »1

¥

»2

1

»1 »2

»12 »2

2»1»2

»12 »2

3»1 »22 »1»2

2

m=1

m=2

m=3

»1

m »1 »2 mm1 »1»2

m1 »2

m...

(a) 節点配置 (b) 完全 m 次多項式の項

図 6.25 2次元 3角形 m 次有限要素の節点配置と完全 m 次多項式の項

のように決定される.これらの関数を 図 6.24 に示す.近似関数は,これらを用いて

uh =∑

α∈1,··· ,6

φi(α)ui(α) = φiui

のように構成される.同様にして,m ∈ N 次の 2次元 3角形有限要素は,2次元の m 次完全多項式により次のように構成される.定義 6.6 (2次元 3角形 m 次有限要素) 節点 Ni を規準座標 ξ ∈ Ξ に対して図 6.25

のように配置して,規準要素上の基底関数を φi(α), α ∈ Ni, を φi(α)

(ξ(β)

)= δαβ ,

β ∈ Ni を満たす ξ1 と ξ2 に対する完全 m 次多項式とするとき,3角形 m 次有限要素という.近似関数は (6.60) で構成される.

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40 第 6章 数値解析の基礎

xi(1) xi(2)

x1

x2

xi(4) xi(3)

i

図 6.26 2次元長方形有限要素

6.4.3 2次元長方形有限要素2次元問題に対して 3角形有限要素をみてきたが,長方形であっても有限要素を構成できる.Ωi を長方形の有限要素として,Ωi, i ∈ E , から規準要素 Ξ = (0, 1)

2 への写像は,x1 方向と x2 方向の長さ座標 (λ11, λ12) および (λ21, λ22) を

λ11 (x) =xi(2)1 − x1

xi(2)1 − xi(1)1, (6.62)

λ12 (x) =x1 − xi(1)1

xi(2)1 − xi(1)1(6.63)

λ21 (x) =xi(2)2 − x2

xi(2)2 − xi(1)2, (6.64)

λ22 (x) =x2 − xi(1)2

xi(2)2 − xi(1)2(6.65)

とおいて,ξ = (ξ1, ξ2)T= (λ12, λ22)

T ∈ Ξ を規準座標とする.長方形の場合の基底関数は,ξ1 と ξ2 に対する双 1次多項式を仮定すれば

a1 + a2ξ1 + a3ξ2 + a4ξ1ξ2

のように 4つの未定定数 a1, · · · , a4 をもつことから,4つの節点における条件で一意に決定できる.実際,節点を(

ξi(1) ξi(2) ξi(3) ξi(4))=

(0 1 1 00 0 1 1

)(6.66)

とおき,φi(α)

(ξ(β)

)= δαβ , β ∈ 1, 2, 3, 4, の条件を用いれば,規準要素上の基底関

数 φi(α), α ∈ 1, 2, 3, 4, は(φi(1) φi(2) φi(3) φi(5)

)=(λ11λ21 λ12λ21 λ12λ22 λ11λ22

)

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6.4 種々の有限要素 41

xi(1) xi(2)

xi(4)

xi(3)

u i(4)

1

u i(1)

u i(3)

'i(1) 'i(2)

'i(3)

i

'i(4)

uh

u i(2)

»1

»2

¥=(0,1)2

»i(1)

»i(3)

»i(2)

»i(4)

(a) 有限要素内の基底関数 (b) 規準座標における節点

図 6.27 2次元長方形 1次有限要素の基底関数

»1

»2

¥=(0,1)2

»1

»2

¥=(0,1)2

m = 2 m = 3

図 6.28 Lagrange 族長方形有限要素の節点

のように決定される.これらの関数を図 6.27 に示す.これらを用いて,近似関数は

uh =∑

α∈1,··· ,4

φi(α)ui(α) = φiui

で構成される.長方形有限要素の高次化には,2つの方法が使われる.ひとつは双 m 次多項式を使う次のような方法である.定義 6.7 (Lagrange 族長方形有限要素) 節点 Ni を規準座標 ξ ∈ Ξに対して図 6.28

のように配置して,規準要素上の基底関数を φi(α), α ∈ Ni, を φi(α)

(ξ(β)

)= δαβ ,

β ∈ Ni を満たす ξ1 と ξ2 に対する双 m 次多項式のとき,Lagrange 族長方形有限要素という.近似関数は (6.60) で構成される.

もうひとつは,有限要素内部の節点を使わずに近似関数を構成する方法である.この方法は双 m 次多項式に着目して演繹的に得られた Lagrange 族とは異なり,偶発的

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42 第 6章 数値解析の基礎

»1

»2

¥=(0,1)2

»1

»2

¥=(0,1)2

m = 2 m = 3

図 6.29 セレンディピティ族長方形有限要素の節点

にみつかった方法であることからセレンディピティ族とよばれる.

定義 6.8 (セレンディピティ族長方形有限要素) 節点 Ni を規準座標 ξ ∈ Ξ に対して図 6.29 のように配置して,規準要素上の基底関数を φi(α), α ∈ Ni, を φi(α)

(ξ(β)

)=

δαβ , β ∈ Ni を満たす ξ1 と ξ2 に対する多項式で構成されるのとき,セレンディピティ族長方形有限要素という.その多項式は,m = 2 のとき ξ1 と ξ2 に対する完全 2

次多項式に ξ21ξ2 と ξ1ξ22 を追加した項で構成される.また,m = 3 のとき ξ1 と ξ2 に

対する完全 3次多項式に ξ31ξ2 と ξ1ξ32 を追加した項で構成される.近似関数は (6.60)

で構成される.

6.4.4 3次元 4面体有限要素3次元の有限要素も 2次元のときと同様に構成することができる.まずは,図 6.30

のような 4面体有限要素についてみてみよう.2次元の 3角形有限要素では面積座標を用いたが,3次元の 4面体有限要素では図 6.31 のような体積座標 (λ1, · · · , λ4) と規準座標 ξ = (ξ1, ξ2, ξ3)

T= (λ2, λ3, λ4)

T ∈ Ξ を用いることができる.このとき,詳細は省略するが,m 次の 4面体有限要素は完全 m 次多項式で基底関数を構成することができる.

6.4.5 3次元 6面体有限要素6面体有限要素も 4角形有限要素の 3次元空間への拡張によってつくられる.ここでも,(6.62) から (6.65) と同様に,節点座標 xi(α) ∈ R3, α ∈ 1, · · · , 8, に対して長さ座標 λ11, · · · , λ33 と規準座標 ξ = (ξ1, ξ2, ξ3)

T= (λ12, λ22, λ32)

T ∈ Ξ を定義することができる.これらを用いて,Lagrange 族 6面体 m 次有限要素は,規準座標に

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6.5 アイソパラメトリック要素 43

xi(1)

xi(2)

xi(3)

xi(4)

i

図 6.30 4面体 1次有限要素

¸1

¸2

¸3

¸4 »1

»2¥

1

1

0»i(1)

»i(2)

»i(3)

»3

»i(4)1

(a) 体積座標 (λ1, · · · , λ4) (b) 規準座標 (ξ1, ξ2, ξ3)

図 6.31 4面体有限要素の体積座標と規準座標

対する 3重 m 次多項式で基底関数 φi(α), α ∈1, · · · , (m+ 1)3

, が構成される.セ

レンディピティ族 6面体 m 次有限要素は,Lagrange 族 6面体 m 次有限要素から有限要素内部の節点に対する基底関数をのぞいた基底関数によって構成される.

6.5 アイソパラメトリック要素6.4 節でみてきた有限要素は,2次元の場合は 3角形と 4角形,3次元の場合はや 4

面体と 6面体であると仮定した.ここでは,図 6.33 のような曲線で構成された 3角形や一般の 4辺形およびそれらを 3次元に拡張した形状などの有限要素について考えてみよう.6.4.2 項でみてきたように,3 角形有限要素の基底関数は面積座標によって与えられ,それらによって構成された近似関数を弱形式に代入したときの領域積分は,定理6.3 を使って計算できた.4角形有限要素の場合は 6.5.2 項に示す Gauss 求積によっ

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44 第 6章 数値解析の基礎

xi(1) xi(2)x1

x3

xi(4) xi(3)

xi(6)xi(5)

xi(7)xi(8)

x2

i

»1

»3

»2

¥=(0,1)3

(a) 6面体 1次有限要素 (b) 規準座標 (ξ1, ξ2, ξ3)

図 6.32 6面体 1次有限要素と規準座標

(a) 2次曲線 3角形要素 (b) 一般の 4辺形要素 (c) 2次曲線 4辺形要素

図 6.33 アイソパラメトリック要素の例

て計算することができる.これらは次数を上げても利用できる.しかし,図 6.33 のような形状に対してはそれらの積分公式は使えない.そこで,図 6.33 のような有限要素の物理座標 x ∈ Ωi を 3角形や 4辺形の規準領域の規準座標 ξ ∈ Ξ に写像すれば, Ξ の上で定理 6.3 や Gauss 求積を使うことができる.そのときの写像 x : Ξ → Ωi に対する近似関数 xh を u の近似関数と同じ基底関数で構成したときの有限要素をアイソパラメトリック有限要素という.定義 6.9 (アイソパラメトリック有限要素) 有限要素 Ωi ⊂ Rd, i ∈ E , 内での節点番号の集合を Ni = 1, · · · , |Ni| とかく.φi =

(φi(1), · · · , φi(|Ni|)

): Ξi → R|Ni| を有

限要素内の基底関数とする.このとき,Ξi 上で定義された u の近似関数と座標値を

uh (ξ) = φi (ξ) ·Ziu,

vh (ξ) = φi (ξ) ·Ziv,

xhj (ξ) = φi (ξ) ·Zixj for j ∈ 1, · · · , d

で構成する有限要素をアイソパラメトリック有限要素という.ただし,Zi を Boole

変換行列,u, v ∈ R|N | と xj = (xlj)l ∈ R|N |, j ∈ 1, · · · , d, を Ωh 上で定義された近似関数 uh の全節点値ベクトルと xj 方向の全節点座標値ベクトルという.

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6.5 アイソパラメトリック要素 45

x »

x1

x2»1

»2

xi(1)

xi(2)

xi(3)

xi(4)

»i(1)

»i(3)

»i(2)

»i(4)

¥i=(0,1)2i

図 6.34 2次元 4節点アイソパラメトリック要素における座標値 x と基準座標 ξ

アイソパラメトリック有限要素では,定義 6.9 のとおり規準領域を用いた媒介変数による表記を用いる.その結果,苦労することになるのが u の xj に対する偏微分の計算である.次の項でアイソパラメトリック有限要素の例を挙げてその様子をみておこう.

6.5.1 2次元 4節点アイソパラメトリック要素アイソパラメトリック有限要素の例として,2次元 4節点有限要素についてみてみよう. Ωi, i ∈ E , を一般の 4 辺形領域,Ξi = (0, 1)

2 を規準領域とする.このとき,ξ ∈ Ξi に対して

uh (ξ) =(φi(1) (ξ) φi(2) (ξ) φi(3) (ξ) φi(4) (ξ)

)ui(1)

ui(2)

ui(3)

ui(4)

= φi (ξ) · ui,

vh (ξ) = φi (ξ) · vi,

xh1 (ξ) = φi (ξ) · xi1,

xh2 (ξ) = φi (ξ) · xi2

と定義する.ただし,

φi =

φi(1)

φi(2)

φi(3)

φi(4)

=

(1− ξ1)(1− ξ2)

ξ1(1− ξ2)ξ1ξ2

(1− ξ1)ξ2

とする.ここで,φi の xj , j ∈ 1, 2, に対する偏微分の計算について考えてみよう.

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46 第 6章 数値解析の基礎

φi は ξ の関数である.しかし,α ∈ 1, 2, 3, 4 に対して

∂ξφi(α) (ξ) =

(∂φi(α)

∂ξ1∂φi(α)

∂ξ2

)=

(∂x1

∂ξ1∂x2

∂ξ1∂x1

∂ξ2∂x2

∂ξ2

)(∂φi(α)

∂x1∂φi(α)

∂x2

)=(∂ξx

T)∂xφi(α) (ξ)

が成り立つことに気づけば

∂xφi(α) (ξ) =

(∂φi(α)

∂x1∂φi(α)

∂x2

)=

1

ω (ξ)

(∂x2

∂ξ2−∂x2

∂ξ1

−∂x1

∂ξ2∂x1

∂ξ1

)(∂φi(α)

∂ξ1∂φi(α)

∂ξ2

)

=(∂ξx

T)−1

∂ξφi(α) (ξ)

を得る.ここで,(∂ξx

T)Tは写像 x : Ξi → Ωi の Jacobi 行列, ω (ξ) = det

(∂ξx

T)

を Jacobi 行列式という.そこで,要素係数行列

(ai(φi(α), φi(β)

))α,β

, α, β ∈ 1, 2, 3, 4, は

ai

(φi(α), φi(β)

)=

∫Ωi

(∂φi(α)

∂x1

∂φi(β)

∂x1+

∂φi(α)

∂x2

∂φi(β)

∂x2

)dx

=

∫Ωi

∂xφi(α) (x) · ∂xφi(β) (x) dx

=

∫(0,1)2

∂xφi(α) (ξ) · ∂xφi(β) (ξ) ω (ξ) dξ (6.67)

とかける.右辺の積分は次に示す Gauss 求積で計算することができる.

6.5.2 Gauss 求積Gauss 求積の公式を示そう.fn : (−1, 1) → R を n 次関数とするとき,∫ 1

−1

f1(y) dy = 2f (0) ,∫ 1

−1

f3(y) dy = f

(− 1√

3

)+ f

(1√3

),∫ 1

−1

f5(y) dy =5

9f

(−√

3

5

)+

8

9f (0) +

5

9f

(√3

5

)

の右辺で左辺を計算する方法を Gauss 求積という (図 6.35).これらの公式が成り立つ根拠をみてみよう.後で示す Gauss 求積の定理で使うために,Legendre 多項式を定義しておこう.ここでは,n と m を非負の整数とする.

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6.5 アイソパラメトリック要素 47

1

y

01

´1 y

101

´1 ´2 y

101

´1 ´2 ´3

n = 1 n = 3 n = 5

図 6.35 1次元関数の Gauss 求積

1

1

1

1

l1

l0

l2

l3

l4

l5

図 6.36 Legendre 多項式 ln

定義 6.10 (Legendre 多項式) 関数 ln : (−1, 1) → R が Legendre の微分方程式d

dx

(1− x2

) d

dxln

+ n (n+ 1) ln = 0 (6.68)

を満たすとき,ln を Legendre 多項式という.

Legendre 多項式は,Rodrigues の公式を用いて

ln (x) =1

2nn!

dn

dxn

(x2 − 1

)n(6.69)

とかける.これより,具体的に

l0 (x) = 1, l1 (x) = x, l2 (x) = x2 − 1

3, l3 (x) = x3 − 3

5x

のように得られる (図 6.36).したがって,ln は n 次の多項式であることがわかる.さらに,関数 f : (−1, 1) → R が n 次未満の多項式ならば,∫ 1

−1

f (x) ln (x) dx = 0

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48 第 6章 数値解析の基礎

が成り立つ.なぜならば,(6.68) と (6.69) より∫ 1

−1

f (x) ln (x) dx

=

[f

− 1

n (n+ 1)

(1− x2

) dlndx

]1−1

− 1

2nn!

∫ 1

−1

df

dx

dn−1

dxn−1

(x2 − 1

)ndx

=(−1)

n

2nn!

∫ 1

−1

dnf

dnx

(x2 − 1

)ndx = 0

が成り立つからである.これらの性質から,lnn の直交性∫ 1

−1

ln (x) lm (x) dx =2

2n+ 1δnm

が成り立つ.また,一般に x0 < x1 < · · · < xn に対して

ϕi (x) =∏

j∈1,··· ,n, j =i

x− xj

xi − xj

=(x− x0) (x− x1) · · · (x− xi−1) (x− xi+1) · · · (x− xn)

(xi − x0) (xi − x1) · · · (xi − xi−1) (xi − xi+1) · · · (xi − xn)

は ϕi (xj) = δij を満たし,ある f : R → R に対して

f (x) =∑

i∈1,··· ,n

ϕi (x) f (xi)

とおけば,f (xi) = f (xi) を満たす.このとき,ϕi (x) を Lagrange 基底多項式とよび,f (x) を Lagrange 補間とよぶ.ここで,Legendre 多項式 ln の根 η1, · · · , ηn に対する Lagrange 基底多項式を

φi (x) =∏

j∈1,··· ,n, j =i

x− ηjηi − ηj

(6.70)

とかく (図 6.37).この φi (x) を用いたときの Lagrange 補間を考えれば Gauss 求積の公式を得る.

定理 6.4 (Gauss 求積) η1, · · · , ηn を n 次 Legendre 多項式 ln の根とする.f :

(−1, 1) → R を 2n 次未満の多項式とする.このとき,∫ 1

−1

f (x) dx =∑

i∈1,··· ,n

wif (ηi)

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6.5 アイソパラメトリック要素 49

1

1

1

1

'1 '2 '3 '4 '5

図 6.37 5次 Legendre 多項式の根を節点とする関数 φi (x)

が成り立つ.ただし,(6.70) の φi (x) に対して

wi =

∫ 1

−1

φi (x) dx

である.

(証明) もしも,f (x) が n− 1 次の多項式であったとする.このとき,

f (x) =∑

i∈1,··· ,n

φi (x) f (ηi)

が成り立つ.なぜならば,両辺の差は n 階微分を含むが,f の n 階微分は零であるからである.よって,

∫ 1

−1

f (x) dx =

∫ 1

−1

∑i∈1,··· ,n

φi (x) f (ηi)

dx =∑

i∈1,··· ,n

wif (ηi)

が成り立つ.次に,f が n 次以上 2n 次未満の多項式であったとする.このとき,

f (x) = ln (x) g (x) + r (x)

とかける.ただし,g (x) と r (x) は n 次未満の多項式である.ここで,Legendre 多項式の性質より ∫ 1

−1

ln (x) g (x) dx = 0

が成り立つ.また,ln (ηi) = 0 より

f (ηi) = r (ηi)

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50 第 6章 数値解析の基礎

が成り立つ.さらに,r (x) が n 次未満の多項式なので,∫ 1

−1

r (x) dx =∑

i∈1,··· ,n

wir (ηi)

が成り立つ.よって,∫ 1

−1

f (x) dx =

∫ 1

−1

r (x) dx =∑

i∈1,··· ,n

wir (ηi) =∑

i∈1,··· ,n

wif (ηi)

を得る.

Gauss 求積において,η1, · · · , ηn を Gauss 節点という.定理 6.4 において,積分領域が (0, 1) に変更された場合には,積分公式は変数変換により,∫ 1

0

f2n−1(y) dy =1

2

∑i∈1,··· ,n

wif

(ηi − 1

2

)に変更される.さらに,2次元領域 (−1, 1)

2 上の双 n 次関数に対しては∫(−1,1)2

f2n−1 (ξ) dy =∑

i∈1,··· ,n

∑j∈1,··· ,n

wijf(ηij

),

∫(0,1)2

f2n−1 (ξ) dy =1

4

∑i∈1,··· ,n

∑j∈1,··· ,n

wijf

((ηij −

(11

))/2

)(6.71)

が成り立つ (図 6.38).これらの公式は,矩形のアイソパラメトリック有限要素の要素上での数値積分において利用される.例えば,(6.67) に対しては (6.71) が使われる.このとき,n の値の選び方に関しては,多項式を要素とする行列の逆行列計算が含まれることから,厳密には無限大になってしまう.そこで,できるだけ小さな値でかつ実用上支障が現れない値を数値実験によって調べて,その値を使っているのが実情である.さらに,特殊な有限要素においては数値積分においてさまざまな工夫が施されている.それらについては専門書を参照されたい.

6.6 誤差評価定理 6.2 では,Galerkin 法による近似解の基本誤差は近似関数の集合 Uh の近似能力に依存することをみた.ここでは,その結果に基づいて有限要素法による近似解に対する誤差評価の結果を確認しておくことにしよう.ここで示される結果は,第 8章と第 9章で形状最適化問題の数値解法に対する誤差評価において使われることになる.ここでは,これまでみてきたことを基礎にして,有限要素法をある程度抽象化した下で基本的な定理をみていくことにしよう [4, 6, 8, 9].

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6.6 誤差評価 51

(1,1)2

´11

n = 1 n = 3 n = 5

図 6.38 2次元関数の Gauss 求積

6.6.1 有限要素分割列ここでは,簡単のために,領域分割による誤差は無視できるように,Ω ⊂ Rd を

d ∈ 1, 2, 3 次元の有界領域で 2次元のときは多角形,3次元のときは多面体として,一般に多面体とよぶことにする.Ω に対して,E を要素番号の有限集合として,領域の集合 T = Ωii∈E が Ω =

∪i∈E Ωi かつ,任意の i, j ∈ E , i = j, に対して

Ωi ∩ Ωj = ∅, Ωi ∩ Ωj ⊂ Rd−1

を満たすとき,T を有限要素分割とよぶ.各 Ωi に対して,

diamΩi = supx,y∈Ωi

∥x− y∥Rd

を Ωi の直径とよび hi とかく.また,Ωi の内接球の直径を inscrΩi とかくとき,ある正定数 σ が存在して,すべての i ∈ E に対して

inscrΩi

diamΩi≥ σ (6.72)

が成り立つとき,T は正則な有限要素分割であるという.さらに,

h (T ) = maxi∈E

hi

を T の最大直径とよび,h (T ) → 0 となるような有限要素分割列を Thh→0 とかくことにする.

6.6.2 アフィン同等有限要素分割正則な有限要素分割列 Thh→0 からある有限要素分割 Th を選び,そのときの有限要素の集合を Ωii∈E , Ω =

∪i∈E Ωi, とする.有限要素法を Galerkin 法としてみた

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52 第 6章 数値解析の基礎

とき,基底関数を与えなければならない.有限要素法では,N を節点番号の有限集合として,すべての基底関数 ϕj : Ω → R, j ∈ N , を次のように与える.

(1) Th 上で定義された,任意の節点 xl, l ∈ N , に対して

ϕj (xl) = δjl

が成り立つ.(2) ϕj は,節点 xj を囲む有限要素を台 (非零の値を持つ定義域) にもつ関数で与える.

これらの基底関数 ϕj , j ∈ N , は,6.2 節から 6.5 節でみてきたように,有限要素Ωi, i ∈ E , 上で定義された基底関数 φi(α), i ∈ E , α ∈ Ni, にかきかえることができる.また,規準要素 Ξi, i ∈ E , 上で定義された関数 φi(α), i ∈ E , α ∈ Ni, を使っても表現することができる.ここでは,簡単のために,すべての有限要素に対応する規準要素は共通で,Ξ = (0, 1)

d あるいは Ξ =ξ ∈ (0, 1)

d∣∣∣ ξ1 + · · ·+ ξd < 1

とする.ま

た,Ξ 上で定義された基底関数を φ(α), α ∈ Ni, であるとする.すなわち,Ξ と Ωi,

i ∈ E , における節点をそれぞれ ξ(α) および xi(α), α ∈ Ni, 規準要素から有限要素への写像を f i : Ξ → Ωi とかくとき,任意の α, β ∈ Ni に対して

xi(α) = f i

(ξ(α)

)φi(α)

(xi(β)

)= φ(α)

(ξ(β)

)= δαβ

が成り立つと仮定する.さらに,誤差評価を行う上で,f i は Ωi, i ∈ E , ごとに Ai ∈ Rd×d と bi ∈ Rd を定数として

f i (ξ) = Aiξ + bi (6.73)

で与えられると仮定する.このような線形写像と固定元の平行移動を組み合わせた写像はアフィン写像とよばれる.6.2 から 6.4 節でみてきたような有限要素ではこの写像が成り立つ.アイソパラメトリック有限要素ではこの関係は一般には成り立たないが,f i : Ξ → Ωi が非線形写像と固定元の平行移動を組み合わせた写像であったも,後で示す f i の Jacobi 行列 f iξT =

(∂ξf

Ti

)Tと Jacobi 行列式 ωi (ξ) = detf iξT の

上限値と下限値が正定数で存在する場合には同様の議論が成り立つ.ここでは,規準要素を Ξ に固定して,有限要素 Ωi, i ∈ E , が Ξ からアフィン写像 f i, i ∈ E , でできている有限要素分割をアフィン同等有限要素分割とよぶことにする.

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6.6 誤差評価 53

このように定義された正則なアフィン同等有限要素分割を用いる際,弱形式の計算において,例えば Poisson 問題では任意の α, β ∈ Ni に対して

ai(φi(α), φi(β)

)=

∫Ωi

∂xφi(α) · ∂xφi(β) dx

=

∫Ξ

(∂ξf

Ti

)−1

∂ξφ(α)

·(

∂ξfTi

)−1

∂ξφ(β)

ωi dξ

=

∫Ξ

(AT

i

)−1

∂ξφ(α)

·(

ATi

)−1

∂ξφ(β)

ωi dξ

を計算する必要がある.ここで,Ai は (6.73) で用いたものである.規準要素で定義された基底関数 φ(α) : Ξ → R, α ∈ Ni, i ∈ E , を用いる場合は,f i の Jacobi 行列式ωi = detAT

i の計算が必要となる.そこで,次の結果に注目しておこう.

補題 6.1 (アフィン写像の Jacobi 行列式) Ωi ⊂ Rd, i ∈ E , を Ξ = (0, 1)d あるいは

Ξ =ξ ∈ (0, 1)

d∣∣∣ ξ1 + · · ·+ ξd < 1

に対する正則なアフィン同等有限要素分割の

有限要素,f i : Ξ → Ωi を (6.73) のアフィン写像,diamΩi = hi とする.このとき,

ωi = detATi ≤ hd

i , ω−1i = det

(AT

i

)−1

≤ c1h−di (6.74)

が成り立つ.また,Ai = (aijk)j,k∈Niおよび A−1

i =(a−1ijk

)j,k∈Ni

に対して

|aijk| ≤ hi,∣∣∣a−1

ijk

∣∣∣ ≤ c2h−1i (6.75)

が成り立つ.ただし,c1 と c2 は (6.72) の σ と d に依存した正定数である.

(証明) アフィン同等有限要素分割の有限要素であれば ωi は定数となる.Ξ の測度 |Ξ| について 0 < |Ξ| ≤ 1 である.Ωi は正則であることから,

1

c1hdi ≤ ωi =

∫Ξωi dξ∫Ξdξ

=|Ωi||Ξ| ≤ hd

i

を得る.したがって,(6.74)が成り立つ.また,ξ ∈ Ξに対して diamΩi = hi より ∂fij/∂ξk ≤

hi を得る.さらに,ω−1i = det

(∂f−1

ij /∂xk

)j,k∈Ni

≤ c1/hdi より

∣∣∂f−1ij /∂xk

∣∣ ≤ c2/hi が成り立つ.

6.6.3 補間誤差評価6.6.2 項では規準要素と有限要素の関係に注目した.ここでは,近似関数の近似能力に注目しよう.定理 6.2 では,厳密解の属する Hilbert 空間 U のノルムで計った有限

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54 第 6章 数値解析の基礎

u(x)

i

uh(x)

¼u(x)x

xi(1) xi(2)»

¥=(0,1)

u(»)

¼u(»)

uh(»)

»(1) »(2)

(a) Ωi 上の補間関数 πu (b) Ξ 上の補間関数 πu

図 6.39 補間関数と有限要素解

要素解の誤差 ∥u− uh∥U は,同次基本境界条件のとき (u = 0),infvh∈Uh∥u− vh∥U

で抑えられることをみた.ここでは,有限要素解よりもより誤差を含むかもしれないが,誤差評価のしやすい近似関数をつくって,それの近似能力を評価することを考える.もしも,そのような近似関数の誤差を評価できたならば,有限要素解の誤差はそれよりも下回る訳であるから (定理 6.2),有限要素解の誤差も評価できたことになる.そのことを 6.6.4 項で示す.ここでは,厳密解と節点で一致するような近似関数を補間関数とよぶことにしよう.図 6.39 (a) に 1 次元問題に対して基底関数が 1 次関数で与えられたときの厳密解 u と有限要素解 uh に対して補間関数 πu が節点上では厳密解 u と一致している様子を示している.図 6.39 (b) には規準要素上のそれらの関数を示している.ただし,π と π は,補間作用素とよんで,次のように定義する.Ωi 上の厳密解の関数空間を U (Ωi) とかくことにする.また,基底関数 φi(α), α ∈ Ni, によって張られた補間関数の関数空間 (線形空間) を W (Ωi) = span

(φi(α)

)α∈Ni

(定義 4.4) とかくことにする.さらに,Ξ 上で定義された厳密解と補間関数に対する関数空間をそれぞれ U (Ξ) および W (Ξ) = span

(φ(α)

)α∈Ni

とかくことにする.このとき,作用素π : U (Ωi) → W (Ωi) と π : U (Ξ) → W (Ξ) を

πu (x) =∑α∈Ni

u(xi(α)

)φi(α) (x) , (6.76)

πu (ξ) =∑α∈Ni

u(ξ(α)

)φ(α) (ξ) (6.77)

によって定義する.これ以降では,∥u− πu∥U すなわち ∥u− πu∥H1(Ω;R) を補間誤差とよんで,評価することを考えよう.そのために,まず,k 次多項式全体の集合を定義して,それによる一般的な近似能力に関する結果をみておこう.k ∈ 0, 1, · · · として,有界領域

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6.6 誤差評価 55

Ω ⊂ Rd 上で定義された k 次多項式全体 (完全 k 次多項式) の集合を

Pk (Ω) =

∑|β|≤k

cβxβ1

1 · · ·xβd

d

∣∣∣∣∣∣ cβ ∈ R, β ∈ 0, 1, · · · , kd , x ∈ Ω ⊂ Rd

とかくことにする.β は多重指数である.このとき,次の結果が得られる [4, 9].

定理 6.5 (k 次多項式全体の集合による近似能力) Ω ⊂ Rd を区分的に滑らかな境界をもつ有界領域,p ∈ [1,∞], k ∈ 0, 1, · · · とする.このとき,任意の v ∈W k+1,p (Ω;R) に対して

infϕ∈Pk(Ω)

∥v − ϕ∥Wk+1,p(Ω;R) ≤ c |v|Wk+1,p(Ω;R) (6.78)

が成り立つ.ただし,c は Ω と k に依存した正定数である.

(6.78) は,ϕ ∈ Pk (Ω) ならば |ϕ|Wk+1,p(Ω;R) = 0 であることから,

infϕ∈Pk(Ω)

|v − ϕ|Lp(Ω;R) + · · ·+ |v − ϕ|Wk+1,p(Ω;R)

≤ c |v − ϕ|Wk+1,p(Ω;R)

とかける.すなわち,k 次多項式の中に |v − ϕ|Lp(Ω;R) = 0, · · · , |v − ϕ|Wk,p(Ω;R) = 0

が成り立つような ϕ ∈ Pk (Ω) が存在することを意味している.ここで,具体例を挙げてこの結果の意味ついて考えてみよう.k+1 > d/p が成り立つように k を選べば,Sobolev の埋蔵定理 (定理 4.1) より,ある α ∈ (0, 1) に対して

W k+1,p (Ω;R) ⊂ Wα,∞ (Ω;R) ⊂ C0(Ω;R

)が成り立つ.そこで,d = 1 (Ω ⊂ R) および p = 2 とおいてみよう.このとき,k = 0

ならば v ∈ H1 (Ω;R) は連続関数になる.一方,k = 0 のとき,ϕ ∈ P0 (Ω) は定数値関数となる.このとき,定理 6.5 は |v − ϕ|L2(Ω;R) = 0 が成り立つような ϕ ∈ P0 (Ω)

が存在することを主張する.実際,∫Ω|v − ϕ|2 dx = 0 が成り立つような定数値関

数 ϕ がみつかることは理解できよう.さらに,d ∈ 2, 3 (Ω ⊂ Rd) および p = 2

とおけば,k = 1 のとき v ∈ H2 (Ω;R) は連続関数になり,∫Ω|v − ϕ|2 dx = 0 と∫

Ω|∇v −∇ϕ|2Rd dx = 0 が成り立つような 1次関数 ϕ がみつかることを意味する.定理 6.5 に基づけば,有限要素 Ωi 上の補間関数について,次の結果を得る [4].

定理 6.6 (有限要素上の補間誤差) Thh→0 を d ∈ 1, 2, 3 次元の多面体有界領域Ω ⊂ Rd の正則な有限要素分割列,Th = Ωii∈E をその要素とする.φ(α), α ∈ Ni

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56 第 6章 数値解析の基礎

を規準座標 Ξ 上で定義された基底関数として,W (Ξ) = span(φ(α)

)α∈Ni

を補間関数の関数空間とする.p ∈ [1,∞] と k, l ∈ 0, 1, · · · は

k + 1 >d

p, k + 1 ≥ l (6.79)

を満たすもとで

Pk (Ξ) ⊂ W (Ξ) ⊂ W l,p (Ξ;R) (6.80)

とする.π を (6.76) の補間作用素とする.このとき,任意の v ∈ W k+1,p (Ω;R) に対して Ωi, i ∈ E , の直径 hi に依存しない正定数 c が存在して,

|v − πv|W l,p(Ωi;R) ≤ chk+1−li |v|Wk+1,p(Ωi;R)

が成り立つ.

定理 6.6 の結果を用いれば,領域 Ω 上の補間誤差について次の結果を得る [4].

系 6.1 (領域上の補間誤差) 定理 6.6 の仮定のもとで,l ≥ 1 とする.Ω 上で定義された節点 xj , j ∈ N , に対する基底関数 ϕj (φi(α), α ∈ Ni, i ∈ E で構成される) は連続とする.このとき,任意の v ∈ W k+1,p (Ω;R) に対して最大直径 h に依存しない正定数 c が存在して,

|v − πv|W l,p(Ω;R) ≤ chk+1−l |v|Wk+1,p(Ω;R)

が成り立つ.

定理 6.6 や 系 6.1 のように,有限要素の直径に対するオーダーで誤差を評価することをオーダー評価という.

6.6.4 有限要素解の誤差評価有限要素法の基底関数を使って作成された補間関数の誤差評価は,系 6.1において厳密解を v ∈ W k+1,p (Ω;R) とおいたときの結果によって与えられたことになる.一方,定理 6.2 は,Galerkin 法の近似解 (有限要素解) の基本誤差 u−uh は U = H1 (Ω;R)ノルムで測ったときの結果を示している.そこで,有限要素解の誤差は,系 6.1 において p = 2 および l = 1 とおいたときの結果を用いることで得られることになる [4, 9].H1 (Ω;R) ノルムで測ったときの誤差評価は次のようになる.

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6.6 誤差評価 57

定理 6.7 (H1 ノルムによる有限要素解の誤差評価) Thh→0 を d ∈ 1, 2, 3 次元の多面体有界領域 Ω ⊂ Rd の正則な有限要素分割列,Th = Ωii∈E をその要素とする.p = 2, l = 1 および k ∈ 0, 1, · · · は (6.79) と (6.80) を満たすとする.Ω 上で定義された基底関数 ϕ = (ϕj)j∈N は連続とする.有限要素法における近似解の集合を

Uh =vh (v) = v · ϕ | v = (vj)j∈N ∈ R|N |

(6.81)

とおく.uhh→0, uh ∈ Uh, を同次基本境界条件のとき (u = 0) の問題 6.3 に対する有限要素解の列とする.このとき,厳密解が u ∈ Hk+1 (Ω;R) であれば,h に依存しない正定数 c が存在して,

∥u− uh∥H1(Ω;R) ≤ chk |u|Hk+1(Ω;R)

が成り立つ.

さらに,誤差 u−uh を L2 (Ω;R) ノルムで測った場合の結果は,Aubin-Nitsche のトリックとよばれる方法によって次のように得られる.

定理 6.8 (L2 ノルムによる有限要素解の誤差評価) Thh→0 を d ∈ 1, 2, 3 次元の多面体有界領域 Ω ⊂ Rd の正則な有限要素分割列,Th = Ωii∈E をその要素とする.p = 2, l = 1, s = 0, d ≤ 3 および k ≥ 1 のもとで (6.80) を満たすとする.Ω 上で定義された基底関数 ϕ = (ϕj)j∈N は連続とする.有限要素法における近似解の集合 Uh

を (6.81) とおく.uhh→0, uh ∈ Uh, を同次基本境界条件のとき (u = 0) の問題 6.3

に対する有限要素解の列とする.このとき,厳密解が u ∈ Hk+1 (Ω;R) であれば,h

に依存しない正定数 c が存在して,

∥u− uh∥L2(Ω;R) ≤ chk+1 |u|Hk+1(Ω;R)

が成り立つ.

以上の結果を使って,有限要素解の誤差評価を行ってみてみよう.厳密解の正則性については 5.4 節でみた結果を用いることができる.まず,境界は滑らかで,厳密解の滑らかさ (正則性) は既知関数の滑らかさに依存して決められる場合は,次のような結果になる.

例題 6.6 (既知関数の正則性に対する有限要素解の誤差評価) 問題 6.1 と問題 6.3 において, b ∈ L2 (Ω;R), p = 0, とする.このとき,有限要素解のオーダー評価を示せ.

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58 第 6章 数値解析の基礎

(解答) b ∈ L2 (Ω;R) のとき,−∆u = b より,厳密解 u に対して |u|H2(Ω;R) ≤ c0 ∥b∥L2(Ω;R)が成り立つ.したがって,定理 6.7 と定理 6.8 において k = 1 とおくとき,有限要素解 uh に対して

∥u− uh∥H1(Ω;R) ≤ c1h |u|H2(Ω;R)

∥u− uh∥L2(Ω;R) ≤ c1h2 |u|H2(Ω;R)

を得る.

次に,滑らかでない境界をもつ 2次元領域の場合を考えよう.

例題 6.7 (滑らかでない境界に対する有限要素解の誤差評価) 問題 6.3において,Ωを図 5.2 のような角点 x0 をもつ 2次元領域とする.x0 近傍における有限要素解の誤差評価について考察せよ.

(解答) 特異性が現れるのが,Γ1 と Γ2 が同一種境界で開き角が α > π (凹角) になるときと,混合境界で開き角が α > π/2 になるときである.例えば,同一種境界でき裂 (α = 2π) の場合と混合境界で直線 (α = π) の場合には,それぞれ例題 5.3 と例題 5.4 の結果を用いれば,いずれも,角点の r0 近傍で ϵ > 0 に対して

u ∈ H3/2−ϵ (B (x0, r0) ∩ Ω;R)

となる.一方,有限要素解のオーダー評価は (6.79) より,k + 1 ≥ 2 を満たさなければならない.すなわち,厳密解が H2 (Ω;R) でなければ適用できないことになる.そこで,角点近傍の有限要素解については,理論的な根拠を失うことになる.

例題 6.7 の考察に基づけば,特異点近傍の有限要素解の解釈は慎重に行わなくてはならない (信用してはいけない) ことになる.このような特異点に対しても有効な有限要素法も考えられている.5.3 節でみたように,特異点近傍の r に対するべき級数展開は得られている.それらを近似する関数を基底関数に加えることで Galerkin 法の枠組みで特異性にも有効な方法が考えられている [11, 15].

6.7 第 6章のまとめ偏微分方程式の境界値問題に対する数値解法の一つとして有限要素法を概観した.

(1) Galerkin 法の原理を示した.• Galerkin 法では,既知の基底関数の線形結合で近似関数を構成した.• 近似関数を弱形式に代入して変数に関する連立 1次方程式を導き,それを解いた.

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6.8 第 6章の演習問題 59

(2) 有限要素法は Galerkin 法であることを示した.• 有限要素法では,領域を単純な形の部分領域である有限要素 に分割して,要素内で低次多項式,有限要素境界で連続な形状関数を用いて近似関数を構成した.

(3) アイソパラメトリック有限要素の原理を示した.• 有限要素領域を規準領域に写像して,有限要素内積分を規準領域で行った.• アイソパラメトリック有限要素では,このときの写像を形状関数と同じ関数で構成した.

• 規準領域での数値積分には Gauss 求積を用いた.(4) 有限要素法では誤差評価が可能であることを示した.

• 有限要素法における数値解の誤差ノルムは有限要素の大きさのべき乗で抑えられた.

6.8 第 6章の演習問題(1) 1次元 2階微分方程式の第 1境界値問題

−d2u

dx2+ u = 1 in (0, 1), u (0) = u (1) = 0

を満たす u : (0, 1) → R の近似解 uh を Galerkin 法により求めよ.(2) 1次元 2階微分方程式の境界値問題

−d2u

dx2+ u = 1 in (0, 1), u (0) = 0, u (1) = 0

を満たす u : (0, 1) → R を,1次の形状関数を用いた有限要素法によって解く場合の,連立 1次方程式を求めよ.ただし,有限要素数 m = 4 とせよ.

(3) Ω = (0, 1)× (0, 1), 図 6.40 (a) のような ΓD とする.このとき,

−∆u = 1 in Ω,∂u

∂ν= 0 on ∂Ω \ ΓD, u = 0 on ΓD

を満たす u : (0, 1)× (0, 1) → R を,図 6.40 (b) のような有限要素分割を用いた有限要素法によって求めよ.

(4) 2次元 Poisson 問題 (問題 6.4, d = 2) に対して,図 6.26 の長方形 1次要素を用いるとする.このとき,要素係数行列と要素既知項ベクトルを求めよ.ただし,b = b0 を定数,p = 0 とする.

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60 第 6章 数値解析の基礎

=(0,1)2

x1

x2

¡D x1

x2

h

h

x1

x2

x3

x4

x5

x6

x7

x8

x9

1

2

3

4

5

6

7

8

(a) Ω と ΓD (b) 有限要素分割

図 6.40 例題 6.5 の領域と有限要素分割

(5) 平面応力線形弾性問題に対する 4 節点アイソパラメトリック有限要素の要素係数行列の計算方法を示せ.• ui = (u11, u12, u13, u14, u21, u22, u23, u24)

T を有限要素 i ∈ E の節点変位とする.E (u (ξ)) = (εjl (ξ))jl をひずみテンソルとして,ε (ξ) =

(ε11, ε22, 2ε12)T をそのベクトル表現とする.このとき,

ε (ξ) = B (ξ) ui

となる変位ひずみ行列 B (ξ) の計算方法を示せ.• T (u (ξ)) = (τjl (ξ))jl を応力テンソルとして,τ (ξ) = (τ11, τ22, τ12)

T をそのベクトル表現とする.平面応力 τ13 = τ23 = τ33 = 0 のとき,構成則は Young 率 eY と Poisson 比 νP を用いて

τ (ξ) = Dε (ξ) , D =eY

1− ν2P

1 νP 0νP 1 00 0 (1− νP) /2

で与えられる.このとき,要素係数行列 Ki の計算方法を示せ.

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参考文献

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[3] 田端正久. 有限要素法-理論から実践まで (1)-(4). 応用数理, Vol. 15, pp. 41–48,

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[5] 菊地文雄. 有限要素法の数理 : 数学的基礎と誤差解析. 培風館, 1994.

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tions : theory and algorithms. Springer-Verlag, 1986.

[8] Philippe G. Ciarlet. The finite element method for elliptic problems. Elsevier,

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[9] Philippe G. Ciarlet. Finite element methods. Handbook of numerical analysis

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Hall, 1973.

[11] G. Strang, G. J. Fix, 三好哲彦, 藤井宏訳. 有限要素法の理論. 培風館, 1976.

[12] O. C. Zienkiewicz and R. L. Taylor. The Finite Element Method, 5th ed.

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[13] Thomas J. R. Hughes. The Finite Element Method. Prentice-Hall, 1987.

[14] T. J. R. Hughes.

[15] 田端正久, 藤井宏, 三好哲彦. 特異関数を用いる有限要素法. bit, Vol. 5, pp.

1035–1040, 1973.