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1 経済政策部会報告書「個人消費低迷の分析と今後の対応」 2017 年 10 月 23 日 一般社団法人 日本経済団体連合会 Ⅰ.はじめに 過去4年間の賃金引上げの努力にかかわらず、個人消費はいまだ力強い回復 軌道には乗っていない。これまで経団連は、消費喚起のためには、消費マイン ドの醸成と高揚、更には将来不安の払拭が重要と主張してきた。 今回改めて、21 世紀政策研究所の委託調査により、個人消費が伸び悩んでい る背景について、体系的な分析を行った。その結果、①賃金の伸びが相対的に 低い業種の雇用者の大幅増加、②高齢者世帯の増加や③世帯人員の減少に見ら れる世帯構成の変化、そして④非正規雇用者の比率の上昇といった経済社会の 構造変化が及ぼす影響が大きいことを確認した。 加えて、世帯年収の下方シフトに伴う中間層の減少、各年代における価値観 や嗜好の多様化が進んでいる。こうした状況の中、一部では生活不安や将来不 安の増大に伴い、消費を抑制する動きも見られる。 かかる現状認識のもと、個人消費の持続的かつ自律的な拡大を目指すために は、①世帯ベースでの生涯所得の底上げ、②消費意欲の一層の刺激を図るとと もに、③その側面支援に資する環境整備が不可欠である。 これらを実現する上で、企業に求められている役割は極めて大きい。もとよ り、新たな需要創造に向けた製品・サービスの提供に主体的に取り組むことは 当然である。 今企業は、生産性の向上、企業収益の拡大を通じて、より多くの付加価値を 生み出しており、自らの意思で投資の拡大や賃金の引上げを行っている。 今後、企業に対して、経済の好循環を一層強化する観点から、さらなる投資

一般社団法人 日本経済団体連合会1 経済政策部会報告書 「個人消費低迷の分析と今後の対応」 2017年 1 0月23日 一般社団法人日本経済団体連合会

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1

経済政策部会報告書「個人消費低迷の分析と今後の対応」

2017 年 10 月 23 日

一般社団法人 日本経済団体連合会

Ⅰ.はじめに

過去4年間の賃金引上げの努力にかかわらず、個人消費はいまだ力強い回復

軌道には乗っていない。これまで経団連は、消費喚起のためには、消費マイン

ドの醸成と高揚、更には将来不安の払拭が重要と主張してきた。

今回改めて、21 世紀政策研究所の委託調査により、個人消費が伸び悩んでい

る背景について、体系的な分析を行った。その結果、①賃金の伸びが相対的に

低い業種の雇用者の大幅増加、②高齢者世帯の増加や③世帯人員の減少に見ら

れる世帯構成の変化、そして④非正規雇用者の比率の上昇といった経済社会の

構造変化が及ぼす影響が大きいことを確認した。

加えて、世帯年収の下方シフトに伴う中間層の減少、各年代における価値観

や嗜好の多様化が進んでいる。こうした状況の中、一部では生活不安や将来不

安の増大に伴い、消費を抑制する動きも見られる。

かかる現状認識のもと、個人消費の持続的かつ自律的な拡大を目指すために

は、①世帯ベースでの生涯所得の底上げ、②消費意欲の一層の刺激を図るとと

もに、③その側面支援に資する環境整備が不可欠である。

これらを実現する上で、企業に求められている役割は極めて大きい。もとよ

り、新たな需要創造に向けた製品・サービスの提供に主体的に取り組むことは

当然である。

今企業は、生産性の向上、企業収益の拡大を通じて、より多くの付加価値を

生み出しており、自らの意思で投資の拡大や賃金の引上げを行っている。

今後、企業に対して、経済の好循環を一層強化する観点から、さらなる投資

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の拡大、生産性の向上、そして賃金の引上げの他、増大を続ける社会保障給付

等を賄うため、社会保険料や拠出金の負担を求める社会的要請にどのように対

応していくのかが問われている。

本報告書は、国民一人ひとりが消費を通じてこれまで以上に「豊かさ」を実

感できるよう、個人消費喚起策として、有効かつ必要な施策をとりまとめてお

り、今後経団連の各政策委員会の検討の叩き台となるものである。

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Ⅱ.個人消費に関する現状分析

以下では、主に 21 世紀政策研究所の委託調査(以下、委託調査)の分析を踏

まえつつ、個人消費と経済社会の構造変化について概観していく。

1.マクロ経済での個人消費と家計所得の動向

まず、マクロ経済での個人消費(実質GDPベース)の推移を見ると、2014

年4月の消費税率引上げ以降、力強い回復軌道には乗っていない。

図表Ⅱ- 1:個人消費(実質GDPベース)の推移

その背景として、マクロ経済での家計の所得(雇用者報酬や可処分所得)を

挙げることが出来る。

まず、雇用者報酬の伸び率を①雇用者数の伸びと②1人当たりの雇用者報酬

の伸びに寄与度分解すると、2013 年以降雇用者数の伸びがプラスに寄与し続け

ている一方で、1人当たりの雇用者報酬はマイナスに寄与している。

なお、中期的な動向(2000 年から 2016 年)についても、雇用者報酬の伸び

率(約6%)を寄与度分解すると、雇用者数の伸び率は、約7%ポイントのプ

ラスの寄与に対し、1人当たりの雇用者報酬は約1%ポイントのマイナスの寄

与であり、足もととほぼ同様の傾向となっている。

250

260

270

280

290

300

2000

01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16

(兆円)

(注)個人消費は、家計最終消費支出を指す。

(出所)内閣府「2015年度国民経済計算」(2000年から2014年までのデータ)

内閣府「国民経済計算(2017年4-6月期2次速報)」(2015、2016年のデータ)

消費税率

引き上げ

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図表Ⅱ- 2:雇用者報酬(実質)の伸び率の推移とその寄与度分解

1人当たりの雇用者報酬が伸び悩む要因として、特に足もとにおける雇用者

数が増えている業種の動向にも留意する必要がある。

直近4年間の常用雇用者1数と月間現金給与総額の伸びの関係を見ると、雇用

者数が大きく伸びた「飲食サービス業等」、「医療・福祉」、「建設業」、「生活関

連サービス等」の4業種のうち、「建設業」以外は、いずれも月間現金給与総額

の伸びが全産業平均を下回り、ゼロ近傍かマイナスとなっている。

このように、相対的に賃金が低く、かつ上昇が見られない2業種を中心に雇用

者が増えていることも、1人当たりの雇用者報酬の伸び悩みに影響しているも

のと思われる。

1 期間を定めずに、又は1か月を超える期間を定めて雇われている者等を指し、一般

労働者、パートタイム労働者の双方を含む。 2 厚生労働省「毎月勤労統計調査」(事業所規模5人以上、平成 28 年度確報)によれ

ば、業種ごとの月間現金給与総額は全産業 31.5 万円、飲食サービス業等 12.6 万円、

生活関連サービス等 20.4 万円、医療、福祉 29.5 万円となっている。

-3.0%

-2.0%

-1.0%

0.0%

1.0%

2.0%

3.0%

2000

01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16

雇用者の伸び率 雇用者1人当たりの雇用者報酬の伸び率 雇用者報酬の伸び率

2000年から2016年にかけての増加率:+6.2%

うち①雇用者の伸び率の寄与度:+7.4%ポイント

②雇用者1人当たり雇用者

報酬の伸び率の寄与度:▲1.0%ポイント

(出所)内閣府「国民経済計算」、総務省「労働力調査」より、経団連事務局作成。

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図表Ⅱ- 3:業種別で見た常用雇用者数と月間現金給与総額の伸び(2012 年度平均から 2016 年度平均)

次に、雇用者報酬等から社会保険料や税等を差し引いたマクロ経済の可処分

所得の動向を直近4年間(2012~16 年度)でみると、賃金・俸給、財産所得(ネ

ット)が計9兆円程度増える一方で、税や社会保険料の負担が5兆円強増えた

ため、可処分所得の伸びは4兆円程度にとどまっている。

図表Ⅱ- 4:家計の可処分所得の変動要因(2012 年度から 2015 年度)

+7.2

+1.9

▲3.1

▲2.2

+0.5 +4.3

0.0

2.0

4.0

6.0

8.0

10.0

賃金・俸給

財産所得(ネット)

税(支払)

家計の社会負担

その他

可処分所得

(出所)内閣府「2012年度国民経済計算」、「2015年度国民経済計算」

(兆円)

-8.0%

-6.0%

-4.0%

-2.0%

0.0%

2.0%

4.0%

6.0%

8.0%

-5.0% 0.0% 5.0% 10.0% 15.0% 20.0%

(出所)厚生労働省「毎月勤労統計調査」

製造業

生活関連

サービス等

運輸業、郵便業

全産業

建設業

医療・福祉

飲食

サービス業等

月間現金給与総額の伸び率

常用雇用者数の伸び率

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2.少子高齢化や雇用形態等の構造変化

消費動向を考える上で、前述した収入・所得面の動向のみならず、わが国の

経済社会の構造変化を認識することは極めて重要である。

まず、わが国が直面する少子高齢化と人口減少に伴う、世帯構成の変化を確

認する。

年齢階層別に見た世帯構成を 2000 年と 2015 年で比較すると、65 歳以上の高

齢者世帯の比率は、約 11%上昇して3分の1強を占めている。今後も高齢化が

進むことからもこの傾向が続く見込みである。

図表Ⅱ- 5:年齢階層別の比率の比較(2000 年と 2015 年)

このうち、戦後の日本の経済社会をリードしてきた、団塊世代(1947~1951

年生まれ)は、わが国人口の約1割弱に相当する約 1,000 万人の規模にのぼる。

2015 年には、その多くが高齢層(65 歳以上)へ移り、この世代の労働力人口

は 2000 年以降の 16 年間でほぼ半減し約 450 万人となっている。

(出所)ニッセイ基礎研究所「消費動向の分析ならびに消費喚起策に関する委託調査」(総務省統計局「国勢調査」より作成)

0

10

20

30

40

50

60

2000 2015

25歳未満 25~34歳 35~44歳 45~54歳 55~64歳 65~74歳 75歳以上

24%約1,100万世帯

35%約1,900万世帯(+約800万世帯)

(百万世帯)

約4,700万世帯

約5,300万世帯

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<団塊世代(1947~1951 年生まれ)の人口推移の特徴>

① 団塊世代の人口:

約 1,000 万人

※総人口(2015 年 10 月1日時点、総務省「人口推計」より)に占める

比率は、約8%。

② 団塊世代の労働力人口:

約 853 万人(2000 年)⇒約 450 万人(2016 年)と約 400 万人の減少

高齢者世帯の増加に伴い、マクロ経済での消費に占める高齢層(60 代以上)

の割合は 2016 年には約半分を占めると推計され、消費動向を考える際に、高齢

層は無視できない存在となっている。

図表Ⅱ- 6:マクロ経済での消費に占める高齢層(60 代以上)の割合の推移

44.849.7 50.0

55.250.3 50.0

0%

10%

20%

30%

40%

50%

60%

70%

80%

90%

100%

2010

2015 2016

(図表3)

(注) 国民経済計算の家計最終消費支出額(除く持ち家の帰属家賃)を当該年の家計調査の年齢階級別

消費支出額規模(1世帯当たりの消費支出額×世帯数分布)の比率で按分して推計。

持ち家の帰属家賃を平成25年住宅・土地統計調査の住宅所有世帯比率(年齢階級別)を基に推計。

(出所)総務省統計局「家計調査(総世帯)」、内閣府「国民経済計算」、総務省「平成25年住宅・土地統計調査」

世帯主が

50代以下

の世帯

高齢者

世帯

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世帯構成の変化に関して、世帯数が増える中での世帯人員の減少も留意する

必要がある。具体的には、3人以上の家族がいる世帯の占める比率が、2002 年

の約 46%から 2016 年には約 38%へと低下する一方、単身世帯の比率は 2002

年の約 28%から 2016 年には約 32%へ上昇している。単身世帯の増加に大きく

寄与したのは高齢層であり、単身世帯の半数を占めている。

図表Ⅱ- 7:全世帯に占める単身世帯の比率の推移

このように、現役世代の賃金引上げの恩恵が及びにくい高齢者世帯の増加、

あるいは単身世帯の増加をはじめとする世帯人員の減少といった世帯構成の変

化は、従前に比べ、消費規模が構造的に増えにくい背景となっている可能性が

示唆される。

27.5%

32.3%

11.1%

17.7%

5.0%

10.0%

15.0%

20.0%

25.0%

30.0%

35.0%

2002

03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16

単身世帯比率(全体) うち60歳以上の占める比率

(出所)総務省「家計調査(家計収支編)」より経団連事務局作成

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次に注目すべき経済社会の構造変化は、現役世代の収入・所得面に大きな影

響を与える雇用形態の変化である。

非正規雇用者の比率3は、2002 年の約 25%から、リーマンショックを挟む 14

年間で、2016 年には約 38%まで上昇している。

図表Ⅱ- 8:非正規雇用者の比率の推移

なお、44 歳以下の若年世代は、足もとでの雇用環境の大幅な改善を受け、非

正規雇用者の比率の上昇が止まり、低下する動きが見られる。

ただし、正社員として働く機会がないため、非正規雇用で働く、いわゆる不

本意非正規4は、依然として、非正規雇用者の約 15%にあたる 300 万人程度存

在する。

3 総務省「労働力調査」では、「役職を除く雇用者数」に占める「非正規の職員・従業

員」の比率を指す。 4 不本意非正規:現職の雇用形態(非正規雇用)についた主な理由が「正規の職員・

従業員の仕事がないから」と回答した者。なお、非正規雇用は、勤め先での呼称が

「パート」、「アルバイト」、「労働者派遣事業所の派遣社員」、「契約社員」、「嘱託」、

「その他」である者を指す。

29.4%

37.5%

20.5%

26.4%24.7%

29.3%

49.3%

55.9%

35.0%

40.0%

45.0%

50.0%

55.0%

20.0%

25.0%

30.0%

35.0%

40.0%

2002

03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16

全体 25~34歳 35~44歳 女性(全年齢、右軸)

(注)非正規雇用者比率=非正規の職員・従業員/役員を除く雇用者(出所)総務省「労働力調査」

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また、正社員と非正規雇用者の賃金格差(時給ベース)は、年齢とともに拡

大している。

図表Ⅱ- 9:正社員と非正規雇用者の賃金格差(時給ベース)

こうしたデータからは、家族形成期にある層の一部は、希望する職業に就く

ことが出来ず、所得・雇用不安を強く感じていることが示唆される。

また、非正規雇用者に関しては、女性における比率の高さへの留意も必要で

ある。女性の非正規雇用者の内訳を勤め先の呼称別で見ると、「パート」が6割

強を占めている。女性の雇用者が増えること自体、女性の活躍推進というポジ

ティブな側面がある。

一方で、男性に比べ、女性の非正規雇用者の比率が高いのは、世帯主の賃金

が大きく伸びない中での世帯収入を維持するための短時間就労をしていること、

あるいは「男性は仕事、女性は家事」という性別に基づく役割分担意識が根強

いために、家事の大半を担う女性が限られた時間での勤務形態を選択する傾向

が依然として根強いことがうかがわれる。

500

1,000

1,500

2,000

2,500

~19歳 20~

24歳

25~

29歳

30~

34歳

35~

39歳

40~

44歳

45~

49歳

50~

54歳

55~

59歳

60~

64歳

65~

69歳

70歳~

正社員(短時間勤務を除く) 非正規社員(フルタイム)

非正規社員(短時間勤務)

(円)

(注1)1時間あたり所定内賃金=所定内給与額/所定内実労働時間

(注2)正社員は統計表上「正社員・正職員」に、非正規雇用者は「正社員・正職員以外」に該当

(出所)厚生労働省「平成28年賃金構造基本統計調査」

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図表Ⅱ- 10:女性の非正規雇用者の呼称別内訳人数の比較(2002 年と 2016 年)

655872

1,021

1,373

0

200

400

600

800

1,000

1,200

1,400

1,600

2002

2016

その他

契約社員・

嘱託派遣社員

アルバイト

パート

(万人)

(注)非正規労働者を勤め先の呼称である「パート」、「アルバイト」、

「労働者派遣事業者の派遣社員」、「契約社員・嘱託」、「その他」別に集計したもの

(出所)総務省「労働力調査(詳細集計)」より経団連事務局作成

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次に、高齢層の雇用者数の動向について、確認する。

60~64 歳の雇用者数は、2010 年頃まで増加傾向にあったが、2013 年4月の

改正高齢者雇用安定法5の施行前後から、横ばいで推移している。また、65 歳

以上の雇用者数は、2010 年代に入ってから顕著に増えており、「パート」に従

事する者が約4割を占めている。

図表Ⅱ- 11- 1:60~64 歳の雇用者数の推移

図表Ⅱ- 11- 2: 65 歳以上の雇用者数の推移

5 同法第9条では、定年年齢を 65 歳未満に定めている事業主は、その雇用する高年齢

者の 65 歳までの安定した雇用を確保するため、「65 歳までの定年の引上げ」「65 歳

までの継続雇用制度の導入」「定年の廃止」のいずれかの措置(高年齢者雇用確保措

置)を実施する必要があるとされている。このうち「継続雇用制度」については、

法改正を受け、2013 年度以降、希望者全員を対象とすることが必要となっている。

39

150153 158146

160182

209224

235 237 242260

286

321

360

400

0

50

100

150

200

250

300

350

400

2002

03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16

その他

契約社員・

嘱託

派遣社員

アルバイト

パート

正社員

(万人)

(注)非正規労働者を勤め先の呼称である「パート」、「アルバイト」、

「労働者派遣事業者の派遣社員」、「契約社員・嘱託」、「その他」別に集計したもの

(出所)総務省「労働力調査(詳細集計)」より経団連事務局作成

234 232

264 264 255

298

333351

378

411 408 407 399 392 394

0

50

100

150

200

250

300

350

400

450

2002

03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16

(万人)

(注)正社員は統計表上「正社員・正職員」に、非正規雇用者は「正社員・正職員以外」に該当

(出所)総務省「労働力調査(詳細集計)」より経団連事務局作成

正社員

非正規

雇用者

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3.世代別に見た消費をめぐる動向

以下、消費をめぐる動向について、現役世代と高齢層に分けて、見ていく。

(1)現役世代

1点目は、所得の動向である。2000 年以降、勤労者世帯の勤め先収入と可処

分所得は実質、名目ともに減少傾向にある。足もとでようやく横ばいから微増

の動きが見られるが6、2000 年時の水準の回復には到達していない。

図表Ⅱ- 12:勤労者世帯の所得状況

6 経団連「経営労働政策特別委員会報告 2017 年版」では、2013年以降、多くの企業が

賃金引上げを継続しているものの、社会保険料負担の増大により、その効果が減殺

されていることを指摘している。

(注)勤労者世帯は、総務省統計局「家計調査」における「二人以上勤労者世帯」に該当(出所)ニッセイ基礎研究所「消費動向の分析ならびに消費喚起策に関する委託調査」中間報告書

(総務省統計局「家計調査」および「消費者物価指数」より作成)

400

500

600

2000 2002 2004 2006 2008 2010 2012 2014 2016

勤め先収入(実質)

勤め先収入(名目)

可処分所得(実質)

可処分所得(名目)

(千円)

400

500

600

2012 2013 2014 2015 2016

勤め先収入(実質)

勤め先収入(名目)

可処分所得(実質)

可処分所得(名目)

(千円)

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また、1999 年と 2014 年の2時点で比較した、60 歳未満の世帯年収の構成比

は、800 万円以上の比率が低下する一方、500 万円未満の比率が高まっており、

下方にシフトしている。

図表Ⅱ- 13:現役世代の年収階級別構成比の比較(1999 年と 2014 年)

こうした世帯年収の下方シフトの要因の1つとして、図表Ⅱ-8、9で確認

した通り、賃金水準の低い非正規雇用者の増加、そして正社員と非正規雇用者

の賃金格差(時給ベース)が年齢とともに拡大していくことが挙げられる。

加えて、大学・大学院卒の一般労働者7の賃金カーブ(年収ベース)を見ると、

団塊世代(2015 年時点で 65~69 歳)から氷河期世代(2015 年時点で 35~39

歳)にかけて、若い世代ほど全般的にフラット化している。これも世帯年収の

下方シフトに影響を与えているものと推測される。

具体的な数字を見ると、30~34 歳の年収をバブル世代と氷河期世代で比較す

ると、男性が約 60 万円、女性が約 72 万円、それぞれ落ち込んでいる。この数

字をベースに、35 歳前後の 10 年間の累積年収を推計すると、氷河期世代はバ

ブル世代に比べ、約 600 万円減少している。

7 短時間労働者以外の常用労働者を指す。なお、一般労働者には、正社員・正職員に

該当しない者も含まれている。

0.0%

5.0%

10.0%

15.0%

20.0%

25.0%

30.0%

~200 200~

300

300~

400

400~

500

500~

600

600~

800

800~

1000

1000~

1250

1250~

1500

1500~

1999年 2014年

【現役世帯(60歳未満)】

(注)二人以上世帯

(出所)総務省「全国消費実態調査」より、経団連事務局作成

(万円)

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15

図表Ⅱ- 14:一般労働者の世代別の賃金カーブ(年収ベース)の比較(2015 年時点)

2点目は、消費支出の動向である。

2000 年以降、勤労者世帯の消費支出は、実質、名目ともに減少傾向にあり、

足もとでも、前述した収入の下げ止まり傾向に反し、実質、名目ともに減少傾

向に歯止めがかかっていない。

図表Ⅱ- 15:勤労者世帯の消費支出の推移

200.0

300.0

400.0

500.0

600.0

700.0

800.0

900.0

1,000.0

20~

24歳

25~

29歳

30~

34歳

35~

39歳

40~

44歳

45~

49歳

50~

54歳

55~

59歳

団塊世代(65-69歳)

バブル世代(45-49歳)

団塊Jr世代(40-44歳)

氷河期世代(35-39歳)

(万円) 【男性】

▲60.0万円

200.0

250.0

300.0

350.0

400.0

450.0

500.0

550.0

600.0

650.0

700.0

20~

24歳

25~

29歳

30~

34歳

35~

39歳

40~

44歳

45~

49歳

50~

54歳

55~

59歳

団塊世代(65-69歳)

バブル世代(45-49歳)

団塊Jr世代(40-44歳)

氷河期世代(35-39歳)

(万円) 【女性】

▲72.0万円

(注1)大学・大学院卒の一般労働者を対象

(注2)年収=所定内給与(年収換算)+年間賞与その他特別給与額として計算

(出所)厚生労働省「賃金構造基本統計調査」

(注)勤労者世帯は、総務省統計局「家計調査」における「二人以上勤労者世帯」に該当(出所)ニッセイ基礎研究所「消費動向の分析ならびに消費喚起策に関する委託調査」

(総務省統計局「家計調査」および「消費者物価指数」より作成)

200

300

400

2000 2002 2004 2006 2008 2010 2012 2014 2016

消費支出(実質)

消費支出(名目)

(千円)

200

300

400

2012 2013 2014 2015 2016

消費支出(実質)

消費支出(名目)

(千円)

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16

3点目は、貯蓄純増(フロー)の動向である。2000 年以降、減少傾向が続い

ていたが、2009 年を底として増加傾向に転じ、足もとでも、実質、名目ともに

増加が続いている

図表Ⅱ- 16:勤労者世帯の貯蓄純増の推移

4点目は、家族形成、子育てに関する費用の動向である。初等中等教育と比

べて、就学前教育と高等教育の家計負担は、主要先進国と比較しても大きい。

図表Ⅱ- 17:教育費の公費・私費負担割合の国際比較

特に、高校卒業後の入学先別に見た卒業までに必要な入学と在学時を合わせ

た平均的な費用の累計は、国公立大学で約 485 万円、私立大学の理系では約 880

万円となる。図表Ⅱ-12 で示した通り、勤労者世帯の可処分所得(名目)が月

間 40 万台前半であることに鑑みれば、私費負担の規模が相対的に大きくなって

いる。

81.6

80.4

93.7

76.9

70.1

45.4

18.7

19.6

6.3

23.1

29.9

54.6

0 20 40 60 80 100

OECD

平均

ドイツ

フランス

英国

米国

日本

公費 私費

91.3

86.8

90.7

83.9

92.1

92.7

8.7

13.2

9.3

16.1

7.9

7.3

0 20 40 60 80 100

OECD

平均

ドイツ

フランス

英国

米国

日本

公費 私費

69.8

85.6

78.9

57.3

36.3

35.2

30.2

14.4

21.1

42.7

63.7

64.8

0 20 40 60 80 100

OECD

平均

ドイツ

フランス

英国

米国

日本

公費 私費

【就学前教育】 【初等中等教育】 【高等教育】

(注)就学前教育は、2011年、初等中等教育ならびに高等教育は2013年のデータ

(出所)OECD「図表で見る教育」(2014年、2016年)

(%)

0

20

40

60

80

100

2000 2002 2004 2006 2008 2010 2012 2014 2016

貯蓄純増(実質)

貯蓄純増(名目)

(千円)

(注)勤労者世帯は、総務省統計局「家計調査」における「二人以上勤労者世帯」に該当(出所)ニッセイ基礎研究所「消費動向の分析ならびに消費喚起策に関する委託調査」

(総務省統計局「家計調査」および「消費者物価指数」より作成)

0

20

40

60

80

100

2012 2013 2014 2015 2016

貯蓄純増(実質)

貯蓄純増(名目)

(千円)

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17

図表Ⅱ- 18:高校卒業後の入学先別にみた卒業までに必要な入在学費用

(子供1人当たりの費用(年間平均額の累計))

62.5 78.3 79.7 95.9120.1

242.2312.6

405.2

599.2

759.6

304.7

390.9

484.9

695.1

879.7

0.0

100.0

200.0

300.0

400.0

500.0

600.0

700.0

800.0

900.0

1,000.0

高専・専修

・各種学校

私立

短大

国公立

大学

私立

大学文系

私立

大学理系

在学費用

入学費用

(万円)

(注)高専・専修・各種学校、私立短大は、修業年限を2年として算出されている。

(出所)日本政策金融公庫「教育費負担の実態調査結果(平成28年度)」

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18

5点目は、平日1日あたりの仕事関連の拘束時間の動向である。男性及び独

身期の女性では、平均 10 時間程度にのぼる。さらに既婚者について、男性は殆

どのライフステージにおいても 10 時間以上、フルタイム同士の世帯では、女性

の仕事関連の拘束時間は9時間を超える。

図表Ⅱ- 19:平日1日あたりの仕事関連の拘束時間の動向

また、夫婦間での家事分担についても、女性に負担が偏っている。世帯類型、

妻の就労形態に関わらず、男性の家事参加時間は平日1時間程度と極めて少な

く、日曜は 1.5~2時間程度に留まっている。こうしたデータは、性別に基づ

く役割分担意識が根強く残っていることを示唆している。

11.0

10.7

9.8

11.2

11.4

11.4

11.2

11.4

11.9

9.6

6.5

4.9

9.1

6.1

3.2

9.1

6.3

2.7

0 2 4 6 8 10 12

フルタイム同士

夫フルタイム・妻短時間

専業主婦世帯

フルタイム同士

夫フルタイム・妻短時間

専業主婦世帯

フルタイム同士

夫フルタイム・妻短時間

専業主婦世帯

フルタイム同士

夫フルタイム・妻短時間

専業主婦世帯

フルタイム同士

夫フルタイム・妻短時間

専業主婦世帯

フルタイム同士

夫フルタイム・妻短時間

専業主婦世帯

仕事

通勤

男性

女性

夫婦のみ世帯

夫婦と子世帯

うち末子就学前

夫婦のみ世帯

夫婦と子世帯

うち末子就学前

(出所)ニッセイ基礎研究所「消費動向の分析ならびに消費喚起策に関する委託調査」

(総務省統計局「平成23年 社会生活基本調査(オーダーメイド集計)」より作成)

10.6

10.0

11.5

11.5

9.6

7.9

7.5

7.5

0 2 4 6 8 10 12 14

独身期

子供のいない夫

子育て期の夫

うち末子就学前

独身期

子供のいない妻

子育て期の妻

うち末子就学前 仕事

通勤

男性

女性

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19

図表Ⅱ- 20:性別での家事参加時間の動向

55

57

90

72

67

72

71

65

64

123

193

281

174

246

308

164

213

267

102

90

101

109

100

96

100

89

85

186

190

230

219

231

251

196

197

227

0 60 120 180 240 300 360

フルタイム同士

夫フルタイム・妻短時間

専業主婦世帯

フルタイム同士

夫フルタイム・妻短時間

専業主婦世帯

フルタイム同士

夫フルタイム・妻短時間

専業主婦世帯

フルタイム同士

夫フルタイム・妻短時間

専業主婦世帯

フルタイム同士

夫フルタイム・妻短時間

専業主婦世帯

フルタイム同士

夫フルタイム・妻短時間

専業主婦世帯平日日曜

男性

女性

夫婦のみ世帯

夫婦と子世帯

うち末子就学前

夫婦のみ世帯

夫婦と子世帯

うち末子就学前

(出所)ニッセイ基礎研究所「消費動向の分析ならびに消費喚起策に関する委託調査」(総務省統計局「平成23年 社会生活基本調査」より作成)

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20

6点目は、消費に関するマインド面の動向である。

まず、若年層の価値観の変化について確認する。

三菱総合研究所の「生活者市場予測システム(mif)」を利用した調査(2011

年と 2016 年を比較)によれば、20 代、30 代の男性、女性ともに、消費に消極

的な層が拡大する一方、消費に積極的な層が縮小している。

図表Ⅱ- 21:若年層の価値観の変化

20代

30代

男性

20代

30代

女性

積極派無気力・あきらめ派

2011年 22 19

差 -8 +17

2016年 14 36

2011年 18 18

差 -7 +15

2016年 11 33

2011年 19 11

差 -6 +10

2016年 13 21

2011年 16 10

差 -5 +9

2016年 10 18

(単位:%)

(注)積極派:基本的にどの価値意識も高く、消費にも積極的なタイプ無気力・あきらめ派:どの価値観も低めで、特に健康で安全な暮らし、伝統、快楽についての意識が低いタイプ

(出所)(株)三菱総合研究所・生活者市場予測システム(mif)

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21

次に、消費マインドに影響を与える生活不安を見ると、委託調査で実施した

アンケート結果では、20~40 代では、低所得層を中心に、社会保障制度に対す

る不安よりも、所得・雇用に対する不安が強い傾向が見られる。

これに対し、50 代の場合、一部の高所得層を除き、社会保障制度に対する不

安が全般的に強い。

図表Ⅱ- 22- 1:世帯年収別に見た社会保障制度、所得・雇用に対する不安の状況

図表Ⅱ- 22- 2:世帯年収別に見た社会保障制度、所得・雇用に対する不安の状況

-0.6

-0.4

-0.2

0

0.2

0.4

0.6

0.8

1

100

万円

未満

(n=21)

100~

200

万円

未満

(n=61)

200~

400

万円

未満

(n=423)

400~

600

万円

未満

(n=622)

600~

800

万円

未満

(n=385)

800~

1000

万円

未満

(n=153)

1000~

1500

万円

未満

(n=108)

1500

万円

以上

(n=25)

社会保障制度不安

所得・雇用不安

-0.6

-0.4

-0.2

0

0.2

0.4

0.6

0.8

100

万円

未満

(n=96)

100~

200

万円

未満

(n=100)

200~

400

万円

未満

(n=474)

400~

600

万円

未満

(n=441)

600~

800

万円

未満

(n=198)

800~

1000

万円

未満

(n=130)

1000~

1500

万円

未満

(n=100)

1500

万円

以上

(n=49)

社会保障制度不安

所得・雇用不安

(注1)調査対象:全国20~79歳の男女個人、回答目標数:10,000サンプル、調査実施時期:2017年4月6日~13日(注2)「社会保障制度不安」、「所得・雇用不安」の数字は、全体と比べた時の相対的な不安の強弱を示したもの(出所)ニッセイ基礎研究所「消費動向の分析ならびに消費喚起策に関する委託調査」中間報告書

((株)マクロミル「家計消費と生活不安に関する調査」(ニッセイ基礎研究所委託)を基にした分析)

相対的に不安強

相対的に不安弱

【20代】

相対的に不安強

相対的に不安弱

【30代】

-0.6

-0.4

-0.2

0

0.2

0.4

0.6

0.8

100

万円

未満

(n=39)

100~

200

万円

未満

(n=86)

200~

400

万円

未満

(n=230)

400~

600

万円

未満

(n=353)

600~

800

万円

未満

(n=354)

800~

1000

万円

未満

(n=321)

1000~

1500

万円

未満

(n=266)

1500

万円

以上

(n=94)

社会保障制度不安

所得・雇用不安

-0.8

-0.6

-0.4

-0.2

0

0.2

0.4

0.6

0.8

100

万円

未満

(n=30)

100~

200

万円

未満

(n=93)

200~

400

万円

未満

(n=368)

400~

600

万円

未満

(n=452)

600~

800

万円

未満

(n=389)

800~

1000

万円

未満

(n=261)

1000~

1500

万円

未満

(n=173)

1500

万円

以上

(n=37)

社会保障制度不安

所得・雇用不安

(注1)調査対象:全国20~79歳の男女個人、回答目標数:10,000サンプル、調査実施時期:2017年4月6日~13日(注2)「社会保障制度不安」、「所得・雇用不安」の数字は、全体と比べた時の相対的な不安の強弱を示したもの(出所)ニッセイ基礎研究所「消費動向の分析ならびに消費喚起策に関する委託調査」

((株)マクロミル「家計消費と生活不安に関する調査」(ニッセイ基礎研究所委託)を基にした分析)

相対的に不安強

相対的に不安弱

【40代】

相対的に不安強

相対的に不安弱

【50代】

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22

(2)高齢層

まず、収入面の状況について、図表Ⅱ-10 で示した現役世代と同様、高齢層

(60 歳以上)の世帯年収の構成比を 1999 年と 2014 年の2時点で比較すると、

高い層の比率が低下する一方、低い層の比率が高まっている。

図表Ⅱ- 23:高齢世帯(60 歳以上)の年収階級別構成比の比較(1999 年と 2014 年)

また、就業率が大きく低下し、主に年金収入に頼る 70 歳以上の高齢無職世帯

の可処分所得は、名目、実質ともに 2012 年以降減少傾向にある。

図表Ⅱ- 24:高齢無職世帯の可処分所得の足もとにかけての推移(2012~2015 年)

0.0%

5.0%

10.0%

15.0%

20.0%

25.0%

~200 200~

300

300~

400

400~

500

500~

600

600~

800

800~

1000

1000~

1250

1250~

1500

1500~

1999年 2014年

【高齢世帯(60歳以上)】

(注)二人以上世帯

(出所)総務省「全国消費実態調査」より、経団連事務局作成

(万円)

204 195 199

190 183 181 181 181

0

50

100

150

200

250

70歳以上(実質) 70歳以上(名目)

(千円)

2012 2013 2014 2015 2012 2013 2014 2015

70歳以上(実質) 70歳以上(名目)

(出所)ニッセイ基礎研究所「消費動向の分析ならびに消費喚起策に関する委託調査」(総務省統計局「家計調査」および「消費者物価指数」より作成)

Page 23: 一般社団法人 日本経済団体連合会1 経済政策部会報告書 「個人消費低迷の分析と今後の対応」 2017年 1 0月23日 一般社団法人日本経済団体連合会

23

2点目は、ストック面(保有資産)の動向である。

高齢層の貯蓄現在高は、現役世代を大きく上回っている。

図表Ⅱ- 25:二人以上世帯での年齢階級別に見た貯蓄現在高、負債現在高、年間収入の動向

特に、高齢層の中でも、70 歳以上の貯蓄現在高の保有比率は、2002 年の約

22%から 2016 年の約 38%へと大きく高まっている。

図表Ⅱ- 26:二人以上世帯の貯蓄現在高の年齢階級別の保有比率の比較(2002年と 2016年)

0.8% 0.3%

6.7% 3.7%

12.8%

10.6%

26.6%

17.0%

30.8%

30.4%

22.4%

38.1%

0.0%

10.0%

20.0%

30.0%

40.0%

50.0%

60.0%

70.0%

80.0%

90.0%

100.0%

2002年 2016年29歳以下 30~39歳 40~49歳 50~59歳 60~69歳 70歳以上

53.2%

68.5%

(注)二人以上の世帯

(出所)総務省「家計調査(貯蓄・負債編)」より、経団連事務局作成

301620

1,065

1,802

2,3122,446

-542

-1,191-1,047

-591-220

-90

487632

733846

564

441

-1,300

-800

-300

200

700

1,200

1,700

2,200

29歳以下 30~39歳 40~49歳 50~59歳 60~69歳 70歳以上

貯蓄 負債 年間収入(注)二人以上の世帯

(出所)総務省「家計調査(貯蓄・負債編)」より、経団連事務局作成

全世帯平均

1,820万円

(万円)

Page 24: 一般社団法人 日本経済団体連合会1 経済政策部会報告書 「個人消費低迷の分析と今後の対応」 2017年 1 0月23日 一般社団法人日本経済団体連合会

24

金融資産以外のストック面について、住宅を所有する約 2,700 万世帯のうち、

60 歳以上の高齢層が、約5割強の約 1,500 万世帯を占める。

図表Ⅱ- 27:家計主の年齢階級別に見た、住宅を所有している世帯数(全国、2013 年)

3点目は、消費支出の動向である。高齢層で特徴的なのは、主に年金収入に

頼る 70 歳以上の高齢無職世帯において、有価証券の保有/非保有で傾向に違い

が見られる点である。

具体的には、有価証券を保有する世帯の消費支出額は、非保有世帯を1ヶ月

あたり約6~9万円程度上回っている。2012 年から 2015 年の3年間の動向を

見ると、有価証券を保有する世帯は消費支出の下げ止まりが見られる一方、非

保有世帯では減少傾向が続いている。

19.4

204.4

434.6

547.3

713.7

791.5

0

100

200

300

400

500

600

700

800

900

29歳未満 30~39 40~49 50~59 60~69 70歳以上

住宅を所有している世帯数

(単位:万世帯)

(注)以上の数字は総数であり、内訳は「現住居を所有している世帯」と

「現住居以外の住宅を所有している世帯」である。

(出所)総務省「平成25年住宅・土地統計調査」

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25

図表Ⅱ- 28:高齢無職世帯の消費支出(月間)の足もとにかけての推移(2012~2015 年)

4点目は、消費に影響を与えるマインド面の動向である。

まず、生活不安に関して、委託調査で行ったアンケート結果を見ると、若年

世代と大きく異なるのは、年収の多寡に関わらず、社会保障制度に対する不安

が所得・雇用に対する不安に比べて、強いことである。

図表Ⅱ- 29:世帯年収別に見た社会保障制度、所得・雇用に対する不安の状況

307

226

295

236

288

222

304

218

0

200

400

70歳以上

(保有)

70歳以上

(非保有)

(千円)

2012 2013 2014 2015 2012 2013 2014 2015

70歳以上 70歳以上(保有) (非保有)

(出所)ニッセイ基礎研究所「消費動向の分析ならびに消費喚起策に関する委託調査」(総務省統計局「家計調査」および「消費者物価指数」より作成)

(注1)調査対象:全国20~79歳の男女個人、回答目標数:10,000サンプル、調査実施時期:2017年4月6日~13日(注2)「社会保障制度不安」、「所得・雇用不安」の数字は、全体と比べた時の相対的な不安の強弱を示したもの(出所)ニッセイ基礎研究所「消費動向の分析ならびに消費喚起策に関する委託調査」中間報告書

((株)マクロミル「家計消費と生活不安に関する調査」(ニッセイ基礎研究所委託)を基にした分析)

-1.2

-1

-0.8

-0.6

-0.4

-0.2

0

0.2

0.4

0.6

0.8

100

万円

未満

(n=36)

100~

200

万円

未満

(n=117)

200~

400

万円

未満

(n=416)

400~

600

万円

未満

(n=316)

600~

800

万円

未満

(n=207)

800~

1000

万円

未満

(n=115)

1000~

1500

万円

未満

(n=89)

1500

万円

以上

(n=39)

社会保障制度不安

所得・雇用不安

【60代】

相対的に不安強

相対的に不安弱

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次に、今後もお金をかけていきたい分野について、若年層は貯金が多いのに

対して、60 代、70 代は旅行や医療費(予防を含む)が突出している。

図表Ⅱ- 30:今後もお金をかけていきたい分野についての回答状況

なお、博報堂の調査分析によれば、50~60 代の中高年において、従来の静か

に余生を送るイメージとは異なり、今後の人生で新しいライフスタイルを創っ

ていきたいとする回答が約9割にのぼっている。

また、従来の中高年と比べて、「年相応にならない」、「若さ」、「新しいものや

コトに敏感」という点で異なる意識が高いことも注目される。

図表Ⅱ- 31:「中高年が従来の 50、60 代と異なると考えている点」に係る

調査で男性、女性ともに回答率の高かった主な項目

年相応に

ならない

若さ

新しいものや

コトに敏感

いつまでも

未成熟感が残る

常識にとらわれ

ない

男性 1,121 31.7 27.0 23.6 26.3 22.3

女性 1,179 40.5 34.9 31.7 27.7 24.2

60代 772 36.8 30.6 31.5 21.1 28.6

50代 767 37.8 33.9 29.1 26.6 21.4

性別

年代

(注)性別で示している人数は、40代を含んでおり、参考値として掲載している。(出所)博報堂新しい大人文化研究所「新大人研レポートNo.17『新大人はこれまでと違う新型50・60代』」より、    経団連事務局にて一部改変。

0%

10%

20%

30%

40%

50%

男性

女性

60代

50代

0 10 20 30 40 50

貯金[35.7%]

旅行[35.4%]

趣味[32.5%]

老後準備[26.8%]

ふだんの食事[23.6%]

健康・リラックス[20.8%]

レジャー費[19.9%]

外食[18.9%]

子供の教育費[17.2%]

医療費(予防含む)[16.1%]

投資[14.9%]

自分の教養・勉強[14.3%]

交際費[14.1%]

0 10 20 30 40 50

外出着[12.1%]

美容・理容[11.9%]

家電品[9.3%]

自動車[9.1%]

ふだん着[8.5%]

装飾品・ファッション小物

[7.9%]

住居設備費[6.9%]

贈答費[6.5%]

通信費[5.2%]

冠婚葬祭[3.1%]

お中元・お歳暮[3%]

その他[1.5%]

かけていきたいものはない

[8.7%]

20代(n=2058)

30代(n=2061)

40代(n=2061)

50代(n=2061)

60代(n=1683)

70代(n=381)

(注)調査対象:全国20~79歳の男女個人、回答目標数:10,000サンプル、調査実施時期:2017年4月6日~13日(出所)ニッセイ基礎研究所「消費動向の分析ならびに消費喚起策に関する委託調査」((株)マクロミル「家計消費と生活不安に関する調査」(ニッセイ基礎研究所委託)を基にした分析)

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27

心理面での変化と併せて、身体面においても、健康で活力のある高齢層(65

~79 歳)が着実に増えている。

こうした中高年の心理面や健康面の変化の実態を機敏に捉えることが、消費

喚起を考える上でも重要であろう。

図表Ⅱ- 32:高齢層(65~74 歳)の新体力テストの合計点の年

34.0

35.0

36.0

37.0

38.0

39.0

40.0

41.0

42.0

43.0

2000

年度

01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15

65~69歳 男性 65~69歳 女性

70~74歳 男性 70~74歳 女性(注1)合計点は、新体力テスト実施要項「項目別得点表」による。(注2)得点基準は、男女により異なる。(出所)スポーツ庁「平成27年度体力・運動能力調査」

(単位:点)

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Ⅲ.個人消費低迷への今後の対応

Ⅱ.個人消費に関する現状分析で指摘した種々の構造変化を踏まえると、今

後、個人消費が持続的かつ自律的に拡大していくためには、時間軸に留意しつ

つ、以下の3つの方向性に沿って、取り組みを進めていくことが必要である。

1. 世帯ベースでの生涯所得の底上げ

2. 消費意欲の一層の刺激

3. 上記2つを進める上で、その側面支援に資する環境整備

以下、上記の具体的な方向性に沿って、経済政策部会の議論を通じて、提起

した各種施策を示す。なお、今後の対応の全体像は図表Ⅲ-1の通りである。

図表Ⅲ- 1:個人消費低迷への今後の対応の概要

1.世帯ベースでの生涯所得の底上げ 2.消費意欲の一層の刺激

現役世代

• 生産性向上と企業収益の拡大を通じた賃金水準そのものの底上げ

• 意欲と能力のある非正規雇用者の雇用の質の向上

• 非正規雇用者の処遇改善の着実な推進• 子育て、教育、介護に関する経済的負担と

将来不安の軽減(就学前教育の無償化の推進と

給付型奨学金の充実、介護離職予防に向けた職場づくり等)

• 人材投資の拡充(職業訓練、リカレント教育等の充実)

• より豊かでゆとりのあるライフスタイルの構築に資する商品・サービスの創出(時短用家電等)

• 個々人の価値観、嗜好に即したきめ細かな商品・サービスの創出・提供(健康サービス等)

• 国内観光・旅行消費の活性化

高齢層

• 働く意欲と能力のある高齢者の就労促進• 保有金融資産、非流動資産の活用

• 買い物、家事行為の負担軽減に資するサービスの種類の拡大及び質の向上(家事代行サービスの振興等)

• 国内観光・旅行消費の活性化(ユニバーサルデザイン化の推進等を含む)

• 住み換え、リフォーム需要への対応• 個々人の価値観、嗜好に即したきめ細か

な商品・サービスの提供(予防サービス等)

3.個人消費喚起を側面支援する環境整備

政府による取り組み 企業による取り組み

• 政策の予見性の向上(期待成長率の向上と社会保障制度の持続可能性の確保)

• セーフティネットの拡充と働きやすい環境の整備(仕事と子育ての両立支援)

• 子育て世帯に主眼を置いた、住宅取得への支援

• 高齢層から現役世代への資産の円滑な世代間移転の促進

• 将来の安心確保につながる自助努力に向けた環境整備

• 生産性向上と企業収益の拡大を通じた賃金水準そのものの底上げ【再掲】

• 意欲と能力のある非正規雇用者の雇用の質の向上【再掲】

• 働き方・休み方改革の加速• 将来の安心確保につながる自助努力を支

える環境整備・情報提供

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29

1.世帯ベースでの生涯所得の底上げ

<喚起策のねらい>

Ⅱ.個人消費に関する現状分析における重要な示唆の一つとして、現役世代

ならびに高齢層の世帯年収が過去 15 年間で全般的に低下していることが挙げ

られる。

個人消費を今後喚起するためには、世帯年収の更なる低下に歯止めをかける

とともに、生涯所得そのものを底上げし、活力ある中間層を育成することが重

要である。併せて、世代間の貧困の連鎖を断つ観点の施策が必要である。

まず、現役世代については、Society 5.0 の下での産業構造に対応した雇用

機会の確保はもとより、企業規模や収益環境とのバランス、生産性の向上等に

留意しつつ、賃金水準そのものの底上げ、雇用の質の向上を目指す必要がある。

併せて、子育て、教育、介護に関する経済的負担と将来不安の軽減を図ると

ともに、次世代の人的資本の蓄積が滞りなく行われるよう取り組むことが重要

である。

次に、高齢層に関しては、年金収入に加えて、生活不安を軽減することの出

来る収入の確保が重要である。このため、働く意欲と能力のある層の就労促進

とともに、保有するストック(金融資産、非流動資産)の有効活用を推進する

必要がある。

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30

(1)現役世代への対応

<具体的な施策>

① 生産性向上と企業収益の拡大を通じた賃金水準そのものの底上げ(最低

賃金の継続的な引上げを含む)

② 意欲と能力のある非正規雇用者の雇用の質の向上(意欲と能力のある不

本意非正規の正社員化を含む)

③ 正規雇用者と非正規雇用者の間の不合理な待遇差を是正する観点も含

め、非正規雇用者の処遇改善の着実な推進

④ 子育て、教育、介護に関する経済的負担と将来不安の軽減(就学前教育

の無償化の推進と給付型奨学金の充実、介護離職予防に向けた職場づく

り等)

⑤ 人材投資の拡充(職業訓練、リカレント教育等の充実)

(2)高齢層への対応

<具体的な施策>

① 働く意欲と能力のある高齢者の就労促進(企業による社内体制の変革、

労働市場全体での就労機会の確保)

② 保有金融資産の有効活用(老後の安心を支える保有金融資産の適切な管

理・運用のあり方についての検討等)

③ 保有非流動資産の活用(リバースモーゲージの普及促進のあり方につい

ての検討等)

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31

2.消費意欲の一層の刺激

<喚起策のねらい>

個人消費の喚起に向けて、「1.世帯ベースでの生涯所得の底上げ」で提示し

た世帯ベースでの生涯所得の底上げに加え、多様なライフスタイルやニーズに

即した潜在需要を掘り起こし、消費意欲を一層刺激することが求められる。

現役世代については、女性の活躍推進に加え、収入の伸び悩み、教育費等へ

の備えのため、共働き世帯が増加している。共働き世帯は、片働き世帯に比べ

家事に割くことの出来る時間に制約がある。こうした層の家事負担の軽減をは

じめとして、より豊かでゆとりのあるライフスタイルの構築に資する新たな商

品・サービスの創出を推進していくことが必要である。

また、高齢層については、今後も人数が増え、マクロでの消費に占める比率

が高まっていく見通しである。高齢層は、家族構成の変化、加齢に伴う身体的

な制約、疾病の罹患や要介護状態への移行等様々なリスクに直面し、多種多様

なニーズを有している。こうした潜在需要に即した商品・サービスを生み出し、

提供していくことが、高齢層の消費意欲の刺激に資するものと考えられる。

(1)現役世代への対応

<具体的な施策>

① より豊かでゆとりのあるライフスタイルの構築に資する商品・サービス

の創出(時短用家電や、家事代行サービスの普及促進等)

② 個々人の価値観、嗜好に即したきめ細かな商品・サービスの創出・提供

(ICT やデータの利活用を通じた、健康、予防、美容サービス等)

③ 国内観光・旅行消費の活性化(「キッズウィーク」等の取り組みと併せた、

更なる活性化のあり方についての検討等)

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32

(2)高齢層への対応

<具体的な施策>

① 買い物、家事行為の負担軽減に資するサービスの種類の拡大及び質の向

上(足もとで取り組みの進みつつある、移動困難な中山間地域における

自動運転サービス8の普及等や、公的介護保険が適用されない家事代行サ

ービスの振興ならびに併用のあり方についての検討等)

② 国内観光・旅行消費の活性化(バリアフリー化を含めた、インフラ、サ

ービス等のユニバーサルデザイン化の推進等)

③ 住み換え、リフォーム需要への対応(既存住宅の流通・リフォーム市場

の活性化等)

④ 個々人の価値観、嗜好に即したきめ細かな商品・サービスの創出・提供

(ICT やデータの利活用を通じた、健康、予防、美容サービス等)【再掲】

3.個人消費喚起を側面支援する環境整備

上記の取り組みと併せて、政府、企業それぞれが、以下の個人消費喚起の側

面支援に資する環境整備に取り組む必要がある。

(1)政府による取り組み

① 政策の予見性の向上

所得や雇用に対する不安が強い現役世代に向けては、生活水準の向上、「豊か

さ」の実感をもたらす中長期的な経済成長への期待を高めることが求められる。

また、比較的近い将来に疾病の罹患や、要介護、要支援状態に移行するリス

クの高まる高齢層に対しては、社会保障制度の持続可能性を確保し、不安を軽

減していくことが必要である。

8 国土交通省では、「中山間地域における道の駅等を拠点とした自動運転サービス」に

ついての平成 29 年度実証実験を実施しているところ(年度末に中間とりまとめがな

される見込み)。

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② セーフティネットの拡充と働きやすい環境の整備

現行では、社会保険(厚生年金保険、健康保険)の適用対象者は、労働時間

や賃金等に係る所定の要件を満たす必要がある。

非正規雇用者の多くは、社会保険に加入できず、十分にカバーされていない

状況に置かれている。また、女性に多い短時間労働者の中には、社会保険の適

用等を回避するため、就労調整を行うケースも見られる。

今後の方向性として、非正規雇用者に対する、より充実したセーフティネッ

トの提供や、女性の就労促進を妨げる制度の見直しを図る観点から、社会保険

の適用拡大を更に進めていくことが求められる。

また、乳幼児のいる共働きの子育て世帯にとっては、待機児童問題の解消が

喫緊の課題であり、子育てと仕事の両立支援の観点から、「子育て安心プラン9」

の着実な実行等に取り組む必要がある。

③ 子育て世帯を主眼に置いた、住宅取得への支援

住宅取得は、子育て、老後の備えと併せて、多額の支出を要する。また、住

宅取得に伴って、家具等の新規購入といった追加的な消費支出も行われる。

このため、住宅取得を後押しすることは、裾野の広い消費喚起に資するもの

である。

考えられる方策として、空き家等の流通・利活用ならびにリフォームの促進

を図るとともに、税制面では新築住宅に係わる固定資産税の減額措置の延長等

について検討することが必要である。

④ 高齢層から現役世代への資産の円滑な世代間移転の促進

資産のある高齢層が、現役世代(子や孫)の家族形成等を支援することが出

9 2017 年6月2日公表。時限を設定した上で、以下の取り組みが示されている。①2019

~2021 年度末:自治体を支援し、2年間で待機児童を解消するための約 22 万人分の

受け皿整備の予算を確保(遅くとも3年間で待機児童を解消)、②2018 年度~2022

年度末:女性就業率 80%に対応できる約 32 万人分の受け皿を整備。

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来るよう、例えば、結婚・子育て資金や、教育資金に係る贈与税特例の更なる

活用・拡充等、世代間移転を更に進めるための税制措置を検討する必要がある。

⑤ 将来の安心確保につながる自助努力に向けた環境整備

まず、NISA10、つみたてNISA11、ジュニアNISA12の恒久化・利便

性向上、確定拠出年金等の制度の更なる拡充について検討することが必要であ

る。また、自助努力を進める上でも、金融に対する正しい知識を持つことが重

要であり、安定的な資産形成に向けた金融教育の充実を図るべきである。

(2)企業による取り組み

① 生産性向上と企業収益の拡大を通じた賃金水準そのものの底上げ【再掲】

② 意欲と能力のある非正規雇用者の雇用の質の向上【再掲】

③ 働き方・休み方改革の加速

働き方・休み方改革に伴う長時間労働の是正や年休取得の促進等を通じて、

ワークライフバランスを確保することは、労働生産性を高め、働きやすい環境

を整える上で極めて重要である。併せて、働き方・休み方改革は、女性に偏り

がちな育児・家事への男性の積極的な参加を促す契機となるとともに、余暇時

間の創出に伴い個人消費の喚起にも資する意義ある取り組みである。

各企業において、経営トップのリーダーシップのもと、「働き方改革アクショ

ンプラン」の策定・公表を行う等、各種活動を積極的に展開すべきである。

10 少額投資非課税制度を指す。制度の期間は 2014~2023 年であり、非課税の投資枠は

年間 120 万円までで投資可能期間は5年間、最大投資額は総額 600 万円。運用益(売

却益、分配金、配当)が非課税。 11 制度の期間は 2018~2037 年であり、非課税投資枠は年間 40 万円までで投資可能期

間は 20 年間、最大投資額は総額 800 万円。運用益は NISA 同様非課税。 12 対象利用者は、国内居住の0~19 歳が対象利用者(運用管理者は利用者の二等身以

内の親族)であり、制度の期間は 2016 年~2023 年。非課税の投資枠は年間 80 万円

までで投資可能期間は5年間。運用益(売却益、分配金、配当)が非課税。

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35

④ 将来の安心確保につながる自助努力を支える環境整備・情報提供

将来の安心確保につながる自助努力の仕組みについて、現状では、十分活用

されているとは言いがたい。

そこで、例えば、企業型確定拠出年金における運用改善の取り組み(主に商

品提供数の見直し、商品の示し方の工夫、継続投資教育の実行)、つみたてNI

SAの従業員への周知等、従業員の資産形成の充実に向けた環境整備や情報提

供を積極的に進めることが求められる。これらの活用が進み、過度な将来不安

が軽減されれば、消費マインドの改善も期待出来るものと思われる。

Page 36: 一般社団法人 日本経済団体連合会1 経済政策部会報告書 「個人消費低迷の分析と今後の対応」 2017年 1 0月23日 一般社団法人日本経済団体連合会

36

Ⅳ.おわりに

Ⅲ.個人消費低迷への今後の対応で列挙した項目について、経団連の各政策

委員会で議論を更に深めていくことを期待する。また、既に取り組みを進めて

いるものについては、その一層の進捗を図る。

なお、体系的な分析においては、消費に積極的でない層が一定数存在するこ

とも確認された。消費をより前向きに行うことが出来るような社会的な機運の

醸成はもとより、いわゆる「コト消費」と「モノ消費」が相互に高まる好循環

を形成出来るよう、プレミアムフライデーの普及と定着に向けた取り組み、そ

して更なる方策について検討を深めていく。

最後に、人生 100 年時代という超長寿社会を展望すれば、国民一人ひとりが、

就労、家族形成、趣味等を通じて、自らの希望を最大限実現出来るようにする

ことが何よりも重要である。こうした中、各人が、何らかの形で社会との関わ

りを持ち続けることは、多様な消費機会に接することを意味する。

企業としても、国民が消費を通じて、より豊かな人生を送ることが出来るよ

う、新たな商品・サービスの創出に努めていく。併せて、今後も企業収益の拡

大、生産性の向上を通じて、賃金の引上げや投資の拡大に果敢に取り組み、経

済の好循環の更なる強化を図っていきたい。

以 上