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多配置 SCF法の新しい可能性
(九大院理)中野 晴之
CAS (complete active space)によらない一般のMC-SCF法の新しい可能性と適用例について発表する.CAS-SCF (Complete Active Space SCF)法は,反応過程の結合の組み換えを正しく記述すること,反応にともなう分子構造の変化に対して安定であること,size-consistent であることなどの特長から,化学反応のポテンシャル・エネルギー曲面の記述に際して,非常によく利用されている.しかしながら,しばしば指摘されるように,CI空間の次元は active軌道数に対し急速に増加し容易に計算の限界に達することから,適用範囲が限られてもいる.一方,CASに属しない一般のMC-SCF法は,SCFの収束が遅いこと,size-consistencyを満たさないことなどから,CAS-SCF法の蔭に隠れ,これまではあまり使われてはこなかった.しかしながら,近年の SCFの収束法の発展,計算機の速度向上により,SCFの収束の問題は大きく改善された.また,現在では,発表者らの開発した GMC-QDPTなどにより,一般の多配置波動関数を出発点として動的電子相関を取り入れ,化学的精度を得ることができるようにもなっており,多配置 SCF 法の新しい可能性がひろがりつつある.本発表では,(P+SD)-SCF法,あるいは,string-product space (SPS) SCF, occupation specified space (OSS) SCFなど,やや特殊なMC-SCF法を例に,多配置 SCF法の新しい可能性を考察する. 現在,さまざまな CI法の計算法が知られている.我々の general MC-SCFプログラムの CI
部分では,α-stringと β-stringの積からなる Slater行列式を基底として使用している.σベクトル( )の表式は, =σ Hc
( )
( )
,( )
( )
( )
( )
1 |2
|
I I I I J J J JJ J
pq pq I J pq I J J JJ J pq
pq rs I J pq rs I J J JJ J pqrs
pq pq J JJ J pqrs
H c
u I E J I E J c
pq rs I E E J I E E J c
pq rs I E J I E J c
α β α β α β α βα β
β β α α α βα β
β β α α α βα β
α βα β
α βα α β β
α α β βα α β β
α βα α β β
σ
δ δ
δ δ
=
= +
+ +
+
∑
∑ ∑
∑ ∑
∑ ∑
(1)
(ただし, (core1 |
2pq pq ru h pr rq= − ∑ )) (2)
で与えられる.MC-SCF 法においては,必要な 2 電子積分はすべてメモリー上に収納できること,また,coupling係数 pqI E J
αα α は string Jαに対する 1軌道置換のテーブル( pq rsI E E J
α αα α
は 1軌道置換を 2回繰り返すことに対応する)であるから,104次元以下程度の string空間に対しては,これらもメモリー上に収納できることから,stringをもとにすると,すべて,メモリー上で高速に計算できることがわかる.しかしながら,一方では,(Jα Jβ)は Jαと Jβに対する和が独立でなく Jαと Jβの組について和をとることを示し,それゆえ,一般のMC-SCFの場合には,Kroneckerの δがあっても,CASの場合のように和は簡約されず,二重和のまま残ってしまう. これまで,以下のようなMC-SCF法を試行してきた. 1.Quasi-complete active space (QCAS) SCF法 2.Parent configuration plus singles and doubles (P+SD) SCF法 3.Occupation specified space (OSS) SCF法 4.String product space (SPS) SCF法
1の QCASは CASの積空間として定義され,size-consistency,SCFのよい収束性など,CASの多くの特長を保持している.また,2の(P+SD)空間は,少数の親配置とその 1, 2電子励起配置からなり,他の空間と比べて小さい次元で極めてコンパクトに波動関数を表現することができる.3の OSSは,QCASの一般化にあたる空間で,QCASと同様に積空間として定義
bukka2Ta01
されるが,OSS を構成する空間のそれぞれは CAS である必要はない.size-consistency, 収束性の良さを失うが自由度はより増している. 4の string product space (SPS)は,昨年度の討論会でも発表したように[1],α-string空間 A
と β-string空間 B との積空間として定義される空間である. = ⊗P A B (3)
一般にA とB は complete ではないので,得られた波動関数は,size-consistency を満たさず,また,各軌道配置に対してすべてのスピン関数を含むわけではないので,S2 の固有関数である保証もない.波動関数の変分空間としては一種奇妙な空間であると言える.しかし,それ
でもなお SPSはいくつかの魅力的な特長を有している.一つは,α-string空間A と β-string空間B が独立であるため(1)式の和
( )J Jα βΣ は独立な和
J Jα βΣΣとなり,最後の項を除いて一重和
JαΣ (
JβΣ )
に簡約され,CASの場合と同様の効率のよい表式に帰着することであり,また,もう一つは,多重励起を部分的に含むので,例えば,結合の解離のよい記述が可能なことである. ここでは,三重結合の解離曲線の結
果について示す[2].三重結合の解離を記述するには,異核の場合には 3電子励起,等核の場合には 6電子励起が必要である.三重結合の異核 2原子分子の例として CO分子を,三重結合の等核 2 原子分子の例として N2分子を採用した. 図1は,CO 分子について,8 電子
13 軌道を用いて構成した SPS [Hartree-Fock(HF)配置を親配置として string内で 1,2電子励起], GMC(SD)空間 [HF(P)+SD], および,CAS による MC-SCF 法の結果を比べたものである.GMC(SD)-SCFが解離極限では大きく外れるのに対し,SPS-SCF はCAS-SCFの結果をよく再現していることがわかる.
-113.0
-112.9
-112.8
-112.7
-112.6
-112.5
-112.4
0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0 3.5
GMC(SD)-SCF
SPS-SCF
CAS-SCF
E / hartree
r(C-O) / Å図1
図2は,N2分子について,6電子12軌道を用いて構成したSPS [HF配置を親配置として string内で 1,2電子励起], SPS(L) [HF, (HOMO)2→(LUMO)2, (HOMO)2→(2nd LUMO)2を親配置], および,CAS による MC-SCF 法の結果を同様に比べたものである.SPS-SCFは5, 6電子励起を含まないため,解離極限を正しく記述しない.これが,SPS(L)-SCFでは,7つのうち 2つの解離配置を親配置に含めることによってほぼ完全に回復していることがわかる.
-109.2
-109.1
-109.0
-108.9
-108.8
-108.7
0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0 3.5
SPS-SCF
SPS(L)-SCF
CAS-SCF
r(N-N) / Å 図2
E / hartree
その他のMC-SCF法 1-3の例については当日発表する. [1] 白井,中野,平尾,分子構造総合討論会、3C13(2002),神戸
[2] S. Shirai, H. Nakano, and K. Hirao, in preparation
露に相関した電子状態理論の発展 (名大院情報科学)天能精一郎 量子化学では多くの研究グループが“より大きな系を”“より精密に”計算可能な手法を確立し,
多くの実験研究を理論的手法で置き換えるという目標に向かって開発競争を進めている。次世代
分子軌道理論で最も重要なキーワードはリニアスケーリング(Linear Scaling)と露に相関した(Explicitly correlated) 手法であり,今後十年間は非経験的分子軌道法で大街路となると予想されている。ここでは後者の発展を総括的に報告する。 1. 緒言 高速計算機の発達に伴い,高精度分子軌道理論の開発が 1980 年頃から精力的に行われてきた。結合クラスター理論やその応答理論,多参照配置間相互作用法が多くのプログラムパッケージに
採用され,高い信頼度で幾何構造や励起エネルギー,反応熱を計算する事が可能となっている。
一方,これらの手法で本質的である電子の短距離相関の取り扱いは,一電子基底関数の角運動量
子数に対する収束性が 3( 1)L −+ と極めて遅い事が知られている。最近の研究から,頻繁に使用されている二倍分極基底関数では二~三原子分子の原子化エネルギーですら 10-30kcal/molの系統的な基底関数打ち切り誤差を生じ,化学的精度と呼ばれる1kcal/mol 程度の誤差内で実験を再現するためには cc-pCV5Zや 6Zといった十倍規模の基底関数系を用いなければならない事が分かってきた。このような理論計算が現実に可能なのは数原子分子に限られ,応用量子化学の分野では分子
軌道理論の真価が発揮しきれていないというのが現状である。 2. 露に相関した理論 2.1 カスプ条件とジェミナル展開 二体相関が本質的な動的電子相関を一電子基底関数の積和で近似する事は明らかに非効率的で
ある。これを直接的に改善するのが露に相関した二体関数(ジェミナル)の導入である。電子相
関に対する近距離での漸近的振る舞いは,一重項と三重項対についてそれぞれ一次摂動から導か
れる s-波と p-波のカスプ条件として知られている[1]。
(1) 2 (0)121 2 12 1 2( , ) [ ( )] ( , )2( 1)r
O rj
Ψ = + Ψ+
x x x x (1)
ここで j は相対座標を極座標で表した時の角運動量子数であり,一重項と三重項対について 0 と 1の値を取る。この電子間距離に線形な相関は原点で滑らかでないので,占有対関数に短距離で電
子間距離を乗じた二体基底関数を加えれば CI 展開の収束性を著しく改善出来る。古くから小さい原子・分子の精密計算には Hylleraas CI[2]や露に相関したガウス型ジェミナル(GTG)[3]を用いた多体摂動論が用いられてきたが,三電子や四電子積分のために実際の化学の問題の応用される事が
困難であった。変分モンテカルロ法ではこれらを数値的に取り扱う事で困難さを避けている。ジ
ェミナルで相似変換された有効ハミルトニアンを用いる Transcorrelated 法[4]も相互作用が三体で閉じるというメリットがあるが,得られる解は変分的ではない。 2.2 多電子積分の取り扱い 大きな技術革新は R12 理論で導入された RI(the Resolution of identity)[5]である。RI では三電子
や四電子積分を二電子積分の積和で展開する。
12 13 12 12( ) ( ) ( ) ( )v
pqr X r Y r stu pq X r vt v r Y r su≅ ∑ (2)
これにより,露に相関した理論の計算時間は通常の一電子基底関数展開と同等のスケーリングと
なり,幅広い応用が可能な手法となった。中間関数 v の角運動量子数は二次の摂動論の場合,3 OCCL
bukka2Ta02
で収束する。ここで OCCL は占有軌道の角運動量子数である。従って,遷移金属の d-殻を含むような系の計算には i-殻までの中間関数が形式上必要である。我々は三中心積分を用いた密度フィットと RI を組み合わせた以下の標識を提案した。
12 13 12 12( ) ( ) ( ) ( ) 1Av
pqr X r Y r stu p A s Aq X r vt vr Y r u≅ ∑ (3)
密度フィットは当初 Manby によって R12 法に適用されていたが[6],高速化の目的であり収束性は改善されていない。新たな標識では中間関数の角運動量子数が2 OCCL で収束し,著しく精度が高められる事が示された[7]。密度フィットについては今後も発展が期待される。 2.3 スピンコンタミネーション 量子モンテカルロ法や Transcorrelated 法で用いられる相関因子 exp[ ]C G= の推進演算子はスピ
ン空間座標に依存した形をしている。
( , )i ji j
G g>
= ∑ x x (4)
これらの方法で用いられてきた推進演算子G は反平行スピンの一重項と三重項対関数を区別しないので二つのカスプ条件を同時に満たす事が出来ず,スピンコンタミネートした解が最安定とな
る。最近我々は,空間座標を交換する演算子 ijp を含むスピンフリーの推進演算子
( ) ( )[ ( , ) ( , ) ]d xi j i j iji j
G g g p>
= +∑ r r r r (5)
が二つのカスプ条件を完全に満たす事を示した[8]。カスプ条件から各ジェミナルは漸近的に
( ) 21 2 12 123( , ) ( )8
dg r O r= +r r , ( ) 21 2 12 121( , ) ( )8
xg r O r= +r r , (6)
となる。これを短距離ジェミナルと組み合わせる事により露に相関した方法の理論構成が簡素化
され,結合クラスター理論や多参照 CI 法などへの適用が著しく容易になる。 3. 数値的な有用性 一例として(21s15p12d8f4g)基底を用いた一価の銅原子に対する二次摂動対相関エネルギーを通
常の MP2 値からの差として示す。短距離ジェミナルを用いた場合,通常の基底関数展開ではかなり大規
模な基底関数を用いても再現出来なかった約
100kcal/mol(150mEh)の相関エネルギーを取り込む事が可能となっている。当日は,多参照配置間相互
作用法に適用した反応熱や励起エネルギーの結果も
合わせて講演を行う。
[1] T. Kato, Commun. Pure Appl. Math. 10 151 (1957); R. T. Pack and W. Byers-Brown, J. Chem. Phys. 45 556 (1966); W. Kutzelnigg and J. D. Morgan III, J. Chem Phys. 96 4484 (1992) [2] E. A. Hyleraas, Z. Phys. 54 347 (1929) [3] K. B. Wenzel, J. G. Zabolitzky, K. Szalewicz, B. Jeziorski and H. J. Monkhorst, J. Chem. Phys. 85 3965 (1986) [4] S. F. Boys and N. C. Handy, Poc. Roy. Soc. A. 310 43 (1969); S. Ten-no and O. Hino, International Journal of Molecular Sciences 3 459 (2002), and references therein. [5] W. Kutzelnigg, W. Klopper, J. Chem. Phys. 94 1985 (1991) [6] F. R. Manby, J. Chem. Phys. in press (2003) [7] S. Ten-no and F. R. Manby, J. Chem. Phys. in press (2003) [8] S. Ten-no to be submitted.
-40
-35
-30
-25
-20
-15
-10
-5
0
1s2
1s2s
1s3s
2s2
2s3s
3s2
1s2p
1s3p
2s2p
2s3p
3s2p
3s3p
1s3d
2s3d
3s3d
2p2
2p3p
3p2
2p3d
3p3d
3d2
MP2(Geminal) : -1628.05 mEhMP2 : -1477.60 mEh
Pai
r co
rrel
atio
n en
ergy
/ m
Eh
スピン軌道 CI 法による簡単な分子の非断熱過程の理論的研究 (慶大理工) 藪下 聡
【序】量子化学計算で考慮する相互作用は、多くの場合、静的な電荷粒子間に働くCoulomb力のみで、
磁気的な相互作用は無視している。しかし電子は単に負電荷をもった静的な粒子ではなく、その固有の
スピンに基づく磁気モーメントをもつ動的な粒子である。このため現実の分子系では他の様々な相互作
用が含まれ、多彩な化学現象を引き起こす。その中でも、特にスピン軌道(SO)相互作用は、分子内磁場
と電子スピンの相互作用を表現するもので、例えば、一重項と三重項の励起状態間の項間交差(ポテン
シャル面の非断熱相互作用)や、光励起による一重項基底状態から三重項励起状態への禁制遷移の観
測など、いわゆる「重原子効果」の原因としてよく知られている。特に重原子のSO相互作用は、局所的な
非断熱相互作用の原因としてだけでなく、解離領域のPESの概形を決定するほどに重要である。1)
SO相互作用を理論化学の立場から考えると、これは単に相対論効果の一つである。我々は、その多
種多様な計算手法の中で、実際の問題に応用することを念頭におき、一成分のSOCIプログラムの開発・
応用を行ってきた。比較的簡単な分子であっても、電子相関とSO相互作用に起因する配置混合は、複
雑である場合が多い。計算時間の短縮のために、また波動関数の解析を容易にするために、スピン依存
ユニタリー群、二重群、時間反転対称性などを駆使している。2)
SO 相互作用は、原子が重くなるにしたがって強くなる。しかしいつも重原子系の SO 相互作用が「顕著」で「面白く」て、軽原子系では「つまらない」かというと、それも極論である。確か
に I 原子の SO 分裂は 7603 cm-1 = 0.94eV と非常に大きく、開殻電子状態では非常に顕著になる。それに対し、Cl 原子の SO 分裂は 881 cm-1 = 0.11eV と、I原子の 1/10 で、無視されることが多い。しかしいくら小さくても有限な値を持つので、分子の解離過程に何らかの影響を与えるはず
で、小さいからこそ顕著に効く場合もある。実際、Band, Freed, Kouri らは、分解生成物が有限の電子角運動量を持つ場合、解離領域でその角運動量の組み替えが起こり、必ず Born-Oppenheimer 近似が破れることを明確にしている。本発表では、そのような例として、ハロゲン分子の光分解反応へ
の応用と、また、O2 分子の Herzberg 吸収帯における回転線の微細構造の研究例を発表する。
【結果】ハロゲン分子の光分解反応
ハロゲン分子 X2(X=Cl,Br,I) の光分解反応は、古
くから研究されてきた。その第一吸収帯の分解によっ
て X(2P3/2)と X*(2P1/2) がともに生成するが、その分岐
機構や、J=1/2, 3/2 の角運動量の mJ 分布など、最近、様々の進展が見られる。特に興味深い点は、 同
じ SO 準位に相関する異なる状態間の非断熱遷移ま
で詳細が明らかになったことである。図1に Cl2 のポテ
ンシャル曲線を示す。ここで n 番目の Ω = 1u 断熱
状態を と記す。最近、λ = 355 nm の光分解
において、ともに X + X の解離極限に相関する C 1Πu (1u(2
)(1 nu
))→ A 3Π1u (1u(1))の非断熱遷移(図 1)が、Cl2 では起こるが Br2 では起こらないことが見出された(Ki→ 1u(3) や(松見、川崎)、1u(3)→ 1u(4) の(Zare)非断熱遷
-29.79
-29.78
-29.77
-29.76
-29.75
3 4 5 6 7 8 9 10
Ene
rgy
/ Har
tree
R / Bohr
A 3Π1u
2nd Ω=1u (C 1Πu)
3rd Ω=1u (3Σ1u
+ (1441))
X 1Σg+
B 3Π0+u
Req
Cl*+Cl*
Cl +Cl*
Cl +Cl
tsopoulos)。また、Cl2 では C 1Πu (1u(2))移も観測されている。これらの非断
図1 Cl2 のポテンシャル曲線
bukka2Ta03
X 3Σ-g B 3Σ-u A 3Σ+u Z
X 3Σ-g 3Πg A 3Σ+u X
X 3Σ-g 3Πg A 3Σ+u M
熱遷移の原因は、概ね、その波動関数の角運動量の結合
様式が、分子領域における LS 結合から解離領域における jj 結合に変化するためで、交換相互作用と SO 相互作用の拮抗である。図2に、SOCI 波動関数から求めた、非断熱
結合要素、gkn = < |d/dR| )1 > のうち、g)(1 ku(nu 21, g34を示す。
要するに角運動量の結合様式の変化に基づく分子波動関
数から原子波動関数への変化を表している。我々は、これ
らの情報をもとに、半古典的に断熱電子状態の変化を調べ、
その非断熱性を詳細に解析した。3) その結果、 図 2 Cl2 の gij
CI の R 依存性
(i) C 1Πu (1u(2))→ A 3Π1u (1u(1))は非交差型で、その遷移確率は X が重くなるにつれて小さくなる。 (ii) 逆に、1u(3)→ 1u(4) は交差形で、その遷移確率は X が重くなるにつれて大きくなる。 (iii) また、C 1Πu (1u(2))→ 1u(3)が実質的に観測されるのは、X=F,Cl だけで、X=Br,I では無視できることなどが明らかになった。また、その主な原因は、(i) (ii) に対しては g21, g34の SO 相互作用の X 依存性に、また (iii) に対しては、X=Br,I では遷移の起こる断熱エネルギー差(X の SO 分裂に対応する。図1参照)が大き過ぎるためである。
酸素分子の Herzberg 吸収帯の吸収確率
O2の Herzberg 吸収帯はオゾン生成の key step であり、古くから多くの実験がなされてきた。3
つの禁制遷移からなり、その大部分は X(3Σ-g)→A(3Σ+u)の第一吸収帯である。いずれも、双極禁制
であるため、近年までその強度の正確な解析はなかった。Yoshino らによって回転の微細構造を
含む吸収スペクトルが観測され、また England らにより、SO 相互作用と分子回転に基づくコリオ
リ相互作用(L-uncoupling)を用いた intensity borrowing 機構(図 3)が考えられた。我々は、
この単純な摂動論的モデルで回転線の吸収強度を計算しても必ずしも実験値との一致は良くない
が、正確な1次の摂動波動関数、あるいは、変分的な SOCI 波動関数を用いて、遷移モーメントを
計算することにより、良い一致を得た(図4)。4)このように delicate な遷移モーメントの計算には、
丁寧な理論的考察が必要である。
0 5 1 0 1 5 2 0 2 5 3 0 3 5
0
5 0
1 0 0
1 5 0
2 0 0
Inte
grat
ed L
ine
Stre
nght
(10-
26cm
2 cm
-1)
N ' '
o P1 2
o P 1 2 (e x p )
o P 2 3 o P
2 3(e x p )
Q P3 2
Q P3 2
(e x p )
µ|| SO
µ⊥ SO
µ⊥ L-uncoupling
図3 intensity borrowing モデル 図.4 理論的回転線( v' )0'v'7 =←=
本研究は、浅野由花子君、竹上竜太君との共同研究によるものである。また、21stCOE KEIO-LCC プロジェクトに謝意。
【参考文献】1) S.Yabushita, in The Transition State - A Theoretical Approach, T. Fueno, Eds: 267, Gordon and
Breach, Amsterdam (1999). 2) S. Yabushita, Z. Zhang, R. M. Pitzer., JPC A 103, 5791 (1999). 3) Y. Asano, S.
Yabushita, JPC A, 105, 9873 (2001); CPL, 372, 348 (2003); Bull. Korean Chem. Soc., 24, 703 (2003). 4) R.
Takegami, S. Yabushita, in preparation.
金属錯体の光物性に関する電子論と電子状態シミュレーション
熊本大院自然科学 ○杉本 学
1.緒言
有機エレクトロルミネッセンス素子や色素増感太陽電池などの光電変換デバイスに関する興味
から、金属錯体の光物性あるいは新しい光応答機能を有する金属錯体の開発に関する研究が、近
年極めて活発に行なわれている。金属錯体の光物性を理解し、制御するためには、その性質がど
のような電子的因子のバランスにより実現されるのかを明らかにする必要がある。
我々のグループでは、単独で特徴的な性質を有する分子と複合化された金属錯体(ここではハ
イブリッド錯体と呼ぶ)の光物性に興味を持ち、ハイブリッド錯体の電子状態を解析する理論研
究を行なっている。我々がハイブリッド錯体に注目する理由は、素性が明らかな構成分子とハイ
ブリッド錯体の電子状態の相関に注目すれば、金属錯体の物性発現に重要な電子的因子を明確に
しやすいと考えるからである。光エネルギー変換分子素子を開発する観点から、ハイブリッド錯
体は活発な実験研究の対象となっており、このような相関に関する知見はハイブリッド錯体を設
計する際の指導原理としても重要であると思われる。
電子的因子が複雑に絡み合った金属錯体の光物性を解析する一つの方法は、金属や配位子を置
換して物性の変化を検討するものである。このような検討には、電子状態に関する計算シミュレ
ーションは極めて有効な研究手法であると思われる。電子状態理論の進展によって電子励起状態
についても定量性が向上する一方、計算機の高性能化によって現実的な分子の取り扱いが可能に
なっている。従って、電子状態シミュレーションを駆使して、分子構造を自由に変える “化学的”
解析を計算機上で行なえば、金属錯体の光物性に関する理解が深まるものと思われる。
本講演では、我々が最近行なったハイブリッド錯体に関する電子論的研究を紹介し、電子状態
計算の有用性と本計算化学研究により得られた新しい知見を報告したい。なお、以下に報告する
研究は、交換相関項を B3LYP 関数で近似した密度汎関数(DFT)法、Time Dependent DFT(TDDFT)
法を用いて行なった。
2.ハイブリッド錯体で実現される電子状態の特徴
近年、“Molecular Square”等の特異な構造を有する集積型錯体が数多く合成されている。このような金属錯体は、複数の金属錯体から構成されるハイブリッド錯体と見なすことができる。
この種の錯体について、内部にある空孔が特殊な反応場となる可能性が指摘される一方、特徴的
な電気化学的性質、分光学的性質を示すことが報告されている。本研究では、構成モジュールと
ハイブリッド錯体の電子状態の相関を明らかにする目的で、それぞれの分子の励起スペクトルと
分子軌道の性質を比較検討した。
Molecular Square の例として[Pt(en)(bpy)]48+(1)[en = ethylenediamine; bpy = 4,4’-bipyridine](図1)
に関する検討を行なった。この分子の励起スペクトルを計算したところ(図 2)、4.07eV(305nm)
及び 4.35eV(285nm)に bpy π-π*遷移による強い吸収バンドが計算された。[Pt(en)(bpy)]48+ の励起状
態を、[Pt(en)(bpy)]2+, [Pt(en)(bpy)2]2+, [{Pt(en)}2bpy]4+, [Pt(en)bpy]24+など、様々なモジュール錯体と
bukka2Ta04
比較したところ、モジュール錯体の励起状態は、[Pt(en)(bpy)]48+よりもかなり低エネルギー側にシ
フトすることが分かった。軌道エネルギー準位の比較を行なったところ、[Pt(en)(bpy)]48+とそのモ
ジュール錯体の電子状態の違いは、金属に配位子していない bpy の末端あるいは bpy が配位子し
ていない Pt(II)による nonbonding orbital に起因することが分かった。同様の環状構造を有する
[Pt(en)(bpy)]36+の励起スペクトルは[Pt(en)(bpy)]48+とよく類似しており、環状構造の形成による
nonbonding orbital の準位の変化が、[Pt(en)(bpy)]48+の電子状態を特徴付けると結論できる。
3.ハイブリッド錯体の電子状態に対する溶媒効果
最近、Sauvage ら(J. Phys. Chem. B, 2002, 106, 6663)は、tetraphenylporphyrin(TPP)と iridium(III)
bisterpyridine 錯体([Ir(terpy)2] 3+)を連結したハイブリッド錯体(TPP-Ir)を合成し、励起波長の選択に
よって分子内電子移動と分子内エネルギー移動を制御できることを報告した。この錯体の電子過
程に関する興味から、我々はその励起状態の性質に関する検討を行なった。
孤立分子の1重項基底状態に関するポピュレーション(NBO)解析を行ったところ、TPP から
Ir(terpy)23+へ電子が流れこむことが分かった(Table 1)。実験的には、この分子の基底状態はアセト
ニトリル中で TPP-Ir(III)なる状態であるとされている
が、我々の計算は基底状態が TPP+-Ir(II)に相当するこ
とを示唆する。この分子の 3 重項状態を計算したとこ
ろ、この状態は1重項よりも安定であり、この状態も
TPP+-Ir(II)に帰属できることがわかった。
このような大きな電荷の偏りがある系では、溶媒和によって電子状態が大きく変化する可能性
がある。このため Polarizable Continuum Model (PCM)を用いて、アセトニトリルによる溶媒効果を
考慮した計算を行った。その結果、1重項状態が3重項状態よりも 1.16eV 安定となること、1重
項基底状態が TPP0-Ir(III)に相当することが分かった。こ
の結果は TPP-Ir(III)なる電子状態を実現する上で、溶媒
の静電的な reaction field が不可欠であることを示してい
る。これは、この錯体で観測される電子移動とエネルギ
ー移動にも溶媒効果が本質的に重要な役割を演じるこ
とを示唆する点でも興味深い。また、我々の計算では
1000nm 近傍の近赤外領域に吸収バンドが現れることを
示す結果が得られた。実験的にはこの低い励起状態は観
測されていない。今後、この吸収バンドの有無に関する
実験的検証が望まれる。
①CT(TPP→ Ir(terpy)2)
②TPP(Q 帯)
③CT(TPP→Ir(terpy)2) TPP π→π*
表1. 1重項基底状態におけるTPP-Irの電荷分布(NBO 解析による)
TPP Ir(terpy)2 In vacuum +0.88 +2.12
In acetonitrile +0.16 +2.84
図 2. [Pt(en)(bpy)]48+の励起スペクトル
3.0
0.0
1.0
2.0
ε×10
-5/M
-1cm
-1
280 300 320 340
in vacuum
Lowest excited state 341nm(3.64eV)
Wavelength/nm
305nmf=1.609π-π∗
305nmf=1.609π-π∗
311nmf=0.087d-d
311nmf=0.087d-d
305nmf=0.073MLCT
305nmf=0.073MLCT
285nmf=0.928π-π∗
285nmf=0.928π-π∗
304nmf=0.135MLCT
304nmf=0.135MLCT
0.0
1.0
0.5
Osc
illat
or S
tren
gth
3.0
0.0
1.0
2.0
ε×10
-5/M
-1cm
-1
280 300 320 340
in vacuum
Lowest excited state 341nm(3.64eV)
Wavelength/nm
305nmf=1.609π-π∗
305nmf=1.609π-π∗
311nmf=0.087d-d
311nmf=0.087d-d
305nmf=0.073MLCT
305nmf=0.073MLCT
285nmf=0.928π-π∗
285nmf=0.928π-π∗
304nmf=0.135MLCT
304nmf=0.135MLCT
0.0
1.0
0.5
Osc
illat
or S
tren
gth
Pt
Pt Pt
N
NNN
N
N
H2N NH2
H2N
NH2
NH2H2N
(2): [Pt(en)(bpy)]36+ (1): [Pt(en)(bpy)]48+
Pt
Pt Pt
N
NNN
N
N
H2N
NH2
H2NNH2
NH2H2N
PtH2N
NH2NN
図 1. 検討したハイブリッド錯体の構造
図3.アセトニトリル中の TPP-Ir の 励起スペクトル(計算結果)
機能性高分子の量子化学的設計方法と計算方法の開発
(広大院理・科技団 PRESTO) 青木百合子
巨大高分子系の電子状態を効率よく計算する方法として現在までに開発してきたO(N)の計算方
法である高分子の理論的合成法-Elongation 法-に、高分子の磁性・導電性・非線形光学現象な
どの機能設計を行う手法を組み込み、高分子の電子状態から高分子機能を予測する計算手法を開
発している(図1)。さらに、電子相関の効果も含めた基底状態および励起状態の定量的な軌道相
互作用解析が可能となった NBO Based CI/MP Through Space/Bond 解析法とも結合することによ
って、構造・物性と電子状態の関係の詳細な解析のための高分子物性・機能解析システムの構築
をめざしている。今回は主に、非周期性高分子の磁性・導電性・非線形光学現象の予測に関する
計算方法と現在までの計算結果について紹介する。
分子に磁性をもたせる試みが盛んに行われており、近年 S>5000 を有する有機強磁性共役ポリマ
ーが合成された。有機化合物でありながら磁石としての性質をもつ共役系を予測するための簡単
なルールを提出し、その高スピン性を CAS-SCF 法で確認すると共に、ab initio CI/MP Through
Space/Bond 解析法によって、ラジカル間の相互作用の経路を調べる試みを行ってきた。これらの
結果より、高スピン型有利な分子間結合のさせ方について、Non-disjoint 性(NBMO の縮重が保た
れつつ NBMO 間の混じり合いが多くなる性質)の高い超分子を与えるための結合規則-「NBMO 係
数の0の部分と係数のある*の部分を結合させる0-*結合が Non-disjoint 型を与える」1,2)が
有効であることを確認することができた。これを分子ユニットから高分子鎖を構築する過程に適
用すると、高分子全体として強磁性としての性質を示しうる高分子構造や置換基について理論的
な知見と分子設計の指針を得ることが出来る。ただし、2分子間の結合のみを厳密に調べて高分
子鎖の強磁性を予測しても、全系をまるごと計算すること以外に、凝集系として実際にスピン整
列が起こるのかどうかを定量性的に確認する方法が存在しない。そこで、以前より開発している
高分子の理論的重合法(Elongation 法)を非制限 Hartree-Fock(UHF)法のレベルで計算可能と
し、3~5重項程度の低スピン状態計算を繰り返すだけで S=>∞の状態まで効率よく計算できるよ
う発展させた。本方法によると、高分子の各ユニットに局在化した局在化分子軌道(LMO)が得られ
るが、高分子鎖を伸長する際に、取り扱う相互作用領域で、常に高スピン状態になるように結合
させる。その際の Non-disjoint 性の大きさも、得られた LMO から算出することができる。
同様の概念を分子間に適用することにより、高スピン型としての性質を発現しやすい分子クラ
スターおよびその分子間の配向様式に関して、理論的な予測を提示することが可能となる。結晶
を構成する分子としては、不対電子スピンを有する有機分子や、ドナー分子とアクセプター分子
が交互に積層した電荷移動錯体などが考えられる。しかし、結晶全体として強磁性になるか反強
磁性になるかは、スタッキング方向における積層構造の状態や鎖間相互作用に大きく依存する。
分子に対して、なるべくスピンを整列させるための条件である1.非結合性軌道(NBMO)縮重系
を構築する、2.NBMO 間に弱い相互作用をもたせる、を同時に満たすような積層構造の持たせ方
の他、適度な鎖間相互作用をもたせることにより、系がパイエルス不安定性を持たないように制
御することが重要となると思われる。擬一次元鎖を考えた場合、分子に非結合性軌道(NBMO)が
存在してもそれが一次元的なカラムをなした場合、往々にして系のもつ Peierls Instability の
ために、2分子単位で閉殻構造になり、NBMO 間の縮重性が失われてしまう。つまり、構成分子の
ラジカルが凝集したときに伝導電子としての役割も加わるため、金属―絶縁化転移と強磁性とし
bukka2Ta05
ての性質は密接に関係している。これに、鎖間相互作用を与えると、Peierls Instability が抑
えられ、等間隔の配列が有利になり得る 3-8)。言い換えると、NBMO 間の縮重性が保たれるように
分子間を等間隔にするには、2量化が抑えられる程度の鎖間相互作用が必要ということになる。
つまり、0-*結合の考えを分子間に拡張すると、一次元鎖内および一次元鎖間において、なる
べく0の部分と*の部分が重なるようにしてスタックさせると高スピン性には有利に働く。結局、
Non-disjoint 型でスタッキングさせ、しかも Peierls Instability が抑えられるよう適度な鎖間
相互作用をもたせることが、系全体としてスピンを整列させるのに有利な条件であるとともに、
導電性の発現にもつながると期待できる。これらの関係について、いくつかの系に対して本方法
を適用し、高スピン性と Non-disjoint 性の関係を検討する。
一方、Elongation 法では種々の分子を順次付加できるため、非周期的な高分子の電子状態計算
に適している。構造の非周期性が系全体の物性に大きく影響する物理現象のひとつに非線形光学
現象(超分極率)がある。周期性高分子であれば、周期境界条件のもとで分子(超)分極率を求
める方法は開発されているが 9,10)、一般的に超分極率を発現する典型的な系として有限鎖である
Push-Pull 有機共役高分子系がある。これは、適当な長さの一次元オリゴマーの両端に電子吸引
性および電子供与性置換基をもつもので、系全体としての反転対称性の崩れに伴って超分極率を
発現する。このような、分子と周期性高分子の間の中間的な大きさの領域にみられるメゾ系の電
子状態を効率よく計算するためには Elongation 法が有用である。計算方法としては、最初からハ
ミルトニアンに電場の効果を導入して固有値問題を解き、全エネルギーの電場勾配を求める
Finite Field(FF) 法 と 、 電 場 の 効 果 を 摂 動 法 に よ っ て 評 価 す る Coupled Perturbed
Hartree-Fock(CPHF)法がある。両方法を Elongation 法に組み込み中であるが、まず試験的に
Finite Field 法を Mopac-Elognation 法に組み込んだため 11)、これによる計算結果を紹介する。
本方法では、電場の効果(-r・E )を最初からハミルトニアンに加えて出発クラスター(Elongation
法の出発となる小さなクラスター)を計算しておき、小分子が付加するたびに、電場の摂動ハミル
トニアンを含む相互作用 Fock 行列を計算し、付加分子に近い領域に局在化した ActiveLMO を基底
とした固有値問題を解く。分子を一個付加する度に、5種類の電場の大きさのもとで電子状態を
計算し、数値微分によって分子分極率(α)超分極率(β,γ)を計算する。特に末端置換基効果を調べ
るにあたっては、置換基以外の部分まで高分子鎖の電子状態を伸長しておき、末端置換基のみを
交換することによって、効率的に置換基効果を調べることができる。これら非周期的高分子の電
子状態と機能に関する計算手法と現
在までの計算結果について発表する。
Elongation法
導電性高分子設計
強磁性高分子設計
高分子の非線形光学現象 (超分極率の計算)
並列的
(生体)高分子の協同現象の解明
有限軌道基底[O(N)]
非経験的MO法半経験的MO法
逐次的
機能性高分子の解析
NBO based ab initio CI/MP2 TS/TB解析
機能性高分子の設計
高分子の構造決定
参考文献)1)Y.Aoki and A. Imamura. 特許:特開平11-6825 「有機高分子化合物の強磁性を予測する方法」. 2) Y.Aoki and A. Imamura. Int. J. Quantum Chem., 74, 491-502(1999). 3)Y. Aoki and A. Imamura, J. Chem. Phys., 103, 9726-9737 (1995). 4)Y. Aoki, T. Tada, and A. Imamura, Int. J. Quantum Chem., 64, 325-336 (1997). 5) T. Tada, Y. Aoki, and A. Imamura, Synthetic Metals, 95,, 169-177(1998). 6)T. Tada and Y. Aoki, Int. J. Quantum Chem., 86, 401-415(2002). 7)T. Tada and Y. Aoki, Phys. Rev. B, 113113 1-4(2002). 8) Y. Aoki, T. Tada and Y. Orimoto, Phys. Rev. B, 66,193104 1-4 (2002). 9)F. L. Gu, Y. Aoki and D. M. Bishop, J. Chem. Phys., 117, 385-395(2002). 10)B. Champagne, D. Jacquemin, F. L. Gu, Y. Aoki, B. Kirtman, and D. M. Bishop, Chem. Phys. Lett., 373, 539-549 (2003).11) F. L. Gu, Y. Aoki, A. Imamura, D. M. Bishop, and B. Kirtman, Mol. Phys., 101, 1487-1494(2003).
ヘム錯体の基底・励起状態とNMR化学シフト
(都立大院理)波田雅彦
【序】
ヘム錯体は Fe(II)と Fe(III)及び高スピンから低スピン状態までの種々の電子状態の変化
を伴って生体反応に関与している。NMR スペクトルはこれらの電子状態や分子構造の変化を
推測する有用な手段として用いられている。昨年、Fe(III)-bis(cyanide)錯体において、Fe
に配位する CN の 13C 常磁性化学シフトが約-2500ppm(TMS 基準)の高磁場領域に存在し、
cyanide-imidazol(Im)錯体ではさらに高磁場シフトすることが報告された[1]。これら一連の
スペクトルは heme 周辺の僅かな化学的変化を鋭敏に反映するため、heme における生体反応
メカニズムを解析する手段として注目される。
本報告は、低スピン状態の Fe(III)錯体をモデルとして、
配位子やポルフィリン環の歪による電子状態の変化と
C-13 NMR スペクトルとの関連を理論的に明らかにすること
を目的とし、種々の Fe(III)ポルフィリン錯体の基底・励
起電子状態及び 13C 化学シフトの計算結果を報告する。本要
旨では右図の L = CN-, Im、および R = H, Ethyl(Et)基の
結果を述べる。 Fig.1 cyanide-porphyrinato Fe(III)
【計算方法】
基底・励起電子状態及びその電子スピン密度の計算は
Gaussian03 に組み込まれた SAC/SAC-CI を用いた。スピン密度を計算するため配置選択の閾
値は十分小さな値を用いた。基底関数は Fe に(62221/6211/311) + diffuse-sp + f、CN 配位
子には(721/41) + diffuse-sp + d、ポルフィリン環の原子には(651/51) + d を用いた。
原子A の化学シフト Aδ は磁気遮蔽定数 Aσ の差であり、 A 0 Aδ σ σ= − となる。 0σ は TMS の磁気遮蔽定数とした。電子スピンに依存しない Aσ は Ramsey の式で求めた。この項に、常磁性分子の電子スピンに由来する Fermi-Contact(FC)項
2 2A Aˆ(FC) 4 / Bg S kσ π β δ= Ψ Ψ T
を加えた。上式は二重項の場合に成立する。本報告では、Spin-Dipolar 項の寄与は小さいも
のとして無視した。
【結果と議論】
(1) L = CN- と L = Im
表1に R = H の計算結果を示す。基底状態はいずれの錯体も(dxy)1(dxz,yz)4が主配置であ
り、実験的示唆と一致する。但し、両錯体ともに(dxy)2(dxz,yz)3 配置がごく近傍(0.2 eV 以
内)に存在しており、環構造や周辺の変化によって基底状態が入れ替わる可能性を示唆してい
る。σ∗(CN)が open-shell である配置は溶媒効果によって若干不安定化すると予想される。
化学シフトの計算値も表1に示してある。シフト値の大部分が FC 項の寄与である。
bukka2Ta06
bis-cyanide 錯体(L=CN-)の化学シフト bis-cyanide 錯体(L=CN-)の化学シフト Table 1. Energies and Chemical Shifts of bis-cyanide and cyanide-imidazol complexes. では、実験値-2516ppm の高磁場シフトを
計算値-2789ppm が良く再現している。逆
に、2A2uの化学シフトは異常に低磁場シフ
トしている。このようなシフト傾向の大
きな相違は、下図に示すように、CN 配位
子の炭素上の電子スピン密度がスピン分
極かスピン非局在化のどちらで生成した
かに依存している。cyanide-imidazol 錯
体(L=Im)では、(dxy)1(dxz,yz)4 と(dxy)2
(dxz,yz)3のいずれも観測の傾向を再現す
る。しかし、基底状態でない(dxy)1
(dxz,yz)4 配置の化学シフトが観測値と最も
良く一致する。この点はさらに理論・実験両
者の検討が必要である。
では、実験値-2516ppm の高磁場シフトを
計算値-2789ppm が良く再現している。逆
に、2A2uの化学シフトは異常に低磁場シフ
トしている。このようなシフト傾向の大
きな相違は、下図に示すように、CN 配位
子の炭素上の電子スピン密度がスピン分
極かスピン非局在化のどちらで生成した
かに依存している。cyanide-imidazol 錯
体(L=Im)では、(dxy)1(dxz,yz)4 と(dxy)2
(dxz,yz)3のいずれも観測の傾向を再現す
る。しかし、基底状態でない(dxy)1
(dxz,yz)4 配置の化学シフトが観測値と最も
良く一致する。この点はさらに理論・実験両
者の検討が必要である。
Term Energy(eV) Main Configuration Shift (ppm) bis(cyanide) porphyrinate Fe (L=CN-, R=H)
2Eg 0.00 (dxy)2(dxz,yz)3 -2789
2A2u 0.09 d6[σ(CN)-π(Por)]1 16557
2B2g 0.57 (dxy)1(dxz,yz)4 -3502
2A1u 0.74 d6[s(CN)-π(Por)]1 -242
1A1g 1.2 Fe(II) (closed-shell) 171
cyanide-imizazol porphyrinato Fe (L=Im, R=H)
2A’ 0.00 d6[σ*(CN)-4p(Fe)]1 10870
2A’ 0.13 (dxy)2(dxz,yz)3 -3312
2A” 0.19 (dxy)2(dxz,yz)3 -3003
2A” 0.46 (dxy)1(dxz,yz)4 -4026
2A” 0.49 d6[p(Por)]1 -932
Fe
C
C
N
N
Fe
C
C
N
N
Fe
C
C
N
N
A2u B2u Eg
- 4000
- 2000
0
2000
4000
10000
12000
14000
16000 D2
m
B2
A2u
Fig. 1. 13C chemica planar (D2h) and ru complexes.
[1] H. Fujii, JACS, 124, 5936, 2002
(2) L=CN-, R=Et (2) L=CN-, R=Et
ポルフィリン環のmeso位水素をEthyl基で
置換すると環が歪み、D4h対称性は湾曲した S4
となる。環の湾曲により dxy 軌道は不安定化
し 、 実 験 で 示 唆 さ れ て い る よ う に
(dxy)1(dxz,yz)4 配置が基底状態となる(表2)。但し、σ∗(CN)が
open-shell である配置は溶媒効果によって不安定化が予想されるの
で基底状態の議論からは除外する。
Term Energy(eV) Main Configuration Shift (ppm) 2B2 0.00 (dxy)1(dxz,yz)4 4039
2E 0.04 (dxy)2(dxz,yz)3 -3121
2B2 0.37 d6[s(CN)-p(Por)]1 10061
2B1 1.0 d6[p(Por)]1 99
一方、化学シフトは環が僅かに歪むことによって約 7500ppm(-3502pp
→+4039ppm)という異常な変化を示した。図1にポルフィリン環の歪み
に対するシフト値の変化を示す。B2gと A2uの変化が相補的である理由は、
環の歪みによって両電子状態のスピン密度が混合するためである。
【結論】
励起状態と常磁性化学シフトの精密な理論計算は、NMR スペクトルの
る 13C 常磁性化学シフトに重要な解釈を与えた。
観測結果を補い、heme 蛋白の電子状態や構造変化を解析する有力な手
段となる。本研究は Fe(III)ポルフィリン錯体におけ
Eg → E
g → B2
Table 2. Energies and Chemical Shifts (L=CN, R=Et).
h → S4
→ B2
l shifts of
ffled (S4)
局所内挿法によるポテンシャル面の効率的生成
(分子研、Northwestern 大化学) ○石田俊正,George C.Schatz
[序]計算機性能が向上するのにともなって、電子状態を解きながら原子核を運動させていく ab
initio 動力学が最近行われるようになって来た。しかし、反応動力学を正確に記述しようとするならば
精度の高い ab initio 計算結果が必要であり、古典動力学で満足するとしても統計的に有意なトラジェク
トリ数を確保するのは依然として困難である。一方、大局的な解析関数によるポテンシャル面のフィ
ットが以前から行われてきたが、複雑な関数型や豊富な経験が必要とされ、簡便とは言い難い。
そこでわれわれは局所内挿法に着目し、ab initio 法において導関数を求めなくてすむ IMLS/Shepard
法を提案し、応用を行っている[1-3]。本方法では、Collins らによる修正 Shepard 内挿法[4]と IMLS(内
挿移動最小二乗)法とを組み合わせている。なお、Shepard 法は 0 次の IMLS 法に対応している。ab initio
計算において導関数を求めなくてよいので、精度の高い最先端の方法論と組み合わせて用いることが
可能である。さらに、反応動力学に関与しない高エネルギー領域のサンプリングを排除できること、
原子核の置換による対称性が簡単に考慮できること、精度が足りないと考えられる場合は、内挿点の
追加によるポテンシャル面の精度の向上が容易なこと、当てはめに要する関数のパラメータ数が実質
的に一つであることなどが利点である。
Bettens と Collins は Bayesian の定理に基づいて重み関数を決める方法を提案している[5]。比較的局
所的な範囲と比較的広い範囲を表現する2つのパラメータ(pと q)を用いた重み関数と Bayesian 解析法
とを用いて、彼らはポテンシャルの精度が改善されることを報告している。そこで、この方法を
IMLS/Shepard 法と組み合わせたときの効果についても O(1D)+H2, OH+H2系について検討した。本講演
では、Bayesian 解析の適用も含めて IMLS/Shepard 法の方法と応用について述べたい。
[方法]IMLS 法では、n 個の線形独立な基底を用いて、任意の点での値を基底の線形結合で表す。基
底としては、核間距離の逆数 Z=1/R の 2 次までの多項式をとった。座標に依存する展開係数を重みつ
き最小二乗法により決定することにより、内挿関数が得られる。重み関数としては、
で表した。具体的には、p として正の整数, a=0.03 を用いた。実際には、IMLS
法を内挿点のみに適用し、内挿点における(近似的な)二次微分までを見積もり、二次微分までを使
う Collins らの修正 Shepard 内挿法を適用する。以上の手続きからわかるように、本方法では、基底展
開の次数、重み関数の式が決まれば、関数のあてはめが完了し、簡便である。
pi aZZw )||/(||1
22 +−=
[結果と考察](1)H2+H この系に対する Liu-Siegbahn-Truhlar-Horowitz(LSTH)による解析ポテンシャル
面[6]を用いて精度を検討した。ポテンシャル面から内挿点をサンプルし、その内挿によるポテンシャ
ル面ともとの解析ポテンシャル面を比較した。その際に、反応断面積などをトラジェクトリ計算によ
り求めた。ポテンシャルのサンプリングには乱数を用いた。断面積は、LSTH 解析ポテンシャルによる
断面積を 150 個程度の点の数でよく再現することがわかった。LSTH ポテンシャル自身が 267 点の ab
initio 計算結果に基づいていることを考えると IMLS/Shepard 法が優れていることがわかる。
(2)O(1D)+H2 この系は、反応の途中で H2O 分子が生成する深い井戸を持つ系で特異である。2 パラ
メータを用いた重み関数を用いると、IMLS/Shepard 法では、トラジェクトリ計算においてエネルギー
保存が悪かったので、重み関数パラメータ p=3 として計算を行った。その際、参照ポテンシャルとし
て Ho らによるポテンシャル面[7]を用いた。図2に反応断面積の変化を示した。点線は参照した(LSTH
解析ポテンシャルによる断面積)±(標準偏差)の誤差の範囲を示している。IMLS/Shepard 法におい
bukka2Tp01
ては、Bayesian 解析を用いても用いなくても反応断面積の±(標準偏差)への収束に要する点の数は
変わらなかった。一方、修正 Shepard 法においては Bayesian 解析の効果は大きかった。示していない
が、ポテンシャルエネルギーに対する rms 誤差について調べてみると、rms 誤差の改善のほうが大きか
った。Bayesian 解析を用いると、rms 誤差が小さくなるが、ポテンシャル面の粗さは最終的にあまり改
善されないと考えられる。
Bayesian 解析に Shepard 法のみを組み合わせた場合の rms 誤差の最小値が、IMLS/Shepard 法での最
小誤差に近いことから、最良の結果どうしを比べると、Shepard 法と IMLS/Shepard 法は精度があまり
変わらないことになる。しかるに、IMLS/Shepard 法では、ポテンシャル面の微分の情報を必要としな
いので、同精度のポテンシャル面を得るのに必要な計算量ははるかに少なくてすむ。このことは次の
4原子系でも同様である。
(3) OH+H2 この系に対する Ochoa de Aspuru と Clary による解析ポテンシャル[8]を用いて、
IMLS/Shepard 法の誤差を検討した。図に、内挿点を増やしていったときのエネルギーの誤差(メジア
ン値からの偏差の絶対値)の変化を示す。解析ポテンシャル面から内挿点をサンプルする際には、乱
数を用いた。IMLS/Shepard 法の結果を見ると、この系では、p の値にかかわらず、Bayesian 解析を用
いた方が精度が向上していることがわかる。これは、O+H2系での結果と異なっている。この系は、単
純な遷移状態を持つ系に対して、O+H2 系は深い井戸を持つ系であり、そのポテンシャル面の違いが
Bayesian 解析を用いた結果の違いに反映していると考えられる。次に、重み関数を制御するパラメー
タ p について見ると、p=3,6,9 のうちでは、p=6 の結果が最も誤差が小さいが、この計算では、内挿点
の数を数千取ったためであると考えられる。内挿点が多くなると、ある内挿点に着目した場合の周囲
の内挿点が増え、近くの点のみの値を使う方が精度が向上することを反映している。Shepard 法と比較
すると、この系の場合、内挿点数が同じ場合では Shepard 法の精度がよい。ただし、Shepard 法では、
内挿点における2次微分までの情報を用いているので、数値計算でそれを賄おうとすると、6×7/2=21
倍程度の点が必要になる。そのことを考慮すると、IMLS/Shepard 法の方が優れていると考えられる。
講演では、5次元以上への拡張についても述べたい。
図1 O(1D)+H2系における断面積変化 図 2 OH+H2系におけるエネルギーの誤差変化
[参考文献] [1] T. Ishida and G. C. Schatz, CPL 314, 369(1999). [2] T. Ishida and G. C. Schatz, J. Comput. Chem. 24(9), 1077-1086 (2003).
[3] K. H. Kim, Y. S. Lee, G.-H. Jeung, and T. Ishida, J. Chem. Phys. in press. [4] T. Ischtwan and M. A. Collins, JCP 100, 8080(1994). [5] R.
P. A. Bettens and M. A. Collins, JCP 111 816 (1999) [6] D. G. Truhlar and Horowitz, JCP 68 (1978) 2466. [7] Ho et al. J Chem Phys 1996,
105, 10472. [8] G. Ochoa de Aspuru and and D. C. Clary, J. Phys. Chem. A102, 9631(1998).
自由自由自由自由エネルギーエネルギーエネルギーエネルギー勾配法勾配法勾配法勾配法をををを用用用用いたいたいたいた凝縮相凝縮相凝縮相凝縮相ダイナミクスダイナミクスダイナミクスダイナミクスのののの研究研究研究研究
(名大院情報科学)長岡正隆
【【【【序論序論序論序論】】】】 我々が日常的に目にする化学現象の多くは、溶液中や界面で起こっている。その際、溶
媒や界面は着目する反応中心に対して反応場を与える。孤立分子の安定構造や遷移状態構造が反
応予測に重要な情報を提供するのと同様に、凝縮相分子の平衡構造の知見は凝縮相反応にとって
重要な情報をもたらす。我々はこれまでに凝縮相分子の構造最適化法として、自由エネルギー勾
配法を提案し、水溶液中分子の安定状態や遷移状態の構造最適化を実行してきた[1-3]。本講演で
は、自由エネルギー勾配法の概要を説明し、その適用例から得られたいくつかの結果を紹介する。
【【【【理論理論理論理論とととと方法方法方法方法】】】】 溶液反応の分子動力学(MD)シミュレーションでは、溶質分子の各原子に溶媒分
子群から及ぼされる力を時々刻々計算している。この力の時間平均をとると、自由エネルギー面
G(qs)上の力
FE S S S S SRS time( ) ( ) ( )G V= − ∂ ∂ = − ∂ ∂F q q q q q (1)
が溶質分子構造 qsの関数として求めることができる[2]。ここで、 sRS ( )V q は溶質分子内ポテンシャルエネルギーと溶質溶媒間相互作用エネルギーとの和を表わす。また
timeは時間平均を表わ
すが、平衡系ではアンサンブル平均
B BB
( ) exp( ) exp( )d V d Vβ β= − −∫ ∫q q (2) に等しい。ここで、 Bq は溶媒分子群全体の座標を表わす。また Vは、溶質分子構造 Sq を固定した条件下で得られる溶液全体のポテンシャルエネルギーで、相互作用の評価にハイブリッド
QM/MM法を採用すると、
S B BRS MM( ) ( ),V V V= +q q q 、
S SRS RQM QM/MM QM/MM( ) ( )ˆ ˆ ˆV VH H H= Ψ Ψ = + Ψ Ψ+q q (3)
と表現できる。 MMV は溶媒分子群のポテンシャルエネルギーを表わす。
平衡MD計算を繰り返して溶質分子構造を更新( s s s1i i i+ = + ∆q q q )して、或る optn 番目の更新でゼロ勾配条件 s sRS ( ) 0kV∂ ∂ ≈q q が、十分精度良く満たされれば溶質分子の構造最適化が達成され
安定平衡状態が求まる。このとき、力釣り合い条件
s
QM QM/MMRs s s
ˆ ˆ( ) H HV ∂ Ψ Ψ ∂ Ψ Ψ∂ = = −∂ ∂ ∂
qq q q
(4)
が成り立ち、溶質自身のポテンシャル勾配と、溶媒が溶質原子に及ぼす力とが釣り合う。
一方、溶質分子の構造 qsiから qsi+1への最適化過程に伴う自由エネルギー変化 iG∆ は、溶質構造 qsiの下でアンサンブル平均を用いて統計摂動法[4,5]により与えられる。こうして s0q から最適化構造
opt
Snq までの安定化自由エネルギーは、 i
optstabi =0 i
niG G∆ ∆=∑ で得られる。
【【【【結果結果結果結果とととと考察考察考察考察】】】】A. 水溶液中水溶液中水溶液中水溶液中アンモニアアンモニアアンモニアアンモニア----水分子対水分子対水分子対水分子対のののの構造最適化構造最適化構造最適化構造最適化 [6][6][6][6] 水溶液中のアンモニア-水分子対(H3N…H2O)の構造最適化を実行した。QM/MM法としては、Ruiz-López等の方法1[7]
bukka2Tp02
に従って、H3N…H2O対にはPM3ハミルトニアンを、溶媒水分子にはTIP3Pモデルを用いた。図1に、最適化ステップ毎の二乗平均変位を示した。第8ステップまでに分子対構造が最適化され
ている様子がわかる。図2には最適化構造を示した。N原子と水素結合していないH原子を含むOH結合が孤立分子対よりも長くなり、溶媒水系のミクロ構造を考慮した結果生じた現象と解釈できる。これは簡単な誘電体モデルでは再現できない。
2.0x10-2
1.5
1.0
0.5
0.0
RM
S di
spla
cem
ent [Å
]
86420Optimization Step Number
107.20.998
1.001
1.812
178.9 107.40.964
0.980
図1.最適化ステップ毎の二乗平均変位 図2.H3N…H2O対の安定状態構造 (結合長:Å、結合角:度)
B. NH3 + CH3Cl → CH3NH3+ + Cl– ((((遷移状態完全最適化遷移状態完全最適化遷移状態完全最適化遷移状態完全最適化のののの最初最初最初最初のののの例例例例) ) ) ) [8][8][8][8] 自由エネルギー勾配法を用いて、水溶液中メンシュトキン反応 NH3+CH3Cl→H3NCH3++Cl-に対する遷移状態構造を求めることに成功した(図 3)[8]。また気相中に比べて水溶液中の反応経路では遷移状態が反応系
よりに大きくずれ、より電荷分離するように構造変形することが示された(図 4)。
(a)
109.4
1.97
2.071.00
91.21.10
(b)
110.4
1.66
2.241.01
80.21.11
図3.メンシュトキン反応の(a)安定状態構造 図4.気相と水溶液中におけるメンシュト
と(b)遷移状態構造(結合長:Å、結合角 キン反応NH3+CH3Cl→H3NCH3++Cl- :度) の自由エネルギープロファイル
【【【【参考文献参考文献参考文献参考文献】】】】 [1] N. Okuyama-Yoshida, M. Nagaoka and T. Yamabe, Int. J. Quantum Chem. 70 (1998) 95. [2] M. Nagaoka, N. Okuyama-Yoshida and T. Yamabe, J. Phys. Chem. A102 (1998) 8202. [3] N. Okuyama-Yoshida, K. Kataoka, M. Nagaoka and T. Yamabe, J. Chem. Phys. 113 (2000) 3519. [4] R. W. Zwanzig, J. Chem. Phys. 22 (1954) 1420. [5] U. C. Singh, F. K. Brown, P. A. Bash and P. A. Kollman, J. Am. Chem. Soc. 109 (1987) 1607. [6] Y. Nagae, Y. Oishi, N. Naruse and M. Nagaoka, J. Chem. Phys, 印刷中. [7] F. J. Luque, N. Reuter, A. Cartier and M. F. Ruiz-López, J. Phys. Chem. A104 (2000) 10923. [8] H. Hirao, Y. Nagae and M. Nagaoka, Chem. Phys. Lett. 348 (2001) 350.
電子・核波束動力学法の開発と強光子場化学への応用
(東北大院理) 河野裕彦
【序】高強度レーザーは,原子・分子科学や高エネルギー宇宙物理などの基礎科学に新たな
展開をもたらすのみならず,エネルギー変換や物質加工への応用面も有し,きわめて学際的・
総合的な科学を構築する手段として認識されつつある1).その出現は光と分子の相互作用の
研究を非共鳴領域へと拡大させた.電子的に非共鳴な低振動数(~800nm)の強い光は無極性分子を偏光方向に配列させるなど新たなテクノロジーの手段としても注目を集めている.クー
ロン力と拮抗する強度領域( )に達すると(水素原子の 1s 軌道の電子が原子
核から受ける引力は光強度3.5 に相当),分子の電子波動関数は光の半周期(~1fs)以内でも劇的に変化し,トンネル型イオン化など数々の非摂動論的現象が起きる.クーロン爆発時の分子構造の同定が可能になってきた現在
I > 1013W/cm2
×1016 W/cm2
2),紫外域高強度光源による極短
時間イオン化による化学反応の実空間追跡も視野に入ってきた.分子は強レーザー場中で
様々な様相のダイナミクスを呈し,それ故,このような強光子場化学とも呼ぶべき研究領域
は,いわゆるレーザーを使った「化学反応の量子制御」3)と表裏一体の関係にある.我々は,
「分子の中をレーザー電場 ε (t )によって電子がどのように動くか」を知ることが不可欠であると考え, ε (t )と相互作用する分子の電子と核の波束(時間変化する波動関数)ダイナミクスを解く計算法の開発に携わってきた.現在, H のような少数粒子系に対しては、その電子と核の全系に対する時間依存 Schrödinger 方程式を厳密に解くことが可能になってきた.ここでは、電子・核波束動力学の立場から得られた強光子場化学の研究成果を概説し、最先端レーザー
技術がもたらす新たな化学の展開における理論化学の役割についても議論する.
2
【電子波束計算法の開発と強レーザー場中の分子の電子ダイナミクス】 クーロン系の波束を
グリッド空間表示で精度よく時間発展させる Dual Transformation 法を開発した 4).まず,フェムト秒の強レーザー場と相互作用するH2
+に適用し,その電子も核も含めた全クーロン系の波
束計算を Born-Oppenheimer 近似など一切の近似無しに行った(ab initio 動力学)5).さらに,2電子系分子の電子波束ダイナミクスに適用し,強レーザー場中の2電子の相関を時間領域
で見ることに成功した6). では,光サイクルの半周期の間に電子が核間を移動し,局在イ
オン結合性状態 と が交互に生成し,不安定なイオン結合性状態からトンネルイオ
ン化することを明らかにした.つまり,強レーザー場中では実効電荷の大きい電子対が容易
に生成し,局所励起よりも大域的な核間の電子移動が起こる.このような電子の動きはレー
ザー電場
H2−H+H+H− H
ε (t )の時間変化に追従する時間依存断熱電子状態( ε (t )との相互作用も含めた瞬間的な電子ハミルトニアンの固有関数)とそれらの間の非断熱遷移の考えによって記述できる.
全系の波動関数を時間依存断熱状態に射影することによって,トンネルイオン化が平衡核間
距離よりずっと長い核間距離で促進される現象(Enhanced Ionization と呼ばれ,クーロン爆発を誘発する)を定量的に解明した
6,7).
現在では,自然軌道の時間発展に基づいた新しい Multi-reference time-dependent Hartree-Fock法を開発し,多原子分子の多電子ダイナミクスを計算することができつつある.この方法に
より,多原子分子のイオン化過程や反応過程を支配している強レーザー電界誘起分子内電子
移動のダイナミクスをより詳細に記述することができるであろう.
【強電場中の分子の電子状態計算と強光子場化学】H などの厳密波束計算から,強い光の場 2
bukka2Tp03
の中でも核が時間依存断熱電子状態のポテンシャル面上を動くという考えが成立することを
示した5-7)
.分子軌道法に電場を取り込むことによって時間依存断熱状態を求めることができ8),さらに,時間依存断熱状態間のレーザー電界誘起非断熱遷移確率も計算することができる
9).このような手法で,強光子場中の多原子分子のダイナミクスの特徴(多価イオン生成や分
子構造変化)を明らかにした.例えば,電子的に非共鳴な 800nm の光と相互作用する では,2価カチオンの段階で,屈曲しながら2つの C-O 結合が同時対称的に伸びる過程が存在することを見出した
2CO
9).強度を上げると,一つの C-O 結合だけが切れる確率は減少し,強レ
ーザー場中での反応制御の可能性を理論的に明らかにした.このような特異な反応ダイナミ
クスは,実験的に同定されたクーロン爆発する瞬間の 多価カチオンの変形構造を説明す
る
2CO10).
また,エタノールの選択的解離反応も解析した.中性では C-C 結合と C-O 結合はほぼ等しい結合エネルギーを持つが,山内・神成ら
11),C-C 結合の方が C-O 結合より切れやすいとい
う実験結果を報告している.計算結果によれば,中性のエタノールが構造変化する前に,ま
ずイオン化が起こる.生成した1価カチオンの段階で,C-C 結合が選択的に解離するという結果を得た.最低断熱状態とより高い断熱状態の時間依存ポテンシャルが短い C-C 結合距離で交差し,2つの状態間の非断熱遷移により解離が促進されている.
【制御】Levis12)らは高強度の波形整形パルスによってアセトフェノンの組み替え反応の収率を大きく変えることに実験的に成功した.強レーザー場で誘起された電子運動によって核が
動き出す.このような電子−核相関を光で“調整”することによって反応を制御することがで
きる.今後は,時間依存断熱電子状態法をそのような強レーザー場による化学反応制御の問
題にも適用していきたい.また,我々は,電子的に共鳴した波長領域の位相制御された2パ
ルスの時間差を変えると,分子内電子移動ダイナミクスやイオン化を精密に制御できること
を見出している.アト秒時間スケール(10 18− s)の電子運動の理解に基づいた化学反応の極短時間・局所空間制御ももはや夢ではない.
「電子運動の法則」の確立は,電子状態の理論に動力学の視点を導入するという意味に限
っても理論化学に新たな潮流をもたらすものと考えられる.また, 「電子・核量子波束動力
学」は,現在開発が進行しているアト秒パルス13) が拓くフロンティア「分子中の電子運動
の実時間追跡とその化学反応への応用」の中心的な理論として,その重要性はさらに増して
いくはずである.
1) K. Yamanouchi, Science 295, 1659 (2002); 2) H. Hasegawa et al., Chem. Phys. Lett. 349, 57(2001); 3) Y. Ohtsuki, M. Sugawara, H. Kono, and Y. Fujimura et al., Bull. Chem. Soc. Jpn. 74,1167 (2001); 4) H. Kono et al., J. Comput. Phys. 130, 148 (1997); I. Kawata and H. Kono, J. Chem. Phys. 111, 9498 (1999); 5) I. Kawata, H. Kono, and Y. Fujimura, J. Chem. Phys. 110,11152(1999); 6) K. Harumiya, I. Kawata, H. Kono, and Y. Fujimura, J. Chem. Phys. 113, 8953(2000); Phys. Rev. A 66, 043403 (2002); 7) H. Kono, Y. Sato, Y. Fujimura, and I. Kawata, Laser Phys. 13, 883 (2003); 8) Kono et al. J. Phys. Chem. 105, 5627 (2001); 9) Y. Sato, H. Kono, S. Koseki, and Y. Fujimura, J. Am. Chem. Soc. 125, 8019 (2003); 10) A. Hishikawa, A. Iwamae, and K. Yamanouchi, Phys. Rev. Lett. 83, 1127 (1999); 11) R. Itakura et al., J. Chem. Phys. in press.; 12) R. J. Levis et al., Science 292, 712 (2001). 13) M. Hentschel et al., Nature 416, 511 (2001).
SACSACSACSAC----CICICICI 法による精密理論スペクトロスコピー法による精密理論スペクトロスコピー法による精密理論スペクトロスコピー法による精密理論スペクトロスコピー (京大院工)江原 正博
【序】SAC-CI 法は分子の様々な電子状態を精度良く記述する理論として確立しており、多くの化
学現象に応用されてきた。最近、SAC-CI プログラムは Gaussian03 を通じて公開され、今後、励
起状態の化学の研究に多いに活用されることが期待される。本講演では、SAC-CI 法の応用が期待
される一つの分野である「精密理論スペクトロスコピー」に関する最近の研究から、多電子過程
の状態の研究、解析的エネルギー微分法による励起状態の構造やダイナミクスの研究、内殻励起・
内殻イオン化スペクトルの定量的な帰属や構造緩和に関する研究を報告する。
(1) (1) (1) (1) 価電子イオン化価電子イオン化価電子イオン化価電子イオン化スペクトルのサテライトピークスペクトルのサテライトピークスペクトルのサテライトピークスペクトルのサテライトピーク
SAC-CI general-R 法[1]は、多電子過程を精密に記述す
る理論である。価電子イオン化スペクトルに観測されるサ
テライトピークは多くの shake-up 状態により構成され、そ
れらの状態は多電子過程で記述される。これまでに
general-R 法を多くの系に応用し[2]、スペクトルの詳細を
明らかにしてきた。一例として、図1に N2O のイオン化ス
ペクトル[3]を示す。実験スペクトルでは、相関ピークによ
る5つのバンドが観測されているが、これらのスペクトル
の形状を理論は詳細に再現している。ピーク I,Ⅱはそれぞ
れ 2Πおよび 2Σ状態のサテライトピークであり、ピークⅢ~
Ⅴは(5σ)-1 および(4σ)-1 状態が分裂した相関ピークである
ことを示した。
(2) (2) (2) (2) 励起状態の分子構造・断熱励起エネルギー励起状態の分子構造・断熱励起エネルギー励起状態の分子構造・断熱励起エネルギー励起状態の分子構造・断熱励起エネルギー
SAC-CI 法は様々な性質の励起状態を精密に記述し、解析的エネルギー微分法が利用できること
から、励起状態の平衡構造や断熱励起エネルギーを詳細に研究することができる。HAB 型の分子
を系統的に研究した例を示す。表1に HCO 分子、表2に HSiX(X=F, Cl)分子の結果を示す。HCO は
開殻系分子であり、励起状態は2電子過程で記述されるが、general-R 法は励起に伴う構造変化
や断熱エネルギーをよく再現している。HSiF と HSiCl の1電子過程の励起状態は、SD-R 法で良好
な結果が得られる。励起に伴う分子構造の変化は静電力理論で定性的に予測することができるが、
SAC-CI 法によるこれらの HAB 型分子の結果は全て静電力理論と合致するものである。
表2.表2.表2.表2. HSiX (X=F, Cl) HSiX (X=F, Cl) HSiX (X=F, Cl) HSiX (X=F, Cl)のののの基底状態・励起状態の構造と断基底状態・励起状態の構造と断基底状態・励起状態の構造と断基底状態・励起状態の構造と断熱励起エネルギー熱励起エネルギー熱励起エネルギー熱励起エネルギー 分子 状態 方法 励起 RSiX RHSi ∠HSiX Te レベル (A) (A) (degree) (eV) HSiF
X1A' SD-R 0 1.615 1.522 96.9 - Exptl. 1.605 1.530 97.0 -
A1A" SD-R 1 1.613 1.541 110.5 3.113 Exptl. 1.609 1.484 111.0 2.884 HSiCl
X1A' SD-R 0 2.080 1.514 96.2 - Exptl. 2.064 1.561 102.8 -
A1A" SD-R 1 2.058 1.516 113.6 2.707 Exptl. 2.047 1.499 116.1 2.569
表1.表1.表1.表1.HCOHCOHCOHCO のののの基底状態・励起状態の構造と断熱励起基底状態・励起状態の構造と断熱励起基底状態・励起状態の構造と断熱励起基底状態・励起状態の構造と断熱励起エネルギーエネルギーエネルギーエネルギー 状態 方法 励起 RHC RCO ∠HCO Te
レベル (A) (A) (degree) (eV)
X2A' general-R 1 1.116 1.174 126.3 0.000
Exptl. 1.110 1.171 127.4
A2Π general-R 2 1.061 1.183 180.0 0.983
Exptl. 1.064 1.186 180.0 1.153
B2A' general-R 2 1.112 1.368 105.9 4.741
Exptl. 1.160 1.362 111.0 4.797
図図図図 1. N1. N1. N1. N2222OOOO 分子の価電子イオン化スペクト分子の価電子イオン化スペクト分子の価電子イオン化スペクト分子の価電子イオン化スペクトルルルル(a) dipole (e,2e)(a) dipole (e,2e)(a) dipole (e,2e)(a) dipole (e,2e)とととと(b) SAC(b) SAC(b) SAC(b) SAC----CICICICI
bukka2Tp04
(3)(3)(3)(3) 内殻イオン化スペクトル内殻イオン化スペクトル内殻イオン化スペクトル内殻イオン化スペクトル
内殻イオン化状態は多くの研究が報告されているが、軌道緩和が大きく、理論的に様々な性質
の状態を一様に精度良く記述することは必ずしも容易ではない。とくに、内殻イオン化で観測さ
れるサテライトピークは、軌道緩和と電子相関の効果が共に大きい。C1s の内殻イオン化エネル
ギーを系統的に研究した結果を図2に示す。SAC-CI 法は実験で観測された化学シフトを精密に再
現していることがわかる。また、図3には CH4分子の C1s イオン化状態のサテライトスペクトル
を比較する。理論は実験をピーク位置および相対強度ともによく再現していることがわかる。理
論計算から、ピーク 1,2 は 1t2-3p,ピーク 3 は 1t2-3d, 4d, ピーク 4,5 は 2a1-3s, 4s のリドベル
グ励起が関与する shake-up 状態であることが示された。
(4) (4) (4) (4) 内殻イオン化内殻イオン化内殻イオン化内殻イオン化状態における構造緩和状態における構造緩和状態における構造緩和状態における構造緩和 内殻イオン化状態において分子は構造緩和
する。SAC-CI general-R 法の構造最適化によ
り、平衡構造や断熱イオン化ポテンシャルを
計算し、実験結果と比較した。CH4 および NH3の結果を表3に示す。CH4分子では内殻イオン
化により、C-H 結合距離が 0.05A 短くなること
が実験の振動スペクトルから示唆されている
が、本結果はこれを良く再現した。NH3分子で
は、ほぼ平面構造に緩和し、N-H 距離は CH4分子と同様に収縮する。これらの分子の構造緩和は、
静電力理論により説明することができる。また、H2O 分子では O1s イオン化状態のポテンシャル曲
面を計算することにより、振動スペクトルを精密に再現することに成功した[4]。
謝辞謝辞謝辞謝辞 本研究は、中辻 博 教授(京都大学)、倉本 圭 君(京都大学) 、石田真弓 博士(大正製薬)、
豊田和男 博士(大阪市立大学)との共同研究により行なわれました。また、内殻イオン化の研究に
おいては、上田 潔 教授(東北大学)との共同研究により理論と実験の直接比較の研究を実現で
きました。深く感謝致します。
分子 状態 方法 Re(A) ∠HXH IP (eV) CH4 基底状態 SAC-CI 1.0844 Td Exptl. 1.0870 Td C1s イオン化 SAC-CI 1.0340 Td 290.50 状態 Exptl. 1.0390 Td 290.86 NH3 基底状態 SAC-CI 1.0082 107.27 Exptl. 1.0138 107.23 N1s イオン化 SAC-CI 0.9820 118.75 405.15 状態 Exptl. 405.52
340330320310300290Energy(eV)
Inte
nsity
(a.u
.)1
2
34 5
1
2
34
5
(a) SAC-CI general-R
(b) ESCA
図図図図 3. CH3. CH3. CH3. CH4444 分子の分子の分子の分子の C1sC1sC1sC1s サテライトスペクトルサテライトスペクトルサテライトスペクトルサテライトスペクトル(a) SAC(a) SAC(a) SAC(a) SAC----CICICICI とととと(b) ESCA(b) ESCA(b) ESCA(b) ESCA の比較の比較の比較の比較
表表表表 3. 3. 3. 3. 内殻イオン化状態の構造と断熱イオン化ポテ内殻イオン化状態の構造と断熱イオン化ポテ内殻イオン化状態の構造と断熱イオン化ポテ内殻イオン化状態の構造と断熱イオン化ポテンシャルンシャルンシャルンシャル
CH4, C1s
290
291
292
293
294
295
296
297
298
290 291 292 293 294 295 296 297 298
SAC-CI (eV)
Exptl. (eV)
C2H4
CH4
C2H2
CH3Cl
HCNCH3F
CH2Cl2
HCONH2
H2CO
CO
CH2F2
CO2
図図図図 2. C1s2. C1s2. C1s2. C1s の内殻イオン化エネルギー:の内殻イオン化エネルギー:の内殻イオン化エネルギー:の内殻イオン化エネルギー:SACSACSACSAC----CICICICI と実験の比較と実験の比較と実験の比較と実験の比較
[1] H. Nakatsuji, Chem. Phys. Lett. 177, 331 (1991). [2] M. Ehara, M. Ishida, K. Toyota,H. Nakatsuji, Reviews in Modern Chemistry, p. 293-319 edited by K. D. Sen (World Scientific, Singapore, 2002). [3] M. Ehara, S. Yasuda, and H. Nakatsuji, Z. Phys. Chem. 217, 161-176 (2003). [4] R. Sankari, M. Ehara, H. Nakatsuji, Y. Senba, K. Hosokawa, H. Yoshida, A. De Fanis, Y. Tamenori, S. Aksela, K. Ueda, submitted.
Fragment MO 法によるタンパク質の丸ごと計算
(産総研・計算科学)北浦和夫
【序】コンピュータの高性能化に伴って、数千原子からなる分子・分子系の ab initio MO 計算が可能
になってきた。ab initio MO 計算は、系のサイズの 3 から 4 乗に比例して計算資源(計算時間やメモ
リ)が必要になることから、系が大きくなると急激に計算が困難になるが、最近、密度汎関数法(DFT)
による 2000 原子系の計算が報告された。1) 一方、より高速に、より大規模な系を計算するために、
いわゆる linear scaling または order N 法と呼ばれる方法の開発が進められている。2,3)これらは計算
資源が系のサイズに比例する程度でおさまる方法であり、これにより巨大系の電子状態計算が容易な
ることが期待されている。一方、巨大分子・分子系を計算するための近似法の開発も進められており
4)、我々も、フラグメント分子軌道法(FMO)を提案してきた。5)本発表では、FMO 法の現況と今
後の開発計算について述べるとともに、FMO 法によるタンパク質の計算例をいくつか紹介する。
【FMO 法】FMO 法は、分子や分子集合体をいくつかの小さなフラグメントに分割し(図1)、フラグ
メント(モノマーと呼ぶ)とフラグメントペア(ダイマーと呼
ぶ)について ab initio MO 計算を行うだけで、全系のエネルギー
とプロパティが計算できる方法である。モノマーとダイマーの
計算は、通常の ab initio MO 計算とほぼ同様である。Hartree-Fock
(HF)レベルでは、次式を解く。
xxxxx εCSCF ~~ = , (1)
,~,~~
νµµνµνµν iii
ixxx
xxx
hhBVHH ∑++=+= GHF
(2)
x はモノマー(x=I)またはダイマー(x=IJ)を示す。射影演算子の項は、フラグメントの境界にある原子の
基底関数を、各フラグメントに割り振る働きをする。また、V は次式で示す静電ポテンシャルである。
( ) ( )∑ ∑ ∑≠ ∈ ∈
+−−=)( xK KA K
KAA
x DZV λσµννµλσ
λσµν rr (3)
これらの計算で、通常の HF 法と異なるのは、例えば、モノマー I の計算には、I 以外のすべてのモノ
マーからの静電ポテンシャルが含まれることである。したがって、モノマーの計算は、全てのモノマ
ーが self-consistent になるまで繰り返し計算を行う。ダイマー IJ の計算には、IJ 以外の全てのモノマ
ーからの静電ポテンシャルを含めて解く。分子の全エネルギーは、モノマーとダイマーの全エネルギ
ー、Ex、
( ){ } NRxxxxx ETrE ++= FHD ~~21 , (4)
を用いて、次式により計算する。
∑ ∑>
−−=JI I
IIJ ENEE )2( . (5)
ただし、式(4)の ENR は核間反発エネルギーである。双極子モーメントなどプロパティも、モノマーと
図1 分子の分割
bukka2Tp05
1) F.Sato,T.Yoshihiro,M.Era,H.Kashiwagi, Chem.Phys.Lett.,341 (2001) 645 2) G.E.Scuseria, J.Phys.Chem.A, 103 (1999) 47823). S.Goedecker, Rev. Mod. Phys.,78 (1999) 9974) A.Imamura, Y.Aoki, K.Maekawa, J.Chem.Phys., 95 (1991) 5419.5) T.Nakano et al.,Chem.Phys.Lett. 351 (2002) 475,