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-1- 事例 小学校 音楽科 第3学 年 「いろいろな音のちがいをかんじとろう」 テーマ 感受したことを児童が生き生きと自分の言葉で表現し、 主体的に表現活動や鑑賞活動に取り組む授業への改善 授業改善 ①感受したことや願いを自分の言葉で表現し、主体的な表現活動や鑑賞活動 の視点 へつなげていくための指導計画の工夫 ②課題を追究・達成するための表現の手がかり・ポイントの提示の仕方や指 導・援助の工夫 1学習状況の把握と結果の分析 (1) 学習状況の把握の方法 【評価規準】題材「階名になれよう」 音楽への関心 音楽的な感受 表現の技能 鑑賞の能力 意欲 態度 表現の工夫 旋律を階名で歌うこ音の高さを感じ取っ正しい音程で旋律を旋律の重なりを感 とに興味をもって、て、歌い方や身体表階名視唱する技能をじ取りながら、範 進んで視唱や視奏を現を工夫している。 身に付けている。 唱を聴き取ってい しようとしている。 る。 【把握の方法】 1学期の題材「階名に慣れよう」の教材「ドレミで歌おう」と「海風きって」にお ける児童の学習の様子、学習プリントに記載された内容から、主に「音楽への関心・ 意欲・態度」と「鑑賞の能力」の観点について学習状況を把握した。 また、教材「春の小川」「茶つみ」「海風きって」における児童の様子、学習プリ ントに記載された内容から「音楽的感受・表現の工夫」と「表現の技能」の観点につ いて把握した。 (2) 学習状況の結果と分析 【結果】 各評価規準について、次のような児童の姿があった。 ≪音楽への関心・意欲・態度≫ ○鍵盤ハーモニカで演奏したりドレミ体操などの身体表現をしたりする活動に抵抗 無く取り組もうとする児童が増えた。 △範唱からその曲のよさに気付き発表することが、一部の児童はできたが、多くの 児童は、受け身的な姿であった。 △階名で歌うことに進んで取り組もうとする児童とそうでない児童の姿勢の差が大 きかった。 ≪音楽的な感受や表現の工夫≫ ○高い音や低い音をどこに響かせたいか考えながら、身体表現や歌い方を工夫しよ うとする姿が見られた。→春の小川・茶つみ △音高感を感じ取って、ふしづくりをしようとする姿も見られたが、機械的に選ん で当てはめただけで終わってしまった姿も一部に見られた。→海風きって ≪表現の技能≫ ○3分の2ぐらいの児童が正しい音程で階名唱をすることができるようになった。 △高い音の音程が不安定で、高いド、レあたりが身体表現を工夫しても上がりきれ ない姿があった。

事例小学校音楽科第 3学年 「いろいろな 音のちが …...-1-事例小学校音楽科第 3学年 「いろいろな 音のちがいをかんじとろう 」 テーマ

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事例 小学校 音楽科 第3学年 「いろいろな音のちがいをかんじとろう」

テーマ 感受したことを児童が生き生きと自分の言葉で表現し、

主体的に表現活動や鑑賞活動に取り組む授業への改善

授業改善 ①感受したことや願いを自分の言葉で表現し、主体的な表現活動や鑑賞活動

の視点 へつなげていくための指導計画の工夫

②課題を追究・達成するための表現の手がかり・ポイントの提示の仕方や指

導・援助の工夫

1学習状況の把握と結果の分析

(1)学習状況の把握の方法

【評価規準】題材「階名になれよう」

音楽への関心・ 音楽的な感受・ 表現の技能 鑑賞の能力

意欲・態度 表現の工夫

旋 律 を 階名 で 歌 うこ 音の高さを感じ取っ 正しい音程で旋律を 旋 律 の 重 な り を 感

とに 興 味を も っ て、 て、歌い方や身体表 階名視唱する技能を じ 取 り な が ら 、 範

進ん で 視唱 や 視 奏を 現を工夫している。 身に付けている。 唱 を 聴 き 取 っ て い

しようとしている。 る。

【把握の方法】

1学期の題材「階名に慣れよう」の教材「ドレミで歌おう」と「海風きって」にお

ける児童の学習の様子、学習プリントに記載された内容から、主に「音楽への関心・

意欲・態度」と「鑑賞の能力」の観点について学習状況を把握した。

また、教材「春の小川」「茶つみ」「海風きって」における児童の様子、学習プリ

ントに記載された内容から「音楽的感受・表現の工夫」と「表現の技能」の観点につ

いて把握した。

(2)学習状況の結果と分析

【結果】

各評価規準について、次のような児童の姿があった。

≪音楽への関心・意欲・態度≫

○鍵盤ハーモニカで演奏したりドレミ体操などの身体表現をしたりする活動に抵抗

無く取り組もうとする児童が増えた。

△範唱からその曲のよさに気付き発表することが、一部の児童はできたが、多くの

児童は、受け身的な姿であった。

△階名で歌うことに進んで取り組もうとする児童とそうでない児童の姿勢の差が大

きかった。

≪音楽的な感受や表現の工夫≫

○高い音や低い音をどこに響かせたいか考えながら、身体表現や歌い方を工夫しよ

うとする姿が見られた。→春の小川・茶つみ

△音高感を感じ取って、ふしづくりをしようとする姿も見られたが、機械的に選ん

で当てはめただけで終わってしまった姿も一部に見られた。→海風きって

≪表現の技能≫

○3分の2ぐらいの児童が正しい音程で階名唱をすることができるようになった。

△高い音の音程が不安定で、高いド、レあたりが身体表現を工夫しても上がりきれ

ない姿があった。

- 2 -

≪鑑賞の能力≫

△曲を聴いて感じたことやイメージしたこと(楽器と歌声が重なっている、夏にぴ

ったりの曲だ、海の近くにいる気分など)をいろいろい発表することはできたが、

話したり書いたりできる児童は限られており、また音楽の要素と関わって表現で

きる児童も少なかった。

【分析】

以上のことから、改善したい児童の姿をまとめると、

・一部の児童は、曲について感じ取ったことをまわりに伝えたり言葉で表現したり

できているが、多くの児童は受け身になっており、主体的に感受し表現したいと

いう願いをもつに至らないまま表現活動に入っている。

・課題や出口の姿をつかむことはできても、練習の仕方やポイントが分からず、何

度練習しても思うように成果が上がらず、十分表現できる児童とできない児童の

差が大きい。

・鑑賞する時の感想の発表の仕方にも差があり、どのように感じたことを表現して

よいのか分からない。

児童が新しい教材の曲に取り組むとき、どの児童にもその曲のもつよさを感じてほ

しいし、自分なりの言葉でそれを表現してほしい。そこから曲に対する願いが生まれ、

表現する意欲が生まれてくると考える。これまでの指導をふりかえると、一人一人の

感じ取ったことに十分耳を傾けないまま表現活動に取り組ませていた。また、それぞ

れの児童が感じたことを言葉で表現することを支援する手だても十分とはいえなかっ

た。児童達自身が自分たちが取り組む教材について考え、どのように感じどのように

表現したいかということを生き生きと交流し、主体的な学習活動を展開していける授

業にしたいと考えた。

2分析に基づく授業改善

(1)授業改善の方針

学習状況の結果と分析を踏まえたとき、次のことを大切にしていく必要があると考

えた。

・教材曲の感じをつかむ活動において、一人一人が十分その曲について感じたことを

表現でき、曲に対する願いをもてるようにする。

・課題をつかんだ後、ほとんどの児童が課題を追究・達成できるように、練習の仕方

やポイントを示し学習過程を工夫する。

・鑑賞曲を聴いたとき、音楽的な根拠をもって感じたことが表現できるようにする。

そこで2学期の教材「いろいろな音のちがいをかんじとろう」では、次の2点を授

業改善の視点とした。

①感受したことや願いを自分の言葉で表現し、主体的な表現活動や鑑賞活動へつなげ

ていくための指導計画の工夫

②課題を追究・達成するための表現の手がかり、ポイントの提示の仕方や指導・援助

の工夫

- 3 -

(2)改善の具体的方途と実践

①感受したことや願いを自分の言葉で表現し、主体的な表現活動や鑑賞活動へつなげて

いくための指導計画の工夫

児童が曲を聴いて感じたことを発表する時に、今までは、そのまま感想を発表させ

たり、プリントに気付いたことを書くようにしたりしていたが、音楽の要素にかかわ

る言葉について何も援助をしてこなかった。

そこで本題材では、まず題材に入る前に「音楽のことば」について学習することに

した。『音楽を聴いて気が付いたこと』を表現するために、音楽の諸要素(音色、強

弱、リズム、速度、重なり、旋律など)を3年生の子ども達に分かりやすい表現で書

き表した例を「音楽のことば」として提示し、この中から選ぶことによって、音楽の

要素に関わる語彙の少ない子どもを支援できると考えた。また、その音から『感じた

こと・イメージしたこと』を表現するためには、このような言葉を使うとよい、この

ような書き方があるよ、という例も提示し、いつでも子ども達がそこから探して使え

るように掲示した。曲を聴いて感じたことを、3年生なりに、『音楽を聴いて気付い

たこと』(知覚・音楽的諸要素)と『感じたこと』(感受・感性的側面)に分けて捉え

させたいと考えた。さらに、分けて捉えたことを「~のように聴こえたから、○○が

思い浮かんだよ。」とか「○○をイメージしたから、音を弱くしてみたよ。」などと知

覚と感受を結びつけて表現できる(語ることができる)姿を目指したいと考えた。そ

して、題材を通して、「音楽のことばを使ってごらん」「何をイメージしたからそのよ

うな音にしたの?」と言葉をかけたり書くようにしたりして、知覚と感受を意識でき

るようにしたいと考えた。

<目指したい姿>

知覚→感受

表現←感受・願い

音が

明るい 暗い

強い 弱い

速い 遅い

はずむ なめらか

重なっている

追いかけている

○拍子 歌詞

・・・

<例>

静かな森の中

小鳥のさえずり

兵隊さんの行進

嵐の中

お化けが追いかけ

てくる

火山の爆発

地球誕生

音 楽 の こ と ば イ メ ー ジ し た こ と

ホルンの弱くなめらかにひびく音

がしたから、静かな夜明けが思い

浮かんだよ。

お化けが追いかけてくる感じを出したい

から、だんだん速く大きくしたいな。

自分の言葉で表す

音楽的諸要素で気付く

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次に、本題材の流れの中で、(知覚・感受)→(表現)をより意識する時間なのか、(表

現)→(知覚・感受)をより意識する時間なのかを明確にした上で、指導計画を立てるよ

うにした。また、以前行った授業の指導計画の改善を以下のように行うことにした。

題材名 「いろいろな音のちがいをかんじとろう」

教材群 「うさぎ」「おかしのすきなまほう使い」「金かんがっきの音楽」

題材目標 音色のちがいを感じ取り、想像豊かに聴いたり、イメージにあった音づくり

や組み合わせ方を工夫して表現したりできる。

改善前 改善後

本時の目標 評価観点 本時の目標 評価観点

う 日 本の旋律の特徴を感じ う 日本の旋律の特徴を感じ取

1 さ 取り、イメージに合う歌 (イ) 1 さ り、イメージに合う歌い方 (エ)

ぎ い方を工夫することがで ぎ を工夫することができる。

きる。 (表現)→(知覚・感受)

A 一つの楽器でいろいろな奏

自分のイメージに合った 2 法を試しながら、音色のち (ア)

2 音色の楽器を選び、奏法 (ア) がいを感じ取ることができ

やリズム、テンポを工夫 る。 (表現)→(知覚)

して表現することができ

る。 自分のイメージに合った音

3 色の楽器を選び、イメージ (ウ)

お 歌詞や朗読の内容から、 を生かした奏法や表現方法

3 か イメージを膨らませ、そ (イ) で表現することができる。

し れに合った楽器の組み合 (知覚・感受)→(表現)

の わせを工夫することがで

す きる。 B お 曲や歌詞の内容から、グル

き 4 か ー プ の イ メ ー ジ を 膨 ら ま (イ)

な イメージに合った楽器の し せ、それに合った楽器の組

4 ま 音色を工夫して演奏する (イ) の 合せを工夫することができ

ほ ことができる。 す る。

う C き (表現)→(知覚・感受)

使 イメージに合った音色の な

い 重ね方や演奏順序などを (ウ) ま イメージに合った楽器の演

5 工夫して演奏することが 5 ほ 奏方法(強弱や速さ)を工 (イ)

できる。 う 夫することができる。

使 (知覚・感受)→(表現)

歌と「まほうの音」を合 い

6 わせて演奏したり、友達 (ウ) イメージに合った楽器の音

の演奏を聴いたりするこ 6 色の重ね方や演奏順序など (イ)

とができる。 を工夫することができる。

(知覚・感受)→(表現)

金管楽器(ホルン・トラ

金 ンペット・トロンボーン) D 歌と「まほうの音」を合わ

7 か の奏法や音色の違いに気 (エ) せグループのイメージを生

ん づくことができる。 7 かした演奏をしたり、友達

が の演奏のよさを感じたりす (ウ)

- 5 -

っ ることができる。 (イ)

き 金管楽器の音色を味わい (知覚・感受)→(表現)

8 の ながら曲を聴くことがで (表現)→(知覚・感受)

音 きる。 (エ)

楽 8 金 金管楽器(ホルン・トラン

E か ペット・トロンボーン)の (エ)

ん 奏法や音色の違いを形と結

が び付けながら感じ取って聴

っ き、それぞれのよさを味わ

F き うことができる。

の (表現)→(知覚・感受)

9 楽 金管楽器の音色を味わい、

イメージを膨らませながら (エ)

曲を聴くことができる。

(表現)→(知覚・感受)

指導計画改善のポイント

A.ポイント→打楽器のいろいろな音色の違いを感じ取る時間を設け、題材全体に生かす。

方法 →基本的な奏法を確認後、『同じ楽器でもちがう音見つけゲーム』を行う。

たくさんの打楽器で奏法や表現方法を試す。感じ取った音色の違いを擬音

・図形楽譜などで音楽ノートに記録する。以上の活動を第2時に入れる。

B.ポイント→グループで作りたいまほうの音のイメージを十分膨らませる時間を設ける。

方法 →曲を聴いてよさやおもしろさを感じ取り、「音楽のことば」を使って各自

の音楽ノートに書く。書いたものをグループで持ち寄り、グループのまほ

うの音のイメージを膨らませ、図形楽譜や文などに表す。イメージをもと

に楽器を選ぶ。以上の活動を第4時で行う。

C.ポイント→イメージに近づくための表現の工夫に取り組む時間を、段階的に設定する。

方法 →第5時は、イメージに合った強弱や速さを工夫する時間とする。

第6時は、音色の重ね方や演奏順序などを工夫する時間とする。工夫の内

容を音楽の要素で絞り、児童が何をどう工夫すればよいか取り組みやすい

ように2時間に分ける。

D.ポイント→発表グループの工夫に気付き、よさを感じ取る時間を大事にする。

方法 →第7時は、従来通りイメージを生かした表現を各グループが行えているか、

演奏技能を評価する時間とする。同時に、聴く側は、発表グループのイメ

ージ通り、強弱の工夫や、音色の重ね方・演奏順序の工夫がなされている

かを感じ取る時間とする。音楽の言葉を使って発表したり、願い・聴く観

点をはっきり提示した音楽ノートに感じ取ったよさを記入したりする。

E.ポイント→金管楽器の音楽の鑑賞に取り組む時間を段階的に設定する。

F.

方法 →第8時は、主に3つの金管楽器の音色の違いに気付く知覚面に重点を置い

た時間とする。

第9時は、それぞれの楽器の持つよさを十分味わい広げていく感受面に重

点を置く時間とする。

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②課題を追究・達成するための表現の手がかり・ポイントの提示の仕方や指導・援助の

工夫

鑑賞の活動を行う時に、一部の音楽経験の豊かな児童だけがたくさん感じたことを

発表し、まわりの子はそれを聞いている、という姿ではいけない。また、感想を上手

に書ける文章力のある児童だけが評価されるようでは、鑑賞の力をつけたことにはな

らない。課題をつかんだ後、ほとんどの児童が課題を追究・達成できるように鑑賞の

手がかりとなるもの・ポイントになるものを明示することが大切であると考え、次の

ように単位時間の授業の改善を試みることにした。

教材名 「金かんがっきの音楽」 『茶つみ』

本時のねらい 金管楽器(ホルン・トロンボーン・トランペット)の奏法や音色の違

いを楽器の形と結びつけながら感じ取って聴き、それぞれのよさを味

わうことができる。

改善前 改善後

1教材曲の提示 改善のポイント→ねらいとする部分を絞り込んで提示する。

従来の活動 改善の方法→『茶つみ』のそれぞれの楽器で演奏されてい

・観賞用CD『茶つみ』を4 る前半部分のみを聴くようにする。

番まで通して聴く。

改善の理由→3つの楽器の音の違いに気付きやすくするた

め。3つの楽器が重なっている4番を始めか

ら聴かせると児童が混乱すると思われるた

め。

2課題の追究① 改善のポイント→視聴覚教材を工夫し、課題追究の手がかり

となるものを段階的に提示する。

従来の活動 改善の方法→3つの段階に分けて聴き比べる活動を行うよ

・3つの楽器の音について気 うにする。

付いたことを話し合う。

・観賞用CDのみを数回聴く ①それぞれの楽器が単独で演奏してい 音色を聴き

活動を行ったり、教科書の るMDを聴き比べる。 比べる

写真を見たりして形や奏法 ↓

の違いを見つける。 ②それぞれの楽器が単独で演奏してい 演奏方法を

るVTRを見て聴き比べる。 見比べる

③マウスピースの大きさや管の長さな

ど視覚教材を見比べてそれぞれの楽 形や大きさを

器の形と音の特徴をワークシートに 見比べる

まとめる。

改善の理由→鑑賞用CDの演奏は、パーカッションや弦楽

器で伴奏や副旋律が混ざっており、金管楽器

の音だけに耳を傾けるのが難しいと思われる

ため。視覚教材を通して大きさや形・奏法と

音色の違いをより結び付きやすくするため。

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※改善方法の詳細

MD・VTRの録音・録画について

音色の違いを捉えやすいように、ねらいをよく話して、中学校の

吹奏楽部に協力してもらう。マウスピースだけの演奏やトロンボー

ンのグリッサンド奏法なども参考に行ってもらう。

視聴覚教材について

それぞれの楽器のマウスピース、ホルンの管と同じ長さの8mの

ビニールホースを用意する。

3課題の追究② 改善のポイント→音を聴いて捉えたことを言語化する指導・

援助を行う。

従来の活動 改善の方法→・気付いたことを「音楽のことば」の掲示か

・それぞれの楽器からどんな ら選ぶようにする。

茶つみがイメージできたか ・教師の感覚と違う捉えで表現してきても、

ワークシートへ気付いたこ 認めるようにする。否定しない。

とを書き込む。 ・音色を擬音語でも表すようにし、音楽のこ

・ 感 じ 取 っ た こ と を 発 表 す とばと結びつけるようにする。

る。 ・イメージをはっきりさせるために補助発問

を行う。

・板書・ワークシートの工夫。

改善の理由→三年生の児童の語彙が少なく、適切な言葉で

表現するのが難しいため。たとえばピッチが

「高い」「低い」ではなく、明るいクリアな

音を「高い」、こもった音を「低い」などと

表現してくることがあるため。

※改善方法の詳細

板書・ワークシート

児童の手元の音楽ノートと板書の形式を同じにした。ワークシー

トは、音を聴いて気付いたこと、形・演奏の仕方で気付いたこと、

音を聴いてイメージしたことの3つに分けて書き込めるようにし

た。

補助発問

いろいろな場面を用意し、ぴったりの楽器を選ぶようにする。例

えば、「夜明けで遠くの方がまだぼんやりかすんでいる静かな茶畑

のイメージは、どの楽器の音かな?」などと聞いて選ばせる。

4課題のまとめ 改善のポイント→それぞれの楽器のよさについて児童が自分

の言葉でまとめることができるように支援

する。

従来の活動 改善の方法→・『茶つみ』の後半部分を聴き、どこでどの

・それぞれの楽器の音色の違 楽器が登場したかを聴き分けるようにす

いを教師がまとめる。 る。

・それぞれどの楽器の音が好きか、その理由

についても自分の言葉で発表したり書いた

りするようにする。

改善の理由→自分の言葉で表現できることによって本時の

課題が達成できているかどうかをより明確に

評価できるため。

- 8 -

3授業改善後の成果

①感受したことや願いを自分の言葉で表現し、主体的な表現活動や鑑賞活動へつなげてい

くための指導計画の工夫

A『同じ楽器でちがう音見つけゲーム』実施に対する児童の変容

・前回はこの1時間を設けず、いきなりまほうの音見つけの活動に入ったため、何を

どうすればよいか分からず混乱した姿が見られたが、この1時間を設けたことでス

ムーズに第3時に入ることができた。

・児童は大変意欲的に楽器の音を試し、いろいろな音色を見つけようとする姿が多く

見られた。

< 音楽ノートから>

A子の感想

私は、いろいろな音を見

つけるために楽器のすみ

からすみまでさがしまし

た。

B子の感想

楽器を鳴らす時にちがう

場所でたたいたり、ばち

の向きを変えたりいろい

ろな鳴らし方があるのが

わかりました。

C男の感想

いろいろな鳴らし方で音

が変わって楽しかったで

す。

B曲に対するグループのイメージを膨らませる活動に対する児童の変容

・「音楽のことばを使って話そう」として提示した掲示物が支援となって、曲を聴いて

気づいたことを音楽のことばを使

って発表しよう、文章を書いてみ

ようという児童の姿が1学期より

増えてきた。

・この掲示物が物差しになって、い

ろいろな言葉で表されてきた感想

が共通の言葉で表されるようにな

り、共通理解できるようになって

きた。

・「おかしのすきなまほう使い」の

曲でも、この掲示物の表を手がか

りに曲のイメージを膨らませ、ど

のような魔法使いの様子にしたい

か、どのような魔法の音にしたい

か、積極的に発表したりノートに

書いたりする姿が見られた。

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<音楽ノートから>

・音楽の言葉を使おうと意識できてきた。

・音を聴いて気付いたこととその音からイメージした

ことを分けて書けるようになった。

グループのまほうの音へのイメージ化

<5班D子のイメージ>

(知覚)明るい・リズムがある・

はずむよう・テンポが速い

(感受)おかしをいっぱい出す楽しい

まほう使いの様子。

<5班E男のイメージ> 5班の工夫する音のイメージ

(知覚)歌詞から・・・・思っているのと違う

まほうがかかっておもしろい。 はじめは調子がいいけどな

失敗したときは、少し弱い、くらい音。 かなかまほうがかからない。

↓ 途中で失敗しそうになる。で

(感受)子どものまほう使いで失敗するけど もあきらめないでだんだん盛

あきらめないまほう使いの様子。 り上がってきて最後に成功す

成功したときは、やったー!と言う る音を作りたい。

様子。

Cイメージをもとにしての段階的な工夫と児童の変容

・イメージを十分膨らませないまま、グループの楽器 楽器の分担

分担やまほうの音づくりに入っていった前回は、児

童は自分達がどのような表現をしたいか曖昧だった

ため、練習がなかなか上手く進まない姿が見られた。 強弱・速さの工夫

・今回各グループは上の図のような話し合いの段階を

経て、グループのイメージをしっかりもって練習に

取り組んでいったため、根拠をもって図形楽譜を書 組み合わせ・順番の工夫

いたり楽器選びをすることができた。

・音楽の要素を絞って、段階的に工夫すること

により、段階を分けずに行ったときより児童

が何をどう工夫すればよいのかが理解でき、

主体的に工夫しようとする姿が多く見られた。

・また、段階的に表現の工夫に取り組む時間を

設定したことによって、段階を分けずに行っ

た前回に比べ、どのグループも、より表現の

深まったまほうの音作りができた。

図形楽譜に班のイメージを掲示

成功に向かってがんばるところは、強く、速

くしようとする姿が見られた。強くするとこ

ろに大きな音のする楽器を組み合わせようと

する姿も見られた。

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D発表グループの工夫に気付き、聴き合うことに重点を置いた発表会に対する児童の変容

・発表グループの演奏を聴いて、漠然と感想を発表し合っていた前回に比べて、演奏者

のイメージや願い・聴く観点をはっきりさせて聴いた今回は、感想の内容も的が絞ら

れていた。イメージに対して音楽的な要素はどう表現されたか、という感想の持ち方

をする児童が増えた。 <音楽ノートの感想から>

F子の感想

成功の音のところでドン!と

みんなのタイミングが合って

いたので工夫していると思い

ました。

G男の感想

○○さんの太鼓の音が、初め

の弱い部分でみんなの音を消

さないようにやっていたから

いいな、と思いました。

H子の感想

まほうがかからないところは

響 か な い 楽 器 が 使 っ て あ っ

て、最後のほうで響く楽器が

使ってあったので工夫してい

↑あらかじめ発表グループの願いを提示した音楽ノート たと思いました。

②課題を追究・達成するための表現の手がかり・ポイントの提示の仕方や指導・援助の工

A MD・VTR・視覚教材の工夫に対する成果・児童の変容

観賞用CDのみの聴き比べの結果(導入時) 3つの段階に分けて聴き比べる活動

を行った結果(まとめ)

・3つの金管楽器の音として捉えている。 ・3つの金管楽器の音の違いが分かったと

(1/3ぐらい) 認識している ( 21 人/ 21 人)・2つの金管楽器の音として捉えている(ホルン ・3つの楽器の音のよさを感じることがで

とトロンボーンの違いがはっきりしていない)。 きたと認識している ( 21 人/ 21 人)(1/3ぐらい) ・「~の音がするから○○の楽器が好き」

・3つより多いいろいろな楽器が聞こえてきて混 と根拠を明らかにして感想が書けた。

乱している(課題を捉え切れていない)。 ( 17 人/ 21 人)(1/3ぐらい) 音楽ノートの振り返りより

・単独の音でとったMDは、何度でもすぐに聴き比べることができ、ホルンとトロンボ

ーンの聴き比べの所では、「もう一度、聴かせて!」と音だけに集中しようとする姿

が見られた。

・VTRでは、ホルンのやわらかいひびきを誘うように体をゆっくり揺らしながら演奏

していた様子や、トロンボーンはスライドを力強く素早く動かす様子など次々に気付

いたことを発表する姿が見られた。

・グリッサンド奏法は特に印象深く、身体表現や擬音で模倣する姿が多く見られた。

・マウスピースの大きさの違いやホルンの管の長さに驚き、高い関心を示す姿が見られ

た。

・最後のまとめで、CD後半の3つの金管楽器が重なったり追いかけたりして混ざって

いる演奏を聴いてもほとんどの児童が聞き分けができていた。

このような姿は、観賞用CDのみで行った前回の授業では見られない姿であった。

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ホルンの管の長さを体感する↑

B音を聴いて言語化することへの指導・援助に対する児童の変容

・児童がどう捉えようとしているかを大切にした構えで、児童の言葉を認め、補助発問

を繰り返していくことによって、だんだん発表が意欲的になり、教師が感じてほしい

言葉に近づいてくる姿が見られた。

<児童の発表→教師の受け答えの例>

ホルンの音を聴いて・・・・

I男:ホルンは僕が前にテレビで見た番組の始めにかかっていた音楽に似ている音

です。(教師がホルンは低い音とかやわらかい音という答えを期待していて

も音楽の要素で発表してこない場合)

T:そう。自分の体験から思い出して発表できたね。すばらしいね。それはどん

な音だった?

I男:なんか静かな音です。

T:そう。今日聴いたホルンも静かにひびいていたね。

ホルンとトロンボーンの音を比較して・・・・

I男:ホルンはすごく低い音だと思います。トロ

ンボーンはホルンより高い音だと思います。

(「高い」「低い」の捉えが教師とちがう場合)

T:そう感じたの。じゃあ、ホルンは口の音で

言ったらどんな音かな?ブーブー?

I男:ボー・・・かな?

T:トロンボーンは?

I男:ブアーブアーという感じ。

T:同じように低くても違うんだね。ボーと

ブアーブアーはどう違うんだろう。・・・

・音を聴いて気付いたこと、形・演奏の仕方を見て気付いたこと、音を聴いてイメージ

したことの3つに分けて板書や音楽ノートに書き込めるようにしたことにより、児童

はそれぞれの楽器の音色と奏法・形の違いなどを結び付けて理解することができた。

・ほとんどの児童がまとめのところで、「私は○○の楽器が~の音がするので好きです。」

と根拠を明らかにし、自分の言葉で感想を書くことができた。

・いろいろな場面を用意した補助発問では、多くの子が反応することができた。

T:お母さん達が茶つみをしていたんだけどだいぶ疲れてきたよ。そこへお父さん達

も手伝いにやってきました。どの楽器を使いたい? (C:トロンボーン!)

↑マウスピースの大きさを比べる

- 12 -

T:たくさんお茶がとれて明るい声でバンザイ、と言っているよ。空には夏の太陽が

きらきらまぶしいよ。どの楽器を使おうか? (C:トランペット!)

T:どうしてトランペットを使いたいの?どんな音だから似合うの? ・・・

・音色からイメージを広げる段階で、補助発問にはたくさん反応できたが、下図のK子

のように自分の言葉で書けなかった児童が多く見られた。(十分な時間も確保できな

かった。)

<K子の音楽ノートより>

第8時:イメージしたことまで書けて

いない (12人/21人)

・しかし、第9時に感性的側面に重点

を置いて、段階的に鑑賞の授業を行

った結果、全員が自分の言葉で書き

表すことができた。

・前回「魔弾の射手・序曲」を聴かせ

たときは、大変挙手が少なかったが、

あまり派手ではないこの曲でも次々

に挙手してホルンの音のよさを発表

する姿が見られた。(第8時の学習

の成果が表れていた。)

魔弾の射手序曲

・富士山の頂上で風が気持ちいい感じ。

・オーロラが出てきそうな感じ。

・草原を歩いているイメージ。

・海にいる感じ。

・森の中を歩いているみたい。

バイエルンポルカ

・大きなお城から行進してくる感じ。

・ゾウがおどっている。

・にぎやかな町のイメージ。

・ダンス競技会のようだ。

トランペットふきの休日

・ネコとネズミの追いかけっこ。

↑第9時:音を聴いて感受したことが ・世界が速く回っている感じ。

自分の言葉で書けている(21人/21人) ・てっぽうを打った音みたい。

・聴いた音を自分の言葉に置き換えて表そうとし ・学校にちこくしそう!

ていることに対しても大いに認めたり、補助す

ることによって、「自分も言ってみよう」とい

う積極的な姿がとても増えた。

<音楽ノート第9時の振り返りから>

・私は初めて聴いたのに、すごくいっぱい想像できて楽しかったです。

・私はトランペットのトゥルトゥルとやるのがすごいなと思いました。イメージを想像

するのがすごく楽しかったです。

・いろいろな音楽が聴けて楽しかったし、またやりたい。

・聴いたことがない曲があったけどいっぱい気づいたことがあったのでよかったです。

・3つの楽器の音を説明するのを頑張った。音を聴くのが楽しかった。

・私はトロンボーンの音がもう一度聴きたいです。