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母子世帯の居住貧困研究から ~自立を支援する居住福祉に向けた提言~ 立教大学コミュニティ福祉学部 RPD研究員 葛西リサ 本日の報告の内容 1. 母子世帯の居住問題の特徴 2. 母子世帯の居住を支える新たな支援の実践事例 3. 自立を支援する居住福祉に向けた提言? 問題意識 ・近年、母子世帯の貧困問題に光が差すも、居住の問題は放置されてきた。 ・母子世帯の居住貧困は深刻であり、その改善は急務の課題

母子世帯の居住貧困研究から ~自立を支援する居住福祉に向けた … · ・8割が就労しているが、正規職員は4割程度(厚労省2011)キャリア、保育の問題

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母子世帯の居住貧困研究から~自立を支援する居住福祉に向けた提言~

立教大学コミュニティ福祉学部 RPD研究員 葛西リサ

本日の報告の内容

1. 母子世帯の居住問題の特徴

2. 母子世帯の居住を支える新たな支援の実践事例

3. 自立を支援する居住福祉に向けた提言?

問題意識

・近年、母子世帯の貧困問題に光が差すも、居住の問題は放置されてきた。・母子世帯の居住貧困は深刻であり、その改善は急務の課題

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1.経済的貧困に起因する母子世帯の居住貧困

出所:平成23年全国母子世帯等調査

・1,237,700世帯(生別9割)・ひとり親の子どもの貧困率54.6%(厚労省2012)、平均収入223万円(勤労収入181万円)・8割が就労しているが、正規職員は4割程度(厚労省2011) キャリア、保育の問題

⇒不十分な公的住宅支援が母子世帯の居住貧困の常態化を招く

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母子世帯の住宅政策、何が問題か?

・離婚前後の転居率は極めて高い。

持家の名義、賃貸住宅の契約者の関係住居費の安いところに住み替える生活支援を得るため実家に戻るドメスティックバイオレンス等

⇒賃貸住宅のハードルの高さ:資金、保証人確保問題、入居差別など

出所:筆者調査(2004、2005)

※生活保護の受給率は全体のたったの1割

公営住宅優先入居制度緊急に利用ができない、当たらない、希望する地域に団地がないなど利用が難しい

母子生活支援施設施設の残余化、一般のニーズに合わない、緊急性の低いものの排除

住宅資金・転宅資金(母子福祉資金)利用に際する厳格な審査(保証人の確保が難しい場合は有利子、面接、返済計画等)

⇒自助努力で住宅を確保せざるを得ないのが実情

大阪府240件、大阪市284件

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Aさんは突然の離婚により住まいを失い、三歳の子を連れて親類宅に仮住まいをした。当時、パート職に就いていたAさんにとって、高額な一時金を必要とする民間の借家を借りることは難しかった。

そこで、低家賃で借りることができる公営住宅に希望を見出す。しかし、行政に問い合わせをすると、「母子世帯には優遇措置があるが、倍率が高く、当選するとは限らない。当選しても、入居まで最短で五カ月を要する」と言われてしまう。

そこまで仮住まいはできないと、不動産業者を梯子するも、住宅探しは難航する。不動産業者には、幼い子を抱えた低所得母子世帯ということで、リスクの高い店子だと思われたのであろう。提示される物件は極めてお粗末なものばかりであった。ようやく気に入る物件が見つかるも、一時金の捻出がどうしてもできない。

試行錯誤する中、転宅資金の貸付制度を見つける。早速役所に連絡するも、その利用に際しては、保証人がいることや、返済能力の審査等があり、すぐに借りられるものではないと説明を受ける。

結局、Aさんは、親類に借金をして一時金を支払っている。彼女は言う。「誰のための何

のための制度なのか。簡単に、嫌な思いをせずにお金を貸してくれる消費者金融に手を出す人の気持ちがわかる」と

母子世帯の居住貧困(2017)より

利用しにくい公的住宅支援

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母子世帯の居住貧困・子どもの空間貧困

〇確保した住宅の質的問題

・借家率が高い(民間借家32.6%、公営住宅18.1%) 持家率29.8% 出所:H23全母調

・住居費負担率の高さ (報告者調査:民間賃貸住宅35%程度)

・狭小住宅への集中(報告者調査:民間賃貸住宅の最低居住水準未満の割合高い)

・同居世帯の問題(家賃負担者が2割。都市部では公営住宅等に同居する割合も多い)

・子どもの空間貧困をどう考えるか?勉強するスペースがない、男女同室で就寝させることの違和感

当事者が書いた現在の住まい 当事者が書いたかつての住まい

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転居なし 市内間転居 大阪府内からの転居 大阪府外からの転居 総数

9 45 31 38 12314.3% 36.6% 75.6% 84.4% 45.2%25 65 16 16 122

39.7% 52.8% 39.0% 35.6% 44.9%9 35 6 11 61

14.3% 28.5% 14.6% 24.4% 22.4%2 8 1 1 12

3.2% 6.5% 2.4% 2.2% 4.4%0 20 8 4 320% 16.3% 19.5% 8.9% 12.5%1 14 2 6 23

1.6% 11.4% 4.9% 13.3% 8.5%1 1 1 1 4

1.6% 0.8% 2.4% 2.2% 1.5%35 3 1 0 39

55.6% 2.4% 2.4% 0.0% 14.3%1 23 3 6 33

1.6% 18.7% 7.3% 13.3% 12.1%63 123 41 45 27223% 45% 15% 17% 100%

ひとり親支援が充実しているから

理由はない

その他

総数

親類知人がいたから

保育所や子の学校の都合

仕事の都合

近隣関係等の煩わしさがない

入居可能な公営住宅があったから

手ごろな賃貸住宅があったから

母子世帯の居住支援を考える際に必要な視点

〇ハコの提供だけでは意味がない。育児等のケアを付帯するような仕組みが重要

居住ニーズは、子の成育環境あるいは、育児支援を求めるものが多く、実家に同居、近居する傾向が高い。⇒就労の条件はかなり狭められる。

出所:筆者調査(2005)

婚姻時の居住地別現在の居住地を選定した理由

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母子世帯の居住支援の新たな動き母子世帯向けシェアハウスという発想

・離婚率の上昇と貧困母子世帯の増加1,237,700世帯(生別9割)、就労率85%、平均収入223万円(勤労収入181万円)

ハードの安定供給に居住者同士の互助によるケアをコンバインさせた仕組み

母子世帯向けシェアハウスのリビングの様子

離婚後の転居率の高さと住宅確保の困難・離婚直後、緊急に利用できる支援はない・資金、保証人確保問題、入居差別など・行き場がなく、仮住まいを繰り返す割合も高い

育児と就労の両立困難・私的な育児支援を求めた居住地選定・公的保育の不足を実家等からの援助に期待する・私的支援者がいない場合にはより深刻な状態に

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図1 母子世帯向けシェアハウス全国分布図出典:報告者作成 8

・増加の背景には空き家問題がある。

・個室は基本的に1世帯1室。水回りは共有が基本

・一時金、保証人不要、家電等不要、即日入居可能

・家賃は25000円から15万円まではばひろい

・当初は首都圏に集中⇒全国へ

・入居のしやすさ、共同生活の安心感などがうけている

増加傾向にある母子世帯向けハウス

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MOM-HOUSE(千葉県流山) 生活に必要な機能を付帯させる

・オーナー所有の元駐車場に新築(1階クリーニング店、小規模保育所を併設)

・ハウスのほか、フランチャイズの洗濯代行業をセット⇒雇用の場を創出

・職業紹介(あくまでもオーナー知人のつてで)で就職した人が3名

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Mam-house 2階見取り図出所:事業者より提供〇 定員は18世帯 ワンフロアに9世帯

〇 個室にキッチン、風呂、トイレ完備。各階に共有のLDK〇 家賃は1世帯49000円+共益費15000円入居金30000円(償却) 一時金家賃1カ月分(返却)、保証人不要

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MANAHOUSE 上用賀出典:https://singleskids.localinfo.jp/pages/900567/page_201703161824

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出典:https://singleskids.localinfo.jp/pages/900567/page_20170316182412

・定員5世帯・家賃62000円~107000円+45000円(共益費)・資格を有する保育士が常駐。保育所のお迎え(有料)、21時までの任意の見守りあり

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母子世帯の居住支援の新たな動きシングルマザー向け地方移住支援事業(2015~)

出所:浜田市提供資料より※2015年度は、市独自の資金。2016年度以降は、地方創生交付金、県の補助金による。

〇 都市部のひとり親の貧困問題と地方の問題が一機に解決!?

〇 メディアに盛んに取り上げられ、「これこそ地方創生」と評される

〇 国も大きく評価(石破地方創生大臣(当時)が浜田市訪問・・・)

〇 交付金が間違いなく取れる事業モデル?

⇒北海道幌加内町、福島県川内村、山形県、長野県、新潟県、国東市、鳥羽市等、全国に広がりを見せることに。

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問題や課題を可視化することの重要性

・現場レベルでは、あらゆる居住貧困の実態は十分把握されている

・これを可視化し、バックデータ、エビデンスとして残す

・マクロのみならず、アンケート、同行支援、聞き取り調査等のミクロレベルでも有効

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世帯数 全壊 半壊 全半壊(計)

母子世帯 760世帯 95(12.5%) 205(27.0%) 300(39.5%)

全世帯 73,120世帯 5,920(7.6%) 14079(20.2%) 19,999(27.8%)

生活保護世帯 440世帯 82(18.6%) 70(15.9%) 152(34.5%)

宝塚市における母子世帯の住宅被害状況

出所;宝塚市1997

阪神淡路大震災時に2007年に唯一発見された母子世帯の住宅被害実態

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当事者の実情に合致した制度設計を

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某自治体が、母子世帯向け家賃補助制度を導入予定⇒母子世帯が自由に居住地選定ができる点で有効性は高い

1.公営住宅に2度落ちた実績があること(市への流入ケースは利用不可)

2.転居するケースのみに適用(現在の住まいには利用できない)

3.新たな住宅セーフティネットの登録住宅への補助を検討

4.月額15000円、末子が満18歳まで、最大6年間利用可能・・・・

〇最も住宅に困窮する離婚前後の不安定期に利用できる支援を!!

〇住み替えたくても、まとまった資金がなければ家賃補助があっても動けない

〇公営住宅のある地域と居住地ニーズがマッチしない場合は?

〇登録住宅のみにすれば、立地の制限がでてきて使えない

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ターゲット選別型(居住)支援の課題

• 広く、居住保障が整備されていないが故に生じる課題

• 恒常的、安定的な住まいの支援がベースにない限り、そこから漏れ落ちる人々は必ず出てくる

• 母子世帯→離婚しているかしていないかや子の年齢など

• 暴力被害者→誰に暴力を振るわれたか

• 県外避難者→従前居住地や逃避の時期など?

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ご清聴ありがとうございましたThank you for your kind attention

写真:葛西撮影首都圏にあるシングルマザー向けハウスの掲示板