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1 はじめに
東芝病院 主任看護師(褥瘡委員会委員長)横山 孝子 専任看護師(スタッフナース)曽我 多美子
外科医師(担当医師)川合 重夫
1 はじめに
2 褥瘡患者のケア
当院は、ベッド数 310 床の一般病院である。2001年8月から
褥瘡対策チームを立ち上げ、活動を開始した。専門知識を持
つスタッフもおらず、手さぐりの状態での開始であった。しかし、
チーム担当医師(外科医)、以前から褥瘡に興味を持っていた
ナースを中心にどうにか活発に活動できるようになった。2002
年10月から褥瘡対策未実施減算の取り組みが始まり、病院全
体の意識も高まってきたと思われる。今回は、私たちが行って
きた褥瘡患者のケア、データの管理方法、エアマットの管理方
法について述べたい。
褥瘡が発 生した患者さんについては、全症例に対し褥瘡
シートを記載する。このシートは、当院独自に作成した物である
(図1)。このシートを、褥瘡対策チームの窓口に提出する。診察
方法は、褥瘡チーム医師、もしくは他科(皮膚科、整形外科等)、
もしくは担当医が診察する場合の3種類に分かれる。いずれ
にしても褥瘡患者の登録は、必ず行うことになっている。その
ためには各病棟に少なくても1人は褥 瘡のリンクナースを選出
してもらう必要がある。こうすることでリンクナースが 中心とな
り各病棟 の褥瘡ケアの相 談ができるようにした。またリンク
ナースの活動期限を1年とし、多くのナースに褥瘡ケアに関わ
ってもらうことを目的の一つとした。回診は、メンバー全員で
毎週1 回 行っている。回診日に合わせてシートを記載し、イン
スタントカメラで写真を撮る事で1週間の変化を確認している。
ケースカンファレンスは、当初半年は毎週、その後は隔週で行い、
褥瘡患者全員のケアの見直しを行っている。
次に褥瘡症例の1例を示す。
〈症例紹介〉
入院までの経過
寝たきりの夫と2人暮らし。娘が介護していたが、夫 の様態が 不良のため、娘がかかりきりとなり、患者にまで十分な介護が出来なくなった。そのためほとんど毎日ベッドで過ごすようになり、褥瘡が発生した。近医の皮膚科医より往診を受け、イソジン 消毒、ユーパスタにて処置が行われていた。発熱、脱水のため平成13年 6月21日に入院となった。
H氏 84歳 女性
R R
患 者 基 本 情 報
褥 瘡 管 理
記載年月日
褥瘡発生日
身 長
褥瘡発生の既往
D M
呼吸機能低下
ラジエーション
拘 縮
ステロイドの長期使用
3ヶ月以内の化学療法
麻 痺
記入者名
有 ・ 無
有 ・ 無
有 ・ 無
有 ・ 無
有 ・ 無
有 ・ 無
有 ・ 無
入院年月日
体 重
ふりがな 病名患者氏名
性 別 男 ・ 女
生 年 月 日
年 齢
カルテ番号
ケース No.
褥瘡管理記録シート 褥瘡管理記録シート
●褥瘡の 局所ケア
●栄養の取り方
●全身の スキンケア
●予防用具
●体位変換 方法と回数
知 覚 湿 潤 活 動 性 可 動 性
血 圧 体 温 体 重
検 査 日
そ の 他
総 蛋 白 アルブミン R B C
W B C C R P そ の 他
Hb
栄 養 摩擦ズレ 合 計
サ イ ズ 深 さ 創 縁 ポケット 壊死のタイプ 壊死の量 浸出液のタイプ
浸出液の量
洗 浄 液
被 覆 材
創周囲色調 周囲浮腫 周囲硬結 肉 芽 表 皮 化 PSST合計
a 後頭部
b 耳(右・左)c 肩甲骨(右・左)d 肘(右・左)
e 脊椎骨 f 仙骨
g 尾骨
h 腸骨(右・左)
i 大転子(右・左) j 座骨結節(右・左) k 大腿(右・左)
l 膝(右・左)m 下肢(右・左)
n 踝(右・左)
o 腫部(右・左)
p 足指(右・左)
q その他
ケースNo.
ふりがな
患者氏名
記載年月日 平成 年 月 日 No.
記入者名
カルテ番号
図1 褥瘡記録用紙
褥瘡対策チームの活動例じょく そう
1 ブレーデンスケール
2 全身状態
3 検査データー
5 P S S T
4 褥瘡部位
6 アセスメント
8 コ メ ント
7 ケ ア 方 法
褥瘡チームの活動例
の感 染 兆 候はなく、柔らかな白 色 壊 死 組 織に覆わ れてい
たため、ブロメライン を使用して壊死組織の除去をはかった。
また低栄養状態のためポケット内側からの肉芽の盛り上がりは
期待できなかった。そこで電気メスにてポケット先端まで一方
向に切開を加えた。ポケット内の壊死組織は認められなかっ
た。次に肉芽の盛り上がりを図るためにフィブラストスプレー と
オルセノン軟膏 を使用し経過を見た。創周囲からの表皮化、
創縮小が見られたが創全体が薄い黄色の皮膜で覆われ感染
を疑い、ゲーベンクリーム を2週間使用して不良肉芽を除去した。
また上下肢関節の拘縮が見られたため四肢どおしが重ならな
いように小枕で調節をした。また日常のケアについては、臀部
全 体を弱酸性石鹸で洗浄し、入浴も出来る限り行った。その
後2 週間で創 収 縮が見られたが尾骨部に1cm大のポケットが
出現した。座位によるずれが原因と考えられた。痴呆があった
ため真夜中から車椅子乗車を希望し、そのまま5 時間以上乗
車していることも珍しくはなかった。そこで車椅子乗車時には、
減 圧クッションを用い、30分毎のリフトアップを行った。その後
ポケットサイズも縮小し退 院時は3.5×4cm、P S S T 27点となっ
た。栄養に対しては、食事を全く口にしない状 況が続き低栄
養状態での褥瘡治癒遅延が懸念された。当初は、点滴と栄養
補助食品を使用しながら食事に興味を持たせるよう働きかけ、
徐々に食事量が増えていった。拘宿に対してはリハビリテーショ
ンを依頼し専門的に行ってもらった。その結果ブレーデンスケー
ルは、10点から16 点に上昇した。退院時に家族にケア方法を
指 導し褥瘡治癒前の 8月18日に自宅へ退院した。後日再入院
してきたときは更なる創の縮小が見られた。
褥瘡対策チームのメンバーは、ナース12名、医師2名、薬剤師
1名とした。この他に、褥瘡委員会自体を運営していくメンバー
を別に決め資材の購入、今後の方針についてなどを話し合う
機関とした。この中にはMSW、管理栄養士、臨床工学士、医事
課職員が加わる。
褥瘡対策チームを発足してから、登録された褥瘡症例数は、
18 3 例にのぼるが、2002 年11月末日の時点では、 褥瘡患者
の登録がされているのは、7例となった。この7例の内6例は、
度の褥瘡である。回診を必要とする症例は激減してきた。
また、症例の登録とは別に褥瘡対策チームの活動開始当初の
2001年9月より半年毎に、時点データを調査することにより院内
の褥瘡患者の状況を把握し評価してきた。1日の大半をベッド
で過ごす患者(自立度B1からC2)は、常に70名程度で変化が
なかった。全患者中の有症率は、2001年9月は、6.3%だったの
が、2002年9月は、4.5%となっている。褥瘡推定発症率(院内
発症の患者のみ)は、2001年9月は、5.1%であったが、2002年
9月は、2.5%と低下した(図5)。
●危険因子の判定
ブレーデンスケールは、10点であった。湿潤、活動性、栄養、
摩擦ズレにおいて点数が悪く各1点であった。アルブミン値は
3.4g/dlであった。左 側
臥 位を好んでとり、促さ
ないと体交をしない状態
であった。
●経過
褥瘡6カ所各々について
褥瘡シートを記入し、褥瘡
対策チームにて治療を開
始し、週1回の回診を行っ
た。除圧用具として、トライ
セル を使用した。仙骨部の
褥瘡(図3,4)は、3×2.5cm
で尾骨方向に4×3cm大
のポケットを有した。PSST
は、4 3点だった。創周囲
3 褥瘡対策チームの活動とその評価
図3
図4
〈入院時の褥瘡状態〉
部 位
仙骨部
左膝外側
左膝内側
左腸骨部
右大転子部
右腸骨部
深 度
度
度
度
度
度
度
R
R
R
R
図2 褥瘡部位とPSST変化
6/20
PS
ST
7/26/25 7/9 7/16
日 付7/23 7/30 8/6
仙骨部左膝外側左膝内側左腸骨
R
また褥瘡重症度をP S S T値で表すと、2 001年 9月は、27.3点
であったのが、2002年9月は、19.3点となっている(図6)。
時点データで見る限り、院内発症の症例が減少しており、持ち
込みの褥瘡症例が増加している。院内で褥瘡を発生させない
よう予防に力を注いでいることが、数字となって表れておりう
れしい限りである。
毎 週 褥 瘡 発 生部 位 分のシートと写 真 が 提 出される。褥
瘡データは、チーム発足当時から相当な量になることが予測さ
れた。シートに記載されたデータを管理するため、 Microsof t
Acce s s 9 7を用いて褥 瘡症例登録情報管理用のデータベース
を自作し、院内LANを介してそれらの情報を共有できるように
した。このデータの入力は、褥瘡チームの医師が行っている。
当院で使用している基本情報記録用紙(シート )、経過観
察と評価の記録用紙(シート )、および写真についてそれぞれ
テーブルを作成し、リレーションを設定しただけの簡単なもので
あるが、症例検討会等では重宝している。活動当初は、慣れる
までシートの記載自体にかなりの時間を要し、担当ナースは遅
くまで残って記載していた。苦労して記載したデータは、毎週
行う症例検討会で使用した。PSSTの点数のつけ方もままなら
ず、合意が得られるまで時間がかかった。毎週行っていた症例
検討会も、回を重ねるほどに活発になり、PSSTの点数化もスム
ースになっていった。またケア方法についても、当初は、一人のナ
ースのアドバイスに委ねていたが、徐々に活発な意見が聞かれる
ようになり、任期終了時にはかなりの成長が感じられた。こうして
出来あがったシートを有効に利用するため、2 0 0 2 年 1 月より、
このデータベースをコンピュータネットワーク上のサーバーに移し、
各病棟のコンピュータで常時閲覧可能な状態にした(図7)。
これにより全ての病棟で毎日の処置前に経過を確認したり、
カンファレンスの際にシートの内容や写真 のデータをコピー・ペ
ーストして利用する事も可能となった。問題は今のところシステ
ムが十分に利用されているとは言えないことであり、この点では
今後スタッフの意識改革が必要であろう。
当院のエアマットは35台程度あり、基本的には中央管理で、
使用終了後保管場所へ返却することになっている。しかし実
際には一度病棟に持ち出されると、その病 棟で使いまわされ
平成13年9月 平成14年3月 平成14年9月
指定発症率有症率
図5 全院の変化
図6 PSST
4 データ管理
図7 東芝病院褥瘡管理データベース
6.3
4.2
2.5
4.5
5.1
3.5
5 エアマット管理
H13.9 H14.3 H14.9
27.3
18.5 19.3
R
褥瘡チームの活動例
保管場所に戻ってこないことが多かった。その結果、機器類
の管理を担当する臨床工学士もエアマットの所在を全く把握
できない状態であり、急に必要な事態が生じた場合も探し出し
て供給することが困難な状況にあった。そこでLAN上にエア
マット管理用のデータベースを作成し、2002年3月よりエアマット
の使用状況と、エアマットが必要な症例について、各病棟で
看護師に入力してもらうようにした。使用状況のリストは使用
開始時に開始日の項目を入力してもらい終了時に終了日の入力
をしてもらうことにした。終了日の入力がされていないエアマ
ットを選べば現在使用中の一覧を表示できる(図8)。
。
またエアマットの空きがない場合、予約入力画面で予約入力
を行う事ができる(図9)。
これらの情報は、即座にメインメニューに表示され全病院で
共有することができる。この画面をチェックし、必要に応じ優先
症例(ブレーデンスケールの点数による)にエアマットを渡すよ
うに采配している。
これらのコンピュータソフトは、褥瘡対策チームの担当医師
が作成した力作である。コンピュータに不慣れな人でも簡単に
操作ができ、エアマットの入力に関しては日常的に使用される
ようになった。
褥瘡の院内発生をできるだけ減らすことが第一の目的で
ある。そのため現在手付かずの状態である栄養サポートの活動
について早急に対処する必要がある。
また現在褥瘡治療の窓口が褥瘡対策チームの他にも、皮
膚科、整形外科等にもあり一本化していない。そのため治療
の標準化がされていない。院内全体の合意のもとに一本化
していきたい。
図8
図9
6 今後の課題