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2019 年度 まちづくり学系 卒業研究概要書 1 屋内全面禁煙が路上喫煙に及ぼす影響とその対策に関する研究 16‐3A180 三宅 皓介 指導教員:西村 亮彦 喫煙所は,タバコを嗜むとともに友人と交流する社交の場である.健康増進法の一部改正により,公共の場をはじめ 民間施設も含む屋内空間から喫煙所が姿を消しつつある.国士舘大学でも屋内喫煙所の廃止を皮切りに,敷地内全面禁 煙を検討しているが,これにより学生による路上喫煙が増加する恐れがあることから,各種の禁煙措置を講じた際に予 想される路上喫煙の状況を事前に把握する必要があると言える.そこで, 本研究では,国士舘大学の学生による喫煙所及 び路上での喫煙の現況,及び大学敷地内の屋内を全面禁煙した際に想定される学生による路上喫煙の状況を把握すると ともに,喫煙所を設ける際の効果的な配置や設備等のハード対策,及びソフト対策を明らかにすることで,非喫煙者の 受動喫煙を抑制する方法を検討した. キーワード : 路上喫煙,健康増進法,受動喫煙,世田谷区,喫煙所 1.はじめに (1) 研究の背景と位置づけ 2018年7月に健康増進法の一部を改正する法律が成立 し,2020年4月1日より全面施行されることになった. 本法律により,望まない受動喫煙を防止するための取 り組みとして,2019年7月に多くの施設において屋内が 原則禁煙となる. これにより,第一種施設といわれる学校・病院・児 童福祉施設等,及び行政機関は原則敷地内を禁煙とす ることとなっている.国士舘大学でも今回の法改正を 受け,2020年4月に大学敷地内の屋内を全面禁煙にする 方針を打ち出している. しかしながら,大学敷地内の屋内から喫煙スペース がなくなることによって,学生による路上喫煙が増加 する恐れがある.このことから,本大学を全面禁煙し た場合に想定される,学生による路上喫煙の状況を事 前に把握する必要があると言える.また,屋外に喫煙 所を設けた場合も,喫煙所からはみ出して喫煙する者 が出てくる可能性も考えられることから,大学内にお ける喫煙所の適正の配置・規模についても検討する必 要がある. 路上喫煙に関する研究として,喫煙者が路上で喫煙 する際の空間を分類した中江ら¹⁾,静岡大学の大学生を 対象に路上喫煙の状況とその対策を提言した塚本²⁾の研 究等があるが,今回の法改正後に想定される路上喫煙 の状況に関する研究はまだ見られない. (2) 研究の目的 本研究では,①国士舘大学の学生による喫煙所及び 路上での喫煙の現況を把握した上で,②大学敷地内の 屋内を全面禁煙した際に想定される学生による路上喫 煙の状況を把握するとともに,③喫煙所を設ける際の 効果的な配置を明らかにすることで,④非喫煙者の受 動喫煙を抑制する方法を検討することを目的とする (3) 研究の方法 まず,国士舘大学周辺で路上喫煙の目視調査・痕跡 調査を行い,屋内喫煙所が閉鎖された2019年8月前後に おける路上喫煙の実態を把握する(3章).次に,国士舘 生へのアンケートにより,主な喫煙場所や喫煙所の利 用方法,路上喫煙対策についての意見などを把握する(4 章).最後に,屋内全面禁煙が路上喫煙に及ぼす影響と その対策について考察する(5章). 2.調査の概要 (1) 対象地選定の理由 梅ヶ丘駅・松陰神社前駅間の国士舘大学周辺を対象 エリアとする.本調査に先立ち,キャンパス一帯の巡 回,及び総務課・学生厚生課に対するヒアリングを実 施し,喫煙所以外での主な学生の喫煙場所を特定し, これを調査対象地として設定した.(図-1) 図-1 調査対象地 2018年1月より世田区内の道路・公園は全面禁煙とな っていることから,2019年8月から経過措置として行わ れる国士舘大学の屋内における全面禁煙の前後の状況 を比較することで,屋内全面禁煙が路上喫煙に及ぼす 影響を想定できるとともに,喫煙所を設ける際の効果 的な配置・規模が明らかになると考えた. なお,8号館1階に設置されていた喫煙所は,2019年8 月1日に封鎖され,代わりに屋外喫煙所が設置された. 屋外喫煙所は,940×940×2300(mm)の1人用喫煙ボックス で,2019年11月末まで1号館裏,10号館前,24号館裏,34 号館1階,地域文化交流センター,柴田会館に設置され ていたが,2019年12月1日に24号館裏,34号館1階,地域 文化交流センター,柴田会館へと再配置が行われた. ① 若林公園脇 ② 緑道 ③ 34号館B棟屋上 ④ 通学路(梅ヶ丘方面)

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2019 年度まちづくり学系卒業研究概要書

1

屋内全面禁煙が路上喫煙に及ぼす影響とその対策に関する研究

16‐3A180 三宅 皓介

指導教員:西村 亮彦

喫煙所は,タバコを嗜むとともに友人と交流する社交の場である.健康増進法の一部改正により,公共の場をはじめ民間施設も含む屋内空間から喫煙所が姿を消しつつある.国士舘大学でも屋内喫煙所の廃止を皮切りに,敷地内全面禁煙を検討しているが,これにより学生による路上喫煙が増加する恐れがあることから,各種の禁煙措置を講じた際に予想される路上喫煙の状況を事前に把握する必要があると言える.そこで, 本研究では,国士舘大学の学生による喫煙所及び路上での喫煙の現況,及び大学敷地内の屋内を全面禁煙した際に想定される学生による路上喫煙の状況を把握するとともに,喫煙所を設ける際の効果的な配置や設備等のハード対策,及びソフト対策を明らかにすることで,非喫煙者の受動喫煙を抑制する方法を検討した.

キーワード : 路上喫煙,健康増進法,受動喫煙,世田谷区,喫煙所

1.はじめに (1) 研究の背景と位置づけ

2018年7月に健康増進法の一部を改正する法律が成立

し,2020年4月1日より全面施行されることになった.

本法律により,望まない受動喫煙を防止するための取

り組みとして,2019年7月に多くの施設において屋内が

原則禁煙となる.

これにより,第一種施設といわれる学校・病院・児

童福祉施設等,及び行政機関は原則敷地内を禁煙とす

ることとなっている.国士舘大学でも今回の法改正を

受け,2020年4月に大学敷地内の屋内を全面禁煙にする

方針を打ち出している.

しかしながら,大学敷地内の屋内から喫煙スペース

がなくなることによって,学生による路上喫煙が増加

する恐れがある.このことから,本大学を全面禁煙し

た場合に想定される,学生による路上喫煙の状況を事

前に把握する必要があると言える.また,屋外に喫煙

所を設けた場合も,喫煙所からはみ出して喫煙する者

が出てくる可能性も考えられることから,大学内にお

ける喫煙所の適正の配置・規模についても検討する必

要がある.

路上喫煙に関する研究として,喫煙者が路上で喫煙

する際の空間を分類した中江ら¹⁾,静岡大学の大学生を

対象に路上喫煙の状況とその対策を提言した塚本²⁾の研

究等があるが,今回の法改正後に想定される路上喫煙

の状況に関する研究はまだ見られない.

(2) 研究の目的

本研究では,①国士舘大学の学生による喫煙所及び

路上での喫煙の現況を把握した上で,②大学敷地内の

屋内を全面禁煙した際に想定される学生による路上喫

煙の状況を把握するとともに,③喫煙所を設ける際の

効果的な配置を明らかにすることで,④非喫煙者の受

動喫煙を抑制する方法を検討することを目的とする

(3) 研究の方法

まず,国士舘大学周辺で路上喫煙の目視調査・痕跡

調査を行い,屋内喫煙所が閉鎖された2019年8月前後に

おける路上喫煙の実態を把握する(3章).次に,国士舘

生へのアンケートにより,主な喫煙場所や喫煙所の利

用方法,路上喫煙対策についての意見などを把握する(4

章).最後に,屋内全面禁煙が路上喫煙に及ぼす影響と

その対策について考察する(5章).

2.調査の概要

(1) 対象地選定の理由

梅ヶ丘駅・松陰神社前駅間の国士舘大学周辺を対象

エリアとする.本調査に先立ち,キャンパス一帯の巡

回,及び総務課・学生厚生課に対するヒアリングを実

施し,喫煙所以外での主な学生の喫煙場所を特定し,

これを調査対象地として設定した.(図-1)

図-1 調査対象地

2018年1月より世田区内の道路・公園は全面禁煙とな

っていることから,2019年8月から経過措置として行わ

れる国士舘大学の屋内における全面禁煙の前後の状況

を比較することで,屋内全面禁煙が路上喫煙に及ぼす

影響を想定できるとともに,喫煙所を設ける際の効果

的な配置・規模が明らかになると考えた.

なお,8号館1階に設置されていた喫煙所は,2019年8

月1日に封鎖され,代わりに屋外喫煙所が設置された.

屋外喫煙所は,940×940×2300(mm)の1人用喫煙ボックス

で,2019年11月末まで1号館裏,10号館前,24号館裏,34

号館1階,地域文化交流センター,柴田会館に設置され

ていたが,2019年12月1日に24号館裏,34号館1階,地域

文化交流センター,柴田会館へと再配置が行われた.

①若林公園脇

②緑道

③34号館B棟屋上

④通学路(梅ヶ丘方面)

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2019 年度 まちづくり学系 卒業研究中間概要書

2

(2) 調査の内容

国士舘大学の学生による喫煙の現状を把握するため,

国士舘大学周辺における目視調査と痕跡調査,及び喫

煙者に対するアンケート調査を実施した.

目視調査は,屋内喫煙所があった2019年7月17日と,

屋外喫煙所に変更後の2019年10月16日の2回,図-1に示

す①〜④の4箇所で実施した.事前調査に基づき,喫

煙者が多い時間として,10時10分〜11時,12時05分~12

時55分,14時05分〜14時55分,15時50分〜16時40分の4つ

の時間帯における喫煙者の数,姿勢,吸い殻の処理方

法,付随する行動(会話・通話・スマホ・音楽・飲食)

等のデータを収集した.

痕跡調査は,屋内喫煙所があった2019年7月22日から

29日にかけて①〜③の3箇所で,屋内禁煙後の2019年11

月18日から2019年11月22日にかけて①〜③と各屋外喫煙

所の周りを足した合計9箇所で実施した.タバコの吸い

殻を毎日8時30分に回収し,数をカウントした.

アンケート調査は,まず,屋内喫煙所があった2019年

7月23日から29日にかけて,8号館1階喫煙所,若林公園,

34号館B棟の屋上で第1回調査を実施した.調査票には,

性別,学年,学部,よくいる学内の場所,1日あたりの

喫煙本数,主な喫煙場所とその理由など,10の質問項目

を設定した.第2回調査は,屋内禁煙後の2019年12月16

日から2019年12月20日にかけて,34号館にある屋外喫煙

所,若林公園,地域交流文化センターで実施した.調

査票には,屋外喫煙所の利用方法,路上喫煙者に対す

る罰則に対する意見,許容できる喫煙所の人口密度,

喫煙所に置きたい設備など,14の質問項目を設定した.

また,2019年12月16日と2019年12月23日に34号館屋外

喫煙所と若林公園でパネルアンケートを実施した.国

士舘大学世田谷キャンパスの地図を貼ったパネルを用

いて,喫煙所を設置して欲しい場所にシールを貼って

もらった.

3.国士舘大学周辺における喫煙の観察調査 (1) 国士舘大学周辺における路上喫煙の目視調査

各対象地における時間帯別の喫煙者数を図-2に整理し

た.1日の喫煙者数は,前期・後期ともに①若林公園

が最も多く,特に昼休みに集中していることが分かっ

た.③34号館屋上では,前期に1日を通して多数の喫煙

者が見られたが,後期には喫煙禁止のポスターや監視

カメラが設置されたこと,34号館1階に屋外喫煙所が設

置されたことにを受けて,大幅に人数が減少したもの

と考えられる.主に34号館を利用する学生が,前期は帰

宅途中に④通学路で喫煙する傾向にあったが,後期に34

号館1階の屋外喫煙所が設置されたことを受けて,喫煙

所に寄ってから帰宅する習慣ができ,④通学路での路

上喫煙が減少したものと考えられる.

図-2 各対象地における時間帯別の喫煙者

(2) 国士舘大学周辺における痕跡調査

喫煙所以外の場所における場所別・曜日別の吸い殻

数を図-3に整理した.前期の痕跡調査では,1週間の吸

い殻の総数は1265本で,その内の約73.6%は若林公園で

回収したものだった.1日あたりのポイ捨て数を算出

すると,平均253.0本だった.曜日別で見ると,水曜日

と木曜日がそれぞれ1日あたり約290本と多く,この2

日間で全体の46.3%を占めていた.この理由として,水

曜日と木曜日の登校者数が多いことが考えられる.

後期に行った痕跡調査では,1週間の吸い殻の総数

は797本で,その内の85.9%は前期と同様,若林公園で

回収したものであった.1日当たりのポイ捨て数を算

出すると,平均159.4本だったことから,全体的に前期

より喫煙所外での喫煙が減少したものと考えられる.

理由として,屋外喫煙所が各所に置かれたことで,喫

煙者たちが分散したことが挙げられる.また,場所別

に見ると,若林公園についてはシルバー人材センター

のスタッフによる頻繁な注意喚起が始まったこと,34号

館屋上については34号館前に屋外喫煙所が設置されたこ

とを受けて,ポイ捨て数が減ったものと考えられる.

図-3 場所別・曜日別タバコの吸い殻数

931

27757

611

1788

0

200

400

600

800

1000

若林公園 34号館屋上 緑道

場所別 吸い殻の総数(本)

前期 後期

18.616.6

22.5 23.8

18.5

23.8

18.2

13.9

20.523.6

0

5

10

15

20

25

月 火 水 木 金

曜日別 吸い殻の割合(%)

前期 後期

18

60

44

32

1 0 1 28

3021 18

0 1 1 0

010203040506070

10:10:00~11:00 12:05~12:55 14:05~14:55 15:50~16:40

①若林公園脇

男(前期) 女(前期)男(後期) 女(後期)

2 08

00 0 0 00 1 4 30 09

0

010203040506070

10:10:00~11:00 12:05~12:55 14:05~14:55 15:50~16:40

②緑道

男(前期) 女(前期)男(後期) 女(後期)

8

30 2633

0 3 0 209

147

0 0 3 2

010203040506070

10:10:00~11:00 12:05~12:55 14:05~14:55 15:50~16:40

③34号館屋上

男(前期) 女(前期)男(後期) 女(後期)

10 9 9

28

0 0 0 05

187 7

0 1 0 0

010203040506070

10:10:00~11:00 12:05~12:55 14:05~14:55 15:50~16:40

④通学路

男(前期) 女(前期)男(後期) 女(後期)

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2019 年度まちづくり学系卒業研究概要書

また,後期について,各屋外喫煙所周りを含めた

場所別の吸い殻数を図-4に整理した.1週間の吸い

殻の総数は1296本だった.1日当たりのポイ捨て数

を算出すると平均259.2本で,前期に行った調査時

の総数とあまり変わらなかった.場所別に見えると,

喫煙所が近くにない若林公園が,際立って多かった.

一方,喫煙所内に灰皿があるにも関わらず,34号館

や5号館の屋外喫煙所周辺では多数の吸い殻が確認

された.喫煙所を利用しにくる学生は,グループで

あることが多く,1人用の喫煙ボックスからどうし

てもはみ出してしまうことによるものと考えられる.

図-4 屋外喫煙所周りを含めた吸い殻の総数

4.アンケート調査 (1) 喫煙の実態・意識について

前期に行ったアンケート調査では,8号館1階屋内

喫煙所で45人,若林公園で31人,34号館屋上で13人,

合計89人から回答を得ることができた.後期に行っ

たアンケート調査では,34号館屋外喫煙所で40人,

地域文化交流センター屋外喫煙所で4人,若林公園

で27人,合計72人から回答を得た.

学部別の主な喫煙場所を図-5に整理した.前期に

は路上喫煙していると回答した学生が多くいたが,

後期には喫煙所で喫煙すると回答した学生の割合が

どの学部でも50%を超えていた.特に政経学部と文

学部では,70%近くの学生が喫煙所で喫煙している

と回答していたが,普段よくいる場所の近くに屋外

喫煙所ができたことがその理由と考えられる.

喫煙所以外で喫煙していると回答した者に聞いた,

喫煙所以外で喫煙する理由を図-7に整理した.春期

の調査では,「混んでいる」・「空気が悪い」・

「遠い」など,喫煙所の環境や立地の悪さに係る回

答が多かった.これに対し,秋期の調査では,「混

んでる」・「空気が悪い」と答えた回答者の数が大

幅に減少した.これは,新たに設置された屋外喫煙

所が個人用で,従来の屋内喫煙所のように混雑した

り空気が悪くなることがないためだと考えられる.

一方,屋外喫煙所の利用方法(図-7)に着目する

と,「BOXの中」で喫煙している学生の割合はわず

か25%に止まり,「たまにBOXの中で」と「BOXの外」

を合わせ,実に75%の学生が屋外喫煙所の周辺で喫

煙していることが分かった.屋外喫煙所の利用方法

について,ルールを設ける等の対策を講じる必要が

あると言える.また,図-6で「遠い」が増えている

ことからも,屋外喫煙所の配置についても検討が必

要であることが分かった.

図-5 学部別の主な喫煙場所に関する回答結果

図-6 喫煙所以外で喫煙する理由に関する回答結果

図-7 屋外喫煙所の利用方法に関する回答結果

(2) ハード対策について

喫煙者に屋外喫煙所の設置希望場所を尋ねたパネ

ルアンケートでは,全部で126人から図-8に示す回

答を得ることができた.2019年7月末まで屋内喫煙

所が設置されていた8号館とMCHがそれぞれ24票・20

票と最も多かった.ルーフガーデンでの喫煙者が常

態化していた34号館にも17票,2019年11月末まで屋

外喫煙所が設置されていた10号館前・1号館裏にも

それぞれ18票・6票と多くの票が集まったことから,

かつて喫煙所が設置されていた場所へのニーズが高

いことが分かった.

また,7号館やMCHの周辺に理工学部の学生,34号

館に政経学部の学生による票が集まっていることな

どからも,全体的な傾向として,普段利用する講義

室や研究室から近い場所への設置を希望する傾向が

見受けられた.

なお,改正後の健康増進法では,人通りの多い場

所における屋外喫煙所の設置が認められていないこ

とから,票が多く集まった場所の内,10号館前や7

号館裏の通路への設置は現実的には難しいと考えら

れる.以上を踏まえると,屋外喫煙所を設置する際

の候補として,34号館B棟屋上,1号館の裏,7号館

屋上,10号館裏があげられる.

39 37

1910

4 2

199

24

71 1

0

20

40

60

喫煙所以外で喫煙する理由

前期 後期

14

35

19

4

010203040

Boxの中 たまに中 Boxの外 未記入

後期・屋外喫煙所の利用方法

59.1 50.025.6

52.0 50.0

18.2

6.7

20.9

12.04.7

6.8

4.74.0

9.1

16.732.6

24.0 50.0

2.3

13.37.0 4.06.72.3

4.5 6.7 2.34.0

0%

20%

40%

60%

80%

100%

政経 理工 法学 文学 経営

前期(2019年7月)

8号館喫煙所 34屋上非常階段 大学敷地内若林公園 通学路緑道 民間施設その他

68.4 61.9 52.466.7

50.0

7.9 14.3

10.0

2.6 4.813.2 9.5

38.120.0 30.0

9.56.7 10.04.8 3.37.9 4.8 3.3

0%

20%

40%

60%

80%

100%

政経 理工 法学 文学 経営

後期(2019年12月)

屋外喫煙所 34屋上非常階段 大学敷地内若林公園 通学路緑道 民間施設その他

178

611

884

155

1

226

33 00

200

400

600

800後期・場所別 吸い殻の総数(本)

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2019 年度 まちづくり学系 卒業研究概要書

4

図-8 屋外喫煙所の設置提案

喫煙所に設置して欲しい設備に関するアンケート

調査では,吸煙機,冷暖房,イスと答えた喫煙者が

多かった.2019年8月に導入された屋外喫煙所はこ

れらの設備を備えておらず,空気が悪い,夏暑く冬

寒い,座る場所がないことから,このような回答が

多かったものと思われる.以上の結果からも,喫煙

者は屋外喫煙所に居心地の良さを高める設備を求め

ていることがうかがえた.

また,許容できる喫煙所の混み具合の限界に関す

るアンケート調査では,約30%の学生が1.33人/㎡

と回答し,全体平均は1.36人/㎡であった.

(3) ソフト対策について

路上喫煙が発覚した際の罰則を設けた場合,どの

程度の厳しさであれば路上喫煙を控えるか,喫煙者

に質問した.罰則の内容は,罰金,単位取り消し,

停学,清掃活動への参加,マナー講習への参加の5

つの項目を設定した.全体的に,たとえ軽微な程度

であっても,罰則が設けられるのであれば路上喫煙

を控えるとの回答が目立った.項目毎に回答の平均

値をとると,罰金では5,705円,単位取り消しでは3

単位,停学では1週間,清掃活動では26分,マナー

講習では25分が,路上喫煙を控えるか否かの閾値と

なった.

5.まとめ・結論

(1) 調査・分析結果のまとめ

1)目視調査の結果,後期に入り,若林公園や34号館

屋上よりもアクセスが良い場所に屋外喫煙所が設

置されたことを受け,喫煙所以外の場所で喫煙す

る学生が減少したことが分かった.なお,細かい

喫煙状況に着目すると,若林公園については,前

期は広範囲に広がって喫煙する光景が見られたが,

シルバー人材センターのスタッフによる注意喚起

を受け,より見えにくい物陰等で喫煙するように

なった.また,34号館屋上についても,前期は

堂々と喫煙していたが,後期に入り監視カメラが

設置されたこと等を受け,こちらも監視カメラの

死角などに隠れながら喫煙するようになった.

2)痕跡調査の結果,屋内喫煙所を廃止し,屋外喫煙

所を設置しても,ポイ捨ての総数は変化ないこと

が分かった.後期に導入された屋外喫煙所のいく

つかは,学生のニーズを満たす配置ではあったも

のの,設備が1人用の喫煙ボックスだったため,

結果的に収容能力を超えた喫煙者が屋外喫煙所の

周りに大量にポイ捨てする結果を招いてしまった.

3)アンケート調査でも,立地や環境が悪く不評だっ

た従来の屋内喫煙所が閉鎖され,代わりに屋外喫

煙所が導入されたことで,喫煙所の利用率自体は

増加したものの,喫煙ボックスの外で喫煙する人

が大半を占めていたことが分かった.

(2) 結論

前期・後期で喫煙所の配置や仕様が変わってもポ

イ捨ての総数に大きな変化がなかった.このことは,

図-9に示すよう,前期に喫煙所を利用していた学生

の一部が後期から路上喫煙をするように,前期に路

上喫煙をしていた学生の一部が後期から喫煙所を利

用するようになったことを示している.

図-9 喫煙者の流れ

今後,屋内喫煙所から喫煙所外へと流れた学生に

いかに屋外喫煙所を利用してもらうか,そして喫煙

所周りにポイ捨てが発生しないような屋外喫煙所の

規模や仕様を検討することが望まれる.本稿では,

調査結果を踏まえながら,以下のようなハード・ソ

フトの対策を提案する.

<ハード対策>

・1人用の喫煙ボックスではなく,混雑時でも1.3

人/㎡の人口密度を上回らなゆとりある喫煙所

・8号館・MCH・34号館・10号館・1号館の屋上また

は付近で,人通りが少ない場所に喫煙所を配置

・吸煙機,椅子,冷暖房といった利用者の居心地

に配慮した設備を喫煙所に搭載

・灰皿を複数設置

<ソフト対策>

・シルバー人材センターのスタッフや警備員,大

学側から直接の注意喚起を行う

・試験的に,清掃活動やマナー講習といった軽微

な内容のものから,違反者への罰則を導入する

参考文献 1) 中江拓二郎,松本邦彦,澤木昌典:路上喫煙禁止地

区における喫煙者の滞留空間の特徴-神戸市三宮・元

町地区を事例に-日本都市計画学会関西支部研究発表

会講演概要集,16巻,p.65-68,2018

2) 塚本博之:大学生の喫煙の実態について~平成18年度静岡産業大学情報学部新入生を対象として~静岡

産業大学情報学部研究紀要,№9,p.57-70,2007

3) 「厚生労働省:受動喫煙対策」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/buny

a/0000189195.html

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

後期

前期

喫煙所で喫煙している← →喫煙所外で喫煙している