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38 Profile ─米田英嗣 自然科学研究機構生理学研究所PD, ウィスコンシン大学マディソン校 Post-Doctoral Fellow,ノースウェス タン大学Visiting Scholar,カーネギー メロン大学 Research Psychologistを 経て現職。専門は認知心理学,自閉ス ペクトラム症。著書は『脳の発達科 学(発達科学ハンドブック8)』(共編, 新曜社)など。 子どもと育つ米英留学 京都大学白眉センター 特定准教授 米田英嗣 (こめだ ひでつぐ) 私は,学術振興会特別研究員 PDの途中からアメリカで研究滞 在を始めました。すぐに帰国した かったのですが,厳しい就職事情 もあり,海外学術振興会特別研究 員としてアメリカで研究を続け, ピッツバーグにあるカーネギーメ ロン大学心理学部のMarcel Just 先生の研究室(認知脳機能イメー ジングセンター)で働きました。 とても厳しいラボで,Just先生は 毎日,ラボメンバーに進捗を伺い に突然現れるので,常に緊張感が 漂っていました。Just研究室で は,自閉スペクトラム症の高次認 知機能についての研究に加えて, 言語理解に関わる機械学習プロ ジェクトに参画させていただき, 自分の知識を広げることができて とても勉強になりました。 研究には非常に厳しい Just 先生 でしたが,生活についてはいつも 気にかけてくださり,息子の誕生 の前に,Just先生の長男が使って いたというベビーベッドを貸して くださることになりました。息子 の誕生から1歳の間まで,そのベッ ドを使わせていただきました。 Just先生は子どもを見るととても 優しいお顔になり,抱っこをする のも私よりも上手なくらいでした。 研究ではストイックで,家庭では 優しい姿に感銘を受けました。 2015年 か ら2016年 秋 ま で 渡 英し,ロンドン大学ゴールドスミ ス校で研究滞在をする機会に恵 まれました。ロンドン大学では, Elisabeth Hill先生の研究室で,発 達性協調運動障害を持つ成人の 時間知覚と共感性の関係について 研究をしてきました。とても雰囲 気の良いラボで,学校現場に近い フィールドで研究をしている人や, 本格的な神経科学の研究者たち が,おだやかにディスカッションを する,居心地の良い研究室でした。 息子は3歳から4歳になるとこ ろで,現地の保育園に入りまし た。その保育園はインターナショ ナルなところで,イギリス人の他 に,イタリア,フランス,オースト ラリア,インド,中国と様々な国 から来られた先生と園児がいて, 素晴らしい雰囲気でした。親同士 の交流もあり,お友達の家に招待 されたり,自分のアパートにお友 達を呼んだりと,文化の理解と言 語の勉強という意味で,親のほう が成長できました。日本文化に ついてよくきかれましたが,わか らないことが多く,日本について もっと知らなくてはと強く思いま した。その後,息子は地域の公立 小学校に入りました。イギリスで は日本の保育園年中組の 9 月から Receptionという小学校0年生が 始まります。 このように,アメリカとイギリ スで滞在することができました が,印象として,アメリカのほう が自由で,他の人の目が気になら ないと思いました。アメリカに いるときは自己主張を強くしなく てはならない場面が多く,日本人 パーソナリティを多少なりとも変 える必要がありました。一方で, イギリスでは,日本人のパーソナ リティを変えることなく生活する ことができると思いました。病院 に関して,アメリカの医療は,待 ち時間の少なさ,専門性の高さ, 医療スタッフのフレンドリーさ という点で素晴らしいと思いま した。ただ,保険費用がとても高 かったです。イギリスの医療は無 料ですが,そのぶん長く待たされ たり,専門性の面で疑問があるこ とも多かったです。 アメリカとイギリスは,文化の 面で対極にあり,日本はその中間 (ややイギリス寄り)にあるよう な印象を受けました。留学の機会 を与えてくださった皆様,現地で お世話になったすべての方々に厚 くお礼を申し上げます。 ピッツバーグ動物園にて,0 歳の 息子と。

子どもと育つ米英留学2015年から2016年秋まで渡 英し,ロンドン大学ゴールドスミ ス校で研究滞在をする機会に恵 まれました。ロンドン大学では,Elisabeth

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Page 1: 子どもと育つ米英留学2015年から2016年秋まで渡 英し,ロンドン大学ゴールドスミ ス校で研究滞在をする機会に恵 まれました。ロンドン大学では,Elisabeth

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Profile─米田英嗣自然科学研究機構生理学研究所PD,ウィスコンシン大学マディソン校Post-Doctoral Fellow,ノースウェスタン大学Visiting Scholar,カーネギーメロン大学Research Psychologistを経て現職。専門は認知心理学,自閉スペクトラム症。著書は『脳の発達科学(発達科学ハンドブック8)』(共編,新曜社)など。

子どもと育つ米英留学京都大学白眉センター 特定准教授

米田英嗣(こめだ ひでつぐ)

 私は,学術振興会特別研究員PDの途中からアメリカで研究滞在を始めました。すぐに帰国したかったのですが,厳しい就職事情もあり,海外学術振興会特別研究員としてアメリカで研究を続け,ピッツバーグにあるカーネギーメロン大学心理学部のMarcel Just先生の研究室(認知脳機能イメージングセンター)で働きました。とても厳しいラボで,Just先生は毎日,ラボメンバーに進捗を伺いに突然現れるので,常に緊張感が漂っていました。Just研究室では,自閉スペクトラム症の高次認知機能についての研究に加えて,言語理解に関わる機械学習プロジェクトに参画させていただき,自分の知識を広げることができてとても勉強になりました。 研究には非常に厳しいJust先生でしたが,生活についてはいつも気にかけてくださり,息子の誕生の前に,Just先生の長男が使っていたというベビーベッドを貸してくださることになりました。息子の誕生から1歳の間まで,そのベッドを使わせていただきました。Just先生は子どもを見るととても優しいお顔になり,抱っこをするのも私よりも上手なくらいでした。研究ではストイックで,家庭では優しい姿に感銘を受けました。 2015年 か ら2016年 秋 ま で 渡英し,ロンドン大学ゴールドスミス校で研究滞在をする機会に恵まれました。ロンドン大学では,Elisabeth Hill先生の研究室で,発達性協調運動障害を持つ成人の時間知覚と共感性の関係について

研究をしてきました。とても雰囲気の良いラボで,学校現場に近いフィールドで研究をしている人や,本格的な神経科学の研究者たちが,おだやかにディスカッションをする,居心地の良い研究室でした。 息子は3歳から4歳になるところで,現地の保育園に入りました。その保育園はインターナショナルなところで,イギリス人の他に,イタリア,フランス,オーストラリア,インド,中国と様々な国から来られた先生と園児がいて,素晴らしい雰囲気でした。親同士の交流もあり,お友達の家に招待されたり,自分のアパートにお友達を呼んだりと,文化の理解と言語の勉強という意味で,親のほうが成長できました。日本文化についてよくきかれましたが,わからないことが多く,日本についてもっと知らなくてはと強く思いました。その後,息子は地域の公立小学校に入りました。イギリスでは日本の保育園年中組の9月からReceptionという小学校0年生が始まります。 このように,アメリカとイギリスで滞在することができましたが,印象として,アメリカのほうが自由で,他の人の目が気にならないと思いました。アメリカにいるときは自己主張を強くしなくてはならない場面が多く,日本人パーソナリティを多少なりとも変える必要がありました。一方で,イギリスでは,日本人のパーソナリティを変えることなく生活することができると思いました。病院に関して,アメリカの医療は,待

ち時間の少なさ,専門性の高さ,医療スタッフのフレンドリーさという点で素晴らしいと思いました。ただ,保険費用がとても高かったです。イギリスの医療は無料ですが,そのぶん長く待たされたり,専門性の面で疑問があることも多かったです。 アメリカとイギリスは,文化の面で対極にあり,日本はその中間

(ややイギリス寄り)にあるような印象を受けました。留学の機会を与えてくださった皆様,現地でお世話になったすべての方々に厚くお礼を申し上げます。

ピッツバーグ動物園にて,0歳の息子と。