30
23 支配従属会社間の組織再編における従属会社の 少数株主保護 はじめに 周知の通り、平成 17 年に成立した会社法は、組織再編行為について法 整備をし、企業グループの再編成がそれまでよりも行いやすい法制度を実 現した。組織再編制度を用いることにより、従属会社から少数株主が締め 出され、従属会社に少数株主が存在しなくなるという意味で、支配従属関 係は解消される 1 独立当事者間の組織再編行為とは異なり、上述のような支配従属関係の 解消を実現する組織再編行為には、従来から次のような問題が示されてい 2 。すなわち、長年支配従属関係にある会社どうしが取引を繰り返し、 取引を通じて従属会社の企業価値が不当に低下されていたという状況で両 社が合併する場合には、公正な合併比率が定められることが確保されるべ きである 3 。また、合併比率の交渉について支配会社が従属会社の取締役 に対し影響力を行使しうることから、合併比率の公正に疑念が生じやすく、 従属会社の少数株主保護が考慮されるべきである 4 。さらに、支配従属会 1 従属会社の債権者保護の観点からは、依然として、支配従属関係は存在する。 2 江頭憲治郎『結合企業法の立法と解釈』253 頁以下(有斐閣、1995 年)。 3 江頭・前掲注(2255 頁参照。 4 江頭・前掲注(2269 頁参照。江頭説は、公正な合併比率を定めることは、 特に交付金合併の場合に難しく、従属会社の少数株主保護の要請が高まることを 示唆する。江頭・前掲注(2272 頁以下。金銭を対価とする組織再編行為の場合 に対価の公正を確保するためには、手続上の規制が重要であると言われている。 北村雅史「企業結合の形成過程」森本滋編著『企業結合法の総合的研究』19

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七八

23

支配従属会社間の組織再編における従属会社の

少数株主保護

坂 本 達 也

Ⅰ はじめに

 周知の通り、平成 17年に成立した会社法は、組織再編行為について法

整備をし、企業グループの再編成がそれまでよりも行いやすい法制度を実

現した。組織再編制度を用いることにより、従属会社から少数株主が締め

出され、従属会社に少数株主が存在しなくなるという意味で、支配従属関

係は解消される 1。

 独立当事者間の組織再編行為とは異なり、上述のような支配従属関係の

解消を実現する組織再編行為には、従来から次のような問題が示されてい

る 2。すなわち、長年支配従属関係にある会社どうしが取引を繰り返し、

取引を通じて従属会社の企業価値が不当に低下されていたという状況で両

社が合併する場合には、公正な合併比率が定められることが確保されるべ

きである 3。また、合併比率の交渉について支配会社が従属会社の取締役

に対し影響力を行使しうることから、合併比率の公正に疑念が生じやすく、

従属会社の少数株主保護が考慮されるべきである 4。さらに、支配従属会

1 従属会社の債権者保護の観点からは、依然として、支配従属関係は存在する。

2 江頭憲治郎『結合企業法の立法と解釈』253頁以下(有斐閣、1995年)。

3 江頭・前掲注(2)255頁参照。

4 江頭・前掲注(2)269頁参照。江頭説は、公正な合併比率を定めることは、

特に交付金合併の場合に難しく、従属会社の少数株主保護の要請が高まることを

示唆する。江頭・前掲注(2)272頁以下。金銭を対価とする組織再編行為の場合

に対価の公正を確保するためには、手続上の規制が重要であると言われている。

北村雅史「企業結合の形成過程」森本滋編著『企業結合法の総合的研究』19頁

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七七

24 支配従属会社間の組織再編における従属会社の少数株主保護(坂本)

社間の組織再編行為の場合には、従属会社の取締役会が支配会社の影響力

の下にあることから、当事会社に関する情報が企業内部情報として株主に

開示されない危険がある 5。以上のような問題が支配会社および従属会社

間の組織再編行為には存在する。

 イギリスの 2006年会社法(Companies Act 2006)においては、企業グルー

プまたは会社間の支配従属関係の再編等を実現する手段として、Part 26

に置かれている整理および改造(Arrangement and Reconstruction)制度があ

る 6。本稿以下では、2006年会社法における整理および改造制度の概観を

述べ、その後、日本において支配会社および従属会社間の組織再編行為に

おける従属会社の少数株主保護に関して規制案を提案する主な学説に関し

て考察を加えたうえで、日本法の示唆を提示する。

Ⅱ イギリス会社法における整理および改造制度

1 整理および改造制度が用いられる場面

 整理および改造制度に関して、条文が Joint Stock Companies Arrangement

Act 1870に置かれた時には、債権者との整理にのみ、実際には清算の

過程において会社によって提案された整理にのみ適用された 7。1900年

(商事法務、2009年)。このほか、支配会社および従属会社間の交付金合併また

は共通の支配会社を持つ従属会社間の交付金合併の問題点を論ずる文献として、

藤田友敬「企業再編対価の柔軟化・子会社の定義」ジュリスト 1267号 103頁(2004年)がある。支配会社および従属会社間の交付金合併については、質の高い情報

開示、独立した評価人による評価、少数派の多数の賛成を要求すべきであるとい

う趣旨の見解を示すものとして、中東正文『企業結合法制の理論』137頁(信山社、

2008年)がある。

5 江頭・前掲注(2)277頁。

6 整理および改造制度は、会社の再編等に用いられるものであるが、企業グルー

プまたは会社間の支配従属関係の再編等にも使われる。整理および改造制度の特

別規制として、Part 27がある。

整理および改造制度の条文の翻訳として、イギリス会社法制研究会「イギリス会

社法」626頁以下(成文堂、2017年)がある。ただし、本稿との関係では、例えば、

同書 645頁にある 919条は、現行の 2006年会社法 919条より古いようである。

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七六

25支配従属会社間の組織再編における従属会社の少数株主保護(坂本)

に、株主が整理および改造制度の対象に加えられ、その後、Companies

(Consolidation) Act 1908によって、清算の要件が削除され、現代の規定の

先駆けとなる規定が置かれた 8。

 現在、一般的に、整理および改造制度は、財務上苦しんでいる会社の債

権者の妥協を確保するために用いられ、これに伴って株主との妥協も得る

ために利用される 9。会社資産の分配は、清算よりも、整理および改造制

度を通じて、より早くなされることもあり、また、同制度によれば、会社

は継続企業として改造をすることもできる 10。

 以上のような会社清算の代替的な手段のほかに、整理および改造制度は、

合併のためにも用いられる。イギリスにおいては、現金を合併対価とする

ことができ、同制度は、消滅会社の少数株主を締め出す合併を実現するた

めの手段となりうる 11。

 整理および改造制度の規制の対象には、会社の事業または財産の他の会

社への移転を伴う 2社以上の会社の統合のための計画を目的とした妥協ま

たは整理が含まれ(2006年会社法 900条参照)12、このような計画に関して、

裁判所は、ある会社から他の会社に事業を移転することおよび事業を移転

する会社が清算の手続きを経ずに解散することを命じることができ、この

場合、当事会社は契約によって事業を移転する必要はなくなる 13。このよ

うに、整理および改造制度は、合併を規制の対象にしており、このほか、

同制度によって、会社分割も行いうる 14。

7 Paul L. Davies and Sarah Worthington, Gower’s Principles of Modern Company Law (Sweet & Maxwell, 10th edition, 2016) at1005. 8 Paul L. Davies and Sarah Worthington, supra note 7, at1005. 9 Paul L. Davies and Sarah Worthington, supra note 7, at1005. 整理および改造制

度は、debt-for-equity swap のために使われうる。 See, Paul L. Davies and Sarah Worthington, supra note 7, at 1005 footnote 20.10 Paul L. Davies and Sarah Worthington, supra note 7, at 1005. 11 Paul L. Davies and Sarah Worthington, supra note 7, at 1002.12 Paul L. Davies and Sarah Worthington, supra note 7, at 1002.13 Paul L. Davies and Sarah Worthington, supra note 7, at 1002.14 Paul L. Davies and Sarah Worthington, supra note 7, at 1002.

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七五

26 支配従属会社間の組織再編における従属会社の少数株主保護(坂本)

 上述のように、整理および改造制度は合併を規制するが、合併のために

同制度が用いられることは実際には一般的ではなく、同制度は、合併の場

合よりも、買収のために使われると言われている 15。すなわち、整理およ

び改造制度は、買収者である会社の完全子会社にするために用いられる 16。

簡単な例は、買収の対象会社の株式の株主は買収者が提供する現金または

株式を対価として受け取るという移転計画である 17。このように、この計

画によれば、買収者と対象会社との間に完全親子関係が形成される 18。こ

のように見ると、整理および改造制度は、日本の会社法で言う株式交換ま

たは株式移転と同様の効果を実現するためにも機能する。整理および改造

制度による以上のような買収は、合意された買収として行われ、広く普及

していると言われている 19。

 上述のような整理および改造制度の計画を通じた買収は、公開買付と同

様の効果をもたらすものである。公開買付においては、買収者は公開買付

の対象となる株式の 90パーセントを取得した場合に、公開買付に同意を

しない株主の株式を取得することができるが、整理および改造制度の計画

においては、75パーセントの株式を保有する過半数以上の株主が承認す

れば、対象会社の全ての株主が計画に拘束され、すなわち、買収者は全て

の株式を取得することができる 20。これに関して、裁判所は整理および改

造制度の計画に関する株主の承認についても、上述の公開買付の 90パー

セントの基準と同等の基準を求めるべきであるという考え方がありうる

が、この考え方は、計画においては裁判所の事前の許可が必要であること

により株主が保護されることが考慮され、採られていない 21。

15 Paul L. Davies and Sarah Worthington, supra note 7, at 1003.16 Paul L. Davies and Sarah Worthington, supra note 7, at 1003.17 Paul L. Davies and Sarah Worthington, supra note 7, at 1003.18 Paul L. Davies and Sarah Worthington, supra note 7, at 1003.19 Paul L. Davies and Sarah Worthington, supra note 7, at 1003.20 Paul L. Davies and Sarah Worthington, supra note 7, at 1003, Geoffrey Morse et al edited, Palmer’s Company Law (Sweet & Maxwell, 25th edition, 1992) at para12.065. 2006年会社法 899条 1項参照。

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七四

27支配従属会社間の組織再編における従属会社の少数株主保護(坂本)

 裁判所が計画を許可するかどうかの判断に際しては、裁判例によれば、

裁判所は、第一に、条文が守られていること、第二に、クラスが総会に出

席した者によって公正に代表されたこと、および制定法上の多数派が誠実

に行動し、かつクラスにとって不利益となる利益を促進することを当該ク

ラスの少数派に強要していないこと、さらに、第三に、計画が、理解力が

ありかつ正直な者で、かつその者の利益のために行動している、関係する

クラスの構成員によって合理的に許可されるであろうことを見るとされ 22、

裁判所は、多数派が誠実に行動しているということだけで、総会の決定を

支持するというものではないが、他方で、クラスが適切に意見を聞かれて

いない、もしくは総会がクラスの利益を考慮して物事を考えていないとい

う場合、または計画において何らかの隠し事がある場合でない限り、裁判

所は、総会を支持しないことについて慎重になるとされている 23。学説に

よれば、裁判所は、適切な割合の株主が計画を承認していることだけでは、

計画を許可してはならず、計画の真価に基づいて、計画を許可するかどう

かを判断しなければならないと解されている 24。

 敵対的買収の実現手段としては、整理および改造制度の魅力は、公開買

付のそれよりも低い。これは、整理および改造制度においては、株主が計

画に賛成し、かつ裁判所が計画を許可するまで、株主は計画に拘束されず、

またこのような手続きには時間も必要となるからである 25。他方で、整理

および改造制度は、買収の対象会社の取締役会が計画に合意している場合

21 Paul L. Davies and Sarah Worthington, supra note 7, at 1004. See, Re BTR plc [2000] 1 BCLC 740, LexisNexis.22 Re National Bank, Ltd [1966] 1 ALL ER 1006, [1966] 1 WLR 819. LexisNexis, Re BTR plc [2000] 1 BCLC 740, LexisNexis. See, John Birds edited, Annotated Companies Legislation, (Oxford University Press, 3rd edition, 2013) at 855.23 Re National Bank, Ltd [1966] 1 ALL ER 1006, [1966] 1 WLR 819. LexisNexis, Re BTR plc [2000] 1 BCLC 740, LexisNexis. See, John Birds edited, Annotated Companies Legislation, (Oxford University Press, 3rd edition, 2013) at 855.24 Paul L. Davies and Sarah Worthington, supra note 7, at 1004.25 Paul L. Davies and Sarah Worthington, supra note 7, at 1004.

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七三

28 支配従属会社間の組織再編における従属会社の少数株主保護(坂本)

には、魅力的な買収手段となる 26。

 以上のように、整理および改造制度によれば、上述のような合併および

買収以外の計画にも使うことは可能であるが、同制度は、合併および買収

の実現手段となる 27。

2 整理および改造制度の概略

 ( 1 ) 序

 整理および改造制度の計画を実現するためには、主に、次のような三つ

の過程を経る必要がある。すなわち、それは、第一に、妥協または整理

は、会社および株主との間で提案され、第二に、株主総会が裁判所の招集

により開催され、同総会において一定の多数の株主が計画を承認し、第三

に、当該計画が裁判所により許可されるというものである 28。このような

整理および改造制度の手続は、計画に関係する会社の株主の保護を目的と

して設けられており、厳格な要件の下での株主の承認決議が要求されてい

る 29。しかし、たとえそのような厳格な要件を充たした承認決議がなされ

たとしても、必ずしも少数株主が保護されるとは限らないことから、裁判

所の許可が要求されており、少数株主保護の実効性は計画についての裁判

所による厳密な調査に依存する 30。

 以上のように、整理および改造制度は、株主保護または少数株主保護を

考慮に入れる制度と言える。以下では、同制度について、少数株主との関

係で概略を見ることにする。

 ( 2 ) 整理および改造制度の概略

 整理および改造制度は、会社および株主もしくは一定の種類の株主との

26 Paul L. Davies and Sarah Worthington, supra note 7, at 1004.27 Paul L. Davies and Sarah Worthington, supra note 7, at 1004.28 Paul L. Davies and Sarah Worthington, supra note 7, at 1006.29 Paul L. Davies and Sarah Worthington, supra note 7, at 1006.30 Paul L. Davies and Sarah Worthington, supra note 7, at 1006.

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七二

29支配従属会社間の組織再編における従属会社の少数株主保護(坂本)

間において、妥協または整理が提案される場合に採用され(2006年会社法

895条 1項)、整理は、異なる種類の株式の統合、異なる種類の株式への

株式の分割、またはこれら両方により、会社の株式資本を再編することを

含む(同条 2項)。裁判所は、会社または株主の申請により、株主総会ま

たは種類株主総会の招集を命じることができ(896条 1項、2項)、同総会

において、75パーセント以上の株式を有する過半数以上の株主または種

類株主が妥協または整理を承認すれば、裁判所は、会社または株主の申請

により当該妥協または整理を許可することができ(899条 1項、2項)、こ

の許可を受けた妥協または整理は、全ての株主または種類株主を拘束する

(同条 3項)。

 開示に関しては、計画の承認のために開催される上述の総会に関する招

集通知が株主に送付され、同通知において、整理または改造の効果の説明、

および取締役、株主、債権者またはその他のいずれの立場によるのかを問

わず取締役の重大な利益、および整理または改造におけるそれら利益の効

果が他の者の利益の効果と異なる場合における当該利益の効果が開示され

(897条)、各取締役は、自己について、上記通知における開示のために必

要な情報を会社に提供することが義務づけられている(898条)。

 会社の改造または統合に関しては、これらが適切に進行するために、裁

判所は、妥協または整理の許可命令またはその後の命令において一定の定

めを設けることができる。すなわち、裁判所は、899条により裁判所に申

請がなされる場合で、かつ、第一に、妥協または整理が一つの会社もしく

は複数の会社の改造または複数の会社の統合のための計画を目的としてま

たは同計画に関連して提案され、かつ、第二に、当該計画において、当該

計画に関連する会社(移転会社)の事業または財産の全部または一部が他

の会社(承継会社)に移転するときは、裁判所は、次の事項の全てまたは

一部について定めを設けることができる(900条 1項、2項)。その事項とは、

(a)事業の全部または一部の移転および財産または負債の全部または一部

の移転、(b)妥協または整理に基づいて、承継会社により、他の者にまた

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七一

30 支配従属会社間の組織再編における従属会社の少数株主保護(坂本)

は他の者のために、割り当てられるまたは取得される株式等についての当

該会社による割当または取得、(c)移転会社によるまたは同社に対する係

争中の法的手続の承継会社によるまたは同社に対する継続、(d)清算手続

なしの移転会社の解散、(e)裁判所が指示する期間内および方法により妥

協または整理に反対する者のためになされる措置、および、(f)改造また

は統合が完全にかつ有効に実行されることを確保するために必要である付

随的、間接的、および補足的な事項である(同条 2項)。900条による命令

が財産または負債の移転を定める場合には、当該財産または負債は、当該

命令により承継会社に移転され、かつ帰属し(900条 3項)、当該命令の指

示がある場合には、当該財産は、担保を免れる(同条 4項)。

 以上のように、900条によれば、整理および改造制度において、合併ま

たは分割等を行うことができることを明確にしている 31。

 ( 3 ) 公開会社に関する特別規制

 (一) 合併

 整理および改造制度は、公開会社については特別の規制がある(902条

以下、895条 3項参照。本稿以下では、この特別の規制(2006年会社法

Part 27)を、公開会社の特別規制という。)。

 公開会社の特別規制は、妥協または整理が、公開会社および株主または

ある種類の株主の間において、一つの会社もしくは複数の会社の改造、ま

たは複数の会社の統合のための計画に関連して提案され、当該計画が合併

または分割に関係し、および、移転のための対価が、株主への現金の支払

の有無にかかわらず、移転会社の株主が取得しうる承継会社の株式である

場合に適用され(902条)、妥協または整理は、公開会社の特別規制に従わ

ない限り、裁判所の許可を得ることはできない(903条)。

 公開会社の特別規制は、妥協または整理が提案される会社を含め、公開

31 See, Paul L. Davies and Sarah Worthington, supra note 7, at 1002.

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七〇

31支配従属会社間の組織再編における従属会社の少数株主保護(坂本)

会社の事業、財産および負債が、第一に、他の既存の公開会社に移転され

る場合、または、第二に、公開会社であるのか否かにかかわらず、新設会

社に移転される場合における合併に関する計画を規制し、第一の場合を吸

収合併および第二の場合を新設合併とし(904条 1項)、吸収合併について

は、移転会社および承継会社、新設合併については、移転会社を、合併会

社と定める(904条 2項)。同規制によれば、計画は、各合併会社において

各種類の株主につき価値で 75パーセント以上の株式を保有する過半数以

上の株主が総会で承認しなければならない(907条 1項)。吸収合併または

新設合併のいずれにおいても、移転会社における計画の承認については、

上述の 899条が規定しており、907条は、吸収合併における承継会社につ

き規制を加えている 32。

 以上のような公開会社への特別規制については、一定の場合には、計画

の承認は不要である。すなわち、吸収合併に関して、第一に、移転会社の

株式が 90パーセントから 100パーセント未満で承継会社によりまたは承

継会社のために保有されている場合には、計画は、承継会社における承認

を受ける必要はなく(916条)33、第二に、移転会社の株式の全てが、承継

32 合併会社とは、上述のように、吸収合併については、移転会社と承継会社、

新設合併については、移転会社のことである(904条 2項)。吸収合併または新設

合併を問わず、移転会社において計画につき株主等の承認が必要である旨は、上

述の 899条によって規定されている。したがって、907条は、吸収合併の場合に

おける承継会社において計画の承認を要求している。このような形で、907条は、

899条とは別に規制を加えている。See, Geoffrey Morse et al, supra note 20, at para 12.099, John Birds, supra note 22, at 870. 既存の承継会社については、裁判所は、既

存の承継会社または株主の申請により、その会社の株主総会または種類株主総会

の招集を命令することができる(938条)。詳細につき、938条、Geoffrey Morse et al, supra note 20, at para 12.099参照。移転会社における招集に関する裁判所の命令

は、896条に規定されている。

896条および上記の 899条は、公開会社の特別規制に置かれているものではない。

33 承認が不要とされる場合については、裁判所が次の 3つの条件が充たされる

と判断する必要がある(916条。詳細につき同条参照)。第一は、承継会社につい

て登記機関による計画草案の受領の通知の公開が、計画についての承認のために

招集される移転会社の株主総会または種類株主総会の 初の日より 1ヶ月前にな

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六九

32 支配従属会社間の組織再編における従属会社の少数株主保護(坂本)

会社によりまたは承継会社のために保有されている場合には、計画は、全

ての合併会社における株主総会または種類株主総会における承認を要せず

(917条)34、第三に、一定の株式保有の有無を問わず、裁判所が 916条が

規定する条件とほぼ同様の条件が充たされていると判断する場合には、計

画は、承継会社における承認を受ける必要はない(918条)35。

 (二) 分割

 以上は合併に関するものであるが、分割に関しても特別規制がある。公

開会社の特別規制によれば、計画に基づき、妥協または整理における公開

会社の事業、財産および負債が複数の会社に分割され、かつ移転される

場合における分割が規制され、上記の複数の会社とは、既存の公開会社、

または公開会社であるのか否かにかかわらず新設会社のいずれかである

(919条)36。分割に関する特別規制も、上述の合併の場合のように、株主

の承認を求める。すなわち、妥協または整理は、分割に関連する各会社の

各種類の株主につき、価値で 75パーセントの株式を保有する過半数以上

の株主が総会で承認をしなければならない(922条 1項)。合併の場合と同

様、移転会社における承認は、899条に規定されており、919条は、承継

会社における承認を規制に加えているものである 37。

されていることである。第二は、承継会社の株主が、上記の日より 1ヶ月前から

上記の日までの間に、同社および移転会社に関する草案等の複写を、移転会社の

登録事務所において閲覧することができ、およびその複写を取得することができ

ることである。第三は、承継会社の株主が同社の総会における議決権がある支払

済株式の 5パーセント以上を有する場合には、その株主は、計画を承認するのか

否かを決定するために各種類の株主の総会を開催することを要求するができるも

のとされており、かつ、その要求がなされていないことである。

34 ただし、この場合、916条とほぼ同様の 3つの条件を満たすことが必要であ

る(917条 3項以下)。

35 異なる点としては、918条の第二の条件では、閲覧等のための開示の対象が

916条の第二の条件における開示対象よりも広い点がある(916条 4項、918条 3項)。

36 See, Geoffrey Morse et al, supra note 20, at para 12.097, 12.032, Paul L. Davies and Sarah Worthington, supra note 7, at 1014.

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六八

33支配従属会社間の組織再編における従属会社の少数株主保護(坂本)

 分割に関しては、移転会社における総会での議決権のある全ての株式が、

既存の承継会社によりまたは承継会社のために保有され、かつ、裁判所が

一定の条件 38 が充たされると判断する場合には、計画は、移転会社の株

主総会または種類株主総会での承認を得る必要はなく(931条)、また、計

画は、裁判所が一定の条件 39 が充たされると判断する場合には、承継会

社の株主による承認を受けることを要しない(932条)。

37 See, Geoffrey Morse et al, supra note 20, at para 12.099, John Birds, supra note 22, at 885. 前掲注(32)参照。

38 条件とは、おおむね、次のようなものである(931条 3項以下)。第一は、分

割に関連する全ての会社について登記機関による草案の受領の通知の公開が裁判

所の命令の日より 1ヶ月前までになされること、または、草案がウェブサイトで

計画の承認のために招集される総会の日の 1ヶ月前より閲覧等に供されているこ

とである。第二は、分割に関連する全ての会社の株主が、上記の日より 1ヶ月前

から上記の日までの間において、分割に関連する全ての会社について草案等の開

示書類を、会社の登録事務所において閲覧することができる、または、上記期間

においてウェブサイトで同書類に接することができることである。第三は、分割

に関連する全ての会社の株主が、上記の日より 1ヶ月前から上記の日までの間に

おいて、上記書類の複写を取得することができることである。第四は、移転会社

の取締役が、計画の承認を得るための総会について招集の通知を受ける資格のあ

る全ての株主に対し、および、全ての既存の承継会社の取締役に対し、移転会社

の取締役が草案を採択した日および裁判所の命令の日より 1ヶ月前の日との間に

おいて移転会社の財産および負債についての重大な変更の報告を送付したことで

ある。See, John Birds, supra note 22, at 891.39 条件とは、おおむね次のようなものである。第一は、分割に関連する承継

会社について登記機関による草案の受領の通知の公開が計画の承認のために招集

された移転会社の 初の総会の日より 1ヶ月前までになされる、または、承継会

社について草案がウェブサイトで計画の承認のために招集される移転会社の 初

の総会の日の 1ヶ月前から当該総会の日までの間閲覧等に供されていることであ

る。第二は、承継会社の株主が、上記の日より 1ヶ月前から上記の日までの間に

おいて、分割に関連する全ての会社について草案等の開示書類を、会社の登録事

務所において閲覧することができる、または、上記期間においてウェブサイトで

同書類に接することができることである。第三は、承継会社の株主が、上記の期

間において、上記書類の複写を取得することができることである。第四は、承継

会社の株主が当該会社の株主総会の議決権のある払済株式の 5パーセント以上を

保有する場合において、当該株主が、計画を承認するのか否かを決定するために

各種類の株主の総会を、上記の期間において要求することができものとされてお

り、かつ、その要求がなされていないことである。 See, John Birds, supra note 22, at 892.

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六七

34 支配従属会社間の組織再編における従属会社の少数株主保護(坂本)

 ( 4 ) 公開会社の特別規制における開示規制

 (一) 合併

 合併に関しては、移転会社および既存の承継会社のいずれにおいても、

取締役は、計画の草案を作成し、および採択し(905条)、各合併会社の取

締役は、草案の写しを会社登記機関に交付し、同機関は草案の写しの受領

を総会の日より 1ヶ月前から公表する(906条 1項、2項)40。

 各合併会社の取締役は、妥協または整理の効果の説明、草案および株式

の交換比率に関する法的および経済的根拠、ならびに特に評価の難しい点

を記載した報告書(以下、取締役の説明報告書という。)を作成し、採択し

なければならない(908条)41。

 このほか、各合併会社において、株主のための専門家 42 の報告書の作

932条に関しては、上記の第一の条件から第三の条件は、既存の承継会社につい

て次の第一から第三の条件が充たされる場合には、裁判所の命令により排除され

る(932条 5項、934条)。すなわち、第一は、(ア)既存の承継会社の株主が、計

画を承認するために招集される 初の総会の日前までに、株主による閲覧等の対

象となる計画草案等の開示書類の複写を調査するために、これを受け取るもしく

は取得することができること、または、(イ)932条 4項が規定するように、すな

わち、承継会社の株主が当該会社の株主総会の議決権のある支払済株式につき 5パーセント以上の株式を保有する場合において、当該株主が、計画を承認するの

か否かを決定するために各種類の株主の総会を上記の期間において要求すること

ができるとされており、かつ、その要求がなされていないことである。第二は、(ウ)

既存の承継会社の債権者が、上記の日前までに、上記の開示書類の複写を調査す

るために、これを受け取るもしくは取得することができること、または、前記(イ)

と同様のことである。第三は、裁判所の命令により、移転会社または承継会社の

株主または債権者にとって不利益が生じないことである。See, Geoffrey Morse et al, supra note 20, at para 12.099.32.40 草案がウェブサイトで総会の日より 1ヶ月前から総会の日までの間無料での

閲覧等のために公表されている場合には、草案の写しの会社登記機関への交付は

不要である(906A 条)。ただし、会社登記機関には、当該ウェブサイトの情報が

提供されなければならない(906A 条 4項)。

41 妥協または整理の効果の説明は、公開会社の特別規制ではなく、897条によ

り、整理および改造に求められており、同説明が、草案および株式の交換比率に

関する法的および経済的根拠、ならびに評価の難しい点を取り上げない場合に、

908条により、これらの事項の記述が求められている(908条参照)。

42 ここで言う専門家とは次の 2つの要件を充たす者である。第一は、制定法上

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六六

35支配従属会社間の組織再編における従属会社の少数株主保護(坂本)

成が求められる(909条)43。専門家の報告書は、株式の交換比率を決定す

るために用いられた方法、その方法は合理的であるのか否かについての意

見およびその方法で導き出した価値を提示しなければならず、また方法が

複数ある場合には、それら方法に関する相対的な重要度についての意見を

述べなければならない(909条 5項)。このほか、専門家の報告書は、特に

評価の難しい点、専門家の意見として株式の交換比率が合理的かどうか

等 44 を提示しなければならない(909条 5項)45。

の監査役として任命される資格があることであり、第二は、独立性の要件を充た

すことである。第一に関して、個人またはファームが認定された監督団体の会員

であり、かつ、当該団体の規則に基づいて任命の資格を有するのであれば、当該

個人またはファームは制定法上の監査役としての任命の資格を有する(1212条参

照)。このほか、1967年会社法 13条 1項に基づき 初に与えられた許可の維持

によって資格を有する者は、非上場会社の監査役としての任命の資格のみ有する。

当該の者の任命の時点において、会社または同社の親企業が上場会社ではない場

合には、同社は非上場会社である(1212条 2項参照)。上場会社または非上場会

社については、2006年会社法 385条参照。親企業については、1162条参照。

上記第二の独立性の要件とは、次のようなものであり、これら全てを充たす者は

独立性の要件を充たす(936条)。(ア)計画の当事会社もしくは関連企業の役員ま

たは従業員ではないこと。(イ)パートナーもしくはパートナーの従業員、パート

ナーが所属するパートナーシップではないこと。(ウ)独立性の要件を充たそうと

する者またはその者の関係者、および計画の当事会社または関連企業の間に、国

務大臣が定める規則に基づき特定することができる関係性が存在しないこと。こ

れに関しては、会社の監査役は、当該会社の役員または従業員とみなされない。

当事会社とは、全ての移転会社および既存の承継会社のことである。会社の関連

企業とは、当該会社の親企業および子企業、ならびに当該会社の親企業の子企業

のことである。以上については 936条参照。関係者につき 937条参照。親企業お

よび子企業につき 1162条参照。

43 専門家の報告書は、各合併会社が任じた個別の専門家によって、それぞれの

合併会社において作成されるが、全ての合併会社の共同申請により、裁判所が、

全ての合併会社のために単一の報告書を作成するための共通の専門家の任命を許

可する場合には、単一の報告書の作成で足りる(909条 3項)。

44 専門家の報告書は、他の者が評価を作成する場合には、その者による作成が

合理的であること、またはその者が作成した評価を受け入れることが合理的であ

ることを述べなければならない(909条 5項(e)参照)。専門家の報告書を他の者

が作成することは、935条によって認められている。詳細につき 935条参照。

45 専門家(専門家が複数存在する場合には、各専門家)は、報告書作成のため

に必要に応じて、各合併会社の全ての書面を入手することができ、各合併会社の

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六五

36 支配従属会社間の組織再編における従属会社の少数株主保護(坂本)

 合併会社の株主は、その株主の会社およびその他の全ての合併会社に関

して、草案、取締役の説明報告書、専門家の報告書、年次計算書類と報告

書 46、補足会計書類 47 および会社が半期の財務報告書を公表しているの

であれば、同報告書について閲覧をすることができ、写しを取得すること

ができる(911条)48。

 合併会社の取締役は、草案を採択した日から計画を承認するための総会

の日までの間に会社の財産および負債について重大な変更がある場合に

は、当該変更を、当該会社の総会および全ての他の合併会社に対し報告を

することが義務づけられており(911B 条 1項)、この報告を受けた各合併

役員から全ての情報を要求することができる(909条 6項)。

46 年次計算書類および報告書は、計画の承認のための 初の株主総会または種

類株主総会の日またはそれより前に終了する直近 3年分のものである(911条 3項)。

47 補足会計書類および半期の財務報告書については、910条参照。合併会社の

取締役は、次の第一または第二の場合であり、かつ第三のときは、補足会計書類

の作成が求められる(910条 1項)。合併会社の 終の年次計算書類が、第一に、

計画の承認のための 初の総会の日から 7ヶ月前に終了した年度のものである場

合、または、第二に、総会が不要であれば、取締役が計画の草案を採択した日か

ら 6ヶ月前に終了した年度のものである場合。第三に、会社が、計画の承認のた

めの 初の総会の日から 7ヶ月の日もしくはこれ以降の日の期間に、または、総

会が不要の場合には、取締役が計画の草案を採択した日から 6ヶ月の日もしくは

これ以降の日の期間に関する半期の財務報告書を公表していないとき。

補足会計書類は、草案が取締役によって採択された時から遡って 3ヶ月以前にな

らない日における会社の状況を記載する貸借対照表、および草案が取締役によっ

て採択された時から遡って 3ヶ月以前にならない日(上記の貸借対照表に会社の

状況を記載するための日)が年度の 終日であれば、会社がグループ計算書類を

作成することを求められる場合には、会社の状況、および連結に含まれるであろ

う企業の状況を記載する連結貸借対照表からなる(910条 2項)。グループ計算書

類については、399条参照。

48 閲覧および写しの入手は、計画の承認のための 初の株主または種類株主

の総会の日より 1ヶ月前から総会の日までの間、株主の会社の登録事務所におい

てすることができる(911条 1項、2項)。会社がウェブサイトで閲覧等の対象と

なる書類を計画の承認のための総会の日より 1ヶ月前から当該総会の日までの間

提供する場合には、当該会社は、株主による登録事務所での閲覧に関する規制を

受けない(911A 条)。詳細につき、911A 条参照。See, John Birds, supra note 22, at 875, Geoffrey Morse et al, supra note 20, at para 12.099.21A.

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六四

37支配従属会社間の組織再編における従属会社の少数株主保護(坂本)

会社の取締役は、それぞれ、自己の会社において、報告のあった重大な変

更について計画の承認のための総会に対し報告すること、および総会の招

集通知を受ける資格のある全ての株主に対し上記変更の報告書を送付する

ことを義務づけられている(911B 条 2項)。

 吸収合併の場合において、移転会社の全ての株式が承継会社によって保

有されているときは、草案における記載事項の一部、取締役の説明報告

書、専門家の報告書、およびこれらに関する株主の閲覧等のための提供は

不要とされている(915条)49。また、吸収合併において、移転会社の株式

につき、全てではないが、90パーセント以上の株式が承継会社によって

保有されている場合には、計画が残りの株主に対し自己の株式の買取を承

継会社に請求する権利を与え、かつこの権利に基づき株式の買取を請求し

た株主に与えられる対価が公正かつ合理的であるときは、取締役の説明報

告書、専門家の報告書、補足会計書類、株主による閲覧等のための書類の

提供および会社の財産および負債についての重大な変更の報告は必要ない

とされている(915A 条)50。以上のほかに、全ての合併会社において株主

総会での議決権を有する全ての株主が同意するのであれば、取締役の説明

報告書、専門家の報告書、補足会計書類、これらに関する株主による閲覧

等のための提供および上記の重大な変更の報告は不要とすることができる

(918A 条)51。

 (二) 分割

 分割についても、合併と同様の規制が置かれている。分割に関連する会

社の取締役は、計画の草案を作成し、および採択し(920条 1項)、会社登

49 See, Geoffrey Morse et al, supra note 20, at para 12.099.34A, John Birds, supra note 22, at 877.50 See, Geoffrey Morse et al, supra note 20, at para 12.099.34, John Birds, supra note 22, at 878.51 See, Geoffrey Morse et al, supra note 20, at para 12.099.31, John Birds, supra note 22, at 882.

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六三

38 支配従属会社間の組織再編における従属会社の少数株主保護(坂本)

記機関に草案の写しを交付し(921条 1項)、会社登記機関は、草案の写し

の受領の通知を計画承認のための総会の日より 1ヶ月前から公表する(921

条 2項、3項)52。移転会社および既存の承継会社の取締役は、取締役の

説明報告書を作成し、および採択しなければならず(923条 1項)、分割に

関連する各会社において、専門家の報告書、および補足会計書類の作成が

求められ(924条、925条)、株主は、各会社の草案等の書類の閲覧および

写しの請求をすることができる(926条)53。また、移転会社の取締役は、

同社の財産および負債に重大な変更がある場合には同変更を計画承認のた

めの同社における全ての総会および全ての既存の承継会社の取締役に対し

報告しなければならず(927条 1項)、各既存の承継会社の取締役は、それ

ぞれ自己の会社における全ての総会に対し報告をし、かつ総会の招集通知

を受ける資格のある全ての株主に対し同変更の報告書を送付しなければな

らない(927条 2項)。しかし、承継会社が新設会社であり、承継会社の全

ての株式が移転会社の株主に対し同株主の保有株式に応じて割り当てられ

る場合、また、合併の場合と同様、分割に関わる当事会社において株主

総会での議決権を有する全ての株主が同意する場合については、取締役の

説明報告書、専門家の報告書、補足会計書類、これらに関する株主による

閲覧等のための提供および移転会社の財産等の重大な変更についての報告

は、前者の場合には不要とされ(933A 条)、後者の場合には不要とするこ

とができる(933条)54。このほか、分割に関わる当事会社は、裁判所が一

定の条件 55 を充たすと判断する場合において、裁判所の命令により、計

52 合併の場合と同様、草案がウェブサイトで公表される場合には、会社登記機

関への交付は不要となる(921A 条)。詳細につき 921A 条参照。

53 会社がこれら書類をウェブサイトで公表する場合には、株主による登録事務

所での閲覧に関する規制を受けない(926A 条)。

54 See, Geoffrey Morse et al, supra note 20, at para 12099.31, John Birds, supra note 22, at 893.55 裁判所が次の第一から第三の条件を充たすと判断する場合である。第一は、

(ア)分割に関わる当事会社の株主が、計画を承認するために招集される 初の総

会の日前までに、株主による閲覧等の対象となる計画草案等の開示書類の複写を

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六二

39支配従属会社間の組織再編における従属会社の少数株主保護(坂本)

画の草案の会社登記機関への交付および株主による閲覧等に関する規制を

受けない(934条 1項)。

3 小括

 以上では、整理および改造制度について見てきた。整理および改造制度

は、合併、事業移転、分割、完全子会社化等を実現する手段として機能す

る 56。公開会社が合併または分割の当事会社である場合には、合併または

分割の計画は、公開会社の特別規制にも従わなければならない。公開会社

の特別規制は、合併等の当事会社の株主等への開示等の規制を加えること

により、株主等の保護を強化する。

 整理および改造制度については、合併等の計画が株主総会等における承

認と裁判所の許可を得ることを要する点に特徴がある。例えば、株主総会

での承認の要件は、委任状を含め、議決権を行使した株主の過半数以上の

株主が承認し、かつ承認した株主が、議決権行使された株式の 75パーセ

ント以上の株式を保有することである 57。裁判所が合併等の計画を承認す

ると、計画は、全ての株主に対し拘束力を有することになる。上述のよう

な承認の要件からすると、少数株主保護は一定程度図られていると言える

であろうが、計画は依然として多数派の株主の意向を反映する側面を有す

調査するために、これを受け取るもしくは取得することができること、または、

(イ)932条 4項が規定するように、すなわち、既存の承継会社の株主が同社の株

主総会の議決権のある支払済株式につき 5パーセント以上の株式を保有する場合

において、当該株主が、計画を承認するのか否かを決定するために各種類の株主

の総会を上記の期間において要求することができるとされており、かつ、その要

求がなされていないことである。第二は、(ウ)分割に関わる当事会社の債権者が、

上記の日前までに、上記の開示書類の複写を調査するために、これを受け取るも

しくは取得することができること、または、前記(イ)と同様のことである。第三は、

裁判所の命令により、移転会社または承継会社の株主または債権者にとって不利

益が生じないことである。See, Geoffrey Morse et al, supra note 20, at para 12.099.32.56 See, Paul L. Davies and Sarah Worthington, supra note 7, at 1001 et seq.57 See, Paul L. Davies and Sarah Worthington, supra note 7, at 1003, Geoffrey Morse et al, supra note 20, at para 12.065, para 12.099.1, and John Birds, supra note 22, at 854, 870.

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六一

40 支配従属会社間の組織再編における従属会社の少数株主保護(坂本)

るとも言える。特に 90パーセント以上の株式の取得が求められる公開買

付制度と比べると、整理および改造制度における株式保有の要件は緩いと

言える。制度上、株式保有の基準を低く設定していても問題としない理由

は、裁判所の許可が必要であるとしていることと考えられる。以上のこと

からすると、裁判所は、計画について許可をする際には、承認の要件が充

たされているのか否かという点だけではなく、多数派株主の利益が少数派

株主の利益を不当に害していないことまたは対価が公正であること等少数

派株主の利益も考慮すべきであろう。

Ⅲ 日本法への示唆

 以上では、イギリス会社法における整理および改造制度について見てき

た。以下では、組織再編行為に際して結合企業法制度における従属会社の

少数株主保護を強化することを目的とした立法論を展開する主要な学説に

ついて考察を加えたうえで、日本法への示唆を提示することにする。

 江頭説は、支配従属関係(従属会社に少数株主が存在すること)の解消

の態様の類型として、従属会社が支配会社に吸収合併される場合を挙げ、

これに関して、長年株式所有を通じて支配従属関係にあり相互間で取引を

繰り返してきた会社どうしが合併する場合で、利益相反取引等を通じて従

属会社の企業価値が不当に減少させられた事実があるときは、支配会社に

よる不当な影響力の行使がなかったならば有するはずの支配会社および従

属会社の企業価値を考慮した合併比率を定める必要があり、また、買収に

より従属会社にしたばかりの会社から少数株主を一掃する目的の合併の場

合には、合併に当たり従属会社株主に交付される対価と買収時に株主に支

払われる対価との差異を巡る問題があるとし 58、この他の類型として、少

数株主の存在した従属会社が支配会社の 100パーセント子会社となる場合

58 江頭・前掲注(2)255頁~ 256頁。

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六〇

41支配従属会社間の組織再編における従属会社の少数株主保護(坂本)

を挙げ、これに関して、支配会社が従属会社少数株主に対し法的または事

実上の強制を加え持株の売却等をさせることにより従属会社の 100パーセ

ント子会社化を実現する場合があると述べる 59。

 江頭説は、経済的に独立した会社間の合併と比べて、支配従属会社間の

合併では、合併比率の公正に関し従属会社少数株主の保護のため裁判所の

介入がより強く要請されるとし、その理由は、合併比率の交渉の直接の担

当者である従属会社の取締役に対し支配会社が影響力を行使しうることか

ら、合併比率の公正に疑念が生じやすいことであると論じたうえで 60、支

配従属会社間の合併に関しては、公開会社 61 どうしの合併の場合および

従属会社が非公開会社である場合 62 のいずれにおいても合併比率の決定

と合併時の情報開示が問題となると述べ 63、合併比率の決定の問題につい

ては、公開会社どうしの合併の場合には市場価格を基準に決定がなされれ

59 江頭・前掲注(2)255頁~ 256頁。同説は、支配従属関係の解消の場合として、

従属会社の少数株主側のイニシアティブにより支配会社が少数株主の株式を買い

取る場合があると述べる。同 256頁。この場合の議論については、同 307頁以下、

高橋英治『従属会社における少数派株主の保護』139頁以下(有斐閣、1998年)、

高橋英治『企業結合法制の将来像』184頁以下、267頁以下(中央経済社、2008年)、

坂本達也「従属会社の少数株主の退出に関する考察」静岡大学法制研究 29巻 4号 1(160)頁(2016年)参照。

江頭説は、合併を検討の対象とする。同説は、合併を検討の対象にするのは、支

配会社が支配従属関係の解消を考える場合税制上の理由から合併を選択するケー

スが多いこと、および合併の場合の規制を検討すれば、他の形態(従属会社の事

業譲渡と解散、従属会社株式の併合等)がとられた場合の法的問題も多くカバー

されることからであるとしている。江頭・前掲注(2)259頁60 江頭・前掲注(2)269頁。

61 同説は、公開会社は上場会社または店頭登録会社としている。江頭・前掲注

(2)269頁。

62 江頭・前掲注(2)291頁は、支配従属会社間の合併において、当事会社の少

なくともいずれか一方(例えば従属会社)が上場会社でも店頭登録会社でもない

非公開会社である場合としている。この場合については、同説は、公正な合併

比率の決定の基準となる価格の評価の問題が付け加わると述べる。同書 270頁、

291頁。

63 江頭・前掲注(2)269頁~ 270頁。このほか、同説は、第三として、合併比

率が自分にとって不公正だと考えた従属会社少数株主の頼るべき救済手段の問題

があると述べる。同書 270頁。

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五九

42 支配従属会社間の組織再編における従属会社の少数株主保護(坂本)

ば、問題は少ないが 64、合併によって従属会社から少数株主が排除され企

業グループの運営が自由になることから生ずるシナジーは合併公表前の市

場価格に反映していないことも考えられ、同シナジーの支配会社株主と従

属会社少数株主間の公正な配分の問題が存在し 65、シナジーの配分を考慮

して合併比率を定めることは実際には容易ではなく 66、とりわけ交付金合

併の場合には消滅会社株主にシナジーの一部を現金で交付するためには存

続会社に発生するであろうシナジーの総額を推計することが絶対的に必要

になることから、問題が顕在化すると論じ 67、情報開示の問題については、

各当事会社の取締役が自社に有利な合併比率を実現するため相手会社の情

報を収集しあう経済的に独立した会社間の合併と比べ、支配従属会社間の

合併の場合、従属会社の取締役会が支配会社の影響力の下にあるところか

ら、企業内部情報として株式の市場価格に未だ反映してない当事会社に関

する情報が、合併比率に反映されないまま、かつ株主総会においても株主

に開示されないまま、合併承認決議がなされてしまう危険があると論ず

る 68。

 以上のように述べたうえで、江頭説は、支配従属会社間の合併は、従属

会社の取締役会が支配会社の影響力の下にあるため、合併比率の決定は

経営者の判断に委ねるべきであるという考え方が通用しない重大な取引で

あると述べ 69、支配従属会社間の合併は独立当事者間取引ではないという

立場に立ち 70、第一に支配会社と従属会社 71 が合併する場合には、当該

64 江頭・前掲注(2)269頁、306頁。

65 江頭・前掲注(2)271頁、306頁。

66 江頭・前掲注(2)270頁。

67 江頭・前掲注(2)273頁。このほか、同説は、シナジーの公正な配分割合の

決定も問題となりうると述べる。同書 272頁~ 273頁。

68 江頭・前掲注(2)277頁。

69 江頭・前掲注(2)285頁~ 286頁。

70 江頭・前掲注(2)305頁。

71 この規制案においては、従属会社には 100パーセント子会社は含まれないと

されている。江頭・前掲注(2)286頁。

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五八

43支配従属会社間の組織再編における従属会社の少数株主保護(坂本)

支配会社と当該従属会社のいずれも、第二に共通の支配会社を有する複

数の従属会社が合併する場合には、当該従属会社のいずれも、一定の事

項 72 を調査させるため、取締役会の決議をもって、合併検査役を選任し

なければならず、合併検査役の報告書は株主および債権者に開示される

旨の規制案を提示する 73。上記の規制案について、同説は、支配会社と

従属会社の合併の場合には、当事会社の少なくとも一方が大会社である

とき、また、共通の支配会社を有する複数の従属会社の合併においては、

当事会社である従属会社がいずれも大会社ではない場合であっても、当

該従属会社の支配会社が大会社であるときに、合併検査役の選任を要す

るとしている 74。

 北村説は、金銭対価型組織再編行為による少数株主の締出しが可能であ

ることに関して対価の公正を確保するための手続規制は重要になるという

趣旨の見解を示し 75、これについては、会社法は基本的には対価の相当性

等に関する開示を充実するという形で対処すると述べる 76。同説は、対価

の公正性確保については、株式交換・株式移転制度導入および組織再編対

価柔軟化の導入に際して、理由書の作成・開示の制度が採用されたと述

べ 77、組織再編行為一般についてはそれでよいとしても、支配従属会社間

の組織再編行為のうち特に利益相反性が強いと認められるものについて

は、対価の公正に関して、裁判所の選任する検査役の調査を要求すべきで

あり 78、開示規制のみによって金銭対価型組織再編行為による締出しに対

72 一定の記載事項は、吸収合併または新設合併の合併契約書における株主への

対価に関する記載事項である。江頭・前掲注(2)286頁。

73 江頭・前掲注(2)286頁。同説は、合併検査役は公認会計士、監査法人、銀行、

信託会社または証券会社でなければならないとしている。同書 286頁。

74 江頭・前掲注(2)286頁。また、各当事会社により選任される合併検査役は、

各会社ごとに別人であっても、同一人であってもよいとしている。同 286頁。

75 北村・前掲注(4)19頁。

76 北村・前掲注(4)19頁。

77 北村・前掲注(4)19頁。

78 北村・前掲注(4)19頁。同説は、支配従属会社間の組織再編行為のうち特に

利益相反性が強いと認められるものの例として、従属会社の議決権総数の 3分の

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五七

44 支配従属会社間の組織再編における従属会社の少数株主保護(坂本)

処するというのは支配会社の濫用的取扱いへの予防措置が不十分であると

論じる 79。

 以上では、主要な学説を見てきたが、江頭説は、支配従属会社間の合併

は独立当事者間取引ではないという立場を基礎に置くものであり、北村説

は、支配従属会社間の組織再編行為は利益相反性の強いものであるという

立場をとるものであろう。両説とも、特に従属会社の少数株主保護の必要

性が高いと考えられるものについて規制を設けるものである。以上からす

ると、両説は、支配従属会社間の組織再編行為に関する規制のあり方につ

いて大きく異なる立場をとるものではないであろう 80。両説の趣旨は、従

属会社の取締役または取締役会が支配会社の影響力の下にある組織再編行

為は公正なものではないという危険があることから、支配従属会社間で公

正な組織再編行為が行われることを確保し、これによって従属会社少数株

主の保護を強化するというものと考えられる。

 私見としては、両説の立場同様、従属会社の取締役または取締役会が

支配会社の影響力の下にあることから、支配従属会社間で不公正な組織

再編行為が行われる危険があるという支配会社および従属会社間の関係

を考慮すると、支配従属会社間の組織再編行為について規制を設けるべ

2以上を有する支配会社が従属会社と組織再編行為を行う場合で、支配会社(存

続会社等)の株式以外の財産を対価とするときが考えられるとしている。同 29頁注 20。79 北村・前掲注(4)19頁~ 20頁。同説は、会社法の規制緩和の一つとして組

織再編対価柔軟化が挙げられるが、それ自体が従属会社の少数株主の保護に欠け

る内容であれば、規制緩和による競争力を高める基礎となる資本市場への信頼が

揺らぐことになりかねないと述べ、また、支配従属会社間の利益相反性がとくに

強い組織再編に限り検査役の調査を要求することは比較法的には厳格な規制と言

えないとも論じる。同 20頁。

80 細かくなるが、江頭説は、支配従属会社間の合併は独立当事者間取引ではな

いとしているところ、北村説では、支配従属会社間の組織再編行為について利益

相反性は強いが、両社の間でも、組織再編行為が独立当事者間取引基準によって

なされる場合がありうるという考え方をとる余地はあるであろう。ただし、北村

説によっても、独立当事者間取引ではない組織再編行為に対し規制を設けるべき

であると言うこともできるであろう。

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五六

45支配従属会社間の組織再編における従属会社の少数株主保護(坂本)

きであると考える。

 イギリス会社法の整理および改造制度においては、計画は株主等の承認

の後裁判所の許可を得て効力を生じ、公開会社の特別規制では株主への開

示が付け加えられている。このように見ると、整理および改造制度におい

ては、計画の効力が生ずる前までの開示および裁判所による事前の審査が

求められる。

 江頭説は、各当事会社は、取締役会の決議によって、株主への対価につ

いての調査をさせるための合併検査役を選任し、合併検査役による調査の

報告書は株主等へ開示されることを提示する。同説によれば、合併検査役

には、公認会計士、監査法人等 81 がなる。

 イギリス会社法の整理および改造制度においては、公開会社の特別規制

として、専門家の報告書の作成および株主への同報告書の開示が求められ

ている。上述のように、専門家の報告書は合併比率等 82 について調査す

るものであり、法定監査役 83 になる資格を有する者が専門家の報告書を

作成する。専門家の報告書の制度は、上述の江頭説の合併検査役制度の実

質とおおむね同様であると言える。また、江頭説は、各当事会社により選

任される合併検査役は同一人であってもよいと述べる。これについては、

上述のように、整理および改造制度における専門家の報告書については、

各合併会社は、同一の専門家を選任し、同一の報告書を作成することが認

められている 84。

81 このほか、江頭説は、合併検査役になるのは、銀行、信託会社または証券会

社であると述べる。江頭・前掲注(2)286頁。

82 合併につき、909条、分割につき 924条参照。

83 法定監査役は、会社の会計監査を行う(2006年会社法 1212条、1210条 1項(a)、475条以下参照)。個人またはファームが認可監督団体の会員であり、かつ

同団体の規則により選任の資格がある場合において、法定監査役の資格を有する

(1212条 1項参照)。イギリス会社法における監査役制度について、坂本達也「イ

ギリス会社法における監査役制度に関する考察」静岡大学法政研究 20巻 1号 1(68)頁参照。

84 ただし、同一の専門家を選任し、同一の報告書を作成することについては、

各合併会社によって共同で裁判所に申請することが求められる(909条 3項)。

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五五

46 支配従属会社間の組織再編における従属会社の少数株主保護(坂本)

 以上からすると、専門家の報告書の制度は、日本の結合企業法制度にと

り入れるべきであろう。すなわち、支配会社 85 および従属会社間で行わ

上述のように、分割の場合にも専門家の報告書の作成および株主への開示が求め

られる(2006年会社法 923条、926条参照)。

85 支配会社とは、株式所有または議決権所有に基づくものを想定しているが、

実質的基準に基づく支配会社も規制の対象とすべきであろうか。ここで言う実質

的基準に基づく支配会社とは、会社の取締役会が他の会社の指揮または指図に

従って行動することを常とする場合における当該他の会社のことである。

①支配会社および従属会社間の組織再編行為は、支配会社の影響力の下行われ、

公正ではないという疑いがあるという立場に立つと、実質的基準に基づく支配会

社であるなら、従属会社に対し影響力を行使し、不公正な組織再編行為を実現す

るという疑いも生ずる。仮に上述の実質的基準に基づく支配会社を含めるとする

と、この基準に基づく支配会社は、自ら実質的基準を充たしていることを認めた

うえで専門家の報告書を作成することが求められる。また、独立当事者間の当事

会社どうしの組織再編行為の場合、組織再編行為という行為の性質上、当事会社

間の交渉過程があり、交渉過程において意思伝達等がお互いになされることが考

えられる。実質的基準を充たしているのか否かについて、株式所有または議決権

所有の基準ほど外部から判断することは容易ではない。独立当事者間の当事会社

どうしでは、一方の当事会社の意思伝達等を他方の当事会社の取締役会が従って

いるのかを前者が判断することは難しく、独立当事者間の組織再編行為において

は、各当事会社にとって専門家の報告書を作成しなければならないのか否かにつ

いての判断は難しくなるであろう。

以上のことを考慮すると、上述の規制案と併設する形で、次のような規制が設け

られるべきである。会社の取締役会が他の会社の指揮または指図に従って行動す

ることを常とする場合には、前者を従属会社および後者を支配会社とする。株主

の申立てにより、裁判所が会社の取締役会が他の会社の指揮または指図に従って

行動することを常とすると判断する場合には、裁判所の許可に基づき、当該株主

は、各当事会社(支配会社および従属会社)に対し専門家の報告書の作成および

開示を請求することができ、かつ各当事会社の専門家の報告書は、従属会社の株

主に開示される。この規制は、支配会社および従属会社間の組織再編行為および

共通の支配会社を有する複数の従属会社間の組織再編行為において適用される。

以上のことが、株式または議決権所有に基づく支配会社および従属会社間の組織

再編行為に関する規制とともに設けられるべきである。

なお、私見によれば、イギリス会社法における影の取締役制度は、問題の者が取

締役会の意思決定を支配するという支配に、問題の者に対し規制を加えるための

根拠を置くものである。したがって、上述のような独立当事者間の当事会社どう

しの交渉過程においてなされる意思伝達等によっては、他方当事会社の取締役会

の意思決定を支配してないと解すべきであろう。あるいは、独立当事者間の当事

会社どうしの交渉過程においてなされる意思伝達等は、上記の実質的基準におけ

る指揮または指図に含まれないと解すべきであろう。

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五四

47支配従属会社間の組織再編における従属会社の少数株主保護(坂本)

れる組織再編行為の際には、各当事会社は、対価の公正について専門家の

報告書を作成し、株主へ開示しなければならない旨の規制を設けるべきで

ある 86。

 また、整理および改造制度の公開会社の特別規制においては、株主は、

他の当事会社の専門家の報告書について閲覧等をすることができる(合併

につき 911条、分割につき 926条参照)。株主は、自己の会社および他の

当事会社の専門家の報告書を、組織再編行為の公正が確保されているのか

どうかを判断するための材料として用いることができ、またこのような開

示により、特定の当事会社、特に従属会社の株主にとって不公正となる組

織再編行為が行われることを防止することになるであろう。

 以上のように考えると、上記の規制案において、各当事会社の株主は、

自己の会社の専門家の報告書または他の当事会社の専門家の報告書のいず

れも閲覧等をすることができるとすべきである。

 また、上述のように、専門家の報告書については、各当事会社において

同一の専門家が同一の報告書を作成することは、各当事会社の株主に不利

益とならない限り認めてよいとすべきであろう。

 江頭説は、当事会社の少なくとも一方が大会社である場合、または大会

社である共通の支配会社を有する複数の従属会社の合併の場合に、各当事

影の取締役および実質的基準に基づく支配会社については、坂本達也『影の取締

役の基礎的考察』(多賀出版、2009年)参照。

86 上述のように、江頭説は、共通の支配会社を有する複数の従属会社が合併を

する場合にも、合併検査役の調査および報告書の開示が必要であるとしている。

支配会社の影響力行使の下従属会社または従属会社の少数株主にとって不公正な

組織再編行為が行われることは否定できず、このことを考慮すると、江頭説が主

張するように、共通の支配会社を有する複数の従属会社間の組織再編行為が行わ

れる際には、組織再編行為をなす各当事会社は専門家の報告書を作成し、開示す

ることを要するとすべきである。

また、江頭説は、合併検査役の報告書について従属会社の債権者への開示も認め

るべきであると述べる。江頭・前掲注(2)286頁、306頁。従属会社の債権者保

護の強化を考慮すると、専門家の報告書も従属会社の債権者への開示を認めるべ

きであろう。

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五三

48 支配従属会社間の組織再編における従属会社の少数株主保護(坂本)

会社は合併検査役の規制を受けるとすべきであるとしている。整理および

改造制度の公開会社の特別規制においては、公開会社と既存の公開会社と

の間の合併もしくは分割の場合、または公開会社と公開会社か否かを問わ

ず新設会社との間の合併もしくは分割の場合に、合併または分割の各当事

会社は専門家の報告書の規制を受ける(合併につき 904条、909条、分割

につき 919条、924条参照)87。

 江頭説の規制案においては、合併検査役の資格および一人の合併検査役

でもよいことを考慮すると、大会社であれば、合併検査役の負担は重くな

らないという考えがあるのではないだろうか。私見としては、従属会社に

おける少数株主保護をより徹底する立場をとり、整理および改造制度の公

開会社の特別規制における規制の内容をとり入れるべきであると考える。

したがって、従属会社の少数株主保護を考慮すると、支配会社および従

属会社間の組織再編行為において、従属会社が公開会社 88 である場合に

は、各当事会社は、上記の専門家の報告書の規制を受けるとすべきであ

ろう 89。

 上述のように、北村説は、対価の公正について、裁判所の選任した検査

役の調査を要求すべきことを提示する。

 イギリス会社法の整理および改造制度においては、検査役の選任は要求

87 See, Geoffrey Morse et al, supra note 20, at para 12.030 – para 12.032, para 12.097, Paul L. Davies and Sarah Worthington, supra note 7, at 1013 – 1014.88 ここでは、会社法 2条 5号の公開会社のことである。

89 共通の支配会社を有する複数の従属会社が組織再編行為をする場合において

も、当事会社である従属会社が公開会社であるときは、同様とすべきである。

また、結合企業法制度として、支配会社の少数株主保護を考慮するのであれば、

支配会社および従属会社間または共通の支配会社の従属会社間の組織再編行為に

おいて、支配会社が公開会社である場合に上記の専門家の報告書の規制を受ける

とすべきであろう。

以上からすると、支配会社または従属会社にかかわらず、少数株主保護を考慮す

るのであれば、支配会社および従属会社間の組織再編行為または共通の支配会社

を有する従属会社間の組織再編行為において、当事会社に公開会社が含まれる場

合には、各当事会社は、上記の専門家の報告書の規制を受けるとすべきであろう。

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五二

49支配従属会社間の組織再編における従属会社の少数株主保護(坂本)

されていない。イギリス会社法においては、裁判所が計画について許可を

するか否かを決める際に同計画について審査することを考慮すると、検査

役による調査の要求の必要性は低いとも考えられる 90。日本において、組

織再編行為についてその効力が生ずるために裁判所の許可が必要であると

すべきであろうか。これが実現すれば、従属会社の少数株主保護は相当程

度高まることから、これの導入について検討することを完全に排除する必

要はないであろう。しかし、裁判所の事前の許可を要するとすれば、組織

再編行為の利便性は低くなるであろう。以上からすると、まずは裁判所の

事前の許可という形よりも、株主が差止、株式買取請求等 91 の権利を行

使するか否かを判断することを助けることを目的として、事前の情報開示

を強化するという形で、株主保護が強化されるべきであろう。このように

考えると、北村説が言う裁判所の選任する検査役による調査は、情報開示

を強化するものであり、採用されるべきである。

 以上のように、私見としては、支配会社 92 および従属会社間の組織再

90 イギリス会社法において、会社の業務について調査するための検査役の選

任の制度は存在する(1985年会社法 431条以下参照)。検査役の選任については、

200名の株主または発行済株式の 10分の 1以上の株式を有する株主等が申請す

ることができ、申請を受けて、国務大臣が検査役を選任し(431条参照)また裁判

所が必要と判断する場合に、これを受けて国務大臣が検査役を選任する(432条参照)。イギリス会社法における検査役制度については、坂本達也「イギリス会

社法における検査役制度に関する考察」静岡大学法政研究 20巻 3号 339(98)頁(2016年)参照。

91 このほか、無効確認の訴えも考えられる。

92 ここで言う支配会社は、実質的基準に基づく支配会社を含むべきであろうか。

実質的基準に基づく支配会社とは、会社の取締役会が他の会社の指揮または指図

に従って行動することを常とする場合における当該他の会社のことである。支配

会社および従属会社間の組織再編行為は、支配会社の影響力の下行われ、公正で

はないという疑いがあり、また上述のような実質的基準に基づく支配会社であれ

ば、従属会社に対し影響力を行使し、不公正な組織再編行為を実現するという危

険は残る。さらに、おそらく検査役による調査が、株主が情報収集するための

後の拠り所となるであろう。以上のことを考慮すると、実質的基準を充たしてい

ることが証明されるのであれば、この規制案において、支配会社は、実質的基準

に基づく支配会社も含むとすべきであろう。すなわち、この種の支配会社と従属

会社間の組織再編行為、およびこの種の会社を共通の支配会社とする複数の従属

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五一

50 支配従属会社間の組織再編における従属会社の少数株主保護(坂本)

編行為に際して、対価の公正 93 について調査させるため、従属会社の株

主の申立てにより、裁判所は検査役を選任しなければならず、調査報告書

は従属会社の株主への開示の対象となるとする旨の規制が結合企業法制度

において設けられるべきであると考える。この規制案においては、検査役

は、支配会社に対しても調査し、調査報告書は従属会社の株主への開示の

対象となるという規制も加えられるべきである 94。

会社間の組織再編行為に際して、対価の公正について調査させるために、従属会

社の株主の申立てにより、裁判所は、検査役を選任しなければならず、調査報告

書は従属会社の株主への開示対象となるとすべきである。

93 検査役は、対価の公正について、会社の業務も調査できるものとすべきであ

る。支配会社および従属会社間の組織再編行為は、支配会社の影響力の下で行わ

れることから、公正な組織再編行為が行われることを確保し、従属会社の少数株

主の保護を強化することを考慮すると、検査役が支配会社の不当な影響力行使が

従属会社にあったのか否かについて調査する権限を与えられるべきであろう。

イギリス会社法においては、検査役は、会社の業務について調査することができ

るとされている(1985年会社法 431条、432条参照)。前掲注(90)参照。

94 従属会社の株主の申立てにより、裁判所が当該従属会社に対し調査するため

に検査役を選任した場合には、検査役は、必要に応じて、①支配会社および従属

会社間の組織再編行為の場合においては、支配会社に対しても、また、②共通の

支配会社を有する複数の従属会社の組織再編行為の場合においては、他の当事会

社である従属会社および支配会社に対しも、調査する権限を有するとすべきであ

る。

上記①および②の場合においては、組織再編行為は、支配会社の影響下で行われ、

公正でないものという疑いがあり、検査役は、支配会社および他の当事会社の従

属会社に対しても調査する必要があると考えるべきである。したがって、選任さ

れた検査役は、上記①および②の場合においては、対価の公正が明確である等の

特段の事情がない限り、原則として、支配会社および他の従属会社に対しても調

査するとすべきである。

検査役が調査した場合には、従属会社の株主は、支配会社についての調査報告書

および他の従属会社についての調査報告書も開示されるとすべきである。

イギリス会社法においては、検査役は、必要に応じて、親会社および子会社等

に対して調査する権限を有するとされており(1985年会社法 433条参照)、検査

役が会社の業務の調査のために選任され、調査した当該会社についての調査報

告書、および検査役が調査した親会社または子会社等についての調査報告書のい

ずれも、調査のための検査役の選任を申請した者または当該会社の株主(調査さ

れた親会社または子会社の株主も含む。)等に対し開示されうるとされている(同

法 437条参照)。検査役に親会社および子会社等に対し調査する権限が与えられ

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五〇

51支配従属会社間の組織再編における従属会社の少数株主保護(坂本)

*本研究は、JSPS 科研費 17K03456の助成を受けたものである。

ている趣旨は、検査役に企業グループに対し調査させることで、実効的な調査を

実現することにあると考えられる。John Birds, supra note 22, at 1012, Paul L. Davies and Sarah Worthington, supra note 7, at 622参照。

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