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松仁会医学誌 54 ⑴:1 ~ 5,2015 総  説 肝疾患診療の現状と今後の方向性 伊藤義人 京都府立医科大学大学院医学研究科消化器内科学 要旨:現在のわが国の肝疾患診療において,①B型肝炎の正しい診療概念の普及,②最終的段階を迎 えたC型肝炎の撲滅と今後の発癌サーベイランス体制の確立,③脂肪性肝疾患特に非アルコール性脂 肪肝炎に併発する疾患の実態の解明と対策の樹立が最も重要な事項である. わが国のB型肝炎ウイルス持続感染者数は約 150 万人で,既感染者は国民全体の約 20 ~ 30 %にも 上りB型肝炎再活性化のリスクを有する.C型慢性肝炎患者数は約 150 ~ 200 万人で多くは高齢化し ており,発癌高リスク群に分類される.現在,C型肝炎撲滅に向けての一定の道筋が示されているが, C型肝炎ウイルスが排除された後の肝発癌サーベイランス体制の確立を急ぐ必要がある. 非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)患者はわが国で最大約 2000 万人と推定されている.その 中の約 20 %から非アルコール性脂肪肝炎(NASH)が発生し,NASH患者からは肝癌を含めた肝疾患 関連死が多い.また,NAFLD患者では心血管系イベントの増加のみならず,肥満に伴う他臓器癌増 加のリスクが否めない. これらの課題はいずれも患者の生命予後に直結する問題であり,消化器内科医のみならず産業衛生 や一般内科診療,さらに,広く癌治療に携わる医師にも精通していただきたい.これらの課題に対処 するには肝臓専門医だけでは不十分で,病院・企業・医師会をあげて取り組むべき課題である. キーワード:Hepatitis B,Hepatitis C,Non-alcoholic fatty liver diseases はじめに 近年のウイルス性肝炎(B型肝炎およびC型肝 炎)治療の進歩には目覚ましいものがある.B型 慢性肝炎ではB型肝炎ウイルス(HBV)の排除は依 然困難であるものの,核酸誘導体の登場 1) により 肝炎のコントロール自体は比較的容易になった. C型肝炎はペグインターフェロン(Peg-IFN)・リ バビリン(RBV)とdirect-acting antiviral agents (DAAs)の併用療法に引き続き, IFN freeのDAAs のみによる治療 2) が,既に一般診療で可能となっ ている.わが国で最大 2000 万人存在するとされ る非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)の予後 に関しては依然として不確定な要素が多く,食事 運動療法に勝る治療法はない.肝線維化進展や発 癌に至るメカニズムの解明による新たな治療薬の 開発が待たれる. B型肝炎 世界のB型肝炎持続感染患者数は 3 . 5 億人でわ が国の持続感染患者数は約 150 万人と推定されて いる.公費による母子感染予防対策事業は 4 半世 紀を経過し,新規垂直感染の予防に効果を上げ新 生児や小児のHBs抗原陽性率は 10 分の 1 以下に 減少した.しかし,成人のHBV感染者の頻度は 依然 1.4 ~ 1.5 %でHBV感染者に対する肝炎対 策・発癌予防が今後も重要である 3) B型慢性肝炎に対するインターフェロン(IFN) 治療は 1987 年に開始された 4) (表1 ).しかし, 従来型のIFN製剤の短期間投与では治療効果が不 十分であった.IFNが再度注目されるようになっ 2015 年 2 月 12 日受付 連絡先:〒602 -8566 京都市上京区河原町通広小路上る梶井町 465 京都府立医科大学 消化器内科学(伊藤義人) Email: [email protected]

肝疾患診療の現状と今後の方向性 - Panasonic · (日本肝臓学会編B 型肝炎治療ガイドライン 第2.1版71ページより改変、補足・注釈省略)

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Page 1: 肝疾患診療の現状と今後の方向性 - Panasonic · (日本肝臓学会編B 型肝炎治療ガイドライン 第2.1版71ページより改変、補足・注釈省略)

松仁会医学誌 54 ⑴:1 ~ 5,2015

総  説

肝疾患診療の現状と今後の方向性

伊藤義人

京都府立医科大学大学院医学研究科消化器内科学

要旨:現在のわが国の肝疾患診療において,①B型肝炎の正しい診療概念の普及,②最終的段階を迎えたC型肝炎の撲滅と今後の発癌サーベイランス体制の確立,③脂肪性肝疾患特に非アルコール性脂肪肝炎に併発する疾患の実態の解明と対策の樹立が最も重要な事項である. わが国のB型肝炎ウイルス持続感染者数は約 150 万人で,既感染者は国民全体の約 20 ~ 30 %にも上りB型肝炎再活性化のリスクを有する.C型慢性肝炎患者数は約 150 ~ 200 万人で多くは高齢化しており,発癌高リスク群に分類される.現在,C型肝炎撲滅に向けての一定の道筋が示されているが,C型肝炎ウイルスが排除された後の肝発癌サーベイランス体制の確立を急ぐ必要がある. 非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)患者はわが国で最大約 2000 万人と推定されている.その中の約 20 %から非アルコール性脂肪肝炎(NASH)が発生し,NASH患者からは肝癌を含めた肝疾患関連死が多い.また,NAFLD患者では心血管系イベントの増加のみならず,肥満に伴う他臓器癌増加のリスクが否めない. これらの課題はいずれも患者の生命予後に直結する問題であり,消化器内科医のみならず産業衛生や一般内科診療,さらに,広く癌治療に携わる医師にも精通していただきたい.これらの課題に対処するには肝臓専門医だけでは不十分で,病院・企業・医師会をあげて取り組むべき課題である.

キーワード:Hepatitis B,Hepatitis C,Non-alcoholic fatty liver diseases

はじめに

近年のウイルス性肝炎(B型肝炎およびC型肝炎)治療の進歩には目覚ましいものがある.B型慢性肝炎ではB型肝炎ウイルス(HBV)の排除は依然困難であるものの,核酸誘導体の登場 1)により肝炎のコントロール自体は比較的容易になった.C型肝炎はペグインターフェロン(Peg-IFN)・リバビリン(RBV)とdirect-acting antiviral agents

(DAAs)の併用療法に引き続き,IFN freeのDAAsのみによる治療 2)が,既に一般診療で可能となっている.わが国で最大 2000 万人存在するとされる非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)の予後に関しては依然として不確定な要素が多く,食事

運動療法に勝る治療法はない.肝線維化進展や発癌に至るメカニズムの解明による新たな治療薬の開発が待たれる.

B型肝炎

世界のB型肝炎持続感染患者数は 3.5 億人でわが国の持続感染患者数は約 150 万人と推定されている.公費による母子感染予防対策事業は 4 半世紀を経過し,新規垂直感染の予防に効果を上げ新生児や小児のHBs抗原陽性率は 10 分の 1 以下に減少した.しかし,成人のHBV感染者の頻度は依然 1.4 ~ 1 .5 %でHBV感染者に対する肝炎対策・発癌予防が今後も重要である 3).

B型慢性肝炎に対するインターフェロン(IFN)治療は 1987 年に開始された 4)(表 1 ).しかし,従来型のIFN製剤の短期間投与では治療効果が不十分であった.IFNが再度注目されるようになっ

2015 年 2 月 12 日受付連絡先:〒602-8566 京都市上京区河原町通広小路上る梶井町 465 京都府立医科大学 消化器内科学(伊藤義人) Email: [email protected]

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伊 藤 義 人2

たのはPeg-IFNの 48 週投与が始まった 2011 年で,日本肝臓学会の治療ガイドラインにおける第一選択の治療法にも推奨されている 4)(図 1 ).

B型慢性肝炎に対する核酸誘導体は 2000 年にラミブジンが保険適応になって以来,現在までアデホビル・エンテカビル・テノホビルの合計 4 種類が一般臨床で使われている.ラミブジンは耐性ウイルスの出現頻度が高いため現在では使用されることが少なくなっており,第一選択の薬剤としてエンテカビル・テノホビルが推奨されている(図 1 ).

日本肝臓学会のB型慢性肝炎治療ガイドラインでは,ALT値とHBV DNA量に基づいた治療適応基準が示されている(図 1 ).すなわち,ALT値が31U/L以上でHBV DNA量が 4.0 log copies/mL以上の症例はPeg-IFNや核酸誘導体による抗ウイルス療法の適応となる.注意すべきは既に肝硬変症に進展している症例で,HBV DNA量が 2.1 log copies/mL以上(感度以上)の状態が持続すればALT値にかかわらず核酸誘導体による治療が推奨されている.B型慢性肝炎治療の短期目標とし

てはHBe抗原の陰性化・HBV DNA量の低下・ALT値の正常化が重要であり,長期目標としては将来の肝発癌抑制を視野に入れたHBs抗原の陰性化が望まれる 5).しかし,HBVの遺伝子型C型が 85 %を占めるわが国では,HBs抗原の陰性化が困難な場合が多い.

近年,B型肝炎の再活性化対策の重要性が報告されている.すなわち,免疫抑制剤の使用や化学療法の施行に伴いB型肝炎持続感染者の肝機能が悪化し,既感染者においても劇症肝炎や急性肝炎が発症することがあり,十分な注意を必要とする 6).世界のB型肝炎既感染者数は約 20 億人で,わが国でもB型肝炎既感染者の頻度は国民全体の約 20~30%に相当する7).高齢者ほど既感染率は高く,日本肝臓学会では免疫抑制・化学療法により発症するB型肝炎対策ガイドラインを定めその普及に努めている 4)(図 2 ).すなわち,免疫抑制・化学療法を行う患者では,HBs抗原陽性の場合は基本的に核酸誘導体による治療が必要で,HBs抗原が陰性であってもHBc抗体やHBs抗体が陽性であれ

表 1 日本における抗ウイルス療法の経緯

図 1 B型慢性肝炎治療の基本方針

<治療開始基準>HBV DNA 4.0 log copies/ml 以上、

かつALT 31 U/L以上

(HBe抗原は問わない)

Peg-IFN

ETV or TDF

<初回治療>

IFN治療への反応性 (+)

IFN治療への反応性 (-)

<再燃時>① Peg-IFN(IFN)② ETV or TDF

<ETV中止後の再燃時>① ETV or TDF② Peg-IFN (IFN)

<再治療>

慢性肝炎

肝硬変

<治療開始基準>HBV DNA 陽性

(ALT値、ならびにHBe抗原は問わない)

(日本肝臓学会編 B 型肝炎治療ガイドライン 第2.1版54 ページより改変、 補足 ・注釈省略)

ETV or TDF

ETV or TDF

ETV: entecavirTDF: tenofovirIFN: interferonPeg-IFN: peg-interferon

1987 年従来型インターフェロン(28 日間;HBe 抗原陽性のみ)2002 年 従来型インターフェロン(6 カ月間;HBe 抗原陽性のみ)2000 年ラミブジン2004 年アデホビル2006 年エンテカビル2011 年ペグインターフェロン2014 年テノホビル

(日本肝臓学会編 B型肝炎治療ガイドライン 第 2.1 版 5 ページより改変)

Page 3: 肝疾患診療の現状と今後の方向性 - Panasonic · (日本肝臓学会編B 型肝炎治療ガイドライン 第2.1版71ページより改変、補足・注釈省略)

3肝疾患診療の現状と今後の方向性

ばHBV DNA量を測定し,たとえ感度以下であってもガイドラインを参照にB型肝炎の再活性化を見逃さないように定期的にHBV DNA量を測定する必要がある.

C型肝炎

C型慢性肝炎に対する抗ウイルス療法は 1992年のIFN単独療法に始まる.その後,2004 年に

長時間作用するPeg-IFNと抗ウイルス薬であるRBVの併用療法が臨床の場に登場し,C型慢性肝炎の治癒率が格段に向上した.2011 年からは遺伝子型 1 型の難治例に対してプロテアーゼ阻害剤であるテラプレビルを加えた 3 剤併用療法が導入され強い抗ウイルス効果と治療期間の短縮が可能となった 8).また,第二世代のシメプレビルを加えた 3 剤併用療法はテラプレビルに比べて副作用が少ない.最近では,同じ第二世代のバニプレビ

図 2 免疫抑制・化学療法により発症するB型肝炎対策ガイドライン

図 3 C型慢性肝炎ゲノタイプ 1型・高ウイルス量症例の治療

スクリーニング(全例)HBs抗原

HBe抗原、HBe抗体、HBV DNA定量

モニタリングHBV DNA定量 1回/1~3か月AST/ALT 1回/ 1~3か月

(治療内容を考慮して間隔・期間を検討する)

HBc抗体(-) かつHBs抗体(-)

HBV DNA定量

核酸アナログ投与

通常の対応

2.1 log copies/ml以上 2.1 log copies/ml未満

HBc抗体、HBs抗体

HBs抗原 (+) HBs抗原 (-)

2.1 log copies/ml以上 2.1 log copies/ml未満

(日本肝臓学会編 B 型肝炎治療ガイドライン 第2.1版71ページより改変、 補足 ・ 注釈省略)

HBc抗体(+) または HBs抗体(+)

(日本肝臓学会編 C 型肝炎治療ガイドライン 第3.4版88ページより改変、 補足 ・ 注釈省略)

Peg-IFN: peg-interferonSMV: simeprevir, VAN: vaniprevirRBV: ribavirin, DCV: daclatasvirASV: asunaprevir

高発癌リスク群(高齢者かつ線維化進展例)

IFN適格

IFN不適格

SMVまたはVAN/Peg-IFN/RBV併用DCV/ASV(Y93/L31変異なし)

DCV/ASV (Y93/L31変異なし)

中発癌リスク群(高齢者または線維化進展例)

IFN適格

IFN不適格

SMVまたはVAN/Peg-IFN/RBV併用DCV/ASV(Y93/L31変異なし)

DCV/ASV (Y93/L31変異なし)

低発癌リスク群(非高齢者かつ線維化軽度例)

IFN適格

IFN不適格

SMVまたはVAN/Peg-IFN/RBV併用DCV/ASV(Y93/L31変異なし)治療待機

治療待機DCV/ASV(Y93/L31変異なし)

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伊 藤 義 人4

ルが保険適応となり,最新の日本肝臓学会のC型肝炎治療ガイドラインでIFN適格例の治療においてシメプレビルと同様第一選択の治療方法の一つとなっている(図 3 )9).

IFNやPeg-IFNをベースにしたC型慢性肝炎の治療ではIL28B(IFN λ)の 1 塩基多型(SNP)が最も鋭敏な治療抵抗性予測因子である.また,肝線維化の程度,年齢,性差なども補助的に有用な項目である.2014 年 9 月から臨床の場に登場したIFN freeのゲノタイプ 1 型C型慢性肝炎・代償性肝硬変に対する経口治療薬であるダクラタスビル

(DCV)/アスナプレビル(ASV)の 2 剤併用療法はこういったIFN治療抵抗性に関わる因子に関係なく約 85 %の症例でHCVを排除する.治療上問題となるのは,DCV/ASVに対する耐性変異であり,日本肝臓学会のC型肝炎治療ガイドラインでも耐性が認められた場合には,この治療法は推奨されていない(図 3 )9).また,トランスアミナーゼ値上昇などの副作用の問題もあり,基本的には中等度以上の肝発癌のリスクがある症例を最も良い治療適応としている.

C型慢性肝炎に対する新規のDAAの開発スピードは速く,より副作用が少なくかつ治癒率の高い治療法が今後臨床の場に登場することが予想される.IFN freeのDAAのみによる治療がC型慢性肝炎治療の主体となる時代を迎え,IFNをベースにした治療に比べて患者背景により薬剤のさじ加減を検討する必要性は少なくなった.最近,ゲノタイプ 2 型に対するIFN freeのソホスブビルとRBVによる治療が始まった.

非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)

肝炎ウイルス,特に,HCV感染にもとづく肝癌はわが国の肝癌の 80 %を占めていた.しかし,C型慢性肝炎の治癒例の増加に伴いHCV感染関連の肝癌の肝癌全体に占める割合は減少しつつある.実際,われわれの教室の検討でも 2008 年~2013 年に受診した肝癌患者でHCV感染の明らかなものは約 60 %に留まっている(図 4 ).逆に,非B非C型肝癌は増加しており,われわれの教室でも肝癌全体の 27 %を占めている.その中にはアルコールに起因するものや生活習慣病に起因するものが含まれる.

糖尿病・脂質異常症・高血圧症といった生活習慣病に関連するNAFLD患者は我が国に最大で2000 万人存在すると推定されており,その中の約 20 %,最大で 400 万人が進行性の非アルコール性脂肪肝炎(NASH)の可能性がある.NASHからの肝発癌は決して高率ではないが,高齢男性に多く,検診で肝機能異常を指摘されている肥満症の中年男性が高齢化する近未来の日本にはNASH由来の肝癌がさらに増加していくものと推測される.

以前の欧米からの報告では,高度の肥満を認める患者(BMI≥ 35kg/m2)では胆嚢癌,大腸癌,食道癌,胃癌,膵癌,さらに,肝癌に罹患するリスクが高いとされている.われわれの教室でも,NAFLD患者では他臓器の癌を合併するリスクが高いことを想定し長期経過観察を行っている 10).また,わが国における糖尿病患者の死因の中で,肝硬変や肝癌,すなわち,肝疾患が死因となるものが 10 %以上にのぼることが知られている 11).これらの事実より,肥満症や糖代謝異常と肝硬変・肝発癌とを繋ぐ経路を明らかにすることは,今後の発癌予防を見据えた研究課題として重要であると考える.

Patatin-like phospholipase domain-containing protein 3 (PNPLA3)遺伝子のSNPが肝脂肪の蓄積や脂肪肝の発症と関連することがRomeoらにより初めて報告されて 12)久しい.世界中の多くの追試でもこのSNPと脂肪肝との関連が確認されており,日本からの報告でもこのSNP が脂肪肝患者の肝線維化と関連するとしている 13).検診をベースにした我々の検討でもこのSNPは脂肪肝と強く関連していた(unpublished data).

NAFLD・NASHに対して最も有効な治療方法は食事・運動療法であるが,減量困難な事例が多

図 4 肝がんの原因

京都府立医大 消化器内科(2008-2013)

京都府立医科大学 消化器内科

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5肝疾患診療の現状と今後の方向性

く薬物治療が必要な症例も少なくない.現在までに糖尿病治療薬やビタミンEなど様々な薬剤の投与が試みられてきたが,満足のいく結果が得られていない.最近,米国で行われたFLINT試験 14)

では,obeticholic acidがALT値の低下や肝組織学的改善をもたらしたと報告している.現状では,NAFLD・NASHに合併する糖尿病・脂質異常症・高血圧症などの治療や生活習慣の改善が重要な治療手段であるが,将来,NASHの肝線維化進展や肝発癌の分子メカニズムが解明されるとともに,一般の実臨床において治療に有効な薬剤が使用できることが期待される.

おわりに

最後に,肝疾患の最新の治療(B型肝炎・C型肝炎・NASH)に関しては日本肝臓学会のガイドラインや診療ガイドにもとづき実施していただきたいので,是非,肝臓専門医に紹介するようお願いしたい.

文  献

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2 ) Suzuki Y� Ikeda K� Suzuki F� et al. Dual oral therapy with daclastavir and asunaprevir for patients with HCV genotype 1b infec�tion and limited treatment options. � Hepa�tol 2013 ; 58 : 655-662 .

3 ) 田中純子,松尾順子.わが国におけるB型肝炎の疫学―国際比較を含めて―.新時代のウイルス性肝炎学.日本臨床 2011;69:327-334 .

4 ) B型肝炎治療ガイドライン(第 2 版)2014 年 6月 日本肝臓学会 肝炎診療ガイドライン作成委員会編.https://www.jsh.or.jp/medical/guidelines/jsh_guidlines/hepatitis_b

5 ) Hosaka T� Suzuki F� Kobayashi M� et al. Long-term entecavir treatment reduces he�patocellular carcinoma incidence in patients with hepatitis B virus infection. Hepatology

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8 ) Kumada H� Toyoda �� �kanoue T� et al. Tel� Kumada H� Toyoda �� �kanoue T� et al. Tel�aprevir with peginterferon and ribavirin for treatment-naivepatients chronically infect�ed with HCV of genotype 1 in japan. � Hep�atol 2012 ; 56 : 78-84 .

9 ) C型肝炎治療ガイドライン(第 3.4 版)2015 年 5月 日本肝臓学会 肝炎診療ガイドライン作成委員会編.https://www.jsh.or.jp/medical/guidelines/jsh_guidlines/hepatitis_c

10) Seko Y� sumida Y� Tanaka S� et al. Predic�) Seko Y� sumida Y� Tanaka S� et al. Predic� Seko Y� sumida Y� Tanaka S� et al. Predic�tors of malignancies and overall mortality in �apanese patients with biopsy-proven non-alcoholic fatty liver disease. Hepatol Res (in press).

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14) Neuschwander-Tetri BA� Loomba R� Sanyal A� � for the NASH Clinical Research Net�work. Farnesoid X nuclear receptor ligand obeticholic acid for non-cirrhotic� non-alco�holoc steatohepatitis (FLINT): a multicenter� randomized� placebo-controlled trial. Lan�cet� November 7 � 2014 .