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解熱鎮痛剤(NSAIDs 深井 良祐 [著] Pharmaceutical education for the general public. Advanced level text to learn medicine.

解熱鎮痛剤(NSAIDs1 解熱鎮痛剤(NSAIDs) 深井 良祐 [著] Pharmaceutical education for the general public. Advanced level text to learn medicine.2 目次 第一章

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解熱鎮痛剤(NSAIDs)

深井 良祐 [著]

Pharmaceutical education for the general public.

Advanced level text to learn medicine.

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目次

第一章. 痛みとは P. 3

1-1. 痛みを感じる経路 P.4

1-2. 炎症と鎮痛剤(NSAIDs) P.6

1-3. NSAIDs とプロスタグランジン P.8

1-4. COX とプロスタグランジン P.9

第二章. プロスタグランジン P. 11

2-1. より詳しいプロスタグランジン P.11

2-2. プロスタグランジンと痛みの閾値 P.13

2-3. プロスタグランジンと子宮収縮作用 P.15

2-4. プロスタグランジンと胃腸障害 P.16

2-5. トロンボキサン A2(TXA2)と血小板凝集作用 P.17

第三章. NSAIDs の周辺知識 P. 20

3-1. アスピリン喘息 P.20

3-2. シクロオキシゲナーゼ(COX)の種類 P.21

第四章. その他の解熱鎮痛剤 P. 24

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第一章.痛みとは

痛みは肉体的に苦痛を与えます。例えば、手を骨折してしまうとギブスをはめながら生活しなけ

ればいけません。これは、少しでも手を動かしてしまうと骨折部位に痛みが起こるためです。

そのため、これらの痛みを取り除くことができればより快適な生活を送ることができるようにな

ります。

ただし、必ずしも痛みは悪い要素ばかりではありません。痛みの感覚がなければ、私たちの体は

すぐにボロボロの状態になってしまいます。

先ほどの骨折の例であれば、痛みを感じなければ骨折しているにも関わらず手を動かして無茶を

してしまいます。「安静にして骨折部位を治す」という事が行われにくくなります。

ここに、痛みが起こることによって「安静にして骨折部位が早く治るようにしよう」と考えるこ

とができます。

他にも、足にトゲが刺さってしまった時であっても、痛みが伝われば足のトゲを取って傷が広が

らないように対処するはずです。もし痛みを感じなければ、傷が広がることで細菌感染を引き起こ

すようになるかもしれません。

つまり、「痛み」の感覚は私たちが健康に生きていくために必要不可欠な要素の一つです。

世の中には「痛みを感じない病気(先天性無痛無汗症)など」があります。この方たちは痛み

を感じないために、知らない間に大怪我をしていたり火傷に気が付かなかったりします。さら

に、これらの行為が危険であることの認知も難しいです。

体に大きな異常が起こっていたとしてもこれらのシグナルに気が付かないため、体に大きな

負担がかかってしまいます。そのため、痛みの感覚はとても重要になります。

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なお、このテキストで説明する薬は NSAIDs と呼ばれる解熱鎮痛剤です。

NSAIDs は「風邪を引いた時の熱を下げる時」や「生理痛・頭痛の痛みを取り除く場面」な

どに頻用される薬です。

1-1. 痛みを感じる経路

前述の通り、痛みは私たちが健康な状態で生きていくために必要不可欠な要素の一つです。

しかし、この痛みの度合いが強すぎてしまうと不都合となります。

体に危険を知らせるためのシグナルである「痛み」が強くなりすぎると苦痛を感じてしまい

ます。そして、痛みの強い状態が長く続いてしまうと精神的にも参ってしまいます。このため、

痛みは「肉体的・精神的に苦痛を与える」と言われています。

そのために痛みを取り去る鎮痛剤が重要となります。この時の痛みを感じるための経路とし

ては、以下のようなものがあります。

痛みを感じるためには、痛みを感じる部位が損傷される必要があります。そのため、上図でのお

尻を強く打っているため、この部位から「お尻が痛い」というシグナルが発せられます。

このシグナルは神経を伝わることで脊髄に移行します。その後、この痛みのシグナルが脳にまで

伝わることによって、ようやく「痛い!!」と感じるようになります。

つまり、痛みのシグナルが脳に届いた後に「痛み」を感じるようになります。

痛みの伝達はこのような経路をたどるため、鎮痛剤の作用機序としては以下のような三つを考え

ることができます。

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① 末梢での痛みを抑制する

脳や脊髄を合わせて中枢と呼びますが、それ以外の部位を末梢と呼びます。例えば、手や足は末

梢ですし、肺や肝臓、腎臓なども抹消となります。

そして、手や足などの末梢組織が傷つけられることによっ

て、まさにその部位で痛みが発生します。そのため、この傷

害部位での痛みの発生を抑えることができれば、痛みを和ら

げることができます。

今回の鎮痛剤(NSAIDs)でメインとなる題目がまさにこの

「末梢での痛みを抑制する」に関してとなります。

② 神経の異常を抑える

末梢組織の障害によって痛みのシグナルが発生した後、そのシグナルは神経を通ることで伝わっ

ていきます。つまり、痛みを認識するためには神経の働きが重要となります。

そのため、この神経の興奮が異常であると、脳に痛みのシグナルをもたらすようになります。

神経興奮に異常が起こっているために痛みが起こります。それならば、この神経興奮を抑えるこ

とができれば痛みを抑えることができるはずです。

なお、神経障害によって起こる痛みは神経が関係しているため、末梢での痛みを抑える NSAIDs

では効果が不十分となります。

③ 脳で痛みを感じなくさせる

シグナルが末梢で発生して神経を伝わった後、痛みのシグナルは脳にまで到達します。この痛み

のシグナルを脳で感知するために、痛みを感じるようになります。

そのため、脳に作用することでこの痛みが起こるのであれば、脳で痛みを感じさせないようにブ

ロックすれば良いことが分かります。

これが、麻薬性鎮痛剤の簡単な作用機序です。

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1-2. 炎症と鎮痛剤(NSAIDs)

痛みを考える上で炎症がとても重要になります。

「怪我などによって傷を負った場合」や「細菌感染による組織修復」に炎症が関わっています。

これら炎症は免疫による正常な反応です。しかし、この炎症が過剰になると自分自身の組織まで破

壊してしまいます。

組織破壊が起こると、当然ながら痛みが起こります。そのため、これら炎症反応を抑える物質は

痛み止めの薬になることが分かります。

なお、炎症反応の主な特徴としては以下のようなものがあります。

炎症の 5 大徴候 特徴

発赤(赤くなる) 炎症部位の血管が拡張し、

血流量が増えることによって赤くなる

発熱(熱が出る) 脳内に存在する体温調節する部位(体温調節中枢)に働き、

体の熱を上げるように作用する

腫脹(腫れる) 炎症が起こっている部位に体液などが流れ込み、

腫れてしまう症状

疼痛(痛みがある) 炎症部位では痛み物質が産生され、

脳で痛みを感じやすくさせる

機能障害

(例:痛くて腕を動かせない など) 上記四つの症状によって体に障害が起こる

解熱鎮痛剤とはその名の通り、熱を下げたり痛みを抑えたりする薬です。

炎症の特徴を見ると、炎症によって発熱や疼痛などの反応を起こすことが分かります。かぜをひ

いた時に熱が出ますが、これは病原菌から身を守るために炎症反応が起こっているためです。他に

も、関節炎などによって炎症が起こると痛みを生じます。

つまり、これら炎症を抑えることができれば発赤や発熱、疼痛などを抑えることができます。そ

して、これら炎症を抑える強力な薬としてステロイド性抗炎症薬があります。

しかし、ステロイドは副作用が強いため、ちょっとした時の鎮痛剤としては利用されません。そ

こで、「ステロイドより抗炎症作用や鎮痛作用は小さいが、副作用も少ない薬」を利用します。

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このような薬として非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)があります。NSAIDs の正式名称は

「Non-Steroidal Anti-Inflammatory Drugs」です。直訳すると「ステロイドではない抗炎症薬」となり

ます。

つまり、抗炎症薬として強力なものにステロイドがありますが、NSAIDs はそのステロイド以外

の薬と考えることができます。

※NSAIDs は「エヌセイズ」と呼びます

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1-3. NSAIDs とプロスタグランジン

前述の通り、炎症を抑えることができれば熱を下げたり痛みを抑えたりすることができます。こ

の時、炎症が起こっている部位で放出される物質としてはヒスタミンやブラジキニン、ロイコトリ

エン、プロスタグランジン(PG)などがあります。

ただし、ここでは炎症部位で放出される物質としてプロスタグランジン(PG)だけを認識してお

けば問題ありません。このプロスタグランジンには体の熱を上げたり、痛みを増大させたりする作

用があります。

つまり、「炎症が起こると発熱を促し、痛みを引き起こすプロスタグランジン(PG)が放出され

る」という事が理解できれば良いです。

プロスタグランジンが存在するために体の熱が上昇し、痛みを感じるようになります。そのため、

解熱作用や鎮痛作用を得るためには、これらプロスタグランジンの働きを阻害すれば良いことが分

かります。

このような作用を持つ薬が非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)です。NSAIDs は解熱鎮痛剤(熱

を下げたり痛みを抑えたりする薬)として利用されます。これはプロスタグランジンの産生を抑え

ることによって、これらの作用を得ることができます。

※キーワード:プロスタグランジン(PG)

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1-4. COX とプロスタグランジン

例えば風邪をひくと炎症が起こり、プロスタグランジン(PG)が産生されます。これによって体

の熱が上昇します。

そのため、これらプロスタグランジンが作られる過程を抑えることができれば、熱を下げること

ができるはずです。

同じように炎症によって痛みが起こっている場合、プロスタグランジンの産生を阻害することに

よって痛みが鎮まるようになります。このとき、プロスタグランジンは下図のような過程を経て産

生されます。

かなり簡略化した図になりますが、プロスタグランジン合成ではシクロオキシゲナーゼ(COX)

という酵素の存在が重要になります。この酵素が存在することによって、プロスタグランジンが作

られるようになります。

図にあります通り、アラキドン酸という物質にシクロオキシゲナーゼ(COX)が作用することに

よってプロスタグランジンが合成されます。

先ほど、「解熱鎮痛剤である NSAIDs はプロスタグランジンの産生を抑制する」と説明しましたが、

まさにこの NSAIDs の作用機序がシクロオキシゲナーゼ(COX)の阻害です。

発熱や痛みを引き起こすプロスタグランジンはシクロオキシゲナーゼ(COX)によって作られま

す。つまり、シクロオキシゲナーゼ(COX)の働きを抑えてしまえばプロスタグランジンが合成で

きなくなります。

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このように、NSAIDs はシクロオキシゲナーゼ(COX)の働きを阻害することによって、プラス

タグランジン合成を抑制します。この結果として、発熱や痛みが抑えられます。

これが、NSAIDs に解熱鎮痛作用がある理由です。

※キーワード:シクロオキシゲナーゼ(COX)

・炎症は悪いものではない

炎症が引き起こされると痛みを伴ったり熱を出したりします。この炎症反応が強く表れると、体

にとって悪影響となります。そのため、「炎症 = 悪いもの」と考えられがちです。

しかし、炎症は免疫反応にとってとても重要な役割を担っています。

細菌感染などによって炎症が起こることで組織に障害が起こりますが、これによって病原菌が物

理的に感染部位以外の場所に広がるのを抑えることができます。

また、炎症は感染部位に白血球を呼び寄せる作用もします。これによって、感染症の悪化を防ぐ

ことが出来ます。

炎症が酷くなるのを抑えることは重要です。しかし、必要な炎症まで抑えてしまうと、より症状

の悪化を引き起こす可能性があります。

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第二章.プロスタグランジン

2-1. より詳しいプロスタグランジン

プロスタグランジンはいくつもの種類があります。そのため、プロスタグランジンの種類を学ぶ

だけでも一度に多くの薬を学ぶことができます。

それだけでなく、「なぜ解熱鎮痛剤としての NSAIDs を服用することによって副作用が起こるか」

まで理解することができます。

以下にプラスタグランジン合成のより詳しい図を載せます。

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また、以下にそれぞれの役割についても記します。

このように、シクロオキシゲナーゼ(COX)によって合成されるプロスタグランジンには様々な

種類があります。また、それぞれ違った作用をもつことが分かります。

その中で PGE2(プロスタグランジン E2)に着目すると、発熱や痛みを増強させる作用を持つこ

とが分かります。また、PGI2(プロスタグランジン I2)でも痛みを増強させる作用があります。

NSAIDs はシクロオキシゲナーゼ(COX)を阻害する作用があるため、これら PGE2や PGI2の合

成が抑制されることによって解熱作用や鎮痛作用を得ることができます。

それぞれのプロスタグランジンの役割を覚える必要はありませんが、このように「プロスタグラ

ンジンには様々な種類がある」、「プロスタグランジンが痛みや発熱に関与している」という事を理

解してください。

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2-2. プロスタグランジンと痛みの閾値

PGE2(プロスタグランジン E2)や PGI2(プロスタグランジン I2)は痛みを増強させる物質ですが、

より正確に言えば「痛みに対する反応性を高める物質」となります。

プロスタグランジン単独で痛みを生じさせるのではなく、痛みを感じやすくさせるという訳です。

この概念を理解するためには、「閾値(いきち)」という言葉を学習する必要があります。

閾値とは、ある一定以上の刺激が加わった場合にのみ反応する限界値を指します。例えば、以下

のように閾値が設定されている場合であると、左図では痛みを感じません。

痛みのシグナルが発生したとしても、このシグナルの強さが閾値を越えていないので痛みを感じ

ないのです。

しかし、これが右図になると痛みを感じるようになります。

右図では二ヶ所で「痛みのシグナルが閾値を越えている」という事が分かります。つまり、閾値

を越えた部分でのみ痛みを感じるようになります。

このように、「痛み」を感じるためにはある一定以上の刺激がなければいけません。この時、プロ

スタグランジンはこの閾値を下げるように作用します。

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痛みを感じるようになるためには二つのパターンが考えられます。一つは痛みのシグナル自体が

強い場合です。そしてもう一つは、痛みを感じるボーダーラインである閾値が下がる場合です。

つまり、同じ刺激であっても閾値が下がっている状態であると、それまで何も感じなかったよう

な小さい刺激であっても痛みとして感じるようになります。

この様子が下図にある右の状態です。

左図と右図を比べると、痛みのシグナルの強さ自体は同じです。しかし、右図では閾値が下がっ

ているために痛みを感じるようになっています。

このように、閾値を下げる作用をもつ物質としてプロスタグランジンがあります。

プロスタグランジンそれ自体は痛みを引き起こさせる作用はありませんが、痛みを感じやすくさ

せることでより痛みを際立たせるように働きます。NSAIDs は「プロスタグランジンによる閾値を

下げる作用」を抑えることによって、痛み止めとしての役割を発揮します。

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2-3. プロスタグランジンと子宮収縮作用

プロスタグランジンの種類としては、発熱を起こしたり痛みの閾値を下げたりする PGE2や PGI2

があります。しかし、プロスタグランジンとしては他にも様々な種類があります。

そのため、これら他の種類のプロスタグランジンの作用を学ぶだけでも多くの医薬品の作用を学

習することができます。

例えば、PGF2α(プロスタグランジン F2α)や PGE2(プロスタグランジン E2)には子宮収縮作用

があります。

そのため、これら PGF2αや PGE2 は陣痛促進剤となります。つまり、子宮を収縮させることによ

って人工的に陣痛を促進・増強させることができます。

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2-4.プロスタグランジンと胃腸障害

解熱鎮痛剤である NSAIDs の有名な副作用として胃腸障害があります。つまり、痛み止めとして

NSAIDs を飲むことによって胃が荒れてしまいます。

この理由ですが、NSAIDs がプロスタグランジン産生を抑制することにあります。

プロスタグランジンは熱を上げたり痛みを誘発したりします。そのため、シクロオキシゲナーゼ

(COX)を阻害することによってプロスタグランジン合成を抑制する NSAIDs は解熱鎮痛剤となり

ます。

しかし、PGE2 や PGI2 に胃粘液分泌促進作用があることから分かる通り、プロスタグランジンは

胃粘膜を保護する役割もあります。

そのため、プロスタグランジン合成の抑制によって熱が下がったり痛みが治まったりしますが、

その代わりとして胃粘膜の保護作用がなくなってしまいます。これによって、潰瘍が引き起こされ

てしまいます。

医療機関で NSAIDs を処方される時、大抵は胃腸薬(胃粘膜保護薬)と一緒に処方されます。こ

の理由としては、NSAIDs による胃腸障害を回避するためにあります。

NSAIDs の服用によってプロスタグランジン合成が少なくなり、胃腸障害を引き起こしやすくな

っています。そこで、胃腸障害を予防するために胃粘膜保護薬が使用されます。

※胃腸障害とあるように、NSAIDs は「腸」に対しても潰瘍を引き起こします。

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2-5. トロンボキサン A2(TXA2)と血小板凝集作用

これまでプロスタグランジンの合成について話を進めてきました。シクロオキシゲナーゼ(COX)

はアラキドン酸を原料としてプロスタグランジンを合成します。

しかし、シクロオキシゲナーゼ(COX)によって合成される物質はプロスタグランジン以外にも

トロンボキサン A2(TXA2)という物質もあります。

このトロンボキサン A2(TXA2)の重要な作用としては血小板凝集作用があります。つまり、血

液が固まりやすくなります。

そのため、シクロオキシゲナーゼ(COX)を阻害することによってトロンボキサン A2(TXA2)

の合成を抑制することができれば、血小板凝集を抑えることができます。

「血小板凝集が抑えられる」という事は、血液が固まりにくくなる事を意味しています。いわゆ

る血液をサラサラする作用です。

血管の中に血栓(血の塊)が出来てしまった場合、これが心臓の血管を詰まらせると心筋梗塞と

なります。他にも脳の血管を詰まらせると脳卒中となります。そのため、血液を固まりにくくする

ことで、これら血栓が作られる過程を抑えることができます。

昔から使用されている解熱鎮痛剤としてアスピリンがありますが、このアスピリンを少ない量で

使用することによって血小板凝集抑制作用を得ることができます。

なお、少ない量のアスピリンを低用量アスピリンと表現します。

低用量アスピリンを投与することによってシクロオキシゲナーゼ(COX)が阻害されます。それ

に続いて、その下流にあるトロンボキサン A2(TXA2)の合成が抑制されます。これによって、血

小板凝集が抑制されて血液が固まりにくくなります。

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・アスピリンジレンマ

前述の通り、低用量アスピリンには血小板凝集抑制作用があります。この作用はトロンボキサン

A2(TXA2)の合成を抑制するために起こります。

しかし、アラキドン酸から合成されるプロスタグランジンの作用を見てみると、PGI2(プロスタ

グランジン I2)の作用として血小板凝集抑制作用をもつことが分かります。

「血小板凝集抑制作用」とは、血液が固まりにくくなることを意味しています。そのため、PGI2

が阻害されると、その逆の作用として血液が固まりやすくなります。

NSAIDs によってシクロオキシゲナーゼ(COX)が阻害されると、トロンボキサン A2(TXA2)の

抑制によって血液がサラサラになります。しかし、それと同時に PGI2まで阻害されると血液が固ま

りやすくなってしまいます。

このように片方では「血液をサラサラにする作用」が起こり、もう片方では「血液を固まりやす

くする作用」が起こります。このような矛盾(ジレンマ)が起こります。

そこで、低用量という言葉が登場します。先ほどのアスピリンの例であれば、低用量(少ない量)

でアスピリンを使用することによってトロンボキサン A2(TXA2)だけを阻害することができます。

これによって、血小板凝集抑制作用だけを得ることができます。

しかし、鎮痛作用を得る目的でアスピリンを使用する場合は高用量(多い量)のアスピリンを投

与する必要があります。高用量アスピリンであるとトロンボキサン A2(TXA2)だけでなく、PGI2

まで阻害してしまいます。

この結果、トロンボキサン A2(TXA2)の抑制による「血液をサラサラにする作用」と PGI2の阻

害による「血液を固まりやすくする作用」の両方が起こります。そのため、互いの作用を打ち消し

あってしまいます。

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そのため、高用量のアスピリンを投与しても血小板凝集作用を得ることができません。これをア

スピリンジレンマと呼びます。

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第三章.NSAIDs の周辺知識

3-1. アスピリン喘息

昔から使用されている NSAIDs としてアスピリンがあります。このアスピリンは前述の通り、副

作用として胃腸障害があります。

それだけでなく、NSAIDs の副作用としてはアスピリン喘息と呼ばれるものがあります。つまり、

NSAIDs を服用することによって喘息のような症状が出ます。

プロスタグランジン(PG)の合成過程として、シクロオキシゲナーゼ(COX)という酵素が関与

していることを既に記しました。

この時、実はアラキドン酸はプロスタグランジンへと合成される過程だけでなく、ロイコトリエ

ン(LT)と呼ばれる物質へ変換される過程にも関与しています。このロイコトリエンはアナフィラ

キシーや気管支収縮作用などに関与しています。

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NSAIDs によってシクロオキシゲナーゼ(COX)が阻害されると、プロスタグランジン合成が抑

制されます。

ただし、プロスタグランジンが作られなくなると、その分だけアラキドン酸が溜まっていきます。

この溜まったアラキドン酸がどこに行くかと言うと、必然的に残ったもう一つの経路に流れ込みま

す。

つまり、もう一方の経路であるロイコトリエン(LT)の合成が促進されます。

前述の通り、ロイコトリエンにはアナフィラキシーや気管支収縮作用があります。そのため、こ

れらロイコトリエンの合成が促進されることによって喘息発作を引き起こすことがあります。これ

が、NSAIDs の副作用によって起こるアスピリン喘息です。

3-2. シクロオキシゲナーゼ(COX)の種類

NSAIDs はシクロオキシゲナーゼ(COX)を阻害することで解熱鎮痛作用を示しますが、シクロ

オキシゲナーゼには主に COX-1 と COX-2 の二種類があります。

それぞれの特長については以下のようになっています。

COX の種類 特徴

COX-1 ・体の全身に存在している

・胃粘膜保護、血流の維持など

COX-2 ・炎症が起こることによって作られる

・炎症に伴って痛みや腫れを引き起こす

シクロオキシゲナーゼ(COX)の中でも、COX-1 は胃粘膜保護に関与しています。そのため、

NSAIDs によって COX-1 が阻害されると胃腸障害が起こりやすくなると考えられています。

そこで、全身に存在している COX-1 ではなくて、炎症が起こったときに応じて作られる COX-2

をターゲットとします。

細菌感染を起こした場合や関節を酷使した時に炎症が起こります。この炎症が起こっている部位

で COX-2 が新たに作られるという事です。

シクロオキシゲナーゼ(COX)は痛みなどを引き起こすプロスタグランジン合成に関わっている

ため、炎症部位で COX-2 が作られることによってプロスタグランジン合成が活発になります。

そのため、胃粘膜保護に関わっている COX-1 は阻害しないが、炎症部位でのプロスタグランジン

合成に関わる COX-2 だけを阻害する薬を考えます。

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COX-1 を阻害しないため、NSAIDs による胃腸障害を回避できます。また、COX-2 を阻害するた

め、炎症による痛みなどを抑えることができます。

このように、NSAIDs の中でも COX-2 だけを選択的に阻害する薬があります。これを、COX-2 選

択的阻害薬と呼びます。COX-2 選択的阻害薬は NSAIDs による胃腸障害を回避しつつ、抗炎症作用

を有する薬です。

COX-2 選択的阻害薬としてはセレコキシブ(商品名:セレコックス)、エトドラク(商品名:オ

ステラック、ハイペン)、メロキシカム(モービック)などがあります。

・プロドラッグによる副作用の軽減

NSAIDs による胃腸障害を回避する方法としては、COX-2 の選択的阻害以外にも薬剤のプロドラ

ッグ化があります。

プロドラッグとは体の中に薬が吸収された後、代謝酵素によって薬の構造が変化することで効果

を示すようになる医薬品のことです。

プロドラッグそれ自体は薬としての作用はありません。しかし、体の中へ吸収された後に肝臓で

代謝を受けると、薬としての作用を発揮するようになります。

シクロオキシゲナーゼ(COX)の阻害作用を示す NSAIDs の副作用として胃腸障害があります。

この胃腸障害が起こる理由としては、胃粘膜保護に関与しているプロスタグランジン合成を阻害す

ることにあります。

ただし、プロスタグランジンの中でも胃粘膜保護に関与しているのは「胃に存在しているプロス

タグランジン」という事が分かります。腎臓や血液などに存在しているプロスタグランジンが胃粘

膜を保護している訳ではありません。

私たちが NSAIDs などの薬を服用すると、食道を通って胃まで到達します。この時、胃の中に入

った NSAIDs は直接、胃に存在するプロスタグランジン合成を抑制します。これによって、胃腸障

害が起こってしまいます。

そこで、胃腸障害を回避するために胃や腸に作用しないように設計します。これは、プロドラッ

グ化によって実現することができます。

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医薬品をプロドラッグ化すれば、服用後の胃の中に存在している時は薬としての効果がないので

胃腸障害を起こしません。しかし、体の中に入った後に代謝酵素によって薬を活性化させると解熱

鎮痛作用を示すようになります。

このように、プロドラッグ化によって副作用を軽減した医薬品の例としては、解熱鎮痛剤ロキソ

プロフェン(商品名:ロキソニン)、インドメタシンファルネシル(商品名:インフリー)などがあ

ります。

なお、解熱鎮痛剤などの医薬品は血液中にのって全身を巡ることで作用を表します。このとき、

各臓器に薬が分布することで痛みを抑えます。つまり、このように全身を巡る薬は胃に分布するこ

とも当然ながら予想されます。

そのため、全身を巡った後に胃に分布することによる副作用(胃潰瘍などの胃腸障害)までは抑

えることができません。この場合は、腸から薬が吸収されるまでの「胃や腸に直接作用することに

よる胃腸障害」を抑えることができます。

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第四章.その他の解熱鎮痛剤

○ アセトアミノフェン

NSAIDs を直訳すると「ステロイドでない抗炎症薬」となります。そして、もっと正確に言うと

「シクロオキシゲナーゼ(COX)を阻害する薬」と言うことができます。

シクロオキシゲナーゼ(COX)はアラキドン酸からプロスタグランジンを合成します。このプロ

スタグランジンが熱を上げたり痛みの感度を上げたりします。そのため、シクロオキシゲナーゼ

(COX)を阻害すると解熱鎮痛作用を得ることができます。

しかし、中にはシクロオキシゲナーゼ(COX)の阻害作用ではない、その他の作用によって解熱

鎮痛作用をもつ薬があります。この有名な薬としてアセトアミノフェン(商品名:カロナール)が

あります。

アセトアミノフェンの作用機序は解明されていませんが、中枢に作用すると考えられています。

なお、アセトアミノフェンが作用する中枢を分かりやすく言えば脳のことを指します。

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○ 小児とライ症候群

インフルエンザや水痘(水ぼうそう)に罹ると体温が上昇します。このとき、小児の熱を下げる

ために NSAIDs を使用することは原則禁止されています。なぜなら、脳の炎症や肝臓の変性などを

起こすライ症候群を発症する危険があるためです。

成人ではあまり問題となりませんが、小児ではインフルエンザ・水ぼうそうの熱を下げるために

アスピリンなどの NSAIDs を服用するとライ症候群のリスクが高まります。最悪の場合は死に至り、

症状が重ければ脳障害として後遺症が残ります。

これを回避するために、小児の解熱鎮痛には先ほど説明したアセトアミノフェンが主に使用され

ます。NSAIDs とは違う作用機序であり、ライ症候群を引き起こすリスクのない薬として小児に多

用されます。

なお、注意すべき点として小児のライ症候群のリスクを高めるアスピリンなどの NSAIDs は一般

用医薬品として販売されていることにあります。

一般用医薬品は誰でも購入することができるため、これらの知識なしに自分の子供にアスピリン

などの NSAIDs を服用させると大変な事になるかもしれません。

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○ 主な解熱鎮痛剤

主な特徴 一般名 商品名

NSAIDs

(COX-1、COX-2 を共に阻害)

アスピリン バファリン

バイアスピリン など

ジクロフェナク ボルタレン

ケトプロフェン モーラス

NSAIDs

(プロドラッグ) ロキソプロフェン ロキソニン

NSAIDs

(COX-2 選択的阻害薬)

セレコキシブ セレコックス

エトドラク

オステラック

ハイペン

メロキシカム モービック

作用機序は不明 アセトアミノフェン カロナール