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雪崩対策施設の維持管理のための 点検の着眼点について 松下 拓樹 1 ・桂 真也 1 ・石田 孝司 1 1 国立研究開発法人土木研究所 雪崩・地すべり研究センター (〒9440051 新潟県妙高市錦町2-6-8雪崩対策施設の機能を永続的に維持するためには,点検によって施設の異常を発見し対応す ることが必要である.前年度に雪崩・地すべり研究センターで実施した,道府県の集落雪崩を 対象にしたアンケート調査によると,地域によっては点検時の着眼点が不明である等の課題が 浮き彫りとなった.本論文では,国内外の雪崩対策施設の点検に関する資料を収集し,雪崩対 策施設の維持管理に関する点検の考え方や着眼点について整理した結果を報告する. キーワード 集落雪崩,雪崩対策施設,点検,損傷等の程度 1. はじめに 集落保全を主目的とする雪崩対策事業が創設されてか 30 年が経過し,風水雪による損傷や凍結融解などの影 響による鋼材の腐食,基礎の浸食等による施設の劣化等 が認められる雪崩対策施設が見受けられる(図-1 ).国 土交通省水管理・国土保全局砂防部保全課では,「砂防 関係施設の長寿命化計画策定ガイドライン(案) 1) 」を平 266 月に作成した.このガイドライン(案)によると, 「砂防関係施設の長寿命化計画は,保全対象を守る観点 から既存の砂防関係施設の健全度等を把握し,長期にわ たりその機能及び性能を維持・確保することを目的とし て,維持,修繕,改築,更新の対策を的確に実施するた めの計画である」とある. さらに,このガイドライン(案) 1 に従って統一的かつ 効果的に点検を実施し,客観的な基準で施設の健全度を 評価することを目的として,国土交通省水管理・国土保 全局砂防部保全課では「砂防関係施設点検要領(案) 2) を平成26 9月に作成した.この要領(案)では,砂防関 係施設の点検における施設の健全度評価の考え方や留意 点が整理され,各施設ごとに,さらには施設の部位ごと に事例を提示することにより,施設の変状レベルと健全 度を対応させる事例が示されている.ただし,雪崩対策 施設(要領(案)では,雪崩防止施設)については,急傾 斜地崩壊防止施設に準じて適切に取り扱うこととなって おり,雪崩対策施設の点検における具体的事例は示され ていない. さて,国立研究開発法人土木研究所雪崩・地すべり研 究センター(以下,雪崩・地すべり研究センター)では, 雪崩対策施設の管理技術の向上に関する研究を進めてい る.前年度は,その基礎的な資料として活用するため, 道府県における雪崩対策施設設置斜面の点検の実態に関 するアンケート調査を実施した 3) .アンケート調査は, 集落雪崩対策施設が設置された斜面の点検の実態を調査 するため,豪雪地帯に指定された市町村を有する23 道府 県を対象に,無雪期点検と積雪期点検の実施状況に関し て行った.その結果,課題として,点検の着眼点が不明, 点検の客観性の確保,点検台帳の未整備を挙げる道府県 が多く,客観的かつ的確な点検の実施及び点検結果の整 理に課題を抱えている実態が浮き彫りとなった. 雪崩対策施設の点検について,その着眼点や客観的な 判断を助ける項目の整理が行われているところもあるが, 各地域および各分野で取り組まれている雪崩対策施設の 点検の考え方と着眼点を共有することは,これから雪崩 -1 雪崩予防柵の腐食事例

雪崩対策施設の維持管理のための 点検の着眼点について - …雪崩対策施設の維持管理のための 点検の着眼点について 松下 拓樹1・桂

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Page 1: 雪崩対策施設の維持管理のための 点検の着眼点について - …雪崩対策施設の維持管理のための 点検の着眼点について 松下 拓樹1・桂

雪崩対策施設の維持管理のための 点検の着眼点について

松下 拓樹1・桂 真也1・石田 孝司1 1 国立研究開発法人土木研究所 雪崩・地すべり研究センター (〒944-0051 新潟県妙高市錦町2-6-8)

雪崩対策施設の機能を永続的に維持するためには,点検によって施設の異常を発見し対応す

ることが必要である.前年度に雪崩・地すべり研究センターで実施した,道府県の集落雪崩を

対象にしたアンケート調査によると,地域によっては点検時の着眼点が不明である等の課題が

浮き彫りとなった.本論文では,国内外の雪崩対策施設の点検に関する資料を収集し,雪崩対

策施設の維持管理に関する点検の考え方や着眼点について整理した結果を報告する.

キーワード 集落雪崩,雪崩対策施設,点検,損傷等の程度

1. はじめに

集落保全を主目的とする雪崩対策事業が創設されてか

ら30年が経過し,風水雪による損傷や凍結融解などの影

響による鋼材の腐食,基礎の浸食等による施設の劣化等

が認められる雪崩対策施設が見受けられる(図-1).国

土交通省水管理・国土保全局砂防部保全課では,「砂防

関係施設の長寿命化計画策定ガイドライン(案)1)」を平

成26年6月に作成した.このガイドライン(案)によると,

「砂防関係施設の長寿命化計画は,保全対象を守る観点

から既存の砂防関係施設の健全度等を把握し,長期にわ

たりその機能及び性能を維持・確保することを目的とし

て,維持,修繕,改築,更新の対策を的確に実施するた

めの計画である」とある.

さらに,このガイドライン(案)1)に従って統一的かつ

効果的に点検を実施し,客観的な基準で施設の健全度を

評価することを目的として,国土交通省水管理・国土保

全局砂防部保全課では「砂防関係施設点検要領(案)2)」

を平成26年9月に作成した.この要領(案)では,砂防関

係施設の点検における施設の健全度評価の考え方や留意

点が整理され,各施設ごとに,さらには施設の部位ごと

に事例を提示することにより,施設の変状レベルと健全

度を対応させる事例が示されている.ただし,雪崩対策

施設(要領(案)では,雪崩防止施設)については,急傾

斜地崩壊防止施設に準じて適切に取り扱うこととなって

おり,雪崩対策施設の点検における具体的事例は示され

ていない.

さて,国立研究開発法人土木研究所雪崩・地すべり研

究センター(以下,雪崩・地すべり研究センター)では,

雪崩対策施設の管理技術の向上に関する研究を進めてい

る.前年度は,その基礎的な資料として活用するため,

道府県における雪崩対策施設設置斜面の点検の実態に関

するアンケート調査を実施した3).アンケート調査は,

集落雪崩対策施設が設置された斜面の点検の実態を調査

するため,豪雪地帯に指定された市町村を有する23道府

県を対象に,無雪期点検と積雪期点検の実施状況に関し

て行った.その結果,課題として,点検の着眼点が不明,

点検の客観性の確保,点検台帳の未整備を挙げる道府県

が多く,客観的かつ的確な点検の実施及び点検結果の整

理に課題を抱えている実態が浮き彫りとなった.

雪崩対策施設の点検について,その着眼点や客観的な

判断を助ける項目の整理が行われているところもあるが,

各地域および各分野で取り組まれている雪崩対策施設の

点検の考え方と着眼点を共有することは,これから雪崩

図-1 雪崩予防柵の腐食事例

Page 2: 雪崩対策施設の維持管理のための 点検の着眼点について - …雪崩対策施設の維持管理のための 点検の着眼点について 松下 拓樹1・桂

対策施設の点検について整理しようとしている箇所にお

いて大変有用であると同時に,すでに整理している箇所

においても地域による多様性を見せる雪崩対策について

他地域の取り組みを知ることは重要であると考えられる.

ここでは,雪崩・地すべり研究センターで行っている

雪崩対策施設の管理技術の向上に関する研究の一環とし

て,国内外の雪崩対策施設の点検に関する資料を収集し,

雪崩対策施設の維持管理に関する点検の考え方や着眼点

について整理した結果を報告する.

2. 雪崩対策施設の点検に関する既往資料

雪崩対策施設の維持管理に関する点検の考え方や着眼

点を整理するために参考とした要領および資料は,以下

のとおりである.

・「砂防関係施設の長寿命化計画策定ガイドライン

(案)1)」(国土交通省水管理・国土保全局砂防部保全

課,平成26年6月)

・「砂防関係施設点検要領(案)2)」(国土交通省砂防部

保全課,平成26年9月)

・「新潟県防災防雪施設点検要領(案)4)」(新潟県土木

部道路管理課,平成25年4月)

・「Defense structures in avalanche starting zones 5)」(スイス,

2007)

・「ÖNORM-Regel 24807 6)」(オーストリア,2010)

これらの資料のうち,「新潟県防災防雪施設点検要領

(案) 4)」は,道路に関係する雪崩対策施設の点検につい

て示したものである.道路に関係する雪崩対策施設の点

検については,この他にも各地域で取り組みが行われて

いるが7) - 10),一般に入手できる「新潟県防災防雪施設点

検要領(案)」を代表事例として参考にした.また,オー

ストリアにおける「ÖNORM-Regel 248076)」の原文はドイ

ツ語であるため,これを英語で解説した「The Technical

avalanche protection handbook 11)」を用いた.

なお,雪崩対策施設の点検には,大きく分けて無雪期

と積雪期の点検があり,これらは点検項目や発見した異

常に対する対応等が異なる.無雪期点検とは,地形,植

生の状況や雪崩対策施設の状況等を把握することを目的

として,積雪の無い時期に現地を点検することである.

積雪期点検とは,斜面の積雪状況や施設の状況等を把握

することを目的として,積雪期に現地を点検することで

ある.本論文では,雪崩対策施設の状況を直接見ること

ができる無雪期における点検を対象とした.なお,積雪

期点検における斜面積雪と施設の状況については,「豪

雪時における雪崩斜面の点検と応急対策事例12)」や「道

路防災点検の手引き(豪雨・豪雪)13)」などがある.

以下では,無雪期における雪崩対策施設の維持管理に

関する点検の考え方と着眼点について,「砂防関係施設

点検要領(案)2)」を中心に,この要領(案)の雪崩対策施

設の点検に関して補完するという観点で整理することを

試みた.

3. 雪崩対策施設の点検における考え方と着眼点

2章で示した既往資料に基づく雪崩対策施設の維持管

理に関する点検の考え方と着眼点を,以下に整理した.

(1) 雪崩対策施設の点検における基本的な考え方

「砂防関係施設の長寿命化計画策定ガイドライン

(案)1)」によると,「砂防関係施設の長寿命化計画の策

定,実施にあたっては,施設の維持,修繕,改築,更新

に掛かるトータルコストを縮減し予算を平準化していく

ために予防保全型維持管理の導入が望ましい」とある.

ここで,「維持」とは砂防関係施設の機能や性能を確保

するために行う軽微な作業,「修繕」とは既存の砂防関

係施設の機能や性能を確保,回復するために,損傷また

は劣化前の状況に補修すること,「改築」とは砂防関係

施設の機能や性能を確保,回復すると共に,さらにその

向上を図ること,「更新」とは既存の砂防関係施設を用

途廃止し,既存施設と同等の機能及び性能を有する施設

を,既存施設の代替として新たに整備することである.

(2) 雪崩対策施設の健全度評価の考え方

このガイドライン(案)1)における「予防保全型維持管

理」に関しては,損傷が軽微である早期の段階に予防的

な修繕等を実施することで施設の機能・性能の保持を図

る予防保全型管理を導入することが望ましいが,当面は

施設に損傷等が生じているが問題となる機能の低下,性

能の劣化が生じていない場合には劣化等の進行を経過観

察し,対策の時期を見極めるとしている.つまり,表-1

に示すように,点検によって対策施設の損傷等の程度

(変状レベル)に応じて施設の健全度を,対策不要,経

過観察,要対策に分けて評価し対応していくものである.

この健全度評価の考え方の流れを,図-2に示す.

表-1や図-2のように,対策施設の損傷等の程度に応じ

て対策するという考え方は,ヨーロッパにおける雪崩対

策施設の点検6) 11)で実践されている考え方であり,国内

の道路に関係する雪崩対策の点検4) 7) - 10)においても,同

様な考え方に基づく取り組みが行われている.よって,

国内の砂防に関係する雪崩対策施設の点検においても,

そのまま活用できる考え方である.雪崩対策施設の維持

管理に掛けることのできるコストが限られる近年の状況

において,損傷等の程度に応じて対策の優先順位を付け

て対応することは重要な考え方となる.

Page 3: 雪崩対策施設の維持管理のための 点検の着眼点について - …雪崩対策施設の維持管理のための 点検の着眼点について 松下 拓樹1・桂

表-1 健全度評価の考え方

(砂防関係施設点検要領(案) 2)より)

図-2 健全度評価の考え方に基づく点検の流れ

(3) 雪崩対策施設の対策の優先順位に関する考え方

雪崩対策施設の点検の結果,より実践的に対策の優先

順位を付けて対応する際には,図-2で要対策と判断され

た施設について,維持,修繕,改築,更新のどの対策を

とるべきか,さらなる優先順位の検討が必要となる.例

として示す表-2は,「新潟県防災防雪施設点検要領

(案)4)」における対策の判定区分であり,その内容は以

下のとおりである.

表-2 対策の判定区別の例

(新潟県防災防雪施設点検要領(案) 4)より)

対策区分A; 点検で把握できる範囲では,損傷が認

められないか損傷が軽微で補修の必要がない状態.

対策区分B; 損傷があり,補修の必要性があるが,

損傷の原因,規模が明確であり,ただちに補修するほど

の緊急性はなく,放置しても少なくとも5年程度以内に

構造物の安全性が著しく損なわれることはない状態.

対策区分C; 損傷が相当程度進行し,当該部材の機

能や安全率の低下が著しく,少なくとも5年程度以内に

は補修など対策を行う必要がある状態.

対策区分E; 施設構造の安全性が著しく損なわれて

おり,緊急に処置されることが必要な状態,または,自

動車,歩行者の交通障害が懸念され,緊急に処置される

ことが必要な状態をいう.

ここで重要なのは,5年程度という目安を提示して対

策を区分していることであり,これにより対策施設の維

持管理を行う上で具体的な期間を設定した,より効率的

かつ効果的な対策を行うことができる.ヨーロッパ6) 11)

では,施設の建設から耐用年数を迎えるまでの施設のラ

イフ・サイクル全体の 適かつ効果的なコストと技術的

構造が重視され,損傷等の程度から施設に決定的な損傷

が生じる見込み期間を,5年以上(経過観察),2~5年

の間(中間的な対策),1年以内(早急な対策)に分け

て考える.また,雪崩予防柵のように一つの斜面に多数

の施設が設置されている場合は,対象箇所全体の維持管

理に掛かるコストを考慮しながら対策が行われている.

(4) 雪崩対策施設の点検における着眼点

施設の損傷等の程度によって対策の優先順位を決める

には,雪崩対策施設の維持管理に関する点検において,

施設のどこに着目して,どのような状況に注意すべきか

等の着眼点をあらかじめ整理しておくことが必要となる.

2章の既往資料によると,雪崩対策施設の点検における

着眼点として,以下の点に留意する必要がある.

・雪崩対策施設の種類ごとに点検の着眼点を整理する.

・施設の部位や材質ごとに点検の着眼点を整理する.

・点検の種類(時期)に応じた主要な着眼点を整理する.

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雪崩対策施設の損傷とそれによる影響は,対策施設の

種類(雪崩予防施設,雪崩防護施設)では大きく異なる.

例えば,雪崩防護施設の一つであるスノーシェッドでは

重大な損傷は希にしか起こらないが,発生した場合には

道路を通行する車などに対して直接的な危険を及ぼす.

一方,雪崩予防施設として斜面に数多く設置されている

雪崩予防柵は,軽微な損傷を含めるとダメージを受ける

可能性がスノーシェッドより高い.しかし,斜面全体を

考えた場合には損傷による影響は限定的(損傷を受けた

柵の斜面における位置にもよる)で,すぐに雪崩予防機

能を失うケースは少ないと考えられる.

また,施設によって使用する材質や構造,設計で考慮

される荷重が異なるので,施設の点検における着眼点は,

雪崩対策施設の種類ごとに設けられるべきである.さら

に,季節によって,損傷等の原因となる現象が異なるた

め,点検時期や種類(定期,臨時)に対応した着眼点を

意識することも大切である.例えば,融雪後に見られる

損傷の多くは,大雪に伴う斜面積雪の過大な雪圧や施設

の無い斜面からの雪崩の衝撃圧等が要因となり,大雨や

台風のときは,落石による衝撃や基盤土壌の浸食,地す

べりによる倒壊や過大な荷重による損傷が考えられる.

以上の点を考慮して,雪崩予防柵を例に維持管理に関

する点検の着眼点を整理したのが表-3である.着目すべ

き損傷等について,雪崩予防柵の部位(水平梁材,主

柱・支柱,基礎等)ごとに示し,その要因となる現象を

整理した.点検時期や種類(定期,臨時)に応じて着眼

点を絞り込んでもよい.

また,施設の各部位や部材の損傷等について,写真や

イラストを活用して示すと損傷等の具体的なイメージを

表-3 雪崩予防柵の損傷区分の例

つかむことができ分かりやすい.例として,雪崩予防柵

が損傷した事例を,図-3~図-7に示す.図-3は,大雨に

より雪崩予防柵が基礎ごと崩落した事例,図-4と図-5は,

予防柵の支持面に土砂や樹木が堆積した事例,図-6と図

-7は,水平梁材が湾曲または折れ曲がった事例である.

図-3 雪崩予防柵の損傷の例(崩落)

図-4 雪崩予防柵の損傷の例(支持面への土砂堆積)

図-5 雪崩予防柵の梁材の損傷,支持面への堆積

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図-6 雪崩予防柵の損傷の例(上部梁材の損傷)

図-7 雪崩予防柵の損傷の例(下部梁材の損傷)

さて,ここで重要となるのは,表-3において空欄とな

っている施設の損傷等の程度(変状レベル)と健全度の

判断である.これらの判断は,損傷等の要因となる地域

的に卓越する現象や積雪の地域特性,気候,海岸や火山

等が近くにあるなどの地理的な条件,設置箇所の土壌・

地盤の状態などによって異なることも考えられ,対象と

する地域に応じて設定することが望ましいと考えられる.

損傷等の程度の判断一例として,図-3~図-7を例に,ヨ

ーロッパ6) 11)における考え方に基づくと,早急に対策が

必要となるのは図-3の柵が崩落した事例,経過観察と判

断されるのは図-6と図-7の水平梁材が変形した事例とな

る.図-4と図-5の予防柵の支持面に土砂や樹木が堆積し

た事例では,堆積物の量によって柵の有効な高さが失わ

れる場合は対策を行い,堆積量が比較的少ない場合は,

やや優先順位を下げた対策が行われる.

(5) その他

その他,雪崩対策施設の維持管理に関する点検におい

て考慮されるべき点は,以下のとおりである.

・点検結果を,明確かつ統一的な点検簿に記録する.

・経過観察の方法(調査・観察の方法とその留意点)の

明確化.

・対応・対策の方法(修繕,改築,更新の方法とその留

意点)の明確化.

点検簿に関しては,「砂防関係施設点検要領(案)2)」

や「新潟県防災防雪施設点検要領(案)4)」が参考になる

と考えられる.

4. おわりに

本論文では,雪崩・地すべり研究センターで行ってい

る雪崩対策施設の管理技術の向上に関する研究の一環と

して,国内外の雪崩対策施設の点検に関する資料を収集

し,雪崩対策施設の維持管理に関する点検の考え方や着

眼点について整理した.今後は,前年度に行ったアンケ

ート調査結果も踏まえながら,今回整理した着眼点に基

づき雪崩対策施設の維持管理技術に関する検討を引き続

き行い,手引き(案)等を作成する予定である.この手引

き案(案)により,どのタイミングで,どのような損傷等

に着目し,そしてどのような対策(修繕,改善等)を行

うことが効率的で効果的かを示すことができればよいと

考えている.特に,今回の資料調査で明らかになった,

損傷等の程度に応じて対策の優先順位を付けて対応する

考え方は,雪崩対策施設の維持管理に掛けることのでき

るコストが限られる近年の状況において,今後ますます

重要になると考えられる.

参考文献

1)国土交通省水管理・国土保全局砂防部保全課,2014,

砂防関係施設の長寿命化計画策定ガイドライン(案),

平成26年6月.

2)国土交通省水管理・国土保全局砂防部保全課,2014,

砂防関係施設点検要領(案),平成26年9月.

3)桂 真也,秋山一弥,2014,道府県による集落雪崩

対策施設設置斜面の点検に関する実態調査結果につ

いて,平成26年度北陸地方整備局事業研究発表会.

4)新潟県土木部道路管理課,2013,新潟県防災防雪施

設点検要領(案),平成25年4月,40pp.

5)Margreth, S., 2007, Defense structures in avalanche starting zones,

Technical guideline as an aid to enforcement, Environment in

Practice No.0704, Federal Office for the Environment, Bern;

WSL Swiss Federal Institute for Snow and Avalanche Research

SLF, Davos, Switzerland, 134pp.

6 ) ÖNORM-Regel 24807, 2010, Permanenter technischer

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Lawinenschutz – Überwachung und Instandhaltung, Ausgabe:

2010-06-01. (in German)

7)嶋津君雄, 石川功,阿部力,2010,「雪対策施設点

検要領」の策定について,ゆきみらい研究発表会論

文集,260-263.

8)八橋義昭,小越範夫,松本喜裕,2010,雪崩対策施

設点検要領について,ゆきみらい研究発表会論文集,

294-295.

9)田嶋史人,2014, 近の道路雪害対策への取組につ

いて,平成26年度北陸地方整備局事業研究発表会.

10)窪宗昭,中村圭弘,2015,長岡国道事務所における

防雪対策事業の取り組みについて,ゆきみらい研究

発表会論文集(応募論文).

11)Rudolf-Miklau, F., S. Sauermoser and A. Mears (ed.), 2015,

The Technical avalanche protection handbook, Ernst & Sohn,

408pp.

12)土木研究所,2010,豪雪時における雪崩斜面の点検

と応急対策事例,土木研究所資料,4167,

13)(財)道路保全技術センター,2007,道路防災点検の

手引き(豪雨・豪雪),平成19年9月(平成23年10月

(社)全国地質調査業協会連合会 再編),53pp.