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Copyright©2012 JETRO. All rights reserved. 禁無断転載 韓国の税務・会計に関する ブリーフィングレポート ・2012 年度法人税等の主要改正点 ・IFRS 導入と法人税法改正について ・近年の移転価格税制の傾向 2012 年 3 月 独立行政法人日本貿易振興機構(ジェトロ)

韓国の税務・会計に関する ブリーフィングレポート · 韓国のifrs 適用現況----- 5 3. 会計基準の元化と税務への影響 ... 具体的 調査項目

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韓国の税務・会計に関する

ブリーフィングレポート ・2012 年度法人税等の主要改正点

・IFRS導入と法人税法改正について

・近年の移転価格税制の傾向

2012 年 3 月

独立行政法人日本貿易振興機構(ジェトロ)

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目次

第1章 : 2012年法人税等の主要改正点 -------------------------------- 1

Ⅰ. 法人税関連 ------------------------------------------------------ 1

1.法人税の税率区分の新設 -------------------------------------------- 1

Ⅱ. 所得税法関連 ----------------------------------------------------- 1

1.所得税最高税率の新設 --------------------------------------------- 1

Ⅲ. 租税特別法関連 --------------------------------------------------- 2

1.経済自由区域内の外国人投資企業に対する税制支援対象業種の拡大 ---------- 2

2.クレジットカード等所得控除制度の改編 --------------------------------- 2

3.臨時投資税額控除から雇用創出促進投資税額控除への転換 ------------------ 3

4.R&D(研究開発費)税額控除対象をサービス分野に拡大 ----------------------- 3

第2章 : IFRS導入と法人税法改正について ------------------------------ 5

Ⅰ. 韓国におけるIFRS 導入 ---------------------------------------------- 5

1. IFRS の導入と社会背景 ------------------------------------------ 5

2. 韓国のIFRS 適用現況 -------------------------------------------- 5

3. 会計基準の二元化と税務への影響 ------------------------------------- 5

Ⅱ. IFRS 補完のための法人税法改正 ------------------------------------- 6

1. 改正方針 ------------------------------------------------------- 6

2. 2011 年度法人税主要改正点 ---------------------------------------- 6

3. 2012 年度改正案 ------------------------------------------------ 7

Ⅲ. 総括 ------------------------------------------------------------ 7

第 3 章 : 近年の移転価格税制の傾向 ---------------------------------- 8

Ⅰ. 最近の税務調査について --------------------------------------------- 8

1. 移転価格調査の範囲の拡大 ----------------------------------------- 8

2. 具体的調査項目 --------------------------------------------------- 8

Ⅱ. 日本の移転価格税制の動向及び韓国子会社に対する影響 ------------------- 9

1. 2010年税制改正の重要ポイント -------------------------------------- 9

2. 2011年税制改正の重要ポイント --------------------------------------- 10

3. 韓国の日系法人に対する影響 --------------------------------------- 10

Ⅲ. 総括 ------------------------------------------------------------ 10

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本報告書の利用についての注意・免責事項

本報告書は、日本貿易振興機構(ジェトロ)ソウル事務所が現地会計事務所 KPMG サムジョン会

計法人に作成委託し、2012年 3月 29日現在入手している情報に基づき取りまとめたものであり、そ

の後の法律改正等によって記載内容が変わる場合があります。また、掲載した情報・コメントは筆者

およびジェトロの判断によるものですが、一般的な情報・解釈がこのとおりであることを保証するもの

ではありません。

ジェトロは、本報告書の記載内容に関して生じた直接的、間接的、派生的、特別の、付随的、ある

いは懲罰的損害および利益の喪失については、それが契約、不法行為、無過失責任、あるいはその

他の原因に基づき生じたか否かにかかわらず、一切の責任を負いません。これは、たとえジェトロが

かかる損害の可能性を知らされていても同様とします。

本報告書にかかる問い合わせ先: 独立行政法人日本貿易振興機構(ジェトロ) 進出企業支援・知的財産部 進出企業支援課

〒107-6006 東京都港区赤坂1-12-32 Tel:03-3582-5017

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第 1 章 2012 年度法人税等の主要改正点

2012 年度は大規模な改正は実施されなかった。ただし中小企業への負担軽減を図るために法人

税率に従来なかった区分が新設されるなど中小企業に配慮した税制改正ともいえる。

改正事項のうち主なものは以下の通りである。

Ⅰ. 法人税関連

1.法人税の税率区分の新設(法人税法 55)

Ⅱ. 所得税法関連

1.所得税最高税率の新設(所得税法 55)

改正前 改正後

□ 法人税最高税率引下 (2012年から) □ 法人税中間税率区間新設

課税標準税率

課税標準税率

2010年 2012年 2010年 2012年

2億ウォン以下 10% (同左) 2億ウォン以下 10% (同左)

2億ウォン超過 22% 20%2~200億ウォン以下 22% 20%

200億ウォン超過 22% (同左)

改正前 改正後

□ 所得税最高税率引下(2012年から) □ 所得税最高税率 現行維持

課税標準税率

課税標準税率

2010年 2012年 2010年 2012年

1,200万ウォン以下 6%

(同左)

1,200万ウォン以下 6%

(同左)1,200~4,600万ウォン 15%

1,200~4,600万ウォン 15%

4,600~8,800万ウォン 24%

4,600~8,800万ウォン 24%8,800~30,000万ウォン 35%

8,800~30,000万ウォン 35% 33% 30,000万ウォン超過 35% 38%

改正理由及び適用時期

(改正理由)

主に大企業に適用される課税標準 200 億以上に対する法人税最高税率(22%)は現行

制度を維持するものの、有望な中小・中堅企業の課税負担軽減化ために課税標準 2 億

ウォン以上の中間区分(20%)を新設した。

(適用時期)

2012.1.1以降に開始する課税年度分から適用

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改正理由及び適用時期

(改正理由)

財政健全性の向上及び庶民・中産階級のための福祉財源の拡大のために所得税最高

税率(38%)を新設した。

(適用時期)

20 12.1.1以降に発生する所得分から適用

Ⅲ. 租税特別法関連

1.経済自由区域内の外国人投資企業に対する税制支援対象業種の拡大(租税特令法 116の 2)

2.クレジットカード等所得控除制度の改編(租税特別法 126の 2)

改正前 改正後

□ 経済自由区域内に入居する外国人投資企業の租税減免

□ 最高税率 現行維持

○ 対象:業種別に一定金額以上が投資される外国人投資企業○ 減免対象業種に“事業サービス業等”を追加

業種投資金額(千万ドル)

業種投資金額(千万ドル)

5年型* 7年型** 5年型 7年型

ㅡ製造業 1 3 ㅡ製造業 1 3

ㅡ観光業 1 2 ㅡ観光業 1 2

ㅡ物流業 0.5 1 ㅡ物流業 0.5 1

ㅡ R&D 0.1 0.2 ㅡ R&D 0.1 0.2

ㅡ医療機関 0.5 - ㅡ医療機関 0.5 -

- - -ㅡ (追加)事業サービス業等

1 -

* (5年型)3年間100%、2年間50% * エンジニアリング事業、電気通信業、システム統合及び管理業、情報・科学技術・創作・芸術関連サービス業 (企業都市開発区域入居企業に適用される範囲と同一)ㅇ同左

** (7年型)5年間100%、2年間50%

ㅇ減免恩恵:所得・法人税減免等

現行 改正

□ 控除:総給与の25%を超えた金額 □ (同左)□ 控除率 □ 控除率の拡大○ クレジットカード・現金領収証:20% ○ (同左)○ チェック・プリペイドカード: 25% ○ 25% → 30%

<新設> ○ 伝統市場使用分:30%

□ 控除限度:300万ウォンと総給与の20%のうち、小さい金額

□ (同左)

○ 伝統市場使用分:追加 100万ウォン

□ 控除金額の計算方式 □ 計算方式の変更

○ カード別使用金額を按分して控除基準を満たすものとする- 控除基準超過額×チェックカード使用額/全体使用額×控

除率25%○ クレジットカード・現金領収証、チェックカード、伝統

市場使用分の順に控除基準を満たすものとする

- 控除基準超過額×クレジットカード・現金領収証使用額/全体使用額×控除率20%

□ 適用期限:’11.12.31まで □ 適用期限:’14.12.31まで(3年延長)

改正理由及び適用時期

(改正理由)

経済自由区域の活性化支援のため

(適用時期)

施行令施行日以降、最初に外国人投資申告を行う分から適用

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改正理由及び適用時期

(改正理由)

伝統市場の活性化を支援し、チェックカードの使用を通じた消費の誘導及び自営業者の

手数料負担を軽減。控除金額計算方式を納税者に有利に改正。

(適用時期)

2012.1.1以降に使用する分から適用

3.臨時投資税額控除から雇用創出促進投資税額控除への転換(租税特別 26)

改正理由及び適用時期

(改正理由)

1.雇用に連動する投資に対して支援する雇用創出投資税額控除に転換して企業の雇

用創出を促進するため

2.学業と就業を並行する教育体系の構築を支援

(適用時期)

2012.1.1以降の投資分から適用

4.R&D(研究開発費)税額控除対象をサービス分野に拡大(租税特別法 9、租税特別規則 7)

現行 改正

□ 臨時投資・雇用創出投資税額控除率□ 臨時投資控除適用期限終了、雇用創出投資税額控

除率調整

区分大企業

中小企業 区分大企業 中小

企業首都圏* 内 首都圏外 首都圏* 内 首都圏外

臨時投資 4% 5% 5%基本控除*

(雇用維持条件)3% 4% 4%

雇用創出 1% 1% 1%追加控除**

(雇用増加比例)2% 2% 3%

合計 5% 6% 6% 合計 5% 6% 7%

* 首都圏過密抑制圏域内の投資は税額控除対象から除外

* 前年対比雇用人員が減少しない企業に対して3~4%の控除率を適用

** 限度:雇用増加人員×1~2千万ウォン

□ 雇用創出投資税額控除限度 □ 雇用創出投資税額控除限度

○ 一般勤労者1人当たり1,000万ウォン ○ (同左)

○ 青少年勤労者1人当たり1,500万ウォン ○ (同左)

< 新設 >○ マイスター高校、特性化高校等の職業専門教育を受ける高

等学校卒業生1人当たり2,000万ウォン

改正前 改正後

□ R&D定義 □ R&D定義にサービスR&Dを追加

○ 科学的または技術的進展を実現するための活動○ “新たなサービス及びサービス伝達体系の開発のための活動”を含

□ R&D税額控除対象 □ R&D税額控除対象となる企業付設研究所拡大

○ 科学技術分野企業付設研究所

○ 知識基盤サービス分野*の企業付設研究所を追加

* 情報サービス、経営コンサルティング、医療、保健、教育、文化サービス等 11業種

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改正理由及び適用時期

(改正理由)

サービス産業の先進化を促進するため

(適用時期)

2012.1.1

以降に開始する課税年度分から適用

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第 2 章 IFRS導入と法人税法改正について

Ⅰ. 韓国における IFRS 導入

1. IFRS の導入と社会背景

韓国では 2011年 1月1日以降開始する事業年度からすべての上場企業および金融会社(一部を

除く)について IFRS の適用が義務付けられている。背景として 1997 年に金融危機が発生し、IMF に

よる資金援助を受ける代償として会計の透明性向上を求められたという事実がある。このような要請

から韓国では会計基準の国際化をコンバージェンスの形で実施して透明性を高める努力をしていた

が、残念ながら韓国会計制度への信頼性は期待どおりには向上せず「コリアディスカウント」が残っ

たままとなっていた。

そこで韓国会計基準委員会はこの状況を解消するために、IFRS の全面導入を決定し、2007 年 3

月に IFRS 導入ロードマップを発表した。その後 2009 年 2 月に外部監査法改正を通じて IFRS を公

式に導入し、2009年度から早期適用を認めることとされた。

2. 韓国の IFRS 適用現況

前述のように 2011年 1月1日以降開始する事業年度から上場企業等に IFRSの適用が義務付け

られているが、早期適用を行った企業は 2009 年度に 14 社、サムスン電子や LG 電子等のグロー

バル企業も IFRS に移行した結果、2010 年度は 47 社であった。強制適用となった 2011 年度は上場

企業で約 1,800 社、非上場企業で約 200 社、合計約 2,000 社が IFRSを適用しています。

3. 会計基準の二元化と税務への影響

上場企業等に IFRS が強制適用される一方で、IFRS を適用する必要がない会社向けには従来の

韓国会計基準(以下、「K-GAAP」という)の大部分を引継ぐ形で「一般企業会計基準」が設定されて

いる。すなわち従来 K-GAAP のみであった韓国の会計基準の体系は上場企業および金融会社を対

象とした IFRS と非上場企業向けの「一般企業会計基準」に二元化されている(図表1参照)。したが

って、会計基準の相違により同一の事象について異なる会計処理を行うケースが生じることになり、

課税の公平性の点で問題が生じることになる。

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Ⅱ. IFRS 補完のための法人税法改正

1. 改正方針

上記Ⅰ.で述べたように 2011 年度から上場企業等に対して IFRS の適用が義務化されたことに伴

い、企画財政部は企業のIFRS導入を容易にするために、税負担増加や税務申告の実務負担を緩

和させることを目的として、法人税法を改正した。

法人税改正の原則は以下のとおりである。

原則1 同一の経済行為に対して同一の税負担を維持

原則2 税務申告負担の最小化

原則3 税法上適合する会計処理を受容するとともに税負担緩和案を導入

2. 2011 年度法人税主要改正点

2011年度の主な改正点は以下のとおりである。

(1)減価償却費の申告減算の容認

改正前

損金算入限度額の範囲において企業会計上(K-GAAP)において減価償却計上した金額のみ、

損金計上を認める。

改正後

(背景)

IFRS 導入初年度に減価償却方法が定率法から定額法へと変更される場合や、耐用年数の延

長見直しが行われることにより、一時的に企業の税負担が増加することが想定された。

(改正)

一時的な税負担を緩和するために、従来認めてられていなかった減価償却の申告減算を容認

することとした。

2013 年度以前の取得資産については IFRS 導入以前の減価償却方法および適用耐用年

数を限度して申告減算を容認する。

2014 年度以降の取得資産については法人税法上の基準耐用年数(※1)に基づく金額を

損金算入限度として申告減算を容認する。

※1 韓国法人税法では資産の種類ごとに基準耐用年数が定められており、企業は当該耐

用年数の上下 25%の範囲内で耐用年数を定めて減価償却することとされている。

(2) 貸倒引当金戻入益の益金算入の繰延容認

改正前

規定なし(※2)

※2 貸倒引当金損金算入限度額は債権金額の 10/1,000。

改正後

(背景)

IFRS 導入初年度に会計上の貸倒引当金金額が減少し(※3)、税務上も戻入益が益金算入さ

れることで、一時的に企業の税負担が増加することが想定された。

(改正)

IFRS 導入初年度に貸倒引当金減少によって生じた貸倒引当金戻入益については益金算入の

繰延を認め、2013年 1月 1日以降最初に開始する事業年度に益金算入することとする。

※3 企業会計上(K- GAAP)においても法人税法に従って、債権金額の 10/1,000 基準で貸倒引

当金を計上する実務が行われていた。

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(3) 機能通貨会計導入企業の課税標準計算方法の新設

改正前

韓国ウォンで作成した財務諸表に基づいて税務申告を行う。

改正後

(背景)

機能通貨会計を導入した場合、従来の規定に従えば韓国ウォンで財務諸表を再作成して税務

申告を行う必要が生じ、この場合企業の税務申告負担が増加することが想定された。

(改正)

以下のいずれかの方法により、課税標準を計算する。

1. 機能通貨で計算した課税標準をウォン貨に換算して課税標準を算出する。

2. ウォン貨を機能通貨として再作成した財務諸表を基準として課税標準を算定する(従来の

方式)。

3. 表示通貨財務諸表(※4)を基準として課税標準を算定する。

※4 表示通貨財務諸表とは機能通貨財務諸表を、貸借対照表項目は決算日為替レート、損益計

算書項目は取引日為替レートで、ウォン貨換算した財務諸表をいう。

3. 2012 年度改正案

2012 年度に向けた改正においても、IFRS導入支援のための法人税改正が予定されています。主

要な改正項目は以下のとおりである。

棚卸資産評価方法変更による課税特例

改正前

規定なし

改正後

(背景)

IFRS では容認されていない後入先出法を従来適用してきた企業が、棚卸資産の評価方法を

他の方法(先入先出法、総平均法等)に変更した場合、棚卸資産の評価益が生じ、一時的に企

業の税負担が増加することが想定される。

(改正)

IFRS 導入により棚卸資産評価方法を後入先出法から他の方法に変更した企業について、棚

卸資産評価差益の繰延を認め、5年分割により益金算入を容認する。

(適用時期)

法律公布日(2011年度決算からの適用が可能となる見込み)

Ⅲ. 総括

韓国法人税法は日本の税制に類似している部分が多いことから、将来の日本におけるIFRS導入

時においても韓国と同様の論点や申告負担増が生じる可能性が高いといえる。

これまで述べたように韓国では IFRS 適用に伴う企業の一時的な税負担や税務申告の実務負担

増加をできるだけ抑える方針で法人税改正を実施しており、国家として税制面からも企業会計の国

際化を支援する施策を実施した点は興味深いと思われる。

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第 3 章 近年の移転価格税制の傾向

Ⅰ.最近の税務調査について

1.移転価格調査の範囲の拡大

従来とは異なり、税務署による税務調査においても移転価格イシューを検討しようとする動きが生

じている。

(1)簡便調査の施行(2010年下半期以降)

地方国税庁の定期税務調査の場合、一般的に税務調査の期間が 8~12 週間であることに

比べ、簡便調査の場合は 2~3 週間で終了する。定期調査の場合、調査チームが調査対象

会社を訪問して会社に対して理解することから調査が開始されるが、簡便調査の場合は税源

分析課で会社に対する概略的な分析を完了した上で、調査チームにより調査が行われるべき

部分に対して事前に通知するため、調査の開始と同時にイシューに対する指摘が行われるこ

とになる。一方、最近は施行初期とは異なって、調査期間が延長されるケースも頻繁に発生し

ている。

(2)国外特殊関係者との役務取引に対する調査の強化

役務取引に対する移転価格の関連規定は 2006 年に整備されており、実務的な猶予期間 5

年が経過した 2011 年から本格的な実体把握及び調査が行われている。該当調査に対する関

連規定は以下の通りである。

国際租税調整に関する法律 施行令第 6条の 2【役務取引の場合は正常価格】

居住者と国外特殊関係者間の経営管理、金融諮問、支払保証、電算支援及び技術支援、そ

の他事業上必要と認められる役務の取引(以下、本条では“役務取引”という)の価格が、以

下の各号の要件の全てを満たす役務取引の価格である場合、その取引価格は正常価格とみ

なして損金として認定する。

①役務提供者が事前に約定を締結し、その約定により役務を実際に提供すること

②役務提供を受けた者が提供を受けた役務により追加的に収益の発生または費用の

節減を期待できること

③提供を受けた役務に対する対価が法第 5 条及び本令第 4 条ないし第 6 条により算定

されること(正常価格の算出方法)。

※この際、原価加算法または取引単位営業利益率法である場合は、以下の各

目の基準により算定する。

ア.発生した原価には、その役務を遂行するために直接または間接に発生

した全ての費用を含めること。

イ.役務提供者がその役務を遂行するために、第三者に該当役務の一部

または全部を代行して遂行することを依頼し、代金を一括して支払った

後、これに対する費用を役務の提供を受ける者に再請求する場合、役

務提供者は自身がその役務に関連して直接遂行した活動から発生し

た原価に対してのみ通常の利潤を加算すること。但し、役務の内容と

取引状況及び慣行に照らし合わせて合理的であると認められる場合に

はその限りではない。

第 1号ないし第 3号の事実を立証する文書を備え置き・保管すること

2.具体的調査項目

(1)共通仕入税額の不控除

国外提供役務がある場合、仕入税額のうち共通仕入税額に対しては課税金額及び非課税

金額の比率で按分し、非課税金額に関連する仕入税額を不控除にしようとする動きがある。

(2)コミッション取引時の PE 成立の有無の検討

現地法人がコミッション取引を行う場合、該当取引に対して PE 成立有無の検討を行う傾向

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がある。

Ⅱ.日本の移転価格税制の動向及び韓国子会社に対する影響

日本では移転価格税制は法人税法の租税特別措置法に規定されており、毎年重要な改正が行

われている。OECD 租税委員会により 2010 年 7 月に発表された新たな OECD 移転価格ガイドライ

ンの内容を踏まえ、2010 年税制改正、2011 年税制改正において日本の移転価格税制に重要な改

正が行われた。ここでは日本の移転価格税制の改正内容と当該改正が韓国に所在する日系子会社

に及ぼす影響について説明する。

1.2010年税制改正の重要ポイント

移転価格報告書は、国外関連者との取引で設定された価格が独立企業間価格で行われたか否

かを検証することを目的とした報告書である。米国、中国、韓国等、多くの国で移転価格報告書の作

成を要求する規則を移転価格税制の中に盛り込んでいる。韓国の場合、税務申告時点(2011 年 12

月に終了する事業年度については 2012 年 3 月末日)までに移転価格報告書を具備・保管し、税務

当局からの要請に対して 30 日以内にこれを提出すれば、移転価格調査の結果として所得更正され

税額が追徴されたとしても、追加納付税額の 10%に相当する申告不誠実加算税が免除される規定

されている。

このように、米国や韓国では課税時のペナルティが免除されると規定されているが、日本における

文書化規定は推定課税との関連で規定されている。即ち、租税特別措置法第 66 条の 4 第 6 項に

従って、独立企業間価格を算定するために必要と認められる書類として財務省令で定めるものを準

備していない企業は当局による推定課税の対象になると規定されている。独立企業間価格を算定す

るために必要と認められる書類とは以下の通りである。

①国外関連取引の内容を記載した書類

②国外関連取引について法人が 算定した独立企業間価格に係る書類

また上記 2つは具体的には以下の内容を具備した書類である。

①国外関連取引の内容を記載した書類

(1)取引に係る資産の明細・役務の内容

(2)取引において双方が果たす機能・負担するリスクに係る事項

(3)取引において使用した無形資産の内容

(4)取引に係る契約書または契約の内容

(5)取引の対価の額の設定方法、設定に係る交渉の内容

(6)取引に係る損益の明細

(7)市場に関する分析及びその他市場に関する事項

(8)関連者双方の事業方針

(9)取引と密接に関連する他の取引の有無及びその内容

②国外関連取引について法人が算定した独立企業間価格に係る書類

(1)選定した移転価格算定方法、選定理由、その他独立企業間価格を算

定するに際し作成した書類

(2)採用した比較対象取引等の選定に係る事項、比較対象取引等の明細

(3)利益分割法を選定した場合の関連者双方への帰属金額を算出するた

めの書類

(4)複数の国外関連取引を一取引として独立企業間価格の算定を行った

場合の理由及び各取引の内容を記載した書類

(5)比較対象取引等について差異調整を行った場合の理由及び方法を記

載した書類

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当局による推定課税を回避する、課税時のペナルティを回避するという目的の違いはあるものの、

要求されている資料の内容は世界各国で導入が進められている文書化規定で求められる内容に類

似している。

2.2011年税制改正の重要ポイント

従来、個別の取引単位で比較対象を特定し、検証対象との間で価格若しくは利益率を検証する基

本三法が、取引単位営業利益率法や利益分割法(まとめて利益法ともいう)に優先していたが

OECD 移転価格ガイドラインの改正に伴い、現行の独立企業間価格の算定方法の適用優先順位を

廃止し、独立企業間価格を算定するための最適な方法を取引の実態に応じて納税者が選択できる

仕組みに改正された。従来においても利益法による分析、特に取引単位営業利益率法による分析

が増加する傾向にあったが移転価格算定方法の優先順位が廃止されたことにより、今後ますます取

引単位営業利益率法を納税者が自主的に選択して移転価格の独立企業間性を証明する傾向が強

まるものと考えられる。

3.韓国の日系法人に対する影響

日本での移転価格文書化の流れを受け、親会社レベルで移転価格問題に対する関心がますます

高まっている。移転価格税制への対応が十分ではない場合、文書化作成と同時に全社レベルで適

用される移転価格ポリシーを構築する企業も増えるものと予想される。

日本版文書化では全ての国外関連者との取引について分析する必要があるため、まず各現地法

人での移転価格対応の状況について確認をとることが必要あると考えられる。例えば、韓国の現地

法人であれば、これまでの調査の有無、移転価格報告書の有無、税務申告書への記載事項、韓国

国税庁の調査の現況等の情報について親会社から質問があるものと想定される。韓国当局への提

出を目的とした移転価格報告書では、検証対象法人の利益率が独立企業間幅から上に逸脱してい

るにもかかわらず、韓国法人が高い利益率を達成しているため、韓国当局の観点からは問題がない

ものと判断しているケースもあった。しかし、日本の当局の観点からすると独立企業間幅の上限値か

ら上回った部分だけ日本が韓国法人に対して独立企業間価格よりも安く財貨を販売した、もしくは高

い値段で購入したということを意味するため、日本の当局に提出した場合は韓国向け取引について

日本側での移転価格リスクが表面化する可能性があることから留意する必要が生じる。移転価格ポ

リシーの設定については、日本の親会社を中心としながら親会社側の観点で進められる。そのため、

各子会社の個別の状況が綿密に考慮されず、結果的に移転価格リスクや経営リスクにつながるケ

ースも散見されるため、留意が必要である。例えば、韓国子会社を限定的な機能とリスクを負担する

拠点と定義し、利益法の適用において韓国側に一定の利益のみを残す、即ち超過部分を親会社が

享受するポリシーを策定した場合、移転価格ポリシーを導入したことにより韓国子会社の利益が著し

く減少する可能性がある。また、親会社が導入した移転価格ポリシーが、韓国において過去の移転

価格調査で韓国税務当局と合意した内容と異なる場合についても移転価格リスクが発生することに

なる。今後ますます現地法人は移転価格税制に関連して親会社との連携が重要になって行きます。

Ⅲ.総括

これまでのように現地での局所的な対応ではなく、移転価格ポリシーの導入に伴う問題点、その

解決策について、事前に親会社と十分に協議を重ね、特に現地側での移転価格リスクの増加や経

営問題の発生が予見される場合、誰がどのようにリスクを負担するのかについても明確にしておく必

要があるものと考えられる。

以上