36
農業による環境への負荷低減を求めて 環境負荷低減農業技術確立実証事業の成果から平成 19 年 3 月 財団法人 日本農業研究所

農業による環境への負荷低減を求めてメタン(CH4)と亜酸化窒素(N2O)は、さまざまな排出源を持っていますが、いずれも、農耕 地と農業活動が重要な排出源となっています。特に、水田からのメタン発生と農用地土壌

  • Upload
    others

  • View
    0

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

Page 1: 農業による環境への負荷低減を求めてメタン(CH4)と亜酸化窒素(N2O)は、さまざまな排出源を持っていますが、いずれも、農耕 地と農業活動が重要な排出源となっています。特に、水田からのメタン発生と農用地土壌

農業による環境への負荷低減を求めて

-環境負荷低減農業技術確立実証事業の成果から-

平成 19 年 3 月

財団法人 日本農業研究所

Page 2: 農業による環境への負荷低減を求めてメタン(CH4)と亜酸化窒素(N2O)は、さまざまな排出源を持っていますが、いずれも、農耕 地と農業活動が重要な排出源となっています。特に、水田からのメタン発生と農用地土壌

はじめに

今日、我が国の農業は、化学肥料や農薬の多投入や不適切

な使用をやめ、たい肥の有効利用を通じた土づくりなどによ

り、環境にやさしく、持続可能な農業(環境保全型農業)を

確立することが強く求められています。

日本農業研究所は、農林水産省の推進する環境保全型農業

の確立のための諸施策の一環として、平成 14 年度から 18 年

度までの5か年間にわたり、農林水産省の補助を受けて、環

境負荷低減農業技術確立実証事業を実施しました。

この事業は、従来の硝酸態窒素の溶脱に加え、温室効果ガ

ス等、環境に負荷を与える物質のほ場レベルでの測定手法確

立や、環境収支の的確な評価等を行い、環境負荷低減のため

のトータルな農業技術の確立・実証を推進することを目的に

行われました。

事業の実施に当たっては、日本農業研究所実験農場のほか、

京都、徳島、熊本及び鹿児島の各府県に委託し、自然条件や

作物の違いに応じた実施地区を設定しました。

この冊子は、環境負荷低減農業技術確立実証事業 5 年間の

成果の中から、代表的なものを選び、その内容を簡潔に紹介

したものです。さらに、専門分野の二人の委員からは、この

成果に関連する有益な知見も含め、コメントを頂いています。

本資料が、生産、流通、消費などの分野で環境保全型農業

に関わりを持つ方々の参考になれば幸いです。

Page 3: 農業による環境への負荷低減を求めてメタン(CH4)と亜酸化窒素(N2O)は、さまざまな排出源を持っていますが、いずれも、農耕 地と農業活動が重要な排出源となっています。特に、水田からのメタン発生と農用地土壌

目 次 (委員からのコメント)

・温室効果ガスの排出抑制と物質循環(八木委員) ······································· 2 ・畑地における硝酸性窒素溶脱量の低減に向けて(前田委員) ························ 8

(京都府)

●細粒灰色低地土水田における家畜ふん堆肥の施用と化学肥料の削減············· 12 ●家畜ふん堆肥を施用した細粒灰色低地土水田における温室効果ガスの 発生とメタンの削減 ··········································································· 13

(徳島県) ●有機物が亜酸化窒素の発生に及ぼす影響················································· 16 ●レタス栽培における施肥管理による環境負荷低減技術······························· 18

(熊本県)

●黒ボク畑キャベツ栽培における亜酸化窒素の発生要因 ······························ 20 ●家畜ふん堆肥のブレンド施用による環境負荷低減技術 ······························ 22 ●春作キャベツ収穫ほ場から発生する亜酸化窒素削減に有効な収穫残渣処理 ··· 24 (鹿児島県)

●飼料畑における家畜ふん堆肥を利用した亜酸化窒素発生抑制技術 ··············· 26

(日本農業研究所) ●被覆肥料条施用とたい肥投入による窒素収支の改善 ································· 31

Page 4: 農業による環境への負荷低減を求めてメタン(CH4)と亜酸化窒素(N2O)は、さまざまな排出源を持っていますが、いずれも、農耕 地と農業活動が重要な排出源となっています。特に、水田からのメタン発生と農用地土壌

-2-

温室効果ガスの排出抑制と物質循環 試験の背景

農業環境技術研究所 八木 一行

農耕地に投入される有機資材、作物残渣、化学肥料等は土壌中の炭素・窒素循環を促

進し、さまざまな環境負荷をもたらします。水田では有機物が分解され、メタンが発生します。畑や水田に投入された窒素は一部が亜酸化窒素や一酸化窒素として大気へ放出されます。メタンと亜酸化窒素は強力な温室効果ガスであることから、これらの発生は地球の温暖化に寄与します。一酸化窒素は大気中でオゾンや硝酸ガスに変化し、大気汚染や酸性雨の原因となります。また、作土中の硝酸イオンは水の浸透にともなって溶脱し、地下水や河川水の汚染を引き起こします。

農耕地における炭素・窒素循環と環境負荷

農業・土壌 環境

農家の生活や収入農家の生活や収入

食料生産

食料の需要と供給食料の需要と供給

環境保全

環境負荷軽減環境負荷軽減

資源保全(水、土、大気、生物)資源保全(水、土、大気、生物)

食の安全

農業の持続的発展を図るためには、生産

性と品質の向上を図りつつ、環境と調和の

取れた農業生産体系を確立することが必

要です。

環境負荷低減農業技術の確立が必要とされています

Page 5: 農業による環境への負荷低減を求めてメタン(CH4)と亜酸化窒素(N2O)は、さまざまな排出源を持っていますが、いずれも、農耕 地と農業活動が重要な排出源となっています。特に、水田からのメタン発生と農用地土壌

-3-

試験の背景と目的

メタン(CH4)と亜酸化窒素(N2O)は、さまざまな排出源を持っていますが、いずれも、農耕地と農業活動が重要な排出源となっています。特に、水田からのメタン発生と農用地土壌からの亜酸化窒素発生は重要です。わが国は、国連気候変動枠組み条約と京都議定書により、温室効果ガス排出量削減の義務を持っています。そこで、温室効果ガス発生量を削減する農業現場で適用可能な技術の確立が求められています。

農耕地から発生するメタンと亜酸化窒素

CO2

CH4

N2O

二酸化炭素

メタン

亜酸化窒素

家畜排泄物管理

5%

燃料の燃焼3% 燃料の漏出

3%

工業プロセス

1%

廃水処理

5%

その他農業

1%

水田30%

反すう動物33%

埋め立て地

19%

廃棄物焼却

8%

家畜排泄物管理34%

農作物残渣

の野焼き0%

廃水処理3%

溶剤等

1%

工業プロセス

3%

燃料の燃焼28%

農用地の土壌23%

日本国温室効果ガスインベントリ報告書(2005年5月)

CH4:92万トン

(CO2換算:1,929万トン)

N2O:7.2万トン窒素

(CO2換算:3,462万トン)

温室効果ガスによる地球温暖化への直接的寄与度(1980年代の推定値) わが国のCH4とN2Oの排出源の内訳

(色つきは農業分野の排出源)

試験の目的 1.通常農法と持続的農法の比較において、温室効果ガ

スの放出や硝酸性窒素溶脱の抑制に着目しつつ、窒素

と炭素の循環について評価する。

2.温室効果ガス放出と硝酸性窒素溶脱の抑制、その他

家畜排泄物 管理 34%

Page 6: 農業による環境への負荷低減を求めてメタン(CH4)と亜酸化窒素(N2O)は、さまざまな排出源を持っていますが、いずれも、農耕 地と農業活動が重要な排出源となっています。特に、水田からのメタン発生と農用地土壌

-4-

試験の方法

日本農業研究所 黒ボク土畑

低投入栽培技術の長期連用試験

徳島県農林水産総合技術センター・農業研究所

灰色低地土水田 水稲-レタス栽培におけ

る窒素管理技術

京都府農業総合研究所灰色低地土水田

家畜ふん堆肥施用技術

熊本県農業研究センター 黒ボク土畑

キャベツ栽培における 施肥・残渣管理技術

鹿児島県農業開発総合 研究センター 黒ボク土畑

飼料作物栽培における 家畜ふん堆肥施用技術

調査地点

調査圃場(熊本県)

調査圃場(鹿児島県)

チャンバー法による温室効果

ガス発生量の計測

亜酸化窒素分析用ECD-GC

•気象 •土壌の理化学性 •肥料・資材投入量

•作物生育・収量 •メタン発生量 •亜酸化窒素発生量

•硝酸性窒素溶脱量

共通調査項目

Page 7: 農業による環境への負荷低減を求めてメタン(CH4)と亜酸化窒素(N2O)は、さまざまな排出源を持っていますが、いずれも、農耕 地と農業活動が重要な排出源となっています。特に、水田からのメタン発生と農用地土壌

-5-

試験の成果と意義Ⅰ

水田における環境負荷低減技術

●水田に牛ふん堆肥を連用することで地力を向上し、水稲の収量・品質を維持しつつ、化

学肥料を 1/2 に削減できる(京都府)。

●牛ふん堆肥の施用によるメタン発生量は無代かき栽培により 18%~39%削減できる

(京都府) 。

●水稲-レタス栽培における亜酸化窒素発生は、化学肥料とともに、作物残渣や堆肥を起

源とする。したがって、これらに含まれる窒素成分量を考慮した施肥設計が亜酸化窒素

発生削減に重要である(徳島県)。

●レタス栽培において、硝酸化成抑制剤入り被覆窒素肥料を使用することにより、亜酸化

窒素発生を 12%、硝酸性窒素溶脱を 38%削減できる(徳島県)。

成果の概要

成果の意義1,4

成果の意義1

成果の意義2

成果の意義3

水田に有機物を投入するとメタン発生は増加することが知られていました。

しかし、有機物の投入は地力の向上と水稲の収量・品質維持に重要です。 無代かき栽培によりメタンを削減できることが明らかになり、水稲の持続的生産と環境

保全のバランスが取れた農業技術の可能性が示されました。 このように、有機物管理と水管理を適切に組み合わせた技術開発が重要です。

成果の意義1

1

1.5

2

2.5

3

3.5

4

0 10 20 30 40 50

有機物施用量(t ha-1

メタ

ン発

生量

増加

比率 コンポスト

堆きゅう肥

緑肥

稲わら(耕作前30日以内)

稲わら(耕作前30日以前)

各種有機物の施用量とメタン発

生の関係(有機物無施用の場

合に対する比)

Page 8: 農業による環境への負荷低減を求めてメタン(CH4)と亜酸化窒素(N2O)は、さまざまな排出源を持っていますが、いずれも、農耕 地と農業活動が重要な排出源となっています。特に、水田からのメタン発生と農用地土壌

-6-

試験の成果と意義Ⅱ

畑における環境負荷低減技術

●キャベツ栽培における亜酸化窒素発生要因は、春作では残渣のすき込み、秋作では

化学肥料の施用である(熊本県)。

●肥効調節型肥料、家畜ふん堆肥のブレンド施用、キャベツ残渣の持ち出しにより、亜酸化

窒素発生や硝酸性窒素溶脱を大幅に削減できる(熊本県、鹿児島県)。

●飼料作物栽培において、家畜ふん(豚ぷんあるいは鶏ふん)堆肥を化学肥料と適切に

併用することにより、収量や品質の維持・向上を図りつつ、環境負荷を軽減することが

可能である(鹿児島県) 。

●露地野菜にイネ科作物を組み入れた輪作体系において、牛ふん堆肥と被覆肥料(肥効

調節型肥料)の利用により、窒素の投入を 30%~40%減らしても収量を維持し、環境負

荷を軽減することが可能である(日本農研) 。

成果の概要

成果の意義3,4

成果の意義3,4

成果の意義2

■亜酸化窒素発生抑制技術の基本戦略

は得られていましたが、具体的な技術の

実証は不足していました。

ここで得られた試験結果から、家畜ふん

堆肥の適切な利用、キャベツ残渣の持

ち出しによる窒素管理技術が亜酸化窒

素発生抑制技術として有効であること

が示されました。 さらに、肥効調節型肥料や硝酸化成抑

制の使用も有効な亜酸化窒素発生抑

制技術であることが示されました。

成果の意義3

成果の意義3,4

農耕地からの亜酸化窒素発生源とし

て、化学肥料とともに、家畜ふん尿や作

物残渣のすき込みが重要であることが

指摘されていました。

しかし、家畜ふん尿や作物残渣のすき

込みによる発生量は実測データに乏し

く、大きな不確実性が存在しました。 ここで得られたデータは、わが国の温室

効果ガス排出量の精緻化に寄与しま

す。。 さらに、亜酸化窒素発生削減のために、

家畜ふん尿と作物残渣の管理が重要で

あることを明らかにしました。

成果の意義2

0

0.2

0.4

0.6

0.8

1

1.2

1.4

1.6

畜産廃棄物

化学肥料

作物残渣

有機質土壌

CO

2等

価排

出量

(百

万トン

わが国の農耕地土壌からの亜酸化窒素

直接排出量

施肥窒素からの亜酸化窒素(および一酸化窒素)発生制御技術

土壌中のNH4-NやNO3-Nプールをできるだけ小さくし、硝化や脱窒により変換される無機態窒素量を少なくする。

しかし、このことは同時に、作物が吸収できる窒素量を制限することになる。

したがって、より現実的には、作物による無機態窒素吸収効率を高め、無駄に環境中へ放出される窒素の流れを制御することが重要である。

そのためには、作物が必要なときに必要なだけ窒素を施用する技術が必要である。

基本戦略

Page 9: 農業による環境への負荷低減を求めてメタン(CH4)と亜酸化窒素(N2O)は、さまざまな排出源を持っていますが、いずれも、農耕 地と農業活動が重要な排出源となっています。特に、水田からのメタン発生と農用地土壌

-7-

試験の成果と意義Ⅲ

家畜ふん堆肥の利用による環境負荷低減技術

食料自給率が40%のわが国は、食料と飼料の多くを海外から輸入しているため、食生活

と畜産業を通して、多量の窒素が環境へ負荷されています。

わが国国土への窒素環境負荷を低減するため、畜産廃棄物の農耕地へのリサイクルと

それにともなう化学肥料施用量の低減が求められています。 ここで得られた試験結果は、家畜ふん堆肥を化学肥料と適切に併用する持続農法が、通

常農法(慣行農法)に比べて、収量や品質の維持・向上を図りつつ、温室効果ガス放出と

硝酸性窒素溶脱を抑制する環境負荷低減技術であることが示されました 。 このような技術は、窒素が原因となる個々の環境問題の 根底にある、わが国の食糧供

給システムにおける環境負荷の大きい窒素フローを適正化するものです。

わが国の食料供給システムにおける窒素収支

成果の意義4

Page 10: 農業による環境への負荷低減を求めてメタン(CH4)と亜酸化窒素(N2O)は、さまざまな排出源を持っていますが、いずれも、農耕 地と農業活動が重要な排出源となっています。特に、水田からのメタン発生と農用地土壌

-8-

畑地における硝酸性窒素溶脱量の低減に向けて

中央農業総合研究センター 前田 守弘

1.硝酸性窒素による地下水汚染の現状

我が国における地下水の硝酸性窒素基準超過率は、ここ 10 年間、4~6%とほぼ一定で推移し

ており、改善傾向にあるとはいえません(図1)。地域別の超過率では、野菜栽培や養豚の盛

んな関東地方で 8.9%と高くなっており(図2)、県別では、茨城県の 18.0%を最高に、埼玉県、

群馬県と続きます(平成 17 年度調査)。今後は、益々、環境と調和のとれた農業生産を推進

していく必要があります。

0

2000

4000

6000

8000

10000

1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 20050%

2%

4%

6%

8%

0

2000

4000

6000

8000

10000

1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 20050%

2%

4%

6%

8%

調査数

超過率

調査年度

調査

井戸数

硝酸

性窒素

基準超

過率

0

2

4

6

8

10

北海道

東北

関東

北陸・中部

近畿

中国・四国

九州・沖縄

硝酸性窒素基準超過率

図1 硝酸性窒素による地下水汚染の年次変動

(環境省 HP より作成) 図2 地域別の硝酸性窒素地下水基準の超

過率(環境省 HP より作成)

2.硝酸性窒素の溶脱に対する影響因子と対策

化学肥料や堆肥施用などの施肥管理、作付体系などの栽培管理に加えて、土壌条件や気象条

件などが硝酸性窒素の溶脱に影響します(図3)。

気象条件

施肥管理: ○緩効性肥料○堆きゅう肥○側条施肥

土壌条件 ○有機物○アニオン吸着○プレファレンシャルフロー

栽培管理: ○作付体系○耕起・不耕起○灌漑

NO3-N: ≤ 10 mg L-1

図3 硝酸性窒素の溶脱に対する影響因子

%

Page 11: 農業による環境への負荷低減を求めてメタン(CH4)と亜酸化窒素(N2O)は、さまざまな排出源を持っていますが、いずれも、農耕 地と農業活動が重要な排出源となっています。特に、水田からのメタン発生と農用地土壌

-9-

畑地における硝酸性窒素溶脱量を低減するには、①肥培管理法の改善、②キャッチクロップ

による土壌残存窒素の低減、③有機物管理の適正化などが対策として考えられます。

① 肥培管理法の改善

肥料の窒素利用率を高め、施肥量を低減できる技術として肥効調節型肥料が代表的なもの

としてあげられます。また、側条施肥や局所施肥など作物が吸収しやすい箇所に肥料を施用

する方法があります。その他に、マルチ栽培も水の浸透量を減らして窒素の溶脱を防ぐ効果

があります。

② キャッチクロップの導入

図4はキャッチクロップの導入効果を模式的に表したものです。果菜類や葉菜類は収穫直

前まで窒素を必要とするので、収穫後に土壌中に窒素が残存しやすい傾向にあります。次の

作付けまで裸地状態にすると、この窒素は溶脱してしまいます。一方、収穫直後にキャッチ

クロップとして大麦や牧草などを栽培すれば、窒素の溶脱を低減することができます。また、

次の作付け前にキャッチクロップをすき込めば緑肥としての効果が期待できます。

月/日

トマト栽培

土壌

中無機

態窒素

キャッチクロップ導入

裸地の場合

溶脱

栽培月日

溶脱量の低減

作物吸収

月/日

トマト栽培

土壌

中無機

態窒素

キャッチクロップ導入

裸地の場合

溶脱

栽培月日

溶脱量の低減

作物吸収

図4 トマト収穫後にキャッチクロップの導入した際の模式図

③ 有機物管理の適正化

堆肥などの有機物は土壌物理性の改良資材として用いられてきました。しかし、家畜排泄

物から作った堆肥には窒素やリンなどの栄養分が多く含まれているので、その肥効を考慮し

Page 12: 農業による環境への負荷低減を求めてメタン(CH4)と亜酸化窒素(N2O)は、さまざまな排出源を持っていますが、いずれも、農耕 地と農業活動が重要な排出源となっています。特に、水田からのメタン発生と農用地土壌

-10-

て化学肥料の施用量を減らさなければなりません。堆肥の窒素成分はゆっくりと無機化して

作物に吸収される有機態のものが多く、作物に吸収されなかった窒素の多くは一時的に作土

に蓄積します。しかし、堆肥施用を続けると、蓄積した窒素も徐々に無機化し、その一部は

作物に吸収されず、硝酸性窒素として水と一緒に地下に溶脱します。堆肥を連用すると、こ

の溶脱量がだんだんと増えて、地下水を汚染する危険があり(図5)、堆肥などを使用する

際には、こうした長期的な影響を考えることが大切です。

肥料肥料

サンプリング日

0

500

1000

1500

0

20

40

60

80

100

4/1 4/1 4/1 4/1 4/1 4/14/14/194年度 98年度 99年度 01年度96年度95年度 97年度

4/1 4/102年度00年度

硝酸

性窒

素濃度

(mg

NL-1

) 降水量

(mm

)

化成区

堆肥区

無肥料区

化成肥料区(400 kg N ha-1 年-1)

豚ぷん堆肥区(800 kg N ha-1 年-1)

窒素含有量

(g N kg-1乾土)試験区

3.43.5無肥料区

3.53.4化成区

6.46.04.0

堆肥区

8年後6年後試験前

窒素含有量

(g N kg-1乾土)試験区

3.43.5無肥料区

3.53.4化成区

6.46.04.0

堆肥区

8年後6年後試験前

土壌溶液の硝酸性窒素(深さ1m)

土の中の窒素(0~15 cm)

1st 2nd 3rd 4th 5th 6th 7th 9th8th

図5 畑地における堆肥の連用と硝酸性窒素の溶脱

Page 13: 農業による環境への負荷低減を求めてメタン(CH4)と亜酸化窒素(N2O)は、さまざまな排出源を持っていますが、いずれも、農耕 地と農業活動が重要な排出源となっています。特に、水田からのメタン発生と農用地土壌

-11-

3.本事業における取り組み

以上の知見を営農レベルで実証した試験はまだ少ないのが現状です。そこで本事業では、実

際営農条件下で様々な試験を実施して、次の成果を得ることができました。

①徳島県立農林水産総合技術支援センター農業研究所では、硝酸化成抑制剤入り被覆窒素肥料を用

いることで、速効性区と比べて、レタス栽培期間中に硝酸性窒素溶脱量が約 40%低減できました。 ②熊本県農業研究センターでは、牛ふん堆肥と発酵豚ぷん堆肥を組み合わせたブレンド堆肥を使用

し、硝酸性窒素の溶脱を約9割も低減できました。 ③鹿児島県農業開発総合センターでも、化学肥料と豚ぷん堆肥を併用した場合に、化学肥料単独で

使用するよりも窒素溶脱量が減少しました。 ④日本農業研究所では、牛ふん堆肥と被覆肥料の条施肥により、硝酸性窒素溶脱量を大幅に削減で

きました。さらには、作付体系に大麦やイタリアンライグラスなどのキャッチクロップを導入す

ることによって窒素溶脱量を低減できることが示されました。 ただし、ここで得られた試験結果は比較的短期間のものです。有機物の長期連用においては、2

の③で述べたように一時的に土壌に蓄積した窒素が数年かけてゆっくりと無機化します。したがっ

て、有機物を連用する際は、土壌診断に基づいて施肥窒素量が過剰にならないように注意する必要

があります。

【参考文献】

環境省水・大気環境局(2006):平成 17 年度地下水質測定結果、http://www.env.go.jp/water/

report/h18-08/index.html

前田守弘(2006):第7章硝酸性窒素の動態『地下水・土壌汚染の基礎から応用-汚染物質の動

態と調査・対策技術』、日本地下水学会編、理工図書、139-160

Page 14: 農業による環境への負荷低減を求めてメタン(CH4)と亜酸化窒素(N2O)は、さまざまな排出源を持っていますが、いずれも、農耕 地と農業活動が重要な排出源となっています。特に、水田からのメタン発生と農用地土壌

-12-

細粒灰色低地土水田における家畜ふん堆肥の施用と化学肥料の削減 (京都府農業総合研究所)

堆肥を施用し化学肥料を 1/2 に削減しても、化学肥料のみで栽培した場合と

同等以上の品質が維持できる

食味値は近赤外線分析計で測定された値で、標準品の値を70としている。食味値が大き

いほど食味が良いとされる。また、白米中の粗タンパク含量が少ないほど食味がよい。

保肥力

12

14

16

化学肥料区 5年間堆肥連用区

CEC

(meq/

100g)

地力窒素

0

0.1

0.2

0.3

化学肥料区 5年間堆肥連用区

T-N

(%)

化学肥料区と 5 年間堆肥連用区の土壌分析結果

堆肥施用と水稲収量の関係

400

500

600

700

H14 H16 H17 H18 平均

収量

(kg/10a

)

化学肥料のみ堆肥+化学肥料1/2

堆肥を施用し化学肥料を 1/2

に削減した場合、平均すると

化学肥料のみで栽培した場合

と同等の収量が維持される。

50

55

60

65

70

75

80

H14 H16 H17 H18 平均

食味

値 .

化学肥料のみ堆肥+化学肥料1/2

0

2

4

6

8

H14 H16 H17 H18 平均

白米

の粗

タン

パク

含量

(%) 化学肥料のみ

堆肥+化学肥料1/2

堆肥施用と水稲の品質との関係

●水田に牛ふん堆肥(2t/10a)を連用することで、土壌の保肥力や地力窒素が向上する。

●堆肥の施用により、水稲の収量・品質を維持しつつ化学肥料を 1/2 に削減できる。

技術の内容

① 家畜ふん堆肥を長期に連用する場合、地力窒素の発現量に注意して施肥を行う必要

がある。

留意点

Page 15: 農業による環境への負荷低減を求めてメタン(CH4)と亜酸化窒素(N2O)は、さまざまな排出源を持っていますが、いずれも、農耕 地と農業活動が重要な排出源となっています。特に、水田からのメタン発生と農用地土壌

-13-

家畜ふん堆肥を施用した細粒灰色低地土水田における温室効果ガス

の発生とメタンの削減 (京都府農業総合研究所)

<堆肥施用ほ場における窒素収支>~H17,18 年試験の平均~

堆肥施用水田から発生した温室効果ガス量

(CO2に換算) .

0

100

200

300

400

500

600

700

800

H14 H15 H16 H17 H18

ガス

総発

生量

(g/m2

)

メタン

亜酸化窒素

発生した温

室効果ガス

のうち、亜酸

化窒素の寄

与 は 0.8 ~

5.7% (CO2 に

換算)で小さ

い。

(1) 牛ふん堆肥を施用した細粒灰色低地土水田では、発生する温室効果ガスの大部分が

メタンであり、亜酸化窒素の発生は少ない。

(2) 施用した窒素の一部は亜酸化窒素として大気中に放出されるが、ほとんど(揮散窒素

中 99.7%)が環境に影響のない窒素として放出される。

(3) 水田に牛ふん堆肥を施用した場合、無代かき栽培をすることにより、温室効果ガス(メ

タン)の発生を抑制できる。

技術の内容

施肥窒素量 33.7kg/10a (堆肥:27.4kg/10a、化学肥料6.3kg/10a)

栽培後土壌の窒素増加量 10.4kg/10a

ほ場からの搬出窒素量(籾、雑草)8.0kg/10a

ほ場に還元された窒素量(茎葉、根)4.8kg/10a

揮散窒素量 10.5kg/10a(そのうち 0.03kg/10a が亜酸化窒素)

Page 16: 農業による環境への負荷低減を求めてメタン(CH4)と亜酸化窒素(N2O)は、さまざまな排出源を持っていますが、いずれも、農耕 地と農業活動が重要な排出源となっています。特に、水田からのメタン発生と農用地土壌

-14-

水稲の生育期間中に発生した温室効果ガス量(CO2に換算)

0

100

200

300

400

500

600

700

代かき有 代かき無 代かき有 代かき無

H16 H18

ガス

総発

生量

(g/m

2 )

メタン

亜酸化窒素

水田からのメタン発生量(H18)

0

5

10

15

20

25

30

5/18 6/1 6/15 6/29 7/13 7/27 8/10 8/24 9/7 (月/日)

メタ

ン発

生量

(mg/

m2 /hr

)

化学肥料のみ

堆肥+化学肥料

中干し 間断灌漑

追肥基肥

湛水

生育期間中の降水量とメタン発生量

0

5

10

15

20

25

30

35

0 200 400 600 800 1000

降水量(mm/生育期間)

メタ

ンの

総発

生量

(g/m2)

生育期間中の降

水量が多い年ほ

どメタンの発生は

増加する傾向

堆肥を施用するとメタン発生量が増加するが、無代かき栽培により発生量が 18~39%低下

する。

環境負荷低減効果

Page 17: 農業による環境への負荷低減を求めてメタン(CH4)と亜酸化窒素(N2O)は、さまざまな排出源を持っていますが、いずれも、農耕 地と農業活動が重要な排出源となっています。特に、水田からのメタン発生と農用地土壌

-15-

400

500

600

700

H16 H18

収量

(kg/

10a)

代かき有

代かき無

56

58

60

62

64

66

68

70

H16 H18

食味

代かき有

代かき無

代かきの有無と収量・品質との関係(堆肥施用ほ場)

無代かき栽培により、収量はやや(3~9%)減少するが、食味は向上する。

無代かき栽培による堆肥施用水田のメタン削減効果(H18)

0

5

10

15

20

25

30

5/18 6/1 6/15 6/29 7/13 7/27 8/10 8/24 9/7 (月/日)

メタ

ン発

生量

(mg/

m2 /hr)

堆肥+化学肥料

堆肥+化学肥料(無代かき)

無代かき栽培水田のメタ

ン発生量は、生育期間を

通じて低い。

①土壌の種類により、温室効果ガスの発生量が異なる。特に砂質土壌など乾きやすい水

田では、亜酸化窒素の発生に注意する必要がある。

②水田からのメタン発生量を削減するためには、代かきの有無にかかわらず、中干しをし

っかり行うことが重要な条件である。

③無代かき栽培では施肥効率や除草剤の効果をあげるために、畦畔からの漏水に注意

が必要である。

留意点

Page 18: 農業による環境への負荷低減を求めてメタン(CH4)と亜酸化窒素(N2O)は、さまざまな排出源を持っていますが、いずれも、農耕 地と農業活動が重要な排出源となっています。特に、水田からのメタン発生と農用地土壌

-16-

有機物が亜酸化窒素の発生に及ぼす影響 徳島県立農林水産総合技術支援センター農業研究所

図1 栽培期間中の亜酸化窒素発生量及び収量

(化成肥料区を100とした指数)

亜酸化窒素(N2O)は窒素肥料だけでなく、堆肥や作物残さからも発生します。水稲とレタス

栽培の体系において、堆肥や作物残さによる亜酸化窒素の発生について調査したところ影

響が大きいことがわかりました。

技術の内容

堆肥を施用した試験区は化成肥料区の約1.5倍、堆肥+作物残さを施用した試験区は2.3倍

となりました。収量は堆肥を施用することで増加しました。化成肥料区は施肥後に発生ピー

クがありその後徐々に減少しましたが、堆肥施用区、残さ施用区は生育中期以降も発生ピ

ークがありました。このことから堆肥の適正量施用をするとともに、堆肥中の窒素分を考慮

して化学肥料を減肥すると亜酸化窒素の発生を抑えると考えられます。

環境負荷低減効果

堆肥の施用は土づくりのために必要ですが、過剰施用は大気の環境負荷が増大します。ま

た窒素多用で作物が生育過剰になると作物残さの量が増えます。このため、堆肥中の窒素

分を考慮して肥料の施用を行い窒素過剰にならないようにすることが必要です。

留意点

100 100 100

145

96 84103 116

183

231

115

153

0

50

100

150

200

250

300

亜酸化窒素発生量 水稲収量 レタス収量

化成肥料

化成肥料+残さ

化成肥料+堆肥

化成肥料+残さ+堆肥

Page 19: 農業による環境への負荷低減を求めてメタン(CH4)と亜酸化窒素(N2O)は、さまざまな排出源を持っていますが、いずれも、農耕 地と農業活動が重要な排出源となっています。特に、水田からのメタン発生と農用地土壌

-17-

図2 レタス+水稲栽培期間中の亜酸化窒素発生量の推移 おがくず豚糞堆肥の肥効率を 30%、作物残さの肥効率を 6%として試算した。(窒素成分量 kg/10a)

改善後

亜酸化窒素 減

現 状

亜酸化窒素 増

有機物の窒素分を 考慮して減肥

窒素過剰分

作物の吸収量

(レタス+水稲)

23kg

作物残さ

11kg×肥効率 6%=0.7kg

作物残さ

11kg×肥効率 6%=0.7kg

おがくず豚糞堆肥

33kg×肥効率30%=9.9kg

おがくず豚糞堆肥

33kg×肥効率30%=9.9kg

肥料(レタス+水稲)

30.0kg 肥料 12.4kg

17.6kg

Page 20: 農業による環境への負荷低減を求めてメタン(CH4)と亜酸化窒素(N2O)は、さまざまな排出源を持っていますが、いずれも、農耕 地と農業活動が重要な排出源となっています。特に、水田からのメタン発生と農用地土壌

-18-

レタス栽培における施肥管理による環境負荷低減技術 徳島県立農林水産総合技術支援センター農業研究所

硝酸化成抑制剤入被覆窒素肥料とは 硝酸化成抑制剤入り被覆窒素肥料は,尿素を樹脂で被覆し硝酸化成抑制剤(ジシアンジアミド)を含有した

窒素肥料です。 ①被覆による肥効調節、②硝酸化成抑制剤によるアンモニアから硝酸への変化の抑制、の2つの効

果により作物に効率的に吸収させます。これにより亜酸化窒素の発生量の軽減や土壌中の硝酸性窒素

の流出を抑える効果が期待されています。

水田後のレタス栽培において、 硝酸化成抑制剤入被覆窒素肥料を用いることで、 土

壌中の硝酸性窒素の集積を抑えるとともに大気中への亜酸化窒素(N2O)の発生を抑えるこ

とができます。

技術の内容

硝酸化成抑制剤入被覆窒素肥料は速効性窒素よりも亜酸化窒素の発生が少なく、収量

は維持したまま可食部の硝酸の量を減らすことができました。また土壌中の硝酸性窒素は

低い濃度のまま推移し浸透水への硝酸性窒素の流出も抑えることができました。

環境負荷低減効果

家畜ふん堆肥等の有機物を施用するときは、有機物に含まれる窒素を考慮した施肥が

必要です。また野菜の栽培後は土壌中の窒素が多い場合があるので後作の施肥量が過

剰にならないように注意しましょう。

留意点

吸収 放出 吸収 放出

植 物

亜酸化窒素

窒素

硝酸化成 抑制剤入

被覆窒素肥料 アンモニア性

窒 素

脱窒

流出ゆっくり溶出 抑制

亜酸化窒素

植 物減

硝酸性

窒 素

Page 21: 農業による環境への負荷低減を求めてメタン(CH4)と亜酸化窒素(N2O)は、さまざまな排出源を持っていますが、いずれも、農耕 地と農業活動が重要な排出源となっています。特に、水田からのメタン発生と農用地土壌

-19-

亜酸化窒素発生の軽減

試験区(硝酸化成抑制剤入被覆窒素肥料施用)は 対照区(速効性窒素施用)と比べて、亜酸化窒素 の発生は 88%に減少しました。

栽培期間中の亜酸化窒素の発生量(指数)

試験区と対照区の収量はほぼ変わらず、可食部の硝酸の量を 82%に減らすことができました。

土壌中の硝酸性窒素の集積抑制

土壌中の硝酸性窒素は対照区が施肥後に

濃度が上昇しましたが、試験区は低い濃

度のまま推移しました。

浸透水の硝酸性窒素溶脱の軽減

試験区の浸透水中の硝酸性窒素は、対照

区の 62%に減少しました。

88100

試験区 対照区

99 82

100 100

収量(指数) 可食部の硝酸量(指数)

試験区 対照区

収量維持

0

1

2

3

4

5

7 14 21 28 42 56 87

施肥後経過日数(日)

試験区

対照区

土壌中

の硝

酸性

窒素

(mg/100

g)

栽培期間中の浸透水中の硝酸性窒素量(指数)

62

100

0

100

試験区 対照区

Page 22: 農業による環境への負荷低減を求めてメタン(CH4)と亜酸化窒素(N2O)は、さまざまな排出源を持っていますが、いずれも、農耕 地と農業活動が重要な排出源となっています。特に、水田からのメタン発生と農用地土壌

-20-

黒ボク畑キャベツ栽培における亜酸化窒素の発生要因 熊本県農業研究センター

◆ キャベツ栽培における亜酸化窒素の発生要因は、施肥と収穫残渣の処理で、春作で

は収穫後の残渣鋤込み後、秋作では施肥直後に増加する。

◆ 亜酸化窒素発生量は作型によって異なり、施肥法では分施体系よりも肥効調節型肥

料を用いた全量基肥体系の方が、ほ場から発生する亜酸化窒素量は少ない。

技術の内容

-100

0

100

200

300

400

500

600

8/1

9/20

11/9

12/29

2/17

4/7

5/27

7/16

9/4

10/24

12/13

2/1

3/23

5/12

7/1

8/20

10/9

11/28

1/17

3/8

4/27

6/16

8/5

9/24

11/13

亜酸

化窒

素発

生量

g/㎡

/hr)

化学肥料 肥効調節型肥料

平成15年 平成17年平成16年 平成18年

秋作 春作 秋作 春作 秋作春作

4.8

3.53.2

3.6 3.64.2

3.7

2.8

3.7 3.74.1

3.7

0

1

2

3

4

5

6

平成15年秋作 平成16年春作 平成16年秋作 平成17年春作 平成17年秋作 平成18年春作 平均

収量

 (t

/10a

)

化学肥料 肥効調節型肥料5.4

2.7

 平均

キャベツ1作当たりの施肥法

キャベツほ場から発生する亜酸化窒素の推移

キャベツ収量の年次別推移

施肥体系:分施(慣行)

肥料の種類:速効性化学肥料

施肥法:基肥 12-20-10 (kg/10a)

追肥 12- 0-10 (kg/10a)

施肥体系:全量基肥

肥料の種類:肥効調節型肥料

施肥法:基肥 24-20-20 (kg/10a)

Page 23: 農業による環境への負荷低減を求めてメタン(CH4)と亜酸化窒素(N2O)は、さまざまな排出源を持っていますが、いずれも、農耕 地と農業活動が重要な排出源となっています。特に、水田からのメタン発生と農用地土壌

-21-

◆ 肥効調節型肥料は微生物分解型で、窒素溶出日数はおおよそ100日タイプのものを施

用する。

◆キャベツ栽培は春作は3月定植、秋作は9月定植である。

留意点

ほ場から発生する亜酸化窒素量は、肥効調節型肥料を用いた全量基肥施肥が、速効性

化学肥料を分施する場合より春作キャベツで約 7%、秋作キャベツで約 23%減少する。

ガス発生抑制効果

120

20

31

112

0

20

40

60

80

100

120

140

160

春作 秋作

亜酸

化窒

素量

  

(g/10a)

化学肥料

肥効調節型肥料

上段:収穫後無作付期間下段:作付期間

22 22

50

23作付期間

無作付期間

ほ場から発生する亜酸化窒素量(キャベツ1作平均)

基肥

追肥

24kg

24kg

基肥

48kg

速効性化学肥料

による分施体系

肥効調節型肥料

による全量基肥体系

亜酸化窒素

亜酸化窒素

212g 187g

搬出

17kg

搬出

16kg

残渣22kg

残渣23kg

投入した窒素の流れ  (年2作の年平均)

未回収

8kg

未回収

8kg

基肥

追肥

24kg

24kg

基肥

48kg

速効性化学肥料

による分施体系

肥効調節型肥料

による全量基肥体系

亜酸化窒素

亜酸化窒素

212g 187g

搬出

17kg

搬出

16kg

残渣22kg

残渣23kg

投入した窒素の流れ  (年2作の年平均)

未回収

8kg

未回収

8kg

Page 24: 農業による環境への負荷低減を求めてメタン(CH4)と亜酸化窒素(N2O)は、さまざまな排出源を持っていますが、いずれも、農耕 地と農業活動が重要な排出源となっています。特に、水田からのメタン発生と農用地土壌

-22-

家畜ふん堆肥のブレンド施用による環境負荷低減技術 熊本県農業研究センター

23

50

41

2420 20

0

10

20

30

40

50

60

化学肥料 家畜ふん堆肥

養分

投入

量 

(kg/

10a) N

P2O5

K2O

-100

0

100

200

300

400

500

600

1/1

2/20

4/10

5/30

7/19

9/7

10/27

12/16

2/4

3/26

5/15

7/4

8/23

10/12

12/1

1/20

3/11

4/30

6/19

8/8

9/27

11/16

亜酸

化窒

素発

生量

g/㎡

/hr)

化学肥料 家畜ふん堆肥

平成16年 平成17年 平成18年

春作 秋作 春作 秋作 春作

◆ 黒ボク畑におけるキャベツ栽培において、牛ふん堆肥と発酵豚ぷんを組み合わせたブ

レンド施用は、化学肥料施肥と比較して収量ほぼ同等になる。

◆ ほ場から発生する亜酸化窒素および硝酸性窒素溶脱量は家畜ふん堆肥のブレンド施

用によって減少する。

技術の内容

キャベツ1作当たりの養分投入量

3.53.2

3.6 3.6

4.2

3.6

2.72.8

3.73.9 4.0

3.4

0

1

2

3

4

5

平成16年春作 平成16年秋作 平成17年春作 平成17年秋作 平成18年春作 平均

収量

 (t

/10a)

化学肥料 家畜ふん堆肥

キャベツ収量の年次別推移

キャベツほ場から発生する亜酸化窒素の推移

Page 25: 農業による環境への負荷低減を求めてメタン(CH4)と亜酸化窒素(N2O)は、さまざまな排出源を持っていますが、いずれも、農耕 地と農業活動が重要な排出源となっています。特に、水田からのメタン発生と農用地土壌

-23-

ほ場から発生する亜酸化窒素量は、家畜ふん堆肥をブレンド施用した場合、化学肥料を施

肥した場合より年間約 36%減少し、硝酸態窒素量も約 88%減少する。

環境負荷軽減効果

0

2000

4000

6000

8000

10000

12000

14000

1/1

2/20

4/10

5/30

7/19

9/7

10/27

12/16

2/4

3/26

5/15

7/4

8/23

10/12

12/1

1/20

3/11

4/30

6/19

8/8

9/27

11/16

窒素

溶脱

量 

(m

gN/㎡

化学肥料 家畜ふん堆肥

平成16年 平成17年 平成18年

春作 秋作 秋作 春作春作

ほ場からの窒素溶脱量の推移

基肥

追肥

24kg

24kg

基肥

46kg

化学肥料 家畜ふん堆肥

  212g    (春142g+秋70g)

    136g    (春91g+秋45g)

搬出

17kg

搬出

15kg

残渣22kg

残渣16kg

投入した窒素の流れ (年2作の年平均)

未回収9kg 未回収

15kg

溶脱  49kg  溶脱   6kg 

亜酸化窒素

基肥

追肥

24kg

24kg

基肥

46kg

化学肥料 家畜ふん堆肥

  212g    (春142g+秋70g)

    136g    (春91g+秋45g)

搬出

17kg

搬出

15kg

残渣22kg

残渣16kg

投入した窒素の流れ (年2作の年平均)

未回収9kg 未回収

15kg

溶脱  49kg  溶脱   6kg 

亜酸化窒素

◆ 家畜ふん堆肥は定植前に基肥全量施用する。

◆ 家畜ふん堆肥を長期に連用する場合、土壌診断を行い地力窒素発現量やカリウムの

集積などに注意して、施用する必要がある。

留意点

Page 26: 農業による環境への負荷低減を求めてメタン(CH4)と亜酸化窒素(N2O)は、さまざまな排出源を持っていますが、いずれも、農耕 地と農業活動が重要な排出源となっています。特に、水田からのメタン発生と農用地土壌

-24-

春作キャベツ収穫ほ場から発生する亜酸化窒素削減に有効な収穫残渣処理

熊本県農業研究センター

◆ キャベツ春作栽培において、亜酸化窒素ガスの発生抑制に効果が高い収穫物残渣処

理はほ場外へ作物残渣を持ち出すことである。

◆ ほ場内で処理する場合、そのまま放置するよりも残渣を土壌中へ鋤込む方がガス発生

抑制効果は高い。

技術の内容

-20

0

20

40

60

80

100

120

140

160

180

200

2月

27日

3月

19日

4月

8日

4月

28日

5月

18日

6月

7日

6月

27日

7月

17日

8月

6日

平成17年

亜酸

化窒

素発

生量

g N

2O

-N

/㎡

/h

r)

◆春作キャベツでは生育期間よりも収穫後の亜酸化窒素の発生が多い。     

     ◆ガス発生抑制効果の高い残

渣処理法の開発が重要。

◆春作キャベツでは生育期間よりも収穫後の亜酸化窒素の発生が多い。     

     ◆ガス発生抑制効果の高い残

渣処理法の開発が重要。

成果のポイント

春作キャベツ生育期間中の亜酸化窒素発生(2005年)

-20

0

20

40

60

80

100

120

140

160

180

200

2月

27日

3月

19日

4月

8日

4月

28日

5月

18日

6月

7日

6月

27日

7月

17日

8月

6日

平成17年

亜酸

化窒

素発

生量

g N

2O

-N

/㎡

/h

r)

◆春作キャベツでは生育期間よりも収穫後の亜酸化窒素の発生が多い。     

     ◆ガス発生抑制効果の高い残

渣処理法の開発が重要。

◆春作キャベツでは生育期間よりも収穫後の亜酸化窒素の発生が多い。     

     ◆ガス発生抑制効果の高い残

渣処理法の開発が重要。

成果のポイント成果のポイント

春作キャベツ生育期間中の亜酸化窒素発生(2005年)

処理3 処理1

(通常処理)

処理2

キャベツ残渣

鋤込み

キャベツ残渣

抜き取り放置

鋤込みなし

キャベツ残渣

ほ場外持ち出し

鋤込みなし

Page 27: 農業による環境への負荷低減を求めてメタン(CH4)と亜酸化窒素(N2O)は、さまざまな排出源を持っていますが、いずれも、農耕 地と農業活動が重要な排出源となっています。特に、水田からのメタン発生と農用地土壌

-25-

◆ キャベツ収穫物残渣のほ場外への持ち出しはほ場内で処理するよりも亜酸化窒素発

生量は91~95%減少する。

◆ ほ場内での残渣処理では、そのまま放置するよりも鋤込む方が43%発生量は減少する。

ガス発生抑制効果

0

100

200

300

400

500

600

700

800

6/18

6/20

6/22

6/24

6/26

6/28

6/30

7/2

7/4

7/6

7/8

7/10

7/12

7/14

7/16

7/18

7/20

7/22

7/24

7/26

7/28

7/30

8/1

8/3

8/5

8/7

8/9

8/11

8/13

8/15

8/17

8/19

8/21

亜酸

化窒

素発

生量

(N

2O

-N

μg/㎡

/hr)

処理1 残渣ほ場内鋤込み

処理2 残渣ほ場内放置

処理3 残渣ほ場外搬出

収穫

鋤込

収穫後のキャベツほ場から発生する亜酸化窒素の推移(2006年度)

114

200

10

0

50

100

150

200

250

ほ場内鋤込み ほ場内放置 ほ場外搬出

亜酸

化窒

素発

生量

 (g

/10a)

残渣処理の違いが亜酸化窒素排出量に及ぼす影響

◆ ほ場内での残渣処理は以下のとおりである。

キャベツの収穫物残渣量:3250kg/10a

残渣処理法:トラクターのロータリー耕によって作土と混和

処理時期:収穫後1週間以内

留意点

Page 28: 農業による環境への負荷低減を求めてメタン(CH4)と亜酸化窒素(N2O)は、さまざまな排出源を持っていますが、いずれも、農耕 地と農業活動が重要な排出源となっています。特に、水田からのメタン発生と農用地土壌

-26-

飼料畑における家畜ふん堆肥を利用した亜酸化窒素発生抑制技術 鹿児島県農業開発総合センター

化学肥料と豚ぷん堆肥あるいは鶏ふん堆肥を併用(窒素比 6 : 4 )した栽培は,飼料作物

(トウモロコシ-イタリアンライグラス)の収量や品質の維持・向上を図りつつ,亜酸化窒素

ガス発生や窒素溶脱等の環境負荷を軽減することができます。

技術の内容

① 安定した収量と安全な品質の確保① 安定した収量と安全な品質の確保

② 土壌中リン酸の集積回避② 土壌中リン酸の集積回避

③ 窒素溶脱の低減③ 窒素溶脱の低減

④ 亜酸化窒素発生の抑制④ 亜酸化窒素発生の抑制

Page 29: 農業による環境への負荷低減を求めてメタン(CH4)と亜酸化窒素(N2O)は、さまざまな排出源を持っていますが、いずれも、農耕 地と農業活動が重要な排出源となっています。特に、水田からのメタン発生と農用地土壌

-27-

①安定した収量と安全な品質の確保

0

5

10

15トウモロコシ イタリアンライグラス

化学肥料 全量豚ぷん堆肥 豚ぷん堆肥併用

0

5

10

15トウモロコシ イタリアンライグラス

化学肥料 全量鶏ふん堆肥 鶏ふん堆肥併用

0

1

2

3

K/(Ca+Mg) 当

量比

トウモロコシ イタリアンライグラス

0

1

2

3

K/(Ca+Mg) 当

量比

トウモロコシ イタリアンライグラス

目安値 目安値

◎豚ぷん堆肥や鶏ふん堆肥を施用した全量家畜ふん堆肥栽培,これら堆肥と化学肥料 を併用した栽培の飼料作物は概ね,化学肥料栽培並みの乾物収量が得られます。 

K/(Ca+Mg)は牛のグラステタニー症発症の判定指標として用いられています。この値を2.2(目安値)以下に抑えると望ましいと言われています。

トウモロコシおよびイタリアンライグラスの乾物収量

トウモロコシおよびイタリアンライグラスの品質[ K/(Ca+Mg) ]

化学肥料 全量豚ぷん堆肥 豚ぷん堆肥併用 化学肥料 全量鶏ふん堆肥 鶏ふん堆肥併用

乾物

収量

(Mg ha-1)

乾物

収量

(Mg ha-1)

◎全量家畜ふん堆肥栽培の飼料作物について,これを牛が給餌した場合,グラステタ ニー症を引き起こす危険性がありますが,堆肥併用栽培では,その危険性が小さく なります。

①安定した収量と安全な品質の確保

0

5

10

15トウモロコシ イタリアンライグラス

化学肥料 全量豚ぷん堆肥 豚ぷん堆肥併用

0

5

10

15トウモロコシ イタリアンライグラス

化学肥料 全量鶏ふん堆肥 鶏ふん堆肥併用

0

1

2

3

K/(Ca+Mg) 当

量比

トウモロコシ イタリアンライグラス

0

1

2

3

K/(Ca+Mg) 当

量比

トウモロコシ イタリアンライグラス

目安値 目安値

◎豚ぷん堆肥や鶏ふん堆肥を施用した全量家畜ふん堆肥栽培,これら堆肥と化学肥料 を併用した栽培の飼料作物は概ね,化学肥料栽培並みの乾物収量が得られます。 

K/(Ca+Mg)は牛のグラステタニー症発症の判定指標として用いられています。この値を2.2(目安値)以下に抑えると望ましいと言われています。

トウモロコシおよびイタリアンライグラスの乾物収量

トウモロコシおよびイタリアンライグラスの品質[ K/(Ca+Mg) ]

化学肥料 全量豚ぷん堆肥 豚ぷん堆肥併用 化学肥料 全量鶏ふん堆肥 鶏ふん堆肥併用

乾物

収量

(Mg ha-1)

乾物

収量

(Mg ha-1)

◎全量家畜ふん堆肥栽培の飼料作物について,これを牛が給餌した場合,グラステタ ニー症を引き起こす危険性がありますが,堆肥併用栽培では,その危険性が小さく なります。

Page 30: 農業による環境への負荷低減を求めてメタン(CH4)と亜酸化窒素(N2O)は、さまざまな排出源を持っていますが、いずれも、農耕 地と農業活動が重要な排出源となっています。特に、水田からのメタン発生と農用地土壌

-28-

② 土壌中リン酸の集積回避

◎全量家畜ふん堆肥栽培は,連年施用によって土壌中にリン酸を集積させますが,  堆肥併用栽培では,リン酸の集積が軽減されます。

0

200

400

600

800 窒素 リン酸 加里

0

100

200

300 試験前 1年後 2年後

化学肥料 全量豚ぷん堆肥 豚ぷん堆肥併用 化学肥料 全量豚ぷん堆肥 豚ぷん堆肥併用

1作当たりの3要素投入量 土壌のリン酸含量

投入

量(

kg ha-1)

可給

態リン

酸含量

(mg k

g-1 )

③ 窒 素 溶 脱の低減

化学肥料 全量豚ぷん堆肥 豚ぷん堆肥併用

◎窒素溶脱を解析するために,簡易ライシメータで試験しました。     化学肥料栽培の窒素溶脱量は,家畜ふん堆肥を施用した栽培に比べて多いでした。 窒素肥効率を勘案しての堆肥だけによる栽培は,多量の窒素投入を必要とするため, 連年施用する場合,窒素溶脱量の増加が示唆されました。

0

20

40

60

0

20

40

60

0

20

40

60

簡易ライシメータ試験における窒素の投入量および溶脱量

投入量 溶脱量 投入量 溶脱量投入量 溶脱量

(g m-2)

(g m-2)

(g m-2)

トウモロコシ

イタリアンライグラス

[試験はトウモロコシ栽培から開始]

② 土壌中リン酸の集積回避

◎全量家畜ふん堆肥栽培は,連年施用によって土壌中にリン酸を集積させますが,  堆肥併用栽培では,リン酸の集積が軽減されます。

0

200

400

600

800 窒素 リン酸 加里

0

100

200

300 試験前 1年後 2年後

化学肥料 全量豚ぷん堆肥 豚ぷん堆肥併用 化学肥料 全量豚ぷん堆肥 豚ぷん堆肥併用

1作当たりの3要素投入量 土壌のリン酸含量

投入

量(

kg ha-1)

可給

態リン

酸含量

(mg k

g-1 )

③ 窒 素 溶 脱の低減

化学肥料 全量豚ぷん堆肥 豚ぷん堆肥併用

◎窒素溶脱を解析するために,簡易ライシメータで試験しました。     化学肥料栽培の窒素溶脱量は,家畜ふん堆肥を施用した栽培に比べて多いでした。 窒素肥効率を勘案しての堆肥だけによる栽培は,多量の窒素投入を必要とするため, 連年施用する場合,窒素溶脱量の増加が示唆されました。

0

20

40

60

0

20

40

60

0

20

40

60

0

20

40

60

0

20

40

60

0

20

40

60

0

20

40

60

0

20

40

60

0

20

40

60

簡易ライシメータ試験における窒素の投入量および溶脱量

投入量 溶脱量 投入量 溶脱量投入量 溶脱量

(g m-2)

(g m-2)

(g m-2)

トウモロコシ

イタリアンライグラス

[試験はトウモロコシ栽培から開始]

Page 31: 農業による環境への負荷低減を求めてメタン(CH4)と亜酸化窒素(N2O)は、さまざまな排出源を持っていますが、いずれも、農耕 地と農業活動が重要な排出源となっています。特に、水田からのメタン発生と農用地土壌

-29-

④ 亜酸化窒素発生の抑制

化学肥料

豚ぷん堆肥併用

鶏ふん堆肥併用

飼料作物における積算亜酸化窒素発生量と排出係数[ほ場試験]

0.0

0.5

1.0

1.5

2.0

2.5

3.0

1 3 5 7 9 12 15

化学肥料 豚ぷん堆肥 堆肥併用

150kgN ha-1 300kgN ha-1 (90+120)kgN ha-1

亜酸化窒素発生量(mgNm-2 day-1)

豚ぷん堆肥の施用が亜酸化窒素発生量に及ぼす影響 [室内培養試験]

化学肥料

1作窒素

施用量

150 0.910 0.675 0.61 0.45 0.53

210 0.667 0.607 0.32 0.29 0.30

150 0.208 0.497 0.14 0.33 0.24

210 0.378 0.536 0.18 0.26 0.22

トウモロコシ イタリアンライグラス

積算亜酸化窒素発生量kgN ha-1

kgN ha-1トウモロコシ イタリアン

ライグラス年平均

排出係数 %

2004年

2005年

亜酸化窒素発生量は無窒素区の発生量を差引いた

試験年・ 処理

◎亜酸化窒素は基肥や追肥によって発生量が増加します。            

◎全量豚ぷん堆肥栽培の場合,亜酸化窒素発生量が化学肥料栽培に比べて著しく増加し ますが,化学肥料と豚ぷん堆肥併用栽培はその発生量を低減します。     

◎化学肥料および堆肥併用栽培ともに,栽培期間および年間の積算亜酸化窒素発生量は 窒素施用量の1%未満です。堆肥併用栽培の排出係数は,化学肥料栽培に比べて小さい

 傾向です。

0

100

200

300

400

4/1 5/1 6/1 7/1 8/1 9/1 10/1 11/1 12/1 1/1 2/1 3/1

化学肥料 全量豚ぷん堆肥 豚ぷん堆肥併用

亜酸化窒素発生量

μgNm-2 h-1  トウモロコシ

飼料作物栽培期間の亜酸化窒素発生量の推移 [2004年ほ場試験]

5/12基肥 6/10

追肥化学肥料栽培

無作付け

イタリアンライグラス

10/12基肥 1/5

追肥化学肥料栽培

④ 亜酸化窒素発生の抑制

化学肥料

豚ぷん堆肥併用

鶏ふん堆肥併用

飼料作物における積算亜酸化窒素発生量と排出係数[ほ場試験]

0.0

0.5

1.0

1.5

2.0

2.5

3.0

1 3 5 7 9 12 15

化学肥料 豚ぷん堆肥 堆肥併用

150kgN ha-1 300kgN ha-1 (90+120)kgN ha-1

亜酸化窒素発生量(mgNm-2 day-1)

豚ぷん堆肥の施用が亜酸化窒素発生量に及ぼす影響 [室内培養試験]豚ぷん堆肥の施用が亜酸化窒素発生量に及ぼす影響 [室内培養試験]

化学肥料

1作窒素

施用量

150 0.910 0.675 0.61 0.45 0.53

210 0.667 0.607 0.32 0.29 0.30

150 0.208 0.497 0.14 0.33 0.24

210 0.378 0.536 0.18 0.26 0.22

トウモロコシ イタリアンライグラス

積算亜酸化窒素発生量kgN ha-1

kgN ha-1トウモロコシ イタリアン

ライグラス年平均

排出係数 %

2004年

2005年

亜酸化窒素発生量は無窒素区の発生量を差引いた

試験年・ 処理

◎亜酸化窒素は基肥や追肥によって発生量が増加します。            

◎全量豚ぷん堆肥栽培の場合,亜酸化窒素発生量が化学肥料栽培に比べて著しく増加し ますが,化学肥料と豚ぷん堆肥併用栽培はその発生量を低減します。     

◎化学肥料および堆肥併用栽培ともに,栽培期間および年間の積算亜酸化窒素発生量は 窒素施用量の1%未満です。堆肥併用栽培の排出係数は,化学肥料栽培に比べて小さい

 傾向です。

0

100

200

300

400

4/1 5/1 6/1 7/1 8/1 9/1 10/1 11/1 12/1 1/1 2/1 3/1

化学肥料 全量豚ぷん堆肥 豚ぷん堆肥併用

亜酸化窒素発生量

μgNm-2 h-1  トウモロコシ

飼料作物栽培期間の亜酸化窒素発生量の推移 [2004年ほ場試験]飼料作物栽培期間の亜酸化窒素発生量の推移 [2004年ほ場試験]

5/12基肥 6/10

追肥化学肥料栽培

無作付け

イタリアンライグラス

10/12基肥 1/5

追肥化学肥料栽培

Page 32: 農業による環境への負荷低減を求めてメタン(CH4)と亜酸化窒素(N2O)は、さまざまな排出源を持っていますが、いずれも、農耕 地と農業活動が重要な排出源となっています。特に、水田からのメタン発生と農用地土壌

-30-

◎家畜ふん堆肥の窒素肥効率は,豚ぷん堆肥,鶏ふん堆肥ともに5割を想定しました。 堆肥併用栽培は,化学肥料栽培の窒素施用量の4割を堆肥で代替しました。全量家 畜ふん堆肥および堆肥併用は基肥だけ施用しました。

留 意 点

◎二酸化炭素発生量が多い(易分解性有機物量の多い)堆肥ほど腐熟度が低いとされ ます。二酸化炭素発生量の増加に伴い脱窒量も増加傾向でした。腐熟度の高い堆肥 の施用が亜酸化窒素発生を低減すると考えます。

-8

-6

-4

-2

0

2

0.0 0.1 0.2 0.3 0.4

牛ふん 豚ぷん・鶏ふん

ln(

脱窒flux(mgN

g-14days-

1))

CO2flux(g g-1 4days-1)

堆肥のCO2発生量と脱窒発生量対数値との関係

◎土壌の種類による亜酸化窒素発生量は黒ボク>シラス>アカホヤの順で多く,土壌 の炭素や窒素含量,物理性の違いによってこの発生量は異なると考えられます。

0.0

0.2

0.4

0.6

0.8

1.0 鶏ふん 牛ふん 豚ぷん

黒ボク シラス アカホヤ

積算

亜酸化

窒素発

生量

(gNm-2)

土壌の違いによる積算亜酸化窒素発生量[2006年 トウモロコシ栽培期間 堆肥併用栽培]

●トウモロコシ ●イタリアンライグラス

[室内培養試験]

◎家畜ふん堆肥の窒素肥効率は,豚ぷん堆肥,鶏ふん堆肥ともに5割を想定しました。 堆肥併用栽培は,化学肥料栽培の窒素施用量の4割を堆肥で代替しました。全量家 畜ふん堆肥および堆肥併用は基肥だけ施用しました。

留 意 点

◎二酸化炭素発生量が多い(易分解性有機物量の多い)堆肥ほど腐熟度が低いとされ ます。二酸化炭素発生量の増加に伴い脱窒量も増加傾向でした。腐熟度の高い堆肥 の施用が亜酸化窒素発生を低減すると考えます。

-8

-6

-4

-2

0

2

0.0 0.1 0.2 0.3 0.4

牛ふん 豚ぷん・鶏ふん

ln(

脱窒flux(mgN

g-14days-

1))

CO2flux(g g-1 4days-1)

堆肥のCO2発生量と脱窒発生量対数値との関係

◎土壌の種類による亜酸化窒素発生量は黒ボク>シラス>アカホヤの順で多く,土壌 の炭素や窒素含量,物理性の違いによってこの発生量は異なると考えられます。

0.0

0.2

0.4

0.6

0.8

1.0 鶏ふん 牛ふん 豚ぷん

黒ボク シラス アカホヤ

積算

亜酸化

窒素発

生量

(gNm-2)

土壌の違いによる積算亜酸化窒素発生量[2006年 トウモロコシ栽培期間 堆肥併用栽培]

●トウモロコシ ●イタリアンライグラス

[室内培養試験]

Page 33: 農業による環境への負荷低減を求めてメタン(CH4)と亜酸化窒素(N2O)は、さまざまな排出源を持っていますが、いずれも、農耕 地と農業活動が重要な排出源となっています。特に、水田からのメタン発生と農用地土壌

-31-

被覆肥料条施用とたい肥投入による窒素収支の改善 日本農業研究センター

はくさいやばれいしょなどの露地野菜にイネ科作物を組み入れた輪作を基本とし、牛ふん

堆肥の適正施用による地力維持と被覆肥料の条施用により、窒素の投入を3、4割減らし

ても、慣行施肥法に比べ、効率的な肥料の利用で、同等の収量が期待できます。また、窒

素の溶脱の低減をはじめとした環境に優しい農業生産が期待できます。

技術の内容

  ばれいしょ             飼料用二条大麦            はくさい

実証ほ:被覆肥料の条施用    堆肥のみで無肥料       被覆肥料の条施用

対照ほ:化成肥料の全層施用  無堆肥化肥全層施用     化成肥料の全層施用

→ →

  ばれいしょ             飼料用二条大麦            はくさい

実証ほ:被覆肥料の条施用    堆肥のみで無肥料       被覆肥料の条施用

対照ほ:化成肥料の全層施用  無堆肥化肥全層施用     化成肥料の全層施用

→ →

輪作の実施(2年3作)

事業期間中の平均収量(kg/10a)

2,104

8,048

2,087

7,883

0

2,000

4,000

6,000

8,000

10,000

ばれいしょ はくさい

実証ほ 対照ほ

事業期間(H14-18)中の年間平均施肥量(化学肥料窒素 kg/10a)

15.8

26.4

0

10

20

30

実証ほ 対照ほ

事業期間中の年間施用堆肥(t/10a)2.9

2.4

2.0

3.0

実証ほ 対照ほ

施肥量を削減しても収量の低下はない

Page 34: 農業による環境への負荷低減を求めてメタン(CH4)と亜酸化窒素(N2O)は、さまざまな排出源を持っていますが、いずれも、農耕 地と農業活動が重要な排出源となっています。特に、水田からのメタン発生と農用地土壌

-32-

肥料窒素66.1%

堆肥窒素30.6%

雨水3.3%

肥料窒素50.0%堆肥窒素

45.8%

雨水4.2%

堆肥の窒素率を

0.5%と計算

堆肥の窒素率を

0.5%と計算

搬出窒素(収穫)

64.3%溶脱2.8%

ガス揮散1.7%

残存(土壌中増加)31.2%

実証ほ(低投入)窒素総量31.6kg/10a

搬出窒素(収穫)

53.1%

ガス揮散1.4% 溶脱

4.7%

残存(土壌中増加)40.8%

対照ほ(慣行施肥)窒素総量40kg/10a

窒素のインプット アウトプット

窒素のインプット アウトプット

肥料の低投入を試みた実証ほの窒素は、慣行施肥である対照ほに比べて作物による吸

収が多く、地下への浸透水による硝酸性窒素の溶脱は、濃度、量ともに大幅に低減します。

また、窒素のガスによる揮散は、多くが亜酸化窒素によるものであり、実証ほの揮散が

わずかに少ないことがわかりました。

作土に残る窒素は、実証ほが大幅に少なく、作付後の施肥管理が容易になります。

環境負荷低減効果

低投入の実証ほでは、地下への硝酸性窒素の溶脱濃度が極めて少なくなりました。

また、イタリアンライグラスや二条大麦、とくに二条大麦の越年栽培を導入することで、窒素の収支改善と

溶脱濃度と量の低減が図れることが明らかとなりました。

0

10

20

30

1 4 7

10

13

16

19

22

25

28

31

34

37

硝酸性窒素濃度(mg/㍑)

実証ほ(低投入)

実証ほの硝酸性窒素の溶脱濃度は常に低かった

だいこんイタリアンライグラス

はくさいばれい

しょはくさい

ばれいしょ

二条大麦

二条大麦

0

10

20

30

1 4 7

10

13

16

19

22

25

28

31

34

37

大麦の作付以降濃度が大幅に低下

だいこんイタリアンライグラス

はくさいばれい

しょはくさい

ばれいしょ

二条大麦

二条大麦

対照ほ (慣行施肥)

H14年度(4月~)

H15年度 H16年度 H17年度 H18年度 H14年度(4月~)

H15年度 H16年度 H17年度 H18年度

Page 35: 農業による環境への負荷低減を求めてメタン(CH4)と亜酸化窒素(N2O)は、さまざまな排出源を持っていますが、いずれも、農耕 地と農業活動が重要な排出源となっています。特に、水田からのメタン発生と農用地土壌

-33-

所在地:茨城県つくば市稲荷原2-1

日本農業研究所実験農場は、茨城県つくば

市にある和牛肥育素牛生産と繁殖肥育一貫畜

産を中心とする実験・実証農場です。農場の

豊富な草資源をもとにした放牧、サイレージ

給与等の自給飼料によって、系統品種に配慮

した畜産が主な業務となっています。実験農

場は、20 ヘクタールを超える耕地を有し、農

場全体が一つの経営体と模せられる性格を持

っています。

農場では、家畜生産の過程で生ずる廃棄物を活用した良質な堆肥を、太陽熱を使って生産してい

ます。この堆肥は、野菜を中心とする作物を栽培する耕種事業に利用されていますが、この耕種事

業は、窒素等環境への負荷物質を農場自身の内部で処理し、外部に負荷を与えないという考えのも

と行っているもので、これまで様々なほ場試験を実施してきました。「環境負荷低減農業技術確立

実証事業」は、この一環として展開されたものです。

当実験農場は、本環境負荷低減農業技術確立実証事業に参加している他の各府県の研究所とは、

上記のように性格が異なります。実験条件のうえでも、試験ほ場の区画は1区 30 アール、実証ほ

対照ほ併せて 1.2 ヘクタールと、府県の試験規模と比べてきわめて広くなっています。さらに、通

常の農業生産の現場同様、ほ場には起伏があり、その土壌の状況、水の流れ、微気象等、試験に影

響を及ぼす諸条件にも変異が大きいことは避けられません。また農場は、地域住民参加による様々

な行事など、地域貢献の場としても使用されていることから、これによる影響もあります。

日本農業研究所実験農場は、今回の補助事業を含め、3次15年の試験を同一のほ場で行ってき

ました。試験区設定の考え方は、各次の試験事業ごとに変化はしていますが、堆肥の投入により化

学肥料の投入を抑えた実証ほと、慣行の化学肥料施用を基本とする対照ほ用いて収量や作物の品質、

土壌の収支や変化を観察するという基本は、長年にわたり維持してきました。

3次15年に及ぶ試験を、同一のほ場で継続的に実施してきたこの試みは、ほ場への窒素の投入

と収支、土壌の変化、土壌浸透水の状況等、様々なデータを長期にわたって積み上げてきており、

試験場での実験とは異なる、通常の営農規模レベルでの試験に基づく様々なデータは、この成果集

と同時に刊行された「環境負荷低減農業技術確立実証事業 関係資料集 (平成14~18年度)」

の中でも種々ご紹介していますので、他の 4府県のデータ共々ご参照下さい。

日本農業研究所実験農場のご紹介

つくば市

水戸市

実験農場

Page 36: 農業による環境への負荷低減を求めてメタン(CH4)と亜酸化窒素(N2O)は、さまざまな排出源を持っていますが、いずれも、農耕 地と農業活動が重要な排出源となっています。特に、水田からのメタン発生と農用地土壌

農業による環境への負荷低減を求めて 環境負荷低減農業技術確立実証事業の成果から

平成 19 年3月 印刷

平成 19 年3月 発行

編集・発行 財 団 法 人 日 本 農 業 研 究 所

本 部 〒102-0094 東京都千代田区紀尾井町3番 29 号

電 話 03-3262-6351

FAX 03-3262-6355

実 験 農 場 〒300-1259 茨城県つくば市稲荷原2-1

029-876-0111 (代 表) 029-876-0945

029-876-5081 (研 究 室) 029-876-5086 電話 FAX