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137 サイクル機構技報 No.142002.3 資料番号:14-12 Seismic Study of LMFR Core - JNC/CEA Joint SYMPHONY Program- 北村 誠司 浅山 森下 正樹 大洗工学センター 要素技術開発部 浅山 構造信頼性研究グループ所 研究主幹 高速増殖炉の構造材料開 発・システム化規格開発に 従事 工学博士 森下 正樹 構造信頼性研究グループ リーダ 高速増殖炉の構造材料開 発・耐震免震技術開発に従 工学博士 北村 誠司 構造信頼性研究グループ所 副主任研究員 高速増殖炉の耐震設計・免 震技術開発に従事 - JNC/CEA 炉心耐震共同研究 SYMPHONY の成果- 高速炉炉心の群振動解析手法の開発 In order to validate the LMFR seismic core design methods, an experimental program named SYMPHONY was conducted in collaboration between JNC and CEA. This paper first describes an outline of the experimental program. A series of seismic response analysis was performed. In the analysis, the effect of the gap between an entrance nozzle and a supporting structure, the shocks between neighboring subassemblies and the fluid-structure interaction were considered. The calculated displacements and shock forces correlated well with the measured data. It was shown that detailed simulation analysis was possible on the seismic behavior of a large core with an enormous degree of freedom by using the FEM code. Seiji KITAMURA Tai ASAYAMA Masaki MORISHITA Advanced Technology Division, O-arai Engineering Center 高速炉炉心の大型モックアップを用いて各種の振動試験を行い,実験解析を通じて大規模群振動解析手法の確 立を図ることを目的として,サイクル機構とフランス原子力庁(CEA)の共同研究(SYMPHONY)を実施し た。本報告では,まず大型炉心の群振動試験の概要について述べる。次に,支持部の隙間,隣接列間の衝突及び 流体の影響を考慮した解析手法について述べる。解析値と実験結果を比較検討し,複雑な非線形挙動を呈する応 答変位を精度良く評価できることを確認した。大型炉心の群振動挙動について,全炉心をモデル化した多大な自 由度を有する体系についての詳細なシミュレーション解析が可能であることを示した。 キーワード 炉心群振動,列モデル試験,六角形配列試験,2方向同時加振,数値解析,衝突,流体構造連成,付加質量,付 加減衰 Core Seismic StudyRow Bundle ExperimentHexagonal Bundle ExperimentTwo-Dimensional ExcitationNumerical SimulationShockFluid-Structure InteractionFluid Added MassFluid Added Damping

資料番号:14-12 高速炉炉心の群振動解析手法の開発 ...138 1.はじめに 高速炉の炉心は,燃料集合体,ブランケット燃 料集合体,制御棒,中性子遮蔽体等振動特性の異

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サイクル機構技報 No.14 2002.3

研究報告

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資料番号:14-12

Seismic Study of LMFR Core-JNC/CEA Joint SYMPHONY Program-

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北村 誠司  浅山 泰  森下 正樹

大洗工学センター 要素技術開発部

浅山  泰

構造信頼性研究グループ所属研究主幹高速増殖炉の構造材料開発・システム化規格開発に従事工学博士

森下 正樹

構造信頼性研究グループリーダ高速増殖炉の構造材料開発・耐震免震技術開発に従事工学博士

北村 誠司

構造信頼性研究グループ所属副主任研究員高速増殖炉の耐震設計・免震技術開発に従事

-JNC/CEA炉心耐震共同研究SYMPHONYの成果-高速炉炉心の群振動解析手法の開発

 In order to validate the LMFR seismic core design methods, an experimental program named SYMPHONY was conducted in collaboration between JNC and CEA. This paper first describes an outline of the experimental program. A series of seismic response analysis was performed. In the analysis, the effect of the gap between an entrance nozzle and a supporting structure, the shocks between neighboring subassemblies and the fluid-structure interaction were considered. The calculated displacements and shock forces correlated well with the measured data. It was shown that detailed simulation analysis was possible on the seismic behavior of a large core with an enormous degree of freedom by using the FEM code.

Seiji KITAMURA  Tai ASAYAMA  Masaki MORISHITA

Advanced Technology Division, O-arai Engineering Center

 高速炉炉心の大型モックアップを用いて各種の振動試験を行い,実験解析を通じて大規模群振動解析手法の確

立を図ることを目的として,サイクル機構とフランス原子力庁(CEA)の共同研究(SYMPHONY)を実施し

た。本報告では,まず大型炉心の群振動試験の概要について述べる。次に,支持部の隙間,隣接列間の衝突及び

流体の影響を考慮した解析手法について述べる。解析値と実験結果を比較検討し,複雑な非線形挙動を呈する応

答変位を精度良く評価できることを確認した。大型炉心の群振動挙動について,全炉心をモデル化した多大な自

由度を有する体系についての詳細なシミュレーション解析が可能であることを示した。

キーワード

炉心群振動,列モデル試験,六角形配列試験,2方向同時加振,数値解析,衝突,流体構造連成,付加質量,付

加減衰

Core Seismic Study,Row Bundle Experiment,Hexagonal Bundle Experiment,Two-Dimensional Excitation,Numerical Simulation,Shock,Fluid-Structure Interaction,Fluid Added Mass,Fluid Added Damping

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1.はじめに

 高速炉の炉心は,燃料集合体,ブランケット燃料集合体,制御棒,中性子遮蔽体等振動特性の異なる数種類の炉心構成要素で構成されており,合計すると数百体以上に及ぶ。これらは,下端を炉心支持板に支持されて自立する六角形断面の棒群であり,頂部と中間部のパッドで微小な間隙を介してナトリウム中に密に装荷されている。このため,地震時には炉心構成要素はパッド部での隣接集合体間の衝突と流体力による相互作用を伴う群としての複雑な非線形振動挙動(群振動)を呈する。集合体の構造健全性,制御棒の挿入性,炉心反応度外乱の評価の観点から,地震時の高速炉炉心の安全性をより合理的に評価するためには,群振動挙動を精度良く解析する技術が必要となる。 群振動解析における技術課題は,衝突と流体の影響を適切に評価するための手法の開発と,大きな自由度を有する体系の非線形問題を扱えるコード開発に帰着する。日仏をはじめとする高速炉開発を推進する各国では,振動試験による検証を行いながら精力的にコード開発を進めてきた。日本では,もんじゅの開発に際して実寸大の模擬炉心構成要素を用いた一連の群振動試験が実施された(1列29体,六角形配列37体)。並行して専用コードが開発され,もんじゅの設計に使用された。 その後,サイクル機構では,汎用構造解析コードFINAS1)による群振動解析手法の整備を進めてきた2)。欧州では,RAPSODIE炉心のモックアップによる一連の群振動試験が行われ3),専用コードCORALIEが開発され4),スーパーフェニックスの設計解析に用いられた。その後CEAでは,汎用構造解析コードCASTEM5)による群振動解析手法の整備を進めてきた。 また,群振動解析の重要性についての各国の共通認識を背景に,IAEA/IWGFRの主催による「高速炉耐震解析コードの相互比較に関する共同研究(1991~1995年)」が企画され6),日本,フランス,イタリア,インド,ロシアの5ヵ国が参加した。この共同研究では,参加国が所有する実験データを提供し合い,ベンチマーク解析を実施し,解析結果の相互比較を通じて各国のコードの検証や改良が行われた。この共同研究を通して,サイクル機構が整備してきた解析手法が妥当であることを確認した。同時に,実際の炉心挙動をより現実的に予測する観点から,振動特性に大きな影響を及

ぼす部位の構造を忠実に模擬した実大規模モデルの試験データの必要性,2次元的な広がりを持つ体系への2次元入力問題の研究の必要性等を再認識するに至った。これまでの解析手法では,炉心の代表的一列(最長列)を取り出し,これが列方向に加振された場合の解析で全体挙動を代表させているが,近年の計算機の進歩を考えると,将来的には全炉心の解析によってより現実に近い現象の把握が必要とされる。 以上の観点から,高速炉における実際の炉心の地震時挙動を模擬できるような大型モックアップを用いて各種の振動試験を行い,試験解析を通じて大規模群振動解析の手法の確立を図ることを目的として,サイクル機構とフランス原子力庁(CEA)の共同研究(SYMPHONY実験)を実施した7)。共同研究では,サイクル機構の参画のもとにCEAが試験を実施し,解析については,双方が開発整備を進めてきたコードによる相互比較を行った。 本報告では,共同研究の成果から,まず,大型炉心の群振動試験の概要について述べる。次に,群振動解析手法と試験に対応するシミュレーション解析の手法と結果について示す。さらに,試験と解析の結果を用いて,従来の群振動解析手法の妥当性の検討結果について述べる。

2.SYMPHONY実験の概要

 SYMPHONY実験は,CEAのサクレイ研究所耐震研究室の大型2次元振動台AZALEE(最大搭載重量100t)を用いて実施した。試験は,後述するように,隣接する集合体間の衝突の影響を詳細に調べることができるように,最も単純な体系である1列モデルから着手し,隣接する2列を含む3列モデルを経て,実機体系である六角形配列モデルへと段階的に進められた。試験期間は,準備段階である集合体単体の試験開始(1994年)から最終段階である六角形配列モデルの試験終了(1998年)まで5年間に及んだ。

2.1 集合体モデル

 炉心は,燃料集合体モデル(以下,F/A)と中性子遮蔽体モデル(以下,N/S)を組み合わせて構成した。これらは,Phenixの炉心構成要素を実寸大で模擬したものである。 F/Aは,円筒状のエントランスノズル部と六角形断面状の本体部で構成されている。本体部の中

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には鉄製の円柱を入れ,燃料ピン等の内部構造物の重量を模擬した。下端部から3.4�の位置に中間パッドを設けている。F/Aの全長は4.3�,重量は205�である。エントランスノズル部の隙間間隔,支持部の構造(球面-円錐面接触)についてもPhenixを忠実に模擬している。予備試験により測定したF/Aモデルの空気中固有振動数は3.1Hzであり,この値はPhenixの燃料集合体の振動数とほぼ同じ値となっていることが確認されている。 N/Sは,鉄製円筒状の本体部の両端に,剛体ヘッドとエントランスノズルを取り付けた構造となっている。このN/Sモデルの場合,中間パッドは設けていないので,衝突は頂部の剛体ヘッドにおいてのみ生じる。N/Sの全長は3.37�,重量は156�である。両端固定の空気中の固有振動数がPhenixの中性子遮蔽体と同じ振動数となるように円筒部の剛性を与え,振動特性を模擬した。各モデルの概略図を図1に示す。

2.2 炉心体系

 隣接する集合体間の衝突の影響を単純な体系から実際の体系へと段階的に把握し,解析モデルの妥当性を確認していくために,3種類の炉心体系について試験を行った。炉心体系は,Phenixの燃料集合体の最長列と同じ要素数の1列モデル,これに隣接する2列を含む3列モデル,実際の高速炉炉心体系である六角形配列モデルの3体系である。表1に各体系の試験目的をまとめた。各体系

とも集合体中心の間隔は,Phenix炉心を模擬し127.2�としている。 1列モデルはF/Aを24体,その両側にN/Sを11体配した,合計46体の集合体で構成される。3列モデルの場合,これに隣接する2列を加え,合計136体の集合体で構成される。水中試験を行うため,炉心は振動特性に影響がないように十分剛となるように設計された矩形容器の中に設置した。3列モデルの概略図を図2(a)に示す。炉心,支持板,矩形容器の総重量は55tである。1列モデル及び3列モデルは,列方向に加振し,基本的な振動特性の把握,衝突及び流体の影響を調べた。 六角形配列モデルは,F/Aを中心から5層まで計91体,N/Sをその外側に4層で180体配し,合計271体の集合体モデルで構成した。炉心は内径2.7

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解析モデルの構築試験目的N/S数

F/A数

炉心体系

有限要素分割,構造減衰固有振動数調整(等価ばね剛性)

振動特性支持部隙間の影響

11単体

衝突解析モデル(剛性,減衰)

衝突の影響22241列

斜め方向の衝突の考慮斜め方向衝突の影響66703列

(単列モデルによる解析)水平2方向同時加振

18091六角形配 列 固有振動数,応答の低減

効果流体の影響

表1 各炉心体系の試験目的

図1 SYMPHONY実験の炉心構成要素の概略図

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�の円筒容器の中に設置した。六角形配列モデルの概略図を図2(b)に示す。炉心,支持板,矩形容器の総重量は80tである。この体系では水平2方向同時加振を行い,実機に近い炉心形状の振動特性の把握,面内衝突,流体及び2方向同時加振の影響を調べる試験を行った。 列モデル,六角形配列モデルとも,日仏の異なる炉心拘束体系に合わせ,N/Sの外側に拘束枠を設ける体系(日本側),設けない体系(フランス側)の双方で試験を行った。なお本報では,拘束枠を有する体系についてのみ報告する。 2.3 加振波

 振動試験の加振波には,白色ノイズ波と人工地震波を用いた。 白色ノイズ試験は,試験体系の基本振動特性(固有振動数,減衰定数)を計測するために行った。加振レベルは,支持部の隙間による非線形特性を考慮し,3段階の大きさで行った。 人工地震波は,高速炉プラントの炉心支持板位置における加速度の時刻歴を用いた。これは,もんじゅ設計用地震動S1に対するプラントの地震応答解析により算出したものであり,下記の3タイプのプラントを想定して作成した。 AJ:非免震プラント(埋め込みプラント,卓越

 振動数:約12Hz) BJ:免震プラント(下部振れ止めがある場合,

 卓越振動数:約12Hz,0.7Hz) CJ:免震プラント(下部振れ止めがない場合,

 卓越振動数:約4Hz,0.7Hz) 列モデルの場合は列方向に,六角形配列モデル

の場合,X方向,Y方向,及びX方向とY方向の同時加振をそれぞれ2段階の加振レベルで実施した。この時,X方向とY方向は同じスペクトルを用いて作成したが,位相については独立に与えた。

2.4 試験ケースと計測

 試験は,炉心体系,入力波形とレベル,入力方向,空気中/水中などの条件を組み合わせ,合計250ケース程度について実施した。 各試験では,集合体頂部の応答変位を中心に,加速度,衝突力を計測した。頂部の応答変位は,集合体モデルの先端に取り付けた計測用治具棒と容器の間の相対変位を巻き線型のLVDT(変位計)を用いて測定した。最も外側に配置されたN/Sの頂部と拘束枠の衝突力は,ロードセルを用いて測定した。F/A集合体の中間パッド部の衝突力については,別途試験により求めた衝突力とパッド部近傍のひずみの関係式を用いて,ひずみゲージによる計測値を衝突力に換算した。

2.5 固有振動特性

 白色ノイズ試験により得られたデータを基に,F/A,N/Sの最大応答変位(フーリエ振幅の最大値)と固有振動数の関係を図3に,最大応答変位と減衰定数の関係を図4にそれぞれ示す。固有振動数,減衰定数は,各試験における伝達関数曲線(周波数領域における振動台の加速度に対する集合体の応答変位の比)にフィットする1自由度系の応答曲線から求めた。 白色ノイズ試験により得られた固有振動数に関する知見をまとめる。

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図2 SYMPHONY実験の炉心体系の概略図

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① F/A単体の空気中固有振動数は,3.1Hzであり設計値と一致した。N/S単体は4.3Hzであった。

② 固有振動数は,応答変位の増加に伴い緩やかに増加する。応答変位が小さい場合,固有振動数の低下が明確になる。これは,支持部の隙間による非線形挙動の影響である。

③ 空気中の固有振動数は,炉心体系が複雑になるのに従い高くなる。これは,衝突の影響と考えられる。

④ 水中の固有振動数は,流体の影響により空気中よりも低下する。

⑤ N/Sの固有振動数は,試験条件が異なると大きく変動しやすい。

⑥ 六角形配列モデルの場合,N/Sの固有振動数

は,F/Aの固有振動数に近づく。特に,水中においては,ほぼ同じ値になる。六角形配列の場合,すべての集合体が一体になって振動すると考えることにより説明できる。炉心体系全体の振動挙動は,F/Aに強く支配されており,N/Sの振動挙動に影響を与えていると考えられる。

 減衰定数に関し,以下の知見が得られた。① 応答変位が増加すると減衰定数は緩やかに減少し,一定値に漸近する。減衰定数の最小値はF/A,N/Sとも4%である。この値をそれぞれの要素の構造減衰と考える。

② 応答変位が10�程度以下になると,減衰定数は急激に大きくなる。

③ 減衰定数は,空気中よりも水中の方が大きい。

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図3 固有振動数と最大応答変位の関係(白色ノイズ試験)

図4 減衰定数と最大応答変位の関係(白色ノイズ試験)

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④ 同じ応答変位であれば,炉心体系が複雑になるのに従い,減衰定数は大きくなる。

⑤ F/Aに比べN/Sの減衰定数はばらつく傾向がある。

3.シミュレーション解析

 サイクル機構が開発した有限要素法による汎用構造解析コードFINASを用いて,SYMPHONY実験に対応するシミュレーション(直接積分法による時刻歴応答解析)を実施した。解析に用いる入力地震波は,振動台上で計測した加速度の時刻歴を用いた。これを各炉心要素の支持部,及び炉心拘束枠に入力した。解析手法の概要について以下に示す。

3.1 集合体の解析モデル

 集合体の解析モデルは,弾性はり要素を用いたはりモデルを用いた。各炉心体系とも,すべての炉心構成要素を解析対象としてモデル化した(図5)。 大きな自由度を有する体系となるので,計算効率の観点から,集合体の有限要素分割数を最小限に抑える方が有利となる。あらかじめ固有値解析を行い,適当な計算精度が得られる最小限の分割数を設定した。軸方向の並進及び軸周りの回転の自由度はすべて拘束した。また,F/Aの境界条件については,エントランスノズル上部は球面-円錐接触構造となるので,並進方向の自由度は拘束し,回転方向は非拘束とした。F/Aのエントランスノズル下部及びN/Sのエントランスノズル上部・下部については,隙間を介して支持する構造となるので,水

平方向の並進と回転方向の自由度を非拘束とした。 集合体の固有振動数が応答変位の大きさに依存する支持部の隙間(炉心支持板とエントランスノズル部間)における衝突の影響を考慮するためには,当該部を動的接触要素でモデル化するのが適当であるが,この場合膨大な計算時間を要することになる。そこで,線形ばね要素を用いて簡略化を図った。ばねの剛性は,集合体単体の空気中での白色ノイズ試験で得られた固有振動数となるように設定した。 集合体の構造減衰は,単体試験で計測した最小値4%を与えた。

3.2 衝突モデル

 隣接する集合体間の衝突は,頂部と中間パッド部(F/Aにのみ設置)で生じる。衝突については,動的接触要素と線形ばね要素を組み合わせた衝突解析モデルによって再現する。隣接する列間での衝突を考慮するため,衝突が生じる部位に,加振方向,及び直交方向それぞれ独立に2組の衝突解析モデルを配した。F/Aの中間パッド部における衝突剛性は,別途試験で計測した値を与えた。頂部の衝突剛性は,想定値(中間パッド部衝突剛性の2倍の値)を与えた。衝突が生じる位置の隙間の大きさは設計値を与えた。なお本解析では,衝突による減衰効果は考慮していない。

3.3 流体の影響

 流体中で振動するはりの運動に及ぼす流体の影響としては,Fritzの研究8)がよく知られている。

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図5 解析モデル

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Fritzは,隙間が流体で満たされた二重円筒のモデルの振動挙動について,流れをポテンシャル流れと仮定して解析解を導いている。外側の円筒が静止している場合,減衰項を無視すると内側の円筒の運動方程式は,次式となる。

 ここで,� ,� ,� は,内筒の変位,質量,剛性である。� ,� は内筒の外半径,外筒の内半径を示す。 �は内筒の排除質量(断面積に相当する流体の質量),� は付加質量係数を示している。 式(1)は,流体の影響が2種類あることを示している。一つは,左辺に付加質量が加わることにより固有振動数が低減すること,もう一つは右辺に排除質量が加わることにより見かけの入力が低減することである。このうち,後者による影響は,応答変位が低減する形で観測される。 実際にSYMPHONY実験においても,固有振動数低減と応答低減の現象が確認された。炉心体系は二重円筒モデルと異なるが,定性的に同様の流体の影響が炉心体系にも及ぶであろうことが工学的に類推される。そこで,水中における集合体1体(単純化のため,1自由度系として記述する)の運動方程式は次式で表せると仮定する。

ここで,� ,� ,�,�� は,変位,集合体の質量,減衰,集合体支持部の剛性である。支持部の剛性は,空気中でも水中でも変わらないとするが,変位依存性は考慮する。また,� は流体付加質量(固有振動数の低減効果を検討するために導入),ηは入力低減係数(応答低減効果を検討するために導入)である。(1)固有振動数の低減効果 試験結果から,固有振動数は,応答変位レベルにより変わること,及び試験体系に大きく依存することが観測された。そこで,解析においては,各体系ごとに空気中,水中の白色ノイズ試験で得られた固有振動数を用いて付加質量を算定することとした。空気中,水中白色ノイズ試験で得られた固有振動数と,応答変位との関係図を描き,同じ変位における両者の固有振動数の比を読み取ることで,剛性の応答変位依存性の影響を排除できる(図6)。この時

となり,この式から集合体1体当たりの付加質量を算出できる。各節点に付加する付加質量の値は,排除質量の考え方に基づき,断面積に比例する大きさとなるように分布配分した。(2)見かけの加振力の低減 応答低減効果を加振力の低減に起因すると説明する手法は,これまでの群振動解析においてよく用いられてきた。応答解析をする際,入力低減係数を定めておく必要がある。そこで,入力低減係数に関するパラメタサーベイを実施した(この時,上述の付加質量については考慮している)。 その結果,列モデルの場合,η=1を与えたケースが試験結果に近いことが分かった。すなわち加振力の低減を考えなくても,応答変位に関して,解析値と試験結果とがよく合うことを確認した(図7)。一方,応答低減効果が顕著となる六角形配列モデル

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図7 入力低減係数をパラメタとして最大応答変位の比較の例(3列モデル水中試験)

…(1)

…(2)

…(3)

…(4)

図6 固有振動数低減効果の例(3列モデル体系,FAの場合)

…(5)

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の場合,どのような入力低減係数の値を用いても試験結果を矛盾なく説明し得ることができなかった。このことは,見かけの加振力低減の仮定により,応答低減効果を説明することはできないことを示している。そこで本解析では,見かけの加振力の低減は考慮せずに,入力加速度には観測された振動台加速度データをそのまま用いることとした。(3)流体による減衰効果 上述のとおり,列モデル試験の場合,応答低減効果が小さいことから,流体による減衰効果は考慮しないこととした。 六角形配列水中試験の結果から,応答振幅は顕著に低減される効果が確認されている。空気中において集合体の構造減衰に加えて流体による減衰が加わり,その結果として減衰値が大きくなったため,応答振幅が低減されたと考えることができる。図8に地震波加振試験における入力加速度と応答変位から算出した伝達関数を示す。この図に種々の減衰定数による線形1自由度系の周波数応答曲線を重ねたところ,減衰定数を40%程度与えることにより試験結果と理論値が近接することが分かった。図9は,白色ノイズ試験で得られた減衰定数と応答変位の関係を示す。図中に,線形1自由度系の正弦波共振時の減衰定数と最大応答値の理論式(次式)を重ね書きする。

 ここで, �は最大応答値,� は減衰定数を示

す。� は静的変位(比例定数と考えることができる)で,式(6)に六角形配列水中試験における最大応答と減衰定数を代入して決めた値を用いた。図中において網掛けをした領域は,各試験体系の地震波加振試験時における最大応答変位の範囲を示している。六角形配列水中試験の場合,最大応答変位は高々8�程度であり,この場合の減衰は25~40%と読み取れる。上記の二つの理由から,40%程度の減衰が付加されているものと推定した。 この仮定の真偽を確かめるために,減衰定数に関するパラメタサーベイを実施した結果,単体の白色ノイズ試験から得た構造減衰定数4%に対して,水中での減衰定数を推定どおりの40%とすることにより,試験結果と解析結果がよく合うこと

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研究報告

図9 正弦波応答曲線(減衰定数と変位の関係)

……(6)

図8 六角形配列水中試験の伝達関数と1自由度系の応答曲線の比較

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を確認した(図10)。上記の考察により,応答低減は流体による減衰に起因することを検証した。

3.4 シミュレーション結果

 各種の試験に対応するシミュレーション解析を行い,試験と解析の結果を比較した。応答変位に関しては,時刻歴[図10(a),図12(a)],最大値の分布[図7,図10(b)],及び応答スペクトルの卓越周波数成分[図13(b)]の観点から比較した。図11(a)は,最外周のN/S頂部と炉心拘束枠における衝突力を比較したものである。解析の方が若干大きめの値となっているが,これは頂部の衝突剛性に推定値を用いたためと思われる。大きな衝突が生じる時間は,正確に評価されている。図11(b)は,F/Aの中間パッド間の最大衝突力の分布を示している。図中には,同じ列内での衝突力と隣接列間における斜め方向の衝突力を併記して

いる。斜め方向の衝突力は,相対的に小さいことが確認できる。 種々の条件下において,応答変位と衝突力に関し,解析結果と試験結果とは十分よく合うことを確認した9),10)。これにより,隣接列間の衝突については,動的接触要素と線形ばね要素を組み合わせた衝突解析モデルを用い,衝突が生じる頂部と中間パッド部に,加振方向,直交方向それぞれ独立に2組の衝突解析モデルを配することにより,炉心の衝突挙動を評価できることが示された。 また,流体の影響については,付加質量と付加減衰を用いることにより評価できることを示した。表2に試験により得られた各炉心体系の付加質量比と減衰定数を示す。 なお,スペクトルの異なる3種類の地震波を用いたが,それぞれ同様の結果が得られており,群振動解析は入力波(卓越周波数の異なるスペクト

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図11 衝突力の比較の例(3列モデル水中試験)

図10 六角形配列モデル水中試験の応答解析の例(減衰比40%)

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ル)による影響を受けにくいことを確認した。 以上,大型炉心の群振動挙動について,FINASを用いることにより,すべての炉心構成要素をモデル化した詳細なシミュレーション解析が可能であることを示した。

3.5 日仏の解析手法の相互比較

 CEA側の解析コードCASTEM10)を用いた解析結果と,FINASの解析結果との相互比較を行った。両者の解析手法の違いは,FINASは直接積分法によるのに対し,CASTEMはモーダル法による点にある。解析ケースとしては最も単純な1列モデル試験を選び,解析結果を比較した。図12に比較の例を示す。両者による解析結果には定性的な相違はなく,衝突のモデル化手法,流体による振動数低減の評価手法(付加質量)に関しては,同じ考え方に基づいていることを確認した。 この結果,群振動解析に関する技術的課題は,

流体による応答低減をどのようにモデル化するかの一点に絞り込まれた。今回の共同研究を通して,サイクル機構側から,前述したように大きな付加減衰を与えることにより現象を説明できることを示した。減衰の大きさについては,本報告では試験により求めた値を用いており,理論的に定量化するまでには至っていない。CEA側も,大きな付加減衰の考え方に賛同し,理論的な解明に着手した段階である。

4.従来の設計解析の妥当性検証

 これまでの群振動に関する設計解析では,炉心の代表的一列(最長列)を取り出し,これが列方向に加振される場合の解析で炉心全体挙動を評価する手法が採られてきた。実際の現象は,炉心は2次元的な広がりを有する体系であり,これに2次元の地震入力が負荷されることになる。今回の試験データに基づき,従来の設計解析手法の妥当性を検証した。(1)2方向同時加振の影響 最大応答変位分布及び中央の炉心頂部の応答加速度から作成した応答スペクトルを比較したところ,試験結果,解析結果ともに,1方向加振と2方向同時加振の結果がよく合うことが分かった(図13)。したがって,実際の炉心体系において,ある方向に加振を受け振動する要素が,同時に直交方向の加振を受けても,加振方向の振動挙動に及ぼす直交方向の振動の影響は考慮しなくてよいことが分かった。このことは,衝突解析モデルを構築する際,2方向を全く独立に解析することにより良好な結果を得ることができることを裏付けている。

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研究報告

減衰定数%

荷重低減係数η

付加質量比中性子遮蔽体ma/m  %

付加質量比燃料集合体ma/m  %

炉心体系

4.0(構造減衰)

1.012.822.7単体

4.0(構造減衰)

1.010.810.81列

4.0(構造減衰)

1.04.217.63列

40.0(付加減衰)

1.033.933.1六角形配 列

表2 付加質量比と減衰定数の測定値(解析に用いた値)

図12 FINASとCASTEMの解析結果の比較例(1列モデル空気中試験)

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(2)1列モデルによる解析の妥当性 1列モデルによる解析の妥当性を調べるため,六角形配列体系のうち中央1列のみをモデル化して応答解析を行った。この時,流体の影響については,六角形配列水中試験から得られた付加質量,付加減衰を与えた。結果をフルモデルによる解析と比較したところ,両者はほぼ一致することが分かった(図14)。これは,流体中における六角形配列体系が前節で示したとおり大きな減衰を有する系であるため,隣接列間(斜め方向)の衝突の影響が表れないことによる。以上のことから,従来用いられてきた1列モデルによる解析の妥当性を確認できた。

5.おわりに

 サイクル機構とCEAは,炉心群振動に関する共

同研究(SYMPHONY実験)を実施した。その結果,以下の成果を得た。 大型炉心体系の振動試験を行い,群振動挙動を解明し,その評価手法を整備していく上で必要な試験データを取得することができた。 大型炉心の群振動挙動について,詳細なシミュレーション解析が可能であることを示した。 さらに,従来の設計解析が妥当であることを確認した。

謝 辞

 本研究を実施するに当たり,共同研究先であるCEAサクレイ研究所耐震研究室のPierre Sollo-goub室長,Bruno Fontaine氏をはじめ多くの方々から貴重なご意見,ご指導をいただいた。ここに謝意を表する。

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研究報告

図14 単列モデルの妥当性の検証

図13 2方向同時加振の影響

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研究報告

参考文献1)“汎用非線形構造解析システムFINAS version13.0

使用説明書”(1995).2)M.Morishita:“Seismic behavior of a free-standing

core in a large LMFBR”,Nuc.Eng.Des.,No.140, p.309‐318 (1993).

3)D.Brochard,P.Buiand,et al.: “FBR core mock‐up RAPSODIE:Experimental analysis“,Int.Conf.on fast reactor core and fuel structural behavior,INVER-NESS(UK)(1990).

4)M.Forni,A.Martelli,et al.:“Detailed comparison between computed and measured FBR core seismic responses”,Proc.6th ASME PVP Conf.,Pittsburg (USA),PVP‐Vol.145 (1988).

5)B.Fontaine:“Inter‐comparison of LMFBR seismic analysis codes‐CEA contribution”,Proc.SMiRT‐14,Vol.C,p.177(1997).

6)IAEA‐TECDOC‐798,829,882:“Inter‐comparison of liquid metal fast reactor seismic analysis codes”, Vol.1‐3 (1995).

7)B.Fontaine,T.Molin,et al.: “Seismic analysis of LMFBR cores-SYMPHONY mock-up”,Proc.SMiRT‐14,Vol.C,p.219 (1997).

8)R.J.Fritz : “The effect of liquids on the dynamic mo-tions of immersed solids”,Trans.ASME,J.of Eng.for Industry, p.167(1972).

9)T.Asayama,S.Kitamura,et al.:“JNC/CEA collabo-rative work on core seismic study -SYMPHONY- Simulation of one‐row mock‐up tests”, Proc.SMiRT‐15,Vol.C(1999).

10)S.Kitamura,T.Asayama,et al.: “JNC/CEA collabo-rative work on core seismic study -SYMPHONY- Simulation of three‐row mock‐up tests”, Proc. SMiRT‐15,Vol.C(1999).