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航空機LiDARを用いた都市空間における樹木の三次元情報の計量化 その6 樹木の熱環境緩和効果の評価 ○押尾晴樹・浅輪貴史(東工大)・梅干野晁(放送大)・宮坂聡(中日本航空) 樹木の熱環境緩和効果 1. 研究背景 樹木の効果には放射収支が影響 蒸散 日射遮蔽 APAR(光合成 有効放射(PAR) 吸収量) 透過日射 2. 研究目的 実在街区における樹木の熱環境緩和効果の 評価を通し、本研究の樹木の三次元情報の、 都市熱環境評価における有効性を示す。 3. 使用したデータと方法 (1) 航空機LiDARデータ 日陰の樹木 日本リモートセンシング学会第58回学術講演会、2015.6.2-3 (千葉大学) 剪定、樹種、生育状況、周囲の空間形態 により個々の樹木で放射収支が異なる 観測日: 2010.9.6 システム: SAKURA (中日本航空) スキャナ: LMS-Q560 (RIEGL) 観測高度: 350 m 点密度: 20 pts/m 2 測距精度: 20 mm ビームの発散: 0.5 mrad 距離分解能: 0.5 m リターン数/1パルス: 無制限(使用データでは5樹種 剪定 2010.8 2013.3 これらを考慮した樹木の効果 のマッピング方法はなかった 葉面積密度(LAD) 分布の推定 Oshio et al.(2015) 放射伝達モデル (3) 植生放射伝達モデル Kobayashi and Iwabuchi (2008)のモデル voxel version (FLiESvox)を使用 APAR dir : APAR(直達成分), θ s : 太陽天頂角, φ s : 太陽方位角, I 0 : 入射PAR, u: LAD, G(θ s ): 単位面積の葉の日射に垂直な平面への 投影面積, f dif : 散乱比率, μ: 葉のPAR吸収率 LAD Parameter Source Value 葉のPAR反射率・ 吸収率 分光反射率と晴天日のPAR 領域のスペクトル(Birdモデル) 0.07, 0.10 葉の傾斜角分布 地上型LiDARデータによる 角度分布を楕円関数で近似 ε = 0.984 θm = 44.4° 入射PAR、散乱被率、 太陽高度・方位 夏季晴天日を想定して、Bird(1984)のモデルにより 各時刻の値を入力 0 日射透過率の精度 検証 押尾ら(2015) 熱環境緩和効果の 算定方法の概要 航空機 LiDAR LAD 分布 ・直達日射透過率 APAR 4. 樹木の熱環境緩和効果の評価 直達日射透過率・蒸散速度の分布図(夏季晴天日14:00(4) 蒸散速度の算定 (2) LAD分布 放射伝達モデル APAR +蒸散モデル 蒸散速度 日射透過率 久屋大通 対象範囲 400m×400m Flight track N オアシス21 筆者らの手法(Oshio et al.(2015))により推定 0.75 1.5 LAD [m 2 /m 3 ] 0.5m voxel 0 0.5 1.0 直達日射 透過率[-] 0 0.2 0.4 蒸散速度 [kg/m 2 ・h] Leuning(1995)の気孔コンダクタン スモデルとCollatz(1991)の光合成 モデルにより、蒸散速度を算定 APAR 気温、湿度、風速(夏季 晴天日の条件を拡張ア メダスデータにより設定) 引用文献 Bird, R. E.: A simple, solar spectral model for direct-normal and diffuse horizontal irradiance, Solar Energy, 32(4), pp.461-471, 1984. Collatz, G. T., Ball, J. T., Grivet, C., and Berry, J. A.: Physiological and environmental regulation of stomatal cond uctance, photosynthesis and transpiration: a model that includes a laminar boundary layer, Agric. Forest Meteorol., 54, pp.107-136, 1991. Kobayashi, H., and Iwabuchi, H.: A coupled 1-D atmosphere and 3-D canopy radiative transfer model for canopy reflectance, light environment, and photosynthesis simulation in a heterogeneous landscape, Remote Sens. Environ., 112, pp.173-185, 2008. Leuning, R.: A critical appraisal of a combined stomatal-photosynthesis model for C3 plants, Plant, Cell & Environment, 18(4), pp.339-355, 1995. 押尾晴樹、浅輪貴史、梅干野、宮坂聡:マルチリターン航空機LiDARデータと植生放射伝達モデルによる都市緑化樹木の日射遮蔽効果の計量化、日本リモートセンシング学会誌、35(1), pp.10-23, 2015. Oshio, H., Asawa, T., Hoyano, A., and Miyasaka, S.: Estimation of the leaf area density distribution of individual trees using high-resolution and multi-return airborne LiDAR data, Remote Sens. Environ., 2015. (http://dx.doi.org/10.1016/j.rse.2015.05.001) g s : 気孔コンダクタンス A n : 純光合成速度 C a : 細胞間隙Co 2 濃度などで決まる値 m,h,g smin : 実験的パラメータ (1) 日射遮蔽効果 (2) 蒸散効果 植栽間隔が異なる街路の日射透過率 樹木配置の差異や葉面積密度の違い、周辺建物の影響による日射遮蔽効果と蒸散効果の差異を定量的に評価することができた。 樹木の生育状況による日射環境の違い 良好に 生育 生育が 不良 LADの鉛直断面 12:00 16:00 0 10 20 30 40 0 12 0 10 20 30 40 0 12 0 0.25 0.5 直達日射透過率[-] 12:00 16:00 8:00 建物の日陰が蒸散速度に及ぼす影響 従来の評価指標との比較 10:00 14:00 8:00 歩道 公園 通路 50m 30m 0.6 街路全体の透過率[-] 0.4 0.2 0 12:00 16:00 歩道 公園 通路 [m] [m] 8:00 160 80 0 12:00 16:00 APAR [W/m 2 ] 蒸散速度 [kg/m 2 h] 1.2 0.8 0.4 0 8:00 12:00 16:00 天空成分(建物あり、なし) 直達成分(建物あり、なし) 建物あり、なし 0 0.2 0.蒸散速度[kg/m 2 h] 12:00 14:00 地表面被覆 対策率 [%] 区画2(70) 区画3(50) 区画1(58) ()内:緑被率[%] ①従来の 評価 ②樹木の 形態を考慮 ③空間形態 を考慮 300 一面芝生のとき の蒸散量/day 200 100 0 実際の蒸散量 /day プラタナス 芝生の3(CASBEE) イチョウ ・区画 3 は①→②の減少 率が高い。 ・実際の樹木に対しては、 従来評価では過大評価 の可能性がある。 ・建物の影響で区画1と2 の差は実際には数%。 これまで の研究 本研究

航空機LiDARを用いた都市空間 ... - 浅輪研究室 · 航空機lidarを用いた都市空間における樹木の三次元情報の計量化 その6 樹木の熱環境緩和効果の評価

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Page 1: 航空機LiDARを用いた都市空間 ... - 浅輪研究室 · 航空機lidarを用いた都市空間における樹木の三次元情報の計量化 その6 樹木の熱環境緩和効果の評価

航空機LiDARを用いた都市空間における樹木の三次元情報の計量化その6 樹木の熱環境緩和効果の評価

○押尾晴樹・浅輪貴史(東工大)・梅干野晁(放送大)・宮坂聡(中日本航空)

樹木の熱環境緩和効果

1. 研究背景

樹木の効果には放射収支が影響

蒸散

日射遮蔽APAR(光合成有効放射(PAR)吸収量)

透過日射

2. 研究目的

実在街区における樹木の熱環境緩和効果の評価を通し、本研究の樹木の三次元情報の、都市熱環境評価における有効性を示す。

3. 使用したデータと方法(1) 航空機LiDARデータ

日陰の樹木

日本リモートセンシング学会第58回学術講演会、2015.6.2-3 (千葉大学)

剪定、樹種、生育状況、周囲の空間形態により個々の樹木で放射収支が異なる

観測日: 2010.9.6 システム: SAKURA (中日本航空)スキャナ: LMS-Q560 (RIEGL) 観測高度: 350 m点密度: 20 pts/m2 測距精度: 20 mm ビームの発散: 0.5 mrad 距離分解能: 0.5 mリターン数/1パルス:無制限(使用データでは5)

樹種剪定

2010.8

2013.3

これらを考慮した樹木の効果のマッピング方法はなかった

葉面積密度(LAD)分布の推定Oshio et al.(2015)

放射伝達モデル

(3) 植生放射伝達モデルKobayashi and Iwabuchi (2008)のモデルのvoxel version (FLiESvox)を使用

APARdir: APAR(直達成分), θs: 太陽天頂角, φs: 太陽方位角, I0: 入射PAR, u: LAD, G(θs): 単位面積の葉の日射に垂直な平面への投影面積, fdif: 散乱比率, μ: 葉のPAR吸収率低 高

LAD

Parameter Source Value葉のPAR反射率・吸収率

分光反射率と晴天日のPAR領域のスペクトル(Birdモデル)

0.07, 0.10

葉の傾斜角分布地上型LiDARデータによる角度分布を楕円関数で近似

ε = 0.984θm = 44.4°

入射PAR、散乱被率、太陽高度・方位

夏季晴天日を想定して、Bird(1984)のモデルにより各時刻の値を入力

0

日射透過率の精度検証押尾ら(2015)

熱環境緩和効果の算定方法の概要

航空機LiDAR

LAD分布

・直達日射透過率

・APAR4. 樹木の熱環境緩和効果の評価

直達日射透過率・蒸散速度の分布図(夏季晴天日14:00)

(4) 蒸散速度の算定

(2) LAD分布

放射伝達モデル

APAR+蒸散モデル

蒸散速度

日射透過率

久屋大通

対象範囲400m×400m

Flight track

N

オアシス21

筆者らの手法(Oshio et al.(2015))により推定

0.75 1.5LAD [m2/m3]

0.5m voxel

0

0.5

1.0

直達日射透過率[-]

0

0.2

0.4

蒸散速度[kg/m2・h]

Leuning(1995)の気孔コンダクタンスモデルとCollatz(1991)の光合成モデルにより、蒸散速度を算定

APAR気温、湿度、風速(夏季晴天日の条件を拡張アメダスデータにより設定)

引用文献Bird, R. E.: A simple, solar spectral model for direct-normal and diffuse horizontal irradiance, Solar Energy, 32(4), pp.461-471, 1984.Collatz, G. T., Ball, J. T., Grivet, C., and Berry, J. A.: Physiological and environmental regulation of stomatal cond uctance, photosynthesis and transpiration: a model that includes a laminar boundary layer, Agric. Forest Meteorol., 54, pp.107-136, 1991.Kobayashi, H., and Iwabuchi, H.: A coupled 1-D atmosphere and 3-D canopy radiative transfer model for canopy reflectance, light environment, and photosynthesis simulation in a heterogeneous landscape, Remote Sens. Environ., 112, pp.173-185, 2008.Leuning, R.: A critical appraisal of a combined stomatal-photosynthesis model for C3 plants, Plant, Cell & Environment, 18(4), pp.339-355, 1995.押尾晴樹、浅輪貴史、梅干野、宮坂聡:マルチリターン航空機LiDARデータと植生放射伝達モデルによる都市緑化樹木の日射遮蔽効果の計量化、日本リモートセンシング学会誌、35(1), pp.10-23, 2015.Oshio, H., Asawa, T., Hoyano, A., and Miyasaka, S.: Estimation of the leaf area density distribution of individual trees using high-resolution and multi-return airborne LiDAR data, Remote Sens. Environ., 2015. (http://dx.doi.org/10.1016/j.rse.2015.05.001)

gs:気孔コンダクタンスAn: 純光合成速度Ca: 細胞間隙Co2濃度などで決まる値m,h,gsmin: 実験的パラメータ

(1) 日射遮蔽効果 (2) 蒸散効果

植栽間隔が異なる街路の日射透過率

樹木配置の差異や葉面積密度の違い、周辺建物の影響による日射遮蔽効果と蒸散効果の差異を定量的に評価することができた。

樹木の生育状況による日射環境の違い

良好に生育

生育が不良

LADの鉛直断面 12:00 16:00

0 10 20 30 400

12

0 10 20 30 400

12

0 0.25 0.5直達日射透過率[-]

12:00 16:00

8:00

建物の日陰が蒸散速度に及ぼす影響

従来の評価指標との比較

10:00 14:008:00

歩道公園通路

50m

30m

0.6

街路

全体

の透

過率

[-]

0.4

0.2

012:00 16:00

歩道

公園通路

[m][m] 8:00

160

80

012:00 16:00

AP

AR

[W/m

2 ]

蒸散

速度

[kg/

m2 ・

h] 1.2

0.8

0.4

08:00 12:00 16:00

天空成分(建物あり、なし)

直達成分(建物あり、なし) 建物あり、なし

0 0.2 0.4蒸散速度[kg/m2・h]

12:00

14:00

地表

面被

覆対

策率

[%]

区画2(70) 区画3(50)区画1(58)()内:緑被率[%]

①従来の評価

②樹木の形態を考慮

③空間形態を考慮

300

一面芝生のときの蒸散量/day

200

100

0

実際の蒸散量/day

プラタナス芝生の3倍(CASBEE)イチョウ

・区画 3 は①→②の減少

率が高い。

・実際の樹木に対しては、

従来評価では過大評価

の可能性がある。

・建物の影響で区画1と2

の差は実際には数%。

これまでの研究

本研究