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ECMOによる薬剤吸着
2016/10/11慈恵医大ICU勉強会
薬剤部 明石岩雄
ECMO中の薬物動態の変化
Pharmacokineticchangesinpatients receiving extracorporealmembraneoxygenation JCrit Care. 2012Dec;27(6)
ECMO中の薬物血中濃度低下の原因は分布容積(Vd)の増加による。
○ECMOにおける分布容積増加の原因1、薬剤吸着(drugsequestration)吸着には、以下のものが影響すると考えられている。
①薬物の性質②コーティングの種類・性質③膜の使用時間 など
2、薬物そのものの動態学代謝・排泄(肝臓や腎臓など)の程度
3、病態(感染など)の変化臓器不全の変化(organdysfunction) など
吸着( Sequestration)
ECMO使用中に回路内に吸着( Sequestration)される薬剤があること自体は知られている。
しかしその原因や詳細に関してはほとんど知られていない。
ECMOにおける薬剤吸着について文献を調べてみた。
日本病院薬剤師会 学術委員会学術第1小委員会
「薬剤投与における薬剤・医療材料間の相互作用に関する調査・研究」より
本製品は使用中、脂肪乳剤及び脂肪乳剤を含有する薬剤を投与する場合は十分に注意すること。ひび割れ等の恐れがある。また、これら薬剤は本製品ポートから直接投与しないこと。
吸着
1.薬物の性質
2.コーティングの種類・性質
3.吸着の程度
4.ECMOと細菌吸着
5.今後の展望?
1.薬物の性質
レビューPharmacokineticchangesinpatients receiving
extracorporealmembraneoxygenationJCrit Care. 2012Dec;27(6)
批判的にECMOの存在下での薬物動態について公表された文献を検討。
公表された文献は、治療のための薬剤投与を調整するために有意義な提言を行うには
不十分であるが、臨床医が結論を出すために利用できるデータを記載。
データベース
・Pubmed 1965-2011 8月・EMBASE 1965-2011 8月・Cochrane-ControlledTrialRegisterdatabase andreferences
検索単語
“pharmacokinetics”“ECMO”“criticalillness”“sedatives”“antibiotics”
3.1.Extracorporealmembraneoxygenationand drugsequestration
・ECMOで薬物動態に影響を与える最も一般的なメカニズムは、回路内の吸着といわれている。
・回路の種類や使用期間も吸着のレベルの有意な因子であると思われる。
・しかし詳しいメカニズムは不明である。
・親油性薬物が吸着しやすいとされている。
・親油性薬物(例えば、ボリコナゾールおよびフェンタニルなど)が大幅に回路内に吸着される。
・一方、親水性薬物(例えば、βラクタム系抗生物質、グリコペプチドなど)は大幅に血液希釈し、ECMO中に発生する他の病態生理学的変化の影響を受ける。
2.コーティングの種類・性質
ECMO(膜型人工肺)回路の薬物吸着に影響する因子は何か?(学会発表)
【目的】
疑似ECMO回路を作成し、人工肺とヘパリンコーティングが薬剤吸着に与える影響を評価した実験。
【方法】
膜型人工肺とポリ塩化ビニル製チューブからなる閉鎖回路、
同構造で各部品にヘパリンコーティングが施されている回路、また各々から人工肺を除いた回路の計4種類の模擬回路を作成し、ミタゾラム溶解生理食塩水(0.02mg/mL)でプライミングし、ローラーポンプにて流速2.0L/minで灌流し、ミタゾラム濃度を測定した。
日本救急医学会雑誌2013;24:570
【結果】
人工肺を有する回路では開始直後から濃度が急激に低下し、1時間後には6割程度となり、以後濃度低下の速度は鈍化した。一方人工肺のない回路では濃度低下は緩やかであり明らかな差を認めた。ヘパリンコーティングの有無は開始12時間まで影響なかった。
【結論】
人工肺は薬剤吸着に大きな影響を及ぼす一方、ヘパリンコーティングは影響が少なかった可能性がある。
ECMO(膜型人工肺)回路の薬物吸着に影響する因子は何か?(学会発表)
日本救急医学会雑誌2013;24:570
ModifiedSurfaceCoatingsandtheirEffecton DrugAdsorptionwithintheExtracorporealLifeSupportCircuit
JECT.2010;42:199–202TheJournalofExtraCorporeal Technology
・フェンタニルの吸着はPVCチューブによる吸着が大半であることが示されている。
・フェンタニルとモルヒネにおいて、PVCチューブのコーティングの種類によって薬剤の吸着に差があるかを検討。
・5分、120分、360分後のフェンタニル、モルヒネをHPLC(高速液体クロマトグラフィー)で定量。
使用チューブ(コーティング)
1)Maquet Safeline ®(synthetic immobilizedalbumin)2)Maquet Softline ®(aheparinfreebiopassive polymer)3)Maquet Bioline ®(recombinanthumanalbumin+heparin)(Maquet CardiopulmonaryAG,Hirrlingen,Germany)4)TerumoXCoating™(poly2methoxylacrylate))(Terumo
CardiovascularSystemsCorporation,AnnArbor,MI)5)MedtronicCarmeda ®(covalentlybondedheparin)6)MedtronicTrillium®(covalentlybondedheparin)(Medtronic,Minneapolis,MN).
キャピオックスカスタムパックEBS心肺セットLXタイプ(慈恵ICUで使用)
• 膜型人工肺と直線流路型の遠心ポンプ、血液回路がワンパック。緊急時に真価を発揮。
• 補助循環に適したポリメチルペンテン膜を採用した専用の人工肺「キャピオックスLX」を搭載。
• 血液流路面には、テルモ独自の血液適合性ポリマーコーディングである「Xコーディング」をほどこし、生体適合性を向上。
(株)TERUMO HPより
Xコーティング→PMEA poly(2-methoxyethylacrylate)
結果・考察
・フェンタニルの吸着の程度はどのコーティング品もほとんど変わらなかった。
・テルモのXコーティング(ポリマーコーティング:慈恵ICUで使用)は他のコーティング品と比べモルヒネが吸着しやすい?
ModifiedSurfaceCoatingsandtheirEffecton DrugAdsorptionwithintheExtracorporealLifeSupportCircuit
JECT.2010;42:199–202TheJournalofExtraCorporeal Technology
InVitroDrugAdsorptionandPlasmaFreeHemoglobinLevelsAssociatedWithHollowFiberOxygenatorsinthe
ExtracorporealLifeSupport(ECLS)CircuitJECT.2007;39:234–237
人工肺の有無における吸着の違いをモルヒネとフェンタニルで実験
→人工肺の存在によってほとんど影響を受けていない
3.吸着の程度
Sequestrationofdrugsinthecircuit mayleadto therapeuticfailureduring extracorporeal membraneoxygenation
Shekar etal.CriticalCare2012,16
exvivoでの研究。ECMO回路で一般的に使用される抗生物質、鎮静剤や鎮痛剤の吸着の程度を決定するために設計。
方法:
同一のECMO回路を成人患者の標準プロトコルに設定。回路は、新鮮なヒト全血に続いて、結晶質およびアルブミンでプライミングし、24時間、生理的pHおよび温度で維持。ベースラインサンプリング後、治療濃度のフェンタニル、モルヒネ、ミダゾラム、メロペネム及びバンコマイシンを回路に注入。
これらの薬剤と同じ量を薬物の安定性試験のために新鮮なヒト全血を含む4ポリ塩化ビニルジャーに注入。
連続血液サンプルを24時間にわたってECMO回路と対照から回収し、試験薬剤の濃度を定量。
(参考)メロペネムの5%ブドウ糖液での安定性(インタビューフォーム)
結果
• 親油性薬物は、より大きくECMO回路に吸着されているように見られる。
• フェンタニルおよびミダゾラムはモルヒネよりも吸着される割合が大きい。
• メロペネムはECMO中により頻繁に投与しなければならない可能性がある。
• しかしメロペネムの物理的不安定性は、持続注入した場合、血中濃度に影響を与える可能性がある。
Potentialdrugsequestrationduring extracorporealmembrane oxygenation: resultsfromanexvivo
experimentIntensiveCareMed. 2007Jun;33(6)
ECMO使用期間内での薬物の吸着量をexvivoのシミュレーションモデルを使用して推定。
使用薬剤ヘパリン、ドーパミン、アンピシリン、バンコマイシン、フェノバルビタール、フェンタニルエピネフリン、セファゾリン、ヒドロコルチゾン、ホスフェニトイン、モルヒネ、ボリコナゾール
アンピシリン セファゾリンバンコマイシン
ドーパミン
エピネフリン
フェノバルビタール
ホスフェニトイン
ヒドロコルチゾン
ヘパリン モルヒネ フェンタニル
アンピシリン セファゾリンボリコナゾールエピネフリン
フェノバルビタール
ホスフェニトイン ヘパリン モルヒネ フェンタニル
結果
• フェンタニル、ボリコナゾール、抗菌薬及びヘパリンの治療濃度は、ECMOを受けている患者では保証されない。
EffectofExtracorporealMembraneOxygenation UseonSedativeRequirementsinPatientswithSevereAcute
RespiratoryDistressSyndromePharmacotherapy. 2016Jun;36(6)
• 重症急性呼吸窮迫症候群(ARDS)において、6時間の間、必要であった鎮静剤の最大投与量をECMO使用の有無で比較。
薬剤選択の比較においてはベンゾジアゼピンの使用が一番多かった。
ECMO患者ではプロポフォールは使用されなかった。
・Midazolam equivalents(midazolam5mg/hr=lorazepam3mg/hr =propofol 200mg/hr =dexmedetomidine 74.1lg/hr),・allopioidswereconvertedtofentanylequivalents.
4.ECMOと細菌の吸着
MicrobialAdhesiononMembraneOxygenatorsinPatientsRequiringExtracorporealLifeSupportDetectedbyaUniversal
rDNAPCRTestASAIOJ. 2013Jul-Aug;59(4):368-73.
ECMO時の感染症は生命を脅かす合併症である。ECMOを受けた20人の患者における膜型人工肺の潜在的な微生物コロニー形成をPCRで調べた。
膜型人工肺は、微生物によってコロニー化し、ECMO患者における細菌や真菌感染症の発生源となる可能性がある。これらの感染症は、臨床症状悪化のリスクの増大をもたらす可能性がある。
考察
・ICUにおいて抗生剤は処方頻度が高く、特にECMOの成功は抗生剤による治療も関係してくるものと考えられる。
MicrobialAdhesiononMembraneOxygenatorsinPatientsRequiringExtracorporealLifeSupportDetectedbyaUniversal
rDNAPCRTestASAIOJ. 2013Jul-Aug;59(4):368-73.
5.今後の展望?
公開されているプロトコル(現在進行中?)Antibiotic,SedativeandAnalgesic PharmacokineticsduringExtracorporeal
MembraneOxygenation:amulti-centre studytooptimise drugtherapyduringECMO
BMCAnesthesiol. 2012Nov28;12:29
ECMO中に抗生物質、鎮静および鎮痛薬物療法を最適化するための多施設共同研究
・集中治療室(ICU)での処方薬上のデバイスの効果をさらに調査することが不可欠。
・現在、ECMO上の成人患者における標準的な薬剤投与の妥当性を確認するデータはない。
・ECMOを受けた成人患者で一般的に使用される抗生物質、鎮痛剤、鎮静薬の薬物動態を調べている。
・多施設、オープンラベル、薬物動態(PK)研究
Inclusioncriteria・Age>18yearsand<90years.・CurrentlyundergoingECMOforrespiratoryand/orcardiacdysfunction.・Clinicalindicationfortheantibioticslistedin Table1.・ClinicalindicationforthesedativesandanalgesicslistedinTable1.
Exclusioncriteria・Noconsent・Knownallergytostudydrug・Pregnancy・ Serumbilirubin>150μmol/L・Ongoingmassivebloodtransfusionrequirement (>50%bloodvolumetransfusedintheprevious 8hours)・ Therapeuticplasmaexchangeinthepreceding24hours
レターMeropenemtherapyinextracorporeal membrane
oxygenationpatients:anongoingpharmacokineticchallengeCrit Care.2015;19(1):263.
• メロペネムは膜型人工肺(ECMO)治療の4〜6時間後で大幅に回路に吸着し減少する。またECMOはメロペネムのPKを阻害し、基礎疾患とは独立して敗血症により全身性炎症反応を誘発する。
• ECMO中のメロペネムはより頻繁な投与、投与量の増加、または長時間注入のいずれかが必要。理想的には、 24時間かけた持続注入だが、メロペネムが室温で不安定のために、3時間の注入が現実的。6時間ごとに2gのメロペネムを3時間かけて投与(当然適応外。本当に大丈夫?)。
• 将来の適応が期待される。• メロペネムの負荷用量(4グラムを?ほんとに大丈夫?)を増加し、適切な維持量を確保したい(当然適応外)。
まとめ
・ECMO中において、親油性の薬物は吸着しやすく、血中濃度が低下する可能性がある。
・しかしその詳しい要因についてはほとんどわかっていない。
・様々な条件(機器条件、臨床所見)によって動態は変化するため一概に薬剤の投与量は決めることはできない。
・薬剤だけでなく、細菌も吸着するため、ECMO使用中の感染制御は重要である。