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( 19 ) 231 ●第 75 回ゴム技術進歩賞受賞者報告● 耐熱性 NBR ㈱エラストミックス 川尻 真広 1.はじめに NBR は高い耐油性と機械的特性のため,自動車,ガ ス・石油機器,食品などの分野で,ホースやシール材, パッキン,ダイヤフラムなどに広く使われている.近 年,自動車用途においてゴム製品の使用環境が厳しく なり,NBRに対しても耐熱性の向上が要求されている. 今回の課題である「耐熱性 NBR」の開発は実用性にお いて非常に有用なテーマであると言える. 2.測定条件・制限条件 ①老化試験:130 ℃× 72 h(JIS K6257) ②老化後の引張試験:抗張積[MPa・%](JIS K6251) ③ 圧 縮 永 久 ひ ず み 試 験:130 ℃ ×72 h[%](JIS K6262) ④引張試験及び圧縮永久ひずみ用の試験片は同一加硫 条件にすること. ⑤使用原料はNBRとし,変性NBRや他ポリマーとの ブレンドは認めない. 3.課題の解決 今回の課題において,老化後抗張積と圧縮永久ひず みという二律背反な物性を両立するために,ポリマー グレード,フィラー,加硫系,老化防止剤の選定が重 要であると考えた.また,高物性を引き出す目的から 硬度 60 前後を目安に低充塡配合で検討を実施した. 4.ポリマーの選定 JSR ㈱製 NBR グレードの内,老化後抗張積と圧縮永 久ひずみのバランスをとるため中高ニトリル,高MV で物性に優れる N237H を選定した. 5.フィラーの選定 まず,圧縮永久ひずみ,破断伸びの向上の観点から MT級CBを,一方,強度向上の観点からはSRFおよ びFEF級,HAF級CBを選定し最適CB種と添加量の 検討を行った.結果として補強性の高い HAF 級 CB を 少量添加した低充塡配合が抗張積と圧縮永久ひずみの バランスに優れることが判明した. 6.加硫系・加硫剤の選定 硫黄架橋と過酸化物架橋の両方で検討を進めた結果, 老化前の抗張積に優れる硫黄架橋系に対して,老化後 の抗張積保持率や圧縮永久ひずみに優れる過酸化物架 橋の方がバランスの良い物性値を示したため,過酸化 物架橋を選定した.過酸化物架橋の問題点として,架 橋に使われなかった余分な過酸化物は熱老化時に硬化 劣化を起こす原因となることがある.そこで,過酸化 物,coagent種と配合量の最適化検討を行い,coagent に EDMA を用いた本配合に決定した. 7.老化防止剤の選定 選定した過酸化物架橋の阻害を抑え,熱老化後の抗 張積変化の少なくなる老化防止剤種として老化防止剤 CD と MBI の併用系を選定した. 8.試料の作製 NBRにHAFと酸化亜鉛,ステアリン酸,老化防止 剤をラボプラストミルで混練りした.プラストミル排 出後,空冷したゴムに約 50 ℃設定の 6 インチロールで 加硫薬剤を練りこんだ.そして2 mm厚で分出しし, シート及び圧縮永久ひずみ用サンプルを成型し170 ℃ × 15 分プレス加硫により試料を得た. 9.謝辞 この度,歴史ある第 75 回ゴム技術進歩賞を受賞でき たことは光栄に存じます.また,共に研究にご協力い ただいた皆様方には深く感謝の意を表するとともに, 今後もゴム技術の発展に貢献できるよう努力していく 所存です. 原材料名 配合部数(phr) NBR 100 HAF CB 25 酸化亜鉛 2 種 5 ステアリン酸 1 老防 CD 2 老防 MBI 2 DCP-40 2.5 EDMA 0.5 老化後抗張積[MPa・%] 13,000 圧縮永久ひずみ[%] 17 表 1 提出配合と物性(CERI 様測定)

耐熱性NBR · 2020. 7. 20. · 第75回ゴム技術進歩賞受賞者報告 耐熱性nbr ㈱エラストミックス 川尻 真広 1.はじめに nbrは高い耐油性と機械的特性のため,自動車,ガ

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Page 1: 耐熱性NBR · 2020. 7. 20. · 第75回ゴム技術進歩賞受賞者報告 耐熱性nbr ㈱エラストミックス 川尻 真広 1.はじめに nbrは高い耐油性と機械的特性のため,自動車,ガ

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●第75回ゴム技術進歩賞受賞者報告●

耐熱性NBR

㈱エラストミックス 川尻 真広

1.はじめに NBRは高い耐油性と機械的特性のため,自動車,ガス・石油機器,食品などの分野で,ホースやシール材,パッキン,ダイヤフラムなどに広く使われている.近年,自動車用途においてゴム製品の使用環境が厳しくなり,NBRに対しても耐熱性の向上が要求されている.今回の課題である「耐熱性NBR」の開発は実用性において非常に有用なテーマであると言える.2.測定条件・制限条件①老化試験:130 ℃×72 h(JIS K6257)②老化後の引張試験:抗張積[MPa・%](JIS K6251)③ 圧 縮 永 久 ひ ず み 試 験:130 ℃ × 72 h[%](JIS K6262)④引張試験及び圧縮永久ひずみ用の試験片は同一加硫条件にすること.⑤使用原料はNBRとし,変性NBRや他ポリマーとのブレンドは認めない.3.課題の解決 今回の課題において,老化後抗張積と圧縮永久ひずみという二律背反な物性を両立するために,ポリマーグレード,フィラー,加硫系,老化防止剤の選定が重要であると考えた.また,高物性を引き出す目的から硬度60前後を目安に低充塡配合で検討を実施した.4.ポリマーの選定 JSR㈱製NBRグレードの内,老化後抗張積と圧縮永久ひずみのバランスをとるため中高ニトリル,高MVで物性に優れるN237Hを選定した.5.フィラーの選定 まず,圧縮永久ひずみ,破断伸びの向上の観点からMT級CBを,一方,強度向上の観点からはSRFおよびFEF級,HAF級CBを選定し最適CB種と添加量の検討を行った.結果として補強性の高いHAF級CBを少量添加した低充塡配合が抗張積と圧縮永久ひずみのバランスに優れることが判明した.6.加硫系・加硫剤の選定 硫黄架橋と過酸化物架橋の両方で検討を進めた結果,老化前の抗張積に優れる硫黄架橋系に対して,老化後

の抗張積保持率や圧縮永久ひずみに優れる過酸化物架橋の方がバランスの良い物性値を示したため,過酸化物架橋を選定した.過酸化物架橋の問題点として,架橋に使われなかった余分な過酸化物は熱老化時に硬化劣化を起こす原因となることがある.そこで,過酸化物,coagent種と配合量の最適化検討を行い,coagentにEDMAを用いた本配合に決定した.7.老化防止剤の選定 選定した過酸化物架橋の阻害を抑え,熱老化後の抗張積変化の少なくなる老化防止剤種として老化防止剤CDとMBIの併用系を選定した.8.試料の作製 NBRにHAFと酸化亜鉛,ステアリン酸,老化防止剤をラボプラストミルで混練りした.プラストミル排出後,空冷したゴムに約50 ℃設定の6インチロールで加硫薬剤を練りこんだ.そして2 mm厚で分出しし,シート及び圧縮永久ひずみ用サンプルを成型し170 ℃×15分プレス加硫により試料を得た.9.謝辞 この度,歴史ある第75回ゴム技術進歩賞を受賞できたことは光栄に存じます.また,共に研究にご協力いただいた皆様方には深く感謝の意を表するとともに,今後もゴム技術の発展に貢献できるよう努力していく所存です.

川尻真広氏

原材料名 配合部数(phr)NBR 100

HAF CB 25酸化亜鉛2種 5ステアリン酸 1

老防CD 2老防MBI 2DCP-40 2.5EDMA 0.5

老化後抗張積[MPa・%] 13,000圧縮永久ひずみ[%] 17

表1 提出配合と物性(CERI様測定)

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